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  • 特許-グリース組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240305BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240305BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20240305BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20240305BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20240305BHJP
   C10M 133/06 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240305BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/08
C10M133/56
C10M133/16
C10M137/02
C10M133/06
C10N50:10
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:00 G
C10N30:06
C10N30:00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020005259
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021113250
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】矢野 敬規
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓司
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306275(JP,A)
【文献】特開2008-019288(JP,A)
【文献】特開2005-226038(JP,A)
【文献】特開2001-011481(JP,A)
【文献】特開2008-239687(JP,A)
【文献】特開2000-328085(JP,A)
【文献】特開2013-181156(JP,A)
【文献】特開2006-307023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(a)と、ジウレア化合物(b)と、アミド化合物(c)と、チオ亜リン酸化合物(d)と、を含むグリース組成物であって、
前記ジウレア化合物(b)は、下式1で表される化合物を含むことを特徴とする、グリース組成物。
(式1)
(但し、R及びRは、炭素数が8~20である、非環式の脂肪族炭化水素基を示し、Rは、ジフェニルメタン基を示す)
【請求項2】
前記ジウレア化合物(b)は、前記式1におけるR及びRが、炭素数が8~12である非環式の脂肪族炭化水素基、又は、炭素数が14~20である非環式の脂肪族炭化水素基、のいずれかであるジウレア化合物(b)を含むことを特徴とする、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
炭素数4~18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸又はその金属塩(e)を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
下式2で表されるアミン化合物(f)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
(式2)
(但し、Rは、炭素数5~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rは炭素数2~3の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す)
【請求項5】
前記アミド化合物(c)が、下式3又は下式4で表されるアミド化合物(c)を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物。
(式3)
(式4)
(但し、Rは、炭素数15~17の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rはメチレン基又はエチレン基を示す)
【請求項6】
前記チオ亜リン酸化合物は、下式5で表されるチオ亜リン酸化合物を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
(式5)
(但し、Rは、炭素数8~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基、若しくは、炭素数6~18のアリール基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に往復摺動するボールが介在した機械要素として、リニアガイド、ボールねじ、等速ジョイントなどが挙げられ、その使用環境は多岐に渡る。また、それらの機械要素において転がりと滑りが同時に起こりうる機構であり、潤滑環境は過酷である。このような条件において、転動部材の表面同士の接触は容易に起こりうる状況であり、接触が著しい場合には摩耗や焼き付きが生じる。
【0003】
