(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車
(51)【国際特許分類】
B61F 5/16 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B61F5/16 A
(21)【出願番号】P 2020171853
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】西村 武宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 與志
(72)【発明者】
【氏名】森 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 紘一
(72)【発明者】
【氏名】坂元 淳一
(72)【発明者】
【氏名】森口 栄志
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-335558(JP,A)
【文献】特開2016-088403(JP,A)
【文献】特開2018-144685(JP,A)
【文献】特表昭62-501553(JP,A)
【文献】米国特許第04134343(US,A)
【文献】中国実用新案第202765003(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体を支持するボルスタレス式の鉄道車両用台車であって、
車幅方向に延びる横ばりと、車体前後方向に延び前記横ばりの車幅方向両端部を支持する一対の側ばりとを含む台車枠と、
前記車体に対してヨーイング方向に回動可能に、前記台車枠と前記車体とを結合する牽引装置と、を備え、
前記横ばりは、上面が開口した断面U字型の開放断面構造を有し、
前記牽引装置は、
基端側が前記側ばりに固定され、先端側が車幅方向内側に延び出した牽引リンク受けと、
前記車体に固定された中心ピンを回動可能に受容するピン受けを有する牽引ばりと、
前記牽引リンク受けの前記先端側と前記牽引ばりとを連結する牽引リンクと、
を備える鉄道車両用台車。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用台車において、
前記牽引リンク受けは、
前記一対の側ばりの一方に固定される第1基端部と、車幅方向内側に延び出した第1先端部とを有する第1牽引リンク受けと、
前記一対の側ばりの他方に固定される第2基端部と、車幅方向内側に延び出した第2先端部とを有する第2牽引リンク受けと、を含み、
前記牽引ばりは、前記第1牽引リンク受けの第1先端部と対向する第1対向部と、前記第2牽引リンク受けの第2先端部と対向する第2対向部と、を含み、
前記牽引リンクは、前記第1先端部と前記第1対向部とを連結する第1牽引リンクと、前記第2先端部と前記第2対向部とを連結する第2牽引リンクと、を含む、鉄道車両用台車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両用台車において、
前記中心ピンと前記牽引リンク受けの前記先端側との間に配置されるダンパー装置をさらに備える、鉄道車両用台車。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両用台車において、
前記中心ピンは、前記車体の下部に固着されるフランジ部と一体の部材であって、
前記牽引リンク受けに固定される固定部と、当該固定部から延び出した第1ダンパー受け部とを含むアーム部材をさらに備え、
前記ダンパー装置は、車幅方向に延在するように配置され、前記第1ダンパー受け部で保持される一端部と、前記フランジ部から延び出した第2ダンパー受け部で保持される他端部とを備える、鉄道車両用台車。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉄道車両用台車において、
前記牽引リンク受けの前記先端側は、前記横ばりの前記開放断面内に収容されている、鉄道車両用台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体を支持するボルスタレス式の鉄道車両用台車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用台車においては、台車枠から鉄道車両の車体へ牽引力及び制動力を伝達させる牽引装置が用いられる。枕ばり(ボルスタ)を省いたボルスタレス台車では、車体下部に固定された中心ピンを受容するピン受けを有する牽引ばりと、台車枠の横ばりとを、牽引リンクによって連結する牽引装置が一般的である(例えば特許文献1)。前記横ばりは、一対の側ばり間において車幅方向に延びる梁部材であり、剛性を確保するため丸パイプ等の閉断面構造を備える部材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボルスタレス台車において、剛性を確保しつつ、軌道ねじれに対する輪重変動を低減することで、軌道ねじれへの追従性をさらに向上させることが求められている。
