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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】渦電流式ダンパ
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240305BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20240305BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04H9/14 G
F16F15/03 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020047999
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147853
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-217575(JP,A)
【文献】特開平01-146080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物において、互いに上下方向に間隔を隔てた状態で、水平にかつ平行に延びる上側構造材と下側構造材の間に設けられ、前記構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、
前記下側構造材に沿って延びるとともに当該下側構造材から起立し、正面形状が矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、前記下側構造材に連結された外壁体と、
前記上側構造材に沿って延びるとともに当該上側構造材から垂下し、前記外壁体に上方から挿入された状態でかつ当該外壁体の上下方向及び横幅方向に移動自在に収容され、前記上側構造材に連結された内壁体と、
前記外壁体及び前記内壁体の互いに対向する面の一方に、互いにその面に沿って所定間隔を隔てて配置された複数の永久磁石と、
を備え、
前記外壁体及び前記内壁体は、前記複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、当該外壁体及び当該内壁体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、
前記内壁体は、板状の単一の内壁を有しており、
前記外壁体は、前記内壁の前面及び後面にそれぞれ対向する前壁及び後壁を有しており、
前記複数の永久磁石は、前記内壁の前記前面及び前記後面にそれぞれ設けられていることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項2】
前記外壁体は、前記前壁及び前記後壁を載置した状態で下方から支持し、前記下側構造材に連結される底壁を、さらに有しており、
前記底壁には、前記前壁及び前記後壁の少なくとも一方を、前記内壁に対し、接近する方向及び離れる方向にスライドさせるためのスライド機構が設けられていることを特徴とする請求項に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項3】
前記前壁及び前記後壁の少なくとも一方には、前記永久磁石に対応する位置に、当該永久磁石とほぼ同じサイズのハッチが形成されるとともに、当該ハッチを開閉するためのハッチカバーが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項4】
前記ハッチカバーには、対応する前記永久磁石に対向し、前記抵抗力を調整するための調整材が設けられていることを特徴とする請求項に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項5】
前記調整材は、前記ハッチカバーに着脱自在に取り付けられていることを特徴とする請求項に記載の渦電流式ダンパ。
【請求項6】
前記複数の永久磁石は、互いに異なる磁極が上下方向及び/又は左右方向に並んだ状態に配置されることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の渦電流式ダンパ。
【請求項7】
構造物において、互いに上下方向に間隔を隔てた状態で、水平にかつ平行に延びる上側構造材と下側構造材の間に設けられ、前記構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、
前記下側構造材に沿って延びるとともに当該下側構造材から起立し、正面形状が矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、前記下側構造材に連結された外壁体と、
前記上側構造材に沿って延びるとともに当該上側構造材から垂下し、前記外壁体に上方から挿入された状態でかつ当該外壁体の上下方向及び横幅方向に移動自在に収容され、前記上側構造材に連結された内壁体と、
前記外壁体及び前記内壁体の互いに対向する面の一方に、互いにその面に沿って所定間隔を隔てて配置された複数の永久磁石と、
を備え、
前記外壁体及び前記内壁体は、前記複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、当該外壁体及び当該内壁体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、
前記内壁体は、板状の単一の内壁で構成されており、
前記外壁体は、前記内壁の前面及び後面にそれぞれ対向する前壁及び後壁を有しており、
前記複数の永久磁石は、前記外壁体における前記前壁及び前記後壁の前記内壁に対向する面にそれぞれ設けられており、
前記複数の永久磁石は、互いに異なる磁極が上下方向及び/又は左右方向に並んだ状態に配置されることを特徴とする渦電流式ダンパ。
【請求項8】
前記外壁体は、前記前壁及び前記後壁を載置した状態で下方から支持し、前記下側構造材に連結される底壁を、さらに有しており、
