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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】染色された生地の仕上げプロセス
(51)【国際特許分類】
   D06M 16/00 20060101AFI20240305BHJP
   D06L 4/00 20170101ALI20240305BHJP
   D06P 5/13 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
D06M16/00
D06L4/00
D06P5/13 A
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019176347
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2020076190
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】18197107.8
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】エジェ セネル
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】デニズ イイドアン
(72)【発明者】
【氏名】ネジディヤ ギュネシュ
(72)【発明者】
【氏名】ゼイネプ カルデス
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
(72)【発明者】
【氏名】エルドアン バルシュ オッデン
(72)【発明者】
【氏名】マフムト オズデミル
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-013352(JP,B2)
【文献】特公平07-107231(JP,B2)
【文献】特公平07-107232(JP,B2)
【文献】特公平07-109067(JP,B2)
【文献】特開2001-073280(JP,A)
【文献】特表平06-502223(JP,A)
【文献】特表平06-502226(JP,A)
【文献】特表平06-511379(JP,A)
【文献】特表2001-506845(JP,A)
【文献】特表平09-506514(JP,A)
【文献】特開2017-206008(JP,A)
【文献】特開2017-222966(JP,A)
【文献】米国特許第05872002(US,A)
【文献】特開平08-224890(JP,A)
【文献】特開平08-224891(JP,A)
【文献】特表平02-502469(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0067347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06L 1/00 - 4/75
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
D06P 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの染料を含む生地において、前記生地の異なる領域から異なる量の染料を除去し、前記生地に異なる色合いを付与する染色された生地を処理するプロセスであって、前記プロセスは、
i)少なくとも1つの染料で染色された生地を選択する工程と、
ii)前記少なくとも1つの染料を消化するのに適した白色腐朽菌から選択される生きている菌類微生物を含む組成物を調製する工程と、
iii)前記組成物を前記染色された生地の少なくとも1つの領域に塗布する工程と、
iv)前記生地で前記菌類微生物を培養する工程と、
v)必要な色合いが得られたら、前記生地から前記菌類を除去する工程とを含んでいることを特徴とする染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項2】
前記組成物および/または前記生地は、工程iii)で水を含有し、前記生地は、工程iv)の間、湿潤状態に維持されていることを特徴とする請求項1に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項3】
前記染料は、インディゴ、インディゴ誘導体、またはこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項4】
前記組成物は、増殖培地を含んでいることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項5】
さらに、異なる培養時間で少なくとも1つの菌類によって得られる前記染色された生地の複数の色合いを記憶する工程と、
