(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240305BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M10/052
G01N25/18 L
(21)【出願番号】P 2022164645
(22)【出願日】2022-10-13
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】202210978863.0
(32)【優先日】2022-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516148461
【氏名又は名称】重慶理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林春景
(72)【発明者】
【氏名】胡遠志
(72)【発明者】
【氏名】斎創
(72)【発明者】
【氏名】章月朦
(72)【発明者】
【氏名】何聯格
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110867605(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
G01N25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法であって、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件に従ってリチウム金属粒子の直径を調整することと、
前記リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料で包んでリチウム金属-相変化材料複合体を調製することと、
前記リチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整し、前記リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極表面の異なる位置に配置して、シミュレート対象のリチウムイオン電池を決定することと、
前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することとを含み、
前記シミュレーション条件は、異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレーション、または、異なる回数かつ0℃以下で充電されたリチウムイオン電池のシミュレーションを含み、
前記トリガー条件は、リチウムイオン電池が、45℃以上の高温かつ80%~100%の高SOCである、または、45℃以上の高温かつ1C倍率以上のハイレート充放電である状態を含む前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を内部発熱副反応が継続して発生している状態を含
み、
前記相変化材料が、パラフィンであることを特徴とする電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件に従ってリチウム金属粒子の直径を調整することは、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレートである場合、リチウムイオン電池のSOHが5%減少するごとに前記リチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整し、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる回数かつ0℃以下で充電されたリチウムイオン電池のシミュレートである場合、リチウムイオン電池を0℃以下で10回充電するごとに前記リチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整することを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項3】
前記リチウム金属粒子の直径が、100ミクロン~500ミクロンの範囲であることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項4】
前記リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料で包んでリチウム金属-相変化材料複合体を調製することは、
不活性雰囲気環境下で、パラフィンの周囲温度を相変化温度より高くすることと、
不活性雰囲気環境下で、前記リチウム金属粒子を溶融したパラフィンに入れ、前記溶融したパラフィンの周囲温度を相変化温度より低くして、設定時間後に前記リチウム金属粒子の外部を固体パラフィンで包むことと、
前記リチウム金属粒子の外部にある前記固体パラフィンを厚さが1mm未満になるまで切削することと、を含むことを特徴とする請求項
1に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項5】
前記リチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整し、前記リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極表面の異なる位置に配置して、シミュレート対象のリチウムイオン電池を決定することは、
不活性雰囲気環境下で、リチウムイオン電池の巻芯を開いて前記リチウム金属-相変化材料複合体を前記リチウムイオン電池の負極とセパレータとの間に配置することと、
