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特許7448276ハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/12 20060101AFI20240305BHJP
   B01J 3/04 20060101ALI20240305BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20240305BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240305BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61L27/12
B01J3/04 H
C01B25/32 Q
C23C14/34 U
C23C14/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023567141
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2022023629
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515349548
【氏名又は名称】ブレイニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 信聖
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅史
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-136469(JP,A)
【文献】特開2008-69048(JP,A)
【文献】K. OZEKI et al.,Fabrication of hydroxyapatite thin films on polyetheretherketone substrates using a sputtering techn,Materials Science & Engineering. C. Materials for Biological Applications,2017年,Vol.72,Page.576-582
【文献】Michal BARTMANSKI et al.,The Chemical and Biological Properties of Nanohydroxyapatite Coatings with Antibacterial Nanometals,,International Journal of Molecular Sciences,2021年,Vol.22 No.6,Page.3172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/12
B01J 3/04
C01B 25/32
C23C 14/34
C23C 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングにより、抗菌性金属とハイドロキシアパタイトとを含む材料の薄膜を人工関節又は歯科インプラントであるオブジェクトの表面に形成するスパッタリング装置と、
前記薄膜が形成された前記オブジェクトに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行する水熱処理装置と、
前記スパッタリング装置を制御する第1の制御装置と、
前記水熱処理装置を制御する第2の制御装置と、
を具備し、
前記スパッタリング装置は、
第1の容器と、
前記第1の容器内に備えられ、前記薄膜が形成される前のオブジェクトを第1の面に備えるホルダと、
前記第1の容器内に備えられ、前記ホルダの前記第1の面に対向する第2の面を有しており、前記第2の面に前記材料を備える電極と、
前記第1の容器内に不活性ガスを充填する不活性ガス充填装置と、
を具備し、
前記第1の制御装置は、前記電極のプラス極とマイナス極とを高周波で切り替え、前記不活性ガス充填装置を制御して前記第1の容器内の圧力を制御し、前記薄膜のカルシウムとリンの原子数比(カルシウム/リン)が1.0以上3.0以下の範囲であり、かつ、前記薄膜の厚さが0.1μm以上10μm以下となるように前記スパッタリング装置を制御し、
前記水熱処理装置は、前記スパッタリング装置によって前記薄膜が形成された前記オブジェクトを収容する第2の容器を具備し、
前記第2の制御装置は、前記薄膜を100℃以上180℃以下の範囲で、9以上11以下のpHの前記アルカリ溶液を用いて前記水熱処理を実行し、前記水熱処理中に温度の変化により前記第2の容器の圧力を調整する、
ハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成装置。
【請求項2】
前記アルカリ溶液のpHは10.5以上である、請求項1の形成装置。
【請求項3】
前記第1の制御装置は、前記薄膜の厚さが1μm以上2μm以下となるように制御する、請求項1の形成装置。
【請求項4】
前記抗菌性金属は銀であり、
前記材料において、銀の重量とハイドロキシアパタイトの重量とに基づいて算出される{銀の重量/(銀の重量+ハイドロキシアパタイトの重量)}は0.2以上であり、
前記薄膜の抗菌活性値は6以上である、
請求項1の形成装置。
【請求項5】
スパッタリングにより、抗菌性金属とハイドロキシアパタイトとを含む材料の薄膜を人工関節又は歯科インプラントであるオブジェクトの表面に形成することと、
前記薄膜が形成された前記オブジェクトに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行することと、
を具備し、
前記スパッタリングは、
第1の容器内のホルダの第1の面に前記薄膜が形成される前のオブジェクトを備えるとともに、前記第1の容器内において前記ホルダの前記第1の面に対向する電極の第2の面に前記材料を備えることと、
前記第1の容器内に不活性ガスを充填することと、
前記電極のプラス極とマイナス極とを高周波で切り替え、前記不活性ガスの充填を制御して前記第1の容器内の圧力を制御し、前記薄膜のカルシウムとリンの原子数比(カルシウム/リン)が1.0以上3.0以下の範囲であり、かつ、前記薄膜の厚さが0.1μm以上10μm以下となるように、前記オブジェクトに前記薄膜を形成することと、
を具備し、
前記水熱処理は、
前記スパッタリングによって前記薄膜が形成された前記オブジェクトを第2の容器に収容することと、
前記薄膜を100℃以上180℃以下の範囲で、9以上11以下のpHの前記アルカリ溶液を用い、温度の変化により前記第2の容器の圧力を調整することと、
を具備する、
ハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロキシアパタイト含有薄膜を形成するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキシアパタイト(以下、HAと表記する)は、例えば、Ca10(PO46(OH)2で表される。
【0003】
HAは、化学的及び構造的に人間の骨に類似しているため、骨親和性が高く、生体適合性が高い。
【0004】
HAは、単体では機械的強度が十分でない場合がある。そのため、HAは、例えば、人工関節又は歯科インプラントなどのように、HAよりも機械的強度の大きい金属の表面にコーティングされ、使用される場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、骨親和性と抗菌性とを備えオブジェクトの表面から分離又は溶解することが抑制されたHA含有薄膜をオブジェクトの表面に形成することができる装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある実施形態に係るハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成装置は、スパッタリングにより、抗菌性金属とハイドロキシアパタイトとを含む材料の薄膜を人工関節又は歯科インプラントであるオブジェクトの表面に形成するスパッタリング装置と、薄膜が形成されたオブジェクトに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行する水熱処理装置と、スパッタリング装置を制御する第1の制御装置と、水熱処理装置を制御する第2の制御装置とを備える。スパッタリング装置は、第1の容器と、第1の容器内に備えられ、薄膜が形成される前のオブジェクトを第1の面に備えるホルダと、第1の容器内に備えられ、ホルダの第1の面に対向する第2の面を有しており、第2の面に材料を備える電極と、第1の容器内に不活性ガスを充填する不活性ガス充填装置とを備える。第1の制御装置は、電極のプラス極とマイナス極とを高周波で切り替え、不活性ガス充填装置を制御して第1の容器内の圧力を制御し、薄膜のカルシウムとリンの原子数比(カルシウム/リン)が1.0以上3.0以下の範囲であり、かつ、薄膜の厚さが0.1μm以上10μm以下となるようにスパッタリング装置を制御する。水熱処理装置は、スパッタリング装置によって薄膜が形成されたオブジェクトを収容する第2の容器を備える。第2の制御装置は、薄膜を100℃以上180℃以下の範囲で、9以上11以下のpHのアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行し、水熱処理中に温度の変化により第2の容器の圧力を調整する。
【0007】
