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特許7448342ゴム補強用複合コードおよびそれを用いた伝動ベルト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ゴム補強用複合コードおよびそれを用いた伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20240305BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20240305BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20240305BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20240305BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240305BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/26
D02G3/40
D02G3/44
F16G5/06 A
F16G5/20 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019216498
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085130
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-521574(JP,A)
【文献】特開平06-280122(JP,A)
【文献】特開2019-157298(JP,A)
【文献】特開2018-080419(JP,A)
【文献】特開2013-001236(JP,A)
【文献】特開2007-168783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
F16G 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度高弾性率繊維と低弾性率繊維とを含む複合コードであって、
高強度高弾性率繊維は高強度高弾性率繊維の繊維束(A)として含まれ、
高強度高弾性率繊維の強度が10cN/dtex以上かつ初期引張抵抗度が300cN/dtex以上であり、低弾性率繊維は、ポリエチレンテレフタレート繊維またはポリウレタン繊維の繊維束であり、その強度が9cN/dtex以下かつ初期引張抵抗度が100cN/dtex以下であり、複合コードに含まれる高強度高弾性率繊維と低弾性率繊維との重量比率が99:1~88:12であり、前記ゴム補強用複合コードは、ラテックスを含む樹脂接着剤を含有し、該樹脂接着剤の重量は繊維の総重量に対して5~25重量%であり、Vリブドベルトに用いられることを特徴とする、ゴム補強用複合コード。
【請求項2】
低弾性率繊維は、低弾性率繊維の繊維束(B)または低弾性率繊維のモノフィラメント(C)として含まれる、請求項1記載のゴム補強用複合コード。
【請求項3】
繊維束(A)がS方向またはZ方向に下撚りされた高強度高弾性率繊維の撚り糸であり、この繊維束(A)と、低弾性率繊維の繊維束(B)とを、高強度高弾性率繊維の下撚り方向と逆方向に上撚りした、請求項2に記載のゴム補強用複合コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムベルト、タイヤ等のゴム製品の補強に用いるゴム補強用複合コードに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムベルト、ゴムタイヤ等のゴム製品の強度や耐久性を向上させるために、補強用繊維をゴム内に埋め込むことが広く一般に行われている。従来、この補強用繊維として、ガラス繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、ポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキザール繊維が広く用いられている。これらの中でもポリアミド繊維、特にアラミド繊維が好適であり広く用いられている。
【0003】
これらの繊維は多くの利点を有し、例えば伝動ベルトや高機能タイヤの補強等に活用されている。しかしながら、これらコードでは成型時の伸張によるゴム組成物の成形性と、ゴム成形物の使用時の剛性を同時に満たすことは困難である。
【0004】
この改善策として、例えば特許文献1(特開2008-100365号公報)には、パラ型芳香族ポリアミド繊維と脂肪族ポリアミド繊維とからなる複合コードが、低荷重領域で伸度を有する複合コードとして開示されている。この複合コードでは、複合コードに占めるパラ型芳香族ポリアミド繊維の割合が決して高くなく、低強度低弾性率の脂肪族ポリアミド繊維の比率が大きいことから、結果的に複合コードのコード径全体が太くなるだけでなく、高弾性率繊維含めてコード全体が太くなることで、同じ曲率半径で屈曲された場合に、コードの歪が大きくなり、結果として屈曲疲労耐久性が低下する問題がある。
【0005】
