(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ボーリング用刃具、ボーリング用加工機及びボーリング方法
(51)【国際特許分類】
B23B 29/02 20060101AFI20240305BHJP
B23B 41/00 20060101ALI20240305BHJP
B23B 35/00 20060101ALI20240305BHJP
B23B 39/22 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B23B29/02 Z
B23B41/00 C
B23B35/00
B23B39/22
(21)【出願番号】P 2019187334
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】513080195
【氏名又は名称】株式会社ハル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】万代 晴夫
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-268245(JP,A)
【文献】特開平07-009216(JP,A)
【文献】実開平05-012017(JP,U)
【文献】特開2009-066672(JP,A)
【文献】特開2014-195851(JP,A)
【文献】特開昭61-188008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 29/02
B23B 41/00
B23B 35/00
B23B 39/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機に装着してワークの段付き穴の大径側の穴を切削加工するためのボーリング用刃具であって、
前記加工機は、ワークを保持するシャトルユニットと、ワークを挟むように対向配置された左右一対の加工ユニットを備えており、
前記ボーリング用刃具は、前記左右一対の加工ユニットのそれぞれに装着されるもので2本1組であり、
2本1組中の各ボーリング用刃具は、
軸部と、
前記各軸部の中心線に直交する方向に突出した切削刃と、
前記各軸部の先端に形成され、前記各軸部の先端同士を突き合わせるための当接面とを備えており、
前記各ボーリング用刃具の前記切削刃を含めた高さは、前記段付き穴の小径側の穴の直径よりも小さく、
前記軸部を前記軸部の中心線を中心に回転させたときに、前記切削刃の先端刃の軌跡が、半径が前記大径側の穴の半径である円であり、
前記シャトルユニットは、ワークを前記軸部と直交する方向に移動可能であり、
前記加工ユニットの移動により、前記切削刃が前記小径側の穴を通過し、前記シャトルユニットにより、前記軸部の中心線と前記大径側の穴の中心線が一致するまで、前記ワークが移動した状態で、
前記各ボーリング用刃具は、前記各ボーリング用刃具の先端同士を突き合わせた結合状態で、2本が一体に前記軸部の中心線回りに回転しながら前記切削加工を行
い、
前記2本1組のボーリング用刃具のうち、一方のボーリング用刃具は前記当接面から延びた延出部を設けており、他方のボーリング用刃具は前記延出部が入り込む穴を設けており、
前記延出部の長さは、前記軸部の中心線方向において、前記一方のボーリング用刃具と前記他方のボーリング用刃具を互いに反対方向に移動させながら、前記ワークの穴の加工が完了したときに、前記延出部が前記穴に入り込んだ状態を維持できる長さであることを特徴とするボーリング用刃具。
【請求項2】
請求項
1に記載のボーリング用刃具を用いる加工機であって、ワークを挟むように対向配置された左右一対の加工ユニットを備えていることを特徴とする加工機。
【請求項3】
請求項
1に記載のボーリング用刃具を用いるボーリング方法であって、
前記2本1組のボーリング用刃具を、前記2本1組中の各ボーリング用刃具の前記当接面同士を当接させ、前記各ボーリング用刃具の後端側を前記加工機で支持した状態で、
