(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】鋼部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240305BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/20 E
(21)【出願番号】P 2020199719
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛之
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203256(JP,A)
【文献】特開2011-147991(JP,A)
【文献】国際公開第2012/161050(WO,A1)
【文献】特開2019-030886(JP,A)
【文献】特開2009-255117(JP,A)
【文献】特開2010-064137(JP,A)
【文献】特開2010-064138(JP,A)
【文献】特開2012-051005(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 22/20
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に湾曲した形状を有し、該長手方向に垂直な断面の形状が、コの字型またはハット型であり、湾曲凹部側の縦壁部に、開口部に向かって末広がり形状の段差部を有する、鋼部品を製造する方法であって、
成形用材料を用い、長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、前記鋼部品と比較したときに、上面視で前記鋼部品と同じであって、断面視で前記鋼部品よりも長い形状を有する、中間部品を製造する第1工程と、
前記中間部品を用い、湾曲凹部側の縦壁部が鋼部品と同じ形状の金型で成形して、前記中間部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状を、鋼部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状に変形させる第2工程と
を含む、鋼部品の製造方法。
【請求項2】
前記中間部品の長手方向に垂直な断面における段差部の線長は、断面視で、前記鋼部品の長手方向に垂直な断面における段差部の線長の1.00倍超、1.10倍以下の長さである、請求項1に記載の鋼部品の製造方法。
【請求項3】
前記鋼部品を構成する鋼板の引張強さは、980MPa以上である、請求項1または2に記載の鋼部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体の衝突安全性向上と軽量化を両立させるために、車体構造部品に高強度鋼材が適用されつつある。しかし、高強度鋼材をプレス成形して車体構造部品を製造すると、スプリングバックなどの成形不良が生じやすい。特に、車体構造部品として例えばAピラーのようなコの字型又はハット型の断面を有し、長手方向に湾曲した部品の場合、スプリングバックなどの成形不良が生じて形状・寸法の精度不良が生じやすい。
【0003】
上記精度不良を解消することを目的として、特許文献1には、ダイとパンチの相対的な直進移動によって金属板を成形するプレス成形方法において、プレス末期工程のプレス下死点前で縮みフランジ成形部位となる部分に複数の余肉ビードを形成し、縮みフランジ成形部位に引張応力を与えて、縮みフランジ成形部位の残留応力を平準化することで、プレス成形品の残留応力を平準化することが示されている。
【0004】
特許文献2には、コの字型又はハット型の断面で、長手方向に湾曲した形状を有する金属製部材を成形する方法であって、金属製部材の長手方向における領域のうち、湾曲部を含む一部については、第一成形工程で、製品形状と同一曲率半径で、かつ前記製品形状より幅を大きくして中間品を成形し、第二成形工程で、前記第一成形工程における幅より小さく、曲率半径を変えずに成形し、前記湾曲部を含む一部以外の残部の箇所については、前記第一成形工程と前記第二成形工程で金型の幅及び曲率半径を変えずに成形して、成形品全体を製品形状又は略製品形状とすることが示されている。
【0005】
更に特許文献3には、コの字型又はハット型の断面で、長手方向に湾曲した形状を有する金属製部材を成形する方法であって、前記金属製部材に形成される複数の湾曲部のうち、少なくとも1つの湾曲部については、第一成形工程で、製品形状より大きい曲率半径として中間品を成形し、第二成形工程で、前記第一成形工程における曲率半径より小さく成形し、前記少なくとも1つの湾曲部以外の残部の箇所については、前記第一成形工程と前記第二成形工程で金型の曲率半径を変えずに成形して、成形品全体を製品形状又は略製品形状とすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-255117号公報
