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特許7448433サブマージアーク溶接用フラックス、サブマージアーク溶接方法、及びサブマージアーク溶接用フラックスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接用フラックス、サブマージアーク溶接方法、及びサブマージアーク溶接用フラックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20240305BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20240305BHJP
   B23K 35/40 20060101ALI20240305BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240305BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
B23K35/362 310B
B23K9/18 G
B23K35/40 C
C22C38/00 301A
C22C38/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020117993
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2021045786
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019166576
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】加納 覚
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125568(WO,A1)
【文献】特開2017-094359(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182025(WO,A1)
【文献】特開2012-161827(JP,A)
【文献】特開2013-126680(JP,A)
【文献】特開2014-198344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/362
B23K 9/18
B23K 35/40
C22C 38/00 - 38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接に用いるフラックスであって、
フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、炭酸塩と、を含み、
前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、
フラックス全質量に対する含有量は、
MnのMnO換算値が2~8質量%、
COが0.5質量%以上、かつ
前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及び前記COが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、
前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上である、サブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項2】
前記高融点酸化物は、MgO及びTiOの少なくとも一方を含み、
フラックス全質量に対する含有量は、
MgのMgO換算値が25質量%以下、かつ
TiのTiO換算値が9質量%以下であり、
前記高融点酸化物の合計の含有量に対する、前記MgO換算値及び前記TiO換算値の合計の含有量の割合{(MgO換算値+TiO換算値)/高融点酸化物の合計の含有量}が0.430以上である、請求項1に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項3】
フラックス全質量に対する、前記高融点酸化物の含有量は、
前記CaO換算値が10質量%以下、
AlのAl換算値が25質量%以下、かつ
前記MgO換算値、前記TiO換算値、前記CaO換算値及び前記Al換算値が、30≦(MgO換算値+0.67TiO換算値+0.92CaO換算値+0.74Al換算値)≦50の関係を満たす、請求項2に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項4】
フラックス全質量に対する、融点が1800℃未満である酸化物の含有量は、
SiのSiO換算値が20質量%以下、
FeのFeO換算値が5質量%以下、
BのB換算値が1質量%以下、かつ
アルカリ金属元素のアルカリ金属酸化物換算値が5.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項5】
前記アルカリ金属酸化物換算値が、NaO、KO及びLiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物に換算した値である、請求項4に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項6】
フラックス全質量に対する含有量は、
前記CaF換算値が20質量%以上、かつ
