(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】耐熱性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20240305BHJP
C10M 105/18 20060101ALN20240305BHJP
C10M 117/02 20060101ALN20240305BHJP
C10M 129/54 20060101ALN20240305BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20240305BHJP
C10M 133/42 20060101ALN20240305BHJP
C10M 125/10 20060101ALN20240305BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240305BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20240305BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20240305BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240305BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20240305BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240305BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240305BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M105/18
C10M117/02
C10M129/54
C10M139/00 Z
C10M133/42
C10M125/10
C10M129/10
C10M135/10
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:06
C10N30:08
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2020063407
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 洋介
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-177040(JP,A)
【文献】特開2007-303640(JP,A)
【文献】特開2004-083798(JP,A)
【文献】特開2007-320987(JP,A)
【文献】特開2008-144829(JP,A)
【文献】特開2016-121336(JP,A)
【文献】特開2018-119038(JP,A)
【文献】特開2019-172920(JP,A)
【文献】特開昭58-125795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として
アルキルジフェニルエーテル油を含むエーテル油と、
増ちょう剤としてリチウム複合石けんと、
カルシウムサリシレー
トと、を含有する、
耐熱性グリース組成物。
【請求項2】
前記エーテル油は、アルキルジフェニルエーテル油
のみからなる、
請求項1に記載の耐熱性グリース組成物。
【請求項3】
前記カルシウムサリシレー
トの含有量が、当該グリース組成物全体を100質量%として0.5質量%~10質量%の範囲である、
請求項1又は2に記載の耐熱性グリース組成物。
【請求項4】
さらに、有機モリブデン、メラミンシアヌレート、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の固体潤滑剤を含む、
請求項1乃至3のいずかに記載の耐熱性グリース組成物。
【請求項5】
さらに、カルシウムフェネート及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上を含有する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の耐熱性グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性を有するグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、グリース組成物は、基油にリチウム石けんのような金属石けん等を増ちょう剤として混合したものであり、一般に広く使用されている。
【0003】
近年の、産業機械や電気機器、自動車等の機械技術の進歩に伴い、各種機器は小型化、高出力化し、また耐熱性等の耐久性が向上した。一方で、運転時の発熱による機器温度の上昇、高温雰囲気下における機器の稼働等、機器運転時における高温対策がさらに要求されることとなっている。そして、これに伴い、それら各種機器に使用されるグリース組成物は、機器の寿命延長に直結するため、高温下での使用においてより一層に安定的な、優れた耐熱性を有するものが要求されている。
【0004】
グリース組成物においては、高温の環境下に晒されることにより、酸化を受け、油分の蒸発や熱重合によって、短期間のうちに固化が生じてしまう、あるいは軟化して基油の流出が生じてしまうことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、例えば200℃を超えるような高温に曝される条件下においても、グリース状の性状を維持して、安定的に潤滑性を付与することができるグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、基油としてエーテル油と、増ちょう剤としてリチウム複合石けんとを含有するグリースにおいて、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上を含有させることで、そのカルシウムサリシレートがリチウム複合石けんの立体的な繊維構造を保護する作用があることを示し、これにより高温環境下でもグリースの固化や軟化流出を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
