(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ポリエステル系芯鞘型複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20240305BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20240305BHJP
D04H 1/55 20120101ALI20240305BHJP
C08G 63/181 20060101ALI20240305BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D04H1/541
D04H1/55
C08G63/181
B01D39/16 A
(21)【出願番号】P 2020051536
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 慶
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳記
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-181341(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190342(WO,A1)
【文献】特開2014-065989(JP,A)
【文献】特開2002-302833(JP,A)
【文献】特開2018-178325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F、D04H、C08G、B01D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部に高融点ポリエステル、鞘部に低融点ポリエステルが配されてなる芯鞘型のポリエステル系複合繊維であり、
芯部に配されてなる高融点ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであり、
鞘部に配されてなる低融点ポリエステルが、ジオール成分がエチレングリコールとジエチレングリコールとを構成成分とし、かつ全ジオール成分に対してジエチレングリコールを2.0~4.5モル%有し、エチレングリコールとジエチレングリコール以外の脂肪族グリコール成分を構成成分とせず、かつ酸成分が脂肪族カルボン酸を構成成分とせず、テレフタル酸とイソフタル酸とを構成成分とし、全酸成分に対してイソフタル酸を18~20モル%有する共重合ポリエステルであり、
該ポリエステル系複合繊維を示差走査熱量測定した際のガラス転移温度が65℃以上、
低融点ポリエステルの融解開始温度が176℃以上、融解ピーク温度が190~205℃、融解完了温度が222℃以下、b/aが0.001~0.030であり、
高融点ポリエステルの融解開始温度が240℃以上、融解ピーク温度が245~256℃、融解完了温度が266℃以下、b/aが0.100以上であることを特徴とする芯鞘型複合繊維。
なお、b/aにおけるaは、融点を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と温度A2(℃)との差(A1-A2)であり、bは、ピークトップの熱量B2(mW)とピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)との差(B2-B1)を試料量(mg)で除した値である。
【請求項2】
鞘部に配される低融点ポリエステルは、固有粘度〔η〕Bが0.63~0.70であり、芯部に配される高融点ポリエステルの固有粘度よりも低いことを特徴とする請求項
1記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
芯鞘型複合繊維は、繊維長が25~102mmの短繊維であり、機械捲縮を有してなり、130℃で5分間熱処理したときのウェブの収縮率が40%以下であることを特徴とする請求項1
または2に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項4】
芯鞘型複合繊維は、繊維長が1~20mmのショートカット繊維であり、機械捲縮を有しないことを特徴とする請求項1
または2に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項5】
