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特許7448201人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置
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  • 特許-人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20240305BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240305BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240305BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240305BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G01R31/367
H02J7/00 Y
G01R31/382
G01R31/392
H01M10/48 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020089116
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021183927
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591198364
【氏名又は名称】アクソンデータマシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 努
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-317256(JP,A)
【文献】特開2015-215272(JP,A)
【文献】特開2019-158831(JP,A)
【文献】特開2003-249271(JP,A)
【文献】特開2006-220616(JP,A)
【文献】特開2014-178213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電を繰り返すリチウムイオン2次電池の端子電圧や電流を含む1次情報を検出する1次情報検出回路と、
入力層と中間層と出力層とを備え、前記1次情報検出回路で検出された前記1次情報が前記入力層に入力されることにより、前記出力層から劣化基本データを出力する第1ニューラルネットワークと、
前記第1ニューラルネットワークの前記出力層から出力された前記劣化基本データを補正することにより、前記リチウムイオン2次電池に対する変更に追随した前記リチウムイオン2次電池の劣化度に関する推定結果を得るための第1補正回路と、
を備え、
前記1次情報検出回路により前記リチウムイオン2次電池の前記1次情報が計測され、
計測された前記1次情報が前記第1ニューラルネットワークの前記入力層に入力され、前記1次情報の前記第1ニューラルネットワークへの入力により前記第1ニューラルネットワークの前記出力層から前記リチウムイオン2次電池の前記劣化基本データが出力され、
前記第1ニューラルネットワークの前記出力層から出力された前記劣化基本データが前記第1補正回路に入力され、
前記第1補正回路において、入力された前記劣化基本データが補正されることにより、前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に追随した、前記リチウムイオン2次電池の前記劣化度に関する前記推定結果が得られるようにし、
前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に対して、前記第1ニューラルネットワークから出力された前記劣化基本データを前記第1補正回路で補正することにより対応するようにした、
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、
前記リチウムイオン2次電池の製品を特定するための製品特定情報を前記第1補正回路に入力する製品特定情報入力装置がさらに設けられ、
前記第1補正回路に前記製品特定情報が入力されることにより、前記第1補正回路において、前記リチウムイオン2次電池の補正係数が検索され、
前記第1補正回路において、前記補正係数を用いて前記第1ニューラルネットワークからの前記劣化基本データを補正することにより、前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に追随した、前記リチウムイオン2次電池の前記劣化度に関する前記推定結果が得られる、
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、
前記第1補正回路は、前記製品特定情報入力装置からの前記製品特定情報に基づいて前記補正係数を検索するためのテーブルと、前記テーブルにより検索された前記補正係数に基づいて前記第1ニューラルネットワークからの前記劣化基本データを補正するための演算回路を備えており、
前記第1補正回路において、前記第1ニューラルネットワークからの前記劣化基本データを、前記補正係数を用いて前記演算回路で補正することにより、前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に追随した、前記リチウムイオン2次電池の前記劣化度に関する前記推定結果が得られる、
