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特許7448174アミロイドベータ中間領域エピトープおよびそれに対する立体配座選択的抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】アミロイドベータ中間領域エピトープおよびそれに対する立体配座選択的抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20240305BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240305BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240305BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240305BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240305BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240305BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
A61K38/12
A61K39/00 H
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/28
C07K16/18
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13
C12P21/08
G01N33/53 D
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018523030
(86)(22)【出願日】2016-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 CA2016051303
(87)【国際公開番号】W WO2017079833
(87)【国際公開日】2017-05-18
【審査請求日】2019-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】62/253,044
(32)【優先日】2015-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/363,566
(32)【優先日】2016-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/365,634
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/393,615
(32)【優先日】2016-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】キャッシュマン,ニール アール.
(72)【発明者】
【氏名】プロトキン,スティーブン エス.
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】中根 知大
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522841(JP,A)
【文献】特表2013-538796(JP,A)
【文献】特表2007-527865(JP,A)
【文献】国際公開第2014/089149(WO,A1)
【文献】The Journal of Neuroscience, July 11, 2012, Vol.32, No.28, p.9677-9689
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS (STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HHQK(配列番号1)からなるAベータペプチドと、リンカーと、からなる環状化合物であって、
前記リンカーが、前記AベータペプチドのN末端残基および前記AベータのC末端残基に共有結合しており、
前記リンカーが、アミノ酸GCGもしくはCGCからなる、
環状化合物。
【請求項2】
シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)の配列からなる、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状化合物を含む、免疫原であって、
前記化合物が、担体タンパク質または免疫原性増強物質と結合している、
免疫原。
【請求項4】
前記担体タンパク質がウシ血清アルブミン(BSA)である、または前記免疫原性増強物質がキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)である、請求項3に記載の免疫原。
【請求項5】
請求項1または2に記載の環状化合物または請求項3または4に記載の免疫原において提示されるHHQK(配列番号1)の立体配座を有するAベータペプチドに特異的におよび/または選択的に結合する、単離された立体配座特異的および/または選択的な抗体であって、Aベータモノマー、Aベータ線維および/または斑よりもAベータオリゴマーに選択的に結合する、抗体
【請求項6】
対応する直鎖状ペプチドよりも環状ペプチド中のHHQK(配列番号1)に選択的に結合する、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
対応する直鎖状化合物に比べて前記環状化合物に対し、あるいはAベータモノマーおよび/またはAベータ線維に比べてAベータオリゴマーに対し、少なくとも2倍、より選択的である、請求項5または6に記載の抗体。
【請求項8】
モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項5~7のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
ヒト化抗体であるか、あるいはFab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディおよびその多量体から選択される抗体結合フラグメントである、請求項5~8のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
軽鎖可変領域と重鎖可変領域を含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の抗体であって、
前記軽鎖可変領域と重鎖可変領域は、融合されているか、または別個の鎖に存在し、
前記重鎖可変領域が、相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、前記軽鎖可変領域が、相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、
前記CDRのアミノ酸配列が、配列:
CDR-H1 GYSFTSYW(配列番号22)
CDR-H2 VHPGRGVST(配列番号23)
CDR-H3 SRSHGNTYWFFDV(配列番号24)
CDR-L1 QSIVHSNGNTY(配列番号25)
CDR-L2 KVS(配列番号26)
CDR-L3 FQGSHVPFT(配列番号27)
である
抗体。
【請求項11】
前記抗体は、a)i)配列番号29で示されるアミノ酸配列;もしくはii)配列番号29と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、そのCDRの配列が配列番号22、23および24で示される、アミノ酸配列;を含む重鎖可変領域を含む、および/または前記抗体は、b)i)配列番号31で示されるアミノ酸配列;もしくはii)配列番号31と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、そのCDRの配列が配列番号25、26および27で示される、アミノ酸配列;を含む軽鎖可変領域を含む、あるいは
前記重鎖可変領域は、配列番号29で示されるアミノ酸配列を含む、もしくはこれよりなる、および/または前記軽鎖可変領域は、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、もしくはこれよりなる、
請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
ヒトAベータに対する結合に関して、以下のCDR配列:
CDR-H1 GYSFTSYW(配列番号22)
CDR-H2 VHPGRGVST(配列番号23)
CDR-H3 SRSHGNTYWFFDV(配列番号24)
CDR-L1 QSIVHSNGNTY(配列番号25)
CDR-L2 KVS(配列番号26)
CDR-L3 FQGSHVPFT(配列番号27)
を含む抗体と競合する、請求項5~9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項13】
請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体と、検出可能な標識または細胞毒性物質と、を含むイムノコンジュゲート。
【請求項14】
求項5~12のいずれか1項に記載の抗体をコードする核、またはベクターに含まれている前記酸。
【請求項15】
請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体を発現する、細胞。
【請求項16】
請求項1または2に記載の化合物、請求項3または4に記載の免疫原、請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体、請求項13に記載のイムノコンジュゲート、請求項14に記載の核酸または請求項15に記載の細胞を含む、組成物。
【請求項17】
請求項1または2に記載の化合物、請求項3または4に記載の免疫原、請求項16に記載の組成物、請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体、請求項13に記載のイムノコンジュゲート、請求項14に記載の核酸、前記核酸を含むベクターまたは請求項15に記載の細胞を含む、キット。
【請求項18】
請求項5~9および12のいずれか1項に記載の抗体を作製する方法であって、請求項1または2に記載の環状化合物、請求項3または4に記載の免疫原または前記免疫原を含む組成物をヒトではない対象に投与することと、前環状化合物または前記免疫原に対して特異的または選択的である抗体および/または当該抗体を発現する細胞を単離することと、を含む方法。
【請求項19】
生体試料がAベータを含むかどうかを判定する方法であって、
a.前記生体試料を、請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体または請求項13に記載のイムノコンジュゲートと接触させること、および
b.抗体複合体の存在を検出すること;
を含む方法。
【請求項20】
Aベータオリゴマーの伝播の阻害に使用するための、あるいはアルツハイマー病および/または他のAベータアミロイド関連疾患を有する対象の治療に使用するための、1)請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体または請求項13に記載のイムノコンジュゲート、あるいは前記抗体またはイムノコンジュゲートを含む医薬組成物;2)請求項3または4に記載の免疫原、または前記免疫原を含む医薬組成物;あるいは3)1)の抗体をコードする核酸または前記核酸を含むベクター。
【請求項21】
治療される対象由来の生体試料が、請求項5~12のいずれか1項に記載の抗体を用いてAベータの有無またはレベルに関して評価されている、請求項20に記載の抗体、イムノコンジュゲート、免疫原、医薬組成物、核酸またはベクター。
【請求項22】
前記抗体、イムノコンジュゲート、免疫原、組成物または核酸もしくはベクターが脳または中枢神経系の他の部分に直接投与される、請求項20または21に記載の抗体、イムノコンジュゲート、免疫原、医薬組成物、核酸またはベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2015年11月9日に出願された米国特許出願第62/253044号、2016年7月18日に出願された米国特許出願第62/363,566号、2016年7月22日に出願された米国特許出願第62/365,634号および2016年9月12日に出願された米国特許出願第62/393,615号の優先権の利益を主張するPCT出願であり、上記の出願はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、アミロイドベータ(AベータまたはAβ)エピトープおよびそれに対する抗体、より具体的には、Aベータオリゴマー内で選択的に接触可能な立体配座Aベータエピトープならびに関連する抗体組成物およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
36~43アミノ酸のペプチドとして存在するアミロイドベータ(Aベータ)は、酵素であるβセクレターゼおよびγセクレターゼによってアミロイド前駆体タンパク質(APP)から放出される産物である。AD患者では、Aベータは可溶性モノマー、不溶性線維および可溶性オリゴマーの形で存在し得る。モノマー型のAベータは、主として非構造化ポリペプチド鎖として存在する。線維型のAベータは、よく株と呼ばれる様々な形態に凝集することができる。これらの構造のうちのいくつかは固体NMRにより決定されている。
【0004】
例えば、原子分解三次元構造データの結晶学的データベースであるタンパク質データバンク(PDB)では、3回対称性のAβ構造(PDBエントリー2M4J)、Aβ-40モノマーの2回対称性構造(PDBエントリー2LMN)およびAβ-42モノマーの一本鎖平行in-register構造(PDBエントリー2MXU)を含めたいくつかの線維の株の構造が入手可能である。
【0005】
2M4Jの構造はLuら[8]に報告されており、2MXUの構造はXiaoら[9]に報告されている。2LMNの構造はPetkovaら[10]に報告されている。
【0006】
Aベータオリゴマーは、培養した細胞系およびニューロンを死滅させ、スライス培養物および動物生体において記憶を促進し長期増強(LTP)と呼ばれる極めて重要なシナプス活性を遮断することが示されている。
【0007】
これまでにオリゴマーの構造は決定されていない。さらに、NMRおよびその他の証拠から、オリゴマーが単一の明確に定められた構造ではなく、規則性に乏しく立体配座的に可塑性で順応性のある構造アンサンブルの形で存在することがわかっている。さらに、毒性オリゴマー種の濃度はモノマーまたは線維の濃度よりはるかに低い(推定値には幅があるが、約1000分の1またはそれ以下である)ため、この標的は捉えどころのないものとなっている。
【0008】
Aベータと結合する抗体が記載されている。
【0009】
「USE OF ANTI-AMYLOID ANTIBODY IN OCULAR DISEASES」と題する国際公開第2009048538A2号は、Aベータ上に1つまたは複数の結合部位を認識し、眼疾患の治療に有用なキメラ抗体を開示している。
【0010】
「COMPOUNDS FOR THE TREATMENT OF DISEASES ASSOCIATED WITH AMYLOID OR AMYLOID-LIKE PROTEINS」と題する米国特許第9221812B2号は、アミロイド関連疾患の治療のために、アミノ酸残基12~24の間のエピトープを含むAベータに結合する医薬組成物および不連続抗体について記載している。
【0011】
「ANTI-AMYLOID BETA ANTIBODIES AND THEIR USE」と題する国際公開第2003070760A2号は、第一の領域がアミノ酸配列AEFRHDSGY(配列番号35)またはそのフラグメントを含み、第二の領域がアミノ酸配列VHHQKLVFFAEDVG(配列番号33)またはそのフラグメントを含む、Aベータ不連続エピトープを認識する抗体を開示している。
【0012】
「COMPOUNDS TREATING AMYLOIDOSES」と題する米国特許出願公開第20110171243A1号は、HQKLVFおよび/またはHQKLVFFAED(配列番号16)に結合する抗体のin vivo形成を誘導することができるペプチドミモトープ、およびその使用を開示している。
【0013】
国際公開第2008088983A1号および国際公開第2001062801A2号は、Aベータアミノ酸13~28(HHQKLVFFAEDVGSNK)(配列番号19)に結合するペグ化抗体フラグメントおよびAベータ関連疾患の治療におけるその使用を開示している。
【0014】
「COMPOUNDS FOR TREATING SYMPTOMS ASSOCIATED WITH PARKINSON’S DISEASE」と題する国際公開第2009149487A2号は、EVHHQKL(配列番号34)、HQKLVF(配列番号14)およびHQKLVFFAED(配列番号16)などの、Aベータエピトープに特異的な抗体に対する結合能を有するペプチドを含む化合物を開示している。
【0015】
HHQK(配列番号1)ドメインは、Giulian Dら[11]およびWinklerら[12]により記載されているように、ヒトミクログリアにおける神経毒性の斑誘導に関与するとして説明されている。HHQK(配列番号1)に結合する非抗体治療薬は、タンパクフォールディング病の治療用として開示された(米国特許出願公開第20150105344A1号、国際公開第2006125324A1号)。
【0016】
Aベータのモノマーもしくは線維またはモノマーと線維の両方よりもAベータオリゴマーと優先的または選択的に結合する抗体が望ましい。
【発明の概要】
【0017】
本明細書では、残基HHQK(配列番号1)またはその一部を含むおよび/またはこれよりなるAベータの立体配座エピトープ、およびそれに対する抗体が記載される。エピトープは、オリゴマー中のエピトープをモノマー中のエピトープから区別する立体配座により、Aベータのオリゴマー種中で選択的に露出され得るエピトープとして特定される。
【0018】
一態様は、HQKと最大6個のAベータのコンティグ残基とを含むAベータペプチドと、リンカーとを含み、リンカーが、AベータペプチドのN末端残基およびAベータのC末端残基と共有結合している、環状化合物を含む。
【0019】
一実施形態では、Aベータペプチドは、HHQK(配列番号1)、HQK、HHQKL(配列番号7)、VHHQKL(配列番号6)、VHHQ(配列番号5)、およびHQKL(配列番号20)から任意に選択される、配列番号1~16のいずれか1つの配列を有するペプチドから選択される。
【0020】
別の実施形態では、環状化合物は環状ペプチドである。
【0021】
別の実施形態では、本明細書に記載される環状化合物は、i)環状化合物中のQおよび/またはKの曲率は、対応する直鎖状化合物におけるH、Qおよび/またはKと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%または少なくとも30%と異なり;ii)H、QおよびKから選択される少なくとも1個の残基であって、前記残基の少なくとも1つの二面角が、対応する直鎖状化合物における対応する二面角と比較して、少なくとも30度、少なくとも40度、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度、少なくとも90度、少なくとも100度、少なくとも110度、少なくとも120度、少なくとも130度、少なくとも140度、少なくとも150度、少なくとも160度、少なくとも170度、少なくとも180度、少なくとも190度、または少なくとも200度異なる残基を含み;iii)環状化合物は、エントロピーにより測定して、対応する直鎖状化合物と比較して少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%強く拘束されたQおよび/またはKの立体配座を含み;および/またはiv)少なくともH、少なくともQ、および/または少なくともKが、HHQK(配列番号1)、HQK、および/またはHQKL(配列番号20)を含む直鎖状ペプチドで占められる立体配座より強く拘束された立体配座である。
【0022】
別の実施形態では、ペプチドは、HHQK(配列番号1)、HHQKL(配列番号7)またはHQKL(配列番号20)である。
【0023】
別の実施形態では、化合物は、検出可能な標識をさらに含む。
【0024】
別の実施形態では、リンカーは、1~8個のアミノ酸および/またはこれと同等に機能する分子および/または1つもしくは複数の官能化可能な部分を含む、あるいはこれよりなる。
【0025】
別の実施形態では、リンカーのアミノ酸がAおよびGから選択され、かつ/または官能化可能な部分がCである。
【0026】
別の実施形態では、リンカーは、アミノ酸GCGもしくはCGCを含む、またはこれよりなる。
【0027】
別の実施形態では、リンカーはPEG分子を含む。
【0028】
別の実施形態では、環状化合物は、図7Cの構造から選択される。
【0029】
一態様は、環状化合物を含む、免疫原を含む。
【0030】
一実施形態では、化合物は、担体タンパク質または免疫原性増強物質と結合している。
【0031】
別の実施形態では、担体タンパク質がウシ血清アルブミン(BSA)である、または免疫原性増強物質がキーホールキーホールリンペットヘモシアニン(keyhole Keyhole Limpet Haemocyanin(KLH))である。
【0032】
一態様は、本明細書に記載される化合物または本明細書に記載される免疫原を含む、組成物を含む。
【0033】
一実施形態では、本明細書に記載の組成物は、アジュバントをさらに含む。
【0034】
別の実施形態では、アジュバントはリン酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムである。
【0035】
一態様は、任意選択で配列番号2、3または4の配列を有する、本明細書に記載の環状化合物で存在するHQKの配列または関連エピトープ配列を有するAベータペプチドに特異的および/または選択的に結合する、単離された立体配座特異的および/または選択的抗体を含む。
【0036】
一実施形態では、抗体は、Aベータ上のエピトープと特異的に結合し、エピトープは、抗体との結合に主として関与する、HQKの少なくとも2個の連続するアミノ酸残基を含むかまたはそれから構成され、少なくとも2個の連続するアミノ酸は、HQK、場合によりHHQK(配列番号1)、HQKL(配列番号20)またはHHQKLV(配列番号8)内に組み込まれたQKであり、少なくとも2個の連続するアミノ酸は、HQK、場合によりHHQK(配列番号1)、HQKL(配列番号20)、HHQKL(配列番号7),HHQKLV(配列番号8)内に組み込まれたHQであり、または少なくとも2個の連続するアミノ酸は、HHQ、場合により、HHQK(配列番号1)またはHHQKLV(配列番号8)内に組み込まれたHHである。
【0037】
別の実施形態では、Aベータペプチドおよび/またはエピトープは、HHQK(配列番号1)、VHHQKL(配列番号6)、VHHQ(配列番号5)、およびHQKL(配列番号20)を含むかまたはそれらから構成される。
【0038】
別の実施形態では、抗体は、対応する直鎖状ペプチドよりも優れて、HHQK(配列番号1)を含む環状化合物に選択的に結合し、場合により、抗体は、対応する直鎖状化合物に比べて、環状化合物に対し、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍選択的である。
【0039】
別の実施形態では、抗体は、Aベータモノマーおよび/またはAベータ線維よりもAベータオリゴマーと選択的に結合する。
【0040】
別の実施形態では、Aベータオリゴマーに対する選択性は、Aベータモノマーおよび/またはAベータ線維の少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍選択的である。
【0041】
別の実施形態では、抗体は、配列HHQK(配列番号1)または関連エピトープを含む直鎖状ペプチドと特異的かつおよび/または選択的に結合することがなく、任意選択で、直鎖状ペプチドの配列は、抗体を生じさせるのに使用する環状化合物の直鎖型、場合により配列番号2、3または4で示される配列を有する直鎖状ペプチドである。
【0042】
別の実施形態では、抗体は、in situでAベータモノマー斑および/またはAベータ線維斑に結合しない、またはほとんど結合しない。
【0043】
別の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。
【0044】
別の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。
【0045】
別の実施形態では、抗体は、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディおよびその多量体から選択される抗体結合フラグメントである。
【0046】
別の実施形態は、本明細書に記載の抗体は、場合により融合している、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域は、相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、軽鎖可変領域は、相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、前記CDRのアミノ酸配列は以下の配列を含む:
CDR-H1 GYSFTSYW(配列番号22)
CDR-H2 VHPGRGVST(配列番号23)
CDR-H3 SRSHGNTYWFFDV(配列番号24)
CDR-L1 QSIVHSNGNTY(配列番号25)
CDR-L2 KVS(配列番号26)
CDR-L3 FQGSHVPFT(配列番号27)
【0047】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号29で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号29と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDRの配列が配列番号22、23および24で示される、アミノ酸配列;またはiii)保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む重鎖可変領域を含む。
【0048】
別の実施形態では、抗体は、i)配列番号31で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号31と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDRの配列が配列番号25、26および27で示される、アミノ酸配列;またはiii)保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0049】
別の実施形態では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が、配列番号28で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされ;かつ/あるいは、抗体が、配列番号30で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくはコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0050】
別の実施形態では、重鎖可変領域が、配列番号29で示されるアミノ酸配列を含む、もしくはこれよりなり、かつ/または、軽鎖可変領域が、配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む、もしくはこれよりなる。
【0051】
別の実施形態では、抗体は、ヒトAベータとの結合に関して、表13に記載されるCDR配列を含む抗体と競合する。
【0052】
一態様は、本明細書に記載される抗体と、検出可能な標識または細胞毒性物質とを含む、イムノコンジュゲートを含む。
【0053】
一実施形態では、検出可能な標識は、任意選択でPET撮像などの対象の撮像に使用する、陽電子放出放射性核種を含む。
【0054】
一態様は、場合により希釈剤とともに、本明細書に記載される抗体を含む組成物または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートを含む。
【0055】
一態様は、本明細書に記載される化合物もしくは免疫原のタンパク質性部分、本明細書に記載される抗体または本明細書に記載されるタンパク質性イムノコンジュゲートをコードする、核酸分子を含む。
【0056】
一態様は、本明細書に記載される核酸を含むベクターを含む。
【0057】
一態様は、本明細書に記載される抗体を発現する細胞を含み、任意選択で、細胞は、本明細書に記載のベクターを含むハイブリドーマである。
【0058】
一態様は、本明細書に記載される化合物を含むキット、本明細書に記載される免疫原、本明細書に記載される抗体、本明細書に記載されるイムノコンジュゲート、本明細書に記載される組成物、本明細書に記載される核酸分子、本明細書に記載されるベクターまたは本明細書に記載される細胞を含む。
【0059】
一態様は、本明細書に記載される抗体を作製する方法であって、本明細書に記載される化合物もしくは免疫原または前記化合物もしくは免疫原を含む組成物を対象に投与することと、投与する化合物もしくは免疫原および/またはAベータオリゴマーに特異的または選択的であり、任意選択で、Aベータペプチドを含む直鎖状ペプチドと結合しない、もしくはほとんど結合せず、かつ/または斑と結合しない、もしくはほとんど結合しない、抗体および/または抗体を発現する細胞を単離することとを含む、方法を含む。
【0060】
一態様は、生体試料がAベータを含むかどうかを判定する方法であって、
a.生体試料と、本明細書に記載される抗体または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートとを接触させること;および
b.何らかの抗体複合体の存在を検出することを含む、方法を含む。
【0061】
一実施形態では、生体試料がAベータオリゴマーを含み、方法は、
a.抗体:Aベータオリゴマー複合体の形成が可能な条件下で、試料と、Aベータオリゴマーに特異的かつ/または選択的な本明細書に記載される抗体または本明細書に記載されるイムノコンジュゲートとを接触させること;および
b.何らかの複合体の存在を検出することを含み、
検出可能な複合体の存在により、試料がAベータオリゴマーを含有し得ることが示される。
【0062】
別の実施形態では、複合体の量を測定する。
【0063】
別の実施形態では、試料は、脳組織もしくはその抽出物、全血、血漿、血清および/またはCSFを含む。
【0064】
別の実施形態では、試料はヒト試料である。
【0065】
別の実施形態では、試料を対照、任意選択で以前の試料と比較する。
【0066】
別の実施形態では、SPRによりAベータのレベルを検出する。
【0067】
一態様は、対象のAベータのレベルを測定する方法であって、ADを有するリスクもしくは疑いがある、またはADを有する対象に、本明細書に記載される抗体を含み、抗体が検出可能な標識とコンジュゲートされているイムノコンジュゲートを投与すること;および標識を検出すること、任意選択で標識を定量的に検出することを含む、方法を含む。
【0068】
一実施形態では、標識は陽電子放出放射性核種である。
【0069】
一態様は、対象に免疫応答を誘導する方法であって、本明細書に記載される化合物もしくは化合物の組合せ、任意選択で、HQKまたはHHQK(配列番号1)もしくは関連エピトープペプチド配列を含む環状化合物、免疫原および/または前記化合物もしくは前記免疫原を含む組成物を対象に投与すること;ならびに任意選択で、投与した化合物または免疫原中のAベータペプチドと特異的または選択的に結合する細胞および/または抗体を単離することを含む、方法を含む。
【0070】
一態様は、Aベータオリゴマー伝播を阻害する方法であって、有効量の本明細書に記載されるAベータオリゴマーに特異的または選択的な抗体またはイムノコンジュゲートを、Aベータを発現する細胞もしくは組織と接触させる、または必要とする対象に投与して、Aベータの凝集および/またはオリゴマー伝播を阻害することを含む、方法を含む。
【0071】
一態様は、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患を治療する方法であって、必要とする対象にi)有効量の本明細書に記載される抗体またはイムノコンジュゲート、任意選択で、Aベータオリゴマーに特異的もしくは選択的な抗体または前記抗体を含む医薬組成物を投与すること;2)HQK、HHQK(配列番号1)もしくは関連エピトープ配列を含む単離環状化合物または免疫原または前記環状化合物を含む医薬組成物あるいは3)1の抗体または2の免疫原をコードする核酸または核酸を含むベクターを、必要とする対象に投与することを含む、方法を含む。
【0072】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体を用いて、治療する対象由来の生体試料をAベータの有無またはレベルに関して評価する。
【0073】
別の実施形態では、2つ以上の抗体または免疫原を投与する。
【0074】
別の実施形態では、抗体、イムノコンジュゲート、免疫原、組成物または核酸もしくはベクターを脳またはCNSの他の部分に直接投与する。
【0075】
別の実施形態では、組成物は、薬学的に許容される希釈剤または担体と混合した化合物または免疫原を含む、医薬組成物である。
【0076】
一態様は、本開示で示される配列、必要に応じ表15(1)で示されるいずれか1つの配列よりなるAベータペプチドを含む、単離ペプチドを含む。
【0077】
一実施形態では、ペプチドは、リンカーを含み、リンカーがAベータペプチドのN末端残基および/またはAベータのC末端残基と共有結合している、環状ペプチドである。
