(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置、及び、磁気共鳴イメージング方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
A61B5/055 376
A61B5/055 311
(21)【出願番号】P 2020094154
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 陽
(72)【発明者】
【氏名】越智 久晃
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 知樹
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2009/051123(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0290682(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0258829(US,A1)
【文献】清水公治、他,合成MR画像,BME,1987年,Vol.1, No.3,212-217
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影シーケンスに従い、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部と、
計測した前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部と、
前記計測部が複数の異なる撮影条件でエコー信号を計測し、前記画像再構成部が、複数の異なる撮影条件で計測したエコー信号をそれぞれ用いて複数の再構成画像を生成するように、前記計測部及び前記画像再構成部を制御する制御部と、
前記複数の再構成画像と前記計測部が用いた撮影シーケンスの信号関数とを用いて、計算画像を生成する計算画像生成部と、
を備え、
前記複数の異なる撮影条件は、撮影シーケンスの繰り返し時間が異なる撮影条件を含み、前記制御部は、繰り返し時間が長い撮影の位相エンコード数を、繰り返し時間が短い撮影の位相エンコード数よりも小さく設定し、
その際、再構成画像の撮影パラメータから判定した信号対雑音比、又は、撮影パラメータと被検体のT1値及びT2値とを信号関数に与えて得られた信号値から判定した信号対雑音比に応じて位相エンコード数を小さく設定する仕方を変えて、前記計測部を制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像再構成部は、小さい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズを、大きい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズと等しくなるように再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、位相エンコードで決まるk空間のデータのうち、高域のデータの計測を低域のデータの計測よりも少なくすることにより、前記繰り返し時間が長い撮影の位相エンコード数を小さくすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像再構成部は、前記位相エンコード数が小さい撮影で得たk空間データを、未計測位相エンコード部分にゼロを補充して再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項4の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記複数の
異なる撮影条件に、繰り返し時間の等しく長い撮影条件が複数含まれる場合は、信号対雑音比がより小さい画像となる撮影の位相エンコード数を優先的に小さくすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、位相エンコードで決まるk空間のデータを間引くことによって、前記繰り返し時間が長い撮影の位相エンコード数を小さくすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像再構成部は、位相エンコードを間引いて取得したk空間データに対しパラレルイメージング演算を行って画像を再構成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記複数の
異なる撮影条件に、繰り返し時間の等しく長い撮影条件が複数含まれる場合は、信号対雑音比がより大きい画像となる撮影の位相エンコード数を優先的に小さくすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記撮影シーケンスは、二軸方向の位相エンコードを含む3次元パルスシーケンスであり、
前記制御部は、前記二軸方向の位相エンコードの少なくとも一方について、繰り返し時間の長い撮影において位相エンコード数を減らす制御を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、k空間の高域データを計測しない、または、k空間のデータを間引く、のいずれかにより位相エンコード数を減らすことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
小さい位相エンコード数で取得する画像の数は、前記計算画像の生成に用いる画像の全数の半分以下とすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
繰り返し時間の長い撮影における位相エンコード数は、繰り返し時間が短い撮影の位相エンコード数の1/2以上であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記計算画像の種類及び画質の少なくとも一方をユーザに選択させる画面を表示する表示部をさらに備えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
