(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ウェットシート及び当該ウェットシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A47K 7/00 20060101AFI20240305BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20240305BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A47K7/00 G
A47K7/00 E
D21H11/18
D21H19/34
(21)【出願番号】P 2020043736
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 里奈
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172801(JP,A)
【文献】特開2018-086203(JP,A)
【文献】特開2010-116332(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280310(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
A47K7/00
D21H11/18
D21H19/34
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートに薬液が含浸されたウェットシートであって、
前記薬液は、油剤
であるシア脂と乳化剤
であるトリイソステアリン酸PEG-20グリセリル、及びPEG-8(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズを含み、
前記基材シートは、セルロースナノファイバーが塗布されていることを特徴とするウェットシート。
【請求項2】
前記薬液は、前記油剤が0.001質量%~0.100質量%配合されていることを特徴する請求項1に記載のウェットシート。
【請求項3】
前記薬液は、前記基材シートの乾燥重量に対して200質量%~500質量%含浸されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のウェットシート。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーは、前記基材シートに対して0.1g/m
2~10.0g/m
2塗布されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のウェットシート。
【請求項5】
ウェットシートの製造方法であって、
基材シートにセルロースナノファイバー溶液を塗布する塗布工程と、
前記基材シートを熱乾燥する熱乾燥工程と、
前記基材シートに油剤
であるシア脂と乳化剤
であるトリイソステアリン酸PEG-20グリセリル、及びPEG-8(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズを含む薬液を含浸させる薬液含浸工程と、を有することを特徴とするウェットシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットシート及び当該ウェットシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油剤を含む乳液ベースの薬液をシート基材に含浸させたウェットシートは、保湿性能に優れていることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乳液ベースの薬液が含浸されたウェットシートよりも、更に保湿性能に優れたウェットシートが求められていた。
【0005】
本発明の課題は、保湿性能に優れたウェットシート及び当該ウェットシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
基材シートに薬液が含浸されたウェットシートであって、
前記薬液は、油剤であるシア脂と乳化剤であるトリイソステアリン酸PEG-20グリセリル、及びPEG-8(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズを含み、
前記基材シートは、セルロースナノファイバーが塗布されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のウェットシートにおいて、
前記薬液は、前記油剤が0.001質量%~0.100質量%配合されていることを特徴する。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載のウェットシートにおいて、
前記薬液は、前記基材シートの乾燥重量に対して200質量%~500質量%含浸されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のウェットシートにおいて、
前記セルロースナノファイバーは、前記基材シートに対して0.1g/m2~10.0g/m2塗布されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、ウェットシートの製造方法であって、
