(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】床振動予測システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20240305BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240305BHJP
G01H 3/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G06F30/13
G06F30/27
G01H3/10
(21)【出願番号】P 2020062994
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】更谷 安紀子
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-275173(JP,A)
【文献】特許第6664777(JP,B1)
【文献】特開2019-117603(JP,A)
【文献】特開2017-182408(JP,A)
【文献】特開2009-146256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
G01H 1/00 -17/00
G06Q 50/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の構造形式の建物の床の振動評価点における床振動を予測するシステムであって、
既設建物の用途に対応付けられた数値を含む前記既設建物の用途情報と、
前記既設建物の床スラブのうち、平面視において相互に直交する第1および第2方向に沿った大梁に周縁が支持される矩形状の評価領域に対して、第1および第2方向の前記評価領域の長さ、前記評価領域の前記床スラブの厚み、および前記評価領域の前記床スラブの構造形式に対応付けられた数値と、を含む前記既設建物の床情報と、
前記第1および第2方向ごとに、これらの方向に沿った、前記評価領域を支持する大梁の断面サイズ、長さ、および本数を含む前記既設建物の大梁情報と、
前記第1および第2方向ごとに、これらの方向に沿った、前記評価領域を支持する小梁の断面サイズ、長さ、および本数を含む前記既設建物の小梁情報と、
平面視において前記評価領域の中央を中心として、前記第1および第2方向を直交座標系とした前記振動評価点の座標を含む評価点情報と、
前記第1および第2方向に沿った、前記評価領域に立設した間仕切り壁の幅と、前記間仕切り壁の幅方向の中央の座標を含む間仕切り壁情報と、
前記床スラブに付与される外力の条件を含む前記既設建物の外力情報と、
前記外力の付与時の前記振動評価点の振動に関する実測値を含む前記既設建物の振動評価情報と、を教師データとして、
前記振動評価点の振動に関する数値の算出が機械学習されており、
対象建物に対応する用途情報、前記床情報、前記大梁情報、前記小梁情報、前記評価点情報、前記間仕切り壁情報、および前記外力情報から、前記対象建物に対応する前記振動評価点の振動に関する数値を算出する演算装置を備えたことを特徴とする床振動予測システム。
【請求項2】
前記教師データの前記間仕切り壁情報に、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応に付けられた数値をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の床振動予測システム。
【請求項3】
前記所定の構造形式は、鉄骨造であり、
前記教師データの前記小梁情報に、前記既設建物の前記第1および第2方向ごとの前記小梁の剛接合の本数をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の床振動予測システム。
【請求項4】
前記教師データとなる前記既設建物の前記振動評価情報として、前記既設建物の前記振動評価点における、振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度、固有振動数、および減衰定数の少なくとも1つの実測値を含み、