芯部に配される高融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Aが0.72~0.77であり、鞘部に配される低融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Bとの差が、下記式(1)を満足することを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項記載の芯鞘型複合繊維。
(1)0.03≦〔η〕A-〔η〕B
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項記載の芯鞘型複合繊維を含む不織布であって、該芯鞘型複合繊維の鞘成分が溶融固着することよって、不織布を構成する繊維同士が一体化していることを特徴とする不織布。
【請求項7】
請求項
6記載の不織布によって構成されるろ過材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点ポリエステルを鞘部に配し、高融点ポリエステルを芯部に配したポリエステル系芯鞘型複合繊維である。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維は、機械的物性に優れ、コストは比較的安価であることから、衣料用、産業資材用等、種々の用途に使用されている。また熱接着性の芯鞘型ポリエステル系複合繊維は不織布や布帛の形態維持、メッシュ織物の経糸と緯糸との交点を融着する等の目的に使用されている。
【0003】
ポリエステル系重合体を用いた熱接着性の芯鞘型複合繊維としては、ポリエチレンテレフタレートを(PET)を芯部とし、イソフタル酸成分を多く共重合したポリエステル系共重合体を鞘部とした繊維が広く使用されてきた。しかしながら、このような複合繊維はイソフタル酸が多く共重合されていると非晶性となり、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まるため、繊維製造時に熱固定することができなかった。
【0004】
このように製造時に熱固定がされてない複合繊維を、不織布等の繊維製品を得る際の構成繊維に適用すると、加熱接着処理工程において、複合繊維の収縮が大きく、寸法安定性が悪く、また、このようにして得られた繊維製品を高温雰囲気下で使用すると、接着箇所における接着強力が低下して変形するという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するものとして、特許文献1には、芳香族ポリエステルと脂肪族ポリラクトンとからなる低融点の共重合ポリエステルを鞘部とした芯鞘型の熱接着性複合繊維が提案されている。また、特許文献2には、テレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1、4―ブタンジオール成分からなる特定の共重合ポリエステルを鞘部とした熱接着性複合繊維が提案されている。これらの複合繊維の鞘部に用いられる共重合ポリエステルは結晶性を有するため、繊維製造時の熱固定が可能となり、加熱接着処理を行う際の繊維の収縮率を低くすることができる。しかしながら、脂肪族ポリラクトンや1、4―ブタンジオール成分に起因しガラス転移点が低くなるため、紡糸後の未延伸糸が経時により収縮し、膠着するといった問題があった。またこれらの原料は高コストであるため、得られる複合繊維も比較的高コストになるといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-324323号公報
【文献】特開2000-314032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決し、紡糸後の未延伸糸の収縮や膠着が起こりにくく、繊維製品を得る際に熱接着性繊維として用いた場合に寸法安定性が良好であり、200℃以下での熱処理により十分な接着効果が得られ、さらに高温下での使用においても、接着強力の低下による変形が起こりにくく、かつ低コストにて得ることができる芯鞘型ポリエステル系複合繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、芯部に高融点ポリエステル、鞘部に低融点ポリエステルが配されてなる芯鞘型のポリエステル系複合繊維であり、
芯部に配されてなる高融点ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートであり、
鞘部に配されてなる低融点ポリエステルが、ジオール成分がエチレングリコールとジエチレングリコールとを構成成分とし、かつ全ジオール成分に対してジエチレングリコールを2.0~4.5モル%有し、エチレングリコールとジエチレングリコール以外の脂肪族グリコール成分を構成成分とせず、かつ酸成分が脂肪族カルボン酸を構成成分とせず、テレフタル酸とイソフタル酸とを構成成分とし、全酸成分に対してイソフタル酸を18~20モル%有する共重合ポリエステルであり、