別の実施形態に係るハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成方法は、スパッタリングにより、抗菌性金属とハイドロキシアパタイトとを含む材料の薄膜を人工関節又は歯科インプラントであるオブジェクトの表面に形成することと、薄膜が形成されたオブジェクトに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行することと、を備える。スパッタリングは、第1の容器内のホルダの第1の面に薄膜が形成される前のオブジェクトを備えるとともに、第1の容器内においてホルダの第1の面に対向する電極の第2の面に材料を備えることと、第1の容器内に不活性ガスを充填することと、電極のプラス極とマイナス極とを高周波で切り替え、不活性ガスの充填を制御して第1の容器内の圧力を制御し、薄膜のカルシウムとリンの原子数比(カルシウム/リン)が1.0以上3.0以下の範囲であり、かつ、薄膜の厚さが0.1μm以上10μm以下となるように、オブジェクトに薄膜を形成することと、を備える。水熱処理は、スパッタリングによって薄膜が形成されたオブジェクトを第2の容器に収容することと、薄膜を100℃以上180℃以下の範囲で、9以上11以下のpHのアルカリ溶液を用い、温度の変化により第2の容器の圧力を調整することと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、骨親和性と抗菌性とを備えオブジェクトの表面から分離又は溶解しないHA含有薄膜を、オブジェクトの表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施形態に係るHA薄膜の形成装置の例を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る形成装置によって実行される形成処理の例を示すフローチャートである。
図3図3は、スパッタリングの例を示すフローチャートである。
図4図4は、水熱処理の例を示すフローチャートである。
図5図5は、第1の実施形態に係る形成処理を用いて生成された第1乃至第4のサンプルの例を示す図である。
図6図6は、第1乃至第4のサンプルごとの、(銀の原子数/カルシウムの原子数)の仕込み量、水熱処理前の(銀の原子数/カルシウムの原子数)、水熱処理後の(銀の原子数/カルシウムの原子数)の例を示す図である。
図7図7は、第1乃至第4のサンプルごとの、水熱処理前の(銀の原子数/カルシウムの原子数)、及び、水熱処理後の(銀の原子数/カルシウムの原子数)の例を示すグラフである。
図8図8は、薄膜が形成されていないチタンの基板の抗菌活性値、水熱処理前の第1乃至第4のサンプルの抗菌活性値、水熱処理後の第1乃至第4のサンプルの抗菌活性値の例を示す図である。
図9図9は、水熱処理を実行した場合と実施しない場合とに関する抵抗値の変化を調査するために適用された条件の例を示す図である。
図10図10は、(銀の原子数/カルシウムの原子数)によって算出される原子数比Ag/Caと水熱処理前の抵抗値と水熱処理後の抵抗値との関係の例を示すグラフである。
図11図11は、第1乃至第4のサンプルごとの水熱処理前の抵抗値と水熱処理後の抵抗値との例を示す図である。
図12図12は、第2の実施形態に係る作製装置の構成の例を示すブロック図である。
図13図13は、第2の実施形態に係る作製装置による水酸化カルシウムと、リン酸及び硝酸銀を含む第1の混合液との混合状態の例を示す概念図である。
図14図14は、第2の実施形態に係る作製装置によって実行される懸濁液作製方法の例を示すフローチャートである。
図15図15は、第2の実施形態に係る懸濁液作製方法における自然沈降の例を示す概念図である。
図16図16は、溶液のpHと色との関係の例を示す図である。
図17図17は、グレーのAgHA、ライトグレーのAgHA、ホワイトのAgHAを不織布に塗布し、大腸菌により抗菌活性値を調査した結果の例を示す図である。
図18図18は、濃度0.5重量%のHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5%のライトグレーのAgHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5%のホワイトのAgHA溶液を塗布した不織布との消臭効果の例を示すグラフである。
図19図19は、第3の実施形態に係る作製装置による水酸化カルシウム及び硝酸銀を含む第2の混合液と、リン酸との混合状態の例を示す概念図である。
図20図20は、水熱処理に用いられる液体のpHが10.5の場合の薄膜の状態の例を示す拡大図である。
図21図21は、水熱処理に用いられる液体のpHが9.5の場合の薄膜の状態の例を示す拡大図である。
図22図22は、水熱処理前の薄膜を液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係の例と、水熱処理後の薄膜を液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係の例とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、略又は実質的に同一の機能及び構成要素については、同一符号を付し、説明を省略するか、又は、必要な場合にのみ説明を行う。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態においては、スパッタリングと水熱処理(水熱結晶化)により抗菌性金属含有HAの薄膜を形成する。
【0012】
スパッタリングは、ターゲットと呼ばれる原料をプラズマにより例えば基板などのオブジェクトに堆積させる方法である。
【0013】
スパッタリングには、直流スパッタリングと高周波スパッタリングとがある。HAのような絶縁性の材料をスパッタリングするには、直流スパッタリングよりも高周波スパッタリングの方が好ましい。したがって、第1の実施形態では、高周波スパッタリングを実行する。
【0014】
第1の実施形態において、抗菌性を有する金属は重金属でもよい。抗菌性を有する重金属としては、例えば、銀、銅、パラジウム、白金、カドミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、マンガン、タリウム、鉛、水銀などがある。第1の実施形態においては、抗菌性を有する金属のうち銀(Ag)とHAとを混合したAg/HA混合材料に基づいて薄膜を形成する場合を例として説明する。なお、例えば銅などのような他の抗菌性金属とHAとを混合した混合材料に基づいて薄膜を形成する場合も、第1の実施形態を適宜変更して実現可能である。
【0015】
より具体的には、第1の実施形態においては、Agの粉末とHAの粉末とを混合したAg/HA混合材料を使用するスパッタリング及び水熱処理により、AgがドープされているHA薄膜をオブジェクトの表面に形成する。第1の実施形態においては、スパッタリングによって形成された薄膜を水熱処理することにより、生体内で薄膜が溶解することを防止する。
【0016】
第1の実施形態において、Ag/HA混合材料に代えて、HAにAgがドープされているAg含有HA(以下、AgHAと表記する)を使用してもよい。AgHAの作製の具体例は、後述する第2の実施形態で説明する。
【0017】
第1の実施形態においては、Ag/HA混合材料におけるAgとHAとの混合比率を制御することにより、例えばオブジェクトに形成された薄膜のAgとHAとの比率などのような、薄膜におけるAgの組成を制御する。
【0018】
図1は、第1の実施形態に係るHA薄膜の形成装置1の例を示すブロック図である。
【0019】
形成装置1は、制御装置2と、スパッタリング装置3と、水熱処理装置4とを備える。
【0020】
制御装置2は、スパッタリング装置3を制御する第1の制御装置2Aと、水熱処理装置4を制御する第2の制御装置2Bとを備える。
【0021】
具体的には、第1の制御装置2Aは、スパッタリング装置3における真空ポンプ8、不活性ガス充填装置9、電源装置10に制御信号を送信する。
【0022】
第2の制御装置2Bは、水熱処理装置4における圧力計14から圧力を示す信号を受信し、水熱処理装置4における温度計15から温度を示す信号を受信する。また、第2の制御装置2Bは、圧力計14から受信した信号の示す圧力と、温度計15から受信した信号の示す温度とに基づいて、バルブ16とヒータ17とのうちの少なくとも一方に制御信号を送信する。
【0023】
制御装置2は、例えば、プロセッサが記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、各種の制御処理を実行してもよい。第1の制御装置2Aと第2の制御装置2Bとは、分離構造としてもよく、一体構造としてもよい。
【0024】
スパッタリング装置3は、第1の容器5、ホルダ6、電極7、真空ポンプ8、不活性ガス充填装置9、電源装置10を備える。
【0025】
第1の容器5は、例えば真空槽である。
【0026】
ホルダ6は、第1の容器5内に備えられる。ホルダ6側には、薄膜が形成されるべきオブジェクト11が備えられる。ホルダ6の電位はフロートである。
【0027】
電極7は、第1の容器5内に備えられる。電極7側には、スパッタリングのターゲットであるAg/HA混合材料12が備えられる。電極7は、高周波数でプラス極とマイナス極との間で切り替わる。電極7のプラスとマイナスとが切り替わる周波数は、例えば、13.56MHzとしてもよい。
【0028】
例えば、ホルダ6と電極7とは対向するように配置される。オブジェクト11は、ホルダ6の面であって電極7に対向する面に備えられてもよい。Ag/HA混合材料12は、電極7の面であってホルダ6に対向する面に備えられてもよい。
【0029】
真空ポンプ8は、第1の制御装置2Aからの信号に基づいて、第1の容器5内の空気を排出する。
【0030】
不活性ガス充填装置9は、第1の制御装置2Aからの信号に基づいて、第1の容器5内に不活性ガスを充填する。これにより、第1の容器5内は、不活性ガスの雰囲気となる。
【0031】
第1の実施形態においては、不活性ガスとしてアルゴン(Ar)が用いられる場合を例として説明する。この場合、第1の容器5内はAr雰囲気となる。しかしながら、Arに代えて他の不活性ガスが使用されてもよい。
【0032】
電源装置10は、第1の制御装置2Aからの信号に基づいて、電極7に高周波で高電圧を印加し、放電を発生させる。
