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特許7448172熱中症判定装置、熱中症判定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】熱中症判定装置、熱中症判定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240305BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240305BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20240305BHJP
   A61B 5/0507 20210101ALI20240305BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240305BHJP
   G08B 21/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61B5/00 102A
A61B5/01
A61B5/0245 100Z
A61B5/0507
A61B5/11 110
G08B21/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023577273
(86)(22)【出願日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2023034579
【審査請求日】2023-12-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰弘
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7347884(JP,B1)
【文献】特開2020-113117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0338173(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第116098592(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/398
G01K 1/00-19/00
G08B 1/00-31/00
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の実測心拍数を特定する心拍数特定部と、
前記被検者の深部体温を特定する温度特定部と、
前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出する算出部と、
前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力し、前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が前記第1条件を満たさない場合に前記アラート情報を出力しない判定部と、
を有する熱中症判定装置。
【請求項2】
前記温度特定部は、体温センサで計測された前記被検者の体表温度と、前記被検者がいる空間に設けられた温度センサで計測された前記空間の温度と、を変数とする変換式に基づいて前記深部体温を特定する、
請求項1に記載の熱中症判定装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記深部体温に所定の係数を乗算することにより前記推定心拍数を算出する、
請求項1に記載の熱中症判定装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記深部体温に、前記被検者に関連付けて記憶部に記憶された前記所定の係数を乗算することにより前記推定心拍数を算出する、
請求項3に記載の熱中症判定装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記推定心拍数の最小値と前記推定心拍数の最大値とを算出し、
前記判定部は、前記推定心拍数の最小値と前記推定心拍数の最大値の間に前記実測心拍数が含まれていないという前記第1条件を満たす場合に前記アラート情報を出力する、
請求項1に記載の熱中症判定装置。
【請求項6】
異なる時刻に測定された複数の前記実測心拍数に基づいて、前記実測心拍数の変動量である心拍数変動量の周波数スペクトルを特定するスペクトル特定部をさらに有し、
前記判定部は、第1周波数帯域に含まれる前記心拍数変動量の第1成分に対する、前記第1周波数帯域よりも低い第2周波数帯域に含まれる前記心拍数変動量の第2成分の比が閾値以上であるという第2条件を満たす場合に前記アラート情報を出力する、
請求項1に記載の熱中症判定装置。
【請求項7】
コンピュータが実行する、
被検者の実測心拍数を特定するステップと、
前記被検者の深部体温を特定するステップと、
前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出するステップと、
前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が所定条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力するステップと、
を有する熱中症判定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
