(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤
(51)【国際特許分類】
C08K 5/103 20060101AFI20240305BHJP
C08L 27/24 20060101ALI20240305BHJP
C07C 69/33 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C08K5/103
C08L27/24
C07C69/33
(21)【出願番号】P 2020056511
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 征太郎
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124937(JP,A)
【文献】特公昭36-017815(JP,B1)
【文献】特開昭51-065707(JP,A)
【文献】特開平07-216169(JP,A)
【文献】特開2001-040217(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104130123(CN,A)
【文献】米国特許第04141866(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
C07C 69/00-69/96
C07C 67/00-67/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(a)~
(d)を満たすポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル
である塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤。
条件(a):ポリペンタエリスリトール中のトリペンタエリスリトールの含有量が
80質量%以上
条件(b):エステル化率が9
6%以上
条件(c):酸価が30mgKOH/g以下
条件(d):構成する脂肪酸がパルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸からなる群から選択される1種又は2種以上
【請求項2】
請求項1に記載の塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤を含有する塩素化塩化ビニル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合する滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、耐水性、難燃性、電気絶縁性等に優れ、かつ安価であることから、従来、パイプ関連製品、電線被覆材、建材等、幅広い分野で用いられている。一方で、通常の塩化ビニル樹脂は耐熱温度が低く、耐熱性が要求される用途(耐熱パイプ、耐熱工業版、耐熱フィルム、耐熱シート等)には適さない。そこで、このような用途においては、塩化ビニル樹脂より塩素化度を高めることで耐熱温度を向上させた、塩素化塩化ビニル樹脂が使用されている。
【0003】
塩化ビニル樹脂や塩素化塩化ビニル樹脂の成形加工にあたっては、通常、樹脂に各種添加剤を配合して樹脂組成物を作製した後に加熱混練を行うが、これらの樹脂は成形温度と樹脂自体の分解温度が近接しているため、成形加工時に熱分解を起こしやすく、樹脂分子間の摩擦や樹脂と混練機等の金属面との摩擦により生じる摩擦熱の影響も無視できない。そこで、このような摩擦熱の発生を抑制する目的や、作業性の観点から金属剥離性等を向上させる目的で、従来、塩化ビニル樹脂組成物や塩素化塩化ビニル樹脂組成物には、種々の滑剤が配合されている。
【0004】
塩化ビニル樹脂組成物用の滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系滑剤、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル等のエステルワックス系滑剤等が知られており、それぞれ異なる特徴を有することから、目的に応じて使い分けたり、併用したりされている。
【0005】
なお、滑剤に関する特許技術としては、例えば、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールと二塩基性有機酸と脂肪酸との反応生成物を主体とするプラスチック成形用滑剤(特許文献1)、脂肪族多塩基酸/固形炭化水素及び(又は)エステルWAX=5~35重量%/95~65重量%からなるポリ塩化ビニル用滑剤組成物(特許文献2)等が知られている。
【0006】
しかし、塩素化塩化ビニル樹脂組成物においては、前述のような公知の塩化ビニル樹脂組成物用滑剤をそのまま配合しても、十分な効果が得られない場合があった。とりわけ、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に従来のエステルワックス系滑剤(例えば、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル)を配合した場合、該樹脂組成物と金属との摩擦及び粘着性の低減効果(金属剥離性や金属滑り性の向上効果)が不十分となるのみならず、樹脂組成物の耐熱性も低下してしまう傾向があった。
【0007】
そこで、塩素化塩化ビニル樹脂組成物においても金属との摩擦及び粘着性を十分に低減させることができる新たなエステルワックス系滑剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭53-006350号公報
【文献】特開平9-143325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合することにより、該樹脂組成物と金属との摩擦及び粘着性を低減させることができる塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に対し、トリペンタエリスリトールを多く含むポリペンタエリスリトールを原料とするポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを配合することにより、該樹脂組成物と金属との摩擦及び粘着性が低減することを見出し、この知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記(1)及び(2)からなっている。