【0005】
本発明は、ボルスタレス式の鉄道車両用台車において、軌道ねじれに対する輪重変動を低減しつつ、横ばりの強度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の局面に係る鉄道車両用台車は、鉄道車両の車体を支持するボルスタレス式の鉄道車両用台車であって、車幅方向に延びる横ばりと、車体前後方向に延び前記横ばりの車幅方向両端部を支持する一対の側ばりとを含む台車枠と、前記車体に対してヨーイング方向に回動可能に、前記台車枠と前記車体とを結合する牽引装置と、を備え、前記横ばりは、上面が開口した断面U字型の開放断面構造を有し、前記牽引装置は、基端側が前記側ばりに固定され、先端側が車幅方向内側に延び出した牽引リンク受けと、前記車体に固定された中心ピンを回動可能に受容するピン受けを有する牽引ばりと、前記牽引リンク受けの前記先端側と前記牽引ばりとを連結する牽引リンクと、を備える。
【0007】
この鉄道車両用台車によれば、台車枠の横ばりが、上面開口の断面U字型の開放断面構造を有するので、輪重変動を低減させ、軌道にねじれが存在していても台車の追従性を良好とすることができる。一方、牽引リンク受けは、前記横ばりではなく、側ばりに基端部が固定されている。そして、前記牽引リンク受けの前記先端側と前記牽引ばりとが、牽引リンクによって連結される。このため、台車枠から車体への牽引力の伝達ルートは、前記側ばり、前記牽引リンク受け、牽引ばり及び中心ピンを通るルートとなる。従って、開放断面構造の採用によって剛性が比較的低い前記横ばりに大きな牽引荷重が加わらないようにすることができ、横ばりの強度を維持させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軌道ねじれに対する輪重変動を低減しつつ、横ばりの強度を確保することが可能なボルスタレス式の鉄道車両用台車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用台車の上面図である。
【
図2】
図2は、上記鉄道車両用台車の側面図である。
【
図5】
図5は、台車枠に牽引リンク受けが組付けられた状態を示す上面図である。
【
図6】
図6(A)は、横ばりの上面図、
図6(B)は、その長手方向の側面図、
図6(C)は短手方向の側面図である。
【
図7】
図7は、台車枠の一対の側ばりに牽引リンク受けが各々取り付けられた状態を示す上面図である。
【
図8】
図8(A)は、牽引リンク受けの上面図、
図8(B)は、その長手方向の側面図、
図8(C)は短手方向の側面図である。
【
図9】
図9(A)は、牽引ばりの上面図、
図9(B)は、その長手方向の側面図である。
【
図10】
図10(A)は、牽引リンクの上面図、
図10(B)は、その長手方向の側面図である。
【
図13】
図13(A)は、比較例の鉄道車両用台車における牽引力の伝達経路を、
図13(B)は、実施例の鉄道車両用台車における牽引力の伝達経路を各々示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態に係る鉄道車両用台車は、旅客車、貨車又は機関車等の鉄道車両の車体を支持する台車であって、ボルスタを具備していないボルスタレス式の台車である。
図1及び他の図において、XYZの方向表示を付している。X方向は車両の前後方向(レールの延伸方向)、Y方向は車両の車幅方向、Z方向は車両の上下方向である。
【0011】
[台車の全体構造]
図1は、本発明の実施形態に係るボルスタレス台車1の上面図、
図2はその側面図である。
図3は、
図1のIII-III線断面図、
図4は、
図1のIV-IV線断面図である。ボルスタレス台車1は、鉄道車両の車体CBを支持する台車であって、台車枠11、牽引装置12、車軸13、車輪14、軸箱15、空気ばね16及びディスクブレーキ17を備えている。
【0012】
