(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】保護膜形成用シートロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240305BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01L21/78 M
B32B27/00 M
(21)【出願番号】P 2020136455
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145735(WO,A1)
【文献】特開2016-111165(JP,A)
【文献】特開2010-163184(JP,A)
【文献】特開2009-256458(JP,A)
【文献】特開2020-053453(JP,A)
【文献】特開2012-044193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜形成フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの一方の面に設けられた第1剥離フィルムと、
前記保護膜形成フィルムの他方の面に設けられた第2剥離フィルムと、を有する長尺シートを巻き取って形成されるシートロールを、前記シートロール形成後から60日間のうち、25日間以上10℃以下の保管温度で保管する工程を有し、
前記第1剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF1とし、前記第2剥離フィルムの前記保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1>F2である関係を満足し、
10℃での前記保護膜形成フィルムの損失正接をtanδ
10とした場合に、tanδ
10が1.2以下である保護膜形成用シートロールの製造方法。
【請求項2】
前記シートロール形成後10日以内に10℃以下の保管温度で保管する工程を開始する請求項1に記載の保護膜形成用シートロールの製造方法。
【請求項3】
前記保管温度が-10℃以上である請求項1または2に記載の保護膜形成用シートロールの製造方法。
【請求項4】
前記第1剥離フィルムおよび/または前記第2剥離フィルムにおいて、前記保護膜形成フィルムに接していない面が剥離処理されている請求項1から3のいずれかに記載の保護膜形成用シートロールの製造方法。
【請求項5】
tanδ
10が0.04以上である請求項1から4のいずれかに記載の保護膜形成用シートロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成用シートロールの製造方法に関する。特に、保護膜の痕をもたらす保護膜形成フィルムの巻き取りに起因する痕が生じにくい保護膜形成用シートロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フリップチップボンディングと呼ばれる実装法により半導体装置を製造することが行われている。この実装法では、バンプ等の凸状電極が形成された回路面を有する半導体チップを実装する際に、半導体チップの回路面側をチップ搭載部に反転(フェイスダウン)させて接合している。したがって、回路が形成されていない半導体チップの裏面側が露出する構造となる。
【0003】
このため、半導体チップの裏面側には、半導体チップを搬送時等の衝撃から保護するために、有機材料からなる硬質の保護膜が形成されることが多い。このような保護膜は、たとえば、半導体ウエハの裏面に保護膜形成フィルムを貼付した後、硬化して、または、非硬化の状態で形成される。
【0004】
保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムを支持する支持フィルムと共に、長尺状の保護膜形成用シートを構成する。この長尺状シートは、通常、保護膜形成フィルムを使用する前には、巻き取られておりシートロールとされている。そして、保護膜形成フィルムを使用する際には、シートロールから巻き解かれた長尺状の保護膜形成用シートは、貼付される半導体ウエハとほぼ同形状に切り抜かれてから半導体ウエハに貼付される。
【0005】
特許文献1は、接着剤層の両面に第1シートおよび第2シートが設けられた長尺状の接着シートを開示している。接着剤層は、抜き加工部と連続状カス部とに分離され、抜き加工部の接着剤層は接着剤膜として、たとえば、半導体ウエハの裏面に貼付される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
保護膜形成用シートロールは、製造された長尺状の保護膜形成用シートを芯留めテープを用いて芯部に固定し、巻き取り装置により長尺状の保護膜形成用シートに所定の張力を加えながら巻き取ることにより形成される。その結果、巻き取られた長尺状の保護膜形成用シート(保護膜形成用シートロール)には、応力が残留し、芯部に向かう方向に巻き圧が生じている。この巻き圧は、芯部に近い保護膜形成用シート、すなわち、巻き始めの保護膜形成用シートにおいて大きく、シートロールの外周側の保護膜形成用シートにおいて小さい傾向にある。
【0008】
また、巻き取り時の張力のバラツキ等により、同じ保護膜形成用シートロールにおいても、強く押されている箇所と弱く押されている箇所とを生じて、巻き取り後に、長時間強く押されている箇所は保護膜形成用シートに巻き取りに起因する痕(巻き痕)が形成されることがある。特に、保護膜形成用シートが巻かれ始めた箇所は巻き圧が大きく、同時に巻き取られた幅方向の各箇所同士の巻き圧のバラツキが発生しやすい。さらに、芯留めテープおよび保護膜形成用シートの厚みに起因する段差が生じるので、この段差に起因して巻き圧が大きくなったり、幅方向に巻き圧のバラツキが発生しやすくなったりする。したがって、巻き取り後、シートロールの外周側の保護膜形成用シートよりも、芯部に近い保護膜形成用シートに、部分的に強く押されたことによる巻き痕が発生しやすい。このような巻き痕が生じると、保護膜形成用シートを構成する保護膜形成フィルムにも巻き痕が生じてしまう。その結果、保護膜形成フィルムがワークに貼付され、保護膜を形成した時にも巻き痕が残存し、保護膜の外観不良を引き起こしてしまう。
【0009】
しかしながら、シートロールを形成する際に巻き取り装置の設定条件を調整しても、上記の巻き圧のバラツキ等に伴う巻き痕を完全に抑制することは難しいという問題があった。
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、保護膜の痕をもたらす保護膜形成フィルムの巻き取りに起因する痕が生じにくい保護膜形成用シートロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、以下の通りである。
[1]保護膜形成フィルムと、
保護膜形成フィルムの一方の面に設けられた第1剥離フィルムと、
保護膜形成フィルムの他方の面に設けられた第2剥離フィルムと、を有する長尺シートを巻き取って形成されるシートロールを、シートロール形成後から60日間のうち、25日間以上10℃以下の保管温度で保管する工程を有し、
第1剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力をF1とし、第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1>F2である関係を満足し、
10℃での保護膜形成フィルムの損失正接をtanδ10とした場合に、tanδ10が1.2以下である保護膜形成用シートロールの製造方法である。
【0012】
[2]シートロール形成後10日以内に10℃以下の保管温度で保管する工程を開始する[1]に記載の保護膜形成用シートロールの製造方法である。
【0013】
[3]保管温度が-10℃以上である[1]または[2]に記載の保護膜形成用シートロールの製造方法である。
【0014】
[4]第1剥離フィルムおよび/または第2剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムに接していない面が剥離処理されている[1]から[3]のいずれかに記載の保護膜形成用シートロールの製造方法である。
【0015】
[5]tanδ10が0.04以上である[1]から[4]のいずれかに記載の保護膜形成用シートロールの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保護膜の痕をもたらす保護膜形成フィルムの巻き取りに起因する痕が生じにくい保護膜形成用シートロールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本実施形態に係る保護膜形成用シートロールの一例の斜視模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る保護膜形成用シートの一例の断面模式図である。
【
図3】
図3は、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムが、第1剥離剤層および第2剥離剤層を有していることを示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る保護膜形成用シートロールから繰り出され、切り込みが形成された長尺シートの斜視模式図である。
【
図5A】
図5Aは、保護膜形成フィルムと第1剥離フィルムとの積層体が、ワークに貼付されていることを示す断面模式図である。
【
図5B】
図5Bは、ワークに貼付された保護膜形成フィルムが保護膜化されたことを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
【0020】
ワークは、保護膜形成フィルムが貼付されて加工される板状体である。ワークとしては、たとえば、ウエハ、パネルが挙げられる。具体的には、半導体ウエハ、半導体パネルが挙げられる。ワークの加工物としては、たとえば、ウエハを個片化して得られるチップが挙げられる。具体的には、半導体ウエハを個片化して得られる半導体チップが例示される。この場合、保護膜は、ウエハの裏面側に形成される。
【0021】