そのような摩耗、焼き付きを防止し、機械要素を保護する方法として、潤滑油やグリースといった潤滑剤に極圧剤を添加するのが一般的である。極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄―リン系有機化合物、モリブデン化合物等が知られている。これらの中でも有機系極圧剤は優れた極圧性能を示すことから、極圧剤の主流となっており、種々の潤滑油組成物に広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ウレア増ちょう剤、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン、ジチオリン酸亜鉛やチオホスフェートなどの硫黄―リン系極圧剤、脂肪酸アミドを含有することを特徴とするしゅう動型等速ジョイント用グリース組成物が、摩耗しやすく、異常振動などの不具合が起こりやすい部位の潤滑性を向上させる技術が開示されている。当該特許によれば、等速ジョイントにおいては誘起スラスト力の発生が等速ジョイントの耐久性の低下や車の異常振動、乗り心地の悪化などの課題があったが、当該特許を用いることで、摩耗を低減し、振動を抑制し、耐久性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ウレア増ちょう剤、有機スルホン酸塩を含有することを特徴とするグリース組成物が、油膜の薄膜化により発生する金属疲労による剥離を油膜の厚膜化によらずに防止し、金属疲労による剥離寿命を延長する技術が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ウレア増ちょう剤、ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体を含有することを特徴とする転がり軸受用グリース組成物が、油膜の薄膜化により発生する金属疲労による剥離を油膜の厚膜化によらずに防止し、剥離寿命を延長することができる技術が開示されている。
【0007】
特許文献4には、ウレア増ちょう剤、アルキルホスホロチオエート化合物、脂肪族アミン化合物を含有することを特徴とする軸受用グリース組成物が、耐フレッチング性を向上させる技術が開示されている。
【0008】
特許文献5には、ウレア増ちょう剤、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸亜鉛、亜鉛スルホネートを含有することを特徴とするグリース組成物が、高速高面圧下での潤滑においても金属接触を防ぎ、摩擦を低減する添加剤被膜を維持形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-11481号公報
【文献】特開2003-321694号公報
【文献】特開2003-82374号公報
【文献】特開2008-239687号公報
【文献】特開2017-25189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~5の潤滑剤やグリース組成物は、ある特定の条件や特定の機械要素においては、良好な耐摩耗性や被膜形成能を示すが、種々の高荷重下での往復摺動においても安定して全体的なバランスのとれた耐摩耗性能や被膜形成能を維持できる組成物の提供には至ってない。特に、種々の高荷重下での往復摺動によって発生するフレーキングに対する効果が、検討されておらず、不十分であるおそれがあった。
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、その目的は、往復摺動時の反転時に転動が一瞬停止した際、油膜を十分に発生する事ができず金属接触が起こり、摩擦摩耗が過大になりやすい状況においても機械部品の寿命を維持向上させるべく、強固な添加剤被膜を形成し、またこれらは繰り返し動作しても形成された被膜が安定して維持され、安定した潤滑特性を与えるものである。すなわち、高荷重下においても、耐フレーキング性能を維持した往復摺動するボールが介在した機械要素の潤滑に使用可能なグリース組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アミド化合物とチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物と特定のジウレア化合物とを配合することにより、往復摺動するボールが介在した機械要素に使用でき、耐フレーキング性能を向上させた処方技術を見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
本発明(1)は、
基油(a)と、ジウレア化合物(b)と、アミド化合物(c)と、チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)と、を含むグリース組成物であって、
前記ジウレア化合物(b)は、下式1で表される化合物を含むことを特徴とする、グリース組成物である。
(式1)
(但し、R及びRは、炭素数が8~20である、非環式の脂肪族炭化水素基を示し、Rは、ジフェニルメタン基を示す)
本発明(2)は、
前記ジウレア化合物(b)は、前記式1におけるR及びRが、炭素数が8~12である非環式の脂肪族炭化水素基、又は、炭素数が14~20である非環式の脂肪族炭化水素基、のいずれかであるジウレア化合物(b)を含むことを特徴とする、前記発明(1)のグリース組成物である。
本発明(3)は、
炭素数4~18の飽和若しくは不飽和の脂肪酸又はその金属塩(e)を含むことを特徴とする、前記発明(1)又は(2)のグリース組成物である。
本発明(4)は、
下式2で表されるアミン化合物(f)を含むことを特徴とする、前記発明(1)~(3)のいずれかのグリース組成物である。
(式2)