【文献】特開2010-64137号公報
【文献】特開2010-64138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、フランジ成形部位の残留応力の平準化を目的に、伸びフランジ部にビードを成形する中間成形と、ビードを潰す成形工程を実施している。しかしこの方法は、フランジ部の形状を制御する方法であって、コの字型又はハット型の部品の縦壁部に生じた残留応力を低減するものではない。
【0008】
特許文献2および3では、第一成形工程において、上面図でみたときに、長手方向の線長を長めに変化させた中間品を形成し、次いで第二成形工程で最終製品の形状へと成形することで、長手方向の残留応力を減少させている。しかし、長手方向の線長を長めとした場合、最終形状とするための成形工程において、金型の据わりが悪いことがある。また、特許文献2および3は、縦壁面が複雑形状の部品を製造するものではなく、該複雑形状に応じた、部分的な残留応力の低減手段が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、形状が複雑かつ高強度の鋼部品を、形状・寸法精度良く、容易に成形することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、
長手方向に湾曲した形状を有し、該長手方向に垂直な断面の形状が、コの字型またはハット型であり、湾曲凹部側の縦壁部に、開口部に向かって末広がり形状の段差部を有する、鋼部品を製造する方法であって、
成形用材料を用い、長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、前記鋼部品と比較したときに、上面視で前記鋼部品と同じであって、断面視で前記鋼部品よりも長い形状を有する、中間部品を製造する第1工程と、
前記中間部品を用い、湾曲凹部側の縦壁部が鋼部品と同じ形状の金型で成形して、前記中間部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状を、鋼部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状に変形させる第2工程と
を含む、鋼部品の製造方法である。
【0011】
本発明の態様2は、
前記中間部品の長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、断面視で、前記鋼部品の長手方向に垂直な断面における段差部の線長の1.00倍超、1.10倍以下の長さである、態様1に記載の鋼部品の製造方法である。
【0012】
本発明の態様3は、
前記鋼部品を構成する鋼板の引張強さが、980MPa以上である、態様1または2に記載の鋼部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、形状が複雑かつ高強度の鋼部品を、形状・寸法精度良く、容易に成形することのできる、鋼部品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋼部品の模式斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鋼部品の模式上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態において、長手方向に垂直な断面における段差部の線長を断面視したときの、該線長の両端を説明する模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る中間部品の模式斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る中間部品の、(a)長手方向に垂直な方向の模式断面図と、(b)模式上面図である。
【
図7】
図6の模式断面図における段差部の拡大図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る中間部品の段差部を適用する位置を例示する図である。
【
図9】実施例で対象とした鋼部品の模式上面図である。
【
図12】実施例における第1工程(ドロー成形)の成形手順を示す模式断面図であり、(a)が成形前、(b)が成形中、(c)が成形後である。
【
図13】実施例における第2工程(フォーム成形)の成形手順を示す模式断面図であり、(a)が成形前、(b)が成形中、(c)が成形後である。
【
図14】実施例で用いた鋼板の特性を示す図である。
【
図15】実施例で求めた応力分布図であり、(a)が比較例の結果、(b)が実施例の結果である。
【