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、
表示装置をさらに備え、
前記第1補正回路において得られた前記劣化度に関する前記推定結果を前記表示装置に表示する
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、
前記1次情報検出回路からの前記1次情報が入力されることにより前記リチウムイオン2次電池の蓄電量基本データを出力する第2ニューラルネットワークと、前記第2ニューラルネットワークから出力された前記蓄電量基本データを補正するための第2補正回路と、がさらに設けられ、
前記第2補正回路により、前記第2ニューラルネットワークから出力された前記蓄電量基本データを補正することにより、前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に追随した、前記リチウムイオン2次電池の蓄電量に関する推定結果が得られるようにし、
前記リチウムイオン2次電池に対する前記変更に対して、前記第2ニューラルネットワークから出力される前記蓄電量基本データを前記第2補正回路で補正することにより対応するようにした、
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の内の一に記載の人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、
前記リチウムイオン2次電池は車の駆動装置に電力を供給するためのリチウムイオン2次電池である、
ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次電池の状態推定装置に係り、特に人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
供給された電力を蓄え、蓄えた電力を電気負荷に供給する2次電池は、内部で化学変化を生じたり、あるいは化学変化が起こらない場合であっても、前記充放電に伴うイオンの移動などの変化が起こったりしている。充放電に伴う化学変化を含めた色々な状態変化が、2次電池の各部分部分で異なっており、2次電池全体が安定した状態となるには長い時間を要する。このため、充放電を繰り返している2次電池の状態を短時間に正確に測定することは、困難であり、2次電池が安定するまで長い時間待つ必要がある。しかし充放電の動作中の2次電池の時々刻々の変化は、いろいろな制御を行う上で、あるいは安全性を確保する上で必要となる。このため以前は、ある程度の誤差が含まれていることを前提として、時々刻々の状態をセンサ等で計測して使用していた。
【0003】
上記誤差を少なくする方法として、ニューラルネットワークを備えた人工知能技術(以下AI技術と記す)を用いた制御(以下AI制御と記す)が提案されている。この技術は例えば、前もって2次電池のパラメータをいろいろ変化させ、その時々の2次電池の特性を、2次電池の状態安定時間を考慮して正確に計測し、前記パラメータと計測結果に基づいてニューラルネットワークを構築するものである。このようにしてニューラルネットワークを構築することにより、時々刻々変わる2次電池のパラメータを入力として、2次電池の安定した状態での特性を正確に推定することができる。
【0004】
しかしニューラルネットワークを構築するのに長い時間や大きな労力が必要である。一方、2次電池に関して、材料製造メーカや2次電池の製造メーカは非常に活発に技術開発に取り組んでおり、時々刻々改良がなされている。これらの改良された製品に対応してニューラルネットワークを遅滞なく構築することは、非常に難しい。上述のニューラルネットワークを用いたAI技術に関する先行技術を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4038788号公報
【文献】特許第6579287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
時々刻々改良されていく2次電池に対応して、AI技術を用いて高精度に2次電池の状態を推定できる、計測装置を提供できることが望ましい。計測対象の2次電池の改良等に対して、迅速に対応できる2次電池の状態推定装置が求められる。本発明の目的は、進歩改良の速い2次電池の製品あるいは技術の変化に比較的簡単に対応できるAI技術を用いた2次電池の状態推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する第1発明は、計測対象の2次電池の端子電圧や電流値を含む1次情報を検出する検出回路と、前記2次電池の劣化状態を推定するための第1のニューラルネットワークと、前記第1のニューラルネットワークの出力を補正する第1補正回路と、前記計測対象の製品名あるいは2次電池の容量を入力する入力装置と、を備え、前記第1のニューラルネットワークは入力層と中間層と出力層とを備え、前記検出回路で検出された前記1次情報が前記第1のニューラルネットワークの前記入力装置に入力され、前記第1のニューラルネットワークの前記出力層から出力された値が前記第1補正回路で補正されて、前記計測対象の2次電池の劣化情報が推定される、ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置である。
【0008】