(1)本発明の第1の発明は、基油としてエーテル油と、増ちょう剤としてリチウム複合石けんと、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上と、を含有する、耐熱性グリース組成物である。
【0009】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記エーテル油は、アルキルジフェニルエーテル油を含む、耐熱性グリース組成物である。
【0010】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上の含有量が、当該グリース組成物全体を100質量%として0.5質量%~10質量%の範囲である、耐熱性グリース組成物である。
【0011】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、さらに、有機モリブデン、メラミンシアヌレート、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上の固体潤滑剤を含む、耐熱性グリース組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温に曝される条件下においても、グリース状の性状を維持して、安定的に潤滑性を付与することができるグリース組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】試験サンプルA、B及びCのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示すグラフ図である。
【
図2】試験サンプルA、B及びCのグリース組成物についての加熱劣化試験の結果を示すグラフ図である。
【
図3】試験サンプルC及びDのグリース組成物についての加熱試験の結果を示すグラフ図である。
【
図4】試験サンプルC及びDのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示すグラフ図である。
【
図5】試験サンプルC及びEのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という」)について詳細に説明する。なお、本発明は、その要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。また、本明細書にて、「x~y」(x、yは任意の数値)の表記は、特に断らない限り「x以上y以下」の意味である。
【0015】
≪1.グリース組成物について≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、基油としてエーテル油と、増ちょう剤としてリチウム複合石けんと、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上と、を含有する。また、このグリース組成物においては、好ましくは増粘剤をさらに含有する。
【0016】
[基油]
グリース組成物においては、基油としてエーテル油を主成分として含有する。「主成分」とは、基油全量において50質量%以上の割合で含有することをいう。エーテル油は耐熱性に優れたものであり、このようなエーテル油を基油として含有することで、より耐熱性に優れるグリース組成物とすることができ、高温環境下における固化を抑えることができる。また、エーテル油は、後述する増ちょう剤を良好に分散させることができ、適切なちょう度に調整することができる。
【0017】
エーテル油としては、特に限定されず、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油などが挙げられる。エーテル油としては、これらを1種単独であるいは2種以上を併せて用いることができる。
【0018】
その中でも、エーテル油としてはアルキルジフェニルエーテル油を含むことが好ましい。アルキルジフェニルエーテル油を含むことにより、より一層に基油の耐熱性を向上させることができ、高温環境下におけるグリース組成物の固化を防ぐことができる。アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル油、ジアルキルジフェニルエーテル油、ポリアルキルジフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0019】
グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)基油の含有量としては、例えば、70質量%~90質量%程度とすることができる。
【0020】
また、基油全体に対するエーテル油の含有量としては、特に限定されないが、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また、基油全体に対して100質量%の割合、つまりエーテル油のみからなることがさらに好ましい。
【0021】
なお、エーテル油と併せて他の基油も含有させる場合、その種類としては特に限定されないが、鉱物油を用いることが好ましい。鉱物油は、比較的耐熱性を有するとともに安価な基油であることから、グリースをより安価に製造することができる。鉱物油としては、例えば、液体石油、パラフィン系、ナフテン系、あるいは混合パラフィン/ナフテン系の溶媒処理又は酸処理されたものを用いることができる。
【0022】
ここで、