該ポリエステル系複合繊維を示差走査熱量測定した際のガラス転移温度が65℃以上、
低融点ポリエステルの融解開始温度が176℃以上、融解ピーク温度が190~205℃、融解完了温度が222℃以下、b/aが0.001~0.030であり、
高融点ポリエステルの融解開始温度が240℃以上、融解ピーク温度が245~256℃、融解完了温度が266℃以下、b/aが0.100以上であることを特徴とする芯鞘型複合繊維を要旨とする。
【0010】
なお、b/aにおけるaは、融点を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と温度A2(℃)との差(A1-A2)であり、bは、ピークトップの熱量B2(mW)とピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)との差(B2-B1)を試料量(mg)で除した値である。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の複合繊維は、芯部に高融点ポリエステル、鞘部に低融点ポリエステルが配されてなる芯鞘型のポリエステル系複合繊維である。このポリエステル系複合繊維を示差走査熱量測定した際のガラス転移温度が65℃以上である。ガラス転移温度が65℃未満であると、複合繊維を製造するにあたり、紡糸後の未延伸糸において結晶化しにくいため、収縮や膠着が起こり易く、生産効率がよくない。より好ましいガラス転移温度は、70℃以上である。
【0013】
また、ポリエステル系複合繊維を示差走査熱量測定した際、低融点ポリエステルの融解開始温度が176℃以上、融解ピーク温度が190~205℃、融解完了温度が222℃以下であり、b/aが0.001~0.030である。融解開始温度が176℃未満であると、高温下での使用において、接着強力が低下して、繊維製品の変形が起こり易くなる。同様に融解ピーク温度が190℃未満であると高温下での使用において、接着強力が低下して、繊維製品の変形が起こり易くなる。融解ピーク温度が205℃を超え、融解完了温度が222℃を超えると、このポリエステル系複合繊維の鞘部の低融点ポリエステルを熱接着成分として機能させようとしても、一般的な熱処理装置では、熱接着に要する高い温度に対応していないことが多く、高い熱量を与えることが難しいため、所望の熱接着性を発揮し難い。また、熱接着するに十分な高い温度にできた場合であっても、主体繊維等の他の繊維と併用した用いた場合に、高温熱処理により主体繊維(他の繊維)が熱劣化する恐れがある。上記の理由から、より良好に所望の効果を発揮するためには、融解開始温度は178℃以上、融解ピーク温度は192~203℃、融解完了温度は220℃以下が好ましい。
【0014】
低融点ポリエステルの融解ピークのb/aは、0.001~0.030であり、0.001未満であると、明確な融解ピークを示さなくなり、ガラス転移温度以上から徐々に軟化が始まるため、高温下での使用において、接着強力の低下による変形が起こり易くなる。また、得られる複合繊維の熱収縮率が高い値となる。一方、b/aが0.030を超えると、融解挙動が明確になるものの、十分な接着性を得るために熱処理装置内の温度制御を厳格に制御する必要があり、取扱いの難易度が高くなる。このような理由から、低融点ポリエステルのb/aは0.003~0.025であることが好ましい。
【0015】
なお、融解ピークのb/aとは、融点を示すDSC曲線から得られるピークのシャープさを示す値である。
図1に、融解ピークのb/aを説明するために、融点を示すDSC曲線の一例を示すが、aは、融点を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)とA2(℃)の差(A1-A2)であり、bは、ピークトップの熱量B2(mW)とピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)との差(B2-B1)を試料量(mg)で除した値である。
【0016】