図16】実施例で成形した中間部品の段差部の線長を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の1つの実施形態を、図面を示して説明するが、該実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明の技術的思想はかかる実施形態に示された形状に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態で対象とする鋼部品1を模式的に示した斜視図である。また
図2は、上記鋼部品1を模式的に示した上面図である。この
図1および
図2に示す通り、本実施形態で対象とする鋼部品1は、長手方向L1に湾曲した形状を有し、該長手方向に垂直な断面が、コの字型またはハット型であり、開口部2に向かって末広がり形状の段差部3を有している。また
図1および
図2で示された鋼部品1は、天板部4と縦壁部5A、5Bを有し、2つの縦壁部のうち、湾曲凹部側の縦壁部5Aは、段差部3とフランジ部6を有している。
図1においてWは、鋼部品1の幅方向を示している。
【0017】
上記鋼部品1を得るべく、金型で成形したときに、得られた鋼部品1の端部の位置が、
図2にて下向きの矢印で示す通り低下し、鋼部品1が湾曲凹部側に変形する、といった形状精度不良、具体的には「首振り」が生じる。この形状精度不良は、鋼部品に用いる鋼板の強度が高いほど生じやすい。本発明者は、上記首振りが発生する原因について調べた。特に、成形後の部品の応力分布を、成形条件を設定したシミュレーション解析で求めた。その結果、後述する実施例において
図15(a)として示す通り、長手方向の湾曲凹部側の縦壁部に形成された段差部近辺で、高い引張応力が生じていることがわかった。そこで、この段差部の引張応力に着目し、上記首振りを抑制すべく鋭意研究を行ったところ、段差部の形状を利用して成形工程を設計すれば、引張応力が生じる部分に圧縮応力を生じさせ、結果として成形後の残留応力を低減でき、かつ金型を使用して成形するにあたり、金型の据わり良く成形できることを見出した。
【0018】
具体的には、鋼部品の製造方法として、成形用材料を用い、まず、長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、前記鋼部品と比較したときに、上面視で前記鋼部品と同じであって、断面視で前記鋼部品よりも長い形状を有する、中間部品を一旦製造する第1工程と、前記中間部品を用い、湾曲凹部側の縦壁部が鋼部品と同じ形状の金型で成形して、前記中間部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状を、鋼部品の湾曲凹部側の縦壁部の形状に変形させる第2工程とを有するようにすればよいことを見出した。この様に本発明では、鋼部品の縦壁部に段差部を有し、長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、中間部品と鋼部品で比較したときに、上面視では同じであって、断面視では中間部品の方が鋼部品よりも長い。上記同じ線長とは、長さ・位置ともに同一の線であることをいう。これらの点で、本実施形態に係る鋼部品特許文献2および特許文献3とは異なる。
【0019】
本実施形態では、長手方向に垂直な断面における段差部の形状において、断面視したときに、段差部の線長の両端が鋼部品と中間部品で同一であって、段差部の線長が鋼部品よりも中間部品の方が長い。前記段差部の線長とは、段差部を構成する線長の一方の端から他方の端までをいい、例えば、後述する
図6に模式的に示すような段差部の場合、一つの凹状角部P1から他の凹状角部P2までをいう。または、例えば
図3に例示する通り凹状角部が曲率Rを有する場合、縦壁を形成する直線Aと断面線R1の接点を一方の端P11とし、縦壁(フランジ部)を形成する直線Bと断面線R2の接点を他方の端P21とし、これら一方の端P11から他方の端P21までをいう。本実施形態では、これら2つの端の間で線長の長さを変更すればよい。
【0020】
以下、本実施形態に係る鋼部品の製造方法について詳述する。
【0021】
(第1工程)
第1工程では、成形用材料を用い、長手方向に垂直な断面における段差部の線長が、前記鋼部品と比較したときに、上面視で前記鋼部品と同じであって、断面視で前記鋼部品よりも長い形状を有する、中間部品を製造する。
【0022】
本工程で製造する中間部品の模式的な斜視図を
図4、中間部品の長手方向に垂直な断面模式図を
図5(a)、中間部品の長手方向の上面模式図を
図5(b)に示す。
図4および
図5に示す点線は、第2工程で成形する鋼部品の形状を示す。
図5(b)に両矢印で示す通り、長手方向に垂直な断面における段差部の線長は、上面視したときに、中間部品と鋼部品で同じである。
図6は、
図5(a)の断面図を拡大した模式図である。
図6は、長手方向に垂直な断面における段差部の線長を断面視した図でもある。この