前記底壁には、前記前壁及び前記後壁の少なくとも一方を、前記内壁に対し、接近する方向及び離れる方向にスライドさせるためのスライド機構が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の渦電流式ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の上下階の間に設置され、構造物の振動を抑制する壁型の渦電流式ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の壁型のダンパとして、例えば特許文献1に開示された耐震壁が知られている。この耐震壁は、下端部が構造物の下階の梁などに連結され、上方に開口した薄型箱状の立上り壁と、上端部が構造物の上階の梁などに連結された状態で垂下し、立上り壁に上方から挿入された垂下壁と、立上り壁内に充填された粘性材料とを備えている。立上り壁及び垂下壁は、鋼板などで構成されており、垂下壁が立上り壁の内面との間に隙間を存する状態で配置されている。また、粘性材料は、高粘性物質で構成されており、立上り壁の内面と垂下壁との間に存している。
【0003】
上記のような耐震壁が設置された構造物では、風揺れや地震などにより、構造物が振動する場合において、構造物の上階側の梁と下階側の梁との間で、その長さ方向に相対変位が生じると、耐震壁の垂下壁が立上り壁に対して、その横幅方向に移動する。この場合、垂下壁には、その移動の際の速度に応じて、立上り壁内の粘性材料によるせん断抵抗(抵抗力)が作用し、垂下壁の移動が抑制されることで、構造物の上階と下階の相対変位が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭61-87068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の耐震壁で用いられる粘性材料には近年、ポリイソブチレンなど、粘度が非常に高い高分子材料が用いられている。そのような高粘度の粘性材料が用いられる耐震壁を製造する場合、粘性材料を立上り壁に充填する際に、比較的高い温度(例えば120℃)の湯煎によって、粘性材料の粘度をあらかじめ低下させる必要がある。このような製造工程上、耐震壁の完成後、それ自体の制振効果の特性を表す抵抗力を調整しようとして、粘度の異なる粘性材料を立上り壁内へ追加しても、既存の粘性材料と混ぜ合わせることは不可能である。また、完成した耐震壁から垂下壁を取り出すには、非常に大きな力が必要であり、加えて、一旦充填した粘性材料を立上り壁から取り出し、粘度の異なる粘性材料を再度、立上り壁に充填することも困難である。さらに、上記の粘性材料は、粘度が非常に高いものの、物質の状態としては液体であるため、立上り壁を構成する鋼板同士の接合部などの溶接部に欠陥があると、その欠陥部分から液漏れが生じることもある。さらにまた、長周期地震動などによる繰り返し荷重が、耐震壁に作用すると、その耐震壁の粘性材料の温度が上昇することで粘度が低下し、それに伴い、耐震壁による制振効果が低下するおそれもある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、粘性材料を用いることなく、装置自体の制振効果の特性を表す抵抗力を容易に調整できるとともに、長期間にわたって安定した制振効果を得ることができる壁型の渦電流式ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物において、互いに上下方向に間隔を隔てた状態で、水平にかつ平行に延びる上側構造材と下側構造材の間に設けられ、構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、下側構造材に沿って延びるとともに下側構造材から起立し、正面形状が矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、下側構造材に連結された外壁体と、上側構造材に沿って延びるとともに上側構造材から垂下し、外壁体に上方から挿入された状態でかつ外壁体の上下方向及び横幅方向に移動自在に収容され、上側構造材に連結された内壁体と、外壁体及び内壁体の互いに対向する面の一方に、互いにその面に沿って所定間隔を隔てて配置された複数の永久磁石と、を備え、外壁体及び内壁体は、複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、外壁体及び内壁体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、内壁体は、板状の単一の内壁を有しており、外壁体は、内壁の前面及び後面にそれぞれ対向する前壁及び後壁を有しており、複数の永久磁石は、内壁の前面及び後面にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、上方に開口する箱状に形成された外壁体が下側構造材に連結される一方、上側構造材から垂下し、外壁体に上方から挿入された内壁体が上側構造材に連結されている。また、これらの外壁体及び内壁体の互いに対向する面の一方には、互いにその面に沿って所定間隔を隔てて配置された複数の永久磁石が設けられている。
【0009】
例えば、風揺れや地震などにより、構造物が振動する場合において、構造物の下側構造材と上側構造材の間でそれらの長さ方向に相対変位が生じると、それに伴い、内壁体が外壁体に対して横幅方向に移動する。この場合、外壁体及び内壁体の互いに対向する面の一方に設けられた複数の永久磁石も移動する。これにより、永久磁石による磁場が変化することで、それらの永久磁石が対向する、外壁体及び内壁体の互いに対向する面の他方には、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、この渦電流によるローレンツ力及びその反作用力が、外壁体及び内壁体の相対移動を妨げる抵抗力として作用する。これにより、外壁体と内壁体の相対移動が抑制され、それにより、外壁体と内壁体がそれぞれ連結された下側構造材と上側構造材の相対変位が抑制される。このように、本発明の渦電流式ダンパは、構造物の振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、構造物の振動を減衰させることによって、その振動を抑制することができる。また、本発明によれば、抵抗力を得るために粘性材料を用いた従来と異なり、複数の永久磁石を用いるので、それらの永久磁石の磁力の強度や、外壁体及び内壁体の相対移動に伴って発生する渦電流の大きさを、比較的容易に調整できることで、渦電流式ダンパの制振効果の特性を表す抵抗力を容易に調整できるとともに、長期間にわたって安定した制振効果を得ることができる。
【0011】
また、上記の構成によれば、内壁体が板状の単一の内壁を有していて、その内壁の前面及び後面にそれぞれ、外壁体の前壁及び後壁が対向している。また、内壁の前面及び後面にそれぞれ、複数の永久磁石が設けられている。外壁体及び内壁体が相対的に移動すると、永久磁石が対向する外壁体の前壁及び後壁にそれぞれ渦電流が生じ、それにより、外壁体及び内壁体に対し、それらの相対移動を妨げる抵抗力が作用する。したがって、外壁体と内壁体の相対移動の抑制に伴い、構造物の下側構造材と上側構造材の相対変位を抑制し、その結果、構造物の振動を減衰させ、その振動を抑制することができる。