台車枠11は、二つの側ばり2と、これら側ばり2を連結する一つの横ばり3とによって構成されている。側ばり2は、X方向(車体前後方向)に延びる梁部材であり、Y方向(車幅方向)に所定間隔を置いて一対で配置されている。横ばり3は、車幅方向に延びる梁部材であり、一対の側ばり2を、そのX方向中心付近で連結している。換言すると、横ばり3の+Y端部が+Y側の側ばり2で、-Y端部が-Y側の側ばり2で各々支持されている。側ばり2は、断面矩形の閉断面構造を有している。これに対し、後記で詳述するが、横ばり3は、上面が開口した断面U字型の開放断面構造を有している。
【0013】
車輪14を備えた車軸13は、側ばり2の+X端部21及び-X端部22に、それぞれ軸ばねが付設された軸箱15を介して取り付けられている。空気ばね16は、車体CBの荷重を支える部材であって、+Y側及び-Y側の側ばり2の中央部23と車体CBの下面との間に各々配置されている。なお、
図1では、+Y側の空気ばね16の外形だけを二点鎖線で示している。空気ばね16は、側ばり2の中央部23に備えられた空気ばね座25(
図2)によって、台車枠11に取り付けられている。ディスクブレーキ17は、四つの車輪14に対して各々配置されている。各ディスクブレーキ17は、側ばり2の内側面から車幅方向内側に向けて延出されたブレーキ支持アーム24(
図5参照)によって、それぞれ支持されている。
【0014】
牽引装置12は、台車枠11から車体CBへ牽引力及び制動力を伝達させるための装置である。牽引装置12は、車体CBに対してヨーイング方向に回動可能に、台車枠11と車体CBとを結合する。本実施形態の牽引装置12は、Zリンク式の構造を備えており、牽引ばり4、一対の牽引リンク受け5及び牽引リンク6を含む。牽引ばり4は、横ばり3のY方向中央に配置されている。牽引リンク受け5は、一対の側ばり2の各中央部23に基端側が固定され、先端側が車幅方向内側に延び出している。牽引リンク6は、牽引リンク受け5の前記先端側と牽引ばり4とを連結している。
【0015】
車体CBの下面には、中心ピンユニット8が取り付けられている(
図3、
図4参照)。中心ピンユニット8は、中心ピン81、フランジ部82及び垂下アーム83(第2ダンパー受け部)を含む。中心ピン81は、剛性を有する円筒体からなり、ボルスタレス台車1から車体CBへ牽引力が伝達されると共に、車体CBが台車枠11に対してヨーイング方向に回動する回転軸となる。フランジ部82は、中心ピン81の上端付近に取り付けられた平板部材である。中心ピン81を一体的に保持するフランジ部82は、締結ボルトによって車体CBの下部に固着されている。
【0016】
牽引ばり4は、上述の中心ピン81を軸回りに回動可能に受容する円筒状のピン受け42を備えている。ピン受け42の底面側から中心ピン81の下端面に対して、スリ板付きの押え金45が取付ボルト46の締結によって取り付けられている。押え金45は、ピン受け42の内径よりも大きい外形を有する円板状の部材である。牽引ばり4の+Y端部及び-Y端部付近には各々、一対のストッパ18が牽引リンク受け5に配置されている。ストッパ18は、牽引ばり4の台車枠11からの浮き上がりを防止する部材である。
【0017】
牽引ばり4の+X側には、左右動ダンパー7(ダンパー装置)が配置されている。左右動ダンパー7は、車体CBの左右方向(Y方向)の揺れを減衰させるダンパーである。後記で詳述するが、左右動ダンパー7は、中心ピンユニット8と牽引リンク受け5との間に配置されている。このような左右動ダンパー7の配置により、ピン受け42と中心ピン81との間の隙間に起因する減衰力の伝達ロスの発生を防止することができる。中心ピンユニット8の垂下アーム83は、フランジ部82から下方に延び出しており、左右動ダンパー7の一端を保持している。左右動ダンパー7の他端は、牽引リンク受け5から延び出している後述のアーム部材54によって保持されている。
【0018】
以下、上掲の
図1~
図4に加え、
図5~
図10を参照しながら、上記で簡単に説明したボルスタレス台車1の構成部材、すなわち台車枠11(特に横ばり3)、牽引ばり4、牽引リンク受け5及び牽引リンク6の各々について詳細に説明する。
【0019】
[台車枠]
図5は、牽引リンク受けが組付けられた台車枠11を示す上面図である。
図6(A)は、横ばり3の上面図、
図6(B)は、その長手方向の側面図、
図6(C)は短手方向の側面図である。既述の通り、台車枠11は、一対の側ばり2と、これら側ばり2を繋ぐ横ばり3とによって構成されている。横ばり3としては、剛性を確保するため丸パイプ等の閉断面構造を備える部材が用いられることが多い。例えば特許文献1に開示されたボルスタレス台車のように、一対の側ばり2の前後方向の中央部を、閉断面構造を備える二本の横ばりによって連結することによって、剛性を高めた台車枠を得ることができる。
【0020】
