(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
F16D7/02 F
(21)【出願番号】P 2020080951
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】598102546
【氏名又は名称】南真化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】板橋 昭男
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-010060(JP,A)
【文献】特開2012-097798(JP,A)
【文献】特開2007-182990(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150890(WO,A1)
【文献】特開2013-145029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00-9/10,11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にコイルバネが巻回、保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設され、前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材とコイルバネとの摩擦力によって、前記内輪部材と外輪部材との間で所定のトルクを発生させるトルクリミッタにおいて、
前記内輪部材は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されて
おり、
前記充填材は、合計で15~60重量%であり、
前記カーボン繊維は5~30重量%、前記ポリテトラフルオロエチレンは5~20重量%、前記グラファイトは5~20重量%添加されていることを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記コイルバネは、設定トルクが500gf・cm以上となるものが内輪部材に巻回され、トルクリミッタとしての全体の外径は、20mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に伝達される回転、又は、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを所定値以下に制限するトルクリミッタに関し、詳細には、内輪部材に特徴を備えたトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にトルクリミッタは、回転伝達機構において、ある一定値を超える大きなトルクが作用したときに、そのトルクの伝達を遮断するものであり、例えば、プリンタや複写機等の電子情報機器の用紙搬送機構のローラ部分に設置されている。このようなトルクリミッタは、機械的な摩擦によって回転トルクを得る接触式のものがあり、内輪部材(ボビンとも称される)と、この内輪部材の外周に締まり嵌めされるコイルバネと、コイルバネの一端部を固定し、前記内輪部材を覆う外輪部材(ケース部材)とを備えたものが知られている。また、トルクリミッタには、一方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限する以外にも、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限するものが知られている。
【0003】
従来のトルクリミッタに用いられる内輪部材は、例えば、特許文献1に開示されているように、焼結メタル、又は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、更には、ポリエキシメチレン樹脂(POM)のような樹脂材によって成型することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、トルクリミッタには、小型・高トルク・高耐久性で、高品質の要求が高まっており、特に、内輪部材には、コイルバネが巻回されて大きな摩擦力(トルク)が作用することから、高品質化するに際して、コイルバネが巻回される内輪部材の構成材料が重要となる。内輪部材を上記したような樹脂材や焼結メタルで形成すると、ある程度の性能を発揮することはできるが、特に外径が20mm以下で、約500gf・cmよりも高いトルクが作用するトルクリミッタでは、十分な性能を発揮することはできない。具体的に、樹脂材料の内輪部材は、耐久性が十分ではなく、金属製では、焼結メタルや鋼材に硬化処理や平滑化、摺動性向上のためのメッキやコーティングを施したものがあるが、高トルクでは変動が大きくなってしまい、十分な性能を発揮することはできない。また、途中で潤滑剤を補給することができないことから、摩耗によってトルクが変動し、長期に亘って一定の品質を維持することは難しい。
【0006】
本発明は、上記した問題に基づいて成されたものであり、小型で高トルク型であっても、耐久性が良く、摺動特性の良いトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明は、外周面にコイルバネが巻回、保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設され、前記コイルバネの端部が固定される外輪部材と、を備え、前記内輪部材とコイルバネとの摩擦力によって、前記内輪部材と外輪部材との間で所定のトルクを発生させるトルクリミッタにおいて、前記内輪部材は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加されて構成されている、ことを特徴とする。
【0008】
上記した構成のトルクリミッタの内輪部材は、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材が添加された複合材で構成されている。ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKとも称する)やポリフェニレンサルファイド(以下、PPSとも称する)は、内輪部材を樹脂材で形成する場合、一般的に用いられる材料であるが、ここに上記した充填材を添加することで、耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになる。すなわち、本発明者は、樹脂の単一材料によって内輪部材を形成するのではなく、ある特定の材料(充填材)を添加した複合材で内輪部材を形成することで、耐久性(耐摩耗性)の向上及び摺動特性について向上が図れることを見出し、本発明を着想するに至ったのである。基材とされるPEEK、或いは、PPSに添加される材料の内、カーボン繊維(以下、CFとも称する)は、主に強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与すると共に、摺動特性の向上に寄与する。また、添加される材料の内、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEとも称する)及びグラファイトは、摺動性の向上に寄与するが、前者は、特に低摩擦性において良好な特性を備え、後者は、高トルクによる摩擦熱、コイルバネの圧力増加に対し、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性において良好な特性を備えており、これらが機能補完して性能の安定化が図れるようになる。