(但し、Rは、炭素数5~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rは炭素数2~3の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す)
本発明(5)は、
前記アミド化合物(c)が、下式3又は下式4で表されるアミド化合物(c)を含むことを特徴とする、前記発明(1)~(4)のいずれのグリース組成物である。
(式3)
(式4)
(但し、Rは、炭素数15~17の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rはメチレン基又はエチレン基を示す)
本発明(6)は、
前記チオ亜リン酸化合物は、下式5で表されるチオ亜リン酸化合物を含み、前記チオリン酸エステル化合物は、下式6で表されるチオリン酸エステル化合物を含むことを特徴とする、前記発明(1)~(5)のいずれかのグリース組成物である。
(式5)
(但し、Rは、炭素数8~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基、若しくは、炭素数6~18のアリール基を示す。)
(式6)
(但し、Rは、炭素数8~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基、若しくは、炭素数6~18のアリール基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、往復摺動するボールが介在した機械要素において、高荷重下においても、耐フレーキング性能を維持した往復摺動するボールが介在した機械要素の潤滑に使用可能なグリース組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、耐フレーキング試験機の概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願において、「炭化水素基」とは、炭化水素から水素原子の一部を除いた原子団のことを示す。
【0017】
本願において、単に化合物名を示した場合には、そのすべての異性体を含むものとする。
【0018】
本願において、後述するジウレア化合物を形成するアミン化合物を原料アミン化合物と記載する。原料アミン化合物と、アミン化合物(f)は同一であっても、異なってもよい。本明細書においてアミン化合物(f)の配合量と記載した場合には、原料アミン化合物は含まれないものとする。
【0019】
本発明のグリース組成物は、基油(a)と、ジウレア化合物(b)と、アミド化合物(c)と、チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)と、を含む。
【0020】
本発明にかかるジウレア化合物(b)は、下式1で表される化合物を含む。
(式1)
(但し、R及びRは、炭素数が8~20である、非環式の脂肪族炭化水素基を示し、Rは、ジフェニルメタン基を示す)
【0021】
本発明にかかるジウレア化合物(b)は、一般的にイソシアネートと1級アミン(原料アミン化合物)を反応させて生成される。イソシアネートと1級アミン(原料アミン化合物)の組み合わせによってジウレア増ちょう剤が示す増ちょう剤繊維の形態が異なり、グリース組成物の流動特性は大きく変化することが明らかとなった。
【0022】
その中でも式1のジウレア化合物(b)を増ちょう剤とする脂肪族ウレアグリースは、脂環族アミンや芳香族アミンからなるウレアグリースや、脂肪族アミンを含み脂環族アミン及び/又は芳香族アミンとの混合物からなるウレアグリースとは流動特性が異なることが明らかとなった。また、式1のジウレア化合物(b)を増ちょう剤に用いたグリースは、潤滑界面への介入性に優れる傾向があるため、機械要素の保護について重要な役割を果たすことが明らかとなった。さらに、式1のジウレア化合物(b)を増ちょう剤に用いたグリースは、基油への溶解性が良く、基油と一体となって潤滑界面へ介入することから、上述した繊維の形態が異なることによる良好な流動挙動と相互に影響し、効果的な潤滑性を与えるものと考えられる。また、この効果は不飽和の脂肪族アミンを含む脂肪族ウレアグリースに顕著に見られることが明らかとなった。
【0023】
さらに、本発明の、ジウレア化合物(b)、アミド化合物(c)、チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)を含むグリース組成物においては、後述するように耐フレーキング性能の向上に顕著な効果を示し、さらに脂肪酸、脂肪酸塩や、ジウレア化合物(b)を形成するための原料アミン化合物とは別のアミン化合物(f)を配合することで往復摺動するボールが介在した機械要素の耐フレーキング性能の向上にさらに増して効果を示すことが明らかとなった。
【0024】
この効果は往復動の摺動速度の速度が大きい流体潤滑域においては、脂肪族ジウレア増ちょう剤が示す優れた流動特性による潤滑界面へのグリース組成物の供給性が向上したことによる潤滑膜の厚膜化、さらに、ジウレア化合物(b)による潤滑膜に加えて、アミド化合物(c)や脂肪酸又はその脂肪酸塩(e)が示す流動特性や金属表面への吸着によるウレアグリースとの相乗的な厚膜化効果により、耐摩耗性がさらに向上していると考えられる。また、往復動の終点付近の油膜が限りなくゼロに近づいている混合潤滑領域や境界潤滑領域においては、グリースの優れた流動特性により豊富に潤滑界面へ供給されていたグリース組成物中に含まれるチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)とアミン化合物(f)が、金属表面へ吸着すると共に、境界面でのトライボケミカル反応により、強固な被膜を形成することによって、良好な耐フレーキング性能を示したものと考えられる。