複数の異なる撮影条件で取得した核磁気共鳴信号から複数の元画像を再構成し、前記複数の元画像間の計算によって計算画像を取得する磁気共鳴イメージング方法であって、
前記複数の異なる撮影条件は、撮影シーケンスの繰り返し時間が異なる撮影条件を含み、
前記複数の元画像は、繰り返し時間の長さに応じて、位相エンコード数を変更し、
その際、再構成画像の撮影パラメータから判定した信号対雑音比、又は、撮影パラメータと被検体のT1値及びT2値とを信号関数に与えて得られた信号値から判定した信号対雑音比に応じて位相エンコード数を小さく設定する仕方を変えて、位相エンコード数を変更したものであり、
小さい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズを、大きい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズと等しくなるように、前記元画像の再構成を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング方法。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気共鳴イメージング方法であって、
前記複数の異なる撮影条件は、撮影シーケンスの繰り返し時間が等しく長い複数の撮影条件を含み、
画像の位相エンコード数を、繰り返し時間の長さ及び画像の信号対雑音比に応じて制御することを特徴とする磁気共鳴イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング技術に関する。特に、計算によって被検体パラメータを推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(以下、MRIという)装置では、静磁場空間に置かれた被検体の組織に含まれる原子核スピンを高周波磁場パルスによって励起し、それによって原子核スピンから発生する核磁気共鳴信号を取得し、画像化する。こうして得られる画像の信号値は、静磁場強度や受信コイルの感度など装置の条件及び被検体の組織に含まれる原子核スピンの物理的な特性によって決まる。撮影においては、核磁気共鳴信号を発生させるエコー時間(TE)や核磁気共鳴信号を繰り返し取得する際の繰り返し時間(TR)、及び、高周波磁場の設定強度や位相などの撮影条件を変化させることで、上述した物理的な特性のいずれかを強調した画像を得る。
【0003】
被被検体の物理的な特性には、縦緩和時間T1、横緩和時間T2、スピン密度ρ、共鳴周波数f0、拡散係数D、高周波磁場の照射強度B1分布などが含まれ、被検体パラメータと呼ばれる。また画像に関わる撮影条件及び装置の条件は撮影パラメータ、装置パラメータと呼ばれる。
【0004】
MRI画像から、上述したパラメータを定量値として計算で求める手法がある。この手法では、異なる撮影パラメータにて複数の画像(元画像)を撮影し、ピクセルごとに被検体パラメータや装置パラメータを計算で求める。こうして得られた被検体パラメータや装置パラメータをピクセルの値とする画像は計算画像あるいはマップと呼ばれる。
【0005】
計算画像を取得するには、撮影パラメータ、被検体パラメータ、装置パラメータとピクセル値の関係を表す関数(信号関数)が必要である。この信号関数は撮影シーケンスに依存する。計算画像(被検体パラメータマップあるいは装置パラメータマップ)の算出では、複数の元画像の撮影パラメータとそのピクセル値に対する信号関数の最小二乗フィットを求める。ただし、複数の被検体パラメータと装置パラメータの計算画像を同時に取得するのは、信号関数が複雑になるため困難であった。
【0006】
これに対し、複数の被検体パラメータと装置パラメータの計算画像の同時取得を可能にする手法の一つとして、信号関数を数値シミュレーションによって構成することによりマップを推定する方法がある(特許文献1)。この方法を用いると、信号関数が解析的に求められていないかあるいは求められていても複雑すぎてパラメータ推定には用いることが困難なパルスシーケンスでも計算画像の取得が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
計算画像を推定する際には、推定するパラメータの数以上の元画像が必要になる。特許文献1の方法では、例えば、T1、T2、ρ、B1の4つのマップを算出するために、6つの元画像を撮影する。この元画像は、グラディエントエコーシーケンスを用いてフリップ角(FA)と高周波磁場パルスの位相(θ)、繰り返し時間(TR)の3つの撮影パラメータを変化させて撮影している。
【0009】
このように、特許文献1記載の方法では多くの元画像を撮影する必要があるため全体の撮影時間がかなり長くなるという問題がある。元画像の撮影時間は位相エンコード数を減らせば短縮できる。しかし、元画像の位相エンコード数を小さくすると計算画像の空間分解能(解像度)や信号対雑音比(SN比)が低下してしまう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、複数パラメータの計算画像を同時に生成する際に、空間分解能やSN比の低下をできるだけ抑えて効率よく撮影時間を短縮する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、計算画像を取得するための複数の元画像の撮影において、TRの長短に応じて位相エンコード数を制御することにより、計算画像を取得するための全体の撮影時間を短縮する。
【0012】
