(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/06 20060101AFI20240305BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C25C7/06 302
C25C3/04
(21)【出願番号】P 2020144797
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 純也
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-096588(JP,A)
【文献】特開2004-244715(JP,A)
【文献】特開2003-306789(JP,A)
【文献】特開2003-328052(JP,A)
【文献】特開平09-125281(JP,A)
【文献】特開2015-110815(JP,A)
【文献】特開平04-018901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00-7/08
B01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応で生成する塩化マグネシウムを貯蔵する貯蔵容器の使用方法であって、
前記貯蔵容器が、前記塩化マグネシウムを溶融状態で貯留させることが可能であり、内部で先端開口部を深さ方向の異なる位置に配置した複数本の抜取り管を有し、
前記貯蔵容器内に前記塩化マグネシウムを貯留させて静置する静置工程と、
前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該抜取りに当り、それにより抜き取る塩化マグネシウムの用途に応じて前記複数本の抜取り管から選択した抜取り管を用いる抜取り工程と
を含む、塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法。
【請求項2】
塩化マグネシウムの前記用途が、塩化マグネシウムを、複数の異なる電解槽のそれぞれでの溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用することを含む、請求項1に記載の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法。
【請求項3】
前記抜取り工程が、
前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管以外の抜取り管を用いて、前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該塩化マグネシウムを、所定の電解槽での溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用すること、並びに、
前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管を用いて、前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該塩化マグネシウムを、前記所定の電解槽と異なる電解槽での溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用すること
を含む、請求項1又は2に記載の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法。
【請求項4】
前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管を用いて、溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用しない沈殿物及び塩化マグネシウムを抜き取って排出する沈殿物排出工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法。
【請求項5】
任意の時期に、前記貯蔵容器内に前記塩化マグネシウムを供給する供給工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法を用いて、前記抜取り工程で前記貯蔵容器内から抜き取った塩化マグネシウムを使用し、溶融塩電解により金属マグネシウムを製造する、金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応で生成する塩化マグネシウムの貯蔵に用いる塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロール法による金属チタンの製造では、たとえば、金属製還元反応容器内に貯留させた溶融状態の金属マグネシウムの浴面上に四塩化チタンを滴下すること等が行われる。この場合、金属マグネシウムにより四塩化チタンが金属チタンに還元され、金属製還元反応容器内で該金属チタンがスポンジチタン塊として成長する。このとき、副生成物として塩化マグネシウムが生成し溶融浴中に貯留される。