ポリエステル系複合繊維を示差走査熱量測定した際、高融点ポリエステルの融解開始温度は240℃以上、融解ピーク温度は245~256℃、融解完了温度が266℃以下であり、融解ピークのb/aが0.100以上である。融解開始温度が240℃未満で、融解ピーク温度が245℃未満であると、熱収縮率の高い複合繊維となり、熱接着処理時の寸法安定性に劣るものとなる。また、鞘部の低融点ポリエステルを接着成分として機能させるために加熱により溶融させた際、芯部の機械的特性が損なわれやすくなり、芯部の本来の機能、すなわち、繊維形態を維持し機械的強度を保持する機能が保てなくなる。一方、融解ピーク温度が256℃を超え、融解完了温度が266℃を超えると、一般的な溶融紡糸装置での製造が難しくなり、特殊な溶融紡糸装置が必要になり、製造時のエネルギーコストは高くなるため、得られる複合繊維のコストが高くなる。上記の理由から、より良好に所望の効果を発揮するためには、融解開始温度が242℃以上、融解ピーク温度が248~252℃、融解完了温度が264℃以下であることが好ましい。
【0017】
高融点ポリエステルの融解ピークのb/aが0.100未満であると、繊維の熱収縮率が高くなり、低融点ポリエステルを熱接着成分として機能させるための熱処理時において、寸法安定性が劣るものとなる。さらに、強度などの機械的特性に劣る繊維となる。高融点ポリエステルの融解ピークのb/aは0.105以上であることが好ましい。
【0018】
上記の熱特性を得るために、鞘部の低融点ポリエステルにおいて、酸成分は、テレフタル酸とイソフタル酸により構成され、全カルボン酸成分に対してイソフタル酸を18~20モル%含む。イソフタル酸の共重合量が18モル%を下回ると、融解開始温度、融解ピーク温度が規定の範囲よりも高くなるため、一般的な熱処理装置では熱融着に必要な高い温度設定が難しく、取扱いが困難となる。また、高い温度設定が可能であったとしても、芯鞘型複合繊維と併用して、他の繊維を主体繊維に用いた場合に、高温での熱処理によって主体繊維が劣化しやすくなる。一方、20モル%を上回ると融解開始温度およびピーク温度、完了温度、b/aが上記した範囲を下回るため、高温下で使用した場合に、接着強力が低下して変形が起こり易くなる。
【0019】
また、上記の熱特性を得るために、鞘成分の低融点ポリエステルにおいて、ジオール成分は、エチレングリコールとジエチレングリコールにより構成され、全グリコール成分に対して、ジエチレングリコールを2.0~4.5モル%含む。ジエチレングリコールの含有量が2.0モル%を下回ると繊維の鞘成分の結晶性が高くなり過ぎ、b/aが規定の範囲である0.030を超え、熱処理時の温度制御をより厳しくする必要があり、取扱いが難しくなる。一方、4.5モル%を上回ると、繊維の結晶性が低下し、b/aが規定の範囲である0.001を下回るため、高温下での使用において、接着強力の低下による変形が起こり易くなる。
【0020】
低融点ポリエステルは、上記した含有比率であって、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールの4成分から構成されることが好ましい。また、低融点ポリエステルにおいて、脂肪族カルボン酸や脂肪族グリコールが共重合ポリマー中に一定量含まれると、得られる複合繊維のガラス転移点が低下し、紡糸後の未延伸糸に収縮や膠着が発生しやすくなることから、テレフタル酸、イソフタル酸、エチレングリコール、ジエチレングリコールの4成分以外の成分として、脂肪族カルボン酸や脂肪族グリコールを重合時に添加しない。なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、低融点ポリエステルに、酸化防止剤、艶消剤、着色剤、滑剤等の添加剤を含有してもよい。
【0021】
芯部を構成する高融点ポリエステルはポリエチレンテレフタレート(PET)である。PETを用いることで、上記した高融点ポリエステルの熱特性を得られやすくなり、本発明の複合繊維を熱接着繊維として用いた場合に寸法安定性が良好となり、また機械的特性に優れたものとなる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、高融点ポリエステルは酸化防止剤、艶消剤、着色剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0022】
鞘部に用いる低融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Bは0.63~070の範囲であることが好ましく0.65~0.70の範囲であることがより好ましい。0.63未満であると紡糸および延伸時に鞘部の低融点ポリエステル側に張力が掛かりにくくなり、低融点ポリエステルの配向結晶化が進みにくくなり、本発明が目的とする熱特性を有する繊維を得ることが難しくなる。また、本発明の複合繊維を湿式不織布用の繊維として用いた場合に、鞘部同士の密着が生じ、水中での水分散性が低下し、斑のある湿式不織布となってしまう恐れがある。さらに繊維製造時に、紡糸ノズルにおける計量性が低下し、繊維セクション分布に劣るものとなる。
【0023】