具体的には、本発明のMRI装置は、撮影シーケンスに従い、静磁場の中に置かれた被検体に高周波磁場および傾斜磁場を印加して、前記被検体から発生するエコー信号を計測する計測部と、計測した前記エコー信号から再構成画像を得る画像再構成部と、前記計測部が複数の異なる撮影条件でエコー信号を計測し、前記画像再構成部が、複数の異なる撮影条件で計測したエコー信号をそれぞれ用いて複数の再構成画像を生成するように、前記計測部及び前記画像再構成部を制御する制御部と、前記複数の再構成画像及び前記計測部が用いた撮影シーケンスの信号関数を用いて、計算画像を生成する計算画像生成部と、を備える。前記複数の異なる撮影条件は、撮影シーケンスの繰り返し時間が異なる撮影条件を含み、前記制御部は、繰り返し時間が長い撮影の位相エンコード数を、繰り返し時間が短い撮影の位相エンコード数よりも小さく設定し、信号計測するように前記計測部を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、撮影時間がより長い元画像のみ位相エンコード数を小さくすることにより、撮影時間が短い元画像の位相エンコード数を小さくするよりも効率よく撮影時間を短縮できる。また、全ての元画像の位相エンコード数を小さくする場合と比べて空間分解能あるいはSN比の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体概要を示すブロック図。
【
図2】本発明に関わるMRI装置の主要部の機能ブロック図。
【
図4】(A)は計測部が実行する撮影シーケンスを示す図、(B)は(A)の撮影パルスシーケンスにより取得するk空間データを示す図。
【
図6】複数の異なる撮像条件の組み合わせの一例を示す図。
【
図7】実施形態1の位相エンコード制御の一例を説明する図。
【
図8】(A)は実施形態1で取得した元画像を示す図、(B)は元画像から取得した計算画像を示す図。
【
図10】実施形態2の位相エンコード制御の一例を説明する図。
【
図11】計算画像を得る撮像において表示されるGUIの一例を示す図。
【
図12】実施形態3で用いる撮影シーケンスの一例を示す図。
【
図13】実施形態3の位相エンコード制御の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用する第一の実施形態について説明する。以下、本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
まず、本実施形態のMRI装置について説明する。
図1は、本実施形態のMRI装置10の概略構成を示すブロック図である。MRI装置10は、静磁場を発生するマグネット101と、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル102と、シーケンサ104と、傾斜磁場電源105と、高周波磁場発生器106と、高周波磁場を照射するとともに核磁気共鳴信号(エコー信号)を検出する送受信コイル107と、受信器108とを備える。送受信コイル107は、図では単一のものを示しているが送信コイルと受信コイルとを別個に備えていてもよい。これら要素を総括して計測部100という。
被検体(例えば、生体)103はマグネット101の発生する静磁場空間内の寝台(不図示)に載置される。
【0017】
MRI装置10は、さらに、計測部100を含む装置全体の制御や計測部100が計測したエコー信号を用いた演算等を行う計算機200と、計算機200を介して装置の動作に必要な指令やデータを入力するための入力部110、計算機200の演算結果である画像やユーザ入力用のGUIなどを表示するディスプレイ(表示部)120、記憶媒体130などを備える。
【0018】
シーケンサ104は、傾斜磁場電源105と高周波磁場発生器106に命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させる。高周波磁場は、送受信コイル107を通じて被検体103に印加される。被検体103から発生した核磁気共鳴信号は送受信コイル107によって受波され、受信器108で検波が行われる。
【0019】
検波の基準とする核磁気共鳴周波数(検波基準周波数f0)は、シーケンサ104によりセットされる。検波された信号は、計算機200に送られ、ここで画像再構成などの信号処理が行われる。その結果は、ディスプレイ120に表示される。必要に応じて、記憶媒体130に検波された信号や測定条件を記憶させることもできる。
【0020】
シーケンサ104は、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を予めプログラムとして定めたパルスシーケンスと、撮影ごとに設定された撮影条件とを用いて撮影シーケンスを計算し、その撮影シーケンスに従って計測部100の各要素が動作するように制御を行う。
【0021】
計算機200は、シーケンサ104に指令を送り、計測部100を動作させる制御部として機能するとともに、計測部100が取得したエコー信号に対し、各種の信号処理を施し、所望の画像を得る演算部として機能する。
【0022】
これらの機能を実現するため、本実施形態の計算機200は、
図2に示すように、計測したエコー信号から再構成画像を得る画像再構成部210と、再構成画像を用いて計算画像を生成する計算画像生成部220と、計測部100の各要素、画像再構成部210及び計算画像生成部220を含む装置全体の制御を行う制御部230と、を備える。また計算画像生成部220は、数値シミュレーションによって、撮影シーケンス毎の信号関数を生成する信号関数生成部221と、撮影シーケンス毎の信号関数
と画像再構成部210が生成した複数種の再構成画像(元画像)とを用いて定量値を推定するパラメータ推定部222と、画像生成部223とを含む。定量値は、被検体に依存するパラメータおよび装置固有のパラメータの少なくとも一つのパラメータである。パラメータ推定部222は、ピクセル毎に1ないし複数の定量値を得る。画像生成部223は、得られた定量値の分布(マップ)から、被検体の所望の画像を生成する。
【0023】
計算機200は、CPUあるいはGPUとメモリとで構成することができ、上述した計算機200の機能は、記憶媒体130に格納されたプログラムを、計算機200のCPUがメモリにロードして実行することにより実現される。また、PLC(programmable logic device)等のハードウエアで実現されてもよい。なお、計算画像生成部220は、MRI装置10とは独立に設けられた計算機であって、MRI装置10の計算機200とデータの送受信が可能な計算機において実現されてもよい。
