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特許7448193角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20240305BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20240305BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240305BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 8/00 20060101ALN20240305BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
A61Q19/02
A61K8/00
A61P17/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020029046
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021132537
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】伊達 靖
(72)【発明者】
【氏名】奥野 凌輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-174547(JP,A)
【文献】特開2019-201564(JP,A)
【文献】特開2018-078848(JP,A)
【文献】特開2006-191858(JP,A)
【文献】Exp Dermatol,2013年,Oct, vol. 22, no. 10,pp. 664-667
【文献】シミの原因になるタンパク質とその抑制成分を発見―シミのメカニズムの研究成果を権威ある化粧品の国際学術大会で発表―, [online],2019年01月21日,retrieved on 01 Nov 2023, <URL: https://www.fancl.jp/laboratory/pdf/20190121_cxcr4.pdf >
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)~(a13)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を判定する方法。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs76659187で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8112134で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs117273229で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs4954391で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10239759で特定されるSNP)
(a6) 配列番号6に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs571652で特定されるSNP)
(a7) 配列番号7に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2734871で特定されるSNP)
(a8) 配列番号8に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10500203で特定されるSNP)
(a9) 配列番号9に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6063279で特定されるSNP)
(a10) 配列番号10に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs17684904で特定されるSNP)
(a11) 配列番号11に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs12476824で特定されるSNP)
(a12) 配列番号12に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs78180970で特定されるSNP)
(a13) 配列番号13に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs7533906で特定されるSNP)
【請求項2】
請求項に記載の方法により判定された結果に基づいて、被験者の角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の程度に応じた色素沈着の予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法。
【請求項3】
配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列において、36番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、及び/又は、配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列において、36番目の塩基を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を判定するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法に関する。より詳しくは、角質細胞内のメラニン含有量に関連する一塩基多型(SNP)を検出することによる、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法、及び該方法に用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、大きく分けて表皮・真皮・皮下組織の3層構造から成り、各組織には様々な細胞が存在する。皮膚のうち、最外層に存在する表皮組織は、水分の保持や外界からの刺激や異物の侵入防止など生体防御機構としての極めて重要な役割を担っている。表皮組織は、分化段階の異なる表皮細胞(基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、角質細胞)からなる多層構造をとる(非特許文献1)。表皮細胞の幹細胞(表皮幹細胞)は、このうち最も下層に位置する基底細胞層に存在し、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、組織に新しい細胞を常に供給していると考えられている(非特許文献2)。また、基底細胞層には、表皮細胞の他にメラノサイト(色素細胞)と呼ばれるメラニン生成細胞が存在し、表皮細胞にメラニンを供給している。メラノサイトからメラニンを受け渡された表皮細胞は、順次ターンオーバーにより表皮最外層の角質細胞層へと移動し、最終的に垢となって剥がれ落ちる。この角質細胞内のメラニン量を非侵襲的に調べる方法として、一般的にテープストリッピング法が用いられる。例えば、非特許文献3では、テープストリッピング法を用いることにより、角質細胞中のメラニン量が加齢とともに増加することや、喫煙群の方が非喫煙群に比較して増加すること等が示されている。このように角質細胞中のメラニン量をはじめとする肌状態は、年齢や季節、様々な環境要因(外的要因)に影響を受けるが、その個人差が大きいことも知られている。しかしながら、その個人差に関わる遺伝的素因を正確かつ簡便に判定する技術の確立は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Simpson CL, Patel DM, Green KJ. Deconstructing the skin: cytoarchitectural determinants of epidermal morphogenesis. Nat Rev Mol Cell Biol 2011;12: 565-80.
【文献】Akamatsu H, Hasegawa S, Yamada T, Mizutani H, Nakata S, Yagami A, et al. Age-related decrease in CD271(+) cells in human skin. J Dermatol 2016;43: 311-3.