前記演算装置は、前記対象建物の前記振動評価情報として、前記対象建物の前記振動評価点における、振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度、固有振動数、および減衰定数の少なくとも1つの値を算出することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の床振動予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床振動を予測する床振動予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、床に外力が加わった際の振動を予測する床振動予測システムが提案されている。例えば、特許文献1では、建物概要データ、通りデータ、梁データ、壁データ、床データ、柱データなどの各種データなどの入力データから、レイリーリッツ法などの振動解析の手法を用いて、床振動を予測するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシステムで、床振動を予測する際に、各種データとして、各部材の寸法以外にも、これを構成する材料の物性値等、様々なデータを入力しなければならず、解析に膨大な時間を要する。さらに、床振動解析は動的解析であるので、実測した結果と一致しないことも多い。これに加えて、建物の躯体を構成しない非構造部位(二次部材)としての間仕切り壁は、床振動の解析には反映されていないが、実際のところ、間仕切り壁の有無、間仕切り壁の位置等により、実測した振動の結果は、大きく変わることがある。
【0005】
本発明はこのような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より簡単な入力条件で、間仕切り壁の影響を考慮した、対象建物の床振動を予測することができる床振動予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を鑑みて、本発明に係る床振動予測システムは、所定の構造形式の建物の床の振動評価点における床振動を予測するシステムであって、既設建物の用途に対応付けられた数値を含む前記既設建物の用途情報と、前記既設建物の床スラブのうち、平面視において相互に直交する第1および第2方向に沿った大梁に周縁が支持される矩形状の評価領域に対して、第1および第2方向の前記評価領域の長さ、前記評価領域の前記床スラブの厚み、および前記評価領域の前記床スラブの構造形式に対応付けられた数値と、を含む前記既設建物の床情報と、前記第1および第2方向ごとに、これらの方向に沿った、前記評価領域を支持する大梁の断面サイズ、長さ、および本数を含む前記既設建物の大梁情報と、前記第1および第2方向ごとに、これらの方向に沿った、前記評価領域を支持する小梁の断面サイズ、長さ、および本数を含む前記既設建物の小梁情報と、平面視において前記評価領域の中央を中心として、前記第1および第2方向を直交座標系とした前記振動評価点の座標を含む評価点情報と、前記第1および第2方向に沿った、前記評価領域に立設した間仕切り壁の幅と、前記間仕切り壁の幅方向の中央の座標を含む間仕切り壁情報と、前記床スラブに付与される外力の条件を含む前記既設建物の外力情報と、前記外力の付与時の前記振動評価点の振動に関する実測値を含む前記既設建物の振動評価情報と、を教師データとして、前記振動評価点の振動に関する数値の算出が機械学習されており、対象建物に対応する用途情報、前記床情報、前記大梁情報、前記小梁情報、前記評価点情報、前記間仕切り壁情報、および前記外力情報から、前記対象建物に対応する前記振動評価点の振動に関する数値を算出する演算装置を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、演算装置は、既設建物の用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報を教師データとし、さらに、この既設建物において、振動評価点の振動に関する実測値を教師データとして、対象建物に対応する振動評価点の振動に関する数値の算出が機械学習されたものである。このように、実測値を利用した機械学習であるので、これまでの解析では、正確に予測できなかった振動評価点における振動に関する数値を、より簡単な入力条件で算出することができる。特に、振動評価点の座標と、間仕切り壁の長さおよびその中央の座標と、を特定することにより、床振動に対する間仕切り壁の影響を、より正確に把握することができる。
【0008】
なお、「既設建物」は、実際に床振動が測定された(振動評価点の振動に関する実測値が得られた)建物であり、用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報を有した建物である。また、「対象建物」とは、床振動が予測される建物であり、用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報が入力可能な任意の建物である。
【0009】
より好ましい態様としては、前記教師データの前記間仕切り壁情報に、前記既設建物の前記間仕切り壁の構造に対応に付けられた数値をさらに含む。発明者らの知見によれば、建物内の床振動を特定する際に、間仕切り壁の構造の影響が大きいことがわかった。したがって、間仕切り壁の構造に対応に付けられた数値を教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、振動評価点の振動に関する数値を正確に算出することができる。