【0024】
以上の構成において、本実施形態のMRI装置は、複数の異なる撮影条件で取得した核磁気共鳴信号から複数の元画像を再構成し、これら複数の元画像と元画像の撮影に用いた撮影シーケンスの信号関数とを用いて計算画像を取得する。この際、複数の異なる撮影条件は、撮影シーケンスの繰り返し時間が異なる撮影条件を含み、繰り返し時間の長さに応じて、位相エンコード数を変更する。また元画像の画像再構成において、小さい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズを、大きい位相エンコード数で撮影した画像のマトリクスサイズと等しくなるように、再構成を行う。
【0025】
以下、計算画像を取得する撮影方法の実施形態を説明する。
【0026】
<実施形態1>
本実施形態は、複数の元画像を取得する撮影のうち繰り返し時間の長さの長い撮影の位相エンコード数を繰り返し時間の短い撮影の位相エンコード数よりも少なくする。位相エンコードの減らし方は、k空間に配置される計測データのうち、k空間の高域のデータの計測を低域のデータの計測よりも少なくすることとし、k空間データの未計測位相エンコード部分にゼロを補充して画像再構成する。
以下、本実施形態における計算画像生成するまでの手順を、
図3を参照して説明する。
【0027】
最初に計算画像を得るために必要となる信号関数を数値シミュレーションで求めておく(301)。信号関数は撮像シーケンス毎に決まる。本実施形態では、撮影シーケンスが、2DのRF-spoiled GEシーケンスである場合を説明する。
【0028】
RF-spoiled GEシーケンスを
図4(A)に示す。図中、RF、Gs、Gp、Grはそれぞれ、高周波磁場、スライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、リードアウト傾斜磁場を表す(以下、同じ)。
RF-spoiled GEシーケンスでは、まず、スライス傾斜磁場パルス41の印加とともに高周波磁場(RF)パルス42を照射し、対象物体内のあるスライスの磁化を励起する。次いでスライスリフェーズ傾斜磁場パルス43と磁化の位相に位相エンコード方向の位置情報を付加するための位相エンコード傾斜磁場パルス44、ディフェーズ用リードアウト傾斜磁場45を印加した後、リードアウト方向の位置情報を付加するためのリードアウト傾斜磁場パルス46を印加しながら磁気共鳴信号(エコー)47を計測する。そして最後にディフェーズ用位相エンコード傾斜磁場パルス48を印加する。
【0029】
このようなシーケンスを位相エンコード傾斜磁場パルス44、48の強度(位相エンコード量kp)を変化させるとともにRFパルス42の位相の増分値を117度ずつ変化させながら(n番目のRFパルスの位相はθ(n) = θ(n-1) + 117nとなる)、繰り返し時間TRで繰り返し、1枚の画像を再構成するために必要な数のエコー信号を計測する。図中、符号の後に付した「-1」、「-2」は繰り返しを意味する。
【0030】
このような撮影シーケンスで得られる画像のピクセル値は、被検体パラメータである縦緩和時間T1、横緩和時間T2、スピン密度ρ、RF照射強度B1に依存し、且つ撮影パラメータによって変化する。RF-spoiled GEで変更可能な撮影パラメータは、FA (フリップ角)、 TR (繰り返し時間)、TE(エコー時間)、θ (RF位相増分値)である。これらのうち、 RF位相増分値は、 高速撮影法の一つであるFLASH(登録商標)と同等のT2依存性の少ない画像コントラストが得られるように、一般には117度に固定されているが、このθを変化させると、画像コントラストのT2依存性が大きく変化する。従って本実施形態では、θも変更可能な撮影パラメータとする。
【0031】
上記被検体パラメータと撮影パラメータを変数とすると、RF-spoiledGEの信号関数fsは以下のように表される。
【0032】
【数1】
ここで、Scは装置パラメータの受信コイル感度である。B1は撮影時にはFAの係数となるため、FAとの積の形にしておく。またρとScは信号強度に対して比例係数として作用するため、関数の外側に出しておく。これによりfsは、信号関数fを用いた右辺の式に書き直すことができる。
【0033】
数値シミュレーション(S301)では、被検体パラメータのT1、T2の任意の値に対して上述した撮影パラメータFA、TR、θを網羅的に変化させて数値シミュレーションにて信号を作成し、補間により信号関数を作成する。それぞれのパラメータの値は、実際の撮影に用いる撮影パラメータの範囲と、被検体のT1、T2の範囲が含まれるようにする。撮影対象のスピン密度ρとB1、Scは一定(例えば1)とする。変化させる撮影パラメータと被検体パラメータの数値例を以下に示す。
【0034】
TR 4個 [ms]: 10, 20, 30, 40
FA 10個 [度]: 5, 10, 15, 20, 25, 30, 35, 40, 50, 60
θ 17個 [度]: 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 12, 14, 16, 18, 20, 22
T2 17個 [s]: 0.01, 0.02, 0.03, 0.04, 0.05, 0.07, 0.1, 0.14, 0.19, 0.27, 0.38, 0.53, 0.74, 1.0, 1.4, 2.0, 2.8
T1 15個 [s]: 0.05, 0.07, 0.1, 0.14, 0.19, 0.27, 0.38, 0.53, 0.74, 1.0, 1.5, 2.0, 2.8, 4.0, 5.6
【0035】
信号関数生成部221は、上述した撮影パラメータと被検体パラメータのすべての組み合わせ(上記例では173400個の組み合わせとなる)の撮影パラメータセット31を構成し、それぞれの信号値を算出する。
【0036】