また、高強度、高弾性率、寸法安定性、耐熱性および耐薬品性等の優れた特性を有する芳香族ポリアミド繊維が、これらの特性を活かしタイヤ、ホース、ベルト等の用途のゴム補強用繊維として期待されているが、芳香族ポリアミド繊維はその表面が比較的不活性であることが多く、そのままではマトリックスゴムとの接着性が不十分であり、芳香族ポリアミド繊維の特性を十分に発揮することはできないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-100365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決し、引張強度、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率、耐疲労性、接着性を兼ね備えた、ゴム補強用複合コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高強度高弾性率繊維と低弾性率繊維とを含む複合コードであって、高強度高弾性率繊維は高強度高弾性率繊維の繊維束(A)として含まれ、高強度高弾性率繊維は、強度が10cN/dtex以上かつ初期引張抵抗度が300cN/dtex以上であり、低弾性率繊維は、強度が9cN/dtex以下かつ初期引張抵抗度が100cN/dtex以下であり、複合コードに含まれる高強度高弾性率繊維と低弾性率繊維との重量比率が99:1~88:12であることを特徴とする、ゴム補強用複合コードである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記の従来技術の問題点を解決し、引張強度、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率、耐疲労性、接着性を兼ね備えたゴム補強用複合コードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔高強度高弾性率繊維〕
繊維束(A)の高強度高弾性率繊維として、強度が10cN/dtex以上、かつ、初期引張抵抗度が300cN/dtex以上の繊維を用いる。この条件を満足する高強度高弾性率繊維として、例えば、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキザール繊維、芳香族ポリエステル繊維、超高分子量ポリエチレン繊維が挙げることができる。中でも、芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
【0011】
芳香族ポリアミド繊維自体は、従来から知られているものを用いることができ、また、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、特開昭49-100322号公報、特開昭47-10863号公報、特開昭58-144152号公報および特開平4-65513号公報に記載されている。
【0012】
芳香族ポリアミド繊維の中でも、パラ型芳香族ポリアミド繊維が耐熱性と強度に優れているので好ましい。パラ型芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ポリアミドの延鎖結合が共軸または平行であり、かつ反対方向に向いているポリアミドの繊維である。具体的には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製「トワロン」)や、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製「テクノーラ」)を例示することができる。
【0013】
特に、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製「テクノーラ」)が屈曲疲労耐久性に優れるため好ましい。
【0014】
〔低弾性率繊維〕
低弾性率繊維として、強度が9cN/dtex以下で、初期引張抵抗度が100cN/dtex以下の繊維を用いる。この条件を満足する低弾性率繊維として、例えば、ポリウレタン繊維、ナイロン6やナイロン66、ナイロン46等で知られる脂肪族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート等で知られるポリエステル繊維、ビニロンとして知られるポリビニリアルコール繊維、レーヨン繊維を挙げることができる。なかでも、より低弾性率で破断伸度が30%以上となるポリウレタン繊維や重合度の低いポリエチレンテレフタレート繊維が撚糸工程での取り扱い性や、容易に低負荷時の伸張性を得られる点で好ましい。さらに好ましくは破断伸度が100%以上となる繊維を用いる。
【0015】
〔繊維束、モノフィラメント〕
本発明において、高強度高弾性率繊維を、繊維束(A)として用いる。そして、低弾性率繊維を、好ましくは繊維束(B)および/またはモノフィラメント(C)として用いる。すなわち、低弾性率繊維は、好ましくは低弾性率繊維の繊維束(B)または低弾性率繊維のモノフィラメント(C)として含まれる。
【0016】
本発明の複合コードに含まれる高強度高弾性率繊維と低弾性率繊維との重量比率は、高強度高弾性率繊維:低弾性率繊維が99:1~88:12である。高強度高弾性率繊維の重量比率が88%未満であると、強度や高伸長領域での弾性率が低くなる。他方、高強度高弾性率繊維の重量比率が99%を超えると、低伸長領域での弾性率が高くゴムとの加硫時の伸長性が悪くなり、成型性の悪い複合コードとなる。
【0017】
〔撚り糸〕