【0033】
第1の容器5内の放電圧力と放電電力とにより、オブジェクト11の表面に付着するリン酸カルシウムのカルシウム(Ca)とリン(P)の原子数比Ca/Pは変化する。第1の制御装置2Aは、真空ポンプ8と不活性ガス充填装置9を制御して第1の容器5内の圧力を調整し、かつ、電源装置10を制御して電力を調整し、原子数比Ca/Pが1.0以上3.0以下の範囲になるような制御を実行する。
【0034】
スパッタリング装置3では、Arで満たされた第1の容器5内で、Ag/HA混合材料12に高電圧を印加して放電を発生させる。これにより、Arが原子化し、原子化したArがAg/HA混合材料12に衝突する。すると、Ag/HA混合材料12の原子がたたき出され、AgとHAがオブジェクト11に付着する。この結果、オブジェクト11に対してAgとHAとを含む薄膜11Bが形成される。このスパッタリング装置3によるスパッタリングにおける放電圧力と放電電力により、Agの原子数とCaの原子数との原子数比、及び、原子数比Ca/Pが変化する。
【0035】
この薄膜11Bの形成をより具体的に説明する。スパッタリング装置3では、まず、真空ポンプ8と不活性ガス充填装置9とにより第1の容器5内がAr雰囲気になる。次に、電源装置10が電極7に高周波で高電圧をかけることで、第1の容器5内のArガスに電子がぶつかり、Ar+とe-に分かれる。次に、Ar+がマイナスになっているAg/HA混合材料12に引き付けられる。そして、Ar+がAg/HA混合材料12と衝突し、AgとHAとがAg/HA混合材料12から飛び出してオブジェクト11に付着する。
【0036】
第1の実施形態において、第1の制御装置2Aは、薄膜11Bの厚さが例えば0.1μm以上10μm以下となるように、スパッタリングを制御する。薄膜11Bが厚すぎると内部応力によりオブジェクト11から薄膜11Bが剥離する場合がある。薄膜11Bが薄すぎると例えば生体内で骨を形成する前に薄膜11Bが溶解する場合がある。第1の実施形態のように、薄膜11Bの厚さを例えば0.1μm以上10μm以下とすることにより、薄膜11Bの剥離及び溶解を防止することができる。
【0037】
水熱処理装置4は、第2の容器13、圧力計14、温度計15、バルブ16、ヒータ17を備える。水熱処理装置4として例えばオートクレーブが用いられてもよい。水熱処理装置4は、オブジェクト11にAgとHAとを含む薄膜11Bが形成されたオブジェクト11Aを、所定時間、高温高圧下に置く水熱処理を実行し、薄膜11Bを結晶化する。空気中の加熱処理によりHAを結晶化する場合には、例えば700℃以上の高温で加熱を行う必要がある。このように700℃以上の高温で加熱を行うと、チタンとHAとの間の熱膨張率の違いが原因でHA薄膜の剥離が生じる場合がある。第1の実施形態では、水熱処理を用いて例えば180℃以下の温度で結晶化を実行可能であるため、薄膜11Bの剥離を防止することができる。
【0038】
スパッタリングの後、薄膜11Bに対する水熱処理を実行することにより、薄膜11Bが生体内で溶解することを防止することができる。
【0039】
第2の容器13は、液体33(例えばアルカリ溶液)と、Ag/HA混合材料12の薄膜11Bが形成されたオブジェクト11Aとを収容する。第2の容器13は、例えば耐圧密閉式容器であり、例えばステンレススチールにより形成される。
【0040】
水熱処理に使用されるアルカリ溶液のpHは、例えば8以上12以下の範囲としてもよい。アルカリ溶液のpHは、好ましくは9以上11以下の範囲である。アルカリ溶液のpHは、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)などのアルカリ物質を適宜添加することによって調整可能である。
【0041】
ハイドロキシアパタイトに元素を添加して薄膜を形成し、その後水熱処理を実行した場合、水熱処理中に薄膜の元素が溶け出す場合がある。
【0042】
例えば、アルカリ溶液ではなく中性溶液を用いて水熱処理を実行すると、水熱処理中に薄膜が中性溶液へ溶け出す。
【0043】
例えば、ストロンチウムアパタイト薄膜に対して水熱処理を実行する場合には、ストロンチウムアパタイト薄膜からストロンチウムが溶け出すことを防止するために、アルカリ溶液にストロンチウムを混合する。
【0044】
しかしながら、第1の実施形態に係るAgとHAとを含む薄膜11Bに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行する場合には、アルカリ溶液にAgを混合しなくても、水熱処理中に薄膜11BからAgが溶け出すことを防止することができる。
【0045】
なお、第1の実施形態において、アルカリ溶液にAgを混合した場合、Agが水熱処理中に第2の容器13の内壁に析出する場合がある。しかしながら、第1の実施形態においては、アルカリ溶液にAgを混合しないため、Agが水熱処理中に第2の容器13の内壁に析出することを防止することができる。
【0046】
圧力計14は、第2の容器13内の気体の圧力を測定し、圧力を示す信号を制御装置2における第2の制御装置2Bに送信する。
【0047】
温度計15は、第2の容器13内の液体と気体とのうちの少なくとも一方の温度を測定し、温度を示す信号を制御装置2における第2の制御装置2Bに送信する。
【0048】
第2の制御装置2Bは、水熱処理中に、圧力計14から受信した信号の示す圧力に基づいて、ヒータ17を制御する信号を生成し、この信号をヒータ17に送信する。このように、第1の実施形態においては、水熱処理中に第2の容器13内の圧力を温度により調整する。水熱処理中にバルブ16の開閉ではなく温度で第2の容器13内の圧力を調整することにより、水熱処理中にバルブ16を緩めることによりアルカリ溶液が第2の容器13内から外部に噴出し、アルカリ溶液が減少することを防止することができる。
【0049】
第2の制御装置2Bは、温度計15から受信した信号の示す温度に基づいて、ヒータ17を制御する信号を生成し、この信号をヒータ17に送信する。
【0050】
第2の制御装置2Bは、例えば100℃以上180℃以下の範囲で、かつ、12時間以上72時間以下の範囲で、水熱処理を実行する。
【0051】
バルブ16は、第2の制御装置2Bからの信号に基づいて開閉状態を変更する。
【0052】
ヒータ17は、第2の制御装置2Bからの信号に基づいて第2の容器13内の気体及び液体を加熱する。これにより、第2の容器13内の温度を調節することができる。水熱処理時、第2の容器13内は高温となる。
【0053】
図2は、第1の実施形態に係る形成装置1によって実行される形成処理の例を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS201において、第1の制御装置2Aは、スパッタリング装置3を制御し、スパッタリングを実行し、オブジェクト11の表面に薄膜11Aを形成したオブジェクト11Aを生成する。
【0055】
ステップS202において、第1の制御装置2Bは、水熱処理装置4を制御し、水熱処理によってオブジェクト11Aの薄膜11Aを結晶化する。
【0056】
図3は、スパッタリングの例を示すフローチャートである。
【0057】
ステップS301において、第1の容器内5のホルダ6側にオブジェクト11が設置され、電極7側にAg/HA混合材料12が設置される。
【0058】
ステップS302において、第1の制御装置2Aは、真空ポンプ8を動作させることにより第1の容器5内の空気を抜く。また、第1の制御装置2Aは、不活性ガス充填装置9を動作させることにより第1の容器5内に不活性ガスを充填する。
【0059】
ステップS303において、第1の制御装置2Aは、電源装置10を制御して電極7に高周波の高電圧を印加し、スパッタリングを実行する。この結果、オブジェクト11の表面に、AgとHAとを含む薄膜11Bが形成されたオブジェクト11Aが生成される。
【0060】
図4は、水熱処理の例を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS401において、第2の制御装置2Bは、バルブ16とヒータ17を動作させる。より具体的には、第2の制御装置2Bは、バルブ16を閉状態とし、ヒータ17により第2の容器13内の気体及び液体を加熱する。
【0062】
ステップS402において、圧力計14は、第2の容器内13内の気体の圧力を測定し、圧力計14によって測定された圧力を示す信号を第2の制御装置2Bに送信する。第2の制御装置2Bは、圧力計14によって測定された第2の容器内13内の気体の圧力を示す信号を圧力計14から受信する。また、温度計15は、第2の容器内13内の気体と液体とのうちの少なくとも一方の温度を測定し、温度計15によって測定された温度を示す信号を第2の制御装置2Bに送信する。第2の制御装置2Bは、温度計15によって測定された第2の容器内13内の温度を示す信号を温度計15から受信する。
【0063】
ステップS403において、第2の制御装置2Bは、圧力計14から受信した信号の示す圧力と温度計15から受信した信号の示す圧力とに基づいて、バルブ16の状態とヒータ17の状態を制御する。この結果、オブジェクト11の表面に形成されている薄膜11Bを結晶化することができる。なお、第2の制御装置2Bは、水熱処理中、バルブ16の閉状態を維持してヒータ17の動作を変更することで、第2の容器13内の温度と圧力とを制御してもよい。
【0064】
ステップS404において、第2の制御装置2Bは、水熱処理を終了するか否かを判断する。例えば、第2の制御装置2Bは、所定時間経過した場合に、水熱処理を終了すると判断する。
【0065】
水熱処理を終了しない場合、水熱処理装置2の処理はステップS402に移動する。
【0066】
水熱処理を終了する場合、水熱処理装置2の処理は終了する。
【0067】
以下で、水熱処理によりオブジェクト11の表面に形成された薄膜11Bが当該表面から分離又は溶解しないことを説明する。
【0068】
