(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】舵制御装置及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 25/04 20060101AFI20240305BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240305BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B63H25/04 G
B63B79/40
F02D29/02 A
(21)【出願番号】P 2020083473
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020012069
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】川谷 聖
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146798(WO,A1)
【文献】特開2011-098723(JP,A)
【文献】特開2012-057523(JP,A)
【文献】特開2012-077648(JP,A)
【文献】特開昭61-119493(JP,A)
【文献】特開2003-226292(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0313397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00-85/00
B63J 1/00-99/00
B63H 1/00-25/52
F02D 29/00-29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラと、前記プロペラに回転動力を伝達することで船舶を推進させるためのエンジンと、前記船舶を旋回させるための舵機と、前記船舶が指定航路を航行するように前記舵機の目標舵角値の指令を出力する旋回指令部と、を備える前記舵機を制御する舵制御装置であって、
前記船舶が前記指定航路を航行する間の所定タイミングにおける外乱によって生じる前記エンジンの負荷を予測し、予測された前記エンジンの負荷の基準負荷に対する負荷変動量を算出する予測部と、
前記負荷変動量に基づいて、前記エンジンの燃費を減らすように前記目標舵角値を補正する補正部と、
補正された前記目標舵角値に従って前記舵機を制御する舵制御部と、を備える、舵制御装置。
【請求項2】
プロペラと、前記プロペラに回転動力を伝達することで船舶を推進させるためのエンジンと、前記船舶を旋回させるための舵機と、前記船舶が指定航路を航行するように前記舵機の目標舵角値の指令を出力する旋回指令部と、を備える前記舵機を制御する舵制御装置であって、
前記船舶が前記指定航路を航行する間の所定タイミングにおける外乱によって生じる前記エンジンの負荷を予測し、予測された前記エンジンの負荷の基準負荷に対する負荷変動量を算出する予測部と、
前記負荷変動量に基づいて、前記エンジンの
単位時間当たりの燃料消費量を減らすように前記目標舵角値を補正する補正部と、
補正された前記目標舵角値に従って前記舵機を制御する舵制御部と、を備える、舵制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記予測部で予測した前記エンジンの負荷変動量を打ち消すように舵角を補正する、請求項1又は2に記載の舵制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記エンジンの負荷が前記所定タイミングで前記基準負荷に対して増加すると予測される場合には、前記所定タイミングにおいて前記目標舵角値を前記負荷変動量に基づいて小さくするよう補正する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記エンジンの負荷が前記所定タイミングで減少すると予測される場合には、前記所定タイミングにおいて前記目標舵角値を前記負荷変動量に基づいて大きくするよう補正する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項6】
前記基準負荷は、現在のエンジンの負荷である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項7】
前記補正部は、前記予測部で予測した前記エンジンの負荷変動量が一定の範囲内になるように舵角を補正する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項8】