ワークの「表面」とは回路、バンプ等の凸状電極等が形成された面を指し、「裏面」は回路等が形成されていない面を指す。
【0022】
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0023】
本明細書において、各組成物を構成する成分の重量比は固形分比で示されている。
【0024】
(1.保護膜形成用シートロール)
(1.1 保護膜形成用シートロールの形態)
本実施形態に係る製造方法により製造される保護膜形成用シートロールの一例を
図1Aに示す。
図1Aにおいて、保護膜形成用シートロール100は、保護膜を形成するための長尺シート1が巻き取られたロールである。
【0025】
(1.2 保護膜形成用シート)
まず、長尺シートについて説明する。長尺シートとしての保護膜形成用シート1は、保護膜形成フィルムをワークに貼付するために用いられる。保護膜形成用シート1は、
図2に示すように、保護膜形成フィルム10の一方の主面10a上に第1剥離フィルム20が配置され、他方の主面10b上に第2剥離フィルム30が配置された構成を有している。以降、長尺シート1は、保護膜形成用シート1ということがある。
【0026】
保護膜形成用シート1はロールとして巻き取られた後、使用時まで保管される。保管時には、保護膜形成フィルムは、両方の主面上に形成されている第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムにより支持されている。
【0027】
使用時には、保護膜形成用シートロールから保護膜形成用シートが繰り出され、保護膜形成フィルムが所定の形状に切断される。第2剥離フィルムが剥離された後、保護膜形成フィルムはワークの裏面に貼付され、第1剥離フィルムの剥離後に保護膜化される。保護膜は、ワークまたはワークの加工物を保護する。
【0028】
以下、保護膜形成用シートを構成する保護膜形成フィルム、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムについて説明する。
【0029】
(1.3 保護膜形成フィルム)
保護膜形成フィルムは、上述したように、ワークに貼付された後に保護膜化され、ワークまたはワークの加工物を保護するための保護膜を形成する。
【0030】
「保護膜化する」とは、保護膜形成フィルムを、ワークまたはワークの加工物を保護するのに十分な特性を有する状態にすることである。具体的には、保護膜形成フィルムが硬化性である場合には、「保護膜化する」とは、未硬化の保護膜形成フィルムを硬化物にすることをいう。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムの硬化物であり、保護膜形成フィルムとは異なる。
【0031】
硬化性保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせた後、保護膜形成フィルムを硬化させることにより、保護膜をワークに強固に接着でき、耐久性を有する保護膜を形成できる。
【0032】
一方、保護膜形成フィルムが硬化性成分を含有せず非硬化の状態で使用される場合には、保護膜形成フィルムがワークに貼付された時点で、当該保護膜形成フィルムは保護膜化される。換言すれば、保護膜化された保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルムと同じである。
【0033】
高い保護性能が求められない場合には、保護膜形成フィルムを硬化させる必要がないので、保護膜形成フィルムの使用が容易である。
【0034】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは、硬化性であることが好ましい。したがって、保護膜は硬化物であることが好ましい。硬化物としては、たとえば、熱硬化物、エネルギー線硬化物が例示される。本実施形態では、保護膜は熱硬化物であることがより好ましい。
【0035】
また、保護膜形成フィルムは、常温(23℃)で粘着性を有するか、加熱により粘着性を発揮することが好ましい。これにより、保護膜形成フィルムにワークを重ね合わせるときに両者を貼合できる。したがって、保護膜形成フィルムを硬化させる前に位置決めを確実に行うことができる。
【0036】
保護膜形成フィルムは1層(単層)から構成されていてもよいし、2層以上の複数層から構成されていてもよい。保護膜形成フィルムが複数層を有する場合、これら複数層は、互いに同一でも異なっていてもよく、これら複数層を構成する層の組み合わせは特に制限されない。
【0037】
本実施形態では、保護膜形成フィルムは1層(単層)であることが好ましい。1層の保護膜形成フィルムは厚みに関して高い精度が得られるため生産が容易である。また、保護膜形成フィルムが複数層から構成されると、層間の密着性および各層の伸縮性を考慮する必要があり、これらに起因して被着体からの剥離が発生するリスクがある。保護膜形成フィルムが1層である場合には、上記のリスクを低減でき、設計の自由度も高まる。
【0038】
保護膜形成フィルムの厚みは、特に制限されないが、好ましくは、100μm未満、70μm以下、45μm以下、30μm以下である。保護膜形成フィルムの厚みの上限値を上記の値とすることにより、巻かれ始めた箇所の保護膜形成用シートの厚みに起因する段差を小さくできる。
【0039】
また、保護膜形成フィルムの厚みは、好ましくは、5μm以上、10μm以上、15μm以上である。保護膜形成フィルムの厚みの下限値を上記の値とすることにより、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすく、さらに、保護膜形成用シートロールにおいて、保護膜形成フィルムが応力緩和する働きをして、巻き痕が付き始める芯部からの長さをより短くすることができる。
【0040】
なお、保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される保護膜形成フィルムの厚みは、保護膜形成フィルムを構成するすべての層の合計の厚みを意味する。
【0041】
(1.3.1 10℃における保護膜形成フィルムの損失正接)
本実施形態では、10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)は1.2以下である。損失正接は、「損失弾性率/貯蔵弾性率」で定義され、動的粘弾性測定装置により対象物に与えた応力に対する応答によって測定される値である。保護膜形成フィルムの損失正接を10℃において上記の範囲内とすることにより、保護膜形成フィルムを構成する成分が若干弾性的になり保護膜形成フィルムが変形しにくいので、シートロールの巻き圧が高い場合であっても巻き痕がつきにくい傾向にある。したがって、本実施形態では、10℃における保護膜形成フィルムの損失正接を制御する。
【0042】
10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)は1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。また、10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)は0.04以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。10℃における保護膜形成フィルムの損失正接の下限値が上記の値であることにより、シートロールにおいて屈曲している保護膜形成フィルムが10℃において割れる現象を防止することができる。
【0043】
10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)は、公知の方法により測定すればよい。たとえば、保護膜形成フィルムを所定の大きさの試料とし、動的粘弾性測定装置により、所定の温度範囲において、所定の周波数で試料にひずみを与えて、弾性率を測定し、測定された弾性率から、10℃における損失正接(tanδ10)を算出することができる。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0044】
(1.4 第1剥離フィルム)
第1剥離フィルムは、保護膜形成フィルムを剥離可能に支持できるフィルムである。本実施形態では、第1剥離フィルムは、保護膜形成フィルムをワークに貼付した後に保護膜形成フィルムから剥離されることが好ましい。
【0045】
第1剥離フィルムは1層(単層)または2層以上の基材から構成されていてもよいし、剥離性を制御する観点から、基材の表面が剥離処理されていてもよい。すなわち、基材の表面が改質されていてもよいし、基材の表面に基材に由来しない材料が形成されていてもよい。
【0046】
第1剥離フィルムの厚みは、特に制限されないが、30μm以上100μm以下であることが好ましい。また、第1剥離フィルムの厚みは、40μm以上であることがより好ましく、45μm以上であることがさらに好ましい。また、第1剥離フィルムの厚みは、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
第1剥離フィルムの厚みの下限値が上記の値であることにより、後述する切断刃を用いて第1剥離フィルムの一部まで達する切り込みを形成する際に、切断刃が第1剥離フィルムを貫通し、第1剥離フィルムが切断させてしまうことを防止できる。さらに、保護膜形成用シートロールにおいて、第1剥離フィルムが応力緩和する働きをして、巻き痕が付き始める芯部からの長さをより短くすることができる。
【0048】
また、第1剥離フィルムの厚みの上限値が上記の値であることにより、保護膜形成用シートが繰り出され保護膜形成フィルムが切り抜かれて次工程に搬送されるまでに、保護膜形成用シートは装置内のガイドローラー等のローラーを通過するが、その際に、保護膜形成フィルムが第1剥離フィルムから剥離することを防止できる。さらに、巻かれ始めた箇所の保護膜形成用シートの厚みに起因する段差を小さくできる。
【0049】
なお、第1剥離フィルムの厚みは、第1剥離フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される第1剥離フィルムの厚みは、第1剥離フィルムを構成する全ての層の合計の厚みを意味する。