【0010】
さらに好ましい態様としては、前記所定の構造形式は、鉄骨造であり、前記教師データの前記小梁情報に、前記既設建物の前記第1および第2方向ごとの前小梁の剛接合の本数をさらに含む。
【0011】
発明者らの知見によれば、鉄骨造の建物内の床振動を特定する際に、小梁の剛接合の本数の影響が大きいことがわかった。したがって、第1および第2方向ごとの前記小梁の剛接合の本数を教師データとして、機械学習した演算装置を用いることにより、振動評価点の振動に関する数値を正確に算出することができる。
【0012】
さらに好ましい態様としては、前記教師データとなる前記既設建物の前記振動評価情報として、前記既設建物の前記振動評価点における、振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度、固有振動数、および減衰定数の少なくとも1つの実測値を含み、前記演算装置は、前記対象建物の前記振動評価情報として、前記対象建物の前記振動評価点における、振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度、固有振動数、および減衰定数の少なくとも1つの値を算出する。
【0013】
この態様によれば、既設建物の振動評価点における、振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度、固有振動数、および減衰定数の少なくとも1つの実測値を教師データとして機械学習した演算装置を用いることにより、対象建物のこれらの値をより正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より簡単な入力条件で、間仕切り壁の影響を考慮した、対象建物の床振動を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る床振動予測システムを説明するための模式的概念図である。
【
図2】
図1に示す床振動予測システムの演算装置が機械学習するための教師データを示す表図である。
【
図3】
図1に示す床振動予測システムの演算装置が機械学習するための追加の教師データを示す表図である。
【
図4】既設建物における床スラブを支持する評価領域の大梁と小梁の配置を説明するための模式的平面図である。
【
図5】既設建物における床スラブと間仕切り壁との関係を説明するための模式的平面図である。
【
図6】(a)ランナとスタッドを備えた軽量鉄鋼骨下地に、下地板が取り付けられた間仕切り壁の模式的斜視図であり、(b)建物の躯体に取付け金具を介してALCボードが取り付けられた間仕切り壁の模式的斜視図である。
【
図7】既設建物における床スラブの振動評価点における振動の知覚確率、鉛直方向の応答加速度の一例を説明するためのグラフである。
【
図8】
図1に示す演算装置のニューラルネットワークの学習時の模式的概念図である。
【
図9】
図1に示す演算装置のニューラルネットワークの利活用時の模式的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の本実施形態に係る床振動予測システム1を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
1.床振動予測システム1の装置構成について
本実施形態に係る床振動予測システム1は、
図1に示すように、たとえば、メインサーバ(ホストコンピュータ)10と、携帯端末(通信端末)20を用いて、所定の構造形式の対象建物の床の振動評価点における床振動を予測するものである。以下に、床振動予測システム1を説明する。なお、振動評価点は、床振動を評価したい、床スラブ上の1点のことである。ここでいう構造形式は、たとえば、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などであり、これらの構造形式ごとに、以下の演算装置10Aによる機械学習と、機械学習により学習されたプログラムの生成が行われる。
【0018】
床振動予測システム1のメインサーバ10は、所定の構造形式の建物の床の振動評価点における床振動を算出するプログラムを生成する演算装置10Aと、演算装置10Aにデータを入力するキーボードなどの入力装置10Bと、を備えている。
【0019】
演算装置10Aは、振動評価点における床振動が実測された既設建物の情報等が記憶されたROMまたはRAM等からなる記憶部10aと、機械学習したプログラムを生成するためのCPU等からなる演算部10bと、を備えている。