【0078】
別の実施形態では、本明細書に記載の単離ペプチドは、検出可能な標識を含む。
【0079】
一態様は、本明細書に記載される単離ペプチドをコードする核酸配列を含む。
【0080】
以下の詳細な説明から本開示のその他の特徴と利点が明らかになるであろう。ただし、この詳細な説明から本開示の趣旨および範囲内に含まれる様々な変更および改変が当業者に明らかになることから、詳細な説明および具体例は、本開示の好ましい実施形態を示すと同時に、単に説明を目的として記載されるものであることが理解されるべきである。
【0081】
これより本開示の実施形態を図面と関連させて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】集団座標法(パネルA)およびPromis Go法(パネルB、C、D)により求めた配列の関数としての露出の可能性を示す図である。
図2】曲率を残基インデックスの関数として示す図である。直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)の平衡アンサンブルの平均曲率(パネルA)が、環状ペプチドの曲率(パネルB)および線維の平衡アンサンブルおよび各種モノマーの両方に対する平均化曲率(パネルC)と共に示されている。それぞれのペプチド中の全ての残基の平均曲率値に対する収束チェックをパネルF~Fに示す。パネルGは、線維の曲率と共に、直鎖状および環状ペプチドに対する曲率の収束値を示すグラフである。興味深いことに、環状ペプチド中のQ15の曲率は、直鎖状ペプチドまたは線維中の値よりも実質的に小さい。
図3】角度C-Cα-Cβ-Cγ(パネルA)、Cα-C-N-HN(パネルB)、ならびにCα-Cβ-Cγ-Cδ2(パネルC)および残基13Hの側鎖および主鎖原子を含むO-C-Cα-Cβ(パネルD)に対する二面角分布である。角度C-Cα-Cβ-Cγ(パネルE)、C-Cα-N-HN(パネルF)、ならびにCα-Cβ-Cγ-Cδ2(パネルG)、およびO-C-Cα-Cβ(パネルH)に対する残基14Hの二面角分布を示す。15Qに対しては、角度Cα-Cβ-Cγ-C(パネルI)、C-Cα-N-NH(パネルJ)、Nε2-Cγ-Cδ-Cβ(パネルK)およびO-C-Cα-Cβ(パネルL)に対する二面角分布を示す。16Kに対しては、15Qに対しては、角度Cα-Cβ-Cγ-C(パネルM)、C-Cα-N-NH(パネルN)、およびO-C-Cα-Cβ(パネルO)に対する二面角分布を示す。重なり合いパーセンテージ値は、表2に示されている。分布に対する二面角のピーク値は、表3に示されている。
図4】それぞれの残基13H(パネルA)、14H(パネルB)、15Q(パネルC)、および16K(パネルD)について、線維のエントロピーに対して、直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドの個々の二面角のエントロピーの変化のプロット。パネルE:個々の残基の非ラマチャンドランエントロピーの線維からの差異-すなわち、主鎖ラマチャンドランエントロピーは含まれない。パネルF:個々の残基の側鎖と主鎖の(合計)立体配座エントロピーから線維の対応する量を差し引いたもの。パネルGは、環状ペプチドおよび線維両方の直鎖状ペプチドに対するそれぞれの残基のエントロピー損失を示す。
図5】パネルAにおいて、直鎖型(左パネル)および環状型(中間パネル)のペプチドCGHHQKG(配列番号2)の残基13H、14H、15Qおよび16Kの平衡主鎖ラマチャンドラン角を線維2M4Jにおける残基の主鎖ラマチャンドラン角とともに示す。ラマチャンドラン角度の重ね合わせ確率を表4に示す。対応する分布のピーク角度を表5に示す。パネルB~Eは、それぞれのアミノ酸に対する個々の主鎖ラマチャンドラン角度
【数1】
およびψの別の表現を示す。
図6】残基HHQK(配列番号1)に対する溶解度および溶媒接触表面積(SASA)のプロットである。パネルAは、残基インデックスの関数としての溶解度を示す。HHQK(配列番号1)は垂直破線により示す。パネルBは、残基HHQK(配列番号1)に対するSASAを示し、環状ペプチド中のHHQK(配列番号1)は点線で表され、直鎖状ペプチド中のHHQK(配列番号1)は薄灰色実線で表され、線維2M4JにおけるHHQK(配列番号1)は暗灰色実線で表される。パネルCは、後述のように、それぞれの残基の溶解度で重みを付けたSASAを示す。パネルDは、重みを付けたΔSASAを示し、線維2M4Jに対する環状および直鎖状ペプチドのSASAの差異を示す。
図7】CGHHQKG(配列番号2)の環状および直鎖状ペプチドアンサンブルの重心構造。黒色の立体配座は、環状ペプチドの最も大きいクラスターの重心であり、そのため、環状ペプチドの典型的な立体配座を最もよく表している。白色の立体配座は、最大ペプチドの最も大きいクラスターの重心であり、直鎖状ペプチドの典型的な立体配座を最もよく表し得る。直鎖状重心は、環状重心に整列されている。重ね合わせて整列させた構造は、直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドに好ましい傾向のある様々な二面角および全体的なエピトープ立体配座を示す。パネルA:環状および直鎖状ペプチドの残基13H、14H、15Q、および16K(HHQK 配列番号1)の整列された重心構造を2つの異なる視点からの重ね合わせ図により示す。パネルB:側鎖の配向が見えるようにリコリス表現(licorice representation)で描画した環状ペプチド構造CGHHQKG(配列番号2)および直鎖状ペプチド構造CGHHQKG(配列番号2)の3つの図である。パネルC:環状のペプチド結合を有する環状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)、C残基とH残基の間にPEG2リンカーを有する環状ペプチドC-PEG2-HHQKG(配列番号3)、およびK残基とC残基の間にPEG2リンカーを有する環状ペプチドCGHHQK-PEG2(配列番号4)を含む、エピトープ残基HHQK(配列番号1)を含む環状ペプチドの略図である。
図8】エピトープHHQK(配列番号1)の溶媒接触面積(SASA)は、配列CGHHQKG(配列番号2)の直鎖状および環状ペプチド、ならびにAベータ40ポリペプチド2M4Jの対応する部分について示されている。パネルAは、直鎖状(左)および環状(右)ペプチドのそれぞれのエピトープHHQK(配列番号1)のSASAを示す。パネルBは、整列された環状および線維のSASA(左)、ならびに整列された環状および直鎖状ペプチドのSASAを示す。両パネルは、環状ペプチドにより提示された抗原性表面は、直鎖状または線維ペプチドとは明確に異なることを示す。パネルCは、Aベータ40線維2M4J内のエピトープHHQK(配列番号1)配列を示し、溶媒に露出している原子のみを示す。表面積は、環状および直鎖状ペプチドでは異なった形で存在する。これは、抗体が環状HHQK(配列番号1)化合物に対し高親和性を、およびAベータ40ポリペプチドモノマーに対して低親和性を有するように選択され得ることを示す。
図9】平均二乗偏差(RMSD)によるクラスタリングプロット;軸は、環状ペプチドアンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSD、直鎖状ペプチドアンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSD、およびPDB ID 2M4Jの線維アンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSDに対応する。各点は、環状ペプチド平衡アンサンブル(凡例に示したように円)、直鎖状ペプチド平衡アンサンブル(凡例に示したように+記号)、またはPDB ID 2M4Jから始まる線維平衡アンサンブル(凡例に示したように逆三角形)から取得した所定の立体配座に対応する。パネルA~Cで、3つの異なる視点の結果が提示される。暗灰色の円で示される環状ペプチドアンサンブルは、直鎖状または線維アンサンブルとは立体配座の差異を示し、これは、パネルD~Hに示す分布間の重なり合いパーセンテージを計算することにより定量し得る。パネルD~Iは、環状、直鎖状および線維型のペプチドの間の重なり合いの収束チェックを示す。パネルJは、単一残基欠失の直鎖状アンサンブルと90%環状アンサンブルとの構造的重なり合いに与える影響を調査する。単一アミノ酸が立体配座選択性を与える場合には、構造的アライメントからそれを除くことにより、かなり高い重なり合いが生ずるであろう。この試験により、K16は、環状ペプチドに対し、最高の立体配座選択性を与える可能性がある。
図10】その他の線維株立体配座に対するRMSDによるクラスタリングプロット;軸は、環状ペプチドアンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSD、直鎖状ペプチドアンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSD、およびAベータのいくつかの線維モデルに対する平衡アンサンブルの重心構造のHHQK(配列番号1)に対するHHQK(配列番号1)のRMSDに対応する。各点は、PDB ID 2MXU(パネルA、2つの視野)、2LMP(パネルB)、および2LMN(パネルC、2つの視野)由来の環状ペプチドまたは線維平衡アンサンブルの様々な「株」から取得した所定の立体配座に対応する。
図11】組織培養上清クローンのパネルAの環状ペプチドおよび直鎖状ペプチド、およびパネルBのAベータオリゴマーおよびAベータモノマーに対する表面プラズモン共鳴(SPR)結合アッセイを示す図である。
図12】SPR結合アッセイとELISAとによる組織培養上清クローン結合の比較プロットを示す図である。
図13】選択したクローンの環状ペプチド(丸)、直鎖状ペプチド(四角)、Aベータモノマー(上向きの三角形)およびAベータオリゴマー(下向きの三角形)に対するSPR結合アッセイを示す図である。アスタリスクは、対照目的で非構造化直鎖状ペプチドに対して反応性のクローンを示している。
図14】6E10陽性対照抗体(A)およびシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)(B)に対して産生させた選択および精製されたモノクローナル抗体(301-17、12G11)を用いた死体AD脳由来の斑の免疫組織化学染色を示す図である。
図15】選択し精製した抗体に関するSPR間接(捕捉)結合アッセイを用いた二次スクリーニングを示す図である。捕捉抗体に対するAベータオリゴマーのSPR結合応答から捕捉抗体に対するAベータモノマーの結合応答を差し引いたもの(円);AD患者からプールした可溶性脳抽出物の捕捉抗体に対するSPR結合応答から、非AD対照からプールした脳抽出物の捕捉抗体に対する結合応答を差し引いたもの(三角);捕捉抗体に対するAD患者由来のプール脳脊髄液(CSF)のSPR結合応答から捕捉抗体に対する非AD由来のプールCSFの結合応答を指し引いたもの(四角)。
図16】安定なAベータオリゴマーに対する抗体結合の検証を示す図である。様々な濃度の市販の調製済みの安定なAベータオリゴマーと固定化抗体との結合に関するSPRセンサグラムおよび結合応答プロット。パネルAは陽性対照mAb6E10での結果を示し、パネルBは陰性アイソタイプ対照での結果を示し、パネルCはシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体での結果を示している。パネルDは、HHQK(配列番号1)を含む環状ペプチドに対して産生させたいくつかの抗体クローンと、濃度1マイクロモルのAベータオリゴマーとの結合をプロットしたものである。
図17】HHQK(配列番号1)を含む環状ペプチドを用いて産生させた代表的な抗体の存在下または不在下におけるin vitroでのAベータ凝集伝播のプロットである。
図18】異なるモル比の陰性アイソタイプ対照(A)またはHHQK(配列番号1)を含む環状ペプチドを用いて産生させた抗体(B)の存在下または不在下における有毒性のAベータオリゴマー(AβO)に対し曝露させたラット一次皮質ニューロンの生存率を示すプロットである。対照は、単独で培養したニューロン(CTRL)、オリゴマーなしで抗体と共にインキュベートしたニューロンおよびオリゴマーを含有または非含有の神経保護ヒューマニンペプチド(HNG)を含む。
【発明を実施するための形態】
【0083】
表1は、直鎖状、環状および線維2M4J型の13H、14H、15Q、および16Kの残基による曲率値を示す。
【0084】
表2は、図3に示す二面角の分布の重なり合いパーセンテージを示す。
【0085】
表3は、環状ペプチドと他の種との間に分布の差異が認められる二面角の二面角分布のピーク値を示す。列1は、検討した特定の二面角であり、列2は、環状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるその角の二面角分布のピーク値であり、列3は、直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるその角の二面角分布のピーク値であり、列4は、線維構造2M4JにおけるペプチドHHQK(配列番号1)の二面角分布のピーク値であり、および列5は、直鎖状ペプチドと環状ペプチドとの間の二面角分布のピーク値の差異である。図3も参照されたい。
【0086】
表4は、図5に示す残基13H、14H、15Q、および16Kのラマチャンドラン角度の重ね合わせ確率を示す。特に、環状ペプチドと合致する立体配座をとる直鎖状アンサンブルの比率は、H13、H14、Q15およびK16に対し、それぞれ76%、10%、10%、32%である。これは、例えば、遊離ペプチド中のH14およびQ15が、環状様の立体配座をとることは希であることを示す。
【0087】
表5は、残基13H、14H、15Q、および16Kのラマチャンドラン主鎖ファイ/プサイ角分布のピーク値を示す。第1列には、検討した残基であり、この残基は括弧内に示される2つの角ファイおよびプサイを示す。第2列には、直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるそれぞれの残基のラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されており、第3列には、環状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるそれぞれの残基のラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されており、最終列には、線維構造2M4Jにおけるそれぞれの残基のラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されている。図5を参照されたい。
【0088】
表6は、図9に示す、直鎖状、環状および線維(2M4J)型のペプチドの間のRMSDクラスタリングの重なり合いパーセンテージを示す。
【0089】
表7は、環状、直鎖状、および線維アンサンブルの重心立体配座における、残基13H、14H、15Q、および16Kの主鎖および側鎖二面角の値である。
【0090】
表8は、選択した組織培養上清クローンの結合特性を示す。
【0091】
表9は、選択した抗体の結合特性のまとめを示す。
【0092】
表10は、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体のオリゴマー結合-モノマー結合を示す。
【0093】
表11は、ホルマリン固定組織で試験した抗体の特性を示す。
【0094】
表12は、例示的毒性試験である。
【0095】
表13は、CDR配列を示す。
【0096】
表14は、重鎖および軽鎖の可変配列を示す。
【0097】
表15は、Aベータ配列の表である。
【0098】
表16は、Aベータ完全長配列を示す。
【0099】
本開示の詳細な説明
本明細書では、アルツハイマー病に関連するオリゴマー種を含めたAベータの毒性オリゴマー種内で優先的に接触可能なエピトープを標的とし得る抗体、免疫療法組成物および方法が提供される。Aベータのオリゴマー種内での抗体結合に特異的かつ/または選択的に接触可能であり得るAベータの領域が特定された。
【0100】
本明細書で示されるように、モノマーおよび/または線維上に存在しない、またはわずかに存在するAベータペプチド上の標的を特定することにより、オリゴマー特異的抗体またはオリゴマー選択的抗体の作製を達成した。オリゴマー特異的エピトープは、モノマーまたは線維の対応するセグメントと一次配列が異なっている必要はないが、オリゴマーにおいて立体配座的に際立ったものであり得る。つまり、これらは、オリゴマー内で、主鎖および/または側鎖の配向の点でモノマーおよび/または線維にはみられない(または好ましくない)と考えられる際立った立体配座を示す。
【0101】
直鎖状ペプチド領域に対して産生させた抗体は、オリゴマーに対して選択的ではない傾向があり、このため、モノマーとも結合する。
【0102】
本明細書に記載されるように、オリゴマー型のAベータに選択的になり得る抗体を開発するため、本発明者らは、線維において破壊されやすく、加えて、オリゴマーの表面に露出し得るAベータ配列の領域を特定することを目指した。
【0103】
実施例に記載されるように、本発明者らは、線維において破壊されやすいことが予測される領域を特定した。本発明者らは、その特定された標的を含む環状化合物が直鎖状アンサンブルまたは線維アンサンブルに対して別の立体配座の基準、例えば、異なる曲率プロファイル対残基インデックス、より大きい露出表面積、および/または平均二乗偏差(RMSD)によるアライメントが容易ではないことなどを満たすようこれを設計した。
【0104】
実施例で示すように、配列番号2の環状化合物を含む免疫原を使用して、モノクローナル抗体を産生した。実施例で示すように、標的領域を含む環状ペプチドを用いて、同じ配列の直鎖状ペプチド(例えば、対応する直鎖状配列)と比較して環状ペプチドと優先的に結合する抗体を産生させることができた。実験結果が記載されており、合成モノマーと比較して合成オリゴマーと選択的に結合し、対照CSFよりもAD患者のCSFと優先的に結合し、かつ/または対照の可溶性脳抽出物よりもAD患者の可溶性脳抽出物と優先的に結合する、エピトープ特異的かつ立体配座選択的な抗体が特定される。さらに、AD脳組織の染色では、斑との結合を全くまたはほとんど示さない抗体が特定され、in vitro試験では、抗体がAβオリゴマーの伝播および凝集を阻害することがわかった。
【0105】
I.定義
本明細書で使用される「Aベータ(A-beta)」という用語は、代替的に「アミロイドベータ」、「アミロイドβ」、Aベータ(Abeta)、Aベータ(A-beta)または「Aβ」と呼ばれ得る。アミロイドベータは、36~43個のアミノ酸よりなるペプチドであり、あらゆる種のあらゆる野生型および変異型、特にヒトAベータを包含する。Aベータ40は40アミノ酸型を指し、Aベータ42は42アミノ酸型を指すなど。ヒト野生型Aベータ42のアミノ酸配列は配列番号32で示される。
【0106】
本明細書で使用される「Aベータモノマー」という用語は、Aベータ(例えば、1~40、1~42、1~43)ペプチドの個々のサブユニット型のいずれかを指す。
【0107】
本明細書で使用される「Aベータオリゴマー」という用語は、本明細書では、複数(例えば、少なくとも2つ)のAベータモノマーが非共有結合によって、約100個未満またはより通常には約50個未満のモノマーからなり、立体配座に柔軟性があり、部分的に規則的である三次元の小球に凝集したAベータサブユニットのいずれか複数のものを指す。例えば、オリゴマーは、3個、4個、5個またはそれ以上のモノマーを含み得る。本明細書で使用される「Aベータオリゴマー」という用語は、合成Aベータオリゴマーおよび/または天然Aベータオリゴマーの両方を包含する。「天然Aベータオリゴマー」は、invivoで、例えばADを有する対象の脳およびCSF内で形成されるAベータオリゴマーを指す。
【0108】
本明細書で使用される「Aベータ線維」という用語は、電子顕微鏡下で原繊維構造を示す個々のAベータペプチドが非共有結合により会合した集合体を含む分子構造を指す。原繊維構造は通常、「クロスベータ」構造であり、理論上、多量体の大きさに上限はなく、線維は数千個または何千個ものモノマーを含み得る。線維は数千個単位で凝集し、ADに特徴的な主な病理学的形態の1つである老人斑を形成し得る。
【0109】
「HHQK」という用語は、配列番号1で示されるヒスチジン、ヒスチジン、グルタミンおよびリシンというアミノ酸配列を意味する。同様に、HQK、HHQ、VHHQ(配列番号5)、VHHQKL(配列番号6)、HHQKL(配列番号7)、HHQKLV(配列番号8)、HQKL(配列番号20)は、1文字アミノ酸コードによって識別されるアミノ酸配列を指す。文脈によっては、アミノ酸配列と記載される場合、それはAベータまたは単離ペプチド内の配列、例えば環状化合物のアミノ酸配列などを指すことがある。
【0110】
本明細書で使用される「直鎖状化合物、モノマーおよび/または線維中の13H、14H、15Q、および/または16Kによって占められるものとは別の立体配座」という用語は、溶媒露出度、エントロピー、曲率(例えば、HHQK(配列番号1)を含むペプチドにおいて、例えば、実施例に記載の環状ペプチドで測定して)、RMSD構造アライメントおよび1つもしくは複数の主鎖二面角または側鎖二面角から選択される1つまたは複数の立体配座特性が、例えば、PDB 2M4Jに示される、および図1~10および/または表で示される、対応するAベータ直鎖状ペプチド、Aベータモノマーおよび/またはAベータ線維構造中の13H、14H、15Qおよび/または16Kの前記特性と比較して、異なることを意味する。さらに、本明細書で使用される「直鎖状ペプチド中の15Qおよび/または16Kによって占められるものとは別の立体配座」という用語は、溶媒露出度、エントロピー、曲率(例えば、HHQK(配列番号1)を含むペプチドにおいて、例えば、実施例に記載の環状ペプチドで測定して)、RMSD構造アライメントおよび1つもしくは複数の主鎖二面角または側鎖二面角から選択される1つまたは複数の立体配座特性が、対応する直鎖状Aベータペプチド中の15Qおよび/または16KまたはHHQK(配列番号1)の前記特性と比較して、異なることを意味する。環状ペプチドアンサンブル中のエピトープの直鎖状または線維アンサンブルとは異なる曲率プロファイルは、図2により、環状ペプチド中で直鎖状ペプチドまたは線維とは実質的に異なる曲率を示す、特に残基Q15により立体配座選択性が付与され得ることを意味する。残基K16はまた、直鎖状ペプチドとは実質的に異なる環状ペプチドの曲率を示し、線維により類似した曲率をとる。線維中の曲率は、それから明確に減少しており、また、環状または直鎖状ペプチド:HHQK(配列番号1)は線維中では、相対的に広がっている。図3によると、残基13Hの場合、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、直鎖状および環状ペプチド両方のHHQK(配列番号1)と、線維中の対応する二面角とが明確に区別される。残基14Hの場合は、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、環状二面角分布が、直鎖状または線維アンサンブル中の対応する分布から明確に区別される。同様に、残基15Qの場合は、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、環状二面角分布が、直鎖状または線維アンサンブル中の対応する分布から明確に区別される。残基16K場合は、二面角O-C-CA-CBにより、環状ペプチドが、直鎖状または線維アンサンブルから明確に区別され、二面角C-CA-N-HNにより、環状および直鎖状ペプチドの両方が、線維から明確に区別される。図5Bによると、13Hの主鎖ラマチャンドラン角度φおよびψにより、直鎖状および環状ペプチドが線維から明確に区別されるが、直鎖状および環状ペプチド相互には区別されない。14Hの場合には、図5Cは、環状ペプチドのラマチャンドラン角度φおよびψは両方共、直鎖状または線維アンサンブルとは異なることを示す。同様に、15Qおよび16Kの場合は、図5DおよびEは、環状ペプチドのラマチャンドラン角度φおよびψは、直鎖状または線維アンサンブル中の角度とは異なることを示す。図4F、Gは、環状ペプチドが直鎖状ペプチドより拘束されているが、線維より拘束が少ないことを示す。図4Fは、154Qおよび16Kが、環状ペプチドアンサンブル中で、それらが直鎖状ペプチド中にある場合より拘束されていることを示し、上記の二面角と共に、モノマーが環状ペプチドと一致する立体配座をまれにしかとらないことを示唆する。環状アンサンブル中では直鎖状アンサンブル中より強く拘束されているにもかかわらず、環状ペプチドが直鎖状ペプチドより幾分多く溶媒曝露されており(図6B)、このことから、より抗原性の強い表面であることを示している。直接構造的アライメント(図7、8、9)により、環状ペプチドは、線維における直鎖状ペプチドまたはHHQK(配列番号1)とは異なる構造的アンサンブルを示す。
【0111】
「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸および修飾されたL-アミノ酸をすべて包含する。アミノ酸の原子は様々な同位体を含み得る。例えば、アミノ酸は、水素に代わるジュウテリウム、窒素14に代わる窒素15および炭素12に代わる炭素13ならびにその他の同様の変化を含み得る。
【0112】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ベニヤ化(veneered)抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体ならびに例えば一本鎖Fabフラグメント、Fab’2フラグメントまたは一本鎖Fvフラグメントを含めた上記の抗体のフラグメントを包含するものとする。抗体は、組換え供給源由来のものおよび/またはウサギ、ラマ、サメなどの動物で産生されたものであり得る。また、トランスジェニック動物で産生され得る、もしくは生化学技術を用いて作製され得る、またはファージライブラリーなどのライブラリーから単離され得るヒト抗体も包含される。ヒト化抗体またはその他のキメラ抗体は、1種類または2種類以上のアイソタイプもしくはクラスまたは種由来の配列を含み得る。
【0113】
「単離された抗体」という語句は、in vivoまたはin vitroで産生され、抗体を産生した供給源、例えば、動物、ハイブリドーマまたはその他の細胞系(抗体を産生する組換え昆虫、酵母または細菌細胞など)から取り出された抗体を指す。単離された抗体は任意選択で「精製」されており、これは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の純度であることを意味する。
【0114】
本明細書で使用される「結合フラグメント」という用語は、抗体または抗体鎖の一部または一部分であって、インタクトの抗体もしくは抗体鎖または完全な抗体もしくは抗体鎖より少ないアミノ酸残基を含み、抗原と結合する、またはインタクトの抗体と競合するものを指す。例示的結合フラグメントとしては、特に限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ナノボディ、ミニボディ、ダイアボディおよびその多量体が挙げられる。フラグメントは、インタクトの抗体もしくは抗体鎖または完全な抗体もしくは抗体鎖の化学処理または酵素処理によって得ることができる。フラグメントは、組換え手段によっても得ることができる。例えば、抗体をペプシンで処理することによりF(ab’)2フラグメントを作製することができる。得られたF(ab’)2フラグメントにジスルフィド架橋を還元する処理を実施して、Fab’フラグメントを作製することができる。パパイン消化によりFabフラグメントの形成を引き起こすことができる。また、組換え発現技術によりFab、Fab’およびF(ab’)2、scFv、dsFv、ds-scFv、二量体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメントならびにその他のフラグメントを構築することもできる。
【0115】
当該技術分野で認識されている「IMGT番号付け」または「ImMunoGeneTicsデータベース番号付け」という用語は、抗体またはその抗原結合部分の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の他のアミノ酸残基より可変性のある(すなわち、超可変性の)アミノ酸残基を番号付けするシステムを指す。
【0116】
ある抗体がHHQK(配列番号1)などの特定残基内のエピトープに結合すると記載される場合、それは、その抗体が特定の残基またはその一部、例えば少なくとも1個または少なくとも2個の残基を含むペプチドまたはポリペプチドと最小限の親和性で特異的に結合し、例えばアイソタイプ対照抗体より大きい無関係な配列にも無関係な配列の空間的方位にも結合しないことを意味する。このような抗体は必ずしもHHQK(配列番号1)(または関連エピトープ)の各残基と接触するわけではなく、前記エピトープ内の単一のアミノ酸置換またはアミノ酸欠失のどれもが、必ずしも結合親和性に大きな影響を及ぼすというわけではなく、および/または等しく影響を及ぼすというわけではない。
【0117】
ある抗体がエピトープ、例えばHHQK(配列番号1)などの立体配座エピトープなどに選択的に結合すると記載される場合、それは、その抗体が特定の残基またはその一部を含む1つまたは複数の特定の立体配座に、別の立体配座の前記残基と結合する場合より大きい親和性で優先的に結合することを意味する。例えば、ある抗体が対応する直鎖状ペプチドよりもHHQKまたは関連エピトープを含むシクロペプチドと選択的に結合すると記載される場合、その抗体は、直鎖状ペプチドと結合する場合の少なくとも2倍の親和性でそのシクロペプチドと結合する。
【0118】
本明細書で使用される「立体配座エピトープ」という用語は、アミノ酸配列が特定の三次元構造を有し、対応する直鎖状ペプチド中に存在しない、または存在する可能性が低い三次元構造の少なくとも一面がコグネイト抗体によって特異的かつ/または選択的に認識される、エピトープを指す。エピトープ、例えばHHQK(配列番号1)は、オリゴマーAベータの分子表面に一部もしくは全部が露出しているもの、およびモノマー斑Aベータもしくは線維斑Aベータでは一部もしくは全部が抗体に認識されにくいものであり得る。立体配座特異的エピトープと特異的に結合する抗体は、その立体配座特異的エピトープの1個または複数のアミノ酸の空間的配置を認識する。例えば、HHQK(配列番号1)立体配座エピトープは、抗体によって選択的に、例えば直鎖状HHQK(配列番号1)を用いて産生された抗体と比較して少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、50倍、100倍、250倍、500倍もしくは1000倍またはそれを超える大きな抗体選択性により認識される、HHQK(配列番号1)のエピトープを意味する。
【0119】
本明細書で使用される「関連エピトープ」という用語は、抗原性で、場合により、HQKを含む配列であるHHQK(配列番号1)の少なくとも2個の残基、および/またはAベータのN末端の1個、2個もしくは3個のアミノ酸残基、および/またはHHQK(配列番号1)の少なくとも2個の残基のC末端の1個の残基を含む配列を意味する。例えば、本明細書では、小領域HQKを共有するHHQK(配列番号1)およびHQKL(配列番号20)がAベータ線維において不規則になりやすい領域として特定されたことが示される。したがって、HQKおよびHQKLは関連エピトープである。例示的関連エピトープとしては、表15(1)に示される配列を挙げることができる。関連エピトープは、例えば、6個のAベータ残基までである。
【0120】
本明細書でアミノ酸配列内のアミノ酸もしくはその側鎖(例えば、HHQK(配列番号1)の13H、14H、15Qおよび/または16K)またはより大きいポリペプチド内のアミノ酸配列に関して使用される「拘束された立体配座」という用語は、アミノ酸二面角の回転運動性が対応する直鎖状ペプチド配列またはより大きいポリペプチドにおける配列に比べて低下し、それにより、許容される立体配座の数が少なくなっていることを意味する。このことは、例えば、主鎖および側鎖二面角自由度のアンサンブルのエントロピー減少を見出すことによって定量化することが可能であり、それぞれのアミノ酸について、直鎖状アンサンブルに対して、環状アンサンブルおよび線維アンサンブルのエントロピー減少が図4Gでプロットされている。例えば、配列内の側鎖の立体配座自由度が直鎖状ペプチドより低ければ、エントロピーが減少することになる。直鎖状および環状ペプチドアンサンブル両方における、線維アンサンブルからのエントロピー増加が、それぞれのアミノ酸中の個々独立の二面角に対して、図4A~Dでプロットされている。直鎖状および環状ペプチドアンサンブル両方における、線維アンサンブルからのエントロピー増加が、HHQK(配列番号1)中のそれぞれのアミノ酸に対し、図4Fでプロットされている。直鎖状ペプチドからの立体配座の制約があれば、この抗原に対して特異的に産生された抗体の立体配座選択性が増大するものと思われる。アミノ酸配列HHQK(配列番号1)は、線維構造中で最も拘束されており、それは立体配座の自由度が環状ペプチドまたはモノマーより小さく、また、それは直鎖状ペプチドアンサンブル中の場合より、環状ペプチドアンサンブル中でより大きく拘束されている。図4Fは、Q15およびK16(および程度は少ないがH13も)環状ペプチドアンサンブル中では、平衡直鎖状ペプチドアンサンブル中のそれらより小さいエントロピーを有するが、環状ペプチドアンサンブル中では、それらは平衡線維アンサンブル中より大きいエントロピーを有することを示す。本明細書で使用される「より拘束された立体配座」という用語は、1つまたは複数の二面角の二面角分布(許容される二面角のアンサンブル)が、例えば、アミノ酸、例えばH、Qおよび/またはKのエントロピーによる判定(例えば、立体配座の拘束が強いほどエントロピーが低くなる)で、比較立体配座より少なくとも10%強く拘束されていることも意味する。具体的には、平均エントロピー変化により測定した、全体的により強く拘束された環状立体配座アンサンブル中の直鎖状および環状ペプチドのHHQK(配列番号1)のより大きなエントロピーに対するエントロピーのパーセント減少率、[|ΔS(環状)-ΔS(直鎖状)/(max(|ΔS(環状)|、|ΔS(直鎖状)|)]は、非拘束立体配座アンサンブルから平均で10%超、20%超、30%超または40%超減少している。上記式中のエントロピーΔSは、線維に対するエントロピー、例えば、ΔS(環状)=S(環状)-S(線維)として得られる。具体的には、図4Fにプロットしたデータによるエントロピーのパーセント減少率は、残基H、H、Q、およびKに対し、それぞれ85%、65%、53%、および43%である。直鎖状から環状ペプチドの全エントロピー差異(線維エントロピーに対する)は、平均[|ΔS(環状)-ΔS(直鎖状)|/)(max(|ΔS(環状)|、|ΔS(直鎖状)|)]=61%である。