前記課題を解決する第2発明は、前記第1の発明である人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、さらに前記計測対象の2次電池の蓄電量を推定するための第2ニューラルネットワークと、第2補正回路とを備え、前記第2ニューラルネットワークの入力層には前記検出回路から前記1次情報が入力され、前記第2ニューラルネットワークの出力層からの出力が前記第2補正回路により補正されて、前記計測対象の2次電池の充電量が推定される、ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置である。
【0009】
前記課題を解決する第3発明は、前記第2の発明である、人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、前記第1補正回路で補正された劣化情報が前記第2ニューラルネットワークの前記入力層に入力される、ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置である。
【0010】
上記課題を解決する第4発明は、前記第1の発明乃至第3の発明の内の1に記載の発明である、人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置において、前記計測対象の2次電池の異常を推定する第3ニューラルネットワークを有し、前記1次情報の急変値と急変周期が前記第3ニューラルネットワークに入力され、これに基づいて異常の有無を推定する、ことを特徴とする人工知能技術を用いた2次電池の状態推定装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、時々刻々、改良が加えられる2次電池に対して、比較的簡単に対応できるAI技術を用いた2次電池の計測装置を得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明が適用された、2次電池の状態推定装置に関する説明図である。
図2】ニューラルネットワークを説明する説明図である。
図3】ニューラルネットワークの出力補正を説明する説明図。
図4】2次電池の異常を説明する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.電気自動車に本願発明を適用した場合の一実施形態について
図1に、電気自動車に本願発明を適用した場合の一実施形態を示す。電気自動車の駆動用電力が、2次電池例えばリチウムイオン2次電池20に蓄えられ、リチウムイオン2次電池20から車を駆動する車両駆動装置40に、図示しない運転者の運転操作に基づいて、電力が供給される。リチウムイオン2次電池20は図示しない発電装置から電力が供給される。さらにまた走行中に、車両に対してブレーキ操作等の減速操作が行われると、回生制動制御により発生した電力がリチウムイオン2次電池20に供給され、蓄電される。
【0014】
車両の走行に基づいてリチウムイオン2次電池20は充放電を繰り返し、徐々に劣化が進む。このためリチウムイオン2次電池20について、どのくらい劣化が進んでいるのか、またリチウムイオン2次電池20にどれだけの電力が蓄えられているのか、突然リチウムイオン2次電池20が発火するなどの危険性が無いのか、などについて、正確な状態が推定され、制御等に使用されたり、運転者等に伝えられたりすることが望ましい。
【0015】
2次電池状態推定装置100は、リチウムイオン2次電池20や車両駆動装置40の一次情報を検出する一次情報検出回路120と、前記一次情報に基づいて劣化基本データを出力する第1ニューラルネットワーク130と、前記一次情報および第1ニューラルネットワーク130あるいは補正回路140で補正した劣化度情報に基づいて蓄電量基本データを出力する第2ニューラルネットワーク150と、異常基本データを出力する第3ニューラルネットワーク170と、入力装置190と、補正回路140と、補正回路160と、補正回路180と、急変検出回路172と、を備えている。上記劣化基本データや上記蓄電量基本データ、上記異常基本データは、それ自身でも高い精度の情報であるが、さらに制度を高めるためには、これらのデータを入力装置190からの入力情報に基づいて、補正回路140や補正回路160、補正回路180により、それぞれ補正することが好ましい。詳細は以下で述べるが、第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170を構築するには、時間が必要となる。一方、状態推定対象のリチウムイオン2次電池20は新しいラインナップの製品が出たり、内部の電極形状に小さな変更が加えられたり、セパレータの材料の一部に変更が加えられたり、等、色々な改良がなされる。その度に第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170そのものを再構築していると、対応が困難となる。これらについては、補正回路140や補正回路160、補正回路180で補正することで、十分に高い精度を維持することができる。また補正回路140や補正回路160、補正回路180は特にその構成が特定されるものではなく、いろいろな回路等で対応できる。
【0016】
2.電気自動車の走行について