【0020】
携帯端末20は、ネットワークを介してメインサーバ10に通信可能であり、メインサーバ10の演算部10bで機械学習された、振動評価点の振動に関する数値の算出プログラム(アプリケーション)がインストールされている。携帯端末20は、振動評価点の振動に関する数値を算出する演算装置20Aと、データの入力および表示を行うタッチパネルなどの表示・入力部20Bと、を備えている。
【0021】
携帯端末20は、演算装置20Aとして、メインサーバ10からの振動評価点の振動に関する数値の算出プログラムおよび表示・入力部20Bで入力されたデータを記憶するROMまたはRAM等からなる記憶部20aと、振動評価点の振動に関する数値の算出プログラムを実行するCPU等からなる演算部20bと、を備えている。本実施形態の演算装置20Aが、本発明でいうところの演算装置に相当する。
【0022】
なお、本実施形態では、床振動予測システム1は、メインサーバ10と、携帯端末20とを個別に備えており、携帯端末20は、上述するアプリケーションがインストールされていれば、特にその個数は限定されるものではない。
【0023】
また、床振動予測システム1が、メインサーバ10と携帯端末20とで構成されるのではなく、これらが1つのシステムとして構成されていてもよい。具体的には、メインサーバ10の記憶部10aで、携帯端末20の記憶部20aで記憶されたデータを記憶し、メインサーバ10の演算部10bで、携帯端末20の演算部20bによる演算を行うことで、携帯端末20を省略してもよい。また、携帯端末20では、上述した記憶および演算を行わず、メインサーバ10ですべての記憶および演算を行って、携帯端末20は、対象建物に対する入力情報と、振動評価点の振動に関する数値の算出結果のみを出力してもよい。
【0024】
2.演算装置10A(機械学習)
本実施形態では、以下に、メインサーバ10の演算装置10Aによる、機械学習について説明する。本実施形態では、演算装置10Aでは、既設建物の評価対象となる階において、床スラブの評価領域の振動評価点における振動に関する数値の算出を学習したモデルを構築する。
【0025】
本実施形態では、演算装置10Aは、(1)用途情報、(2)床情報、(3)大梁情報、(4)小梁情報、(5)評価点情報、(6)間仕切り壁情報、(7)外力情報、および(8)振動評価情報(実測値の情報)を教師データとして、機械学習する部分であり、この演算装置10Aに学習した結果をモデルとして構築する。なお、生成されたプログラムは、利活用時に携帯端末20に送信される。以下の教師データとなる各情報について、
図2および
図3を参照しながら説明する。
【0026】
3.教師データ
3-1.用途情報
既設建物の用途情報は、「既設建物の用途に対応した数値」を含んでいる。既設建物の用途として、たとえば、事務所、フィットネスジム、病院、学校、工場、ホテル、マンション、オフィスビル、戸建住宅、集合住宅等に合わせて、既設建物の床振動が変動することから、既設建物の用途に対応した数値は、これらの用途に応じて数値化され、設定された値である。また、これらの既設建物の用途では、壁の構造等もある程度特定できることから、教師データに外壁の情報等は加えなくてもよい。たとえば、これらの数値は、床振動がし易いとされる用途の順に、大きい数値となるように割り当てられていてもよい。また、本実施形態では、既設建物の用途として、用途情報を入力しているが、たとえば、振動評価点が存在する階または室内の用途を教師データとして用いてもよく、これに加えて、上階の用途を教師データとしてさらに加えてもよい。
【0027】
3-2.床情報
図2に示すように、床情報は、「第1および第2方向の評価領域の長さ」、「床スラブの厚み」、および「床スラブの構造形式に対応付けられた数値」を教師データとして含んでいる。さらに、
図3に示すように、床情報は、「床の階数」および「積載重量」を追加の教師データとしてさらに含んでいてもよい。
【0028】
「第1および第2方向の評価領域の長さ」は、
図5に示すように、既設建物の床スラブ25のうち、評価点Sが含まれる評価領域25Aの長さである。評価領域25Aは、床スラブ25の一部で、平面視が矩形状の領域である。評価領域25Aの周縁は、
図4に示すように大梁21A、21Bで囲まれている。
【0029】
後述するように、大梁21は、第1方向L1に沿った大梁21Aと、第1方向L1に直交する第2方向L2に沿った大梁21Bとがあり、矩形状の評価領域25Aの周縁は、第1方向と第2方向に沿った縁部で構成される。したがって、第1および第2方向A1、A2の評価領域25Aの長さL1、L2を教師データとして用いることにより、床振動が評価される領域が特定することができる。
【0030】