前記COが6.0質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接用フラックス。
【請求項7】
フラックスを用いてアーク溶接を行うサブマージアーク溶接方法であって、
前記フラックスは、
フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、炭酸塩と、を含み、
前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、
フラックス全質量に対する含有量は、
MnのMnO換算値が2~8質量%、
COが0.5質量%以上、かつ
前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及び前記COが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、
前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上であるものを用いる、サブマージアーク溶接方法。
【請求項8】
被溶接材は、開先がU開先又はV開先の加工がなされ、開先角度が10~60°である、請求項7に記載のサブマージアーク溶接方法。
【請求項9】
サブマージアーク溶接に用いるフラックスの製造方法であって、
原料由来の造粒物を400~950℃で焼成する工程を含み、
前記焼成する工程後のフラックスは、
フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、炭酸塩と、を含み、
前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、
フラックス全質量に対する含有量は、
MnのMnO換算値が2~8質量%、
COが0.5質量%以上、かつ
前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及び前記COが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、
前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上である、サブマージアーク溶接用フラックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接に用いられるフラックスに関し、より詳しくは、溶接作業性、中でもスラグ剥離性に優れたサブマージアーク溶接用フラックスに関する。また、前記フラックスを用いたサブマージアーク溶接方法及び前記フラックスの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接とは、粒状のフラックスを予め溶接部に沿って散布し、そのフラックス内に溶接ワイヤを連続的に供給し、フラックスに覆われた状態で、被溶接材と溶接ワイヤの先端との間でアークを発生させて溶接を行う方法である。
【0003】
サブマージアーク溶接における溶接作業性の改善を目的として、様々な検討が行われている。
例えば、特許文献1及び2には、フラックスを構成する成分の含有量を特定すると共に、MgO含有量と、Al、CaF換算値及びTiOの総含有量との比を特定の範囲にすることにより、溶接電流が交流式及び直流式のいずれであっても、溶接作業性が良好となることが開示されている。さらに、特許文献1及び2には、溶接金属中の拡散性水素量を低減できることも開示され、特許文献2ではフラックスの吸湿量を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-112633号公報
【文献】特開2016-140889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、狭開先溶接等、特に施工困難な溶接においては、ビードが凸形状になりやすく、特に止端部のスラグ剥離性を確保することが困難であった。
【0006】
これに対し、本発明者はMnなる元素に着目し、Mnを添加するほどスラグ剥離性が向上することを見出した。一方で、Mnの添加により鉄粒突起物(以下、単に「鉄粒」と称する。)やポックマークの発生が誘発され、溶接作業性のひとつであるビード外観又は表面欠陥といった点で課題が残る。
【0007】
本発明は上記した状況に鑑みてなされたものであり、施工条件を問わず、鉄粒やポックマーク等の表面欠陥の発生を抑制しつつ、スラグ剥離性に優れたサブマージアーク溶接用フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るフラックスは、サブマージアーク溶接に用いられ、フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、を含み、前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、フラックス全質量に対する含有量は、MnのMnO換算値が2~8質量%、かつ前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及びCOが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上である、サブマージアーク溶接用フラックスである。
【0009】