前記2本1組のボーリング用刃具を前記中心線回りに回転させ、前記中心線方向に移動させながら、前記切削刃で、前記ワークの穴の内周面を切削加工することを特徴とするボーリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機に装着してワークの段付き穴の大径側の穴を切削加工するためのボーリング用刃具に関し、あわせて同刃具を用いるボーリング用加工機及びボーリング方法加工に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、デフケースやデフキャリアの切削加工を行う各種加工機が知られている。例えば特許文献1には、回転可能かつ前後方向にスライド可能なシャトルユニットと、上下方向にスライドする内面加工刃具交換装置と、ワークを挟むように対向配置された左右一対の加工ユニットとを備え、簡単な構造でありながら、汎用性を損なうことなく、デフケースの異なる部位の加工が可能になるデフケースの加工機が提案されている。
【0003】
このようなデフケースの加工機を用いれば、デフケースに設けたサイドギア穴のボーリングが可能である。サイドギア穴は、貫通穴の内側の端部を拡径して設けた穴であり、加工機の加工ユニットに軸部から横方向に突出した切刃を有する工具を装着し、工具を貫通穴に挿通させた後、シャトルユニットを前後方向にスライドさせれば、工具の切刃がサイドギア穴の内周面に当接し、当該工具でサイドギア穴を加工できる。
【0004】
サイドギア穴が左右一対のサイドギア穴である場合は、左右一対の各加工ユニットに装着した各工具で左右一対の各サイドギア穴を加工できる。この場合、各工具は、片持ち状態で回転するので、工具のびびり振動による加工精度の低下が懸念される。この点、特許文献2に記載の内面加工装置においては、片持ち支持されたロングバイトにセンターシャフトを当接させ、ロングバイトがあたかも両持ち支持状態となるようにして、ロングバイトの姿勢を安定させてロングバイトの振動や位置ブレを極力回避し、円筒部内周面の切削加工精度が高まるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-195851号公報
【文献】特開2007-30101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の内面加工装置においては、ロングバイトを駆動する第1のサドルは、ワークの片側に設けているに留まり、センターシャフトはロングバイトを支持する役割を有するに留まっており、切削機能を有するものではなかった。また、特許文献2には、ロングバイトの一方向への移動で、左右両円筒部の内周面加工を一度に完了できることが記載されているが、この場合は、ロングバイトの長さを長くしておく必要があり、長いロングバイトは、ロングバイトの振動防止や位置ブレ防止には不利であった。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、工具のびびりによる加工精度の低下を防止しつつ、切削加工時間の短縮にも有利なボーリング用刃具、ボーリング用加工機及びボーリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のボーリング用刃具は、加工機に装着してワークの段付き穴の大径側の穴を切削加工するためのボーリング用刃具であって、前記加工機は、ワークを挟むように対向配置された左右一対の加工ユニットを備えており、前記ボーリング用刃具は、前記左右一対の加工ユニットのそれぞれに装着されるもので2本1組であり、2本1組中の各ボーリング用刃具は、軸部と、前記各軸部から横方向に突出した切削刃と、前記各軸部の先端に形成され、前記各軸部の先端同士を突き合わせるための当接面とを備えており、前記各ボーリング用刃具は、前記各ボーリング用刃具の先端同士を突き合わせた結合状態で、2本が一体に前記軸部の中心線回りに回転しながら前記切削加工を行うことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、2本1組のボーリング用刃具は、左右の加工ユニットによる両持ち状態で、中心線回りに回転しながら穴の内周面の切削加工を行うことができるので、びびり振動が防止され、切削加工の精度が高まる。より具体的には、穴の円筒度、真円度、同軸度の精度が高まることに加え、穴の内周面の面粗度の精度も高まる。
【0010】
