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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】巻取式ランヤード
(51)【国際特許分類】
   A62B 35/04 20060101AFI20240305BHJP
   A62B 35/00 20060101ALI20240305BHJP
   E04G 21/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A62B35/04
A62B35/00 K
E04G21/32 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019149451
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021029298
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ミルブライト エヌ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ボラス エイ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 潤
(72)【発明者】
【氏名】刀 通子
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-212381(JP,A)
【文献】特開平08-089592(JP,A)
【文献】特開2014-018338(JP,A)
【文献】実開平02-109656(JP,U)
【文献】特開2009-160329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00-99/00
E04G 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルハーネスを着用した着用者の構造物からの墜落を制止する巻取式ランヤードであって、
前記構造物に取り付けられるフックと、
前記着用者にかかる衝撃を吸収するショックアブソーバ部と、
前記ショックアブソーバ部から伸び出すストラップを巻き取る巻取り器と、
前記着用者に取り付けられるコネクタと、
をこの順で備え、
前記コネクタが前記着用者の背中に位置するとともに前記フックが前記着用者の肩の前方に位置する場合に、前記ショックアブソーバ部が前記着用者の腰の周りに位置する、
巻取式ランヤード。
【請求項2】
前記フックは、前記構造物に引っ掛かる本体部を含んでおり、
前記ショックアブソーバ部の厚さは、前記本体部の厚さの10倍以下である、
請求項1に記載の巻取式ランヤード。
【請求項3】
総重量が1kg以下である、
請求項1又は2に記載の巻取式ランヤード。
【請求項4】
前記ショックアブソーバ部の長さは18cm以上である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項5】
前記フックは、前記構造物に引っ掛かる本体部を含んでおり、
前記本体部は、11.5kN以上の強度を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項6】
未伸長時における全長が50cm以上且つ80cm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項7】
伸長後の全長が1.75m未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項8】
前記ショックアブソーバ部の厚さが50mm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項9】
前記ショックアブソーバ部が、
ベルトと、
前記ベルトの長さ方向の一方側に位置する第1端部と、
前記ベルトの前記長さ方向の他方側に位置する第2端部と、
前記ベルト、前記第1端部及び前記第2端部を収容する収容部と、
を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項10】
前記収容部が布製である、請求項9に記載の巻取式ランヤード。
【請求項11】
引張荷重が前記ショックアブソーバ部に付与されていない場合、前記ベルトが、前記ショックアブソーバ部の厚さ方向において重なる態様で前記収容部の内部において折り畳まれている、請求項9又は10に記載の巻取式ランヤード。
【請求項12】