【文献】宮崎博隆. 女性の肌状態と喫煙. 日本禁煙学会雑誌 2009;第4巻第4号.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、個人の角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を正確かつ簡便に判定する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、年齢・性別が異なるサンプル提供者を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いて一塩基多型(SNP)を網羅的に解析したところ、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因(色素沈着の生じ易さ)に関連する一塩基多型(SNP)と遺伝子を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] 被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)~(a13)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を判定する方法。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs76659187で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8112134で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs117273229で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs4954391で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10239759で特定されるSNP)
(a6) 配列番号6に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs571652で特定されるSNP)
(a7) 配列番号7に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2734871で特定されるSNP)
(a8) 配列番号8に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10500203で特定されるSNP)
(a9) 配列番号9に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6063279で特定されるSNP)
(a10) 配列番号10に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs17684904で特定されるSNP)
(a11) 配列番号11に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs12476824で特定されるSNP)
(a12) 配列番号12に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs78180970で特定されるSNP)
(a13) 配列番号13に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs7533906で特定されるSNP)
[2] 被験者から採取したDNA含有試料について、ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子に関連する一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を判定する方法。
[3] [1]又は[2]に記載の方法により判定された結果に基づいて、被験者の角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の程度に応じた色素沈着の予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法。
[4] 配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列において、36番目の塩基を含む10塩基以上の配列、又はその相補配列を有するプローブ、及び/又は、配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列において、36番目の塩基を含む領域を増幅することのできるプライマーを含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因を判定するためのキット。
[5] ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現変化を指標とする、色素沈着の予防及び/又は改善剤のスクリーニング方法。
[6] ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を制御する素材を含有する、色素沈着の予防及び/又は改善用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、被験者の生体試料に存在するゲノム由来のDNAに含まれる一塩基多型(SNP)のアレルを検出することにより、該被験者が、角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有するか(色素沈着が生じ易いか)を正確かつ簡便に判定することができる。よって、この判定結果に基づき、色素沈着の予防や改善のための対策を早期に講じることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法