【0025】
<<<グリース組成物>>>
<<グリース組成物の成分>>
<基油(a)>
本発明のグリース組成物は、基油(a)を含む。本発明にかかる基油(a)は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。基油(a)としては、例えば、鉱油、合成油、動植物油、これらの混合油を適宜使用することができる。具体例としては、API(アメリカ石油協会、American Petroleum Institute)の基油カテゴリーでグループ1~5のものを挙げることができる。ここで、APIの基油カテゴリーとは、潤滑油基油の指針を作成するためにアメリカ石油協会によって定義された基油材料の広範な分類である。
【0026】
本発明にかかる鉱油は、特に限定されるものではないが、好ましい例として、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の一種若しくは二種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系又はナフテン系等の鉱油を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明にかかる合成油は、特に限定されるものではないが、ポリα-オレフィン(PAO)又は炭化水素系合成油(オリゴマー)を好ましい例として挙げることができる。PAOとは、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体である。例えば、α-オレフィンとしては、C-C二重結合が末端にある化合物であり、ブテン、ブタジエン、ヘキセン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン、エイコセン等が例示される。炭化水素系合成油(オリゴマー)としては、エチレン、プロピレン、又はイソブテンの単独重合体又は共重合体を例示することができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。また、これらの化合物はC-C二重結合が末端にある限り、とり得る異性体構造のどのような構造を有していてもよく、分枝構造でも直鎖構造でもよい。これらの構造異性体や二重結合の位置異性体の二種類以上を併用することもできる。これらのオレフィンのうち、炭素数5以下では引火点が低く、また炭素数31以上では粘度が高く実用性が低いため、炭素数6~30の直鎖オレフィンの使用がより好ましい。
【0028】
また、本発明においては、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)を基油(a)として用いることができる。GTLは、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて少なく、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油(a)として好適に用いることができる。
【0029】
<ジウレア化合物(b)>
本発明のグリース組成物は、下式1のジウレア化合物(b)を含む。
(式1)
ここで、式1中のR及びRは、炭素数が8~20である、非環式の脂肪族炭化水素基を示し、Rは、ジフェニルメタン基を示す。
【0030】
及びRは、非環式の脂肪族炭化水素基であればよく、直鎖式又は分鎖式の、飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基である。R及びRは、同一の構造でも、異なる構造でもよい。
【0031】
本発明にかかるジウレア化合物(b)は、下式7の反応によって得ることができる。
(式7)
【0032】
及びRは、それぞれが、炭素数が8~12である非環式の脂肪族炭化水素基、又は、炭素数が14~20である非環式の脂肪族炭化水素基、であることが好ましく、R及びRの一方が、炭素数が8~12である非環式の脂肪族炭化水素基であり、他方が、炭素数が14~20である非環式の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。R及びRがかかる構造を有する場合には、耐摩耗性及び耐フレーキング性がより優れたグリース組成物を得ることができる。
【0033】
本発明にかかるジウレア化合物(b)は、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0034】
<アミド化合物(c)>
本発明のグリース組成物は、アミド化合物(c)を含む。本発明にかかるアミド化合物(c)は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。本発明にかかるアミド化合物(c)としては、例えば、下式3で表される脂肪族アミド化合物、又は、下式4で表される脂肪族ビスアミド化合物が好ましく用いられる。アミド化合物(c)が、かかる構造を有する場合には耐摩耗性及び耐フレーキング性がより優れたグリース組成物を得ることができる。
(式3)
(式4)
式中のRは、炭素数15~17の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rはメチレン基又はエチレン基を示す。
【0035】
