(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】圧縮接合板目材及び圧縮接合板目材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27M 1/02 20060101AFI20240305BHJP
B27M 3/00 20060101ALI20240305BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B27M1/02
B27M3/00 E
B27K5/00 F
(21)【出願番号】P 2019132449
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】594161622
【氏名又は名称】飛騨産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大川 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】本母 雅博
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171591(JP,A)
【文献】米国特許第05002105(US,A)
【文献】特開昭54-014504(JP,A)
【文献】特開2008-265156(JP,A)
【文献】特開2012-035507(JP,A)
【文献】特表昭57-501617(JP,A)
【文献】特開昭57-113002(JP,A)
【文献】特許第6450489(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M 1/02
B27M 3/00
B27K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2枚の板目材が
接合されて加熱圧縮されてなる圧縮接合板目材において、
前記
接合される少なくとも2枚の板目材
には、それぞれ節及び/又は柾目部分が
存在し、
前記少なくとも2枚の板目材は、板目面側が相互に接合され最外表面が板目面となるように接合されており、該接合面に向けて加熱圧縮されることで接着されてなり、
前記少なくとも2枚の板目材に
それぞれ存在する節及び/又は柾目部分が、前記接合面に直交する厚さ方向では互いに重ならないように配置されていることを特徴とする圧縮接合板目材。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮接合板目材を製造する圧縮接合板目材の製造方法において、
前記それぞれ節及び/又は柾目部分が存在する少なくとも2枚の板目材を最外表面が板目面になるように相互に板目面で接合する接合工程と、
該接合された板目材をその厚さ方向に加熱圧縮する加熱圧縮工程と、を含み、
前記接合工程での前記板目材の接合は、前記互いの節及び/又は柾目部分が、
前記接合面に直交する厚さ方向では互いに重ならないように配置されて行われることを特徴とする圧縮接合板目材の製造方法。
【請求項3】
前記接合工程での前記板目材の接合は、前記節及び/又は柾目部分が各板目材の接合される面に存在する場合に、互いの節及び/又は柾目部分が前記接合面で対向しないように配置されて行われることを特徴とする請求項2に記載の圧縮接合板目材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱圧縮工程前に、前記接合面で対向する2枚の前記板目材の接合面に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程が行われ、
その後の前記加熱圧縮工程中に前記熱硬化性接着剤が硬化されることを特徴とする請求項2
又は3に記載の圧縮接合板目材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮接合板目材及び圧縮接合板目材の製造方法に関し、特に、板目材を加熱圧縮して接合した圧縮接合板目材及び圧縮接合板目材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スギ等の針葉樹は、成長は早いが比重が小さく柔らかいこともあり、家具等に用いる場合には表面にキズが付きやすく、建材として用いる場合には強度不足を生じるおそれがある等の不具合があった。