本発明の角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法は、被験者から採取したDNA含有試料について、以下の(a1)~(a13)の1種又は2種以上の一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む。
(a1) 配列番号1に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs76659187で特定されるSNP)
(a2) 配列番号2に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs8112134で特定されるSNP)
(a3) 配列番号3に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs117273229で特定されるSNP)
(a4) 配列番号4に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs4954391で特定されるSNP)
(a5) 配列番号5に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10239759で特定されるSNP)
(a6) 配列番号6に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs571652で特定されるSNP)
(a7) 配列番号7に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs2734871で特定されるSNP)
(a8) 配列番号8に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs10500203で特定されるSNP)
(a9) 配列番号9に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs6063279で特定されるSNP)
(a10) 配列番号10に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs17684904で特定されるSNP)
(a11) 配列番号11に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs12476824で特定されるSNP)
(a12) 配列番号12に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs78180970で特定されるSNP)
(a13) 配列番号13に示される塩基配列の36番目の塩基におけるSNP(SNP:ID rs7533906で特定されるSNP)
【0009】
上記の(a1)~(a13)のSNPを含む塩基配列([]内はSNPを表す)を表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
後述の実施例のゲノムワイド関連解析(GWAS)結果に示すように、上記(a1)~(a13)のSNPは、p値が1×10-5未満となるものであり、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因と統計学的に関連が示唆されたものである。上記(a1)~(a13)のSNPは1種でも角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定が可能であるが、2種以上を組み合わせることにより判定精度をより高めることができる。例えば、2種の組み合わせでは、rs76659187とrs571652の組み合わせが好ましい。
【0012】
また、本発明において特定された上記の(a1)~(a13)のSNPが、近傍(100kb以内)に存在するか、当該SNPにより発現が変動することが文献的に知られている遺伝子として、下記表2に示すARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSが同定された。よって、本発明によれば、被験者から採取したDNA含有試料について、ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子に関連する一塩基多型(SNP)のアレルを検出する工程と、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有すると判定する工程を含む、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定方法が提供される。
【0013】
【表2】
【0014】
一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP、以下、「SNP」と記載する場合がある)とは、一般的には、遺伝子の塩基配列が1箇所だけ異なる状態及びその部位をいう。また、多型とは、一般的には、母集団中1%以上の頻度で存在する2以上の対立遺伝子(アレル)をいう。本発明における「SNP」は、当業者が自由に利用可能な公開されたデータベースである米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information :NCBI)のSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)に登録されたSNPであって、そのリファレンス番号であるrs番号により特定できる。
【0015】
本明細書において「アレル」とは、あるSNP部位において取りうる、互いに異なる塩基を有するそれぞれの型をいう。また、本明細書において「遺伝型」とは、あるSNP部位において、対立するアレルの組み合わせをいう。あるSNP部位において、前記組み合わせである遺伝型には3つの型があり、同じアレルの組み合わせをホモ型とよび、異なるアレルの組み合わせをヘテロ型という。例えば、(a1)のrs76659187で特定されるSNPにおいて対立するアレルの組み合わせである遺伝型には、A/A型、A/G型、G/G型の3つの型が存在する。
