(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】生体用抗菌インプラント、ならびに関連する材料、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/44 20060101AFI20240305BHJP
A61F 2/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61F2/44
A61F2/32
(21)【出願番号】P 2022184474
(22)【出願日】2022-11-17
(62)【分割の表示】P 2020199903の分割
【原出願日】2018-01-23
【審査請求日】2022-12-19
(32)【優先日】2017-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519324710
【氏名又は名称】シントクス テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】マッキンタイア、ブライアン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラクシュミーナラヤナン、ラマスワミー
(72)【発明者】
【氏名】デイビス、ケビン
(72)【発明者】
【氏名】グリマルディ、ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ペッツォッティ、ジュゼッペ
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0339144(US,A1)
【文献】特表2020-512072(JP,A)
【文献】特表2015-516239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/44
A61F 2/32
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体用インプラントの抗菌性を向上させる方法であって、
前記方法は、
基材材料としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む生体用インプラントを提供する工程と、
前記生体用インプラントに15%のβ-SiYAlON粉末を充填する工程と、
前記生体用インプラントに
β-SiYAlONを含むコーティングを設ける工程と、
を含み、
前記コーティングの厚さは、1μm~125μmであり、
前記コーティングが設けられた生体用インプラントは、前記基材材料単独と比較して向上した抗菌耐性を有する、
方法。
【請求項2】
前記生体用インプラントが、椎骨間の脊椎インプラントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
改善した抗菌性を有する生体用インプラントであって、
前記生体用インプラントは、
15%のβ-SiYAlON粉末が充填されたポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の基材材料と、
前記基材材料上の、
β-SiYAlONを含むコーティングと、
を含み、
前記コーティングの厚さは、1μm~125μmであり、
前記生体用インプラントは、前記基材材料単独と比較して向上した抗菌耐性を有する、
生体用インプラント。
【請求項4】
前記生体用インプラントが、椎骨間の脊髄インプラント、股関節インプラント、または骨用ネジから選択される、
請求項3に記載の生体用インプラント。
【請求項5】
前記生体用インプラントが、股関節インプラントの大腿骨ステム上の
前記コーティングを有する股関節インプラントを含む、
請求項3に記載の生体用インプラント。
【請求項6】
前記生体用インプラントが、骨用チタンネジを含む、
請求項3に記載の生体用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は概ね、生体用抗菌インプラントに関し、特に椎骨間の脊髄インプラントの抗菌性を改善するための材料、装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料は、骨結合及び微生物抵抗性の両方が低い。これを克服する先行研究は、ポリマー材料上へもしくはその内部に抗菌性または骨形成材料のいずれかを含有することを含む。これらの場合、ハイドロキシアパタイトは一般的に、骨伝導を改善する材料として報告されるが、一方で、抗菌性化合物は通常、銀または抗生物質である。しかし、1つの材料を使用するポリマー材料の骨形成及び抗感染性を改善する必要性がある。
【0003】
上記の知見等を踏まえて、本開示の種々の態様は着想かつ開発された。
【発明の概要】
【0004】
抗菌性を備える改善した生体用インプラントの必要性が存在する。したがって、本開示の一実施形態は、生体用インプラントの抗菌性を改善する方法を含んでよい。前記方法は、生体用インプラントを提供することと、生体用インプラントに約10%~約20%の粉末を充填することと、の工程を含んでもよく、前記粉末は窒化ケイ素材料を含む。前記方法は、マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工または他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング及びプラズマエッチングのうちの少なくとも1つによって、生体用インプラントの抗菌性を改善するために、生体用インプラントの少なくとも一部の表面粗さを、少なくとも約500nm Raの算術平均を有する粗さ特性まで増大させることを更に含むことができる。窒化ケイ素材料は、α-Si3N4、β-Si3N4、β-SiYAlON及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。生体用インプラントは、椎骨間の脊髄インプラントでもよい。生体用インプラントは、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、チタン、PEEK及びβ-Si3N4粉末、またはPEEK及びβ-SiYAlON粉末を含むことができる。
【0005】
他の実施態様にて、前記方法は、生体用インプラントに窒化ケイ素のコーティングを塗布することを更に含むことができる。生体用インプラントにコーティングを塗布する工程の後、生体用インプラントの少なくとも一部の表面粗さを増大させる工程を実行してもよく、生体用インプラントの少なくとも一部の表面粗さを増大させる工程は、少なくとも一部のコーティングの表面粗さを増大させることを含むことができる。生体用インプラントの少なくとも一部の表面粗さを増大させる工程は、少なくとも約1,250nm Raの算術平均を有する、または約2,000nm Raと約5,000nm Raの間の粗さ特性まで表面粗さを増大させることを含む。
【0006】
本開示の別の実施態様では、改善した抗菌性を備える生体用インプラントという形態をとることができる。生体用インプラントは、ポリマーまたは金属基材材料、及び約10%~約20%の粉末を含むことができ、粉末は窒化ケイ素材料を含む。インプラントの少なくとも一部は、マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工または他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング及びプラズマエッチングのうちの少なくとも1つによって作成した、少なくとも約500nm Raの算術平均を有する増大した表面粗さ特性を有することができる。窒化ケイ素材料は、α-Si3N4、β-Si3N4、β-SiYAlON及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。基材材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、チタン、PEEK及びβ-Si3N4粉末、またはPEEK及び15%のβ-SiYAlON粉末を含むことができる。生体用インプラントは、椎骨間の脊髄インプラント、股関節インプラントまたは骨用ネジでもよい。生体用インプラントは、股関節インプラントの大腿骨ステム上の窒化ケイ素コーティングを備える股関節インプラントを含むことができる。生体用インプラントは、生体用インプラント上の窒化ケイ素コーティングを更に含むことができる。
【0007】
本明細書の開示文書は、非限定的かつ非包括的である例示的実施形態を説明するものである。このような例示的実施形態のうち、図面に示されているいくつかについて言及する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aは、脊椎インプラントの一実施形態の斜視図である。
図1Bは、
図1Aの脊椎インプラントに粗面化処理を施した後のインプラントの斜視図である。
図1Cは、本開示の一態様により、インプラントの移動を最小限にするための表面機構を有する、
