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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】水中油型乳化日焼け止め化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20240305BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240305BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61K8/06
A61Q17/04
A61K8/81
A61K8/73
A61K8/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019232819
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100921
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】榎本 歩
(72)【発明者】
【氏名】西田 圭太
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169324(JP,A)
【文献】特表2017-519005(JP,A)
【文献】特開2005-060263(JP,A)
【文献】特開2009-137806(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036064(WO,A1)
【文献】SOLTEXTM INO Polymer,DOW CHEMICHAL COMPANY,2018年,全文,[検索日 2021.01.28], インターネット:<URL:https://www.dow.com/documents/en-us/formulation/27/27-21/27-2176-01-soltex-ino-polymer.pdf?iframe=true>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)0.1~10質量%の、リン酸基を持つアクリルコポリマー
(B)1~40質量%の疎水化処理紫外線散乱剤、および
(C)0.3質量%以上の水相増粘剤
を含有してなり、
前記(C)成分が、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー、カルボキシビニルポリマー、寒天、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーおよびサクシノグリカンから選択される2種以上の混合であり、
前記紫外線散乱剤が油層中に分散している、水中油型乳化日焼け止め化粧料。
【請求項2】
(A)成分と(C)成分との配合質量比率が1:7~8:1である、請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
(B)成分が、シリコーン化合物および第4級アンモニウム塩化合物から選択される1種以上により表面疎水化処理されている紫外線散乱剤である、請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
さらに、(D)紫外線吸収剤を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項5】
さらに、(E)平均粒子径1~4μmかつ吸油量が160ml/100g以下である多孔質球状粉末を配合する、請求項1から4のいずれか一項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化日焼け止め化粧料に関する。より詳しくは、特定の高分子化合物を紫外線散乱剤と組み合わせて配合することにより、高い紫外線防御力を達成することができる、水中油型乳化日焼け止め化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
水中油型化粧料は、肌に塗布した際に爽やかでみずみずしい感触が得られることから、肌に直接適用される皮膚化粧料等の皮膚外用剤の基剤として広く用いられている。なかでも、スキンケア、ボディケアにおいて紫外線から皮膚を保護することが日常的に行われるようになり、そのような日焼け止め化粧料において水中油型化粧料を基剤とするものの重要性が増している。
【0003】
日焼け止め化粧料に配合される紫外線防御剤としては一般的に紫外線吸収剤と紫外線散乱剤がある。紫外線吸収剤は常温で固形のものもあり、析出させることなく化粧料に安定に溶解するためには相応量の油分が必要となる。このため、紫外線吸収剤の配合量を多くして高い紫外線防御効果を得ようとすると、油分量も増やさざるを得ず、油分によるべたつきが生じ、使用感を損なうことがある。また、紫外線散乱剤の配合量を多くして高い紫外線防御効果を得ようとすると、塗膜中の流動性が低下して経時的に粉ぎしみ(なめらかさが欠けてくる感触)を感じるといった、使用感の低下が生じることがある。
【0004】
そこで、より少ない紫外線防御剤の配合量で高い紫外線防御効果を得るための技術が提案されている。例えば、出願人は、特許文献1において、紫外線吸収剤を配合した水型ないしは水中油型の日焼け止め化粧料にシリカ等の多孔質球状粉末を配合することによって、紫外線防御力が向上したことを記載している。
【0005】
