(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】車両データ同期装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/00 20060101AFI20240305BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B60W40/00
G08G1/16 E
(21)【出願番号】P 2020104302
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】南口 雄一
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-212015(JP,A)
【文献】特開2015-184243(JP,A)
【文献】特開2020-045024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の加減速を含む走行経路計画を設定する経路計画設定部(222)と、
データ同期用の車両挙動を含み、前記走行経路計画とは異なる同期用経路計画を設定する同期用経路計画設定部(224)と、
前記同期用経路計画に従って前記車両を走行させるための同期用操作量を演算する操作量演算部(226)と、
前記同期用操作量を用いて前記車両を制御することによって、前記同期用経路計画に従った前記車両の走行を実現する車両制御部(232)と、
前記車両の走行に関連する複数のデータを検出する複数の検出器(111,112)と、
前記同期用経路計画に従った前記車両の走行中に検出された前記複数のデータのずれ時間を演算するずれ時間演算部(213)と、前記ずれ時間を用い、前記走行経路計画に従った前記車両の走行において前記複数の検出器で検出される複数のデータの同期を行う同期実行部(214)と、を含む同期演算部(212)と、
を備える車両データ同期装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両データ同期装置であって、
前記同期用経路計画設定部は、前記車両の前後加速度と横加速度の少なくとも一方が、前記走行経路計画で発生されると予想される値よりも大きくなるように前記同期用経路計画を設定する、車両データ同期装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両データ同期装置であって、更に、
前記車両に乗員が乗車しているか否かを検出する乗員検出器(130)を備え、
前記同期用経路計画設定部は、前後加速度と横加速度の少なくとも一方が、前記車両に乗員が乗車している場合よりも乗員が乗車していない場合の方が大きくなるように前記同期用経路計画を設定する、車両データ同期装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両データ同期装置であって、
前記同期演算部は、
(a)第1時間範囲で検出された前記複数のデータを用いて同期演算を実行する際に、前記第1時間範囲で検出された前後加速度と横加速度の少なくとも一方を用いて前記同期演算の信頼度を演算し、
(b)前記信頼度が予め設定された閾値よりも低い場合には、前記第1時間範囲と異なる第2時間範囲において検出された前記複数のデータを用いて前記同期演算を再度実行する、車両データ同期装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両データ同期装置であって、
前記同期演算部は、前記同期用操作量が大きいほど前記信頼度を高く設定する、車両データ同期装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の車両データ同期装置であって、更に、
前記同期演算部は、前記複数の検出器のうちの少なくとも1つの検出器で得られたデータから路面の凹凸度を推定し、前記凹凸度が低いほど前記信頼度を高く設定する、車両データ同期装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の走行に使用する複数のデータを同期させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行に使用する複数のデータを同期させる技術が開示されている。この従来技術では、車両が右折または左折したときの動画データと加速度データを用いて両者を同期させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術では、右折時または左折時のデータが必要なので、車両が走行を開始してもしばらくの間はデータの同期を実行できない可能性がある。