(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ワカサギ釣り用電動リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/00 20060101AFI20240305BHJP
A01K 89/017 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A01K89/00 C
A01K89/017
(21)【出願番号】P 2019169531
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2021-10-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 幸則
(72)【発明者】
【氏名】張 永裕
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】太田 恒明
【審判官】蔵野 いづみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-30239(JP,A)
【文献】特開平4-91737(JP,A)
【文献】特開2019-24465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00-89/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体と、
前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、
前記リール本体に設けられ、前記スプールに対して摩擦係合することでスプールに巻回された釣糸を巻き取り駆動する駆動軸を備えた電動モータと、
前記電動モータの駆動軸
を、前記スプールに釣糸を巻き取る巻き取り駆動状態、及び、前記スプールから釣糸を繰り出す繰り出し駆動状態に制御する制御部と、
前記電動モータの駆動軸と前記スプールを接続する動力伝達状態と、前記
電動モータの駆動軸と前記スプールの接続を解除する動力遮断状態と、を切り換えるクラッチ機構と、
を備え、
前記制御部は、前記クラッチ機構が
前記動力伝達状態で
、前記電動モータの駆動軸が、前記巻き取り駆動状態以外のとき、及び、前記繰り出し駆動状態以外のとき、前記スプールに釣糸が巻回された状態でスプールが回転しない程度のトルクが作用するように前記駆動軸を釣糸巻き取り方向に回転制御して、前記スプールを常時制動状態にすることを特徴とするワカサギ釣り用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸が巻回されるスプールを電動モータにより回転駆動させるワカサギ釣り用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結氷した湖の上で行なうワカサギの穴釣りやワカサギのボート釣り等においては、常時釣り竿を手で保持せずにリールに短い釣り竿を取り付け、台の上に載置した状態で釣りを行なうことができる電動リールが用いられている。
このようなワカサギ釣り用電動リールは、例えば、特許文献1に開示されているように、リール本体内に小型の電動モータを組み込んでおり、電動モータの駆動軸の表面をスプールの側面に直接接触(摩擦係合)させることで、ギア等を用いることなく、摩擦力で電動モータの回転駆動力をスプールに伝達するようにしている。
【0003】
一般的に、ワカサギ釣り用電動リールは、仕掛けを放出する際、クラッチ操作部材を操作することで、電動モータの駆動軸とスプールの側面との摩擦係合を離間させてスプールをフリー回転状態にして仕掛けを落下させる。そして、所定の棚まで仕掛けが落下した際、クラッチ操作部材を操作することで、電動モータの駆動軸とスプールの側面とを摩擦係合状態にし、その状態で当たりがあった際、電動スイッチをONにしてスプールを巻き取るように構成されている。
また、特許文献1には、電動モータを正転及び逆転制御することで、釣糸の巻き取り及び繰り出しが行える構成が開示されており、仕掛けを上下動させる様々な誘いモードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような従来のワカサギ釣り用電動リールでは、当たりを待っている状態で誘い操作(しゃくり操作)を行なうと、スプールが逆回転してしまい、釣糸が引き出されることがある。これは、スプールは、電動モータの磁力で逆回転が停止しているだけであるため、スプール側から釣糸繰り出し方向に大きなトルクが作用すると、電動モータの駆動軸は逆回転し易く、特に、魚が掛かって強い合わせを行なうと、スプールは逆回転し易い。
【0006】