【0003】
ここで生成した塩化マグネシウムは、それに含まれるマグネシウムを上記の四塩化チタンの還元に繰り返し用いること等を目的として、溶融塩電解に供され得る。この種の溶融塩電解では、たとえば隔壁によって回収室と電解室とに区画された電解槽内にて、塩化マグネシウムを含む溶融塩による溶融塩浴を構成し、溶融塩を回収室と電解室とで循環させながら溶融塩中の塩化マグネシウムを、電解室で電気分解により金属マグネシウムと塩素とに分解する。なお塩素は、四塩化チタンを得る際のチタン鉱石の塩化に用いることができる。
【0004】
上述したようなプロセスにおいて、特許文献1では、四塩化チタンの還元に用いる金属マグネシウム中の不純物であるニッケルにより、スポンジチタン塊が汚染されることに着目している。その上で、特許文献1は、「ニッケル汚染の少ない高純度金属マグネシウムの製造方法およびこれを原料とした高純度チタンの製造方法を提供すること」を課題とし、「クロール法によるチタンの製造工程で副生した塩化マグネシウム中に存在する金属マグネシウムを除去した後、該塩化マグネシウムを電解精錬することを特徴とする高純度金属マグネシウムの製造方法」を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応で生成した塩化マグネシウムは、粒子状などの不純物(いわゆるスラッジ)を含んでいることがある。このスラッジは、マグネシウムの酸化物、窒化物等が含まれると考えられ、四塩化チタンの還元での金属製還元反応容器の使用等に際して塩化マグネシウムに混入すると推測される。
【0007】
スラッジを多く含む塩化マグネシウムを用いて溶融塩電解を行うと、電気分解の継続に伴って電解槽の内面に固着しながら形成される堆積物の成長が助長される。このことは電解槽のメンテナンス頻度を増加させ、それにより金属マグネシウム製造の歩留まりが低下する。また、この堆積物が電解槽内の底部側から溶融塩浴の浴面側に向かって大きく成長した場合、スラッジの堆積可能なスペースが減少し、溶融塩浴中に混入して溶融塩とともに循環する微粒子状の不純物が多くなると推定される。このことは、電気分解により生成する金属マグネシウムの純度を低下させることにも繋がり得る。かかる問題は、比較的高純度の金属マグネシウムを製造する溶融塩電解において特に顕在化する。
【0008】
この発明の目的は、塩化マグネシウムを用いて行われる溶融塩電解での電解槽内の堆積物の成長を適切に制御することができる塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記の目的を達成するべく鋭意検討した結果、還元反応で生成した塩化マグネシウムを貯蔵容器内に貯留させて静置すると、塩化マグネシウム中のスラッジ等が液面側に浮上し、または貯蔵容器内の底部側に沈殿するとの知見を得た。この知見に基づいて、発明者は、貯蔵容器の内部で先端開口部をそれぞれ深さ方向の異なる位置に配置した複数本の抜取り管を設けた貯蔵容器を使用すること、及び、それらの抜取り管を塩化マグネシウムの用途に応じて使い分けることを案出した。
より詳細には、貯蔵容器から抜き取った塩化マグネシウムの用途には、溶融塩電解による金属マグネシウムの製造がある。この溶融塩電解を行う電解槽として、例えば、複数の電解槽を用意し、それらの電解槽を、スラッジが比較的短期間のうちに堆積してもかまわない1つ以上の電解槽と、スラッジの堆積を抑制する必要がある1つ以上の電解槽とに予め区別しておく。そしてここでは、このような複数の異なる電解槽のそれぞれでの金属マグネシウムの製造の用途に基づいて上記の抜取り管を選択し、貯蔵容器内の深さ方向の適切な位置における塩化マグネシウムを抜き取ることができる。これにより、電解槽での溶融塩電解の操業可能期間を予測しやすくなり、複数の電解槽のそれぞれで効率よく溶融塩電解を行うことができる。
【0010】