前記色合いを得るために必要な前記培養時間を記憶する工程と、
色合いおよび対応する培養時間のチャートを提供する工程と、
前記記憶された色合いの1つを選択する工程と、
前記選択された色合いに対応する前記培養時間の間、前記菌類微生物を含む前記生地を培養する工程とを含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項6】
さらに、異なる菌類および/または異なる増殖培地または培地量を使用することにより得られる複数の異なる色合いを生成する工程と、
前記異なる色合いを記憶する工程と、
前記異なる色合いを示すチャートを準備する工程とを含み、
前記色合いを示すチャートは、異なる培地に応じて異なる色合いを含むことを特徴とする請求項4または5に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項7】
前記菌類は、白色腐朽菌、好ましくはAcremonium、Gymnoascus、Penicillum、Funalia、Trametesまたはこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項8】
前記菌類組成物を前記生地に塗布し、培養の間、衣類を湿潤状態に維持するために、前記組成物を含む前記生地を容器に入れておく工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項9】
前記容器内の前記生地の前記培養は、生産者の施設、倉庫、または店舗のいずれかで行われることを特徴とする請求項8に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項10】
前記生地は、衣類またはアパレルの形態であるか、またはその一部であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項11】
工程v)は、生地生産者によって、または前記生地が衣類の一部である場合、衣類生産者、衣類販売者、または最終ユーザまたは消費者のいずれかによって、前記衣類を洗浄することによって行われることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項12】
前記工程v)は、前記最終ユーザによって家庭洗濯で行われることを特徴とする請求項11に記載の染色された生地の仕上げプロセス。
【請求項13】
遮水性容器と、少なくとも1つの染料を含む染色された生地または衣類とを含むパッケージであって、前記生地または衣類は、前記染色された生地の少なくとも1つの領域に、生きている菌類組成物を含んでおり、前記菌類は、前記少なくとも1つの染料を消化するのに適しており、かつ白色腐朽菌から選択されることを特徴とするパッケージ。
【請求項14】
色合いを付与するために異なる領域に異なる量の染料が施されている生地または衣類であって、前記生地には、白色腐朽菌から選択される菌類の培養後の染料の分解から生じる生成物が含まれることを特徴とする。
【請求項15】
前記生地は、綿糸を含んでおり、前記綿糸の綿繊維は、前記菌類組成物の培養によってもほぼ未消化であることを特徴とする請求項14に記載の生地または衣類。
【請求項16】
前記生地は、合成糸および/または混紡糸を含むことを特徴とする請求項14または15に記載の生地または衣類。
【請求項17】
前記生地は、再生糸または再生繊維を含むことを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載の生地または衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色された生地の仕上げプロセスに関する。特に、本発明は、生地、好ましくはデニム生地の仕上げプロセスに関し、菌類を使用することにより、生地にすり減ったまたは色あせた外観、すなわち「使用済み」の外観を与える。本発明はまた、生地および物品、例えば、当該プロセスで得られる衣類に関する。したがって、本発明は、「使用済み」または「すり減った」外観を有する生地および当該生地を含む物品を製造するプロセスに関する。このプロセスでは、菌類を使用して必要な生地の外観を提供している。
【背景技術】
【0002】
カジュアルな生地、特にデニムはファッション業界で人気を博しており、デニムの衣類は、非常に人気があり、デニム生地の色あせた、またはすり減った外観は、衣類の商業的価値における重要な要因である。一例として、顧客はブルージーンズの色あせた、またはすり減った外観を望んでいる。過去には、ジーンズを洗濯し着用することですり減った外観が得られていた。現在、アパレル業界は、さまざまな着用パターンのジーンズと衣類を製造し販売している。着用パターンは、ジーンズのスタイルとファッションの一部になっている。着用パターンのいくつかの例としては、櫛またはハニカム、ウィスカー、スタック、および列車の線路が含まれている。