【0050】
本実施形態では、第1剥離フィルムは、基材と第1剥離剤層とを有することが好ましい。第1剥離剤層を有することにより、第1剥離フィルムにおいて第1剥離剤層が形成されている面の物性を制御しやすい。
【0051】
また、本実施形態では、保護膜形成用シートにおいて、第1剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力をF1とし、後述する第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力をF2とした場合に、F1およびF2は、F1>F2である関係を満足する。このような関係を満足することにより、保護膜形成用シートから第2剥離フィルムを除去する際に、残留すべき保護膜形成フィルム10が第2剥離フィルムと共に除去されず、保護膜形成フィルム10を第1剥離フィルム上に残すことが容易となる。
【0052】
したがって、第1剥離フィルムは重剥離フィルムであり、第2剥離フィルムは軽剥離フィルムである。
【0053】
本実施形態では、F1およびF2は、引張試験機を用いて測定される荷重値とする。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0054】
(1.4.1 基材)
第1剥離フィルムの基材は、保護膜形成フィルムがワークに貼付されるまで保護膜形成フィルムを支持できる材料であれば特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルム(以下「樹脂フィルム」という。)から構成される。
【0055】
樹脂フィルムの具体例として、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。本実施形態では、環境安全性、コスト等の観点に加えて、基材の延伸に伴う巻き締まりを抑制する観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0056】
基材は、上記樹脂フィルム中に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0057】
基材の厚みは、保護膜形成用シートが使用される各工程において適切に機能でき、上記の第1剥離フィルムの厚みの範囲内において、特に限定されない。基材の厚みは、30μm以上100μm以下であることが好ましい。また、基材の厚みは、40μm以上であることがより好ましく、45μm以上であることがさらに好ましい。また、基材の厚みは、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
(1.4.2 第1剥離剤層)
第1剥離剤層は、第1剥離フィルムに保護膜形成フィルムからの剥離性を付与する。第1剥離剤層は、剥離性を付与できる材料から構成されていれば、特に制限されない。本実施形態では、第1剥離剤層は、離型剤を含む第1剥離剤層用組成物を硬化して得られる。
【0059】
第1剥離フィルムにおいて、基材の表面に第1剥離剤層が直接形成されていることが好ましい。基材の表面に第1剥離剤層を直接形成することにより、第1剥離フィルムの生産が容易となるため、コスト低減が実現される。
【0060】
第1剥離剤層の厚みは、特に制限されないが、30nm以上200nm以下であることが好ましい。また、第1剥離剤層の厚みは、50nm以上であることがより好ましく、80nm以上であることがさらに好ましい。また、第1剥離剤層の厚みは、180nm以下であることがより好ましい。
【0061】
第1剥離剤層の厚みが上記の範囲内であることにより、保護膜形成フィルムをワークに貼付する際に、安定した剥離性能を発揮することができる。
【0062】
また、本実施形態では、第1剥離剤層は、第1剥離フィルムの保護膜形成フィルム側の面に加えて、その反対側の面にも形成されることが好ましい。すなわち、
図3に示すように、保護膜形成用シート1において、第1剥離フィルム20は、基材21と、基材21の両方の主面に形成された第1剥離剤層22、23とを有する。第1剥離フィルムの主面20b(第1剥離剤層22の主面20b)は保護膜形成フィルムの主面10aと接する。第1剥離剤層22と第1剥離剤層23とは、同一の組成物から構成されていてもよいし、異なる組成物から構成されていてもよい。
【0063】
シートロールにおいて、長尺シート1は半径方向に積層されるので、第1剥離フィルムの保護膜形成フィルムと接していない面20aは、第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムと接していない面30bと接している。したがって、第1剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムと接していない面20aが剥離処理されていることにより(第1剥離剤層23が形成されていることにより)、接触している長尺シート同士が滑りやすくなるので、後述する巻き圧の安定化を促進することができる。
【0064】
(1.5 第2剥離フィルム)
第2剥離フィルムは、保護膜形成フィルムを剥離可能に支持できるフィルムである。本実施形態では、第2剥離フィルムは、保護膜形成フィルムをワークに貼付する前に保護膜形成フィルムから剥離されることが好ましい。
【0065】
第1剥離フィルムと同様に、第2剥離フィルムは1層(単層)または2層以上の基材から構成されていてもよいし、剥離性を制御する観点から、基材の表面が剥離処理されていてもよい。すなわち、基材の表面が改質されていてもよいし、基材の表面に基材に由来しない材料が形成されていてもよい。
【0066】
第2剥離フィルムの厚みは、特に制限されないが、10μm以上75μm以下であることが好ましい。また、第2剥離フィルムの厚みは、18μm以上であることがより好ましく、24μm以上であることがさらに好ましい。また、第2剥離フィルムの厚みは、60μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることがさらに好ましい。第2剥離フィルムの厚みは、剥離力F2と剥離力1を上述のF1>F2にする観点から、第1剥離フィルムの厚み以下であることが好ましく、第1剥離フィルムの厚み未満であることがより好ましい。
【0067】
なお、第2剥離フィルムの厚みは、第2剥離フィルム全体の厚みを意味する。たとえば、複数層から構成される第2剥離フィルムの厚みは、第2剥離フィルムを構成する全ての層の合計の厚みを意味する。
【0068】
本実施形態では、第2剥離フィルムは、基材と第2剥離剤層とを有することが好ましい。第2剥離剤層を有することにより、第2剥離フィルムにおいて第2剥離剤層が形成されている面の物性を制御しやすい。
【0069】
(1.5.1 基材)
第2剥離フィルムの基材は、第1剥離フィルムの基材として例示した材料から適宜選択できる。
【0070】
(1.5.2 第2剥離剤層)
第2剥離フィルムが第2剥離剤層を有する場合、第2剥離剤層は剥離性を付与できる材料から構成されていれば、特に制限されない。たとえば、第2剥離剤層は、第1剥離剤層と同様に、シリコーン系離型剤を含む第2剥離剤層用組成物を硬化して得られる。
【0071】
第1剥離フィルムと同様に、第2剥離フィルムにおいて、基材の表面に第2剥離剤層が直接形成されていることが好ましい。基材の表面に第2剥離剤層を直接形成することにより、第2剥離フィルムの生産が容易となるため、コスト低減が実現される。
【0072】
また、本実施形態では、第2剥離剤層は、第2剥離フィルムの保護膜形成フィルム側の面に形成される。すなわち、
図3に示すように、保護膜形成用シート1において、第2剥離フィルム30は、基材31と、基材31の保護膜形成フィルム側の面に形成された第2剥離剤層32を有する。第2剥離フィルムの主面30a(第2剥離剤層32の主面30a)は保護膜形成フィルムの主面10bと接する。また、第2剥離剤層は、第2剥離フィルムの保護膜形成フィルム側の面に加えて、その反対側の面30bにも形成されていてもよい。
【0073】
また、基材の両方の主面に第2剥離剤層が形成される場合、基材の両方の主面に、後述する第2剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布して形成してもよいし、基材の一方の主面に第2剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布した後、基材を巻き取ってロールにして、塗布剤を塗布した主面から塗布剤を塗布していない主面に、第2剥離剤層用組成物の成分が移行する現象(転移現象)を利用して、塗布剤を塗布していない主面に第2剥離剤層を形成してもよい。
【0074】
(2.保護膜形成用シートロールの製造方法)
本実施形態に係る保護膜形成用シートロールの製造方法では、まず、上述した保護膜形成フィルム、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムを有する保護膜形成用シートが、長手方向の長さが短手方向の長さよりも非常に長い長尺シートとして製造される。当該長尺シートは公知の方法で製造すればよいが、具体的な方法は後述する。
【0075】
長尺シートはその後保護膜形成フィルムが貼付されることになるワークのサイズにあわせて幅方向の両側が裁断されて幅方向のサイズを調整しながら、巻き取り装置により所定の張力が印加されて巻き取られることにより、保護膜形成用シートロールとなる。
【0076】
なお、ワークの幅が150mmである場合には、裁断後の幅方向の長さは155~194mmの範囲内であることが好ましく、ワークの幅が200mmである場合には、裁断後の幅方向の長さは205~250mmの範囲内であることが好ましく、ワークの幅が300mmである場合には、裁断後の幅方向の長さは305~350mmの範囲内であることが好ましく、ワークの幅が450mmである場合には、裁断後の幅方向の長さは455~500mmの範囲内であることが好ましい。
【0077】