上記サブマージアーク溶接用フラックスにおいて、前記高融点酸化物は、MgO及びTiOの少なくとも一方を含み、フラックス全質量に対する含有量は、MgのMgO換算値が25質量%以下、かつTiのTiO換算値が9質量%以下であり、前記高融点酸化物の合計の含有量に対する、前記MgO換算値及び前記TiO換算値の合計の含有量の割合{(MgO換算値+TiO換算値)/高融点酸化物の合計の含有量}が0.430以上であってもよい。
上記サブマージアーク溶接用フラックスにおいて更に、フラックス全質量に対する、前記高融点酸化物の含有量は、前記CaO換算値が10質量%以下、AlのAl換算値が25質量%以下、かつ前記MgO換算値、前記TiO換算値、前記CaO換算値及び前記Al換算値が、30≦(MgO換算値+0.67TiO換算値+0.92CaO換算値+0.74Al換算値)≦50の関係を満たしてもよい。
【0010】
上記サブマージアーク溶接用フラックスにおいて、フラックス全質量に対する、融点が1800℃未満である酸化物の含有量は、SiのSiO換算値が20質量%以下、FeのFeO換算値が5質量%以下、BのB換算値が1質量%以下、かつアルカリ金属元素のアルカリ金属酸化物換算値が5.0質量%以下であってもよい。
上記サブマージアーク溶接用フラックスにおいて更に、前記アルカリ金属酸化物換算値が、NaO、KO及びLiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物に換算した値であってもよい。
【0011】
上記サブマージアーク溶接用フラックスにおいて、フラックス全質量に対する含有量は、前記CaF換算値が20質量%以上、かつ前記COが6.0質量%以下であっても
よい。
【0012】
本発明の一態様に係る溶接方法は、フラックスを用いてアーク溶接を行うサブマージアーク溶接方法であって、前記フラックスは、フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、を含み、前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、フラックス全質量に対する含有量は、MnのMnO換算値が2~8質量%、かつ前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及びCOが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上であるものを用いる。
上記サブマージアーク溶接方法において、被溶接材は、開先がU開先又はV開先の加工がなされ、開先角度が10~60°であってもよい。
【0013】
本発明の一態様に係るフラックスの製造方法は、サブマージアーク溶接に用いるフラックスの製造方法であって、原料由来の造粒物を400~950℃で焼成する工程を含み、前記焼成する工程後のフラックスは、フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、を含み、前記酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含み、フラックス全質量に対する含有量は、MnのMnO換算値が2~8質量%、かつ前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及びCOが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たし、前記酸化物の合計の含有量に対する、前記高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)が0.56以上である、サブマージアーク溶接用フラックスの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄粒やポックマークの発生を抑制しつつ、スラグ剥離性に優れたサブマージアーク溶接用フラックスを提供することができる。かかるフラックスを用いてサブマージアーク溶接を行うことにより、施工条件を問わず、優れたスラグ剥離性と、表面欠陥の少ない良好なビード外観とを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0016】
<フラックス>
本実施形態に係るサブマージアーク溶接用フラックス(以下、単に「フラックス」と称することがある。)は、フッ化物と、Mnを含む酸化物と、Caを含む酸化物と、を含み、酸化物は、融点が1800℃以上である高融点酸化物を含む。
フラックス全質量に対する含有量は、MnのMnO換算値が2~8質量%、かつ前記MnO換算値、FのCaF換算値、CaのCaO換算値及びCOが、1.6≦{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}の関係を満たす。また、酸化物の合計の含有量に対する、高融点酸化物の合計の含有量の割合(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)は0.56以上である。
【0017】
高融点酸化物としては、MgO、TiO、CaO、Al、ZrO、BaO等が挙げられる。
上記に加え、フラックスは融点が1800℃未満である酸化物も含むことができ、例えば、MnO、MnO、Mn、SiO、B、FeO、Fe、Fe、アルカリ金属酸化物等が挙げられる。
【0018】