数値シミュレーションS301では、格子点上にスピンを配置した被検体モデルと撮影シーケンス、撮影パラメータ、装置パラメータを入力とし、磁気共鳴現象の基礎方程式であるBlochの式を解いて磁気共鳴信号を出力する。被検体モデルはスピンの空間分布(γ, M0, T1, T2,)として与えられる。ここで、γは磁気回転比、M0は熱平衡磁化(スピン密度)である。磁気共鳴信号を画像再構成することにより、与えられた条件での画像を得ることができる。
【0037】
なお、Blochの式は1階線形常微分方程式であり、次式で表される。
【数2】
【0038】
ここで、(x, y, z)は3次元の直交座標系を表し、zは静磁場(強度がB0)の向きに等しい。また、(Mx, My, Mz)は添え字方向の核磁化の大きさ、Gx,Gy,Gzはそれぞれ添字方向の傾斜磁場強度、H1は高周波磁場強度(B1と同じ)、Δf0は回転座標系の周波数である。
【0039】
信号関数生成部221は、上述した計算機シミュレーションによって得られた信号値から、補間により信号関数fs(32)を生成する。補間には1次から3次程度の線形補間やスプライン補間を用いることが可能である。
【0040】
上述のようにして作成した信号関数の強度の一部を
図5に示す。ここでは、T1=900 ms、T2=100 ms、θ=5度の場合について、横軸と縦軸をそれぞれFA、TRとして表示した。なお、信号関数は、一度作成して保存しておけば計算画像撮影のたびに作成する必要はなく、繰り返し使用可能である。
【0041】
一方、計測部100は、信号関数を算出した撮影シーケンス(RF-spoiled GEシーケンス)を用いて複数の元画像の撮像を行う。この際、計測部100は、複数の異なる撮影条件(撮影パラメータ)でエコー信号の計測を行い、撮影条件ごとに計測データ34を得る(S302)。撮影パラメータは、例えば、繰り返し時間(TR)、エコー時間(TE)、高周波磁場の設定強度(フリップ角(Flip Angle:FA))、高周波磁場の位相(θ)など、信号関数の生成に用いた撮像パラメータと同様のものを用いる。これらのうちいずれか1つ以上のパラメータの値が異なる複数の撮像条件の組み合わせ(パラメータセット)33を、例えば誤差伝搬法などの手法によって予め作成する。パラメータセットの数は、定量値を算出する際の未知数の数よりも多いものとする。作成された撮影パラメータセットを制御部230がシーケンサ104にセットし、計測部100による撮影が行われる。
【0042】
パラメータセット33の一例を
図6に示す。図示する例では、未知数であるパラメータ(T1、T2、B1、a)の数が4であるため、撮影パラメータセットはそれより多めの6組からなり、各組は少なくとも一つ撮影パラメータの値が互いに異なる。この例では、6組の撮影パラメータセットは、それぞれFAが10度と30度、θが2度、6度、20度、21度、TRが10 ms、15ms、40 ms(ただし
図6では秒を単位として示す)の組み合わせからなる。図中、Pの欄はパラメータセットの撮影番号である。
【0043】
計測部100は、上述した撮影パラメータセットでそれぞれ撮影を行い、計測データ34を収集する。ここで計測データ(k空間)のマトリクスサイズは、位相エンコード数とサンプリング数で決まり、通常、フーリエ変換によって画像再構成するために128×128、256×256、514×514などの2のべき乗が採用される。本実施形態では、複数のパラメータセットのうち、繰り返し時間TRが最長である撮影について位相エンコード数を、画像の位相エンコード方向のマトリクスサイズより小さい値とし、それ以外の撮影は基本のマトリクスサイズとする制御を行う。
【0044】
一例として元画像のマトリクスサイズを、リードアウト方向256、位相エンコード方向256とした場合を説明する。
図6に示す例では、P1とP3のTRがいずれも40ms(0.04秒)であって最長となるので、P1とP3の位相エンコード数を256よりも小さくして元画像の解像度を低下させる。この様子を
図7に示す。
図7では、位相エンコード数を1/4減らして196としている。解像度を低下させるため、k空間の位相エンコード方向(kp方向)の上下端(図中m斜線で示す高域部分)のエコーの計測を行わない。P2及びP4からP6の撮影では位相エンコード数は256のままである。このような位相エンコード数の制御により、P1、P3の撮影では、k空間の高域部分が欠損した計測データ34Dが得られる。
【0045】
次に、画像再構成部210が、計測データ34、34Dに対して画像再構成を行い(S303)、元画像35を得る。この際、すべての元画像のマトリクスサイズを等しくするため、P1とP3の計測データについては、kp方向の高域部分をゼロで埋めてkp方向のサイズを256にする。そして、フーリエ変換FFTによってP1からP6までの元画像を得る。こうして得られた元画像を
図8(A)に示す。P1とP3の元画像はやや解像度が低下しているが、同マトリクスサイズの画像が得られる。
【0046】
次に、上述の6個の元画像35と信号関数32を用いて、パラメータ推定部222が、被検体パラメータと装置パラメータを推定する(S304)。具体的には、ピクセルごとの信号値Iを、式(1)を変形した式(3)の関数fに対してフィッティングすることにより被検体パラメータ(T1、T2、B1)及びρと装置パラメータScの積であるa(a=ρSc)36の推定を行う。
【0047】
【0048】
関数フィッティグは、例えば、次式で表される最小二乗法により行うことができる。
【0049】
【数4】
式中、χは信号関数とファントムのピクセル値の残差の総和、Iは所定の撮影パラメータ(FA、θ、TR)におけるピクセル値である。
【0050】
画像生成部223は、こうして得られたパラメータ(T1、T2、B1、a)のピクセル値を用いて、それぞれの分布である計算画像を生成する(S305)。計算画像生成部220は、必要に応じて、生成した計算画像をディスプレイ120に表示し(S306)、また記憶媒体130に格納する。なお画像生成部223は、4つのパラメータすべての計算画像を作成するのではなく、例えば、入力装置110を介してユーザが指定した所望の1ないし複数の計算画像を生成するようにしてもよい。
【0051】
6つの元画像(
