(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】保護膜形成用シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240305BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240305BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20240305BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01L21/78 Z
C09J7/30
C09J7/40
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2020136454
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小橋 力也
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-044193(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145735(WO,A1)
【文献】特開2018-080280(JP,A)
【文献】特開2017-195337(JP,A)
【文献】特開2019-052366(JP,A)
【文献】特開2012-144668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/30
C09J 7/40
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜を形成するための保護膜形成フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの一方の面に設けられた第1剥離フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの他方の面に設けられた第2剥離フィルムと、を有する長尺シートであって、
前記第1剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF1とし、前記第2剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1>F2である関係を満足し、
ステンレス鋼板に対する前記保護膜形成フィルムの粘着力をF3とした場合に、F2/F3≧0.10である関係を満足し、
F2が30mN/100mm以上である保護膜形成用シート。
【請求項2】
前記保護膜形成フィルムを構成する保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした場合に、前記保護膜形成フィルム用組成物に含まれる常温で液状のエポキシ樹脂の重量が12質量部以下である請求項1に記載の保護膜形成用シート。
【請求項3】
前記保護膜形成フィルムを構成する保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした場合に、前記保護膜形成フィルム用組成物に含まれる充填材の重量が55質量部未満である請求項1または2に記載の保護膜形成用シート。
【請求項4】
前記保護膜形成用シートを平面視した場合に、保護膜形成用シートの一部が所定の閉じた形状を有するように前記保護膜形成用シートに切り込みが形成されており、
前記保護膜形成用シートの厚み方向において、前記切り込みは、前記保護膜形成フィルムを貫通し、前記第1剥離フィルムの一部に達している請求項1~3のいずれか一項に記載の保護膜形成用シート。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の保護膜形成用シートの一部が所定の閉じた形状を有するように切り込みを形成する工程を有し、
前記保護膜形成用シートの厚み方向において、前記切り込みは、前記保護膜形成フィルムを貫通し、前記第1剥離フィルムの一部に達している抜き加工された保護膜形成用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成用シートおよびその製造方法に関する。特に、半導体ウエハ等のワークまたはワークを加工して得られる半導体チップ等の加工物を保護するために好適に使用される保護膜形成フィルムを備える保護膜形成用シート、並びに、当該保護膜形成用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フリップチップボンディングと呼ばれる実装法により半導体装置を製造することが行われている。この実装法では、バンプ等の凸状電極が形成された回路面を有する半導体チップを実装する際に、半導体チップの回路面側をチップ搭載部に反転(フェイスダウン)させて接合している。したがって、回路が形成されていない半導体チップの裏面側が露出する構造となる。
【0003】
このため、半導体チップの裏面側には、半導体チップを搬送時等の衝撃から保護するために、有機材料からなる硬質の保護膜が形成されることが多い。このような保護膜の形成には、その前駆体である未硬化の樹脂フィルム(以下「保護膜形成フィルム」)が用いられている。保護膜形成フィルムは、半導体ウエハの裏面に貼付され、ウエハとともにダイシングされてチップ化される。保護膜形成フィルムを硬化することで、裏面に保護膜を有するチップが得られる。
【0004】
特許文献1には、
図1に示すように、第1剥離フィルム12と第2剥離フィルム13との間に、保護膜形成フィルム11を挟持した三層構造の保護膜形成用シート10が開示されている。保護膜形成フィルム11は、第1剥離フィルム12および第2剥離フィルム13から剥離可能に積層されている。特許文献1の保護膜形成用シートは、第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11からの剥離力をF1とし、第2剥離フィルム13の保護膜形成フィルム11からの剥離力をF2とした場合に、F1>F2を満足する。上記保護膜形成用シート10は、長尺でありロール状に巻き取られて保管、輸送されている。また、保護膜形成用シート10は、保護膜形成フィルムをワーク(半導体ウエハ等の被着体の総称)と略同形状に予め抜き加工した後に、ワークへの貼付に使用されることがある。このような抜き加工された保護膜形成用シートは、
図2に示すように、所定の閉じた形状に抜き加工された保護膜形成フィルム16が、2枚の剥離フィルム(12,13)間に挟持されている。なお、
図2では、不要部17が除去される前の状態を示している。
【0005】
抜き加工された保護膜形成用シートは、抜型により保護膜形成フィルムを所定の閉じた形状に打ち抜いて製造され、第2剥離フィルム13および抜き加工された保護膜形成フィルム16の周辺の不要部17を除去して使用される。具体的には、保護膜形成フィルム11と第2剥離フィルム13とを所定の閉じた形状に完全に打ち抜き、第1剥離フィルム12を完全には打ち抜かないように切り込み14を入れることで、抜き加工された保護膜形成用シートを得る(
図3)。この工程は「抜き加工工程」と呼ばれる。その後、所定の閉じた形状の保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12上に残留させて第2剥離フィルム13および周辺の不要部17を除去して(
図4)、保護膜形成フィルム16はワークへ貼付される。不要部17を除去する工程は「カス上げ工程」と呼ばれる。
【0006】
前記したカス上げ工程の前に、不要部17に接する第2剥離フィルムおよび抜き加工された保護膜形成フィルム16に接する第2剥離フィルムに長尺の粘着テープ18を接着し、カス上げ工程時に、不要部17の除去と、長尺の粘着テープ18および第2剥離フィルム13(すなわち、不要部17に接する第2剥離フィルムおよび抜き加工された保護膜形成フィルム16に接する第2剥離フィルム)の除去を同時に行ってもよい。
【0007】
抜き加工された保護膜形成フィルム16から第2剥離フィルム13を除去する際に、F1>F2の関係を満足することで、第2剥離フィルム13の除去が容易になり、抜き加工された保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12上に確実に残留できる。
【0008】
保護膜形成用シートとしては、抜き加工が安定して行えること(作業安定性)が要求される。特に保護膜形成フィルムを抜き加工した後に、不要部を除去するカス上げ工程の作業安定性が求められる。より具体的には、カス上げ工程において、不要部17の除去が連続して行われずに、作業の停止が必要になるという問題(以下「カス上げ停止」ともいう)が発生しないことが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、カス上げ停止の原因について、探索を続けたところ、以下の知見を得た。
【0011】
図5に示すように、抜き加工工程の後、カス上げ工程において、第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17を、除去し、最終的には廃棄用のローラー20に巻き取り、廃棄する。第1剥離フィルムから剥離された不要部17は長尺であり、連続している。廃棄用のローラー20に至るまでの間には、テンションローラー19が存在し、不要部17のテンションをコントロールしている。これらのローラー19、20は一般にステンレス鋼からなる。
【0012】
テンションローラー19を通過する際に、不要部17(すなわち不要となった保護膜形成フィルム)がテンションローラー19に接触することがある。保護膜形成フィルム11と第2剥離フィルム13との間の剥離力F2は弱めに設定されるため、保護膜形成フィルムの一部または全部が第2剥離フィルム13から剥離し、テンションローラー19に転写され、テンションローラー19を汚染することがある。この場合、装置を停止し、テンションローラー19を洗浄する必要がある。
【0013】
また、不要部17は連続してテンションローラー19に接触するため、多量の保護膜形成フィルムの残渣がテンションローラー19に残着すると、テンションローラー19の動作不良を招く。さらに、テンションローラー19に付着した残渣が、装置内に剥落して、製品となる保護膜形成用シートを汚染するおそれもある。
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、カス上げ停止を十分に抑制できる保護膜形成用シート、並びに、当該保護膜形成用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の態様は、以下の通りである。
(1)保護膜を形成するための保護膜形成フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの一方の面に設けられた第1剥離フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの他方の面に設けられた第2剥離フィルムと、を有する長尺シートであって、