前記ベルトが前記厚さ方向において7回以下重ねられている、請求項11に記載の巻取式ランヤード。
【請求項13】
前記長さ方向において両側に引張荷重が前記ショックアブソーバ部に付与されている場合、前記ベルトの折り畳みが解除され、前記ベルトが前記長さ方向において両側に延びる、請求項9~12のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項14】
前記巻取り器が、
収容部の内部に設けられたコイル部材に巻き付けられているストラップと、
回転軸及び回転羽根と、
コネクタが接続される接続部と、
を有し、
前記ストラップが伸長している間、前記回転羽根が前記回転軸周りに回転し、遠心力によって径方向外側に引っ掛かることによって、引張荷重が付与された場合に前記ストラップをロックする、請求項1~13のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項15】
前記フックが、
構造物に引っ掛けられる本体部と、
前記本体部を含んで形成された環状部分を閉塞するグリップ部と、
前記グリップ部によって前記環状部分の閉塞状態を維持するロック部と、
を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【請求項16】
前記本体部が、前記グリップ部に係止される先端部を有し、前記グリップ部が、根元部から前記先端部に向かって直線状に延びており、前記グリップ部の先端には前記先端部が入り込む凹部が設けられている、請求項15に記載の巻取式ランヤード
【請求項17】
前記巻取式ランヤードの全長に対する前記ショックアブソーバ部の長さの割合が30%以上である、請求項1~16のいずれか一項に記載の巻取式ランヤード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、巻取式ランヤードに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、着用者の墜落を制止する安全帯が記載されている。この安全帯は着用者に装着される胴ベルトとランヤードとを備えており、ランヤードは胴ベルトに連結されている。ランヤードは、胴ベルトに固定されたショックアブソーバ部と、ショックアブソーバ部に連結された巻取り器と、巻取り器から伸び出すストラップの先端に取り付けられたフックとを備える。
【0003】
巻取り器は、フックが取り付けられた巻取り器からのストラップの引き出し長さを調整可能とされており、ショックアブソーバ部は巻取り器と胴ベルトの間に設けられている。また、ショックアブソーバ部にはケーシングと帯状のベルトが設けられており、帯状のベルトはケーシングの内部に畳まれた状態で収容されている。帯状のベルトの一端はケーシングに形成された挿通口からケーシングの外部に伸び出すと共に巻取り器に接続されており、帯状のベルトの他端は胴ベルトに接続されている。
【0004】
胴ベルトが作業者に装着されてフックが構造物の取付設備に取り付けられた状態で、作業者が構造物から墜落等をしてランヤードに引張荷重が付与されると、弛んでいたストラップに引張荷重が作用する。このとき、ランヤードは衝撃を受ける。また、ショックアブソーバ部の帯状のベルトが巻取り器側に引っ張られると共に、前述した挿通口が広げられてショックアブソーバ部のケーシングが分割する。そして、ケーシングの内部で折り畳まれていた帯状のベルトが展開されることにより、作業者に対する衝撃が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-126184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、胴ベルトではなくフルハーネスを含む墜落制止用器具へのニーズが高まっている。フルハーネスでは巻取式ランヤードの取付位置が着用者の背中となり、胴ベルトでは取付位置が着用者の腰となっている。このように、フルハーネスと胴ベルトとでは、着用者に対する取付位置が異なっている。そのため、巻取式ランヤードの各部の位置が着用者への安全性やフィット感に重要な役割を果たすところ、上述及び従来の巻取式ランヤードでは、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る巻取式ランヤードは、構造物からの着用者の墜落を制止する巻取式ランヤードであって、構造物に取り付けられるフックと、着用者にかかる衝撃を吸収するショックアブソーバ部と、ショックアブソーバ部から伸び出すストラップを巻き取る巻取り器と、着用者に取り付けられるコネクタと、をこの順で備え、巻取式ランヤードの全長に対するショックアブソーバ部の長さの割合が30%以上である。