良好な引張強度、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率、耐疲労性を得る観点から、高強度高弾性率繊維の繊維束は、撚り糸として用いることが好ましい。撚りを掛けるほど単繊維の配向が傾くため、初期の引張強度は低下するが、他方で、屈曲時に単繊維に加わる応力が分散され耐屈曲疲労性が向上する。
【0018】
低弾性率繊維は、撚りを施さすに使用するか、少ない撚り数で用いられることが好ましい。
【0019】
高強度高弾性率繊維および低弾性率繊維のいずれも、繊維束として用いる場合には所定の繊度の繊維束を得るために原糸を合糸または合撚糸して用いてもよい。
【0020】
本発明が、高強度高弾性率繊維の繊維束(A)と、低弾性率繊維の繊維束(B)および/またはモノフィラメント(C)と、から構成される複合コードである場合は、S方向またはZ方向に下撚りされた高強度高弾性率繊維の撚り糸である繊維束(A)と、低弾性率繊維の繊維束(B)とを、高強度高弾性率繊維の下撚り方向と逆方向に上撚りした複合コードであることが好ましい。
【0021】
この場合、伸長時にまず低弾性率の繊維がより優先的に伸長されることで低弾性率を示し、途中から高弾性率の繊維の応力負担が大きくなり、高弾性率を示す理想的な機械物性を有する複合コードを得ることができる。
【0022】
本発明において、高強度高弾性率繊維として芳香族ポリアミド繊維を用い、高強度高弾性率繊維の繊維束(A)の下撚り(撚り1)の撚り係数(TM1)、および高強度高弾性率繊維の繊維束(A)と低弾性率繊維の繊維束(B)および/またはモノフィラメント(C)との合撚り(撚り2)の撚り係数(TM2)が、下記式(1)~(3)を全て満たすことが好ましい。この条件を満足すると、理想的な引張物性と単繊維の配向そして良好な耐疲労性を得ることができる。
2.0≦TM1≦6.0 (1)
1.0≦TM2≦5.0 (2)
1.0≦|TM2-TM1|≦5.0 (3)
低弾性率繊維の繊維束(B)は下撚りの撚り係数は2.0未満であることが好ましい。
【0023】
ただし、撚り係数(TM)は下記式で定義される。TMは撚り係数を、Tは撚り数(回/m)を、Dは原糸の総繊度(tex)を表す。
TM=T×√D/1055
上記の式は、一般的に綿の紡績糸に使用される計算式である、K=t/√N (Kは撚係数、tは撚数t/inch、Nは綿番手)において、綿の比重を芳香族ポリアミド繊維の比重に変更し、綿番手を繊度(tex)に変換したものである。
【0024】
高強度高弾性率繊維の繊維束(A)と、低弾性率繊維の繊維束(B)および/またはモノフィラメント(C)を併せて上撚りする際、それぞれの繊維束またはモノフィラメントは、1本ずつの繊維束やモノフィラメントを併せて用いてもよいし、複数本の繊維束やモノフィラメントを併せて上撚りしてもよい。
【0025】
高強度高弾性率繊維として芳香族ポリアミド樹脂の繊維束を用いる場合、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を始めとするラテックスを含む樹脂接着剤に芳香族ポリアミド維繊維束を含浸させることが好ましい。ラテックスを含む樹脂接着剤への含浸方法は、繊維束に撚りを施した後に実施してもよいし、ラテックスを含む樹脂接着剤に含浸処理後に、繊維束に撚りを施してもよい。
【0026】
ラテックスを含む樹脂接着剤としては、作業環境改善の目的でレゾルシン・ホルマリンの代替として、フェノール・アルデヒド樹脂やマレイミド変性ポリブタジエン、ウレタン変性ポリブタジエンと併用しても構わないが、高温中での接着性等の観点からレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂が好ましく用いられる。
【0027】
本発明の複合コードの好ましい態様では、まず、高強度高弾性率繊維の表面をエポキシ化合物で表面処理し、その後、単繊維に実質的に意図的に撚りを施すことなく、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を含む溶液に浸漬処理することで繊維束に樹脂を含浸する。その後、高強度高弾性率繊維に下撚りを施した下撚り糸である繊維束(A)を準備する。また、低弾性率繊維については、撚りを掛けない状態か下撚りを施した後に、エポキシ化合物処理とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂による処理を行うことで繊維束(B)を準備する。次いで、繊維束(A)と繊維束(B)とを併せて上撚りして複合コードとする。その後で、ゴム成分と架橋剤を構成成分とする接着処理剤を上塗りして用いてもよい。
【0028】
〔エポキシ化合物〕
パラ型芳香族ポリアミド繊維を始めとする高強度高弾性率繊維は、一般的に表面が不活性であるため他の物質と接着しづらい。そこで本発明では、高強度高弾性率繊維として芳香族ポリアミド樹脂を用いる場合に、十分な接着性を得るために芳香族ポリアミド繊維の単繊維をエポキシ化合物で表面処理して用いることが好ましい。エポキシ化合物による表面処理は、繊維束に撚りを施した後に実施してもよいし、エポキシ化合物による表面処理後に、繊維束に撚りを施してもよい。この表面処理で、芳香族ポリアミド繊維とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂との化学的親和性を向上させることができる。
【0029】