しかし、台車枠の剛性を高めすぎると、軌道ねじれへの追従性が低下し、輪重変動が大きくなるという問題が生じる。輪重は、車輪14と軌道(レール)との間に働く上下方向の力である。鉄道車両の走行時において輪重の変動は不可避的に生じるが、可及的に小さい範囲に止めることが望ましい。しかし、例えば曲線軌道のカント逓減区間のように軌道にねじれが存在している区間を車両が走行する際、空気ばね16のクッション機能だけでは対応できず、輪重変動が増大することがある。軌道ねじれへの追従性を向上させ、輪重変動を低減させるには、横ばり3のねじり剛性をあえて低下させることが効果的である。
【0021】
上記に鑑みて本発明では、上面開口の断面U字型の開放断面を含む構造を有する横ばり3が用いられている。これにより、横ばり3の曲げ剛性を確保しつつ、ねじり剛性を低下させている。本実施形態では、横ばり3としてH鋼が用いられる例を示している。
図6を参照して、横ばり3は、横板31、一対の上縦板32及び一対の下縦板33を含む。横板31と一対の上縦板32とによって、上面開口3Hを有する断面U字型の開放断面が形成されている。横ばり3は、断面U字型の開放断面を有する構造であれば良く、例えば一対の下縦板33を具備しないU字鋼を用いてもよい。
【0022】
横板31は、車幅方向に長い矩形平板である。横板31の両端部(+Y端部及び-Y端部)には、補強板34が重ね合わされている。この補強板34及び横板31には、牽引リンク受け5と結合するための複数のねじ孔35が穿孔されている。また、横板31の両端部を除く領域には、水抜き等の機能を果たす開口36が設けられている。一対の上縦板32は、横板31の短手方向両端からそれぞれ鉛直上方へ延びている。一対の下縦板33は、横板31の短手方向両端からそれぞれ鉛直下方へ延びている。
【0023】
[牽引リンク受け]
図7は、台車枠11の+Y側及び-Y側の側ばり2に、牽引リンク受け5が各々取り付けられた状態を示す上面図である。本実施形態の牽引リンク受け5は、横ばり3に単純に配置されるのではなく、側ばり2から車幅方向内側に延び出す構造で配置される。これは、開放断面構造として剛性を意図的に低下させた横ばり3に過度の荷重が作用しないようにするためである。本実施形態によれば、牽引力を、横ばり3に依存せず、牽引リンク受け5を介して側ばり2から中心ピン81に伝達させることができる。
【0024】
図8(A)は、+Y側の牽引リンク受け5を単体で示す上面図、
図8(B)は、その長手方向の側面図、
図8(C)は短手方向の側面図である。牽引リンク受け5は、固定平板部51(第1基端部/基端側)、延出部52及びリンク連結部53(第1先端部/先端側)を備えている。
【0025】
固定平板部51は、上面視で略円形の形状を有する平板部材であり、+Y側の側ばり2(一対の側ばりの一方)の上に載置されている。なお、固定平板部51は上面視で略楕円形の形状を有していてもよい。固定平板部51は、断面矩形の側ばり2の上面に、例えば溶接によって固定されている。延出部52は、固定平板部51から車幅方向内側へ延び出した部分である。延出部52の+Y端部は、側ばり2の内側面に当接すると共に、固定平板部51の-Y端部の下面に連なっている。すなわち、延出部52は、側ばり2とほぼ同じ高さ位置で、車幅方向内側へ延びている。リンク連結部53は、延出部52の延出端である-Y端部に配置されている。
【0026】
延出部52は、底板521と、この底板521の+X端部及び-X端部から立設された側板522とで主に構成されている。底板521には、横ばり3のねじ孔35に位置合わせして穿孔された固定孔52Hが設けられている。これらねじ孔35及び固定孔52Hに挿通される打ち込みボルト37によって、横ばり3と牽引リンク受け5とが固定されている(
図5)。+X側及び-X側の側板522の上端付近には、ストッパ18をネジ止め固定するためのストッパ固定部523が各々設けられている。また、+X側の側板522においてストッパ固定部523の下方には、アーム固定部524が突設されている。アーム固定部524には、左右動ダンパー7を保持するアーム部材54が取り付けられる。
【0027】
リンク連結部53は、牽引リンク6の一端側を受け入れ、これを牽引リンク受け5に連結する部分である。+Y側の牽引リンク受け5では、リンク連結部53は+X側寄りに配置される。リンク連結部53は、ホルダ531及び保持片532を含む。ホルダ531は、上面視でU字型の形状を有しており、-X向きに開口する受け入れ空間53Hを形成している。保持片532は、ホルダ531の+Y側及び-Y側の開口縁に各々取り付けられている。各保持片532は、牽引リンク6を取り付けるためのねじ孔533が備えられている。