【0008】
前述した一側面に係る巻取式ランヤードでは、構造物に取り付けられるフックと、ショックアブソーバ部と、巻取り器と、着用者に取り付けられるコネクタと、がこの順で並ぶように配置されている。よって、墜落制止用器具がフルハーネスであって、コネクタが着用者の背中に位置するように巻取式ランヤードが着用されるときに、コネクタに隣接する巻取り器も着用者の背中に位置すると共に、ショックアブソーバ部は着用者の腰の周りに位置して、フックは構造物に取り付けられる。従って、ショックアブソーバ部を着用者の腰の周りにフィットさせることができると共に、着用者の頭部付近へのコネクタ、巻取り器及びフックの当接を回避することができる。また、この巻取式ランヤードでは、巻取式ランヤードの全長に対するショックアブソーバ部の割合が30%以上とされている。よって、長さの割合が30%以上とされたショックアブソーバ部を着用者の身体に追従させて着用者の身体に沿ってフィットさせることができるので、着用時における違和感を低減させてフィット感を高めることができる。その結果、フィット感を良好にすると共に安全性を高めることができる。
【0009】
フックは、構造物に引っ掛かる本体部を含んでおり、ショックアブソーバ部の厚さは、本体部の厚さの10倍以下であってもよい。
【0010】
前述した巻取式ランヤードでは、総重量が1kg以下であってもよい。
【0011】
ショックアブソーバ部の長さは18cm以上であってもよい。
【0012】
フックは、構造物に引っ掛かる本体部を含んでおり、本体部は、11.5kN以上の強度を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一側面によれば、フィット感を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係る巻取式ランヤードが着用者に着用された状態の例を示す図である。
図2図2は、図1の巻取式ランヤードを示す斜視図である。
図3図3は、図1の巻取式ランヤードのショックアブソーバ部のベルトを示す斜視図である。
図4図4は、図3のショックアブソーバ部のベルトの状態を模式的に示す図である。
図5図5は、図1の巻取式ランヤードを示す側面図である。
図6図6は、図1の巻取式ランヤードを図5とは異なる方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る巻取式ランヤードを実施するための形態について詳細に説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0016】
本明細書において、「墜落制止用器具」は、人の墜落を制止する器具であって、例えば、高所において作業を行う作業者を含む労働者が構造物から墜落しないようにする器具を含んでいる。「構造物」は、建物、橋梁、ダム、はしご、重機、電柱、足場、鉄塔及びゴンドラを含む施設等を示している。また、「墜落制止用器具」は、ランヤードとフルハーネスを含んでいてもよい。「フルハーネス」とは、ランヤードを着用した者(本開示では「着用者」とする)の墜落を制止するときに着用者の身体にかかる荷重を着用者の肩、腰部及び腿等において支持する構造を備えた器具を示している。
【0017】
図1は、本実施形態に係る巻取式ランヤード1が着用者Mに着用された状態の例を示している。図2は、本実施形態に係る巻取式ランヤード1を示している。図3は、後述するショックアブソーバ部30の内部に収容されるベルト31を示している。巻取式ランヤード1がフルハーネスへ取り付けられる場合、巻取式ランヤード1は2mを超える高さを有する構造物において使用されてもよい。
【0018】
例えば、着用者Mには、肩ベルトB1、背面ベルトB2、腿ベルトB3、骨盤ベルトB4が装着されており、着用者Mの背中M2に位置する一対の肩ベルトB1及び一対の背面ベルトB2の間の部分に環状部材Cが設けられている。以降の説明において、肩ベルトB1、背面ベルトB2、腿ベルトB3及び骨盤ベルトB4を纏めて取付設備(フルハーネス)Bと称することがある。環状部材Cは、例えば、D環である。
【0019】
巻取式ランヤード1は、着用者Mに取り付けられるコネクタ10と、ストラップ21を巻き取る巻取り器20と、着用者Mにかかる衝撃を吸収するベルト31が内部で折り畳まれたショックアブソーバ部30と、構造物に取り付けられるフック40とを備える。巻取式ランヤード1は、例えば、フルハーネスと環状部材Cを介して取り付けられる。
【0020】