基材シートにセルロースナノファイバー溶液を塗布する塗布工程と、
前記基材シートを熱乾燥する熱乾燥工程と、
前記基材シートに油剤であるシア脂と乳化剤であるトリイソステアリン酸PEG-20グリセリル、及びPEG-8(カプリル酸/カプリン酸)グリセリズを含む薬液を含浸させる薬液含浸工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保湿性能に優れたウェットシート及び当該ウェットシートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】杉綾模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図2】縞模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図3】格子模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図4】メッシュ模様のウェットシートを示す平面図である。
【
図5】曲線模様のウェットシートを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0014】
[ウェットシート]
図1は、本実施の形態に係るウェットシートSを示す平面図である。
ウェットシートSは、所定の繊維からなる基材シート10に対して、セルロースナノファイバー(以下、CNF)が0.1g/m
2~10.0g/m
2、好ましくは0.2g/m
2~5.0g/m
2塗布され、精製水に各種成分を添加した乳液ベースの薬液を含浸させたものであって、例えば、赤ちゃんのおしりふき、大人用の身体またはおしりふきなどに使用される清掃用シートである。CNFの塗布量が0.1g/m
2~10.0g/m
2であると、保湿性に優れたウェットシートSを実現することができる。
なお、このウェットシートSは、製品形態では、開閉蓋により密閉可能とされたシート取出口を有する密閉容器等の包装手段内に収容することができる。
使用に際しては、ウェットシートSを容器又は袋内に直に入れたもの、或いはウェットシートSを直に入れた袋を容器内に入れたものから、使用者が取出口を開けて内部のシートを引き出して使用する。
【0015】
[基材シート]
基材シート10は、所定の繊維を繊維素材として、例えば、スパンレース、エアスルー、エアレイド、ポイントボンド、スパンボンド、ニードルパンチ等の周知の技術により製造される不織布である。所定の繊維としては、例えば、レーヨン、リヨセル、テンセル、コットン等のセルロース系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン等のポリアミド系繊維が挙げられる。これらは単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができるが、コットンが1質量%~10質量%配合されていることが望ましく、これにより、乳液ベースの薬液が含浸されたウェットシートSをより肌への刺激が少ないものにすることができる。
【0016】
なお、ウェットシートSは、複数枚の基材シート10をプライ(積層)加工することによって形成しても、1枚の基材シート10から形成してもよい。ウェットシートSが多層構造である場合は、コットンが内層に6%~10%、外層に0~4%含まれていると薬液保持性を高めることができ、内層に0%~4%、外層に6%~10%含まれていると使用者がより水分感を感じられるようになる。なお、内層と外層におけるコットンの含有割合としては上記のものに限られず、各層に均一な割合で含有されていてもよい。
【0017】
この基材シート10は、例えば、
図1に示すように、高繊維密度領域11からなる凸部と、低繊維密度領域12からなる凹部とを有しており、この高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とが交互に配置されることで、所定の模様が形成されている。
所定の模様としては、例えば、
図1に示すように、所定間隔ごとに逆方向に折り曲がる線により、連続したV字状部が形成される杉綾模様が挙げられる。
【0018】
なお、本発明においては、杉綾模様のV字状部の角度(線の折り曲がる角度)は特に限定されないが、例えば5°~60°とすることで、薬液の拡散性及び液透過性を最も良好にすることができる。
また、基材シート10に形成される模様としては、杉綾模様以外にも、例えば、縞模様、格子模様、メッシュ模様、曲線模様などを用いることもできる。
図2~
図5は、それぞれ、縞模様(
図2)、格子模様(
図3)、メッシュ模様(
図4)、曲線模様(
図5)が形成された基材シート10を示している。
【0019】
なお、
図1~
図5では、説明の便宜のため、高繊維密度領域11の部分に網点を付している。
また、本明細書でいう「高繊維密度領域11」とは、低繊維密度領域12よりも繊維密度が大きい領域であることを意味し、密度は低繊維密度領域12よりも大きければ特に限定されない。
また、「低繊維密度領域12」とは、高繊維密度領域11よりも繊維密度が小さい領域であることを意味し、密度は高繊維密度領域11よりも小さければ特に限定されない。
【0020】
基材シート10が、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とを有することによって、肌への接触面積が少なくなり、肌への摩擦が低減できる。これにより、肌への刺激を少なくすることができるので、本発明のウェットシートSは、肌の敏感な人や乳幼児などであっても利用することができるものとなっている。