紫外線散乱剤についても、より少ない配合量で高い紫外線防御効果を得ることができる系が求められている。また、水中油型の日焼け止め化粧料では、内層となる油層に安定して紫外線防御剤を配合することにも困難性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特願2018-229841号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、紫外線散乱剤が有する紫外線防御力を向上させることにより、高い紫外線防御力を達成できるとともに、乳化安定性に優れた水中油型乳化日焼け止め化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、前記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、リン酸基を有するアクリルコポリマーと疎水化処理紫外線散乱剤と水相増粘剤とを組み合わせて配合した場合に、紫外線散乱剤が有する紫外線防御力が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(A)リン酸基を有するアクリルコポリマー
(B)疎水化処理紫外線散乱剤、および
(C)0.3質量%以上の水相増粘剤
を含有してなり、前記紫外線散乱剤が油層中に分散している、水中油型乳化日焼け止め化粧料を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化粧料は、上記構成とすることにより、日焼け止め化粧料に配合した紫外線散乱剤が有する紫外線防御力を向上させることができるとともに、乳化安定性に優れた水中油型乳化日焼け止め化粧料を実現することができる。また、本発明の乳化化粧料においては、乳化安定性が十分に保たれているので、高極性油である紫外線吸収剤をさらに配合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の日焼け止め化粧料は、(A)リン酸基を有するアクリルコポリマー、(B)疎水化処理紫外線散乱剤、および(C)水相増粘剤を含むことを特徴とする。以下、本発明の化粧料を構成する各成分について詳述する。
【0012】
<(A)リン酸基を有するアクリルコポリマー>
本発明の日焼け止め化粧料に配合される(A)リン酸基を有するアクリルコポリマー(以下、単に「(A)成分」と称する場合がある)は、アクリルモノマーとリン酸基を有するアクリルモノマーからなる共重合体をいう。
【0013】
アクリルモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのアルキルエステルからなるモノマーである。エステル結合によって結合しているアルキル基は、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよく、その炭素数は1~30、好ましくは1~20である。例として、限定するものではないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸オキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のモノマーが挙げられる。
【0014】
リン酸基を有するアクリルモノマーは、アクリル酸又はメタクリル酸のカルボキシル基がアルキル基によりエステル化されたモノマーであって、アルキル基にリン酸基を有するアクリルモノマーである。具体的には、限定するものではないが、ホスホオキシエチルアクリレート、ホスホオキシエチルメタクリレート、ホスホオキシメチルアクリレート等が挙げられる。
【0015】
リン酸基を有するアクリルコポリマーの具体例としては、限定するものではないが、(アクリレーツ/リン酸メタクリロイルオキシエチル)コポリマーが挙げられる。
本発明のアクリルコポリマーは、アクリルポリマー粒子が水溶媒に分散している水性分散液として提供されてよい。市販品としては、SOLTEXTMINOポリマー(固形分31%の水分散液、ダウ・ケミカル日本社製)等を用いることができる。
【0016】
(A)リン酸基を有するアクリルコポリマーの配合量は、日焼け止め化粧料全量に対して、実分に換算して、0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.2~8質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%である。(A)成分の配合量が0.1質量%未満では紫外線防御力向上効果が十分でなく、10質量%を超えて配合すると乳化安定性が悪くなる傾向がある。
【0017】
<(B)疎水化処理紫外線散乱剤>
本発明の日焼け止め化粧料に配合される(B)疎水化処理紫外線散乱剤(以下、単に「(B)成分」と称する場合がある)は、反射もしくは散乱により紫外線を物理的に遮断する粉体であり、表面が疎水化処理された粉体である。
【0018】
本発明の紫外線散乱剤としては、特に限定されるものではないが、微粒子状の金属酸化物、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化タングステン等を挙げることができる。本発明においては、酸化亜鉛又は酸化チタンが好ましく用いられる。
【0019】
本発明の紫外線散乱剤の平均一次粒子径は、特に限定されないが、10nm~100nmであり、10nm~50nmであることが好ましい。ここで、本明細書における平均一次粒子径とは、一般的に用いられる方法で測定される粉体の一次粒子の径を意味するものであり、具体的には透過電子顕微鏡写真から、粒子の長軸の長さと短軸の長さの相加平均として求められる値である。