「床スラブの厚み」は、評価領域25Aにおける床スラブ25の厚みである。第1および第2方向A1、A2の評価領域の長さと、床スラブ25の厚みを特定することにより、評価領域の全体形状が特定される。評価領域25Aの全体形状は、床振動に影響が最も大きい因子であるため、全体形状を特定することにより、振動評価点の振動に関する数値の精度を高めることができる。
【0031】
「床スラブの構造形式に対応付けられた数値」では、評価領域25Aにおける床スラブ25の構造形式(たとえば、合成スラブ、コンクリートスラブ、鉄筋コンクリートスラブ)に対応付けられた値である。これらの構造形式により、床スラブの剛性が異なるため、この数値を教師データとして用いることで、より正確な床振動の算出を行うことができる。なお、床スラブ25の各構造形式に対応付けられた数値は、床振動がし易い順(曲げ剛性が高い構造形式順)に、大きい数値となるように割り当てられていてもよい。
【0032】
その他、床情報として、「床の階数」および「積載重量」を追加の教師データとして用いてもよい。「床の階数」は、振動評価がされた建物の階数であり、「積載重量」は、床に載置される設備機器等の重量である。なお、「積載重量」に加えて、積載物が積載される領域の中心座標を、振動評価点の座標と同様の方法で、教師データとして用いてもよい。この他にも、必要に応じて、
図3に示す評価領域25Aの縁部の外壁の有無の壁情報を教示データとして含んでいてもよい。
【0033】
3-3.大梁情報
図2に示すように、大梁情報は、「第1方向の大梁の長さ」、「第1方向の大梁の本数」、「第2方向の大梁の長さ」、「第2方向の大梁の本数」、「大梁の幅」、および「大梁の高さ」を教師データとして含んでいる。
【0034】
「第1方向の大梁の長さ」は、
図4に示すように、第1方向A1に沿った大梁21Aの長さJ1である。「第1方向の大梁の本数」は、第1方向A1に沿った大梁21Aの本数であり、評価領域25Aの内部に存在する大梁21Aの本数も含む。大梁21Aの長さが複数ある場合には、たとえば、これらの平均値を「第1方向の大梁の長さ」としてもよく、異なる長さごとに、その長さと本数を教師データとして用いてもよい。
【0035】
同様に、「第2方向の大梁の長さ」は、
図4に示すように、第2方向A2に沿った大梁21Bの長さJ2である。「第2方向の大梁の本数」は、第2方向A2に沿った大梁21Bの本数である。大梁21Bの長さが複数ある場合には、大梁21Aと同様の方法で、教師データを作成し、これを用いる。
【0036】
「大梁の幅」は、大梁21A、21Bの梁幅であり、および「大梁の高さ」は、大梁21A、21Bの梁成である。本実施形態の「大梁の幅」および「大梁の高さ」が、本発明でいう「大梁の断面サイズ」に相当する。たとえば、大梁21Aおよび大梁21Bの断面サイズが異なる場合には、それぞれのサイズを教師データとして用いてもよい。
【0037】
上述したように、評価領域25Aの平面寸法を特定した上で、大梁21A、21Bの長さおよび本数等と、教師データとして入力することにより、
図4の■で示す柱の位置を特定しなくても、大梁21Aの配置状態の概略が特定できる。さらに、大梁21A、21Bの断面サイズを特定すれば、柱の断面サイズの概要が概ねわかることから、柱の断面サイズを特定しなくてもよい。このようにして、床スラブ25を支持する大梁21A、21Bによる床振動の影響を、機械学習で精度良く学習することができる。
【0038】
3-4.小梁情報
図2に示すように、小梁情報は、「第1方向の小梁の長さ」、「第1方向の小梁の本数」、「第2方向の小梁の長さ」、「第2方向の小梁の本数」、「小梁の幅」、および「小梁の高さ」を教師データとして含んでいる。さらに、
図3に示すように、小梁情報は、「小梁」の「第1方向の小梁の剛接合の本数」および「第2方向の小梁の剛接合の本数」を追加の教師データとしてさらに含んでいてもよい。
【0039】
「第1方向の小梁の長さ」は、第1方向A1に沿った小梁の長さである。「第1方向の小梁の本数」は、第1方向A1に沿った小梁の本数である。本実施形態では、
図4に示すように、第1方向A1に沿った小梁は存在しないため、この場合には、この値にたとえば、「0」を入力する。
【0040】
「第2方向の小梁の長さ」は、
図4に示すように、第2方向A2に沿った小梁22の長さj2である。「第2方向の小梁の本数」は、第2方向A2に沿った小梁22の本数である。小梁22の長さが複数ある場合には、大梁21Aと同様の方法で、教師データを作成し、これを用いる。このように、各方向の小梁22の長さと本数を教師データとして特定すれば、各方向の大梁21A、21Bの長さの相関関係から、小梁22の配置される位置が特定されるため、最小限の入力情報で、評価領域25Aを支持する梁構造を概ね特定することができる。