【0121】
本明細書で抗体に関して使用される「斑との結合が全くまたはほとんどみられない」または「斑と結合しない、またはほとんど結合しない」という用語は、抗体が(例えば、in situの)免疫組織化学法で典型的な斑の染色形態を示さず、染色のレベルが、IgG陰性の(例えば、無関係な)アイソタイプ対照でみられるレベルと同等である、またはその2倍以下であることを意味する。
【0122】
「単離ペプチド」という用語は、例えば組換え技術または合成技術によって作製され、ペプチドを作製した組換え細胞または残存ペプチド合成反応物などの供給源から取り出されたペプチドを指す。単離ペプチドは、任意選択で「精製」されており、これは少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の純度および任意選択で医薬品等級の純度であることを意味する。
【0123】
本明細書で使用される「検出可能な標識」という用語は、本明細書に記載されるペプチドまたは化合物内に付加または導入することができるペプチド配列(mycタグ、HAタグ、V5タグまたはNEタグなど)、蛍光タンパク質などの部分であって、直接的または間接的に検出可能なシグナルを発生することが可能な部分を指す。例えば、標識は、(例えば、PET撮像に使用する)放射線不透性の陽電子放出放射性核種もしくは放射性同位元素、例えばH、13N、14C、18F、32P、35S、123I、125I、131Iなど;蛍光化合物(フルオロフォア)もしくは化学発光化合物(発色団)、例えばフルオレセインイソチオシアナート、ローダミンもしくはルシフェリンなど;酵素、例えばアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼなど;造影剤;または金属イオンであり得る。検出可能な標識はまた、例えば二次抗体を用いて間接的に検出可能なものであり得る。
【0124】
通常使用される「エピトープ」という用語は、抗体によって特異的に認識される抗原の抗体結合部位、通常、ポリペプチドセグメントを意味する。本明細書で使用される「エピトープ」はまた、記載される集団座標法を用いてAベータ上で特定され得るアミノ酸配列またはその一部を指すこともある。例えば、特定された標的領域HHQK(配列番号1)を含む環状化合物に対応する単離ペプチドに対して作製した抗体は、前記エピトープ配列の一部または全部を認識する。エピトープが抗体による結合に接触可能な場合、それは本明細書において「接触可能な」ものである。
【0125】
本明細書で使用される「より高い親和性」という用語は、抗体Xが標的Zより強く(Kon)かつ/または小さい解離定数(Koff)で標的Yと結合する場合の相対的抗体結合度を指し、この文脈では、抗体Xは標的Yに対して標的Zより高い親和性を有する。これと同様に、本明細書の「より低い親和性」という用語は、抗体Xが標的Zより弱くかつ/または大きい解離定数で標的Yと結合する場合の相対的抗体結合度を指し、この文脈では、抗体Xは標的Yに対して標的Zより低い親和性を有する。抗体とその標的抗原との間の結合の親和性はK=1/Kで表すことができ、式中、K=kon/koffである。konおよびkoffの値は、表面プラズモン共鳴技術を用いて、例えばMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて測定することができる。環状化合物、例えば任意選択の環状ペプチド中に提示される立体配座に選択的な抗体は、環状化合物(例えば、環状ペプチド)に対する親和性が直鎖状形態の対応する配列(例えば、非環化配列)より大きい。
【0126】
同じく本明細書で使用される「免疫原性」という用語は、抗体の産生を誘発し、免疫原の免疫原性部分に対するT細胞およびその他の反応性免疫細胞を活性化する物質を指す。
【0127】
環状化合物に関する「対応する直鎖状化合物」という用語は、環状化合物と同じ配列もしくは化学的部分を含む、またはこれよりなるが、直鎖状(すなわち、非環状)形態であり、例えば溶液中でみられ得る直鎖状ペプチドの特性を有する、化合物、場合により、ペプチドを指す。例えば、対応する直鎖状化合物は、環化されていない合成ペプチドであり得る。
【0128】
ある抗体に関して本明細書で使用される「特異的に結合する」は、その抗体がエピトープ配列を認識し、最小限の親和性でその標的抗原と結合することを意味する。例えば、多価抗体は、その標的と少なくとも1e-6、少なくとも1e-7、少なくとも1e-8、少なくとも1e-9または少なくとも1e-10のKDで結合する。少なくとも1e-8より高い親和性が好ましいものであり得る。可変ドメインを1つ含むFabフラグメントなどの抗原結合フラグメントは、非フラグメント化抗体との多価相互作用の10倍または100倍低い親和性でその標的と結合する。
【0129】
ある形態のAベータ(例えば、線維、モノマーまたはオリゴマー)または環状化合物と選択的に結合する抗体に関して本明細書で使用される「選択的に結合する」という用語は、その抗体が上記の形態と少なくとも2倍、少なくとも3倍または少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、少なくとも250倍、少なくとも500倍もしくは少なくとも1000倍またはそれ以上の親和性で結合することを意味する。したがって、特定の立体配座(例えば、オリゴマー)に対してより選択的な抗体は、別の形態のペプチドおよび/または直鎖状ペプチドの少なくとも2倍などの親和性で特定の形態のAベータと優先的に結合する。
【0130】
本明細書で使用される「リンカー」という用語は、HHQK(配列番号1)エピトープペプチドを含むペプチドと共有結合して、任意選択でHHQK(配列番号1)ペプチドのN末端およびC末端と結合して、環状化合物を生じさせることができる化学的部分を指す。リンカーは、スペーサーおよび/または1つもしくは複数の官能化可能な部分を含み得る。リンカーは、官能化可能な部分を介して担体タンパク質またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの免疫原強化物質と結合することができる。
【0131】
本明細書で使用される「スペーサー」という用語は、ペプチドのN末端およびC末端と直接的または間接的に共有結合して、長さがペプチド自体より長い環状化合物を生じさせることができる、好ましくは非免疫原性または低免疫原性の任意の化学的部分を意味し、例えば、スペーサーは、HHQK(配列番号1)よりなるペプチドのN末端およびC末端と結合して、主鎖の長さがHHQK(配列番号1)配列自体より長い環状化合物を生じさせることができる。つまり、(例えば、3アミノ酸残基の)スペーサーを有するペプチドが環化されると、スペーサーのないペプチドより大きい閉環が生じる。スペーサーとしては、限定されないが、Gリピート、AリピートまたはPEGリピートなどの非免疫原性部分、例えば、ペプチドと組み合わせた、GHHQKG(配列番号9)、HHQKG(配列番号10)、GHHQK(配列番号11)などが挙げられる。スペーサーは、1個もしくは複数のシステイン(C)残基などの1つもしくは複数の官能化部分を含む、またはこれと結合しているものであり得、官能化部分はスペーサー内に散在している、またはスペーサーの一端または両端と共有結合しているものであり得る。C残基などの官能化可能な部分がスペーサーの1つまたは複数の末端と共有結合している場合、スペーサーはペプチドと間接的に共有結合している。スペーサーはまた、ビオチン分子がアミノ酸残基内に導入されている場合のように、スペーサー残基内に官能化可能な部分を含み得る。
【0132】
本明細書で使用される「官能化可能な部分」という用語は、「官能基」を有する化学物質を指し、本明細書で使用される「官能基」は、別の原子団または単一原子(いわゆる「相補性官能基」)と反応して、2つの原子団または原子の間で化学的相互作用を形成する、原子団または単一原子を指す。システインの場合、官能基は、反応してジスルフィド結合を形成することができる-SHであり得る。したがって、リンカーは、例えばCCCであり得る。別の原子団との反応は、共有結合または例えば、Kdが約1e-14になり得るビオチン-ストレプトアビジン結合の場合のような強い非共有結合であり得る。本明細書で使用される強い非共有結合は、Kdが少なくとも1e-9、少なくとも1e-10、少なくとも1e-11、少なくとも1e-12、少なくとも1e-13または少なくとも1e-14の相互作用を意味する。
【0133】
タンパク質および/またはその他の物質を免疫原性に役立つ、またはin vitro研究のプローブとして作用するよう環状化合物に機能化(例えば、結合)させ得る。この目的には、反応すること(例えば、共有結合または共有結合ではない強い結合を形成すること)が可能な任意の官能化可能な部分を使用し得る。ある特定の実施形態では、官能化可能な部分は、目的のタンパク質上にある対形成していないシステインと反応してジスルフィド結合を形成するシステイン残基であり、目的のタンパク質は、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの免疫原性増強物質またはin vitro免疫ブロットもしくは免疫組織化学アッセイに使用するウシ血清アルブミン(BSA)などの担体タンパク質であり得る。
【0134】
本明細書で使用される「~と反応する」という用語は一般に、電子の流れまたは静電荷の移動が起こることにより化学的相互作用が形成されることを意味する。
【0135】
本明細書で使用される「動物」または「対象」という用語は、任意選択でヒトを含む、または含まない哺乳動物を含めた動物界のあらゆるメンバーを包含する。
【0136】
本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」とは、タンパク質の所望の特性を打ち消すことなく、あるアミノ酸残基が別のアミノ酸残基に置き換わるアミノ酸置換のことである。適切な保存的アミノ酸置換は、疎水性、極性およびR鎖長が互いに類似したアミノ酸同士を置き換えることにより実施することができる。保存的アミノ酸置換の例としては以下のものが挙げられる。
【表1】
【0137】
本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列または2つの核酸配列の間の配列同一性のパーセンテージを指す。2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するには、配列を最適な比較目的で整列させる(例えば、第二のアミノ酸配列または核酸配列との最適アライメントのために第一のアミノ酸配列または核酸配列の配列内にギャップを導入することができる)。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第一の配列内のある位置が第二の配列内の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、その分子は上記の位置において同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、その配列が共有する同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一の重複位置の数/位置の総数×100%)。一実施形態では、2つの配列は同じ長さである。2つの配列間のパーセント同一性の決定はまた、数学的アルゴリズムを用いて実施することができる。2つの配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの好ましい非限定的な例には、KarlinおよびAltschul,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5877で改変されたKarlinおよびAltschul,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:2264-2268のアルゴリズムがある。Altschulら,1990,J.Mol.Biol.215:403のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラムにはそのようなアルゴリズムが組み込まれている。NBLASTヌクレオチドプログラムパラメーターを例えばスコア=100、ワード長=12に設定してBLASTヌクレオチド検索を実施し、本願の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。XBLASTプログラムパラメーターを例えばスコア-50、ワード長=3に設定してBLASTタンパク質検索を実施し、本明細書に記載されるタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付きアライメントを得るには、Altschulら,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402に記載されているGapped BLASTを用いることができる。あるいは、PSI-BLASTを用いて、分子間の距離関係を検出する反復検索を実施することができる(同文献)。BLASTプログラム、Gapped BLASTプログラムおよびPSI-Blastプログラムを用いる場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期パラメーターを用いることができる(例えば、NCBIのウェブサイトを参照されたい)。配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの別の好ましい非限定的な例には、MyersおよびMiller,1988,CABIOS 4:11-17のアルゴリズムがある。GCG配列アライメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)には、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを用いる場合、PAM120加重残基表、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を用いることができる。ギャップを許容するかしないかを問わず、上記のものと類似した技術を用いて2つの配列間のパーセント同一性を決定することができる。パーセント同一性を算出する際には通常、完全一致のみをカウントする。
【0138】
抗体に関しては、抗体配列をIMGTまたはその他のもの(例えば、Kabat番号付けの慣例)により最大限に整列させたとき、パーセンテージ配列同一性を決定することができる。アライメント後、対象抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の全成熟可変領域)を参照抗体の同じ領域と比較している場合、対象抗体領域と参照抗体領域の間のパーセンテージ配列同一性は、ギャップをカウントせず、対象抗体領域および参照抗体領域の両方で同じアミノ酸によって占められている位置の数を、整列させた2つの領域の位置の総数で除したものに100を乗じてパーセンテージに変換したものとする。
【0139】
本明細書で使用される「核酸配列」という用語は、天然の塩基、糖および糖間(主鎖)結合よりなるヌクレオシドモノマーまたはヌクレオチドモノマーの配列を指す。この用語はまた、非天然のモノマーまたはその一部分を含む修飾または置換された配列を包含する。本願の核酸配列は、デオキシリボ核酸配列(DNA)またはリボ核酸配列(RNA)であり得、アデニン、グアニン、シトシン、チミジンおよびウラシルを含めた天然の塩基を包含し得る。配列はまた、修飾塩基を含み得る。このような修飾塩基の例としては、アザおよびデアザアデニン、グアニン、シトシン、ミジンおよびウラシル;ならびにキサンチンおよびヒポキサンチンが挙げられる。核酸は二本鎖または一本鎖であり得、センス鎖またはアンチセンス鎖を表す。さらに、「核酸」という用語は、相補的核酸配列およびコドン最適化等価物または同義コドン等価物を包含する。本明細書で使用される「単離核酸配列」という用語は、組換えDNA技術により作製された場合は実質的に細胞物質も培地も含まない核酸、あるいは化学的に合成された場合は化学的前駆体またはその他の化学物質を指す。単離核酸はまた、その核酸が由来する核酸に天然の状態で隣接する配列(すなわち、核酸の5’側および3’側に位置する配列)を実質的に含まない。
【0140】
「作動可能に連結されている」は、核酸の発現が可能なようにその核酸が制御配列を連結されていることを意味するものとする。適切な制御配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物または昆虫の遺伝子を含めた様々な供給源に由来するものであり得る。適切な制御配列の選択は、選択する宿主細胞によって決まり、当業者により容易に達成され得る。このような制御配列の例としては、転写プロモーターおよび転写エンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含めたリボソーム結合配列が挙げられる。さらに、選択する宿主細胞および用いるベクターに応じてその他の配列、例えば複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写の誘導性を付与する配列などを発現ベクター内に組み込み得る。
【0141】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、核酸分子を例えば、原核細胞および/または真核細胞内に導入し、かつ/あるいはゲノム内に組み込むことを可能にする前記核酸分子の任意の中間運搬体を含み、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスベクター、例えばレトロウイルス系ベクター、アデノ関連ウイルスベクターなどがこれに包含される。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は一般に、通常は環状DNA二本鎖であり、染色体DNAとは独立して複製することができる、染色体外遺伝物質の構築物を指す。
【0142】
「少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、溶液中の2つの相補的核酸分子の間の選択的ハイブリダイゼーションを促進する条件を選択することを意味する。ハイブリダイゼーションは核酸配列分子の全部または一部に起こり得る。ハイブリダイズする部分は通常、少なくとも15(例えば、20、25、30、40または50)ヌクレオチドの長さである。当業者には、核酸の二本鎖またはハイブリッドの安定性が、ナトリウム含有緩衝液中でのナトリウムイオン濃度と温度の関数であるTm(Tm=81.5℃-16.6(Log10[Na+])+0.41(%(G+C)-600/l)またはこれと類似した方程式)によって決まることが認識されよう。したがって、ハイブリッドの安定性を決定する洗浄条件のパラメーターはナトリウムイオン濃度および温度である。既知の核酸分子に類似しているが同一ではない分子を特定するには、1%のミスマッチによりTmが約1℃低下するものと考えられ、例えば、同一性が95%を上回る核酸分子を探索するのであれば、最終洗浄温度は約5℃低下することになる。当業者は、これらの考慮事項に基づき、適切なハイブリダイゼーション条件を容易に選択することが可能であろう。好ましい実施形態では、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を選択する。例として、以下の条件を用いてストリンジェントなハイブリダイゼーションを実施し得る:上の方程式に基づき、Tmを-5℃とし、5×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)/5×デンハルト溶液/1.0%SDSで、ハイブリダイゼーションを実施し、次いで、60℃にて0.2×SSC/0.1%SDSで洗浄する。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、42℃、3×SSCでの洗浄段階が含まれる。ただし、上のものに代わる緩衝液、塩および温度を用いても同等のストリンジェンシーが達成され得ることが理解される。ハイブリダイゼーション条件に関するさらなる指針については、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,N.Y.,2002およびSambrookら,Molecular Cloning:a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001にみることができる。
【0143】
本明細書で使用され、当該技術分野でも十分に理解されている「治療すること」または「治療」という用語は、臨床結果を含めた有益な結果または所望の結果を得る方法を意味する。有益な臨床結果または所望の臨床結果としては、特に限定されないが、検出可能なものであるか検出不可能なものであるかを問わず、1つまたは複数の症状または病態の軽減または改善、疾患の程度の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の拡散の予防、疾患進行の遅延または緩徐化、病状の改善または緩和、疾患再発の減少および寛解(部分寛解または完全寛解を問わない)が挙げられる。「治療すること」および「治療」はまた、治療を受けない場合に予想される生存期間と比較して生存期間が長くなることを意味し得る。本明細書で使用される「治療すること」および「治療」はまた、予防的治療を包含する。例えば、初期段階のADを有する対象を本明細書に記載される化合物、抗体、免疫原、核酸または組成物で治療して進行を予防することができる。
【0144】
本明細書で使用される「投与される」という用語は、細胞または対象への治療有効量の開示の化合物または組成物の投与を意味する。
【0145】
本明細書で使用される「有効量」という語句は、所望の結果を得るのに必要な投与回数および期間で効果が得られる量を意味する。対象に投与する場合、有効量は対象の病状、年齢、性別、体重などの因子に応じて異なり得る。最適な治療反応を得るために投与レジメンを調整し得る。
【0146】
「薬学的に許容される」という用語は、担体、希釈剤または補形剤が、製剤の他の成分と適合性があり、その被投与者に対して実質的に有害でないことを意味する。
【0147】
1つまたは複数の記載される要素を「含む(comprisingまたはincluding)」組成物または方法は、具体的に記載されていない他の要素を含み得る。例えば、抗体を「含む(compriseまたはinclude)」組成物は、抗体を単独で、または他の成分とともに含有し得る。
【0148】
本開示の範囲を理解するにあたっては、本明細書で使用される「~よりなる」という用語またはその派生語は、記載される特徴、要素、成分、グループ、整数および/または段階の存在を明記し、また他の記載されていない特徴、要素、成分、グループ、整数および/または段階の存在を排除する、オープンエンドな用語であるものとする。
【0149】
本明細書で端点により数値範囲が記載されている場合、その範囲内に含まれる数および端数がいずれも含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4および5が含まれる)。また、数およびその端数はすべて「約」という用語によって修飾されるものと考えられることを理解するべきである。さらに、「a」、「an」および「the」は、内容からそうでないことが明らかでない限り、複数形の指示対象を包含することを理解するべきである。「約」という用語は、言及されている数のプラスまたはマイナス0.1~50%、5~50%または10~40%、好ましくは10~20%、より好ましくは10%または15%を意味する。
【0150】
さらに、当業者であれば理解するように、特定のセクションに記載される定義および実施形態は、本明細書に記載される他の実施形態のうちそれらが適しているものに適用可能であるものとする。例えば、以下の節では、本発明の様々な態様がさらに詳細に定義される。そのように定義された各態様は、そうでないことが明記されない限り、1つまたは複数の他の任意の態様と組み合わせ得る。特に、好ましいまたは有利であると示されている任意の特徴と、好ましいまたは有利であると示されている他の任意の特徴とを組み合わせ得る。
【0151】
冠詞の単数形である「a」、「an」および「the」は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、複数の指示物を包含する。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1つの化合物」という用語は、複数の化合物をその混合物も含め包含し得る。
【0152】
III.エピトープおよび結合タンパク質
本発明者らは、Aベータ中にHQKを含むエピトープ領域を特定した。これには、Aベータペプチド上のアミノ酸13~16の位置のHHQK(配列番号1)およびAベータペプチド上のアミノ酸14~17の位置のHQKL(配列番号20)が含まれる。本発明者らはさらに、そのエピトープまたはその一部が立体配座エピトープであり得ること、およびHQK、HHQK(配列番号1)および/またはHQKL(配列番号20)またはその一部がAベータのオリゴマー種中の抗体結合に選択的に接触可能であり得ることを明らかにした。
【0153】
理論に束縛されることを望むものではないが、線維は、オリゴマー化を触媒する傾向のある相互作用部位を示し得る。このことは、正常な個体には存在しない選択的な線維表面が露出され、Aベータモノマーとの異常な相互作用を起こすことが可能である場合にのみ起こり得る。低pH、炎症時に存在するオスモライトまたは酸化的損傷などの環境変化が線維の破壊を誘発し、より安定性の低い領域の露出を引き起こし得ると考えられる。その結果、これらの低安定性領域を予測し、そのような予測を用いて、上記の領域を標的とする抗体を合理的に設計することに関心が持たれている。線維内で破壊される可能性のある領域はまた、オリゴマー種内で露出する領域の有力な候補となり得る。
【0154】
不規則になりやすい隣接するタンパク質領域を予測するためのコンピュータに基づくシステムおよび方法が、2015年11月9日に出願された米国特許出願第62/253044号「Systems and methods for predicting misfolded protein epitopes by collective coordinate biasing」、および2009年10月6日に出願された米国特許出願第12/574,637号、「METHODS AND SYSTEMS FOR PREDICTING MISFOLDED PROTEIN EPITOPES」に記載されている。これらの出願特許のそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。実施例に記載されるように、この方法をAベータに適用し、本明細書で示されるように、Aベータオリゴマーにおいて特異的および/または選択的により接触可能なエピトープを特定した。
【0155】
実施例に記載されるように、環状ペプチドであるシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)は、モノマー種および/または線維種と比較したオリゴマーのエピトープの立体配座の差を捕捉し得る。例えば、環状7マーのシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)中のアミノ酸に対する溶媒接触表面積、曲率、R立体配座エントロピー、RMSD構造アライメントならびにアミノ酸の二面角分布は、線維、または直鎖状型のペプチドと大きく異なることが明らかになり、これはAベータモノマーのモデルになり得る。このことは、環状化合物は、直鎖状の対応するペプチド、または線維のエピトープとは異なる立体配座エピトープを提供し得ることを示唆している。(CGHHQKG)(配列番号2)を含む免疫原を用いて産生された抗体は、直鎖状CGHHQKG(配列番号2)に比べて、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に選択的に結合し、また、モノマーAベータおよびAベータ線維斑と比較して、合成および/または天然のオリゴマーAベータ種に選択的に結合した。さらに、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体によりAベータ凝集のin vitroでの伝播を阻害することができた。さらに、毒性アッセイで示したように、(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体は、Aベータオリゴマー神経細胞毒性を抑制した。
【0156】
II.HHQK(配列番号1)「エピトープ」化合物
したがって、本開示は、アミノ酸HHQK(配列番号1)またはHQKL(配列番号20)またはHQKなどのその一部よりなるAベータ中の立体配座エピトープを特定するものであり、HHQK(配列番号1)はAベータのアミノ酸残基13~16に対応し、HQKL(配列番号20)は、アミノ酸14~17に対応する。実施例で示すように、HHQK(配列番号1)およびHQKL(配列番号20)がAベータ線維において不規則になりやすい領域として特定された。残基HHQK(配列番号1)およびHQKV(配列番号20)は、集団座標法を用いた予測で明らかになった。残基HHQK(配列番号1)はまた、Promis Goモデルアルゴリズムを用いて明らかになった。
【0157】
一態様は、HHQK(配列番号1)、前述のいずれかの一部を含む関連エピトープ配列を含むまたはそれからなるAベータペプチドを含む化合物を含み、ペプチドがHHQK(配列番号1)の場合、ペプチドは、直鎖状HHQK(配列番号1)とは少なくとも1つの特徴が異なる立体配座中に存在する。一実施形態では、Aベータペプチドは、HHQK(配列番号1)、VHHQK(配列番号12)、HQKL(配列番号20)またはHHQKL(配列番号7)から選択される。エピトープHHQKL(配列番号7)、HQKL(配列番号20)およびVHHQK(配列番号12)は、本明細書においては、HHQK(配列番号1)および関連エピトープとしてひとまとめにして称されるエピトープに含まれる(およびそれらの配列は、ひとまとめにして関連エピトープ配列と称される)。一実施形態では、関連エピトープは、HQKL(配列番号20)、HQKおよびAベータのHQKおよびN末端の1個、2個または3個のアミノ酸および/またはHQKのC末端の1アミノ酸を含むエピトープを含むまたはそれらからなる。一実施形態では、Aベータペプチドは、表15(1)のAベータ配列を含むまたはそれからなる。
【0158】
一実施形態では、化合物はシクロペプチドなどの環状化合物である。
【0159】
いくつかの実施形態では、Aベータペプチドは、場合により、例えば、環状化合物に対し提示される立体配座ペプチドで、HQKまたはHHQK(配列番号1)または関連エピトープを含み、HHQK(配列番号1)のAベータN末端および/または1アミノ酸C末端側の1個、2個または3個の追加の残基、例えば、HHQKL(配列番号7)またはVHHQKL(配列番号6)を含むことができる。例えば、AベータのHHQK(配列番号1)のN末端の3アミノ酸はYEWであり、HHQK(配列番号1)のC末端の3アミノ酸はLVFである。一実施形態では、Aベータペプチドは、最大6個のAベータ残基である。一実施形態では、Aベータペプチドは、最大5個のAベータ残基である。さらに別の実施形態では、Aベータペプチド(例えば、環状化合物などの化合物中の)は4個のAベータ残基で、場合により、HHQK(配列番号1)である。
【0160】
一実施形態では、化合物はリンカーをさらに含む。リンカーは、スペーサーおよび/または1つもしくは複数の官能化可能な部分を含む。リンカーは、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個もしくは8個のアミノ酸および/またはポリエチレングリコール(PEG)部分などの同等に機能する分子ならびに/あるいはその組合せを含み得る。一実施形態では、スペーサーアミノ酸は、非免疫原性または低免疫原性のアミノ酸残基、例えばGおよびAなどから選択され、例えば、スペーサーは、GGG、GAG、G(PEG)G、PEG-PEG(PEG2とも呼ばれる)-GGなどであり得る。1つまたは複数の官能化可能な部分、例えば官能基を有するアミノ酸は、例えば、化合物と、作用物質もしくは検出可能なタグ、BSAなどの担体またはKLHなどの免疫原性増強物質とを結合させるために含まれ得る。
【0161】
一実施形態では、リンカーは、GC-PEG、PEG-GC、GCGまたはPEG2-CGを含む。
【0162】
一実施形態では、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7個または8個のアミノ酸を含む。
【0163】
特定の実施形態では、環状化合物は、最大12、11、10、9、8、または7残基、場合により、アミノ酸および/または等価物ユニット、例えば、PEGユニットまたはその他の類似の寸法の化学部分を有する。
【0164】