本発明の紫外線散乱剤の形状は、特に限定されないが、球状、楕円形状、破砕状等である。
【0020】
本発明の紫外線散乱剤の疎水化処理剤としては、化粧料等に配合される紫外線散乱剤の疎水化表面処理に使用可能な種々の化合物、例えば、脂肪酸、シリコーン化合物、フッ素化合物、シランカップリング剤、油剤、第4級アンモニウム塩化合物等が挙げられる。ただし、脂肪酸エステルを用いて疎水化処理すると所望の紫外線防御力向上効果が得られない場合がある。したがって、本発明における(B)疎水化処理紫外線散乱剤は「脂肪酸エステル以外で疎水化処理された紫外線散乱剤」を意味する。
【0021】
脂肪酸処理としては、限定するものではないが、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、ロジン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0022】
シリコーン化合物としては、限定するものではないが、メチルハイドロゲンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーンオイル等が挙げられる。
【0023】
フッ素化合物としては、限定するものではないが、パーフルオロアルキル基含有エステル、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロアルキル基を有する重合体等が挙げられる。
【0024】
シランカップリング剤としては、限定するものではないが、パーフルオロアルキルシラン、トリフルオロメチルエチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等のフルオロアルキルシラン化合物;メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等のアルキルシラン化合物等が挙げられる。
【0025】
油剤としては、限定するものではないが、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、ラノリン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
【0026】
第4級アンモニウム塩化合物は、限定するものではないが、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ジベヘニルジメチルアンモニウム、塩化ジセチルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム等が挙げられる。
これらの疎水化処理は、常法に従って行うことができ、疎水化表面処理剤は1種でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0027】
本発明における紫外線散乱剤の疎水化処理としては、シリコーン化合物又は第4級アンモニウム塩化合物による疎水化処理であることが好ましい。
【0028】
本発明の紫外線散乱剤としては、シリカ又はアルミナ(酸化アルミニウム)で被覆されたものであってもよく、シリカ又はアルミナで被覆された紫外線散乱剤を前記の疎水化処理剤によって表面処理して用いることができる。
【0029】
本発明の疎水化処理紫外線散乱剤として用いることができる市販品としては、限定するものではないが、OTQ-MT-100Si(塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理シリカ微粒子酸化チタン、テイカ社製)、STR-100C-LP(ハイドロゲンジメチコン/水酸化アルミニウム処理酸化チタン、堺化学工業社製)、FINEX-50W-LP2(ハイドロゲンジメチコン/シリカ処理酸化亜鉛、堺化学工業社製)等が挙げられる。
【0030】
(B)疎水化処理紫外線散乱剤の配合量は特に限定されないが、通常は化粧料全量に対して1質量%以上、例えば1~40質量%、好ましくは1~30質量%である。(B)疎水化処理紫外線散乱剤の配合量が1質量%未満では十分な紫外線防御効果が得られにくく、40質量%を超えて配合しても配合量に見合った紫外線防御効果の増加を期待できず、安定性が悪くなるなどの点から好ましくない。
【0031】
<(C)水相増粘剤>
本発明の日焼け止め化粧料に配合される(C)水相増粘剤(以下、単に「(C)成分」と称する場合がある)は、水相の増粘性を高めるために、化粧料に通常配合されるものを使用することができる。具体的には、限定するものではないが、天然の水溶性高分子、半合成の水溶性高分子、合成の水溶性高分子、無機系増粘剤等といった各種の親水性増粘剤が挙げられる。
【0032】
天然の水溶性高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、カラギーナン、ペクチン、クインスシード(マルメロ)抽出物、寒天、褐藻粉末等の植物系高分子;キサンタンガム、デキストラン、プルラン、サクシノグリカン等の微生物系高分子;コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子等が挙げられる。
【0033】