図1Bに示すように、このようなシートロール100は、芯留めテープ等の固定手段80を介して、芯部70に長尺シート1を固定してから、巻き取り装置により長尺シート1に所定の張力を加えながら芯部70に長尺シート1を巻き取ることにより形成される。上述したように、巻き取りが終了したシートロールでは、巻き圧のバラツキが生じており、特に、芯部に近い長尺シートにおいて強く押されている箇所に、保護膜の痕をもたらす保護膜形成フィルムの巻き痕が形成されやすい。
【0078】
一方、シートロール形成後、すなわち、巻き取り終了後、時間の経過により、巻き圧の高い箇所は巻き圧が徐々に低くなり、巻き圧が低い箇所の巻き圧に近づくと推測される。換言すれば、巻き圧のバラツキは経時的に解消され、シートロールにおける巻き圧が安定化(平均化)されると推測される。したがって、シートロールにおける巻き圧のバラツキは最終的にはかなり解消されるものの、巻き圧のバラツキが解消されるまでに形成された巻き痕は、巻き圧のバラツキが解消されても保護膜形成フィルムに残存する。
【0079】
しかしながら、巻き圧のバラツキが生じ、強く押されている箇所があっても、保護膜形成フィルムの損失正接が低く、保護膜形成フィルムが変形しにくい場合には、保護膜形成フィルムに巻き痕が形成されにくい。また、温度が低くなると、保護膜形成フィルムの損失正接を低く維持しやすい。さらに、上述したように、シートロール中の巻き圧は時間の経過により安定化する傾向にある。
【0080】
(2.1 保管工程)
そこで、本実施形態では、保護膜形成フィルムの損失正接を上述した範囲内に維持しながら、巻き取り直後のシートロールを巻き圧が安定化するまで所定の期間保管する。
【0081】
具体的には、本実施形態に係る保護膜形成用シートロールの製造方法は、10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)が1.2以下である保護膜形成フィルムを有するシートロール形成後から60日間シートロールを保管し、かつ60日間のうち25日間以上の期間において、シートロールを10℃以下の保管温度で保管する工程を有する。
【0082】
10℃における保護膜形成フィルムの損失正接(tanδ10)が1.2以下である保護膜形成フィルムを有するシートロールでは、10℃以下でシートロールの巻き圧が安定化するまでシートロールを保管することにより、保護膜形成フィルムが上記範囲内の損失正接を達成し易くなるので、シートロール中の保護膜形成フィルムへの巻き痕の形成を抑制することができる。
【0083】
また、シートロールを10℃以下の保管温度で保管する期間は、好ましくは、30日間以上、35日間以上、40日間以上、45日間以上である。一方、当該期間は、好ましくは、60日間以下、59日間以下である。
【0084】
また、10℃以下の保管温度での保管は、シートロール形成後10日以内に開始することが好ましく、7日以内に開始することがより好ましく、4日以内に開始することがさらに好ましい。巻き取り直後のシートロールにおいて、巻き圧のバラツキが大きい傾向にあるので、保護膜形成フィルムの損失正接を確実に低く維持することにより、シートロール中の保護膜形成フィルムへの巻き痕の形成をさらに抑制することができる。
【0085】
また、保管温度は-10℃以上であることが好ましく、-5℃以上であることがより好ましく、0℃以上であることがさらに好ましい。保管温度の下限値が上記の値であることにより、保護膜形成フィルムの弾性率が高くなりすぎることを抑制し、保護膜形成フィルムと剥離フィルムとの間、特に、保護膜形成フィルムと第2剥離フィルムとの間に剥がれが生じることを抑制することができる。
【0086】
このような保管工程を経て、本実施形態に係る保護膜形成用シートロールが得られる。保護膜形成フィルムの10℃における損失正接tanδ10が1.2以下である保護膜形成用シートを上記の保管工程で保管することにより、保護膜形成用シートロールから、保護膜形成用シートを繰り出しても、芯部側の保護膜形成用シートまで保護膜形成フィルムにおける巻き痕の形成が抑制されている。したがって、保護膜の外観不良が抑制され、本実施形態に係る保護膜形成用シートロールを無駄なく使い切ることができる。
【0087】
(2.2 長尺シートの製造方法)
本実施形態に係る保護膜形成用シートロールの製造方法では、上述した構成を有する長尺シートは公知の方法で製造すればよい。本実施形態では、第1剥離フィルムが、上述した基材と第1剥離剤層とを有し、第2剥離フィルムが、上述した基材と第2剥離剤層とを有している場合について説明する。
【0088】
保護膜形成フィルムは、保護膜形成フィルム用組成物を用いて形成され、第1剥離剤層は、第1剥離剤層用組成物を用いて形成され、第2剥離剤層は、第2剥離剤層用組成物を用いて形成される。
【0089】
以下では、保護膜形成フィルム用組成物、第1剥離剤層用組成物および第2剥離剤層用組成物について説明する。
【0090】
(2.2.1 保護膜形成フィルム用組成物)
保護膜形成フィルムが上記の物性を有していれば、保護膜形成フィルムの組成は特に限定されない。本実施形態では、保護膜形成フィルムを構成する組成物(保護膜形成フィルム用組成物)は、少なくとも、重合体成分(A)と硬化性成分(B)と充填材(E)とを含有する樹脂組成物であることが好ましい。重合体成分は、重合性化合物が重合反応して形成されたとみなせる成分である。また、硬化性成分は、硬化(重合)反応し得る成分である。なお、本発明において重合反応には、重縮合反応も含まれる。
【0091】
また、重合体成分に含まれる成分は、硬化性成分にも該当する場合がある。本実施形態では、保護膜形成フィルム用組成物が、このような重合体成分及び硬化性成分の両方に該当する成分を含有する場合、保護膜形成フィルム用組成物は、重合体成分及び硬化性成分を両方含有するとみなす。
【0092】
(2.2.1.1 重合体成分)
重合体成分(A)は、保護膜形成フィルムに、フィルム形成性(造膜性)を持たせつつ、適度なタックを与え、ワークへの保護膜形成フィルムの均一な貼り付けを確実にする。重合体成分の重量平均分子量は、通常は5万~200万、好ましくは10万~150万、特に好ましくは20万~100万の範囲にある。このような重合体成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、飽和ポリエステル樹脂等が用いられ、特にアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0093】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、特に断りのない限り、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC-8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column HXL-H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
【0094】
アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0095】
本実施形態では、メタクリル酸グリシジル等を用いてアクリル樹脂にグリシジル基を導入することが好ましい。グリシジル基を導入したアクリル樹脂と、後述する熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、安定した性能の保護膜形成フィルムが得られやすい傾向がある。また、本実施形態では、ワークへの接着性や粘着物性をコントロールするために、アクリル酸ヒドロキシエチル等を用いてアクリル樹脂に水酸基を導入することが好ましい。
【0096】
アクリル樹脂のガラス転移温度は好ましくは、-70~40℃、-35~35℃、-20~30℃、-10~25℃、-5~20℃である。アクリル樹脂のガラス転移温度の下限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムのtanδ10を小さくすることが容易となる。また、アクリル樹脂のガラス転移温度の上限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムのタックを適度に高くすると共に、保護膜形成フィルムのワークとの粘着力を向上し、保護膜のワークとの接着力が適度に向上する。
【0097】
アクリル樹脂がm種(mは2以上の整数である。)の構成単位を有している場合、当該アクリル樹脂のガラス転移温度は以下のようにして算出することができる。すなわち、アクリル樹脂中の構成単位を誘導するm種のモノマーに対して、それぞれ1からmまでのいずれかの重複しない番号を順次割り当てて、「モノマーm」と名付けた場合、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、以下に示すFoxの式を用いて算出できる。
【数1】
(式中、Tgはアクリル樹脂のガラス転移温度であり;mは2以上の整数であり;Tgkはモノマーmのホモポリマーのガラス転移温度であり;Wkはアクリル樹脂における、モノマーmから誘導された構成単位mの質量分率であり、ただし、Wkは下記式を満たす。)
【数2】
(式中、m及びWkは、前記と同じである。)
【0098】
Tgkとしては、高分子データ・ハンドブック、粘着ハンドブック又はPolymer Handbook等に記載されている値を使用できる。例えば、メチルアクリレートのホモポリマーのTgkは10℃、n-ブチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-54℃、メチルメタクリレートのホモポリマーのTgkは105℃、2-ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーのTgkは-15℃、グリシジルメタクリレートのホモポリマーのTgkは41℃、2-エチルヘキシルアクリレートのTgkは-70℃である。
【0099】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の重合体成分の含有量は、好ましくは、5~80質量部、8~70質量部、10~60質量部、12~55質量部、14~50質量部、15~45質量部である。重合体成分の含有量を上記の範囲内とすることにより、保護膜形成フィルムのタックを適度に高くすると共に、保護膜形成フィルムのワークとの粘着力が適度に向上する。また、巻き痕の発生を抑制しやすい傾向にある。