HQKまたはHHQK(配列番号1)を含むAベータペプチドが、Aベータ中に認められる、HHQK(配列番号1)のN末端側および/またはC末端側にある追加の残基を1つ、2つまたは3つ含む実施形態では、環化化合物中のリンカーは、Aベータ残基のN末端および/またはC末端と共有結合している(例えば、ペプチドがVHHQK(配列番号12)である場合、リンカーV残基およびK残基と共有結合している)。同様に、AベータペプチドがHHQK(配列番号1)である場合、リンカーは残基HおよびKと共有結合し、AベータペプチドがHHQKL(配列番号7)である場合、リンカーは残基HおよびLと共有結合している。
【0165】
化合物(またはリンカーもタンパク質性である化合物)のタンパク質性部分は、タンパク質化学でよく知られている固相合成または均質溶液中での合成などの技術を用いる化学合成により調製し得る。
【0166】
一実施形態では、化合物は、環状化合物であり、例えば、HQKまたはHHQK(配列番号1)を含むペプチドは、環状化合物中に含まれる。
【0167】
本明細書で「環状ペプチド」と記載される場合、それは(例えば、リンカーが1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個または8個のアミノ酸である)完全にタンパク質性の化合物を指す。実施例で決定され環状ペプチドについて記載される特性を、非アミノ酸リンカー分子を含む他の化合物(例えば、他の環状化合物)に組み込み得ることが理解される。
【0168】
したがって、一態様は、ペプチドHHQK(配列番号1)(またはHQKなどのその一部)を含む環状化合物およびリンカーを提供し、リンカーは、直接的にまたは間接的にHQKまたはHHQK(配列番号1)を含むペプチドに共有結合し、場合により、少なくとも1個のH、Qおよび/またはK残基が、HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチド中のH、QおよびK残基とは別の、Aベータモノマーで現れ得るような立体配座であり、場合により、少なくともH、Qおよび/またはKは、HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチド中で占められる立体配座より拘束された立体配座であるか、または例えば、Aベータモノマー中で現れ得るような、それとは別の立体配座である。
【0169】
Aベータ配列を含む直鎖状ペプチドは直鎖状化合物に含まれ得る。HHQK(配列番号1)を含む直鎖状化合物または直鎖状ペプチドは、一実施形態では、対応する直鎖状ペプチドである。別の実施形態では、直鎖状ペプチドは、例えば、Aベータ残基1~35またはそれより小さいAベータ残基10~20、11~20、12~20、13~20、10~19、10~18などの部分を含む直鎖状ペプチドを含めた、HHQK(配列番号1)を含む任意の長さのAベータペプチドである。直鎖状ペプチドはまた、いくつかの実施形態では完全長のAベータペプチドであり得る。
【0170】
一実施形態では、環状化合物は、HHQK(配列番号1)と最大6個のAベータ残基(例えば、HHQK(配列番号1)のN末端および/またはC末端の1個または2個のアミノ酸)とを含むAベータペプチドと、リンカーとを含み、リンカーが、AベータペプチドのペプチドN末端残基およびC末端残基と直接的または間接的に共有結合し、場合により、少なくともH、QまたはKは、HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチド中のH、Q、またはK、および/または線維中のHHQK(配列番号1)のH、QまたはKの立体配座とはとは別の立体配座であり、場合により、少なくともH、QまたはKは、HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチド中で占められる立体配座より拘束された立体配座である。
【0171】
環状化合物を環化前に、Aベータペプチド、任意選択でHHQK(配列番号1)または関連エピトープを含むペプチドのN末端またはC末端と共有結合したリンカーを有する、直鎖状分子として合成することができる。あるいは、環化前に、リンカーの一部をN末端と共有結合させ、一部をC末端と共有結合させる。いずれの場合も、直鎖状化合物を例えば頭-尾環化(例えば、アミド結合環化)で環化する。
【0172】
一実施形態では、環状化合物は、HHQK(配列番号1)を含む、またはこれよりなるAベータペプチドと、リンカーとを含み、リンカーが、ペプチドのN末端およびC末端(例えば、ペプチドがHHQK(配列番号1)よりなる場合、H残基およびK残基)と結合している。一実施形態では、環状化合物中のH、Qおよび/またはK残基の少なくとも1個が、HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチド中でH、Qおよび/またはK残基の少なくとも1個によって占められる立体配座とは別の立体配座である。
【0173】
一実施形態では、環状化合物中のH、Qおよび/またはK残基の少なくとも1個が、モノマーおよび/または線維中で残基、場合により、Hおよび/またはQおよび/またはK残基によって占められる立体配座とは別の立体配座である。
【0174】
一実施形態では、環状化合物中のH、Qおよび/またはK残基の少なくとも1個が、モノマーおよび/または線維中の残基によって占められる立体配座とは別の立体配座である。
【0175】
一実施形態では、別の立体配座は拘束された立体配座である。
【0176】
一実施形態では、少なくともK、場合により、単独の、またはQと組み合わされたKは、HHQK(配列番号1)またはHQKL(配列番号20)を含む直鎖状ペプチド中で占められる立体配座とは別の立体配座である。
【0177】
例えば、別の立体配座は、残基K16、または残基Q15において、直鎖状ペプチドおよび/または線維におけるペプチドの二面角とは異なる、1つまたは複数の異なった二面角を含み得る。
【0178】
一実施形態では、環状化合物は、環状化合物と直鎖状化合物(例えば、直鎖状ペプチド)との間で最小の平均側鎖/主鎖二面角差を含む。
【0179】
一実施形態では、環状化合物は、H、QおよびKから選択される残基を含み、環状化合物における1つまたは複数の側鎖または主鎖二面角が、直鎖状または線維化合物における対応する二面角よりも、少なくとも30度、少なくとも40度、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度、少なくとも90度、少なくとも100度、少なくとも110度、少なくとも120度、少なくとも130度、少なくとも140度、少なくとも150度、少なくとも160度、少なくとも170度、少なくとも180度、少なくとも190度、または少なくとも200度異なる。
【0180】
図3に示されるように、環状ペプチドのQ15およびK16の二面角分布は、直鎖状ペプチドまたは線維2M4Jにおける残基と比較して、大幅に異なる。例えば、表3は、シミュレートした直鎖状ペプチド、環状ペプチドおよび線維では、Q15の二面角C-CA-N-HNの差は、環状と直鎖状との間では、最可能値として、約-80度であり、環状と線維との間では約36度であることを示す。一実施形態では、環状化合物は、直鎖状ペプチドおよび/または線維における対応する二面角よりも、少なくとも30度、少なくとも40度、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度であるC-CA-N-HN二面角を含む、Q残基を含む。同様に、Q15の二面角O-C-CA-CBに対する環状と直鎖状ペプチドとの間の二面角の差は、最可能値として約200度であり、環状と線維ペプチドの間では、約35度である。したがって、一実施形態では、環状化合物は、直鎖状化合物における対応する二面角よりも、少なくとも30度異なる、少なくとも40度異なる、少なくとも50度異なる、少なくとも60度異なる、少なくとも70度異なる、少なくとも80度異なる、少なくとも90度異なる、少なくとも100度異なる、等々最大少なくとも180度異なるO-C-CA-CB二面角を含む、Qを含む。K16二面角O-C-CA-CBに対する環状ペプチドと直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドと線維との間の最可能二面角の対応する差は、それぞれ205および40度である。したがって、一実施形態では、環状化合物は、直鎖状ペプチドまたは線維における対応する二面角よりも、少なくとも50度異なる、少なくとも60度異なる、少なくとも70度異なる、少なくとも80度異なる、少なくとも90度異なる、少なくとも100度異なる、等々最大少なくとも200度異なる二面角O-C-CA-CBを含む、Kを含む。
【0181】
表5に示すラマチャンドラン角度のピーク値によると、残基H14、Q15、およびK16に対する、最可能ラマチャンドランφおよびψ値は、環状および直鎖状ペプチドの間で異なる。H14の場合、環状分布のピーク値は、(-65、-45)度であり、一方、直鎖状および線維分布のピーク値は、それぞれ(-145、20)および(-115、115)、(-115、15)である。φ値間の差異Δφは、80度および50度であり、ψ間の差異Δψは、65度、160度および60度である。φ、ψ値は、直鎖状と環状ペプチドとの間、および線維と環状ペプチドとの間で大きく異なる。表5はまた、Q15およびK16のφ、ψの差異を記載している。Q15の環状と直鎖状との間の差異Δφは、95度であり、Q15の環状と直鎖状との間の差異Δψは、200度であり、環状と線維との間では、差異は最大45度である。K16の場合、環状と直鎖状との間の差異Δψは、約190度であり、環状と線維との間の差異Δφは、約55度である。
【0182】
一実施形態では、環状化合物は、直鎖状および/または線維化合物における対応するラマチャンドラン角度よりも、少なくとも30度、少なくとも40度異なる、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度、少なくとも90度、少なくとも100度、少なくとも110度、少なくとも120度、少なくとも130度、少なくとも140度、少なくとも150度、少なくとも160度、少なくとも170度、少なくとも180度、少なくとも190度、または少なくとも200度異なるラマチャンドラン主鎖角度を含むQを含む。
【0183】
角度の差は、例えば正または負、(+)または(-)であり得る。
【0184】
別の立体配座は別の主鎖配向を含み得る。例えば、環状エピトープが抗体に対して露出する主鎖配向は、直鎖型または線維型と比較して異なるものである。
【0185】
別の立体配座はまた、直鎖状ペプチドおよび/またはAベータ線維と比較して、アミノ酸を中心とする曲率またはHHQK(配列番号1)もしくは関連エピトープを含む環状化合物の曲率の増大または減少を含み得る。
【0186】
一実施形態では、別の立体配座HHQK(配列番号1)は、直鎖状HHQK(配列番号1)、または線維構造2M4JにおけるHHQK(配列番号1)と比較して変化した曲率を有する。変化した曲率プロファイルは図2Gで認めることができる。
【0187】
曲率の値は、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)、直鎖状CGHHQKG(配列番号2)、およびHHQK(配列番号1)中のN末端からC末端にわたるH、H、QおよびKに対し測定した。線維との関連は表1に示す。実施例2に示すように、これらは以下の通りであった(ラジアン単位、N末端からC末端までのH、H、Q、およびKの残基):
環状ペプチド:1.49;1.37;0.73;1.04
直鎖状ペプチド:1.46;1.47;1.41;1.37
線維:1.12;1.12;0.99;1.15
【0188】
したがって、別の立体配座の、Q、またはKまたはHに対する曲率は、直鎖状ペプチドまたは線維における曲率の値に比べて、少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、または0.7またはそれを超えるラジアン変化する。
【0189】
一実施形態では、Q、K、HH、HQ、QK、HHQ、HQK、および/またはHHQK(配列番号1)は、例えば直鎖状ペプチドおよび/または線維などの非オリゴマー立体配座でこれら残基によって占められるものと比較して、別の立体配座にある。
【0190】
図2Aは、異なる平衡シミュレーション時間から得られた直鎖状CGHHQKG(配列番号2)の曲率をプロットした図である。凡例に示すように、いくつかの曲線が、10ナノ秒から開始されて、72ナノ秒、134ナノ秒、196ナノ秒、または258ナノ秒まで続く。シミュレーション時間が増えるに伴い、曲率値が上記および表1に示す値に収束する。類似の調査の、環状ペプチドの場合を図2Bに、線維の場合を図2Cに示す。パネルD、EおよびFは、直鎖状、環状、および線維立体配座のそれぞれについて、シミュレーション時間の関数としての曲率値の収束を示す。収束度は、エラーバーが、環状ペプチドでは約0.007ラジアン、直鎖状ペプチドでは0.011ラジアン、線維では0.005ラジアンであることを示す。
【0191】
同様の変化を示す環状化合物も包含される。
【0192】
HHQK(配列番号1)、HQKまたはHQKL(配列番号20)を含むAベータペプチドを含むいくつかの実施形態の環状化合物は、前述の1個の、例えば、HHQK(配列番号1)のAベータの上流および/または下流に1個、または2個以上の残基を含み得る。このような場合、Aベータ配列の対応する残基の末端のN末端およびC末端にスペーサーが共有結合している。
【0193】
いくつかの実施形態では、リンカーまたはスペーサーは、AベータペプチドのN末端残基およびC末端残基と間接的に結合している。
【0194】
一実施形態では、環状化合物は図7Cの化合物である。
【0195】
環化ペプチドを作製する方法は当該技術分野で公知であり、SS環化またはアミド環化(頭-尾環化または主鎖環化)がこれに含まれる。実施例3に方法をさらに記載する。例えば、N末端およびC末端に「C」残基を有するペプチド、例えば、CGHHQKG(配列番号13)をSS環化により反応させて、環状ペプチドを得ることができる。実施例2に記載されるように、図7Cの環状化合物について、特定された立体配座エピトープとの関連性を評価した。HHQK(配列番号1)ペプチドを含む環状化合物は、例えば、1つまたは複数の立体配座的特徴に選択的な抗体を生じさせるのに使用することができる。
【0196】
本明細書に記載されるエピトープHHQK(配列番号1)および/またはその一部は、Aベータ伝播病態に含まれるAベータのミスフォールドされた伝播性の株における潜在的な標的となり得、その立体配座エピトープを認識する抗体は、例えば、そのような伝播性の株の検出に有用であり得る。
【0197】
別の態様では、直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドを含めた本明細書に記載されるAベータペプチド配列を含む、単離ペプチドも提供される。直鎖状ペプチドは、例えば、それと特異的または選択的結合をしない抗体の選択に使用することができる。単離ペプチドは、本明細書に記載されるリンカー配列を含み得る。リンカーは、CGHHQKG(配列番号2)直鎖状ペプチドでは、N末端またはC末端と共有結合していても、あるいは一部がN末端と結合し、一部がC末端と結合していてもよい。環状ペプチドでは、リンカーはC末端およびN末端と直接的または間接的に結合している。
【0198】
別の態様は、本明細書に記載される化合物、任意選択で環状化合物を含む、免疫原を含む。免疫原は、例えば、環状化合物中に存在するHQKまたはHHQK(配列番号1)または関連エピトープ配列を含んでよい。Aベータペプチドは、追加のAベータ配列を含み得る。アミノ酸は、前記配列のすぐ上流および/または下流側部分にあってよい。このような免疫原に対して産生させた抗体を、例えば、HHQK(配列番号1)または関連エピトープを含むシクロペプチドとの結合に関して選択することができる。
【0199】
一実施形態では、免疫原は、AベータペプチドHHQKまたは関連エピトープ配列を含む環状ペプチドである。
【0200】
一実施形態では、免疫原は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの免疫原性増強物質を含む。免疫原性増強物質は、アミド結合などを介して直接、または化学リンカーを介して間接的に、化合物と結合していてよい。
【0201】
免疫原は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるLateefら(2007)に記載されている方法を用いて、拘束されたエピトープペプチドを含む環状化合物と、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などの免疫原性増強物質またはウシ血清アルブミン(BSA)などの担体とをコンジュゲートすることにより作製することができる。一実施形態では、実施例3に記載される方法を用いる。
【0202】
免疫原を対象への投与のために適切に調製または製剤化され、例えば、免疫原は無菌のものまたは精製されたものであり得る。
【0203】
さらなる態様は、本明細書に記載される化合物または免疫原のタンパク質性部分をコードする単離核酸である。
【0204】
実施形態では、核酸分子は、本明細書で、場合により、配列番号1~21または表15(1)で示されるアミノ酸配列のいずれか1つをコードする。
【0205】
一実施形態では、核酸分子は、HHQK(配列番号1)または関連エピトープおよび任意選択で、本明細書に記載されるリンカーをコードする。
【0206】
さらなる態様は、前記核酸を含むベクターである。適切なベクターについては本明細書の他の箇所に記載する。
【0207】
III.抗体、細胞および核酸
実施例6および7で示されるように、環状化合物CGHHQKG(配列番号2)は、免疫原性であり、対応する直鎖状ペプチドに比べて、環状化合物に選択的に結合する多くの抗体を産生する。本明細書に記載のように、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を用いて産生された抗体には、環状化合物に選択的で、モノマーよりAベータオリゴマーに選択的に結合し、AD組織において顕著な斑を欠く抗体が含まれた。本明細書に記載されるエピトープHHQK(配列番号1)および/またはその一部は、ADに含まれるAベータのミスフォールドされた伝播性の株における潜在的な標的となり得、その立体配座エピトープを認識する抗体は、例えば、そのような伝播性の株の検出に有用であり得る。さらに環状化合物に対し産生された抗体は、Aベータ凝集を阻害し、さらに、Aベータオリゴマー誘導される神経細胞毒性を阻害し、それらの治療薬としての使用を示唆する。
【0208】
したがって、上記の化合物および特に環状化合物を用いて、Aベータ中のHQ、HQK、QK、および/またはHHQK(配列番号1)に特異的に結合する抗体、および/または1つまたは本明細書に記載の複数の差次的特徴を含む、Aベータにおける特定の立体配座のこれらの残基を認識する抗体を産生できる。同様に、例えば、HKLV(配列番号20)、VHHQK(配列番号12)、HHQKL(配列番号7)、VHHQKL(配列番号6)および/または本明細書に記載されるその他の関連エピトープ配列を含む環状化合物を用いて、HQK、HHQK(配列番号1)、HQKL(配列番号20)などおよび/またはその特定の立体配座エピトープに特異的に結合する抗体を産生させることができる。
【0209】
したがって、一態様は、配列HQK、HHQK(配列番号1)または本明細書に記載の関連エピトープ配列、場合により、表15(1)のAベータ配列を有するAベータペプチドに特異的に結合する抗体(その結合フラグメントを含む)を含む。
【0210】
一実施形態では、Aベータペプチドは環状化合物中、場合により、環状ペプチド中に含まれ、抗体は、環状化合物中に存在するAベータに対して特異的または選択的である。
【0211】
一実施形態では、環状化合物は環状ペプチド、場合により、配列番号2、3または4で示されるものなどの本明細書に記載の環状化合物である。シクロペプチドおよび環状ペプチドという用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0212】
一実施形態では、抗体は、対応する直鎖状化合物に比べて、環状化合物中に存在するAベータペプチドに特異的におよび/または選択的に結合する。一実施形態では、抗体は、Aベータペプチドを含む対応する直鎖状化合物よりも環状化合物内で提示されるAベータペプチドに対して選択的である。
【0213】
一実施形態では、抗体は、配列HHQK(配列番号1)を含む直鎖状ペプチドとは結合せず、任意選択で、直鎖状ペプチドの配列は、抗体を生じさせるために使用され任意選択で配列番号2、3、4または32で示される環状配列の直鎖型である。
【0214】
一実施形態では、抗体はAベータ上のエピトープと特異的に結合し、エピトープは、HHQK(配列番号1)、その関連エピトープまたはその一部または前述のいずれかの立体配座エピトープを含む、またはこれからなる。一実施形態では、エピトープがHHQK(配列番号1)からなる場合、それは、立体配座エピトープである。
【0215】
実施例に記載されるように、実施例に記載されるアッセイを用いて、1つまたは複数の特性を有する抗体を選択することができる。
【0216】
一実施形態では、抗体は単離されている。一実施形態では、抗体は外来抗体である。
【0217】
一実施形態では、抗体は、HHQK(配列番号1)、HQKまたはHQKL(配列番号20)からなるAベータペプチドを含む環状化合物に比べて、直鎖状HQKLVF(配列番号14)、直鎖状HQKLVFF(配列番号15)、直鎖状HQKLVFFAED(配列番号16)、直鎖状EVHHQK(配列番号18)、直鎖状VHHQK(配列番号12)、または直鎖状HHQKLVFFAEDVGSNK(配列番号19)に特異的に結合しない、および/またはそれらに選択的ではない。一実施形態では、抗体は、HHQK(配列番号1)からなる直鎖状ペプチドに特異的に結合しない、および/またはそれに選択的ではない。選択的結合は、本明細書に記載のように、ELISAまたは表面プラズモン共鳴法測定を使って測定できる。
【0218】
III.抗体、細胞および核酸
実施例で示したように、(CGHHQKG)(配列番号2)を含む免疫原を用いて産生された抗体は、直鎖状CGHHQKG(配列番号2)に比べて、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に選択的に結合し、また、モノマーAベータおよびAベータ線維斑と比較して、合成および/または天然のオリゴマーAベータ種に選択的に結合した。さらに、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体によりAベータ凝集のin vitroでの伝播を阻害することができた。さらに、毒性アッセイで示したように、(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体は、Aベータオリゴマー神経細胞毒性を抑制した。
【0219】
したがって、さらなる態様は、Aベータ上のエピトープと特異的に結合する抗体であり、エピトープは、抗体に対する結合に主として関与する少なくとも1個のアミノ酸残基を含む、またはこれよりなり、その少なくとも1個のアミノ酸は、配列HHQK(配列番号1)、HQKまたはHQKL(配列番号20)内に組み込まれたH、QまたはKであり、エピトープがHHQK(配列番号1)からなる場合、エピトープは、立体配座エピトープである(例えば、対応する直鎖状ペプチドに比べて、例えば、エピトープの少なくとも1個のアミノ酸がより強く束縛されている場合、別の拘束された立体配座中のAベータペプチドに選択的に結合する)。一実施形態では、エピトープは、抗体との結合に主として関与する少なくとも2個の連続するアミノ酸残基を含む、またはこれよりなるものであり、その少なくとも2個の連続するアミノ酸は、HHQK(配列番号1)、HQKまたはHQKL(配列番号20)内に組み込まれたHQ、またはQKである。
【0220】
別の実施形態では、認識されるペプチドは立体配座エピトープであり、HHQK(配列番号1)、HQKまたはHQKL(配列番号20)からなる。一実施形態では、抗体は、対応する直鎖状ペプチドに比べて、環状化合物中のHHQK(配列番号1)に、場合により、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に選択的に結合する。
【0221】
一実施形態では、抗体は立体配座選択的抗体である。一実施形態では、抗体は、対応する直鎖状配列に比べて、本明細書に記載されるエピトープペプチド配列を含む環状化合物に特異的におよび/または選択的に結合する。例えば、特定のエピトープ立体配座と結合する抗体は、立体配座特異的抗体と呼ぶことができる。このような抗体は、本明細書に記載される方法を用いて選択することができる。立体配座選択的抗体は、特定のAベータ種または関連種(例えば、二量体、三量体およびその他のオリゴマー種)のグループを区別して認識することが可能であり、ある種または種のグループに対して別の種(例えば、モノマー種または線維種)より高い親和性を有し得る。
【0222】
一実施形態では、抗体は単量体Aベータと特異的に結合しない。一実施形態では、抗体は、例えばADの脳組織においてin situで、Aベータ老人斑と特異的に結合しない。
【0223】
別の実施形態では、抗体は、天然または合成のオリゴマーAベータより単量体Aベータと選択的に結合することはない。
【0224】
一実施形態では、抗体は、本明細書に記載の少なくとも1つの別の立体配座の特徴(例えば、直鎖状化合物に比べて、環状化合物中のエピトープの特徴)を含む本明細書に記載のエピトープペプチド配列を含む環状化合物に特異的に結合する。
【0225】
例えば、一実施形態では、抗体は、H、QおよびKから選択され、環状化合物における少なくとも1つの二面角が、直鎖状化合物において対応する二面角と少なくとも30度、少なくとも40度、少なくとも50度、少なくとも60度、少なくとも70度、少なくとも80度、少なくとも90度、少なくとも100度、少なくとも110度、少なくとも120度、少なくとも130度、少なくとも140度異なる、少なくとも150度異なる残基を含む、環状化合物に特異的に結合する。
【0226】
一実施形態では、抗体は、HHQK(配列番号1)、場合により直鎖状CGHHQKG(配列番号2)を含む直鎖状ペプチドに比べて、HHQK(配列番号1)またはその一部、場合によりシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)、を含む環状化合物に選択的に結合する。例えば、一実施形態では、抗体は、環状立体配座のHHQK(配列番号1)または関連エピトープ配列と選択的に結合し、例えばELISAまたは表面プラズモン共鳴法、場合により本明細書に記載される方法を用いて測定される、環状立体配座のHHQK(配列番号1)に対する選択性が、対応する直鎖状化合物などの直鎖状化合物内のHHQK(配列番号1)に比べて、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍大きい。
【0227】
一実施形態では、抗体は、直鎖状ペプチドよりもエピトープ配列を含む環状化合物に、またはモノマーよりもAベータオリゴマーなどのAベータ種に、選択的に結合する一実施形態では、選択性は、環状化合物および/またはAベータオリゴマーに比べて、Aベータモノマーおよび/またはAベータ線維から選択されるAベータ種および/または直鎖状HHQK(配列番号1)、場合により直鎖状CGHHQKG(配列番号2)の少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍選択的である。
【0228】
一実施形態では、AベータオリゴマーはAベータ1~42サブユニットを含む。
【0229】
一実施形態では、抗体はAベータ線維斑(老人斑とも呼ばれる)染色を示さない。斑染色がみられないことは、Aベータ特異的抗体である6E10および4G8(Biolegend社、サンディエゴ、カリフォルニア州)または2C8(Enzo Life Sciences社、ファーミングデール、ニューヨーク州)などの陽性対照ならびにアイソタイプ対照と比較することにより評価することができる。本明細書に記載される抗体は、その抗体が典型的な斑形態染色を示さず、染色のレベルがIgG陰性アイソタイプ対照でみられるレベルの2倍と同等またはそれ以下である場合、Aベータ線維斑染色を示さない、またはほとんど示さないことになる。尺度は、例えば、アイソタイプ対照での染色レベルを1に設定し、6E10での染色レベルを10に設定することができる。抗体は、そのような尺度で染色レベルが2以下である場合、Aベータ線維斑染色を示さないことになる。実施形態では、抗体は、例えば上記の尺度で、最小限のAベータ線維斑染色を示し、そのレベルのスコアは少なくとも3程度または3未満である。
【0230】
一実施形態では、本明細書に記載される環状化合物または免疫原を用いて、場合により本明細書に記載の方法を用いて抗体を産生する。
【0231】
一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。
【0232】
モノクローナル抗体を作製するには、本明細書に記載される免疫原で免疫感作した対象から抗体産生細胞(リンパ球)を回収し、標準的な体細胞融合法によりミエローマ細胞と融合し、それにより上記の細胞を不死化してハイブリドーマ細胞を得ることができる。このような技術は当該技術分野で周知である(例えば、KohlerおよびMilsteinにより最初に開発されたハイブリドーマ技術(Nature 256:495-497(1975))ならびにその他の技術、例えばヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら,Immunol.Today 4:72(1983))、ヒトモノクローナル抗体を作製するEBVハイブリドーマ技術(Coleら,Methods Enzymol,121:140-67(1986))およびコンビナトリアル抗体ライブラリーのスクリーニング(Huseら,Science 246:1275(1989)など)。目的のエピトープと特異的に反応する抗体の産生に関してハイブリドーマ細胞を免疫学的にスクリーニングし、モノクローナル抗体を単離することができる。
【0233】
特定の抗原または分子に対して反応性の特異的抗体または抗体フラグメントはまた、細胞表面成分とともに細菌内で発現する免疫グロブリン遺伝子またはその一部をコードする発現ライブラリーをスクリーニングすることにより作製し得る。例えば、ファージ発現ライブラリーを用いて、完全Fabフラグメント、VH領域およびFV領域を細菌内で発現させることができる(例えば、Wardら,Nature 41:544-546(1989);Huseら,Science 246:1275-1281(1989);およびMcCaffertyら,Nature 348:552-554(1990)を参照されたい)。
【0234】
一実施形態では、抗体はヒト化抗体である。
【0235】
非ヒト種からの抗体のヒト化については文献に十分に記載されている。例えば、欧州特許第号第0239400号(B1)ならびにCarterおよびMerchant 1997(全体が参照により本明細書に組み込まれるCurr Opin Biotechnol 8,449-454,1997)を参照されたい。ヒト化抗体はまた、商業的に容易に入手できる(例えば、イギリス、ミドルセックス、トゥイッケナム、ホーリーロード2番のScotgen Limited社)。
【0236】
ヒト化型のげっ歯類抗体は、CDR移植(Riechmannら,Nature,332:323-327,1988)によって容易に作製される。この方法では、げっ歯類モノクローナル抗体の抗原結合部位を含む6つのCDRループと、対応するヒトフレームワーク領域とを結合させる。CDR移植では、フレームワーク領域のアミノ酸が抗原認識に影響を及ぼし得ることから、親和性が低下した抗体が得られることが多い(FooteおよびWinter.J Mol Biol,224:487-499,1992)。抗体の親和性を維持するには多くの場合、部位特異的変異誘発またはその他の組換え技術により特定のフレームワーク残基を置き換える必要があり、コンピュータによる抗原結合部位のモデル化を援用することもある(Coら,J Immunol,152:2968-2976,1994)。
【0237】
ヒト化型の抗体は任意選択で、リサーフェイシング(resurfacing)(Pedersenら、J Mol Biol,235:959-973,1994)によって得られる。この方法ではげっ歯類抗体の表面残基のみをヒト化する。
【0238】
特定の抗原に特異的なヒト抗体は、ファージディスプレイ戦略(Jespersら,Bio/Technology,12:899-903,1994)によって特定され得る。1つの方法では、特異的抗原に対するげっ歯類抗体の重鎖をクローン化し、ヒト軽鎖のレパートリーと対にして、繊維状ファージ上にFabフラグメントとして提示させる。抗原との結合によりファージを選択する。次いで、選択されたヒト軽鎖をヒト重鎖のレパートリーと対にしてファージ上に提示させ、再び抗原との結合によりファージを選択する。その結果は、特定の抗原に特異的なヒト抗体Fabフラグメントとなる。別の方法では、メンバーがその外表面に様々なヒト抗体フラグメント(FabまたはFv)を提示するファージのライブラリーを作製する(Dowerら,国際公開第91/17271号およびMcCaffertyら,国際公開第92/01047号)。特異的抗原に対するアフィニティー濃縮により所望の特異性を有する抗体を提示するファージを選択する。いずれかの方法で特定されたヒトFabフラグメントまたはヒトFvフラグメントをクローン化して、哺乳動物細胞でヒト抗体として発現させ得る。
【0239】
ヒト抗体は任意選択で、トランスジェニック動物から得られる(米国特許第6,150,584号;同第6,114,598号;および同第5,770,429号)。この方法では、キメラマウスまたは生殖系列変異体マウスの重鎖連結領域(JH)遺伝子を欠失させる。次いで、そのような変異体マウスにヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイを導入する。次いで、得られたトランスジェニックマウスは抗原曝露時にヒト抗体の全レパートリーを作製することが可能になる。