前記第1剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF1とし、前記第2剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1>F2である関係を満足し、
ステンレス鋼板に対する前記保護膜形成フィルムの粘着力をF3とした場合に、F2/F3≧0.10である関係を満足し、
F2が30mN/100mm以上である保護膜形成用シート。
(2)前記保護膜形成フィルムを構成する保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした場合に、前記保護膜形成フィルム用組成物に含まれる常温で液状のエポキシ樹脂の重量が12質量部以下である(1)に記載の保護膜形成用シート。
(3)前記保護膜形成フィルムを構成する保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした場合に、前記保護膜形成フィルム用組成物に含まれる充填材の重量が55質量部未満である(1)または(2)に記載の保護膜形成用シート。
(4)前記保護膜形成用シートを平面視した場合に、保護膜形成用シートの一部が所定の閉じた形状を有するように前記保護膜形成用シートに切り込みが形成されており、
前記保護膜形成用シートの厚み方向において、前記切り込みは、前記保護膜形成フィルムを貫通し、前記第1剥離フィルムの一部に達している(1)~(3)のいずれか一項に記載の保護膜形成用シート。
(5)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の保護膜形成用シートの一部が所定の閉じた形状を有するように切り込みを形成する工程を有し、
前記保護膜形成用シートの厚み方向において、前記切り込みは、前記保護膜形成フィルムを貫通し、前記第1剥離フィルムの一部に達している抜き加工された保護膜形成用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カス上げ停止を十分に抑制できる保護膜形成用シートおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係る保護膜形成用シートの断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る保護膜形成用シートを抜き加工した後の状態を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、抜き加工工程後の保護膜形成用シートの概略斜視図である。
【
図4】
図4は、カス上げ工程を示す概略斜視図である。
【
図5】
図5は、第2剥離フィルムおよび不要部がテンションローラーを通過している状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る保護膜形成フィルムを保護膜化して得られる保護膜を有するチップの一例の断面模式図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る保護膜形成用シートをウエハに貼付する工程を説明するための断面模式図である。
【
図8】
図8は、保護膜付きウエハを個片化する工程を説明するための断面模式図である。
【
図9】
図9は、保護膜付きチップを基板上に配置する工程を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0019】
ワークは、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが貼付されて加工される板状体である。ワークとしては、たとえば、ウエハ、パネルが挙げられる。具体的には、半導体ウエハ、半導体パネルが挙げられる。ワークの加工物としては、たとえば、ウエハを個片化して得られるチップが挙げられる。具体的には、半導体ウエハを個片化して得られる半導体チップが例示される。この場合、保護膜は、ウエハおよびチップの裏面側に形成される。
【0020】
ウエハ等のワークの「表面」とは回路およびバンプ等の凸状電極等が形成された面を指し、「裏面」は回路、電極(たとえばバンプ等の凸状電極)等が形成されていない面を指す。
【0021】
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0022】
剥離フィルムとは、保護膜形成フィルムを剥離可能に支持するフィルムである。フィルムとは、厚みを限定するものではなく、シートを含む概念で用いる。
【0023】
保護膜形成フィルム用組成物、剥離剤層用組成物に関する説明における質量比は、有効成分(固形分)に基づき、特段の説明が無い限り、溶媒は算入しない。
【0024】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき説明する。
【0025】
(1.保護膜形成フィルム)
本実施形態に係る保護膜形成用シート10は、
図1、
図3に示すように、保護膜形成フィルム11と、保護膜形成フィルム11の一方の面に設けられた第1剥離フィルム12と、他方の面に設けられた第2剥離フィルム13とを有する長尺シートであって、通常はロール状に巻収されている。
【0026】
保護膜形成フィルム11は、ワークに貼付され、保護膜化することにより、ワークまたはワークの加工物を保護するための保護膜を形成する。
【0027】
「保護膜化する」とは、保護膜形成フィルム11を、ワークまたはワークの加工物を保護するのに十分な特性を有する状態にすることである。具体的には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが硬化性である場合には、「保護膜化する」とは、未硬化の保護膜形成フィルムを硬化物にすることをいう。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムの硬化物であり、保護膜形成フィルムとは異なる。
【0028】
硬化性保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせた後、保護膜形成フィルムを硬化させることにより、保護膜をワークに強固に接着でき、耐久性を有する保護膜を形成できる。
【0029】
保護膜形成フィルム11が硬化性成分を含有せず非硬化の状態で使用される場合には、本実施形態に係る保護膜形成フィルムがワークに貼付された時点で、当該保護膜形成フィルムは保護膜化される。換言すれば、保護膜は、保護膜形成フィルムと同じであってもよい。
【0030】
高い保護性能が求められない場合には、保護膜形成フィルムを硬化させる必要がないので、保護膜形成フィルムは非硬化性であってもよい。
【0031】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは、硬化性であることが好ましい。したがって、保護膜は硬化物であることが好ましい。硬化物としては、たとえば、熱硬化物、エネルギー線硬化物が例示される。本実施形態では、保護膜は熱硬化物であることがより好ましい。
【0032】
また、保護膜形成フィルムは、常温(23℃)で粘着性を有するか、加熱により粘着性を発揮することが好ましい。これにより、保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせるときに両者を貼合できる。したがって、保護膜形成フィルムを硬化させる前に位置決めを確実に行うことができる。
【0033】
保護膜形成フィルムは1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。保護膜形成フィルムが複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0034】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは1層(単層)であることが好ましい。保護膜形成フィルムが複数層から構成されると、温度変化が発生する工程(リフロー処理時や装置の使用時)で、層間の熱伸縮性の違いから層間剥離が発生するリスクがあるが、1層であるとそのリスクを低減できる。
【0035】
保護膜形成フィルムの厚みは、特に制限されないが、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがさらに好ましく、45μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。保護膜形成フィルムの厚みが上記範囲にあると、後述する粘着力F3を小さくことができる傾向にある。また、保護膜形成フィルムの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがさらに好ましく、15μm以上であることがより好ましい。保護膜形成フィルムの厚みが上記範囲にあると、得られる保護膜の保護性能が良好になる。
【0036】
なお、保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルムを構成するすべての層の合計の厚みを意味する。
【0037】
以下では、ワークの加工物としてのチップに形成される保護膜を説明する。具体的には、
図6に示す保護膜付きチップ30を用いて、本実施形態に係る保護膜形成フィルムが保護膜化されて形成される保護膜を説明する。
【0038】
図6に示すように、保護膜付きチップ30は、チップ31の裏面側(
図6では上方側)に保護膜32が形成され、チップ31の表面側(
図6では下方側)に凸状電極33が形成されている。
【0039】
チップ31の表面側には回路が形成されており、凸状電極33は回路と電気的に接続するように形成されている。保護膜付きチップ30は、凸状電極33が形成されている面がチップ搭載用基板と対向するように配置される。その後、所定の加熱処理(リフロー処理)により、凸状電極33を介して、当該基板と電気的および機械的に接合され実装される。凸状電極33としては、バンプ、ピラー電極等が例示される。
【0040】
(1.1 保護膜形成フィルムの剥離特性)
本実施形態では、第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11からの剥離力をF1とし、第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1>F2であり、好ましくはF1>1.2×F2、さらに好ましくはF1>1.5×F2、より好ましくはF1>2×F2の関係を満足する。剥離力F1および剥離力F2が上記の関係を満足すると、抜き加工された保護膜形成フィルム16からの第2剥離フィルムの除去が容易になり、抜き加工された保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12上に確実に残留させることができる。したがって、第1剥離フィルム12は、剥離力の強い重剥離フィルムであり、第2剥離フィルム13は剥離力の弱い軽剥離フィルムである。剥離力F1の上限は特に限定はされないが、剥離力F2との関係において、好ましくはF1<10×F2、さらに好ましくはF1<7×F2、より好ましくはF1<5×F2、特に好ましくはF1<3.5×F2の関係を満足する。剥離力F1および剥離力F2が上記の関係を満足すると、第1剥離フィルムからの不要部17の除去が容易になる。また、F2は30mN/100mm以上であり、好ましくは36mN/100mm以上、より好ましくは42mN/100mm以上、さらに好ましくは50mN/100mm以上、特に好ましくは60mN/100mm以上である。