(1)下記条件(a)~(c)を満たすポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを有効成分とする塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤。
条件(a):ポリペンタエリスリトール中のトリペンタエリスリトールの含有量が50質量%以上
条件(b):エステル化率が93%以上
条件(c):酸価が30mgKOH/g以下
(2)前記(1)に記載の塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤を含有する塩素化塩化ビニル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤は、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合することにより、該樹脂組成物と金属との摩擦及び粘着性を低減させることができる。
本発明に係る塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤は、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合しても、従来のエステルワックス系滑剤に比べて該樹脂組成物の耐熱性を低下させにくい。
本発明に係る塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤を含有する塩素化塩化ビニル樹脂組成物は、金属との摩擦及び粘着性が低減されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例の滑剤1を配合した樹脂組成物1と、比較例の滑剤10を配合した樹脂組成物10について、それぞれプラストミルで混練した際のトルクの経時的な変化を記録したグラフである。
【
図2】
図2は、実施例の滑剤1を配合した樹脂組成物1をプラストミルで混練した後、該プラストミルの金属ローターの様子(金属ローターへの樹脂組成物の付着状態)を撮影した写真である。
【
図3】
図3は、比較例の滑剤10を配合した樹脂組成物10をプラストミルで混練した後、該プラストミルの金属ローターの様子(金属ローターへの樹脂組成物の付着状態)を撮影した写真である。
【
図4】
図4は、実施例の滑剤1を配合した樹脂組成物1のMFRを測定した際に測定器から押し出された樹脂組成物成形品の表面を撮影した顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、比較例の滑剤10を配合した樹脂組成物10のMFRを測定した際に測定器から押し出された樹脂組成物成形品の表面を撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤(以下「本発明の滑剤」ともいう)は、ペンタエリスリトール2分子以上が重合したポリペンタエリスリトールと脂肪酸とのエステルであるポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを有効成分とするものであって、該ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルが以下に示す条件(a)~(c)を満たすことを特徴とするものである。
【0015】
[条件(a)について]
本発明の滑剤の有効成分であるポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル(以下「本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル」ともいう)の条件(a)は、該エステルを構成するポリペンタエリスリトール100質量%中に占めるトリペンタエリスリトール(即ち、ペンタエリスリトール3分子が重合したポリペンタエリスリトール)の含有量が50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であることである。
【0016】
トリペンタエリスリトールの含有量が50質量%以上であるポリペンタエリスリトールとしては、トリペンタエリスリトール混合物として市販されているものを使用することができる。通常、市販のトリペンタエリスリトール混合物は、トリペンタエリスリトール以外にペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラペンタエリスリトール等を含有するが、該混合物100質量%中のトリペンタエリスリトールの含有量が50質量%以上であれば、本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの原料として使用することができる。なお、該混合物中のトリペンタエリスリトールの含有量については、ガスクロマトグラフィー等を用いて分析できるほか、メーカーが公表している規格値、分析値等の数値を採用することができる。
【0017】
市販のトリペンタエリスリトール混合物としては、例えば、トリペンタエリスリトール(商品名;トリペンタエリスリトール 含有量代表分析値81.3質量%;永安化工社製)等が挙げられ、本発明ではこれを用いることができる。
【0018】
[条件(b)について]
本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの条件(b)は、該エステルのエステル化率が93%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上であることである。
【0019】
前記エステル化率(%)は、下記計算式によって算出することができる。なお、下記式中のエステル価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人日本油化学会編)の[2.3.3-1996 エステル価]及び[2.3.6-1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。
【0020】
【0021】
[条件(c)について]
本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの条件(c)は、該エステルの酸価が30mgKOH/g以下、好ましくは20mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下、さらに好ましくは5mgKOH/g以下であることである。ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの酸価が低い場合の方が、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合した際に優れた金属剥離性向上効果を発揮する傾向がある。