【0009】
基材としては、上記したPEEK以外にも、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSとも称する)、ポリイミド(以下、PIとも称する)等を用いることも可能であるが、後述する性能試験を実施したところ、基材としては、PEEKが最も優れた特性を発揮することができた。このため、そのような基材に上記の充填材を備えた複合材で内輪部材を形成すると、トルクリミッタを小型化し、高トルク型に構築しても、耐久性及び摺動特性に優れたトルクリミッタを構成することが可能となる。なお、基材としては、ポリフェニレンサルファイドを用いても、ある程度の効果を期待することは可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型で高トルク型であっても、耐久性が良く、摺動特性の良いトルクリミッタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示す断面図。
【
図2】基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図3】基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは600gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図4】基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図5】基材をPPSとし、充填材をCF及びPTFEにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図6】基材をPPSとし、充填材をCF及びPTFEにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは600gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図7】基材をPPSとし、充填材をCF、PTFE及びグラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図8】基材をPEEKとし、充填材が混入されていない内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは750gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図9】基材をPEEKとし、充填材をCF、PTFE及びグラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図10】基材をPEEKとし、充填材をCF、PTFE及びグラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図11】基材をPIとし、充填材をCF、PTFE及びグラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図12】基材をPIとし、充填材をCF、PTFE及びグラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは850gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【
図13】焼結メタルで形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るトルクリミッタの実施形態について説明する。
図1は、トルクリミッタの一構成例を示した断面図である。
【0013】
図1に示すトルクリミッタは、一方向にトルクを伝達する構成であり、円筒状に形成された内輪部材(ボビン)10と、内輪部材10を覆うようにして装着されるキャップ状に形成された外輪部材20と、内輪部材10の外周面に装着されるコイルバネ30と、を備えている。
【0014】
前記コイルバネ30の一端30aは外輪部材20に固定されており、外輪部材20に一方向の回転トルクが発生した場合、コイルバネ30は締め付けられて内輪部材10と外輪部材20は固定される(ロック状態)。また、外輪部材20に反対方向の回転トルクが発生した場合、コイルバネ30は固定端から径方向に緩む状態となり、内輪部材10とコイルバネ30との間でスリップ摩擦が生じて一定のトルクを発生させる(動力伝達状態)。すなわち、図に示すトルクリミッタ1は、一方向の回転については固定(ロック状態)になり、逆方向の回転については、内輪部材10と外輪部材20との間で一定トルクの動力伝達として働く。
【0015】
なお、本発明に係るトルクリミッタは、上述したように、内輪部材10の構成材料に特徴があり、
図1に示したトルクリミッタは、本発明が適用可能な一構成例として示したものである。このため、内輪部材10、外輪部材20、コイルバネ30の構成、配置、動力伝達のON/OFFの切り換えのための具体的手段、片方向や双方向等については、特定の構成に限定されるものではない。
【0016】
次に、
図1に示すトルクリミッタ1について、内輪部材10の構成素材を変更して行なった性能試験(耐久試験)について説明する。
試験に用いたトルクリミッタは、設定トルク(内輪部材10に巻回されるコイルバネ30のバネ力によって設定したトルクを生じさせる)を変えたものを複数種類準備し、これを公知のトルク試験機に設置して、耐久性及びトルクの変動について試験を行なった。高トルク特性の評価は、設定トルクが600gf・cm以上の試験において、耐久性、トルク変動の結果で判断するものとし、どのような内輪部材を用いれば良いか(樹脂製の基材に対して、どのような充填材を加えれば良いか)について、評価試験を行なった。
以下の試験では、いずれも外径が15mm又は14mmのトルクリミッタで、効果が発揮されると考えられる設定トルクが500gf・cm以上のものを準備して行なった。
【0017】