また、線状の凹部(低繊維密度領域12)を有することにより、平坦な基材シートと比較して液拡散性及び液透過性が優れるため、基材シート10にはムラなく均一に薬液が塗布されることとなる。
【0021】
高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とによって形成される各模様における線本数は、3本/cm~7本/cmであることが好ましい。
ここで、本明細書でいう線本数(本/cm)とは、1cmあたりに、線状の高繊維密度領域11及び線状の低繊維密度領域12が何本分存在するかを意味している。
すなわち、平行に設けられた線状の高繊維密度領域11及び線状の低繊維密度領域12に平行な方向に対して垂直な方向(本数が最も多くなる方向)に何本存在するかを意味している。つまり、4本/cmのときは、1cmに線状の高繊維密度領域11及び低繊維密度領域12が2本ずつ設けられていることを意味する。
線本数が3本/cm未満であると、基材シート10の表面が平坦に近づくため、一旦捕捉された汚れが転着し易くなる。また、線本数が7本/cmを超えると、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12とで形成される空間の容積が小さくなり過ぎるため、低繊維密度領域12に所望の量の汚れを確保できないようになる。
【0022】
図6は、
図1~
図5におけるVI-VIの部分の断面図である。
高繊維密度領域11の裏面からの高さ(厚さ)Hmは、例えば、200μm以上、600μm未満が好ましく、低繊維密度領域12の裏面からの高さ(厚さ)Hdは、例えば、150μm以上、200μm未満が好ましい。
このとき、高繊維密度領域11と低繊維密度領域12との高低差は、50μm~100μm程度が好ましい。
高低差が50μm未満であると、低繊維密度領域12による捕捉効果を多く期待することができず、所望の拭取り量が確保できないようになり、また、100μmを超えると、基材シート10の厚さが厚くなって、柔軟性や手触り感が損なわれるからである。
【0023】
また、高繊維密度領域11の繊維目付けは、例えば、40g/m2~60g/m2程度であるのが好ましく、低繊維密度領域12の繊維目付けは、例えば、10g/m2~20g/m2程度であるのが好ましい。
繊維目付けが上記範囲を満たすことで、好適な厚みとなり、基材シート10に強度と柔軟性の両者を担保させることができる。
【0024】
なお、本実施形態では、凸部が高繊維密度領域11であり、凹部が低繊維密度領域12であるとしたが、これに限られず、凸部が低繊維密度領域12であり、凹部が高繊維密度領域11であるとしてもよい。また、基材シート10は、高繊維密度領域11である凸部と、低繊維密度領域12である凹部を有していることが好ましいが、これに限られず、繊維密度の差を設けなくても構わない。
また、基材シート10における高繊維密度領域11と低繊維密度領域12の面積比は5:5でなくても構わないが、2:8~8:2の範囲内であるのが好ましい。一方が他方の4倍より多く設けられていると、凹凸感が感じられにくくなるので好ましくない。
【0025】
[CNF]
CNFは、水分を保持する特性を有し、安全性が高く、且つその水溶液はチキソ性を有する素材であって、パルプ繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維であり、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上、1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいうが、平均繊維幅は、100nm以下の微細繊維が好ましい。平均繊維幅の算出は、例えば、一定数の数平均、メジアン、モード径(最頻値)などを用いる。
【0026】
(CNFに使用可能なパルプ繊維)
CNFとして使用可能なパルプ繊維としては、例えば、広葉樹パルプ(LBKP)、針葉樹パルプ(NBKP)等の化学パルプ、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ、古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(解繊方法)
CNFの製造に用いられる解繊方法としては、例えば、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュイダイザー法、グラインダー磨砕法、ビーズミル凍結粉砕法、超音波解繊法等の機械的手法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0028】
なお、上記解繊方法などにより機械的処理のみ施した(変性させていない)CNF、即ち、官能基未修飾のCNFは、リン酸基やカルボキシメチル基などの官能基修飾されたものに対し、熱安定性が高いため、より幅広い用途に使用可能であるが、リン酸基やカルボキシメチル基などの官能基修飾されたCNFを本発明に使用することも可能である。