【0014】
請求項に係る発明は、請求項に記載の渦電流式ダンパにおいて、外壁体は、前壁及び後壁を載置した状態で下方から支持し、下側構造材に連結される底壁を、さらに有しており、底壁には、前壁及び後壁の少なくとも一方を、内壁に対し、接近する方向及び離れる方向にスライドさせるためのスライド機構が設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、下側構造材に連結される外壁体の底壁が、前壁及び後壁を載置した状態で下方から支持しており、この底壁に設けられたスライド機構により、前壁及び後壁の少なくとも一方を、それらの間の内壁に対し、接近する方向及び離れる方向にスライドさせることができる。このように、外壁体の前壁及び/又は後壁を上記のようにスライドさせることにより、内壁の前面及び後面に永久磁石が設けられている場合には、それらの永久磁石と前壁及び/又は後壁との距離を調整でき、また、外壁体の前壁及び後壁に永久磁石が設けられている場合には、それらの永久磁石と内壁の前面及び/後面との距離を調整することができる。上記の各距離が長くなるように設定されると、外壁体及び内壁体の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなり、その結果、相対移動を妨げる抵抗力も小さくなる。一方、上記の各距離が短くなるように設定されると、外壁体及び内壁体の相対移動の際に発生する渦電流が大きくなり、その結果、相対移動を妨げる抵抗力も大きくなる。したがって、外壁体の前壁及び/又は後壁をスライドさせることにより、渦電流式ダンパの制振効果の特性を表す抵抗力を容易に調整することができる。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項1又は2に記載の渦電流式ダンパにおいて、前壁及び後壁の少なくとも一方には、永久磁石に対応する位置に、永久磁石とほぼ同じサイズのハッチが形成されるとともに、ハッチを開閉するためのハッチカバーが設けられていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、内壁の前面及び/又は後面に永久磁石が設けられている場合、外壁体の前壁及び/又は後壁のハッチを開放することにより、そのハッチを介して、外部から内壁の永久磁石に容易にアクセスすることができ、必要に応じて、その永久磁石を容易に交換することができる。なお、外壁体の前壁及び/又は後壁に永久磁石が設けられる場合、ハッチカバーの内面に永久磁石を取り付けるようにしてもよい。この場合には、ハッチカバーを開放することにより、その内面に取り付けられた永久磁石を、必要に応じて、容易に交換することができる。
【0018】
請求項に係る発明は、請求項に記載の渦電流式ダンパにおいて、ハッチカバーには、対応する永久磁石に対向し、抵抗力を調整するための調整材が設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ハッチカバーに設けられる調整材を適宜、設定することにより、抵抗力を容易に調整することができる。すなわち、上記の調整材は、内壁に設けられた永久磁石に対向しているため、外壁体及び内壁体の相対移動の際に、調整材及びその周囲において渦電流が発生する。調整材の材質や永久磁石との距離により、発生する渦電流の大きさが変化する。したがって、調整材の設定により、所望の抵抗力を容易に得ることができる。
【0020】
請求項に係る発明は、請求項に記載の渦電流式ダンパにおいて、調整材は、ハッチカバーに着脱自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ハッチカバーに取り付けられた調整材を変更することにより、抵抗力を容易に調整することができる。
【0022】
請求項に係る発明は、請求項1~5のいずれかに記載の渦電流式ダンパにおいて、複数の永久磁石は、互いに異なる磁極が上下方向及び/又は左右方向に並んだ状態に配置されることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、互いに異なる磁極を有する永久磁石を、上下方向や左右方向に配置することにより、N極からS極に向かい、上下方向や左右方向にループするような磁力線が生じる。上下方向にループする磁力線が生じている場合、外壁体及び内壁体の相対移動が上下方向に発生する際に、その相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。また、左右方向にループする磁力線が生じている場合、外壁体及び内壁体の相対移動が左右方向に発生する際に、その相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。さらに、上下方向及び左右方向にループする磁力線が生じている場合、外壁体及び内壁体の相対移動が上下方向及び左右方向に発生する際に、それらの相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。したがって、互いに異なる磁極を有する永久磁石を、上下方向に配置することにより構造物の縦揺れを効果的に抑制でき、左右方向に配置することにより構造物の横揺れを効果的に抑制でき、さらに上下方向及び左右方向に配置することにより構造物の縦揺れ及び横揺れを効果的に抑制することができる。
請求項7に係る発明は、構造物において、互いに上下方向に間隔を隔てた状態で、水平にかつ平行に延びる上側構造材と下側構造材の間に設けられ、構造物の振動を抑制するための渦電流式ダンパであって、下側構造材に沿って延びるとともに下側構造材から起立し、正面形状が矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、下側構造材に連結された外壁体と、上側構造材に沿って延びるとともに上側構造材から垂下し、外壁体に上方から挿入された状態でかつ外壁体の上下方向及び横幅方向に移動自在に収容され、上側構造材に連結された内壁体と、外壁体及び内壁体の互いに対向する面の一方に、互いにその面に沿って所定間隔を隔てて配置された複数の永久磁石と、を備え、外壁体及び内壁体は、複数の永久磁石と間隔を隔てて対向する面において、外壁体及び内壁体が相対的に移動する際に、その移動を妨げる抵抗力を発生させるための渦電流が生じるように構成されており、内壁体は、板状の単一の内壁で構成されており、外壁体は、内壁の前面及び後面にそれぞれ対向する前壁及び後壁を有しており、複数の永久磁石は、外壁体における前壁及び後壁の内壁に対向する面にそれぞれ設けられており、複数の永久磁石は、互いに異なる磁極が上下方向及び/又は左右方向に並んだ状態に配置されることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の渦電流式ダンパにおいて、外壁体は、前壁及び後壁を載置した状態で下方から支持し、下側構造材に連結される底壁を、さらに有しており、底壁には、前壁及び後壁の少なくとも一方を、内壁に対し、接近する方向及び離れる方向にスライドさせるためのスライド機構が設けられていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパを、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図である。