【0003】
そこで、特許文献1に示すように、針葉樹等の木材に対して圧縮加工を行い木材の強度を高めることが従来から行われている。具体的には、スギ等の木材を高温高圧容器内で水蒸気と高周波誘電加熱により加熱軟化させた後、圧縮成形して当該圧縮された形状を高温高圧雰囲気内において固定化させる木材の圧縮加工方法が開示されている。
【0004】
この木材の圧縮加工方法によれば、木材は水蒸気を吸収して温度が上昇するとともに高周波誘電加熱により内部から温度が上昇し、急速に加熱軟化する。この状態で機械的な圧縮力が加えられることで、主に早材部に存在する微細な空洞部分が小さくなって圧縮され、硬く強い木質となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1によれば、木材の圧縮は丸太材や板目材で行われており、板目材を厚み方向に加熱圧縮する際に、板目材が節を含んでいる場合には節の部分に大きな圧縮応力が生じ、割れや亀裂が発生する恐れがある。また、節の周辺においても、年輪の木目の繊維方向に乱れや傾斜があることで比較大きな圧縮応力が生じ、割れや亀裂が生じる恐れがある。さらに、板目から柾目に移行する追柾部分のある板目材も同様に、厚み方向に圧縮する場合、板目材の裏面は柾目となっているので圧縮時に割れや亀裂が生じる恐れがある。特に、表面から裏面まで連続して節や柾目部分が存在する場合には、圧縮時における割れや亀裂等の問題が顕著である。このような不具合を避けるために木取りの際に節や柾目部分のない板目材のみを選択することも考えられるが、歩留まりが低下し、木材資源の有効活用に反する状況となる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、節や柾目部分を有する板目材であっても割れや亀裂の生じていない圧縮接合板目材及び圧縮接合板目材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に記載の圧縮接合板目材は、
少なくとも2枚の板目材が接合されて加熱圧縮されてなる圧縮接合板目材において、
前記接合される少なくとも2枚の板目材には、それぞれ節及び/又は柾目部分が存在し、
前記少なくとも2枚の板目材は、板目面側が相互に接合され最外表面が板目面となるように接合されており、該接合面に向けて加熱圧縮されることで接着されてなり、
前記少なくとも2枚の板目材にそれぞれ存在する節及び/又は柾目部分が、前記接合面に直交する厚さ方向では互いに重ならないように配置されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、節が存在することによって、そのまま圧縮した場合には割れや亀裂が生じてしまうような板目材の場合に、少なくとも2枚の板目材を接合して用いることで、単体では使用できなかった板材を圧縮木材として活用することが可能となる。すなわち、接合される板目材に節及び/又は柾目部分が存在していても、重ね合わされる板目材に存在する節及び/又は柾目部分とは厚み方向には重なっていないので、圧縮されたときに、節及び/又は柾目部分は、通常の板目部分でより柔軟に受け止められ、応力の集中が回避されている。したがって、本発明に係る圧縮接合板目材は、節や柾目部分における割れや亀裂が存在しない圧縮接合板目材となっている。
【0010】
上記目的を達成するための請求項2に記載の圧縮接合板目材の製造方法は、
請求項1に記載の圧縮接合板目材を製造する圧縮接合板目材の製造方法において、
前記それぞれ節及び/又は柾目部分が存在する少なくとも2枚の板目材を最外表面が板目面になるように相互に板目面で接合する接合工程と、
該接合された板目材をその厚さ方向に加熱圧縮する加熱圧縮工程と、を含み、
前記接合工程での前記板目材の接合は、前記互いの節及び/又は柾目部分が、前記接合面に直交する厚さ方向では互いに重ならないように配置されて行われることを特徴とする。
【0011】