低融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Bは芯部に用いる高融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Aよりも低いことが好ましい。低融点ポリエステルの固有粘度が、高融点ポリエステルの固有粘度よりも低いことにより、紡糸、延伸時において、熱収縮しやすい鞘部に過度な引張張力が掛かることを防ぎ、熱接着時の収縮を低くすることができ、寸法安定性に優れた芯鞘複合繊維を得ることができる。
【0024】
芯部に用いる高融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Aは0.72~0.77であることが好ましく、かつ鞘部の低融点ポリエステルの固有粘度〔η〕Bとの差が、下記(1)を満足し、強度が3.6cN/dtex以上、破断伸度が40~70%であることが好ましい。
(1)0.03≦〔η〕A―〔η〕B
上記した高融点ポリエステルの固有粘度の範囲とし、かつ2つのポリエステルにおいて(1)式を満たす粘度バランスに設計することで、紡糸、延伸時において芯部にも張力が掛かり易くなり、芯部の配向結晶化が促進され、熱接着時の収縮率を低くすることができ、寸法安定性に優れた芯鞘複合繊維を得ることができる。また機械的特性に優れた繊維構造体を得られやすくなる。
【0025】
本発明の複合繊維は、いわゆるステープル繊維の形態の場合、繊維長が25~102mmであり、機械捲縮が付与されている形態がよい。ステープル繊維の場合、上記した熱特性を有することから、本発明の複合繊維からなるウェブは、130℃、5分間熱処理したときのウェブ収縮率は40%以下となり、熱処理時の寸法安定性が良好である。なお、ウェブ収縮率は36%以下であることがより好ましい。なお、ウェブ収縮率は、下記の方法により測定する。
【0026】
短繊維をカード機に投入し、目付100g/m2のウェブを作製し、得られたウェブより、200×200mmの試料片を裁断により採取し、その試料片を、130℃に設定した恒温乾燥機中に5分間放置後取り出し、熱処理前後のウェブの面積より寸法変化率(ウェブ収縮率)を算出した。測定サンプル数はn=2とした。なお、熱処理前後のウェブの寸法を測定する際は、ウェブの上層、下層の両面それぞれの縦方向の3箇所(2辺および横方向の2辺の中間点同士を結んだ縦方向の1辺)と横方向の2箇所(2辺)の長さ(1サンプルについて両面で縦方向は合計6箇所、横方向は合計4箇所)を測定し、縦方向および横方向の長さの平均値をそれぞれ求め、縦方向(平均値)と横方向(平均値)とを乗じた値をウェブ面積とした。ウェブ収縮率は、下式に基づき、算出した。
ウェブ収縮率(%)=[(熱処理前のウェブ面積-熱処理後のウェブ面積)/熱処理前のウェブ面積]×100
【0027】
また、本発明の複合繊維は、いわゆるショートカット繊維の形態の場合、繊維長が1~20mm、機械捲縮が付与されていない形態がよい。ショートカット繊維の場合、上記した熱特性を有することから、複合繊維は、70℃、15分間熱処理したときの繊維の熱収縮率は7.0%以下となり、熱処理時の寸法安定性が良好である。
【0028】
本発明の複合繊維の繊度は1.1~35dtexであることが好ましい。1.1dtexを下回ると、紡糸性が悪化し、得られる複合繊維の品質が悪くなる。また35dtexを上回ると紡糸での冷却不足により繊維同士の密着が発生しやすくなる。繊度は1.3~25dtexであることがより好ましい。
【0029】
本発明の複合繊維の芯鞘比率は30/70~70/30wt%であることが好ましく、40/60~60/40wt%がより好ましく、45/55~55/45wt%であることがさらに好ましい。芯比率が30wt%を下回ると、鞘の接着成分が多くなるため、熱収縮率が高くなる傾向となる。一方、芯比率が70wt%を上回ると、鞘の接着成分が少なくなるため、熱接着性に劣る傾向となる。
【0030】
本発明の複合繊維は、芯部に高融点ポリエステル、鞘部に低融点ポリエステルを配した芯鞘型の複合形態となるように溶融紡糸して未延伸糸を得、得られた未延伸糸を熱延伸することにより得る。熱延伸した糸は、所望に応じて機械捲縮を付与し、所望の長さに切断することにより得られる。なお、未延伸糸を熱延伸する際の条件は、熱延伸温度(ローラー温度)を50~80℃とし、延伸倍率3.0~5.5倍がよい。
【0031】
本発明の複合繊維を用いて、各種の繊維製品を得ることができる。本発明の複合繊維単独で繊維製品としてもよい。本発明の複合繊維は、熱接着機能を有するいわゆるバインダー繊維(熱接着性繊維)でありながら、特定の熱特性を有することから、熱接着のための熱処理において収縮しにくく寸法安定性が良好であるため、複合繊維単独で品位の高い繊維製品を得ることができる。