前記リチウムイオン電池の巻芯を巻き戻し、リチウムイオン電池の巻芯シェルに入れるか、アルミプラスチックフィルムで包み、新たに液体注入し、封止してフォーメーションを行い、リチウムイオン電池の温度を30℃以下に制御することと、を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項6】
前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することは、
リチウムイオン電池のSOCを100%に調整することと、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を60℃の高温環境下に置いて、シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することと、を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【請求項7】
前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することは、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を高温環境下に置いて、シミュレート対象のリチウムイオン電池の温度が変化しない場合、ハイレート充放電を行ってシミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の自己発熱暴走シミュレーションの分野に関し、特に、リチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国家の強力な支援および産業政策の奨励の下で、新エネルギー車の製品品質および動力電池の応用技術レベルは、近年大幅に向上している。
新エネルギー車は、徐々に多くの家に入り、マーケットシェアも徐々に増加している。
2021年、中国の新エネルギー乗用車の販売台数は300万台を超え、前年比の167.5%増である。
また、2022年の販売台数は500万台に達すると予測されており、中国の新エネルギー車は加速発展の新たな段階に入り、将来的には、自動車産業の変革と発展の主要な方向となり、持続的な経済成長を促進するための重要なエンジンとなる。
同時に、リチウムイオン電池のエネルギー密度の継続的な向上に伴い、新エネルギー車の火災事故件数は、年々増加している。
権威のある部門の統計によると、2022年第1四半期の新エネルギー車の火災事故数は、640件にも上る。
【0003】
事故分析の結果、新エネルギー車の自着火・火災事故の割合は78%と高く、その多くが動力電池の自己発熱暴走に関係していることが分かっている。
したがって、動力電池の自己発熱暴走をどのように回避するかは、業界が緊急に解決する必要がある主要な問題の1つである。
動力電池の自己発熱暴走とは、リチウムイオン電池が明らかな損傷を受けておらず、正常に使用できる状態で、急激な電圧低下、急激な温度上昇、発火、さらには爆発の現象を指し、突然性、無兆候、予測不可能という特徴を有する。
自己発熱暴走の発生には、電池製造工程の管理レベル、使用条件、本体の損傷、事故時の充電状態(SOC)や温度状態など、多くの要因が関係している。
例えば、生産製造工程において、製造環境や工程管理が適切に管理されていないと、コーティング、圧延、スリットなどの複数の工程で微量の不純物が混入する可能性があり、使用中、低温充電、急速充電等の使用シナリオにより、電池内部でリチウムが析出する場合がある。
製造時に導入された微量の不純物が電池で局所的なマイクロショートを引き起こす可能性があり、使用中に析出したリチウム金属が電池内部で局所的な過熱を引き起こす可能性がある。
このとき、電池の充電状態(SOC)および温度がともに高い場合、電池内部の局所的な過熱により電池内部で連鎖発熱副反応が引き起こされる可能性が高く、最終的には電池の自己発熱暴走の発生につながる。
【0004】
電池内部の局所的な過熱によって引き起こされる自己発熱暴走の実験的シミュレーション方法について、現在、研究者らは、記憶合金の埋め込み、低融点金属箔の埋め込み、相変化材料で包まれた金属粉末の埋め込み、欠陥セパレータ、リチウム樹状突起の人工的誘導、釘刺などの実験的シミュレーション方法を検討している。
非特許文献1は、記憶合金の埋め込みと外部加熱の方法により、電池の内部短絡をトリガーした。
非特許文献2は、低融点金属箔を埋め込む方法で内部短絡をシミュレートし、ボタン電池と18650電池の熱故障のトリガーに成功した。
特許文献1は、金属粉末を相変化材料で包んだ後、電池の内部に配置して電池の内部短絡トリガーを実現する方法を提案した。この方法は、トリガー要素の配置位置がフレキシブルであり、電池性能への影響が少ないという利点がある。
特許文献2は、リチウムイオン電池のセパレータに穴を開け、穴の位置で相変化フィラーを覆うことにより、電池の内部短絡をシミュレートする方法を開示している。
非特許文献3は、過放電によって人工的に樹状突起の形成を誘導し、充電状態SOCが12%のとき、銅集電体が溶解して樹状突起を生成することがわかった。
非特許文献4は、釘刺の方法を使用して電池の内部短絡の発生をシミュレートし、釘刺深さや釘の直径等が熱故障の発生に大きな影響を与えることがわかった。
非特許文献5は、押し出し法によって内部短絡をシミュレートし、電池のSOCおよび押し出し深さを調整することで、さまざまなタイプの内部短絡をシミュレートした。
【0005】
現在では、研究者によって様々な自己発熱暴走の再現方法が提案されているが、再現性、制御性、実装の難しさなどに、それぞれ長所および短所がある。