【0041】
本実施形態では、ステンレス鋼板に対する保護膜形成フィルムの粘着力をF3とした場合に、F2/F3≧0.10であり、好ましくはF2/F3≧0.15、さらに好ましくはF2/F3≧0.20、より好ましくはF2/F3≧0.30を満足する。F2とF3とがこの関係を満たすことで、第2剥離フィルム13および不要部17の巻き取り時に、不要部17(すなわち不要となった保護膜形成フィルム)がステンレス鋼製のテンションローラーに接触しても、保護膜形成フィルムがテンションローラーに残着することなく、第2剥離フィルム13および不要部17を巻き取ることができる。F2/F3の上限値は特に限定はされないが、過度にF2が大きいと、保護膜形成フィルムの使用時に第2剥離フィルムの剥離が円滑に行われないことがある。したがって、F2/F3≦1.2であることが好ましく、F2/F3≦0.8であることがさらに好ましく、F2/F3≦0.6であることがより好ましく、F2/F3≦0.5であることが特に好ましい。
【0042】
なお、剥離力F1は好ましくは50mN/100mm以上、さらに好ましくは70mN/100mm以上、より好ましくは90mN/100mm以上、なお好ましくは110mN/100mm以上、特に好ましくは130mN/100mm以上である。F1が上記の範囲内であることにより、保護膜形成フィルム11と第1剥離フィルム12とが意図せずに剥離することを抑制できる。
【0043】
また、粘着力F3は好ましくは500mN/100mm以下、さらに好ましくは400mN/100mm以下、より好ましくは350mN/100mm以下、特に好ましくは300mN/100mm以下である。F3が上記の範囲内であることにより、不要部17(すなわち不要となった保護膜形成フィルム)がテンションローラーに残着することを防止できる。粘着力F3は好ましくは40mN/100mm以上、さらに好ましくは80mN/100mm以上、より好ましくは120mN/100mm以上である。F3が低すぎると、ワークへの貼付性も過剰に低下することがある。ステンレス鋼板に対する保護膜形成フィルムの粘着力F3を測定する際には、ステンレス鋼板に保護膜形成フィルムを貼付して約2分経過後の粘着力を測定する。これは、カス上げ工程で第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17を引き上げてから、最終的には廃棄用のローラーに巻き取るまで間に、保護膜形成用シートの走行が一時的に停止し、不要部がテンションローラーに接している時間が約2分間のためである。
【0044】
(1.2 保護膜形成フィルム用組成物)
保護膜形成フィルムが上記の物性を有していれば、保護膜形成フィルムの組成は特に限定されない。本実施形態では、保護膜形成フィルムを構成する組成物(保護膜形成フィルム用組成物)は、少なくとも、重合体成分(A)と硬化性成分(B)と充填材(E)とを含有する樹脂組成物であることが好ましい。重合体成分は、重合性化合物が重合反応して形成されたとみなせる成分である。また、硬化性成分は、硬化(重合)反応し得る成分である。なお、本発明において重合反応には、重縮合反応も含まれる。
【0045】
また、重合体成分に含まれる成分は、硬化性成分にも該当する場合がある。本実施形態では、保護膜形成フィルム用組成物が、このような重合体成分及び硬化性成分の両方に該当する成分を含有する場合、保護膜形成フィルム用組成物は、重合体成分及び硬化性成分を両方含有するとみなす。
【0046】
(1.2.1 重合体成分)
重合体成分(A)は、保護膜形成フィルムに、フィルム形成性(造膜性)を持たせつつ、適度なタックを与え、ワークへの保護膜形成フィルムの均一な貼り付けを確実にする。重合体成分の重量平均分子量は、通常は5万~200万、好ましくは10万~150万、特に好ましくは20万~100万の範囲にある。重量平均分子量が低過ぎると、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力が増大する傾向にある。一方、重量平均分子量が高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果として均一なフィルム形成が妨げられる。このような重合体成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が用いられ、特にアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0047】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC-8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column HXL-H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
【0048】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0049】
本実施形態では、メタクリル酸グリシジル等を用いてアクリル樹脂にグリシジル基を導入することが好ましい。グリシジル基を導入したアクリル樹脂と、後述する熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、保護膜形成フィルムの硬化後のガラス転移温度(Tg)が高くなり、耐熱性が向上する。また、本実施形態では、ワークへの接着性や粘着物性をコントロールするために、アクリル酸ヒドロキシエチル等を用いてアクリル樹脂に水酸基を導入することが好ましい。
【0050】
アクリル樹脂のガラス転移温度は好ましくは-70℃~40℃、さらに好ましくは-35℃~35℃、より好ましくは-20℃~30℃、なお好ましくは-10℃~25℃、特に好ましくは-5℃~20℃である。アクリル樹脂のガラス転移温度を上記範囲とすることにより、保護膜形成フィルムおよび保護膜の加熱時の流動性が抑制されるので、平滑な保護膜が得られやすい。ガラス転移温度が低過ぎると、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力が増大する傾向にある。ガラス転移温度が高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果として均一なフィルム形成が妨げられ、また第2剥離フィルムの剥離力F2が過剰に低下する傾向にある。
【0051】
アクリル樹脂がm種(mは2以上の整数である。)の構成単位を有している場合、当該アクリル樹脂のガラス転移温度は以下のようにして算出することができる。すなわち、アクリル樹脂中の構成単位を誘導するm種のモノマーに対して、それぞれ1からmまでのいずれかの重複しない番号を順次割り当てて、「モノマーm」と名付けた場合、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下に示すFoxの式を用いて算出できる。
【数1】
(式中、Tgはアクリル樹脂のガラス転移温度であり;mは2以上の整数であり;Tgkはモノマーmのホモポリマーのガラス転移温度であり;Wkはアクリル樹脂における、モノマーmから誘導された構成単位mの質量分率であり、ただし、Wkは下記式を満たす。)
【数2】
(式中、m及びWkは、前記と同じである。)
【0052】
Tgkとしては、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載されている値を使用できる。例えば、メチルアクリレートのホモポリマーのTgkは10℃、n-ブチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-54℃、メチルメタクリレートのホモポリマーのTgkは105℃、2-ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-15℃、グリシジルメタクリレートのホモポリマーのTgkは41℃、2-エチルヘキシルアクリレートのTgkは-70℃である。
【0053】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の重合体成分の含有量は、好ましくは5~80質量部、さらに好ましくは8~70質量部、より好ましくは10~60質量部、なお好ましくは12~55質量部、いっそう好ましくは14~50質量部、特に好ましくは15~45質量部である。重合体成分の含有量が上記範囲内であることにより、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力を増大する低分子量成分の量が適正な範囲に制限されるので、保護膜形成フィルム用組成物の材料設計が容易になる。
【0054】
(1.2.2 熱硬化性成分)
硬化性成分(B)は、保護膜形成フィルムを硬化させて、硬質の保護膜を形成する。硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、またはこれらの混合物を用いることができる。エネルギー線の照射によって硬化させる場合、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、後述する充填材および着色剤等を含有するため光線透過率が低下する。そのため、例えば保護膜形成フィルムの厚さが厚くなった場合、エネルギー線硬化が不十分になりやすい。
【0055】
一方、熱硬化性の保護膜形成フィルムは、その厚さが厚くなっても、加熱によって十分に硬化するため、保護性能が高い保護膜を形成できる。また、加熱オーブン等の通常の加熱手段を用いることによって、多数の保護膜形成フィルムを一括して加熱し、熱硬化させることができる。
【0056】
したがって、本実施形態では、硬化性成分は熱硬化性であることが望ましい。すなわち、本実施形態に係る保護膜形成フィルムは、熱硬化性であることが好ましい。
【0057】
保護膜形成フィルムが熱硬化性であるか否かは以下のようにして判断することができる。まず、常温(23℃)の保護膜形成フィルムを、常温を超える温度になるまで加熱し、次いで常温になるまで冷却することにより、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムとする。次に、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの硬さと、加熱前の保護膜形成フィルムの硬さとを同じ温度で比較したとき、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの方が硬い場合には、この保護膜形成フィルムは、熱硬化性であると判断する。