【0032】
また、熱処理を施した際に溶融することのない繊維(主体繊維)を適宜混合することによって繊維製品としてもよい。混合する際の混合量は、繊維製品の要求性能に応じて適宜選択すればよく、繊維製品中の複合繊維の割合は、10~90質量%程度がよい。なお、主体繊維としては、ポリエステル系繊維を選択することにより、本発明のポリエステル系複合繊維の接着成分である低融点ポリエステルとの相溶性が良好であり、熱接着特性を良好に発揮することができる。
【0033】
本発明の複合繊維を用いた繊維製品としては、不織布、固綿、マルチフィラメント糸、紡績糸、マルチフィラメント糸や紡績糸を用いた織物・編物・組紐等が挙げられる。これらの繊維製品は、熱を付与して、熱接着成分である低融点ポリエステルを溶融させて、繊維同士を接着させる。低融点ポリエステルを溶融させるための温度設定としては、低融点ポリエステルの融点以上の温度を付与すればよいが、設定温度の上限は、高融点成分の融点未満とする。
【0034】
繊維製品が不織布の場合は、乾式であっても、湿式であっていずれでもよく、目付けも特に限定するものではない。不織布化手段としては、本発明の複合繊維の低融点ポリエステルが熱接着成分となって繊維同士が熱接着により一体化するものであるが、熱接着前に、構成繊維同士を三次元的に交絡させてもよい。
【0035】
乾式不織布の製造方法について一例を挙げる。本発明の複合繊維以外の他の繊維と混合する場合は、他の繊維を準備して任意の混合割合で計量し、不織布の構成繊維となる繊維をカード機に投入し、解繊して乾式ウェブを作製する。得られたウェブを、熱風処理がなされる連続熱処理機にて、低融点ポリエステルが溶融または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した乾式不織布を得る。
【0036】
湿式不織布の製造方法としては、本発明の複合繊維以外の他の繊維と混合する場合は、他の繊維を準備して任意の混合割合で計量し、パルプ離解機に投入し、攪拌(混綿、解繊)し、これを抄紙機にて湿式ウェブを作製する。この湿式ウェブをプレス機にて余分な水分を脱水した後、低融点ポリエステルが溶融または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した湿式不織布を得る。
【0037】
このような不織布は、高温状態での使用においても接着点が変形しにくく、形態安定性が良好である。したがって、高温下で使用される工業用資材、例えば、エアフィルター・液体フィルター等の各種ろ過材、自動車の各種内装材、壁装材・防振材・断熱材等の各種建築資材等に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、紡糸後の未延伸糸の収縮や膠着が起こりにくく、熱接着性繊維として繊維製品に用いた場合に寸法安定性が良好であり、200℃以下での熱処理により十分な接着効果が得られ、さらに高温下での使用においても、接着強力の低下による変形が起こりにくく、低コストである芯鞘型ポリエステル系複合繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】融解ピークのb/aを説明するために、融点を示すDSC曲線の一例を示すものである。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における特性値等の測定法は次のとおりである。
(1)繊維のガラス転移温度、融解開始温度/ピーク温度/終了温度、融解ピークb/a
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、繊維試料を約8.5mg秤量し、25℃から280℃まで昇温速度20℃/分で測定した。
(2)固有粘度〔η〕
フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、20℃で、樹脂(0.2g)を試料として投入し、濃度0.5%溶液とし、常法に基づき20℃にて相対粘度〔ηcr〕を測定し、その値を用いて、下記式により固有粘度〔η〕を算出した。
〔η〕=(-1+√(1+1.24〔ηcr〕))/ 0.31
(3)低融点ポリエステルの共重合量
ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA―400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(4)ジエチレングリコール(DEG)含有量