半合成の水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシデンプン等のデンプン系高分子;メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロース硫酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース等のセルロース系高分子;アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子等が挙げられる。
【0034】
合成の水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテート共重合物、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリルアミド、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(例えば、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマー)、ポリアクリル酸アルカノールアミン、アルキルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレート共重合物、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリメタクリロイルオキシトリメチルアンモニウム、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー等のアクリル系高分子等が挙げられる。
【0035】
無機系増粘剤としては、例えば、ベントナイト、ラポナイト、ヘクトライト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、無水ケイ酸などの無機系増粘剤が挙げられる。
【0036】
(C)水相増粘剤としては、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の日焼け止め化粧料においては、糖由来の増粘剤を用いるとべたつきが生じる傾向がある。よって、糖由来の増粘剤以外の水相増粘剤を用いることが好ましい。
なかでも、本発明の化粧料においては、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、カルボキシビニルポリマー、寒天、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーおよびサクシノグリカンから選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0037】
(C)水相増粘剤の配合量は、化粧料全量に対して、0.3質量%以上である。配合量の上限としては、化粧料に配合される量の一般的な上限値でよいが、例えば、2質量%以下であることが好ましい。配合量が0.3質量%未満であると乳化安定性が悪くなる。
【0038】
本発明の日焼け止め化粧料においては、(C)成分として前記の水相増粘剤から選択される2種以上を組み合わせて用いると、使用感触がさらに向上した化粧料を得ることができる。例えば、本発明の(C)成分として、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、カルボキシビニルポリマー、寒天、キサンタンガム、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマーおよびサクシノグリカンから選択される2種以上の混合であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の日焼け止め化粧料においては、糖由来の増粘剤を用いることも可能であるが、使用感触を向上するためには、糖由来の増粘剤(例えば、キサンタンガム、寒天、サクシノグリカン、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース)を用いる場合には、耐塩性の低い水相増粘剤と組み合わせることが好ましい。耐塩性の低い水相増粘剤とは、化粧料に一般に配合される範囲の濃度の電解質の存在によって粘度低下を生ずる増粘剤であり、電解質濃度の上昇により粘度低下が生じる増粘剤ともいう。
【0040】
電解質濃度の上昇により粘度低下が生じる増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテート共重合物、カルボキシビニルポリマー等のビニル系高分子;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート、ポリアクリル酸アルカノールアミン、アルキルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレート共重合物、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリメタクリロイルオキシトリメチルアンモニウム、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/VP)コポリマー、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー等のアクリル系高分子等が挙げられる。
【0041】
本発明の日焼け止め化粧料は、紫外線散乱剤を内層である油層中に分散させた、水中油型の乳化物として調製することにより、紫外線散乱剤が有する紫外線防御力を向上させることができる。
【0042】