すなわち、異物の埋め込みという方法は、再現性および制御性に優れているが、実際の電池の自己発熱暴走シナリオとはかなり異なる。
欠陥セパレータの方法は、実施が難しかったり、実際の電池の自己発熱暴走のシナリオとはかなり異なったりする等の制限がある。
樹状突起を人工的に誘導する方法は、電池を破壊しにくく、実施も難しくないが、樹状突起の成長の場所およびプロセスが制御できない。
釘刺方法は、シンプルで制御可能性が高いが、再現性が比較的低く、実際の電池の自己発熱暴走シナリオとはかなり異なる。
【0006】
したがって、実験方法を改善し、損傷度が制御可能であり、高い再現性を有し、実際の故障シナリオに適合した、局所的な過熱によるリチウムイオン電池の自己発熱暴走のシミュレーション方法を提案する方法は、現在解決が必要な緊急の問題であり、リチウムイオン電池の自己発火問題を克服するための自己発熱暴走メカニズムを研究するための基礎でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国特許出願公開第110867605号明細書
【文献】中国特許出願公開第109346661号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Mingxuan Zhang, et al.、「Internal Short Circuit Trigger Method for Lithium-Ion Battery Based on Shape Memory Alloy」、Journal of The Electrochemical Society、164 (13)、A3038-A3044、2017
【文献】Christopher J.Orendorff, et al.、「Experimental triggers for internal short circuits in lithium-ion cells」、Journal of Power Sources、Volume 196, Issue 15, 6554-6558、2011
【文献】Rui Guo, et al.、「Mechanism of the entire overdischarge process and overdischarge-induced internal short circuit in lithium-ion batteries」、Scientific Reports、Volume 6、30248、2016
【文献】Jionggeng Wang, et al.、「Experimental and numerical study on penetration-induced internal short-circuit of lithium-ion cell」、Applied Thermal Engineering、Volume 171、115082、2020
【文献】Binghe Liu, et al、「Safety issues caused by internal short circuits in lithium-ion batteries」、J. Mater. Chem. A、6、21475-21484、2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、制御可能な損傷度、高い再現性、実際の故障シナリオへの適合という利点を有するリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の解決手段を提供する。
【0011】
リチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法は、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件に従ってリチウム金属粒子の直径を調整することと、
前記リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料で包んでリチウム金属-相変化材料複合体を調製することと、
前記リチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整し、前記リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極表面の異なる位置に配置して、シミュレート対象のリチウムイオン電池を決定することと、
前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することとを含み、
前記シミュレーション条件は、異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレーション、または、異なる回数かつ0℃以下で充電されたリチウムイオン電池のシミュレーションを含み、
前記トリガー条件は、リチウムイオン電池が、45℃以上の高温かつ80%~100%の高SOCである、または、45℃以上の高温かつ1C倍率以上のハイレート充放電である状態を含む前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を内部発熱副反応が継続して発生している状態を含む。
【0012】
任意選択で、前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件に従ってリチウム金属粒子の直径を調整することは、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレートである場合、リチウムイオン電池のSOHが5%減少するごとに前記リチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整し、