以下、本実施形態に係るフラックスにおける各成分の含有量について説明する。なお、本実施形態における含有量とは、特に説明がない限り、フラックス全質量に対する質量%を意味する。また、フラックスを構成する各成分の一部は、分析で得られた各元素量を、JIS Z 3352:2017等に基づいて、酸化物又はフッ化物に換算した換算値を含有量とする。そのため、フラックス全質量に対する各成分の含有量の合計は、100質量%を超える場合がある。
【0019】
[MnのMnO換算値:2~8質量%]
MnO換算値は、フラックスの全Mn量を、MnOに換算した値である。測定される全Mn量には、MnO2、MnなどのMnO以外の成分が含まれることがあるが、これらの成分はほぼ同様の効果を有するため、全MnのMnO換算値が前述した範囲内であればよい。
MnOは、スラグの粘性及び凝固温度に影響を与え、スラグ剥離性の向上に有効な必須の成分である。MnO、MnO及びMnなどの酸化物の形態の中でも、特にMnOまたはMnOの形態で添加すると、その有用性が発揮される。
このように、MnOの含有量が多いほどスラグ剥離性が向上する。一方で、MnOの含有量を多くすると、鉄粒やポックマークが発生しやすくなることが分かった。
【0020】
鉄粒の発生メカニズムは以下のように考えられる。まず、フラックス中の鉄粉が溶融スラグ中で凝集して大きな金属粒となって沈降する。その際にビード表面が溶融状態であれば金属粒はそのまま溶接金属となるが、ビード表面が凝固状態であれば金属粒はビード表面に付着して鉄粒となる。
すなわち、溶融状態にあるスラグ中を金属粒が沈降する際に、ビード表面が溶融状態であれば鉄粒の発生を抑制することができる。ビード表面を溶融状態とするためには、スラグの凝固温度を高くする方法が挙げられる。
これに対し、MnOの融点は1785℃程度であり高融点酸化物ではない。そのため、MnOの含有量を多くし過ぎると、鉄粒が発生しやすくなるものと考えられる。
【0021】
一方、スラグの凝固温度を高くし過ぎると、発生した気泡が逃げにくくなることでポックマークが発生しやすくなるものと推測される。この他に、スラグ中の水分量が多い場合にも、ポックマークは発生しやすい。
その他、吸湿性もポックマークの発生の一因となり得るものと推測され、MnOは吸湿性が高いことから、MnOの含有量を多くし過ぎると、ポックマークが発生しやすくなるものと考えられる。
【0022】
上記理由により、本実施形態におけるMnのMnO換算値での含有量は2質量%以上であり、2.5質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、MnO換算値は8質量%以下であり、7.5質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。
【0023】
[FのCaF換算値]
CaF換算値は、フラックスの全F量を、CaFに換算した値である。測定される全F量には、AlFやMgFなどのCaF以外のフッ化物が含まれることがあるが、形態を問わず、フッ化物として、CaFとほぼ同様の効果を有するため、全F量のCaF換算値が前述した範囲内であればよい。
フッ化物は、ポックマーク発生の抑制やスラグの電気伝導性や流動性を高める成分である。なお、流動性に係る作用については、後述するCaOと同様、その存在量に比例するものであって、スラグの高温粘性に影響を与える成分の1つである。
【0024】
本実施形態におけるFのCaF換算値での含有量は、溶融スラグからのガスの排出促進により、ポックマークの発生を抑制する点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、27質量%以上がさらに好ましい。一方、多すぎるとスラグの流動性が高くなりすぎて、ビード形状が劣化する。そのため、CaF換算値は35質量%以下が好ましく、33質量%以下がより好ましい。
【0025】
[MgのMgO換算値]
MgO換算値は、フラックスの全Mg量を、MgOに換算した値である。
MgOは融点が2800℃である高融点酸化物であり、スラグ剥離性の向上に大きく寄与する。かかる効果を得るために、MgのMgO換算値での含有量は15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、17質量%以上がさらに好ましい。一方、多すぎるとビード形状が劣化し、スラグ巻込み、融合不良等が起こりやすく、さらにはアンダーカット等の結果も発生しやすくなる。また、スラグの凝固温度が高くなり過ぎてポックマークが発生しやすくなるおそれがある。そのため、MgO換算値は25質量%以下が好ましく、24質量%以下がより好ましく、23質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
[TiのTiO換算値]
TiO換算値は、フラックスの全Ti量を、TiOに換算した値である。
TiOは融点が1870℃である高融点酸化物であり、スラグ剥離性の向上に有効な成分であると同時に、適正量の添加によりビード外観を良好に整える効果も有する。また、TiOの一部は、溶接時の還元反応によりTiとなって溶接金属中へも添加され、靱性の向上にも寄与する。かかる効果を得るために、TiのTiO換算値での含有量は、0超えであることが好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましい。一方、多すぎると、ビード形状が劣化したり、スラグの凝固温度が高くなり過ぎてポックマークが発生しやすくなるおそれがある。そのため、TiO換算値は、9質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3.5質量%以下がさらに好ましい。