前記補正部は、現在の舵角値に対する前記目標舵角値の変化量が舵角閾値以上の場合、前記舵角閾値未満の場合と比較して前記目標舵角値の補正量を小さくする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項9】
前記エンジンの負荷が負荷閾値未満である場合、前記舵制御部は、補正されていない前記目標舵角値に従って舵角を制御する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項10】
現在のエンジントルク、現在のエンジン回転数、及び前記エンジンへの燃料噴射量に基づいて現在の燃費を算出する燃費算出部と、
前記現在のエンジン回転数を維持したときの前記所定タイミングにおける燃費を、前記負荷変動量に基づいて予測する燃費予測部と、を備え、
前記補正部は、前記現在の燃費と前記燃費予測部の予測結果に基づいて前記目標舵角値を補正する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項11】
前記船舶の現在位置を取得する位置取得部と、
前記船舶の現在位置の前記指定航路に対するずれ量を算出するずれ量算出部と、を備え、
前記補正部は、前記ずれ量が所定の閾値以上の場合、前記目標舵角値の補正量を小さくする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項12】
前記所定タイミングにおいて、補正された前記目標舵角値で前記舵機を制御した場合の前記船舶の位置を予測する位置予測部と、
予測された前記船舶の位置の前記指定航路に対するずれ量を予測するずれ量予測部と、を備え、
前記補正部は、前記ずれ量が所定の閾値以上の場合、前記目標舵角値の補正量を小さくする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項13】
前記予測部は、前記所定タイミングにおける前記目標舵角値に基づいて前記舵機を制御することで生じる前記エンジンの負荷を予測し、外乱によって生じる前記エンジンの負荷と、前記舵機を制御することで生じる前記エンジンの負荷と、に基づいて、前記負荷変動量を算出する、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項14】
前記予測部は、海象情報及び気象情報の少なくとも一方に基づいて、前記外乱によるエンジンの負荷を予測する、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項15】
前記船舶は、操作者からの舵角指令値が入力される舵角指令入力部を備え、
前記舵制御部は、前記舵角指令入力部に舵角指令が入力された場合、前記舵角指令に従って前記舵機を制御し、前記舵角指令入力部に前記舵角指令が入力されない場合、補正された前記目標舵角値に従って前記舵機を制御する、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の舵制御装置。
【請求項16】
プロペラと、前記プロペラに回転動力を伝達することで船舶を推進させるためのエンジンと、前記船舶を旋回させるための舵機と、前記船舶が指定航路を航行するように前記舵機の目標舵角値の指令を出力する旋回指令部と、を備える前記舵機を制御する舵制御装置であって、
前記船舶が前記指定航路を航行する間の所定タイミングにおける外乱によって生じる前記エンジンの負荷を予測し、予測された前記エンジンの負荷の基準負荷に対する負荷変動量を算出する予測部と、
前記負荷変動量に基づいて、前記エンジンの負荷が前記所定タイミングで前記基準負荷に対して増加すると予測される場合には、前記所定タイミングにおいて前記目標舵角値を前記負荷変動量に基づいて小さくする、及び、前記エンジンの負荷が前記所定タイミングで減少すると予測される場合には、前記所定タイミングにおいて前記目標舵角値を前記負荷変動量に基づいて大きくするよう補正する、の少なくともいずれか一方を実行する補正部と、
補正された前記目標舵角値に従って前記舵機を制御する舵制御部と、を備える、舵制御装置。
【請求項17】
プロペラと、
前記プロペラに回転動力を伝達することで船舶を推進させるためのエンジンと、
前記船舶を旋回させるための舵機と、
前記船舶が指定航路を航行するように前記舵機の目標舵角値の指令を出力する旋回指令部と、
前記舵機を制御する舵制御装置とを備え、
前記舵制御装置は、
前記船舶が前記指定航路を航行する間の所定タイミングにおける外乱によって生じる前記エンジンの負荷を予測し、予測された前記エンジンの負荷の基準負荷に対する負荷変動量を算出する予測部と、
前記負荷変動量に基づいて、前記エンジンの燃費を減らすように前記目標舵角値を補正する補正部と、