【0240】
ヒト化抗体は通常、Fab、Fab’F(ab’)2、Fd、Fvおよび単一ドメイン抗体フラグメントなどの抗原結合フラグメントまたは重鎖と軽鎖がスペーサーにより連結された一本鎖抗体として作製される。また、ヒト抗体またはヒト化抗体はモノマー型またはポリマー型で存在し得る。ヒト化抗体は任意選択で、1本の非ヒト鎖と1本のヒト化鎖(すなわち、1本のヒト化重鎖または軽鎖)とを含む。
【0241】
ヒト化抗体またはヒト抗体を含めた抗体は、IgM、IgG、IgD、IgAまたはIgEを含めた任意のクラスの免疫グロブリン;ならびにIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含めた任意のアイソタイプから選択される。ヒト化抗体またはヒト抗体は、1つまたは2つ以上のアイソタイプまたはクラスに由来する配列を含み得る。
【0242】
さらに、本明細書に記載されるエピトープに特異的な抗体は、抗体ファージディスプレイライブラリーをスクリーニングすることにより容易に単離される。例えば、本発明の疾患特異的エピトープを用いて、抗体ファージライブラリーが、必要に応じスクリーニングされ、疾患特異的エピトープに特異的な抗体フラグメントが特定される。場合により、特定された抗体フラグメントを用いて、本発明の様々な実施形態に有用な様々な組換え抗体を作製する。抗体ファージディスプレイライブラリーは、例えばXoma社(バークレー、カリフォルニア州)から市販されている。抗体ファージライブラリーをスクリーニングする方法は当該技術分野で周知である。
【0243】
さらなる態様は、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域が相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3を含み、軽鎖可変領域が相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3を含み、前記CDRのアミノ酸配列が、以下に記載する配列を含む、抗体および/またはその結合フラグメントである。
【表2】
【0244】
一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。一実施形態では、抗体はキメラ抗体、例えば表10に記載されるCDR配列を含むヒト化抗体などである。
【0245】
別の実施形態では、任意選択で一本鎖抗体において、表13のCDRと軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含む、抗体も提供される。
【0246】
さらに別の態様では、抗体は、i)配列番号29で示されるアミノ酸配列;ii)配列番号29と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号22、23および24で示される、アミノ酸配列またはiii)保存的に置換されたアミノ酸配列i)を含む、重鎖可変領域を含む。別の態様では、抗体は、i)配列番号31で示されるアミノ酸配列、ii)配列番号31と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%もしくは少なくとも90%の配列同一性を有し、CDR配列が配列番号25、26および27で示される、アミノ酸配列またはiii)保存的に置換されたi)のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変領域を含む。別の実施形態では、重鎖可変領域アミノ酸配列が、配列番号28で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重最適化型によってコードされている。別の実施形態では、抗体は、配列番号30で示されるヌクレオチド配列またはそのコドン縮重型もしくコドン最適化型によってコードされる軽鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、重鎖可変領域は配列番号29で示されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、軽鎖可変領域は配列番号31で示されるアミノ酸配列を含む。
【0247】
別の態様は、表13に記載されるCDR配列を有する抗体と同じエピトープと特異的に結合する抗体である。
【0248】
別の態様は、ヒトAベータとの結合に関して、表13に記載されるCDR配列を含む抗体と競合する、抗体を含む。
【0249】
抗体間の競合は、例えば、被験抗体が参照抗体と共通の抗原との特異的結合を阻害する能力を評価するアッセイを用いて判定することができる。競合結合アッセイで測定したとき、過剰の被験抗体(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍または20倍)が参照抗体の結合を少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%阻害する場合、被験抗体は参照抗体と競合することになる。
【0250】
さらなる態様は、治療剤、検出可能な標識または細胞毒性物質とコンジュゲートした抗体である。一実施形態では、検出可能な標識は陽電子放出放射性核種である。陽電子放出放射性核種は、例えばPET撮像で使用され得る。
【0251】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体および/またはその結合フラグメントとオリゴマーAベータとを含む、抗体複合体に関する。
【0252】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体またはその一部をコードする、単離核酸である。
【0253】
また、重鎖または軽鎖をコードする、例えば、本明細書に記載されるCDR-H1領域、CDR-H2領域および/またはCDR-H3領域を含む重鎖をコードする、あるいは本明細書に記載されるCDR-L1領域、CDR-L2領域および/またはCDR-L3領域を含む軽鎖をコードする、核酸も提供される。
【0254】
本開示はまた、本明細書に開示される抗体および/またはその結合フラグメントをコードする核酸配列のバリアントを提供する。例えば、バリアントとしては、本明細書に開示される抗体および/またはその結合フラグメントをコードする核酸配列と少なくとも中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列またはコドン縮重配列もしくはコドン最適化配列が挙げられる。別の実施形態では、バリアント核酸配列は、配列番号29および31をコードする核酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらに最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有する。
【0255】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体をコードする、単離核酸である。
【0256】
別の態様は、本明細書に開示される核酸を含む発現カセットまたはベクターである。一実施形態では、ベクターは単離ベクターである。
【0257】
ベクターは、抗体および/またはその結合フラグメントの作製あるいは本明細書に記載されるペプチド配列の発現に適したベクターを含めた任意のベクターであり得る。
【0258】
既知の方法で、タンパク質を確実に発現させる適切な発現ベクター内に核酸分子を組み込み得る。考え得る発現ベクターとしては、特に限定されないが、コスミド、プラスミドまたは改変ウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。ベクターは使用する宿主細胞と適合性のあるものであるべきである。発現ベクターは「宿主細胞の形質転換に適した」ものであり、これは、その発現ベクターが、本明細書に記載されるエピトープまたは抗体に対応するペプチドをコードする核酸分子を含んでいることを意味する。
【0259】
一実施形態では、ベクターは、遺伝子治療により例えば一本鎖抗体を発現させるのに適したものである。ベクターは、例えば神経特異的プロモーターなどを用いて、神経組織での特異的発現に適合させることができる。一実施形態では、ベクターは、IRESを含み、軽鎖可変領域および重鎖可変領域の発現を可能にする。このようなベクターは、in vivoで抗体を送達するのに用いることができる。
【0260】
適切な制御配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物または昆虫の遺伝子を含めた様々な供給源に由来するものであり得る。
【0261】
このような制御配列の例としては、転写プロモーターおよび転写エンハンサーまたはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルを含めたリボソーム結合配列が挙げられる。さらに、選択する宿主細胞および用いるベクターに応じてその他の配列、例えば複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサーおよび転写の誘導性を付与する配列などを発現ベクター内に組み込み得る。
【0262】
一実施形態では、制御配列は、神経組織および/または細胞での発現を指令する、または増大させる。
【0263】
一実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。
【0264】
組換え発現ベクターはまた、本明細書に記載される抗体またはエピトープペプチドを発現させるためにベクターにより形質転換、感染または形質移入した宿主細胞の選択を容易にするマーカー遺伝子を含み得る。
【0265】
組換え発現ベクターはまた、組換えペプチドの発現または安定性を増大させる;組換えペプチドの溶解度を増大させる;ならびに例えば本明細書に記載されるタグおよび標識を含めたアフィニティー精製のリガンドとして作用することにより標的組換えペプチドの精製を補助する融合部分(すなわち、「融合タンパク質」)をコードする、発現カセットを含み得る。さらに、標的組換えタンパク質にタンパク質分解切断部位を付加して、融合タンパク質精製後に融合部分から組換えタンパク質を分離させ得る。典型的な融合発現ベクターとしては、pGEX(Amrad社、メルボルン、オーストラリア)、pMAL(New England Biolabs社、ビバリー、マサチューセッツ州)およびpRIT5(Pharmacia社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)が挙げられ、これらは組換えタンパク質にそれぞれグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質またはプロテインAを融合させるものである。
【0266】
例えばニューロンおよび神経組織内にin vitroおよびin vivoの両方で遺伝子を導入するシステムとしては、ウイルス、中でもとりわけ単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレンチウイルスを含めたレトロウイルスに基づくベクターが挙げられる。これに代わる遺伝子送達の方法としては、裸のプラスミドDNAおよびリポソーム-DNA複合体の使用が挙げられる。別の方法には、DNAをポリカチオン濃縮して脂質に封入し、脳内遺伝子送達により脳内に導入する、AAVプラスミドの使用(Leoneら,米国特許出願公開第2002076394号)がある。
【0267】
したがって、別の態様では、本明細書に記載される化合物、免疫原、核酸、ベクターおよび抗体をリポソーム、ナノ粒子およびウイルスタンパク質粒子などの小胞で製剤化し、例えば、本明細書に記載される抗体、化合物、免疫原および核酸を送達し得る。特に、ポリマーソームを含めた合成ポリマー小胞を用いて抗体を投与することができる。
【0268】
別の態様では、本明細書に記載される抗体を発現する、または本明細書に開示されるベクターを含む細胞、任意選択で単離細胞および/または組換え細胞も提供される。
【0269】
組換え細胞は、ポリペプチドの産生に適した、例えば抗体および/またはその結合フラグメントの産生に適した任意の細胞を用いて作製することができる。例えば、核酸(例えば、ベクター)を細胞内に導入するには、用いるベクターに応じて、細胞に形質移入し得る、細胞を形質転換し得る、または細胞に感染させ得る。
【0270】
適切な宿主細胞としては、多種多様な原核宿主細胞および真核宿主細胞が挙げられる。例えば、本明細書に記載されるタンパク質を大腸菌(E.coli)などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルスを用いる)、酵母細胞または哺乳動物細胞で発現させ得る。
【0271】
一実施形態では、細胞は、酵母細胞、植物細胞、蠕虫細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、魚類細胞、爬虫類細胞および哺乳動物細胞から選択される真核細胞である。
【0272】
別の実施形態では、哺乳動物細胞は、ミエローマ細胞、脾臓細胞またはハイブリドーマ細胞である。
【0273】
一実施形態では、細胞は神経細胞である。
【0274】
抗体またはペプチドを発現させるのに適した酵母宿主細胞および真菌宿主細胞としては、特に限定されないが、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア(Pichia)属またはクリベロミセス(Kluyveromyces)属およびアスペルギルス(Aspergillus)属の様々な種が挙げられる。酵母(S.cerivisiae)で発現させるためのベクターの例としては、pYepSec1、pMFa、pJRY88およびpYES2(Invitrogen社、サンディエゴ、カリフォルニア州)が挙げられる。酵母および真菌を形質転換させるプロトコルは当業者に周知である。
【0275】
適切であり得る哺乳動物細胞としては、特にCOS(例えば、ATCC番号CRL1650または1651)、BHK(例えば、ATCC番号CRL6281)、CHO(ATCC番号CCL61)、HeLa(例えば、ATCC番号CCL2)、293(ATCC番号1573)およびNS-1細胞が挙げられる。哺乳動物細胞での発現を指令するのに適した発現ベクターは一般に、プロモーター(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルスおよびサルウイルス40などのウイルス材料由来のもの)ならびにその他の転写制御配列および翻訳制御配列を含む。哺乳動物発現ベクターの例としては、pCDM8およびpMT2PCが挙げられる。
【0276】
一実施形態では、細胞は、ハイブリドーマ細胞などの縮合細胞であり、ハイブリドーマ細胞は、エピトープまたは本明細書に記載のエピトープ配列に特異的および/または対し、選択的な、例えば、モノマーよりもAベータオリゴマーに選択的に結合する抗体、直鎖状化合物よりも環状化合物中のエピトープ配列に選択的に結合する抗体または斑との結合を全くまたはほとんど示さない抗体などの、抗体を産生する。
【0277】
さらなる態様は、本明細書に記載されるエピトープに特異的な抗体を産生するハイブリドーマ細胞株である。
【0278】
IV.組成物
さらなる態様は、本明細書に記載される化合物、免疫原、核酸、ベクターまたは抗体を含む組成物である。
【0279】
一実施形態では、組成物は希釈剤を含む。
【0280】
核酸に適した希釈剤としては、特に限定されないが、水、生理食塩水およびエタノールが挙げられる。
【0281】
抗体もしくはそのフラグメントを含めたポリペプチドおよび/または細胞に適した希釈剤としては、特に限定されないが、生理食塩水、pH緩衝溶液およびグリセロール溶液あるいはポリペプチドおよび/または細胞を凍結させるのに適した他の溶液が挙げられる。
【0282】
一実施形態では、組成物は、本明細書に開示されるペプチド、免疫原、抗体、核酸またはベクターのいずれかを含み、任意選択で薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物である。
【0283】
本明細書に記載される組成物は、対象に投与することができる薬学的に許容される組成物を調製する既知の方法それ自体により、任意選択でワクチンとして、有効量の活性物質が薬学的に許容される溶媒との混合物の形で組み合わさるように調製することができる。
【0284】
医薬組成物としては、特に限定されないが、凍結乾燥粉末剤または水性もしくは非水性の無菌注射用液剤もしくは無菌注射用懸濁剤が挙げられ、これらは、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤および組成物を目的とする被投与者の組織または血液に実質的に適合させる溶質をさらに含有し得る。このような組成物中に記載の存在し得るその他の成分としては、例えば水、界面活性剤(Tweenなど)、アルコール、ポリオール、グリセリンおよび植物油が挙げられる。無菌粉末剤、顆粒剤、錠剤または濃縮した液剤もしくは懸濁剤から即時注射液剤および即時注射懸濁剤を調製し得る。組成物は、例えば、特に限定されないが、患者に投与する前に滅菌水または生理食塩水で再構築する凍結乾燥粉末として供給され得る。
【0285】
医薬組成物は薬学的に許容される担体を含み得る。適切な薬学的に許容される担体としては、実質的に化学的に不活性で無毒性であり医薬組成物の生物活性の効果に干渉しない組成物を含む。適切な医薬担体の例としては、特に限定されないが、水、生理食塩水、グリセロール溶液、エタノール、N-(1(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレシルホスファチジル-エタノールアミン(diolesylphosphotidyl-ethanolamine)(DOPE)およびリポソームが挙げられる。このような組成物は、患者に直接投与する形態になるように、治療有効量の化合物を適量の担体とともに含有するべきである。
【0286】
組成物は薬学的に許容される塩の形態であり得、このような塩としては、特に限定されないが、遊離アミノ基を用いて形成される塩、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するなどおよび遊離カルボキシル基を用いて形成される塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアルニノエタノール(2-ethylarnino ethanol)、ヒスチジン、プロカインなどに由来するなどが挙げられる。
【0287】
本明細書に記載される化合物または免疫原を含む実施形態では、組成物はアジュバントを含む。
【0288】
使用し得るアジュバントとしては例えば、通常、ワクチンとして使用される死菌または弱毒菌の成分である、内因性アジュバント(リポ多糖など)が挙げられる。外因性アジュバントには、通常、抗原と非共有結合し、宿主免疫応答を増強するよう製剤化される、免疫調節物質がある。水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウムおよびリン酸アルミニウム(一般にミョウバンと総称される)はアジュバントとして日常的に使用される。様々な外因性アジュバントが免疫原に対する強力な免疫応答を引き起こし得る。このようなものとしては、サポニン、例えばStimulon(QS21、Aquila社、ウスター、マサチューセッツ州)またはそれから生成されるISCOMおよび(免疫刺激複合体)および膜タンパク質抗原と複合体を形成したISCOMATRIX(免疫刺激複合体)などの粒子など、プルロニックポリマーと鉱油、死滅マイコバクテリアと鉱油、フロイント完全アジュバント、ムラミルジペプチド(MDP)およびリポ多糖などの細菌生成物ならびにリピドAおよびリポソームが挙げられる。
【0289】
一実施形態では、アジュバントは水酸化アルミニウムである。別の実施形態では、アジュバントはリン酸アルミニウムである。水中油型乳剤としては、スクアレン;ラッカセイ油;MF59(国際公開第90/14387号);SAF(Syntex Laboratories社、パロアルト、カリフォルニア州);およびRibi(商標)(Ribi Immunochem社、ハミルトン、モンタナ州)が挙げられる。水中油型乳剤は、免疫刺激物質、例えばムラミルペプチド(例えば、N-アセチルムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミル-L-アラニン-2-(1’-2’ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、N-アセチルグルクサミニル-N-アセチルムラミル-L-Al-D-イソグル-L-Ala-ジパルミトキシプロピルアミド(N-acetylglucsaminyl-N-acetylmuramyl-L-Al-D-isoglu-L-Ala-dipalmitoxy propylamide)(DTP-DPP)、theramide(商標))またはその他の細菌細胞壁成分とともに使用され得る。
【0290】
アジュバントを単一組成物として免疫原とともに投与し得る。あるいは、アジュバントを免疫原投与の前に、免疫原投与と同時に、かつ/または免疫原投与の後に投与し得る。
【0291】
アジュバントは一般に、リン酸緩衝生理食塩水に溶かした0.05~1.0パーセント溶液として使用される。アジュバントは免疫原の免疫原性を増強するが、アジュバント自体は必ずしも免疫原性であるわけではない。アジュバントは、投与部位付近に免疫原を局所的に保持することよって作用し、免疫系細胞への免疫原の緩徐で持続的な放出を促進するデポとしての効果をもたらし得る。アジュバントはまた、免疫原デポに免疫系細胞を誘引し、そのような細胞を刺激して免疫応答を誘発し得る。したがって、諸実施形態は、アジュバントをさらに含む組成物を包含し得る。
【0292】
非経口免疫感作のためのアジュバントとしては、アルミニウム化合物(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムおよびヒドロキシリン酸アルミニウム)が挙げられる。標準的プロトコルに従って、抗原をアルミニウム化合物とともに沈殿させる、またはアルミニウム化合物上に吸着させることができる。RIBI(ImmunoChem社、ハミルトン、モンタナ州)などのその他のアジュバントも非経口投与に使用することができる。
【0293】
粘膜免疫感作のためのアジュバントとしては、細菌毒素(例えば、コレラ毒素(CT)、大腸菌(E.coli)易熱性毒素(LT)、ディフィシル菌(Clostridium difficile)毒素Aおよび百日咳毒素(PT)またはその組合せ、サブユニット、トキソイドもしくは変異体)が挙げられる。例えば、天然のコレラ毒素サブユニットB(CTB)の精製調製物が有用であり得る。上記のいずれかの毒素のフラグメント、ホモログ、誘導体および融合物も、アジュバント活性を保持している限り適切なものである。好ましくは、毒性が低下した変異体を使用する。適切な変異体については、(例えば、国際公開第95/17211号(Arg-7-Lys CT変異体)、国際公開第96/6627号(Arg-192-Gly LT変異体)および国際公開第95/34323号(Arg-9-LysおよびGlu-129-Gly PT変異体)に)既に記載されている。方法および組成物に使用し得る追加のLT変異体としては、例えば、Ser-63-Lys変異体、Ala-69-Gly変異体、Glu-110-Asp変異体およびGlu-112-Asp変異体が挙げられる。その他のアジュバント(様々な供給源(例えば、大腸菌(E.coli)、サルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimuriumもしくはシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri))の細菌モノホスホリルリピドA(MPLA)、サポニンまたはポリラクチドグリコリド(PLGA)マイクロスフェアなど)も粘膜投与に使用することができる。
【0294】
その他のアジュバントとしては、インターロイキンなどのサイトカイン、例えばIL-1、IL-2およびIL-12、ケモカイン、例えばCXCL10およびCCL5、マクロファージ刺激因子ならびに/あるいは腫瘍壊死因子が挙げられる。使用し得るその他のアジュバントとしては、CpGオリゴヌクレオチド(Davis.Curr Top Microbiol Immunol.,247:171-183,2000)が挙げられる。
【0295】
水中油型乳剤としては、スクアレン;ラッカセイ油;MF59(国際公開第90/14387号);SAF(Syntex Laboratories社、パロアルト、カリフォルニア州);およびRibi(商標)(Ribi Immunochem社、ハミルトン、モンタナ州)が挙げられる。水中油型乳剤は、免疫刺激物質、例えばムラミルペプチド(例えば、N-アセチルムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミル-L-アラニン-2-(1’-2’ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、N-アセチルグルクサミニル-N-アセチルムラミル-L-Al-D-イソグル-L-Ala-ジパルミトキシプロピルアミド(N-acetylglucsaminyl-N-acetylmuramyl-L-Al-D-isoglu-L-Ala-dipalmitoxy propylamide)(DTP-DPP)、theramide(商標))またはその他の細菌細胞壁成分とともに使用され得る。
【0296】
粘膜免疫感作および非経口免疫感作の両方に有用なアジュバントとしては、ポリホスファゼン(例えば、国際公開第95/2415号)、DC-chol(3b-(N-(N’,N’-ジメチルアミノメタン)-カルバモイル)コレステロール(例えば、米国特許第5,283,185号および国際公開第96/14831)号およびQS-21(例えば、国際公開第88/9336号)が挙げられる。
【0297】
アジュバントを免疫原と結合させて投与し得る。例えば、免疫原を含むペプチドの立体配座の変化が免疫原に対する免疫応答の性質に影響を及ぼさないように、パルミチン酸などの脂質を1つまたは複数のペプチドと直接結合させ得る。
【0298】
一実施形態では、組成物は本明細書に記載される抗体を含む。別の実施形態では、組成物は、本明細書に記載される抗体と希釈剤とを含む。一実施形態では、組成物は無菌組成物である。
【0299】
さらなる態様は、本明細書に記載される抗体およびAベータ、場合によりAベータオリゴマーを含む、抗体複合体を含む。複合体は、溶液中に存在しても、または組織中に、場合によりin vitroで含まれてもよい。
【0300】
V.キット
さらなる態様は、無菌バイアルなどのバイアルあるいはその他の筐体に入った本明細書に記載されるi)抗体および/またはその結合フラグメント、ii)核酸、iii)ペプチドまたは免疫原、iv)組成物あるいはv)組換え細胞と、任意選択で参照物質および/またはキットの使用のための説明書とを含む、キットに関する。
【0301】
一実施形態では、キットは、収集バイアル、標準緩衝液および検出試薬のうちの1つまたは複数のものをさらに含む。
【0302】
IV.方法
本明細書に記載される化合物、免疫原および抗体を作製する方法が含まれる。
【0303】
特に、HHQK(配列番号1)または関連エピトープの立体配座エピトープに選択的な抗体を作製する方法であって、対象、任意選択で非ヒト対象に本明細書に記載されるエピトープ配列を含み立体配座的に制約のある化合物、任意選択でHHQK(配列番号1)または関連エピトープを含む環状化合物を投与することと、環状化合物と特異的または選択的に結合し、任意選択で、i)合成および/または天然のオリゴマーと特異的または選択的に結合し、かつ/あるいはin situ組織試料で老人斑との結合が全くもしくはほとんどみられない、または対応する直鎖状ペプチドとの結合が全くもしくはほとんどない、抗体産生細胞あるいは抗体を単離することとを含む、方法が提供される。環状化合物は、例えば、本明細書に記載される環状化合物を含む、本明細書に記載されるいずれかの「エピトープ」を含み得る。
【0304】
一実施形態では、この方法は、例えば本明細書に記載される方法を用いて、モノクローナル抗体を作製するためのものである。
【0305】
一実施形態では、この方法は、例えば本明細書に記載される方法を用いて、ヒト化抗体を作製するためのものである。
【0306】
環状化合物を用いて作製する抗体は、本明細書および前述の実施例に記載される通りに選択される。一実施形態では、この方法は、任意選択で本明細書に記載される方法を用いて、直鎖状ペプチドよりも環状ペプチドに特異的または選択的に結合し、エピトープ配列に特異的であり、オリゴマーと特異的に結合し、かつ/あるいはin situの斑および/または対応する直鎖状ペプチドと結合しない、またはほとんど結合しない抗体を単離することを含む。
【0307】
さらなる態様では、生体試料がAベータを含むかどうかを検出する方法であって、生体試料と本明細書に記載される抗体とを接触させること、および/または何らかの抗体複合体の存在を検出することを含む、方法が提供される。一実施形態では、この方法は、生体試料が、残基H、QまたはKの少なくとも1つが非オリゴマー立体配座のH、Qおよび/またはKによって占められるものとは別の立体配座にあるAベータを含むかどうかを検出するためのものである。一実施形態では、この方法は、生体試料がオリゴマーAベータを含むかどうかを検出するためのものである。
【0308】
一実施形態では、この方法は、
a.抗体:Aベータオリゴマー複合体の形成が可能な条件下で、生体試料と、本明細書のAベータオリゴマーに特異的かつ/または選択的な本明細書に記載される抗体とを接触させること;および
b.何らかの複合体の存在を検出することを含み、
検出可能な複合体の存在により、試料がAベータオリゴマーを含有し得ることが示される。
【0309】
一実施形態では、形成された複合体のレベルを、適切なIg対照または無関係な抗体などの被験抗体と比較する。
【0310】
一実施形態では、検出を定量化し、生成した複合体の量を測定する。測定は、例えば標準物質に対して相対的なものであり得る。
【0311】
一実施形態では、測定された量を対照と比較する。
【0312】
別の実施形態では、この方法は、
(a)抗体-抗原複合体の生成が可能な条件下で、前記対象の試験試料と本明細書に記載される抗体とを接触させること;
(b)被験試料中の抗体-抗原複合体の量を測定すること;および
(c)被験試料中の抗体-抗原複合体の量と対照とを比較することを含み、
対照と比較して試験試料中に抗体-抗原複合体が検出されることにより、試料がAベータを含むことが示される。
【0313】
対照は、試料対照(例えば、ADを有さない対象または軽度、中等度もしくは進行型といった特定の型のADを有する対象に由来するもの)または対象のAベータオリゴマーレベルの変化をモニターするための同じ対象由来の以前の試料であり得る。
【0314】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体を使用する。
【0315】
一実施形態では、抗体は、HQKまたはHHQK(配列番号1)または関連立体配座エピトープを含むAベータの立体配座を特異的および/または選択的に認識し、抗原:抗体複合体の存在が検出されることにより、試料がAベータオリゴマーを含むことが示される。
【0316】
一実施形態では、試料は生体試料である。一実施形態では、試料は、脳組織もしくはその抽出物および/またはCSFを含む。一実施形態では、試料は、全血、血漿または血清を含む。一実施形態では、試料はヒト対象から採取されるものである。一実施形態では、対象は、ADが疑われる、ADのリスクがある、またはADを有する。
【0317】
多くの方法を用いてAベータ:抗体複合体を検出でき、それにより生体試料中にHHQK(配列番号1)または関連立体配座エピトープを含むAベータおよび/またはAベータオリゴマーが試料中に存在することを、フローサイトメトリー、ウェスタンブロット、ELISAおよび免疫沈降とそれに続くSDS-PAGE免疫細胞化学などのイムノアッセイを含めて、本明細書に記載の抗体を使って判定する。
【0318】
実施例に記載されるように、表面プラズモン共鳴技術を用いて立体配座特異的結合を評価することができる。抗体を標識する、または複合体の抗体に特異的な検出可能に標識した二次抗体を用いる場合、その標識を検出することができる。一般に用いられる試薬としては、蛍光発光抗体およびHRP標識抗体が挙げられる。定量的方法では、発生したシグナルの量を標準物質または対照との比較により測定することができる。測定はまた、相対的なものであり得る。
【0319】
さらなる態様は、対象または組織中のAベータのレベルを測定する、またはそのようなAベータを撮像する方法であって、任意選択で、測定または撮像するAベータがオリゴマーAベータである、方法を含む。一実施形態では、この方法は、ADを有するリスクがある、ADを有することが疑われる、またはADを有する対象に検出可能な標識とコンジュゲートした抗体を投与すること;および標識を検出すること、任意選択で標識を定量的に検出することを含む。標識は、一実施形態では、例えばPET撮像に使用することができる陽電子放出放射性核種である。
【0320】
さらなる態様は、対象の免疫応答を誘導する方法を含み、該方法は、本明細書に記載される化合物、免疫原および/またはHHQK(配列番号1)または関連エピトープを含む環状化合物などの本明細書に記載の化合物を含む組成物を対象に投与すること;および場合により、投与した化合物または免疫原に特異的に結合する細胞および/または抗体を単離することを含む。
【0321】
一実施形態では、投与する免疫原は、図7Cの化合物を含む。
【0322】
一実施形態では、対象はげっ歯類などの非ヒト対象である。作製された抗体産生細胞は、一実施形態ではハイブリドーマ細胞系を作製するために使用する。
【0323】