【0027】
[CaのCaO換算値]
CaO換算値は、フラックスの全Ca量から、全F量から換算されるCaF換算値に含まれるCa量を差し引いたCa量をCaOに換算した値である。
CaOは融点が2572℃である高融点酸化物であり、スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高め、スラグの流動性にも影響を与える成分である。この作用は、その存在量に比例するものであって、CaのCaO換算値での含有量の下限は特に限定されないが、例えば0.5質量%以上が好ましい。一方、CaOが多すぎると溶融スラグの流動性が過大になってビード外観及びビード形状が悪化するおそれがある。また、CaOはMnOと同様に吸湿性が高いことから、CaO含有量が多すぎると、ポックマークが発生しやすくなるおそれもある。そのため、CaO換算値は、10質量%以下が好ましく、9.5質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
[AlのAl換算値]
Al換算値は、フラックスの全Al量を、Alに換算した値である。
Alは融点が2072℃である高融点酸化物であり、スラグの粘性及び融点を調整する成分であり、スラグの凝固温度を高くし、溶接時のビード形状を良好にする効果がある。かかる効果を得るために、AlのAl換算値での含有量は10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。一方、多すぎるとスラグの融点が上昇しすぎて溶接時にビード形状の劣化を招くおそれがある。そのため、Al換算値は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0029】
[ZrのZrO換算値]
ZrO換算値は、フラックスの全Zr量をZrOに換算した値である。
ZrOは融点が2715℃である高融点酸化物であって、スラグの粘性及び融点を調整する成分であり、スラグの凝固温度を高くし、溶接時のビード形状を良好にする効果がある。この作用は、その存在量に比例するものであって、任意の成分であり、ZrのZrO換算値での含有量の下限は特に限定されないが、有用な作用を付与したい場合は、例えば0.5質量%以上が好ましい。一方、ZrOが多すぎると溶融スラグの融点が過大になってビード外観及びビード形状が悪化するおそれがある。そのため、ZrO換算値は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0030】
[BaのBaO換算値]
BaO換算値は、フラックスの全Ba量をBaOに換算した値である。
BaOは融点が1923℃である高融点酸化物であり、スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高め、スラグの流動性にも影響を与える成分である。この作用は、その存在量に比例するものであって、任意の成分であり、BaのBaO換算値での含有量の下限は特に限定されないが、有用な作用を付与したい場合は、例えば0.5質量%以上が好ましい。一方、BaOが多すぎると溶融スラグの流動性が過大になってビード外観及びビード形状が悪化するおそれがある。そのため、BaO換算値は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0031】
[高融点酸化物]
本実施形態に係るフラックスは融点が1800℃以上の高融点酸化物を含むものである。高融点酸化物の中でも特にMgO及びTiOの割合が大きいほどスラグ剥離性が良好となる。そのため、{(MgO換算値+TiO換算値)/高融点酸化物の合計の含有量}で表される、高融点酸化物の合計の含有量に対する、MgO換算値及びTiO換算値の合計の含有量の割合は、0.430以上が好ましく、0.450以上がより好ましい。一方、かかる割合が高すぎると過剰な凝固点に寄与することから、かかる割合は0.600以下が好ましく、0.545以下がより好ましい。
【0032】
高融点酸化物の合計の含有量を意味するMgO換算値、TiO換算値、CaO換算値及びAl換算値の合計の含有量は、少なすぎると鉄粒が発生しやすくなる。また、フラックスにZrOまたはBaOが含まれる場合には、ZrのZrO換算値及びBaのBaO換算値での含有量も、前記高融点酸化物の合計の含有量に含まれる。
一方、合計の含有量が多すぎるとスラグの凝固温度が高くなり過ぎてポックマークが発生しやすくなる。そのため、これらの含有量は、(MgO換算値+0.67TiO換算値+0.92CaO換算値+0.74Al換算値)なる式で表される値が30以上が好ましく、32以上がより好ましい。また、かかる値は50以下が好ましく、45以下がより好ましい。
前記式において各高融点酸化物の含有量に掛けられている各係数は、MgOの融点2800℃を基準とした融点の比を用いて重みづけされた係数である。例えば、TiO換算値にかけられた係数0.67とは、TiOの融点1870℃をMgOの融点2800℃で除することで算出された値である。
【0033】