被検者の実測心拍数を特定するステップと、
前記被検者の深部体温を特定するステップと、
前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出するステップと、
前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が所定条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症判定装置、熱中症判定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、深部体温に基づいて熱中症であるか否かを判定する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-134137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
深部体温が上昇したとしても、自律神経が正常に機能している場合には熱中症になるリスクが小さい。しかしながら、従来の技術では、熱中症のリスクが低いにもかかわらず、深部体温が閾値以上である場合に熱中症の警告が発せられてしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、熱中症の判定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る熱中症判定装置は、被検者の実測心拍数を特定する心拍数特定部と、前記被検者の深部体温を特定する温度特定部と、前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出する算出部と、前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力し、前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が前記第1条件を満たさない場合に前記アラート情報を出力しない判定部と、を有する。
【0007】
前記温度特定部は、体温センサで計測された前記被検者の体表温度と、前記被検者がいる空間に設けられた温度センサで計測された前記空間の温度と、を変数とする変換式に基づいて前記深部体温を特定してもよい。
【0008】
前記算出部は、前記深部体温に所定の係数を乗算することにより前記推定心拍数を算出してもよい。
【0009】
前記算出部は、前記深部体温に、前記被検者に関連付けて記憶部に記憶された前記所定の係数を乗算することにより前記推定心拍数を算出してもよい。
【0010】
前記算出部は、前記推定心拍数の最小値と前記推定心拍数の最大値とを算出し、前記判定部は、前記推定心拍数の最小値と前記推定心拍数の最大値の間に前記実測心拍数が含まれていないという前記第1条件を満たす場合に前記アラート情報を出力してもよい。
【0011】
前記熱中症判定装置は、異なる時刻に測定された複数の前記実測心拍数に基づいて、前記実測心拍数の変動量である心拍数変動量の周波数スペクトルを特定するスペクトル特定部をさらに有し、前記判定部は、第1周波数帯域に含まれる前記心拍数変動量の第1成分に対する、前記第1周波数帯域よりも低い第2周波数帯域に含まれる前記心拍数変動量の第2成分の比が閾値以上であるという第2条件を満たす場合に前記アラート情報を出力してもよい。
【0012】
本発明の第2の態様の熱中症判定方法は、コンピュータが実行する、被検者の実測心拍数を特定するステップと、前記被検者の深部体温を特定するステップと、前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出するステップと、前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が所定条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力するステップと、を有する。
【0013】
本発明の第3の態様のプログラムは、コンピュータに、被検者の実測心拍数を特定するステップと、前記被検者の深部体温を特定するステップと、前記深部体温に基づいて推定心拍数を算出するステップと、前記実測心拍数と前記推定心拍数との関係が所定条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱中症の判定精度が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】熱中症判定装置1の概要を説明するための図である。
図2】熱中症判定装置1の構成を示す図である。
図3】熱中症判定装置1における処理の流れを示すフローチャートである。
図4】変形例に係る熱中症判定装置1Aの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[熱中症判定装置1の概要]
図1は、熱中症判定装置1の概要を説明するための図である。熱中症判定装置1は、被検者Uが熱中症であるか否かを判定する装置である。熱中症判定装置1は、演算処理を実行することができるプロセッサを有する任意の装置でよく、例えばコンピュータ、スマートフォン又は専用機器である。
【0017】
熱中症判定装置1は、情報端末2との間で、イントラネット又は近距離無線通信によりデータを送受信する。熱中症判定装置1は、例えば、熱中症であるか否かの判定結果を情報端末2に送信し、情報端末2が判定結果を表示する。熱中症判定装置1は、熱中症判定装置1が有するディスプレイに判定結果を表示してもよい。