この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法は、金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応で生成する塩化マグネシウムを貯蔵する貯蔵容器の使用方法であって、前記貯蔵容器が、前記塩化マグネシウムを溶融状態で貯留させることが可能であり、内部で先端開口部を深さ方向の異なる位置に配置した複数本の抜取り管を有し、前記貯蔵容器内に前記塩化マグネシウムを貯留させて静置する静置工程と、前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該抜取りに当り、それにより抜き取る塩化マグネシウムの用途に応じて前記複数本の抜取り管から選択した抜取り管を用いる抜取り工程とを含むものである。
【0011】
この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法は、塩化マグネシウムの前記用途が、塩化マグネシウムを、複数の異なる電解槽のそれぞれでの溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用することを含む場合がある。
【0012】
この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法は、前記抜取り工程が、前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管以外の抜取り管を用いて、前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該塩化マグネシウムを、所定の電解槽での溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用すること、並びに、前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管を用いて、前記貯蔵容器内から前記塩化マグネシウムを抜き取り、当該塩化マグネシウムを、前記所定の電解槽と異なる電解槽での溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用することを含むことが好ましい。
【0013】
また、この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法は、前記複数本の抜取り管のうち、先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管を用いて、溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用しない沈殿物及び塩化マグネシウムを抜き取って排出する沈殿物排出工程をさらに含むことが好ましい。
【0014】
この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法は、任意の時期に、前記貯蔵容器内に前記塩化マグネシウムを供給する供給工程をさらに含むことがある。
【0015】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、上述したいずれかの塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法を用いて、前記抜取り工程で前記貯蔵容器内から抜き取った塩化マグネシウムを使用し、溶融塩電解により金属マグネシウムを製造するというものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法によれば、塩化マグネシウムを用いて行われる溶融塩電解での電解槽内の堆積物の成長を適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法で用いることができる貯蔵容器の一例を示す、深さ方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態では、
図1に例示するような貯蔵容器1を使用する。この貯蔵容器1は、詳細については後述するが、内部に塩化マグネシウムMCを溶融状態で貯留させることが可能なものである。また、貯蔵容器1は内部に、先端開口部2a、2bをそれぞれ深さ方向(高さ方向、
図1の上下方向)の異なる位置に配置した複数本の抜取り管3a、3bを有する。
【0019】
そして、この実施形態の方法には、貯蔵容器1内に塩化マグネシウムMCを貯留させて静置する静置工程と、貯蔵容器1内から塩化マグネシウムMCを抜き取り、当該抜取りに当り、それにより抜き取る塩化マグネシウムMCの用途に応じて複数本の抜取り管3a、3bから選択した抜取り管3aもしくは3bを用いる抜取り工程とが含まれる。
【0020】
(貯蔵容器及び塩化マグネシウム)
貯蔵容器1は、金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元反応で生成する塩化マグネシウムMCを貯蔵するためのものである。