本明細書では、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体が、Aベータオリゴマーに特異的かつ/または選択的に結合し、Aベータ斑染色がないことが示される。オリゴマーAベータ種は、ADにおいて毒性のある伝播性の種であると考えられる。さらに、図19に示すように、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を用いて産生させ、オリゴマーに特異的な抗体は、Aベータの凝集およびAベータオリゴマーの伝播を阻害した。したがって、Aベータオリゴマーの伝播を阻害する方法であって、有効量の本明細書に記載されるAベータオリゴマーに特異的または選択的な抗体を、Aベータを発現する細胞もしくは組織と接触させる、または必要とする対象に投与して、Aベータの凝集および/またはオリゴマーの伝播を阻害することを含む、方法も提供される。実施例に記載されるように、in vitroでアッセイをモニターすることができる。
【0324】
抗体はまた、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患の治療に有用であり得る。例えば、レビー小体型認知症のバリアントおよび封入体筋炎(筋肉疾患)では、ADと類似した斑がみられ、Aベータはまた、脳アミロイド血管症に関与する凝集体も形成することがある。上記のように、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体は、ADの毒素原性のAベータ種であると考えられるオリゴマーAベータと結合し、毒素原性Aベータオリゴマーの形成を阻害する。
【0325】
したがって、さらなる態様は、ADおよび/またはその他のAベータアミロイド関連疾患を治療する方法であって、必要とする対象にi)有効量の本明細書に記載される抗体、任意選択で、前記抗体を含むAベータオリゴマー特異的もしくはAベータオリゴマー選択的組成物または医薬組成物を投与すること;あるいは2)必要とする対象にHHQK(配列番号1)もしくは関連エピトープ配列を含む単離環状化合物、免疫原または前記環状化合物を含む医薬組成物を投与することを含む、方法である。他の実施形態では、本明細書に記載の抗体または免疫原をコードする核酸も、必要に応じ、対象への核酸の送達に好適するベクターを用いて、対象に投与できる。
【0326】
一実施形態では、本明細書に記載される抗体を用いて、治療する対象由来の生体試料をAベータの有無またはレベルに関して評価する。一実施形態では、検出可能なAベータレベル(例えば、in vitroで測定される、または撮像により測定されるAベータ抗体複合体)を有する対象を抗体で治療する。
【0327】
抗体および免疫原を例えば、本明細書に記載される医薬組成物に含ませ、例えば小胞に製剤化して送達を改善することができる。
【0328】
HHQK(配列番号1)を標的とする1つまたは複数の抗体および/または関連抗体を組み合わせて投与することができる。さらに、本明細書に開示される抗体をベータセクレターゼ阻害剤またはコリンエステラーゼ阻害剤などの1つまたは複数の他の治療剤とともに投与することができる。
【0329】
一実施形態では、抗体は、任意選択でAベータオリゴマーと特異的または選択的に結合する、立体配座特異的/選択的抗体である。
【0330】
また、ADを治療するための組成物、抗体、単離ペプチド、免疫原および核酸の使用が提供される。
【0331】
本明細書に記載される組成物、化合物、抗体、単離ペプチド、免疫原および核酸、ベクターなどを、例えば、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、脳室内投与、髄腔内投与、眼窩内、点眼、脊髄内投与、槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、エアゾール投与または経口投与により投与することができる。
【0332】
ある特定の実施形態では、医薬組成物を全身投与する。
【0333】
他の実施形態では、医薬組成物を脳またはCNSの他の部分に直接投与する。例えば、このような方法は、埋込み型カテーテルおよびポンプの使用を含み、これらはカテーテルを通して注入部位に所定用量を放出するものである。当業者であればさらに、理解されよう。カテーテルは、それを可視化して脳内の所望の投与部位または注入部位に隣接する位置に配置することが可能な外科技術により埋め込まれ得る。このような技術は、参照により本明細書に組み込まれるElsberryらの米国特許第5,814,014号「Techniques of Treating Neurodegenerative Disorders by Brain Infusion」に記載されている。また、米国特許出願公開第20060129126号(KaplittおよびDuring,「Infusion device and method for infusing material into the brain of a patient」)に記載されているもの方法などの方法が企図される。脳およびCNSの他の部分に薬物を送達する装置が市販されている(例えば、SynchroMed(登録商標)EL Infusion System;Medtronic社、ミネアポリス、ミネソタ州)。
【0334】
別の実施形態では、血液脳関門を通過する受容体介在型輸送が可能になるよう投与する化合物を修飾するなどの方法を用いて、医薬組成物を脳に投与する。
【0335】
他の実施形態では、本明細書に記載される組成物、化合物、抗体、単離ペプチド、免疫原および核酸と、血液脳関門を通過する輸送を促進することが知られている生物学的に活性な分子との共投与が企図される。
【0336】
また、ある特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物、化合物、抗体、単離ペプチド、免疫原および核酸を血液脳関門を通過させて投与する方法、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7012061号「Method for increasing the permeability of the blood brain barrier」に記載されている、血液脳関門の透過性を一時的に増大させることを目的とする方法などが企図される。
【0337】
上の開示は本願を全体的に説明するものである。以下の具体例を参照することにより、さらに十全な理解することができる。これらの例は単に説明を目的として記載されるものであって、本願の範囲を限定することを意図するものではない。状況によって好都合であることが示唆される、または好都合である場合、形態の変更および均等物による置換が企図される。本明細書では特定の用語が使用されているが、このような用語は説明的な意味を意図するものであって、限定を目的とするものではない。
【0338】
以下の非限定的な例は本開示を例示するものである。
【0339】
実施例
実施例1
集団座標予測
ミスフォールドされたエピトープを予測する方法は、2015年11月9日に出願され参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第62/253044号、「Systems and methods for predicting misfolded protein epitopes by collective coordinate biasing」に記載されている「集団座標バイアス」によって得られる。そこに記載されているように、この方法は、あるタンパク質(またはペプチド凝集体)にグローバル座標のバイアスをかけて、そのタンパク質(またはペプチド凝集体)をミスフォールドさせた後、部分的に構造化されていないタンパク質(またはペプチド凝集体)のフォールドされない可能性が最も高いアンフォールド領域を予測する、分子動力学に基づくシミュレーションを用いるものである。バイアスシミュレーションを実施し、各残基インデックスに対応する溶媒接触表面積(SASA)(検討するタンパク質の初期構造のものと比較した)。SASAはHOが接触可能な表面積を表す。SASAの(検討するタンパク質の初期構造のものと比較した)正の変化は、関連する残基インデックスの領域におけるアンフォールドを示すと考え得る。この方法をそれぞれが独自の形態を有する単鎖、および3種類のAベータ株、すなわち、3回対称性構造(またはモノマー)(PDBエントリー2M4J)のAβ-40ペプチド、2回対称性構造(PDBエントリー2LMN)のAβ-40モノマーおよび一本鎖平行in-register(例えば、一本の鎖の残基が近接する鎖の同じ残基と相互作用するベータシートが反復したもの)構造(PDBエントリー2MXU)のAβ-42モノマーに適用した。
【0340】
米国特許出願第62/253044号、SYSTEMS AND METHODS FOR PREDICTING MISFOLDED PROTEIN EPITOPES BY COLLECTIVE COORDINATE BIASINGに記載されている集団座標法ならびにK.Vanommeslaeghe,E.Hatcher,C.Acharya,S.Kundu,S.Zhong,J.Shim,E.Darian,O.Guvench,P.Lopes,I.VorobyovおよびA.D.Mackerell.Charmm general force field:A force field for drug-like molecules compatible with the charmm all-atom additive biological force fields.Journal of Computational Chemistry,31(4):671-690,2010;ならびにP.Bjelkmar,P.Larsson,M.A.Cuendet,B.HessおよびE.Lindahl.Implementation of the CHARMM force field in GROMACS:analysis of protein stability efects from correlation maps,virtual interaction sites,and water models.J.Chem.Theo.Comp.,6:459-466,2010に記載されているCHARMM力場パラメーター(ともに参照により本明細書に組み込まれる)をTIP3P水とともに用いて、各初期構造に対するシミュレーションを実施した。
【0341】
この方法を用いて予測されたエピトープを実施例2に記載する。
【0342】
Aベータオリゴマー特異的エピトープを予測するためのGoモデル法
第2のエピトープ予測モデルは、天然の状態からの部分的なタンパク質アンフォールドの自由エネルギーランドスケープに基づいている。天然の状態は、実験的に誘導された線維構造と見なされる。タンパク質が天然の状態から一次配列の所定の量だけ部分的にアンフォールドしている場合、エピトープ候補は、不規則に最小自由エネルギーを費やさせるコンティグ配列セグメントである。与えられたタンパク質立体配座の自由エネルギーは、立体配座エントロピーおよびアンフォールド状態に適する極性官能基の溶媒和、ならびに静電気的およびファンデルワールス的、エントロピー的に天然の状態を安定化するタンパク質内相互作用を含むいくつかの寄与要因から生じる。
【0343】
部分的アンフォールドタンパク質ランドスケープのGoモデル
アンフォールド中に起こる自由エネルギー変化を説明する近似モデルは、固定エネルギーを天然の状態の全ての接点に割り付け、接点は、固定カットオフ距離rcutoff内の1対の重(非水素)原子として定義される。Go様モデルは、タンパク質フォールディングの前に記載の調査では、うまく実施された。Go様モデルは、天然タンパク質相互作用形態から生じる効果を単離し、実際には、アンフォールド自由エネルギーランドスケープは、単一の天然状態構造から容易に計算できる。
【0344】
アンフォールドセグメントの合計エネルギーコストは、アンフォールド領域の立体配座エントロピー項と共に、破壊される相互作用の数に依存する。
【0345】
次の式では、小文字の変数は、原子を意味し、大文字の変数は、残基を意味する。Tをタンパク質中の全残基のセット、Uをタンパク質中のアンフォールド残基のセット、Fをタンパク質中のフォールド残基のサブセットとする(したがって、T=U∪F)。高い天然度のアンフォールド機序は、複数の不規則残基のコンティグ鎖からなる。ここで、単一のアンフォールドコンティグ鎖の近似を採用し、このコンティグ鎖を不規則化するための自由エネルギーコストを計算した。
【0346】
アンフォールド残基セットUに対する合計自由エネルギー変化ΔFGo(U)は、次の通り。
ΔFGo(U)=ΔEGo(U)-TΔSGo(U) (1)
【0347】
アンフォールドエンタルピー関数ΔEGo(U)は、U残基セットのアンフォールドにより破壊された多くの相互作用により与えられる。
【数2】
【0348】
式2では、i、jの合計は、アンフォールド領域中に対の1つまたは両方の原子を有する全ての重原子のユニーク対を対象にしており、rおよびrは原子iおよびjの座標であり、rcutoff(4.8Åとする)は相互作用距離カットオフである。Θ(x)は、ヘビサイド関数で、xが正の場合、Θ(x)=1で、それ以外は0として定義される。接点当たりのエネルギーは、室温でタンパク質を完全にアンフォールドしたときに全体の実験の安定性ΔFExp(U)|U=Tを繰り返すように選択され得る。
【数3】
【0349】
結果は、この値に依存しない。これは、この問題全体のグローバルエネルギースケールを設定するに過ぎない。このモデルでは、この自由エネルギーは、4.6kcal/molの一定の数値を採用した。この値は、大きな関心事ではない。理由は、エピトープ予測の方法において、不規則化しようとしているのは、同じタンパク質の異なる領域の相対的自由エネルギーコストであるためである。
【0350】
アンフォールドエントロピー項ΔSGo(U)の計算は、下記のBで考察される。
【0351】
B.エントロピー計算
【0352】
アンフォールド状態におけるタンパク質に接触可能な微視的な状態の数は、天然状態での接触可能な数より遥かに多く、そのため、アンフォールド時に、立体配座エントロピーの好ましい増加がある。アンフォールド領域中の全残基Kを合計することによるアンフォールドセグメントUの合計エントロピーが計算される。
【数4】
式中、ΔSbb,K、ΔSbu→ex,K、ΔSex→sol,Kは、文献[3]に記載の残基Kの3つの立体配座エントロピー成分であり、ΔSbb,Kは、天然状態からアンフォールド状態への主鎖エントロピー変化であり、ΔSbu→ex,Kは、埋め込まれた内側タンパク質からタンパク質の表面への側鎖のエントロピー変化であり、ΔSex→sol,Kは、表面からのから溶液への変化に対し側鎖で得られるエントロピーである。
【0353】
1つの補正がアンフォールド状態立体配座エントロピーに適用される。理由は、単一配列近似では、部分的アンフォールド鎖の末端が天然の構造中のそれらの位置に固定されるためである。これは、部分的アンフォールド構造において両端を拘束するために支払われるべきループエントロピーペナルティーが存在することを意味し、これは、完全アンフォールド状態には存在しない。
【数5】
【0354】
ここで、fw(R|N)Δτは、理想的ランダムウォークが、Nステップ後に、ウォーク中にタンパク質中へ侵入逆行することなく、位置Rを中心とする体積τに戻る確率を計算することにより求められる。約n≒20残基より短い鎖長に対しては、融解鎖のサイズは、タンパク質直径よりも遥かに小さく、タンパク質の立体的に排除された量は不透過性面として十分に取り扱える。融解鎖のポリマー状態の数は、タンパク質の表面上の起点から、不透過性面に接触するまたはそれを通過することなく、融解ポリマーがタンパク質中に再入する部位まで移動するランダムウォークの比率を乗ずる必要がある。上記状態の比率は、次の形式で書くことができる。
【数6】
式中、Rは、出口および入口部位間の末端間の距離であり、Nは、融解領域の残基の数であり、a、l、Vcは、アンフォールドポリペプチドシミュレーションに当てはめることにより決定されたパラメーターである。パラメーターlは、2つのCα原子間の有効弧長であり、Vcは、それぞれの残基の平均排除量である。式6をシミュレーション結果にあてはめることにより、パラメーターの値、a=0.0217、l=4.867、Vc=3.291が得られる。このエントロピーペナルティーは一般的なものであり、配列と無関係である。
【0355】
ジスルフィド結合は、アンフォールドセグメントの運動をさらに制限するため、ループエントロピー項に関し追加の検討が必要である。ジスルフィド結合が存在する場合には、ループが通過する必要のある追加のノードとして取り扱われ、事実上、全ループを2つのより小さいループに分割し、両方が、上述の境界条件に晒される。
【0356】
C.自由エネルギーランドスケープからのエピトープ予測
部分的アンフォールタンパク質の自由エネルギーランドスケープが得られると、可変エネルギー閾値Ethが適用され、3個以上のアミノ酸を含み、閾値未満のエネルギーコストを有するセグメントがエピトープ候補として予測される。予測は、変化する閾値Ethに対し安定である。
この方法を用いて予測されたエピトープを実施例2に記載する。
【0357】
実施例2
I.立体配座特異的エピトープ
本開示は、オリゴマーAベータペプチド、特に、ミスフォールドタンパク質種である毒性のオリゴマーのAβペプチドに選択的であり得る抗体に関する。このAβペプチドのプリオン様伝播およびシナプス小胞との干渉は、アルツハイマー病(AD)で生じるシナプス機能障害および認知機能低下が原因であると考えられている。Aβは、ガンマセクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)の切断により生じる長さ36~43アミノ酸のペプチドである。AD患者では、Aβは、モノマー、線維中、および可溶性オリゴマー中に存在する。AβはAD患者の脳にみられるアミロイド斑の主成分である。
【0358】
モノマー型では、Aβは非構造化ポリペプチド鎖として存在する。線維型では、Aβは異なる形態に凝集することができ、これらは多くの場合、株と呼ばれる。上記の構造のうちいくつかのものは固体NMRにより決定されたものであり、一部の線維構造はin vitro試験で得られたものであり、それ以外は、AD患者から採取したアミロイド斑を用いて線維を播種することにより得られたものである。
【0359】
オリゴマーは、毒性のある伝播性のペプチド種であり、モノマーAβを局在化させ、オリゴマーに変換し、最終的に線維に変換することが示唆されている。
【0360】
オリゴマー特異的抗体を作製するための必要条件の1つが、モノマーまたは線維上には存在しないAβペプチド上の標的の特定である。これらのオリゴマー特異的エピトープは、モノマーまたは線維の対応するセグメントと一次配列が異なるわけではないが、オリゴマーにおいて立体配座が異なるものとなる。つまり、これらは、モノマーにも線維にも存在しない独特の立体配座でオリゴマー中に存在することになる。
【0361】
これまでにオリゴマーの構造は決定されておらず、さらに、NMRの証拠から、オリゴマーが単一の明確に定められた構造ではなく、規則性に乏しく立体配座的に可塑性で順応性のある構造アンサンブルの形で存在することが示されている。さらに、オリゴマー種の濃度はモノマーまたは線維のものよりもはるかに低い(推定値には幅があるが、約1000分の1またはそれ以下である)ため、この標的は捉えどころのないものとなっている。
【0362】
一次配列(例えば、直鎖状配列)のコンティグ鎖または線維構造に対する抗体は、その効果を制限する問題点をいくつか抱え得る。直鎖状ペプチド領域に対して産生させた抗体は、オリゴマーに対して選択的ではない傾向があり、このため、モノマーとも結合する。モノマーの濃度は実質的にオリゴマーの濃度より高いため、そのような抗体治療剤は「標的に対する注意散漫」という問題を抱えることがあり、オリゴマー種を選択的に標的とし除去するのではなく、むしろ主としてモノマーと結合し、機能的Aβの除去を促進する。アミロイド封入体に対して産生させた抗体は主として線維と結合し、その結果、血管原性浮腫および/または微小出血を表すと考えられるシグナル変化を含めたアミロイド関連画像異常(ARIA)が生じた。
【0363】
オリゴマー型のAβに選択的な抗体を開発するため、線維内で破壊され得る領域を特定した。理論に拘束されるのを望むわけではないが、線維における破壊が同様にオリゴマーの表面にも露出するのではないかという仮説を立てた。しかし、オリゴマー上では、これらの配列領域は、モノマーおよび/または線維のものとは異なる立体配座で露出し得る。例えば、表面にあるとき、それらは線維またはモノマーにみられる対応する量より曲率が高く、露出表面積が大きく、それとは異なる二面角分布を示すターン領域の形で、および/または線維またはモノマー(例えば、直鎖状ペプチド)中で示される対応する量と比較して、構造的アライメントにより決定して全体的に異なる立体配座形状で露出し得る。
【0364】
HHQK(配列番号1)を含む環状化合物を本明細書に記載し、図7パネルCに示す。この環状化合物は、上記の基準を1つまたは複数満たすよう設計したものである。
【0365】
線維内の破壊されやすい領域を特定することの潜在的有益性の1つは、それにより線維がモノマーからオリゴマーの核を形成する触媒基質としての役割を果たし得る二次的な核形成過程に関与する領域が特定され得ることである[3]。側鎖が露出した線維の領域の方が付近のモノマーとの異常な相互作用に関与してモノマーの付着を促進する可能性が高いと思われ、次いで、このように付着したモノマーは、線維の表面またはその付近で効率的に増大する濃度という環境に曝され、それによりオリゴマーを含めた多量体凝集体を形成する可能性が高くなるものと思われる。Aβの露出領域を有する加齢線維または損傷線維は毒性オリゴマーの産生を増大させ得るものであり、線維上のこれらの不規則な領域に対する抗体は、このような伝播機序を阻止するのに効果的であるものと思われる。
【0366】
II.集団座標およびPromis G-o予測
エピトープHHQK(配列番号1)は、実施例1に記載し、図1に示すように、集団座標法から予測される2MXU株、およびPromis Go法 から予測される2M4J株由来のエピトープとして出てきたものである。
【0367】
パネルAでは、グラフは、部分的に不規則化した線維から得られたエピトープ予測を示す。HHQK(配列番号1)エピトープは、PDB構造2MXU(図1(パネルA、左))に対する予測として出てきたものであり、一方、HQKL(配列番号20)は、PDB構造2M4J(パネルA、右)に対する予測として出てきたものである。(図1、パネルB)、HHQK(配列番号1)は、構造2M4Jの鎖Cに対するProMisアルゴリズムのエピトープ予測として出てきたものである。(パネルC)、HHQK(配列番号1)は、構造2M4Jの鎖G、H、Iに対するエピトープとして出てきたものである。アンフォールドランドスケープは、3つ全ての鎖に対し類似に見え、これは、構造の3回対称に起因する。(パネルD)、HHQK(配列番号1)は、構造2MXUの鎖Lに対するエピトープとして出てきたものである。重なり合っているエピトープHQKL(配列番号20)はまた、集団座標法を用いて、株2M4J(図1)から予測されたエピトープとして出てきたものである。
【0368】
III.環状ペプチドの曲率
残基インデックスに関数としての環状ペプチドの曲率を、直鎖状ペプチドおよび線維の曲率と比較した。
【0369】
ペプチド中の全ての残基に対する曲率値は、それぞれの平衡アンサンブルを平均化後得られる。図2のパネルA、B、またはCの直鎖状、環状、または線維-2M4Jプロット中の点(x、y)は、天然の残基13~16、HHQK(配列番号1)の曲率に対応する。パネルAおよびBのこの範囲の外側の残基、すなわち、パネルAの12、およびパネルBの11、12、および17は、それぞれ直鎖状および環状構築物中に存在する非天然残基に対応する。収束は、アンサンブルを10ナノ秒から、経過時間72ナノ秒、134ナノ秒、196ナノ秒、および258ナノ秒まで平均化することにより示す。パネルGは、線維の曲率と共に、直鎖状および環状ペプチドに対する曲率の収束値を示す。興味深いことに、環状ペプチド中のQ15の曲率は、直鎖状ペプチドまたは線維中の値よりも実質的に小さい。K16はまた、環状ペプチド中で、直鎖状ペプチドよりも顕著に小さい曲率を有し、線維中の曲率と同等であるがそれでもまだそれより小さい。
【0370】
環状および直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)の曲率プロファイルを、線維2M4Jの曲率プロファイルと共に、図2Gに示す。図中に示すように、残基16Kは、直鎖状ペプチドとは異なる曲率を有するが、線維に比べてまだ小さいとはいえ、類似である。以外かもしれないが、環状ペプチド中のグルタミン残基15Qは、直鎖状ペプチドまたは線維中の15Qの曲率に比べて、顕著に小さい曲率を有する。曲率の差異は、環状ペプチドとその他の立体配座型との間の抗原性プロファイルの差異の尺度である。
【0371】
図2Aは、異なる平衡シミュレーション時間から得られた直鎖状CGHHQKG(配列番号2)の曲率をプロットした図である。凡例に示すように、いくつかの曲線が、10ナノ秒から開始されて、72ナノ秒、134ナノ秒、196ナノ秒、または258ナノ秒まで続く。シミュレーション時間が増えるに伴い、曲率値が上記および表1に示す値に収束する。類似の調査の、環状ペプチドの場合を図2Bに、線維の場合を図2Cに示す。パネルD、EおよびFは、直鎖状、環状、および線維立体配座のそれぞれについて、シミュレーション時間の関数としての曲率値の収束を示す。収束度は、エラーバーが、環状ペプチドでは約0.007ラジアン、直鎖状ペプチドでは0.011ラジアン、線維では0.005ラジアンであることを示す。曲率値は、直鎖状アンサンブルでは約200ナノ秒後に、環状アンサンブルでは約150ナノ秒後に、線維アンサンブルでは約20ナノ秒後に完全に収束した。CGHHQKG(配列番号2)に対する残基インデックスの関数としての平均曲率を、パネルGに示す。この図では、直鎖状ペプチドは、灰色実線で、環状ペプチドは薄灰色実線で、線維は点線で示される。残基13H、14H、15Q、および16Kの曲率の数値を表1に記載する。環状ペプチド中のH13の曲率は、直鎖状ペプチドに類似であり、また、線維より大きい。環状ペプチド中のH14の曲率は、直鎖状ペプチド中の値よりわずかに小さいが、それでも線維の値より大きい。Q15の曲率は、直鎖状ペプチドまたは線維中の曲率より実質的に小さい。K16の曲率はまた、直鎖状ペプチド中の曲率より実質的に小さいが、それでも線維中の曲率よりまだ小さい。
【0372】
本明細書で考察した図1~10のプロットでは、データは、Charmm27力場を用いる陽溶媒(TIP3P)中での平衡シミュレーションから得ている。各アンサンブルのシミュレーション時間および立体配置数は以下の通りである。環状ペプチドアンサンブル:シミュレーション時間300ナノ秒、10000のフレームを含む;直鎖状ペプチドアンサンブル:シミュレーション時間200ナノ秒、10000のフレームを含む;2M4Jアンサンブル:60ナノ秒、10000フレームを含む。
【0373】
環状エピトープの曲率は直鎖状ペプチドまたは線維とプロファイルが異なるため、これらの残基を含むオリゴマー上のアミノ酸の対応する伸縮振動は線維またはモノマーのものとは異なる主鎖配向を有するのでなないかと予想される。しかし、曲率の大きさは非物理学的なものであると思われ、環状ペプチドを特徴付ける曲率の数値は非拘束直鎖状ペプチドに対するいくつかの残基で得られる。
【0374】
表2に基づいて、直鎖状、環状および線維(2M4J)ペプチドに対する13H、14H、15Q、および16Kの曲率値を表1に示す。
表1.残基による曲率値
【表3】
【0375】
IV.二面角分布
オリゴマー選択的エピトープを特定するためのさらなるコンピュータ支援が、オリゴマー内の露出エピトープの代わりである環状ペプチドの側鎖二面角分布ならびに主鎖二面角のラマチャンドランφおよびψ分布の両方によって得られる。いくつかの角度は、線維またはモノマー中の対応する分布とは実質的に異なる。
【0376】
側鎖および主鎖二面角分布を4個の残基13H、14H、15Q、および16Kに対し調査した。分布、例えば、「環状」分布中の「直鎖状」の重なり合いパーセントは、角度を5°の要素に分割し、その後、確率振幅中のカットオフを無限大から、環状分布の90%がカットオフを越え、10%がカットオフ未満に残るようになるまで、カットオフを小さくしていくことにより得られる。これにより、許容可能な角度中の1つまたは複数の領域が画定される。この領域内の直鎖状分布のパーセントを次に求めた。この方法は、非相互的であり、通常、数対の分布間で異なる数を与える。
【0377】
図3に示されるように、残基13Hの場合、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、直鎖状および環状ペプチド両方のHHQK(配列番号1)と、線維中の対応する二面角とが明確に区別される。残基14Hの場合は、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、環状二面角分布が、直鎖状または線維アンサンブル中の対応する分布から明確に区別される。同様に、残基15Qの場合は、二面角C-CA-N-HNおよびO-C-CA-CBにより、環状二面角分布が、直鎖状または線維アンサンブル中の対応する分布から明確に区別される。残基16Kの場合は、二面角O-C-CA-CBにより、環状ペプチドが、直鎖状または線維アンサンブルから明確に区別され、二面角C-CA-N-HNにより、環状および直鎖状ペプチドの両方が、線維から明確に区別される。図5Bによると、13Hの主鎖ラマチャンドラン角度φおよびψにより、直鎖状および環状ペプチドが線維から明確に区別されるが、直鎖状および環状ペプチド相互には区別されない。14Hの場合には、図5Cは、環状ペプチドのラマチャンドラン角度φおよびψは両方共、直鎖状または線維アンサンブルとは異なることを示す。同様に、15Qおよび16Kの場合は、図5DおよびEは、環状ペプチドのラマチャンドラン角度φおよびψは、直鎖状または線維アンサンブル中の角度とは異なることを示す。
【0378】
図3に示す二面角分布から、直鎖状ペプチドが、環状ペプチドの二面角のほぼ全体(90%)の範囲内にある二面角を占める確率は、それぞれの二面角について以下の通りである:14H:C-CA-N-HN、14%;15Q:O-C-CA-CB、11%;16K:O-C-CA-CB、28%。全ての重ね合わせ確率を表2に示す。個々の二面角における比較的小さい差異の蓄積が、ペプチドの全体的立体配座の大きく、重要な差異をもたらし、それにより、下記実施例VIIIでさらに記載するように、構造的アライメントの大きな片寄りをもたらすことに留意することは重要である。
【0379】
線維におけるペプチドが、環状ペプチドの二面角のほぼ全体(90%)の範囲内にある二面角を占める確率は、それぞれの二面角について、以下の通りである:13H:O-C-CA-CB、0%;14H:O-C-CA-CB、30%;15Q:O-C-CA-CB、45%;16K:C-CA-N-HN、6%。全ての重ね合わせ確率は、表2を参照されたい。再度、個々の二面角における比較的小さい差異の蓄積が、ペプチドの全体的立体配座の大きく、重要な差異をもたらし、それにより、下記実施例VIIIでさらに記載するように、構造的アライメントの大きな片寄りをもたらすことに留意されたい。
【0380】
図3に基づいて、表2は、直鎖状、環状および線維(2M4J)型中の残基H13、H14、Q15、およびK16の主鎖および側鎖角度に対する二面角分布の重なり合いパーセントを、相互と比較して、示す。例えば、列2は、直鎖状ペプチド中の所定の二面角と、環状型の同じ角度との間の重なり合いパーセンテージを示す。
【表4】
【0381】
上記の側鎖および主鎖二面角分布の解析によると、残基Q15およびK16は、直鎖状ペプチドおよび線維アンサンブルとの大きい相違を示す。これらの尺度により、Q15およびK16は、立体配座選択性を付与するエピトープに対する重要な残基であり得る。残基H14は、より小さい相違を示すが、立体配座選択性を付与するのを支援し得る。
【0382】
図3に示されるデータに基づいて、表3には、環状ペプチド種とそれ以外の種との間に分布の有意差がみられる二面角について二面角分布のピーク値を記載する。表3の列1は、検討した特定の二面角であり、列2は、環状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるその角の二面角分布のピーク値であり、列3は、直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるその角の二面角分布のピーク値であり、列4は、線維構造2M4JにおけるペプチドHHQK(配列番号1)の二面角分布のピーク値であり、および列5は、直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドに対する二面角分布のピーク値の差異である。
【表5】
【0383】
V.側鎖のエントロピー
残基の側鎖のエントロピーは、
【数7】
から概算され得る。式中、合計は特定の残基の側鎖の全二面角であり、p(φ)は上記で解析した二面角分布である。
【0384】
残基側鎖部分のエントロピーの詳細な分析