図2図1の壁型ダンパの断面図であり、(a)は図1のA-A線に沿って切断した縦断面、(b)は図1のB-B線に沿って切断した横断面を示している。
図3】内壁体における内壁への磁石の取付け構造を示す図である。
図4】(a)及び(b)はそれぞれ、図2(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が異極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図5】(a)及び(b)はそれぞれ、図4(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が同極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図6図4の壁型ダンパにおいて、外壁体と内壁体に左右方向の相対移動が生じるときに作用する抵抗力を説明するための図であり、(a)は、内壁体が左方に、外壁体が右方に移動する状態を示し、(b)は、内壁体が右方に、外壁体が左方に移動する状態を示す。
図7図5の壁型ダンパにおいて、外壁体と内壁体に左右方向の相対移動が生じるときに作用する抵抗力を説明するための図であり、(a)は、内壁体が左方に、外壁体が右方に移動する状態を示し、(b)は、内壁体が右方に、外壁体が左方に移動する状態を示す。
図8】本発明の第2実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの縦断面図であり、前後方向に移動可能な前壁及び後壁を備えた外壁体において、(a)は前壁及び後壁が内壁体の永久磁石に最も近づいた状態、(b)は前壁及び後壁が内壁体の永久磁石から最も離れた状態を示す。
図9】本発明の第3実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパであり、外壁体の前壁及び後壁にそれぞれ、各永久磁石に対応する位置に、永久磁石の交換用ハッチ及びそれを塞ぐハッチカバーが設けられ、(a)は正面図、(b)は(a)のC-C線に沿って切断した断面図である。
図10】本発明の第4実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの前半部における縦断面図であり、(a)は調整材を永久磁石から離した状態、(b)は調整材を永久磁石に接近させた状態を示す。
図11】本発明の第5実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの縦断面図であり、外壁体の前壁及び後壁のそれぞれの内面にコーティング材を設けるとともに、前壁及び後壁の上端部にシールド材を設けた状態を示す。
図12】本発明の第6実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの縦断面図であり、内壁体に各永久磁石を埋設した状態を示す。
図13】本発明の第7実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの縦断面図であり、永久磁石が外壁体における前壁及び後壁の内面に取り付けられた状態を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
図14】(a)及び(b)はそれぞれ、図13(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が同極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図15】(a)及び(b)はそれぞれ、図14(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が異極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図16】本発明の第8実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパの縦断面図であり、外壁体の前壁及び後壁の間の中央に中壁が設けられ、内壁体に前後2つの内壁が設けられた状態を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
図17】(a)及び(b)はそれぞれ、図16(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が同極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図18】(a)及び(b)はそれぞれ、図17(a)及び(b)に対応し、内壁及び中壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が異極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図19】(a)及び(b)はそれぞれ、図17(a)及び(b)に対応し、内壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が異極であるとともに、中壁を介して互いに向かい合う永久磁石の極性が同極である場合の壁型ダンパの縦断面及び横断面における磁力線を説明するための図である。
図20】上下方向に互いに磁極が異なる永久磁石の配列を説明するための図であり、(a)は内壁体の内壁に取り付けられた9つの永久磁石を示す正面図、(b)は(a)の永久磁石の配列による磁力線を説明するための図である。