上記したように、従来のトルクリミッタは、内輪部材として焼結金属を用いること、或いは、POM,PPS,PEEK等の樹脂を用いることが知られているが、このような樹脂材に所定の特性を有する充填材を混入して複合材とし、この複合材で内輪部材を形成することで、通常の樹脂材、更には、焼結金属材に対して、耐久性、変動特性、高トルク化に適した構成にすることが可能と考えられる。この場合、基材に対して、単一の充填材を加えることが考えられるが、基材との相性、充填材の特性、及び、複合材としての総合的な性能などを考慮すると、基材に対しては、複数種類の充填材を加えることが好ましいと考えられる。例えば、CFは、主に強度、耐摩耗性の向上(耐久性の向上)に寄与すると考えられるが、添加量が多すぎると摩擦相手材のコイルバネに摩耗が生じて耐久性が低下し、また単独では摺動特性の向上に十分ではない。このため、更に摺動性の向上に寄与するPTFEやグラファイトを加えることが考えられる。ただし、PTFEは、特に低摩擦性において良好な特性を備えるものの、耐熱性や耐荷重性においては安定性に欠けることから、これを補完するために、PTFEだけではなく、更に、耐熱性や耐荷重、耐摩耗性が良好なグラファイトも添加することが好ましいと考えられる。
【0018】
以下、基材に対して、どのような充填材を加えるのが良いか、について行った評価試験(耐久テスト)について説明する。
図2から
図13は、横軸を累積回転数とし、縦軸にスリップトルクの変動状況(実線で左側のスケールに対応)、及び、リップル(鎖線で右側のスケールに対応)の変動状況を示したグラフである。具体的には、試験片となるトルクリミッタの外輪部材に回転を付与し続けた際の内輪部材の回転状況について評価したものである(試験では複数の回転数にて測定したが、特性を代表する条件:200rpmに統一し比較している)。
【0019】
一般に、累積回転数が増える程、伝達されるトルクは低下するが、耐久性については、初期値に対するプラスマイナスの変化率で評価することが可能である。これは試験片やコイルバネの特性、使用環境(試験環境)等によって変わるが、累積回転数が増える程、摩耗等の要因により変化率はマイナスになるものと思われる。また、リップルは、一定の累積回転数毎に、回転周期で変位している最大トルクと最小トルクの差を検出したものであり、この変動率によって変動特性(摺動性)を評価することが可能である。
本発明では、耐久性、摺動性(変動特性)、高トルク適性について、それぞれ4段階(◎、〇、△、×)で評価している。
【0020】
耐久性については、トルク平均変動値を取得し、初期値に対する変化率が±3%以下を(◎)とし、変化率が±6%以下を(〇)とし、変化率が±12%以下を(△)とし、変化率が±12%より大きいか、500万回転をクリアできないものについては(×)と評価した(実際の使用を考慮した耐久性を考慮すると、500万回転以上をクリアするのが好ましい)。
【0021】
変動特性(摺動性;リップル)については、回転周期で変位している最大トルクと最小トルクの差(最大変動幅)の変異率で評価しており、寿命範囲内において、4%以下を(◎)とし、8%以下を(〇)とし、12%以下を(△)とし、12%より大きいものについては(×)と評価した。
【0022】
また、高トルク適性については、設定トルクが600gf・cm以上のものについて評価することとし、上記の耐久性及び変動特性で得られた評価について、両方とも◎であれば(◎)と評価し、両方が〇以上であれば(〇)と評価し、両方が△以上であれば(△)と評価し、いずれか×となれば(×)と評価した。
以下、
図2~
図13を参照して、評価試験の結果(グラフ)について説明すると共に、
図14を参照して、評価結果について説明する。
【0023】
図2(ア)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)を用意し、トルクリミッタの耐久テストの結果を示したグラフである。
【0024】
この試験片では、トルクの変化率は-10.3%、変動特性の変異率は5.7%であり、上記した評価基準では、耐久性は(△)、変動特性は(〇)との結果が得られた。
【0025】
図3(イ)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは600gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-10.4%、変動特性の変異率は4.7%であり、上記した評価基準では、耐久性は(△)、変動特性は(〇)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(△)との結果が得られた。
【0026】
図4(ウ)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCFにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、累積回転数が150万回程度でトルクが急激に低下してしまい、耐久テストそのものが行なえなくなってしまい、トルクの変化率は計測不能、変動特性の変異率は7.7%であった。上記した評価基準では、耐久性は(×)、変動特性は(〇)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(×)との結果が得られた。
【0027】
以上の(ア)~(ウ)の耐久テストによれば、基材をPPSとし、CFを添加しただけの内輪部材では、耐久性及び摺動特性が良好な高トルク型には向かないという結果が得られた。
【0028】
図5(エ)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCFとPTFEにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-6.8%、変動特性の変異率は8.0%であり、上記した評価基準では、耐久性及び変動特性は、ともに(〇)との結果が得られた。
【0029】
図6(オ)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCFとPTFEにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは600gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-17.8%、変動特性の変異率は11.4%であり、上記した評価基準では、耐久性は(×)、変動特性は(△)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(×)との結果が得られた。
【0030】
以上の(エ)(オ)の耐久テストによれば、基材をPPSとし、CF及びPTFEを添加した内輪部材では、耐久性及び摺動特性が良好な高トルク設定には向かないという結果が得られた。
【0031】