また、例えば、パルプ繊維に対して機械的手法の解繊処理を施したものに、カルボキシメチル化等の化学的処理を施しても良いし、酵素処理を施してもよい。化学的処理を施したCNFとしては、例えば、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、亜リン酸エステル化CNF等の、直径が3nm~4nmとなるiCNF(individualized CNF) (シングルナノセルロース)が挙げられる。
また、化学的処理や酵素処理のみを施したCNFや、化学的処理や酵素処理を施したCNFに、機械的手法の解繊処理を施したCNFでもよい。
【0029】
[CMC]
なお、CNFの溶液中での凝集を防止するために、水溶性高分子であるカルボキシメチルセルロース(以下、CMC)を添加してもよい。
CNFを水系溶媒に添加した場合、CNFのミクロフィブリル繊維同士が結合して凝集してしまうところ、CMCを添加してCNFとCMCを共存させることで、CNFのOH基と、CMCのOH基とが水素結合し、分子鎖の静電相互作用と立体障害効果によって、CNFの凝集が防止され、CNFを溶液中に均一に分散させることができる。
【0030】
なお、CMCは、セルロースを原料として得られ、緩やかな生分解性を有し、且つ使用後の焼却廃棄が可能であるため、環境に極めてやさしい素材であることから好ましく使用されるが、CNFの溶液中での凝集を防止できるものであれば、CMC以外の水溶性高分子を用いることとしても良い。
また、CMCを添加する場合には、溶液全体を100.000質量%としたときに、精製水を93.000質量%~99.790質量%、CNFを0.002質量%~0.020質量%、及びCMCを0.100質量%~1.000質量%の割合で含有していることが好ましい。
なお、CMCを添加せず、CNFのみを塗布する場合は、精製水を98.000質量%~99.500質量%、CNFを0.500質量%~2.000質量%の割合で含有していることが好ましい。
【0031】
[薬液]
薬液は、主成分が水(精製水)であって、油剤と乳化剤が1:4~1:19の比率で配合され、溶液を乳化させた乳液ベースのものである。
かかる構成により、本実施の形態の薬液は油分を含むこととなるため、油分を多く含む便や皮脂汚れの汚れ落ちが良い。したがって、本実施の形態の薬液を含浸させたウェットシートSは、少ない枚数で汚れをしっかりと拭き取ることができるものとなり、消費者はウェットシートSの購入量を減らすことができる。
また、特に、かかる比率で油剤と乳化剤が配合されることにより、溶液の乳化安定性が向上し、水と油剤が可溶化し、半透明または透明になるため、薬液中の不純物の有無の確認、pHの測定といった品質管理を行いやすくなり、操業性を高めることができる。
なお、油剤に対する乳化剤の比率が上記のものより低いと、溶液が乳化しにくくなる、又は乳液が半透明または透明になりにくくなるため望ましくない。また、油剤に対する乳化剤の比率が上記のものより高くても、あまり乳化効果は上がらず、乳化剤のコストが増えるため望ましくない。
【0032】
(油剤)
油剤としては、例えば、オレイン酸とステアリン酸を多量に含むことから低粘度でなめらかかつしっとりした感触を示し、浸透性に優れ、また長鎖脂肪酸やフィトステロールが含まれていることから高い保湿性を有するシア脂が用いられる。
なお、油剤としてはシア脂に限られず、エモリエント効果を有するものであれば良く、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、つばき油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、大豆油、コーン油、なたね油、キョウニン油、パーシック油、桃仁油、ひまし油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、綿実油、ココナッツ油、小麦胚芽油、米胚芽油、月見草油、ハイブリッドヒマワリ油、マカデミアナッツ油、メドウフォーム油、へーゼルナッツ油、パーム核油、パーム油、やし油、カカオ脂、木ろう、ミンク油、タートル油、卵黄油、牛脂、乳脂、豚脂、馬油、ホホバ油、カルナウバろう、キャンデラろう、米ぬかろう、オレンジラフィー油、みつろう、セラック、ラノリン、モンタンろう、スクワレン、スクワラン、流動パラフィン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、軟質流動イソパラフィン、水添ポリイソブチレン、オゾケライト、セレシン、α-オレインフィンオリゴマー、ポリブテン、ポリエチレン等を任意に用いることができる。
油剤は、薬液の全成分に対して0.001質量%~0.100質量%の割合で配合される。0.001質量%より少ないと油剤の効果があまり発揮されなくなるため望ましくない。また、0.100質量%より多いと、粘性が大きくなり、ベトつきが生じ、使用感が悪化するため望ましくない。
【0033】
(乳化剤)
また、乳化剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルエステル類、ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の非イオン界面活性剤等が用いられる。
なお、乳化剤は少なくとも2種類以上が配合されるのが望ましい。シア脂等の油剤は、複数種の脂肪酸からなるため、複数種の乳化剤を配合することにより、より乳化しやすくすることができる。
【0034】
(保湿剤)