【0100】
(2.2.1.2 熱硬化性成分)
硬化性成分(B)は、保護膜形成フィルムを硬化させて、硬質の保護膜を形成する。硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、またはこれらの混合物を用いることができる。エネルギー線の照射によって硬化させる場合、保護膜形成フィルムは、後述する充填材および着色料等を含有するため光線透過率が低下する。そのため、例えば保護膜形成フィルムの厚さが厚くなった場合、エネルギー線硬化が不十分になりやすい。
【0101】
一方、熱硬化性の保護膜形成フィルムは、その厚さが厚くなっても、加熱によって十分に硬化するため、保護性能が高い保護膜を形成できる。また、加熱オーブン等の通常の加熱手段を用いることによって、多数の保護膜形成フィルムを一括して加熱し、熱硬化させることができる。
【0102】
したがって、本実施形態では、硬化性成分は熱硬化性であることが望ましい。すなわち、保護膜形成フィルムは、熱硬化性であることが好ましい。
【0103】
保護膜形成フィルムが熱硬化性であるか否かは以下のようにして判断することができる。まず、常温(23℃)の保護膜形成フィルムを、常温を超える温度になるまで加熱し、次いで常温になるまで冷却することにより、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムとする。次に、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの硬さと、加熱前の保護膜形成フィルムの硬さと、を同じ温度で比較したとき、加熱・冷却後の保護膜形成フィルムの方が硬い場合には、この保護膜形成フィルムは、熱硬化性であると判断する。
【0104】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびこれらの混合物が好ましく用いられる。熱硬化性ポリイミド樹脂とは、熱硬化することによってポリイミド樹脂を形成する、ポリイミド前駆体と熱硬化性ポリイミドとの総称である。
【0105】
熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網目構造を形成し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂が用いられる。本実施形態では、エポキシ樹脂の分子量(式量)は、好ましくは、300以上50000未満、300以上10000未満、300以上5000未満、300以上3000未満である。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50~5000g/eqであることが好ましく、100~2000g/eqであることがより好ましく、150~1000g/eqであることがさらに好ましい。
【0106】
このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0107】
硬化性成分(B)として、熱硬化性成分を用いる場合には、助剤として、硬化剤(C)を併用することが好ましい。エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤が好ましい。「熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤」とは、常温(23℃)ではエポキシ樹脂と反応しづらく、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0108】
例示した方法のうち、常温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法が好ましい。
【0109】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本実施形態では、ジシアンジアミドが特に好ましい。
【0110】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤としては、フェノール樹脂も好ましい。フェノール樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物等が特に制限されることなく用いられる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0111】
これらのフェノール樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成することができる。
【0112】
硬化剤(C)の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~30質量部、0.1~20質量部、0.2~15質量部、0.3~10質量部である。硬化剤(C)の含有量の範囲を上記の範囲とすることにより、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0113】
硬化剤(C)として、ジシアンジアミドを用いる場合には、硬化促進剤(D)をさらに併用することが好ましい。硬化促進剤としては、たとえば、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類(1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたイミダゾール)が好ましい。これらの中でも、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールが特に好ましい。
【0114】
硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは、0.01~30質量部、0.1~20質量部、0.2~15質量部、0.3~10質量部である。硬化促進剤(D)の含有量の範囲を上記の範囲とすることにより、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0115】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の熱硬化性成分および硬化剤の合計含有量は、好ましくは、3~80質量部、5~60質量部、7~50質量部、9~40質量部、10~30質量部である。このような割合で熱硬化性成分と硬化剤とを配合すると、保護膜として、ワークを保護する性能が得られやすい。
【0116】
(2.2.1.3 エネルギー線硬化性成分)
硬化性成分(B)がエネルギー線硬化性成分である場合、エネルギー線硬化性成分は、未硬化であることが好ましく、粘着性を有することが好ましく、未硬化かつ粘着性を有することがより好ましい。
【0117】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線の照射によって硬化する成分であり、保護膜形成フィルムに造膜性や、可撓性等を付与するための成分でもある。
【0118】
エネルギー線硬化性成分としては、たとえば、エネルギー線硬化性基を有する化合物が好ましい。このような化合物としては、公知のものが挙げられる。
【0119】
(2.2.1.4 充填材)
保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、保護膜形成フィルムを保護膜化して得られた保護膜は、熱膨張係数の調整が容易となり、この熱膨張係数をワークの熱膨張係数に近づけることで、ワークとの接着信頼性がより向上する。また、保護膜形成フィルムが充填材(E)を含有することにより、硬質な保護膜が得られてワークを保護する性能が得られやすく、さらに保護膜の吸湿率を低減できる。
【0120】
充填材(E)は、有機充填材及び無機充填材のいずれでもよいが、260℃といった高温での形状安定性の観点から無機充填材であることが好ましい。
【0121】
好ましい無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、ベンガラ、炭化ケイ素、窒化ホウ素等の粉末;これら無機充填材を球形化したビーズ;これら無機充填材の表面改質品;これら無機充填材の単結晶繊維;ガラス繊維等が挙げられる。これらの中でも、シリカおよび表面改質されたシリカが好ましい。表面改質されたシリカは、カップリング剤により表面改質されていることが好ましく、シランカップリング剤により表面改質されていることがより好ましい。
【0122】
充填材の平均粒径は、好ましくは、0.02~10μm、0.05~5μm、0.10~3μmである。
【0123】
充填材の平均粒径の範囲を上記の範囲とすることにより、保護膜形成フィルム用組成物の取り扱い性が良好になる。その結果、保護膜形成フィルム用組成物および保護膜形成フィルムの品質が安定しやすい。
【0124】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、特に断りのない限り、レーザー回折散乱法によって求められた粒度分布曲線における、積算値50%での粒子径(D50)の値を意味する。
【0125】
保護膜形成フィルム用組成物の総重量を100質量部とした時の充填材の含有量は、好ましくは、15~80質量部、30~75質量部、40~70質量部、45~65質量部である。
【0126】
充填材の含有量の下限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムのtanδ10を小さくすることが容易となる傾向にある。また、充填材の含有量の上限値を上記の値とすることにより、保護膜形成フィルムのワークとの粘着力を向上し、保護膜のワークとの接着力が適度に向上する傾向にある。
【0127】
(2.2.1.5 カップリング剤)
保護膜形成フィルムは、カップリング剤(F)を含有することが好ましい。カップリング剤を含有することにより、保護膜形成フィルムの硬化後において、保護膜の耐熱性を損なわずに、保護膜とワークとの接着性を向上させることができるとともに、耐水性(耐湿熱性)を向上させることができる。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットの観点から、シランカップリング剤が好ましい。