芳香族ポリアミド繊維の単繊維に対するエポキシ化合物の固形分付着量は、単糸の重量を基準として、好ましくは0.05~5.0重量%、さらに好ましくは0.2~2.0重量%である。付着量がこれより少ないと単糸の表面に形成されるエポキシ樹脂の層が十分でなく、芳香族ポリアミド繊維の単糸同士の密着性や、単糸とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂との密着性を得ること困難である。他方、付着量がこれより多いとエポキシ樹脂によって単糸同士が強く集束されてしまい、結果的に複合コードが硬くなり、耐屈曲疲労性に劣ることになり好ましくない。
【0030】
表面処理に用いるエポキシ化合物としては、具体的には、エチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシドとの反応生成物、レゾルシン、ピス(4-ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノールと前記ハロゲン含有エポキシドとの反応生成物、過酢酸または過酸化水素等で不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、すなわち3,4-エポキシシクロヘキセンエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビス(3、4-エポキシ-6-メチル-シクロヘキシルメチル)アジベートを挙げることができる。
【0031】
これらのうち、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応生成物が好ましく、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物のようなポリエポキシド化合物と硬化剤により生成される化合物も好ましい。ポリエポキシド化合物を用いる場合には、乳化剤、例えばアルキルベンゼンスルフォン酸ソーダ、ジオクチルスルフォサクシネートナトリウム塩を用いて、乳化液としてもよい。
【0032】
ポリエポキシド化合物には、アミン系やイミダゾール系の硬化剤、ポリイソシアネートとオキシム、フェノール、カプロラクタムなどのブロック化剤との付加化合物であるブロックドポリイソシアネート、エチレンイミンとの反応化合物であるエチレン尿素を併用してもよい。
【0033】
ポリエポキシ化合物を用いる場合、ポリエポキシド化合物の重量をP重量部とし、硬化剤、ブロックドポリイソシアネートおよびエチレン尿素の重量をQ重量部としたとき、P/(P+Q)が0.05~0.9であることが好ましい。この範囲であると、特に良好な接着性を得ることができる。
【0034】
低弾性率繊維としてポリウレタン繊維やポリエステル繊維を使用する場合には、芳香族ポリアミド繊維と同様に、エポキシ化合物による繊維表面処理を施すことが好ましい。
【0035】
なお、低弾性率繊維として、脂肪族ポリアミド繊維やポリビニルアルコール繊維、レーヨン繊維を用いる場合には、これらの繊維はレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂との接着性に優れているため、エポキシ化合物による処理は必要ない。
【0036】
〔レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂〕
本発明のゴム補強用複合コードは、好ましくはラテックスを含む樹脂接着剤を含有する。該樹脂接着剤の重量は、優れた接着力を得るために、繊維の総重量に対して好ましくは5~25重量%、さらに好ましくは5~15重量%である。ゴム補強用複合コードが、繊維束(A)ならびに繊維束(B)および/またはモノフィラメント(C)からなる場合は、これらのの合計の重量に対して5~25重量%、さらに好ましくは5~15重量%である。
【0037】
ラテックスを含む樹脂接着剤として、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂が好ましい。レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂におけるレゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は、好ましくは1:0.6~1:8、さらに好ましくは1:0.8~1:6である。ホルムアルデヒドの量がこの範囲より少ないとレゾルシン・ホルマリンの縮合物の架橋密度が低下すると共に分子量の低下を招くため、樹脂層の凝集力が低下することにより接着性が低下し、耐屈曲疲労性が低下するおそれがあり好ましくない。他方、ホルムアルデヒドの量がこの範囲より多いと架橋密度上昇によりレゾルシン・ホルマリン縮合物が硬くなり、被着体のゴムとの共加硫時にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂とゴムとの相溶化が阻害され接着性が低下する傾向があり好ましくない。
【0038】
レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂における、レゾルシン・ホルマリンとゴムラテックスとの配合比率は、固形分重量比として、レゾルシン・ホルマリン:ゴムラテックスが、好ましくは1:3~1:16、さらに好ましくは1:4~1:10である。ゴムラテックスの比率がこの範囲より少ないとゴムとの共加硫成分が少ないため接着力が低下する傾向があり好ましくなく、他方、ゴムラテックスの比率がこの範囲より多いと、接着剤皮膜として充分な強度を得ることができないため、接着力や耐久性が低下する傾向があるとともに、接着処理した複合コードの粘着性が著しく高くなり、接着処理工程やベルト成型工程でカムアップや取り扱い性などの工程通過性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0039】
レゾルシンとして、予めオリゴマー化したレゾルシン-ホルマリン初期縮合物やクロロフェノールとレゾルシンをホルマリンとオリゴマー化した多核クロロフェノール系レゾルシン-ホルマリン初期縮合物を、必要に応じて単独で、あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ゴムラテックスとして、例えば、水素添加アクリロニトリルーブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックスを例示することができ、これらを単独または併用して使用することができる。複合コードの単糸の表面のエポキシ化合物との親和性が高く、また樹脂層の強度を高めることができることから、ゴムラテックスとして、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックスが好ましい。
【0041】
レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂には、架橋剤を併用してもよい。架橋剤として、アミン、エチレン尿素、ブロックドイソシアネート化合物を例示することができる。なかでも、処理剤の経時安定性が良く、前処理剤との相互作用が良好なことから、ブロックドイソシアネート化合物が好ましい。このブロックドイソシアネート化合物として、ジメチルピラゾールブロック、メチルエチルケトンオキシムブロック、カプロラクタムブロックのブロックドイソシアネートを例示することができる。これらは二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
架橋剤を用いる場合のその添加量は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス樹脂の全重量あたり、例えば0.5~40重量%、好ましくは10~30重量%である。添加量を増やすと通常は接着力が向上するが、添加量が多すぎると接着剤のゴムに対する相容性が低下し、ゴムとの接着力が低下する傾向があるため、この範囲で用いることが好ましい。
【0043】
このレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス樹脂の処理は、高強度高弾性率繊維については、高強度高弾性率繊維の表面をエポキシ化合物処理後した後に行われることが好ましい。
【0044】
〔物性〕
本発明のゴム補強用複合コードは、破断時の強度が10.0cN/dtex以上、破断時の伸度が5~8%、2%伸長時の荷重が4cN/dtex以下、かつ5%伸長時の荷重が6cN/dtex以上を示す。この範囲の物性であることで高強力の繊維コードであるにも関わらず、2.0%までの低伸長時の荷重や弾性率を低く抑えることにより、加工性、特に低弾性率のゴムとの加工性を良くすることでき、また2.0~5.0%までの実用的な伸長時の弾性率を高くすることにより、本発明の複合繊維コードによって補強されたゴム製品は、優れた寸法安定性を確保することができる。本発明の複合繊維コードは、成型加工時の伸張によるゴム組成物成形性と、その後のゴム成形物使用時の剛性を、同時に満たすことができる。
【0045】
〔ゴム〕
本発明のゴム補強用複合コードはゴム補強の用途で用い、ゴムとともにゴム製品を構成することになる。使用されるゴムとしては、アクリルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリルーブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムを例示することができる。特に、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、水素化アクリロニトリルーブタジエン(H-NBR)ゴムが好ましい。
【0046】
これらのゴムには、主成分のゴムの他に各種加硫剤、加硫促進剤を含み、また材料の改質等のため、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、ナフテン系オイル等の軟化剤等の各種添加物が含まれていてもよい。ゴム製品は、本発明のゴム補強用複合コードの必要本数を引き揃え、これらをゴムで挟み込み、さらに上記加硫釜等で加圧、加熱して成形することで得ることができる。
【0047】
〔製造方法〕
本発明のゴム補強用複合コードは、S方向またはZ方向に下撚りされた高強度高弾性率繊維の撚り糸と、低弾性率繊維の繊維束或いはモノフィラメントとを、高強度高弾性率繊維の下撚り方向と逆方向で上撚りして撚糸コードとすることで製造することができる。
【0048】
すなわち発明はまた、ゴム補強用複合コードの製造方法であって、S方向またはZ方向に下撚りされた高強度高弾性率繊維の撚り糸と、低弾性率繊維の繊維束或いはモノフィラメントとを、高強度高弾性率繊維の下撚り方向と逆方向で上撚りして撚糸コードとすることを特徴とする、ゴム補強用複合コードの製造方法である。