エンジン車は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの出力により車両が走行する。環境問題があり、搭載しているリチウムイオン2次電池20に電力を蓄え、蓄えた電力によりモータを駆動し、車両が走行するハイブリッドカーや電気自動車が、近年使用されるようになってきた。ハイブリッドカーであれ、電気自動車であれ、走行に必要な電力を蓄えるリチウムイオン2次電池20が必要となる。電気自動車の一例を図1のリチウムイオン2次電池20や車両駆動装置40で説明する。なお、ハイブリッドカーであっても、基本的な部分は同じである。
【0017】
走行のための電力はリチウムイオン2次電池20に蓄えられている。車両駆動装置40には、走行用モータやアクセルペタル、ブレーキペタル、操舵機構が設けられている。運転者がアクセルペタルを踏み込むと、走行用モータに電力が供給され、操作量に基づき、加速減速の運転が行われる。加速時には加速に必要な電力がリチウムイオン2次電池20から車両駆動装置40に供給され、減速時には、回生制動により回収された電力が、車両駆動装置40からリチウムイオン2次電池20に蓄電される。このようにリチウムイオン2次電池20から流れ出る電流値が時々刻々変化する。
【0018】
リチウムイオン2次電池20が長時間使用され、充放電を繰り返すと、劣化が進み、例えば、充電したにも関わらず十分な電力が取り出せなくなる、等の問題が生じる。従来は、リチウムイオン2次電池20の内部抵抗が大きくなると劣化が進んだと判断し、寿命が尽きたとして交換していた。リチウムイオン2次電池20の内部では、イオンの移動などの現象が生じ、イオンの移動等の現象により充電や放電が行われる。リチウムイオン2次電池20の劣化を計測しようとした場合に、内部のイオンの状態が安定していないと、精度の高い計測が行えない。リチウムイオン2次電池20の状態が安定するには、長い時間が必要である。しかし、運転制御などの色々な制御を行うには、応答性が重要であり、安定するのを待っていたのでは制御のために、計測した情報を使用できない。上述したように、以下で説明する第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170を構築することで、この問題を解決することができる。
【0019】
リチウムイオン2次電池20や車両駆動装置40の時々刻々変化する状態を一次情報として一次情報検出回路120で取り込む。一次情報検出回路120に取り込まれるリチウムイオン2次電池20に関する一次情報124は、例えば、端子電圧や電流、リチウムイオン2次電池20の内部抵抗、外気温、などを含む情報である。また一次情報検出回路120が取り込む、車両駆動装置40に関する一次情報122は、例えば、車速や加減速の変化量、走行距離、などの情報である。これらの情報は、一次情報検出回路120で計測された後、第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170の入力として、それぞれの入力層に送られる。
【0020】
第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170の基本構成はほぼ同じであり、これらを代表して第1ニューラルネットワーク130により、ニューラルネットワークについて説明する。図2に記載のように、第1ニューラルネットワーク130は、入力層132と中間層134と出力層136を有している。これは他の第2ニューラルネットワーク150や第3ニューラルネットワーク170も同様であり、以下に説明の構成も同じである。入力層132や中間層134や出力層136は、丸印で表示するニューロンで構成されるニューロン群を備えている。入力層132に走行関係一次情報122や2次電池関係一次情報124が入力されると、実際にはリチウムイオン2次電池20が安定状態ではないのに、安定状態で計測された状態の劣化度を表す劣化基本データが推定され、出力層136から出力される。このような出力が第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170からそれぞれ得られるように、例えば第1ニューラルネットワーク130の例では、走行関係一次情報122や2次電池関係一次情報124のパラメータを、あらかじめ変化させて、その変化した状態でのリチウムイオン2次電池20の劣化状態を、時間を掛けてリチウムイオン2次電池20が安定した状態になるのを待って計測し、走行関係一次情報122や2次電池関係一次情報124の状態から、上記安定した状態の劣化情報が得られるように、中間層134の各ニューロンの係数値を決定する。このようにすることで、安定していない時々刻々変わる走行関係一次情報122や2次電池関係一次情報124の情報が入力された場合にこれらの情報から、直ちにリチウムイオン2次電池20が安定した状態での、劣化情報を高い精度で得ることができる。第2ニューラルネットワーク150による蓄電量の推定や、第3ニューラルネットワーク170による以上の推定も同じである。
【0021】
3.蓄電量の計測について
第2ニューラルネットワーク150や第3ニューラルネットワーク170も基本的には、図2に示す第1ニューラルネットワーク130の構成と同じであり、中間層134の構築方法も同じである。蓄電情報を得るための第2ニューラルネットワーク150の場合には、第2ニューラルネットワーク150の入力層132に走行関係一次情報122や2次電池関係一次情報124に加えて、第1ニューラルネットワーク130の出力あるいは補正回路140の出力が入力される。第2ニューラルネットワーク150に第1ニューラルネットワーク130の出力あるいは補正回路140の出力を入力する理由は次のとおりである。
【0022】