【0018】
熱中症判定装置1は、被検者Uの深部体温に基づいて推定される心拍数と、実測した心拍数との関係が、熱中症である蓋然性が高い場合の関係と一致するか否かによって、被検者Uが熱中症であるか否かを判定する。熱中症判定装置1がこのように動作することで、熱中症判定装置1は、例えば、被検者Uが運動したことにより体温が上昇するとともに心拍数も増加している場合は、熱中症による体温上昇ではなく運動に起因する体温上昇であると判定することができる。一方、熱中症判定装置1は、被検者Uの心拍数が増加していないにもかかわらず深部体温が上昇している場合は、熱中症による体温上昇が生じている蓋然性が高いと判定してアラート情報を出力することができる。
【0019】
詳細については後述するが、熱中症判定装置1は、例えば被検者Uに向けて高周波の電波(例えばミリ波レーダ)である送信波TXを送信し、被検者Uにおいて反射した反射波RXを受信する。熱中症判定装置1は、受信した反射波RXを解析して被検者Uの心臓が動く周期を特定することにより心拍数を測定する。高周波の電波には、例えば時間の経過とともに周波数が変化するチャープ信号が含まれている。熱中症判定装置1は、反射信号をフーリエ変換することにより周波数領域に変換し、反射信号に含まれている周波数を特定することで、当該周波数の信号を送信してから受信するまでの伝搬時間を測定し、伝搬時間の変動周期に基づいて心拍数を測定する。
以下、熱中症判定装置1の構成及び動作を詳細に説明する。
【0020】
[熱中症判定装置1の構成]
図2は、熱中症判定装置1の構成を示す図である。熱中症判定装置1は、送信部11と、受信部12と、通信部13と、記憶部14と、制御部15と、を有する。制御部15は、指示受付部151と、電波制御部152と、心拍数特定部153と、温度特定部154と、算出部155と、判定部156と、を有する。
【0021】
送信部11は、電波制御部152の制御により、所定の時間間隔でミリ波帯以上の周波数帯の送信信号を送信する。送信部11は、例えば12.5ミリ秒の周期でチャープ信号を送信する。送信部11は、チャープ信号を生成する信号生成回路と、送信信号を電波として送信するためのアンテナと、を有する。一例として、熱中症判定装置1は、それぞれ異なるタイミングで異なる範囲に送信信号を送信する複数の送信部11を有していてもよい。この場合、熱中症判定装置1は、複数の被検者Uそれぞれが熱中症であるか否かを同時に判定することが可能になる。
【0022】
送信部11は、予め設定された生体状態が変化する周期の最小値の半周期未満の時間間隔で送信信号を送信する。例えば心拍数の最大値が150回/分であると想定される場合、心拍数の変動周期の最小値は0.4秒である。そこで、送信部11は、0.2秒未満の時間間隔で送信信号を送信する。送信部11がこのような時間間隔で送信信号を送信することで、熱中症判定装置1は、当該時間間隔で受信部12が受信した反射信号に基づいて、被測定者Uの身体の部位の変化状態を特定することが可能になる。送信部11が送信する送信信号の長さは任意であるが、送信信号を送信する時間間隔よりも十分に短いことが望ましく、例えば2ミリ秒以内である。
【0023】
受信部12は、送信信号が被測定者Uにおいて反射して生じる反射信号を受信する。一例として、受信部12は、それぞれ異なる範囲から到来する反射信号を受信する複数の受信部12を有してもよい。受信部12は、受信した反射信号を心拍数特定部153に入力する。
【0024】
通信部13は、情報端末2と各種のデータを送受信するための通信インターフェースを有する。通信部13は、例えばBluetooth(登録商標)の通信インターフェースを有する。通信部13は、情報端末2において入力されたユーザの操作内容を示すデータを受信する。また、通信部13は、スペクトル特定部157が出力する判定結果を情報端末2に送信する。
【0025】
通信部13は、被検者Uの体表温度及び被検者Uがいる空間の温度を測定する測定装置から温度を示すデータを受信してもよい。通信部13は、受信した温度データを算出部155に入力する。
【0026】
記憶部14は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有する。記憶部14は、制御部15が実行するプログラムを記憶する。また、記憶部14は、受信部12が受信した反射信号、及び制御部15が反射信号を解析することにより算出された心拍数を記憶する。
【0027】
制御部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)を有する。制御部15は、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することにより、指示受付部151、電波制御部152、心拍数特定部153、温度特定部154、算出部155、判定部156及びスペクトル特定部157として機能する。
【0028】
指示受付部151は、通信部13を介して、情報端末2から入力された指示データを受け付ける。指示受付部151は、例えば熱中症であるか否かのチェックを開始する指示を受け付ける。指示受付部151は、被検者Uの年齢、性別、体重等の属性を設定する指示を受け付けてもよい。
【0029】