この方法によれば、接合される各板目材に存在する節及び/又は柾目部分は、互いに厚さ方向では重なり合わない配置となっており、加熱圧縮工程中に、各板目材に存在する節及び/又は柾目部分に対して作用する最外表面の板目面側からの圧力は、節及び/又は柾目部分から加熱圧縮時に軟らかくなった対向する板目材で吸収される。したがって、節や柾目部分に応力が集中することによる割れや亀裂の発生を防ぐことができ、板目材が節や柾目部分を有していても割れや亀裂のない圧縮接合板目材を得ることができ、節及び/又は柾目部分の存在する木材を圧縮用の木材として活用することが可能となる。
【0012】
また、請求項3に記載の圧縮接合板目材の製造方法は、請求項2に記載の圧縮接合板目材の製造方法において、
前記接合工程での前記板目材の接合は、前記節及び/又は柾目部分が各板目材の接合される面に存在する場合に、互いの節及び/又は柾目部分が前記接合面で対向しないように配置されて行われることを特徴とする。
【0013】
この方法によれば、接合面に露出して存在する節及び/又は柾目部分が互いに付き合わされて接合されたまま、その状態で加熱圧縮されることが回避される。したがって、節及び/又は柾目部分における応力は、軟らかい板目部分で吸収され、その部分での割れや亀裂の発生が有効に防止される。特に、板目材の表裏面間に連続して存在する節及び/又は柾目部分同士が厚さ方向に重なり合うことが回避され、割れや亀裂の発生がより的確に回避される。
【0014】
請求項4に記載の圧縮接合板目材の製造方法は、請求項2に記載の圧縮接合板目材の製造方法において、
前記加熱圧縮工程前に、前記接合面で対向する2枚の前記板目材の接合面に熱硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程が行われ、その後の前記加熱圧縮工程中に前記熱硬化性接着剤が硬化されることを特徴とする。
【0015】
この方法によれば、塗布された接着剤は加熱圧縮工程中に硬化されるので、接着剤が硬化してから加熱圧縮する方法に比して、工数を減らすことができる。すなわち、対向する2枚の板目材に接着剤を塗布して接着剤を硬化させ、その後に加熱圧縮する場合に比較して、接着剤として熱硬化性の接着剤を用い、対向する2枚の板目材に塗布し硬化するのを待つことなく加熱圧縮工程を実施することで作業時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、板目材が節や柾目部分を有していても、圧縮時にそこに集中する応力が対向する板目材で吸収されるので、割れや亀裂のない圧縮接合板目材を得ることが可能となり、圧縮材としては不向きであった節や柾目部分を有する針葉樹の板目材の圧縮木材としての活用の道が開かれる。これにより、木材資源の有効活用に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】接合工程直前の2枚の板目材の斜視図である。
【
図3】本実施の形態に係る圧縮接合板目材の製造方法のフローチャートである。
【
図4】圧縮成形工程で使用する木材の圧縮装置を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係る圧縮接合板目材を、
図1を参照して詳細に説明する。
【0019】
本実施の形態では、2枚の板目材を圧縮接合する例を示している。本願において、この板目材は、針葉樹及び/又は広葉樹から木取りされたものである。針葉樹としては、スギ、マツ、ヒノキ、ツガ、トウヒ、モミノキ、カヤ、イチイ、アスナロ等が挙げられるが、これらに限定されない。また、広葉樹としては、キリ、センダン、ユリノキ等の比重の小さなものが挙げられるが、これらに限定されない。本願において、板目材とは、原木を年輪の接線方向に挽いた材であって、年輪の中心を外したいわゆる芯去り材をいうものとする。また、板目材には、柾目と板目の中間的な木取りをした追柾も含むものとする。ここで、柾目とは、丸太の中心に向かって挽いたときに現れる年輪が平行な木目をいい、そのように挽いて得られた材を柾目材という。更に、板目材には、木表面と木裏面があるが、年輪の中心に近い方の面を木裏面といい、年輪の中心から遠い方の面を木表面という。
【0020】
<圧縮接合板目材>
図1は、実施に作製した本発明に係る圧縮接合板目材10を図面化し、斜視図として表したものである。接合される板目材(12、14)の一方の板目材12には、節20及び柾目部分22が存在している。
【0021】