前記リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる回数かつ0℃以下で充電されたリチウムイオン電池のシミュレートである場合、リチウムイオン電池を0℃以下で10回充電するごとに前記リチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整することを含む。
【0013】
任意選択で、前記リチウム金属粒子の直径が、100ミクロン~500ミクロンの範囲である。
【0014】
任意選択で、前記相変化材料が、パラフィンである。
【0015】
任意選択で、前記リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料で包んでリチウム金属-相変化材料複合体を調製することは、
不活性雰囲気環境下で、パラフィンの周囲温度を相変化温度より高くすることと、
不活性雰囲気環境下で、前記リチウム金属粒子を溶融したパラフィンに入れ、前記溶融したパラフィンの周囲温度を相変化温度より低くして、設定時間後に前記リチウム金属粒子の外部を固体パラフィンで包むことと、
前記リチウム金属粒子の外部にある前記固体パラフィンを厚さが1mm未満になるまで切削することと、を含む。
【0016】
任意選択で、前記リチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整し、前記リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極表面の異なる位置に配置して、シミュレート対象のリチウムイオン電池を決定することは、
不活性雰囲気環境下で、リチウムイオン電池の巻芯を開いて前記リチウム金属-相変化材料複合体を前記リチウムイオン電池の負極とセパレータとの間に配置することと、
前記リチウムイオン電池の巻芯を巻き戻し、リチウムイオン電池の巻芯シェルに入れるか、アルミプラスチックフィルムで包み、新たに液体注入し、封止してフォーメーションを行い、リチウムイオン電池の温度を30℃以下に制御することと、を含む。
【0017】
任意選択で、前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することは、
リチウムイオン電池のSOCを100%に調整することと、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を60℃の高温環境下に置いて、シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することと、を含む。
【0018】
任意選択で、前記シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行って前記シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することは、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を高温環境下に置いて、シミュレート対象のリチウムイオン電池の温度が変化しない場合、ハイレート充放電を行ってシミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって提供される具体的な実施例によれば、本発明は、以下の技術的効果を開示する。
【0020】
本発明によって提供されるリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法は、リチウム金属粒子の直径、リチウム金属-相変化材料複合体の数量および位置を調整することにより、リチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする過程でリチウムイオン電池の損傷程度を制御することができる。
また、シミュレーション中、リチウム金属粒子の外部を相変化材料で包むことにより、リチウムイオン電池が相変化温度に達するまで、リチウム金属粒子はリチウムイオン電池内部の他の部品と反応せず、リチウムイオン電池が相変化温度に達すると、相変化材料が溶融した後、リチウム金属粒子がリチウムイオン電池内部の電解液、正極材料および負極材料と接触し、発熱副反応が発生して、局所的な過熱の正確なシミュレーションが実現される。このときのリチウムイオン電池のSOCとリチウムイオン電池の温度を同時に正確に制御できるため、リチウムイオン電池の自己発熱暴走の初期状態の制御を実現できる。
本発明のリチウム金属粒子の直径、リチウム金属-相変化材料複合体の数量および位置、相変化材料の相変化温度、リチウムイオン電池のSOC、リチウムイオン電池の温度等のパラメーターを正確に制御できるため、実験結果の高い再現性を保証できる。
本発明は、実際に故障した電気コアを解体することによって得られた特性に従って、リチウム金属-相変化材料複合体を備えたリチウムイオン電池に対して、直接的で定量的かつ制御可能なシミュレーションを実行し、実際の故障シーンによりよく適合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の実施例または従来技術における技術的解決手段をより明確に説明するために、以下では、実施例で使用される添付の図面を簡単に説明し、以下の説明における図面は、明らかに、本発明のいくつかの実施例にすぎず、当業者にとって、創造的な努力なしにこれらの図面から他の図面を取得することもできる。