【0041】
「小梁の幅」は、小梁22の梁幅であり、および「小梁の高さ」は、小梁22の梁成である。本実施形態の「小梁の幅」および「小梁の高さ」が、本発明でいう「小梁の断面サイズ」に相当する。たとえば、小梁22の断面サイズが異なる場合には、それぞれのサイズを教師データとして用いてもよい。
【0042】
さらに、
図3に示すように、既設建物の構造形式が、鉄骨造である場合には、小梁情報は、「第1方向の小梁の剛接合の本数」および「第2方向の小梁の剛接合の本数」を追加の教師データとしてさらに含んでいてもよい。各方向の小梁の剛接合の本数をさらに特定することにより、床振動に影響が大きい梁の接合形式を特定することになるため、振動評価点の振動に関する数値を算出することができる。
【0043】
3-5.評価点情報
評価点情報は、
図5に示すように、平面視において評価領域25Aの中央を中心C(座標(0、0)として、第1および第2方向を直交座標系とした振動評価点Sの座標(X、Y)を含む評価点情報である。このような評価点情報を設定することにより、以下に示す間仕切り壁60A(60B)の位置を正確に特定することができる。なお、本実施形態では、評価領域25Aの長手方向に沿った方向を第1方向A1とし、短手方向に沿った方向を第2方向A2としたが、すべての教師データおよび対象建物の入力データで、これらの方向を同じ方向に統一しておくことが好ましい。
【0044】
3-6.間仕切り壁情報
図2に示すように、間仕切り壁情報は、「第1方向の間仕切り壁の幅」、「第1方向の間仕切り壁の中央座標」、「第2方向の間仕切り壁の幅」、および「第2方向の間仕切り壁の中央座標」を教師データとして含んでいる。さらに、
図3に示すように、間仕切り壁情報は、「間仕切り壁の構造に対応した数値」を追加の教師データとしてさらに含んでいてもよい。さらに、間仕切り壁情報は、「間仕切り壁の構造」の種類とともにこの種類に応じた「間仕切り壁情報1~3」を含んでいてもよい。
【0045】
「第1方向の間仕切り壁の幅」および「第2方向の間仕切り壁の幅」は、第1および第2方向に沿った、評価領域25Aに立設した間仕切り壁60Aの幅G1、G2である。「第1方向の間仕切り壁の中央座標」および「第2方向の間仕切り壁の中央座標」は、第1および第2方向に沿った間仕切り壁60Aの幅方向の中央g1、g2の座標(x1、y1)、(x2、y2)である。ここで、間仕切り壁60Aの幅方向の中央g1、g2の座標(x1、y1)、(x2、y2)は、評価点情報における振動評価点Cの座標系と同じ座標系における座標である。
【0046】
このように、各方向における間仕切り壁60Aの幅と、幅方向の中央の座標と、を特定することにより、間仕切り壁60Aの配置範囲ばかりでなく、振動評価点Cと間仕切り壁60Aとの位置関係も特定することができる。なお、第1または第2方向A1、A2の各方向に、複数の間仕切り壁60Aが存在する場合には、同様の方法で、教師データを作成すればよい。
【0047】
「既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値」は、
図6(a)に示すランナ61とスタッド62を備えた軽量鉄鋼骨下地69に、下地板63が取り付けられた構造、
図6(b)に示す建物の躯体65に取付け金具68を介してALCボード66が取り付けられた構造、または煉瓦、コンクリートブロックなどによる組積造等に対応した数値である。「既設建物の間仕切り壁の構造に対応した数値」は、床振動に影響が大きい順にこれらの数値を設定してもよい。
【0048】
図6(a)に示す間仕切り壁60Aの構造の場合には、「ランナ61の幅B1」および「ランナ61の板厚」を仕切り壁の情報の教師データとして用いてもよい(
図3の間仕切り壁情報1参照)。「ランナ61の幅B1」は、ランナ61の長手方向と直交する方向の最大の幅である。「ランナ61の板厚」は、コの字状に屈曲させたランナ61の肉厚である。
【0049】
図6(b)に示す間仕切り壁60Bの構造の場合には、教師データとなる既設建物の間仕切り壁情報に、「既設建物のALCボードの厚さ」および「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の有無に対応する数値」を用いてもよい(
図3の間仕切り壁情報2参照)。「既設建物のALCボード66の厚さ」は、ALCボード66そのものの厚さである。「ALCボード66を支持する間柱67または耐風梁(図示せず)の有無に対応する数値」は、たとえば無「0」、有「1」で割り当ててもよい。
【0050】
さらに、間仕切り壁の構造が、組積造(図示せず)である場合には、教師データとなる既設建物の間仕切り壁情報に、「間仕切り壁内の補強鉄筋の有無に対応した数値」を用いてもよい(
図3の間仕切り壁情報3参照)。