また、薬液には保湿剤を配合しても良い。保湿剤としては、肌への刺激が少ないグリセリン等が用いられ、これを油剤と配合することにより、ウェットシートSの水分保持性を高めることができ、何回もこすらずとも汚れを拭き取れるようになり、肌への刺激を低減させることが可能となる。
保湿剤は、薬液の全成分に対して1質量%~10質量%の割合で配合される。1質量%より少ないと保湿効果があまり向上せず、10質量%より多いと、薬液の粘性が高くなりすぎるため、含浸性能が低くなる。また、ベトつきが生じ、使用感が悪化するため望ましくない。
【0035】
(防腐剤)
その他、薬液には防腐剤として、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンを配合しても良く、市販品、化学合成法、動物や植物に由来する天然のもの、発酵法又は遺伝子組換法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンは幅広い抗菌スペクトルを持ち、高い抗菌効果を有する物質である。また、ヘキシルグリセリン又はエチルヘキシルグリセリンは保湿機能を有し、これを含有することにより、ウェットシートSの水分保持性を高めることができる。
【0036】
また、防腐剤には安息香酸ナトリウムが含まれる。安息香酸ナトリウムは、例えば、カビ、酵母、好気性菌等に対する抗菌効果を有する物質である。
安息香酸ナトリウムはpH5以下で防腐効果を発揮する。即ち、薬液のpHが5より大きくなると安息香酸ナトリウムの防腐効果がほとんどなくなってしまう。また、一般に、pHが3より小さくなると強酸性となるため肌への刺激があり、肌荒れの原因となる可能性がある。このため、薬液のpHは3~5の範囲に調整されることが望ましい。
【0037】
具体的には、薬液の全成分に対して、エチルヘキシルグリセリンが0.05質量%~0.10質量%、安息香酸ナトリウムが0.075質量%~0.100質量%の割合で配合される。
或いは、薬液の全成分に対して、ヘキシルグリセリンが0.1質量%~0.5質量%、安息香酸ナトリウムが0.05質量%~0.10質量%の割合で配合される。
かかる配合をすることで、より効果的に防腐効果を発揮させることができる。
【0038】
その他、防腐剤には、例えば、フェノキシエタノール、塩化ベンザルコニウム、セチルピリジニウムクロリドやキレート剤等を配合することが可能である。
【0039】
(含浸率)
また、この薬液の含浸率としては、基材シート10の乾燥重量に対して200質量%~500質量%とすることができる。
なお、基材シート10の乾燥重量の測定条件は、温度25℃、湿度40%である。また、含浸率200質量%とは、乾燥重量が100gの基材シート10に対して薬液が200g含浸されていることを意味し、含浸率500質量%とは、乾燥重量が100gの基材シート10に対して薬液が500g含浸されていることを意味している。
含浸率が200質量%より少ないと、液分が十分に浸透せずに含浸ムラができて、薬液内の成分が偏在しやすくなり、含浸率が500質量%より多いと、使用時に薬液が垂れやすくなる。
【0040】
[ウェットシートの製造方法]
次に、ウェットシートSの製造方法について説明する。
ウェットシートSは、例えば、複数の繊維層を積層して基材シート10を作製する積層工程と、基材シート10にCNF溶液を塗布する塗布工程と、基材シート10を熱乾燥する熱乾燥工程と、乳液ベースの薬液を含浸させる薬液含浸工程と、を備える。
【0041】
(積層工程)
積層工程においては、水流交絡法によって、複数の繊維層が、その境界領域において互いの繊維が交絡した基材シート10を作製することができる。
【0042】
(塗布工程)
塗布工程は、CNFを基材シート10に塗布する工程であり、その方法としては、CNFを溶媒に溶かし、CNF分散液の状態とし、このCNF分散液を基材シート10に塗布し、乾燥させることにより対象シート上に付着形成する等、公知の方法を用いることができる。なお、このように液状のCNFを塗布する製造方法により基材シート10に塗布すると、シート内に一部浸透するものの、CNFは表面に集中するため、外層上にCNFを付着形成することができる。CNFを分散させる溶媒は特に限定されないが、水、エタノール等の低級アルコールのほか、アセトン等の揮発性有機溶剤を用いることができる。
なお、CNF分散液の塗布は、対象面に対する噴霧のほか、凸版方式等による転写方式等、従来既知の塗布方法を任意に用いることができる。
【0043】
(熱乾燥工程)
熱乾燥工程においては、CNF溶液が塗布された基材シート10を恒温槽に静置して乾燥させる方法や、ヤンキードラム等の加熱ロールの表面に直接基材シート10を接触させて乾燥させる方法等、従来既知の熱乾燥設備による熱乾燥方法を任意に用いることができる。
また、上記乾燥設備として赤外線照射による設備を用いても良い。この場合、基材シート10の搬送方向に複数の赤外線照射部を並列し、搬送される当該基材シート10に対して赤外線を照射して乾燥を行う。赤外線により水分が発熱し乾燥されるものであるため、均一な乾燥が可能であり、皺の発生が防止できる。
なお、本発明においては、基材シート10の表面に塗布されたCNFが剥離するのを防ぐため、恒温槽や赤外線照射装置によって熱乾燥を行うのが好ましい。
【0044】
(エンボス工程)
エンボス工程においては、例えば、温度80℃~130℃、エンボス圧0.2MPa~1.0MPaの条件による熱エンボスにて、高繊維密度領域11を形成することができる。