図5は、第1の実施形態に係る形成処理を用いて生成された第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の例を示す図である。
【0069】
図5の第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30のそれぞれは、第1の実施形態に係る形成処理を用いてTiの基板にAgとHAとを含む薄膜11Bを形成して生成される。基板をTiとした理由は、Tiは例えば人工関節又は歯科インプラントなどの素材として使用されるためである。
【0070】
Ag/HA混合材料12に関して、Agの重量とHAの重量とに基づいて、{Agの重量/(Agの重量+HAの重量)}を算出し、この算出された値を重量比とする。なお、以下では、{Agの重量/(Agの重量+HAの重量)}を、Ag/(Ag+HA)と表記する。
【0071】
第1のサンプルAg5は、重量比が5重量%(0.05)である。
【0072】
Ag/HA混合材料12に関して、Agの原子数とCaの原子数とに基づいて、(Agの原子数/Caの原子数)を算出し、この算出された値を原子数比とする。なお、以下では、(Agの原子数/Caの原子数)を、Ag/Caと表記する。
【0073】
第1のサンプルAg5は、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.05である。
【0074】
第2のサンプルAg10は、Ag/(Ag+HA)で算出される重量比が10重量%である。
【0075】
第2のサンプルAg10は、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.10である。
【0076】
第3のサンプルAg20は、Ag/(Ag+HA)で算出される重量比が20重量%である。
【0077】
第3のサンプルAg20は、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.23である。
【0078】
第4のサンプルAg30は、Ag/(Ag+HA)で算出される重量比が30重量%である。
【0079】
第4のサンプルAg30は、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.40である。
【0080】
図6は、第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30ごとの、Ag/Ca仕込み量、水熱処理前の原子数比Ag/Ca、水熱処理後の原子数比Ag/Caの例を示す図である。
【0081】
この図6において、Ag/Ca仕込み量とは、AgとCaの仕込み量の原子数比を表す。
【0082】
図7は、第1乃至第4のサンプルごとの、水熱処理前の(銀の原子数/カルシウムの原子数)、及び、水熱処理後の(銀の原子数/カルシウムの原子数)の例を示すグラフである。
【0083】
この図7から、Agの仕込み量に対する水熱処理の前後の原子数比Ag/Caの変化が把握できる。
【0084】
金属原子であるAgの結合はCaの結合及びPの結合と比べて弱いため、スパッタリングされやすい。このため、第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30において、Ag/Ca仕込み量よりも、スパッタリング後であり水熱処理前の原子数比Ag/Caが増加する傾向にある。
【0085】
水熱処理において、Ca及びPはわずかに溶解し、AgはCa及びPよりも溶解しにくい。このため、第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30において、水熱処理後の原子数比Ag/Caは、Ag/Ca仕込み量及び水熱処理前の原子数比Ag/Caよりもさらに増加する傾向にある。
【0086】
図6及び図7より、スパッタリング後であり水熱処理前の原子数比Ag/Ca及び水熱処理後の原子数比Ag/Caは、Ag/Ca仕込み量よりも増加することが理解できる。また、水熱処理後に、原子数比Ag/Caが上昇していることから、第1の実施形態においては、Agの溶解が抑制されていることが理解できる。
【0087】
Ca及びPが溶解するとAgもいずれ溶解する。しかしながら、第1の実施形態では、水熱処理の溶液にアルカリ溶液を用いることにより、Ca及びPが溶解することを防止し、さらにAgが溶解することを防止している。
【0088】
Ag/Ca仕込み量が増加するにつれて、水熱処理前及び水熱処理後の原子数比Ag/Caは増加する。したがって、第1の実施形態においては、Agの比率が増加することを考慮して、Ag/Ca仕込み量を決定することが好ましい。
【0089】
以上説明したように、第1の実施形態に係る形成処理によって形成された薄膜11BのAgは、水熱処理の実行時にオブジェクト11の表面から液体33中へ分離せず安定している。また、薄膜11BのAgは溶解せず安定している。
【0090】
以下で、第1の実施形態によって生成された薄膜11Bを備える第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の抗菌性を説明する。
【0091】
図8は、薄膜11Bが形成されていないTiの基板、及び、水熱処理前の第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の抗菌活性値A、水熱処理後の第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の抗菌活性値Aの例を示す図である。図8における第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の膜厚は、1.0μmである。
【0092】
抗菌活性値Aは2.0以上3.0未満の範囲で抗菌効果が認められる。抗菌活性値Aは3.0以上の場合に強い抗菌効果が認められる。
【0093】
図8に示すように、Tiは有効な抗菌効果を有していない。水熱処理前の第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の抗菌活性値Aはすべて6(第1の閾値)以上である。したがって、水熱処理前の第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30は強い抗菌効果を有する。
【0094】
水熱処理後において、第1のサンプルAg5の抗菌活性値Aは0.1に低下し、第1のサンプルAg5の抗菌効果は失われている。
【0095】
しかしながら、水熱処理後の第2乃至第4のサンプルAg10,Ag20,Ag30の抗菌活性値Aはすべて6(第1の閾値)以上である。したがって、水熱処理後の第2乃至第4のサンプルAg10,Ag20,Ag30は強い抗菌効果を有する。
【0096】
上記の図5及び図8を参照すると、薄膜11Bは、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.05より大きく0.1より小さい範囲のいずれかの値で抗菌性を有することが理解できる。そして、薄膜11Bは、AgとCaの原子数比Ag/Caが0.1以上の場合に強い抗菌効果を有することが理解できる。
【0097】
以下で、第1の実施形態に係る水熱処理を実行した場合の抵抗値と実行しない場合の抵抗値とを説明する。
【0098】
図9は、水熱処理を実行した場合と実行しない場合とに関する抵抗値の変化を調査するために適用された条件の例を示す図である。この調査において、第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30の膜厚は、1.0μmとした。
【0099】
この調査では、120℃の温度、0.20MPaの圧力、24時間の水熱処理を実行した。
【0100】
図10は、原子数比Ag/Caと水熱処理前の抵抗値と水熱処理後の抵抗値との関係の例を示すグラフである。図10の横軸は原子数比Ag/Caであり、縦軸は抵抗値である。
【0101】
水熱処理前の抵抗値及び水熱処理後の抵抗値は、双方とも原子数比Ag/Caが小さいほど大きい値となる。
【0102】
原子数比Ag/Caが小さい場合(およそ0.23以下)において、水熱処理後の抵抗値は水熱処理前の抵抗値より小さい。
【0103】
図11は、第1乃至第4のサンプルAg5,Ag10,Ag20,Ag30ごとに、水熱処理前の抵抗値と水熱処理後の抵抗値との例を示す図である。
【0104】
図11から、Agの重量比が大きいほど、及び、原子数比Ag/Caが大きいほど、抵抗値は小さくなる。
【0105】
加えて、Ag20及びAg30の抵抗値は、Ag5及びAg10の抵抗値よりも大幅に低下する。言い換えれば、Ag/(Ag+HA)で算出される重量比が20重量%以上になると、Ag/(Ag+HA)で算出される重量比が20重量%未満の場合よりも、抵抗値が大幅に低下し、抵抗値を第2の閾値(例えば2.08MΩ)未満に抑えることができる。
【0106】
上記の図10及び図11の結果から、Agの含有量を増加させることによってオブジェクト11Aの絶縁抵抗値を減少させることが可能である。したがって、薄膜11BのAg量を制御することにより、電気抵抗率を制御することができる。ゆえに、例えば人工関節又は歯科インプラントなどのような生体に対して適用される製品のみではなく、電気抵抗率を下げたい工業製品に対しても第1の実施形態に係るオブジェクト11Aを適用することができる。
【0107】
以上説明した第1の実施形態に係る形成装置1及び形成処理の効果を説明する。
【0108】
第1の実施形態においては、スパッタリング及び水熱処理を用いて薄膜11Bに抗菌性に優れたAgをドープすることができる。
【0109】
第1の実施形態においては、Agのドープ量を適切に制御することにより、骨親和性が高く、かつ、強い抗菌性を有する薄膜11Bを形成することができる。
【0110】
第1の実施形態においては、AgとHAとの混合比率を変えることにより薄膜11Bの組成を制御することができる。
【0111】