【0022】
前記酸価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人日本油化学会編)の[2.3.1-1996 酸価]に準じて測定される。
【0023】
本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸に特に制限はなく、例えば、炭素数8~28の直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸、あるいはこれらの脂肪酸にさらにヒドロキシ基等の官能基を有する脂肪酸等が挙げられる。具体的には、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、アイコサペンタエン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、エライジン酸、エルカ酸、オレイン酸、リノール酸、リノール酸、リシノール酸、ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。これらの中でも、塩素化塩化ビニル樹脂組成物の滑性向上効果に優れ、且つ塩素化塩化ビニル樹脂組成物の加熱混練時や成形時に揮発しにくいポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルが得られることから、パルミチン酸、ステアリン酸又はベヘン酸が好ましく、ステアリン酸又はベヘン酸がより好ましい。これら脂肪酸は、天然由来の脂肪酸でも、化学合成して得た脂肪酸であってもよい。また、これら脂肪酸は、いずれか1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの製造方法に特に制限はなく、公知の方法でポリペンタエリスリトールと脂肪酸とをエステル化すればよい。具体的には、下記の方法を例示することができる。
例えば、攪拌機、加熱用のジャケット、窒素導入管、水分定量管、空冷管等を備えた通常の反応容器にポリペンタエリスリトールと脂肪酸を任意のモル比で仕込み、触媒として酸化亜鉛、水酸化カルシウム等のアルカリ、あるいは錫等のルイス酸を加えて攪拌混合し、窒素ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、温度調節器を用いて所定温度で加熱することによりエステル化した反応物を得る方法が挙げられる。
【0025】
前記エステル化反応の際のポリペンタエリスリトール及び脂肪酸の配合比率は、ポリペンタエリスリトールの平均重合度をnとした場合、ポリペンタエリスリトール:脂肪酸のモル比が1:2n~2(n+1)であることが好ましく、1:2(n+0.5)~2(n+1)であることがより好ましい。反応温度条件は、通常、180~250℃の範囲、好ましくは220~240℃の範囲である。反応圧力条件は、減圧下又は常圧下が好ましく、その際の反応時間は、5~12時間である。
【0026】
前記エステル化反応の終点は、エステル化した反応物の酸価が前記条件(b)を満たす範囲となった時点を目安に決められる。
【0027】
本発明の滑剤は、前記本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の任意の成分を含有していてもよく、例えば、従来塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤として用いられている成分を含有していてもよい。即ち、本発明の滑剤は、本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルと公知の塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤とを混合及び一剤化した複合滑剤として調製することができる。公知の塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤としては、例えば、ポリペンタエリスリトールと二塩基酸又は脂肪酸及び二塩基酸とのエステル、ポリペンタエリスリトール以外の多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール等)と脂肪酸及び/又は二塩基酸とのエステル、一価アルコール(パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等)と脂肪酸及び/又は二塩基酸とのエステル等のエステルワックス系滑剤;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、スラックワックス(石油系ワックス)、カルナバワックス、ライスワックス、カスターワックス、キャンデリラワックス(植物系ワックス)、モンタンワックス(鉱物系ワックス)、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリプロピレンワックス(合成ワックス)、酸化ポリエチレンワックス(加工・変性ワックス)等の炭化水素系滑剤;ステアリン酸、ステアリルアルコール等の脂肪酸又は高級脂肪族アルコール系滑剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系滑剤;脂肪酸アミド系滑剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の滑剤の性状に特に制限はなく、例えば、固体状、液体状、ペースト状等のいずれであってもよいが、ハンドリング性等の観点から常温(25℃)で固体状であることが好ましい。本発明の滑剤を固体状とする場合のより具体的な性状としては、例えば、ブロック状、ペレット状、フレーク状、粉末状等が挙げられ、好ましくは粉末状である。
【0029】
本発明の滑剤を粉末状とする場合、その平均粒子径は、50~2000μmであることが好ましく、100~1000μmであることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内であると、塩素化塩化ビニル樹脂組成物を加工する際のゲル化挙動への影響が少なくなる。
【0030】
本発明の滑剤は、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合して使用することにより、該樹脂組成物と金属(例えば、混練機の金属ローター、押出成形機の口金やスクリュー、射出成形機の金型等)との間の摩擦及び粘着性を低減させることができる。これにより、例えば、混練時における摩擦熱の発生の抑制、金属剥離性の向上、押出成形時の押出効率の向上等の効果が期待される。