なお、図1では、着用者Mが手でフック40を把持している例を示しているが、フック40を構造物に取り付けていないときにはフック40を着用者Mの肩M1の前に位置する環状部分に引っ掛けておいてもよい。この場合、当該環状部分は、例えば、着用者Mの肩M1の前に位置する肩ベルトB1に固定されている。巻取式ランヤード1の重量は、一例として、0.3kg以上且つ1.5kg以下である。また、巻取式ランヤード1の重量は、0.3kg以上且つ1.0kg以下であってもよい。このように、本実施形態に係る巻取式ランヤード1の重量は1kg以下とされている場合、更なる軽量化が実現される。巻取式ランヤード1の重量の上限は、0.9kg、0.8kg、0.7kg又は0.6kgであってもよい。また、巻取式ランヤード1の重量の下限は、0.4kg又は0.5kgであってもよい。
【0021】
巻取式ランヤード1は、フック40、ショックアブソーバ部30、巻取り器20及びコネクタ10をこの順で備える。すなわち、フック40、ショックアブソーバ部30、巻取り器20及びコネクタ10は、一定の長さ方向D1に沿って配置される。フック40、ショックアブソーバ部30、巻取り器20及びコネクタ10がこの順で配置されることにより、コネクタ10及び巻取り器20が着用者Mの背中M2に対向すると共に、フック40が着用者Mの肩M1の前又は構造物に取り付けられる。従って、コネクタ10、巻取り器20及びフック40が着用者Mの頭部M3、首部M4及び顔部M5(頭部M3付近)に当たらないようにすることができる。
【0022】
コネクタ10は、巻取式ランヤード1を取付設備Bに接続する部位である。本実施形態において、コネクタ10は着用者Mの背中M2に位置する環状部材Cに固定される部位であり、巻取り器20はコネクタ10の隣接位置に設けられる。また、巻取式ランヤード1では、ショックアブソーバ部30が巻取り器20から伸びると共に着用者Mの腰M6に沿うように配置され、この状態でフック40が肩M1の前の前述した環状部分に引っ掛けられる。コネクタ10は、環状部材Cを介さずに、例えば、取付設備Bのウェブ部分に直接取り付けられてもよい。
【0023】
コネクタ10は、一例として、スチール、鋼、鉄、又はアルミニウムによって構成されていてもよいし、合金によって構成されていてもよい。また、コネクタ10は、JIS T8165(墜落制止用器具)に定められた引張試験の方法若しくはこれと同様の方法によって11.5kNの引張荷重を掛けた場合において破断せず、コネクタ10としての機能を失う程度には変形せず、又は、外れ止め装置としての機能を失わない。すなわち、コネクタ10は、11.5kNの引張荷重が付与されても機能を失う程度には変形せず、11.5kN以上の強度を有する。コネクタ10の重量は、例えば、0.02kg以上且つ0.2kg以下である。また、コネクタ10は、ダブルロック機構、又はトリプルロック機構を有していてもよい。コネクタ10は、例えば、C字状のフレーム部11と、コネクタ10を開閉するゲート部12とを備えるカラビナである。なお、コネクタ10の材料、重量及び形状は上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0024】
巻取り器20は、ショックアブソーバ部30の内部を通るストラップ21を巻き取る部位である。ストラップ21は、例えば、22kN以上の強度を有するウェブ(繊維によって形成された膜状のシート部材)によって構成されている。ストラップ21は、例えば、JIS T8165(墜落制止用器具)に定められた引張試験によって22kNの引張荷重が付与されたときに破断が生じない材料によって構成されている。
【0025】
巻取り器20は、例えば、ストラップ21と、後述する回転軸及び回転羽根を収容するハウジング22と、コネクタ10が接続される接続部23とを備える。ストラップ21はハウジング22の内部に設けられたコイル部材に巻き付けられている。ストラップ21の長さ(全長)は、例えば、0.5m以上且つ2.9m以下であってもよいし、0.5m以上且つ1.4m以下であってもよい。
【0026】
本実施形態では、ストラップ21が巻き付けられるコイル部材の数が1本とされており、これにより、巻取り器20の小型化及び軽量化が実現されている。ハウジング22は、ストラップ21が伸び出す開口22bをショックアブソーバ部30側に有する。接続部23は、例えば、ハウジング22に固定された環状の部位であり、接続部23にコネクタ10のフレーム部11が通された状態で巻取り器20がコネクタ10に接続されている。
【0027】