【0021】
なお、塩化マグネシウムMCが得られる四塩化チタンの還元反応では、図示は省略するが、所定の金属製還元反応容器内に金属マグネシウムを貯留させ、そこに四塩化チタンを滴下すること等によって供給する。これにより、四塩化チタンが金属マグネシウムで還元され、金属製還元反応容器内に金属チタンとしてのスポンジチタン塊が生成する。このとき、副生成物として塩化マグネシウムMCが生成される。塩化マグネシウムMCは、金属製還元反応容器内から排出された後、貯蔵容器1内に送られ、
図1に示すように、そこに貯留される。
【0022】
このようにして生成された塩化マグネシウムMCには、マグネシウムの酸化物や窒化物等の粒子状等の不純物であるスラッジが含まれることがある。スラッジは、四塩化チタンの還元に用いる金属製還元反応容器内の底部側に留まりやすく、金属製還元反応容器内への金属マグネシウムの供給時に発生しうる。また、金属製還元反応容器内からの塩化マグネシウムの排出時等には金属マグネシウムも排出されることがあり、この際の金属マグネシウムの酸化、窒化等によりスラッジが発生しうると考えられる。
【0023】
塩化マグネシウムMCは貯蔵容器1内で貯蔵された後、図示しないが、内部が隔壁により回収室と電解室とに区画された構成を備える電解槽等を用いた溶融塩電解に用いられる。溶融塩電解では、電解槽の内部を塩化マグネシウムが含まれる溶融塩による溶融塩浴とし、溶融塩を回収室と電解室との間で循環させつつ、電解室内の陰極及び陽極を含む電極で塩化マグネシウムの電気分解を行う。この電気分解により、塩素ガスとともに金属マグネシウムが生成される。貯蔵容器1内の塩化マグネシウムMCの用途には、塩化マグネシウムMCを、このような溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用することが含まれる。また、この実施形態に係る塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法を用いて後述の抜取り工程にて貯蔵容器1内から抜き取った塩化マグネシウムを、上記のような溶融塩電解で使用すると、金属マグネシウムを製造することができる。
【0024】
ここで、溶融塩電解に用いる塩化マグネシウムMCが先述のスラッジをある程度多く含むものであった場合、溶融塩電解の際に電解槽の内面に固着しながら形成される堆積物の成長速度が速くなることが解かった。この場合、電解槽の操業可能期間が短くなる傾向にあり、それに伴い電解槽のメンテナンス頻度が高くなる。そして、電解槽内の堆積物が大きく成長すると、溶融塩浴中の微粒子状の不純物が多くなる。この場合、電気分解で生成する金属マグネシウムの純度が低下するおそれも大きくなる。
【0025】
電解槽内の堆積物の成長速度が速くなると、電解槽の操業可能期間が短くなり、溶融塩電解を終了して電解槽を清掃することが必要になる。堆積物は硬いだけでなく粘性を有するものであり、電解槽の清掃時等における当該堆積物の除去の作業に長い時間及び多大な労力がかかる。このことは、金属マグネシウムの製造コストを増大させる。
【0026】
但し、溶融塩電解を行う電解槽によっては、ある程度純度が低い塩化マグネシウムの廃棄量を削減する等といった事情から、溶融塩電解時の電解槽内での堆積物の成長が速いことは大きな問題とはならない場合がある。したがって、後述するように、塩化マグネシウムMCを用いる溶融塩電解の電解槽に応じて、貯蔵容器1内から抜き取る塩化マグネシウムMC中のスラッジの混入量を調整することが重要になる。
【0027】
ところで、貯蔵容器1は、上述した溶融塩電解に用いられる前の塩化マグネシウムMCを貯留できるものであれば、その形状等は特に問わない。図示の例の貯蔵容器1は、全体として、深さ方向と同方向である軸線方向の上方側の一端部1a及び下方側の他端部1bがそれぞれ閉塞された円筒その他の筒状をなすものとしている。
【0028】
貯蔵容器1は、たとえば
図1に示すように加熱炉11内に配置することができる。貯蔵容器1と加熱炉11とは一体型としてもよいし、着脱可能としてもよい。この加熱炉11は、貯蔵容器1の外面から所定の間隔をおいて該貯蔵容器1の周囲を取り囲んで位置し、貯蔵容器1及びその内部を適切な温度で加熱することが可能なものである。加熱炉11により、貯蔵容器1の内部に、塩化マグネシウムMCを溶融状態で貯留させることができる。但し、貯蔵容器1の内部に塩化マグネシウムMCを溶融状態で貯留させることができれば、必ずしも図示のような加熱炉11を用いることを要しない場合もある。
【0029】