第1の実施形態においては、水熱処理を実行してもAgの損失を抑えることができる。
【0112】
第1の実施形態においては、Ag/(Ag+HA)によって算出される重量比を10重量%以上とすることにより第1の閾値以上の強い抗菌性を得ることができる。
【0113】
第1の実施形態において、薄膜11Bの抵抗値は、Ag/(Ag+HA)によって算出される重量比が20重量%以上になると大幅に低下する。したがって、第1の実施形態においては、Agのドープ量を制御することにより、薄膜11Bの抵抗値を制御することができ、例えば第2の閾値未満の抵抗値を実現することができる。
【0114】
HAをコーティングする方法としては、スパッタリングのみではなく、例えばプラズマ溶射法又はフレーム溶射法などを用いることができる。
【0115】
これらのプラズマ溶射法又はフレーム溶射法と比べて、第1の実施形態で使用されるスパッタリングは、緻密かつ均一な薄膜コーティングを実現することができる。また、第1の実施形態で使用されるスパッタリングは、プラズマ溶射法又はフレーム溶射法と比べて、オブジェクト11と薄膜11Bとの間の結合力を強くすることができる。より具体的に説明すると、プラズマ溶射法又はフレーム溶射法で膜を形成すると、例えば40μm以上の膜厚になり、膜の破壊が生じ、オブジェクトと膜との間の密着性が低下する場合がある。これに対して、第1の実施形態のようにスパッタリングによりオブジェクト11の表面に薄膜11Bを形成すると、膜11Bを例えば1μm以上2μm以下程度で形成することができ、オブジェクト11から膜11Bが剥離することを防止することができる。このため、第1の実施形態においては、オブジェクト11の表面に粗面処理などを実行する必要がなく、工程を簡素化することができる。
【0116】
もしスパッタリングの後に水熱処理を実行しなければ、生体内で薄膜11Bが溶解する場合がある。しかしながら、第1の実施形態においては、スパッタリングによりオブジェクト11の表面に薄膜11Bを形成した後、水熱処理が実行される。これにより、薄膜11Bの強度を強くすることができ、かつ、薄膜11Bの溶解を防止することができる。
【0117】
薄膜11Bが厚すぎると内部応力によりオブジェクト11から薄膜11Bが剥離する場合がある。薄膜11Bが薄すぎると例えば生体内で骨を形成する前に薄膜11Bが溶解する場合がある。第1の実施形態のように、薄膜11Bを例えば0.1μm以上10μm以下となるように形成することにより、薄膜11Bの剥離及び溶解を防止することができる。
【0118】
第1の実施形態においては、AgとHAとを含む薄膜11Bに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行する。これにより、アルカリ溶液にAgを混合しなくても、水熱処理で薄膜11BからAgが溶け出すことを防止することができる。
【0119】
人工関節、人工臓器、又は、歯科インプラントなどを生体に埋め込む場合、感染症又は合併症が発生する可能性がある。また、感染症によりバイオフィルムが形成され、抗菌薬が効きにくくなる可能性がある。抗菌性を有する金属イオンとして例えばAgイオン又はCuイオンがある。特にAgは人体に安全な抗菌性素材として有効であり、人体に対して微生物が原因となる危険を軽減することができる。第1の実施形態においては、スパッタリングにより形成される薄膜11Bに抗菌性の高いAgをドープする。これにより、感染症及び合併症の発生を抑制することができる。
【0120】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態では、AgとHAとを混合したAg/HA混合材料12を用いてスパッタリングを実行することが説明されている。また、Ag/HA混合材料12に代えてAgHAを使用可能であることが説明されている。
【0121】
第2の実施形態においては、Ag/HA混合材料12に代えて使用可能なAgHAの作製装置及び方法を説明する。
【0122】
HAの作製方法の一例として溶液法がある。一般に、HAは乾燥した粉末状で運搬、販売、及び、利用される。HAは乾燥した場合に凝集する。凝集したHAの粒子サイズはマイクロサイズとなる。
【0123】
第2の実施形態においては、溶液法を用いて菌抑制効果及び消臭効果の大きい抗菌性金属含有HAを作製する作製装置及び方法を説明する。より具体的には、第2の実施形態においては、pH(水素イオン濃度指数)を制御することによりライトグレー又はホワイトの抗菌性金属含有HAを作製する作製装置及び方法を説明する。
【0124】
第2の実施形態によって作製されたAgHA懸濁液に含まれているAgHAは、ナノサイズを維持することができる。
【0125】
図12は、第2の実施形態に係る作製装置18の構成の例を示すブロック図である。
【0126】
作製装置18は、水酸化カルシウムに、リン酸及び硝酸銀を含む第1の混合液を注入(例えば滴下)し、水酸化カルシウムと第1の混合液とを含む溶液のpHに基づく制御によりライトグレー又はホワイトのAgHAを作製する。しかしながら、硝酸銀に代えて硝酸銅又は硫酸銅を用いてCuHAを作製してもよい。
【0127】
あるいは、作製装置18は、水酸化カルシウムに、酸化銀と硝酸とリン酸とを混合した混合液を注入してライトグレー又はホワイトのAgHAを作製してもよい。硝酸を含むことなく酸化銀とリン酸とを混合した混合液を用いる場合、ライトグレー又はホワイトのAgHAを作製することは困難である。しかしながら、酸化銀と硝酸とリン酸とを混合した混合液を用いる場合には、ライトグレー又はホワイトのAgHAを作製可能になる。
【0128】
ただし、混合液が硝酸を含む場合には、混合液に含まれる水素イオンが増加する。このため、作製装置18は、水酸化カルシウムに酸化銀と硝酸とリン酸とを含む混合液を注入する場合には、リン酸及び硝酸銀を含む第1の混合液を使用する場合よりも合成条件として用いるpHを低く設定する。
【0129】
作製装置18は、制御装置19、第1の容器20、第1の注入装置21、第2の注入装置22、pH計23、温度計24、温度調節装置25、攪拌機26、第1の注出(抽出)装置27、第の注出装置28を備える。作製装置18によって作製及び濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29は、第2の容器30に収容される。
【0130】
なお、作製装置18を構成する各種の装置は、適宜組み合わせてもよい。例えば、pH計23と温度計24とは1つの装置でもよい。例えば、第1の注出装置27と第2の注出装置28とは1台のポンプでもよい。
【0131】
また、作製装置18を構成する各種の装置は、適宜分離してもよい。例えば、第1の容器20は、水酸化カルシウムにリン酸及び硝酸銀を含む第1の混合液を滴下するために使用される容器と、水酸化カルシウムと第1の混合液とを混合した溶液31の自然沈降を行うために使用される容器とに分割してもよい。
【0132】
制御装置19は、pH計23によって計測されたpHを示す信号を受信し、温度計24によって測定された温度を示す信号を受信する。
【0133】
制御装置19は、pH計23から受信した信号の示すpH及び温度計24から受信した信号の示す温度に基づいて、第1の注入装置21によって第1の容器20に注入される水酸化カルシウムの濃度、第2の注入装置22によって第1の容器20に注入(例えば滴下)される第1の混合液の濃度と注入速度(例えば滴下速度)とのうちの少なくとも一方、溶液31のpH(合成pH)、AgHA合成時及び自然沈降時の溶液31の温度調節装置25による温度管理を制御する。
【0134】
制御装置19は、第1の混合液滴下後にさらに第1の混合液を追加滴下し、溶液31のpHを下げることで、カルシウム欠損型AgHAを意図的に作製する制御を実行してもよい。
【0135】
第2の実施形態において、制御装置19は、水酸化カルシウムの濃度が第1の範囲内となるように、水酸化カルシウムの濃度を制御する。第1の範囲は、例えば0.01%以上50%以下などでもよい。
【0136】
制御装置19は、リン酸の濃度が第2の範囲内となり、硝酸銀の濃度が第3の範囲内となるように、第1の混合液の濃度を制御する。第2の範囲は、例えば0.01%以上50%以下などでもよい。第3の範囲は、例えば0.01%以上50%以下などでもよい。
【0137】
制御装置19は、AgHAの生産量に対する第1の混合液の注入速度が第4の範囲内となるように、第1の混合液の注入速度を制御する。第4の範囲は、例えば0.01ml/min/g以上100ml/min/g以下などでもよい。第4の範囲は、好ましくは0.1ml/min/g以上10ml/min/g以下などでもよい。
【0138】
制御装置19は、第1の容器20内の溶液31のpHが第5の範囲内となるように、水酸化カルシウムと第1の混合液とのうちの少なくとも一方の注入量を制御する。第5の範囲は、例えば、ライトグレー又はホワイトのAgHAが作製されるpHなどでもよい。
【0139】
AgHAは、例えば、茶、グレー、ライトグレー、又は、ホワイトなどの色を持つ。第2の実施形態において、制御装置19は、第1の容器20内の溶液31のpHを制御し、第1の容器20内の溶液31がライトグレー又はホワイトになるように、第1の混合液の注入量を制御する。
【0140】
より具体的には、制御装置19は、第1の容器20内の溶液31のpHが4以上12以下となるように制御を実行し、ライトグレーのAgHAを作製してもよい。
【0141】
あるいは、制御装置19は、第1の容器20内の溶液31のpHが2以上10以下となるように制御を実行し、ホワイトのAgHAを作製してもよい。
【0142】
制御装置19で使用されるAgHAの合成pHは、原料の純度、温度、Ag含有量により適宜調整される。
【0143】
制御装置19は、HAに対するAgの含有量が0.01重量%以上30重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上15重量%以下となるように、制御を行う。HAに対するAgの含有量が0.4重量%以上になると、AgHAの抗菌性が大きく向上する。