図1Bの脊椎インプラントの斜視図である。
【
図2】
図2Aは、コーティングが施されている脊椎インプラントの別の実施形態の斜視図である。
図2Bは、本開示の一態様により、
図2Aの実施形態のインプラントのコーティングに粗面化処理を施した後の斜視図である。
【
図3】
図3Aは、インプラントの一部にコーティングが施されている股関節ステムインプラントの実施形態の斜視図である。
図3Bは、本開示の一態様により、
図3Aの実施形態のインプラントのコーティングに粗面化処理を施した後の斜視図である。
【
図5】
図5Aは、骨スクリューインプラントの実施形態の斜視図である。
図5Bは、本開示の一態様により、
図5Aの実施形態のインプラントに粗面化処理を施した後の斜視図である。
【
図6】
図6Aは、モノリシックなPEEK上のSaOS-2細胞の蛍光分光法画像を示す。
図6Bは、15%のα-Si
3N
4を有するPEEK上のSaOS-2細胞の蛍光分光法画像を示す。
図6Cは、15%のβ-Si
3N
4を有するPEEK上のSaOS-2細胞の蛍光分光法画像を示す。
図6Dは、本開示の一態様により、15%のβ-SiYAlONを有するPEEK上のSaOS-2細胞の蛍光分光法画像を示す。
【
図7】本開示の一態様により、蛍光顕微鏡検査に基づいて計数する細胞の結果のグラフである。
【
図8】
図8Aは、SaOS-2細胞への曝露の前後の、モノリシックなPEEKのSEM画像を示す。
図8Bは、SaOS-2細胞への曝露の前後の、15%のα-Si
3N
4を有するPEEKのSEM画像を示す。
図8Cは、SaOS-2細胞への曝露の前後の、15%のβ-Si
3N
4を有するPEEKのSEM画像を示す。
図8Dは、本開示の一態様により、SaOS-2細胞への曝露の前後の、15%のβ-SiYAlONを有するPEEKのSEM画像を示す。
【
図9】本開示の一態様により、骨アパタイト量を示す、基材材料の3Dレーザー顕微鏡の結果のグラフである。
【
図10】
図10Aは、SaOS-2細胞に曝露した7日後の、β-SiYAlONを充填したPEEKのラマンマイクロプローブ分光法の画像である。
図10Bは、本開示の一態様により、SaOS-2細胞に曝露した7日後の、β-SiYAlONを充填PEEKのラマン強度のグラフである。
【
図11】
図11Aは、モノリシックなPEEK上のS.epidermidisのDAPI/CFDA染色による、蛍光顕微鏡検査画像を示す。
図11Bは、15%のα-Si
3N
4を有するPEEK上のS.epidermidisのDAPI/CFDA染色による、蛍光顕微鏡検査画像を示す。
図11Cは、15%のβ-Si
3N
4を有するPEEK上のS.epidermidisのDAPI/CFDA染色による、蛍光顕微鏡検査画像を示す。
図11Dは、本開示の一態様により、15%のβ-SiYAlONを有するPEEK上のS.epidermidisのDAPI/CFDA染色による、蛍光顕微鏡検査画像を示す。
【
図12】本開示の一態様により、種々の基材上のCFDA/DAPI染色した陽性細胞の結果のグラフである。
【
図13】本開示の一態様により、基材のそれぞれのWSTアッセイ(吸光度450nm)の結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載されている実施形態は、図面を参照することにより、最もよく理解することができ、全体を通じて、同様の部材は同様の数字によって示されている。本開示の構成要素は、本明細書の図面に概ね記載及び例示されているように、多種多様な構成で配列及び設計できることは容易に理解されるであろう。したがって、器具の実施形態に関する下記の更に詳細な説明は、本開示の範囲を限定するようには意図されておらず、本開示の考え得る実施形態の代表的なものを示しているに過ぎない。場合によっては、周知の構造体、材料または操作は、詳細に示されていたりまたは説明されたりはしていない。
【0010】
抗菌性を有する生体用インプラント、材料、ならびにこのようなインプラントの抗菌機能及び/または抗菌性を向上させる方法に関する器具、方法ならびにシステムの様々な実施形態が本明細書に開示されている。好ましい実施形態にて、いくつかの実施形態で、その抗菌性及び/または他の望ましい特徴を改善するように処理できる窒化ケイ素セラミックインプラントを提供する。例えば、本明細書に開示されている実施形態及び実施態様により、細菌の吸着及びバイオフィルムの形成の抑制を改善し、タンパク質の吸着を改善し、及び/または骨伝導性及び骨結合性を強化することができる。このような実施形態は、窒化ケイ素セラミック基材またはドープ窒化ケイ素セラミック基材を含んでよい。あるいは、このような実施形態は、窒化ケイ素コーティングまたはドープ窒化ケイ素コーティングを、異なる材料の基材上に含んでよい。他の実施形態では、インプラントとコーティングは、窒化ケイ素材料で作られていてもよい。更に他の実施形態では、インプラントの1つ以上の部分または領域は、窒化ケイ素材料及び/または窒化ケイ素コーティングを含んでよく、他の部分または領域は他の医用材料を含んでよい。
【0011】
別の選択肢として、生体用インプラントを形成するために用いる他の材料中に、窒化ケイ素または他の類似のセラミック材料を組み込んでもよい。例えば、窒化ケイ素は、充填材として使用してもよく、またはポリマーまたは生分解性ポリマー(例えば、多孔質足場もしくはバルク構造の、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレン及び/またはポリウレタン)中に組み込んでもよい。いくつかの実施形態では、窒化ケイ素充填材はβ-窒化ケイ素でもよく、約1重量%~約99重量%の範囲の量で生体用インプラント中に存在し得る。例えばβ-シリコン粉末は、約10重量%~約20重量%の量でPEEK生体用インプラント内に組み込まれることができる。窒化ケイ素は更に、充填材として使用してもよく、または他の生体用インプランを形成するために使用する他の材料(例えばチタン、銀、ニチノール、プラチナ、銅、コバルト/クロム及び関連する合金を含む、金属)内に組み込んでもよい。更に別の選択肢として、窒化ケイ素は、充填材として使用してもよく、または他の材料(例えば、セラミック及びサーメット)内に組み込んでもよい。
【0012】
1つ以上のコーティングを含む実施形態では、コーティング(複数可)は、任意の様々な方法(例えば、化学気相蒸着(CVD)、物理気相蒸着(PVD)、プラズマ溶射、電気堆積、電気泳動堆積、スラリーコーティング、及び高温拡散、または当業者に既知の他の任意の塗布方法)によって適用することができる。いくつかの実施形態では、コーティング厚は、約5ナノメートル~約5ミリメートルの範囲であることができる。いくつかのこのような実施形態では、コーティング厚は、約1マイクロメートルと約125マイクロメートルの間であってもよい。コーティングは、インプラントの表面に付着してもよいが、必ずしも気密である必要はない。
【0013】
窒化ケイ素セラミックは、優れた曲げ強さと破壊靭性を有する。いくつかの実施形態では、このようなセラミックは、約700メガパスカル(MPa)超の曲げ強さを有することがわかっている。実際に、いくつかの実施形態では、このようなセラミックの曲げ強さを測定したところ、約800MPa超、約900MPa超または約1000MPaであった。いくつかの実施形態の窒化ケイ素セラミックの破壊靭性は、約7メガパスカルルートメートル(MPa・m1/2)を上回る。実際、いくつかの実施形態のこのような材料の破壊靭性は、約7~10MPa・m1/2である。
【0014】
好適な窒化ケイ素材の例は、例えば米国特許第6,881,229号、表題「Metal-Ceramic Composite Articulation」に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、ドーパント(例えば、アルミナ(Al2O3)、イットリア(Y2O3)、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化ストロンチウム(SrO))を処理して、窒化ケイ素のドープ組成物を形成できる。ドープした窒化ケイ素または別の同様のセラミック材料を含む実施形態では、最高密度、機械的特性及び/または抗菌性が得られるようにドーパントの量を最適化することができる。更なる実施形態では、生体適合性セラミックの曲げ強さは約900MPa超、靭性は約9MPa・m1/2超であってよい。曲げ強さは、American Society for Testing of Metals(ASTM)プロトコル法C-1161にしたがって標準的な3点曲げ試験片で測定することができ、破壊靭性は、ASTMプロトコル法E399にしたがって単端ノッチ付きビーム試験片を用いて測定することが可能である。いくつかの実施形態では、窒化ケイ素の粉末を、単独でまたは上記に参照したドーパントの1つ以上のものと組み合わせて使用して、セラミックインプラントを形成することができる。
【0015】