図1に、試験サンプルA、B及びCのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示す。下記表1に、それぞれのグリース組成について示すが、基油の点においてそれぞれ異なり、試験サンプルCのグリース組成物は、アルキルジフェニルエーテル油のみからなる基油により構成されている。なお、下記表2に、SRV持続試験条件を示すが、温度として250℃という高温の条件下で行った。
【0023】
また、
図2に、同じ試験サンプルA、B及びCのグリース組成物についての加熱劣化試験の結果を示す。加熱劣化試験は、グリースをガラス製ビーカーに入れて温度200℃の恒温槽にて試験期間の42日間として行った。
【0024】
また、同じ試験サンプルA、B及びCのグリース組成物について、200℃の温度条件で薄膜蒸発量試験を行い、グリースの固化時間を測定した。下記表3に、蒸発量試験の結果を示す。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
図1に示すSRV持続試験の結果からわかるように、アルキルジフェニルエーテル油のみからなる基油により構成した試験サンプルCのグリース組成物では、高温環境下における3hの試験条件でも極めて安定的に低い摩擦係数を示し、高い潤滑性を維持した。一方で、鉱物油のみからなる基油により構成した試験サンプルAのグリース組成物や、鉱物油とエーテル油との混合油の基油により構成した試験サンプルBのグリース組成物では、試験の経過と共に摩擦係数が高まり、安定的な潤滑性の点で劣る結果となった。
【0029】
また、
図2に示す加熱劣化試験の結果からわかるように、試験サンプルCのグリース組成物では、ちょう度の変化は小さかった。一方で、試験サンプルAのグリース組成物では、ちょう度が低下して固化していった。また、試験サンプルBのグリース組成物では、急激にちょう度が高まり軟化が生じた。
【0030】
また、表3に示す蒸発量試験の結果から、アルキルジフェニルエーテル油のみからなる基油により構成した試験サンプルCのグリース組成物では、高温環境下においても固化を効果的に抑制できることがわかった。
【0031】
以上の試験結果からもわかるように、アルキルジフェニルエーテル油等のエーテル油を含有し、特にそのエーテル油のみからなる基油を構成することで、耐熱性が向上し、高温環境下においても効果的に固化を抑制できる。
【0032】
[増ちょう剤]
グリース組成物においては、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを含有する。リチウム複合石けんは、リチウム石けんにさらに石けんの材料となる脂肪酸を複合的に反応させることにより、リチウム石けんの有するせん断安定性をより向上させた増ちょう剤である。このように、リチウム複合石けんを増ちょう剤として用いることで、適切なちょう度に調整可能になるとともに、優れたせん断安定性を付与することができる。
【0033】
リチウム複合石けんは、上述したように、脂肪酸を複合的に反応させて得られるものであり、脂肪酸のリチウム塩の他に第2の酸の金属塩を含む。具体的に、リチウム複合石けんとしては、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムとアゼライン酸リチウムとを配合したもの等が挙げられる。
【0034】
グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)増ちょう剤の含有量としては、特に限定されず所望とするグリースのちょう度に応じて適宜設定すればよいが、例えば1質量%~20質量%程度とすることができる。
【0035】
ここで、リチウム複合石けんグリースの構造は、増ちょう剤として機能する脂肪酸のリチウム塩と第2の酸の金属塩が基油中に紐状に分散して絡み合い、立体的な繊維構造をとっている。グリースにおいては、このような繊維構造の中に基油や添加剤が保持されることで、所望とするちょう度からなる半固体状の性状を保持している。一方で、グリースは、高温の環境下に晒されると、酸化を受け、油分の蒸発や熱重合によって短期間のうちの固化が生じてしまうことが知られており、これは、熱負荷によって増ちょう剤の立体的な繊維構造を維持できなくなったことに由来する。
【0036】
特に、リチウム複合石けんは、有機物であるため、ベントナイトやシリカ等の無機系増ちょう剤と比べて劣化が生じやすく、上述したような熱劣化等によって立体的な繊維構造の維持が困難となり、基油や添加剤の保持能が弱くなって潤滑性が低下する。また、増ちょう剤そのものが有する潤滑性も低下する。
【0037】
[カルシウムサリシレート]
グリース組成物においては、カルシウム(Ca)サリシレートを含有する。本発明者による研究により、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを含むグリースにおいて、カルシウムサリシレートを含有することにより、例えば200℃以上といった高温の環境下でもグリースが固化することを防いでその性状を維持し、良好な潤滑性を安定的に付与できることが見出された。
【0038】
詳細なメカニズムは定かではないが、リチウム複合石けんグリースにおいてカルシウムサリシレートを含有することで、そのカルシウムサリシレートが、増ちょう剤であるリチウム複合石けんの立体的な繊維構造を保護するようになると推察される。これにより、高温環境下においても、カルシウムサリシレートによる立体構造の保護作用によって、基油の保持力の低下を抑え、グリースの軟化流出や固化を防ぐことができると考えられる。
【0039】
従来、カルシウムサリシレートは、グリース組成物における添加剤である清浄分散剤(金属系清浄剤)として用いられている(例えば特許文献1参照)。一般的に、清浄分散剤は、グリースへの熱負荷により生成するスラッジを基油中に分散させるように作用するものであり、グリースの劣化抑制を目的として添加される添加剤である。