このエンボス工程により、ウェットシートSが多層構造からなる場合、内層の繊維が、外層の繊維内に入り込んで、外層の表面又は表面近傍まで出てくることとなる。
これにより、内層に親水性繊維が含まれる場合は、外層の表面又は表面近傍に出てくることとなり、液状の汚れも拭きやすくなる。
なお、低繊維密度領域12は、上記高繊維密度領域11を形成するエンボスロールを、低繊維密度領域12の形状を除くようにデザインすることで、形成することができる。
【0045】
(薬液含浸工程)
薬液含浸工程においては、熱乾燥された基材シート10に対して乳液ベースの薬液の含浸が行われるが、スプレー塗布装置を用いた二流体方式のノズル式噴霧方式や、ローターダンプニング噴霧方式、あるいは転写ロールを用いたドクターチャンバー方式、ピックアップロールを用いる2ロール式、3ロール式の既知のロール転写技術を採用することができる。
ローターダンプニング噴霧方式は、少ない量の噴霧液量を霧滴の飛散を抑えつつ均一に塗布することができ、かつ噴霧速度や霧の粒子径等の調整が容易である利点がある。また、ドクターチャンバー方式においては、転写ロールのセル数や線数などの設計により含浸する薬液量の調整を詳細に行える利点がある。
【0046】
なお、本実施形態のウェットシートSの製造工程としては、基材シート10に対してCNFを塗布(含浸)して乾燥する工程(塗布工程、熱乾燥工程)と、CNFが塗布された基材シート10に対して乳液ベースの薬液を塗布(含浸)する工程(薬液含浸工程)を有していればよく、他の工程を適宜追加してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[サンプル作成]
まず、繊維径1.67dtex、繊維長38mmのレーヨンを50%、繊維径1.56dtex、繊維長38mmのPETを50%の割合で水流交絡法により交絡させた、大きさ14cm×14cm、目付35g/m2の基材シート10を準備した。
次いで、機械処理CNFを1質量%、精製水を99質量%の割合で配合したCNF溶液を0.47g塗布し(CNF塗布量:0.24g/m2)、60℃恒温槽に10分静置して熱乾燥し、CNFシートを生成した。
次いで、手首から5cm、8cm、11cm、14cm、17cmの箇所の角質水分量を測定し、基材シート10又はCNFシートを用いて下記比較例1―4及び実施例1の操作を行った。なお、角質水分量の測定には、Moisture Checker MY707S(スカラ株式会社製)を用いた。
【0049】
(実施例1)
下記表Iに示す割合で配合した乳液ベースの薬液(以下、乳液A)を、CNFシートに対して340質量%含浸させ、手首から17cmの箇所を軽く5回拭き取った。
【0050】
(比較例1)
手首から5cmの箇所には何も行わなかった。
(比較例2)
炭酸水素ナトリウムを0.84質量%、精製水を99.16質量%配合した0.1mоl/L炭酸水素ナトリウム溶液(アルカリ溶液)を、基材シート10に対して340質量%含浸させ、手首から8cmの箇所を軽く5回拭き取った。
(比較例3)
下記表Iに示す割合で配合した水ベース薬液を、基材シート10に対して340質量%含浸させ、手首から11cmの箇所を軽く5回拭き取った。
(比較例4)
乳液Aを、基材シート10に対して340質量%含浸させ、手首から14cmの箇所を軽く5回拭き取った。
【0051】
【0052】
[試験:保湿性能調査]
比較例1―4及び実施例1の操作後、各箇所の5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後、45分後、60分後の角質水分量について、各比較例及び実施例の操作前からの変化率(%)を測定した。
このような試験を異なる日にそれぞれ3回ずつ行い、各比較例及び実施例の操作後の角質水分量の変化率の平均値を算出した。
試験の結果を表IIに示す。
【0053】
【0054】
[評価]
比較例1-4を比較すると、乳液ベースの薬液が含浸された基材シート10で拭き取ることで角質水分量を高められることがわかるが、実施例1と比較例4を比較すると、基材シート10にCNFが塗布されたCNFシートに乳液ベースの薬液を含浸させることで、更に角質水分量を高められることがわかる。
これは、乳液ベースの薬液に含まれる油分と、基材シート10に塗布されたCNFによって2種類の保護膜が肌上に形成され、保湿性が高まるからであると推測される。
【0055】
(実施形態の効果)
以上に示すように、CNFが塗布された基材シート10に乳液ベースの薬液を含浸させることで、基材シート10に乳液ベースの薬液が含浸されたウェットシートよりも保湿性に優れたウェットシートSを生成することができる。
また、一般にCNFは薬液に配合すると当該薬液の粘度が高くなるため、これを基材シート10に均一に含浸させるのは困難であったが、本実施形態のウェットシートSは、基材シート10にCNFが塗布されたCNFシートに対して薬液を含浸させるため、このような課題を有しない。
【0056】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
例えば、ウェットシートSは赤ちゃんのおしりふき、大人用の身体またはおしりふきなどに使用されるものとしたが、これに限られない。また、ウェットシートSに含浸される薬液も、その用途に応じて変更可能である。
【符号の説明】
【0057】
S ウェットシート
10 基材シート