【0003】
したがって、生地の表側、つまり生地で作られた物品を着用するときに見える表面に、異なる外観、したがって異なる視覚効果を創造するために、これらの着用パターンは、生地、好ましくは衣類に施すことができる仕上げプロセスで得られる。実際、アパレル業界での成功は、生地に独特の見栄えと外観を与えるさまざまな生地の仕上げプロセスからもたらされる創造性に大きく依存している。
【0004】
生地を「使用済み」または「ヴィンテージ」または「使い古した」外観にするには、通常、衣類または生地にたいして行う仕上げプロセスで生地を処理することによって実現することができる。既知の仕上げプロセスでは、ストーンウォッシュ、アシッドウォッシュ、レーザー処理、サンドブラストを使用するプロセスなど、機械的研磨を使用することができる。例えば、ストーンウォッシュでは、洗浄工程中に繊維上に存在する染料を含む糸繊維の一部を除去する軽石の存在下で、シリンダー内で生地を洗浄する。他の仕上げプロセスとしては、例えば化学物質(漂白剤や酸化剤など)、オゾン、酵素、レーザー研磨がある。
【0005】
この場合、生地、特にインディゴによりリング染色された織布を使用すると、インディゴ染料は、糸の表面にあり、糸の芯は染色されずに残っており、ストーンウォッシュ、サンドブラスト、またはレーザー研磨プロセスを適用して、さまざまな量のインディゴ糸の未染色の芯を見えるようにすることができる。上記のすべての仕上げ処理により、目に見えるさまざまな効果、特にすり減った外観を得ることができ、これにより、アパレル、衣料品、および繊維産業でファッショナブルな生地を生産している。
【0006】
しかし、既知の仕上げ処理によって得られる目に見える効果と外観は限られている。例えば、仕上げられた生地のすり減った外観は、本質的に、目に見えるようになったインディゴ糸の染色されていない芯の量によるものである。したがって、すり減った外観を持つ製品と他の製品との違いは、製品の全体的な「色合い」、つまり、すり減った外観を持つ製品が他の製品に対してどれだけ色あせているかである。レーザー研磨プロセスでは、レーザービームを行うソフトウェアは、処理されたすべての衣類に同じパターンを必ず再現している。
【0007】
別の問題は、既知の仕上げプロセスでは、生地から染料を除去する程度を制御することが難しいという事実である。従来の研磨に基づく方法は、通常、生地の機械的健全性を著しく低下させ、そのため、処理された生地および衣類の引張強度を低下させてしまう。したがって、同じ仕上げプロセスを有する異なる生産者によって作られた衣料品は、結果的には非常に類似したものになってしまう。こうして、商業上の製品の魅力を減らしてしまい、製品を他の生産者のものと差別することができなくなってしまう。
【0008】
特許文献1は、インディゴで染色された製品(例えば、ブルーデニムとブルージーンズ)の色を藍色からセピア色に変えるプロセスを開示している。このプロセスは、水の存在下で、インディゴで染色された製品を担子菌類から得られた調剤と接触させる工程を含んでいる。特許文献1で使用されている菌類は、主に農業用菌根キノコの廃棄物の形態であり、乾燥した組成物の形態をしている。さらに、特許文献1の請求項5では、脱色プロセスは、過酸化水素の存在下で発生し、均一なセピア色になることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-073280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述の問題を解決し、すり減ったまたは色あせた外観を改善して、特に、色をさまざまな色合いに調整することにより、差別化されたすり減った外観を有する生地を製造するための仕上げプロセスを提供することである。本発明の別の課題は、商業的に望ましく、認識可能であり、かつ他の製品と容易に差別化することができる、使い古した外観を有する生地の製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題は、染色された生地を処理して染料の一部を除去し、異なる色合いを提供するプロセスによって達成され、このプロセスは、請求項1によって行われる。本発明の別の課題は、請求項14に記載の生地または衣類である。菌類組成物を含む衣類または生地は、培養が少なくとも部分的に行われる容器に入れることができる。したがって、本発明の課題は、請求項13に記載のパッケージである。
【0012】