また、2本1組中の各ボーリング用刃具は各軸部に切削刃を有しているので、2つの穴を切削加工する際に、各穴に専用の刃具が対応することになり、軸部の長さを抑えることができ、このこともびびり振動防止に有利になる。さらに、一度の刃具交換で、2つの異なる径の穴の切削加工も可能になる。
【0011】
前記本発明のボーリング用刃具においては、前記2本1組のボーリング用刃具のうち、一方のボーリング用刃具は前記当接面から延びた延出部を設けており、他方のボーリング用刃具は前記延出部が入り込む穴を設けていることが好ましい。この構成によれば、回転中の2本1組の刃具の滑り防止を図ることができる。
【0012】
また、前記延出部の長さは、前記軸部の中心線方向において、前記一方のボーリング用刃具と前記他方のボーリング用刃具を互いに反対方向に移動させながら、前記ワークの穴の加工が完了したときに、前記延出部が前記穴に入り込んだ状態を維持できる長さであることが好ましい。この構成によれば、左右の2つの穴を同時に加工することが可能になり、切削時間の短縮を図ることができる。
【0013】
本発明の加工機は、前記各ボーリング用刃具を用いる加工機であって、ワークを挟むように対向配置された左右一対の加工ユニットを備えていることを特徴とする。本発明のボーリング方法は、前記各ボーリング用刃具を用いるボーリング方法であって、前記2本1組のボーリング用刃具を、前記2本1組中の各ボーリング用刃具の前記当接面同士を当接させ、前記各ボーリング用刃具の後端側を前記加工機で支持した状態で、前記2本1組のボーリング用刃具を前記中心線回りに回転させ、前記中心線方向に移動させながら、前記切削刃で、前記ワークの穴の内周面を切削加工することを特徴とする。
【0014】
前記本発明のデフケースの加工機及びデフケースの加工方法によれば、前記本発明のデフケース加工用の刃具を用いるので、切削加工の精度が高まることに加え、刃具の軸部の長さを抑えることができ、かつ一度の刃具交換で、2つの異なる径の穴の切削加工も可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果は前記のとおりであり、要約すれば、2本1組のボーリング用刃具は、左右の加工ユニットによる両持ち状態で、中心線回りに回転しながら穴の内周面の切削加工を行うことができるので、びびり振動が防止され、切削加工の精度が高まることになり、各ボーリング用刃具は各軸部に切削刃を有しているので、2つのを穴を切削加工する際に、各穴に専用の刃具が対応することになり、軸部の長さを抑えることができ、かつ一度の刃具交換で、2つの異なる径の穴の切削加工も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る加工機の加工対象物であるワークの斜視図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るボーリング用刃具によりワークをボーリングする直前の状態を示す斜視図。
【
図5】本発明の一実施形態において、ワークの位置の初期設定が完了した状態を示す図。
【
図6】本発明の一実施形態において、一対の刃具がデフベアリング座面及びデフベアリング穴を通過中の状態を示した図。
【
図7】本発明の一実施形態において、一対の刃具の水平移動が完了した状態を示す図。
【
図8】
図7の状態からワークをΔdだけ下降させた状態を示した図。
【
図9】本発明の一実施形態において、デフベアリング穴が切削刃での切削加工されている状態を示す図。
【
図10】本発明の一実施形態において、デフベアリング穴の切削加工中の状態のワーク近傍の斜視図。
【
図11】本発明の一実施形態において、左側のデフベアリング穴の切削加工が完了した状態を示す図。
【
図12】本発明の一実施形態において、右側のデフベアリング穴が切削刃で切削加工されている状態を示す図。
【
図13】本発明の一実施形態において、右側のデフベアリング穴の切削加工が完了した状態を示す図。
【
図14】本発明の一実施形態に係る新たな刃具を用いたときの一対の刃具の結合状態を示す図。
【
図15】
図14の状態から刃具が移動し、左右のデフベアリング穴が切削刃で切削加工されている状態を示す図。
【
図16】
図15の状態から刃具が移動し、左右のデフベアリング穴の切削加工が完了した状態を示す図。
【