(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)で表される、全酸化物の合計の含有量に対する、融点が1800℃以上である高融点酸化物の合計の含有量の割合は、0.56以上である。かかる割合を0.56以上とすることにより、スラグ凝固温度を高くし、鉄粒の発生を抑制することができる。また、上限は特に限定されないが、かかる割合を0.80以下にすることで、スラグ凝固温度が必要以上に高くなることを防ぎ、ポックマークの発生を好適に抑制することができる。
(高融点酸化物の合計の含有量/酸化物の合計の含有量)で表される値は0.57以上が好ましい。また、かかる値は0.75以下が好ましい。
【0034】
なお、酸化物の合計の含有量とは、融点が1800℃以上の高融点酸化物を形成する元素の酸化物換算値と、融点が1800℃未満の酸化物を形成する元素の酸化物換算値との総和を意味する。融点が1800℃未満の酸化物としては、MnO、MnO、Mn、SiO、FeO、Fe3、Fe4、、アルカリ金属酸化物等が挙げられる。
【0035】
[SiのSiO換算値]
SiO換算値は、フラックスの全Si量を、SiOに換算した値である。
SiOは、溶融スラグに適度な粘性を与えることによって、主にビード外観及びビード形状を良好に整える成分である。かかる効果を得るために、SiのSiO換算値の含有量は8質量%以上が好ましく、11質量%以上がより好ましい。一方、多すぎるとスラグの粘性が過剰になって、スラグ剥離性の悪化を招き、かつ、スラグの焼付きが激しくなるおそれがある。そのため、SiO換算値は20質量%以下が好ましく、19質量%以下がより好ましく、17質量%以下がさらにより好ましい。
また、SiOは合金由来のSiOと、鉱物及び水ガラス由来のSiOとがあるが、Fe-Si等の合金由来から換算されたSiO換算値は良好な機械的性能確保の点から4質量%以下が好ましく、鉱物由来及び水ガラスのSiO換算値の合計はスラグ剥離性の点から16質量%以下が好ましい。
【0036】
[FeのFeO換算値]
FeO換算値は、フラックスの全Fe量を、FeOに換算した値である。測定される全Fe量には、FeO、Fe及びFeなどの、金属粉として添加されるFe以外の成分が含まれることがあるが、全Fe量のFeO換算値が前述した範囲内であればよい。金属粉として添加されるFeの一例としてFe-Siが挙げられ、主に溶接金属の脱酸現象を促進する効果を有する。
FeOは、耐ポックマーク性を高める効果がある。この作用はその存在量に比例するものであって、FeのFeO換算値は、下限は特に限定されないが、例えば0.5質量%以上が好ましい。一方、多すぎるとスラグの凝固温度へ影響を与え、ビード外観、ビード形状及びスラグ剥離性が劣化するおそれがある。そのため、FeO換算値は5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。
【0037】
[BのB換算値]
換算値は、フラックスの全B量を、B換算に換算した値である。
は、溶接金属の靱性を向上させる効果を有する。Bを含む場合には、BのB換算値の含有量は0.1質量%以上が好ましい。一方、多すぎると溶融金属を硬化させて靱性がかえって低下することから、B換算値は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0038】
[アルカリ金属元素のアルカリ金属酸化物換算値]
アルカリ金属元素は、主に溶接時のアーク安定性とフラックスの吸湿特性に影響を与える成分であり、この作用はその存在量に比例する。任意の元素であり、アルカリ金属元素のアルカリ金属酸化物換算値の合計量は、その下限は特に限定されないが、有用な作用を付与したい場合は1質量%以上が好ましい。一方、アルカリ金属酸化物換算値の合計量が過剰になるとフラックスの吸湿特性が劣化するとともに、アークが強くなり過ぎて不安定となり、ビード外観及びビード形状が劣化するおそれがある。そのため、アルカリ金属酸化物換算値合計量は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましい。
【0039】
アルカリ金属元素としてはNa、K及びLiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Naを含む場合にはNaO換算値、Kを含む場合にはKO換算値、Liを含む場合にはLiO換算値で、それぞれ含有量が規定される。すなわち、アルカリ金属酸化物換算値が、NaO、KO及びLiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物に換算した値であることが好ましい。
NaO換算値、KO換算値及びLiO換算値はいずれも、JIS M 8852:1998に準拠して得たフラックスの結合剤(バインダ)由来を含む全Na、K又はLi量を、それぞれNaO、KO又はLiOで換算した値である。測定される全Na、K又はLi量には、NaAlSi、KAlSi又はLiAlSi等が含まれることがあるが、同様の効果を有するため、NaO換算値、KO換算値及びLiO換算値の合計量が前述した範囲内であればよい。
【0040】
上記のうち、さらに、Na及びKの少なくとも一方の元素を含むことがより好ましい。この場合のNaO換算値及びKO換算値の合計量は、1質量%以上が好ましく、また、5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましい。
【0041】
[CO