巻取り器20は、例えば、着用者Mが構造物から墜落等してフック40から離間する引張方向Xへの引張荷重を受けると、ストラップ21が一定量伸び出してロックする。巻取り器20は、JIS T8165(墜落制止用器具)に定められた引張試験によって8kN(又は6kN)の引張荷重が付与されたときにロック機能を維持可能な強度を有する。すなわち、巻取り器20は、8kN(又は6kN)以上の強度を有する。巻取り器20のロック機能は、例えば、巻取り器20の内部に設けられた回転軸を中心として回転する回転羽根が、ストラップ21の伸び出しと共に回転して遠心力によって径方向外側に引っ掛かることによって実現される。
【0028】
ところで、本実施形態では、ショックアブソーバ部30によって、巻取式ランヤード1における自由落下距離(フルハーネスを着用する場合における当該フルハーネスを接続する高さからフックの取付設備等の高さを減じたものにランヤード長さを加えたもの)が4.0m以下に抑えられてもよい。なお、自由落下距離に基づいた測定試験はJIS T8165(墜落制止用器具)の落下試験に従って行われ、落下試験における自由落下距離は1.8m以上且つ4.0m以下である。また、巻取式ランヤード1の自由落下距離が1.8m以上、且つ巻取式ランヤード1の衝撃荷重が4kN以下であるときにショックアブソーバ部30の伸びは1.2m以下である。巻取式ランヤード1の自由落下距離が4.0m以下、且つ巻取式ランヤード1の衝撃荷重が6kN以下であるときにショックアブソーバ部30の伸びは1.75m以下である。
【0029】
ショックアブソーバ部30は、着用者Mの墜落を制止するときに生じる着用者Mへの衝撃を吸収する部位である。例えば、ショックアブソーバ部30は、全体として比較的柔らかい材料によって構成されており、着用者Mに当接しても違和感を与えない程度の可撓性を有していてもよい。ショックアブソーバ部30は、ベルト31と、ベルト31の長さ方向D1の一方側(巻取り器20側)に位置する第1端部33と、ベルト31の長さ方向D1の他方側(フック40側)に位置する第2端部34と、ベルト31、第1端部33及び第2端部34を収容する収容部32と、を備える。例えば、ベルト31は、JIS T8165(墜落制止用器具)に定められた引張試験によって15kNの引張荷重が付与されたときに破断が生じない材料によって構成されている。従って、ショックアブソーバ部30は、15kN以上の強度を有し、15kNの引張荷重が付与された場合であっても衝撃を吸収する機能を失わない。
【0030】
収容部32は、例えば、布製であり、変形可能な材料によって構成されている。第1端部33は、長さ方向D1の一端にストラップ21が通される第1開口33bを有する。第1端部33は、第1開口33bから離れるに従って広がる筒状を呈しており、第1開口33bの反対側において広がった第2開口33cには折り畳まれたベルト31が保持されている。第2端部34は、例えば、第1開口33b及び第2開口33cと同様の第1開口34b及び第2開口34cを備えており、第1端部33と同様の形状を有する。ストラップ21は、第1端部33の第1開口33b、及び第2端部34の第1開口34bを通って巻取り器20の反対側(フック40側)に延び出しており、ストラップ21の先端はフック40の後述する本体部41に接続されている。第1端部33及び第2端部34は、例えば、ゴム製のカバーであってもよいし、プラスチック、ポリエチレン、ビニル樹脂、又はこれらの混合物によって構成されていてもよい。このように、第1端部33及び第2端部34の材料は適宜変更可能である。なお、第1端部33及び第2端部34は省略することも可能である。
【0031】
図3は、収容部32の内部において折り畳まれたベルト31を示す斜視図である。図4は、折り畳まれているベルト31の態様を模式的に示す図である。ベルト31にはストラップ21が接続されており、ベルト31と共にストラップ21が折り畳まれている。ショックアブソーバ部30は一対のベルト31を備えており、一対のベルト31は、例えば、ショックアブソーバ部30の厚さ方向D2に重ねられている。
【0032】
例えば、ショックアブソーバ部30では、厚さ方向D2に沿ってベルト31が7枚以下重ねられているが、ベルト31は、厚さ方向D2に沿って6枚以下、5枚以下、又は4枚以下重ねられていてもよい。本実施形態に係るショックアブソーバ部30では、ベルト31が厚さ方向D2に沿って4枚重ねられている。各ベルト31は、ショックアブソーバ部30の長さL1以上延びる第1部分31bと、長さL1の半分程度延びる第2部分31cとを有する。各ベルト31は1.5往復ずつ折り畳まれており、折り畳まれた部分の間は縫い込まれている。
【0033】