【0031】
本発明の滑剤の使用対象となる塩素化塩化ビニル樹脂組成物は、塩素化塩化ビニル樹脂と本発明の滑剤のみからなる組成物であってもよく、さらに本発明の効果を阻害しない範囲で任意の添加剤を配合した組成物であってもよい。
【0032】
前記塩素化塩化ビニル樹脂としては、塩素化塩化ビニル単量体の単独重合体又は塩素化塩化ビニル単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体、あるいはこれらと他のポリマーとをアロイ化したもの等が挙げられる。塩素化塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物等が挙げられる。
【0033】
前記添加剤としては、通常、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に用いられるものであって、本発明の効果を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えば、安定剤(有機スズ系安定剤、金属石鹸系安定剤、鉛系安定剤等)、無機充填剤(炭酸カルシウム、クレー、シリカ、カーボンブラック、ケイ酸カルシウム、珪藻土、チョーク等)、可塑剤(フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤等)、着色剤(無機顔料、有機顔料、レーキ顔料等)、帯電防止剤(グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、アニオン系界面活性剤等)、発泡剤(アゾ系発泡剤、ニトロソ系発泡剤)、高分子系改質剤(アクリル系改質剤、MBS改質剤、CPE改質剤等)、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤等)、その他安定助剤(ステアロイルベンゾイルメタン、ジペンタエリスリトール、ハイドロタルサイト、ゼオライト等)等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の滑剤は、必要に応じて塩素化塩化ビニル樹脂組成物に従来用いられている他の滑剤と併用してもよい。本発明の滑剤以外の塩素化塩化ビニル樹脂組成物用滑剤としては、例えば、ポリペンタエリスリトールと二塩基酸又は脂肪酸及び二塩基酸とのエステル、ポリペンタエリスリトール以外の多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール等)と脂肪酸及び/又は二塩基酸とのエステル、一価アルコール(パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等)と脂肪酸及び/又は二塩基酸とのエステル等のエステルワックス系滑剤;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、スラックワックス(石油系ワックス)、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス(植物系ワックス)、モンタンワックス(鉱物系ワックス)、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリプロピレンワックス(合成ワックス)、酸化ポリエチレンワックス(加工・変性ワックス)等の炭化水素系滑剤;ステアリン酸、ステアリルアルコール等の脂肪酸又は高級脂肪族アルコール系滑剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系滑剤;脂肪酸アミド系滑剤等が挙げられる。なお、本発明の滑剤は、本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル以外のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを有効成分とする滑剤と併用することを排除するものではないが、その場合、塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合されるポリペンタエリスリトール脂肪酸エステル全体として本発明の条件(a)~(c)を満たすことが好ましい。
【0035】
本発明の滑剤の塩素化塩化ビニル樹脂組成物への配合量は、該樹脂組成物の主体となる塩素化塩化ビニル樹脂自体の構造や性質、本発明の滑剤以外で配合する任意の添加剤の種類や配合量、求める滑性の程度等により異なるが、例えば、塩素化塩化ビニル樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.01~5.0質量部、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0036】
本発明の滑剤を塩素化塩化ビニル樹脂組成物に配合する方法に特に制限はなく、例えば、らいかい機等を用いて塩素化塩化ビニル樹脂と任意の添加剤とを予備混合し、得られた混合物と本発明の滑剤とを加熱機能を有する公知の混合機(例えば、ヘンシェルミキサー等)で95~140℃に加熱しながら混練する方法等が挙げられる。加熱混練後は、余熱による分解を防止するため、速やかに55℃未満まで冷却することが好ましい。このようにして得られる本発明の滑剤を含有する塩素化塩化ビニル樹脂組成物も、本発明の一つの形態である。
【0037】
前記本発明の滑剤を含有する塩素化塩化ビニル樹脂組成物は、さらに押出成形、射出成形、圧縮成形、シート成形、吹込成形、真空成形等の種々の成形手段に供することにより、任意の形状の成形体として使用することができる。成形後は、余熱による変形や分解を防止するため、速やかに55℃未満まで冷却することが好ましい。得られた成形体は、上下水用配管、継手等のパイプ関連製品、電線被覆材、ハウス、トンネル等の農業資材、衣類、玩具、包装資材、容器等の雑貨・日用品、雨樋、窓枠、壁紙等の建材等の用途に用いることができる。
【0038】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
≪滑剤の製造≫
(1)原材料
1)ポリペンタエリスリトール
1-1)ポリペンタエリスリトールA(商品名:トリペンタエリスリトール;永安化工社製)
1-2)ポリペンタエリスリトールB(商品名:ジペンタエリスリトール;Perstorp社製)
2)脂肪酸
2-1)ステアリン酸(商品名:ステアリン酸;富士フイルム和光純薬社製)
2-2)ベヘン酸(商品名:ベヘン酸85;ミヨシ油脂社製)
【0040】