好適な窒化ケイ素材料の他の例は、米国特許第7,666,229号、表題「Ceramic-Ceramic Articulation Surface Implants」に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。好適な窒化ケイ素材料の更に他の例は、米国特許第7,695,521号、表題「Hip Prosthesis with Monoblock Ceramic Acetabular Cup」に記載されており、これも参照により本明細書に組み込まれる。
【0016】
窒化ケイ素は、予想外の抗菌性及び増大した骨形成特性を有することが知られている。実際、下により詳細に論じられているように、窒化ケイ素材料上の細菌の付着と増殖は、他の一般的な脊椎インプラント材料(例えば、チタン及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK))と比べて実質的に低減することが最近示された。下により詳細に論じられているように、窒化ケイ素は、医療グレードのチタン及びPEEKと比べて、in vitro及びin vivo細菌コロニー形成、ならびにバイオフィルムの形成を有意に抑制する。窒化ケイ素は、実験中の生細菌数、及び死細菌に対する生細菌の比率もかなり低い。
【0017】
窒化ケイ素材料は、チタン及びPEEKよりも、ビトロネクチン及びフィブロネクチン(これらのタンパク質は、細菌の機能を低下させることが知られている)を有意に多く吸着させることも示されている。これらの特性は、感染の可能性を有意に低下させることによって、あらゆるタイプの生体用インプラントで非常に有用となると考えられる。これは、例えば、インプラント上/内での細菌の形成を防止もしくは妨害し、及び/またはインプラントに移動した細菌を死滅させることによって実現可能である。
【0018】
理論に束縛されるものではないが、窒化ケイ素を特徴決定するタンパク質吸着性が高いほど、細菌増殖の抑制を促し、幹細胞の骨芽細胞への分化を促進できると考えられる。この優先的吸着は、細菌の機能を低下させる、窒化ケイ素の能力の成因とみられる。また、理論に束縛されるものではないが、窒化ケイ素の抗菌性向上のメカニズムは、その特徴の組み合わせであり得る。例えば、その親水性表面により、細菌の機能低下を担うタンパク質の優先的吸着が得られることができる。この効果は、窒化ケイ素系インプラント、または別の材料で作られたインプラント上の窒化ケイ素系コーティングの表面テクスチャーまたは粗さを増大させることによって強化され得る。これらの特徴により、窒化ケイ素は、チタンまたはPEEK単独と比べて、in vivoで高い骨伝導と骨結合も示す。
【0019】
上述のように、いくつかの実施形態及び実施態様では、インプラントの表面の1つ以上の領域上の窒化ケイ素コーティングまたは充填材を使用して、治癒及び骨の再形成に必要なタンパク質の吸着を増大/助長しながら、細菌の付着を抑制できる。これと同じ効果は、他の実施形態では、モノリシックな窒化ケイ素をインプラントとして用いて実現できる。
【0020】
このような実施形態では、セラミックインプラントの表面を処理して、微小粗さと表面テクスチャーの程度を増大させて、これらの望ましい特性を高めてよい。例えば、いくつかの実施形態では、更にまたはあるいは、好適なテクスチャー加工によって、微小粗さ(すなわち、通常Ra値によって測定される、凹凸間における表面のテクスチャー)を増大させてもよい。いくつかの実施形態では、インプラント及び/またはコーティングの微小粗さは、マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工もしくはその他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング、またはプラズマエッチングなどによって増大させてよい。微小粗さは、表面計のカットオフ限界を用いて、表面凹凸の高さを測定することによって測定され得る。この方法を用いて、凹凸間の表面の粗さを選択的に評価してもよい。あるいはまたは更に、歪み及び/または尖度を測定することもできる。これらの測定は、表面粗さの正規ガウシアン分布に期待され得るものから、表面の偏差を判断する。このような表面処理は更に、モノリシックな窒化ケイ素インプラントまたは窒化ケイ素複合インプラント上ではなく、窒化ケイ素コーティング上に行ってよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、窒化ケイ素材料またはドープ窒化ケイ素材料の密度は、インプラント全体、または窒化ケイ素で作られたインプラントの一部全体を通じて変化し得る。例えば、脊椎インプラントの実施形態では、最外層、または最外層の一部は、インプラントの芯または中心よりも多孔質であってもよく、または低密度であってもよい。これにより、骨が、インプラントの低密度部分内に成長する、またはインプラントの低密度部分と融合することが可能になり、インプラントの高密度部分は耐摩耗性であることができるとともに、例えば、より高い強度及び/または靭性を有し得る。
【0022】
特定の実施形態では、インプラントの1つ以上の内側部分は、比較的低気孔質または非多孔質のセラミックを有してよく、したがって高密度を示し、天然の皮質骨の特徴と概ね一致しかつ概ね似ている高い構造的一体性を示す。また対照的に、インプラントの外側表面に形成された表面コーティング、層または裏層のうちの1つ以上は、比較的大きくかつ高い多孔性を示すことができ、それは天然の海綿骨の特徴と概ね一致しかつ概ね似ている。この結果、高多孔性の表面領域(複数可)、コーティング(複数可)、または裏層(複数可)は、人体内の患者の椎骨または別の好適な部位との間で、インプラントのセラミック部分(いくつかの実施形態では、インプラント全体を含む)の骨内部成長を確実かつ安定的に得るために効果的な骨内部成長表面を提供できる。
【0023】
いくつかの実施形態では、他のインプラント材料(例えば、ポリマー、金属またはセラミック)の抗菌挙動は、窒化ケイ素を粘着性コーティングとして塗布することによって改善し得る。いくつかの実施形態では、このコーティングを粗化処理またはテクスチャー加工して、窒化ケイ素材料/コーティングの表面積を増大させることができる。他の実施形態では、モノリシックな埋め込み可能な窒化ケイ素装置は、同様の表面処理を行って提供してもよい。
【0024】
本明細書に開示されている表面粗さ値は、粗さ分布の算術平均(Ra)を用いて計算できる。研磨した窒化ケイ素面の粗さは20nm Ra以下であり得る。しかし、下により詳細に論じられているように、直感に反しているが、特定の実施形態の抗菌性は、窒化ケイ素セラミックインプラントもしくは別の類似のセラミックインプラントの表面のすべてまたは1つ以上の部分を研磨するのではなく、粗化処理することによって改善できる。いくつかの実施形態では、比較的粗い表面は、更なる粗化処理または他の表面処理を行わずに、材料を作製するプロセスの一部(例えば、焼成段階中)として作製され得る。しかし、他の実施形態では、下により詳細に論じられているように、表面を粗化処理して、標準的な焼成/硬化プロセスのみで得られる粗さよりも粗さを更に増大させてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、表面粗さは1,250nm Ra超でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約1,500nm Ra超でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約2,000nm Ra超でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約3,000nm Ra超でもよい。他の実施形態では、表面粗さは、約500nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約1,500nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約2,000nm
Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約3,000nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。
【0025】