このような脂肪族アミド化合物、又は、脂肪族ビスアミド化合物としては、具体的には、パルミチン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、マルガリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、バクセン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エレオステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、エイコサジエン酸アミド、ミード酸アミド、アラキドン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスパルミトレイン酸アミド、メチレンビスマルガリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスバクセン酸アミド、メチレンビスリノール酸アミド、メチレンビスリノレン酸アミド、メチレンビスエレオステアリン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスパルミトレイン酸アミド、エチレンビスマルガリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスバクセン酸アミド、エチレンビスリノール酸アミド、エチレンビスリノレン酸アミド、エチレンビスエレオステアリン酸アミドを挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明のグリース組成物は、チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)を含む。本発明にかかるチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、限定されない。また、チオ亜リン酸化合物及びチオリン酸エステル化合物を併用することもできる。
【0037】
本発明にかかるチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物としては、例えば、下式5で表されるチオ亜リン酸化合物、又は、下式6で表されるチオリン酸エステル化合物が好ましく用いられる。チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)が、かかる構造を有する場合には耐摩耗性及び耐フレーキング性がより優れたグリース組成物を得ることができる。
(式5)
ここで、Rは、炭素数8~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基、若しくは、炭素数6~18のアリール基を示す。
(式6)
ここで、Rは、炭素数8~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基、若しくは、炭素数6~18のアリール基を示す。
【0038】
このようなチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)としては、具体的には、トリラウリルトリチオホスファイトなどのアルキルチオ亜リン酸;トリフェニルホスホロチオエートなどのチオリン酸芳香族エステル;等を挙げることができる。これらのうち、アルキルチオ亜リン酸を用いると、より耐摩耗性及び耐フレーキング性に優れたグリース組成物を得ることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0039】
<その他の添加物>
本発明のグリース組成物は、任意成分として、さらに下記の成分を含むことができる。本発明のグリース組成物は、脂肪酸又はその金属塩(e)、アミン化合物(f)を含むことで、より優れた耐摩耗性及び耐フレーキング性を得ることができ、脂肪酸若しくはその金属塩(e)、及び、アミン化合物(f)を含む場合には、さらに優れた耐摩耗性及び耐フレーキング性を得ることができる。
【0040】
(脂肪酸又はその金属塩(e))
本発明のグリース組成物は、脂肪酸又はその金属塩(e)を含むことができる。本発明にかかる脂肪酸又はその金属塩(e)としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、限定されない。本発明にかかる脂肪酸又は金属塩としては、炭素数4~18の、飽和若しくは不飽和の脂肪酸又はその金属塩が好ましく用いられる。本発明のグリース組成物が、かかる脂肪酸又はその金属(e)塩を含む場合には、さらに耐摩耗性及び耐フレーキング性に優れたグリース組成物を得ることができる。
【0041】
このような脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンダデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、ボセオペンタエン酸等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、飽和脂肪酸に比べ、不飽和脂肪酸が、金属表面への吸着しやすいことから、より優れた耐摩耗性及び耐フレーキング性を有するグリース組成物が得られる点でより好ましく、炭素数としては、炭素数が大きい方が同様により好ましい。このような脂肪酸としては、オレイン酸を挙げることができる。
【0042】
これらの脂肪酸と塩を形成する金属元素としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて限定されない。具体的な金属元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属;ベリリウム;マグネシウム;カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム;亜鉛;等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、カルシウム、アルミニウムの塩がより優れた耐摩耗性及び耐フレーキング性を有するグリース組成物が得られる点でより好ましく用いられる。