また、最近では、釣果のアップを図るために、早く仕掛けを落下させるよう重い錘を装着したり、長い仕掛け(針の本数が多い)を装着したり、長い仕掛けに対応した長いロッドを用いることが行われており、このような状況下で、上記した誘い操作や合わせ操作を行なうと、水の抵抗が大きくなり、スプールが逆回転し易い。この場合、電動モータの磁力を上げると制動力が向上するが、消費電力が大きくなり、小型の電源(乾電池など)で作動させるワカサギ用の電動リールでは不向きとなってしまう。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、電動モータの磁力を上げることなく、誘い操作や合わせ操作を行なった際に釣糸の繰り出しを抑制することが可能なワカサギ釣り用電動リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明のワカサギ釣り用電動リールは、リール本体と、前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、前記スプールに対して摩擦係合することでスプールに巻回された釣糸を巻き取り駆動する駆動軸を備えた電動モータと、前記電動モータの駆動軸の回転を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、スプールが釣糸を巻き取る巻き取り駆動状態以外では、スプールに釣糸が巻回された状態でスプールが回転しない程度のトルクが作用するように前記駆動軸の回転を制御して制動状態にすることを特徴とする。
【0009】
上記した構成によれば、摩擦係合によってスプールを回転駆動させる電動モータは、巻き取り駆動状態以外では、スプールが釣糸を巻き取らない程度に駆動軸が回転制御された状態となっており、スプールに対しては、釣糸繰り出し方向への回転に制動力が付与された状態となっている。このため、釣竿を上下動する等、誘い操作(しゃくり操作)、或いは、魚が掛かって合わせ操作等をしても、スプールから不用意に釣糸が繰り出されることが抑制される。この場合、スプールに作用する制動力の大きさは、スプールに釣糸が巻回された状態でスプールが回転しない程度のトルクが作用するように設定され、更に、スプールが空の状態においてもスプールが回転しない程度に設定されていても良い。
【0010】
また、上記した目的を達成するために、本発明のワカサギ釣り用電動リールは、リール本体と、前記リール本体に回転可能に支持され、釣糸が巻回されるスプールと、前記リール本体に設けられ、前記スプールに対して摩擦係合することでスプールに巻回された釣糸を巻き取り駆動する駆動軸を備えた電動モータと、前記電動モータに対して印加電流の向きを変えることで、釣糸を巻き取る正転駆動モード、釣糸を繰り出す逆転駆動モード、前記スプールに対して制動力を付与する制動モードに切り換え制御する制御部と、を有しており、前記制御部は、正転駆動モード、及び、釣糸を繰り出す逆転駆動モードのとき以外に、前記制動モードに切り換えることを特徴とする。
【0011】
上記した構成によれば、摩擦係合によってスプールを回転駆動させる電動モータを、駆動モード(正転駆動モード、逆転駆動モード)以外のときは、前記スプールに対して制動力を付与する制動モードに切り換えることから、釣竿を上下動する等、誘い操作(しゃくり操作)、或いは、魚が掛かって合わせ操作等をしても、スプールから不用意に釣糸が繰り出されることが抑制される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電動モータの磁力を上げることなく、誘い操作や合わせ操作を行なった際に釣糸の繰り出しを抑制することが可能なワカサギ釣り用電動リールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るワカサギ釣り用電動リールの第1の実施形態を示す斜視図。
【
図2】
図1のワカサギ釣り用電動リールの使用状態を示す平面図。
【
図3】
図1のワカサギ釣り用電動リールの内部構成を示す断面図。
【
図4】
図1のワカサギ釣り用電動リールの駆動系及び制御系の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1から
図4は、本発明に係るワカサギ釣り用電動リール(以下、電動リールと称する)の第1の実施形態を示す図であり、
図1は斜視図、
図2は使用状態を示す平面図、
図3は内部構成を示す断面図、そして、
図4は駆動系及び制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0015】