電波制御部152は、送信部11及び受信部12を制御する。電波制御部152は、例えば送信部11に送信信号を送信させるタイミングを制御する。また、電波制御部152は、送信部11が送信信号を送信する範囲及び受信部12が反射信号を受信する範囲を制御する。
【0030】
心拍数特定部153は、被検者Uの実測心拍数を特定する。具体的には、心拍数特定部153は、受信部12が受信した反射波に基づいて、熱中症判定装置1と送信部11が送信した信号が反射した部位との距離の変動周期を特定することにより、被検者Uの心拍数を特定する。
【0031】
心拍数特定部153は、例えば、受信部12が受信した反射信号をフーリエ変換することにより周波数領域の信号に変換する。心拍数特定部153は、周波数領域において、反射信号を構成するチャープ信号に含まれている周波数の成分を特定し、送信部11が当該周波数の成分を送信した時刻と、反射信号に含まれている当該周波数の成分を受信部12が受信した時刻との差分を伝搬時間として特定する。
【0032】
熱中症判定装置1は、伝搬時間に基づいて、電波が反射した部位までの距離を特定する。熱中症判定装置1は、時間経過に伴う距離の変化が、心臓の鼓動に起因する距離の変化であると判定した場合、変化の周期に基づいて心拍数を算出する。熱中症判定装置1は、距離の変化の周期が、心拍の周期として想定される範囲内であり、かつ距離の変化の振幅が心臓の表面の変動量に対応する大きさである場合に、距離の変化の周期に基づいて心拍数を算出する。心拍数特定部153は、算出した心拍数を時刻に関連付けて温度特定部154に通知する。
【0033】
温度特定部154は、被検者Uの体表温度と被検者Uがいる空間の温度とに基づいて、被検者Uの深部体温を特定する。温度特定部154は、体温センサで計測された被検者Uの体表温度と、被検者Uがいる空間に設けられた温度センサで計測された空間の温度と、を変数とする変換式に基づいて深部体温を特定する。
【0034】
温度特定部154は、例えばサーモグラフィーが測定した被検者Uの体表温度の分布を示す体表温度データと、温度計が測定した空間温度を示す空間温度データと、を取得する。温度特定部154は、体表温度データに含まれる複数の位置の体表温度のうち、最も高い温度を被検者Uの体表温度とする。
【0035】
サーモグラフィー等の温度測定装置により測定された体表温度は、温度測定装置の周辺の温度によって誤差が生じる。そこで、温度特定部154は、体表温度を空間温度データに基づいて補正する。具体的には、体表温度をTs、空間温度をTa、補正後の体表温度をTshとする場合、温度特定部154は例えば以下の式により体表温度を補正する。
Tsh=Ts+a1×Ta+b1×Ta-c1
ここで、a1、b1、c1は係数である。
【0036】
続いて、温度特定部154は、例えば以下の式により、補正後の体表温度Tshに基づいて深部体温Tdを特定する。温度特定部154は、特定した深部体温を算出部155に入力する。
Td=a2×Tsh-b2×Tsh+c2×Tsh-d
ここで、a2、b2、c2、dは係数である。
【0037】
算出部155は、温度特定部154が特定した被検者Uの深部体温に基づいて推定心拍数を算出する。深部体温と心拍数との間に相関関係があることが知られており、算出部155は、深部体温に、当該相関関係に対応する所定の係数を乗算することにより推定心拍数を算出する。算出部155は、深部体温に、被検者U又は被検者Uの属性に関連付けて記憶部14に記憶された所定の係数を乗算することにより推定心拍数を算出してもよい。算出部155は、例えば、深部体温が0.55℃上昇すると心拍数が10上昇するとの仮定に基づいて、以下の式により推定心拍数の最小値及び最大値を算出する。
【0038】
BT-Th=ΔBT
ΔHR=(ΔBT÷0.55)×10
HREmin=HRmin+ΔHR
HREmax=HRmax+ΔHR
ここで、BTは深部体温、Thは標準深部体温(例えば36.5℃)、ΔBTは深部体温と標準深部体温との差、ΔHRは標準的な心拍数との差の推定値、HRminは標準心拍数の最小値、HRmaxは標準心拍数の最大値、HREminは推定心拍数の最小値、HREmaxは推定心拍数の最大値である。
【0039】
HRmin及びHRmaxは、例えば被検者Uが健康な安静状態で測定された心拍数の最小値及び最大値である。HRmin及びHRmaxは、予め記憶部14に記憶されていてもよく、情報端末2により設定されてもよい。記憶部14は、人の属性に関連付けて複数のHRmin及びHRmaxを記憶しており、算出部155は、被検者Uの属性に対応するHRmin及びHRmaxを使用してもよい。
【0040】
判定部156は、実測心拍数と推定心拍数との関係に基づいて、被検者Uが熱中症の蓋然性が高いか否かを判定する。判定部156は、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力し、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たさない場合にアラート情報を出力しない。第1条件は、例えば、実測心拍数が、推定心拍数の最小値と最大値の間に含まれていないという条件である。
【0041】
例えば、HRminが60であり、HRmaxが85である場合、判定部156は、以下の場合、被検者Uの発熱状態と心拍数との関係が異常であり、熱中症の蓋然性が高いと判定する。
実測心拍数<60+ΔHR又は85+ΔHR<実測心拍数
一方、判定部156は、以下の場合、被検者Uの発熱状態と心拍数との関係が正常であり、熱中症の蓋然性が低いと判定する。