【0043】
(アミン化合物(f))
本発明のグリース組成物は、アミン化合物(f)を含むことができる。本発明にかかるアミン化合物(f)としては、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、限定されない。本発明にかかるアミン化合物(f)としては、下式2で表されるアミン化合物が好ましく用いられる。本発明のグリース組成物が、かかるアミン化合物を含む場合には、より耐摩耗性及び耐フレーキング性に優れたグリース組成物を得ることができる。
(式2)
ここで、Rは、炭素数5~18の、飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Rは炭素数2~3の飽和又は不飽和の炭化水素基を示す。
【0044】
このようなアミン化合物(f)としては、具体的には、例えば、N-ヤシアルキル-1,2-エチレンジアミン、N-牛脂アルキル-1,2-エチレンジアミン、N-硬化牛脂アルキル-1,2-エチレンジアミン、N-ヤシアルキル-1,3-プロパンジアミン、N-牛脂アルキル-1、3-プロパンジアミン、N-硬化牛脂アルキル-1,3-プロパンジアミン、N-ヤシアルキル-1,3-プロピレンジアミン、N-牛脂アルキル-1、3-プロピレンジアミン、N-硬化牛脂アルキル-1,3-プロピレンジアミン、N-ヤシアルキル-1,4-ブチレンジアミン、N-牛脂アルキル-1,4-ブチレンジアミン、N-硬化牛脂アルキル-1,4-ブチレンジアミン等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。これらのうち、N-牛脂アルキル-1、3-プロパンジアミンが、より優れた耐摩耗性及び耐フレーキング性を有するグリース組成物が得られる点でより好ましい。
【0045】
(その他)
本発明のグリース組成物は、上記の増ちょう剤(ウレア)と共に、ウレア化合物以外の増ちょう剤(他の増ちょう剤)を用いることができる。こうした他の増ちょう剤としては、第三リン酸カルシウム、アルカリ金属石けん、アルカリ金属複合石けん、アルカリ土類金属石けん、アルカリ土類金属複合石けん、アルカリ金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、その他の金属石けん、テレフタラメート金属塩、モノウレア、トリウレアモノウレタンやジウレア又はテトラウレア以外のポリウレア、又は、クレイ、シリカエアロゲル等のシリカ(酸化ケイ素)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を併せて使用することができる。また、これら以外にも液状物質に粘ちょう効果を付与できるものはいずれも使用することができる。
なお、上述した脂肪酸又はその金属塩(e)を用いる場合に、さらに脂肪酸又はその金属塩(e)を増ちょう剤として重複して用いることができる。脂肪酸又はその金属塩(e)を重複して増ちょう剤として用いる場合には、脂肪酸又はその金属塩(e)の配合量とは別に配合することができる。
【0046】
本発明のグリース組成物は、本発明を阻害しない限りにおいて、さらに、酸化防止剤、防錆剤、油性剤、極圧剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤、金属不活性剤、ポリマー、非金属系清浄剤、着色剤、撥水剤等を含むことができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0047】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルパラクレゾール、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、N-フェニル-α-ナフチルアミン、フェノチアジン等を挙げることができる。
【0048】
防錆剤としては、例えば、酸化パラフィン、カルボン酸金属塩、スルフォホン酸金属塩、カルボン酸エステル、スルフォホン酸エステル、サリチル酸エステル、コハク酸エステル、ソルビタンエステルや各種アミン塩等を挙げることができる。
【0049】
油性剤や極圧剤並びに耐摩耗剤としては、例えば、硫化ジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオリン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアリルジチオカルバミン酸亜鉛、硫化ジアルキルジチオリン酸モリブデン、硫化ジアリルジチオリン酸モリブデン、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、硫化ジアリルジチオカルバミン酸モリブデン、有機モリブデン錯体、硫化オレフィン、トリフェニルフォスファイト、トリフェニルフォスホロチオネート、トリクレジンフォスファイト、その他リン酸エステル類、硫化油脂類等を挙げることができる。
【0050】
固体潤滑剤としては、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、二硫化タングステン、フッ化黒鉛等がある。例えば、金属不活性剤としては、N,N’-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、チアジアゾール等がある。例えば、ポリマーとしては、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリメタクリレート等を挙げることができる。
【0051】