なお、本実施形態に係る電動リールは、電動モータの駆動軸が、例えばスプールの回転軸と直交した状態でスプールの側面に対して摩擦接触することで動力伝達(スプールを釣糸巻き取り方向に回転駆動する)状態となり、かつ、電動モータを機械的に変位させて両者の摩擦接触を解除(離間)することで、スプールはフリー回転可能状態となるように構成されている。この場合、スプールへの回転駆動力の伝達は、ギアによる変速を行なうことなく、電動モータに対する印加電圧を制御することによって回転状態が制御されるようになっている。
【0016】
図1~
図3に示されるように、電動リール4は、リール本体5を備える。リール本体5は、その外郭を構成する筐体6を有する。筐体6は、例えばABS樹脂、ポリカーボーネートのような合成樹脂材料により形成される。
【0017】
筐体6は、やや湾曲した縦長の(前後方向に長い)箱体であり、
図2に示されるように釣人が右手又は左手(
図2では右手)で掴むことができる程度の大きさを有する。
図3に示されるように、筐体6は、ロアケース7とトップカバー8とで構成される。
【0018】
トップカバー8は、ネジ止め或いは嵌め込み等の手段によりロアケース7に固定されて、ロアケース7との間に電動モータ44を収容するためのモータ収容室を画定する。更に、リール本体5内、本実施形態ではロアケース7には、電動モータ44及び液晶表示装置90に電力を供給するための電源52(例えば乾電池や再充電可能なバッテリー等であり、本実施形態では、単4のアルカリ乾電池を2本並列使用)を着脱自在に収容できる収容部Sを画定する内部電源ハウジング71が設けられる。
【0019】
なお、リール本体5には、内部電源ハウジング71の収容部S(本実施形態では、収容部Sを含めて電動モータ44等を全体的に露出させるためのロアケース7の開口)を外部に対して閉じるためのカバー部材77が着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0020】
筐体6は、一対の脚16を有する。脚16は、例えば筐体6よりも柔らかいゴム状弾性体で形成される。脚16は、ロアケース7の底壁に固定されるとともに、リール本体5の左右方向に互いに離間する。脚16は、例えば氷結した湖面上に据え付けられる釣用の台の上にリール本体5を置いた際に、この台の上面に接触する接地部として機能する。
【0021】
筐体6の前端部には合成樹脂製の支持台26がネジ止め等により固定されており、この支持台26は、釣竿40が装着可能な竿装着部としての竿受け部27と、スプール受け部28とを備える。
【0022】
竿受け部27は、筐体6の前端の左右方向(前後方向に対して直交する幅方向)に沿う中央部に位置している。竿受け部27は、筐体6の前方に向けて開口する支持孔29を有するとともに、釣糸ガイド30を支持する。釣糸ガイド30は、竿受け部27の上方に突出するように垂直に起立する待機位置と、この待機位置から筐体6の後方に倒れ込む動作位置との間で回動可能であり、通常は待機位置に保持されている。また、支持台26のスプール受け部28は、トップカバー8の開口部21の下方で水平に配置されている。
【0023】
図3に示されるように、ロアケース7の底壁の軸支部13にはスプール軸33が支持される。スプール軸33は、ロアケース7の底壁から垂直に起立するとともに、スプール受け部28を貫通してスプール受け部28の上に突出する。
【0024】
スプール軸33の上部には合成樹脂材又は金属材製のスプール34が回転可能に支持される。スプール34は、リール本体5の前部において、リール本体5の上面の前方側の左右方向の中央部に位置する。
なお、スプール34の直ぐ後側には、筐体6の上面(トップカバー8上)に位置して液晶表示装置90が設けられる。この液晶表示装置90には、例えば、仕掛けの繰り出し量(水深カウンター)、異なる誘い動作に関するモードの設定状況、巻き取りスピード、アラーム等の各種の情報が表示される。
【0025】
スプール34は、釣糸が巻回される釣糸巻回胴部36と、一対のフランジ37a,37bとを有しており、垂直なスプール軸33を中心として回転する。フランジ37a,37bは、釣糸巻回胴部36と同軸の円盤状を成すとともに、釣糸巻回胴部36を間に挟んで上下方向に向かい合う。この場合、下側フランジ37bがスプール受け部28の上面に載置される。
【0026】
スプール軸33は、釣糸巻回胴部36を同軸状に貫通して上側フランジ37aの上に突出する。スプール軸33の上端には袋ナット38がねじ込まれる。袋ナット38は、スプール受け部28との間でスプール34を挟み込んでおり、これにより、スプール34がリール本体5の前部に回転自在に支持される。なお、スプール34は、トップカバー8の開口部21の内側に位置する。
【0027】