好ましい実施形態では、生地の培養は、衣類上で行われる。適切な容器に収納された衣類は、店舗内に置かれていてもよい。つまり、培養は、衣類製造施設とは異なる場所、例えば、小売店などで少なくとも部分的に行われていてもよい。一実施形態では、染料の消化により顧客が必要とする色合いが得られたときに、衣類を検査し、最終的に顧客が購入することができる。
【0013】
好ましい染料はインディゴである。好ましいことに、インディゴで染色された糸は、インディゴでリング染色がされている。すなわち、インディゴは、糸の外面に存在している。一実施形態では、生地は、2つ以上の染料を含んでいる。実施形態によれば、染色された生地は硫化染料を含んでいてもよい。例えば、染色された(例えば、インディゴで染色された)生地は、硫化染料で過剰に染色されていてもよい。実施形態によれば、染色された生地は、少なくとも別の染料、例えばインディゴで過剰に染色された硫化染料で染色された生地であってもよい。硫化染料は当技術分野で知られており、市販されている。
【0014】
以下に、生地について行われているプロセスを説明する。この定義には、物品、特に衣類または衣料品を構成している生地が含まれている。換言すれば、プロセスクレームは、生地の形態から独立して生地について行われるプロセスを対象としている。例えば、当該生地を含む、またはその生地で作られた衣類である物品またはアパレルは、本出願の特許請求の範囲の保護範囲に含まれている。
【0015】
少なくとも1つの染料を含む生地において、前記生地の異なる領域から異なる量の染料を除去し、前記生地に異なる色合いを付与する本発明による染色された生地を処理するプロセスであって、前記プロセスは、
i)少なくとも1つの染料で染色された生地を選択する工程と、
ii)前記少なくとも1つの染料を消化するのに適した生きている菌類微生物を含む組成物を調製する工程と、
iii)前記組成物を前記染色された生地の少なくとも1つの領域に塗布する工程と、
iv)前記生地で前記菌類微生物を培養する工程と、
v)必要な色合いが得られたら、前記生地から前記菌類を除去する工程とを含んでいることを特徴としている。
【0016】
一実施形態では、選択された領域は、生地または衣類全体に対応している。一実施形態では、組成物および/または生地は、工程iii)で水を含有し、生地は、培養工程iv)の間、湿潤状態に維持されている。実施形態によれば、染料は、インディゴ、インディゴ誘導体、硫化染料、アゾ染料、およびこれらの混合物から選択される。好適なアゾ染料は、例えば、反応性オレンジ、コンゴーレッド、反応性ブラック5、ダイレクトブルー71およびこれらの混合物である。生地の染料は、インディゴもしくはインディゴ誘導体染料、またはこれらの混合物であるか、これらを含んでいることが好ましい。一実施形態では、組成物は、菌類の支持培地または増殖培地を含んでいる。
【0017】
一実施形態によれば、前記プロセスはさらに、
異なる培養時間で得られる前記染色された生地の複数の色合いを記憶する工程と、
前記色合いを得るために必要な前記培養時間を記憶する工程と、
色合いおよび対応する培養時間のチャートを提供する工程と、
前記記憶された色合いの1つを選択する工程と、
前記選択された色合いに対応する前記培養時間の間、前記菌類微生物を含む前記生地を培養する工程とを含んでいる。
【0018】
一実施形態では、前記プロセスは、異なる増殖培地および/または異なる菌類を使用することによって得ることができる異なる色合いを記憶するステップを含んでおり、このような場合、色合いの前記チャートには、異なる培地および/または異なる菌類に応じて異なる色合いが含まれている。本発明のプロセスで使用するのに適した菌類は、市販されているか、既知の微生物カルチャー・コレクションから入手することができる。例えば、染色された生地、例えば、インディゴで染色された生地を処理するのに好適な菌類は、白色腐朽菌、好ましくはAcremonium、Gymnoascus、Penicillum、Funalia、Trametesまたはこれらの混合物から選択される菌類である。実施形態によれば、菌類は、Acremonium camptosporum、Gymnoascus arxii、Penicillium chrysogenum、Funalia trogii、Trametes hirsuta、またはこれらの混合物から選択される。実施形態によれば、菌類微生物は、遺伝子組換されていない場合(すなわち、野生型菌類である場合)、同じ菌類によって消化されない染料および/または顔料を消化するために、遺伝子組換されていてもよい。実施形態によれば、組成物は、2つ以上の異なる菌類の混合物を含んでいてもよい。これにより、2つ以上の異なる菌類が準備され、染色された生地で一緒に(つまり、共培養として)培養される。この場合、生地上の複数の染料を、ほぼ同時に消化することができる。本明細書で使用する用語「共培養」は、染色された生地で少なくとも2つの異なる菌類微生物をほぼ同時に培養することを指している。