非金属系清浄剤として、例えば、コハク酸イミド等を挙げることができる。
【0052】
<<グリース組成物の製造方法>>
次に、本形態にかかるグリース組成物の製造方法としては、特に限定されず、各原料を公知の方法で、計量し、混合することで製造することができる。なお、任意の成分の配合量に関しては、必要であれば上述の配合量にて適宜配合することができる。
【0053】
基油(a)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは70~98質量%であり、より好ましくは75~97質量%であり、さらに好ましくは80~95質量%である。
【0054】
本発明にかかるジウレア化合物(b)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%とすることができる。
また、ジウレア化合物(b)以外の増ちょう剤をさらに加える場合には、ジウレア化合物(b)の配合量と、ジウレア化合物(b)以外の増ちょう剤配合量の合計が、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは2~50質量%であり、より好ましくは4~40質量%、さらに好ましくは6~30質量%である。
ジウレア化合物(b)の配合量が、かかる範囲にある場合には、グリース組成物はグリースとしての適度な硬さを有し、潤滑部位から流出しづらく、また、潤滑界面への介入性に優れるため目的とする潤滑性能を十分に発揮できる。
【0055】
本発明にかかるアミド化合物(c)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%とすることができる。
【0056】
本発明にかかるチオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%とすることができる。
【0057】
本発明にかかる脂肪酸又はその金属塩(e)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%とすることができる。
【0058】
本発明にかかるアミン化合物(f)の配合量は、グリース組成物全体を100質量%として、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~5質量%、さらに好ましくは0.3~3質量%とすることができる。
【0059】
その他添加剤の配合量として、グリース組成物全体を100質量部として、任意の成分全体で約0.1~20質量部配合することができる。
【0060】
<<グリース組成物の物性>>
<ちょう度>
本発明のグリース組成物は、2号~0号(265~385)のちょう度の範囲にあるが、好ましくは4号~00号(175~430)のちょう度範囲であり、より好ましくは3号~0号(220~385)のちょう度範囲であり、さらに好ましくは2号~1号(265~340)のちょう度範囲である。なお、ちょう度はグリースの物理的硬さを表す。ここで、ちょう度の測定方法は、JIS K2220 7の「グリース ちょう度試験方法」に準拠し、ちょう度の測定により求めることができる。
【0061】
<滴点>
本発明のグリース組成物は、滴点においての性能上の関連性はないが、ウレアグリースの増ちょう剤構造が本来の結合に達している指標として、180℃以上又は超となるものが好ましい。なお、滴点は、粘性を有するグリースが、温度を上げてゆくと増ちょう剤構造を失う温度をいう。ここで、滴点の測定は、JIS K2220 8「グリース 滴点試験方法」に準拠して行うことができる。
【0062】
<<グリース組成物の用途>>
本発明のグリース組成物は、一般に使用される機械、軸受、歯車、ボールねじ等に使用可能であることはもちろん、よりグリース潤滑において苛酷な環境下でも優れた性能を発揮することができる。例えば、自動車では、ウォーターポンプ、冷却ファンモーター、スターター、オルターネーター及び各種アクチュエーター部のエンジン周辺、プロペラシャフト、等速ジョイント(CVJ)、ホイールベアリング及びクラッチ等のパワートレイン、電動パワーステアリング(EPS)、電動パワーウィンドウ、制動装置、ボールジョイント、ドアヒンジ、ハンドル部、ブレーキのエキスパンダー等の各種部品等の潤滑に好適に用いることができる。さらに、パワーショベル、ブルドーザー、クレーン車等の建設機械、鉄鋼産業、製紙工業、林業機械、農業機械、化学プラント、発電設備、鉄道車両、等の往復摺動する可能性のある各種軸や勘合部に用いることも好ましい。その他の用途としては、シームレスパイプのねじジョイントや船外機の軸受等も挙げられるが、これらの用途にも好適である。
【実施例
【0063】
以下、実施例、参考例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
<<グリース組成物の製造>>
<原料>
実施例、参考例及び比較例において用いた、原料成分に関する略称は、下記のとおりである。
(基油(a))
・基油A:40℃の動粘度が99.05mm/s、100℃の動粘度が11.13mm/sの鉱物油
・基油B:40℃の動粘度が480.2mm/s、100℃の動粘度が31.56mm/sの鉱物油。
・基油C:40℃の動粘度が43.88mm/s、100℃の動粘度が7.774mm/s、粘度指数が146、%CAが1以下、%CNが11.9、%CPが85以上である高度精製油。
・基油D:40℃の動粘度が396.5.3mm/s、100℃の動粘度が39.99mm/sのポリα-オレフィン油
・基油E:40℃の動粘度が102.2mm/s、100℃の動粘度が12.64mm/sのアルキルジフェニルエーテル油
(ジウレア化合物(b))