【0028】
図7に示すように、-Y側の牽引リンク受け5は、アーム固定部524を除いて、+Y側の牽引リンク受け5と同じ構造を備えている。-Y側の牽引リンク受け5は、-Y側の側ばり2(一対の側ばりの一方)に載置固定される固定平板部51(第2基端部/基端側)と、固定平板部51から車幅方向内側に延び出す延出部52と、延出部52の+Y端部に配置されたリンク連結部53(第2先端部/先端側)とを備えている。なお、-Y側の牽引リンク受け5では、リンク連結部53は-X側寄りに配置され、ホルダ531は+X向きに開口する受け入れ空間53Hを形成する。以下、牽引リンク受け5を+Y側又は-Y側と特定する必要のあるときは、+Y側のリンク連結部53を第1リンク連結部53A(第1先端部)、-Y側のリンク連結部53を第2リンク連結部53B(第2先端部)という。
【0029】
図3、
図5に示すように、牽引リンク受け5の延出部52(先端側)は、横ばり3の開放断面内に収容されている。詳しくは、延出部52のX方向幅は、横ばり3における一対の上縦板32間の間隔よりもやや狭幅とされ、延出部52の下端領域が上面開口3Hから横ばり3の開放断面内に進入している。このような構成とすることで、牽引リンク受け5を利用した横ばり3の組付けによる組み立て作業の容易化、並びに横ばり3の強度補強を達成することができる。
【0030】
[牽引ばり]
図9(A)は、牽引ばり4の上面図、
図9(B)は、牽引ばり4の長手方向の側面図である。牽引ばり4は、+Y側及び-Y側の二つの牽引リンク受け5と、二本の牽引リンク6を介してZリンクに結合され、台車枠11の牽引力や制動力を車体CBに伝達する部材である。牽引ばり4は、本体部41、上述のピン受け42、第1対向部43A及び第2対向部43Bを備えている。
【0031】
本体部41は、円筒状のピン受け42を保持する上面視で略正方形の部分と、その+Y側及び-Y側に各々連設された第1ウィング部411及び第2ウィング部412を備えている。第1ウィング部411の+Y側突出端411E及び第2ウィング部412の-Y側突出端412Eは、ストッパ18と上下方向に一部が重なる位置に配置される(
図4)。これにより、牽引ばり4の台車枠11からの浮き上がりが生じた場合でも、突出端411E、412Eがストッパ18により押さえられる。
【0032】
ピン受け42は、中心ピン81を受け入れる受容孔42Hを有する円筒体である。ピン受け42の上端縁42A(+Z端)は、本体部41の上面よりも僅かに突出している。中心ピン81が受容孔42Hに挿通された状態で、上端縁42Aはフランジ部82の下面に当接する(
図4)。また、ピン受け42の下端縁42Bには、スリ板付きの押え金45が当接する。
【0033】
牽引リンク6による連結部として、第1ウィング部411には第1対向部43Aが、第2ウィング部412には第2対向部43Bが各々備えられている。第1対向部43A及び第2対向部43Bはそれぞれ、逆U字アーム431及び連結片432を含む。逆U字アーム431は、本体部41から下方に垂下した二本のアーム部材によって形成され、牽引リンク6の上半分を受け入れる逆U字型の受け入れ空間43Hを形成している。連結片432は、逆U字アーム431の前記二本のアーム部材の下端に各々配置されている。各連結片432は、牽引リンク6を固定するためのねじ孔433を備えている。
【0034】
牽引ばり4の組付け位置は、横ばり3のY方向中央位置の上方である(
図1、
図4)。詳しくは、ピン受け42の軸心が、横ばり3のX方向及びY方向中央点に位置合わせされるように、牽引ばり4が配置される。Zリンクの結合構造を実現するため、上記の牽引ばり4の配置状態において、第1対向部43Aは牽引リンク受け5の第1リンク連結部53Aと対向し、第2対向部43Bは第2リンク連結部53Bと対向する。
【0035】
[牽引リンク]
図10(A)は、牽引リンク6の上面図、
図10(B)は、その長手方向の側面図である。牽引リンク6は、上面視で一方向に長い矩形の部材からなるリンク本体61と、緩衝連結体65とを含む。リンク本体61の一端側は、牽引ばり4側に固定される第1リンク端部62であり、他端側は、牽引リンク受け5に固定される第2リンク端部63である。第1リンク端部62及び第2リンク端部63は、緩衝連結体65が圧入される円柱状の空間を区画する円筒体64からなる。リンク本体61の長手方向中央には、上方に向けて凹没した凹部61Aが設けられている。
【0036】