図17】本発明の一実施形態において、ピニオン穴及びオイルシール穴の切削加工前の状態を示す図。
【
図18】本発明の一実施形態において、ピニオン穴及びオイルシール穴の切削加工前の状態の別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。最初に
図1及び
図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係る加工機1(
図3参照)の加工対象物であるワーク10について説明する。
図1はワーク10の斜視図、
図2は
図1に示したワーク10の縦断面図を示している。ワーク10はデフキャリアである。デフキャリアには、差動変速機構を内蔵したデフケースに加え、ファイナルギアであるドライブピニオンギア及びリングギアが内蔵される。
【0018】
図1において、左右の脚部11には、デフベアリング座面12及びデフベアリング穴13が形成されている。
図2に示したように、デフベアリング座面12を形成する小径の孔とデフベアリング穴13を形成する大径の孔とで、段付き穴を形成している。また、デフキャリア10の円筒部には、上方から順に、オイルシール穴14、ピニオン穴15、逃がし穴16、逃がし穴17及びピニオン穴18が形成されている。
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る加工機1について説明する。最初に、
図3を参照しながら、加工機1の構成を概略的に説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係る加工機1の正面図である。
図3において、ベース2上に、シャトルユニット3、加工ユニット4及びATC(自動工具交換装置)5が搭載されている。
【0020】
シャトルユニット3はワーク10を保持して、これを回転させることができる。シャトルユニット3は、昇降体30を備えており、これと一体にY方向(前後方向)に移動可能である。昇降体30は、モータ31によりボールねじ32が回転し、ガイド33に沿ってZ方向(上下方向)に移動可能である。昇降体30は、ワーク10を保持するクランパ34及びクランパ34を回転させる回転基台35を備えている。
【0021】
加工ユニット4は左右一対であり、
図3の位置から下降させたワーク10を挟むように対向配置されている。加工ユニット4の先端には工具20が装着されている。本実施形態では、加工部位に応じて工具20を使い分けることができ、加工ユニット4に装着する工具20は、ATC5により必要な工具20に自動交換される。
【0022】
ATC5は、回転円盤70を備えており、回転円盤70に複数の工具20が着脱可能に取り付けられている。ATC5は昇降体71がガイド軸72に案内されて、昇降可能である。工具20の交換時には、昇降体71が下降し、加工ユニット4の先端に装着された工具20と、ATC5の回転円盤70に取り付けられた工具20とが交換される。
【0023】
加工ユニット4は、ハウジング21、工具駆動用モータ22及びスライド用モータ23を備えている。工具駆動用モータ22の駆動力は、駆動力伝達機構(図示せず)に伝達され、工具20が回転する。スライド用モータ23の駆動力は、ボールねじ機構(図示せず)に伝達される。このことにより、加工ユニット4はX軸方向(左右方向)にスライドして往復移動する。より具体的には、加工ユニット4と一体のスライド体24がガイドレール25に沿ってスライドする。
【0024】
以下、
図4を参照しながら、ボーリング用刃具について説明する。
図4は、ボーリング用刃具(以下、単に「刃具」という。)40により、ワーク10をボーリングする直前の状態を示している。刃具40は、
図3において加工ユニット4の先端に装着される工具20に含まれる工具であるが、説明の便宜のため符号40を付して工具20と区別する。
【0025】
刃具40は2本1組であり、説明の便宜のため一方を刃具40a、他方を刃具40bという。刃具40a、刃具40bはそれぞれ、軸部41と軸部41から横方向に突出した切削刃42と軸部41の先端に形成され、軸部41の先端同士を突き合わせるための当接面43とを備えている。刃具40aの当接面43には延出部44が一体になっており、刃具40bの当接面43には、当接面43の位置に開口を有する穴45が形成されている。