本発明に係る圧縮接合板目材10において特徴的なことは、一方の板目材12に存在する節20及び柾目部分22が接合される板目材14の節及び柾目部分の位置と厚さ方向(接合面に直交する方向)では重なっていないということである。板目材14として節及び/又は柾目部分が存在する物を使用した場合にはそれら 節及び/又は柾目部分の厚さ方向の位置は互いに重ならないように配置されている。
【0022】
図2は、
図3に基づいて後述する接合工程における2枚の板目材12、14を示す斜視部である。板目材12の外表面には節20-1が存在している。この節20-1が、外表面側のみに存在するのか接合面側にも露出しているのか本図面上では看取できないが、何れの場合でも同様であり、厚さ方向において、他方の板目材14側の節及び/又は柾目部分とは重なっていないことが理解される。
【0023】
また、板目材12の板目材14との接合面側の板目面には、部分的に柾目部分22が存在しており、板目材14の板目部分と対向している。
【0024】
この状態で板目材12と板目材14とが互いの板目面で接合され、後述する工程で圧縮されて、
図1に示すような圧縮接合板目材10となるものである。圧縮接合板目材10では、板目材12に存在する節20-1や柾目部分22によって、板目材12だけを圧縮した場合の割れや亀裂の発生を回避することができる。すなわち、圧縮時には、板目材12に存在する節20-1や柾目部分22は、加熱圧縮時において節や柾目部分に比較して軟らかくなっている板目材14の板目部分で受け止められるので、応力集中による破損が回避されるものである。
【0025】
なお、本実施の形態に係る圧縮接合板目材10は、板目材12、14の厚さは、それぞれ28mmであり、それらを接合、圧縮して得られた圧縮接合板目材10の厚さは28mmであった。その他の実施の形態では、厚さ14mmの板目材と厚さ28mmの板目材を用いて厚さ21mmの圧縮接合板目材も得られている。
【0026】
更に、本実施の形態では、板目材を2枚用いて圧縮接合板目材を製作しているが、板目材を3枚用いた圧縮接合板目材の製作も実施している。具体的には、厚さ7mmの2枚の板目材と厚さ28mmの板目材を用いて厚さ21mmの圧縮接合板目材と、厚さ14mmの2枚の板目材と厚さ28mmの板目材を用いて厚さ28mmの圧縮接合板目材も得ている。
【0027】
また、本実施の形態では、各板目材12、14に存在する節及び/又は柾目部分が接合面に垂直な方向では互いに重ならないように配置した。さらに、板目材12の節20-1が、表裏面に貫通している状態の場合でも割れや亀裂の発生のない圧縮接合板目材10が得られる。
【0028】
なお、板目材の内部に節及び/又は柾目部分が存在し、表面には露出していない場合、その存在が判別できる場合は、厚さ方向での重なりは避けた方が好ましいが、仮に、発見できないような内部に存在する場合は、外側に存する板目部分によって応力の分散が行われるので、割れや亀裂が回避される場合も有る。
【0029】
更に、本実施の形態では、木裏面同士を接合したが、これに拘らず、木裏面は木表面よりも加熱で軟らかくなるが、接合面に存在する節や柾目部分の状況に応じて適宜選択することができる。
【0030】
また、本実施の形態に係る圧縮接合板目材10は、2枚の板目材12、14に熱硬化性接着剤を塗布して接合し、その後の加熱圧縮工程中に熱硬化性接着剤が硬化された形態であるが、2枚の板目材は節及び/又は柾目部分が対向する板目材に食い込むので、接着剤を塗布しなくても堅固に結合することもあり得る。
【0031】
<圧縮接合板目材の製造方法>
図3は、本実施の形態に係る圧縮接合板目材の製造方法のフローを示しており、
図2、
図4及び
図5を参照して詳細に説明する。
図2は接合工程直前の2枚の板目材12、14を示す斜視図である。
図4は圧縮成形工程で使用する木材の圧縮装置を模式的に示す縦断面図である。
図5は加熱圧縮工程を説明する概略正面図である。
【0032】
圧縮接合する板目材を準備する(ステップS10:板目材準備工程)。本実施の形態では
図2に示した様な2枚の板目材を接合する場合を例に取り説明する。本工程は、接合する板目材を、所定の大きさに切断する工程であり、同時にそれぞれに存在する節や柾目部分の確認を行う。また、存在する節及び/又は柾目部分が互いに重ならないように接合させることができるか否かもこの工程で確認しておくのが好ましい。