また、車両が穏やかな走行を行っているときには加速度などのデータに僅かな変化しか発生しないので、同期精度が低くなる可能性がある。そこで、車両用データの同期を確実に精度良く実行できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一形態によれば、車両データ同期装置が提供される。この車両データ同期装置は、車両の加減速を含む走行経路計画を設定する経路計画設定部(222)と、データ同期用の車両挙動を含み、前記走行経路計画とは異なる同期用経路計画を設定する同期用経路計画設定部(224)と、前記同期用経路計画に従って前記車両を走行させるための同期用操作量を演算する操作量演算部(226)と、前記同期用操作量を用いて前記車両を制御することによって、前記同期用経路計画に従った前記車両の走行を実現する車両制御部(232)と、前記車両の走行に関連する複数のデータを検出する複数の検出器(111,112)と、同期演算部(212)と、を備える。同期演算部(212)は、前記同期用経路計画に従った前記車両の走行中に検出された前記複数のデータのずれ時間を演算するずれ時間演算部(213)と、前記ずれ時間を用い、前記走行経路計画に従った前記車両の走行において前記複数の検出器で検出される複数のデータの同期を行う同期実行部(214)と、を含む。
【0006】
この車両データ同期装置によれば、走路経路計画とは異なる同期用経路計画を設定し、この同期用経路計画に従って車両を制御した際に得られる複数のデータを用いて同期を行うので、確実に精度良くデータの同期を実行することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車両データ同期装置を備える車両のブロック図。
【
図3】2つのデータの時間遅れの例を示すタイミングチャート。
【
図4A】同期用経路計画で利用可能な車両挙動の例を示す説明図。
【
図4B】同期用経路計画で利用可能な車両挙動の例を示す説明図。
【
図4C】同期用経路計画で利用可能な車両挙動の例を示す説明図。
【
図4D】同期用経路計画で利用可能な車両挙動の例を示す説明図。
【
図4E】同期用経路計画で利用可能な車両挙動の例を示す説明図。
【
図5】複数の検出器で検出できるデータの例を示す説明図。
【
図6】同期用経路計画に従った車両の挙動と検出データの例を示す説明図。
【
図7】データ同期処理の全体手順を示すフローチャート。
【
図9】経路計画設定の詳細手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に示すように、車両10は、複数の検出器100と、複数のECU(Electronic Control Unit)200と、複数のアクチュエータ300とを備える。
【0009】
複数の検出器100は、主として車両10の走行状態の検出や、周辺の物標及び走行路の検出に利用される。この例では、複数の検出器100は、第1検出器111と、第2検出器112と、加速度検出器120と、乗員検出器130とを含んでいる。第1検出器111で検出される第1データD1と、第2検出器112で検出される第2データD2は、周辺の物標及び走行路を検出するために利用される。第1検出器111及び第2検出器112としては、例えば、ジャイロや、カメラ、ミリ波レーダー、Lidar(Light Detection and Ranging)、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ等の各種のセンサを使用可能である。本実施形態では、第1データD1と第2データD2の同期を行う例を説明する。加速度検出器120は、車両10の前後加速度と横加速度の少なくとも一方を検出する。乗員検出器130は、車両10に乗員が搭乗しているか否か、及び、どの座席に搭乗しているかを検出する。本実施形態では、車両10がレベル4の自動運転を実行可能な場合を想定しており、乗員が搭乗していない場合にも車両10が走行可能である。レベル4の自動運転を利用する場合には、無人で車両10の走行が開始される場合が想定される。なお、複数の検出器100で検出されるデータを「検出データ」又は「信号」とも呼ぶ。
【0010】
複数のECU200は、認識ECU210と、演算ECU220と、制御ECU230とを含んでいる。なお、複数のECU200の区分は任意であり、3つのECU210,220,230の機能を1つ又は2つのECUで実現したり、4つ以上のECUで実現したりするように構成してもよい。以下で説明するECU200の機能は、コンピュータプログラムをECU200が実行することによって実現される。但し、それらの機能の一部または全部をハードウェアで実現してもよい。