【0016】
本発明の判定方法において、「一塩基多型(SNP)のアレルを検出する」とは、そのSNPのアレルの塩基の種類を同定することを意味し、「一塩基多型(SNP)のアレルを検出する」の態様には、当該SNPの一方のアレルを検出すること、当該SNPの両方のアレルを検出すること、当該SNPの遺伝型を同定することを含むものとする。
【0017】
本発明の判定方法においては、検出されるアレルの塩基の少なくとも一つがリスクアレルである場合に、該被験者は角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有する(色素沈着が生じ易い)と判定する。具体的には、(a1)~(a13)の一塩基多型(SNP)において、下記表3に示すリスクアレルが、少なくとも一方のアレルにおいて検出されれば、該リスクアレルが検出されない場合と比較して、角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有する(色素沈着が生じ易い)、例えば、メラニン量の増加の原因とされる加齢、ホルモンバランスの乱れをはじめとする内的要因や、喫煙習慣、化学的・物理的刺激(紫外線や摩擦等)といった外的要因などの影響が少ない場合でも色素沈着が発生する可能性が高く、将来色素沈着が発生する可能性が相対的に高いと判定でき、角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有する(色素沈着が生じ易い)程度が高いと判定できる。ここで、「色素沈着」とは、様々な要因により皮膚内のメラニンが増加し皮膚の全体又は一部が黒ずむことをいう。具体的には、上記の各種内的・外的要因による全体的な色素沈着や、皮膚の一部にメラニンを多量に蓄積し周囲の皮膚よりも濃い茶褐色を帯びた状態をしめす老人性色素斑(シミ)、炎症性色素沈着、肝斑を含む。また、角質細胞内のメラニン含有量に関連する皮膚疾患や病態(例えば、雀卵斑、黒子症、脂漏性角化症、黒子(母斑細胞母斑、色素性母斑)、後天性真皮メラノサイトーシス(遅発性太田母斑)、扁平母斑、Riehl黒皮症、摩擦黒皮症、遺伝性対側性色素異常症、Addison病、光線性花弁状色素斑、色素異常性固定紅斑など)において認められる色素沈着も含む。
【0018】
例えば、(a1)のrs76659187で特定されるSNPの場合は、その遺伝型がG/G型であることが、G/A型又はA/A型である場合よりも色素沈着が生じ易いことを示し、その遺伝型がG/A型であることが、A/A型である場合よりも色素沈着が生じ易いことを示す。すなわち、G/G型、G/A型、A/A型の順で、色素沈着の生じ易さが高いことを示す。
【0019】
【表3】
【0020】
本発明の判定方法において、被験者の人種は、特に限定はされないが、好ましくは東アジア人、より好ましくは日本人である。ここで、東アジア人とは、日本、朝鮮、中国、台湾及びモンゴルの人々のいずれかを起源に持つ人をいう。
【0021】
本発明の判定方法において用いるDNA含有試料としては、被験者より採取されたDNAを含有する生体試料であれば、特に限定されない。DNA含有試料に含まれるDNAは、ゲノムDNAであることが好ましいが、検出するSNPが、プロモーター等の非転写領域や、イントロン等のRNAスプライシングにより除かれる領域以外の、mRNA中に存在する領域に位置するSNPである場合には、ゲノムDNAの代わりにmRNAやtotal RNAを含む生体試料を使用してもよい。DNA含有試料としては、例えば、ゲノムDNAを採取可能な任意の体液、分泌液、組織、細胞、組織や細胞の培養物等を使用することができ、具体的には、被験者の唾液、血液、尿、喀痰、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、口腔(内頬)粘膜ぬぐい液、涙腺分泌液、汗、毛髪、爪、皮膚、粘膜、皮膚付着後に剥がしたテープストリップ等が挙げられるが、容易性及び低侵襲性の点から、唾液が好ましい。当該試料は、一般的な臨床検査で行われている方法に従って採取し、公知の抽出方法、精製方法を用いて調製することができる。その際、市販のゲノムDNA抽出キットを使用することができる。
【0022】
SNPの検出及びSNPの型の判定(SNPタイピング)の方法は、特に制限されず、例えばアレル特異的プライマー(及びプローブ)を用い、PCR法等により増幅し、増幅産物の多型を蛍光又は発光によって検出する方法など、公知の方法により行うことできる。例えば、PCR-RFLP (restriction fragment length polymorphism)法、PCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism)法、PCR-SSO (sequence specific oligonucleotide)法、ダイレクトシークエンス(direct sequencing)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ASP-PCR(Allele Specific Primer-PCR)法、Snapshot法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI-TOF/MS法、RNase A切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)等が挙げられる。上記方法はいずれも当業者に周知の方法であり、また、SNPの型の判定のための試薬やキットも市販されており、例えば、TaqMan SNP Genotyping Assays (Thermo Fisher Scientific社製)等を用いることができる。
【0023】
