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特許7448341リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型
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  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図1
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図2
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図3
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図4
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図5A
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図5B
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図5C
  • 特許-リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型 図5D
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/42 20060101AFI20240305BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20240305BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B21K1/42
B21J5/02 A
B21J5/02 D
B21J13/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019214459
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021084123
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】文 貞▲ス▼
(72)【発明者】
【氏名】權 寧照
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 駿介
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-079638(JP,A)
【文献】特開昭60-006238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/42
B21J 5/02
B21J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状部材の製造方法であって、
鍛造型の外周側隅部まで素材を充填し、余剰の前記素材を前記鍛造型の中心側に流動させてワークの中心部に位置する円盤状で中実の中バリ部を前記鍛造型との間に空間を残して張り出させる鍛造工程と、
前記ワークから前記中実の中バリ部を除去する除去工程と、
を有し、
前記鍛造型は、
前記ワークが中心部に有する前記中実の中バリ部の基端部を押圧する位置に設けられた環状突起と、
前記環状突起の内側に設けられ、プレス成形時に前記中実の中バリ部と接触せずに前記中実の中バリ部との間に閉じた前記空間を形成する有底の逃げ部と、
を有する、
ことを特徴とするリング状部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリング状部材の製造方法であって、
前記空間は、可動型側に形成される、
ことを特徴とするリング状部材の製造方法。
【請求項3】
リング状部材の製造に用いられる鍛造型であって、
固定型と可動型との少なくともいずれか一方は、
ワークが中心部に有する円盤状で中実の中バリ部の基端部を押圧する位置に設けられた環状突起と、
前記環状突起の内側に設けられ、プレス成形時に前記中実の中バリ部と接触せずに前記中実の中バリ部との間に閉じた空間を形成する有底の逃げ部と、
を有する、
ことを特徴とする鍛造型。
【請求項4】
請求項3に記載の鍛造型であって、
前記逃げ部は、前記可動型に設けられる、
ことを特徴とする鍛造型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状部材の製造方法及びリング状部材の製造に用いられる鍛造型に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、穴あけポンチの位置を調整しながら成形を行うことで、型が耐え得る程度の低い荷重でリング状部材の鍛造を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-93539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、複雑な制御を行うことが可能なプレス装置が必要となり、結果として部品のコストも高くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、一般的なプレス装置を用いつつ、リング状部材を製造する際の鍛造加工の成形荷重を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、リング状部材の製造方法であって、鍛造型の外周側隅部まで素材を充填し、余剰の前記素材を前記鍛造型の中心側に流動させてワークの中心部に位置する円盤状で中実の中バリ部を前記鍛造型との間に空間