【0011】
認識ECU210は、同期演算部212と、物標認識部216とを含む。同期演算部212は、複数のデータD1,D2のずれ時間を演算するずれ時間演算部213と、得られたずれ時間を用いて複数のデータD1,D2の同期を行う同期実行部214と、を含む。物標認識部216は、複数の検出器100で検出されたデータを用いて車両10の周辺の物標や走行路を認識する処理を実行する。
【0012】
演算ECU220は、経路計画設定部222と、同期用経路計画設定部224と、操作量演算部226とを含む。
【0013】
経路計画設定部222は、車両10を目的地に到達させるための通常の走行経路計画を設定する。通常の走行経路計画は、ナビゲーション機能を利用して決定される目的地までの走行経路と、走行経路に沿って車両10を走行させるための車両10の速度及び加速度と、操舵処理とを含んでいる。また、この経路計画は、複数の検出器100による検出結果を用いて逐次変更される。
【0014】
同期用経路計画設定部224は、複数のデータD1,D2の同期を行うための同期用経路計画を設定する。同期用経路計画は、データ同期用の車両挙動を含んでおり、通常の走路経路計画とは異なっている。特に、同期用経路計画は、車両10の前後加速度と横加速度の少なくとも一方が、通常の走行経路計画で発生されると予想される値よりも大きくなるように設定されることが好ましい。この理由は、前後加速度や横加速度が大きい方が検出データの変動が大きいので、同期をより正確に実行できるからである。
【0015】
操作量演算部226は、通常の走行経路計画又は同期用経路計画に従って車両10を走行させるための操作量を演算する。得られた操作量は、車両制御部232から複数のアクチュエータ300に供給され、これによって車両10が制御される。
【0016】
複数のアクチュエータ300は、駆動アクチュエータ311と、制動アクチュエータ312と、操舵アクチュエータ313とを含む。駆動アクチュエータ311は、車両10の車輪を駆動する。制動アクチュエータ312は、車両10のブレーキを駆動する。操舵アクチュエータ313は、前輪である2つの車輪の舵角を調整する機構を駆動する。
【0017】
複数のデータD1,D2の同期は以下のようにして行われる。車両10の起動後に、同期演算がまだ行われていない場合には、同期用経路計画設定部224が同期演算に適した所望の車両挙動を得るための同期用経路計画を設定する。操作量演算部226は、同期用経路計画に従って走行するための同期用操作量を演算し、車両制御部232が同期用操作量を用いてアクチュエータ300を制御することによって同期用の車両挙動を発生させる。その車両挙動の間に複数の検出器111,112で検出された複数のデータD1,D2を用いて、ずれ時間演算部213が複数のデータD1,D2のずれ時間を演算し、同期実行部214が複数のデータD1,D2の同期を実行する。具体的には、最も遅いデータに合わせるように、他のデータをずれ時間分だけ遅らせる。こうして同期した複数のデータを用いることにより、物標認識部216で周囲の物標や走路の認識を正確に実施することができる。このような同期の詳細な手順については更に後述する。
【0018】
図2に示すように、データの時間遅れは、以下の3つの工程P1~P3に要する時間に起因する。
・検出器100でのデータ取得工程P1
・検出器100でのデータ処理工程P2
・検出器100から認識ECU220までのデータ送信工程P3
例えば、カメラでは、撮像がデータ取得工程P1に相当し、画像処理がデータ処理工程P2に相当し、CAN(Controller Area Network)通信がデータ送信工程P3に相当する。複数の検出器100では、これらの工程P1~P3に要する時間が異なるので、複数のデータに時間ずれが発生し、同期が必要となる。
【0019】
図3では、車両10の起動信号STと、検出器111,112で検出されるデータD1,D2と、認識ECU220の動作を示す信号と、の時間変化の例を示している。車両10のスタートスイッチの操作によって時刻t0で起動信号STが立ち上がると、検出器111,112と認識ECU220が起動する。時刻t1で各装置がイニシャライズされると、検出器111,112によるデータ取得工程P1が開始され、その後、データ処理工程P2とデータ送信工程P3を経て、データD1,D2が認識ECU220によって取得される。2つのデータD1,D2は、3つの工程P1~P3に要する時間の差に起因して遅れ時間が互いに異なるので、認識ECU220がデータD1を取得する時刻t2とデータD2を取得する時刻t3の間には、ずれ時間が生じる。データD1,D2の同期は、このずれ時間が解消するように、より遅延の大きなデータD1に合わせて、他のデータD2を遅延させる処理である。