上記の判定方法により得られた結果は、被験者が色素沈着の予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を選択する上で有用な指標となり、例えば、角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有する(色素沈着が生じ易い)と判定された被験者は、年齢や環境(例えば、スポーツ等で紫外線を浴びる機会が多い等)に関係なく、色素沈着を予防する対策を推奨できる。よって、本発明の別の側面によれば、上記の判定方法により得られた結果に基づいて、被験者の角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因(色素沈着が生じ易さ)の程度に応じた色素沈着の予防及び/又は改善作用を有する化粧料及び/又は飲食品を該被験者に提供する、化粧料及び/又は飲食品の提供方法もまた提供される。
【0024】
2.角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定用キット
上記のSNPの検出及びタイピング方法では、各方法に応じたプローブやプライマーが使用される。このようなプローブやプライマーもまた本発明の範囲に包含され、キットとして提供できる。
【0025】
プローブとしては、上記のSNP部位を含み、ハイブリダイズの有無によってSNP部位の塩基の種類を判別できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列の36番目の塩基を含む連続する少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上の配列又はその相補配列を有するプローブが挙げられる。プローブの長さは好ましくは15~40塩基、より好ましくは20~35塩基である。また、プローブは、適当な標識物質で標識されていてもよく、標識物質としては、例えば、酵素(ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、蛍光物質(FITC、RITC、Cy3、Cy5等)、発光物質(ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)、放射性同位元素(3H、14C、32P、125I、131I等)、ビオチン、ジゴキシゲニン、タグ配列を含むポリペプチド等が挙げられる。あるいは、蛍光物質の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。
【0026】
また、プローブは固相に固定されていてもよい(DNAアレイ)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNAをハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズを同時に検出することが可能である。よって、多数のSNP部位を同時に解析するには、DNAアレイは有用である。アレイに搭載するプローブとなるオリゴヌクレオチドは、通常in situで合成される。例えば、リソグラフィー方式(Thermo Fisher Scientific社)、インクジェット方式(Agilent社)、ビーズアレイ方式(Illumina社)等によるオリゴヌクレオチドのin situ合成法が知られている。
【0027】
また、プライマーとしては、上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記SNP部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列の36番目の塩基を含む領域を増幅したり、シークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマーは、該SNP部位を含む領域のDNAを鋳型として、該SNP部位に向かって相補鎖合成を開示することができるオリゴヌクレオチドであればよく、このようなプライマーの長さは10~30塩基が好ましく、15~25塩基がより好ましい。プライマーは、配列番号1~13のいずれかに示される塩基配列において、SNP部位の上流または下流の位置に設定することができる。
【0028】
当業者であれば、SNP部位を含む周辺DNA領域の塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプローブ及びプライマーを設計することができる。また、プローブ及びプライマーとなるオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホロアミダイト法、H-ホスホネート法等により、通常用いられるDNA自動合成装置を利用して合成することが可能である。
【0029】
本発明のキットには、上記のプローブ及びプライマーとして用いるオリゴヌクレオチドを少なくとも含んでいればよい。また、当該キットには、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、固定化担体、標識物質、標識の検出に用いられる基質化合物、陽性や陰性の標準試料、キットの使用方法を記載した指示書等を含めることもできる。なお、キット中の試薬は溶液でも凍結乾燥物でもよい。
【0030】
3.色素沈着の予防及び/又は改善剤のスクリーニング方法
上述のとおり、ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSは、上記の(a1)~(a13)のSNPが、その近傍(100kb以内)に存在するか、SNPにより発現が変動することが文献的に知られている遺伝子である。
【0031】
よって、本発明の別の側面によれば、ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子(以下、「角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子」という)の発現変化を指標とする、色素沈着の予防及び/又は改善剤のスクリーニング方法が提供される。
【0032】