図21】左右方向に互いに磁極が異なる永久磁石の配列を説明するための図であり、(a)は内壁体の内壁に取り付けられた9つの永久磁石を示す正面図、(b)は(a)の永久磁石の配列による磁力線を説明するための図である。
図22】上下方向及び左右方向に互いに磁極が異なる永久磁石の配列を説明するための図であり、(a)は内壁体の内壁に取り付けられた9つの永久磁石を示す正面図、(b)は(a)の永久磁石の配列による磁力線を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパを、これを設置した建物の一部の構造材とともに概略的に示している。同図に示す建物B(構造物)は、例えば高層のビルであり、上下方向に延びる複数の柱(左柱PL及び右柱PRのみ図示)と、水平に延びる梁(上梁BU及び下梁BDのみ図示)を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有している。
【0026】
図2(a)及び(b)はそれぞれ、図1に示す壁型ダンパ1のA-A線に沿って切断した縦断面、及びB-B線に沿って切断した横断面を示している。図1及び図2に示すように、壁型ダンパ1は、上階側の上梁BU(上側構造材)と、下階側の下梁BD(下側構造材)の間に設置されている。この壁型ダンパ1は、下梁BDに沿って延びるとともにその下梁BDからから起立し、正面形状が矩形状でかつ上方に開口する箱状に形成され、下梁BDに、複数のボルト(図示せず)で連結された外壁体2と、上梁BUに沿って延びるとともにその上梁BUから垂下し、外壁体2に上方から挿入された状態でかつ外壁体2の上下方向及び左右方向に移動自在に収容され、上梁BUに、複数のボルト(図示せず)で連結された内壁体3と、この内壁体3の前面及び後面に取り付けられた複数(本実施形態では9つ)の永久磁石(以下、単に「磁石」という)4とを備えている。
【0027】
外壁体2は、互いに前後方向に所定間隔を隔てて配置された前後の外壁(以下、これらを区別する場合には「前壁11」及び「後壁12」という)と、これらの外壁11、12の左右の端面がそれぞれ当接した状態で接合された左右の側壁(以下、これらを区別する場合には「左壁13」及び「右壁14」という)と、これらの外壁11、12及び側壁13、14の下端面がそれぞれ当接した状態で接合された底壁15とにより、上方に開口する箱状に形成されている。
【0028】
外壁体2の前後の外壁11及び12は、導電性を有する材料から成り、例えば炭素鋼や鋳鉄などの強磁性材で構成されている。なお、外壁11及び12の構成材料として、例えばアルミニウムや銅、それらの合金などの非磁性材を用いることも可能である。
【0029】
一方、内壁体3は、正面形状が矩形状に形成され、所定の厚さを有する内壁21と、この内壁21の上端が下方から当接した状態で接合されたフランジ22と、内壁21の前面21a及び後面21bにそれぞれ取り付けられた複数の磁石4とで構成されている。内壁21は、その材質については特に限定されるものではないが、磁性材であることが好ましく、例えば透磁率の高い炭素鋼及び鋳鉄などで構成されている。
【0030】
また、内壁21には、その前面21a及び後面21bにそれぞれ、縦横3つずつ、計9つの磁石4が、互いに所定間隔を隔てて配置されている。これらの磁石4はいずれも、正面形状が矩形状で所定の厚さを有するブロック状に形成され、同一のサイズ及び磁力を有している。また、本実施形態では、9つの磁石4は、後述する図22(a)に示すように配置されており、具体的には、各磁石4は、内壁21の前後方向の磁極が、上下方向及び左右方向に隣接する磁石4のそれと異なるように配置されている。
【0031】
なお、内壁21への磁石4の取付けは、例えば図3に示すように取り付けられている。具体的には、同図(a)に示すように、磁石4は、その下端部が所定形状の取付金具23によって支持され、その取付金具23がボルト24によって内壁21にねじ止めされることにより、内壁21にしっかりと固定される。また、図3(b)に示すように、磁石4自体を、取付け用のフランジ部4aを有するように形成し、そのフランジ部4aの取付孔にボルト25を挿入し、内壁21にねじ止めすることにより、磁石4を内壁21に固定することも可能である。
【0032】
図4は、内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が異極である場合の壁型ダンパ1において、内壁21の前面21a及び後面21bにそれぞれ取り付けられた複数の磁石4によって生成される磁力線を示している。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、外壁体2の前壁11と後壁12の間において、同図(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的大きなループ状に生成される。
【0033】
一方、図5は、上記図4の壁型ダンパ1に対し、内壁21の後面21b側の各磁石4について、極性を逆にして配置された状態であり、すなわち、内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が同極である場合の壁型ダンパ1において生成される磁力線を示している。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、前壁11と内壁21の間、及び後壁12と内壁21の間において、同図(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的小さなループ状に生成される。
【0034】
図6及び図7はそれぞれ、上述した図4及び図5の壁型ダンパ1において、前記上梁BUと下梁BDの長さ方向の相対変位に伴い、外壁体2と内壁体3に左右方向の相対移動が生じるときの状態を示している。黒矢印で示すように、図6(a)及び図7(a)では、内壁体3が左方に、外壁体2が右方に移動する状態を示し、図6(b)及び図7(b)では逆に、内壁体3が右方に、外壁体2が左方に移動する状態を示している。これらの場合、内壁体3とともに、その内壁21の前面21a及び後面21bに設けられた複数の磁石4も、内壁体3と一体に移動する。これにより、それらの磁石4による磁場が変化することで、各磁石4が対向する外壁体2の前壁11及び後壁12にはそれぞれ、電磁誘導による渦電流が生じる。そして、それらの渦電流によるローレンツ力が、外壁体2の前壁11及び後壁12、並びに内壁体3の内壁21に対し、それらの相対移動を妨げる抵抗力として作用する。
【0035】