特定の実施形態では、金属、ポリマーまたはセラミックインプラント基材は、窒化ケイ素粉末で充填されることができる。充填材、窒化ケイ素粉末の非限定的な例は、α-Si3N4、β-Si3N4及びβ-SiYAlON粉末を含む。窒化ケイ素粉末で充填され得る、金属またはポリマー生体用インプラント基材の非限定的な例は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリアクリル酸、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリウレタン、チタン、銀、ニチノール、プラチナ、銅及び/または関連する合金を含む。種々の実施形態で、PEEKインプラントは、β-Si3N4またはβ-SiYAlON粉砕粉末で充填され得る。インプラント中の粉砕した窒化ケイ素粉末の割合は、約1重量%~約99重量%の範囲であり得る。種々の態様で、インプラントの窒化ケイ素は、約1重量%~約5重量%、約5重量%~約15重量%、約10重量%~約20重量%、約15重量%~約25重量%、約20重量%~約30重量%、約25重量%~約35重量%、約30重量%~約50重量%、約40重量%~約60重量%、約50重量%~約70重量%、約60重量%~約80重量%、約70重量%~約90重量%、及び約80重量%~約99重量%の範囲であり得る。一実施形態に、PEEKインプラントは、最高約15%のβ-Si3N4またはβ-SiYAlONを含むことができる。
【0026】
一実施形態に、SiYAlON及びβ-Si3N4材料は、添加した酸化アルミニウム及び酸化イットリウムを有し得る。特定の理論に束縛されることなく、インプラントの機能表面化学は、これらの酸化物ドーパントの添加により強化されることができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、窒化ケイ素粉末を充填したポリマーインプラントは、窒化ケイ素充填材のないインプラントと比較して、インプラントの骨伝導性及び抗菌活性を改善できる。例えば、β-Si3N4またはβ-SiYAlONを充填したPEEKインプラントは、モノリシックなPEEKインプラントと比較して、インプラントの骨伝導性及び抗菌性を改善できる。一実施形態で、窒化ケイ素粉末を充填したインプラントの表面は、表面粗さで更に変性されることができて、窒化ケイ素コーティングを更に含んでも、含まなくてもよい。したがって、本明細書に開示される方法のいくつかは、その抗菌性能を改善するために、窒化ケイ素セラミックを充填したインプラントの表面の粗さ化の操作を提供できる。
【0028】
特定の理論に束縛されることなく、β-Si3N4もしくはβ-SiYAlONまたはその適切な混合物の比較的低い割合の添加は、PEEKのin vitro骨伝導性及び抗菌耐性を強化できる。窒化ケイ素を充填したPEEKインプラントは、窒化ケイ素充填材のない他の基材より実質的に良好な結果を有する。β-Si3N4またはβ-SiYAlONが増加した骨伝導性及び抗菌耐性を有しつつ、α-Si3N4を充填したPEEKインプラントが増大した骨伝導性及び減少した抗菌耐性を示すことは予想外だった。
【0029】
いくつかの実施形態では、金属、ポリマーまたはセラミック基材は、表面テクスチャー(その上に窒化ケイ素コーティングが施され得る)で前処理してもよい。このテクスチャーの平均表面粗さ(Ra)は、約5ナノメートルの低さ~約5,000ナノメートル以上の範囲であり得る。あるいは、別の実施形態として、基材の表面粗さを除いて、窒化ケイ素コーティング自体の表面テクスチャーを増大させて、同様のRa範囲及び結果として生じる抗菌効果を得ることができる。したがって、本明細書で開示される方法のいくつかは、モノリシックな窒化ケイ素セラミックインプラントの抗菌性能を改善するために、そのインプラントの表面粗さを操作することができ、本明細書に開示される他の方法は、生体用インプラントで使用できる任意の他の好適な材料で作製された基材に施した層またはコーティングの表面粗さを操作することができる。当然ながら、いくつかの実施形態では、基材とコーティングの両方に表面処理を施してもよい。
【0030】
セラミックインプラントまたはセラミックを充填したインプラントの表面粗さの増大は、マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工またはその他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング、プラズマエッチングなどを含め、当業者に既知の様々な任意の方法を用いて実現できる。
【0031】
これらに限定されないが、窒化ケイ素コーティング及び粗面仕上げを含む、本明細書に開示される本発明の技術は、これらに限定されないが、脊椎ケージ、整形外科用のスクリュー、プレート、ワイヤ、ならびに脊椎、股関節、膝、肩、足首及び指節骨の他の固定器具及び連結器具、カテーテル、人工血管及びシャント、顔面手術または他の再建形成手術用インプラント、中耳インプラント、歯科用器具などを含む、任意の数及び種類の生物医学的構成要素に適用し得る。
【0032】
下記の実施例に示されているように、チタン及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)と比べて、窒化ケイ素は、in vitro及びin vivoでのバイオフィルムの形成と細菌のコロニー化を有意に抑制し、細菌(Staphylococcus epidermidis(Staph.Epi.)、Staphylococcus aureus(Staph.aureus)、Enterococcus、Pseudomonas aeruginosa(Pseudo.aeruginosa)及びEscherichia Coli(E.Coli)を含むが、これらに限定されない)について、かなり低い生細菌/死細菌比を示す。窒化ケイ素は、細菌増殖を排除または抑制できるとともに、幹細胞の骨芽細胞への分化を促進できる3つのタンパク質(フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニン)のin vitro吸着性も有意に高いことを示す。
【0033】
臨床現場では、特に外科的介入及び異物の人体内への導入(例えば、整形外科用、心臓用または歯科用体内プロテーゼ)と関連するとき、細菌は常に存在する脅威である。手術中に入りこむ微生物はまず、インプラントの滅菌表面に集合する傾向がある。医用材料表面への細菌の付着は、感染の発現に不可欠な工程である。細菌がインプラントで過度にコロニー化すると、人体の防御機構が始動する。細菌コロニーが臨界サイズに達し、局所の宿主防御を打ち破ると、慢性感染が生じる。これが生じると、身体は、感染部を包み込んで、インプラントを拒絶する傾向がある。この結果、患者は一般的に、再手術、インプラントの除去、感染症の治療、及びインプラントの交換をしなければならない。一般的な整形外科手術を伴う深い創傷感染では、矯正治療が4%ほどの高さとなり、最大で100,000ドル以上の費用負担となることがある。生活の質の低下と、感染症治療の関連費用は、今日の医療にとって大きな負担となっている。
【0034】
したがって、本明細書に開示されている様々な実施形態及び実施態様は、上述のように多くの場合慢性感染を引き起こす細菌の付着、コロニー化及び増殖を阻止する、材料ならびに方法を提供する。本明細書に開示されている実施形態及び実施態様は更に、他の一般的なインプラント(例えば、チタン及びPEEKのみで作製されたインプラント)と比べて、in vivoでの骨結合を強化し、骨成長を増大させる。
【0035】
医用材料表面への細菌付着に影響を及ぼす要因としては、インプラントの表面及び/またはコーティングの化学組成、表面電荷、疎水性及び表面粗さまたは物理的特徴を含むことができる。金属インプラント、ポリマーインプラント及びセラミックインプラントの表面の化学的性質には大きな違いがある。金属は一般的に、その表面上に薄い酸化物の保護層を有する(通常、厚さ約25nm未満)。ポリマーも酸化物表面を有することがあるが、この酸化物は一般的には、長鎖のカルボキシル基またはヒドロキシル基の一部である。金属表面とポリマー表面のいずれも硬度が低い場合が多いので、摩耗しやすく、化学的腐食及び溶解の影響を非常に受けやすい。セラミック(例えば、窒化ケイ素セラミック)も、酸化物表面を有することがある。しかし、類似の金属とは異なり、化学作用及び研磨作用に対する耐性が高い。
【0036】
更に金属装置とポリマー装置は一般的に、疎水性である。したがって細菌は、インプラントの表面に付着するために、水性体液を排除する必要はない。それに反して、特にセラミックと窒化ケイ素は、親水性であることが知られている。例えば、水滴滴下実験により、窒化ケイ素の濡れ性は、医療グレードのチタンまたはPEEKのいずれよりも高いことが示されている。濡れ性が高いことは、窒化ケイ素系セラミックの親水性表面に直接起因すると考えられている。
【0037】
細菌が親水性表面に付着するためには、その表面に存在する水をまず排除しなければならない。したがって、親水性表面は通常、疎水性表面よりも細菌の付着を効果的に抑制する。インプラント表面仕上げ及びテクスチャーが、細菌のコロニー化及び増殖で重要な役割を果たすことも示されている。一般的なポリマーインプラントまたは金属インプラントの表面上の凸凹は、細菌の付着を促進する傾向がある一方で、滑らかな表面は、付着とバイオフィルムの形成を抑制する傾向がある。粗い表面の方が、表面積が大きく、コロニー化に好都合な部位をもたらす凹みを含むので、これは真実である。
【0038】