【0020】
なお、時刻t1におけるイニシャライズにおいて、各装置の同期処理が行われる場合がある。しかし、このような同期処理を実行したとしても、個々のデータに関する工程P1~P3での遅れ要素が異なると、そのデータを認識ECU220で使用する段階では同期がとれていない。また、予め個々のデータの遅れ時間を想定したとしても、遅れ要素の種類によっては実際の遅れ時間が想定していた値と異なる可能性がある。更に、システム拡張性を持たせるために、検出器をアドオンで追加できるようにシステムが構成されている場合には、その検出器で検出されたデータの遅れ時間を予め想定できないため、認識ECU220側でデータを使用する段階で同期を取る必要が生じる。本開示では、このような種々の場合にも、複数のデータの同期を実行することが可能となる。なお、複数のデータ間に同期ずれがあると、認識ECU220が複数のデータを用いて物標を認識するときに、物標の位置や速度に誤差が生じるため、自動運転走行時にふらつきや衝突回避遅れ等の不具合が発生する可能性がある。本開示では、複数のデータ間の同期ずれを数ミリ秒以内に収めることができ、物標の位置や速度の誤差を最小限に留めることが可能である。なお、データの同期は、車両10の起動後、可能な限り早期に実行することが好ましい。具体的には、データの同期は、例えば、車両10の起動後の1分~5分の範囲内に設定することが好ましい。
【0021】
図4A~
図4Eに示すように、同期用経路計画で利用可能なデータ同期用の車両挙動としては種々のものがある。
図4A及び
図4Bは、加速時及び減速時に少し急なアクセル操作を行う車両挙動であり、車両10の前後加速度が大きく変動する。
図4C~
図4Eは、スラローム、レーンチェンジ、又は、左折/右折によって、少し大きめの操舵変更を行う車両挙動であり、車両10の横加速度やヨーレートが大きく変動する。
【0022】
同期用経路計画で採用されるデータ同期用の車両挙動は、主として以下の2つの観点から選択される。
(1)精度良く同期できる車両挙動を、車両10が自動で実行する。これにより、早く確実に時間同期を行うことが可能となる。
(2)同期の精度は、データの変化が大きいほど高くなるため、不具合が発生しない範囲内において急激な車両挙動を意図的に実行する。これにより、同期精度を向上させることができる。特に、加速と制動を何回か繰り返すと、同期精度を容易に向上させることが可能である。
【0023】
図5に示すように、検出器100の種類に応じて、他の検出器で検出できる物理量は異なる。データの同期を行うためには、複数の検出器が同じ物理量を検出可能である必要がある。
図5の例において、データの同期を行うことのできる検出器の組み合わせは、以下のように複数組存在する。
(1)ピッチレート又はロールレートを用いて同期可能な検出器群:ジャイロ、カメラ
(2)車速を用いて同期可能な検出器群:ミリ波レーダー、Lidar、GNSS
(3)自車の方位角を用いて同期可能な検出器群:ジャイロ、GNSS
(4)物標の方位角を用いて同期可能な検出器群:ミリ波レーダー、Lidar
「自車の方位角」とは、北向き等の基準方向に対する車両10の進行方向の角度である。「物標の方位角」とは、車両10の進行方向を基準方向とした車両10から物標に向かう方向の角度である。
【0024】
多数の検出器で検出されるデータの同期を行うためには、これらの複数の組み合わせのうちの2つ以上の組み合わせについて、それぞれデータの同期を行うことが好ましい。但し、本実施形態では、2つの検出器111,112の組み合わせに関してデータの同期を行う例のみを説明する。
【0025】
図6に示すように、本実施形態では、データD1,D2として制動時のピッチレートを使用する。このとき、例えば、検出器111,112の一方はカメラであり、他方はジャイロである。
図6では、ブレーキ圧の変化と、ブレーキ圧を高めたときの車両挙動としての実際のピッチレートの変化と、検出器出力としてのデータD1,D2の変化と、を示している。ピッチレートを示す2つのデータD1,D2は、車両挙動としての実際のピッチレートからはそれぞれ時間遅れが生じており、また、両者の間にずれ時間が生じている。ずれ時間演算部213は、このずれ時間を演算し、同期実行部214は、得られたずれ時間を用いて、その後に複数の検出器111,112で得られるデータD1,D2の同期を行う。
【0026】