【0144】
制御装置19は、水酸化カルシウムと第1の混合液とを混合してAgHA懸濁液を合成する合成温度、及び、水酸化カルシウムと第1の混合液との反応中の温度が第6の範囲内となるように、溶液31の温度を制御する。第6の範囲は、例えば5℃以上50℃以下などでもよい。第6の範囲は、好ましくは例えば5℃以上30℃以下などでもよい。AgHA作製反応中は反応熱により溶液31の温度が上昇する傾向にあるが、制御装置19及び温度調節装置25の動作によりAgHA作製に適した状態を実現することができる。
【0145】
制御装置19は、例えば、記憶装置19a及びプロセッサ19bを備えるとしてもよい。この場合、記憶装置19aはソフトウェア19cを記憶する。記憶装置19aは、非一時的な記憶装置と、キャッシュメモリなどの一時的な記憶装置とを含むとしてもよい。ソフトウェア19cは、プログラムとデータとを含むとしてもよい。プロセッサ19bは、記憶装置19aに記憶されているソフトウェア19cを実行し、ライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29を作製するための各種の制御を実行する。
【0146】
制御装置19は、水酸化カルシウムと第1の混合液との混合(AgHA合成)時に、撹拌機26に、容器20内の溶液31を攪拌させるための制御を実行する。より具体的には、制御装置19は、第2の注入装置22による第1の混合液の滴下処理時に、攪拌機26に対して回転数の示す信号を送信する。例えば、制御装置19は、攪拌機26を例えば50rpm以上1000rpm以下で回転させるための信号を、攪拌機26に送信する。より好ましくは、制御装置19は、攪拌機26を例えば100rpm以上500rpm以下で回転させるための信号を、攪拌機26に送信する。
【0147】
制御装置19は、第1の容器20から溶液31の上澄み部分を注出した後であり第1の容器20から濃縮されたAgHA懸濁液29を注出する前に、攪拌機26に、第1の容器20内の濃縮されたAgHA懸濁液29を攪拌させるための制御を実行する。より具体的には、制御装置19は、濃縮されたAgHA懸濁液29の注出前に、攪拌機26に対して回転数の示す指示を送信する。例えば、制御装置19は、攪拌機26を例えば50rpm以上1000rpm以下で回転させるための信号を、攪拌機26に送信する。より好ましくは、制御装置19は、攪拌機26を例えば100rpm以上500rpm以下で回転させるための信号を、攪拌機26に送信する。この撹拌機26による攪拌により、濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29の濃度を均一化することができる。
【0148】
制御装置19は、第1の注出装置27に対して、第1の容器20内に収容されている溶液31のうちの上澄み部分の注出を指示する。
【0149】
制御装置19は、第2の注出装置28に対して、第1の容器20内に収容されている溶液31のうちの沈降部分(すなわち濃縮されたAgHA懸濁液29)の注出を指示する。
【0150】
第1の容器20は、第1の注入装置21から注入された水酸化カルシウム(液)を収容する。
【0151】
第1の容器20は、第2の注入装置22によって注入(例えば滴下)される第1の混合液を受ける。
【0152】
第1の容器20内で、水酸化カルシウムと第1の混合液とが反応し、AgHAを含む溶液31が作製(合成)される。
【0153】
第1の注入装置21は、制御装置19から水酸化カルシウムの濃度を示す信号を受信する。第1の注入装置21は、受信した信号に基づいて、水酸化カルシウムの濃度を調節し、濃度が調節された水酸化カルシウムを第1の容器20に注入する。第2の実施形態において、水酸化カルシウムの純度は、90%以上100%以下としてもよい。
【0154】
第2の注入装置22は、制御装置19からリン酸の濃度を示す信号、硝酸銀の濃度を示す信号、及び、第1の混合液の注入速度を示す信号を受信する。第2の注入装置22は、受信した信号の示す濃度のリン酸と、受信した信号の示す濃度の硝酸銀とを混合して第1の混合液を生成し、第1の混合液を、受信した信号の示す注入速度で、第1の容器20にためられている水酸化カルシウムを含む溶液31に滴下する。
【0155】
pH計23は、第1の容器20内にためられている溶液31のpHを計測し、pHを示す信号を制御装置19に送信する。
【0156】
温度計24は、第1の容器20内にためられている溶液31の温度を計測し、温度を示す信号を制御装置19に送信する。
【0157】
温度調節装置25は、制御装置19から温度を示す信号を受信する。温度調節装置25は、水酸化カルシウムと第1の混合液との混合中(AgHA合成中)、及び、溶液31に対する自然沈降の実行中に、第1の容器20内の溶液31が受信した信号の示す温度となるように、第1の容器20内の溶液31の温度管理(例えば加熱又は冷却)を実行する。
【0158】
撹拌機26は、制御装置19から回転数を示す信号を受信する。撹拌機26は、受信した信号の示す回転数にそって第1の容器20内の溶液31を攪拌する。撹拌機26は、第1の混合液の滴下時(AgHA合成時)に溶液31を攪拌する。また、攪拌機26は、濃縮されたAgHA懸濁液29の注出前に濃縮されたAgHA懸濁液29を攪拌する。上澄み部分を注出した後の沈降部分には濃度勾配がある。第2の実施形態では、沈降部分を攪拌することにより沈降部分の濃度を均一化することができる。
【0159】
第1の注出装置27は、制御装置19から注出指示を示す信号を受信する。第1の注出装置27は、受信した信号に基づいて、第1の容器20から溶液31の上澄み部分を注出し、溶液31の沈降部分(すなわち濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29)を第1の容器20内に残す。
【0160】
第1の注出装置27の吸水口は、上澄み部分と沈降部分との境界位置に応じて上下に移動可能である。より具体的には、第1の注出装置27の吸水口の高さは、上澄み部分と沈降部分との境界位置の上になるように調節される。これにより、効率的に上澄み部分を注出して第1の容器20に沈降部分を残すことができる。
【0161】
第2の注出装置28は、制御装置19から注出指示を示す信号を受信する。第2の注出装置28は、受信した信号に基づいて、第1の容器20における溶液31の沈降部分を濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29として運搬用の第2の容器30に注入する。
【0162】
図13は、第2の実施形態に係る作製装置18による水酸化カルシウムと第1の混合液との混合状態(AgHA合成状態)の例を示す概念図である。この図13において、作製装置18のうちの第1の注出装置27及び第2の注出装置28は省略されている。
【0163】
第3の容器21aは、水酸化カルシウムの溶液を収容している。第1の注入装置21は、制御装置19から受信した信号の示す濃度に水酸化カルシウムを調節し、濃度の調節された水酸化カルシウムを第1の容器20に注入する。
【0164】
第4の容器22aは、リン酸の溶液を収容している。
【0165】
第5の容器22bは、硝酸銀の溶液を収容している。
【0166】
第2の注入装置22は、制御装置19から受信した信号の示す濃度にリン酸を調節する。また、第2の注入装置22は、制御装置19から受信した信号の示す濃度に硝酸銀を調節する。さらに、第2の注入装置22は、リン酸と硝酸とを混合して第1の混合液を生成する。そして、第2の注入装置22は、制御装置19から受信した信号の示す滴下速度で、濃度の調節された第1の混合液を第1の容器20に滴下する。
【0167】
制御装置19は、pH計23から溶液31のpHを示す信号を受信し、溶液31のpHに基づいて、第1の注入装置21及び第2の注入装置22の動作、及び、攪拌機26の攪拌処理を制御する。
【0168】
制御装置19は、温度計24から溶液31の温度を示す信号を受信し、溶液31の温度に基づいて、温度調節装置25の動作を制御する。
【0169】
第2の実施形態において、第1の注入装置21及び第2の注入装置22は、例えば、チューブポンプとしてもよい。
【0170】
図13においては、リン酸を収容する第4の容器22aと硝酸銀を収容する第5の容器22bとが別々に用いられている。しかしながら、第4の容器22aと第5の容器22bとは組み合わせて1つの容器としてもよい。この場合、この1つの容器は、予めリン酸と硝酸銀とを混合して得られた第1の混合液を収容する。第2の注入装置22は、この1つの容器内の第1の混合液を吸引して第1の容器20内の溶液31へ滴下する。
【0171】
図14は、第2の実施形態に係る作製装置18によって実行されるライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29の作製方法の例を示すフローチャートである。図14の作製方法は、制御装置19による制御にそって実行される。
【0172】
S1401において、第1の注入装置21は、制御装置19によって指定された濃度の水酸化カルシウムを第1の容器20に注入する。
【0173】
S1402において、攪拌機26は、制御装置19によって指定された回転数で動作し、第1の容器20内の溶液31を攪拌する。
【0174】
S1403において、第2の注入装置22は、制御装置19によって指定された濃度及び注入速度で、第1の容器20内の溶液31(水酸化カルシウム)に対して第1の混合液を滴下する。
【0175】
S1404において、pH計23は第1の容器20内の溶液31のpHを計測してpHを示す信号を制御装置19に送信し、温度計24は第1の容器20内の溶液31の温度を計測して温度を示す信号を制御装置19に送信する。
【0176】
S1405において、制御装置19は、水酸化カルシウムの濃度、第1の混合液の濃度及び注入速度、第1の容器20内の溶液31のpH、溶液31の温度の関係がライトグレー又はホワイトのAgHAの合成条件を満たすか否かを判断する。