【0128】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0129】
(2.2.1.6 着色剤)
保護膜形成フィルムは、着色剤(G)を含有することが好ましい。これにより、チップ等のワークの加工物の裏面が隠蔽されるため、電子機器内で発生する種々の電磁波を遮断し、チップ等のワークの加工物の誤作動を低減できる。
【0130】
着色剤(G)としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料など公知のものを使用できる。本実施形態では、無機系顔料が好ましい。
【0131】
無機系顔料としては、例えば、カーボンブラック、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO(インジウムスズオキサイド)系色素、ATO(アンチモンスズオキサイド)系色素等が挙げられる。これらの中でも、特にカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックによれば、広い波長範囲の電磁波を遮断できる。
【0132】
保護膜形成フィルム中における着色剤(特にカーボンブラック)の配合量は、保護膜形成フィルムの厚さによっても異なるが、例えば保護膜形成フィルムの厚さが20μmの場合は、保護膜形成フィルムの全質量に対し、好ましくは0.01~10質量%、0.04~7質量%、0.07~4質量%である。着色剤の配合量を上記の範囲内とすることにより、保護膜形成用シートロールの巻き痕がもたらす保護膜の痕を外観上、目立たなくできる傾向がある。
【0133】
着色剤(特にカーボンブラック)の平均粒径は、1~500nmであることが好ましく、特に3~100nmであることが好ましく、さらには5~50nmであることが好ましい。着色剤の平均粒径が上記の範囲内にあると、光線透過率を所望の範囲に制御し易い。
【0134】
(2.2.1.7 その他の添加剤)
保護膜形成フィルム用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の添加剤として、たとえば、光重合開始剤、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、ゲッタリング剤、粘着付与剤、剥離剤等を含有していてもよい。
【0135】
(2.2.2 第1剥離剤層用組成物)
本実施形態では、第1剥離剤層用組成物は、たとえば、アルキッド系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、不飽和ポリエステル系離型剤、ポリオレフィン系離型剤、ワックス系離型剤を含むことができ、その中でも、シリコーン系離型剤を含むことが好ましい。第1剥離剤層用組成物がシリコーン系離型剤を含む場合、シリコーン系離型剤と、重剥離添加剤と、を含むことが好ましい。
【0136】
(2.2.2.1 シリコーン系離型剤)
シリコーン系離型剤としては、ジメチルポリシロキサンを基本骨格として有するシリコーンを配合したシリコーン離型剤を用いることができる。
【0137】
第1剥離剤層用組成物(後述の触媒は除く)の総重量を100質量部とした時のジメチルポリシロキサンからなるシリコーンの含有量は、好ましくは、100質量部未満、90質量部未満、80質量部未満、70質量部未満である。
【0138】
当該シリコーンは、付加反応型、縮合反応型、並びに、紫外線硬化型及び電子線硬化型等のエネルギー線硬化型のいずれであってもよいが、付加反応型シリコーンであることが好ましい。付加反応型シリコーンは、反応性が高く生産性に優れるとともに、縮合反応型と比較すると、製造後の剥離力の変化が小さい、硬化収縮がない等のメリットがある。
【0139】
付加反応型シリコーンの具体例としては、分子の末端および/または側鎖に、ビニル基、アリル基、プロペニル基、及びヘキセニル基等の炭素数2~10のアルケニル基を2個以上備えたオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0140】
このような付加反応型シリコーンを用いる際には、架橋剤および触媒を併用することが好ましい。
【0141】
架橋剤としては、例えば1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0142】
架橋剤の具体例としては、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等が挙げられる。
【0143】
触媒としては、微粒子状白金、炭素粉末担体上に吸着された微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、及びロジウム等の白金族金属系化合物等が挙げられる。
【0144】
このような触媒を用いることにより、第1剥離剤層用組成物の硬化反応をより効率よく進行させることができる。
【0145】
第1剥離剤層用組成物(触媒は除く)の総重量を100質量部とした時のシリコーン系離型剤の含有量は、剥離力F1を上述した範囲内とする観点から、好ましくは、30~100質量部、50~100質量部である。
【0146】
(2.2.2.2 重剥離添加剤)
重剥離添加剤は、保護膜形成フィルムからの第1剥離フィルムの剥離力F1を大きくするために用いられる。重剥離添加剤としては、例えば、シリコーンレジン、シランカップリング剤等のオルガノシランが挙げられるが、これらの中でも、シリコーンレジンを用いることが好ましい。
【0147】
シリコーンレジンとしては、例えば、一官能シロキサン単位[R3SiO1/2]であるM単位と、四官能シロキサン単位[SiO4/2]であるQ単位とを含むMQレジンを用いることが好ましい。なお、M単位中の3つのRは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または有機基を表す。シリコーン移行を抑制し易くする観点からM単位中の3つのRの1つ以上は、水酸基又はビニル基であることが好ましく、ビニル基であることがより好ましい。
【0148】
第1剥離剤層用組成物(触媒は除く)の総重量を100質量部とした時の重剥離添加剤の含有量は、好ましくは、0~50質量部、5~45質量部、10~40質量部である。
【0149】
また、基材の両方の主面に第1剥離剤層が形成される場合、基材の両方の主面に、後述する第1剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布して形成してもよいし、基材の一方の主面に第1剥離剤層用組成物を含む塗布剤を塗布した後、基材を巻き取ってロールにして、塗布剤を塗布した主面から塗布剤を塗布していない主面に、第1剥離剤層用組成物の成分が移行する現象(転移現象)を利用して、塗布剤を塗布していない主面に第1剥離剤層を形成してもよい。
【0150】
第1剥離フィルムにおいて、基材に剥離処理されているか否かは、たとえば、以下のようにして判断することができる。第1剥離剤層が上述したシリコーン系離型剤を含んでいる場合、第1剥離フィルムの両主面に対してX線光電子分光法(XPS)により表面分析を行い、得られるスペクトルからケイ素原子の比率を算出し、所定の値以上であれば、剥離処理されていると判断する。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0151】
また、基材がポリエチレンテレフタレートフィルムから構成される場合、第1剥離フィルムの両主面において、水の接触角を測定し、接触角が所定の値以上であれば、剥離処理されていると判断する。具体的な測定方法は後述する実施例において詳述する。
【0152】
(2.2.3 第2剥離剤層用組成物)
第2剥離剤層用組成物は、上記のF1およびF2の関係を満足する限りにおいて、第1剥離剤層用組成物で例示した材料から選択できる。ただし、重剥離添加剤として例示した材料は第1剥離剤層用組成物での含有量よりも少ないか、または含まれないことが好ましい。
【0153】
なお、第1剥離剤層用組成物および第2剥離剤層用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、剥離剤層において一般的に使用される添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、染料及び分散剤等が挙げられる。
【0154】
また、剥離力を低く調整する観点、および前述の転移現象を利用した剥離剤層をより形成し易い観点から、シリコーンオイルを剥離剤層用組成物(第1剥離剤層用組成物および第2剥離剤層用組成物)に添加してもよい。
【0155】
(2.2.4 長尺シートの製造工程)
長尺シートを製造する際には、まず、上述した保護膜形成フィルム用組成物、第1剥離剤層用組成物および第2剥離剤層用組成物を調製する。本実施形態では、粘度を調整して塗布性を向上させる観点から、上述した各成分を含む保護膜形成フィルム用組成物および剥離剤層用組成物を希釈溶媒で希釈した塗布剤を調製することが好ましい。
【0156】
希釈溶媒としては、トルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル、メチルエチルケトンなどのケトン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素等の有機溶剤等が挙げられる。これらの希釈溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0157】
保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤の固形分濃度としては、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%である。一方、第1剥離剤層用組成物および第2剥離剤層用組成物を含む塗布剤の固形分濃度は、好ましくは0.3~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%、更に好ましくは0.5~3質量%である。