図8(A))から生成した各パラメータの計算画像(B1画像、プロトン密度画像、T1画像及びT2画像)を
図8(B)に示す。図示するように、6個の元画像のうち1/3の2個の画像の解像度を低下させただけなので、計算画像の解像度はほとんど低下していない。すなわち、すべての元画像の解像度を3/4にすると計算画像の解像度も3/4に低下するが、本例では1/3の元画像だけ解像度を3/4にしているので、11/12(=(3/4+3/4+1+1+1+1)/6)の解像度となり、解像度の低下がかなり抑えられる。
【0052】
一方、撮影時間の短縮については、本実施形態では、単に位相エンコード数を減らすのではなく、TRの長い撮影に限って減らすことにより、効率的に撮影時間の短縮を行うことができる。本実施形態による撮影時間短縮の効果を
図9に示す。
図9は、
図6に示す6つの撮影パラメータセットで撮影P1~P6を行う例について、本実施形態の方法(B)と、位相エンコード数を減らさない場合(A)及び全撮影の位相エンコード数を減らした場合(C)と比較した結果を示す図である。各元画像の撮影時間はTR×位相エンコード数である。
【0053】
図示するように、位相エンコード数を減らさない場合(A)の合計の撮影時間は32秒である。これに対して、P1とP3の位相エンコード数を3/4にした場合(B)は26.88秒、P1からP6まで全元画像の位相エンコード数を3/4にした場合(C)は24秒であり、(A)と比較するとそれぞれ16%、25%の短縮である。しかし(B)と(C)とで、元画像1個あたりの撮影時間の低減率を比較すると、(B)では、2個の元画像の位相エンコード数を減らして全体で16%の短縮ができたので、元画像1個あたりの低減率は8%であるのに対し、(C)では4.2%(25÷6)となり、本実施形態のほうが、時間短縮効率が優れていることがわかる。しかも(C)では、すべての元画像の位相エンコード数を減らしているため解像度も一様に低下する。従って本実施形態では、TRの長い撮影だけの位相エンコード数を少なくすることで、効率よく撮影時間の短縮を図ることができる。
【0054】
以上の説明したように、本実施形態によれば、複数の撮影条件の異なる元画像を取得する際に、TRの長い元画像撮影の位相エンコード数を小さくすることにより、計算画像の解像度の低下を極力抑えながら撮影時間を効率よく短縮することができる。
【0055】
<実施形態1の変形例>
なお実施形態1では、複数の撮影パラメータセットのうちTRが長い2つの撮影パラメータセットの撮影P1、P3において位相エンコード数を減らす制御を行ったが、TRが長い撮影パラメータセットが複数ある場合には、位相エンコード数を小さくする撮影の数は、元画像数(計算画像を生成するのに用いる画像数)の最大でもおよそ半数までに抑えることが好ましい。位相エンコード数を小さくする元画像の数を全元画像数の半分までに抑えることで、得られる計算画像の解像度やSN比の低下を抑制することができる。
【0056】
この場合、撮影パラメータセットの中で最も長いTRのものが、元画像数の半数以上ある場合は、元画像のSN比に応じて、位相エンコード数を小さくする撮影パラメータセットの優先順位を決定するのが良い。具体的には、SN比の小さい元画像のSN比が、維持されるか、より大きくなるようにする。一般にSN比の大きい元画像ではSN比は十分であり、多少低下しても計算画像への影響が小さいからである。
【0057】
SN比と位相エンコード数との関係は、一般に、位相エンコード数を小さくして解像度を小さくするとSN比は大きくなる。例えば、位相エンコード数をr倍にして解像度を変化させた場合、SN比は、ピクセルサイズが1/r倍になるためSN比も1/r倍になる。またエコー信号の計測回数に比例した加算効果がr倍になることによりSN比は√r倍になる。よって、両者合わせるとSN比は1/√r倍になる。実施形態1のように、位相エンコード数を小さくして解像度を小さくする場合は、r<1であるためSN比の変化は1/√r(>1)となり、位相エンコード数を小さくするとSN比は大きくなる。
【0058】
従って、最も長いTRの画像が複数あって、高域の計測を減らして(解像度を小さくして)位相エンコード数を小さくする場合には、SN比の小さい元画像から優先的に小さくする方が良い。
【0059】
なお元画像のSN比については、一般にTRが同じであれば、FAが小さく、RF位相増分値が0度あるいは180度から離れる方がSN比は小さくなる。従って、この場合はFAが小さくRF位相増分値が0度あるいは180度から離れた撮像パラメータセットを優先させる。また、どの撮影パラメータセットのSN比が大きいかは、信号関数に撮影パラメータセットと被検体のT1、T2値を与えて信号値を比較することによっても決定できる。
【0060】
このようにTRの長さのみならず、撮影パラメータ毎に得られる画像のSN比を考慮して位相エンコード数を少なくすることにより、SN比の良好な計算画像を得ることができる。
【0061】
<実施形態2>
実施形態1では、長いTRを含む撮影パラメータセットの撮影において、解像度を低下させて位相エンコードを小さくしたが、本実施形態では、パラレル撮影を採用して位相エンコードを小さくする。
【0062】
本実施形態でも、計算画像生成部220の構成は
図2に示す構成と同じであり、計算画像を生成する処理の流れは
図3に示したものと同様である。以下、適宜
図3を参照して、実施形態1と異なる点を中心に本実施形態の処理を説明する。本実施形態でも、計測部100が
図6に示した6つの撮影パラメータセットP1~P6を用いて6つの撮影を行う場合を例に説明する。
【0063】
パラレル撮影は、kp方向のエコーを均等に間引くことによって位相エンコード数を小さくし、撮影時間を短縮する撮影方法である。画像再構成の際には、エコーを間引いたことによって生じる画像の折り返しを、受信コイル感度を利用したパラレル再構成によって除去する。
【0064】
本実施形態では、複数の撮影パラメータセットが設定され、そのうち、長いTRのパラメータセット(