本発明のスクリーニング方法は、角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の発現の評価に適切な細胞を用いる方法であれば、特に限定はされないが、典型的には、細胞における角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の発現量を測定する方法が挙げられる。より具体的には、本発明のスクリーニング方法は、被験物質の存在下で上記角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子を発現する細胞を培養し、同細胞における角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の発現量を測定する工程、被験物質の非存在下(対照)における同細胞における角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の発現量を測定する工程、被験物質の存在下で測定した発現量が、被験物質の非存在下で測定した発現量に比べて有意に増加又は減少した場合に、当該被験物質を色素沈着の予防及び/又は改善剤の候補物質として選択する工程を行うことにより、行うことができる。
【0033】
本発明において、被験試料及び対照試料における角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の発現量は、当業者に公知の任意の方法により測定することができ、また、測定は、各方法の常法に従って実施すればよい。遺伝子の発現量とは、遺伝子の転写産物であるmRNA量をいう。mRNA量の測定は、所望のmRNA量を測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとした遺伝子増幅法、又は、角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用することができる。具体的には、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、ドットブロット法、RNアーゼプロテクションアッセイ法などが挙げられる。上記の方法に用いるプライマーやプローブは、標識し、当該標識のシグナル強度を調べることによりmRNA量を測定することができる。なかでも、リアルタイムRT-PCR法はRNAを直接サンプルに使用でき、遺伝子増幅過程を光学的に測定することで増幅に必要な温度サイクルの回数から遺伝子定量が可能である上で好ましい。なお、上記の方法に用いるプライマー及びプローブは角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の塩基配列をGenBank等のデータベースより取得し、当該塩基配列に基づいて当業者であれば適宜設計し、調製することができる。各方法について様々なプロトコルが報告されており、当業者であれば公知のプロトコルに従い、又は公知のプロトコルを適宜修正や変更を行い実施することができる。
【0034】
また、本発明のスクリーニング方法の別の態様として、角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子を発現する細胞として、レポーター遺伝子を角質細胞内のメラニン含有量感受性遺伝子の転写調節領域に作動可能に連結したプラスミドを導入した細胞を用い、レポーター遺伝子の発現量を測定してもよい。レポーター遺伝子としては、例えばGFP遺伝子、GUS遺伝子、LUS遺伝子等が挙げられる。
【0035】
スクリーニングに用いる被験物質は、主に医薬品及び/又は飲食品に利用できる成分を対象とし、例えば、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品;天然に生じる分子(例えば、アミノ酸、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、脂質、ステロイド、糖タンパク質、プロテオグリカンなど);あるいは天然に生じる分子の合成アナログ又は誘導体(例えば、ペプチド擬態物など);及び天然に生じない分子(例えば、コンビナトリアルケミストリー技術等を用いて作製した低分子有機化合物);ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。また、被験物質としては単一の被験物質を独立に試験しても、いくつかの候補となる被験物質の混合物(ライブラリーなどを含む)について試験をしてもよい。複数の被験物質を含むライブラリーとしては、合成化合物ライブラリー、ペプチドライブラリーなどが挙げられる。
【0036】
上記スクリーニング方法により選択される色素沈着の予防及び/又は改善物質は、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品等の色素沈着の予防及び/又は改善用組成物への配合成分として使用できる。よって、本発明のさらなる別の側面によれば、ARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSからなる群より選択される1種又は2種以上の遺伝子の発現を制御する素材を含有する、色素沈着の予防及び/又は改善用組成物が提供される。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因(色素沈着の生じ易さ)に関連する一塩基多型(SNP)の同定
本試験を実施するにあたり、同意書、遺伝型判定等について、自社における倫理審査委員会によって承認を受けた。同意書のサインにて同意を受けたサンプル提供者よりサンプル採取を行い、遺伝型判定及びゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。
【0039】
(1) DNAサンプル
自社社員をDNAサンプル提供の対象者とした。このうち募集に応じた643人(男性259人、女性384人)の唾液を採取した。採取した唾液からMaxwell RSC Stabilized Saliva DNA Kit(プロメガ社製)を使用してゲノムDNAを抽出し、DNAサンプルを得た。
【0040】
(2) 遺伝型の決定