また貯蔵容器1には、その内部の塩化マグネシウムMCを吸引する等して外部に抜き取ることができる複数本の抜取り管3a、3bが設けられている。ここで、複数本の抜取り管3a、3bの、貯蔵容器1の内部にある各先端開口部2a、2bはそれぞれ、貯蔵容器1の内部で深さ方向の互いに異なる位置に配置させることが肝要である。これにより、複数本の各抜取り管3a、3bで、貯蔵容器1の内部で深さ方向の異なる位置に存在する塩化マグネシウムMCを抜き取ることができるようになる。各先端開口部2a、2bの具体的な深さ方向の位置については後述する。抜取り管3a、3bの、貯蔵容器1の外部に位置する後端開口部4a、4bはそれぞれ、図示しない吸引ポンプ等に接続され得る。
【0030】
図示は省略するが、三本以上の抜取り管を設けることもできる。この場合、それらの抜取り管のうち、少なくとも二本の抜取り管の先端開口部が深さ方向の異なる位置に配置されていればよい。また、すべての抜取り管の先端開口部が深さ方向の異なる位置に配置されていてもよい。
図示の抜取り管3a、3bはいずれも、中心軸線が直線状の直管としているが、必要に応じて、抜取り管の長手方向の少なくとも一部が湾曲し及び/又は屈曲するものとしてもかまわない。
【0031】
なお、四塩化チタンの還元を行った金属製還元反応容器内からの排出物には、塩化マグネシウムMCの他、金属マグネシウムMMが含まれることがある。この金属マグネシウムMMが貯蔵容器1の内部で酸化ないし窒化することを抑制する目的等で、貯蔵容器1は、その内部の貯留物と外気との接触を抑えるべく内部を密閉可能に構成することがある。貯蔵容器1の一端部1aの壁部と各抜取り管3a、3bとは、それらの間を気体が通過できないように気密に連結され得る。また、抜取り管3a、3bはそれぞれ、使用していないときにその内部を閉塞させることができるように、たとえば後端開口部4a、4bに図示しない蓋部材等を取り付けてもよい。そして、貯蔵容器1は、その内部を減圧することができるように、例えば外部に設置した真空ポンプと連結可能に構成されることが多い。また、貯蔵容器1は、アルゴンガスやヘリウムガスを充填可能に構成することが多い。
【0032】
貯蔵容器1を構成する壁部や抜取り管3a、3bの材質は、たとえば鋼、具体的にはステンレス鋼又は炭素鋼等とすることができる。なかでも、ニッケル及びクロムを実質的に含まない炭素鋼等の鋼は、貯蔵容器1内の貯留物に不純物になり得るニッケル及びクロムが混入しない点で好ましい。また、貯蔵容器1の壁部は、炭素鋼とステンレス鋼とを貼り合わせたクラッド鋼とすることができ、この場合、上記の不純物の混入を抑制できることに加え、耐熱性が優れたものになる。
【0033】
(静置工程)
静置工程では、加熱炉11等により貯蔵容器1の内部を加熱して当該内部の塩化マグネシウムMC等を溶融状態に維持しながら、当該塩化マグネシウムMCを静置する。
【0034】
この際に、塩化マグネシウムMCに含まれ得る先述のスラッジ等は浮上または沈殿し、それらのうちの沈殿するものは貯蔵容器1内の底部に沈殿物CPとして溜まる。また、金属マグネシウムMMが含まれていた場合、この金属マグネシウムMMは、塩化マグネシウムMCよりも小さい比重の故に、静置により貯蔵容器1内の浅い箇所(液面側)に浮上し、塩化マグネシウムMCと界面BFを介して分離する。したがって、静置工程では、貯蔵容器1内で塩化マグネシウムMCとスラッジ等と金属マグネシウムMMとを、良好に分離することが可能である。
【0035】
静置工程では、貯蔵容器1内の塩化マグネシウムMCを、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは2.0時間以上にわたって静置する。これにより、貯蔵容器1内の塩化マグネシウムMCをスラッジや金属マグネシウムMM等から、より一層有効に分離させることができる。なお静置は、1日~2日程度行うことがある。
【0036】
またここでは、塩化マグネシウムMCや金属マグネシウムMMを溶融状態に維持するため、貯蔵容器1の内部を、加熱炉11等による加熱により、塩化マグネシウムの融点(714℃)以上の温度、たとえば720℃~780℃、典型的には730℃~760℃の温度に維持することが好適である。後述する抜取り工程でも、貯蔵容器1の内部をこの範囲内の温度とすることができる。
【0037】
(抜取り工程、沈殿物排出工程)
抜取り工程では、静置工程を経た後の貯蔵容器1内の塩化マグネシウムMCを、貯蔵容器1内から抜き取る。
【0038】
この抜取りでは抜取り管3a、3bを使用するが、その際に抜き取る塩化マグネシウムMCの用途に応じて、複数本の抜取り管3a、3bから使用する抜取り管3aもしくは3bを選択する。より詳細には、次に述べるとおりである。
【0039】