図3に示されるように、竿受け部27の支持孔29には釣竿40が嵌め込まれるようになっている。嵌め込まれる釣竿40の構成については、長さ、形成材料など、特に限定されることはなく、嵌め込まれた状態でリール本体5の前端から前方に向けて水平に突き出る。
【0028】
釣竿40の外周面には複数の釣糸ガイド(図示せず)が取り付けられる。これらの釣糸ガイドは、釣竿40の長手方向に間隔を存して一列に設けられる。スプール34から繰り出された釣糸(図示せず)は、リール本体5の釣糸ガイド30から釣竿40の釣糸ガイドを経由して釣竿40の先端に導かれた後、釣竿40の先端から例えば湖面に開けた穴を通じて水中へ導かれる。
【0029】
トップカバー8とロアケース7との間に形成されるモータ収容室内に設置される電動モータ44は、ステータ及びロータを収容するモータハウジング(図示せず)と、このモータハウジングの前端から突出する駆動軸(出力軸)46とを有する。電動モータ44は、駆動軸46を筐体6の前後方向に沿わせた横置きの姿勢でスプール34の後方に設置される。
【0030】
電動モータ44の駆動軸46は、スプール軸33の直後に位置するとともに、このスプール軸33と直交するような位置関係を保っている。駆動軸46の前端部は、スプール34の下側フランジ37bの下方に位置する。
【0031】
駆動軸46の外周には円筒状のトルク伝達部材47が取り付けられる。トルク伝達部材47は、例えばスプール34よりも柔らかい合成樹脂材又はゴム状弾性体により形成される。
図3に示される状態では、トルク伝達部材47の外周面がスプール34の下側フランジ37bの下面に摩擦係合しており、電動モータ44の回転駆動力を、摩擦接触する駆動軸46(トルク伝達部材47)を介してスプール34に伝達するように構成されている。
【0032】
電動モータ44のモータハウジング(したがって、電動モータ44)は、図示しないピボット軸を支点として、
図3に示される水平な第1の位置と、前方下方に傾斜する第2の位置(図示せず)との間で回動可能となっている。第1の位置では、
図3に示されるように電動モータ44の駆動軸46が筐体6の前後方向に沿って水平に延びており、トルク伝達部材47の外周面がスプール34の下側フランジ37bの下面に当接(摩擦接触)する。このように当接することにより、フランジ37bとトルク伝達部材47との当接部分に摩擦抵抗が付与され、電動モータ44の駆動軸46とスプール34との間が機械的に接続される。この結果、摩擦抵抗により、電動モータ44の回転駆動力は、駆動軸46及びトルク伝達部材47を介してスプール34に伝達される。
【0033】
一方、第2の位置では、電動モータ44の駆動軸46が前下がりとなって、トルク伝達部材47の外周面がスプール34の下側フランジ37bの下面から離れる。これにより、電動モータ44の駆動軸46とスプール34との機械的な接続が解除され、トルク伝達部材47とスプール34との間に摩擦抵抗が付与されなくなり、スプール34は、フリー回転可能な状態となる。
【0034】
なお、電動モータ44は、図示しない引っ張りコイルスプリングを介して常に第1の位置に向けて弾性的に付勢されている。したがって、モータ44が第1の位置にある限り、トルク伝達部材47の外周面がスプール34の下側フランジ37bの下面に弾性的に押し付けられる。
【0035】
電動モータ44(モータハウジング)の第1の位置と第2の位置との間の切り換えは、例えば、トップカバー8から突出して設けられる操作体(クラッチ操作体)22によって行なわれる。この操作体22は、その下端がトルク伝達部材47と対向しており、下向きに押圧操作されることにより、トルク伝達部材47とともに電動モータ44の駆動軸46を下方に(第2の位置へ)に押圧する。これにより、電動モータ44の駆動軸46とスプール34との機械的な接続が解除される。また、操作体22の押圧操作力を解除すると、前述した引っ張りコイルスプリングによる付勢力によって電動モータ44が第1の位置へ復帰する。
【0036】
すなわち、操作体22は、電動モータ44の駆動軸46とスプール34とを機械的に接続する状態(動力伝達状態)と、これらの接続を解除する状態(動力伝達遮断状態)とに切り換えるクラッチ機構としての機能を果たしており、操作体22でクラッチ機構をOFFにすることで、速やかに仕掛けを所定の棚に落下させることができる。
【0037】
前記筐体6には、装置のON/OFF動作、電動モータ44の駆動、実釣時におけるモード設定等が行える操作スイッチ(複数の操作スイッチを操作部材と総称する)が設けられている。本実施形態では、筐体6の左右側壁にそれぞれ操作スイッチ70,72が設けられており、液晶表示装置90の直ぐ後側(筐体6の上面)に操作スイッチ82,84が設けられている(各操作スイッチの機能については後述する)。また、筐体6内には、前記液晶表示装置90での各種情報の表示制御や、電動モータの駆動を制御するプログラムを格納した制御部(ICモジュール)100が防水ケース(図示せず)内に設置されている。制御部100は、上記した操作部材からの操作信号を受信し、所定の動作プログラムに従って、前記電動モータ44の駆動を制御するモータ駆動回路110を介して電動モータ44の正転/逆転駆動を制御する。