【0033】
2枚の板目材の大きさは、それぞれ119mm×275mm×28mmとした。それぞれの板目材の厚さは28mmであり、板目材の厚さは、10mm以上50mm以下が好適である。10mm以下の場合は、節や柾目部分に作用する応力を十分に吸収できずに板目材が割れや亀裂が発生する恐れがある。また、50mm以上の場合は、木材の圧縮装置が大掛かりとなり、蒸煮や加熱圧縮工程で必要とする時間が長くなり過ぎて実際的ではない。
【0034】
次に、板目材準備工程の後、それぞれの板目材12、14を蒸煮する(ステップS12:蒸煮処理工程)。蒸煮は、例えば、蒸煮缶を用いて行うことができる。蒸煮時間は、例えば、60℃以上150℃以下で、30分程度の時間で行うことができる。この蒸煮処理により各板目材は軟化する。この軟化後の状態は、節に関しては、木材は繊維方向の圧縮強度が高いこと、柾目部分に関しては、年輪部分(冬目部分)の強度が高いことから、板目部分よりも高い強度が残っている。一方、板目部分は、適切な軟化状態となっている
【0035】
次に、2つの接合する板目材の接合面に接着剤を塗布する(ステップS14:接着剤塗布工程)。接着剤としては、水性高分子イソシアネート系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、尿素樹脂を主成分とする接着剤、エポキシ樹脂を主成分とする接着剤、フェノール樹脂を主成分とする接着剤、合成ゴム系接着剤等、種々の接着剤を用いることができる。何れも熱硬化性の接着剤である。塗布した接着剤は、加熱圧縮工程(ステップS18)中に硬化されるので、接着剤が硬化してから加熱圧縮する方法に比して、工数を減らすことができる。すなわち、対向する2枚の板目材に接着剤を塗布して接着剤を硬化させ、その後に加熱圧縮する場合に比較して、接着剤として熱硬化性の接着剤を用い、対向する2枚の板目材12、14に塗布し硬化するのを待つことなく加熱圧縮工程を実施することで作業時間の短縮化を図ることができる。
【0036】
接着剤塗布工程後、2枚の板目材12、14を互いの板目面で接合する(ステップS16:接合工程)。なお、
図2には塗布した接着剤は図示していない。2枚の板目材12と板目材14には、それぞれ木表面12a、14a(木の表皮に近い方)と木裏面12b、14b(木の心に近い方)があり、
図2では木裏面同士が対向している。また、上側に位置する板目材12には、上述したように節20-1、20-2が有り、また断面から理解されるように柾目部分22も存在している。そして、この柾目部分22は、接合面に露出して存在している
。
【0037】
しかし、仮に、図面上隠れている板目材14の部分に節が存在するような場合には、板目材12の節20-2とその節が重ならない状態であることを確認して、板目材12を矢印方向に移動させて接合工程が行われ、接合板目材17(
図5参照)が得られる。
【0038】
次に、加熱圧縮工程(ステップS18)を実行する。その説明の前に、本工程で使用する木材の圧縮装置50について説明する。
【0039】
図4に示すように、木材の圧縮装置50は、内部に接合板目材17が載置される底部52aを有すると共に、天面が開放された箱状の下型52と、下型52の蓋部を構成する板状の上型54とからなる圧縮型56を備える基本構成を有する。上型54は、下型52に対して接離する方向(矢印150方向)に移動可能であり、下型52に対して当接すると圧縮型56は閉状態となり、密閉された型内空間58が構成される。なお、下型52の上縁部に設けられた溝部にはOリング53が嵌め込まれており、Oリング53が上型54に対して密着することで型内空間58は密閉される。
【0040】
上型54には、後述する蒸気60を流通させる管路62と後述する冷却水64を流通させる管路66が設けられており、下型52には、蒸気60を流通させる管路68と冷却水64を流通させる管路70が設けられている。さらに、下型52には、型内空間58に蒸気60を導入するための管路72及び型内空間58から蒸気60を排出するための管路74、及び型内空間58内の水を排出するための管路76が設けられている。
【0041】