【0177】
制御装置19が合成条件を満たさないと判断した場合、S1406において、制御装置19は、新規の水酸化カルシウムの濃度、新規の第1の混合液の濃度及び新規のリン酸の注入速度、新規のpH、第1の容器20内の溶液31の新規の温度を決定する。そして、制御装置19は、新規の水酸化カルシウムの濃度を示す信号を第1の注入装置21に送信する。第1の注入装置21は、制御装置19から受信した信号に基づいて、水酸化カルシウムの濃度を調節する。制御装置19は、新規の第1の混合液の濃度を示す信号及び新規の第1の混合液の注入速度を示す信号を第2の注入装置22に送信する。第2の注入装置22は、制御装置19から受信した信号に基づいて、第1の混合液の濃度及び注入速度を調節する。制御装置19は、新規の温度を示す信号を温度調節装置25に送信する。温度調節装置25は、制御装置19から受信した信号に基づいて、溶液31の温度を調節する。その後処理は、S1401に戻る。
【0178】
なお、第2の実施形態の上記S1406において、制御装置19は、新規の水酸化カルシウムの濃度の決定をしなくてもよく、新規の水酸化カルシウムの濃度を示す信号を第1の注入装置21に送信しなくてもよい。この場合、処理は、S1402に戻る。
【0179】
上記S1405において制御装置19が合成条件を満たすと判断した場合、S1407において、制御装置19は、水酸化カルシウムに第1の混合液を滴下する動作の終了条件(滴下終了条件)が満たされるか否かを判断する。
【0180】
滴下終了条件は、例えば、第1の容器20内の溶液31のpHが目標範囲(目標pH)に到達していることとしてもよい。
【0181】
第2の実施形態において、目標pHは、例えば、作製されるAgHAの比率が閾値以上であり、かつ、作製されるAgHAがライトグレー又はホワイトとなるpHであるとする。
【0182】
溶液31のpHが目標pHに到達した後にしばらくすると溶液31のpHが上昇することがある。このため、制御装置19は、溶液31のpHが目標pHに到達した後であっても、その後再び第2の注入装置22に適宜第1の混合液の滴下を実行させ、溶液31のpHが安定した場合に、滴下終了条件を満たすと判断してもよい。
【0183】
滴下終了条件は、例えば、作製されるAgHAの比率が閾値以上であり、作製されるAgHAがライトグレー又はホワイトとなるpHであり、かつ、第1の容器20内の溶液31の量が閾値を超えることなどとしてもよい。
【0184】
制御装置19は、第1の混合液滴下後にさらに第1の混合液を追加滴下し、溶液31のpHを下げることで、カルシウム欠損型AgHAを意図的に作製してもよい。
【0185】
制御装置19が終了条件を満たさないと判断した場合、処理はS1401に戻る。なお、第2の実施形態のS1406において、制御装置19が新規の水酸化カルシウムの濃度の決定をしない場合、処理はS1402に戻るとしてもよい。
【0186】
制御装置19が終了条件を満たすと判断した場合、S1408において、制御装置19は、第1の注入装置21、第2の注入装置22、攪拌機26に停止信号を送信する。第1の注入装置21、第2の注入装置22は、制御装置19から受信した信号にそって注入動作を停止する。攪拌機26は、制御装置19から受信した信号にそって攪拌動作を停止する。
【0187】
S1409において、制御装置19は、自然沈降に適した温度を示す信号を温度調節装置25に送信する。温度調節装置25は、制御装置19から受信した信号に基づいて、溶液31の温度を調節する。
【0188】
ステップS1410において、所定時間以上、第1の容器20内の溶液31の自然沈降が実施される。
【0189】
S1411において、第1の注出装置27は、制御装置19による制御にしたがって第1の容器20内の溶液31のうちの上澄み部分を注出して沈降部分を第1の容器20内に残す。
【0190】
S1412において、攪拌機26は、制御装置19による制御にしたがって第1の容器20内の沈降部分である濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29を攪拌する。
【0191】
S1413において、第2の注出装置28は、制御装置19による制御にしたがって第1の容器20内の濃縮されたライトグレー又はホワイトのAgHA懸濁液29を注出し、第2の容器30に収容する。
【0192】
図15は、第2の実施形態に係るAgHA懸濁液29の作製方法における自然沈降の例を示す概念図である。
【0193】
第1の容器20内で作製されたAgHAを含む溶液31に対して所定時間の自然沈降を行う。自然沈降をする所定時間は、実験の結果、例えば1日以上60日以下でもよく、より好ましくは9日以上28日以下としてもよい。
【0194】
溶液31内のナノサイズのAgHAはゆっくり沈降する。溶液31の上澄み部分を除去すると、溶液31の沈降部分である濃縮されたAgHA懸濁液29が残る。このAgHA懸濁液29に含まれるAgHAはナノサイズを維持する。
【0195】
濃縮されたAgHA懸濁液29を例えば歯磨剤に混ぜることで、ナノサイズのAgHAが拡散した歯磨剤を作製することができる。
【0196】
上記のように、AgHAは、例えば、茶、グレー、ライトグレー、又は、ホワイトなどの色を持ち得る。第2の実施形態においては、目標pHは、濃縮されたAgHA懸濁液29がライトグレー又は白色になるpHであるとする。
【0197】
第2の実施形態においては、リン酸と硝酸銀とを混合した第1の混合液を用いてAgHA懸濁液29を作製する。Ag源として硝酸銀に代えて酸化銀を用いる作製方法もあるが、酸化銀はリン酸に溶解しないため、第2の実施形態ではAg源として硝酸銀を用いている。
【0198】
第2の実施形態では、抗菌性重金属としてAgを使用する場合を例として説明するが、抗菌性重金属としてCuを使用してもよい。この場合、硝酸銀に代えて例えばCu(NO3)、Cu(NO4)、又は、Cu(NO32が使用され、CuHAを含むCuHA懸濁液が作製される。
【0199】
図16は、溶液31のpHと色との関係の例を示す図である。
【0200】
溶液31のpHが低いほど、溶液31内のAgHAの色はホワイトに近づく。
【0201】
溶液31のpHが高いほど、溶液31内のAgHAの色はホワイトから遠ざかり、グレーの濃さが増す。
【0202】
第2の実施形態において、制御装置19は、AgHAの色がライトグレー又はホワイトであり、溶液31内のAgHAの比率が所定値を超えるようなpHとなるように、溶液31のpHを制御する。
【0203】
カルシウム欠損型AgHAの結晶は、AgHAの結晶よりもAg取り込み量が多くなる構造を持つ。したがって、カルシウム欠損型AgHAの比率が高いほど、作製されたAgHA懸濁液29の抗菌効果は高くなる。
【0204】
ホワイトのAgHAは、グレーのAgHAよりも、カルシウム欠損型AgHAを多く含み、Ag取り込み量が多い。
【0205】
図17は、グレーのAgHA、ライトグレーのAgHA、ホワイトのAgHAを不織布に塗布し、大腸菌により抗菌活性値を調査した結果の例を示す図である。
【0206】
この図17は、濃度0.1%のAgHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5%のAgHA溶液を塗布した不織布とに関して、抗菌活性値を調査した結果を表す。ここで、AgHA溶液に含まれるAgHAに関して、HAに対するAg含有量は2重量%としている。
【0207】
抗菌活性値は、2以上3未満で抗菌効果が認められ、3以上で大きい抗菌効果が認められる。
【0208】
ライトグレー又はホワイトのAgHAでは、濃度0.1重量%のAgHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5重量%のAgHA溶液を塗布した不織布の双方において、4以上の大きい抗菌効果が得られる。
【0209】
図17から特にホワイトのAgHAの抗菌効果が大きいことが理解できる。
【0210】
図18は、濃度0.5重量%のHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5%のライトグレーのAgHA溶液を塗布した不織布と、濃度0.5%のホワイトのAgHA溶液を塗布した不織布との消臭効果の例を示すグラフである。この図18において、縦軸は、アンモニア臭の減少率を示す。この図18のAgHAにおいて、HAに対するAg含有量は2重量%としている。
【0211】
ライトグレーのAgHAはHA及びグレーのAgHAよりも消臭効果が高い。
【0212】
ホワイトのAgHAはライトグレーのAgHAの消臭効果よりもおよそ4~5倍高くなる。
【0213】
以上説明した第2の実施形態においては、意図的にカルシウム欠損型AgHAを作製し、Agの含有率の高いAgHAを作製する。このAgの含有率の高いAgHAは、ライトグレー又はホワイトの色を有する。
【0214】
第2の実施形態において作製されるライトグレー又はホワイトのAgHAは、強い殺菌効果及び消臭効果を有する。
【0215】
第2の実施形態においては、AgHAの粒子サイズをナノサイズ程度に維持するために、溶液31を作製して濃縮し、濃縮されたAgHA懸濁液29を第2の容器30に収容し、第2の容器30を運搬する。
【0216】
第2の実施形態においては、例えば、水酸化カルシウムの濃度、リン酸の濃度、リン酸の注入速度、溶液31の温度などの諸条件を調節することにより、粒子サイズが小さいAgHAを含む溶液31を作製して効率的に濃縮し、溶液31のpHを調節して菌数制御を実現することができる。
【0217】
第2の実施形態においては、AgHAが懸濁液に含まれている状態で出荷され、利用される。このため、AgHA粒子が凝集することを抑制することができ、粒子サイズの小さいAgHAを利用することができる。
【0218】