【0026】
詳細は後に説明するとおり、切削加工中は、延出部44が穴45内に入り込み、かつ当接面43同士が当接して、刃具40a及び刃具40bは結合して左右の加工ユニット4のハウジング21により、両持ち状態になる(
図10参照)。
図4では、延出部44は扁平状であり、延出部44が穴45内に入り込んだ際に、回転中の刃具40a及び刃具40bの滑り防止を図ることができる。延出部44は円柱状であってもよく、後に
図19(a)、(b)を用いて説明するとおり、延出部44を省いてもよく、これらの構成であっても、刃具40a及び刃具40bの回転トルクと位置の同期により、滑り防止を図ることができる。
【0027】
以下、
図5~
図13を参照しながら、ワーク10の加工工程について説明する。
図5は、ワーク10の位置の初期設定が完了した状態を示している。ワーク10は、上方から見た状態を図示しており、便宜のため断面状態で図示しており、オイルシール穴14側が加工機1(
図3参照)の奥部側であり、左右の脚部11側が作業者側である(
図6~
図9及び
図11~
図16についても同じ。)。
図3では加工ユニット4の上方にあったワーク10は、シャトルユニット3が備える昇降体30の下降により、ワーク10のデフベアリング座面12が刃具40a及び刃具40bの当接面43と対向する初期設定位置まで下降している。
【0028】
初期設定位置は、加工ユニット4の水平移動による刃具40a及び刃具40bが前進したときに(矢印b)、刃具40a及び刃具40bがデフベアリング座面12を通過可能な高さ方向におけるワーク10の位置である。刃具40a及び刃具40bの切削刃42を含めた高さBは、デフベアリング座面12の直径Aよりも小さい。このため、ワーク10の高さ方向及び前後方向(矢印a)の位置を所定の位置に設定すれば、刃具40a及び刃具40bは、デフベアリング座面12を通過可能である。
【0029】
図6は、刃具40a及び刃具40bがデフベアリング座面12及びデフベアリング穴13を通過中の状態を示す図である。
図6の状態では、ワーク10は初期設定位置を維持しているので、刃具40a及び刃具40bは、デフベアリング座面12を通過可能であり、デフベアリング座面12よりも直径の大きいデフベアリング穴13も通過可能である。
【0030】
図7は、刃具40a及び刃具40bの水平移動が完了した状態を示している。本図の状態では、刃具40a及び刃具40bの当接面43同士が当接しており、延出部44が穴45内に入り込んでいる。また、デフベアリング穴13の中心線26は、刃具40a及び刃具40bの軸部41の中心線27よりもΔdだけ後側にあり、中心線26及び中心線27は一致していない。この場合、
図7の状態からワーク10をΔdだけ前進させれば(矢印a)、中心線26及び中心線27は一致する。
【0031】
図8は、
図7の状態からワーク10をΔdだけ前進させた状態を示している。この状態では、刃具40a及び刃具40bの軸部41の中心線27は、デフベアリング穴13の中心線26に一致している。この状態では、刃具40a及び刃具40bを中心線27を中心として回転させると、切削刃42の先端刃の軌跡は、デフベアリング穴13の中心線
26を中心とした半径C/2の円となる。このため、切削刃42をデフベアリング穴13に当接させた状態で、刃具40a及び刃具40bを回転させるとデフベアリング穴13の内周面を直径Cに切削加工することができる。
【0032】
図8の状態から切削刃42が左側のデフベアリング穴13に向かう方向に刃具40a及び刃具40bを移動させると(矢印c)、切削刃42がデフベアリング穴13に当接し、デフベアリング穴13の切削加工が開始する。
図9は、デフベアリング穴13が切削刃42での切削加工されている状態を示す図である。この状態では、デフベアリング穴13の深さ方向において、約半分の切削加工が完了している。
【0033】
図10は、デフベアリング穴13の切削加工中の状態のワーク10近傍の斜視図である。本図の状態では、延出部44が穴45内に入り込み、かつ当接面43同士が当接して、刃具40a及び刃具40bは結合しており、左右の加工ユニット4のハウジング21により、両持ち状態になっている。この両持ち状態で、刃具40a及び刃具40bを中心線回りに回転させると、びびり振動が防止され、デフベアリング穴13の切削加工の精度が高まる。