しかしながら、直感に反しているが、特に窒化ケイ素系セラミック材を含む特定のセラミック材料は、望ましい抗菌性をもたらすことが示されているのみならず、表面粗さを低下させるのではなく、表面粗さを向上させると、抗菌性を更に高めることも示されている。換言すれば、粗さの高い窒化ケイ素面は、滑らかな表面よりも、細菌の付着に対する耐性が高いとみられる。これは、他の多くのインプラント材料(例えば、チタン及びPEEK)で観察されるものとはまったく反対である。上で言及されていると共に、下により詳細に論じられているように、医療グレードのチタン及びPEEKと比べて、窒化ケイ素は、in vitroの細菌コロニー化とバイオフィルムの形成を有意に抑制することが示されて、実験時における生細菌数と、死細菌に対する生細菌の比率がかなり低いことが示されている。しかし、異なる種類の窒化ケイ素間の実験では、粗い窒化ケイ素表面は、研磨した窒化ケイ素よりも、細菌のコロニー化を効果的に抑制する(最も一般的なインプラント材料と同様の弱い効果よりも)ことが示されている(粗い窒化ケイ素表面も研磨した窒化ケイ素表面も、チタンまたはPEEKのいずれよりも、かなり抑制効果が高かった)。
【0039】
下記の実施例によって、様々な実施形態及び実施態様について更に理解されるであろう。
【実施例】
【0040】
実施例1
第1の実施例では、生体用インプラント材料が細菌のコロニー化を抑制する能力を試験した。この実験は、窒化ケイ素材料、生物医療グレード4のチタン及びPEEKを含んだ。Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Escherichia coli及びEnterococcusという4つの種類の細菌をこの実験に含めた。
【0041】
この実験のインプラントサンプルは、24時間の紫外線照射によって滅菌し、走査電子顕微鏡を用いて表面粗さを特性決定した。そしてサンプルの表面上に細菌を播種し、4時間、24時間、48時間及び72時間インキュベートした。
【0042】
(1)クリスタルバイオレット染色及び(2)live/deadアッセイという2つの方法を用いて、各期間の最後に細菌の機能を調べた。細菌は更に、画像解析ソフトウェアを備える蛍光顕微鏡を使用して、目視で計数した。これらの実験は3回ずつ行い、3回繰り返した。次に、スチューデントt検定を使用して、適切な統計解析を行った。
【0043】
すべての細菌及びすべてのインキュベーション時間において、窒化ケイ素試料は、医療グレードのチタン及びPEEKと比べて、バイオフィルムの形成が少なく、生細菌が少なく、生細菌・死細菌比が小さかった。粗い窒化ケイ素表面は、細菌のコロニー化を抑制する効果が研磨した表面よりも高かった。更に、研磨表面または粗い表面を有する窒化ケイ素インプラントはいずれも、細菌のコロニー化の抑制が、チタンまたはPEEKのいずれよりも有意に優れていた。
【0044】
バイオフィルムの形成も、チタン及びPEEKの方が、窒化ケイ素よりもかなり多かった。例えば、チタン上のStaphylococcus aureusのバイオフィルムの形成は、72時間のインキュベーション後で研磨した窒化ケイ素より3倍多く、72時間のインキュベーション後でPEEKより8倍多かった。表面粗さが約1,250nm Raの比較的粗い窒化ケイ素を使用したところ、これらの結果は更に優れていた。この粗さの高い窒化ケイ素上でのStaphylococcus aureusのバイオフィルムの形成は、72時間後で研磨した窒化ケイ素の半分未満だった。
【0045】
生細菌数も、同様のパターンに従っていた。72時間のインキュベーション後の生細菌数は、窒化ケイ素と比較した場合、チタンでは1.5倍、PEEKでは30倍高かった。更に粗い窒化ケイ素は、研磨した窒化ケイ素よりも優れていた。例えば、Pseudomonas aeruginosaに関しては、粗い窒化ケイ素(この場合も約1,250nm Ra)における72時間後の生細菌数は、研磨した窒化ケイ素の約5分の1だった。
【0046】
生細菌/死細菌比も同様に、窒化ケイ素が最も低く、概ね、粗い窒化ケイ素の方が研磨した窒化ケイ素よりも低かった。例えば、研磨した窒化ケイ素上のE.coliの72時間のインキュベーション後の生細菌/死細菌比は、チタンの3倍超及びPEEKの約2倍だった。粗い窒化ケイ素において、生細菌/死細菌比は、チタンの約6倍及びPEEKのほぼ3倍だった。
【0047】
実施例2
この実験では、生体用インプラント材料が一般的な骨形成タンパク質を吸着する能力を試験した。実施例1と同様に、粗い窒化ケイ素、研磨した窒化ケイ素、医療グレードのチタン及びPEEKを試験した。試験したタンパク質は、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニンだった。酵素結合免疫吸着法(ELISA)を20分、1時間及び4時間行った。フィブロネクチンは正常ウサギ抗ウシフィブロネクチンと、ビトロネクチンは抗ビトロネクチンと、ラミニンは抗ラミニンと直接融合させた。表面に吸着した各タンパク質の量をABTS基質キットによって測定した。分光光度計の405nmでの吸光度をコンピュータソフトウェアによって解析した。ELISAは2回ずつ行い、各基材で3回繰り返した。
【0048】
すべてのインキュベーション時間において、窒化ケイ素は、チタン及びPEEKと比べて、フィブロネクチン及びビトロネクチンの吸着が有意に多かった。窒化ケイ素は、1時間及び4時間のインキュベーション時点で、チタン及びPEEKと比べて、ラミニンの吸着も多かった。粗い窒化ケイ素表面(約1,250nm Ra)の方が、研磨した窒化ケイ素面よりも、タンパク質の吸着効果が高かった。しかし、いずれの窒化ケイ素表面も概ね、チタンまたはPEEKのいずれよりも、特にフィブロネクチン及びビトロネクチンに関して優れていた。理論に束縛されるものではないが、これらのタンパク質の窒化ケイ素上への好ましい吸着は、細菌耐性の向上の有望な説明であると考えられる。
【0049】
実施例3
この実験では、Wistarラット頭蓋冠モデルを用いて、様々なインプラント材料のin vivoでの骨形成、炎症及び感染を調べた。この実験で、骨のこれらの材料への付着強度を考察した。この実験で、粗い窒化ケイ素、医療グレードのチタン及びPEEKを使用した。
【0050】
標準的な技法を使用して、滅菌した試料を2年齢Wistarラットの頭蓋冠内に埋め込むことによって、実験を行った。別の試料群に事前にStaphylococcus epidermidisを播種し、同様のWistarラットの第2の群に埋め込んだ。
【0051】
ラットは、3日目、7日目、14日目及び90日目に屠殺した。インプラント材料のそれぞれの周囲のマクロファージ、細菌及びバイオフィルムタンパク質の数に関して、組織構造を定量した。更に、押出し試験を行って、骨付着の結果及び性能を判定した。
【0052】
非播種試料を使用した3日後、チタンインプラント及びPEEKインプラントは不安定だったので、組織診断を実施できなかった。窒化ケイ素インプラント(表面粗さ約1,250nm Ra)は、3日後に、顕微鏡による線形解析を使用して測定したところ、約3~5%の骨-インプラント境界面を示し、顕微鏡による面積解析を使用して測定したところ、手術領域に約16~19%の新骨成長を示した。
【0053】
非播種試料を使用した7日後、チタンインプラント及びPEEKインプラントは不安定だったので、組織診断を実施できなかった。一方、窒化ケイ素インプラントは、7日後に約19~21%の骨-インプラント境界面と、手術領域に約28~32%の新骨成長を示した。
【0054】
非播種試料を用いた場合、14日後に、チタンインプラントは、約7%の骨-インプラント境界面と、手術領域の約11%の新骨成長を示した。PEEKインプラントは、約2%の骨-インプラント境界面と、手術領域の約14%の新骨成長を示した。一方、窒化ケイ素インプラントは、14日後に約23~38%の骨-インプラント境界面と、手術領域に約49~51%の新骨成長を示した。
【0055】
播種なしの場合、90日後に、チタンインプラントは、約19%の骨-インプラント境界面と、約36%の新骨成長を示し、PEEKインプラントは、約8%の骨-インプラント境界面と、約24%の新骨成長を示した。窒化ケイ素インプラントはまた優れた性能を見せた。これらのインプラントは、約52~65%の骨-インプラント境界面と、約66~71%の新骨成長を示した。
【0056】
播種試料では、すべてのインプラントが非常に不安定で、3日目及び7日目に組織診断を実施できなかった。14日後に、チタンインプラントは、わずか約1%の骨-インプラント境界面、75%の細菌-インプラント境界面(顕微鏡による線形解析を使用して測定)、手術領域に約9%の新骨成長、手術領域に約45%の細菌増殖を示した。PEEKは、本質的に骨-インプラント境界面を示さず、約2%の新骨成長と、約25%の細菌増殖を示した。PEEKでの細菌-インプラント境界面は不明瞭だった。播種窒化ケイ素インプラントは、14日後に、約3~13%の骨-インプラント境界面を示した。窒化ケイ素インプラントでの新骨成長は約25~28%、細菌増殖は約11~15%だった。
【0057】