【0058】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの混合物が好ましく用いられる。なお、熱硬化性ポリイミド樹脂とは、熱硬化することによってポリイミド樹脂を形成する、低分子量、低粘性のモノマーまたは前駆体ポリマーの総称である。熱硬化性ポリイミド樹脂の非制限的な具体例は、たとえば繊維学会誌「繊維と工業」, Vol.50, No.3 (1994), P106-P118に記載されている。
【0059】
熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網状化し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂が用いられる。本実施形態では、エポキシ樹脂の分子量(式量)は、好ましくは、300以上50000未満、300以上10000未満、300以上5000未満、300以上3000未満である。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50~5000g/eqであることが好ましく、100~2000g/eqであることがさらに好ましく、150~1000g/eqであることがより好ましい。
【0060】
このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0061】
これらエポキシ樹脂の中でも、常温(23℃)で液状のエポキシ樹脂を用いる場合には、保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした場合に常温で液状のエポキシ樹脂の重量を、好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは12質量部以下、より好ましくは1~11質量部とする。このような液状エポキシ樹脂が多量に含まれると、保護膜形成フィルムからの剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力を増大する傾向にある。
【0062】
常温(23℃)で液状のエポキシ樹脂(液状エポキシ樹脂)としては、例えば、ビスフェノールAのグリシジルエーテル(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、ビスフェノールFのグリシジルエーテル(ビスフェノールF型エポキシ樹脂)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂等のうち、分子量が小さい物が挙げられる。
【0063】
硬化性成分(B)として、熱硬化性成分を用いる場合には、助剤として、硬化剤(C)を併用することが好ましい。エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤が好ましい。「熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤」とは、常温(23℃)ではエポキシ樹脂と反応しづらく、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0064】
例示した方法のうち、常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法が好ましい。
【0065】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態では、ジシアンジアミドが特に好ましい。
【0066】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、フェノール樹脂も好ましい。フェノール樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物等が特に制限されることなく用いられる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0067】
これらのフェノール樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成することができる。
【0068】
硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、さらに好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.2~15質量部、特に好ましくは0.3~10質量部である。硬化剤(C)の含有量を上記の範囲とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0069】
硬化剤(C)として、ジシアンジアミドを用いる場合には、硬化促進剤(D)をさらに併用することが好ましい。硬化促進剤としては、たとえば、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール)が好ましい。これらの中でも、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが特に好ましい。
【0070】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、さらに好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.2~15質量部、特に好ましくは0.3~10質量部である。硬化促進剤(D)の含有量を上記の範囲とすることにより、保護膜の網状構造が密になるので、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0071】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量は、好ましくは、3~80質量部、さらに好ましくは5~60質量部、より好ましくは7~50質量部、いっそう好ましくは9~40質量部、特に好ましくは10~30質量部である。このような割合で熱硬化性成分と硬化剤とを配合すると、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行うことができる。また、硬化後には、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0072】
熱硬化性成分および硬化剤として、低分子量の化合物を使用すると、保護膜形成フィルムのタックが上昇し、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力が増大することがある。したがって、熱硬化性成分および硬化剤の種類およびその配合量は、前記の範囲内で、タックを適切な値に制御するように選択することが望ましい。
【0073】
(1.2.3 エネルギー線硬化性成分)
硬化性成分(B)がエネルギー線硬化性成分である場合、エネルギー線硬化性成分は、未硬化であることが好ましく、粘着性を有することが好ましく、未硬化かつ粘着性を有することがより好ましい。
【0074】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線の照射によって硬化する成分であり、保護膜形成フィルムに造膜性や、可撓性等を付与するための成分でもある。
【0075】
エネルギー線硬化性成分としては、たとえば、エネルギー線硬化性基を有する化合物が好ましい。このような化合物としては、公知のものが挙げられる。
【0076】
エネルギー線硬化性成分として、低分子量の化合物を使用すると、保護膜形成フィルムのタックが上昇し、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力が増大することがある。したがって、エネルギー線硬化性成分の種類およびその配合量は、タックを適切な値に制御するように選択することが望ましい。
【0077】
(1.2.4 充填材)
保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、保護膜形成フィルムを保護膜化して得られる保護膜は、熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数をワークの熱膨張係数に近づけることで、保護膜形成フィルムを用いて得られたパッケージの接着信頼性がより向上する。また、保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、硬質な保護膜が得られ、さらに保護膜の吸湿率を低減でき、パッケージの接着信頼性がさらに向上する。
【0078】
充填材(E)は、有機充填材及び無機充填材のいずれでもよいが、高温での形状安定性の観点から無機充填材であることが好ましい。
【0079】
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、シリカおよび表面改質されたシリカが好ましい。表面改質されたシリカは、カップリング剤により表面改質されていることが好ましく、シランカップリング剤により表面改質されていることがより好ましい。
【0080】
充填材の平均粒径は、好ましくは0.02~10μm、さらに好ましくは0.05~5μm、特に好ましくは0.10~3μmである。
【0081】
充填材の平均粒径を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルム用組成物の取り扱い性が良好になる。そのため、保護膜形成フィルム用組成物および保護膜形成フィルムの品質が安定しやすい。
【0082】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法によって求められた粒度分布曲線における、積算値50%での粒子径(D50)の値を意味する。
【0083】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の充填材の含有量の上限値は、好ましくは80質量部未満、さらに好ましくは70質量部未満、より好ましくは60質量部未満、特に好ましくは55質量部未満であり、下限値は、好ましくは15質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、特に好ましくは45質量部以上である。
【0084】
充填材の含有量を上記の値とすることにより、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力を適正な範囲に制御しやすい。充填剤の含有量が少なすぎると、保護膜形成フィルムのタックが増加し、剥離フィルムの剥離力や、ステンレス鋼板に対する粘着力が過度に増大する。一方、充填剤の配合量が多すぎると、保護膜形成フィルムの保型性が低下し、テンションローラー等のローラーでの屈曲によりフィルムが形状を保てなくなり、保護膜形成フィルムが剥落したり、ローラーに残着しやすくなることがある。
【0085】