ショックアブソーバ部30に引張荷重が付与されていない状態ではベルト31が折り畳まれた状態が維持される。しかしながら、ショックアブソーバ部30に長さ方向D1の両端側への引張荷重が付与されると、折り畳まれたベルト31の間の縫い目が裂けて、ベルト31が長さ方向D1の両端側に伸び出す。このようにベルト31が伸びてベルト31の縫い目が裂けるときに、引張に伴う衝撃エネルギーが吸収される。これにより、着用者Mへの衝撃エネルギーが緩和され、巻取式ランヤード1の自由落下距離及び着用者Mへの衝撃を低減させることができる。なお、伸び出した後のベルト31の長さは、例えば、0.2m以上且つ0.6m以下、又は、0.2m以上且つ1.75m以下である。
【0034】
図1及び図2に示されるように、ショックアブソーバ部30の巻取り器20との反対側にはフック40が設けられている。フック40は、例えば、アルミニウム製である。しかしながら、フック40の材料は、例えば、鋼合金であってもよい。更に、フック40の材料は、スチール、鋼、鉄又はカーボンであってもよく、適宜変更可能である。フック40の重量は、例えば、0.15kg以上且つ0.4kg以下であってもよいし、0.15kg以上且つ0.65kg以下であってもよい。
【0035】
フック40は、例えば、構造物に引っ掛けられる本体部41と、本体部41を含んで形成される環状部分Pを閉塞するグリップ部42と、グリップ部42による環状部分Pの閉塞状態を保持するロック部43とを備える。グリップ部42は、着用者Mに把持される部位であり、例えば、手で握られたときに環状部分Pの内側に揺動して環状部分Pを開放する。
【0036】
本体部41は、例えば、グリップ部42に係止される先端部41bと、先端部41bからC字状に延びる引っ掛かり部41cと、引っ掛かり部41cの先端部41bとの反対側の端部からショックアブソーバ部30に向かって延びる根元部41dとを備える。引っ掛かり部41cは、構造物に引っ掛かる部位である。本体部41は、引っ掛かり部41cを厚さ方向D2から補強する凸状の補強部41fを有していてもよい。
【0037】
根元部41dは、引っ掛かり部41cからショックアブソーバ部30に向かって延びる板状の部位である。根元部41dは、ショックアブソーバ部30側の端部に、ストラップ21が挿通及び固定される孔部41gを有する。根元部41dの孔部41gよりも引っ掛かり部41c側の部位には、グリップ部42及びロック部43のそれぞれが揺動可能に固定されている。
【0038】
グリップ部42は、環状部分Pの内側への力を受ける部位に複数の微小突起42cを有していてもよい。この場合、グリップ部42が手で握られたときに、微小突起42cによってグリップ部42から手等を滑りにくくすることができる。複数の微小突起42cは、一例として、千鳥状に配置されているが、微小突起42cの配置態様は適宜変更可能である。グリップ部42は、本体部41の根元部41dから先端部41bに向かって延びている。グリップ部42は、本体部41と共に前述した環状部分Pを形成し、構造物の一部が引っ掛かり部41cの内側に入り込んだ状態で環状部分Pが形成されることによってフック40が構造物に固定される。
【0039】
グリップ部42は、根元部41dから先端部41bに向かって直線状に延びており、グリップ部42の先端には先端部41bが入り込む凹部42bが設けられている。例えば、凹部42bは環状部分Pの外側を向くと共に、グリップ部42は環状部分Pの外側に常時付勢されている。これにより、グリップ部42は、凹部42bに入り込んだ先端部41bを凹部42bが押す方向に常時付勢されている。従って、フック40のロック機能を確実且つ強固に維持することが可能となる。
【0040】
ロック部43は、根元部41dから見てグリップ部42の反対側に設けられており、引っ掛かり部41c側に揺動支点を有する。ロック部43は、根元部41dから離間する方向に揺動したときにグリップ部42の揺動をロックし、根元部41dに接近する方向に揺動したときにグリップ部42を揺動可能とする。よって、根元部41dに接近する方向にロック部43が揺動した状態でグリップ部42が環状部分Pの内側に押されることにより、環状部分Pが開放されて構造物の一部を引っ掛かり部41cに入り込ませることが可能となる。そして、引っ掛かり部41cに構造物の一部が入り込んだ状態でグリップ部42への力を解除し、根元部41dから離間する方向にロック部43が揺動すると、環状部分Pの中に構造物の一部が入り込んだ状態でロック部43がグリップ部42をロックする。従って、環状部分Pから構造物の一部が外れる事態が阻止される。
【0041】