図6の例では、減速開始時と車両停止時の2つの期間においてピッチレートにピークが発生している。このように、同期用の車両挙動において、データにピークが現れる複数のピーク発生期間が存在する場合には、いずれのピーク発生期間のデータを利用して同期を行うかを選択することが好ましい。この選択は、例えば、以下の選択方法のいずれかに従って行うようにしてもよい。
<選択方法1>
ピークがより大きなピーク発生期間を選択する。
<選択方法2>
データD1,D2の波形の類似度がより大きなピーク発生期間を選択する。
【0027】
データD1,D2の波形の類似度Simは、例えば次式で算出可能である。
Sim=1/(1+d) …(1)
d={Σ(D1*-D2*)2}0.5 …(2)
ここで、D1*,D2*は、元のデータD1,D2をずれ時間だけずらした後のデータであり、Σはピーク発生期間における加算を意味する。(2)式で与えられる値dは、2つのデータD1*,D2*のユークリッド距離である。この類似度Simは、0~1の範囲の値を取り、データD1,D2の波形が類似しているほど1に近くなる。なお、類似度Simを算出する式としては、これ以外の種々の式を利用可能である。上述した選択方法1,2のいずれかを使用すれば、より正確なずれ時間を決定することができる。
【0028】
図7に示すデータ同期処理は、車両10の稼働中に一定時間毎に繰り返し実行される。ステップS10では、認識ECU220が複数の検出器100からデータを取得する。ステップS20では、同期演算部212がデータの同期演算を実行する。このステップS20の詳細手順は後述する。ステップS30では、同期済みのデータを用いて、物標認識部216が物標や走路の認識を実行する。ステップS40では、経路計画設定部222と同期用経路計画設定部224が、経路計画の設定を行う。ステップS40の詳細手順については後述する。ステップS50では、操作量演算部226が、経路計画に従って車両10を走行させるための操作量を演算する。ステップS60では、車両制御部232が、操作量を使用して車両10の制御を実行することによって、経路計画に従った車両10の走行を実現する。
【0029】
図8に示すように、
図7のステップS20における同期演算では、以下の3つのフラグが使用される。
<ずれ時間演算完了フラグ>
ずれ時間演算完了フラグは、ずれ時間の演算が完了していなければオフ、完了していればオンとなるフラグであり、ずれ時間演算部213によって設定される。
<同期用経路要フラグ>
同期用経路要フラグは、同期用経路計画を設定する必要がある場合にはオン、同期用経路計画を設定する必要がない場合にはオフとなるフラグであり、ずれ時間演算部213によって設定されて、同期用経路計画設定部224に通知される。
<同期用経路計画フラグ>
同期用経路計画フラグは、同期用経路計画に従った経路区間における走行が実行中であればオン、その走行が完了した場合にはオフとなるフラグであり、同期用経路計画設定部224によって設定されて、ずれ時間演算部213に通知される。
【0030】
ステップS21では、ずれ時間演算完了フラグがオンか否かが判断される。ずれ時間演算完了フラグがオンであれば既にずれ時間の演算が完了しているので、
図8の処理を終了する。一方、ずれ時間演算完了フラグがオフであればステップS22に進み、同期用経路要フラグをオンに切り替える。この同期用経路要フラグは、ずれ時間演算部213から同期用経路計画設定部224に通知される。同期用経路計画設定部224は、この通知に応じて同期用経路計画の設定を直ちに開始してもよく、あるいは、他のトリガーを受けるまで待機してから同期用経路計画の設定を開始してもよい。
【0031】
ステップS23では、同期用経路計画フラグが、
図8のルーチンの前回の実行時にオンであった状態から今回の実行時にオフに切り替わったか否かが判断される。同期用経路計画フラグがオンのままの場合やオフのままの場合には、ずれ時間の演算を行わずに、
図8の処理を終了する。この理由は、同期用経路計画フラグがオンのままの場合は、同期用経路計画に従った走行が実行中であり、また、同期用経路計画フラグがオフのままの場合には、同期用経路計画に従った走行が行われていないからである。なお、同期用経路計画フラグがオンのままの場合は、同期用経路計画に従った走行によって得られたデータが保存される。保存されたデータは、次回以降のずれ時間演算に使用される。同期用経路計画フラグがオンからオフに切り替わった場合には、ステップS24に進み、ずれ時間演算が実行される。
【0032】
ずれ時間の演算方法としては、例えば以下のいずれかを使用可能である。
<ずれ時間の演算方法1>
データD1,D2の最大ピーク同士の時間差、又は、最小ピーク同士の時間差をずれ時間として決定する。
<ずれ時間の演算方法2>
データD1,D2に関する予め定められた評価関数が最小となる時間差をずれ時間として決定する。評価関数としては、例えば上述したユークリッド距離を使用してもよい。