有利なことに、染色された生地に異なる菌類を一緒に施し、共培養することで、生地に異なる視覚効果を与えることができる。実施形態によれば、異なる菌類は、異なる酵素、すなわち異なるタイプおよび/または異なる量の酵素を生産する。本発明のさらなる利点は、異なる菌類の組み合わせを使用して、染色された生地に酵素の異なる組み合わせを施すことができ、これにより、生地に多種多様な視覚効果を与えることができる。有利なことに、Acremonium、Gymnoascus、Penicillum、Funalia、およびTrametesの菌類は、BSL-1(バイオセーフティーレベル-1)として分類されおり、人間にとって危険でも、有害でもない。実施形態によれば、培養温度は、15℃~40℃、好ましくは20℃~35℃の範囲である。実施形態によれば、培養工程の期間は、1ヶ月以上、2ヶ月以上、または3ヶ月以上とすることができる。実施形態によれば、選択された組成物で染色された生地の培養期間を長くすることによって、より明るい色合いを得ることができる。
【0019】
前述のように、生地、すなわち染色された生地は、衣類またはアパレルの一部であることが好ましい。菌類組成物をこの衣類に塗布し、かつ実施形態によれば、このプロセスは、組成物を含む衣類を容器に入れて、培養する間、衣類を湿潤状態に維持する工程をさらに含んでいる。一実施形態では、この容器内における衣類の培養工程は、生産者の施設、倉庫または店舗、またはこれらの任意の組み合わせのいづれかで、少なくとも部分的に行われる。
【0020】
実施形態では、パッケージは、菌類の培養に必要な条件を維持するのに適した遮水性容器を含んでおり、かつ容器に収納されている衣類または生地(すなわち、染色された生地)は、生きている菌類を含む組成物を含んでいる。一実施形態では、菌類除去の最終工程は、最終ユーザによって行われる。菌類除去は、通常の洗濯機用洗剤を用いて洗濯機でこの衣類を単に洗濯することにより行うことができる。
【0021】
本発明は、従来技術に対して差別化された利点を提供している。本発明のプロセスの最終結果は、生地の異なる領域で染料が異なる量消化された生地または衣類であり、こうして、この生地には、必要な色合いを付与するために、異なる領域に異なる量の染料が施されている。
【0022】
別の利点として、本発明によって処理された生地または衣類では、菌類は、染料を消化するが、糸の繊維を未消化のままにしていることである。このため、本発明のプロセスを通じて入手可能な衣類では、この生地には、完全な、またはほぼ完全な糸が含まれている。一方、既知の仕上げプロセスでは、糸、特に綿糸の外部繊維は、研磨または酵素消化を受けた糸の面には、もはや存在していない。実施形態によれば、本発明の方法によって得られるような生地または衣類は、綿糸を含み、この綿糸の綿繊維は、ほぼ完全である。実施形態によれば、この生地は、合成糸、例えばポリエステル糸、および/または混紡糸、すなわち天然繊維(例えば綿)および合成繊維の両方を含む糸を含んでいてもよい。実施形態によれば、この合成糸および/または合成繊維は、異なる弾性特性を有していてもよい。有利なことに、合成糸および/または混紡糸を含む生地または衣類を本発明のプロセスによって処理する場合、菌類は、糸と繊維をほぼ損傷することなく、糸と繊維の染料分子を消化する。逆に、現在利用可能なセルラーゼ酵素(すなわち、単離されたセルラーゼ酵素)によって処理しても、処理する生地および衣類に存在する可能性がある染色された合成糸(例えば、ポリエステル)および/または混紡糸(例えば、綿繊維およびポリエステル繊維を含む混紡糸)に視覚効果を与えない。さらに、現在、洗浄中に石を使用して(すなわち、軽石などの石の存在下で、糸、生地または衣類を洗浄することによって)染色された合成糸および/または混紡糸に視覚効果が付与されている。しかし、例えば石の存在下で、生地を洗うと、生地の糸が損傷し、生地の強度が低下する恐れがある。有利なことに、本発明のプロセスを通じて、合成糸および/または混紡糸上の染料の少なくとも一部を除去して、色あせたおよび/またはすり減った外観を付与し、糸を完全またはほぼ完全なままにすることができ、これにより、生地および衣類の強度が損なわれないようになる。これらの有利な態様を考慮すると、本発明のプロセスは、生地および/または衣類を含む合成糸および/または混紡糸、すなわち、生地の100重量%までの任意の量の合成繊維および/または混紡繊維または糸を含む生地および/または衣類に対して、使い古したおよび/または色あせた外観を与えるのに特に適したものである。例えば、デニム生地において、合成繊維および/または混紡繊維または糸は、生地の重量の40%~45%の範囲で存在することができる。