【0034】
より具体的には、デフベアリング穴13の円筒度、真円度、同軸度の精度が高まることに加え、デフベアリング穴13の内周面の面粗度の精度も高まる。特に、
図10では、一対のデフベアリング穴13を切削加工するので、各デフベアリング穴13の同軸度の精度が高まることにより、各デフベアリング穴13の中心軸も高精度で一致することになる。
【0035】
前記のとおり、びびり振動が防止されることにより、デフベアリング穴13の切削加工の精度も高まる。より安定した切削加工を行うには、加工ユニット4の制御回路に同期回路を付加し、刃具40a及び刃具40bの回転トルクと位置を同期させればよい。
【0036】
図11は、左側のデフベアリング穴13の切削加工が完了した状態を示す図である。本図の状態では、刃具40a及び刃具40bが中心線回りに回転しながら、切削刃42が左側のデフベアリング穴13の端部まで移動しており、左側のデフベアリング穴13の切削加工が完了している。この後は、
図11の状態から切削刃42が右側のデフベアリング穴13に向かう方向に刃具40a及び刃具40bを移動させて(矢印d)、右側のデフベアリング穴13の切削加工に移行する。
【0037】
右側のデフベアリング穴13の切削加工は、刃具40a及び刃具40bの移動方向を除けば、左側のデフベアリング穴13の切削加工と同じである。
図12は、右側のデフベアリング穴13が切削刃42で切削加工されている状態を示す図である。この状態では、右側のデフベアリング穴13の深さ方向において、約半分の切削加工が完了している。
図13は、右側のデフベアリング穴13の切削加工が完了した状態を示す図である。本図の状態では、切削刃42が右側のデフベアリング穴13の端部まで移動しており、右側のデフベアリング穴13の切削加工が完了している。
【0038】
以後、ここまでの工程とは逆方向に刃具40a及び刃具40bとワーク10を移動させれば、ワーク10から刃具40a及び刃具40bを引き出すことができる。すなわち、
図13の状態からら刃具40a及び刃具40bを左側に移動させると(矢印e)、
図8の状態に戻り、この状態からワーク10をΔdだけ後退させると
図7の状態に戻り、この状態から刃具40aと刃具40bとが離れるように、刃具40aと刃具40bを逆方向に移動させれば、
図6の状態を経て、刃具40aと刃具40bがワーク10の外部にある
図5の状態に戻る。
【0039】
デフベアリング穴13の切削加工は、荒加工と仕上げ加工の2工程に分けてもよく、前記の刃具40a及び刃具40bによる加工が、荒加工であるとすると、刃具40a及び刃具40bを仕上げ加工用の刃具に交換して、前記の一連の工程を繰り返せば、左右のデフベアリング穴13の仕上げ加工を実施することができる。
【0040】
前記の
図5~
図13を用いて説明した切削加工は、左右のデフベアリング穴13を同時に加工するものではなかったが、
図4において、延出部44の長さを長くし、これに対応させて穴45の長さも長くした刃具を用いることにより、左右のデフベアリング穴13を同時に加工することが可能になり、切削時間の短縮を図ることができる。
図14は、新たな刃具50a及び刃具50bを用いたときの刃具50a及び刃具50bの結合状態を示す図である。
図14は、刃具40a及び刃具40bの結合状態を示す
図8に相当する図であり、すでに刃具50a及び刃具50bの軸部41の中心線27は、デフベアリング穴13の中心線26に一致している。この状態に至るまでの工程は、刃具40a及び刃具40bの場合と同じである。
【0041】
図14において、刃具50a及び刃具50bは、延出部46及び穴47の長さが長いことを除けば、刃具40a及び刃具40bと同一構成であり、同一構成のものには同一符号を付して、その説明は省略する。延出部46の長さは、軸部41の中心線27方向において、一方のボーリング用刃具50aと他方のボーリング用刃具50bを互いに反対方向に移動させながら、ワーク10のデフベアリング穴13の加工が完了したときに、延出部46が穴47に入り込んだ状態を維持できる長さになっている。
【0042】