図7(カ)の耐久テストは、基材をPPSとし、充填材をCF、PTFE、グラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-3.9%、変動特性の変異率は6.4%であり、上記した評価基準では、耐久性は(〇)、変動特性は(〇)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(〇)との結果が得られた。
【0032】
上記した耐久テストによれば、基材をPPSとし、CF、PTFE、グラファイトを添加した内輪部材では、耐久性及び摺動特性が良好であり、高トルク型として適するという結果が得られた。すなわち、後述する基材をPEEKにした場合ほどではないが、高トルク型としてある程度、良好な結果を得ることができた。
【0033】
図8(キ)の耐久テストは、基材をPEEK(充填材無し)で内輪部材を形成したトルクリミッタ(設定トルクは750gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-17.5%、変動特性の変異率は6.6%であり、上記した評価基準では、耐久性は(△)、変動特性は(〇)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(△)との結果が得られた。このように、樹脂材料のみで内輪部材を形成した従来のトルクリミッタでは、高トルク型に設定すると、耐久性及び摺動特性が十分ではないという結果となった。
【0034】
図9(ク)の耐久テストは、基材をPEEKとし、充填材をCF、PTFE、グラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は+2.9%/-1.8%、変動特性の変異率は3.6%であり、上記した評価基準では、耐久性、変動特性ともに(◎)との結果が得られた。また、設定トルクが500gf・cmであり、高トルク設定ではないが、トルク特性も良い結果となった。
【0035】
図10(ケ)の耐久テストは、基材をPEEKとし、充填材をCF、PTFE、グラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は+2.4%/-2.2%、変動特性の変異率は2.9%であり、上記した評価基準では、耐久性、変動特性共に(◎)との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から(◎)との結果が得られた。なお、この試験片では、累積回転数が500万回を超えて1000万回に達しても、耐久性、変動特性ともに良好な結果が得られた。
【0036】
以上の(キ)~(ケ)の耐久テストによれば、基材をPEEKとした場合において、CF、PTFE、グラファイトを添加した内輪部材にすることで、耐久性及び摺動特性が良好であると共に、高トルク型として最適な結果が得られた。すなわち、基材がPPSの場合よりも、PEEKとした方が、上記した3種類の充填材としての相性が良く、小型で高トルク型のトルクリミッタとして良好な結果が得られた。
【0037】
図11(コ)の耐久テストは、基材をPIとし、充填材をCF、PTFE、グラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは500gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-6.1%、変動特性の変異率は11.8%であり、上記した評価基準では、耐久性、変動特性共に△との結果が得られた。
【0038】
図12(サ)の耐久テストは、基材をPIとし、充填材をCF、PTFE、グラファイトにして形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは850gf・cmで高トルク設定)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、累積回転数が130万回で試験片が破損したため、途中で実験を中止した。累積回転数が130万回までのトルクの変化率は-8.1%、変動特性の変異率は6.4%であり、上記した評価基準では、耐久性は(△)、変動特性は(〇)との結果が得られた。また、その結果から今後の推移を予測して高トルク特性については(△)との結果が得られた。
【0039】
以上の(コ)(サ)の耐久テストによれば、基材をPIとした場合において、CF、PTFE、グラファイトを添加した内輪部材にしても、基材がPEEKにしたほどの効果が得られなかった。
【0040】
図13(シ)の耐久テストは、従来の焼結メタルで形成された内輪部材を有するトルクリミッタ(設定トルクは800gf・cm)についての耐久テストの結果を示すグラフである。
この試験片では、トルクの変化率は-11.3%、変動特性の変異率は9.3%であり、上記した評価基準では、耐久性、変動特性共に△との結果が得られた。また、高トルク特性については、耐久性の結果、及び、変動特性の結果から△との結果が得られた。
【0041】
このように、従来のトルクリミッタについて、内輪部材を焼結メタルにして高トルク型にしても、耐久性及び変動特性については、良好な結果が得られなかった。
【0042】
図14は、
図2から
図13に示した耐久テストの結果をまとめた一覧表である。
この一覧表から明らかなように、充填材として、CF、PTFE、グラファイトを添加する場合、その基材についてはPEEKにすることが好ましく、このような複合材によれば、耐久性、変動特性に優れ、高トルク型に適したトルクリミッタが得られる(
図10のケ参照)。なお、同様な充填材にした場合において、基材としてPPSを用いても、焼結メタルよりも良い結果を得ることが可能である(
図7のカ参照)。
【0043】
上記した充填材の添加量については、特に限定されることはないが、実験結果を総合して、充填材の合計含有量を60重量%以下、また下限については、各充填材の性能が発揮できるように10重量%程度(最低含有量を5重量%程度)にすることが好ましい。
【0044】
上記した充填材について、CFは短繊維状のものであり、専ら基材の強度、耐摩耗性(耐久性)の向上に寄与する。また、PTFE及びグラファイトは、潤滑性(摺動性)の向上に寄与するが、PTFEは、分子間凝集力が小さく低摩擦性に優れており、グラファイトは炭素の層状間での滑りにより、低摩擦特性に加え、耐熱性、耐荷重性、耐摩耗性が高く、相互に機能補完し合う関係となっている。
【0045】
このため、上記した3つの充填材については、合計の含有量の上限を60重量%として、各充填材の機能バランスを考慮して、CFは5~30重量%、PTFE及びグラファイトは5~20重量%にすることが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 トルクリミッタ
10 内輪部材
20 外輪部材
30 コイルバネ