補正された前記目標舵角値に従って前記舵機を制御する舵制御部と、を備える、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舵制御装置及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶の燃費を向上させるために様々な技術が提案されている(例えば特許文献1)。特許文献1には、可変ピッチプロペラに流入する海水の流入速度を予測し、予測結果に基づいて可変ピッチプロペラの翼角を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1とは異なる方法によりエンジンの負荷の変動を抑制して船舶の燃費を向上させる技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、プロペラと、プロペラに回転動力を伝達することで船舶を推進させるためのエンジンと、船舶を旋回させるための舵機と、船舶が指定航路を航行するように前記舵機の目標舵角値の指令を出力する旋回指令部と、を備える前記舵機を制御する舵制御装置であって、船舶が指定航路を航行する間の所定タイミングにおける外乱によって生じるエンジンの負荷を予測し、予測されたエンジンの負荷の基準負荷に対する負荷変動量を算出する予測部と、負荷変動量に基づいて、エンジンの燃費を減らすように目標舵角値を補正する補正部と、補正された目標舵角値に従って舵機を制御する舵制御部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】制御装置が適用された船舶のブロック図である。
【
図3】指定航路を航行するための目標舵角値の経時変化を示す。
【
図7】舵角の変化量に応じて補正量を補正したときの舵角の経時変化を示す。
【
図8】制御装置による一連の制御を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、制御装置23が適用された船舶のブロック図である。
【0008】
図1に示すように、船舶100は、例えば船橋に配置されたテレグラフ11と操舵部13とを備える。テレグラフ11には推進力発生部15の出力指令値が入力され、推進力発生部15は指令値に応じた出力を発生させる。操舵部13には操作者により舵機17の舵角指令値が入力され、手動操作時には舵角指令値に従って舵角が変化する。
【0009】
推進力発生部15は、エンジン19と、エンジン19の出力軸に固定されエンジン19から伝達された回転動力により回転駆動するプロペラ21とを備える。エンジン19はテレグラフ11から入力された出力指令値に応じた回転数で駆動する。なお、テレグラフ11を船速(対地船速又は対水船速)に基づく指令を入力可能なものとし、出力指令値を、船速を達成するために必要なエンジン回転数を示す値としてもよい。
【0010】
船舶100は、舵制御装置としての制御装置23を備える。制御装置23は、予め指定された指定航路に従って目的地まで航行するオートパイロット制御時に舵機17の舵角を、予め設定された目標舵角値に基づいて制御する。なお、以下の例では特に言及しない限り、指定航路に従っているときは図示せぬガバナ等の調速機を介してエンジン19の回転数が一定に維持されるものとする。制御装置23は、エンジン19の燃費を算出する燃費算出部25と、潮流、風等の外乱を受けたときのエンジンの負荷を予測する第1予測部27と、舵角に応じたエンジンの負荷を予測する第2予測部29と、指定航路からのずれ量を算出するずれ量算出部31と、補正部33とを備える。
【0011】
燃費算出部25は、現在のエンジントルク、現在のエンジン回転数、及び前記エンジンへの燃料噴射量に基づいて現在の燃費を算出する。燃費とは、単位時間において単位出力あたりの燃料消費量で表される、エンジンの燃料消費率〔g/kW・h〕をいう。また、燃費算出部25は、現在のエンジン回転数を維持したときの所定タイミングにおける燃費を、エンジン負荷の変動量(以下、単に「エンジン負荷変動量」ということがある)に基づいて予測する。燃費算出部25は、燃費算出部及び燃費予測部に相当する。
【0012】
第1予測部27は、船舶100の航行中に潮流、風等の外乱によるエンジン負荷変動量を予測する。第1予測部27が予測するエンジン負荷変動量(以下、単に「第1エンジン負荷変動量」ということがある)とは、エンジン19の基準負荷に対する変動量をいう。エンジン19の基準負荷とは、潮流、波浪、及び風の影響を受けていない状態においてエンジン19を一定回転数で駆動したときのエンジン19の負荷をいう。したがって第1エンジン負荷変動量とは、船舶100が外乱を受けたときの基準負荷に対する変動量をいう。第1エンジン負荷変動量を予測するために第1予測部27は、潮流予報、波浪予報等の海象情報、風予報等の気象情報を含む外乱情報を取得する。外乱情報は、船舶100上で検出した情報であっても良いし、船外から取得した情報であってもよい。第1予測部27は、既知の方法により、取得した外乱情報に基づいて自己回帰モデルによる時系列的分析を実行し外乱を予測する。第1予測部27は、予測した外乱を受けた場合のエンジン負荷の変動量を第1予測負荷変動量として補正部33に出力する。