【0051】
間仕切り壁情報1~3の各情報は、いずれも、床振動に影響を与える可能性があるため、これらの情報を教師データとして用いることにより、振動評価点の振動に関する数値をより正確に算出することができる。
【0052】
3-7.外力情報
外力情報は、床スラブ25の評価領域25Aに付与される外力の条件である。たとえば評価領域25Aにおいて、特定の人数の人が、飛び跳ね、歩行、小走り、かかと衝撃動作、またはエアロビクス屈伸運動などを行った際に、これらの条件に対応する数値である。たとえば、これらの数値は、床振動がし易いとされる用途の順に、大きい数値となるように割り当てられていてもよい。
【0053】
3-8.振動評価情報
外力情報における外力の付与時の振動評価点Sの振動に関する実測値を含む。振動評価情報は、既設建物の振動評価点における、「振動の知覚確率」、「鉛直方向の応答加速度」、「固有振動数」、および「減衰定数」の少なくとも1つの実測値を含む。
【0054】
たとえば、外力情報における外力付与時に、「振動の知覚確率」は、
図7に示す応答加速度と振動数の関係を、加速度センサーで測定したグラフから、知覚確率を特定する基準線V10~V90を超えた最大値である。したがって、
図7に示す場合には、振動の知覚確率は、70となる。「鉛直方向の応答加速度」は、外力情報における外力付与時に、振動測定点で測定した応答加速度の最大値であり、「固有振動数」および「減衰定数」は、その測定した振動波形から得られる値である。なお、「振動の知覚確率」および「鉛直方向の応答加速度」は、
図7に示す周波数ごとに、その実測値を教師データとして用いてもよい。
【0055】
4.ニューラルネットワーク
図2に示す情報を教師データとし、必要に応じて
図3に示す情報を教師データとして、対象建物に対応する振動評価点の振動に関する数値の算出を機械学習により学習する。
【0056】
本実施形態では、演算装置10Aは、これまでに建設された既設建物A、B、C、…の入力値に対して算出される出力値が、各既設建物A、B、C、…で、外力の付与時の振動評価点の振動に関する実測値に収束するように、振動評価点の振動に関する数値の算出を機械学習する。
【0057】
この学習は、例えば、
図2および
図3に示す個数に応じた変数からなる所定の数式に対して、各変数に乗じられる補正係数を、繰り返し補正することにより行ってもよい。本実施形態では、
図8および
図9に示すように、演算装置10Aは、ディープニューラルネットワーク((DNN):以下「ニューラルネットワーク」という)を備えており、ニューラルネットワーク11は、
図2に示す対象建物に対応する用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報から、対象建物に対応する振動評価点の振動に関する数値を算出するものである。
【0058】
本実施形態では、ニューラルネットワーク11は、入力層11Aを有している。入力層11Aは、既設建物A、B、C…に対して、用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報が入力される層である。なお、教師データに、
図3に示す情報をさらに入力値として用いてもよい。入力層11Aは、用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報の入力値の個数に合わせた複数の入力層ニューロン素子11aで構成される。入力層11Aの入力層ニューロン素子11aは、入力する条件データの個数に応じて、増減することができ、この増減による入力されるデータの個数に応じたニューラルネットワーク11のモデルが構築される。
【0059】
ニューラルネットワーク11は、出力層11Eを有している。出力層11Eは、振動評価点の振動に関する数値を出力する1つの出力層ニューロン素子11eで構成される。ここで、出力層ニューロン素子11eから出力される、振動評価点の振動に関する数値は、振動の知覚確率であるが、たとえば、上述した複数の振動評価点の振動に関する数値を求めたい場合には、出力層11Eは、この個数に応じた出力層ニューロン素子11eが構成される。
【0060】
ニューラルネットワーク11は、3つの中間層11B、11C、11Dを有している。3つの中間層11B、11C、11Dは、入力層11Aと出力層11Eとの間に設けられている。各中間層11B、11C、11Dは、これらの素子に直接的または間接的に結合された複数の中間層ニューロン素子11b、11c、11dを含む。
【0061】