ポリエステル樹脂2.2gを三角フラスコに投入し、0.8等量の水酸化カリウムメタノール溶液を加え、マグネチックスターラ攪拌下加熱還流してケン化を行う。その後、テレフタル酸を加え中和し、沈殿物を濾過し、ガスクロマトグラフィにて濾液中のDEG含有量を測定した。
(5)未延伸糸の収縮・膠着
紡糸後の未延伸糸を40℃の雰囲気下で72時間保管した後に、目視で確認を行い、収縮・膠着が発生した場合を「有り」、発生しない場合を「無し」とした。
(6)繊維繊度
測定サンプルを20mmの長さに切断すること、繊維を100本取り出し、質量を測定すること、測定回数を4回とした以外は、JIS L1015 8.5.1 A法に準じて測定した。
(7)繊維長
測定数を25本とした以外は、JIS L1015 8.4.1 直接法(C法)に準じて測定した。
【0041】
実施例1
固有粘度0.70のポリエチレンテレフタレートを芯部に、固有粘度0.69、イソフタル酸共重合量19モル%、DEG含有量3.6モル%である共重合ポリエステルを鞘部に配するよう、孔数1535H、孔径0.5mmの紡糸口金を用い、吐出量1771g/分、芯鞘比率50/50wt%、紡糸温度280℃、紡糸速度776m/分の条件で溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を収束し、115ktexのトウとし、延伸温度76℃、延伸倍率4.0倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与し、ラウリルフォスフェートカリウム塩を主成分とする油剤を繊維に付着させた後で、温度87℃の乾燥機にて弛緩熱処理を行い、繊維長51mmに切断し、繊度4.4dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0042】
実施例2
実施例1において、固有粘度0.74のポリエチレンテレフタレートを芯部に用いたこと以外は実施例1と同様にして芯鞘型複合繊維を得た。
【0043】
実施例3
実施例1において、固有粘度0.74のポリエチレンテレフタレートを芯部に用い、孔数2174H、孔径0.35mmの紡糸口金を用い、吐出量1404g/分、紡糸速度900m/分で溶融紡糸を行い、延伸倍率3.8倍の条件で延伸した以外は、実施例1と同様に行い、繊度2.2dtex、繊維長51mmの芯鞘型複合繊維を得た。
【0044】
実施例4
実施例1において、孔数65H、孔径0.7mmの紡糸口金を用い、吐出量327g/分、紡糸速度1113m/分で溶融紡糸を行い、得られた未延伸糸を収束し、70ktexのトウの状態で、延伸倍率4.0倍の条件で延伸し、繊維長64mmに切断した以外は、実施例1と同様に行い、繊度13dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0045】
実施例5
実施例1において、孔数65H、孔径0.7mmの紡糸口金を用い、吐出量430g/分、紡糸速度757m/分で溶融紡糸を行い、得られた未延伸糸を収束し、70ktexのトウの状態で、延伸倍率4.7倍の条件で延伸し、繊維長64mmに切断した以外は、実施例1と同様に行い、繊度22dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0046】
比較例1
実施例1において、固有粘度0.70、イソフタル酸共重合量15モル%、DEG含有量3.0モル%である共重合ポリエステルを鞘部に配し、孔数639H、孔径0.5mmの紡糸口金を用い、吐出量706g/分、紡糸温度273℃、紡糸速度1160m/分で溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を収束し、70ktexのトウとし、延伸倍率3.4倍の条件で延伸し、繊維長64mmに切断した以外は、実施例1と同様に行い、繊度3.3dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0047】
比較例2
実施例1において、固有粘度0.69、イソフタル酸共重合量32モル%、DEG含有量4.9モル%である共重合ポリエステルを鞘部に配し、孔数639H、孔径0.5mmの紡糸口金を用い、吐出量1011g/分、紡糸温度270℃、紡糸速度1052m/分で溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を収束し、190ktexのトウとし、延伸倍率3.8倍の条件で延伸した以外は、実施例1と同様に行い、繊度4.4dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0048】
比較例3