を残して張り出させる鍛造工程と、前記ワークから前記中実の中バリ部を除去する除去工程と、を有し、前記鍛造型は、前記ワークが中心部に有する前記中実の中バリ部の基端部を押圧する位置に設けられた環状突起と、前記環状突起の内側に設けられ、プレス成形時に前記中実の中バリ部と接触せずに前記中実の中バリ部との間に閉じた前記空間を形成する有底の逃げ部と、を有する、ことを特徴とするリング状部材の製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の別の態様によれば、リング状部材の製造に用いられる鍛造型であって、固定型と可動型との少なくともいずれか一方は、ワークが中心部に有する円盤状で中実の中バリ部の基端部を押圧する位置に設けられた環状突起と、前記環状突起の内側に設けられ、プレス成形時に前記中実の中バリ部と接触せずに前記中実の中バリ部との間に閉じた空間を形成する有底の逃げ部と、を有することを特徴とする鍛造型が提供される。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様によれば、プレス成形時に、鍛造型の外周側隅部まで素材が充填された後に余剰の素材が鍛造型の中心側に流動して中バリ部が張り出し、且つ、張り出した中バリ部と鍛造型との間に空間が残されるので、成形荷重が過度に上昇することがない。よって、これらの態様によれば、一般的なプレス装置を用いつつ、リング状部材を製造する際の鍛造加工の成形荷重を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法が適用されたプーリ製造装置における部分断面図であり、第1工程を示す。
図2】本発明の実施形態に係る製造方法が適用されたプーリ製造装置における部分断面図であり、第2工程を示す。
図3】本発明の実施形態に係る製造方法が適用されたプーリ製造装置における部分断面図であり、第3工程を示す。
図4】本発明の実施形態に係る製造方法が適用されたプーリ製造装置における部分断面図であり、第4工程を示す。
図5A】第3工程の第1時点の状態を示す部分断面図である。
図5B】第3工程の第2時点の状態を示す部分断面図である。
図5C】第3工程の第3時点の状態を示す部分断面図である。
図5D】第3工程の第4時点の状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態に係るプーリ製造装置100について説明する。
【0011】
図1図4は、プーリ製造装置100における部分断面図であり、プーリ製造装置100の第1工程~第4工程をそれぞれ示している。なお、各図では、中心線を挟んだ右側のみを示し、対称である左側については図示を省略している。後述する図5A図5Dについても同様である。
【0012】
プーリ製造装置100は、鍛造加工により無段変速機用の可動プーリ10(図4参照)を製造する装置である。プーリ製造装置100は、熱間鍛造用の装置であってもよいし、冷間鍛造用の装置であってもよい。また、プーリ製造装置100は、例えば、トランスファを用いた装置としてもよいし、単工程を組み合わせて構成してもよい。
【0013】
可動プーリ10は、図4に示すように、フランジ部10aを有するリング状の部材である。
【0014】
以下、図1から図4を参照しながらプーリ製造装置100で可動プーリ10が製造される様子について説明する。なお、プーリ製造装置100が備えるプレス装置は一般的な構成であるので、プレス装置の説明は省略する。
【0015】
第1工程では、円柱状の素材である第1ワーク11を可動型30a及び固定型30bで構成される鍛造型30でプレスして、樽状の第2ワーク12を形成する。
【0016】
第2工程は、完成品形状に近い形状への成形を行う予備成形工程である。第2工程では、第2ワーク12を可動型31a及び固定型31bで構成される鍛造型31でプレスして、鍛造型31の外周側に位置するフランジ部10aと、鍛造型31の中心部に位置する中バリ部10bと、を有する第3ワーク13を形成する。
【0017】
第3工程は、完成品形状への成形を行う主成形工程である。第3工程では、第3ワーク13を可動型32a及び固定型32bで構成される鍛造型32でプレスして、各部の形状を完成品形状に成形する。これにより、第4ワーク14が形成される。
【0018】
第4工程は、第4ワーク14から中バリ部10bを除去する除去工程である。第4工程では、抜き型33により、第4ワーク14から中バリ部10bが除去される。これにより、可動プーリ10が完成する。
【0019】
ところで、本実施形態のプーリ製造装置100では、主成形工程である第3工程(図3参照)において、中バリ部10bと可動型32aとの間に空間Sを残した状態で完成品形状である第4ワーク14の成形が完了するようになっている。
【0020】
鍛造加工においては、鍛造型の内部に素材が完全に充填されると成形荷重が急激に上昇する。よって、許容荷重の大きいプレス装置が必要になり、鍛造型の耐久性も低下するという問題がある。また、結果として部品のコストも上昇することになる。
【0021】
鍛造加工の成形荷重を抑制する方法としては、例えば、可動型を複数に分割しておき、部分的に型の位置を調整して成形荷重をコントロールすることが考えられるが、この場合は、複雑な制御を行うことが可能なプレス装置が必要となる。
【0022】
これに対して、本実施形態では、上述したように、中バリ部10bと可動型32aとの間に空間Sを残した状態で第4ワーク14の成形を完了させることで、一般的なプレス装置を用いつつ、鍛造加工の成形荷重を抑制している。
【0023】
以下、第3工程について、図5A図5Dを参照しながら詳しく説明する。
【0024】