【0040】
ところが、上述したように本発明者により検討の結果、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを含むグリースにおいてカルシウムサリシレートを含有することで、グリースを適度に硬化させるように作用して増ちょう剤における立体構造を保護し、グリースの軟化流出を防ぐようになることがわかった。また一方で、グリースの固化を効果的に防ぐことができることがわかった。
【0041】
ここで、
図3に、試験サンプルC及びDのグリース組成物についての加熱試験の結果を示す。加熱試験は、試験容器として用意したブリキ皿にグリースを約10gずつ秤量し、温度280℃、試験時間16hの条件で行い、4hごとにグリースのちょう度を測定してちょう度変化を調べた。なお、下記表4にそれぞれのグリース組成について示すが、両者はカルシウムサリシレートの有無の点のみ異なる。
【0042】
また、
図4に、同じ試験サンプルC及びDのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示す。なお、SRV持続試験の条件は、上記表2に示す条件と同じにした。
【0043】
【0044】
図3に示す加熱試験の結果からわかるように、カルシウムサリシレートを含有させた試験サンプルDのグリースでは、試験開始から徐々にちょう度が低下していき、グリースの硬化が生じた。これに対し、カルシウムサリシレートを含有させていない試験サンプルCのグリースでは、試験開始から徐々にちょう度が高まり、軟化していった。
【0045】
また、
図4に示すSRV持続試験の結果からわかるように、カルシウムサリシレートを含有させた試験サンプルDのグリースでは、高温環境下における3hの試験条件でも極めて安定的に低い摩擦係数を示し、高い潤滑性を維持した。
【0046】
これらの試験結果からもわかるように、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを含むグリースにおいてカルシウムサリシレートを含有することで、そのカルシウムサリシレートがグリースの硬化を促進させることで、リチウム複合石けんの増ちょう能、つまり基油等を保持するいわゆる保持能を維持して、グリース組成物において高い潤滑性を安定的に付与することを可能にする。
【0047】
カルシウムサリシレートとしては、特に限定されず、アルキルサリチル酸のカルシウム塩が挙げられる。
【0048】
また、グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)カルシウムサリシレートの含有量としては、特に限定されないが、例えば0.5質量%~10質量%程度とすること好ましく、1質量%~7質量%程度とすることがより好ましく、2質量%~5質量%程度とすることが特に好ましい。
【0049】
[カルシウムフェネート]
ここで、グリース組成物においては、カルシウムサリシレートに加えて、カルシウムフェネートを配合することができる。あるいは、カルシウムサリシレートに代えて、カルシウムフェネートを配合することができる。カルシウムサリシレートと同様に、カルシウムフェネートを含有することで、グリースを適度に硬化させるように作用して増ちょう剤における立体構造を保護し、グリースの軟化流出を防ぐことができる。また一方で、グリースの固化を効果的に防ぐことができる。
【0050】
カルシウムフェネートとしては、特に限定されず、例えば、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、またはアルキルフェノールとアセトンとを縮合脱水反応させて得られるメチレンビスアルキルフェノールのカルシウム塩等が挙げられる。
【0051】
なお、グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)カルシウムフェネートの含有量についても、カルシウムサリシレートと同様に、例えば0.5質量%~10質量%程度とすること好ましく、1質量%~7質量%程度とすることがより好ましく、2質量%~5質量%程度とすることが特に好ましい。
【0052】
[カルシウムスルホネート]
さらに、グリース組成物においては、カルシウムサリシレートやカルシウムフェネートに加えて、カルシウムスルホネートを配合することができる。あるいは、カルシウムサリシレートやカルシウムフェネートに代えて、カルシウムスルホネートを配合することができる。すなわち、本実施の形態に係るグリース組成物においては、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートからなる群から選択される1種以上を含有する。
【0053】
カルシウムサリシレートやカルシウムフェネートと同様に、グリース組成物においてカルシウムスルホネートを含有することで、グリースを適度に硬化させるように作用して増ちょう剤における立体構造を保護し、グリースの軟化流出を防ぐことができる。また一方で、グリースの固化を効果的に防ぐことができる。
【0054】
カルシウムスルホネートとしては、特に限定されず、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩、石油スルホン酸のカルシウム塩等が挙げられる。
【0055】
なお、グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)カルシウムフェネートの含有量についても、カルシウムサリシレート等と同様に、例えば0.5質量%~10質量%程度とすること好ましく、1質量%~7質量%程度とすることがより好ましく、2質量%~5質量%程度とすることが特に好ましい。
【0056】
[増粘剤]
必須の態様ではないが、グリース組成物においては、増粘剤をさらに含有させることができる。増粘剤は、グリースを構成する基油を増粘させることにより、高温環境下における劣化に伴う離油を効果的に抑えることができる。