緩衝連結体65は、心棒651、緩衝ゴム652及び外筒653から構成されている。心棒651は、円筒体64に収容される中心球体654と、この中心球体654から側方へ一直線状に延び出す一対の羽根部655とからなる。各羽根部655は、ダブルDカットにより形成された平行な固定面を有し、円筒体64から側方へ延出している。各羽根部655には、ねじ通し用の連結孔66が穿孔されている。
【0037】
緩衝ゴム652は、牽引ばり4と牽引リンク受け5との連結部分に緩衝性を付与するために配置される。緩衝ゴム652は、所定の厚みを有する筒体からなり、心棒651の中心球体654の外周を覆うように配置される。なお、緩衝ゴム652を除く牽引リンク6の構成部材は、剛性を有する金属部材からなる。外筒653は、緩衝ゴム652を包み込むように保持する円筒状の部材である。外筒653の内周面は、緩衝ゴム652の外周面の形状に沿う曲面とされている。外筒653の外周面は、円筒体64の内周面に沿うようにフラットな周面である。外筒653は、円筒体64の内周面の内径よりも僅かに大きい外径を有している。外筒653は、緩衝ゴム652が装着された心棒651を保持した状態で、円筒体64に圧入される。
【0038】
図11は、
図3のXI-XI線断面図であって、牽引リンク6による牽引ばり4と牽引リンク受け5との連結構造を示す図である。ここでは、+Y側に配置されるものを第1牽引リンク受け5A及び第1牽引リンク6A、-Y側に配置されるものを第2牽引リンク受け5B及び第2牽引リンク6Bという。第1牽引リンク6Aは、牽引ばり4の第1対向部43Aと第1牽引リンク受け5Aの第1リンク連結部53Aとを連結している。一方、第2牽引リンク6Bは、牽引ばり4の第2対向部43Bと第2牽引リンク受け5Bの第2リンク連結部53Bとを連結している。
【0039】
第1牽引リンク6Aの第1リンク端部62は、第1対向部43Aの受け入れ空間43H(
図9)に受け入れられている。第1リンク端部62及び第1対向部43Aは、横ばり3の存在位置よりも-X側に突出する位置に配置されている。第1リンク端部62側の心棒651の羽根部655と第1対向部43Aの連結片432とがX方向に重ね合わされ、連結孔66とねじ孔433とが位置合わせされた状態で、第1ねじ67の締結によって両者が固定されている。
【0040】
一方、第1牽引リンク6Aの第2リンク端部63は、第1牽引リンク受け5Aの第1リンク連結部53Aの受け入れ空間53H(
図8)に受け入れられている。第1牽引リンク受け5Aが横ばり3の上に配置されているので、第2リンク端部63及び第1リンク連結部53Aは、横ばり3の開放断面内に一部が入り込んだ位置にある。第2リンク端部63の羽根部655と第1リンク連結部53Aの保持片532とがX方向に重ね合わされ、連結孔66とねじ孔533とが位置合わせされた状態で、第2ねじ68の締結によって両者が固定されている。
【0041】
第2牽引リンク6Bの第1リンク端部62は、第2対向部43Bの受け入れ空間43Hに受け入れられている。第1リンク端部62及び第2対向部43Bは、横ばり3の存在位置よりも+X側に突出する位置に配置されている。第1リンク端部62側の羽根部655と第2対向部43Bの連結片432とがX方向に重ね合わされ、第1ねじ67の締結によって両者が固定されている。一方、第2牽引リンク6Bの第2リンク端部63は、第2牽引リンク受け5Bの第2リンク連結部53Bの受け入れ空間53Hに受け入れられている。第2リンク端部63及び第2リンク連結部53Bは、横ばり3の開放断面内に一部が入り込んだ位置にある。第2リンク端部63の羽根部655と第2リンク連結部53Bの保持片532とがX方向に重ね合わされ、第2ねじ68の締結によって両者が固定されている。
【0042】
図12は、
図11のXII線視の側面図であって、横ばり3と牽引リンク6との高さ方向(Z方向)の位置関係を示す図である。上述の通り、牽引リンク6A、6Bの第1リンク端部62は横ばり3から突出する位置に配置される一方、第2リンク端部63は横ばり3の開放断面内に一部が入り込むように配置される。このため、リンク本体61には、横ばり3との干渉を回避するための凹部61Aが設けられている。詳しくは、横ばり3の上縦板32の上方を跨ぐように、リンク本体61の下面を上方に窪ませた凹部61Aが形成されている。この構成により、Z方向のサイズをコンパクト化することができる。
【0043】
[左右動ダンパー]
本実施形態のボルスタレス台車1は、牽引ばり4の+X側に、車体CBの左右方向(Y方向)の揺れを減衰させる左右動ダンパー7を備える。
図1、
図3及び
図11を参照して、左右動ダンパー7はY方向(車幅方向)に延在するように水平に配置されており、固定端として+Y端部71(一端部)及び-Y端部72(他端部)を備えている。+Y端部71は牽引リンク受け5側に、-Y端部72は中心ピンユニット8(中心ピン81)側に各々接続される。