【0049】
複合コードはレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を含浸しておくことが好ましい。この含浸処理は、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を含む溶液に、エポキシ化合物で表面処理された高強度高弾性率繊維や低弾性率繊維を接触した後、例えば100℃~250℃の温度で60~300秒間の乾燥、熱処理で行うことができる。好ましい条件は、100~180℃の温度での60~240秒間の乾燥、次いで200~245℃の温度での60~240秒間の熱処理である。
【0050】
含浸処理における繊維とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂との接触は、例えばレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂やその溶液を繊維にローラーで接触させるか、ノズルから溶液を繊維に噴霧して塗布することで行うことができる。
【0051】
繊維束に含浸されたレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂の含有量を抑制するためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバーによるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引、ビーターなどの手段を用いることができる。含有量を増加するためには、複数回、繊維に付着さればよい。
【0052】
パラ型芳香族ポリアミド繊維を用いる場合の、エポキシ化合物による繊維表面処理は、以下のよう行うことができる。例えば、エポキシ化合物を含む溶液を、パラ型芳香族ポリアミド繊維の製糸工程で油剤と混合して繊維の単糸に付着させ、またはパラ型芳香族ポリアミド繊維の製糸後、製糸工程とは別の工程でエポキシ鍵物の乳化剤を繊維の単糸に付着させ、付着後100~250℃の温度で10~120秒間熱処理する。
【0053】
エポキシ化合物としてポリエポキシド化合物を用いる場合には、ポリエポキシド化合物と、硬化剤、ブロックドポリイソシアネートまたはエチレン尿素とを含む乳化液を、芳香族ポリアミド繊維の製糸工程で油剤と混合して繊維の単糸に付着させ、またはパラ型芳香族ポリアミド繊維の製糸後、製糸工程とは別の工程でこの乳化剤を繊維の単糸に付着させ、乳化剤の付着後100~250℃の温度で10~120秒間熱処理することが好ましい。
【実施例
【0054】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。なお、本発明の実施例における評価は下記の測定法で行った。レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂をRFLと略すことがある。
(1)初期引張抵抗度
コポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維およびポリエチレンテレフタレート繊維については、JIS L1017に準じて測定した。ポリウレタン繊維については、つかみ間隔5cmおよび引張速度6cm/分とする他はJIS L1017同様の条件で測定した。
(2)コード繊度
JIS L1017に準じてコード繊度(重量)を測定した。
(3)コード強力およびコード強度
JIS L1017に準じてコードの強力を測定した。強度は、樹脂付着量を含めたコード重量をJIS L1017に準じて測定し、強力とコード重量から算出した。
(4)破断伸度(切断伸度)、2.0%伸長時の荷重、5.0%伸長時の荷重
接着処理剤を含む複合コードについて、JIS L1017に準じて引張試験を実施して測定および算出した。複合コードの破断伸度は、高強度高弾性率繊維の破断時の伸度とし、高強度高弾性率繊維の破断後に、破断せずに残る低弾性率繊維の伸度は考慮しないこととした。
(5)屈曲疲労後強度、屈曲疲労後強力保持率
レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を含む複合コードに1.6cN/dtexの荷重をかけて直径10mmφのローラーに取り付け、100rpmの往復運動をさせ、100,000回の繰返し屈曲を行ったのち、複合コードを取り出して残強力を測定し、屈曲疲労後強度と強力保持率を求めた。
【0055】
〔レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂処理剤(RFL剤)の調製〕
レゾルシン/ホルマリン(R/F)のモル比が1/0.6であるレゾルシン-ホルマリン初期縮合物(スミカノール700S、住友化学株式会社製、濃度65重量%)19.8gを、水154.5gに10%苛性ソーダ水5.0gと20%アンモニア水19.9gを加えたアルカリ水溶液に溶解し、これにビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス(ニポール2518FS,日本ゼオン(株)製、濃度40重量%)415gと水368.9gを添加した。この液に、37%ホルマリン水16.8g、およびメチルエチルケトンオキシムブロックジフェニルメタンジイソシアネート(DM6400,明成化学工業株式会社製、濃度42重量%)を添加し、20℃で48時間熟成して、固形分濃度20重量%のレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂を含む水分散体(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂処理剤(RFL剤))を調製した。