【0038】
前記電動モータ44は、モータ駆動回路110に対して電源52からの供給電圧を印加することで回転駆動され、電動モータ44に対しては、操作部材の操作に応じて、制御部100によって印加電圧を可変制御するようにしている。例えば、スプールの巻き取り速度や繰り出し速度が可変制御される(スプールの回転速度が可変制御される)と共に、本実施形態では、前記操作部材によって、装置が作動状態(ON状態)になったとき、電動モータ44を、スプール34が釣糸を巻き取らない程度(回転しない程度)のトルクが作用するように、駆動軸46の回転を制御して、常時、釣糸巻き取り方向に回転駆動(以下、低速巻き取り駆動状態と称する)するようにしている。
【0039】
すなわち、本実施形態では、前記制御部100は、スプールが釣糸を巻き取る巻き取り駆動状態以外において、前記電動モータ44の駆動軸46を常に低速巻き取り駆動状態となるように制御しており、スプールは、不用意に逆転しないように、常に制動状態となっている。この場合、駆動軸46の回転力(回転速度)については、スプール34に釣糸が巻回された状態で、スプール34を巻き取り方向に回転させない程度であれば良く、繰り出された状態の釣糸を不用意に巻き取らないように設定される。特に、釣糸の巻き取りが確実に行われないように、スプール34に釣糸が巻回されていない状態(スプールが空の状態)であっても、スプールが回転しない程度のトルクが作用するように制御する(釣糸の巻回量が少なくても不用意に巻き取らない程度の制動状態に制御する)ことが好ましい。
なお、本実施形態では、電動モータ44は、誘いのモード設定によって逆転駆動するように構成されているため、この逆回転時においても、上記した低速巻き取り駆動状態が解除されるようになっている。
【0040】
本実施形態の電動モータ44は、上記したように、正転駆動すると共に、各種の仕掛けの誘い動作(仕掛けの上下動)が可能となるように、モード設定に応じた正転/逆転駆動がされるように構成されている。ここでは、誘い動作に関するモードの詳細については説明を省略するが、前記制御部100は、例えば、仕掛けを投入した後、電動モータの正転と逆転を繰り返す、間欠的に正転と逆転を繰り返す等、様々なパターンで仕掛けを上下動させるモードを実行するプログラムが格納されており、使用者の好みによってモードが選択され、そのモードに応じて電動モータ44は正転と逆転が駆動制御される。
【0041】
前記制御部100によって、電動モータ44の駆動を制御するモータ駆動回路110については、例えば、
図5に示すようなHブリッジ制御回路で構成することが可能である。図に示す制御回路において、トランジスタ110a,110dを同時にONにすると、電流がD1のように流れ、電動モータ44を正転駆動(正転モード)することが可能である。また、トランジスタ110b,110cを同時にONにすると、電流がD2のように流れ、電動モータ44を逆転駆動(逆転モード)することが可能である。なお、電源をOFFにした場合は、トランジスタ110a~110dがOFFとなり、駆動軸46はフリーな状態(フリーモード)となる。
【0042】
次に、上記した操作部材(操作スイッチ70,72及び82,84)の機能について説明する。
【0043】
前記操作スイッチ70,72は、同じ機能を有しており、
図2に示されるようにリール本体5を把持する手の2つの指(例えば、親指及び人差し指)で同時に操作可能なリール本体5の左右側面の位置にそれぞれ設けられている。
操作スイッチ70,72のうちのいずれか一方を長押し操作することによって、電動モータ44は連続駆動される。また、操作スイッチ70,72のうちのいずれか一方を長押しすることなく瞬間的な短い時間だけ押圧操作することによって、電動モータ44は寸動駆動(チョイ巻き)される。
【0044】
前記操作スイッチ82は、装置のON/OFFスイッチ(入/切スイッチ)としての機能と、電動モータ44の駆動スピードを調整する機能を備えている。例えば、操作スイッチ82を長押しすることで、ON/OFF状態とされ、ON状態において間欠的に押すことで、スピード調整(スピードの段階変更;例えば10段階)することが可能となっている。なお、駆動スピードの段階については、液晶表示装置90に表示される。
【0045】