得られたDNAサンプルについて、アジア人のゲノムに見られる頻度の高いSNP解析用プローブが搭載された遺伝型解析用チップAxiom(登録商標) Genome-Wide CHB 1 & CHB 2 Array(Thermo Fisher Scientific)を用いて遺伝型の決定を行った。遺伝型データはAxiom Analysis Suite 4.0(Thermo Fisher Scientific)を用いて得た。
【0041】
(3) クオリティコントロール
PLINK 1.9(www.cog-genomics.org/plink/1.9/)を利用して、遺伝型データから未確認血縁性を除去するために、PI_HAT=0.25以上の個体ペアを検出し、それぞれのペアについて、個体Call Rate値の悪い個体を解析対象から除外した。
【0042】
PLINK 1.9(www.cog-genomics.org/plink/1.9/)を利用して、遺伝型データから多次元尺度構成法によるクラスタリングを実施し、また、出身地に関するアンケートデータと合わせて、日本人由来の個体を選択した。クオリティコントロールにより解析対象として選択した個体数は631個体(男性255人、女性376人)であった。
【0043】
(4) 表現型データ(角質細胞内のメラニン含有量)
前記631人の被験者の上腕内側部からテープストリッピングにより角質細胞を採取し、ヘマトキシリン・エオジン染色及びフォンタナ・マッソン染色により角質細胞及びメラニンを染色した。次に、顕微鏡(DMI 6000B ライカ社製)を用いて、被験者一人あたり20個の角質細胞を撮影し、画像処理ソフトウェアImageJにより個々の細胞面積及びメラニン面積を測定し、細胞の単位面積中のメラニン面積(%)(角質細胞内のメラニン含有量)を算出した。そして、各被験者における角質細胞内のメラニン含有量の代表値として、箱ひげ図の外れ値を除いた最小値を用いた。
【0044】
(5) 関連解析
遺伝型データと角質細胞内のメラニン含有量データとの関連性について、PLINK 1.9(www.cog-genomics.org/plink/1.9/)を利用して、表現型データを目的変数、遺伝型データのマイナーアレルの本数、及び年齢、性別を説明変数とした重回帰分析を行い、前記マイナーアレルの本数の回帰係数のp値を評価した。前記重回帰分析により算出したp値が1×10-5未満となるSNP13個を表現型との関連性があるものとして抽出した。
【0045】
角質細胞内のメラニン含有量との関連が示唆されたSNPについて、HaploReg v4.1(https://pubs.broadinstitute.org/mammals/haploreg/haploreg.php)を利用して、SNPの近傍の遺伝子(100kb以内)、及び当該SNPにより発現が変動することが文献的に知られている遺伝子のアノテーションを行った。
【0046】
(6) 結果
以上の解析から、角質細胞内のメラニン含有量(色素沈着の生じ易さ)を判定できるSNPとして13個のSNPを特定した(表4)。特定した各SNPのSNP ID(NCBI dsSNP)、当該SNPが存在する染色体番号及び物理位置、アレル及びリスクアレルの塩基、遺伝型のp値を示す。p値の欄において、それぞれのp値は10を底とする指数形式で表示され、符号Eの前後に記載された数値はそれぞれp値を指数形式で表示した際の仮数部と指数部を示す。
【0047】
また、当該SNPの近傍の遺伝子(100kb以内)(表4、遺伝子(I))、及び当該SNPにより発現が変動することが文献的に知られている遺伝子(表4、遺伝子(II))としてARHGAP31、SCAMP4、CXCR4、ZNF862、CSNK1G2、PREX1、及びDARSを見出した。
【0048】
【表4】
【0049】
(実施例2)角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因に関連する一塩基多型(SNP)による多変量解析
実施例1で同定されたSNPについて、角質細胞内のメラニン含有量の遺伝的素因の判定精度を高めることができるSNPの組み合わせについて検討を行った。具体的には、SNPの選択順について、表現型データを目的変数、年齢及び性別を説明変数とした重回帰分析を行い、その残差を目的変数、当該SNPの遺伝型データのマイナーアレルの本数を説明変数とした重回帰分析において、ステップワイズ法による変数選択を行った場合(表5-1)と、前記マイナーアレルの本数の回帰係数のp値の小さい順に単純に変数選択した場合(表5-2)とで、判定精度の比較を行った。
【0050】
【表5-1】
【0051】
【表5-2】
【0052】
表5-1、表5-2に示されるように、ステップワイズ法によって最適な変数として選択したrs76659187とrs571652の組み合わせのほうが、マイナーアレルの本数の回帰係数のp値の小さい順に選択したrs76659187とrs8112134の組み合わせより、重回帰式の精度を示す指標である決定係数R2 (及び自由度調整済み決定係数:補正R2)が高かった。また、赤池の情報量基準(AIC)は、rs76659187とrs571652の組み合わせのほうが、rs76659187とrs8112134の組み合わせより値が小さくなり、重回帰モデルのあてはまり度が高いことがわかった。よって、rs76659187に他のSNPを加えて判定を行う場合、rs571652と組み合わせることより、判定精度をより向上させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法により、サンプル提供者が、角質細胞内のメラニン含有量が高い遺伝的素因を有するかどうか、将来色素沈着が発生する可能性の有無や程度を、正確かつ簡便に判定することができる。よって、その判定結果に基づき、サンプル提供者にカスタマイズした色素沈着の予防や改善のための化粧品やサプリメントを提供すること、また色素沈着の予防や改善のためのケア方法に関するカウンセリングやアドバイスを行うことが可能となる。
【配列表】
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