【0056】
〔ポリウレタン繊維とポリエチレンテレフタレート繊維のエポキシ処理〕
グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-313」)17.5gに界面活性剤としてジオクチルスルフォサクシネートナトリウム塩(第一工業製薬株式会社製「ネオコールSW-30」)14.5g、ピペラジン4g、水656.2gから成る固形分濃度3.7重量%のエポキシ溶液で表面処理し、乾燥後、巻き取りを実施することにより、エポキシ処理を実施した。
【0057】
〔実施例1〕
高強度高弾性率繊維として、予めエポキシ処理されたコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(帝人株式会社製 テクノーラ T202 1670dtex, 1000フィラメント、初期引張抵抗度630cN/dtex)について、コンピュートリーター処理機(CAリッツラー社製ディップコード処理機)を用いて、上記のレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂に浸漬した後、130℃で2分間乾燥し、引き続き235℃で1分間熱処理をし、RFL剤が塗布されたコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維を得た。次いで、S方向に撚り係数2.4(200回/m)の撚りを掛け、コポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維の下撚り糸からなる繊維束(A)を得た。
【0058】
また、低弾性率繊維として、ポリウレタン繊維(旭化成株式会社製 ロイカ 22dtexモノフィラメント、初期引張抵抗度1.5cN/dtex)を8本引き揃えた状態で、上述のエポキシ処理を施した後に、上記のレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂処理を実施し、撚りを施さずに繊維束(B)を得た。
【0059】
その後、上記で得たコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維の下撚り糸からなる繊維束(A)を2本と、ポリウレタン繊維の繊維束(B)の1本とを併せて、Z方向に撚り係数4.6(260回/m)の上撚りを施し複合コードを得た。
得られた複合コードの評価結果を表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
〔実施例2〕
低弾性率繊維として、ポリウレタン繊維のモノフィラメント8本の代わりに、ポリエチレンテレフタレート繊維(帝人株式会社製 テトロン T300SB SD 84dtex、36フィラメント、初期引張抵抗度74cN/dtex)を3本引き揃えて、上述のエポキシ処理とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂処理を施した後に、S方向に撚り係数1.4(300回/m)の下撚りを施し、繊維束(B)として用いた。また、実施例1と同じコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維の下撚り糸からなる繊維束(A)を2本と、上記のポリエチレンテレフタレート繊維の繊維束(B)の1本とを併せて、Z方向に撚り係数4.6(255回/m)の上撚り糸を施した以外は実施例1と同様に複合コードを得た。
得られた複合コードの評価結果を表1にまとめて示す。
【0062】
〔比較例1〕
低弾性率繊維として、ポリウレタン繊維のモノフィラメント8本の代わりに、ポリエチレンテレフタレート繊維(帝人株式会社製 テトロン P903BZ 560dtex, 96フィラメント、初期引張抵抗度83cN/dtex)1本を用いて、上述のエポキシ処理とレゾルシン・ホルマリン・ラテックス樹脂処理を施した後に、Z方向に撚り係数1.8(250回/m)の下撚りを施し、繊維束(B)として用いた。また、実施例1と同じコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維の下撚り糸からなる繊維束(A)を2本と、上記のポリエチレンテレフタレート繊維の繊維束(B)の1本とを併せて、Z方向に撚り係数4.6(245回/m)の上撚り糸を施した以外は実施例1と同様に複合コードを得た。
得られた複合コードの評価結果を表1にまとめて示す。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のゴム補強用複合コードは、伝動ベルトの心線やタイヤコードとして好適に用いることができる。特に、成形の難しいモールド型付工法により製造されるリブ表面を布帛で被覆したVリブドベルト等のために好ましく用いられる。
【0064】
また、耐久性と破断強力の向上により、伝動ベルトの長寿命化を期待できる他、伝動ベルトの小型化と細幅化により、軽量化や伝達効率の向上により省エネルギー化を期待できる。