COは主にCaCOやBaCO等の炭酸塩に由来する成分であり、溶接時に炭酸塩が分解して発生するCOガスを示す。COガスは、溶接部を外気からシールドすると共に、HガスやNガス等の不純物ガスの分圧を低下させるため、溶接金属中への侵入防止に有効な成分であり、この作用はその存在量に比例する。任意の成分であり、COの含有量の下限は特に限定されないが、有用な作用を付与したい場合は0.5質量%以上が好ましい。一方、多すぎるとポックマークの発生の原因となり、耐ポックマーク性が劣化するおそれがある。そのため、CO含有量は6.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.5質量%以下がさらにより好ましい。
【0042】
[その他の成分]
本実施形態に係るフラックスにおける上記以外の成分は、P及びS等の不可避的不純物であり、溶接品質に影響するため、P及びSはそれぞれ0.05質量%以下に規制することが好ましい。
また、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の元素を含んでもよい。その他の元素としては、Ni、Cr、Mo、Nb、VやC等が挙げられる。これらその他の元素は、合計で5.0質量%以下であることが好ましい。
すなわち、不可避的不純物及びその他の元素を除いた、上記成分の合計は通常、90質量%以上であり、95質量%以上が好ましい。
【0043】
[CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)]
本実施形態に係るフラックスにおいて、MnO換算値で表されるMnはスラグ剥離性を向上する成分である一方で、その吸湿性によりポックマークの発生を誘発する。同様に、CaO及びCOもポックマークの発生を誘発する傾向のある成分である。一方、CaF換算値で規定されるフッ化物は、ポックマークの発生を抑制する成分である。
そこで、{CaF換算値/(MnO換算値+CaO換算値+CO)}で表される含有量の比を1.6以上とすることにより、ポックマークの発生が好適に抑制される。
かかる比は1.8以上が好ましい。一方、値が高すぎると、スラグの流動性が高くなりすぎてビード形状が劣化するおそれがあることから、その値は9.0以下が好ましく、7.0以下がさらに好ましい。
【0044】
本実施形態に係るフラックスは、原料由来の造粒物が400~950℃で焼成された高温焼成型フラックスであることが好ましい。
【0045】
<フラックスの製造方法>
本実施形態に係るフラックスを製造する場合は、例えば、前記<フラックス>に記載した組成となるように原料粉を配合して結合剤と共に混練する工程、次いで造粒する工程、得られた原料由来の造粒物を焼成する工程をこの順に含む。
混練する工程における結合剤(バインダ)としては、例えば、ポリビニルアルコールや水ガラスを使用することができる。
造粒する工程における造粒法は、特に限定されるものではないが、転動式造粒機や押し出し式造粒機などを用いる方法が好ましい。
【0046】
造粒されたフラックスは、ダスト除去及び粗大粒の解砕などの整粒処理を行い、粒子径を2.5mm以下とすることが好ましい。
造粒後の焼成は、ロータリーキルン、定置式バッチ炉及びベルト式焼成炉などで行うことができる。その際の焼成温度は、フラックスの吸湿特性の観点から、400~950℃とすることが好ましく、450℃以上がより好ましい。
【0047】
上記で得られた本実施形態に係るフラックスは、各成分の含有量を特定の範囲にしているため、鉄粒やポックマークの発生を抑制しつつ、スラグ剥離性にも優れる。
【0048】
なお、本実施形態のフラックスの成分組成は、高温焼成型フラックスとして好適であるものの、溶融型フラックスとして適用することを何ら排除するものではない。
【0049】
<フラックスを用いた溶接方法>
本実施形態に係る溶接方法は、前記<フラックス>に記載した組成範囲を満たすフラックスを用いてアーク溶接を行うサブマージアーク溶接方法である。
かかる溶接方法は、施工困難な溶接の一つである開先溶接、特に狭開先溶接に非常に有用である。すなわち、母材やワークと称される被溶接材の開先の形状は特に限定されないが、U開先又はV開先の加工がなされたものであることがより好ましい。
【0050】
被溶接材がU開先又はV開先の加工がなされたU形開先又はV形開先である場合、その開先角度は10°以上が好ましく、15°以上がより好ましい。また、開先角度は90°以下が好ましく、60°以下がより好ましく、20°以下がよりさらに好ましい。
【0051】
開先深さは、被溶接材の溶け落ち防止の観点から20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましい。
U形開先においては、U開先のルート半径は、溶接欠陥防止の観点からR2以上が好ましく、R5以上がより好ましい。また、ルート半径は、溶接効率の点から、R10以下が好ましく、R8以下がより好ましい。ルート半径とは、JIS Z 3001-1:2018にて定義されている溶接用語である。
【実施例
【0052】
以下、試験例を挙げて、本発明の内容について具体的に説明する。
表1及び表2に記載の組成となるように原料を配合し、結合剤である水ガラスと共に混練した後、造粒し、150~250℃(実体温度)で予備乾燥後、さらにロータリーキルンを用いて450~550℃(実体温度)℃で焼成、粒度調整することにより、試験例1~18にかかるフラックスを作製した。なお、試験例1~19にかかるフラックスが実施例、試験例20~29にかかるフラックスが比較例である。