【0044】
+Y端部71の支持のために、第1牽引リンク受け5Aから、アーム部材54が+X方向に突設されている。アーム部材54は、第1牽引リンク受け5Aに固定される基端部541(固定部)と、当該基端部541から+X側に延び出した先端部542(第1ダンパー受け部)とを含む。基端部541は、第1牽引リンク受け5Aに備えられているアーム固定部524に、固定ねじ55によって固定されている。先端部542は、左右動ダンパー7の+Y端部71を保持する+Y保持ピン73を支持している。
【0045】
-Y端部72の支持のために、中心ピンユニット8のフランジ部82から垂下アーム83(第2ダンパー受け部)が延び出している。垂下アーム83は、フランジ部82の-Y端部付近から下方に伸び出している。垂下アーム83の下端部は、左右動ダンパー7の-Y端部72を保持する-Y保持ピン74を支持している。
【0046】
上記のような左右動ダンパー7の保持構造とすることで、+Y端部71及び-Y端部72をガタつきなく支持させることができる。左右動ダンパー7は、車体CBに左右方向の揺れが発生したとき、その振動に抵抗する減衰力を出す。しかし、たとえ微小でも、+Y端部71又は-Y端部72の支持部分にガタつきがあると、微小な横揺れを吸収できなくなる。本実施形態では、中心ピン81がピン受け42内で回動できるよう、両者間に僅かな隙間を設ける必要がある。この隙間がガタつきとなり、とりわけ車両の高速運転時に振動を増長させ、高速安定性を阻害することがある。
【0047】
しかし、本実施形態では、左右動ダンパー7の+Y端部71は、アーム部材54並びに第1牽引リンク受け5Aを介して側ばり2に支持される。その支持経路にガタつきが生じる箇所は存在しない。また、-Y端部72は、垂下アーム83及びフランジ部82を介して中心ピン81に直結しており、隙間等は存在しない。従って、左右動ダンパー7の伝達ロスの発生を防止することができ、車両の高速安定性を担保することができる。
【0048】
[作用効果]
図13(A)は、比較例に係るボルスタレス台車1Aにおける牽引力の伝達ルートを示す模式図である。比較例のボルスタレス台車1Aは、牽引リンク6の一端を受ける牽引リンク受け50が、開放断面構造を有する横ばり3に取り付けられてなる。この牽引リンク受け50と、牽引ばり4の第1対向部43A及び第2対向部43Bとが、それぞれ牽引リンク6で連結されている。
【0049】
この場合、台車枠11から中心ピン81への牽引力の伝達ルートは矢印F1で示す通りとなる。すなわち、台車枠11の側ばり2から横ばり3の一部を経由して牽引リンク受け50に至り、その後、牽引リンク6及び牽引ばり4を順次経由して、車体CB側の中心ピン81に至る伝達ルートである。この矢印F1のルートでは、牽引力が開放断面構造を採用してねじり剛性を低下させた横ばり3を通って伝達されることになる。このため、大きな牽引荷重が加わる等の要因で、横ばり3に変形や損傷が生じ、結果として横ばり3の強度が維持できないという問題が生じ得る。
【0050】
図13(B)は、本発明の実施例に係るボルスタレス台車1における牽引力の伝達ルートを示す模式図である。実施例のボルスタレス台車1は、上述の通り、開放断面構造を有する横ばり3が採用されている一方で、側ばり2に基端側が固定され、先端側が車幅方向内側に延び出した一対の牽引リンク受け5を備える。これら牽引リンク受け5の前記先端側に、牽引リンク6の一端が固定される第1リンク連結部53A及び第2リンク連結部53Bが配置されている。そして、一対の牽引リンク6が、第1リンク連結部53A及び第2リンク連結部53Bと、中心ピン81を受容する牽引ばり4の第1対向部43A及び第2対向部43Bとを各々連結する構造を備える。
【0051】
この場合、台車枠11から中心ピン81への牽引力の伝達ルートは矢印F2で示す通りとなる。すなわち、伝達ルートは、台車枠11の側ばり2から、横ばり3を経由することなく、一対の牽引リンク受け5の第1リンク連結部53A及び第2リンク連結部53Bに至る。そして、各牽引リンク6及び牽引ばり4の第1対向部43A及び第2対向部43Bを経由して、車体CB側の中心ピン81に至る。この矢印F2のルートでは、牽引力は、ねじり剛性が低い横ばり3を通ることなく、側ばり2から牽引ばり4を介して中心ピン81に伝達される。このため、大きな牽引荷重が横ばり3に加わることはなく、結果として横ばり3の強度を維持できる。
【0052】