13H、14H、15Q、および16Kのそれぞれの二面角のエントロピーを調査した。それぞれの残基の二面角のエントロピーを図4のパネルのA~Dにプロットしている。15Qおよび16Kのいくつかの二面角のエントロピーが直鎖状型と比較して減少しており、このことは、直鎖状型およびおそらくモノマーとは異なる傾向がある立体配座においてこれらの角度の形が制約されることを示している。パネルEは、線維のエントロピー比べた残基13H、14H、15Q、および16Kの合計側鎖エントロピー(ラマチャンドラン主鎖角度は含まない)のプロットで、例えば、環状ペプチドのΔSはS(環状)-S(線維)である。これは、環状ペプチドでは、エントロピーは、線維に比較して増大し、直鎖状ペプチドの13H、15Q、および16Kでは増大するが、14Hでは線維に比較して減少する。加えて、環状ペプチドは直鎖状ペプチドよりも小さいエントロピーを有するように見える。パネルFは、線維のエントロピーに比べた残基13H、14H、15Q、および16Kに対する合計側鎖エントロピー+ラマチャンドラン主鎖エントロピーのプロットである。これは再度、15Qおよび16Kでは、エントロピーが、線維に比較して増大するが、環状ペプチドは、これらの残基で、直鎖状ペプチドより小さいエントロピーを有し、したがって、より強く拘束されていることを示す。他方では、H14は、環状および直鎖状型において、線維より小さいエントロピーを示し、直鎖状型では、全ての内で最小エントロピーを示す。これは、線維は、ペプチドの他の部分を拘束し、実際にH14のエントロピーを増大させることを意味する。再度、パネルGは、今度は直鎖状モノマーのエントロピーに比べた残基13H、14H、15Q、および16Kに対する合計立体配座エントロピーのプロットである。これは、残基H13、Q15、およびK16に対する環状ペプチド中の、直鎖状ペプチドに比べて、減少した立体配座エントロピーを示す。しかし、合計エントロピー減少は、約1kBにすぎない。しかし、このわずかに制限されたセットの立体配座になる確率は、exp(-ΔS)≒0.37未満である。理由は環状立体配座がかなりのエントロピーを有するにしても、二面角の重なり合いにおいて上記し、および下記実施例VIIIの構造的重なり合いで記載のように、それらは別々の重なり合わない立体配座分布に対応しているためである。
【0385】
環状ペプチドは、残基15Qおよび16Kに関し、直鎖状ペプチドより強固である。エントロピーはH13に関し、全て同等であり、環状ペプチドのエントロピーは、H14では、直鎖状から増大し、環状および直鎖状の両エントロピーは、線維のエントロピーより小さく、これは、興味深いことに、線維中のエネルギーの制約がH14のエントロピーの増大をもたらすことを示している。環状ペプチドのエントロピーは、直鎖状ペプチドのエントロピーから約1kBだけ小さくなる。環状ペプチドの側鎖立体配座のエントロピーがより低いことから、選択性を付与するのに役立つ可能性のあるより明確に定められた立体配座の形が裏付けられる。
【0386】
VI.ラマチャンドラン角
エピトープが抗体に対して露出する主鎖配向は、ペプチドが直鎖状型であるか、環状型であるか、または繊維型であるかによって異なる。この相違は、直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドの両方の各残基13H、14H、15Q、および16Kについて、主鎖に沿ってラマチャンドラン角ファイおよびプサイ(またはφおよびψ)をプロットすることにより定量化することができる。配列CGHHQKG(配列番号2)からなる直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドの両方ならびに線維構造2M4JにおけるHHQK(配列番号1)の残基13H、14H、15Q、および16Kについて平衡シミュレーションでサンプリングしたファイ角およびプサイ角を図5にプロットする。図5、パネルBから、環状ペプチドの14H、15Q、および16Kに対する主鎖二面角分布は、直鎖状ペプチドまたは線維に対しサンプリングした二面角の分布とは異なることがわかる。
【0387】
環状型の90%のラマチャンドラン角で重なり合いのある直鎖状型における残基14Hのラマチャンドラン角の確率は10%であり、線維の環状との対応する重なり合いは、23%である。環状型と重なり合いのある直鎖状型の残基13Hのラマチャンドラン角の確率は遥かに大きく、76%である。しかし、環状型(0%)の90%のラマチャンドラン角で重なり合いのある線維型の確率は無視できる。15Qに対する対応する確率は、それぞれ10%および28%である。16Kに対する対応する確率は、それぞれ32%および1%である。表4を参照されたい。
【表6】
【0388】
表5は、図5でプロットした、残基13H、14H、15Q、および16Kに対するラマチャンドラン角のピーク値(最可能値)を示す。残基H14、Q15、およびK16に対する最可能ラマチャンドランφおよびψ値は、環状および直鎖状ペプチドの間で異なる。H14の場合、環状分布のピーク値は、(-65、-45)度であり、一方、直鎖状および線維分布のピーク値は、それぞれ(-145、20)および(-115、115)、(-115、15)である。これらのファイおよびプサイ値の環状-直鎖状間の差異は、80および65度であり、ファイおよびプサイ値の環状-線維間の差異は、50、160および60度である。ラマチャンドラン値は、直鎖状と環状ペプチドとの間、および線維と環状ペプチドとの間で大きく異なる。
【0389】
表5はまた、Q15およびK16のファイ、プサイ角度の差異を記載している。Q15の環状と直鎖状との間の差異デルタ(ファイ)は、95度であり、Q15の環状と直鎖状との間の差異、デルタ(プサイ)は、200度であり、環状と線維との間では、差異は最大45度である。K16の場合、環状と直鎖状との間の差異デルタ(ファイ)は、約190度であり、環状と線維との間の差異デルタ(プサイ)は、約55度である。多くのこれらのピーク二面角値の差異は、環状エピトープ立体配座に対して選択した抗体が直鎖状エピトープおよび線維エピトープに対して低い親和性を有する可能性があることを示している。
【0390】
13H、14H、15Q、および16Kに対するラマチャンドラン主鎖φ、ψ分布のピーク値(最も可能性が高い値)を表5に示す。表5の第1列には、検討した残基が記載されており、この残基は括弧内に示される2つの角ファイおよびプサイを示す。第2列には、直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されており、第3列には、環状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)におけるラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されており、最終列には、線維構造2M4Jにおけるラマチャンドランファイ/プサイ角のピーク値が示されている。
【表7】
【0391】
VII.エピトープの溶解度および抗原性
図6、パネルAは、Aベータペプチドの天然配列による各アミノ酸の固有溶解度のプロットである。図6、パネルBは、環状ペプチド、直鎖状ペプチド、および線維の平衡アンサンブル中の各残基の平均溶媒接触表面積(SASA)のプロットである。これは、環状ペプチド中の残基HHQK(配列番号1)のSASAが線維より増大し、加えて、SASAが直鎖状ペプチドより中程度に増大することを示し、より多くの表面が露出され、したがって、抗体結合に接触可能となると可能性があることを示す。露出の増大は、残基K16にとって最も重要であり、これは、直鎖状ペプチドに比べてSASAの最大の増大を示す。
【0392】
図6Cは、図6Aに示す溶解度により重みを付けたSASAを示す。重み付け因子は、所定の残基の溶解度からAベータ線維中の最小溶解度を差し引き、線維中の溶解度の標準偏差で除算することにより得られる。重み付けした溶解度を、環状、直鎖状および線維アンサンブル中の各残基に対しプロットした。図6Dは、環状および直鎖状ペプチドの、線維に対する変化および重み付け溶解度を示す。合わせて、これらのプロットは、残基K16が顕著に溶媒曝露され、結合に対し接触可能であり、残基H13およびH14はまた、結合に対し溶媒曝露されやすいと思われることを示す。
【0393】
線維構造中のHHQK(配列番号1)の立体配座中の残基に比べて、残基が差次的曝露および抗体結合の利用の最大の可能性を有するということに関し決定的な証拠はないが、図6のプロットは、ヒスチジンH13およびH14を含む全ての残基が抗体結合に対し利用可能でなければならないことを示す。
【0394】
VIII.環状ペプチド立体配座のアンサンブルは直鎖状立体配座または線維立体配座アンサンブルとは異なる方法でクラスター化する
立体配座間に標準的な構造的アライメントの測定基準を用い、次いでクラスタリング解析を実施することにより、配列HHQK(配列番号1)が環状ペプチドにおいて直鎖状ペプチドとは異なる立体配座を提示するという決定的証拠を確認することができる。直鎖状ペプチドおよび環状ペプチドのCGHHQKG(配列番号2)ならびにPDB ID 2M4Jに対応する構造の完全長線維について立体配座の平衡アンサンブルを得る。これらのアンサンブルから残基HHQK(配列番号1)に関する立体配座のスナップショットを収集し、次いで環状ペプチドアンサンブルの最も大きいクラスター、直鎖状ペプチドアンサンブルの最も大きいクラスター、および線維アンサンブル中のHHQK(配列番号1)の最も大きいクラスターの重心を構造的に整列させ、その後、3つの平均二乗偏差(RMSD)の値を記録し、プロットする。ここでは、最大クラスターアルゴリズム(http://www.sbg.bio.ic.ac.uk/maxcluster)によりクラスタリングを実施する。図9に、直鎖状アンサンブル、環状アンサンブルおよび線維アンサンブルの3つの対応するRMSD値を三次元散布図としてプロットする。図9、パネルA、B、Cは、3次元散布図の3つの異なる図を示す。
【0395】
表6は、直鎖状、環状および線維(2M4J)ペプチド立体配座のRMSD散布図の重なり合いパーセンテージを示す。列1は、直鎖状型から環状型への重なり合いパーセンテージが極めて小さく、7%にすぎないことを示す。
【表8】
【0396】
図9および表6から、3つのアンサンブルが互いに異なる方法でクラスター化することは明らかである。特に、環状ペプチド構造のアンサンブルは直鎖状アンサンブルまたは線維アンサンブルとは異なっており、このことは、環状ペプチドエピトープに特異的な抗体が直鎖状アンサンブルまたは線維アンサンブル内で提示される立体配座に対して低い親和性を有する可能性があることを示している。環状ペプチドに対し産生させた抗体は、立体配座選択的であり得、直鎖状または線維立体配座のAベータよりもオリゴマー型に結合するのが好ましい。アンサンブル間の区別は、いくつかの側鎖と主鎖との間の二面角分布の重なり合いに関係なく行われ、上記の多数の小さい差次的特徴が全体的に異なる立体配座分布に繋がることも多い。
【0397】
アンサンブル間の重なり合いを、以下のように計算した。環状アンサンブルと重なり合う直鎖状アンサンブルの比率(パーセント)は、最初にこの3次元RMSD空間の量を長さ0.1Åの立方体要素に分割することにより得られる。その後、カットオフ密度以上の環状分布密度を有する立方体が環状分布の90%を含むような、環状分布中の点の「カットオフ密度」が得られる。これは、環状分布を含み、外れ値による全てのアーチファクトを取り除く特徴的体積を与える体積(これは不連続であってよい)を決定する。その後、この領域内にある直鎖状分布由来の点の比率が得られる。この方法を用いることにより、直鎖状中の線維、直鎖状中の環状、などに関する重なり合いパーセンテージを得ることが可能である。
【0398】
上記方法で得られた数値的重なり合いパーセンテージを表6に示す。特に、環状ペプチドおよび線維ペプチド2M4Jは、0%の重なり合いである。上記方法によると、環状分布内の直鎖状分布の重なり合いは7%であり、直鎖状ペプチドは、約93%の確率で環状立体配座とは異なるサンプリング状態であることを意味する。
【0399】
図9、パネルDは、本文で記載のように、直鎖状アンサンブルの90%の線維アンサンブルとの重なり合いパーセントを示し、パネルEは、直鎖状アンサンブルの90%の環状アンサンブルとの重なり合いパーセントを示す。この数字は、特に重要である。理由は、これは直鎖状ペプチドが環状ペプチドと一致する立体配座をとる可能性を示すためである。パネルFは、環状アンサンブルの90%の直鎖状アンサンブルとの重なり合いパーセントを示す。図9のパネルGは、線維アンサンブルの90%の直鎖状アンサンブルとの重なり合いパーセントを示す。数値的重なり合いパーセンテージを表6に示す。さらに、パネルHは、環状ペプチドアンサンブルの、そのパーセンテージを0%~100%変えた場合の、特定のパーセント内の直鎖状ペプチドアンサンブルの重なり合いパーセントを示す。パーセンテージが90%の場合、重なり合いパーセンテージは、パネルEおよび表6の収束数値(7%)に等しいことに留意されたい。再度、これは、直鎖状ペプチドが環状様立体配座をとる可能性を決定する。パネルIは、最初に、カットオフ値、すなわち、合計分布の与えられたパーセンテージが包含されるような、例えば、環状および直鎖状分布に対する合計分布の60%になる密度カットオフ値、より大きい密度を有する分布の部分を得ることにより決定される、直鎖状と環状との分布の間の相関係数を示す。その後、これらの部分分布に対し、相関係数が下記の通り定義される。
【数8】
このように定義された、直鎖状と環状との分布間の相関係数は、100%のそれぞれの分布が含まれる場合、約7%に収束する。
【0400】
例えば、図9のパネルD~Gは、アンサンブル重なり合い値の収束を示す。図9Dは、直鎖状および線維アンサンブルが、0.04%未満に収束した重なり合いを有することを示す。図9Eは、直鎖状アンサンブルが環状アンサンブルと約7%の収束値により重なり合うことを示す。図9Fは、環状アンサンブルが直鎖状アンサンブルと32%の収束値により重なり合うことを示す。図9Gは、線維アンサンブルが直鎖状アンサンブルと約0.6%の収束値により重なり合うことを示す。
【0401】
図9、パネルHは、環状ペプチドアンサンブルの、そのパーセンテージを0%~100%変えた場合の、特定のパーセント内の直鎖状ペプチドアンサンブルの重なり合いパーセントを示す。パーセンテージが90%の場合、重なり合いパーセンテージは、パネルEおよび表6の収束数値(7%)に等しいことに留意されたい。再度、これは、直鎖状ペプチドが環状様立体配座をとる可能性を決定する。
【0402】
図9、パネルIは、最初に、カットオフ値、すなわち、合計分布の与えられたパーセンテージが包含されるような、例えば、環状および直鎖状分布に対する合計分布の60%になる密度カットオフ値、より大きい密度を有する分布の部分を得ることにより決定される、直鎖状と環状との分布の間の相関係数を示す。その後、これらの部分分布に対し、相関係数が下記の通り定義される。
【数9】
このように定義された、直鎖状と環状との分布間の相関係数は、100%のそれぞれの分布が含まれる場合、約7%に収束する。
【0403】
図9、パネルJは、単一残基欠失の直鎖状アンサンブルと90%環状アンサンブルとの構造的重なり合いに与える影響を調査する。単一アミノ酸が立体配座選択性を与える場合には、構造的アライメントからそれを除くことにより、分布間でかなり高い重なり合いが生ずるであろう。この試験により、K16は、環状ペプチドに対し、最高の立体配座選択性を与え得ものとして優れている。
【0404】
図7のパネルAに、環状ペプチドアンサンブル構造由来の最大クラスターの重心を構成する、環状ペプチドからのHHQK(配列番号1)の最も典型的な立体配座の2つの図が黒色で示されている。加えて、最大クラスターの重心を構成する直鎖状ペプチドアンサンブルの最も典型的な立体配座が図7に白色で示され、黒色で示された環状ペプチド上に、RMSDを用いてそれらを整列させることにより、最も適切なように重なり合わされ、それらの異なる配向性が明確にされている。図7、パネルBは、この場合も、RMSDを基準にしてそれらを整列させることにより最も適切なように重なり合わされた、完全配列CGHHQKG(配列番号2)の、環状ペプチドおよび直鎖状ペプチドに対する対応する重心立体配座を示す。
【0405】
表7は、環状ペプチドアンサンブルの重心構造、直鎖状ペプチドアンサンブルの重心構造、および線維アンサンブルの重心構造中の13H、14H、15Q、および16Kにより占められるラマチャンドラン主鎖および側鎖二面角の値を記載している。図7には、環状および直鎖状重心立体配座がプロットされている。重心構造は、環状立体配座と直鎖状または線維立体配座との間でかなり異なるいくつかの二面角を示す。表7の列1は目的の残基および二面角を示し、列2は環状アンサンブルの重心構造中の二面角の値を示し、列3は直鎖状アンサンブル重心における二面角値を示し、列4は線維アンサンブル重心における二面角の値を示す。多くの環状二面角は、直鎖状または線維重心における対応する二面角とは大きく異なることが明らかである。例えば、残基16K中の二面角C-CA-CB-CGは、環状と直鎖状との間で110度の差異を示し、環状と線維との間では111度の差異を示す。重心構造の二面角は、二面角分布のピーク値と同じである必要はないことに留意されたい。
【表9】
【0406】
図8は、環状、直鎖状、および2M4J線維アンサンブルに対する重心構造を、ここでは、残基HHQK(配列番号1)の表面積表現を用いて、再度示す。抗体に対し提示され得る表面積プロファイルは、重心立体配座間で異なる。図8Bは、整列された環状および線維のHHQK(配列番号1)のSASA表面(左)、ならびに整列された環状および直鎖状ペプチドのHHQK(配列番号1)のSASA表面(右)を示す。パネル8Cは、HHQK(配列番号1)の線維単独でのSASA表面を示し、これは、対応する残基の埋没の程度を示している。したがって、Aベータの直鎖状ペプチド中のこの領域に対し産生された抗体は、環状HHQK(配列番号1)に結合しそうもなく(例えば、等しいまたは類似の選択性を有する)、逆に、環状HHQK(配列番号1)に対し産生された抗体は、Aベータ中のこの領域に結合しそうもない(例えば、等しいまたは類似の選択性を有する)。
【0407】
図10は、環状アンサンブルがAベータ線維のその他のいずれかの株と大きくは重なり合わないことを示す。特に、環状ペプチドアンサンブル分布と線維分布との間の重なり合いはゼロである。図10AはPDB 2MXU(2つの別の図)の結果、図10BはPDB 2LMPの結果、および図10CはPDB 2LMN(2つの別の図)の結果を示す。
【0408】
実施例3
立体配座拘束エピトープを含む環状化合物構築
シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)などのHHQK(配列番号1)を含むペプチドは頭-尾環化することができる。
【0409】
Fmocベースの固相ペプチド合成などの既知の方法を単独で、または他の方法と組み合わせて用い、HHQK(配列番号1)と、好ましくは2個、3個もしくは4個のアミノ酸および/またはPEG単位を含むリンカーとを含む、直鎖状ペプチドを合成することができる。例えばHamley(2014)[6]およびRobertsら(2012)[7](それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているカップリング化学を用いて、PEG分子をN末端のアミン基に結合させることができる。直鎖状ペプチド化合物は、1)ペプチド+リンカーのアミノ末端とカルボキシ末端を共有結合させてペプチド結合を形成させること(例えば、主鎖の環化)、2)ペプチド+リンカー内のアミノ末端もしくはカルボキシ末端と側鎖を共有結合させること、または3)ペプチド+リンカー内の2つの側鎖を共有結合させることにより環化され得る。
【0410】
環状化合物内の結合は、すべて通常のペプチド結合であっても(ホモデティック環状ペプチド)、あるいはエステル結合、エーテル結合、アミド結合もしくはジスルフィド結合などの他のタイプの結合を含んでも(ヘテロデティック環状ペプチド)よい。
【0411】
ペプチドをN末端もしくはC末端またはペプチドの内側にある、例えばシステインおよびホモシステインを含めたチオール含有残基またはメルカプタン含有残基の酸化により環化させ得る。例えば、ペプチドに隣接する2個のシステイン残基を酸化させてジスルフィド結合を形成させ得る。用い得る酸化試薬としては、例えば、酸素(空気)、ジメチルスルホキシド、酸化グルタチオン、シスチン、塩化銅(II)、フェリシアン化カリウム、トリフルオロ酢酸タリウム(III)またはその他の酸化試薬、例えば当業者に公知であり当業者に公知の方法とともに使用し得る酸化試薬などが挙げられる。
【0412】
米国特許出願公開第2009/0215172号、米国特許出願公開第2010/0240865号、米国特許出願公開第2010/0137559号には環状ペプチド合成に関連する方法および組成物が記載されており、米国特許第7,569,541には環化の様々な方法が記載されている。国際公開第01/92466号およびAndreuら,1994.Methods in Molecular Biology 35:91-169にはその他の例が記載されている。
【0413】
より具体的には、システイン残基が隣接し、かつ/または挿入されているスペーサーを含むリンカーを付加することにより、HHQK(配列番号1)エピトープを含む環状ペプチドを構築することができる。ペプチドのN末端およびC末端に付加した非天然システイン残基の間でジスルフィド結合を形成させることにより、ペプチドを環状立体配座に構築することができる。また、N末端とC末端のアミノ酸の間でペプチド結合を形成させること(例えば、頭-尾環化)により、それを環状化合物に合成することができる。
【0414】
ペプチド合成を標準的な製造方法に従いCPC Scientific社(サニーベール、カリフォルニア州、米国)で実施する。
【0415】
例えば、HHQK(配列番号1)を含むペプチドのN末端およびC末端に付加したシステイン残基間のジスルフィド結合を用いて、拘束された環状立体配座の立体配座エピトープHHQK(配列番号1)を含むシクロ(CGHHQKGC)(配列番号13)環状ペプチドを構築することができる。2つの非天然システイン残基にうち1つをGHHQK(配列番号11)のC末端に、1つをN末端に付加した。この2つのシステインを制御された条件下で酸化してジスルフィド架橋を形成させる、または頭部と尾部を反応させてペプチド結合を生じさせる。
【0416】
上記の通り、AベータオリゴマーのHHQK(配列番号1)のアミノ酸主鎖および側鎖の立体配座および配向を模倣するように環状ペプチドの構造を設計した。
シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)
【0417】
以下の方法(CPC Scientific社、サニーベール、カリフォルニア州)を用いてシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を合成した。標準的な従来のFmocベースの固相ペプチド合成により、保護された直鎖状ペプチドを2-クロロトリチルクロリド樹脂上で合成し、次いで、30%HFIP/DCMを用いて樹脂から切断した。低濃度のEDC.HCl/HOBt/DIEAのDMF溶液を用いることにより、保護された直鎖状ペプチドを対応する保護された環状ペプチドに環化した。保護された環状ペプチドをTFAにより脱保護して粗環状ペプチドを得、粗ペプチドをRP HPLCにより精製し、凍結乾燥後、純粋な環状ペプチドを得た。
【0418】
直鎖状ペプチドCGHHQKG(配列番号2)のアミド縮合によりシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を調製することができる。
【0419】
直鎖状化合物C-PEG2-HHQKG(配列番号3)のアミド縮合によりシクロ(C-PEG2-HHQKG)(配列番号3)を調製することができる。
【0420】
直鎖状化合物CGHHQK-PEG2(配列番号4)のアミド縮合によりシクロ(CGHHQK-PEG2)(配列番号4)を調製することができる。
【0421】
直鎖状(CGHHQKG)(配列番号2)を調製した(CPC Scientific社、サニーベール、カリフォルニア州)。標準的な従来のFmocベースの固相ペプチド合成により、保護された直鎖状ペプチドをFmoc-Gly-Wang樹脂上で合成し、次いで、保護されたペプチドをTFAにより切断して粗ペプチドを得、粗ペプチドをRP HPLCにより精製し、凍結乾燥後、純粋なペプチドを得、これを用いてBSAをコンジュゲートした。
【0422】
免疫原構築
環状化合物シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を上記の通りに合成し、次いでBSAおよび/またはKLHとコンジュゲートした(CPC Scientific社、サニーベール、カリフォルニア州)。PBS緩衝液に溶かしたSMCCによりBSAまたはKLHを再活性化し、次いで、純粋なペプチドをPBS緩衝液に溶かした溶液をコンジュゲーション混合物に加え、コンジュゲーション混合物を室温で2時間攪拌した。次いで、コンジュゲーション混合物を透析後に凍結乾燥させて、コンジュゲーション産物を得た。
【0423】
実施例4
抗体の生成および選択
立体配座拘束化合物、任意選択で環状化合物、例えばシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)ペプチドなどのHHQK(配列番号1)を含む環状ペプチドなどとキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)とを結合させる。シクロペプチドシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を記載のように作製し、カナダ動物管理協会により承認されたプロトコルに従ったマウスモノクローナル抗体作製のために(ImmunoPrecise Antibodies LTD(ビクトリア、ブリティッシュコロンビア州、カナダ))に送付した。マウス血清を、抗体の産生に使用した立体配座ペプチドを用いてスクリーニングしたが、しかし、BSAと結合した関連ペプチド、例えば、シクロ(CGHHQK-PEG2)-ペプチド(配列番号4)を用いても同様にスクリーニングできる。
【0424】
実施例6にさらに記載するように、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を含む免疫原を用いてハイブリドーマを作製した。ELISAおよびSPRにより、本明細書に記載される直鎖状(非構造化)ペプチドよりもシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)ペプチドと優先的に結合するハイブリドーマ上清をスクリーニングした。陽性IgG分泌クローンを大規模生産およびプロテインGを用いるさらなる精製に供する。
【0425】
実施例5
斑/線維との結合の有無の評価
免疫染色には、本明細書に記載される抗体、陽性対照の6E10(1μg/ml)およびアイソタイプ対照の、例えば、IgG1、IgG2aおよびIgG2b(1μg/ml、Abcam社)を一次抗体として用いる。切片を4℃で一晩インキュベートし、TBS-Tで3×5分間洗浄する。西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗マウスIgG(1:1000、ECL社)を切片に添加し、45分間インキュベートし、次いでTBS-Tで3×5分間洗浄する。DAB発色試薬(Vector Laboratories社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)を加え、バックグランド染色に対して所望の標的レベルに達したとき、切片を蒸留水でリンスする。切片をマイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。スライドを光学顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Carl Zeiss Canada社、トロント、オンタリオ州、カナダ)下で検査し、Leica社のDC300デジタルカメラおよびソフトウェア(Leica Microsystems Canada社、リッチモンドヒル、オンタリオ州)を用いて代表的な画像を50倍、200倍および400倍の倍率で記録する。
【0426】
実施例6
方法および材料
免疫原
米国カリフォルニア州サニーベールのCPC Scientific社でペプチドを作製した(環状および直鎖状両方)。トリフルオロ酢酸対イオンプロトコルを用いてペプチドをKLH(免疫感作用)およびBSA(スクリーニング用)とコンジュゲートした。ペプチドを脱塩し、MSおよびHPLCにより確認し、純度95%であると判断された。ペプチドをIPA社に発送し、マウスを用いたモノクローナル抗体の作製に使用した。
【0427】
抗体
キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)と結合したシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対するハイブリドーマおよびモノクローナル抗体をいくつか作製した。
【0428】
50日齢の雌BALB/cマウス(Charles River Laboratories社、ケベック州)を免疫感作した。抗原を含有するがアジュバントは含有しない一連の皮下水性注射剤を19日間にわたって投与した。環状ペプチド-KLHの0.5mg/mL無菌生理食塩水溶液の注射によりマウスを1匹当たり100μgのペプチドで免疫感作した。マウスをLab Products社の換気ラックシステムで飼育した。第19日、マウス全4匹を安楽死させ、ハイブリドーマ細胞系の作製用にリンパ球を回収した。
【0429】
融合/ハイブリドーマの発育
リンパ球を単離し、ポリエチレングリコール(PEG1500)の存在下でマウスSP2/0ミエローマ細胞と融合させた。融合した細胞をHAT選択を用いて培養した。この方法では、半固形メチルセルロース系HAT選択培地を用いてハイブリドーマ選択とクローン化とを1つの段階に組み合わせる。半固形培地上で単一細胞由来のハイブリドーマが増殖してモノクローナルコロニーを形成した。融合事象から10日後、得られたハイブリドーマクローンを96ウェル組織培養プレートに移し、中期対数増殖期に達するまで(5日)HT含有培地で増殖させた。
【0430】
ハイブリドーマの解析(スクリーニング)
ハイブリドーマの組織培養上清を間接ELISAによりスクリーニング抗原(環状ペプチド-BSA)(一次スクリーニング)で試験し、ヤギ抗IgG/IgM(H&L)-HRP二次抗体を用いてIgG抗体およびIgM抗体の両方について探索し、TMB基質で発色させた。このアッセイで0.2OD超であったクローンを次の試験ラウンドに進めた。陽性培養物をスクリーニング抗原で再試験して分泌を確認し、無関係の抗原(ヒトトランスフェリン)で再試験して非特異的mAbを除去し、偽陽性を除外した。抗体捕捉ELISAにより目的とする全クローンにアイソタイピングを実施して、それらがIgGアイソタイプであるのか、またはIgMアイソタイプであるのかを判定した。また、目的とする全クローンを間接ELISAにより他の環状ペプチド-BSAコンジュゲートおよび直鎖状ペプチド-BSAコンジュゲートで試験して、交差反応性を評価した。
【0431】
BSAとコンジュゲートしたシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)を用いた間接ELISAにより、マウスハイブリドーマ抗体をスクリーニングした。
【0432】
ELISA抗体スクリーニング
簡潔に述べれば、ELISAプレートを4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルのシクロ(CGHHQKG)(配列番号2)コンジュゲートBSA 100uL/ウェルでコートし、脱脂粉乳の3%PBS溶液を用いて室温で1時間ブロックした。一次抗体:37℃で振盪しながら1時間インキュベートした100uL/ウェルのハイブリドーマ上清。二次抗体:37℃で1時間振盪したPBS-Tween中100uL/ウェルの1:10,000ヤギ抗マウスIgG/IgM(H+L)-HRP。全洗浄段階をPBS-Tweenで30分間実施した。基質3,3’,5,5’,-テトラメチルベンジジン(TMB)を50uL/ウェルで加え、暗所で発色させ、等体積の1M HClで停止させた。
【0433】
さらなる試験のため陽性クローンを選択した。マウスHHQK(配列番号1)ハイブリドーマの陽性クローンを間接ELISAにより、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)コンジュゲートBSAおよびヒトトランスフェリン(HT)に対する反応性について試験した。プレートを1)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルのシクロ(CGHHQKG)コンジュゲートBSA(配列番号2)100uL/ウェル;または2)37℃のdH2O O/N中0.25ug/ウェルのHT抗原50uL/ウェルでコートした。一次抗体:37℃で振盪しながら1時間インキュベートした100uL/ウェルのハイブリドーマ上清。二次抗体:37℃で1時間振盪したPBS-Tween中100uL/ウェルの1:10,000ヤギ抗マウスIgG/IgM(H+L)-HRP。全洗浄段階をPBS-Tweenで30分間実施した。基質3,3’,5,5’,-テトラメチルベンジジン(TMB)を50uL/ウェルで加え、暗所で発色させ、等体積の1M HClで停止させた。
【0434】
ELISAによるシクロと直鎖状CGHHQKG(配列番号2)化合物の選択性
ELISAプレートを1)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルのシクロ(CGHHQKG)コンジュゲートBSA(配列番号2)100uL/ウェル;2))4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルの直鎖状CGHHQKGコンジュゲートBSA(配列番号2)100uL/ウェル;または3)4℃の炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)O/N中0.1ug/ウェルの陰性ペプチド100uL/ウェルでコートした。一次抗体:37℃で振盪しながら1時間インキュベートした100uL/ウェルのハイブリドーマ上清。二次抗体:37℃で1時間振盪したPBS-Tween中100uL/ウェルの1:10,000ヤギ抗マウスIgG/IgM(H+L)-HRP。全洗浄段階をPBS-Tweenで30分間実施した。基質TMBを50uL/ウェルで加え、暗所で発色させ、等体積の1M HClで停止させた。
【0435】
アイソタイピング
抗体捕捉実験を用いてハイブリドーマ抗体にアイソタイピングを実施した。捕捉プレートをpH9.6の炭酸塩コーティング緩衝液中、4℃で一晩、100uL/ウェルの1:10,000ヤギ抗マウスIgG/IgM(H&L)抗体でコートした。ブロッキング段階は用いなかった。一次抗体(ハイブリドーマ上清)を加えた(100ug/mL)。二次抗体:37℃で1時間振盪したPBS-Tween中100uL/ウェルの1:5,000ヤギ抗マウスIgGγ-HRPまたは1:10,000ヤギ抗マウスIgMμ-HRP。全洗浄段階をPBS-Tweenで30分間実施した。基質TMBを50uL/ウェルで加え、暗所で発色させ、等体積の1M HClで停止させた。