図14の状態から刃具50aと刃具50bとが離れる方向に刃具50a及び刃具50bを移動させると(矢印f、g)、刃具50aの切削刃42は左側のデフベアリング穴13に向かい、刃具50bの切削刃42は右側のデフベアリング穴13に向かう。刃具50a及び刃具50bが中心線回りに回転しつつ、互いに反対方向の移動が進行すると、刃具50aの切削刃42で左側のデフベアリング穴13が切削加工され、刃具50bの切削刃42で右側のデフベアリング穴13が切削加工される。
【0043】
図15は、左右のデフベアリング穴13が切削刃42で切削加工されている状態を示す図である。
図15に示したように、刃具50a及び刃具50bの切削刃42は、いずれもデフベアリング穴13に当接しているので、刃具50a及び刃具50bにより、左右のデフベアリング穴13を同時に加工することができる。
図15の状態では、左右のデフベアリング穴13の深さ方向において、約半分の切削加工が完了している。
【0044】
左右のデフベアリング穴13の切削加工の間、延出部46は穴47内に入り込んでいるので、刃具50a及び刃具50bは延出部46及び穴47を介して結合しており、左右の加工ユニット4のハウジング21(
図10参照)により、両持ち状態になっている。したがって、刃具40a及び刃具40bの場合と同様に、回転中のびびり振動が防止され、デフベアリング穴13の切削加工の精度が高まることになる。
【0045】
引き続き、刃具50a及び刃具50bの互いに反対方向の移動が進行すると、左右のデフベアリング穴13の切削加工も進行する。
図16は、左右のデフベアリング穴13の切削加工が完了した状態を示す図である。本図の状態では、切削刃42の先端刃が左右のデフベアリング穴13の端部まで移動しており、左右のデフベアリング穴13の切削加工が完了している。以後、刃具50a及び刃具50bをワーク10から引き出す工程は、刃具40a及び刃具40bの場合と同様である。
【0046】
前記実施形態においては、刃具40等の加工対象は、ワーク10のデフベアリング穴13であったが、本発明に係る刃具は、びびり振動を防止して穴の内周面の切削加工の精度を高めるというものであり、加工対象はデフベアリング穴13に限るものではない。
図17は一対の刃具60a及び刃具60bで構成される刃具60がピニオン穴18及びオイルシール穴14を切削加工する前の状態を示している。
【0047】
図13に示した一対のデフベアリング13穴の切削加工が完了した状態から、刃具40a及び刃具40bをワーク10から引き出せば、
図5の状態に戻ることになる。この状態から刃具40a及び刃具40bを退避させ、回転基台35(
図3参照)を回転させて、ワーク10を90度回転させれば(矢印h)、ワーク10の縦軸36がX軸(
図3参照)と平行になる。
図17は、刃具40を刃具60に交換した後の状態を示しており、刃具60a及び刃具60bの当接面65同士が当接しており、刃具60bの延出部66が刃具60aの穴675内に入り込んでいる。
【0048】
刃具60aはピニオン穴18の加工用であり、先端に当接面65を有する軸部61に、切削刃62がピニオン穴18を加工できる位置に取り付けられている。刃具60bはオイルシール穴14の加工用であり、先端に当接面65を有する軸部63に、切削刃64がオイルシール穴14を加工できる位置に取り付けられている。
図17の状態から刃具60を中心線回りに回転させながら、刃具60を切削刃62がピニオン穴18の内部に向かう方向に移動させると(矢印i)、ピニオン穴18の内周面が切削刃62で切削加工される。ピニオン穴18の切削加工後は、刃具60を切削刃64がオイルシール穴14の内部に向かう方向に移動させると(矢印j)、オイルシール穴14の内周面が切削刃62で切削加工される。
【0049】
図18は、ピニオン穴18及びオイルシール穴14を
図17とは異なる刃具で切削加工する前の状態を示している。刃具70aはピニオン穴18の加工用であり、先端に当接面75を有する軸部71に、切削刃72がピニオン穴18を加工できる位置に取り付けられている。刃具70bはオイルシール穴14の加工用であり、先端に当接面75を有する軸部73に、切削刃74がオイルシール穴14を加工できる位置に取り付けられている。刃具70a及び刃具70bは、延出部76及び穴77の長さが長いことを除けば、刃具60a及び刃具60bと同一構成である。
【0050】