本発明の日焼け止め化粧料においては、乳化安定性に優れる化粧料を得る観点から、(A)リン酸基を有するアクリルコポリマーと、(C)水相増粘剤との配合質量比を1:7~8:1とするのが好ましい。
【0043】
本発明の日焼け止め化粧料は乳化安定性に優れるので、高極性油である(D)紫外線吸収剤(以下、単に「(D)成分」と称する場合がある)をさらに配合することができる。
本発明で用いられる紫外線吸収剤は、特に限定されないが、具体例としては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オクトクリレン、ジメチコジエチルベンザルマロネート、ポリシリコーン-15、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、エチルヘキシルトリアゾン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、オキシベンゾン-3、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、ホモサレート、サリチル酸エチルへキシル等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。本発明に用いる紫外線吸収剤は、1種又は2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0044】
(D)紫外線吸収剤を配合する場合、化粧料全量に対して、1~40質量%が好ましく、より好ましくは1~30質量%である。
【0045】
本発明の日焼け止め化粧料においては、(E)平均粒子径1~4μm、吸油量が160ml/100g以下である多孔質球状粉末(以下、単に「(E)成分」と称する場合がある)を配合すると、紫外線防御力の向上率がさらに上昇するという効果を奏する。
【0046】
本発明の(E)成分として配合する多孔質球状粉末の平均粒子径は、1~4μmであり、より好ましくは1.5~4μmである。平均粒子径が1μm未満では取り扱い性が悪くなる傾向があり、4μmを超えると高い紫外線防御力向上効果が得られないほか、粒子感が生じて使用性が悪くなる傾向がある。なお、本発明における平均粒子径は、粉末0.05gをエタノール溶媒20g中に添加後、超音波ホモジナイザー(US-150T;日本精機製作所製)を用いて1分間超音波分散を行い、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(MT3300EXII;マイクロトラック・ベル製)を用いて体積平均粒子径(D50)として測定した値である。
【0047】
(E)多孔質球状粉末の吸油量は、JIS K5101-13-2(煮あまに油法)に従って測定した吸油量が、160ml/100g以下であり、より好ましくは50~160ml/100g、さらに好ましくは60~160ml/100gである。吸油量が上記範囲内であれば、紫外線防御効果を十分に向上させることができる。
【0048】
(E)多孔質球状粉末の形状は球状であり、特に真球状が好ましい。(E)成分の形状が真球状に近いほど、皮膚上に均一な厚みで化粧料の塗膜を形成することができ、これにより高い紫外線防御力向上効果を達成することができる。本発明において真球状とは、いずれの方向から投影して見た場合にも概略真円状を示すものであって、粒子径の最小値が最大値の80%以上、より好ましくは90%以上であることを意味する。
【0049】
(E)多孔質球状粉末を構成する材質は特に限定されず、シリカ(無水ケイ酸)、セルロース等を挙げることができるが、なかでもシリカが好ましい。
(E)多孔質球状粉末として使用できるシリカ粉末の市販品としては、例えば、ゴッドボールE-6C、ゴッドボールB-6C(以上、鈴木油脂工業社製)、シリカマイクロビードP-500(日揮触媒化成社製)、サンスフェアL-31(AGCエスアイテック社製)等が挙げられる。
【0050】
(E)多孔質球状粉末は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。(E)成分の配合量は、日焼け止め化粧料全量に対して、1~5質量%が好ましく、2~4質量%がより好ましい。(E)成分の配合量が1質量%未満では(E)成分による紫外線防御力向上効果を十分に発揮できない傾向があり、5質量%を超えて配合すると使用性が悪くなる場合がある。
【0051】
<任意配合成分>
本発明の日焼け止め化粧料には、上記成分以外に、本発明の効果を妨げない範囲で、化粧料に通常用いられる成分を配合することができる。例えば、油分、水、アルコール類、保湿剤、油相増粘剤、界面活性剤、皮膜剤、粉末成分、薬剤成分、安定化剤、キレート剤、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合してよい。
【0052】
本発明の日焼け止め化粧料は、常法によって製造することができる。例えば、水相成分を加熱混合して得た混合液に、別途加熱混合した油相成分の混合液を添加し、得られた混合液にリン酸基を有するアクリルコポリマーの水分散液を加え、十分に攪拌して水中油型乳化物の化粧料を製造することができる。
【0053】
本発明の日焼け止め化粧料は、日焼け止めクリーム、日焼け止め乳液、日焼け止めローションなどの他、日焼け止め効果を付与した化粧水等としても調整できる。
【0054】