また、保護膜形成フィルムは、2種類以上の充填材を含むことが好ましい。すなわち、充填材(E)は、2種類以上の充填材の混合物であることが好ましい。「2種類以上の充填材を含む」とは、材質の異なる充填材を2種類以上含んでいてもよいし、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含んでいてもよい。
【0086】
本実施形態では、平均粒径の異なる充填材を2種類以上含むことが好ましい。平均粒径の異なる充填材が保護膜形成フィルムに含まれることにより、平均粒径の大きな充填材の隙間に、平均粒径の小さい充填材が配置されやすくなる。その結果、上記の効果が得られつつ、保護膜形成フィルム同士の密着力を上記の範囲内とすることが容易となる。
【0087】
平均粒径の異なる充填材を2種類以上含む場合、平均粒径が最も大きい充填材の平均粒径は、平均粒径が最も小さい充填材の平均粒径の1.5倍~100倍であることが好ましく、2~20倍であることがさらに好ましく、3~18倍であることがより好ましい。
【0088】
なお、保護膜または保護膜形成フィルムが平均粒径の異なる充填材を2種類以上含んでいるか否かは、保護膜または保護膜形成フィルムの断面を観察することによっても確認することができる
【0089】
(1.2.5 カップリング剤)
保護膜形成フィルムは、カップリング剤(F)を含有することが好ましい。カップリング剤を含有することにより、保護膜形成フィルムの硬化後において、保護膜の耐熱性を損なわずに、保護膜とワークとの接着性を向上させることができるとともに、耐水性(耐湿熱性)を向上させることができる。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットの観点からシランカップリング剤が好ましい。
【0090】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0091】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時のカップリング剤の含有量は、好ましくは、0.01~20質量部、0.1~10質量部、0.2~5質量部、0.3~3質量部である。
【0092】
(1.2.6 着色剤)
保護膜形成フィルムは、着色剤(G)を含有することが好ましい。これにより、チップ等のワークの加工物の裏面が隠蔽されるため、電子機器内で発生する種々の電磁波を遮断し、チップ等のワークの加工物の誤作動を低減できる。また、テンションローラーに保護膜形成フィルムの残着が発生した場合には、目視で直ちに発見できる。
【0093】
着色剤(G)としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料など公知のものを使用できる。本実施形態では、無機系顔料が好ましい。
【0094】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO(インジウムスズオキサイド)系色素、ATO(アンチモンスズオキサイド)系色素等が挙げられる。これらの中でも、特にカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックによれば、広い波長範囲の電磁波を遮断できる。
【0095】
保護膜形成フィルム中における着色剤(特にカーボンブラック)の配合量は、保護膜形成フィルムの厚さによっても異なるが、例えば保護膜形成フィルムの厚さが20μmの場合は、保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の着色剤の含有量は、好ましくは0.01~10質量部、さらに好ましくは0.03~7質量部、より好ましくは0.05~4質量部である。
【0096】
着色剤(特にカーボンブラック)の平均粒径は、1~500nmであることが好ましく、特に3~100nmであることが好ましく、さらには5~50nmであることが好ましい。着色剤の平均粒径が上記の範囲内にあると、光線透過率を所望の範囲に制御し易い。
【0097】
(1.2.7 その他の添加剤)
保護膜形成フィルム用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の添加剤として、たとえば、光重合開始剤、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ゲッタリング剤、粘着付与剤、剥離剤等を含有していてもよい。
【0098】
ただし、本実施形態では、保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時にの剥離剤の含有量は、0.00099質量部未満であることが好ましい。剥離剤の含有量が多すぎると、保護膜とワークとの接着信頼性が低下する傾向にある。剥離剤としては、たとえば、アルキッド系剥離剤、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、不飽和ポリエステル系剥離剤、ポリオレフィン系剥離剤、ワックス系剥離剤が例示される。
【0099】
(1.2.8 保護膜形成フィルムにおける剥離力、粘着力の制御)
上述したように、本実施形態では、第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11からの剥離力F1、第2剥離フィルム13の保護膜形成フィルム11からの剥離力F2、およびステンレス鋼板に対する保護膜形成フィルム11の粘着力F3を所定範囲に制御することを特徴としている。このような特異な剥離特性は、前述したように、保護膜形成フィルムを構成する各成分の種類やその配合量により制御できる。
【0100】
重合体成分(A)の重量平均分子量が低いと、剥離力は増大する傾向にある。重合体成分(A)のガラス転移温度が低いと、剥離力は増大する傾向にある。また、硬化性成分(B)、硬化剤(C)、硬化促進剤(D)、エネルギー線硬化性成分として、低分子量の化合物を用いると、剥離力は増大する傾向にある。充填剤(E)の配合量が多いと、剥離力は低下する傾向にある。
【0101】
保護膜形成フィルムを部分硬化することで、剥離力を制御することもできる。たとえば硬化性成分(B)を部分的に硬化することで、剥離力を低下できる。
【0102】
さらに、剥離力F1、F2は、第1剥離フィルム12、第2剥離フィルム13の剥離処理により制御することもできる。この点については後述する。
【0103】
(2.保護膜形成用シート)
保護膜形成フィルムは使用前には、
図1に示すように、二枚の剥離フィルム(第1剥離フィルム12,第2剥離フィルム13)間に保護膜形成フィルム11を挟持した三層構造の保護膜形成用シート10の形態で、巻収、保管されている。剥離フィルムは、保護膜形成フィルムの使用時に剥離される。
【0104】
上記保護膜形成用シートは、長尺でありロール状に巻き取られて保管、輸送されている。このような保護膜形成用シートとして、保護膜形成フィルムをワークと略同形状に予め抜き加工された保護膜形成用シートも知られている。このような抜き加工された保護膜形成用シートは、所定の閉じた形状に抜き加工された保護膜形成フィルム16が、2枚の剥離フィルム(12,13)間に挟持されている(
図2)。
【0105】
第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムは、1層(単層)または2層以上の基材から構成されていてもよいし、剥離性を制御する観点から、基材の表面が剥離処理されていてもよい。すなわち、基材の表面が改質されていてもよいし、基材の表面に基材とは異なる材質の層が形成されていてもよい。本実施形態では、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムは、基材と剥離剤層とを有することが好ましい。剥離剤層を有することにより、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムにおいて剥離剤層が形成されている面の物性を制御しやすい。本実施形態では、基材の一方の面に、後述の剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布した後、その塗膜を乾燥および硬化させることで剥離剤層を形成する。これにより第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムが得られる。
【0106】
(2.1 第1剥離フィルム12)
第1剥離フィルム12の厚みは、特に制限されないが、好ましくは30~100μm、さらに好ましくは40~80μm、より好ましくは45~70μmである。
【0107】
第1剥離フィルム12の厚みの下限値が上記の値であることにより、切断刃による保護膜形成フィルムの切り抜き時に、切断刃が第1剥離フィルム12を貫通し、第1剥離フィルム12が切断させてしまうことを防止できる。また、また、厚みの上限値が上記の値であることにより、保護膜形成用シート10が繰り出され保護膜形成フィルム11が切り抜かれて次工程に搬送されるまでに、保護膜形成用シート10は装置内のガイドローラー等のローラーを通過するが、その際に、保護膜形成フィルム11が第1剥離フィルム12から剥離することを防止できる。
【0108】
なお、第1剥離フィルム12の厚みは、第1剥離フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される第1剥離フィルムの厚みは、第1剥離フィルムを構成する全ての層の合計の厚みを意味する。
【0109】
第1剥離フィルム12の基材としては、樹脂フィルムおよび紙などが挙げられる。樹脂フィルムの樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、およびトリアセチルセルロースなどが挙げられる。紙としては、上質紙、コート紙、グラシン紙、およびラミネート紙などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安価で剛性もあるという観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0110】
第1剥離フィルム12の少なくとも片面(保護膜形成フィルム11と積層する面)は剥離剤層用組成物により剥離処理されていてもよい。剥離剤層の厚みは、30nm以上200nm以下であることが好ましく、50nm以上180nm以下であることがより好ましい。
【0111】
第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11に接する面の表面弾性率(23℃)は、好ましくは17MPa以下、さらに好ましくは14MPa以下、より好ましくは13MPa以下、特に好ましくは12MPa以下である。表面弾性率は、表面の変形のしやすさの指標である。第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11に接する面の表面弾性率を上記範囲とすることで、抜き加工工程において、抜型を押し込み、その後に引き抜いた際に、保護膜形成フィルム11と第1剥離フィルム12との間に浮き(1~4mm程度の剥がれ)が生じることを抑制できる。これは、第1剥離フィルム12の表面が比較的柔軟であるため、抜型による圧縮と、その脱離による脱圧があっても、第1剥離フィルム表面が保護膜形成フィルムの変形に追従するためと考えられる。浮きの発生を抑制することで、カス上げ工程における不良をより低減できる。第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11に接する面の表面弾性率の下限は特に限定は無いが、表面弾性率が低すぎると、剥離力が増大することがあるため、好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上、特に好ましくは5MPa以上である。