60+ΔHR≦実測心拍数≦85+ΔHR
【0042】
このように、判定部156が、実測心拍数と、深部体温に基づく推定心拍数との関係に基づいて、被検者Uが熱中症である蓋然性が高いか否かを判定することで、熱中症の蓋然性が低いにもかかわらず、深部体温が閾値以上である場合に熱中症の警告が発せられてしまう確率を下げることができる。
【0043】
なお、以上の説明においては、体表温度が正しく測定されていると仮定したが、実際には体表温度が正しく測定されていないという場合もある。このような場合に、実測心拍数と、深部体温に基づく推定心拍数との関係に基づいて、被検者Uが熱中症である蓋然性が高いか否かを判定すると、誤判定をしてしまうおそれがある。そこで、判定部156は、測定された体表温度の信頼度が高いか否かを判定し、測定された体表温度の信頼度が閾値以上であり、かつ深部体温に基づく推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の蓋然性が高いと判定してもよい。
【0044】
判定部156は、例えば、以下のいずれかの場合に体表温度の信頼度が閾値未満であると判定する。
(1)サーモグラフィーから取得したデータが示す最高温度が定格範囲外である場合
(2)サーモグラフィーから取得した温度画像における最高温度の領域の面積が閾値未満である場合
(3)測定された体表温度が閾値(例えば30℃)以上である場合
(4)心拍数特定部153が心拍を検出していない場合(人を検出していない場合)
【0045】
[熱中症判定装置1における処理の流れ]
図3は、熱中症判定装置1における処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すフローチャートは、熱中症判定装置1が被検者Uに対して、心拍数を測定するための電波を送信し始めた時点から開始している。熱中症判定装置1が複数の被検者Uそれぞれが熱中症であるか否かを判定する場合、熱中症判定装置1は、図3に示す処理を並行して実行する。
【0046】
心拍数特定部153は、受信部12を介して受信した反射波に基づいて、実測した心拍数を特定する(S11)。また、温度特定部154は、サーモグラフィーから取得したデータに基づいて、被検者Uの体表温度を特定する(S12)。温度特定部154は、特定した体表温度の信頼度が閾値以上であるか否かを判定する(S13)。信頼度が閾値未満であると温度特定部154が判定した場合(S13においてNO)、判定部156が体表温度の測定に問題があることを表示してから、制御部15は処理をS11に戻す。
【0047】
信頼度が閾値以上であると温度特定部154が判定した場合(S13においてYES)、温度特定部154は、空間温度に基づいて体表温度を補正した後に、体表温度を深部体温に変換する(S14)。算出部155は、深部体温に所定の係数を乗算することにより推定心拍数を算出する(S15)。判定部156は、実測心拍数と推定心拍数を比較して(S16)、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に(S17においてYES)、熱中症の蓋然性が高いと判定してアラート情報を出力する(S18)。判定部156が実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たさないと判定した場合(S17においてNO)、例えば制御部15はS11に処理を戻して継続的に測定するが、制御部15は測定を継続せずに測定を終了してもよい。
【0048】
[変形例]
図4は、変形例に係る熱中症判定装置1Aの構成を示す図である。図4に示す熱中症判定装置1Aは、スペクトル特定部157をさらに有するという点で図2に示した熱中症判定装置1と異なり、他の点で同じである。熱中症判定装置1Aは、温度特定部154及び算出部155を有していなくてもよい。
【0049】
交感神経が活性化されており、副交感神経が非活性化された状態では、心拍数変動量(R-R間隔変動量)が小さくなる。交感神経が活性化されており副交感神経よりも優勢な状態は、被検者Uがストレスを抱えている状態である蓋然性が高い。被検者Uがストレスを抱えていると、暑い環境での体温の調節機能が低下するため、熱中症になる蓋然性が高まる。そこで、熱中症判定装置1Aは、自律神経の状態と相関関係がある心拍数変動量の周波数成分に基づいて、被検者Uが熱中症である蓋然性が高いか否かを判定する。
【0050】
心拍数変動量の周波数成分に基づいて熱中症である蓋然性が高いか否かを判定部156が判定できるようにするために、スペクトル特定部157は、異なる時刻(例えば100ミリ秒間隔)に測定された複数の実測心拍数に基づいて、実測心拍数の変動量である心拍数変動量の周波数スペクトルを特定する。スペクトル特定部157は、例えば、複数の実測心拍数のデータにより構成される心拍変動量を示す波形データをフーリエ変換することにより、心拍変動量の周波数スペクトルを特定する。判定部156は、第1周波数帯域に含まれる心拍数変動量の第1成分に対する、第1周波数帯域よりも低い第2周波数帯域に含まれる心拍数変動量の第2成分の比が閾値以上であるという第2条件を満たす場合にアラート情報を出力する。
【0051】
判定部156は、心拍数変動量が第2条件を満たすか否かを判定するために、まず、特定した心拍数変動量の周波数スペクトルが、以下の3つの周波数領域のうちどの周波数領域に含まれるかによって、熱中症である蓋然性が高いか否かを判定する。
VLF:低周波数領域(0Hz-0.05Hz)