本発明は、肌上での化粧塗膜中の紫外線散乱剤が凝集することを防ぐ機能を有するアクリルコポリマーを、特定の配合量の水相増粘剤と組み合わせて、水中油型の乳化物とすることによって、紫外線散乱剤が有する紫外線防御力を特に顕著に向上することを見出したことに基づく。本発明の紫外線防御力向上の機構は、化粧塗膜を均一化させることに基づく従来の紫外線防御力向上の機構とは異なるため、従来の機構を有する多孔質球状粉末等と組み合わせても、互いの機構が拮抗せず、相加的ないしは相乗的な紫外線防御力向上効果を得ることができる。
【0055】
本発明の日焼け止め化粧料においては、従来紫外線防御力向上効果を奏することが報告されている中空ポリマー(例えば、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーの中空ポリマー)を配合しなくとも、十分に紫外線防御力を向上させることができる。よって、本発明の態様には、中空ポリマーを含まない態様が含まれる。
【実施例
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。各実施例について具体的に説明する前に、採用した評価方法について説明する。
【0057】
<紫外線防御力の向上率>
測定プレート(Sプレート)(5×5cmのV溝PMMA板、SPFMASTER-PA01)に各例の化粧料(サンプル)を2mg/cmの量で滴下し、60秒間指で塗布し、15分間乾燥した後に、形成された塗膜の吸光度を株式会社日立製作所製U-3500型自記録分光光度計にて測定した。無塗布のプレートをコントロールとし、吸光度(Abs)を以下の式で算出し、280nm~400nmにおける測定値を積算し、吸光度積算値を求めた。
Abs=-log(T/To)
T:サンプルの透過率、To:無塗布の透過率
【0058】
求めたサンプルの吸光度積算値から、対照試料を基準とする紫外線防御力の向上率を以下の式により算出した。なお、試験例1~7については、それぞれの試験例について(A)成分を配合しない試料を対照試料とした。試験例10~12については、本発明の(A)成分とシリカを配合しない試料を対照試料とした。
[紫外線防御力の向上率(%)]=[サンプルの吸光度積算値]/[対照試料の吸光度積算値]×100
【0059】
<乳化安定性:疎水化処理紫外線散乱剤の分散性>
調製後の試料の状態を観測したものと、スクリュー管に試料を充填し、2週間後の状態を観測したものとを目視により評価した。
<評価基準>
A:安定に乳化でき、経時的な分離や凝集がみられなかった。
B:安定に乳化でき、経時的な分離や凝集がわずかにみられたが使用上問題なかった。
C:安定に乳化できたが、経時的な分離や凝集がみられた。
D:乳化できなかった。
【0060】
1.剤型による紫外線防御力向上効果への影響
以下の表1に記載の組成を有する、水中油型乳化化粧料(試験例1、試験例2)と油中水型乳化化粧料(試験例3)を常法により調製した。上記評価方法に従って、紫外線防御力の向上効果を評価した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示されるように、水中油型乳化物として調製した試験例1および試験例2はいずれも、(A)成分を配合しなかった対照試料と比べて、紫外線防御力が顕著に向上した。
一方、油中水型乳化物として調製した試験例3は、紫外線防御力の向上は認められなかった。
【0063】
2.紫外線散乱剤の疎水化処理剤による紫外線防御力向上効果への影響
以下の表2に記載の組成を有する水中油型乳化化粧料を常法により調製した。上記評価方法に従って、紫外線防御力の向上効果を評価した。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示されるように、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム処理した紫外線散乱剤を配合した試験例4、ジメチコン処理した紫外線散乱剤を配合した試験例5、ハイドロゲンジメチコン処理した紫外線散乱剤を配合した試験例6は、それぞれ(A)成分を配合しなかった対照試料と比べて、紫外線防御力が顕著に向上した。
一方、パルミチン酸デキストリン処理した紫外線散乱剤を配合した試験例7では、紫外線防御力の向上は認められなかった。
【0066】
3.水相増粘剤の配合量による影響
以下の表3に記載の組成を有する水中油型乳化化粧料を常法により調製した。上記評価方法に従って、乳化安定性を評価した。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示されるように、水相増粘剤((ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、サクシノグリカン)の配合量を0.3質量%以上とした試験例8は、乳化安定性に優れていた。
一方、水相増粘剤の配合量を0.3質量%未満とした試験例9は乳化安定性が悪かった。
【0069】
4.多孔質球状粉末との併用による紫外線防御力向上効果への影響
以下の表4に記載の組成を有する水中油型乳化化粧料を常法により調製した。上記評価方法に従って、紫外線防御力の向上効果を評価した。
【0070】
【表4】
【0071】
表4の試験例12は、特許文献1において紫外線防御力向上効果を奏する成分として列挙されているシリカを配合する。シリカを配合した試験例12は、シリカを配合していない対照試料と比較して、紫外線防御力が向上した。また本発明の(A)成分である(アクリレーツ/リン酸メタクリロイルオキシエチル)コポリマーを、シリカと組み合わせて配合した試験例10では、いずれか単独に配合する試験例11および試験例12と比較して、相加的ないしは相乗的な紫外線防御力の向上が認められた。