前記原材料のポリペンタエリスリトールA及びBについて、それぞれモノペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールの含有量(メーカーが公表する代表分析値)を表1にまとめた。なお、ポリペンタエリスリトール中には表1中の成分以外の副生成物等も含まれるため、表中の数値の合計は必ずしも100質量%にはならない。
【0041】
【0042】
(2)滑剤の製造方法
[製造例1]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA51.8g、ステアリン酸298.2gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを320g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤1とした。
【0043】
[製造例2]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA43.4g、ベヘン酸306.6gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、245℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを328g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤2とした。
【0044】
[製造例3]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA52.9g、ステアリン酸297.1gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを322g得た。該エステルのエステル化率は約96%であった。これを滑剤3とした。
【0045】
[製造例4]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA54.1g、ステアリン酸295.9gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを324g得た。該エステルのエステル化率は約93%であった。これを滑剤4とした。
【0046】
[製造例5]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA47.6g、ステアリン酸302.4gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が約20mgKOH/gとなった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを325g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤5とした。
【0047】
[製造例6]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA37.95g及びポリペンタエリスリトールB12.65g(ポリペンタエリスリトールA:Bの質量比=75:25)、ステアリン酸299.4gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを326g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤6とした。
【0048】
[製造例7]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA24.75g及びポリペンタエリスリトールB24.75g(ポリペンタエリスリトールA:Bの質量比=50:50)、ステアリン酸300.5gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを323g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤7とした。
【0049】
[製造例8]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA61.3g、ステアリン酸288.7gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを324g得た。該エステルのエステル化率は約80%であった。これを滑剤8とした。
【0050】
[製造例9]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールA40.5g、ステアリン酸309.5gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が約50mgKOH/gとなった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを322g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤9とした。
【0051】
[製造例10]
温度調節機、窒素導入管、攪拌機および冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、ポリペンタエリスリトールB47.4g、ステアリン酸302.6gをそれぞれ加え、これらを窒素気流下、240℃で反応水を留去しつつ、常圧及び減圧条件下で反応させた。反応物の酸価が5mgKOH/g以下となった時点で反応を止め、ポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルを325g得た。該エステルのエステル化率は約98%であった。これを滑剤10とした。
【0052】
(3)滑剤の配合
前記滑剤1~10について、原料として使用したポリペンタエリスリトール中のトリペンタエリスリトールの含有量並びにエステルのエステル化率及び酸価を表2にまとめた。これらのうち、滑剤1~6は本発明のポリペンタエリスリトール脂肪酸エステルの条件(a)~(c)を全て満たす実施例であり、滑剤7~10はそれらに対する比較例である。
【0053】
【0054】
≪塩素化塩化ビニル樹脂組成物の作製≫
(1)原材料
1)塩素化塩化ビニル樹脂(商品名:セキスイPVC HA-58K;積水化学工業社製)
2)MBS改質剤(商品名:カネエースB-564;カネカ社製)
3)CPE改質剤(商品名:CPE-135A;Novista社製)
4)有機スズ系安定剤(商品名:TVS#8831;日東化成工業社製)
5)アクリル系改質剤(商品名:カネエースPA-30;カネカ社製)