【0022】
【
図1】本発明によって提供されるリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法のフローチャート概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施例における技術的解決手段は、本発明の実施例における添付の図面を参照して、以下で明確かつ完全に説明され、説明された実施例は、明らかに、本発明の実施例のすべてではなく一部にすぎない。
本発明の実施例に基づいて、創造的な作業なしに当業者によって得られる他のすべての実施例は、本発明の保護範囲内に入るべきである。
【0024】
本発明は、制御可能な損傷度、高い再現性、実際の故障シナリオへの適合という利点を有する電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法を提供することを目的とする。
【0025】
本発明の上記目的、特徴及び利点をより顕著で分かりやすくするために、以下に図面及び発明を実施するための形態を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。
【0026】
図1は、本発明によって提供されるリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法のフローチャート概略図であり、
図1に示すように、本発明によって提供されるリチウムイオン電池の自己発熱暴走をシミュレートする方法は、以下を含む。
【0027】
S101では、リチウムイオン電池のシミュレーション条件に従ってリチウム金属粒子の直径を調整する。
シミュレーション条件は、異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレーション、または、異なる回数かつ0℃以下で充電されたリチウムイオン電池のシミュレーションを含む。
リチウム金属粒子の直径は、100ミクロン~500ミクロンの範囲である。
リチウム金属粒子の直径を大きくして、異なる劣化状態のリチウムイオン電池および異なる低温の充電回数を経過したリチウムイオン電池をシミュレートして、リチウム金属粒子の直径とリチウムイオン電池の自己発熱暴走との関係を分析することで、リチウム金属粒子の直径サイズで決定される内部蓄熱量とリチウムイオン電池の自己発熱暴走との関係を判断する。
【0028】
S101は、具体的には、
リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる劣化状態のリチウムイオン電池のシミュレートである場合、リチウムイオン電池のSOHが5%減少するごとにリチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整し、
リチウムイオン電池のシミュレーション条件が異なる回数かつ0℃以下の低温で充電されたリチウムイオン電池をシミュレートである場合、リチウムイオン電池を0℃以下で10回充電するごとにリチウム金属粒子の直径を100ミクロン増加するように調整することを含む。
【0029】
S102は、リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料で包んでリチウム金属-相変化材料複合体を調製する。
リチウム金属粒子の外面を一層の相変化材料の層で包むことで、リチウムイオン電池内部のリチウム金属粒子が常温で安定して存在する。
好ましくは、相変化材料がパラフィンである。
パラフィンの相変化温度は、異なるリチウム金属粒子とリチウムイオン電池内部の他の材料の反応トリガー温度に従い、好ましくは40℃である。
【0030】
S102は、具体的には、
不活性雰囲気環境下で、パラフィンの周囲温度を調整してパラフィンの周囲温度を相変化温度より高くすることと、
不活性雰囲気環境下で、リチウム金属粒子を溶融したパラフィンに入れ、溶融したパラフィンの周囲温度を調整してパラフィンの周囲温度を相変化温度より低くし、設定時間後にリチウム金属粒子の外部を固体パラフィンで包むことと、ここで、パラフィンの周囲温度と相変化温度の温度差が10℃以上であることと、
リチウム金属粒子の外部にある固体パラフィンを厚さが1mm未満になるまで切削することを含む。
【0031】
S103は、リチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整し、リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極表面の異なる位置に配置して、シミュレート対象のリチウムイオン電池を決定する。
【0032】
S103は、具体的には、
不活性雰囲気環境下で、リチウムイオン電池の巻芯を開いてリチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池の負極とセパレータとの間に配置することと、
リチウムイオン電池の巻芯を巻き戻し、リチウムイオン電池の巻芯シェルに入れるか、アルミプラスチックフィルムで包み、新たに液体注入し、封止してフォーメーションを行い、そして、リチウムイオン電池の温度を30℃以下に制御することと、を含む。
タブが同じ側にあるリチウムイオン電池の場合、リチウム金属-相変化材料複合体がタブの一側に近く配置されるべきであり、この条件では、リチウムイオン電池の自己発熱暴走のリスクがより高くなる。
タブが同じ側にあるリチウムイオン電池の場合、リチウム金属-相変化材料複合体がタブの一側の近くに配置される場合、負極タブに近い場所に配置されるべきであり、この条件では、リチウムイオン電池の自己発熱暴走のリスクがより高くなる。