上型54及び下型52の上流には、管路62、管路68及び管路72に蒸気60を導入するための蒸気系路78が設けられており、上型54及び下型52の下流には、管路62、管路68及び管路74内から蒸気60を排出するための蒸気経路80が設けられている。
【0042】
さらに、上型54及び下型52の上流には、管路66及び管路70に冷却水64を導入するための冷却水系路82が設けられており、上型54及び下型52の下流には、管路66、管路70及び管路76からの排水を排出するための排水経路84が設けられている。
【0043】
圧縮型56の上流の蒸気経路78には、管路62、72及び68に至る前に経路をそれぞれ開閉可能なバルブ86、90及び88がそれぞれ設けられており、圧縮型56の下流の蒸気経路80には、管路62、74及び68の下流で経路をそれぞれ開閉可能なバルブ92、94及び96がそれぞれ設けられている。
【0044】
また、圧縮型56の上流の冷却水経路82には、管路66及び70に至る前に経路をそれぞれ開閉可能なバルブ98及び100がそれぞれ設けられており、圧縮型56の下流の排水経路84には、管路66、76及び70の下流で経路をそれぞれ開閉可能なバルブ102、104及び106が設けられている。なお、バルブ90と管路72の間には、圧力計108が設けられている。
【0045】
以下、本実施の形態に係る加熱圧縮工程について説明する。本実施の形態での加熱圧縮工程(ステップS18)は、具体的には加熱軟化処理動作と圧縮処理動作を含む。
【0046】
図5(a)に示すように、蒸煮処理され、接着剤が塗布されて接合された接合板目材17は、圧縮型56の下型52の底部52aに板目材14の木表面14aが当接するようにして載置される。板目材12と板目材14とは、前述のように、節や柾目部分が接合面に垂直な方向に重なり合うことがないように板目材準備工程(ステップS10)で調整されている。
【0047】
次に、木材の圧縮装置50の上型54を、下型52に近接する方向に移動させ、上型54の下面を板目材12の上側の木表面12aに当接させる。なお、
図5において圧縮型56は、開閉状態がわかる程度に簡略化して示している。
【0048】
そして、板目材12の木表面12aに上型54を、板目材14の木表面14aに下型52を当接させた状態で、上型54及び下型52に蒸気60を送りこみ、徐々に上型54及び下型52の温度を昇温させる。昇温は、常温付近(約15~20℃)から約110~130℃の温度まで行われ、その温度で一定に維持される(加熱軟化処理動作)。
【0049】
かかる昇温は、圧縮型56の下流のバルブ92及び96を閉じ、圧縮型56の上流のバルブ86及び88を少しずつ開き、高温の蒸気60を少しずつ上型54及び下型52に導入することにより行う(
図4参照)。温度を一定にするには、蒸気60を送り込むバルブ86及び88の開き量及び蒸気60を排出するバルブ92及び96の開き量の調節により行う。木材の圧縮装置50による板目材12と板目材14の加熱軟化処理は、昇温開始から約0~10分程度で行われる。以上の処理により、接合板目材17の板目材12と板目材14が加熱軟化される。
【0050】
木材の圧縮装置50による板目材12と板目材14の加熱軟化処理後、
図5(b)に示すように、上型54を下型52に当接するまでゆっくり移動させ、板目材12と板目材14を厚み方向に、すなわち、年輪の積層方向に圧縮する(圧縮処理動作)。このとき、バルブ90、94及び104を密閉状態とすることで型内空間58は完全な密閉空間となる。この状態で、上型54及び下型52を約150℃~180℃までさらに昇温させ、昇温開始から約30~120分程度高温状態で維持する。
【0051】
すると、型内空間58における空気の熱膨張及び板目材12と板目材14の水分の蒸発による水蒸気の発生によって型内空間の圧力が上昇し、この上昇圧力下で圧縮された板目材12と板目材14に高温水蒸気による処理が施されることとなる。これにより、板目材12と板目材14の内部に蓄積された応力が短時間のうちに著しく緩和されて圧縮形状が固定され、同時に板目材12と板目材14との接合面16に塗布された接着剤は硬化し、圧縮結合板目材10が得られる。ここで、本実施の形態では、型内空間58には蒸気は導入していない。しかし、上記板目材12と板目材14からの水分の蒸発だけでは水蒸気量が足りない場合、及び型内空間58の圧力が低い場合、バルブ90の開き量を大きくし、蒸気量及び圧力を増大させることができる。また、逆に圧力が高い場合にはバルブ94を若干開き、圧力を低下させる調節をすることもできる。なお、型内空間58の圧力は、圧力計108によりモニターすることができる。