ドライメカニカルプロセス(スクレーピング、ウィスカーリング、ラビング、クリンピング、レーザー処理など)および/または湿式化学洗浄(漂白、酵素洗浄、例えばセルラーゼ洗浄、石/酵素洗浄、アシッドウォッシュなど)を含む既知の仕上げ処理は、再生繊維(すなわち、ビスコースレーヨンなどの再生セルロース繊維)を含む生地に視覚効果を付与するために使用することができる。しかし、このような既知の仕上げ処理は、このような生地の機械的強度を損なってしまうことが観察されている。例えば、再生繊維(例えば、レーヨン繊維)の機械的強度は、天然繊維(例えば、天然綿)よりも既知の仕上げ処理により影響を受けることが観察されている。本発明のプロセスは、再生繊維(例えば、再生繊維、または再生繊維および天然繊維および/または合成繊維とのブレンドを含む糸)を含む生地を処理するのに特に適している。実施形態によれば、生地は、再生糸または再生繊維、および/または混紡糸、すなわち、再生繊維および天然繊維(例えば、綿)および/または合成繊維を含む糸を含んでいてもよい。再生繊維、または人工繊維は市販されている。例えば、好適な再生繊維は、レーヨン、リヨセル、モダール、ビスコース、竹、およびこれらの混合物から選択することができる。実施形態によれば、生地は、織布、編布または不織布であってもよい。好ましくは、生地は、織布であり、より好ましくはデニム生地である。
【0023】
本発明の利点は、基質上で増殖している間、菌類は、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼおよびセルラーゼなどのいくつかの酵素を細胞外に分泌していることである。特定の科学的説明に縛られることなく、これらの分泌物の組成は、微生物の代謝要件および細胞の生理学的代謝による変化、ならびに菌類を生地で培養する際に使用する増殖培地の培地成分によって決定されることが観察されている。菌類の成長と染料分子の分解との間における菌類の分泌(主にその組成-異なる酵素量など)の変動は、菌類の代謝に応じて変化する。特定の科学的説明に縛られることなく、本発明のプロセスに使用するのに適した生きている菌類は、天然の、例えば綿の繊維を消化する酵素(例えば、セルラーゼ)を分泌してもしなくてもよいことが観察されている。さらに、たとえ生きている菌類が、とりわけ生地表面にセルラーゼ酵素を分泌する場合でも、そのようなセルラーゼ酵素は少量であり、そのため、生地の綿糸は、完全またはほぼ完全のままになっており、研磨(例えば、軽石を使用)または酵素消化(すなわち、単離された酵素を使用した消化)を受けた糸の面には、糸、特に綿糸の外部繊維がもはや存在しない既知の仕上げプロセスとは対照的である。一般的に、工業用洗浄で使用する酵素は、通常、単離されたセルラーゼ酵素であり、これは、綿糸のセルロース分子を標的とし、糸の外部染色繊維を実質的に除去して、使い古した外観を作り出す。逆に、本発明のプロセスで使用する生きている菌類微生物は、生地に分泌する異なる酵素を自然に生産することが観察されている。そのような異なる酵素の生産および分泌は、染料/顔料の分解を引き起す。上記のように、衣類に施された菌類がセルラーゼを放出する場合、セルラーゼは、現在利用可能な処理、例えばセルラーゼによる酵素洗浄によって使用するセルラーゼ(すなわち、単離されたセルラーゼ)の量に対して大幅に少ない量である。実施形態によれば、培養工程の期間は、増殖培地の組成および/または生地に塗布する菌類の量を変えることにより、調整することができる。例えば、培地に含まれる所定量の栄養素(Cおよび/またはN含有成分など)、および所定量の菌類(例えば、菌類胞子)を選択することにより、培養時間を短縮することができる。
【0024】
特定の科学的説明に縛られることなく、考えられる説明としては、培養の初期段階で、染料分子を分解するために必要な酵素が生地表面に分泌されていることである。また、有利なことに、菌類は、培養工程中に生産した代謝産物を栄養素として使用することができ、このため、たとえ少量の栄養素しか増殖培地に含まれていなくても菌類が生存できることが観察されている。加えて、有利なことに、生地または衣類における菌類の増殖は、生地全体で均一ではない。これにより、生地表面の色の変化において、すなわち、多くの異なる色合いにおいて、それらは、不均一であり、衣類の自然な着用および使用から得られるように、視覚的には自然な色の勾配または変化として見えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】菌類組成物で処理した生地を異なる期間培養することによって得られた異なる色合いを示したものである。
図2】本発明によるプロセスの例示的な実施形態の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の例示的な実施形態の例示的かつ非限定的な模式図として解釈される必要がある添付の図面を参照して、本発明をさらに開示する。