LF:中間周波数領域(0.05Hz-0.20Hz)
HF:高周波数領域(0.20Hz-0.35Hz)
【0052】
低周波領域は、主として交感神経活動によって影響を受けやすい。中間周波数領域は、交感神経活動と副交感神経活動によって影響を受けやすい。高周波数領域は、呼吸によって生じる副交感神経活動によって影響を受けやすい。このような性質を利用して、判定部156は、スペクトル特定部157が特定した周波数スペクトルがどの周波数領域に含まれるかによって、交感神経活動と副交感神経活動のバランスを推定する。
【0053】
具体的には、判定部156は、周波数スペクトルが高周波数領域(第1周波数帯域に対応)に含まれている割合が最も大きい場合、副交感神経が活性化しており被検者Uがリラックスしている状態であると判定する。一方、判定部156は、周波数スペクトルが低周波数領域(第2周波数帯域に対応)に含まれている割合が最も大きい場合、交感神経が活性化しており被検者Uがストレス状態であると判定する。すなわち、判定部156は、心拍数変動量の周波数スペクトルにおける高周波数成分に対する低周波数成分の割合が閾値以上であるという第2条件を満たす場合に、被検者Uがストレス状態であると判定し、高周波数成分に対する低周波数成分の割合が閾値未満である場合に、被検者Uがリラックス状態であると判定する。
【0054】
判定部156は、被検者Uがストレス状態であると判定した場合、熱中症である蓋然性が高いと判定してアラート情報を出力する。判定部156は、被検者Uがリラックス状態であると判定した場合、熱中症である蓋然性が低いと判定してアラート情報を出力しない。
【0055】
このように、判定部156が心拍数変動量の周波数スペクトルにおける高周波数成分に対する低周波数成分の割合に基づいて熱中症である蓋然性が高いか否かを判定することで、熱中症のリスクが低いにもかかわらず、深部体温が閾値以上である場合に熱中症の警告が発せられてしまう確率を下げることができる。
【0056】
なお、判定部156は、実測心拍数と、深部体温に基づく推定心拍数との関係、及び心拍数変動量の周波数スペクトルにおける高周波数成分に対する低周波数成分の割合の両方に基づいて、熱中症である蓋然性を判定してもよい。判定部156は、例えば、実測心拍数と、深部体温に基づく推定心拍数との関係に基づいて、熱中症である蓋然性を示す第1スコアを算出し、高周波数成分に対する低周波数成分の割合に基づいて、熱中症である蓋然性を示す第2スコアを算出する。判定部156は、第1スコアと第2スコアとを加算又は乗算した結果が閾値以上であるか否かに基づいて、熱中症である蓋然性が高いか否かを判定する。このように、判定部156が、深部体温に基づく推定心拍数との関係、及び心拍数変動量の周波数スペクトルにおける高周波数成分に対する低周波数成分の割合の両方に基づいて、熱中症である蓋然性を判定することで、判定精度がさらに向上する。
【0057】
[熱中症判定装置1による効果]
以上説明したように、熱中症判定装置1は、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力し、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たさない場合にアラート情報を出力しない。このように熱中症判定装置1が実測心拍数と推定心拍数との関係に基づいて熱中症の蓋然性の高低を判定することで、熱中症のリスクが低いにもかかわらず、深部体温が閾値以上である場合に熱中症の警告が発せられてしまうことを防げる。
【0058】
また、熱中症判定装置1は、実測心拍数の変動量である心拍数変動量の周波数スペクトルに基づいて、心拍数変動量の周波数成分が高周波数領域と低周波数領域のどちらに多く含まれているかによって、熱中症の蓋然性の高低を判定する。これによっても、熱中症のリスクが低いにもかかわらず、深部体温が閾値以上である場合に熱中症の警告が発せられてしまうことを防げる。
【0059】
なお、以上の説明においては、熱中症判定装置1がミリ波帯の電波を被検者Uに送信することにより、心拍数特定部153が被検者Uの実測心拍数を特定したが、心拍数特定部153が実測心拍数を特定する方法はこれに限らず任意である。心拍数特定部153は、例えば、被検者Uが装着した心拍計から送信されたデータに基づいて実測心拍数を特定してもよい。また、温度特定部154が深部体温を特定する方法も任意であり、深部体温を測定できる温度計から送信されたデータに基づいて、被検者Uの深部体温を特定してもよい。
【0060】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0061】
1 熱中症判定装置
2 情報端末
11 送信部
12 受信部
13 通信部
14 記憶部
15 制御部
151 指示受付部
152 電波制御部
153 心拍数特定部
154 温度特定部
155 算出部
156 判定部
157 スペクトル特定部
【要約】
熱中症判定装置1は、被検者Uの実測心拍数を特定する心拍数特定部153と、被検者Uの深部体温を特定する温度特定部154と、深部体温に基づいて推定心拍数を算出する算出部155と、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たす場合に、熱中症の疑いがあることを示すアラート情報を出力し、実測心拍数と推定心拍数との関係が第1条件を満たさない場合にアラート情報を出力しない判定部156と、を有する。
図1
図2
図3
図4