【0112】
23℃における第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11に接する面の表面弾性率は、カンチレバーを備える原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。すなわち、第1剥離フィルム12の保護膜形成フィルム11に接する面に対して、カンチレバーの押し込みと引き離しとを行い、フォースカーブ曲線を得る。得られるフォースカーブ曲線に対して、JKR理論式によるフィッティングを行い、弾性率を求め本発明の表面弾性率とする。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0113】
第1剥離フィルム12は、上述した基材の一方の面を剥離処理することにより簡便に得られる。かかる剥離処理に用いる剥離剤層用組成物は、たとえば、アルキッド系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、不飽和ポリエステル系離型剤、ポリオレフィン系離型剤、ワックス系離型剤が好ましく、その中でも、シリコーン系離型剤が好ましく、特にシリコーン系離型剤と重剥離添加剤とを含むことが好ましい。
【0114】
シリコーン系離型剤としては、ジメチルポリシロキサンを基本骨格として有するシリコーンを配合したシリコーン離型剤を用いることができる。
【0115】
当該シリコーンは、付加反応型、縮合反応型、並びに、紫外線硬化型及び電子線硬化型等のエネルギー線硬化型のいずれであってもよいが、付加反応型シリコーンであることが好ましい。付加反応型シリコーンは、反応性が高く生産性に優れるとともに、縮合反応型と比較すると、製造後の剥離力の変化が小さい、硬化収縮がない等のメリットがある。
【0116】
付加反応型シリコーンの具体例としては、分子の末端および/または側鎖に、ビニル基、アリル基、プロペニル基、及びヘキセニル基等の炭素数2~10のアルケニル基を2個以上備えたオルガノポリシロキサンが挙げられる。表面弾性率を低くする観点から、付加反応型シリコーンにおけるアルケニル基の数は、少ないことが好ましい。
【0117】
剥離剤層用組成物(後述の触媒は除く)の総重量を100質量部とした時のジメチルポリシロキサンからなるシリコーンの含有量は、好ましくは100質量部未満、さらに好ましくは90質量部未満、より好ましくは80質量部未満、特に好ましくは70質量部未満である。
【0118】
このような付加反応型シリコーンを用いる際には、架橋剤および触媒を併用することが好ましい。
【0119】
架橋剤としては、例えば1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。表面弾性率を低くする観点から、剥離剤層用組成物における架橋剤の含有量は少ないことが好ましい。
【0120】
架橋剤の具体例としては、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられる。
【0121】
触媒としては、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、及びロジウム等の白金族金属系化合物等が挙げられる。
【0122】
このような触媒を用いることにより、剥離剤層用組成物の硬化反応をより効率よく進行させることができる。
【0123】
剥離剤層用組成物(触媒は除く)の総重量を100質量部とした時のシリコーン系離型剤の含有量は、表面弾性率を上述した範囲内とする観点、および剥離力F1を適切な範囲内とする観点から、好ましくは30~100質量部、さらに好ましくは50~100質量部である。
【0124】
重剥離添加剤は、保護膜形成フィルム11からの第1剥離フィルム12の剥離力F1を大きくするために用いられる。重剥離添加剤としては、例えば、シリコーンレジン、シランカップリング剤等のオルガノシランが挙げられるが、これらの中でも、シリコーンレジンを用いることが好ましい。
【0125】
シリコーンレジンとしては、例えば、一官能シロキサン単位[R3SiO1/2]であるM単位と、四官能シロキサン単位[SiO4/2]であるQ単位とを含むMQレジンを用いることが好ましい。なお、M単位中の3つのRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または有機基を表す。シリコーン移行を抑制し易くする観点からM単位中の3つのRの1つ以上は、水酸基又はビニル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。表面弾性率を低くする観点から、剥離剤層用組成物におけるシリコーンレジン(特にMQレジン)の含有量は少ないことが好ましい。
【0126】
剥離剤層用組成物(触媒は除く)の総重量を100質量部とした時の重剥離添加剤の含有量は、好ましくは0~50質量部、さらに好ましくは5~45質量部、特に好ましくは10~40質量部である。
【0127】
剥離剤層用組成物は、粘度を調整して基材への塗布性を向上させる観点から、上述の各種有効成分とともに、希釈溶媒を含む塗布剤として用いることが好ましい。本明細書において、「有効成分」とは、対象となる組成物を含む塗布剤に含まれる成分のうち、希釈溶媒を除いた成分を指す。
【0128】
希釈溶媒としては、トルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル、メチルエチルケトンなどのケトン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素等の有機溶剤等が挙げられる。これらの希釈溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
剥離剤層用組成物を含む塗布剤の有効成分(固形分)濃度としては、好ましくは0.3~10質量%、さらに好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%である。
【0130】
剥離剤層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、剥離剤層において一般的に使用される添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、染料及び分散剤等が挙げられる。
【0131】
(2.2 第2剥離フィルム13)
第2剥離フィルム13の厚みは、特に制限されないが、剥離を容易にする観点から、第1剥離フィルム12の厚み以下であることが好ましく、第1剥離フィルム12よりも薄いことがより好ましい。したがって、第2剥離フィルム13の厚みは、好ましくは10~75μm、さらに好ましくは18~60μm、より好ましくは24~45μmである。
【0132】
第2剥離フィルム13に用いる基材は、材質については、上記第1剥離フィルム12と同様である。第2剥離フィルム13の剥離剤層用組成物は、上記のF1およびF2の関係を満足する限りにおいて、第1剥離フィルム12で例示した材料から選択できる。ただし、重剥離添加剤として例示した材料は、第1剥離フィルム12における含有量よりも少ないか、または含まれないことが好ましい。
【0133】
また、シリコーンオイルを剥離剤層用組成物に添加することで、剥離力を低く抑えることができるので、剥離力を調整するためにシリコーンオイルを用いていもよい。
【0134】
(2.3 剥離フィルムにおける剥離力の制御)
剥離力F1、F2は、前記した保護膜形成フィルムの組成に加え、次のような種々の因子により制御される。
・剥離剤層用組成物の主成分をなす樹脂材料の種類(シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系など)
・剥離剤層用組成物の主成分をなす樹脂材料の分子量
・剥離剤層用組成物の架橋密度(この架橋密度は、架橋剤の種類やその架橋反応進行前の含有量、架橋剤と反応する官能基の存在密度などにも影響される。)
・剥離剤層用組成物に含有される添加成分(具体的には、架橋しないおよび/または架橋しにくい低分子量体が例示される。)
・剥離剤層の厚さ
・剥離剤層の保護膜形成フィルムとの貼合面の表面粗さ
・基材である樹脂フィルムの厚さ
・剥離フィルムと保護膜形成フィルムとの貼り合わせ時の温度
・剥離フィルムと保護膜形成フィルムとの貼り合わせ時の圧力
・剥離フィルムと保護膜形成フィルムとの貼り合わせ時のローラーの速度
【0135】
(3.保護膜形成用シートの製造方法)
保護膜形成フィルムの製造方法は特に限定はされない。当該フィルムは、上述した保護膜形成フィルム用組成物、または、当該保護膜形成フィルム用組成物を溶媒により希釈して得られる組成物(保護膜形成用組成物を含む塗布剤)を用いて製造される。塗布剤は、保護膜形成フィルム用組成物を構成する成分を公知の方法により混合して調製される。
【0136】
得られる塗布剤を、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、ダイコーター、バーコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の塗工機を用いて、第1剥離フィルム12の剥離面に塗布して乾燥させて、その後、保護膜形成フィルム11の露出面に第2剥離フィルム13を積層して、本実施形態に係る保護膜形成用シート10が得られる。なお、積層順は特に限定はされず、第2剥離フィルムに塗布剤を塗布してもよい。また、他の樹脂フィルム上に塗布剤を塗布、乾燥し、得られた保護膜形成フィルムを第1剥離フィルムもしくは第2剥離フィルムに転写してもよい。さらに、これらのフィルムを積層後に、熱ローラー等により、加熱、加圧してもよい。製造時の作業性の観点等から、第1剥離フィルム12の剥離面に塗布して乾燥させて、その後、保護膜形成フィルム11の露出面に工程用剥離フィルムを積層した後に、工程用剥離フィルムを剥離し、第2剥離フィルム13を貼り付けてもよい。
【0137】
(4.抜き加工された保護膜形成用シートの製造方法)
本実施形態に係る保護膜形成用シート10では、保護膜形成フィルム11が所定の形状に抜き加工されていることが好ましい。すなわち、保護膜形成用シート10を平面視した場合に、保護膜形成用シート10の一部が所定の閉じた形状を有するように前記保護膜形成用シートに切り込み14が形成されてなることが好ましい。
【0138】
保護膜形成用シート10を抜き加工し、所定の閉じた形状に抜き加工された保護膜形成フィルムを第1剥離フィルム12上に得る方法を説明する。