【0027】
最初に、図2のフローチャートを参照する。このフローチャートは、本発明のプロセスの例示的な実施形態に関し、以下の工程を含んでいる。
【0028】
工程1では、菌類と培地の組み合わせのテストが、このような組み合わせの退色効果を評価するために行われる。それぞれの好適な微生物は、異なる増殖培地または支持培地を含む異なる組成物について染色された生地でテストが行われる。染色された生地に対する菌類の退色効果も、異なる培養時間で監視および検出が行われる。このアクティビティは、このプロセスの準備段階の一部であり、この目的は、菌類と培地のこのような組み合わせの有効性を決定することであるため、毎回繰り返す必要がある工程とは見なされていない。テストアクティビティの結果は、適切な記憶手段に記憶される。換言すれば、工程1は、異なる培養時間で培地中の少なくとも1つの菌類を使用することにより得られる染色された生地の複数の色合いを記憶し、かつこの色合いを得るために必要な培養時間を記憶することを含んでいる。
【0029】
工程2では、最初の工程1のテストアクティビティの結果がチャートに整理され、少なくとも1つの菌類のための色合い、および例えば対応する培養時間に関する情報が提供される。このようにして、有利なことに、異なる菌類-培地の組み合わせの効果を、相互に、かつ生地(例えば、織布、好ましくはデニム生地)の最初の色合いと簡単に比較することができ、これにより、使用する組み合わせを簡単かつ明確に選択できるようになる。有利なことに、チャートは、任意のフォーマットとすることができ、情報は任意の適切な方法、例えば写真、またはデジタルで、色彩強度を表す数字で提供することができる。加えて、チャートは、異なる色合いを有する生地のサンプルを含むサンプルカタログであってもよく、各色合いは、例えば、菌類、培養時間、および培地の特定の組み合わせを通じて取得可能である。有利なことに、異なる種類の生地/衣類のために異なるチャートを提供することができる。例えば、本発明によれば、菌類による処理の前に、異なる色合いで染色された生地のための異なるチャートを提供することができる。そこで、続いての工程3は、例えば、工程2で生成された表に示されているものから、色合いを選択することを含んでいる。それぞれの色合いは、少なくとも1つの菌類、培地および培養時間の組み合わせを指している。実施形態によれば、色合いを選択するこの工程3は、店舗にいる最終顧客を含む顧客によって行われてもよい。
【0030】
図2の実施形態によれば、このプロセスは、工程3で選択された菌類-培地の組み合わせを含む好適な組成物の調製(工程4)に続いており、その組成物で生地/衣類は、培養工程を受けることになる。工程5では、染色された生地/衣類(例えば、インディゴで染色された生地/衣類)が準備される。工程4で調製した組成物で培養を行う際に、この生地または衣類は、必要な色合いを提供するのに好適なものである。換言すれば、実施形態によれば、菌類組成物で処理される生地または衣類(または他の繊維製品)は、前述のテストに従って選択される。例えば、選択された培養時間の間、選択された菌類と培地で処理されると、生地における染料の種類と量は、結果として得られる色合いがチャートの色合いにほぼ対応するものである。工程6では、工程4で調整した組成物を工程5で準備した生地/衣類に塗布する。この組成物は、既知の方法で生地または衣類に塗布することができる。
【0031】
図2の工程7では、所望の菌類組成物が施された生地/衣類(工程6による)を、好ましくは20℃~35℃で培養する。これにより、菌類は、培養されている生地/衣類に退色効果をもたらすことができる。前述のように、培養は、適切な条件で行われる。これは、組成物を塗布する前に生地/衣類に水を加えてもよく、かつ組成物自体が水および/または適切な添加物を含むことで、培養工程7全体を通して湿度の高い状態に生地を維持してもよいことを意味している。これに関して、生地または衣類に、遮水性容器、または培養工程7の間に、生地/衣類に必要な湿度および水分を維持するのに適した容器を準備することが望ましい。工程7で開始された培養の間に、更なる培地および/または菌類(上記の工程3で選択)を生地に追加してもよい(図2のオプションの工程8)。場合によっては、この追加が必要になる場合がある。例えば、培養プロセスの間に、菌類の数が予想外に減少した場合、または、培養プロセスを予定よりも長い時間行わなければならない場合、菌類が退色効果を継続するために追加の増殖培地を必要とする場合がある。
【0032】
工程9は、オプションの工程である。工程9では、培養工程7が行われている生地(または衣類)の状態が評価され、退色効果が必要なレベルに達しているかどうか、つまり、生地の色合いが、たとえば最終顧客にとって満足のいくものであるかどうかが評価される。
【0033】