図示の例では、貯蔵容器1は、先端開口部2bを深い位置に配置した抜取り管3b(これは「先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管」に相当する。)と、その抜取り管3bの先端開口部2bよりも浅い位置に先端開口部2aを配置した抜取り管3a(これは「先端開口部を最も深い位置に配置した抜取り管以外の抜取り管」に相当する。)とを有するものである。
【0040】
そして仮に、塩化マグネシウムMCの用途を考慮したときに、スラッジ等がほぼ含まれない塩化マグネシウムMCが必要になり、そのような塩化マグネシウムMCを抜き取る場合は、複数本の抜取り管3a、3bのうち、先端開口部2aが浅い位置にある抜取り管3aを用いる。これにより抜き取った塩化マグネシウムMCは、たとえば、スラッジの堆積速度を遅くする必要のある電解槽に供給することができる。この電解槽はスラッジの堆積速度が遅いため長期間の連続操業が可能となる。また、塩化マグネシウムMC中のスラッジの混入量が少ないことに起因して、溶融塩電解の電気分解で製造される金属マグネシウムの純度が高くなり、高純度の金属マグネシウムが製造されやすくなる。抜取り管3aから抜き取った塩化マグネシウムMCを供給可能な電解槽は1つでもよいし、2つ以上の複数であってもよい。
なお、スポンジチタン塊を製造した金属製還元反応容器から貯蔵容器1内に持ち込まれた金属マグネシウムMMには、金属製還元反応容器に由来する不純物が含まれることがある。また、貯蔵容器1内の金属マグネシウムMMの層の近傍には、比重が小さいスラッジが存在しうる。このような金属マグネシウムMM及び不純物やスラッジが電解槽内に入ることを抑制するため、先端開口部2aが浅い位置にある抜取り管3aを用いる場合、金属マグネシウムMMが先端開口部2aに近づきすぎないように、塩化マグネシウムMCを抜き取ることが望ましい。
【0041】
一方、必要な塩化マグネシウムMCの用途を考慮し、塩化マグネシウムMCにスラッジ等がある程度含まれていてもよい場合は、複数本の抜取り管3a、3bのうち、先端開口部2bが深い位置にある抜取り管3bを用いることができる。抜取り管3bを用いて抜き取った塩化マグネシウムMCは、沈殿物CPのスラッジ等を含み得るものであり、スラッジの堆積速度が速くてもよい電解槽に供給することができる。スラッジを含みうる塩化マグネシウムMCを使用して金属マグネシウムを製造することで、塩化マグネシウムの利用効率を向上することができる。抜取り管3bから抜き取った塩化マグネシウムMCを供給可能な電解槽は1つでもよいし、2以上の複数であってもよい。
さらに、この塩化マグネシウムMCはある程度の量のスラッジを含むものであることが事前にわかっているので、その塩化マグネシウムMCを使用する電解槽でのスラッジ堆積速度を予測しやすくなる。複数の電解槽で同時に溶融塩電解を行うときは、電解槽のメンテナンスのために溶融塩電解を停止するタイミングを複数の電解槽でずらす場合があるところ、電解槽ごとのスラッジ堆積速度を予測できれば、各電解槽での溶融塩電解の停止のタイミングを容易に制御できるようになる。その結果、複数の電解槽の操業効率を向上することができる。
なお、沈殿物CPのスラッジ等を含み得る塩化マグネシウムMCは、上記の高純度の金属マグネシウムよりも低い純度の金属マグネシウムの、溶融塩電解による製造に使用することがある。
【0042】
溶融塩電解では、先に述べたように、それに使用する塩化マグネシウムMC中のスラッジの混入量に応じて電解槽内の堆積物の成長速度が変化するところ、このように複数本の抜取り管3a、3bを使い分けて塩化マグネシウムMCを貯蔵容器1内から抜き取ることで、電解槽内の堆積物の成長をある程度コントロールすることが可能になる。その結果として、堆積物の成長に依存し得る金属マグネシウムの純度をも制御できるようになる。
【0043】
複数本の抜取り管3a、3bのそれぞれを用いる場合、はじめに、先端開口部2aが浅い位置にある抜取り管3aを用いて、スラッジがほぼ含まれない塩化マグネシウムMCを抜き取り、その後、先端開口部2bが深い位置にある抜取り管3bを用いて、スラッジが含まれ得る塩化マグネシウムMCを抜き取ることが好ましい。貯蔵容器1内から塩化マグネシウムMCを抜き取った際には、その抜取りに起因して貯蔵容器1内で貯留物の流動が生じることがある。静置工程での静置後、先に、先端開口部2bが深い抜取り管3bを用いて塩化マグネシウムMCを抜き取った場合、上記の貯留物の流動により沈殿物CPが巻き上げられてしまい、その後に先端開口部2aが浅い抜取り管3aを用いて抜き取った塩化マグネシウムMCにスラッジが多く混入することが懸念される。
【0044】