タブが異なる側にあるリチウムイオン電池の場合、リチウム金属-相変化材料複合体がタブの両側の近くに配置されるべきであり、この条件では、リチウムイオン電池の自己発熱暴走のリスクがより高くなる。
タブが異なる側にあるリチウムイオン電池の場合において、リチウム金属-相変化材料複合体がタブの一側の近くに配置される場合、負極タブに近い場所に配置されるべきであり、この条件ではリチウムイオン電池の自己発熱暴走のリスクがより高くなる。
リチウムイオン電池の内部に配置されたリチウム金属-相変化材料複合体の数量は、リチウムイオン電池内部の複数の欠陥がリチウムイオン電池の自己発熱暴走の確率に与える影響のシミュレーションのため、1~4である。
リチウムイオン電池内部に複数のリチウム金属-相変化材料複合体を配置する場合、タブ付近のリチウム金属-相変化材料複合体の数量を調整することで、リチウム金属-相変化材料複合体の配置位置がリチウムイオン電池の自己発熱暴走確率に与える影響をシミュレートする。
リチウム金属-相変化材料複合体をリチウムイオン電池内部に配置する場合、同じ負極の表面の複数の異なる位置に配置することも、異なる層の負極の表面に配置することもできる。
【0033】
S104は、シミュレート対象のリチウムイオン電池を異なるトリガー条件および高温環境下に置いて試験シミュレーションを行ってシミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集する。
トリガー条件は、シミュレート対象のリチウムイオン電池を内部発熱副反応が発生している状態にして、リチウムイオン電池が、45℃以上の高温かつ80%~100%の高SOCである、または、45℃以上の高温かつ1C以上のハイレート充放電である状態にあることを含む。
【0034】
S104は、具体的には、
リチウムイオン電池のSOCを100%に調整することと、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を60℃の高温環境下に置き、シミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集することとを含む。
リチウムイオン電池のSOCおよびリチウムイオン電池の温度をより小さい値に調整することにより、リチウムイオン電池の内部欠陥とリチウムイオン電池の外部状態の組み合わせがリチウムイオン電池の自己発熱暴走が発生するかどうかにどの程度影響するかを判断する具体的なステップは以下のとおりである。
リチウムイオン電池のSOCをそれぞれ95%、90%、85%、80%に設定し、リチウムイオン電池の温度をそれぞれ55℃、50℃、45℃に設定し、上記のリチウムイオン電池の状態を、リチウムイオン電池内部のリチウム金属-相変化材料複合体のサイズ、数量、位置を一致に保持した12組で直交試験として設定し、それぞれ検証を行う。
【0035】
S104は、具体的には、
シミュレート対象のリチウムイオン電池を高温環境下に置いて、シミュレート対象のリチウムイオン電池の温度が変わらない場合、ハイレート充放電サイクルを実行してシミュレート対象のリチウムイオン電池の自己発熱暴走の電圧、温度、インピーダンスを収集する。
ハイレート充電および放電サイクルの組み合わせは、2C定電流充電、2C定電流放電または1.75C定電流充電、1.75C定電流放電または1.5C定電流充電、1.5C定電流放電である。
リチウムイオン電池の温度安定性の評価基準は、温度変化率が30分以内に常に1℃/min未満であることである。
【0036】
リチウムイオン電池の充放電レートおよびリチウムイオン電池の温度をより小さい値に調整することにより、リチウムイオン電池の内部欠陥およびリチウムイオン電池の外部状態の組み合わせがリチウムイオン電池の自己発熱暴走が発生するかどうかにどの程度影響するかを判断する具体的なステップは以下のとおりである。
リチウムイオン電池の充放電レートをそれぞれ1.25C定電流充電、1.25C定電流放電、または1C定電流充電、1C定電流放電に設定し、リチウムイオン電池の温度をそれぞれ55℃、50℃、45℃に設定し、上記のリチウムイオン電池の状態を、リチウムイオン電池内部のリチウム金属-相変化材料複合体のサイズ、数量、位置を一致に保持した12組で直交試験として設定し、それぞれ検証を行う。
【0037】
本発明では、リチウムイオン電池内部の局所的な過熱度およびリチウムイオン電池の自己発熱暴走の発生確率を定量的に分析した。
同時に、サンプル準備中の偶発的な火災の確率は小さく、試験の安全リスクは小さい。
本発明が提案する技術的解決手段は、リチウムイオン電池の自然発火の原因を突き止め、リチウムイオン電池の自己発熱暴走の過程で電圧、温度、インピーダンスなどの特性データを取得するのに重要な参照意義を持ち、動力電池の運転データを活用した安全警報や熱拡散防止技術の開発を推進でき、高度にエンジニアリングされたアプリケーションが可能な条件を備えている。
【0038】
本明細書における各実施例は段階的に説明されており、各実施例は、他の実施例との相違点に焦点を当てており、各実施例の間の同一および類似の部分は互いに参照することができる。
【0039】
本発明の原理および実施形態は、特定の例を使用して本明細書に記載されており、上記の実施例の説明は、本発明の方法および核となる考えを理解するのを助けるためにのみ使用されている。
同時に、当業者にとって、本発明の思想に従って、特定の実施形態および適用範囲に変更が生じる。
結論として、本明細書の内容は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。