色合いが十分でない場合(図2のオプション「NO」)、必要に応じて、工程8により培地および/または菌類を追加して、培養工程7を進める。色合いが満足できるものである場合(図2のオプション「YES」)、菌類組成物を生地から取り除き(図2の工程10)、生地を乾燥させる。実施形態によれば、除去は、生地を洗浄することで行う。最終製品、たとえば選択された色合いに処理済みの衣類を最終顧客に販売する前に、たとえば、生地の製造業者または最終生産者が菌類を除去するために、加圧下で高温のシリンダーにより洗浄を行う場合がある。換言すれば、実施形態によれば、洗浄は、生地生産者によって、またはこの生地が衣類の一部である場合、衣類生産者、衣類販売者、または最終顧客、すなわち最終ユーザのいずれかによって行われてもよい。有利なことに、洗浄方法および/または洗浄条件は、顧客が決定することができる。実施形態によれば、菌類は、簡単な家庭洗濯で除去することができる。このように、有利なことに、生地の製造業者、または場合によっては最終顧客によって、除去プロセスは、処理済み衣類の家庭洗濯による安価な方法で行うことができる。
【0034】
上述のように、図2を参照して上記に開示された本発明のプロセスの例示的な実施形態の工程2において、少なくとも1つの菌類について、色合いと、例えば対応する培養時間に関する情報を提供するチャートを取得することができる。実施形態によれば、特定の培養期間、例えば40日の培養期間の後に、異なる菌類-培地の組み合わせによって、同じ開始製品、例えばインディゴで染色された生地に与えられる退色効果を、チャートは、予想することができる。実施形態によれば、チャートは、複数の菌類-培地の組み合わせを示すことができる。例えば、例示的なチャートは、菌類の5つの異なる属(例えば、Trametes、Funalia、Acremonium、Gymnoascus、Penicillium)と、4つの異なるサポート培地(ポテトデキストロースブロス「PDB」培地、麦芽エキス培地、ミネラル培地、強化ミネラル培地)とを組み合わせ、合計20の組み合わせを示すことができる。
【0035】
有利なことに、実施形態によれば、チャートは、例えば、インディゴで染色されたデニムを培地のみで培養する効果、ならびに未処理の対照サンプルおよびデニムを水のみで培養するサンプルも示すことができる。
このようにして、有利なことに、培地自体が退色効果を有する可能性を評価することができる。有利なことに、実施形態によれば、異なる培地-菌類の組み合わせで生地を培養すると、異なる色合いおよび/または退色効果をもたらすことができる。
【0036】
本発明のプロセスによって、菌類を使用することの有利な技術的効果が認められた。実際、菌類なしで培養された生地のサンプル、すなわち水または培地のみが使用されたサンプルは、このプロセスが適用されていない対照サンプルと比較して変色を示さないことが認められている。さらに、有利なことに、退色効果の分布は、生地において不均一にすることができることが認められている。例えば、特定の菌類と培地の組み合わせ(例えば、Gymnoascus-ミネラル培地、またはFunalia-麦芽エキス培地)は、生地全体で特に不均一な退色効果をもたらすことができる。これにより、デニムの外観がより自然になる。異なる培養期間および/または異なる菌類-培地の組み合わせに関連して、異なる表を準備することができる。
【0037】
図1は、同じ菌類-培地の組み合わせにおける異なる培養期間の後に得られた複数の色合いの例を示している。図1は、本発明のプロセスを適用した結果を示している。実施形態によれば、例えばブルージーンズなどの衣類に直接行うことができる。図1では、生地サンプルは、左側のものがより短い培養期間が適用されるように配置されている。一方、右側のものは(矢印で示されているように)、より長い培養期間が適用されている。図1に示すように、より長い培養期間(たとえば、1か月または2か月に対して3か月)は、デニム生地などの生地の色合いをより明るくしている。前述のように、このプロセスは、生地サンプルだけでなく、衣類に直接適用することができる。有利なことに、本発明によるプロセスを衣類に適用する場合、得られる退色効果は、特に不均一であり、衣類により自然な色あせた外観を与える。
【0038】
最後に、本発明は、仕上げプロセスを遅くすることができることに留意されたい。例えば、パッケージ内で処理された生地は、増殖プロセスを遅くするため、上記で説明した培養温度よりも低い温度、例えば約15℃~19℃に保つ場合がある。温度を低くすると、消化期間に影響するようになる。売り手がパッケージを販売する前に、店舗/会社でパッケージを長期間留め置きしたい場合、生地に微生物を塗布する際に、増殖プロセス、したがって染料消化プロセスを遅くするために、施す培地の量を少なくすることができる。
図1
図2