2次電池関係一次情報124に基づいて蓄電量を推定した場合に、同じ推定量であってもリチウムイオン2次電池20から実際に取り出すことができる電力量は、リチウムイオン2次電池20の劣化状態により異なってくる。リチウムイオン2次電池20が劣化してくると、放電に伴うリチウムイオン2次電池20内のイオンの移動量が減少してくる。またイオンの移動速度が低下してくる。さらにその他にも内部抵抗を増加させる要因がいろいろ生じてくる。その結果として、劣化度が少ない状態に比べて、リチウムイオン2次電池20から取り出すことができる電力量が少なくなる。このようなことから第1ニューラルネットワーク130の出力あるいは補正回路140の出力を、150の入力層132に入力する。第2ニューラルネットワーク150から蓄電量基本データが出力される。また以下で説明するが第3ニューラルネットワーク170から異常状態が生じないかに関する異常情報が出力される。
【0023】
4.補正回路140や補正回路160、補正回路180について
第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170は、図2に記載の構成をしており、この構成は事前に入力の状態に対する出力の状態を正確に計測してその結果から中間層134の状態を構築することになる。この中間層134の構築には時間が必要であり、簡単に変更することが難しい。一方リチウムイオン2次電池20は、電解質の材料やセパレータの材料等、時々刻々改良がなされている。また容量やサイズの異なる製品を揃えたりする。このような場合、リチウムイオン2次電池20の動作状態は大部分同じであり、一部のみを変更することで高い精度を維持できる場合が多い。これらのことから補正回路140や補正回路160、補正回路180を使用して第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170の出力を補正することで、製品の変化に追随でき、高い精度の推定結果を得ることができる。これらの推定結果は、それぞれ表示装置200に表示される。
【0024】
図3は、補正回路140や補正回路160、補正回路180の基本構成を示す。これらの補正回路を代表して、補正回路140について説明するが、補正回路160や補正回路180も同じである。入力装置190から、状態推定の対象となるリチウムイオン2次電池20のメーカ名192や、製品名あるいは型式など製品の種類を特定することができる名称(以下種類名と記す)194、リチウムイオン2次電池20の電力容量196を、補正回路140の補正係数kを検索するテーブル142に入力する。なお、図3はあくまでも一例であり、どのような回路であっても、どのような方式であっても良い。また演算により補正しても良いし、その他の方法で補正しても良い。
【0025】
第1ニューラルネットワーク130や第2ニューラルネットワーク150、第3ニューラルネットワーク170の出力を入力iとすると、演算回路144は、テーブル142で検索された補正係数kと入力iとにより、例えば掛け算等の演算により、入力iに対して、リチウムイオン2次電池20の小規模変更に対する補正が可能となる。このようにすることで、頻繁に行われるリチウムイオン2次電池20におけるいろいろな変更に対しても、高い精度の劣化度や蓄電量や異常を、高い精度で推定することができ、表示装置200に表示することができる。
【0026】
5.リチウムイオン2次電池20の異常状態の推定について
リチウムイオン2次電池20が短絡事故を起こすと、高温となり、燃え上がる危険性がある。しかし、このような異常が発生する前に、その兆候が表れることが多い。図4にその一例を示す。図4は、充電を行った場合の端子電圧の変化を示すグラフである。特性224が正常な特性である。充放電を繰り返すと、リチウムイオン2次電池20の劣化に基づいて、特性226あるいは特性220が一瞬表れることがある。しかし特性226あるいは特性220はすぐに消え、正常な特性224に戻る。これを繰り返しているうちに、やがて大きな異常の発生に繋がる。
【0027】
図1の急変検出回路172で瞬間的な特性変化である、図4の特性220や特性226を捉え、さらにその発生周期を捉える。第3ニューラルネットワーク170で大きな異常につながるか、あるいは単なるノイズであるのかを判断する。この場合、補正回路180を設けないで、第3ニューラルネットワーク170が異常と判断した場合に、そのまま表示装置200に、異常を表示しても良い。もちろん補正回路180により、リチウムイオン2次電池20の小規模変更や新たな製品の追加に対応できるようにしても良い。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、製品の小規模変更や新たな製品の追加に対して、簡単に効率よく対応でき、しかも高い精度の推定が可能となる。
【符号の説明】
【0029】
20・・・リチウムイオン2次電池、40・・・車両駆動装置、100・・・2次電池状態推定装置、120・・・一次情報検出回路、122・・・走行関係一次情報、124・・・2次電池関係一次情報、130・・・第1ニューラルネットワーク、132・・・入力層、134・・・中間層、136・・・出力層、140・・・補正回路、142・・・テーブル、144・・・演算回路、150・・・第2ニューラルネットワーク、160・・・補正回路、170・・・第3ニューラルネットワーク、172・・・急変検出回路、180・・・補正回路、190・・・入力装置、200・・・表示装置、220・・・特性、224・・・特性、226・・・特性。
図1
図2
図3
図4