また、たとえば、後述する供給工程を適宜行ったことによって貯蔵容器1内での沈殿物CPが多くなってきた際等には、沈殿物CPを排出するため、沈殿物排出工程を行うことができる。沈殿物排出工程では、先端開口部2bを深い位置に配置した抜取り管3bを用いて、沈殿物CP及び塩化マグネシウムMCを抜き取る。ここで抜き取った沈殿物CP及び塩化マグネシウムMCは、溶融塩電解による金属マグネシウムの製造に使用しないこととしてよい。先端開口部2bを深い位置に配置した抜取り管3bで、沈殿物CPを多く含む塩化マグネシウムMCの除去を行うことにより、貯蔵容器1内での沈殿物CPの量の増大を抑制することができる。
【0045】
各抜取り管3a、3bの先端開口部2a、2bの深さ方向の好ましい位置は、貯蔵容器1の他端部1bの外面における最も軸線方向の外端点Ebから貯蔵容器1の一端部1aの外面における最も軸線方向の外端点Eaまでの高さ方向(軸線方向)に沿う貯蔵容器1の全高Hcに対する比を用いて、次のように規定することができる。
【0046】
先端開口部2bが最も深い位置にある抜取り管3bの先端開口部2bについては、貯蔵容器1の他端部1b側の外端点Ebからの先端開口部2bの高さ方向の距離Dbの、上記の貯蔵容器1の全高Hcに対する比(Db/Hc)は、0.01~0.05であることが好適である。先端開口部2bの距離Dbについての比(Db/Hc)を0.01以上とすることにより、先端開口部2bが深くなりすぎず、沈殿物CPのスラッジによる抜取り管3b内の詰まりを抑制することができる。また、この比(Db/Hc)を0.05以下とすることにより、沈殿物排出工程での沈殿物CPの排出の効率化を図ることができる。
【0047】
また、先端開口部2bが最も深い位置にある抜取り管3b以外の抜取り管3aでは、貯蔵容器1の他端部1b側の外端点Ebからの先端開口部2aの高さ方向の距離Daの、上記の貯蔵容器1の全高Hcに対する比(Da/Hc)を、0.10~0.50とすることが好ましい。抜取り管3aの先端開口部2aの距離Daについての比(Da/Hc)をこの範囲内とすれば、抜取り管3aで抜き取る塩化マグネシウムMCへのスラッジの混入がより一層抑制されるので、さらに不純物の少ない塩化マグネシウムMCを抜き取ることができる。なお、抜取り工程では、塩化マグネシウムMCを抜き取るに従って、貯蔵容器1内の貯留物の液面が低下する。このことを考慮し、抜取り管3aの先端開口部2aをある程度深い位置に配置することにより、塩化マグネシウムMCの抜取りの効率の低下を良好に抑制することができる。
【0048】
なお、先端開口部2a、2bについての距離Da、Dbは、貯蔵容器1の他端部1b側の外端点Ebと、高さ方向で先端開口部2a、2bの最も他端部1b側に位置する箇所との間の距離を意味する。
【0049】
たとえば、貯蔵容器1の全高Hcは2.0m~5.0mとすることがある。
【0050】
抜取り工程を行う際には、貯蔵容器1内の貯留物の液面高さHsをある程度高くしておくことが望ましい。液面高さHsが低くなりすぎると、抜取り工程にて先端開口部2aが浅いほうの抜取り管3aでの抜取りを試みたときに、液面側の金属マグネシウムMM及びそれに含まれ得る不純物や比重の小さいスラッジが抜き取った塩化マグネシウムMCに混入する懸念があるからである。この観点から、先端開口部2aが浅いほうの抜取り管3aで抜取り工程を行うときは、Hs/Da≧1.1としておくことが好適である。液面高さHsは、塩化マグネシウムMCの抜取り時に低下するも、たとえば、次に述べる供給工程を行うこと等により上昇させることができる。他方、先端開口部2bが最も深い位置にある抜取り管3bで抜き取る塩化マグネシウムMCは、その純度がある程度低くても問題ない場合があるので、Hs/Da≧1.1を満たさなくても塩化マグネシウムMCの良好な抜取りが可能である場合がある。
【0051】
(供給工程)
先述した静置工程の間及び/又はその前後や、抜取り工程の間及び/又はその前後、その他の任意の時期に、供給工程で、貯蔵容器1内に塩化マグネシウムMCを供給することができる。たとえば、先述した四塩化チタンの還元反応によるスポンジチタンの製造により生成される塩化マグネシウムMCを貯蔵容器1内に供給するため、この供給工程が行われる場合がある。
【0052】
抜取り工程で複数本の抜取り管3a、3bをそれぞれ使用して塩化マグネシウムMCを抜き取る場合、この供給工程での貯蔵容器1内への塩化マグネシウムMCの供給と、抜取り工程での先端開口部2bが最も深い位置にある抜取り管3bを使用する塩化マグネシウムMCの抜取りと、抜取り工程での当該抜取り管3b以外の抜取り管3aを使用する塩化マグネシウムMCの抜取りとを行う順序は特に問わない。つまり、供給工程での供給と、抜取り工程での抜取り管3bによる抜取りと、抜取り工程での抜取り管3aによる抜取りとは、順不同で行うことができる。