次に、コネクタ10、巻取り器20、ショックアブソーバ部30及びフック40の長さの例について図5を参照しながら説明する。以下では、コネクタ10、巻取り器20、ショックアブソーバ部30及びフック40を長さ方向D1に沿って並べたとき(引張荷重が付与されておらずストラップ21が巻取り器20から延びていないとき)における巻取式ランヤード1の全長Lに対するショックアブソーバ部30の長さL1について説明する。本開示において、「ショックアブソーバ部の長さ」とは、ショックアブソーバ部の内部において畳まれた状態とされたベルトの長さ(例えば、折り畳まれた状態とされたベルト31の長さ方向D1の長さを示している。
【0042】
フルハーネスと併用する巻取式ランヤード1の全長Lは、着用者の背中から前胸部までの距離を基に定められ、全長Lが長すぎると作業時に邪魔になる可能性がある等の制約を加味して設計される。このため、全長Lの値は所定範囲内に収まることが期待される。ショックアブソーバ部の長さL1が全長Lに対して相対的に短い場合、ショックアブソーバ部以外のフック及び巻取り器等の部位が相対的に長くなる。この場合、巻取式ランヤードの着用時に当該部位が着用者の身体に当たることにより、着用者に違和感を与えてフィット感を損なう可能性がある。
【0043】
巻取式ランヤード1の全長Lに対するショックアブソーバ部30の長さL1の割合は、30%以上である。全長Lに対する長さL1の割合の下限は、40%、45%又は50%であってもよい。また、全長Lに対する長さL1の割合は、60%以下であってもよい。この場合、コネクタ10、巻取り器20及びフック40の長さをより確実に確保することができる。全長Lに対する長さL1の割合の上限は、55%又は50%であってもよい。
【0044】
ショックアブソーバ部30の長さL1は、例えば、18cm以上である。また、長さL1は、20cm以上、22cm以上又は25cm以上であってもよい。長さL1の上限は、例えば、50cmである。しかしながら、長さL1の上限は、45cm、40cm又は35cmであってもよい。巻取式ランヤード1の全長Lは、例えば、50cm以上且つ80cm以下である。また、全長Lの下限は55cm又は60cmであってもよいし、全長Lの上限は75cm又は70cmであってもよい。一例としての全長Lは63cmである。
【0045】
続いて、ショックアブソーバ部30及びフック40の厚さの例について図6を参照しながら説明する。以下では、ショックアブソーバ部30の厚さ方向D2の厚さT1、及びフック40の本体部41(根元部41d)における厚さ方向D2の厚さT2について説明する。本開示において、「ショックアブソーバ部の厚さ」とは、ショックアブソーバ部の内部において畳まれた状態とされたベルトの厚さ(例えば、折り畳まれた状態とされたベルト31の厚さ方向D2の厚さ、又は折り畳まれたベルト31を収容する収容部32の厚さ方向D2の厚さ)を示している。
【0046】
ショックアブソーバ部30の厚さT1は、例えば、50mm以下又は35mm以下である。厚さT1は、30mm以下、又は25mm以下であってもよい。一例として、厚さT1は24mmである。フック40の厚さT2は、例えば、2.5mm以上、3mm以上又は3.5mm以上である。また、厚さT2は、5mm以上であってもよいし、6mm以上であってもよい。フック40の厚さT2に対するショックアブソーバ部30の厚さT1の倍率は、例えば、10倍以下、8倍以下又は6倍以下である。
【0047】
また、厚さT2に対する厚さT1の倍率は、8倍以下、6倍以下、5倍以下又は4倍以下であってもよい。厚さT2に対する厚さT1の倍率は、1倍以上、2倍以上又は3倍以上であってもよい。換言すれば、ショックアブソーバ部30の厚さT1に対するフック40の厚さT2の割合の下限は、10%、12.5%、16.7%、20%又は25%であってもよい。また、厚さT1に対する厚さT2の割合の上限は、100%、50%又は33.3%であってもよい。
【0048】
次に、本実施形態に係る巻取式ランヤード1の作用効果について説明する。
【0049】
巻取式ランヤード1では、巻取式ランヤード1の全長Lに対するショックアブソーバ部30の長さL1の割合が30%以上とされている。よって、図1に示されるように、長さL1の割合が30%以上とされたショックアブソーバ部30を着用者Mの身体に追従させて着用者Mの身体に沿ってフィットさせることができるので、着用時における違和感を低減させてフィット感を高めることができる。
【0050】
また、巻取式ランヤード1では、構造物に取り付けられるフック40と、ショックアブソーバ部30と、巻取り器20と、着用者Mに取り付けられるコネクタ10と、がこの順で並ぶように配置されている。よって、図1に示されるようにフルハーネスを着用した着用者Mの背中M2にコネクタ10が位置するように巻取式ランヤード1が着用されるときに、コネクタ10に隣接する巻取り器20も着用者Mの背中M2に位置すると共に、ショックアブソーバ部30は着用者Mの腰M6の周りに位置して、フック40は構造物に取り付けられる。