具体的には、図6(a)及び図7(a)に示すように、右方へ移動する外壁体2に対しては、前壁11及び後壁12にそれぞれ、ローレンツ力による抵抗力F1が作用するとともに、左方へ移動する内壁体3に対しては、ローレンツ力の反作用力による抵抗力F2が作用する。一方、図6(b)及び図7(b)に示すように、左方へ移動する外壁体2に対しては、前壁11及び後壁12にそれぞれ、ローレンツ力による抵抗力F1が作用するとともに、右方へ移動する内壁体3に対しては、ローレンツ力の反作用力による抵抗力F2が作用する。なお、図7に示す状態、すなわち内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4について、それらの極性が同極になるように配置されている場合には、磁気回路の効率が向上し、より大きい抵抗力F1及びF2を得ることができる。
【0036】
このように、相対移動する外壁体2及び内壁体3にそれぞれ抵抗力F1及びF2が作用することにより、外壁体2及び内壁体3の相対移動が抑制され、それにより、外壁体2及び内壁体3がそれぞれ連結された下梁BD及び上梁BUの相対変位が抑制される。
【0037】
したがって、本実施形態の壁型ダンパ1によれば、建物Bの振動エネルギーを、渦電流による抵抗力によって吸収し、建物Bの振動を減衰させることによって、その振動を抑制することができる。また、この壁型ダンパ1によれば、粘性材料を用いた従来と異なり、永久磁石4を用いるので、その磁石4の磁力の強度や、外壁体2及び内壁体3の相対移動に伴って発生する渦電流の大きさを、比較的容易に調整できることで、壁型ダンパ1の制振効果の特性を表す抵抗力を容易に調整できるとともに、長期間にわたって安定した制振効果を得ることができる。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態では、上述した第1実施形態の壁型ダンパ1と異なる部分を中心に説明し、同じ構成部品については同一の符号を付して、その詳細な説明は省略するものとする。
【0039】
図8(a)は、本発明の第2実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Aの縦断面図を示している。この壁型ダンパ1Aでは、外壁体2の前壁11及び後壁12がそれぞれ前後方向(図8の左右方向)に、すなわち、内壁体3の内壁21に対し、接近する方向及び離れる方向にスライド可能に構成されている。
【0040】
具体的には、外壁体2の底壁15には、上下方向に貫通し、前後方向(図8の左右方向)に所定長さ延びる複数の長孔15aが、外壁体2の前壁11及び後壁12に対応する前後2列で、互いに左右方向に所定間隔を隔てて設けられている。また、各長孔15aには、下方からボルト26が貫通し、外壁体2の前壁11及び後壁12の底面にそれぞれ下方からねじ込まれている。各長孔15aを貫通したボルト26は、締め付けられることによって、長孔15aの任意の位置に固定され、緩められることによって、長孔15aの長さ方向に、前壁11及び後壁12と一体に移動可能になっている。なお、本発明のスライド機構は、底壁15の複数の長孔15a及びそれらに貫通したボルト26などで構成されている。
【0041】
このように、第2実施形態の壁型ダンパ1Aでは、前壁11及び後壁12が、それらの間の内壁21に対し、接近する方向及び離れる方向にスライド可能であるので、それらの前壁11及び後壁12と、内壁21の複数の磁石4との距離を調整することができる。例えば、図8(b)に示すように、内壁21の各磁石4と前壁11及び後壁12との距離が長くなるように設定されると、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に発生する渦電流が小さくなり、その結果、相対移動を妨げる抵抗力も小さくなる。一方、図8(a)に示すように、内壁21の各磁石4と前壁11及び後壁12との距離が短くなるように設定されると、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に発生する渦電流が大きくなり、その結果、相対移動を妨げる抵抗力も大きくなる。したがって、この壁型ダンパ1Aによれば、外壁体2の前壁11及び/又は後壁12を前後方向にスライドさせることにより、壁型ダンパ1Aの制振効果の特性を表す抵抗力を容易に調整することができる。
【0042】
なお、上記の壁型ダンパ1Aでは、前壁11及び後壁12をいずれもスライド可能に構成したが、前壁11及び後壁12の一方のみをスライド可能に構成することも可能である。
【0043】
図9は、本発明の第3実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Bであり、(a)は正面図、(b)は(a)のC-C線に沿って切断した縦断面図である。この壁型ダンパ1Bでは、外壁体2の前壁11及び後壁12にそれぞれ、複数(本実施形態では9つ)のハッチ11a及び12aが形成されるとともに、それらをそれぞれ開閉するハッチカバー11b及び12bが設けられている。なお、前壁11のハッチ11a及びハッチカバー11b、並びに後壁12のハッチ12a及びハッチカバー12bは、前後対称に形成されているので、以下の説明では、前壁11のハッチ11a及びハッチカバー11bを代表して説明する。
【0044】
前壁11の各ハッチ11aは、内壁21の各磁石4に対応する位置に、その磁石4とほぼ同じサイズで開口している。また、各ハッチ11aを塞ぐハッチカバー11bは、前壁11と同じ材質から成り、正面形状がハッチ11aよりも一回り大きい矩形状に形成されるとともに、前壁11とほぼ同じ厚さを有している。ハッチ11aを塞ぐ場合、そのハッチ11aにハッチカバー11bが嵌合した状態で、そのハッチカバー11bの四隅がボルト27よって固定される。一方、ハッチ11aを開放する場合、ハッチカバー11bの四隅のボルト27を取り外すことにより、ハッチ11aからハッチカバー11bが取外し可能となる。
【0045】
上記のようなハッチ11a及びハッチカバー11bが、外壁体2の前壁11に設けられているので、ハッチ11aを開放することにより、そのハッチ11aを介して、外部から内壁21の対応する磁石4に容易にアクセスすることができる。したがって、その磁石4を、必要に応じて、磁力のより強いものやより弱いものなどに、容易に交換することができる。
【0046】
図10(a)は、本発明の第4実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Cであり、前記図9(b)に示す第3実施形態の壁型ダンパ1Bと同様に切断した状態の前半部を示している。この壁型ダンパ1Cでは、外壁体2の前壁11に、内壁21の複数の磁石4にそれぞれ対応する複数のハッチ11aが形成されるとともに、そのハッチ11aを開閉する所定のハッチカバー17が設けられている。