【0139】
(4.1 抜き加工工程)
まず、
図1に示すように、抜き加工されていない保護膜形成用シート10を準備する。保護膜形成用シート10の第2剥離フィルム13側の面から、抜型(図示せず)により、第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルム11を貫通し、第1剥離フィルム12の表面の一部に達するように切り込み14を入れる。表面の一部に達するように切り込みを入れ、完全には切断しない操作はハーフカットと呼ばれる。この結果、保護膜形成用シート10の表面の一部には、所定の閉じた形状を有するように、切り込み14が形成される(
図2、
図3参照)。ここで、所定の閉じた形状は、保護膜形成フィルムを半導体ウエハに転写する場合には、ウエハと略同形状となる。すなわち、保護膜形成フィルム11が貼付されるワークの形状または保護膜を形成するべき領域と略同形状となるように切り込み14が形成される。この工程は「抜き加工工程」と呼ばれる。
【0140】
抜き加工工程により、所定の閉じた形状に抜き加工された第2剥離フィルム13と保護膜形成フィルム16との積層体と、その周囲に連続する不要部17と不要部17に接する第2剥離フィルムの積層体とに分かれる。所定の閉じた形状に抜き加工された第2剥離フィルム13と保護膜形成フィルム16との積層体は、保護膜形成用シート10の長手方向にわたって、複数個所に設けられている。
【0141】
(4.2 カス上げ工程)
カス上げ工程においては、
図4に示すように、第2剥離フィルム13(すなわち、不要部17に接する第2剥離フィルムおよび抜き加工された保護膜形成フィルム16に接する第2剥離フィルム)および不要部17を除去し、抜き加工された保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12上に残留させる。この際、抜き加工され、完全に切断された後の第2剥離フィルム13は、長尺の粘着テープ18で再び繋ぎ合わせることで、第2剥離フィルム13の除去がし易くなる。剥離された不要部17は、
図5に示すようにテンションローラー19を通過し、最終的には廃棄用ローラー20に巻き取られる。
【0142】
本実施態様によれば、剥離力F1、F2および粘着力F3が所定の要件を満足するように設計されているため、第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17の巻き取り時に、保護膜形成フィルム側の面がステンレス鋼製のテンションローラー19に接触しても、保護膜形成フィルムがテンションローラー19に残着することなく、第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17を廃棄用ローラー20に巻き取ることができる。
【0143】
カス上げ工程の結果、第1剥離フィルム12上に所定の閉じた形状に抜き加工された保護膜形成フィルム16が残留する。その後、露出された保護膜形成フィルム16を、所定のワークに貼付する。
【0144】
抜き加工された保護膜形成フィルム16から第2剥離フィルムを除去する際に、F1>F2の関係を満足することで、第2剥離フィルムの除去が容易になり、抜き加工された保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12上に確実に残留できる。
【0145】
抜き加工された保護膜形成用シート10は、ロール状に巻き取られて、保管、輸送されてもよい。
【0146】
(5.ワークの加工方法)
本実施形態に係る抜き加工された保護膜形成用シートを用いたワークの加工方法の一例として、保護膜形成フィルムが貼付されたウエハを加工して得られる保護膜付きチップが基板上に配置されたパッケージを製造する方法について説明する。
【0147】
パッケージの製造方法は、少なくとも以下の工程1から工程9を有する。
工程1:保護膜形成用シート10を抜き加工する工程
工程2:第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17を除去する工程(カス上げ工程)
工程3:除去された第2剥離フィルム13および保護膜形成フィルムの不要部17がテンションローラー19を通過し、巻き取る工程
工程4:保護膜形成用シート10の抜き加工された保護膜形成フィルム16を、ウエハ裏面に貼付する工程
工程5:貼付された保護膜形成フィルムを保護膜化する工程
工程6:保護膜または保護膜形成フィルムから第1剥離フィルム12を剥離する工程
工程7:裏面に保護膜または保護膜形成フィルムを有するウエハを個片化して、複数の保護膜または保護膜形成フィルム付きチップを得る工程
工程8:保護膜または保護膜形成フィルム付きチップを基板上に配置する工程
工程9:基板上に配置された保護膜または保護膜形成フィルム付きチップと、基板とを加熱する工程
【0148】
工程1~工程3は、前述したとおりである。工程5は、工程6の前に行ってもよく、工程6~工程9の何れかの工程の後に行ってもよい。すなわち、保護膜形成フィルムを保護膜化する工程は、保護膜形成フィルムをウエハに貼付した後の何れの段階で行ってもよい。
【0149】
上記の工程1から工程9を有する装置の製造方法を、図面を参照して説明する。
【0150】
図7に示すように、保護膜形成用シート10の保護膜形成フィルム16をウエハ21の裏面に貼付する(工程4)。その後、貼付された保護膜形成フィルム16を保護膜化して保護膜32を形成し(工程5)、保護膜付きウエハを得る。保護膜形成フィルム16が熱硬化性の場合には、保護膜形成フィルム16を所定温度で適切な時間加熱すればよい。また、保護膜形成フィルム16がエネルギー線硬化性である場合には、第1剥離フィルム12としてエネルギー線透過性フィルムを用い、第1剥離フィルム12側からエネルギー線を入射すればよい。
【0151】
なお、保護膜形成フィルム16の硬化は、後述するダイシング工程後に行ってもよく、ダイシングシートから保護膜形成フィルム付のチップをピックアップし、その後に保護膜形成フィルム16を硬化してもよい。
【0152】
次いで、保護膜付きウエハ21を公知のダイシングシート22上に転写に、保護膜付きウエハ21をダイシングし、
図8に示すように、保護膜32を有するチップ31(保護膜付きチップ30)を得る(工程7)。その後、必要に応じてダイシングシート22を平面方向にエキスパンドし、ダイシングシート22から保護膜付きチップ30を吸着コレットなどによりピックアップする。
【0153】
ピックアップされた保護膜付きチップ30は次工程に搬送してもよいし、トレイ、テープ等に一時的に収納保管して、所定の期間後に次工程に搬送してもよい。
【0154】
次工程に搬送された保護膜付きチップ30は、
図9に示すように、吸着コレットにより基板50まで搬送され、基板上の端子部において、吸着コレットから脱離されて、バンプ等の凸状電極33とパッド等の端子部とが接続可能な位置に配置される(工程8)。このとき、保護膜付きチップ30とは異なる他のチップも基板50上に実装されてもよい。したがって、この基板上に複数のチップが実装されてもよい。
【0155】
基板上の所定の位置に配置された保護膜付きチップは、加熱処理(リフロー処理)される(工程9)。リフロー処理条件は、たとえば、最高加熱温度が180~350℃、リフロー時間が2~10分であることが好ましい。
【0156】
リフロー処理では、保護膜付きチップ30の凸状電極33が溶融し、基板上の端子部と電気的および機械的に接合され、保護膜付きチップ30が基板に実装される。
【0157】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0158】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0159】
(保護膜形成用シートの作製)
[第1剥離フィルム(重剥離フィルム)]
<剥離剤層用組成物>
下記の剥離剤層用組成物原料を準備した。
・ビニル基を備えたオルガノポリシロキサン及びヒドロシリル基を備えたオルガノポリシロキサンを含有するシリコーン系離型剤(東レダウコーニング株式会社製、BY24-561、固形分30質量%)
・ジメチルポリシロキサン(重量平均分子量:2000)(信越化学工業製、X-62-1387、固形分100質量%)
・重剥離添加剤としてビニル基を備えたMQレジン(東レダウコーニング株式会社製、SD-7292、固形分71質量%)
・白金(Pt)触媒(東レダウコーニング株式会社製、SRX-212、固形分100質量%)
【0160】
上記原料を表1に記載の配合比(固形分換算)にて、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比))に加えて全固形分を2質量%に調整し、剥離剤層用組成物を含む塗布剤を調製した。
【0161】
<第1剥離フィルムの作製>
PETフィルム(三菱ケミカル製、商品名:ダイアホイル(登録商標)T-100、厚み:50μm)に、剥離剤層用組成物を含む塗布剤を、乾燥後の膜厚が0.15μmになるように塗布、加熱、乾燥して、PETフィルム上に剥離剤層を形成し、第1剥離フィルム(重剥離フィルム)を作製した。
【0162】
<表面弾性率の測定>
得られた第1剥離フィルムの剥離処理面の表面弾性率を以下のように測定した。
原子間力顕微鏡(BrukerCorporation製、MultiMode8)に、窒化ケイ素素材のカンチレバー(BrukerCorporation製、商品名:MLCT、先端半径:20nm、共振周波数:125kHz、バネ定数:0.6N/m)を設置した。原子間力顕微鏡に作製した第1剥離フィルムを載置し、設置したカンチレバーで、作製した第1剥離フィルムの剥離剤層の表面を、押し込み量2nm、スキャン速度:10Hzで押し込みと引き離しとを行った。この操作は23℃で行った。この操作で得られるフォースカーブ曲線に対して、JKR理論式によるフィッティングを行い、表面弾性率を算出した。表面弾性率は、第1剥離フィルムの剥離剤層の表面1μm×1μm中で4096点を測定し、これらの値を平均化して小数点以下1桁を四捨五入して表面弾性率(MPa)とした。結果を表1に示す。
【表1】
【0163】
[工程用剥離フィルム]
ビニル基を有するポリオルガノシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有する溶剤型シリコーン系剥離剤(商品名「KS-835」、固形分:30質量%、粘度:5000mPa・s、信越化学工業社製)33質量部(固形分換算)および白金触媒(商品名「PL50T」、信越化学工業社製)1.0質量部(固形分換算)を、トルエン溶媒にて固形分濃度が2.0質量%になるように希釈し、剥離剤層用組成物を含む塗布剤を調製した。
【0164】
塗布剤は、乾燥後の膜厚が0.15μmとなるように、厚さ38μmのPETフィルムの基材(商品名:ダイアホイル(登録商標)T-100、三菱ケミカル社製)上に塗布した後、150℃で30秒間乾燥させ、工程用剥離フィルムを得た。
【0165】
[第2剥離フィルム(軽剥離フィルム)]