90日後に、播種チタンインプラントは、約9%の骨-インプラン境界面と、約67%の細菌-インプラント境界面と、約26%の新骨成長と、約21%の細菌増殖と、を示した。PEEKインプラントは、約5%の骨-インプラント境界面と、約95%の細菌-インプラント境界面と、約21%の新骨成長と、約88%の細菌増殖と、を示した。播種窒化ケイ素インプラントは、90日後に、約21~25%の骨-インプラント境界面を示した。90日後に、窒化ケイ素インプラントの新骨成長は約39~42%であり、測定可能な細菌-インプラント境界面または細菌増殖はなかった。実際、90日後に、窒化ケイ素インプラント上で検出された細菌はなかった。
【0058】
押出し強さも、すべての実施時間を測定後に、播種の有無にかかわらず、窒化ケイ素インプラントの方が、チタンインプラントまたはPEEKインプラントのいずれよりも実質的に優れていた。播種せずに実施した場合、90日後に、窒化ケイ素インプラントの押出し強さは、チタンの2倍超、PEEKの2.5倍超だった。播種した場合でも、窒化ケイ素の押出し強さは、すべての実施時間においてチタン及びPEEKよりも高かった。窒化ケイ素の押出し強さは、チタンまたはPEEKのいずれの5倍超だった。これらの結果は、チタン及びPEEKと比較して、窒化ケイ素における実質的な骨付着とを示している。
【0059】
押出し強さは、インプラントを含む頭蓋冠の切片を切り出し、その頭蓋冠を支持プレート上の木製ブロックにセメント付けすることによって測定した。次に、荷重をインプラントに加えて、インプラントを頭蓋冠から取り除くのに必要な力を測定した。
【0060】
組織診断の結果から、試験した押出し強さが更に確認される。上述のように、窒化ケイ素では、チタン及びPEEKと比べて、すべての実施時間で及びすべての播種条件下にて、頭蓋冠欠損領域で新骨成長の有意な増大が観察された。
【0061】
実施例4
この試験で、種々のインプラント材料の骨伝導性のin vitro評価を、SaOS-2細胞株を使用して試験した。この試験は、これらの材料上のSaOS-2細胞増殖を考察した。窒化ケイ素を充填したPEEK(すなわち、15%のα-Si3N4、β-Si3N4及びβ-SiYAlON粉末を充填したPEEK)及びモノリシックなPEEK基材材料を、本試験で使用した。
【0062】
標準的な技術を使用して、正方形の各基材材料(5×105細胞/ml)上へSaOS-2細胞を播種することによって、この試験を実施した。24時間後に、細胞をBlue
Hoechst33342で染色し、蛍光分光法で計数した。細胞播種は、7日後に完了した。細胞を蛍光分光法で評価かつ計数し、基板材料はレーザー顕微鏡法、ラマン分光学及び走査電子顕微鏡検査(SEM)を使用して評価された。
【0063】
図6A~
図6Dは、種々の基材上のSaOS-2細胞の蛍光分光法画像を示す。
図7は、蛍光顕微鏡検査に基づいて計数する細胞の結果のグラフである。すべての複合材料は、モノリシックなPEEKと比較して、in vitroで600%超の速いSaOS-2細胞増殖を示した。15%のβ-SiYAlONを有するPEEKは、モノリシックなPEEKより約770%増大の最高比率の増殖を示した。
【0064】
図8A~
図8Dは、SaOS-2細胞への曝露の前後の基材材料のSEM画像を示す。
図9は、骨アパタイト量を示す、基材材料の3Dレーザー顕微鏡の結果のグラフである。すべての複合材料は、モノリシックなPEEKより良好に作用した。15%のSi
3N
4を有するPEEKは、SaOS-2細胞を有するモノリシックなPEEKと比較して、in vitro骨伝導性が約100%の増加を示した。
図10A及び
図10Bは、SaOS-2細胞に曝露した7日後のβ-SiYAlONを充填したPEEK上のラマンマイクロプローブ分光法の結果を示す。SaOS-2細胞への7日間の曝露後の表面突出部は、すべての複合試料上で骨ハイドロキシアパタイトであることを確認した。
【0065】
15%のSi3N4(αまたはβ)またはβ-SiYAlONを充填したすべてのPEEK複合材料は、モノリシックなPEEKと比較して、著しく改善したSaOS-2細胞増殖を示した。15%のSi3N4(αまたはβ)またはβ-SiYAlONを充填したすべてのPEEK複合材料は、モノリシックなPEEKと比較して、SaOS-2細胞株による著しく改善した骨伝導性を示した。上述の結果は、いくつかの異なる解析ツールにより確認され、統計学的に検証した。
【0066】
実施例5
この試験で、種々のインプラント材料の抗菌活性のin vitro評価を、staphylococcus epidermidisを使用して試験した。Staphylococcus epidermidis(S.epidermis)は、挿入の間、整形装置の高確率の汚染を誘導する、ヒト皮膚上にコロニーを形成する重要な日和見病原体である。S.Epidermidisによって生じる血管カテーテル関連の血流感染症に関連したコストは、米国だけで年間約20億ドルである。抗生物質による治療は、その免疫回避能力によって複雑化され、慢性疾患の高い危険性を伴う。
【0067】
この試験は、これらの材料上のS.epidermidis生存度を考察した。窒化ケイ素を充填したPEEK(すなわち、15%のα-Si3N4、β-Si3N4及びβ-SiYAlON粉末を充填したPEEK)及びモノリシックなPEEK基材材料を、本試験で使用した。S.epidermidisを培養して(1×107CFU/ml)、次にBHIアガー中の基材材料の試料にセットした(1×108/ml)。24時間後に、細菌及び試料は、DAPI及びCFDAを添加して、吸光度450nmによる濃度を測定することによって、微生物生存度アッセイ(WST)及び蛍光分光法により評価した。
【0068】
図11A~
図11Dは、種々の基材上のS.epidermidisのDAPI(核)及びCFDA(生存)染色による蛍光顕微鏡検査画像を示す。
図12は、種々の基材上のCFDA/DAPIで染色した陽性細胞の結果のグラフである。15%のβ-Si
3N
4を有するPEEKは、モノリシックなPEEKと比較して、S.epidermidisに対するin vitro抗菌耐性の約1桁の増加を示した。
図13は、基材のそれぞれのWSTアッセイ(吸光度450nm)の結果のグラフである。15%のβ-Si
3N
4を有するPEEKは、モノリシックなPEEKと比較して、S.epidermidisに対するin vitro抗菌耐性の約100%の増加を示した。
【0069】
15%のβ-Si3N4またはβ-SiYAlONを充填したすべてのPEEK複合材料は、モノリシックなPEEKと比較して、著しく改善した抗菌耐性を示した。15%のα-Si3N4を有するPEEKは、他のPEEK複合材料と同じ程度の抗菌挙動を示さなかった。上述の結果は、明らかに単純な複合則の改善を明らかに越えており、β-Si3N4相の比較的低い割合が、モノリシックなPEEKと比較して、100%改善した抗菌耐性を少なくとももたらすことができるかについて示す。
【0070】
上述の各実施例の結果から、医療グレードのチタン及びPEEKと比べて、窒化ケイ素の方が実質的に、in vitroでの細菌のコロニー化とバイオフィルムの形成を良好に抑制するとともに、実験したすべての細菌において、すべてのインキュベーション期間で、生存菌対死亡菌の比がかなり低くなることが示唆されている。窒化ケイ素は、細菌増殖を抑制できるとともに、幹細胞の骨芽細胞への分化を促進できる3つのタンパク質のin vitro吸着性も有意に高い。この優先的吸着は、窒化ケイ素が細菌の機能を低下させる能力と相関しており、この能力の原因であり得る。窒化ケイ素は更に、in vivoでの骨形成と骨結合も強化し、モノリシックなチタン及びPEEKと比較して、有意な細菌耐性を示す。
【0071】
実施例で論じた実験から、粗い窒化ケイ素インプラントは概ね、抗菌機能及び/または骨成長及び結合の面で、研磨した窒化ケイ素を上回る性能を見せることが示唆される傾向もある。これらの結果から、抗菌機能を改善するために、モノリシックな窒化ケイ素インプラント及び/または他の類似のセラミックインプラントを粗面化処理してよいことのみならず、窒化ケイ素コーティングを他のインプラント(窒化ケイ素及び非窒化ケイ素(例えば、金属、ポリマー及び/または他のセラミック)の両方)に施してもよいことも示唆される。このようなコーティングを粗面化処理して、抗菌機能を更に改善するとともに、上述のように他の望ましい特徴を提供できる。予備調査から、実施例で使用したレベル(すなわち約1,250nm Ra)超の表面粗さを増大させると、材料の抗菌機能を更に増大できることが示される傾向もある。例えば、いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約1,500nm Ra超でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約2,000nm Ra超でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは約3,000nm Ra超でもよい。他の実施形態では、表面粗さは、約500nm
Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約1,500nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約2,000nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。いくつかのこのような実施形態では、表面粗さは、約3,000nm Raと約5,000nm Raの間でもよい。
【0072】
いくつかの代替的なセラミック材料(例えば、アルミナ及びジルコニア(ZrO2))は、窒化ケイ素の特性と似た特定の特性を有する。したがって、これらのセラミック材料または他の類似の材料は、類似の抗菌効果及び骨形成効果を示し得ると考えられる。当業者は、本開示の利点を得た後、このような代替的な材料を識別できると考えられる。セラミック材料または他の類似の材料は、窒化ケイ素セラミックの場合のように、表面粗さの増大により、抗菌機能を向上させ得るとも考えられる。
【0073】
下記の図面によって、追加の実施形態及び実施態様について更に理解されるであろう。
【0074】
図1Aは、脊椎インプラント100を示す。脊椎インプラント100は、比較的滑らかな上面102、底面104及び側面108を有する。脊椎インプラント100は、窒化ケイ素セラミック材料または別の類似のセラミック材料を含んでよい。脊椎インプラント100は、そのインプラントの上面と底面を貫通して延在する2つの開口部110及び112も備えてもよい。いくつかの実施形態では、脊椎インプラント100は、上でより詳細に説明されているように、ドープ窒化ケイ素材料を含んでもよい。脊椎インプラント100の表面のうちの1つ以上を粗化処理またはテクスチャー加工して、その表面(複数可)を構成する窒化ケイ素材料の表面積を増大させてもよい。例えば、脊椎インプラント100の1つ以上の表面は、マイクロマシニング、研削、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工または他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング、プラズマエッチングなどによって粗化処理またはテクスチャー加工してよい。
【0075】
図1Bは、外側表面102、104(図では見えない表面)及び108のそれぞれを粗化処理した後の脊椎インプラント100を示す。上述したように、この粗面化によって、インプラントの抗菌機能と特徴を改善する。1つ以上の内側表面も粗化処理できる。例えば、開口部110及び112を画定する内側表面111及び113も粗化処理してよい。内側表面の粗化処理の程度は、所望に応じて、外側表面102、104及び108の粗化処理と同じであっても、これらの外側表面の粗化処理よりも大きくても、小さくてもよい。
【0076】
図1Cは、上面及び底面に、複数の表面機構または歯114を有する脊椎インプラント100を示す。表面機構114は、患者の椎骨間の空間内にインプラントを一旦配置したら、インプラントの移動を防ぐ、または少なくともそれを最小限にするのを助けることができる。表面機構114は、粗面化を行う前または後に、インプラント100から形成してよい。同様に、表面機構114は代わりに、粗面化の前または後に更にインプラント100に取り付けた別の材料を含んでもよい。
【0077】
図2Aは、代替的実施形態の脊椎インプラント200を示す。脊椎インプラント200は、任意の好適な材料(例えば、金属、ポリマー及び/またはセラミック)を含んでよい。脊椎インプラント200は、コーティング220も備えてよい。コーティング220は、窒化ケイ素セラミック材料またはドープ窒化ケイ素セラミック材料を含むのが好ましいが、代わりに、窒化ケイ素に似た特定の特性を有する他のセラミック材料をコーティングとして使用し得ることが想到されている。コーティング220は、生体物質または生物学的活性に曝露される、または曝露される可能性のある任意の表面に適用してよい。例えば、図示されている実施形態では、コーティング220は、上面202、底面204、側面208、及び開口部210、212を画定する内側表面211、213に適用される。コーティング220を施して、本明細書の別の箇所で論じられている、窒化ケイ素の独自の抗菌性及び特性を利用できる。いくつかの実施形態では、コーティング厚は、約5ナノメートル~約5ミリメートルの範囲であることができる。いくつかの好ましい実施形態で、コーティング厚は、約1マイクロメートルと約125マイクロメートルの間でもよい。
【0078】
例えば、PEEK(脊椎インプラントで非常に一般的である)は細菌環境での性能が非常に劣るので、窒化ケイ素セラミックコーティングもしくは層(または別の類似の材料)をPEEK脊椎インプラントに適用して、インプラントの抗菌機能を改善する及び/または上でより詳細に論じたような他の利点をもたらすことができる。コーティング(複数可)は、当業者に既知の任意の好適な方法(例えば、化学気相蒸着(CVD)、物理気相蒸着(PVD)、プラズマ溶射、電気堆積、電気泳動堆積、スラリーコーティング及び/または高温拡散)によって施してよい。
【0079】
インプラントの抗菌性を更に高めるために、
図2Bに示されているように、コーティング220、またはコーティング220の1つ以上の部分を粗面化処理してよい。コーティングの粗面化は、生物学的活性または生体物質に曝露される、または曝され得る、インプラントのあらゆる部分に施してよい。例えば
図2Bに示されている実施形態で、表面202、204、208、211及び213のそれぞれは、上述のように粗化処理またはテクスチャー加工されている。いくつかの実施形態では、コーティングの粗面化もしくはテクスチャー加工の代わりにまたはそれに加えて、コーティングを適用する前に、インプラントの表面を粗化処理またはテクスチャー加工してよい。
【0080】
本明細書に記載の原理、材料及び方法は、他の生体用インプラントにも適用してよい。例えば
図3A~
図3B及び
図4A~
図4Bは、患者の大腿骨内に収容されるように構成されている大腿骨ステム330と、ネック部340と、最終的には臼蓋カップ内または患者の天然の臼蓋内に配置されることになるボールジョイント(図示せず)を収容するように構成されたモジュール式臼蓋ヘッド350と、を備える股関節インプラント300を示している。
【0081】
1つ以上のコーティング320は、
図3Aに示されているように、股関節インプラント300の大腿骨ステム330に施してよい。好ましい実施形態では、コーティング320は窒化ケイ素セラミック材料を含む。代替的実施形態では、インプラントの他の部分も、窒化ケイ素セラミックまたは別の類似の材料でコーティングしてよい。例えば、コーティング320は、所望の場合、大腿骨ステム330、ネック部340及び/またはモジュール式臼蓋ヘッド350に施してもよい。
【0082】
インプラント300の抗菌性を更に高めるために、インプラント300の1つ以上の表面/部分を粗化処理及び/またはテクスチャー加工してもよい。例えば、
図3Bに示されているように、コーティング320を備える大腿骨ステム330は、コーティング320を施した後に、粗化処理及び/またはテクスチャー加工してもよい。あるいは、インプラント300(または本明細書に論じられている他のインプラントのいずれか)の大腿骨ステム330及び/または任意の他の所望の領域は、コーティング320を施す前に粗化処理及び/またはテクスチャー加工してもよい。更に別の選択肢として、抗菌コーティングを施す前と後の両方に、インプラントの1つ以上の表面をテクスチャー加工及び/または粗化処理してよい。
【0083】
図4Aは、
図3Aの線4A-4Aで切断した断面図である。この図に示すように、コーティング320は、インプラント300の大腿骨ステム330の部分に沿ってのみ延在する。しかし、上述のように、代替的実施形態では、コーティング320を、インプラントの他の部分にも施してもよい(いくつかの実施形態では、コーティングをインプラント全体に施してよい)。
【0084】
図4Bは、
図3Bの線4B-4Bで切断した断面図である。この図は、粗化処理/テクスチャー加工のプロセスを行った後のインプラント300の大腿骨ステム330の表面を示している。
【0085】
更に他の代替的実施形態を、
図5A及び
図5Bに示す。これらの図は、骨スクリュー500を示している。骨スクリュー500は、例えば椎弓根スクリューを含んでよい。骨スクリュー500は、球頭部510とネジ軸520とを備える。骨スクリュー500または骨スクリュー500の1つ以上の部分は、窒化ケイ素セラミック材料を含んでよい。骨スクリュー500の1つ以上の部分または表面を粗化処理またはテクスチャー加工して、インプラントの抗菌性または他の特性を改善してもよい。例えば、