【0013】
第2予測部29は、目標舵角値に応じた舵角の変化によるエンジンの負荷変動を予測する。目標舵角値は、指定航路に従って航行するときの舵角値である。舵角を中立位置から変更すると、舵機17又は船舶100全体が受ける水の抵抗が増加し、舵角の変化量に応じてエンジン19の負荷が増加することが知られている。舵角とエンジン負荷の変動を予測するためには、過去の舵角値と、主機出力計のようなエンジン負荷の計測器から得られた計測結果とを関連付けた情報を用いることができる。第2予測部29は、舵角の変化量とエンジン負荷の変動との関係に関する情報を予め有しており、この情報からエンジン負荷の変動を予測し、予測結果を第2エンジン負荷変動量として補正部33に出力する。
【0014】
ずれ量算出部31は、GPS等の位置情報を取得して航行中の航路と指定航路とのずれ量を算出する。ずれ量は、例えば指定航路を構成する直線状航路からの距離をずれ量として補正部33に出力する。
【0015】
補正部33は、目標舵角値を、燃費、第1エンジン負荷変動量、第2エンジン負荷量、及びずれ量に基づいて補正する。したがって、本実施形態では、第1予測部27、第2予測部29が予測部として機能し、補正部33が補正部として機能する。また、補正部33は、エンジン19の等燃費率線に基づいて目標舵角地値を補正する。
図2に等燃費率線の一例を示す。
図2では、縦軸にエンジントルクを示し横軸にエンジン回転数を示す。
【0016】
船舶100は、目標舵角値、又は補正部33で補正された目標舵角値に基づいて舵角を制御する舵制御部35と、操舵部13からの指令を受ける舵角指令入力部37を備える。舵制御部35は、補正部33又は舵角指令入力部37からの入力に基づいて舵角を制御する。したがって舵制御部35は旋回指令部に相当する。例えば緊急回避等を行うためにオートパイロット制御時に操舵部13が操作されると、舵角指令入力部37は操舵部13の操作を検出し、舵制御部35に対して操舵部13の操作量に応じた舵角指令値を入力する。この場合、舵制御部35は補正部33からの出力に関わらず舵角指令入力部37からの舵角指令値に基づいて舵角を制御する。
【0017】
以下、補正部33による補正処理について説明する。
【0018】
〔外乱に基づく舵角補正〕
一実施形態では補正部33は、第1予測部27で予測された第1エンジン負荷変動量に基づいて目標舵角値を補正する。
図3は、指定航路を航行するための目標舵角値の経時変化を示す。図示の例では、舵角を一方向(例えば右旋回方向)に増減させており、縦軸の原点は舵機17の中立位置を示す。また、
図4は第1予測部27が予測した予測負荷、つまり第1エンジン負荷変動量の経時変化を示す。
図4において縦軸の原点は基準負荷を示す。第1エンジン負荷変動量は、エンジン負荷を増加させる負荷(正の値となる負荷)と、エンジン負荷を減少させる負荷(負の値となる負荷)を含む。補正部33は、第1エンジン負荷変動量が増加を示すタイミングではエンジン負荷を減らし、第1エンジン負荷変動量が減少を示すタイミングではエンジン負荷を増加させる補正関数を算出する。換言すれば補正部33は、第1エンジン負荷変動量の波形と逆位相の補正関数を算出する。この態様では補正関数の各時間における大きさは同時刻における予測負荷の大きさと同一である。したがって補正関数は、第1エンジン負荷変動量の波形を横軸に対して線対称にした波形を有し(同図において破線で示す)、第1エンジン負荷変動量を打ち消す。補正部33は、補正関数を目標舵角値に適用して第1エンジン負荷変動量を打ち消す目標舵角値を得る。この場合、第1エンジン負荷変動量を100%打ち消す必要はなく、第1エンジン負荷変動量を、予め決められた一定範囲内に入る程度に小さくできればよい。
【0019】
図5は、補正された目標舵角値を示す。
図5に示すように補正された目標舵角値は、補正関数と同様の波形を補正前の目標舵角値に適用した値である。
【0020】
図4及び
図5を参照して、時刻t1における第1エンジン負荷変動量は、時刻t2における第1エンジン負荷変動量よりも大きい。これに対して