【0047】
このハッチカバー17は、プレート状のカバー本体17aと、その内側面に着脱自在に取り付けられた調整材17bとで構成されている。なお、調整材17bの材質は特に限定されない。
【0048】
ここで、調整材17bの寸法によって抵抗力を調整する場合について説明する。寸法で抵抗力を調整する場合には、調整材17bの材質は導電性を有していればよく、磁性体であってもよいし、非磁性体であってもよい。図10(a)は、調整材17bとして、厚さが比較的薄いものを使用したときの状態であり、磁石4と調整材17bの距離が離れた状態となる。この場合、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に前壁11に発生する渦電流が小さくなり、それにより、相対移動を妨げる抵抗力も小さくなる。したがって、壁型ダンパ1Cにおいて、要求される抵抗力を小さくする場合には、厚さの薄い調整材17bを使用する。
【0049】
一方、図10(b)は、調整材17bとして、厚さが比較的厚いものを使用したときの状態であり、磁石4と調整材17bの距離が近い状態となる。この場合、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に前壁11に発生する渦電流が大きくなり、それにより、相対移動を妨げる抵抗力も大きくなる。したがって、壁型ダンパ1Cにおいて、要求される抵抗力を大きくする場合には、厚さの厚い調整材17bを使用する。
【0050】
次に、調整材17bの材質によって抵抗力を調整する場合について説明する。調整材17bの材質を銅やその合金のような電気抵抗の小さい材料とした場合、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に、調整材17bに多くの渦電流が流れるため、相対移動を妨げる抵抗力が大きくなる。したがって、壁型ダンパ1Cにおいて、要求される抵抗力を大きくする場合には、調整材17bの材質を電気抵抗の小さい材料を使用する。
【0051】
一方、調整材17bの材質をアルミニウムのような非磁性体とした場合、外壁体2及び内壁体3の相対移動の際に、磁石4による磁束が調整材17bを迂回して通るため、相対移動を妨げる抵抗力が小さくなる。したがって、壁型ダンパ1Cにおいて、要求される抵抗力を小さくする場合には、調整材17bの材質に非磁性材を使用する。
【0052】
図11は、本発明の第5実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Dであり、前記図2(a)に示す第1実施形態の壁型ダンパ1に対し、外壁体2の前壁11及び後壁12にそれぞれ、コーティング材32及びシールド材33を取り付けたものである。具体的には、コーティング材32の材質としては、電気抵抗の小さい材料である銅や銅合金などが好ましい。コーティング材32を前壁11及び後壁12の内側面に設けることにより、前壁11及び後壁12に流れる渦電流の量が増大し、抵抗力が大きくなる。
【0053】
また、前壁11及び後壁12の上端にはそれぞれ、それらの左右方向の全体にわたって延びるとともに、内壁21付近まで突出するプレート状のシールド材33、33が取り付けられている。これらのシールド材33、33により、内壁21に取り付けられた磁石4による磁気の上方への漏れを防止できる。
【0054】
図12は、本発明の第6実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Eであり、内壁体3の内壁21に形成された複数の埋設孔21cにそれぞれ、磁石4を嵌め込んだ状態で取り付けたものである。この場合には、内壁21の前面21a及び後面21bから各磁石4が外方に突出することがなく、壁型ダンパ1E全体として、前後方向の厚さを薄くすることができる。
【0055】
図13は、本発明の第7実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Fであり、前述した各実施形態の壁型ダンパと異なり、複数の磁石4が外壁体2に取り付けられたものである。具体的には、複数(本実施形態では9つ)の磁石4が、前壁11及び後壁12の内側面にそれぞれ取り付けられている。また、これらの磁石4は、内壁21を介して互いに向かい合う極性が同極になるように配置されている。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、前壁11と内壁21の間、及び後壁12と内壁21の間において、図14(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4を通り、また図14(b)に示すように左右方向に隣接する磁石を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的小さなループ状に生成される。
【0056】
一方、図15は、上記図14の壁型ダンパ1Fに対し、後壁12側の各磁石4について、磁極を逆にして配置された状態、すなわち、内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が異極になるように配置された状態を示している。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、前壁11と後壁12の間において、図15(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通り、また図15(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的大きなループ状に生成される。
【0057】
以上のように、この壁型ダンパ1Fでは、前述した第1実施形態の壁型ダンパ1と同様の作用、効果を得ることができる。
【0058】
図16は、本発明の第8実施形態による渦電流式ダンパを適用した壁型ダンパ1Gを示している。この壁型ダンパ1Gでは、外壁体2が、前壁11と後壁12の間の中央に、それらの外壁11、12と同様に構成された中壁19を有する一方、内壁体3が、前壁11と中壁19の間、及び後壁12と中壁19の間にそれぞれ、前後2つの内壁21、21を有している。外壁体2の前壁11及び後壁12の内側面にはそれぞれ、前記図14の第7実施形態の壁型ダンパ1Fと同様、複数の磁石4が取り付けられている。一方、内壁体3の前後の内壁21、21には、中壁19側の面にそれぞれ、複数(本実施形態では9つ)の磁石4が取り付けられている。