ジウレア化合物(b)は、以下の原料を反応させて、後述する製造方法にて調整した。
・ジウレア化合物A:
ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート(MDI)
オクチルアミン
オレイルアミン
・ジウレア化合物B:
ジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート(MDI)
オクチルアミン
(アミド化合物(c))
・アミド化合物A:オレイン酸アミド(ライオン製アーモスリップCP)
(チオ亜リン酸化合物又はチオリン酸エステル化合物(d))
・チオ亜リン酸化合物A:トリラウリルトリチオホスファイト(城北化学工業製JPS-312)
・チオリン酸エステル化合物A:トリフェニルホスホロチオエート(BASF製Irgalube TPPT)
(脂肪酸又はその金属塩(e))
・脂肪酸A:オレイン酸(日油製NAA-35)
・脂肪酸金属塩A:カルシウムステアレート(日油製カルシウムステアレートGP)
・脂肪酸金属塩B:アルミニウムステアレート(日油製アルミニウムステアレート300)
(アミン化合物(f))
・アミン化合物A:N-牛脂アルキル-1,3-プロパンジアミン(ライオン製リポミンDA-T)である。
【0065】
<実施例1>
基油とMDIを釜内で加熱し、内容物を溶解させた後、オクチルアミンと、オレイルアミンと基油とを混合溶解した原料を加え、反応させ、ジウレア化合物Aを合成した。さらに攪拌しながら170℃まで加熱し、約30分間温度を保持し反応を完結させた。その後、速やかに冷却し、その冷却過程にて、表1に示す配合割合の各種添加剤を加え、攪拌混合し、80℃まで冷却した後、ホモジナイザーにて処理してグリースを得た。
【0066】
<実施例3、4,7~10、14~17、参考例2、5、6、11~13、18及び比較例1~5>
配合する原料を、表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にグリース組成物を調製した。なお、ジウレア化合物Bは、ジウレア化合物Aの原料を上述した原料に変えて調整した。
【0067】
<<グリース組成物の評価>>
各実施例、参考例及び比較例の性状及び性能を比較するために、下記の測定、試験を行った。
【0068】
<ちょう度>
各実施例、参考例及び比較例のグリース組成物について、JIS K2220 7の「グリース ちょう度試験方法」に準拠し、混和ちょう度及び不混和ちょう度を測定した。結果を表1に示した。
【0069】
<滴点>
各実施例、参考例及び比較例のグリース組成物について、JIS K2220 8「グリース 滴点試験方法」に準拠し、滴点を測定した。結果を表1に示した。
【0070】
<軸受剥離摩耗試験>
各実施例、参考例及び比較例のグリース組成物について、軸受剥離摩耗試験によって摩耗性及び耐フレーキング性の評価を行った。結果を表1に示した。評価方法は下記のとおりである。また、図1は、軸受剥離摩耗試験機の概要を示した図である。
あらかじめ清浄な試験用転がり軸受(7205型アンギュラ玉軸受)の重量を測定し、その軸受に3gのグリース組成物を詰め、軸受剥離摩耗試験装置に装着した。その後、揺動軸のナットを600kg・mの締め付けトルクで固定し、軸への締め付けトルクでスラスト荷重を負荷した。次に、油圧ピストンで1軸受あたり1.0トンのラジアル荷重を負荷した。モーターを起動させ、揺動軸を1.7Hzにて往復動させた。20時間揺動運転後、装置から軸受を取り出し、n-ヘキサン等の溶剤にて洗浄し、グリース組成物を十分に除去した。試験後の清浄な軸受重量を測定し、試験前軸受との重量差を算出し,軸受摩耗量とした。
試験後の軸受摩耗の量、ならびに、内輪・外輪それぞれの摺動面のフレーキング発生面積を測定し、良し悪しを評価した。合否の判定は、フレーキング発生面積の合計により、50mm未満を合格、それ以上を不合格とした。フレーキング発生面積は、フレーキングが発生している部分をデジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-6000)に観察し特定したのち、面積を計測した。
(試験条件)
試験軸受:No.7205(アンギュラ玉軸受)
グリース充填量:3.0g
揺動:1.7Hz
スラスト荷重:600Kg・m
ラジアル荷重:1.0トン
温度:25℃
時間:20時間
【0071】
<評価結果>
前述の試験方法に従い、混和ちょう度、滴点、ならびに、軸受剥離摩耗試験を行った。得られた各グリースの性状を表1に記す。
実施例のグリースのちょう度は0号から2号ちょう度で、比較例のグリースのちょう度は、2号から2.5号ちょう度である。滴点は、実施例ならびに比較例のいずれのグリースともに240℃以上でウレアグリースとして遜色のない値である。
本発明において最も重要な軸受剥離摩耗試験において、実施例にかかる全てのグリースの結果は、軸受摩耗量が150mgを下回る耐摩耗性を実現し、フレーキング発生面積については50mmを下回わり、合格の判定であった。他方、比較例にかかるグリースは、軸受剥離摩耗試験において試験後の軸受の摩耗が多く、内輪・外輪それぞれの摺動面のフレーキング発生面積が、いずれも、50mmを超え、不合格の判定であった。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
1 モーター
2 回転軸
3 クランクアーム(1)
4 ひずみ計
5 クランク屈折部
6 クランクアーム(2)
7 はめあい保持用ナット
8 キー材
9 円すいはめあい部
10 ナット
11 カラー
12 軸受保持ブロック
13 試験用転がり軸受
14 軸受ユニット
15 荷重制御装置
16 補助転がり軸受
17 揺動軸

図1