図5に示すように、時刻t1における補正された舵角は、時刻t2における補正された舵角よりも小さい。このように、第1エンジン負荷変動量が大きいタイミングでは舵角を小さくしてエンジン負荷を減らし、第1エンジン負荷変動量が小さいタイミングでは舵角を大きくしてエンジン負荷を増やす。これにより、第1エンジン負荷変動量を打ち消し、外乱を受けたときのエンジン19の負荷の変動をゼロに近付け(つまり、基準負荷に近付け)エンジン19の負荷の変動を少なくできる。エンジン19の負荷の変動を少なくすることでエンジン19の燃費を減らす、つまり燃料消費量を減らすことができる。
【0021】
上記で得た補正された目標舵角値をそのまま使用して操舵を行ってもよいし、燃費、第2予測負荷、及びずれ量で得られた情報に基づいて補正された目標舵角値をさらに補正してもよい。
【0022】
〔等燃費率線に基づく制御〕
一実施形態において補正部33は、燃費算出部25で算出された燃費に基づいて補正された目標舵角値を更に補正する。この場合、補正部33は燃費が悪化する場合には補正量を大きくして燃費を改善し、燃費の悪化が無いか微小な場合には補正量を0にするか、小さくする。補正量を0にするとは、第1エンジン負荷変動量に基づいて補正された目標舵角値を、補正前の目標舵角値に戻すことを意味する。また補正量を小さくするとは、目標舵角値を、第1エンジン負荷変動量に基づいて補正された目標舵角値と、補正前の目標舵角値との間の任意の値にすることを意味する。
【0023】
図2を参照して、点Aは現在のエンジン状態を示す。第1エンジン負荷変動量に対する目標舵角値の補正を行った場合における所定タイミングでのエンジンの状態を点B、及び点Cにそれぞれ示す。点Aと点Bは、等燃費率線上、同一の燃費を示す。第1エンジン負荷変動量がエンジン19に適用されたとしても燃費が現在の値から悪化しないような場合(エンジン状態が点Aから点Bに移行する場合)、補正部33は、補正量を0又は第1エンジン負荷変動量に対する補正の値よりも少ない値に補正する。一方で第1エンジン負荷変動量が加えられたときに燃費が現在の値から悪化する場合(点Aから点Cに遷移する場合)には、補正部33は第1エンジン負荷変動量を打ち消すように目標舵角値を補正して燃費が悪化しないようにする。
【0024】
〔航路ずれ量に基づく制御〕
一実施形態において補正部33は、ずれ量算出部31で算出されたずれ量に基づいて補正された目標舵角値を更に補正する。この場合、補正部33は現在位置を参照し、指定航路からのずれ量が第1ずれ閾値以上の場合には、補正量を小さくして指定航路への復帰を優先し、指定航路からのずれ量が第1ずれ閾値未満の場合には補正量に基づいて予測負荷を打ち消す。補正された目標舵角値は、第1エンジン負荷変動量の値に応じて目標舵角値よりも小さくなったり、大きくなったりする。したがって、補正された目標舵角値に基づいて航行し続けると指定航路から大幅に外れることも考えられる。補正部33は、指定航路から予め指定された距離(ずれ量閾値)以上ずれた場合、補正量を小さくし、補正量を0にするかずれ量がずれ量閾値未満のときの補正量よりも小さい値とする。
【0025】
また補正部33は、予測される航路のずれ量に基づいて目標舵角値の補正量をさらに補正してもよい。ずれ量算出部31は、位置情報に基づいて航行中の航路と指定航路とのずれ量を算出し、所定のタイミングにおいて、補正された目標舵角値で航行した場合の船舶の位置を予測する。ずれ量算出部31は、予測された船舶の位置の指定航路に対するずれ量を予測する。したがって、ずれ量算出部31は、位置取得部、位置予測部及びずれ量予測部として機能する。補正部33は、ずれ量が第2ずれ量閾値以上の場合、指定航路への復帰を優先して目標舵角値の補正量を小さくし、補正量を0にするかずれ量が第2ずれ量閾値未満のときの補正量よりも小さい値とする。
【0026】
〔目標舵角値の変化量に基づく制御〕
一実施形態において補正部33は、目標舵角値の変化量に基づいて補正された目標舵角値を更に補正する。指定航路に従った目標舵角値の変化量が大きい(舵角閾値以上の)場合、船舶100に対して急旋回が要求されており指定航路に従う優先度が高いと考えられる。補正部33は、目標舵角値の変化量が舵角閾値以上の場合、補正された目標舵角値の補正量を小さくする。なお、舵角閾値の値は船舶の旋回性能等に基づいて適宜決定可能である。また目標舵角値が大きい場合に、補正量を小さくしてもよい。
【0027】
図6は、
図5の一部を拡大した図である。
図5では、時刻t3及びt4において目標舵角値の変化量が大きくなっており、この変化量が舵角閾値以上であるとする。この場合、補正部33は、時刻t3及び時刻t4の直後の補正量を小さくし目標舵角値に近付ける。舵角が大きく変化した後、所定時間経過後、補正量を元に戻してもよい。
【0028】
〔舵角の予測変化量に基づく制御〕