【0059】
図17は、各内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が同極である場合の壁型ダンパ1Gにおいて、それらの磁石4によって生成される磁力線を示している。具体的には、外壁11及び12に取り付けられた磁石4では、N極から出た磁力線は、外壁11及び12と最も近い内壁21との間において、図17(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的小さなループ状に生成される。また、前後の内壁21、21に取り付けられた磁石4では、N極から出た磁力線は、中壁19と内壁21の間において、図17(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的小さなループ状に生成される。
【0060】
また、図18は、上記図17の壁型ダンパ1Gに対し、前側の内壁21の各磁石4及び後壁12の各磁石4について、磁極を逆にして配置された状態、すなわち、各内壁21及び中壁19を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が異極になるように配置された状態を示している。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、外壁体2の前壁11と後壁12の間において、図18(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と各内壁21及び中壁19を介して向かい合う磁石4、4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と各内壁21及び中壁19を介して向かい合う磁石4、4を通って、元の磁石4のS極に入るように、非常に大きなループ状に生成される。
【0061】
さらに、図19は、上記図17の壁型ダンパ1Gに対し、前側及び後側の内壁21、21の各磁石4について、磁極を逆にして配置された状態、すなわち、各内壁21を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が異極になり、かつ中壁19を介して互いに向かい合う磁石4、4の極性が同極になるように配置された状態を示している。これらの磁石4では、N極から出た磁力線は、外壁11及び12と中壁19との間において、図19(a)に示すように上下方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と各内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通り、また同図(b)に示すように左右方向に隣接する磁石4、4、及びそれらの磁石4、4と各内壁21を介して向かい合う磁石4、4を通って、元の磁石4のS極に入るように、比較的大きなループ状に生成される。
【0062】
以上のように、この第8実施形態の壁型ダンパ1Gでは、前述した各実施形態の壁型ダンパに比べて、より多くの磁石4が設けられている。したがって、外壁体2及び内壁体3が相対移動する際に、より大きな抵抗力が作用する。
【0063】
図20(a)、図21(a)及び図22(a)は、内壁体3の内壁21に取り付けられ、縦横3つずつ、計9個の磁石4の配列を示している。図20(a)では、互いに異なる磁極を有する磁石4が上下方向に並んだ状態を示している。このように磁石4を配列した場合には、図20(b)に示すように、上下方向にループするような磁力線が生じる。この場合には、外壁体2及び内壁体3の相対移動が上下方向に発生する際に、その相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。
【0064】
図21(a)では、互いに異なる磁極を有する磁石4が左右方向に並んだ状態を示している。このように磁石4を配列した場合には、図21(b)に示すように、左右方向にループするような磁力線が生じる。この場合には、外壁体2及び内壁体3の相対移動が左右方向に発生する際に、その相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。
【0065】
図22(a)では、互いに異なる磁極を有する磁石4が上下方向及び左右方向に並んだ状態を示している。このように磁石4を配列した場合には、図22(b)に示すように、上下方向及び左右方向にループするような磁力線が生じる。この場合には、外壁体2及び内壁体3の相対移動が上下方向及び左右方向に発生する際に、その相対移動を妨げる抵抗力が効果的に作用する。
【0066】
なお、実施形態で示した壁型ダンパ1、1A~1Gの細部の構成、並びに磁石4の数及び配列などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 第1実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1A 第2実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1B 第3実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1C 第4実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1D 第5実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1E 第6実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1F 第7実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
1G 第8実施形態の壁型ダンパ(渦電流式ダンパ)
2 外壁体
3 内壁体
4 永久磁石
11 外壁、前壁
11a ハッチ
11b ハッチカバー
12 外壁、後壁
12a ハッチ
12b ハッチカバー
15 底壁
15a 長孔
17 ハッチカバー
17a カバー本体
17b 調整材
19 中壁
21 内壁
21a 内壁の前面
21b 内壁の後面
22 フランジ
23 取付金具
24 ボルト
25 ボルト
26 ボルト
27 ボルト
32 コーティング材
33 シールド材
B 建物(構造物)
BU 上梁(上側構造材)
BD 下梁(下側構造材)
F1 外壁体に作用する抵抗力
F2 内壁体に作用する抵抗力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22