以下の剥離フィルムA~Cを準備した。
剥離フィルムA:リンテック製「SP-PET381130(厚さ38μm)」
剥離フィルムB:リンテック製「SP-PET381031(厚さ38μm)」
【0166】
また、剥離フィルムCを以下のように調製した。
前記第1剥離フィルムの調製と同様にして、表1の配合比の剥離剤層用組成物を含む塗布剤を調製した。PETフィルム(三菱ケミカル製、商品名:ダイアホイル(登録商標)T-100、厚み:38μm)に、剥離剤層用組成物を含む塗布剤を、乾燥後の膜厚が0.15μmになるように塗布、加熱、乾燥して、PETフィルム上に剥離剤層を形成し、剥離フィルムC(軽剥離フィルム)を作製した。なお、剥離フィルムCの剥離剤層は、前記第1剥離フィルムと同一であるが、貼り付け条件が異なり、またPETフィルムの厚みが薄いため、第1剥離フィルムよりも軽剥離性になる。表3に、実施例・比較例で使用した第2剥離フィルムを示す。
【0167】
[保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤]
次の各成分を表2に示す配合比(固形分換算)で混合し、固形分濃度が50質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、塗布剤を調製した。
【0168】
(A)重合体成分
(A-1)n-ブチルアクリレート10質量部、メチルアクリレート70質量部、グリシジルメタクリレート5質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:40万、ガラス転移温度:-1℃)
(A-2)n-ブチルアクリレート10質量部、メチルアクリレート65質量部、グリシジルメタクリレート12質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート13質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:45万、ガラス転移温度:2℃)
(B)硬化性成分(熱硬化性成分)
(B-1)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828、エポキシ当量184~194g/eq)
(B-2)アクリルゴム微粒子分散ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(日本触媒社製、BPA328、エポキシ当量230g/eq、アクリルゴム含有量20phr)
(B-3)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、エピクロンHP-7200HH、軟化点88~98℃、エポキシ当量255~260g/eq)
(C)硬化剤:ジシアンジアミド(三菱化学社製、DICY7)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、キュアゾール2PHZ)
(E)充填材
(E-1)エポキシ基修飾球状シリカフィラー(アドマテックス社製、SC2050MA、平均粒径0.5μm)
(E-2)シリカフィラー(アドマテックス社製「YC100C-MLA」、平均粒子径0.1μm)
(F)シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM403、メトキシ当量12.7mmol/g、分子量236.3)
(G)着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製、MA600B、平均粒径28nm)
【0169】
【0170】
調製した保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を、前記第1剥離フィルムの剥離処理面に塗工し、100℃で2分乾燥して厚みが20μmの保護膜形成フィルムを形成した。続いて、前記工程用剥離フィルムを、保護膜形成フィルム上に貼り付けて、第1剥離フィルム/保護膜形成フィルム/工程用剥離フィルムの積層体を得た。貼り付け条件は、温度が60℃、圧力が0.4MPa、速度が1m/分であった。この状態で、23℃50%RHの環境下に48時間静置した。
【0171】
続いて、工程用剥離フィルムを剥離し、露出した保護膜形成フィルムに、第2剥離フィルム(前記A~Cの何れか)を貼り付けて、保護膜形成フィルムの両面に剥離フィルムが形成された保護膜形成用シートを得た。貼り付け条件は、温度が60℃、圧力が0.6MPa、速度が1m/分であった。次いで、保護膜形成用シートを、幅208mmに裁断し、長さ50メートルを巻き取りロール体とした。
【0172】
得られた保護膜形成用シートを用いて、下記の測定および評価を行った。
【0173】
[第1剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力F1]
得られた保護膜形成用シートから、第2剥離フィルムを剥離した。剥離により露出した保護膜形成フィルムの表面に、厚みが25μmの良接着PET(東洋紡社製、PET25A-4100)の良接着面を熱ラミネート(70℃,1m/min)により貼付して積層体サンプルを作製した。積層体サンプルを100mm幅に切りだし、測定用サンプルを作製した。測定用サンプルの第1剥離フィルムの背面を両面テープで硬質な支持板に固定した。
【0174】
万能型引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフ(登録商標)AG-IS」)を用いて、保護膜形成フィルム/良接着PETの複合(一体型)体を、剥離角度180°、剥離速度1m/minで第1剥離フィルムから剥離し、その際の荷重を測定した。測定距離は全100mmであり、初め10mmと終わり10mmを除いた80mmの間の測定値の平均を単位mN/100mmに換算して、剥離力F1とした。結果を表3に示す。
【0175】
[第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力F2]
得られた保護膜形成用シートを100mm幅に切りだし、測定用サンプルを作製した。測定用サンプルの第1剥離フィルムの背面を両面テープで硬質な支持板に固定した。
【0176】
万能型引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフ(登録商標)AG-IS」)を用いて、測定用サンプルから第2剥離フィルムを剥離し、その際の荷重を前記F1の測定と同じ条件で測定し、剥離力F2とした。結果を表3に示す。
【0177】
[保護膜形成フィルムとステンレス鋼板との粘着力F3]
保護膜形成用シートから、以下のように保護膜形成フィルムを露出させ、保護膜形成フィルムをステンレス鋼板に貼付して、粘着力を測定した。
【0178】
<保護膜形成フィルムを粘着テープ上に固定>
I. 第2剥離フィルム/保護膜形成フィルム/第1剥離フィルムの三層構造の保護膜形成用シートの、第2剥離フィルムを剥がした。
II. 露出した保護膜形成フィルムに、リンテック社製粘着テープ(製品名PET50PLシン:アクリル系粘着剤層/50μmPET基材)を23℃で貼付して、「PET基材/アクリル系粘着剤/保護膜形成フィルム/第1剥離フィルム」の積層体サンプルを作製した。
III. 積層体サンプルを幅25mm、長さ250mmの短冊形状にカットした
【0179】
<保護膜形成フィルムをステンレス鋼板上に固定>
I. ステンレス鋼板(SUS304 ♯600 片面 600HL 0.5mm厚×70mm×150mm)をトルエンとメチルエチルケトンで洗浄し、乾燥させた。
II. 「PET基材/アクリル系粘着剤/保護膜形成フィルム/第1剥離フィルム」の積層体から、第1剥離フィルムを剥がして、保護膜形成フィルムを露出させた。
III.露出した保護膜形成フィルムを、ステンレス鋼板に積層し、2kgローラーを用いて、23℃で貼り合わせた。
【0180】
加温せずに静置して、貼付してから2分間(±20秒)経過した後に、下記の測定方法で、粘着力を測定した。
万能型引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフAG-IS」)を用いて、測定距離70mmについて、剥離速さ300mm/分、温度23℃、剥がし角度180°で剥離力を測定した。測定距離の初め10mmと終わり10mmを除いた50mmの間の測定値の平均を単位mN/100mmに換算して、ステンレス鋼板に対する保護膜形成フィルムの粘着力F3とした。また、得られた値から、F2/F3を算出した。
【0181】
[カス上げ工程の安定性]
リンテック製RAD-3600F/12を200mmウエハ用の仕様で用いて、保護膜形成用シート(全長50m、幅208mm)の第2剥離フィルム側から抜型を進入させ、保護膜形成フィルムと第2剥離フィルムとを円形(内径198mm)に打ち抜いた。円形に打ち抜かれた保護膜形成フィルム16を第1剥離フィルム12に残し、
図4に示すように第2剥離フィルム13、および円形に打ち抜かれた保護膜形成フィルム16の周辺の不要部17を除去した(カス上げ工程)。この際、抜き加工され、完全に切断された後の第2剥離フィルム13は、長尺の粘着テープ18で再び繋ぎ合わせた上で、第2剥離フィルム13の除去を行った。その後、除去された第2剥離フィルム13および不要部17は、
図5に示すようにテンションローラー19を経由して、最終的には廃棄用ローラー20に巻き取った。
【0182】
第2剥離フィルムおよび不要部を10m巻き取る間に、テンションローラーに保護膜形成フィルムが残着する回数をカウントし、以下の基準で評価した。保護膜形成フィルムがテンションローラーに残着した場合は、装置を停止(カス上げ停止)して、テンションローラーをメチルエチルケトンで拭き取り洗浄した。
A…0回
B…1回
C…2~3回
D…4回以上
【0183】
【0184】
表3に示すように、保護膜形成フィルムと剥離フィルムとの間の剥離力F1、F2および保護膜形成フィルムのステンレス鋼板に対する粘着力F3が所定の要件を満足するように設計することで、第2剥離フィルムおよび不要部の巻き取り時に、保護膜形成フィルム側の面がステンレス鋼製のテンションローラーに接触しても、保護膜形成フィルムがローラーに残着することなく、第2剥離フィルムおよび不要部を廃棄用ローラーに安定して巻き取ることができる。このため、カス上げ停止の必要がなく、生産効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0185】
以上のように、本発明によれば、カス上げ停止を十分に抑制できる保護膜形成用シートおよびその製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0186】
10…保護膜形成用シート(本実施形態)
11…保護膜形成フィルム
12…第1剥離フィルム
13…第2剥離フィルム
14…切り込み
16…抜き加工された保護膜形成フィルム
17…不要部
18…長尺の粘着テープ
19…テンションローラー
20…廃棄用ローラー
21…ウエハ
22…ダイシングシート
30…保護膜付きチップ
31…チップ
32…保護膜
33…凸状電極
50…基板