図5Aは、第3工程においてプレス成形が開始される直前である第1時点の状態を示す部分断面図である。図5Bは、第3工程においてプレス成形が開始された後である第2時点の状態を示す部分断面図である。図5Cは、第3工程において第2時点の後である第3時点の状態を示す部分断面図である。図5Dは、第3工程においてプレス成形が完了した第4時点の状態を示す部分断面図である。
【0025】
第3工程の鍛造加工は、上述したように、可動型32a及び固定型32bで構成される鍛造型32によって行われる。
【0026】
可動型32aは、図5Aに示すように、第3ワーク13が中心部に有する中バリ部10bの基端部を押圧する位置に設けられた環状突起32cと、環状突起32cの内側に設けられた逃げ部としての凹部32dと、を有する。凹部32dは、開口端側に向けて拡がって形成される。つまり、凹部32dは、すり鉢状に形成されている。
【0027】
プレス成形が開始されて可動型32aが下降すると、図5Bに示すように、可動型32a及び固定型32bによって第3ワーク13が圧縮され、素材が流動して可動型32a及び固定型32bの形状に沿うように第3ワーク13が変形する。
【0028】
このとき、白抜きの矢印で示すように、環状突起32cから中バリ部10bの基端部に押圧力が集中して伝達されて中バリ部10bの基端部周辺が局部的に圧縮状態となり、鍛造型32の中心側への素材の流動抵抗が高くなる。また、環状突起32c自体によって環状突起32cの内側への素材の流動経路が狭められることでも、鍛造型32の中心側への素材の流動抵抗が高くなる。
【0029】
これにより、第3工程では、プレス成形が開始されると、まず、図5Bに実線の矢印で示すように、鍛造型32の外周側に向けて素材が流動して鍛造型32の外周側隅部まで素材が充填される。
【0030】
そして、鍛造型32の外周側隅部まで素材が充填された状態から可動型32aがさらに下降していくと、図5Cに実線の矢印で示すように、余剰の素材が鍛造型32の中心側に向けて流動する。
【0031】
余剰の素材が鍛造型32の中心側に向けて流動することで、図5Dに実線の矢印で示すように、中バリ部10bが張り出して完成品形状の第4ワーク14が形成される。
【0032】
ここで、上述したように、可動型32aは、環状突起32cの内側に凹部32dを有する。よって、第3工程のプレス成形が完了した第4時点で、張り出した中バリ部10bと可動型32aとの間には、凹部32dによって空間Sが形成された状態となる。そのため、第3工程では、鍛造型32の内部に素材が完全に充填されることがなく、成形荷重が過度に上昇することがない。
【0033】
なお、本実施形態では、可動型32aに環状突起32c及び凹部32dを設けているが、環状突起及び凹部を固定型32bに設けてもよいし、可動型32aと固定型32bとの両方に設けてもよい。
【0034】
可動型32aに凹部32dを設けた場合、つまり、可動型32a側に空間Sが形成されるようにした場合は、プレス成形時に可動型32aと中バリ部10bとが当接しないので、可動型32aの移動(下降)が中バリ部10bによって妨げられることがない。よって、固定型32bに凹部を設けた場合よりも成形荷重を低減できる。
【0035】
また、本実施形態では、可動型32aの環状突起32cが中バリ部10bの基端部を押圧する位置に設けられるので、第4ワーク14における中バリ部10bの基端部の厚みが低減される。これにより、第4工程で中バリ部10bを除去する際に必要な打ち抜き荷重が低減される。
【0036】
以上述べたように、本実施形態では、可動プーリ10を製造するプーリ製造装置100は、鍛造型32(可動型32a、固定型32b)の外周側隅部まで素材を充填し、余剰の素材を鍛造型32の中心側に流動させて第3ワーク13の中心部に位置する中バリ部10bを鍛造型32との間に空間Sを残して張り出させる鍛造工程(第3工程)と、第4ワーク14から中バリ部10bを除去する除去工程(第4工程)と、を備える。
【0037】
また、可動プーリ10の製造に用いられる鍛造型32の可動型32aは、第3ワーク13が中心部に有する中バリ部10bの基端部を押圧する位置に設けられた環状突起32cと、環状突起32cの内側に設けられ、プレス成形時に中バリ部10bと接触しない凹部32dと、を有する。
【0038】
これらによれば、プレス成形時に、鍛造型32の外周側隅部まで素材が充填された後に余剰の素材が鍛造型32の中心側に流動して中バリ部10bが張り出し、且つ、張り出した中バリ部10bと鍛造型32との間に空間Sが残されるので、成形荷重が過度に上昇することがない。よって、これらによれば、一般的なプレス装置を用いつつ、可動プーリ10を製造する際の鍛造加工の成形荷重を抑制できる。(請求項1、3に対応する効果)
【0039】
また、凹部32dは、可動型32aに設けられる。すなわち、空間Sは、可動型32a側に形成される。
【0040】
これによれば、プレス成形時に可動型32aと中バリ部10bとが当接しないので、可動型32aの移動(下降)が中バリ部10bによって妨げられることがない。よって、固定型32bに凹部を設けた場合よりも成形荷重を低減できる。(請求項2、4に対応する効果)
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0042】
例えば、上記実施形態では、リング状部材を可動プーリ10として説明した。しかしながら、リング状部材は、例えば、ギヤであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
100 プーリ製造装置
10 可動プーリ(リング状部材)
10b 中バリ部
13 第3ワーク(ワーク)
14 第4ワーク(ワーク)
32 鍛造型
32a 可動型
32b 固定型
32c 環状突起
32d 凹部(逃げ部)
S 空間
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D