図6の例ではP1、P3)が特定されると、この撮影パラメータセットの撮影において、計測部100は、位相エンコード傾斜磁場を制御し、k空間データを均等に間引いた計測を行う。それ以外の撮影は通常の、つまり元画像のマトリクスサイズに合わせた位相エンコード数で計測を行う。
【0065】
位相エンコード数を減らす割合は、パラレル撮影の倍速率で決まる。
図10に倍速率を2にした場合の計測データを示している。図示するように、TRの長いP1とP3のパラレル撮影の倍速率を2倍にしているため、これらの計測データ34Pはkp方向のサイズが1/2になっている。
【0066】
次いで画像再構成部210は、6つの撮影で得た計測データをそれぞれ再構成し、元画像を取得する。この際、位相エンコードを間引いた計測データ(
図10の34P)については、受信コイルの感度分布を用いて、SENSE法、SMASH法、SMASHの改良法などのパラレル再構成(PI)することにより、折り返しがなく、他の撮影で得た画像とマトリクスサイズが等しい画像を得る。なお受信コイルの感度分布はファントム等を用いた予備計測により予め取得しておいてもよいし、計測データから取得することも可能である。後者の場合には、k空間の中央を含む一部の領域は位相エンコードを間引くことなく計測してもよい。それ以外の計測データ34に対してはフーリエ変換FFTを実施する。
【0067】
こうして得られ6つの元画像35を用いて、実施形態1と同じようにして、被検体パラメータ36を推定し(S304)、計算画像を生成する(S305)。
【0068】
パラレル撮影で得られた画像は、パラレル撮影でない通常の画像と比較して解像度は変わらない。しかし、エコー計測数が少なくなっているため、倍速率の平方根に反比例してSN比が低下する。例えば、倍速率を2とした場合、SN比は1/√2になる。従って、計算画像のSN比も、6つの元画像中2つの元画像のSN比が1/√2となっているため、パラレル撮影をしない場合と比較すると計算画像においても若干SN比が低下する。しかし、実施形態1における解像度の低下及び撮影時間短縮効果と同様で、P1からP6までの全ての元画像の倍速率を2とした場合と比べると、SN比の低下に対して撮影時間短縮の効率は良くなる。
【0069】
従って、本実施形態によれば、TRの長い元画像の位相エンコード数を小さくして倍速率を大きくすることにより、計算画像のSN比の低下を極力抑えながら撮影時間を効率よく短縮することが可能である。
【0070】
<実施形態2の変形例>
本実施形態においても、複数の撮影パラメータセットに、TRが他より長い撮影パラメータセットが複数含まれる場合がある。その場合、実施形態1と同様に、位相エンコード数を少なくする撮影は元画像数の半数までとすることが好ましい。これにより計算画像における過度なSN比の低下を抑制することができる。
【0071】
またTRが最長の撮影パラメータセットが複数ある場合、本実施形態でも、元画像のSN比に応じて(SN比の小さい画像のSNが維持されるか大きくなるように)、位相エンコード数を小さくする撮影パラメータセットの優先順位を決定する。ただし実施形態1では、解像度を低下させて位相エンコード数を減しているため、解像度の低下によってSN比が向上する元画像、すなわちSN比の小さい元画像から優先的に位相エンコード数を小さくするものとしたが、上述のようにパラレル撮影では画像のSN比は倍速率の平方根に比例して低下するため、パラレル撮影により位相エンコード数を小さくする本実施形態では、SN比のより大きい元画像となる撮影パラメータセットから優先的に選択するのが良い。具体的には、FAが大きくRF位相増分値が0度あるいは180度に近い撮像パラメータセットを優先させる。
【0072】
このように位相エンコード数を減らせる撮影パラメータの候補が複数ある場合、TRの長さのみならず、撮影パラメータ毎に得られる画像のSN比を考慮して優先順位を決定することにより、SN比の良好な計算画像を得ることができる。特に位相エンコード数の低減手法に応じて、位相エンコード数を少なくする撮影の優先度を決定することでSN比の劣化を抑制できる。
【0073】
<表示の実施形態>
以上、位相エンコード数の減らし方が異なる2つの実施形態とその変形例を説明したが、そのいずれの手法を実行するか、或いは条件などをユーザが選択可能にしてもよい。ユーザの選択を可能にするディスプレイ120の表示例を
図11に示す。
【0074】
この表示例では、例えば、計算画像の撮影が設定されるとディスプレイ120に、計算画像の種類の選択や、画質の優先度を選択するためのGUI1100が表示される。左側の画面1101には、例えば、撮影パラメータセットが表示され、必要に応じて、ユーザによる変更を受け付けてもよい。また右側の画面には、ユーザが得たい計算画像を選択するプルダウンメニュー式のボタン1102と、所望の計算画像に応じて優先すべき画質(解像度とSN比)を選択するボタン1103が表示される。ユーザがボタン1103で「解像度」を選択し、撮像開始ボタン「ON」が操作された場合には計測部100は実施形態2の手法で計測を行う。「SN比」を選択した場合には、実施形態1の手法で計測を行う。
【0075】
なお
図11には示していないが、画面1101に表示された撮影パラメータセットを確認して、ユーザによる位相エンコード数を小さくするパラメータセットの選択を受け付けてもよい。さらに画面1101には、ユーザが参照できるようにシミュレーションにより作成した画質の異なる画像を表示させたり、元画像や生成した計算画像を表示させたりしてもよい。また2D撮影か3D撮影かの選択画面を表示させるなど種々の変更や追加が可能である。
【0076】
<実施形態3>
実施形態1、2は、2次元の計算画像を取得したが、本実施形態では、3次元の計算画像を取得する。本実施形態においても、計算画像生成部220の構成及び計算画像生成の手順は、実施形態1、2と同様であるが、本実施形態では計測部100が2方向の位相エンコードを含む3次元のパルスシーケンスを用いること、及び位相エンコードが付与される2方向について、それぞれ、位相エンコード数を減らす制御を行うことが異なる。
【0077】
本実施形態の計測部100が実行する3次元のパルスシーケンスの一例を