なお、本実施形態では、中間層が3つの層で構成されるが、たとえば、中間層が、1つの層、2つの層、または4つ以上の層で構成されていてもよく、中間層が3つの層に限定されるものではない。さらに、各中間層11B、11C、11Dを構成する中間層ニューロン素子11b、11c、11dは、入力層ニューロン素子11aの個数に応じた個数であるが、入力されるデータ数に応じて、入力層ニューロン素子11aの個数を変化させてもよく、入力されるデータ数と異なる個数の中間層のニューロン素子を、各中間層が備えてもよい。
【0062】
中間層11B、11C、11Dは、入力層11A側の同じ層にあるニューロン素子のニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行い、その演算結果を、出力層11E側のニューロン素子に出力するものである。具体的には、中間層ニューロン素子11b、11c、11dおよび出力層ニューロン素子11eは、入力層ニューロン素子11aまたは入力層11A側の中間層ニューロン素子11b、11c、11dから入力されるニューロンパラメータの値を用いて、所定の演算を行う。
【0063】
具体的には、演算を実行する中間層ニューロン素子11b、11c、11dと、出力層ニューロン素子11eは、それぞれ所定の活性化関数を有しており、入力されたデータ(パラメータの値)をその活性化関数に代入することにより、ニューロンパラメータの値を演算する。たとえば、中間層11Bの各中間層ニューロン素子11bは、各入力層ニューロン素子11aの入力値がニューロンパラメータの値として入力され、活性化関数により、入力層ニューロン素子11aごとのニューロンパラメータの値が演算される。
【0064】
この際、各中間層11B、11C、11Dの中間層ニューロン素子11b、11c、11dで出力されるニューロンパラメータの値は、その素子内において、活性化関数により演算されたニューロンパラメータの値に対して、重み付け係数が乗算されることで算出され、出力層ニューロン素子11eまたは出力層11E側の中間層ニューロン素子11c、11dに出力される。
【0065】
本実施形態では、出力層ニューロン素子11eで出力された既設建物A、B、C、…の振動の知覚確率が、既設建物A、B、C、…の実際の振動の知覚確率(実測値)に対して予め設定した範囲内に収束するまで、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dのニューロンパラメータの値に乗算される重み付け係数を繰り返し補正する。このようにして、本実施形態では、機械学習により、振動の知覚確率(振動評価点の振動に関する数値)を出力値の算出(方法)を予め学習することができる。以上の学習により、複数の建設地点P1、P2、P3、…における用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報を教師データとして、演算装置10Aで機械学習が実行され、任意の対象建物の情報から、その対象建物の振動の知覚確率を算出するモデルが構築される。
【0066】
なお、本実施形態では、中間層ニューロン素子11b、11c、11dにおいて、活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を、各中間層ニューロン素子11b、11c、11dに設けたが、これに加えて、出力層ニューロン素子11eにもさらに活性化関数により算出されたニューロンパラメータの値に対して乗算される重み付け係数を設けてもよい。
【0067】
このようにして構築されたモデルのプログラムは、演算装置20Aにインストールされ、利活用時に、演算装置20Aは、
図9に示すように、対象建物に対応する用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報から、対象建物に対応する振動評価点の振動に関する数値を算出する。
【0068】
本実施形態によれば、演算装置20Aは、既設建物の用途情報、床情報、大梁情報、小梁情報、評価点情報、間仕切り壁情報、および外力情報を教師データとし、さらに、この既設建物において、振動評価点の振動に関する実測値を教師データとして、対象建物に対応する振動評価点の振動に関する数値の算出が機械学習されたものである。このように、実測値を利用した機械学習であるので、これまでの解析では、正確に予測できなかった振動評価点における振動に関する数値を、より簡単な入力条件で算出することができる。特に、振動評価点の座標と、間仕切り壁の長さおよび中央の座標を特定することにより、振動に対する間仕切り壁の影響をより正確に把握することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0070】
1:床振動予測システム、25:床スラブ、25A:評価領域、21A、21B:大梁、22:小梁、60A、60B:間仕切り壁、11:ニューラルネットワーク、A1:第1方向、A2:第2方向、S:振動評価点