また、表1において、COにおける「-」なる表記は、0.5質量%以下を意味し、BのB換算値における「-」なる表記は、0.1質量%以下を意味する。
【0053】
表中、各成分の数値は含有量を意味し、フラックス全質量に対する質量%表示である。「R」とはアルカリ金属元素を意味するが、Li、Na、K以外のアルカリ金属元素はいずれの試験例にも含まれていない。「RO換算値」とはアルカリ金属元素のアルカリ金属酸化物換算値の合計の含有量を意味するが、Li、Na、K以外のアルカリ金属元素はいずれの試験例にも含まれていないため、NaO、KO及びLiOからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物に換算した値の合計を意味する。「高融点酸化物」とは融点が1800℃以上である高融点酸化物を形成する元素の酸化物換算値での合計の含有量を意味し、本実施例ではZrO及びBaOは含まれないため、MgO換算値、TiO換算値、CaO換算値及びAl換算値の合計量である。「低融点酸化物」とは融点が1800℃未満である酸化物を形成する元素の酸化物換算値での合計の含有量を意味する。しかしながら、FeやFeが含まれる場合であっても、全Fe量をFeO換算し、MnOやMnが含まれる場合であっても、全Mn量をMnO換算する。そのため、「低融点酸化物」とは、MnO換算値、SiO換算値、FeO換算値、B換算値及びアルカリ金属酸化物換算値の合計量を意味する。「酸化物」の合計とは、前記高融点酸化物と低融点酸化物の合計を意味するが、例えば試験例11のように合計が高融点酸化物と低融点酸化物に記載された含有量の和からずれているのは、有効数字によるものである。同様に、例えば試験例1のように、「SiのSiO換算値」の合計が合金由来と鉱物由来に記載された含有量の和からずれているのは、有効数字によるものである。全成分の含有量の総和が100質量%を超える場合があるが、これは、分析により得られた各元素量の全量を、酸化物又はフッ化物に換算した換算値を含有量としているためである。
【0054】
得られたフラックスを用いて、鋼板を被溶接材としたサブマージアーク溶接を行った。被溶接材、溶接に用いたワイヤ及び溶接条件は下記に示すとおりである。
【0055】
[被溶接材]
鋼板:C 0.16質量%、Si 0.30質量%、Mn 1.30質量%、P 0.007質量%、S 0.001質量%、残部 Fe及び不可避的不純物
板厚:25mm
開先深さ:15mm
ルートギャップ:0mm
開先形状:U形開先
開先角度:16°
ルート半径:R8
[ワイヤ]
ワイヤの種類:JIS Z 3351:2012 YS-S6に準拠
ワイヤ径:4.0mm
[溶接条件]
溶接電流:650A
溶接電圧:30V
溶着速度:65cm/分
積層方法:1層1パス
【0056】
各フラックスを用いたサブマージアーク溶接について、スラグ剥離性、並びに、鉄粒及びポックマークの発生率について評価を行った。
各評価方法及び評価基準は以下のとおりである。総合評価としては、スラグ剥離性、鉄粒及びポックマークの各評価結果のうち、どれか1項目でも不合格となった場合、フラックスとして適用範囲外であり不合格と判断される。
【0057】
<スラグ剥離性>
スラグ剥離性は、スラグ除去の容易さについて、下記のとおり評価するが、A及びBが合格であり、Cが不合格である。結果を表2の「スラグ剥離」に示す。
A:溶接直後に溶接スラグが自然剥離する。
B:ハンマー等の治具でスラグを叩くと溶接スラグが剥離する。
C:ハンマー等の治具でスラグを叩いても溶接スラグが剥離せず、ビード上に溶接スラグの焼き付きが残る。
【0058】
<鉄粒の発生率>
ビード表面における鉄粒の発生を目視により確認した。発生率について、下記のとおり評価するが、A及びBが合格であり、C及びDが不合格である。結果を表2の「鉄粒」に示す。
A:ビード表面に鉄粒の発生がない。
B:ビード表面における溶接長750mmあたりの鉄粒発生数が1個又は2個である。
C:ビード表面における溶接長750mmあたりの鉄粒発生数が3個以上9個以下である。
D:ビード表面における溶接長750mmあたりの鉄粒発生数が10個以上である。
【0059】
<ポックマークの発生率>
ビード表面におけるポックマークの発生を目視により確認した。発生率について、下記のとおり評価するが、A~Cが合格であり、Dが不合格である。結果を表2の「ポックマーク」に示す。
A:ビード表面にポックマークの発生がない。
B:ビード表面における溶接長750mmあたりのポックマーク発生数が1個又は2個である。
C:ビード表面における溶接長750mmあたりのポックマーク発生数が3個以上5個以下である。
D:ビード表面における溶接長750mmあたりのポックマーク発生数が6個以上である。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示されるように、実施例である試験例1~19にかかるフラックスは、スラグ剥離性に優れ、かつ鉄粒やポックマークの発生率が低かった。
特に、試験例1~6、10~12、14~16については、スラグ剥離性、鉄粒及びポックマークの評価のうち2項目以上がAの評価結果となり、サブマージアーク溶接に用いるフラックスとして非常に良好であった。
【0063】
以上の結果から、本発明に係るフラックスをサブマージアーク溶接に用いることにより、狭開先溶接等の施工困難な溶接においても、優れたスラグ剥離性と、表面欠陥の少ない良好なビード外観とを両立できることが確認された。