実施例1において、イソフタル酸に代えて1,4-ブタンジオールを構成成分とし、固有粘度0.73、1,4-ブタンジオール共重合量50モル%である共重合ポリエステルを鞘部に配し、孔数639H、孔径0.5mmの紡糸口金を用い、吐出量915g/分、紡糸温度265℃、紡糸速度1163m/分で溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を収束し、190ktexのトウとし、延伸倍率3.2倍の条件で延伸した以外は、実施例1と同様に行い、繊度4.4dtexの芯鞘型複合繊維を得た。
【0049】
得られた実施例および比較例の複合繊維の物性等を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1~5で得られた複合繊維は、本発明が目的とする熱融解特性を有するものであった。
【0050】
一方、表1にから明らかなように、比較例1は融解開始温度、融解ピーク温度、融解完了温度が高いものであり、本発明が目的とするものではなかった。
比較例2は、融解ピークが検出されず、鞘成分の結晶性が低いものであった。
比較例3は、ガラス転移温度が低いため、未延伸糸において、収縮・膠着が発生した。よって、生産効率の良好ではないものであった。
【0051】
【0052】
得られた実施例1の複合繊維および比較例1の複合繊維を用いて、それぞれの複合繊維からなる不織布を作成した。また、不織布を作成する際の熱処理温度(熱接着処理)を180℃、190℃、200℃、210℃の4水準とし、それぞれの複合繊維からなる不織布を4種類作成した。そして、それぞれの処理条件で得られた不織布について、強力を測定した。
【0053】
なお、不織布の作成および不織布強力の測定方法について、以下に記載する。
<不織布作製>
ユニチカ社製レギュラーポリエステル繊維<121>1.7T51mmを60wt%、熱接着性の芯鞘型複合繊維を40wt%の条件になるよう混綿し、熱処理後における不織布の目付が50g/m2程度となるように、カード機(大和機工製SC-500DI3HC)に繊維を投入し、ウェブを作製する。その後、連続熱処理機(辻井染機工業製NFD-500E2)を用いて、風量57m3/min、処理時間1分とし、上記した4水準それぞれの熱処理温度で処理して、4種の不織布を作製した。
<不織布強力>
上記で得られた不織布より試料(MD150mm、CD50mm)を切り出し、精密万能試験機オートグラフ(島津製作所製AG-50KNI)を用い、引張速度100mm/min、チャック間距離100mmの条件で不織布のMD強力を測定した。なおサンプル数はn=5とした。また、不織布強力測定前に、試料の目付を測定し、上記の不織布のMD強力を、目付50g/m2に換算し、この値を不織布強力とした。
【0054】
実施例1の複合繊維により得られた不織布強力は、180℃熱処理の不織布:1.9N/50mm幅、190℃熱処理の不織布:24.0N/50mm幅、200℃熱処理の不織布:79.6N/50mm幅、210℃熱処理の不織布:96.7N/50mm幅であった。
【0055】
一方、比較例1の複合繊維により得られた不織布は、180℃熱処理のものおよび190℃熱処理のものは、いずれも熱接着が不足し、不織布形態を保持できておらず、ほぼウェブに近い状態であってハンドリングができないものであり、190℃熱処理の不織布:2.1N/50mm幅、210℃熱処理の不織布:123.8N/50mm幅であった。
【0056】
本発明の不織布は、比較例と比べて、190℃~210℃の範囲にて熱接着処理可能であり、200℃前後の温度でいずれも一定以上の強力が得られており、特別な高温の熱処理機を必要とせず、また、熱処理装置内の厳格な温度制御を要しないことから、汎用性が高いことがわかる。
【0057】
得られた実施例1、2の複合繊維、比較例2の複合繊維を用いて、ウェブ収縮率について測定した。ウェブ収縮率は、上述した方法であるが、以下にも記載する。
<ウェブ収縮率>
短繊維をカード機(大和機工製C-200)に投入し、目付100g/m2のウェブを作製し、得られたウェブより、200×200mmの試料片を裁断により採取する。その後、130℃に設定した箱型の恒温乾燥機中に5分間放置後取り出し、熱処理前後のウェブの面積より寸法変化率(ウェブ収縮率)を算出した。測定サンプル数はn=2とした。寸法測定に関しては、上記したとおりである。
【0058】
実施例1の複合繊維からなるウェブのウェブ収縮率は34%、実施例2の複合繊維からなるウェブのウェブ収縮率は30%であった。一方、比較例2の複合繊維からなるウェブのウェブ収縮率は70%と収縮の高いものであった。本発明の複合繊維が、寸法安定性に優れることがわかる。