【0053】
供給工程では、多くの場合、塩化マグネシウムMCを、貯蔵容器1の一端部1aに設けることができる図示しない供給口から貯蔵容器1の内部に投入することにより、塩化マグネシウムMCが供給される。但し、供給のやり方は適宜変更することができ、たとえば、抜取り管3a、3bを用いた供給も考えられる。
【0054】
(金属マグネシウムの製造方法)
上述したような塩化マグネシウムMCの貯蔵容器1の使用方法を用いて、上記の抜取り工程で貯蔵容器1内から抜き取った塩化マグネシウムMCは、電解槽内での溶融塩電解に使用することができる。これにより、金属マグネシウムを製造することができる。先に述べたように、溶融塩電解では複数の異なる電解槽を用いることがあり、抜取り工程では、その電解槽に応じて、貯蔵容器1内の所定の深さ位置の塩化マグネシウムMCを抜き取ることができる。
【実施例】
【0055】
次に、この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0056】
(実施例1)
金属製還元反応容器内にて四塩化チタンを金属マグネシウムで還元し、スポンジチタン塊の他、塩化マグネシウムを得た。この塩化マグネシウムをコンテナで搬送した後、
図1に示すような貯蔵容器内に投入して貯留させ、2時間以上静置した。この際に貯蔵容器を加熱し、その内部の温度を750℃に維持した。なお、この貯蔵容器は、全高Hcが3.0m、浅いほうの先端開口部の距離Daが1.0m、深いほうの先端開口部の距離Dbが0.1mであった。
【0057】
静置後、先端開口部が深い位置にある抜取り管を用いて、貯蔵容器内から塩化マグネシウムを抜き取った。電解槽内の内部をこの塩化マグネシウムを含む溶融塩浴とし、溶融塩電解を行って金属マグネシウムを製造した。溶融塩電解の開始後は、先端開口部が深い位置にある抜取り管を用いて貯蔵容器内から抜出した塩化マグネシウムを電解槽に適宜のタイミングで補充した。電解槽としては、電解室が6m3、回収室が10m3であるものを用いた。
【0058】
上記の溶融塩電解を一定の期間にわたって継続した後に終了させ、電解槽を解体した。このとき、その内部の主として回収室内に固着して形成された堆積物の体積を測定したところ、溶融塩電解の継続中に一月当たり0.03m3程度の堆積物が形成されていたことが解かった。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様に、塩化マグネシウム静置後の貯蔵容器において、先端開口部が浅い位置にある抜取り管を用いて貯蔵容器内から塩化マグネシウムを抜き取り、これを使用した溶融塩電解を実施例1と実質的に同様の条件で行った。この溶融塩電解では、一月当たり0.01m3程度の堆積物が形成されていた。
【0060】
(比較例1)
金属マグネシウムによる四塩化チタンの還元で得られた塩化マグネシウムを、コンテナで電解槽へ搬送し、貯蔵することなくそのまま電解槽内に投入した。ここでは、塩化マグネシウムのみならず、還元で用いられなかった金属マグネシウムやスラッジ等も含まれていた。このように還元反応後の塩化マグネシウムを電解槽内に直接投入したことを除いて、実施例1と実質的に同様の条件で溶融塩電解を行った。その結果、当該電解槽内に一月当たり0.10m3程度の堆積物が形成されていた。また、実施例1および実施例2に対し、比較的早期に操業停止が必要となり、このタイミングは溶融塩電解の開始時の想定よりもかなり早かった。
【0061】
以上より、この発明の塩化マグネシウム貯蔵容器の使用方法によれば、その貯蔵容器内に貯蔵した塩化マグネシウムを用いた溶融塩電解で、電解槽内の堆積物の成長を適切に制御できることが解かった。実施例1及び実施例2では、それぞれ特定の抜取り管から抜き取った塩化マグネシウムを電解槽に供給し続けたため、溶融塩電解の開始時の想定とほぼ同じ時期に電解槽のメンテナンス時期を迎えた。その結果、電解槽のメンテナンス時期が適切にずれて電解槽の操業効率が良かった。他方、比較例1では、還元工程で生成した塩化マグネシウムをそのまま電解槽に供給したため電解槽内の堆積物の成長速度が予想外の速さとなり、事前に想定したスケジュール通りの電解槽の操業ができなかった。
【符号の説明】
【0062】
1 貯蔵容器
2a、2b 先端開口部
3a、3b 抜取り管
4a、4b 後端開口部
MC 塩化マグネシウム
CP 沈殿物
MM 金属マグネシウム
BF 界面
Hc 貯蔵容器の全高
Da、Db 抜取り管の先端開口部の距離
Ea 貯蔵容器の一端部側の外端点
Eb 貯蔵容器の他端部側の外端点
Hs 液面高さ