【0158】
本実施形態では、基材の一方の面に、第1剥離剤層用組成物を含む塗布剤を公知の方法で塗布した後、その塗膜を乾燥および硬化させることで第1剥離剤層を形成する。これにより第1剥離フィルムが得られる。第2剥離フィルムも同様にして作製することができる。
【0159】
その後、基材の両方の主面に剥離剤層が形成される場合、基材のもう一方の面に、剥離剤層用組成物の塗布剤を塗布して形成してもよい。または、上述の転移現象を利用するために、剥離剤層用組成物の塗布剤を塗布して形成した第1剥離フィルムを巻き取ってロールにして、例えば30℃、7日間などの期間保管して、もう一方の面に剥離剤層用組成物の成分を移行させて形成してもよい。
【0160】
本実施形態では、第1剥離フィルムの第1剥離剤層上、または、第2剥離フィルムの第2剥離剤層上に、保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を公知の方法で塗布した後、加熱、乾燥して塗膜を形成する。次いで、当該塗膜上に、第2剥離フィルムの第2剥離剤層、または、第1剥離フィルムの第1剥離剤層を貼り合わせて、保護膜形成用シート(長尺シート)が製造される。本実施形態では、剥離力F1を上述の範囲にする観点、およびF1>F2にする観点から、第2剥離剤層上ではなく、第1剥離フィルムの第1剥離剤層上に保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を塗布することが好ましい。
【0161】
各組成物を含む塗布剤の塗布方法としては、たとえば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ロールナイフコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法が例示される。
【0162】
(3.装置の製造方法)
本実施形態に係る方法により製造される保護膜形成用シートロールを用いた装置の製造方法の一例として、保護膜形成フィルムが貼付されたウエハを加工して得られる保護膜付きチップを製造する方法について説明する。
【0163】
まず、
図4に示すように、保護膜形成用シートロール100から長尺シート1を繰り出し、切断刃50を用いて、長尺シートに第2剥離フィルム30および保護膜形成フィルム10を貫通し、第1剥離フィルム20の一部まで達する切り込み40を形成する。切り込み40を形成した長尺シートから、第2剥離フィルムおよび不要な保護膜形成フィルムを除去することにより、円形状の保護膜形成フィルムが得られる。
【0164】
次に、
図5Aに示すように、円形状の保護膜形成フィルム11を、ワークとしてのウエハ60の裏面60bに貼付し、
図5Bに示すように、積層体から第1剥離フィルム20を剥離して保護膜形成フィルム11を保護膜化して保護膜15を形成する。続いて、保護膜を有するウエハを個片化して、保護膜付きチップが得られる。なお、保護膜化は、ウエハを個片化した後に行ってもよい。
【0165】
保護膜形成フィルムにおいて、巻き痕の形成を抑制されているので、保護膜の表面においても痕が抑制されている。したがって、保護膜の外観不良が抑制された保護膜付きチップを得ることができる。
【0166】
(4.変形例)
図3には、第1剥離フィルム20において、保護膜形成フィルム10に接していない面20aに第1剥離剤層23が形成されており、第2剥離フィルム30において、保護膜形成フィルム10に接していない面30bに第2剥離剤層が形成されていない構成を示しているが、本実施形態では、この構成に限定されない。
【0167】
たとえば、第1剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムに接していない面に第1剥離剤層が形成されており、第2剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムに接していない面に第2剥離剤層が形成されている構成でもよい。また、第1剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムに接していない面に第1剥離剤層が形成されておらず、第2剥離フィルムにおいて、保護膜形成フィルムに接していない面に第2剥離剤層が形成されている構成でもよい。
【0168】
また、
図4では、ワークに貼付されることとなる保護膜形成フィルムを形成する切り込みは円形状であるが、閉じた形状であれば、その他の形状であってもよい。その他の形状としては、たとえば、三角形等の多角形、楕円形等が例示される。また、閉じた形状は、ワークの形状に対応していることが好ましい。
【0169】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0170】
以下、実施例を用いて、発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0171】
(第1剥離フィルムの作製)
まず、第1剥離剤層用組成物を調製するために、下記の成分を準備した。
(α)シリコーン系離型剤
(α-1)ビニル基を備えたオルガノポリシロキサン及びヒドロシリル基を備えたオルガノポリシロキサンを含有するシリコーン系離型剤(東レダウコーニング株式会社製、BY24-561、固形分30質量%)
(α-2)ジメチルポリシロキサン(信越化学工業社製,商品名:X-62-1387,重量平均分子量:2000)
(β)シリコーンレジン
ビニル基を備えたMQレジン(東レダウコーニング株式会社製、SD-7292、固形分71質量%)
(γ)触媒
白金(Pt)触媒(東レダウコーニング株式会社製、SRX-212、固形分100質量%)
【0172】
次に、(α-1)を67.5質量部(固形分比)、(α-2)を2.5質量部(固形分比)、(β)を30質量部(固形分比)および(γ)を6.7質量部(固形分比)配合して混合し、固形分濃度が2質量%となるようにトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=1/1(質量比))で希釈して、第1剥離剤層用組成物を含む塗布剤を調製した。
【0173】
基材としてのPETフィルム(三菱ケミカル製、商品名:ダイアホイル(登録商標)T-100、厚み:50μm)の両方の主面に、調製した第1剥離剤層形成用組成物を含む塗布剤を、加熱、乾燥後の膜厚が0.15μmになるように塗布して、PETフィルムの両主面上に第1剥離剤層を形成し、第1剥離フィルムを作製した。
【0174】
(第2剥離フィルムの作製)
第2剥離フィルムとして、PETフィルムの一方の面が剥離処理されたフィルム(リンテック製「SP-PET381031」、厚さ38μm)を使用した。
【0175】
(保護膜形成フィルムの作製)
次の各成分を表1に示す配合比(固形分換算)で混合し、固形分濃度が50質量%となるようにメチルエチルケトンで希釈して、保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を調製した。
(A)重合体成分
(A-1)n-ブチルアクリレート55質量部、メチルアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:80万、ガラス転移温度:-28℃)
(A-2)n-ブチルアクリレート27質量部、メチルアクリレート38質量部、グリシジルメタクリレート20質量部および2-ヒドロキシエチルアクリレート15質量部を共重合してなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:50万、ガラス転移温度:-9℃)
(B)硬化性成分(熱硬化性成分)
(B-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学社製、jER828、エポキシ当量184~194g/eq)
(B-2)アクリルゴム微粒子分散ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂( 日本触媒社製、BPA328 、エポキシ当量230g/eq、アクリルゴム含有量20phr)
(B-3)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、エピクロンHP-7200HH、軟化点88~98℃、エポキシ当量255~260g/eq)
(C)硬化剤:ジシアンジアミド(三菱化学社製、DICY7)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、キュアゾール2PHZ)
(E)充填材:エポキシ基修飾球状シリカフィラー(アドマテックス社製、SC2050MA、平均粒径0.5μm)
(F)シランカップリング剤:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM403、メトキシ当量12.7mmol/g、分子量236.3)
(G)着色剤:カーボンブラック(三菱化学社製、MA600B、平均粒径28nm)
【0176】
調製した保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を、作製した第1剥離フィルムの第1剥離剤層が形成された面に塗工し、100℃で2分乾燥して厚みが20μmの保護膜形成フィルムを形成した。続いて、準備した第2剥離フィルムの第2剥離剤層が形成された面を保護膜形成フィルム上に貼り付けることにより、保護膜形成フィルムの一方の主面に第1剥離フィルムが形成され、他方の主面に第2剥離フィルムが形成された保護膜形成用シート(第1剥離フィルム/保護膜形成フィルム/第2剥離フィルムの構成体)を得た。貼り付け条件は、温度が60℃、圧力が0.4MPa、速度が1m/分であった。
【0177】
(シートロールの作製)
得られた保護膜形成用シートを、2軸巻き取りスリッター機(トイザキ物産社製)を用いて幅320mmに裁断しながら、幅5mm、厚み40μmの芯止めテープを介して用いて、保護膜形成用シートが裁断された幅と同じ幅(320mm)を有し、直径3インチの中空状のプラスチックコア(芯部)に、裁断した保護膜形成用シートをロール状に巻き取った。巻き取り条件は、巻き取り時の張力を制御するためのパウダーブレーキの電流メータが0.25Aを示す条件とした。巻き取られた保護膜形成用シートの長さは50mであった。裁断速度は5m/分であった。