【0051】
従って、ショックアブソーバ部30を着用者Mの腰M6の周りにフィットさせることができると共に、着用者Mの頭部M3付近へのコネクタ10、巻取り器20及びフック40の当接を回避することができる。その結果、フィット感を良好にすると共に安全性を高めることができる。また、フック40が着用者Mの肩M1の前に取り付けられる場合であっても、コネクタ10及び巻取り器20は着用者Mの背中M2に対向する位置に設けられるため、上記同様、着用者Mの頭部M3付近へのコネクタ10、巻取り器20及びフック40の当接を回避することができる。
【0052】
また、巻取式ランヤード1では、コネクタ10、巻取り器20、ショックアブソーバ部30及びフック40がこの順で並ぶように配置されている。ところで、着用者に取り付けられるコネクタ、ショックアブソーバ部、巻取り器及びフックがこの順で並ぶ巻取式ランヤードが知られている。しかしながら、この巻取式ランヤードでは、コネクタ、ショックアブソーバ部及び巻取り器が着用者の身体を囲むように配置され、フックが邪魔にならないようにするために巻取り器とフックとの間にストラップが延在する領域を長く確保する必要があった。従って、巻取式ランヤードの全長が長くなるという問題があった。
【0053】
これに対し、本実施形態に係る巻取式ランヤード1では、コネクタ10、巻取り器20、ショックアブソーバ部30及びフック40がこの順で並ぶように配置される。よって、ショックアブソーバ部30とフック40との間にはストラップが延在する領域を長く確保する必要がない。従って、巻取式ランヤード1の全長Lを短くすることができると共に、相対的にショックアブソーバ部30の長さL1を長くすることができる。
【0054】
フック40は、構造物に引っ掛かる本体部41を含んでおり、ショックアブソーバ部30の厚さT1は、本体部41の厚さT2の10倍以下であってもよい。この場合、フック40の本体部41に対するショックアブソーバ部30の厚さT1を10倍以下に抑えることにより、ショックアブソーバ部30とフック40の本体部41との間の段差を小さくすることができる。従って、着用者Mの身体に対するショックアブソーバ部30及びフック40の追従性を高めることができるので、着用者Mのフィット感を高めることができる。
【0055】
巻取式ランヤード1では、総重量が1kg以下であってもよい。この場合、巻取式ランヤード1が1kg以下であることにより、巻取式ランヤード1の着用を容易に行うことができると共に、着用時における違和感を更に低減させることができる。
【0056】
ショックアブソーバ部30の長さL1は18cm以上であってもよい。この場合、ショックアブソーバ部30の長さL1が18cm以上であることにより、着用者Mの身体に対するショックアブソーバ部30の追従性を高めることができる。従って、更なる違和感の低減及びフィット感の向上が可能となる。
【0057】
フック40は、構造物に引っ掛かる本体部41を含んでおり、本体部41は、11.5kN以上の強度を有してもよい。この場合、着用時のフィット感を高めつつ、フック40の強度を高めることができる。
【0058】
ショックアブソーバ部30の厚さT1が35mm以下であり、フック40の厚さT2が6mm以上であってもよい。この場合、ショックアブソーバ部30とフック40との間の段差を小さくできるので、着用者Mへのフィット感を更に良好にすることができる。
【0059】
ショックアブソーバ部30では、厚さ方向D2に沿って7枚以下(一例として4枚)のベルト31が重ねられていてもよい。この場合、ショックアブソーバ部30の厚さT1を薄くすることができるので、前述した段差を更に抑えることができる。
【0060】
以上、本開示に係る巻取式ランヤードの実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載した要旨を変更しない範囲において種々の変形が可能である。すなわち、巻取式ランヤードの各部の形状、大きさ、数、材料及び配置態様は、上記の要旨を変更しない範囲において、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…巻取式ランヤード、10…コネクタ、20…巻取り器、21…ストラップ、30…ショックアブソーバ部、40…フック、41…本体部、L…全長、L1…長さ、T1,T2…厚さ、M…着用者。
図1
図2
図3
図4
図5
図6