6)顔料(商品名:CR-80;酸化チタン;石原産業社製)
7)滑剤(前記滑剤1~10のいずれか)
【0055】
(2)塩素化塩化ビニル樹脂組成物の配合
前記原材料を用いて作製した塩素化塩化ビニル樹脂組成物の配合組成を表3に示した。なお、作製はこの50倍量の原材料を用いて行った。
【0056】
【0057】
(3)塩素化塩化ビニル樹脂組成物の作製方法
表3に示した原材料の50倍量をスーパーミキサー(型式:SMV-20Ba;カワタ社製)に投入し、樹脂温度105℃になるまで加温しながら攪拌混合した後、リボンブレンダー(型式:KRM-40J;セイワ工業社製)にて混合しながら55℃まで冷却し、塩素化塩化ビニル樹脂組成物1~10を得た。
【0058】
≪塩素化塩化ビニル樹脂組成物の評価試験≫
[プラストミルによる混練試験]
(1)試験方法
前記塩素化塩化ビニル樹脂組成物1~10を、ラボプラストミル(型式:4C150-01;東洋精機製作所社製)にて下記条件で混練した。
<条件>
ジャケット温度:190℃
ローター回転数:50rpm
充填量:70g
予熱時間:2分
【0059】
(2)初期滑性の評価
前記混練試験中のプラストミルのトルク(N・m)の経時的な変化を記録したところ、いずれも混練開始直後一時的に上昇したトルクが、20秒前後経過した時点で最低値となり、そこから混練が進むにつれて徐々にトルクが上昇する傾向となっていた(
図1参照)。この時、前記トルクの最低値が低い値であるほど、混練初期における樹脂組成物とプラストミルの金属ローターとの滑性(初期滑性)が高く、摩擦が小さかったことを意味する。従って、初期滑性の高い樹脂組成物においては、混練時の摩擦熱の発生も抑制されていたと推測される。そこで、前記トルクの最低値に基づき各樹脂組成物の初期滑性について評価した。評価は下記の基準に従って記号化し、結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
◎: 最低値50N・m未満
〇: 最低値50N・m以上、55N・m未満
△: 最低値55N・m以上、60N・m未満
×: 最低値60N・m以上
【0060】
(3)金属剥離性の評価
前記混練試験の終了後、プラストミルの金属ローターに付着した樹脂組成物の量を目視により観察し、これに基づき各樹脂組成物の金属剥離性について評価した(
図2及び3参照)。評価は下記の基準に従って記号化し、結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
◎: 付着量が極めて少ない
〇: 付着量が少ない
△: 付着量がやや多い
×: 付着量が多い
【0061】
[MFR測定試験]
(1)試験方法
前記塩素化塩化ビニル樹脂組成物1~10各200gをオープンロール(大阪ロール機製作所社製)にて200℃で5分間混練し、1mm厚の樹脂シート1~10を作製した。これを裁断してサンプルとし、MFR(メルトフローレート)測定器(商品名:Melt Indexer;型式:F-B01;東洋精機製作所社製)にて下記条件でMFRを測定した。
<条件>
ジャケット温度:210℃
荷重:21.6kg
充填量:2g
予熱時間:4分
【0062】
(2)金属滑り性の評価
前記試験により測定したMFRに基づき、各樹脂組成物の金属滑り性について評価した。なお、MFRは樹脂組成物を筒状の金属容器に充填し、該容器底部の開口部から10分間に押し出された樹脂組成物の質量(g/10min)を測定した指標である。従って、このMFRの数値が大きいほど、樹脂組成物の金属容器及びその開口部の口金との摩擦及び粘着性が低減されており(即ち、金属滑り性が高く)、スムーズに押し出されたことを意味する。評価は下記の基準に従って記号化し、結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
◎: MFR1.0g/10min以上
〇: MFR0.8g/10min以上、1.0g/10min未満
△: MFR0.6g/10min以上、0.8g/10min未満
×: MFR0.6g/10min未満
【0063】
(3)表面性の評価
前記試験においてMFR測定器から押し出された棒状の樹脂組成物成形品の表面を顕微鏡により観察し、表面性(光沢、ざらつきの有無)について評価した(
図4及び5参照)。なお、該成形品の表面に光沢があり、なめらかであるほど、樹脂組成物とMFR測定器の開口部の口金との摩擦及び粘着性が低減されていたことを意味する。評価は下記の基準に従って記号化し、結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
◎: 表面に艶やかな光沢があり、極めてなめらかである
〇: 表面に光沢があり、概ねなめらかである
△: 表面に光沢がなく、ざらついている
×: 表面に光沢がなく、ざらつきが顕著である
【0064】
[ビカット軟化点の測定試験]
(1)試験方法
前記MFR測定試験において作製した樹脂シート1~10をプレス成形機(型式:AYSR-5;神藤金属工業所社製)にて180℃で5分間圧縮成形し、5mm厚の試験片を得た。該試験片を用いて、HDT(荷重たわみ温度)測定器(商品名:HDT TESTER;型式:S-3;東洋精機製作所社製)にて下記条件でビカット軟化点(JIS K7206)を測定した。
<条件>
負荷:50N
昇温速度:50℃/h
【0065】
(2)耐熱性の評価
前記試験により測定したビカット軟化点に基づき、各樹脂組成物の耐熱性について評価した。評価は、各樹脂組成物について3回ずつ測定したビカット軟化点の平均値を求め、下記の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
◎: 平均115.5℃以上
〇: 平均114.5℃以上、115.5℃未満
△: 平均113.0℃以上、114.5℃未満
×: 平均113.0℃未満
【0066】
【0067】
表4の結果から明らかなように、本発明の実施例である滑剤1~6を配合した樹脂組成物1~6は、初期滑性、金属剥離性、金属滑り性、表面性のいずれにおいても評価が「◎」又は「〇」であった。即ち、これらの樹脂組成物は金属との摩擦及び粘着性が十分に低減されていた。また、これらの樹脂組成物は耐熱性の評価も「◎」又は「〇」であることから、本発明の滑剤には、従来のエステルワックス系滑剤のような樹脂組成物の耐熱性を低下させるデメリットは見られなかった。一方、比較例の滑剤7~10を配合した樹脂組成物7~10は、少なくともいずれか1つ以上の項目において「△」又は「×」の評価となっており、金属との摩擦及び粘着性の低減効果が劣っていた。特に、滑剤10を配合した樹脂組成物10においては、耐熱性も顕著に低下していた。