【0178】
巻き取られた保護膜形成用シート(実施例1~3および比較例1~2)を、下記に示す保管条件(パターン1~4)で保管することにより、保護膜形成用シートロールを得た。
【0179】
パターン1では、巻き取り後から3日間23℃で静置した後、40日間5±4℃で静置し、再び23℃で17日間静置した(実施例1および比較例1)。パターン2では、巻き取り後から3日間23℃で静置した後、50日間5±4℃で静置し、再び23℃で7日間静置した(実施例2)。パターン3では、巻き取り後から3日間23℃で静置した後、30日間5±4℃で静置し、再び23℃で27日間静置した(実施例3)。パターン4では、巻き取り後から60日間23℃で静置した(比較例4)。
【0180】
続いて、下記の測定および評価を行った。
【0181】
(10℃における保護膜形成フィルムの損失正接tanδ10)
作製した保護膜形成用シートから、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムを剥離して、保護膜形成フィルムを複数枚積層して、厚みが200μm±20μmである保護膜形成フィルムの積層体を形成した。この積層体を幅が4mmとなるように切断して、測定用試料を得た。
【0182】
粘弾性測定装置(オリエンテック社製「RHEOVIBRON DDV-01FP)を使用して、上記の測定用試料に、周波数11Hz、チャック間距離15mm、昇温速度3℃/minの測定条件で、引張りモードで、-20℃から50℃までの測定用試料のtanδを測定し、それらの値から10℃における損失正接tanδ10を算出した。実施例1~3および比較例1、2の試料の測定結果を表1に示す。
【0183】
(剥離フィルムの剥離処理の有無の評価)
得られたシートロールから保護膜形成用シートを繰り出し、芯留めテープによりプラスチックコアに保護膜形成用シートが固定され始めた部分から1mの箇所において、50mm×50mmの保護膜形成用シートを幅方向に3箇所切り出した。
【0184】
切り出した保護膜形成用シートから、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムを剥離して、第1剥離フィルムにおいて保護膜形成フィルムと貼り合わせていなかった面に対して、下記の条件によりXPS測定を行った。同様に、第2剥離フィルムにおいて保護膜形成フィルムと貼り合わせていなかった面に対して、下記の条件によりXPS測定を行った。XPS測定は、保護膜形成用シートの切り出しにより得られた3枚の第1剥離フィルムと3枚の第2剥離フィルムに対して各1回行った。
XPS装置:アルバックファイ社製QuanteraSXM
X線:AlKα(1486.6eV)
取出し角度:45°
測定元素:ケイ素(Si)、炭素(C)、酸素原子(O)
【0185】
得られた測定結果より、各測定元素量(XPSカウント数)から、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムのそれぞれについて、下記に示すケイ素原子比率を算出し、その平均値を算出した。
ケイ素原子比率(原子%)=[(Si元素量)/[(C元素量)+(O元素量)+(Si元素量)]]×100
【0186】
得られた平均値に基づき、以下の判定基準で評価した。判定AおよびBである場合、剥離処理されていると判断した。実施例1~3および比較例1、2の試料の測定結果を表1に示す。
判定A:第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムの少なくとも一方の平均値が1.0原子%以上
判定B:判定Aを満たさず、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムの少なくとも一方の平均値が0.1原子%以上1.0原子%未満
判定C:第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムの両方の平均値が0.1原子%未満
【0187】
保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤を塗布する前の第1剥離フィルムを用意し、第1剥離フィルムから50mm×50mmのサイズで幅方向に3箇所切り出した。第1剥離フィルムの両主面のうち、保護膜形成フィルム用組成物を含む塗布剤が塗布されることになる面について、上記のXPS装置を用いて上記と同じ条件により剥離処理の有無の評価を行った。その結果、第1剥離フィルムの試料について、ケイ素原子比率の3箇所の平均値が1.0原子%以上であることが確認された。
【0188】
保護膜形成フィルムに貼り付けられる前の第2剥離フィルムを用意し、第2剥離フィルムから50mm×50mmのサイズで幅方向に3箇所切り出した。第2剥離フィルムの両主面のうち、保護膜形成フィルムに貼り付けられることになる面について、上記のXPS装置を用いて上記と同じ条件により剥離処理の有無の評価を行った。その結果、第2剥離フィルムの試料について、ケイ素原子比率の3箇所の平均値が1.0原子%以上であることが確認された。
【0189】
(剥離フィルムの水の接触角の評価)
得られたシートロールから保護膜形成用シートを繰り出し、芯留めテープによりプラスチックコアに保護膜形成用シートが固定され始めた部分から1mの箇所において、50mm×50mmの保護膜形成用シートを幅方向に3箇所切り出した。
【0190】
切り出した保護膜形成用シートから、第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムを剥離して、第1剥離フィルムにおいて保護膜形成フィルムと貼り合わせていなかった面に対して、下記の条件により水の接触角を測定した。同様に、第2剥離フィルムにおいて保護膜形成フィルムと貼り合わせていなかった面に対して、下記の条件により水の接触角を測定した。水の接触角の測定は、保護膜形成用シートの切り出しにより得られた3枚の第1剥離フィルムと3枚の第2剥離フィルムに対して各5回行った。
接触角測定装置:協和界面科学株式会社製、全自動接触角計DM-701
滴下量:2μL
環境:温度23℃、湿度50%
【0191】
第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムのそれぞれについて、得られた測定結果の平均値を算出した。得られた平均値に基づき、以下の判定基準で評価した。判定Aである場合、剥離処理されていると判断した。実施例1~3および比較例1、2の試料の測定結果を表1に示す。
判定A:第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムの少なくとも一方の平均値が78以上
判定C:第1剥離フィルムおよび第2剥離フィルムの両方の平均値が77以下
【0192】
(第1剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力F1)
得られた保護膜形成用シートから、第2剥離フィルムを剥離した。剥離により露出した保護膜形成フィルムの表面に、厚みが25μmの良接着PET(東洋紡社製、PET25A-4100)の良接着面を熱ラミネート(70℃,1m/min)により貼付して積層体サンプルを作製した。積層体サンプルを100mm幅に切りだし、測定用サンプルを作製した。測定用サンプルの第1剥離フィルムの背面を両面テープで硬質な支持板に固定した。
【0193】
万能型引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフ(登録商標)AG-IS」)を用いて、保護膜形成フィルム/良接着PETの複合(一体型)体を、測定距離100mm、剥離角度180°、剥離速度1m/minで第1剥離フィルムから剥離し、その際の荷重を測定した。測定した荷重のうち、測定距離の最初の10mmでの荷重と、最後の10mmでの荷重とを除いた80mmの間の荷重の平均値を剥離力F1とした。
【0194】
(第2剥離フィルムの保護膜形成フィルムからの剥離力F2)
得られた保護膜形成用シートを100mm幅に切りだし、測定用サンプルを作製した。測定用サンプルの第1剥離フィルムの背面を両面テープで硬質な支持板に固定した。
【0195】
万能型引張試験機(島津製作所社製,製品名「オートグラフ(登録商標)AG-IS」)を用いて、測定用サンプルから第2剥離フィルムを、測定距離100mm、剥離角度180°、剥離速度1m/minで剥離し、その際の荷重を測定した。測定した荷重のうち、測定距離の最初の10mmでの荷重と、最後の10mmでの荷重とを除いた80mmの間の荷重の平均値を剥離力F2とした。
【0196】
得られた剥離力F1およびF2を比較して、F1がF2よりも大きいことを全ての試料について確認した。
【0197】
(巻き痕の評価)
60日間保管後の保護膜形成用シートロールから、長尺シートを、最外層から3m/分の速度で繰り出していき、許容範囲外の巻き痕が付き始めた「芯部からの長さ」を測定した。許容範囲外の巻き痕であるか否かは、判定員5名が同時に目視で確認して、3名が許容範囲外であると判断したところとした。実施例1~3および比較例1、2の試料の評価結果を表1に示す。
判定A:0メートル以上、4メートル未満
判定B:4メートル以上、6メートル未満
判定C:6メートル以上、8メートル未満
判定D:8メートル以上、10メートル未満
判定E:10メートル以上
【0198】
【0199】
表1より、保護膜形成フィルムの10℃における損失正接(tanδ10)であり、かつ巻き取り後の保護膜形成用シートロールの保管条件が上述した条件を満足する場合には、保護膜形成用シートロール中の保護膜形成フィルムへの巻き痕の形成が抑制されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0200】
100…保護膜形成用シートロール
1…保護膜形成用シート
10…保護膜形成フィルム
20…第1剥離フィルム
21…基材
22、23…第1剥離剤層
30…第2剥離フィルム
31…基材
32…第2剥離剤層
70…芯部
80…固定手段