一実施形態において補正部33は、第2予測部29の予測結果に基づいて補正された目標舵角値を更に補正する。この場合、補正部33は、第1エンジン負荷変動量と、第2予測部29で予測した舵角に基づく予測負荷、つまり第2エンジン負荷変動量を加味して目標舵角値を更に補正する。補正量は、舵角が大きいほど大きく舵角が小さいほど小さい。
【0029】
図7は、舵角量に応じて補正量を補正したときの舵角の経時変化を示す。
図7において実線は、
図5と関連して説明した補正された目標舵角値を示し、破線は補正された目標舵角値をさらに舵角に応じて補正した舵角値を示す。このように補正された目標舵角値をさらに第2予測部29の予測結果に基づき小さくすることで、エンジン負荷の増減を減らせる。
【0030】
図8は、制御装置23による一連の制御を示すフロー図である。制御装置23は、オートパイロット制御がオンにされると一連の処理を開始する。ステップS1において制御装置23は、現在のエンジン出力が出力閾値未満であるかを判断する。エンジン出力は燃料投入量、エンジン回転数、主機出力計の計測結果から取得できる。エンジンの出力が少ない場合、舵角の制御に対する船舶100の旋回性が低い。一方でエンジン出力が一定量以上であれば、舵角の制御に対する船舶100の旋回性が高くなる。負荷閾値は、船舶100の旋回性を考慮して予め決定される。エンジン出力が負荷閾値未満の場合(ステップS1のY)、目標舵角値を補正せず、ステップS2において制御装置23は目標舵角値に従って舵角を制御する。
【0031】
主機の出力が閾値以上の場合(ステップS1のN)、ステップS3において制御装置23は、第1予測部27の予測結果に基づき外乱による負荷変動を予測する。ステップS4において制御装置23は、ステップS1の予測結果に基づき目標舵角値を補正する。ステップS4では、第1予測部27の予測結果に基づき取得した補正された目標舵角値、又は燃費算出部25等で得られた情報に基づき更に補正された目標舵角値のどちらを採用してもよい。ステップS5において制御装置23は、補正された目標舵角値に従って舵角を制御する。
【0032】
上記一連の処理を行っている間に、舵角指令入力部37からの入力があった場合、舵角指令入力値に基づいて舵角を制御する。なお、ステップS1における処理は、どのタイミングで行ってもよい。
【0033】
このように制御装置23は、第1予測部27による予測結果に基づき目標舵角値を補正できる。これにより、外乱の影響によるエンジンの負荷の変動を抑制し、エンジンの負荷を一定に保って燃費を向上させられる。
【0034】
また、第1予測部27で予測された予測負荷の変動量を打ち消すような補正関数を用いることで、エンジンの負荷変動を微小又はゼロにできる。
【0035】
また、主機の出力が出力閾値未満の場合には、目標舵角値を補正せず、目標舵角値に従って舵角を制御することで、指定航路からのずれを少なくできる。
【0036】
また、目標舵角値の変化量に応じて補正量をさらに補正することで、急旋回が要求されているときには船舶100の旋回を優先させられる。
【0037】
また、燃費算出部25の算出結果を用いることで燃費をさらに向上させられる。
【0038】
また、ずれ量算出部31の算出結果を用いることで指定航路からのずれを少なくできる。
【0039】
また、第2予測部29の予測結果を用いることでエンジンの負荷をより一定に保て、燃費をさらに向上させられる。
【0040】
また、舵角指令入力部37の入力を用いることで、緊急回避等を確実に実行できる。
【0041】
本発明は実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0042】
実施形態では、制御装置23は燃料消費率〔g/kW・h〕を減らして燃費が悪化しないような制御を行うこととした。しかしながら、制御装置23は燃料消費率に替えて単位時間当たりの燃料消費量を表す燃料消費量〔m3/h〕に基づき、燃料消費量を減らして燃費が悪化しないような制御を行うものであってもよい。
【0043】
舵角の予測変化量は、予め外乱に基づく舵角補正の補正関数を算出する際に組み込んでもよい。
【0044】
また、上記実施形態を一般化すると以下のような船舶の制御方法が得られる。指定航路航行時の主機の所定タイミングの負荷を予測し、前記予測結果に基づき、エンジンの負荷が前記所定タイミングに増加すると予測される場合には前記所定タイミングでの舵角を減らし、前記所定タイミングに減少すると予測される場合には前記所定タイミングでの舵角を増やすように前記指定航路を航行するための目標舵角値を補正し、前記補正された目標舵角値に従って舵角を制御する、制御方法。
【符号の説明】
【0045】
15・・・推進力発生部、17・・・舵機、19・・・エンジン、21・・・プロペラ、23・・・制御装置、25・・・燃費算出部、29・・・第2予測部、31・・・ずれ量算出部、33・・・補正部、35・・・舵制御部、100・・・船舶