【0052】
接合板目材17の圧縮処理動作では、板目材12に存在する節及び柾目部分は、前述のように軟化後においても板目部分よりも大きな強度が残っているので、圧縮処理で軟化さ れた板目材14の接合面の板目部分に食い込んで行くこととなる。同様に、板目材14に存在する節は、圧縮処理で板目材12の板目部分に食い込んで行くこととなる 。すなわち、板目材12の軟らかくなっている板目部分によって柔軟に受け入れられている。したがって、これまで節や柾目部分に応力が集中して板目材に割れや亀裂が発生する ところ、節や柾目部分に集中した応力は、対向する板目材の軟化した部分で吸収されることとなるので、割れや亀裂の発生を防止することができる。
【0053】
ここで、接合板目材17の圧縮率は、圧縮前の板目材12及び板目材14の厚さやOリング53の高さ、下型52の底部52aに載置可能な平らな金属板(図示省略)の厚さによって調節可能であり、針葉樹の板目材であれば最大約70%程度まで行うことができる。なお、圧縮率70%とは、合計で厚さ10cmになる接合板目材を3cmの厚さまで圧縮することをいう。
【0054】
その後、上型54及び下型52の温度を約20~40℃まで低下させ、30分~60分間維持して圧縮接合された圧縮接合板目材10を冷却する(ステップ20:冷却処理工程、
図5(c))。冷却は、バルブ86及び88を閉じ、バルブ92、94及び96を開けて上型54、下型52及び型内空間58から蒸気60を排出すると共に、バルブ98、100、102及び106を開けて冷却水64を上型54及び下型52内に流通させることにより行われる。その後、上型54を下型52に対して離反する方向に移動させる。このようにして、圧縮接合板目材10を得ることができる。
【0055】
上記の圧縮接合板目材の製造方法によれば、存在する節及び/又は柾目部分は、接合される板目材の節及び/又は柾目部分とは厚さ方向に重なり合わない配置となっており、加熱圧縮工程中に、各板目材に存在する節及び/又は柾目部分に対して作用する外側からの応力は、対向する相手側の板目部分で吸収される。したがって、節や柾目部分に応力が集中することによる割れや亀裂の発生を防ぐことができ、板目材が節や柾目部分を有していても割れや亀裂のない圧縮接合板目材を得ることができる。
【0056】
これにより、これまで圧縮用の木材としては使用が敬遠されてきた節のある板目材や柾目部分のある板目材も破棄することなく有効に活用することが可能となり、針葉樹等の板目材の資源保護が達成される。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、加熱圧縮工程は木材の圧縮装置50を用い、加熱軟化処理後の圧縮処理により行われているが、これに限られるものではない。木材を加熱して圧縮固定し得る処理であれば、任意の装置を用いて行うことができる。例えば、高温高圧容器内で水蒸気と高周波誘導加熱により加熱軟化させた後、圧縮成形して当該圧縮された形状を高温高圧雰囲気内において固定化してもよい。
【0058】
また、平版プレス・ロールプレスを用いたドライングセットを行い、その後に熱処理、高圧水蒸気処理、高周波誘導加熱処理あるいはマイクロ波加熱処理、化学処理、樹脂含浸処理等の固定化処理を施すことも可能である。
【0059】
上記実施の形態にて用いられた板目材は、板目材12及び板目材14に節や柾目部分が存在するものを例とした。特に、表裏面間を貫通して存在する節が存在するような板目材に対して特に有効に機能するものである。すなわち、表裏面間を貫通している節が在る場合、圧縮時にはほぼ割れや亀裂が発生するので使用されていないが、板目材の節や柾目部分の存在しない板目部分に対向させることによって活用の道が生まれる。
【符号の説明】
【0060】
10 圧縮接合板目材
12 板目材
12a 木表面
12b 木裏面
14 板目材
14a 木表面
14b 木裏面
16 接合面
17 接合板目材
20 節
22 柾目部分
50 木材の圧縮装置
58 圧縮型内空間