図5Bに示すように、ネジ軸520は粗化処理されている。スクリュー500の頭部510は、脊椎固定システムコネクター内に所望の連結を提供するように、滑らかなままであってもよい、または研磨して滑らかにしてもよい。しかし、他の実施形態では、頭部510の表面も粗化処理するのが望ましい場合がある。これによって、本明細書に示されている抗菌性の改善を提供し得るのみならず、脊椎固定システムの別の構成要素との望ましい摩擦境界面も提供できる。
【0086】
別の実施形態で、骨スクリュー500は、または本明細書に開示されている任意の他の実施形態は、別の好適な材料(例えば、チタン)を含んでもよい。このような実施形態では、インプラント全体を窒化ケイ素材料から形成するのではなく、窒化ケイ素コーティングをインプラントに施してよい。上述のように、コーティング及び/またはコーティングの下面(すなわち、元のインプラント自体の表面)を粗化処理またはテクスチャー加工して、抗菌性及び他の特性を更に改善してよい。
【0087】
更に他の実施形態では、骨スクリュー500は、または本明細書に開示されている任意の他の実施形態は、窒化ケイ素充填材料を含む、またはインプラントを形成するために使用する材料に窒化ケイ素材を組み込んだ生体材料(例えば、金属、セラミックまたはポリマー)を含んでもよい。例えば、窒化ケイ素は、充填材として使用してよい、またはポリマー(例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリエチレン及び/またはポリウレタン)内に組み込んでもよい。窒化ケイ素は、更に充填材として使用してよい、または他の生体用インプラントを形成するために使用する他の材料(例えば、チタン、銀、ニチノール、プラチナ、銅及び関連合金を含む金属)内に組み込んでもよい。更に別の選択肢として、窒化ケイ素は、充填材として使用してもよい、または他の材料(例えば、セラミック及びサーメット)内に組み込んでもよい。窒化ケイ素を他の材料に組み込むことによって、本明細書に記載の抗菌面での利点及び/または他の有益な特性のいくつかを実現できることが予想される。窒化ケイ素は、抗菌機能を増大させるために、本明細書に記載のコーティングのうちの1つ以上の一部として使用した、別の材料内に組み込んでもよい。
【0088】
本明細書に示されている基本原理から逸脱しなければ、上述の実施形態の細部に変更を加えてよいことは、当業者にはわかるであろう。例えば、様々な実施形態またはその特徴の任意の好適な組み合わせが想到される。
【0089】
本明細書に開示されている任意の方法は、上述の方法を行うための1つ以上の工程または行為を含む。方法の工程及び/または行為は、互いに交換することができる。換言すれば、実施形態の適正な動作のために、工程または行為の特定の順序が必要でない限り、特定の工程及び/または行為の順序及び/または用法を変更してもよい。
【0090】
本明細書の全体を通じて、「一実施形態」または「実施形態」と言う場合、その実施形態との関連で記載されている特定の機構、構造または特徴は、少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体で列挙した言い回しまたはその変形は、必ずしもすべてが同じ実施形態について述べられているわけではない。
【0091】
同様に、実施形態に関する上述の説明で、様々な特徴は、本開示を簡素化する目的で、単一の実施形態、図またはその説明において、グループ化されている場合があると理解すべきである。しかし、本開示の方法は、いずれの請求項も、その請求項で明示的に列挙されているものよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映していると解釈すべきではない。むしろ、本発明の態様は、上で開示したいずれかの単一の実施形態のすべての特徴よりも少ない特徴の組み合わせにある。本明細書に示されている基本原理から逸脱しなければ、上記の実施形態の細部に変更を加えてよいことは当業者には明らかであろう。したがって、本発明の範囲は以下の請求項によってのみ決定されなければならない。
本発明は以下の態様を含む。
<1> 生体用インプラントの抗菌性を向上させる方法であって、
生体用インプラント(200)を提供することと、
前記生体用インプラント(200)に約10%~約20%の粉末を充填することであって、前記粉末がβ-窒化ケイ素材料を含む、粉末を充填することと、を含む前記方法。
<2> マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工または他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング及びプラズマエッチングのうちの少なくとも1つによって、前記生体用インプラントの抗菌性を改善するために、前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部の表面粗さを、少なくとも約500nm Raの算術平均を有する粗さ特性まで増大させること、を更に含む、<1>に記載の方法。
<3> 前記窒化ケイ素材料が、β-Si3N4、β-SiYAlON及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、<1>に記載の方法。
<4> 前記生体用インプラント(200)が椎骨間の脊椎インプラントを含む、<1>に記載の方法。
<5> 前記生体用インプラント(200)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びチタンのうちの少なくとも1つを含む、<1>に記載の方法。
<6> 前記生体用インプラント(200)が、PEEK及び15%のβ-Si3N4粉末を含む、<1>に記載の方法。
<7> 前記生体用インプラント(200)が、PEEK及び15%のβ-SiYAlON粉末を含む、<1>に記載の方法。
<8> 前記生体用インプラント(200)に窒化ケイ素のコーティング(220)を塗布すること、を更に含む、<2>に記載の方法。
<9> 前記生体用インプラント(200)にコーティング(220)を塗布する前記工程の後、前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部の表面粗さを増大させる工程を実行し、前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部の表面粗さを増大させる前記工程が、少なくとも一部の前記コーティング(220)の表面粗さを増大させることを含む、<8>に記載の方法。
<10> 前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部の表面粗さを増大させる前記工程が、少なくとも約1,250nm Raの算術平均を有する粗さ特性まで増大させることを含む、<2>に記載の方法。
<11> 前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部の表面粗さを増大させる
前記工程が、約2,000nm Raと約5,000nm Raの間の算術平均を有する粗さ特性まで増大させることを含む、<2>に記載の方法。
<12> ポリマーまたは金属基材材料と、
約10%~約20%の粉末であって、前記粉末がβ-窒化ケイ素材料を含む、粉末と、を含む、改善した抗菌性を有する生体用インプラント(200/300)。
<13> 前記生体用インプラント(200)の少なくとも一部が、マイクロマシニング、研削、研磨、レーザーエッチング、テクスチャー加工、サンドブラスト加工または他の研磨材によるブラスト加工、化学エッチング、熱エッチング及びプラズマエッチングのうちの少なくとも1つによって作成した、少なくとも約500nm Raの算術平均を有する増大した表面粗さ特性を有する、<12>に記載の生体用インプラント(200)。
<14> 前記窒化ケイ素材料が、β-Si3N4、β-SiYAlON及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、<12>に記載の生体用インプラント(200)。<15> 前記基材材料が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)及びチタンのうちの少なくとも1つを含む、<12>に記載の生体用インプラント(200)。
<16> 前記生体用インプラント(200)が、PEEK及び15%のβ-Si3N4粉末を含む、<12>に記載の生体用インプラント(200)。
<17> 前記生体用インプラント(200)が、PEEK及び15%のβ-SiYAlON粉末を含む、<12>に記載の生体用インプラント(200)。
<18> 前記生体用インプラント(200)が、椎骨間の脊髄インプラント(100)、股関節インプラント(300)または骨用ネジから選択される、<12>に記載の生体用インプラント(200)。
<19> 前記生体用インプラント(300)が、股関節インプラント(300)の大腿骨ステム(330)上の窒化ケイ素コーティング(320)を有する股関節インプラント(300)を含む、<12>に記載の生体用インプラント。
<20> 前記生体用インプラント(200)上の窒化ケイ素コーティング(220)を更に含む、<12>に記載の生体用インプラント。