刃具70aを中心軸回りに回転させながら、切削刃72がピニオン穴18の内部に向かう方向に移動させると(矢印i)、ピニオン穴18の内周面が切削刃72で切削加工される。一方、刃具70bを中心軸回りに回転させながら、切削刃74がオイルシール穴14の内部に向かう方向に移動させると(矢印j)、オイルシール穴14の内周面が切削刃74で切削加工される。
【0051】
図18のように刃具70を用いた場合は、ピニオン穴18及びオイルシール穴14を同時に加工することが可能になり、作業時間の短縮を図ることができる。また、ピニオン穴18及びオイルシール穴14の切削加工の間、延出部76は穴77内に入り込んでいるので、刃具70a及び刃具70bは延出部76及び穴77を介して結合しており、左右の加工ユニット4のハウジング21(
図10参照)により、両持ち状態になっている。したがって、刃具70を用いた場合も、回転中のびびり振動が防止され、ピニオン穴18及びオイルシール穴14の切削加工の精度が高まることになる。
【0052】
前記のデフベアリング穴13と、ピニオン穴18及びオイルシール穴14の一連の切削加工は、ワーク10を載せ替えることなく、ワーク10がクランパ34(
図3参照)で保持された状態で連続的に行うことができるので、デフベアリング穴13と、ピニオン穴18及びオイルシール穴14との中心軸同士の直角度も高精度になる。また、一度の刃具交換で、2つの異なる径のピニオン穴18及びオイルシール穴14の切削加工も可能になる。
【0053】
前記実施形態においては、刃具40及び刃具50等のいずれについても、一方の当接面43に延出部を設けたものであったが、延出部の無いものでもよく、延出部の形状は適宜変更したものであってもよい。以下、
図19を参照しながら、刃具の先端部の各種実施形態について説明する。
図19(a)に示した刃具80は、一方の刃具80a及び他方の刃具80bのいずれについても、当接面43に延出部を設けていない。この構成においては、当接面43同士を当接させた際の滑りを防止するために、当接面43を研磨し、平面度、直角度の精度を高め、表面粗さを小さくしておくことが望ましい。
【0054】
図19(b)に示した刃具81は、一方の刃具81a及び他方の刃具81bのいずれについても、当接面43の径を大きくして、当接面43同士を当接させた際の滑りを防止するようにしている。
図19(c)に示した刃具82は、刃具82bに延出部84を設け、刃具82aに延出部84が入り込む溝85を設けている。延出部84は、
図4に示した延出部44のように縦長ではなく横長であるが、この構成であっても、当接面43同士を当接させた際の滑りを防止することができる。
【0055】
前記実施形態においては、刃具40等の加工対象は、デフキャリアに形成された穴であったが、前記のとおり、本発明に係る刃具は、びびり振動を防止して穴の内周面の切削加工の精度を高めるというものであり、加工対象はデフキャリアに形成された穴に限るものではない。刃具40等の加工対象は例えばデフケースのサイドギア穴であってもよい。
【0056】
図20はデフケースの一例の縦断面図を示している。本図において、中央の本体部分の側面にはシャフト穴91が形成されており、本体部分の両側は、アクスル穴92を形成する小径の孔とサイドギア穴93を形成する大径の孔とで一対の段付き穴を形成している。この段付き穴の構成は、
図2においてデフベアリング座面12を形成する小径の孔とデフベアリング穴13を形成する大径の孔とで形成された一対の段付き穴の構成と同様である。このため、
図5~
図13に示した工程は、デフキャリア10をデフケース90に置き換えても実施可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 加工機
3 シャトルユニット
4 加工ユニット
10 ワーク(デフキャリア)
12 デフベアリング座面
13 デフベアリング穴
40,50,60,70,80,81,82 2本1組の刃具
40a,40b,50a,50b,60a,60b,70a,70b,80a,80b,81a,81b,82a,82b 刃具
41,61,63,71,73 軸部
42,62,64,72,74 切削刃
43,65,75 当接面
44,46,66,76 延出部
45,47,67,77 穴
90 ワーク(デフケース)
92 アクスル穴
93 サイドギア穴