【0436】
SPR結合アッセイ-一次および二次スクリーニング
抗体とAベータモノマーおよびAベータオリゴマーとの結合に関するSPR解析
Aベータモノマーおよびオリゴマー調製
氷冷ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)にAベータモノマーおよびAベータオリゴマーの調製組換えAベータ40およびAベータ42ペプチド(California Peptide社、ソルトレイクシティ、ユタ州、米国)を溶かした。一晩蒸発させることによりHFIPを除去し、SpeedVac遠心機で乾燥させた。モノマーの調製には、ペプチド薄膜をDMSOで戻して5mMとし、dH2Oでさらに100μMに希釈し、直ちに使用した。5mMのDMSOペプチド溶液を無フェノールレッドF12培地(Life Technologies社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)で希釈して最終濃度100μMとすることによりオリゴマーを調製し、4℃で24時間~7日間インキュベートした。
【0437】
SPR解析
SPR解析高強度レーザー光および高速光学式走査を用いて結合相互作用をリアルタイムでモニターする分析用バイオセンサーであるMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて、全SPR測定を実施した。SPR直接結合アッセイを用いて組織培養上清の一次スクリーニングを実施し、このアッセイでは、High Amine Capacity(HAC)センサーチップ(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)の個々のフローセル上にBSAコンジュゲートペプチド、Aベータ42モノマーおよびAベータ42オリゴマーを共有結合で固定化し、表面に抗体を流した。二次スクリーニングでは、プロテインGで精製したmAbをSPR間接(捕捉)結合アッセイを用いて解析し、このアッセイでは、プロテインA誘導体化センサーチップ(XanTec Bioanalytics社、デュッセルドルフ、ドイツデュッセルドルフ、ドイツ)上に抗体を捕捉し、表面にAベータ40モノマー、Aベータ42オリゴマー、可溶性脳抽出物および脳脊髄液を流した。SPR直接結合アッセイで、HACセンサーチップの個々のフローセル上にAベータ42モノマーおよびAベータ42オリゴマーを共有結合で固定化し、精製mAbを流すことにより抗体の特異性を検証した。
可溶性脳抽出物およびCSF試料のSPR解析
【0438】
可溶性脳抽出物およびCSF調製物
可溶性脳抽出物およびCSFの調製
UBC Alzheimer’s and Related Disorders Clinicで評価した患者からヒトの脳組織およびCSFを採取した。推定ADの臨床診断はNINCDS-ADRDA基準[5]に基づくものである。腰椎穿刺後1時間以内にCSFをポリプロピレンチューブに収集し、処理し、100μLポリプロピレンバイアルに等分し、-80℃で保管する。
【0439】
ホモジナイゼーション:ヒト脳組織試料の重量を測定し、次いで、脳組織の最終濃度が20%(w/v)になるよう一定量の新鮮な氷冷TBS(カナダケベック州ラヴァルのRoche Diagnostics社の無EDTAプロテアーゼインヒビターカクテルを添加したもの)に浸漬した。この緩衝液中で機械的プローブホモジナイザーを用いて組織をホモジナイズ(間に30秒の停止を挟んで3×30秒のパルス、いずれも氷上で実施)する。次いで、TBS中でホモジナイズした試料を超遠心分離にかける(70,000×gで90分)。上清を収集し、等分し、-80℃で保管する。BCAタンパク質アッセイ(Pierce Biotechnology社、ロックフォード、イリノイ州、米国)を用いてTBSホモジネートのタンパク質濃度を求める。
【0440】
SPR解析
SPR解析AD患者4例および同年齢の対照4例の脳抽出物ならびにAD患者9例および同年齢の対照9例のCSF試料をプールし解析した。プロテインA誘導体化センサーチップの別個のフローセル上に精製mAbを捕捉し、表面に希釈試料を180秒間注入し、次いで、緩衝液で120秒間解離を実施し、表面を再生した。マウス対照IgG参照の表面結合およびアッセイ緩衝液の減算により結合応答を二重参照し、異なる試料のグループを比較した。
【0441】
Aベータモノマーとの結合の有無の評価
組織培養上清の一次スクリーニングでは、Aベータ42モノマーおよびAベータ42オリゴマーを直接結合アッセイに用いた。二次スクリーニングでは、Aベータ40モノマーおよびAベータ42オリゴマー、可溶性脳抽出物およびCSF試料を間接(捕捉)結合アッセイに用いた。
一次スクリーニング
【0442】
コグネイト環状ペプチドに対する抗体の結合の有無について組織培養上清をスクリーニングした。各試料を希釈し、固定化したペプチドおよびBSA参照の表面に120秒間、二重反復で注入し、次いで、300秒間の解離相にのみランニング緩衝液を注入した。解析サイクル毎に、センサーチップ表面を再生した。BSA参照表面およびブランクランニング緩衝液注入から結合を減算することによりセンサグラムを二重参照し、解離相の結合応答報告点を収集した。
【0443】
オリゴマー結合アッセイ
次の合成Aベータ42オリゴマーを上記の通りに作製および固定化し、抗体結合応答を解析した。Aベータ42オリゴマーに対する抗体結合応答を環状に対する結合応答と比較した。
【0444】
Aベータオリゴマーとの結合の検証。
Aベータ42オリゴマー結合をさらに検証および確認するため、抗体を共有結合で固定化し、次いで、市販の調製済みの安定なAベータ42オリゴマー(SynAging社、ヴァンドゥーヴル=レ=ナンシー、フランス)を表面に注入した。
【0445】
結果
ELISA試験では、ハイブリドーマクローンの大部分がシクロペプチドと結合することがわかった。
次のクローンをシクロおよび直鎖状HHQK(配列番号1)化合物に対する結合選択性についてELISAにより試験した。複数のクローンがCGHHQKGコンジュゲートBSA(配列番号2)よりも優先的にシクロ(CGHHQKG)コンジュゲートBSA(配列番号2)と結合した。
【0446】
アイソタイピングでは、クローンの大部分がIgG1クローン、IgG2aクローンおよびIgG3クローンを含めたIgGであることがわかった。IgMクローンおよびIgAクローンも複数同定されたが、それ以上追究しなかった。
【0447】
表面プラズモン共鳴を用いた直接結合解析を実施して、配列番号2の環状ペプチドと結合する組織培養上清中の抗体についてスクリーニングした。結果を図11および表8に示す。
【0448】
図12は、SPR直接結合アッセイ結果とELISA結果の間の相関をプロットしたものであり、直接結合の結果とELISAの結果との間に相関があることを示している。
【0449】
上記の通りに調製した環状ペプチド、直鎖状ペプチド、Aベータ1~42モノマーおよびAベータ1~42オリゴマーとの結合能についてクローンを再試験した。上記のSPRを用いて結合アッセイを実施した(直接結合アッセイ)。表8に示すように、実施した結合アッセイに基づきクローンをいくつか選択した。
【0450】
選択したクローンはIgG mAbであった。一次スクリーニングの負の数は結合がみられなかった(例えば、アイソタイプ対照未満であった)ことを示している。
【表10】
【0451】
ELISAプレスクリーニング
ハイブリドーマ上清のELISAプレスクリーニングにより、直鎖状ペプチドと比較して環状ペプチドとの結合の増大を示すクローンを特定した。そのクローンの一部はKLH-エピトープリンカーペプチドに対して反応性であった。これらはさらなる検討から除外した。本明細書に記載されるアイソタイピング法を用いて、クローンの大部分がIgGアイソタイプであることが明らかになった。
【0452】
表面プラズモン共鳴により測定する直接結合-一次スクリーニング
表面プラズモン共鳴を用いて、抗体クローンを含有する組織培養上清を環状ペプチド、直鎖状ペプチド、AベータオリゴマーおよびAベータモノマーとの直接結合について試験した。
【0453】
一次スクリーニングの結果を図11に示す。パネルAは環状ペプチドおよび直鎖状ペプチドとの結合を示している(非構造化)。パネルBはAベータオリゴマーおよびAベータモノマーとの結合を示している。環状ペプチドに対しては、いくつかのクローンが反応性の増大を示し、直鎖状ペプチドに対しては、いずれのクローンも反応性が最小限であるか、または反応性を全く示さない。全体的にAベータオリゴマー結合に対する選択性がみられる。モノマー反応性は、大部分のクローンがほぼ0または0未満である。
【0454】
図13に、選択したクローンの結合プロファイルを比較して示す。表面プラズモン共鳴を用いて、環状ペプチド(構造化)、直鎖状ペプチド(非構造化)、AベータモノマーおよびAベータオリゴマーにおける特定のエピトープに対する直接結合について各クローンを評価する。アスタリスクで示される対照には、非構造化エピトープ(例えば、直線状エピトープ)に対して優先的に反応性を示すクローンを選択した。
【0455】
図12は、クローン組織培養上清のSPR直接結合アッセイ結果およびELISA結果の結果をプロットしたものであり、直接結合の結果とELISAの結果との間に相関があることを示している。
【0456】
実施例7
二次スクリーニング
免疫組織化学
固定も抗原回復も実施していない凍結ヒト脳切片に免疫組織化学を実施した。加湿チャンバ内で無血清タンパク質ブロッキング試薬(Dako Canada社、ミシサガ、オンタリオ州、カナダ)と1時間インキュベートすることにより非特異的結合をブロックした。免疫染色には以下の一次抗体を使用した:マウスモノクローナルアイソタイプ対照IgG1、IgG2aおよびIgG2bならびに抗アミロイドβ6E10(以上、Biolegend社から購入)ならびにシクロペプチドに対して反応性を示す選択した精製クローン。いずれの抗体も1μg/mLで使用した。切片を室温で1時間インキュベートし、TBS-Tで3×5分間洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗マウスIgG(1:1000、ECL社)を切片に添加し、45分間インキュベートし、次いでTBS-Tで3×5分間洗浄した。DAB発色試薬(Vector Laboratories社、バーリントン、オンタリオ州、カナダ)を加え、バックグランド染色に対して所望の標的レベルに達したとき、切片を蒸留水でリンスした。切片をマイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、脱水し、カバーガラスをかけた。スライドを光学顕微鏡(Zeiss Axiovert 200M、Carl Zeiss Canada社、トロント、オンタリオ州、カナダ)下で検査し、Leica社のDC300デジタルカメラおよびソフトウェア(Leica Microsystems Canada社、リッチモンドヒル、オンタリオ州)を用いて代表的な画像を20倍および40倍の倍率で記録した。Adobe PhotoshopでLevels Auto Correctionを用いて画像を最適化した。
【0457】
CSFおよび脳抽出物
UBCのClinical Research Ethics Board(C04-0595)から承認を受け、メリーランド大学のBrain and Tissue Bankからヒト脳組織を入手した。UBC Hospital Clinic for Alzheimer’s and Related Disordersで評価した患者からCSFを採取した。この試験はUBCのClinical Research Ethics Boardにより承認を受けたものであり、CSF試料を収集する前に参加者または法律上の近親者から書面による同意を得た。推定ADの臨床診断はNINCDS-ADRDA基準に基づくものとした。腰椎穿刺後1時間以内にCSFをポリプロピレンチューブに収集し、処理し、100μLポリプロピレンバイアルに等分し、-80で保管した。
【0458】
ホモジナイゼーション:ヒト脳組織試料の重量を測定し、次いで、脳組織の最終濃度が20%(w/v)になるよう一定量の新鮮な氷冷TBSおよびRoche Diagnostics社(ラヴェル、ケベック州、カナダ)の無EDTAプロテアーゼインヒビターカクテルに浸漬した。この緩衝液中で機械的プローブホモジナイザーを用いて組織をホモジナイズ(間に30秒の停止を挟んで3×30秒のパルス、いずれも氷上で実施)した。次いで、TBS中でホモジナイズした試料を超遠心分離にかけた(70,000×gで90分)。上清を収集し、等分し、-80℃で保管した。BCAタンパク質アッセイ(Pierce Biotechnology社、ロックフォード、イリノイ州、米国)を用いてTBSホモジネートのタンパク質濃度を求めた。
【0459】
CSF:ADを有するドナー9例およびADを有さないドナー9例からCSFをプールした。精製IgGを全抗体とも30マイクログラム/mlの濃度で用いて、試料をSPRにより解析した。マウスIgGを抗体対照として使用し、いずれの実験も少なくとも2回反復した。
【0460】
抗体6E10を用いてCSFおよび脳抽出物での陽性結合を確認した。
SPR解析:AD患者の脳抽出物4例および同年齢の対照の脳抽出物4例をプールし解析した。TBS中でホモジナイズした脳試料には前頭皮質のブロードマン第9野が含まれていた。いずれの実験も、高強度レーザー光および高速光学式走査を用いて結合相互作用をリアルタイムでモニターする分析用バイオセンサーである、実施例6に記載のMolecular Affinity Screening System(MASS-1)(Sierra Sensors社、ハンブルク、ドイツ)を用いて実施した。本明細書に記載されるシクロペプチドに対して作製した精製抗体をプロテインA誘導体化センサーチップの別個のフローセル上に捕捉し、表面に希釈試料を180秒間注入し、次いで、緩衝液で120秒間解離を実施し、表面を再生した。マウス対照IgG参照の表面結合およびアッセイ緩衝液の減算により結合応答を二重参照し、異なる試料のグループを比較した。
【0461】
結果
CSF脳抽出物および免疫組織化学
いくつかのクローンをCSF、可溶性脳抽出物中でのAベータとの結合能について試験し、死体AD脳の組織試料を表9に示す。表9では陽性度がプラス印の数により示されている。
【0462】
表9および表10は、選択したクローンが本明細書に記載されるSPRによる測定でモノマーよりもオリゴマーに対して結合選択性を有することのデータとなる。
【0463】
表9にはIHCの結果もまとめてあり、ここでは、「+/-」は、アイソタイプ対照と類似した染色またはアイソタイプ対照と異なる染色であるが明確な斑形態はみられないことを表す。
【0464】
6E10抗体でみられる陽性斑染色と比較して、クローン301-17(12G11)では新鮮な凍結切片上に斑染色がみられない例を図14に示す。
【0465】
HHQK(配列番号1)を含むシクロペプチドに対して産生させた抗体が、モノマーよりもAベータオリゴマーと優先的に結合し、AD患者の脳抽出物および/またはCSF中のAベータとも優先的に結合することを図15に示す。
【0466】
表9、10ならびに図14および15に示されるように、HHQK(配列番号1)を含むシクロペプチドに対して産生させた多くの抗体は、脳抽出物および/またはCSF中のAベータと結合したが、SPRではモノマーとあまり結合せず、IHCによる斑線維とあまり結合しなかった。
【表11】
スコアリングは同じ試料カテゴリーで他のクローンに対して相対的なものである。
【表12】
【0467】
実施例8
合成オリゴマー結合
共有結合で固定化した抗体との結合について市販の調製済み合成アミロイドベータオリゴマー(SynAging社、ヴァンドゥーヴル=レ=ナンシー)の連続2倍希釈物(7.8nM~2000nM)を試験した。対照抗体mAb6E10の結果を図16Aに示し、マウス対照IgGの結果を図16Bに示す。シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)に対して産生させた抗体を用いた結果を図16Cに示す。
【0468】
実施例9
ホルマリン固定組織での免疫組織化学
CGHHQKG(配列番号2)に対して産生させた抗体を用いてヒト脳組織を評価した。患者はそれまでに、(i)老人斑および神経原線維濃縮体を示すビルショウスキー銀法、(ii)アミロイドを示すコンゴーレッドならびに(iii)濃縮体を示し老人斑が「神経突起性」であることを確認するタウ免疫組織化学法の3部よりなる方法でアルツハイマー病であることが特徴付けられ診断されていた。この組織を用いて、選択したモノクローナル抗体クローンの斑反応性を試験した。脳組織を10%緩衝ホルマリンで数日間固定し、Sakura VIP組織処理装置でパラフィン処理した。組織切片にマイクロ波による抗原回復(AR)を実施するか、または実施せずに、1μg/mlの抗体で探索した。陽性対照として、汎アミロイドベータ反応性抗体6E10を選択した抗体クローンと同時にインキュベートした。抗体を抗体希釈剤(Ventana社)で希釈し、OptiView DAB(Ventana社)で発色させた。Ventana Benchmark XT IHC染色装置で染色を実施した。Olympus BX45顕微鏡で画像を取得した。画像は神経病理学の専門知識を有する専門の病理学者が盲検的に解析した。
【0469】
下の表11に示されるように、固定組織を用いると、被験抗体は抗原回復の有無を問わず、老人斑アミロイドの特異的染色が陰性であった。陽性対照には6E10を用いた。
【表13】
【0470】
実施例10
オリゴマー伝播の阻害
チオフラビンT(ThT)結合アッセイを用いてアミロイドベータ(Aβ)凝集に対する抗体の効果を検討することにより、その生物学的機能をin vitroで試験した。Aβ凝集は、予め形成された小さいAβオリゴマーの核によって誘導され、この核を介して伝播し、単量体Aβから可溶性オリゴマー、次いで不溶性線維への全過程には同時に、ベータシート形成の増大が伴う。このことはベンゾチアゾール塩のThTによってモニターすることができ、ThTがベータシートに富む構造に結合すると、その励起および発光の最大値がそれぞれ385nmから450nmおよび445nmから482nmに遷移し、それにより蛍光が増大する。簡潔に述べれば、Aβ1~42(Bachem Americas社、トーランス、カリフォルニア州)を可溶化し、超音波処理し、トリス-EDTA緩衝液(pH7.4)で希釈し、黒色の96ウェルマイクロタイタープレート(Greiner Bio-One社、モンロー、ノースカロライナ州)のウェルに加え、これに等体積のシクロペプチドに対する抗体または無関係のマウスIgG抗体アイソタイプ対照を加え、Aβ1~42ペプチドと抗体のモル比を1:5とした。ThTを加え、プレートを室温で24時間インキュベートし、1時間毎にWallac Victor3v 1420 Multilabel Counter(PerkinElmer社、ウォルサム、マサチューセッツ州)を用いてThT蛍光測定値(440nm励起、486nm発光)を記録した。全ウェルからバックグラウンド緩衝液の蛍光読取り値を減算し、さらに、対応するウェルから抗体単独のウェルの読取り値を減算した。
【0471】
図17に示されるように、ThT蛍光によりモニターしたAβ42凝集は、蛍光が最小である最初の遅滞期、蛍光が急激に増大する対数期および最後にAβ分子種が平衡状態にあり蛍光の増大がみられないプラトー期を特徴とするS字形を示した。Aβ42と無関係のマウス抗体との共インキュベーションでは、凝集過程に対する有意な効果が全くみられなかった。これに対し、Aβ42と被験抗体との共インキュベーションでは、凝集過程のいずれの期も阻害された。図17には抗体クローン17(12G11;IgG3アイソタイプ)で得られた結果を示す。ThT凝集アッセイは、ADの病理発生に極めて重要なAβ伝播およびモノマー、オリゴマー、前原線維および線維からのAβ凝集のin vivoの生物物理学的/生化学的段階を模倣するものであることから、シクロCGHHQKG(配列番号2)に対して産生させた抗体はこの過程を完全に打ち消す可能性を秘めている。マウスIgG対照抗体を用いて実施したアイソタイプ対照では阻害はみられなかった。
【0472】
実施例11
アルツハイマー病の免疫療法に最適なプロファイルの達成:毒性Aベータオリゴマーに特異的な抗体の合理的作製
【0473】
目的:毒性アミロイドβオリゴマー(AβO)に特異的な抗体を作製すること
【0474】
背景:現時点での証拠から、AβOの伝播性プリオン様株は、モノマーおよび線維とは対照的に、ニューロンに対して優先的に毒性を示し、アルツハイマー病(AD)のタウ病態を誘発することが示唆される。さらに、臨床試験では、用量制限有害作用がAβ線維認識と関係があることがわかっている。これらの観察結果から、安全性および有効性のためには毒性AβOの特異的中和が望ましいものであり得ることが示唆される。
【0475】
設計/方法:本明細書に記載されるように、標準力場による分子動力学を用いてProtein Data Baseに蓄積されているAβ線維の原子レベルの構造を攪乱するコンピュータシミュレーションを用いた。新生前原線維またはオリゴマーではわずかに安定な領域が露出する可能性が高いという仮説を立てた。オリゴマーにおいて提示される場合とモノマーまたは線維において提示される場合の抗原性プロファイルの差を定量化するクラスタリング解析、曲率、溶媒への露出、溶解度、二面角分布およびラマチャンドラン角分布をすべて用いて予測エピトープの立体配座特性を特徴付けた。局所的なAβO立体配座を模倣し得る環状フォーマットで候補ペプチドエピトープを合成し、担体タンパク質とコンジュゲートし、マウスでのモノクローナル抗体作製に用いた。精製した抗体をSPRおよび免疫組織化学によりスクリーニングした。
【0476】
結果:
コグネイト構造化ペプチドおよび合成AβOを認識することが可能であり、非構造化ペプチド、リンカーペプチドまたはAβモノマーとはほとんどまたは全く結合しないことに基づき、5種類の予測エピトープに対するIgGクローンを66種類選択し精製した。
さらなるスクリーニングにより、対照と比較してAD患者のCSFおよび脳抽出物中の天然の可溶性AβOと優先的に結合する抗体を特定した。AD脳の免疫組織化学的解析により、斑と反応しない抗体クローンを選択することができた。
【0477】
結論:コンピュータにより特定したAβOエピトープにより、天然のAD AβOと選択的に結合しモノマーにも線維にも有意な交差反応性を示さないという所望の標的プロファイルを有する抗体を作製することができた。
【0478】
実施例12
毒性阻害アッセイ
シクロペプチドに対して産生させた抗体によるAベータ42オリゴマーの毒性の阻害をラット一次皮質ニューロンアッセイで試験することができる。
【0479】
抗体および対照IgGをそれぞれ2mg/mLなどの濃度に調節する。様々なモル比のAベータオリゴマーと抗体を溶媒対照、Aベータオリゴマー単独および神経保護ペプチドのヒューマニンHNGなどの陽性対照とともに試験する。
【0480】
例示的設定を表12に示す。
【0481】
室温で10分間プレインキュベートした後、体積を培地で840マイクロリットルに調節する。この溶液を37℃で5分間インキュベートする。次いで、溶液を一次皮質ニューロンに直接添加し、細胞を24時間インキュベートする。MTT試験を用いて細胞生存率を求めることができる。


【表14】
【0482】
この試験は、301抗体クローン17を用いて実施した。抗体単独は、最高の濃度(1/2 オリゴマー/抗体比率)で若干の毒性を示し、抗体調製物のエンドトキシン混入によると思われるが、より低い濃度(1/1および5/1 オリゴマー/抗体比率)で添加した場合は、Aベータオリゴマー毒性の抑制が示された(図18)。
【0483】
実施例13
in vivo毒性阻害アッセイ
シクロペプチドに対して産生させた抗体によるAベータ42オリゴマーの毒性の阻害をマウス行動試験でin vivoで試験することができる。
【0484】
マウスの脳室内(ICV)に注射する前に、抗体およびアイソタイプ対照をそれぞれAベータ42オリゴマーと2以上の様々なモル比で予め混合する。対照群には、溶媒単独を注射するマウス、オリゴマー単独を注射するマウス、抗体単独を注射するマウスおよび神経保護ペプチドのヒューマニンなどの陽性対照を注射するマウスを含める。あるいは、抗体をオリゴマーのICV注射前、注射時および/または注射後に全身投与してもよい。オリゴマーのICV注射から約4~7日後に開始して、マウス空間認識試験(SRT)、Y迷路試験、モーリス水迷路モデルおよび新奇物体認識モデル(NOR)などの学習および記憶に関する行動試験で認知を評価する。
【0485】
マウス空間認識試験(SRT)は、海馬機能の尺度である地理的記憶を評価するものである(SynAging社)。このモデルでは2チャンバの装置を使用し、この装置のチャンバは形状、模様および色が異なっている(すなわち、地理的差)。チャンバは透明なPlexiglass製の廊下で繋がっている。最初に個々のマウスを探索期の5分間、一方のチャンバにのみアクセスできる装置の中に入れておく。次いで、マウスをホームケージに30分間戻し、「選択」期の5分間、再び装置の中に入れ、その間、マウスは両方のチャンバにアクセスできる。正常な認知機能を有するマウスは前回探索したチャンバを記憶しており、新規なチャンバで費やす時間の方が長い。DI=(TN-TF)/(TN+TF)で識別指数(DI)を算出し、式中、TNは新規なチャンバで費やした時間の量であり、TFは馴染みのあるチャンバで費やす時間の量である。毒性AベータオリゴマーによりDIの低下が起こるが、ヒューマニン陽性対照により一部レスキューされ得る。ICV注射後の様々な時間におけるこの試験の成績を用いて、シクロペプチドに対して産生させた抗体がAベータオリゴマー毒性をin vivoで阻害する可能性を評価することができる。
【0486】
Y迷路試験(SynAging社)は、主として前頭前皮質(作業記憶)および海馬(空間構成要素)が仲介する空間作業記憶の試験である。マウスが2本の腕を探索することができるY字形の迷路の中にマウスを置く。短期記憶が無傷なマウスは連続試行で交互に2本の腕に行く。毒性AベータオリゴマーをICV注射したマウスは認知に障害がみられ、ランダム値50%(これに対し正常個体は約70%)付近の交互のランダム行動を示す。この障害は、コリンエステラーゼ阻害剤ドネペジル(Aricept)またはヒューマニンによりそれぞれ部分的または全面的に正常に戻る。この試験により、被験抗体のAベータオリゴマー毒性に対する防御活性に関してまた別のin vivo評価ができる。
【0487】
モーリス水迷路はまた別の広く認められている認知モデルであり、主として海馬機能に依存する空間学習および長期地理的記憶を検討するものである(SynAging社)。マウスを複数回の試行で、不透明な水面の下に隠したプラットフォームを見つけるよう訓練する。プラットフォームの位置の想起に関するマウスの学習成績は、視覚的な手掛かりおよび記録したビデオに基づく。マウスを水に放ってからプラットフォームを見つけるまでの時間は着実に短縮され、これをマウスの学習速度とし、複数日にわたって測定する。認知が正常なマウスでは、プラットフォームを見つけるのに必要な時間が連日短縮される(学習)。長期記憶の解析には、訓練後に試験を複数日反復する。つまり、プラットフォームを取り去り、以前のプラットフォームの位置の上を横切る回数または最初に横切るまでの時間を長期記憶を評価する尺度として用いる。毒性AベータオリゴマーをICV注射したマウスは、学習および長期記憶の両方に欠陥がみられ、被験抗体の防御活性を評価するためのモデルとなる。
【0488】
新奇物体認識(NOR)モデルは、新奇な物体を既知の物体より有意に長い時間をかけて調べるというげっ歯類の正常な行動を利用するものであり、この行動は主として嗅周皮質機能に依存する(SynAging社)。習得試行でマウスまたはラットに2つの同一の物体を探索させる。短時間の試行間間隔の後、一方の物体を新奇な物体に置き換える。動物を活動領域に戻し、各物体を能動的に探索して費やした時間を記録する。正常なげっ歯類は馴染みのある物体を思い出し、新奇な物体の方の探索に有意に長い時間を費やす。これに対し、Aベータオリゴマー処置したげっ歯類は明確な認知障害を示し、「馴染みのある」物体と「新奇な」物体の両方の探索に同程度の時間を費やす。これは、既知の臨床認知機能改善薬(例えば、ドネペジル)により一時的に正常に戻すことができる。NOR試験を縦断研究で複数回実施して、被験抗体の認知に対する潜在的な有益性を評価することができる。
【0489】
行動試験に加え、脳組織を収集し、シナプスマーカー(PSD95、SNAP25、シナプトフィジン)および炎症マーカー(IL-1ベータ)のレベルを解析することができる。オリゴマーのICV注射から約14日後にマウスを屠殺し、生理食塩水を灌流する。海馬を収集し、急速凍結し、解析まで-80℃で保管する。ホモジナイズした試料のタンパク質濃度をBCAにより求める。ELISAキット(Cloud-Clone社、米国)を用いてシナプスマーカーの濃度を求める。シナプスマーカーは通常、Aベータオリゴマーを注射したマウスで25~30%減少し、ヒューマニン陽性対照により90~100%に回復する。IL-1ベータ炎症性マーカーの濃度は、Aベータオリゴマーを注射したマウスで約3倍になり、この増大はヒューマニンによって大幅に抑えられる。これらのアッセイは、被験抗体の防御活性に関する分子レベルでのまた別の尺度となる。
【0490】
実施例14
in vivo伝播阻害アッセイ
Aベータ毒性オリゴマーのin vivoの伝播およびそれに関連する病態を様々なアルツハイマー病(AD)げっ歯類モデルで研究することができる。例えば、ヒトAPPのトランスジェニックマウス(例えば、APP23マウス)またはヒトAPPとPSEN1のトランスジェニックマウス(APPPS1マウス)は高レベルのAベータを発現し、加齢とともに炎症および神経損傷を伴うアミロイド沈着が徐々にみられるようになる。オリゴマー含有脳抽出物の脳内接種によりこの過程を大幅に加速させることができる(13、14)。これらのモデルは、脳内または全身に投与した被験抗体によるAベータオリゴマー伝播の阻害を研究するためのシステムとなる。
【0491】
実施例15
CDRシーケンシング
IgG3重鎖とカッパ軽鎖とを有することが明らかになった301-12G11を重鎖および軽鎖のCDRおよび可変領域として選択した。
【0492】
5’RACEならびに適切なマウス免疫グロブリンの重鎖(IgG1/IgG3/IgG2A)および軽鎖(カッパ)の可変領域配列を増幅する遺伝子特異的逆方向プライマーを用いてRT-PCRを実施した。
【0493】
シーケンシング用に特異的バンドを切り取ってpCR-Blunt II-TOPOベクターにクローン化し、構築物を大腸菌(E.coli)に形質転換した。
【0494】
各鎖について少なくとも8種類のクローンを選定し、シーケンシングの前に増幅領域の有無についてPCRでスクリーニングした。選択したPCR陽性クローンにシーケンシングを実施した。
【0495】
CDR配列を表13に記載する。重鎖および軽鎖の可変部分のコンセンサスDNA配列およびタンパク質配列を表14に記載する。
【表15】
【表16】
表15.Aベータ配列
1)
HHQK(配列番号1)
CGHHQKG、シクロ(CGHHQKG)(配列番号2)
CHHQKG、C-PEG2-HHQKG、シクロC-PEG2-HHQKG(配列番号3)
CGHHQK、CGHHQK-PEG2、シクロ(CGHHQK)-PEG2(配列番号4)
VHHQ(配列番号5)
VHHQKL(配列番号6)
HHQKL(配列番号7)

GHHQKG(配列番号9)
HHQKG(配列番号10)
GHHQK(配列番号11)
VHHQK(配列番号12)
CGHHQKGC(配列番号13)

EVHHQK(配列番号18)
HQKL(配列番号20)
CGHHQKC、シクロ(CGHHQKC)(配列番号17)
2)
HQKLVFFAED(配列番号16)
HHQKLVFFAEDVGSNK(配列番号19)
HQKLV(配列番号21)
HHQKLV(配列番号8)
HQKLVF(配列番号14)
HQKLVFF(配列番号15)

表16
ヒトAベータ1~42
DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA(配列番号32)
【0496】
ここまで、現時点で好ましい例であると考えるものに関して本願を記載してきたが、本願は本開示の例に限定されないことを理解するべきである。これとは逆に、本願は、添付の請求項の趣旨および範囲に含まれる様々な改変および同等の構成を包含するものとする。
【0497】
刊行物、特許および特許出願はいずれも、個々の刊行物、特許または特許出願が具体的かつ個別にその全体が参照により組み込まれることが明記された場合と同じように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。特に、例えば表またはその他の箇所に記載されるアクセッション番号および/またはバイオマーカー配列(例えば、タンパク質および/または核酸)を含めた本明細書に記載される各アクセッション番号に関連する配列は、その全体が参照により組み込まれる。
【0498】
請求項の範囲は、好ましい実施形態および実施例によって限定されるべきではなく、記載全体と一致する最も広い解釈がなされるべきである。
【0499】
本明細書で参照される参考文献の引用
[1]Gabriela A.N.Crespi,Stefan J.Hermans,Michael W.Parker,and Luke A.Miles.Molecular basis for mid-region amyloid-b capture by leading Alzheimer’s disease immunotherapies SCIENTIFIC REPORTS|5:9649,2015|DOI:10.1038/srep09649.
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