【0057】
増粘剤としては、オレフィンコポリマー、高粘度のポリアルファオレフィン、ポリブテン、ポリメタクリレート等を挙げることができる。
【0058】
また、グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)増粘剤の含有量としては、特に限定されないが、例えば1質量%~15質量%程度とすること好ましく、3質量%~10質量%程度とすることがより好ましい。
【0059】
ここで、
図5に、試験サンプルC及びEのグリース組成物についてのSRV持続試験の結果を示す。下記表5にそれぞれのグリース組成について示すが、試験サンプルEのグリース組成物に含有させた増粘剤としては、ポリブテン系化合物を用いた。なお、SRV持続試験の条件は、上記表2に示す条件と同じにした。
【0060】
また、下記表6に、JIS K 2220(5.7):2013に準拠した試験により離油度(100℃,24h)を測定した結果を示す。
【0061】
【0062】
【0063】
図5に示すSRV持続試験の結果からわかるように、カルシウムサリシレートと共に増粘剤を含有させた試験サンプルEのグリースでは、高温環境下における試験条件でも極めて安定的に低い摩擦係数を示し、高い潤滑性を維持した。これに対し、試験サンプルCのグリースでは、時間の経過と共に摩擦係数が高まっていき、潤滑性の低下がみられた。また、表6に示す離油度の測定結果も踏まえると、試験サンプルEのグリースでは、離油度も低減できたため、安定的に高い潤滑性を維持できたと考えられる。
【0064】
このように、増ちょう剤としてリチウム複合石けんを含むグリースにおいて増粘剤を含有させることで、離油度も効果的に低減させることができる。そして、カルシウムサリシレートを含有させることによる増ちょう剤の立体構造の保護作用と相まって、より効果的に耐熱性を向上させることができ、高い潤滑性を維持することができる。
【0065】
[固体潤滑剤]
グリース組成物においては、固体潤滑剤を含有させることができる。このように固体潤滑剤を含有させることで、高い潤滑性を付与することができる。
【0066】
固体潤滑剤としては、特に限定されないが、有機モリブデン、メラミンシアヌレート(MCA)、炭酸カルシウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン(WS2)、窒化ホウ素(BN)等が挙げられる。その中でも、有機モリブデン、メラミンシアヌレート、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。グリース組成物において、このような固体潤滑剤を用いることにより、エーテル油中に効率的に分散し、より高い潤滑性を付与することができる。
【0067】
なお、固体潤滑剤としては、1種単独用いることができ、あるいは2種以上を併用することもできる。
【0068】
また、グリース組成物における(グリース組成物全量を100質量%としたときの)固体潤滑剤の含有量としては、特に限定されないが、1種又は2種以上の固体潤滑剤全量で例えば3質量%~20質量%程度とすること好ましく、5質量%~15質量%程度とすることがより好ましい。
【0069】
[その他の添加剤]
グリース組成物においては、上述した各成分に加え、グリースに一般的に用いられている各種添加剤、例えば極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、耐摩耗剤等を必要に応じて添加配合することができる。なお、このような添加剤は、基油と増ちょう剤と共に、ベースグリースを構成する成分として添加してもよい。
【0070】
具体的に、極圧剤としては、硫黄-リン系極圧剤等が挙げられる。硫黄-リン系極圧剤は、リン原子及び硫黄原子を有する化合物であり、分子中にリン原子及び硫黄原子の双方を有するチオフォスフェート類、チオフォスファイト類等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0071】
また、酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0072】
また、防錆剤としては、例えば、中性金属塩、アミン塩、塩基性金属塩等が挙げられる。具体的には、バリウムスルホネート等が挙げられる。これらの防錆剤は、1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。
【0073】
≪2.グリース組成物の製造方法≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、上述したように、基油としてエーテル油と、増ちょう剤としてリチウム複合石けんと、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上と、を含有してなる。また、好ましくは、増粘剤をさらに含有する。このようなグリース組成物は、従来のグリース組成物と同様に、周知の方法により製造することができる。
【0074】
具体的には、例えば、銅釜等の耐熱容器内に、基油のエーテル油と、増ちょう剤であるリチウム複合石けんを構成する脂肪酸やカルボン酸を加え、撹拌しながら80℃~100℃程度まで加熱したのち、水酸化リチウム水溶液を加えて約1時間~2時間反応させる。続いて、反応液を230℃程度に加熱し、さらにカルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、及びカルシウムスルホネートから選択される1種以上を含む添加剤を添加して撹拌し、その後冷却する。これにより、グリース組成物を得ることができる。
【0075】
なお、撹拌、混練処理に際しては、例えば、3本ロールミル、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の混練処理装置を用いて行うことができる。