前記操作スイッチ84は、仕掛けが所定の棚にあるときにその棚を設定する棚設定機能、仕掛けの様々な上下動を実現する誘いモード設定機能(電動モータ44の連続的又は断続的な釣糸巻き取り方向及び/又は操出方向の特定パターンの回転駆動)、巻き上げた仕掛けを好ましい位置で停止させる機能(船べり停止機能)を備えている。これらは、操作スイッチ84を長押ししたり、複数回(例えば、2回押し等)することによって、使用者が望む状態に変更され、設定した機能については、液晶表示装置90に表示される。
【0046】
上記した構成の電動リールによれば、摩擦係合によってスプール34を回転駆動させる電動モータ44は、巻き取り駆動状態及び繰り出し駆動状態以外では、常時、低速巻き取り駆動状態に設定されており、スプール34に対しては、釣糸繰り出し方向への回転に制動力が付与された状態となっている。このため、そのような状況下において、釣竿を上下動するような誘い操作(ここでは、電動モータを利用しない手動によるしゃくり操作)、或いは、魚が掛かって合わせ操作等をしても、スプール34から不用意に釣糸が繰り出されることが抑制される。
【0047】
特に、仕掛けに重い錘を装着したり、長い仕掛け(針の本数が多い)を装着したり、長い仕掛けに対応した長いロッドを用いて、上記した誘い操作や合わせ操作を行なっても、スプールは逆回転し難くなる。すなわち、電動モータ44の磁力を上げることなく(消費電力を大きくすることなく)、スプールに対する制動力の向上が図れるようになる。
【0048】
なお、上記した実施形態では、電動モータ44は、誘いモードに応じて正転駆動及び逆転駆動するように構成したが、そのような誘いモード機能を設けることなく、巻き取り駆動のみ(正転駆動のみ)を行なう構成であっても良い。また、釣糸の繰り出し(仕掛けの落下)については、上記した誘いモードの設定以外にも、手動モードとして、使用者の操作(操作スイッチの操作)によって電動モータ44を逆転駆動で行なうように構成しても良いし、クラッチ機構の操作によって行なうようにしても良い。
さらに、上記した低速巻き取り駆動状態(電動モータの低速駆動)については、常時、行なう必要はなく、仕掛けを繰り出した後、仕掛けが水中に位置した状態のとき(例えば、水深メータで仕掛けの落下を検知し、その落下が停止したとき)に作動するようにしても良い。このような構成では、電動モータ44は、必要なときのみに低速巻き取り駆動状態となるため、消費電力を少なくすることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
上記した実施形態では、スプール34に対する制動力の付与は、電動モータ44を常時、低速巻き取り駆動状態にすることで構成したが、電動モータ44に制動力が付与されるような構成であっても良い。
【0050】
例えば、上記した実施形態では、制御部100によってモータ駆動回路110に流れる電流を制御して、電動モータ44を正転モード、逆転モード、フリーモードとなるように回転制御したが、
図5に示すモータ駆動回路110において、トランジスタ110c,110dを同時にONにすると、電動モータの駆動を制動状態にすることが可能である(制動モード)。
【0051】
すなわち、制御部100の制御プログラムにおいて、電動モータ44が正転駆動状態(正転モード)、逆転駆動状態(逆転モード)、及び、フリーモード以外では、トランジスタ110c,110dを同時にONにして、電動モータ44の駆動を制動状態に変更することで、誘い操作時や合わせ操作時に、スプール34の繰り出し方向への回転を抑制することも可能である。
【0052】
また、電動モータ44を逆転駆動する構成では、機械的なクラッチ機構を排除しても良い。さらに、上記した制動モードに変更するタイミングについては、電動モータ44の逆転駆動が停止した後、又は、仕掛け落下して仕掛けの停止が検知された後に行なうようにしても良い。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、操作部材(操作スイッチ)については、その機能や配設位置など、適宜、変更することが可能である。
【0054】
また、上記したスプールに作用する制動力については、特定値に設定しても良いが、使用者の操作によって、上記した制動力の大きさを調整できるようにしても良い。例えば、電動モータへの印加電圧を、使用者の設定に応じて可変制御して制動状態における駆動軸の回転量を調整することによって、スプールが不用意に回転しないトルクの大きさを調整するようにしても良い。すなわち、仕掛けの錘や棚の深さに応じて、制動力を任意に調整できるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
4 ワカサギ釣り用電動リール
5 リール本体
34 スプール
44 電動モータ
46 駆動軸
70,72,82,84 操作スイッチ
100 制御部
110 モータ駆動回路