以上説明した通り、本実施形態のボルスタレス台車1によれば、横ばり3が、上面開口の断面U字型の開放断面構造を有するので、曲げ剛性を確保しつつ、ねじり剛性を低下させて、輪重変動を低減させることができる。このため、軌道ねじれに対する追従性を良好とし、各車輪14に適切に荷重が加わるようにすることができる。一方、牽引リンク受け5は、横ばり3ではなく、側ばり2に基端側の固定平板部51が固定され、車幅方向内側に延び出した先端側において、牽引ばり4と牽引リンク6によって連結される。このため、台車枠11から車体CBへの牽引力の伝達ルートは、側ばり2、牽引リンク受け5、牽引ばり4及び中心ピン81を通るルートとなる。従って、開放断面構造の採用によって剛性が比較的低い横ばり3に大きな牽引荷重が加わらないようにし、横ばり3の強度を確保することができる。
【0053】
以上説明した実施形態には以下に示す発明がさらに含まれている。
【0054】
本発明に係る鉄道車両用台車の一態様では、前記牽引リンク受けは、前記一対の側ばりの一方に固定される第1基端部と、車幅方向内側に延び出した第1先端部とを有する第1牽引リンク受けと、前記一対の側ばりの他方に固定される第2基端部と、車幅方向内側に延び出した第2先端部とを有する第2牽引リンク受けと、を含み、前記牽引ばりは、前記第1牽引リンク受けの第1先端部と対向する第1対向部と、前記第2牽引リンク受けの第2先端部と対向する第2対向部と、を含み、前記牽引リンクは、前記第1先端部と前記第1対向部とを連結する第1牽引リンクと、前記第2先端部と前記第2対向部とを連結する第2牽引リンクと、を含む。
【0055】
この鉄道車両用台車によれば、牽引ばりの第1、第2対向部を、第1、第2牽引リンクを用いて第1、第2牽引リンク受けに対して各々連結される。これにより、Zリンク式の牽引装置を実現することができる。
【0056】
なお、本発明は、1本リンク式の牽引装置にも適用することができる。この場合、例えば、横ばり3の開放断面の内部に、一対の側ばり2間に架け渡した梁部材を配置する。この梁部材を牽引リンク受けとし、当該梁部材の車幅方向中央位置に牽引リンクと結合する連結部を設ければ良い。この場合、前記梁部材の両端が側ばり2に固定される基端側、前記梁部材の車幅方向中央位置が先端側となる。
【0057】
前記鉄道車両用台車の他の態様では、前記中心ピンと前記牽引リンク受けの前記先端側との間に配置されるダンパー装置をさらに備える。
【0058】
前記牽引リンク受けは側ばりに直接固定されていることから、隙間部分が存在しない。このため、ガタつきのない支持部材にダンパー装置を支持させることができる。従って、ダンパー装置の伝達ロスの発生を防止することができ、車両の高速安定性を担保することができる。
【0059】
上記のダンパー装置を含む鉄道車両用台車において、前記中心ピンは、前記車体の下部に固着されるフランジ部と一体の部材であって、前記牽引リンク受けに固定される固定部と、当該固定部から延び出した第1ダンパー受け部とを含むアーム部材をさらに備え、前記ダンパー装置は、車幅方向に延在するように配置され、前記第1ダンパー受け部で保持される一端部と、前記フランジ部から延び出した第2ダンパー受け部で保持される他端部とを備えることが望ましい。
【0060】
この鉄道車両用台車によれば、前記アーム部材及び前記フランジ部からの延び出し部分を用いて、ダンパー装置を振動減衰に適した箇所(例えば横ばりから前方へ離間した位置)に配置することができる。
【0061】
前記鉄道車両用台車において、前記牽引リンク受けの前記先端側は、前記横ばりの前記開放断面内に収容されていることが望ましい。これにより、牽引リンク受けを利用した横ばりの組付けによる組み立て作業の容易化、並びに横ばりの強度補強等を達成することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ボルスタレス台車(鉄道車両用台車)
11 台車枠
12 牽引装置
2 側ばり
3 横ばり
3H 上面開口
4 牽引ばり
42 ピン受け
43A 第1対向部
43B 第2対向部
5 牽引リンク受け
5A、5B 第1、第2牽引リンク受け
51 固定平板部(基端側)
52 延出部(先端側)
53A 第1リンク連結部(第1先端部)
53B 第2リンク連結部(第2先端部)
54 アーム部材
541 基端部(固定部)
542 先端部(第1ダンパー受け部)
6 牽引リンク
6A、6B 第1、第2牽引リンク
7 左右動ダンパー(ダンパー装置)
71 +Y端部(一端部)
72 -Y端部(他端部)
8 中心ピンユニット
81 中心ピン
82 フランジ部
83 垂下アーム(第2ダンパー受け部)
CB 鉄道車両の車体