第2の実施形態においては、濃縮を自然沈降により行う。ここで、第2の実施形態で用いる自然沈降と、比較例である遠心分離機による濃縮との相違点を説明する。遠心分離機を用いて溶液31を濃縮すると、AgHA粒子の凝集を招き、再分散が困難となる。これに対して、第2の実施形態においては、濃縮を自然沈降により行うためAgHA粒子が凝集することを抑制することができる。そして、濃縮することにより、AgHA懸濁液29の運搬を効率化して扱いやすくすることができる。
【0219】
なお、実験では、ナノサイズのAgHAを含む懸濁液に関しては、自然沈降により4倍程度の濃縮が可能であった。AgHAの粒子サイズがナノサイズではなくてもよい場合、懸濁液はおよそ15%程度まで濃縮可能であった。
【0220】
自然沈降に要する期間は、第1の容器20内の溶液31の温度によって変動する。例えば、実験では、濃度を3%程度まで濃縮する所要日数は9から28日間であった。自然沈降は、温度雰囲気に影響を受けることが200個の100L級のAgHA懸濁液29を作製したデータより得られた。この結果から、第2の実施形態において、制御装置19は、第1の容器20内の溶液31の温度が自然沈降に適した温度になるように制御を行う。第2の実施形態に係る作製装置18においては、自然沈降を5℃以上40℃以下で実施することにより沈降期間を短縮することができ、溶液31を効率的に濃縮してAgHA懸濁液29を作製することができる。
【0221】
第2の実施形態においては、濃縮された懸濁液31を攪拌機26で攪拌した後に第2の容器29に収容する。このため、第2の実施形態においては、濃縮された懸濁液29の濃度を均一化することができる。
【0222】
第2の実施形態においては、実験の結果、溶液31及び濃縮されたAgHA懸濁液29の保管温度を2℃以上30℃以下の範囲に制御することにより、菌数抑制の効果が得られる。より好ましくは、溶液31及び濃縮されたAgHA懸濁液29の保管温度を2℃以上20℃以下の範囲に制御することにより菌数を抑制することができる。
【0223】
このため、制御装置19及び温度調節装置25は、溶液31の温度、及び濃縮されたAgHA懸濁液29の温度を、2℃以上30℃以下の範囲、より好ましくは2℃以上20℃以下の範囲に制御してもよい。
【0224】
第2の実施形態において、制御装置19及び温度調節装置25は、沈降期間を短くするため、沈降期間の溶液31の温度を15℃以上25℃以下の範囲に制御し、沈降期間の経過後に、菌数抑制のために溶液31及び濃縮されたHA懸濁液29の温度を2℃以上20℃以下の範囲に制御してもよい。第2の実施形態において、温度調節装置25は、第1の容器20内の溶液31の温度調節に加えて、第2の容器30内の濃縮されたAgHA懸濁液29の温度調節も行うとしてもよい。この場合、制御装置19は、温度調節装置25を用いて、第2の容器30内の濃縮されたAgHA懸濁液29の温度を2℃以上20℃以下の範囲に制御してもよい。
【0225】
第2の実施形態においては、自然沈降により溶液31を濃縮している。しかしながら、溶液31中のAgHAの分散性を維持するために非常に弱い遠心力を用いた遠心分離により濃縮を実行してもよい。さらに、第2の実施形態においては、自然沈降により濃縮されたAgHA懸濁液をさらに遠心分離機で弱い遠心力を使って濃縮してもよい。この場合、濃縮されたAgHA懸濁液内でAgHAを分散させるために、攪拌機26はAgHA懸濁液を激しく攪拌するとしてもよい。弱い遠心力を使用して濃縮を行う場合、6%程度までHAの凝集を抑制して濃縮されたHA懸濁液を作製することができる。
【0226】
第2の実施形態においては、作製された溶液31(AgHA懸濁液)を濃縮する場合を例として説明している。しかしながら、濃縮が必要ない場合には、溶液31を撹拌機26で攪拌しながら、第2の容器30に移してもよい。あるいは、溶液31を水で薄め、撹拌機26で攪拌し、第2の容器30に移してもよい。
【0227】
上記第1の実施形態では、第2の実施形態の溶液31を乾燥させて得られるAgHAをターゲットとして使用してもよく、又は、濃縮されたAgHA懸濁液29を乾燥させて得られるAgHAをターゲットとして使用してもよい。
【0228】
(第3の実施形態)
上記第2の実施形態では、第2の注入装置22がリン酸と硝酸銀とを混合した第1の混合液を生成し、第1の容器20内の溶液31に対して滴下する。
【0229】
これに対して、図19に示す第3の実施形態に係る作製装置32では、第1の注入装置21が第3の容器21a内の水酸化カルシウムと第5の容器22b内の硝酸銀とを混合して第2の混合液を生成し、当該第2の混合液を容器20へ注入し、その後容器20内の溶液31に対して第2の注入装置22が第3の容器22a内の水酸化カルシウムを滴下する。
【0230】
このような第3の実施形態に係る作製装置32においては、第2の実施形態と同様に、抗菌効果及び消臭効果が大きく、粒子サイズの小さいAgHAを含むAgHA懸濁液29を作製することができる。
【0231】
上記第1の実施形態では、第3の実施形態の溶液31を乾燥させて得られるAgHAをターゲットとして使用してもよく、又は、濃縮されたAgHA懸濁液29を乾燥させて得られるAgHAをターゲットとして使用してもよい。
【0232】
(第4の実施形態)
第4の実施形態においては、上記第1の実施形態に係る水熱処理を説明する。
【0233】
図20は、水熱処理に用いられる液体33のpHが10.5の場合の薄膜11Bの状態の例を示す拡大図である。
【0234】
図21は、水熱処理に用いられる液体33のpHが9.5の場合の薄膜11Bの状態の例を示す拡大図である。
【0235】
水熱処理に用いられる液体33のpHが9.5の場合と10.5の場合とで、薄膜11Bの結晶の大きさ、水熱処理中の薄膜11Bの溶解量、生体内での薄膜11Bの溶解量は変化する。
【0236】
具体的には、液体33のpHが10.5の場合の薄膜11Bの結晶の大きさは、液体33のpHが9.5の場合の薄膜11Bの結晶の大きさよりも小さい。
【0237】
液体33のpHが10.5の場合の薄膜11Bの水熱処理中の溶解量は、液体33のpHが9.5の場合の薄膜11Bの水熱処理中の溶解量より少ない。
【0238】
液体33のpHが10.5の場合の薄膜11Bの生体内での溶解量は、液体33のpHが9.5の場合の薄膜11Bの生体内での溶解量より少ない。
【0239】
薄膜11Bの結晶が適度に小さいことで、ナノサイズのハイドロキシアパタイトが生体内で拡散し、骨親和性が高く、早期の骨生成に有利である。
【0240】
したがって、液体33はアルカリ溶液であることが好ましい。水熱処理にpH9.0以上のアルカリ溶液を用いることにより、膜厚の減少を抑制することができる。例えば、pHは9.5の場合よりも10.5の場合の方が好ましい。
【0241】
以下で、水熱処理に使用される液体33を、それぞれNaOH、NaOHと硝酸銀の混合液、アンモニアと硝酸銀の混合液、純水、純水と硝酸銀との混合液とした場合の結晶化結果を説明する。
【0242】
液体33としてpHが9.5のNaOHを用いて水熱処理を実行した場合、薄膜11BからAgが溶け出した量は抑制されていた。したがって、液体33としてpHが9.5のNaOHを用いることは可能である。
【0243】
液体33としてpHが7のNaOHと硝酸銀の混合液を用いて水熱処理を実行した場合、水熱処理後の液体33中に水酸化銀の析出が確認された。また、水熱処理後の薄膜11Bは、酸化銀に覆われた。したがって、液体33としてpHが7のNaOHと硝酸銀の混合液を用いることは好ましくない。
【0244】
液体33としてアンモニアと硝酸銀の混合液を用いて水熱処理を実行した場合、水熱処理中にAgの析出が発生する。したがって、液体33としてアンモニアと硝酸銀の混合液を用いることは好ましくない。
【0245】
液体33として純水と硝酸銀との混合液を用いて水熱処理を実行した場合、薄膜11Bに含まれるAg、Ca、Pが溶解し、特にCaとPの溶解が進む。水熱処理に中性の純粋を用いた場合、水熱処理中に、膜厚が例えば15%から20%程度減少する場合がある。しかしながら水熱処理にpH9.0以上のアルカリ溶液を用いると、膜厚の減少は例えば5%以下に抑制することができる。
【0246】
以下では、水熱処理前の薄膜11Bを液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係と、水熱処理後の薄膜11Bを液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係を説明する。
【0247】
図22は、水熱処理前の薄膜11Bを液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係の例と、水熱処理後の薄膜11Bを液体に浸漬した場合の浸漬期間と薄膜残存率との関係の例とを示すグラフである。
【0248】
この図22において、薄膜11Bを浸漬した液体は細胞培養用培地である。液体の温度は、37℃で実験した、浸漬期間は4週間とした。
【0249】
図22において、水熱処理前の薄膜11Bは、2日程度で消滅している。
【0250】
これに対して、水熱処理後の薄膜11Bは、浸漬期間が長くなるにつれて、生体内でCaとPが作用し、薄膜11Bが増加し、薄膜残存率が高くなる。
【0251】
したがって、スパッタリングにより形成した薄膜11Bに対して水熱処理を実行することの技術的意義は大きい。
【0252】
上記の実施形態は、例示であり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記の実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
ハイドロキシアパタイト含有薄膜の形成装置は、スパッタリングにより、抗菌性金属とハイドロキシアパタイトとを含む材料の薄膜をオブジェクトの表面に形成するスパッタリング装置と、薄膜が形成されたオブジェクトに対してアルカリ溶液を用いて水熱処理を実行する水熱合成装置とを含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22