図12に示す。このパルスシーケンスは、
図4に示すパルスシーケンスと同様に、RF-spoiled GEシーケンスであるが、スライス方向にも位相エンコードパルスが追加される。すなわち、まず、スライス傾斜磁場パルス41の印加とともに高周波磁場(RF)パルス42を照射し、対象物体内のあるスライスの磁化を励起する。次いでスライスリフェーズ兼スライス方向の位相エンコードパルス49と位相エンコード傾斜磁場パルス44、ディフェーズ用リードアウト傾斜磁場パルス45を印加した後、リードアウト方向の位置情報を付加するためのリードアウト傾斜磁場パルス46を印加しながら磁気共鳴信号(エコー)47を計測する。そして最後にディフェーズパルス410と48を印加する。
【0078】
以上の手順を位相エンコード傾斜磁場パルス49と44の強度(位相エンコード量ks, kp)を変化させながら繰り返し時間TRで繰り返し、画像を得るのに必要なエコーを計測する。各エコーは、3次元のk空間(kr-kp-ks空間)上に配置され、3次元逆フーリエ変換によって画像が再構成される。
【0079】
以下、本実施形態の計算画像を取得する手順を説明する。本実施形態においても、計算画像取得手順は
図3に示すフローと同様であり、
図3を参照して、異なる点を中心に説明する。
【0080】
まず撮影に用いる3次元パルスシーケンスの信号関数32を数値シミュレーションにより算出しておく(S301)。
【0081】
次に、撮影パラメータFA、TR、θのパラメータ値の組み合わせを異ならせた複数の撮影パラメータセット33を用いて、複数の元画像用の計測データ34を計測する(S302)。本実施形態においても、一例として、撮影パラメータセット33は、
図6に示す6組の撮影パラメータセットとする。
【0082】
計測データ34を計測する際に、TRの長い撮影パラメータセットの撮影P1、P3において、kp方向とks方向の位相エンコード数を、他のパラメータセットの撮影の位相エンコード数よりも小さくして元画像の解像度を低下させる。すなわち位相エンコードを減らす撮影では、位相エンコードを減らした分だけk空間のkp方向及びks方向について高域のデータの計測を行わない。位相エンコード数を減らす割合は、もとのマトリクスサイズの半分までとする。
【0083】
例えば、元画像のマトリクスサイズが、リードアウト方向が:256、位相エンコード方向:120、スライス方向:40としたとき、長いTRを含まない撮影パラメータセットの撮影P2、P4~P6では、kp方向及びks方向の位相エンコード数を画像のマトリクスサイズに合わせて、それぞれ、120、40に設定する。そしてTRの長い撮影P1、P3では、kp方向及びks方向の位相エンコード数をそれぞれ1/4減らして、90、30とする。この様子を
図13に示す。
【0084】
次に、計測データ34に対して画像再構成を行い(S303)、元画像35を得る。この際、次に、元画像のマトリクスサイズを等しくするため、
図13に斜線で示すように、P1とP3の計測データ34Pのkp、ks方向の高域部分をゼロで埋めてそれぞれのサイズを120、40にしてから、フーリエ変換FFTによってP1からP6までの元画像を得る。
【0085】
こうして得られたP1からP6までの元画像35とステップS301で作成した撮影シーケンスの信号関数32とを用いて、実施形態1と同様にしてピクセル毎に被検体パラメータ等(T1、T2、B1、a(=ρSc))の推定を行い(S304)、計算画像を推定する(S305)。推定に用いた元画像のうちP1とP3の元画像は高域データを不計測としたことで、やや解像度が低下しているが、計算画像の解像度は、全ての元画像の位相エンコード数を小さくした場合よりも低下しない。これは実施形態と同様である。一方、撮影時間を比較すると、
図14に示すように、元画像1個あたりの撮影時間低減率は、約2倍となる。すなわち解像度の低下を抑え、効果的に撮影時間の低減を図ることができる。
【0086】
なお本実施形態においても、撮影パラメータセットに最長のTRのパラメータセットが複数ある場合には、画像のSN比を考慮して優先順位を決定し、優先順位の高い1ないし複数の撮影パラメータセットについて、位相エンコード数を減らす制御を行う。また位相エンコード数を小さくする画像数は、計算画像に用いる元画像全数の半数までとすることが好ましい。
【0087】
<実施形態3の変形例>
実施形態3では3次元撮影の際に2方向の位相エンコードそれぞれについて、TRの長い撮影の位相エンコード数を小さくする制御を行ったが、1方向のみ、例えば位相エンコード数の多いほう方向(kp方向)のみ位相エンコード数を減らしてもよい。また位相エンコード数を減らす割合を、2方向で異ならせてもよい。例えば、位相エンコード数の多い方向の減らす割合を位相エンコード数の少ない方向よりも多くしてもよい。
【0088】
さらに、実施形態3では、k空間の高域データを計測しないで位相エンコード数を減らしたが、計測データを均等に間引く3次元パラレル撮影を用いて位相エンコード数を小さくすることも可能である。この場合、画像再構成部210はパラレル撮影で得たデータについてパラレル再構成を行い、他の撮影の画像と同じマトリクスサイズの画像を得る。
【0089】
以上、本発明のMRI装置及び方法の実施形態を説明したが、実施形態で説明したパラメータの種類や数値は一例であって、本発明はそれに限定されるものではない。また計算画像は、撮影条件を異ならせて計測する複数の元画像から得られる画像であればよく、計算画像に対しさらに計算を施して求めることが可能な二次的な計算画像も含む。
【符号の説明】
【0090】
10:MRI装置、100:計測部、101:静磁場を発生するマグネット、102:傾斜磁場コイル、103:被検体、104:シーケンサ、105:傾斜磁場電源、106:高周波磁場発生器、107:送受信コイル、108:受信器、110:入力部、120:ディスプレイ、130:記憶媒体、200:計算機、210:画像再構成部、220:計算画像生成部、221:信号関数生成部、222:パラメータ推定部、223:画像生成部、230:制御部。