【0033】
なお、同期演算部212は、ずれ時間演算の信頼度を演算し、信頼度が予め設定された閾値よりも低い場合には、最初にずれ時間演算を行った際に使用したデータD1,D2の時間範囲とは異なる時間範囲においてデータD1,D2を再度取得し、再取得されたデータD1,D2を用いて同期演算を再度実行するようにしてもよい。こうすれば、ずれ時間の信頼度が低い場合に、より信頼度の高いずれ時間を取得することが可能となる。なお、「ずれ時間演算の信頼度」を、「同期演算の信頼度」とも呼ぶ。最初にずれ時間演算を行った際に使用したデータD1,D2の時間範囲とは異なる時間範囲は、通常は、新たな同期用経路計画を設定することによって設定される。ずれ時間の信頼度は、データD1,D2を取得した時間範囲で検出された前後加速度と横加速度の少なくとも一方を用いて算出することが可能である。こうすれば、同期演算の信頼度が低い場合に、より信頼度が高い同期演算を行うことが可能となる。前後加速度と横加速度は、データD1,D2の検出器111,112、又は、加速度検出器120で検出可能である。
【0034】
同期演算の信頼度Reは、例えば、前後加速度や横加速度が大きいほど高くなるように設定してもよい。例えば、信頼度Reを次式で算出してもよい。
Re=f1(G1)+f2(G2) …(3)
ここで、G1は前後加速度のピーク値、G2は横加速度のピーク値、f1はG1の絶対値が大きいほど大きな値を与える関数、f2はG2の絶対値が大きいほど大きな値を与える関数である。なお、f1(G1)=k1・|G1|,f2(G2)=k2・|G2|としてもよい。ここで、k1,k2は、所定の正の定数である。前後加速度や横加速度が大きいほど信頼度Reを高く設定すれば、より適切な同期を実行することが可能となる。
【0035】
同期演算部212は、また、同期用経路計画に従った車両挙動を与えるための同期用操作量が大きいほど、同期演算の信頼度Reを高く設定してもよい。例えば、信頼度Reを次式で算出してもよい。
Re=f1(G1)+f2(G2)+f3(Ac) …(4)
ここで、Acは同期用操作量、f3はAcの絶対値が大きいほど大きな値を与える関数である。同期用操作量が大きいほど同期演算の信頼度Reを高く設定すれば、より適切な同期を実行することが可能となる。
【0036】
同期演算部212は、更に、同期用走行経路の路面の凹凸度が低いほど、同期演算の信頼度Reを高く設定してもよい。例えば、信頼度Reを次式で算出してもよい。
Re=f1(G1)+f2(G2)+f3(Ac)+f4(Bp) …(5)
ここで、Bpは路面の凹凸度、f4はBpの絶対値が大きいほど大きな値を与える関数である。路面の凹凸度は、カメラや加速度検出器120などの、複数の検出器100のうちの少なくとも1つの検出器で得られたデータから推定することができる。路面の凹凸度を推定する凹凸度推定部は、同期演算部212の中に実装してもよく、他の演算部やECUに実装してもよい。路面の凹凸度が大きいほど同期演算の信頼度Reを高く設定すれば、より適切な同期を実行することが可能となる。なお、上記(5)式の右辺の4つの項のうちの1つ以上を任意に省略可能である。
【0037】
同期演算部212は、こうして得られた同期演算の信頼度Reが予め定められた閾値を超えるまで、同期演算を繰り返し実行することが好ましい。この際、同期用経路計画設定部224が、新たな同期用経路計画を設定して、ずれ時間演算用のデータD1,D2を再取得するようにしてもよい。こうすれば、予め定められた閾値を超える信頼度Reが得られるまで同期演算をくり返すので、データ同期をより精度良く行うことが可能である。
【0038】
ずれ時間の演算が完了すると、ステップS25において、ずれ時間演算完了フラグがオンに切り替えられ、ステップS26では同期用経路要フラグがオフに切り替えられる。こうして
図8の処理が終了すると、
図7のステップS30に進む。
【0039】
ステップS30では、複数の検出器100の検出結果を利用して、物標や走路の検出が実行される。この際には、同期済みのデータが利用される。
【0040】
図9に示すように、
図7のステップS40における経路計画設定では、まず、ステップS41において通常の走行経路計画が設定される。前述したように、通常の走行経路計画は、ナビゲーション機能を利用して決定される目的地までの走行経路と、走行経路に沿って車両10を走行させるための車両10の速度及び加速度と、操舵処理とを含んでいる。
【0041】
ステップS42では、同期用経路要フラグがオンかオフかが判定される。同期用経路要フラグがオフの場合には、同期用経路計画が不要なので、
図9の処理を終了する。一方、同期用経路要フラグがオンの場合には、ステップS43に進み、同期用経路計画が設定される。同期用経路計画は、同期用走行経路と、同期用走行経路に沿って車両10を走行させるための車両10の速度及び加速度と、操舵処理とを含んでいる。このうち、同期用走行経路は、通常の走行経路計画による走行経路と同じでもよい。また、同期用経路計画は、車両10の加速度と操舵処理のうちの少なくとも一方が通常の走行経路計画と異なるように設定されていることが好ましい。特に、同期用経路計画は、車両10の前後加速度と横加速度の少なくとも一方が、通常の走行経路計画で発生されると予想される値よりも大きくなるように設定されることが好ましい。同期用経路計画に従った前後加速度や横加速度を通常の走行経路計画よりも大きくすれば、より正確にデータ同期を行うことが可能となる。
【0042】
なお、同期用走行経路を通常の走行経路計画による走行経路と同じに維持したままではデータ同期に適した車両挙動が得られない場合には、同期用走行経路を通常の走行経路計画による走行経路から大幅に変更してもよい。こうすれば、通常の走行経路計画とは異なる走行経路に沿って車両10を走行させることによって、データ同期に適した車両挙動を発生させることができる。
【0043】
同期用経路計画は、また、車両10の前後加速度と横加速度の少なくとも一方が、車両10に乗員が乗車している場合よりも乗員が乗車していない場合の方が大きくなるように設定されることが好ましい。車両10に乗員が乗車しているか否かは、乗員検出器130によって検出される。車両10に乗員が乗車していない場合の方が前後加速度や横加速度を大きく設定することが好ましい理由は、車両10に乗員が全く乗車していないときに大きな加速度を発生させても、乗員に不安を与えるおそれが無いためである。一方、車両10に乗員が乗車している場合には、同期用操作量に上限値を設け、最小限の同期精度を確保できる状態にすることが好ましい。こうすれば、乗員の乗り心地を過度に悪化させることなく、データ同期を行うことが可能となる。
【0044】
ステップS44では、同期用経路計画フラグの演算が開始される。
図8に即して説明したように、同期用経路計画フラグは、同期用経路計画に従った経路区間における走行が実行中であればオン、その走行が完了した場合にオフとなるフラグである。同期用経路計画設定部224は、同期用経路計画に従った経路区間における走行が開始されると同期用経路計画フラグをオフからオンに切り替え、その経路区間における走行が終了すると同期用経路計画フラグをオンからオフに切り替える。この同期用経路計画フラグの演算は、同期用経路計画に従った経路区間における走行が終了するまで継続して実行される。
【0045】
ステップS45では、通常の走行経路計画と同期用経路計画がマージされる。典型的な例では、通常の走行経路計画と同期用経路計画は、走行経路は同じであり、車両10の加速度と操舵処理のうちの少なくとも一方が互いに異なる。また、同期用経路計画の走行経路は、通常の走行経路の一部である。従って、両者をマージして合体することによって、目的地に向かう走行経路計画をうまく作成することが可能となる。
【0046】
こうして走行経路計画の設定が終了すると、
図7のステップS50において車両10の操作量が演算され、ステップS60において車両10の走行が実行される。このとき、車両10が同期用経路計画に従って走行する場合には、その走行により得られたデータD1,D2を用いて、
図7の処理フローの次回の実行時に、ステップS20において同期用のずれ時間演算を伴う同期演算が実行される。
【0047】
以上のように、本実施形態では、通常の走路経路計画とは異なる同期用経路計画を設定し、この同期用経路計画に従って車両10を制御した際に得られる複数のデータD1,D2を用いて同期を行うので、確実に精度良くデータD1,D2の同期を実行することが可能である。
【0048】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0049】
本開示は上述した実施形態やその変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。また、上述した種々の特徴的な構成は、互いに矛盾しない限り、任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…車両、100,111,112…検出器、120…加速度検出器、130…乗員検出器、212…同期演算部、213…ずれ時間演算部、214…同期実行部、216…物標認識部、222…経路計画設定部、224…同期用経路計画設定部、226…操作量演算部、232…車両制御部