図6に示す通り、中間部品の段差部の線長L22を、鋼部品の段差部の線長L21よりも長くする。更に
図6に示す通り、段差部を構成する線長の両端部P1およびP2の位置は、鋼部品の段差部の線長の両端部P1およびP2と同位置である。
【0023】
中間部品の段差部の線長L22を上記形態とすることによって、第2工程で、鋼部品形状の金型で成形時に、上記断面における(中間部品の段差部の線長L22-鋼部品の段差部の線長L21)で表される余剰線長部分が、潰されて材料が長手方向に広がろうとするが、周囲の材料に阻まれて圧縮を受け、圧縮応力が発生する。その結果、第1工程の中間部品で生じる引張応力が、次工程の第2工程の成形で生じる圧縮応力で打ち消され、残留応力が低減されて、高い引張応力が原因で生じていた首振りが抑制されると考えられる。
【0024】
また、中間部品の段差部を構成する線長の両端部P1、P2を、鋼部品の段差部の線長の両端部P1、P2と一致させることによって、第2工程で中間部品に成形加工を施すときに、中間部品の段差部に、鋼部品の段差部の形状の金型を嵌め込み易く、結果として、確実に成形されて圧縮応力を付与することができる。
【0025】
前記中間部品の段差部を構成する線長は、鋼部品の段差部の線長に対して、比率が1.00超の長さであればよい。一方、鋼部品の金型を中間部品により容易に篏合させて、中間部品に確実に圧縮応力を付与する観点からは、上記比率を1.10以下とすることが好ましく、より好ましくは1.06以下である。
【0026】
中間部品の断面における段差部の形状は、好ましくは上記線長の比率を満たして、第2工程で、鋼部品の金型を容易に篏合できれば特に限定されない。
図7は、前記
図6の一部を拡大したものである。鋼部品の断面における段差部の形状が、例えば
図7の破線の通りである場合、中間部品の段差部の線長として余剰線長は、例えば次のようにして決定することができる。すなわち、端部P1を軸として、鋼部品の段差部の天井面A1と中間部品の段差部の天井面B1がなす角度をθ1としたとき、角度θ1を、例えば1度以上、10度以下の範囲で変更することが挙げられる。また、端部P2を軸として、鋼部品の段差部の縦壁面A2と中間部品の段差部の縦壁面B2がなす角度をθ2としたとき、角度θ2を、例えば1度以上、10度以下の範囲で変更することが挙げられる。角度θ2は、鋼部品の金型を容易に篏合させて良好に成形する観点から、底面と縦壁面B2がなす角度θ3が90度を超えない範囲とする。
【0027】
本実施形態の製造方法の説明に用いる
図4および
図5では、長手方向の全域にわたって、断面を上記形態とした例を挙げているが、これに限定されず、長手方向における一箇所または断続的な複数箇所において、断面を上記形態とすることができる。本発明によれば、長手方向において上記圧縮応力を付与したい箇所の断面を、上記形態とすることによって、該箇所に圧縮応力を部分的に付与できる。そのため、圧縮応力を付与したい任意の複数箇所で、上記断面の形態を変化させることができる。その点で、特許文献2および特許文献3よりも、圧縮応力の付与の自由度が高く、必要に応じた圧縮応力の付与を行うことができる。例えば、
図8に斜線部分として示す通り、所望の複数領域で断面形状を変化させて、圧縮応力を付与することができる。
【0028】
第1工程に供する成形用材料は、未加工の鋼板の他、対象部分以外の成形が施された中間製品であってもよい。
【0029】
第1工程では、上記中間部品を成形できればよく、成形方法については問わない。例えばプレス成形として、ドロー(絞り)成形、またはフォーム(曲げ)成形を行うことができる。上記中間部品は、長手方向に垂直な断面における段差部の形状が、前記鋼部品と比較したときに、上面視で前記鋼部品と同じ線長であって、断面視で前記鋼部品よりも長い線長を有する、金型を用いて成形することができる。
【0030】
第1工程として、例えばAピラーを得るにあたり、例えばドロー(絞り)成形を行う場合、冷間加工(常温)であって、プレス速度:実機で40~60SPM程度(解析の場合は、成形速度の影響がないため1000SPM)、ホルダー加圧:60~100tonの条件とすることができる。またドロー成形では、例えば後述する実施例に示す通り、ダイ、ポンチ、ホルダー(しわ押さえ)を備えた成形装置において、ダイとホルダーで鋼板縁部を挟み、縦壁部に張力を付与しながら成形を行うことが挙げられる。
【0031】
上記首振り等の寸法精度の低下は、鋼部品を構成する鋼板の引張強さが高いほど生じやすい。よって本発明の製造方法は、980MPa以上の引張強さを有する鋼板を原板として用いて成形する場合に、より効果を発揮させることができる。上記引張強さは、1180MPa以上であってもよい。引張強さが上昇しても、本実施形態に係る構成と作用効果に変更はないため、本実施形態の鋼部品の製造に用いる鋼板の引張強さの上限は特に限定されない。例えば、製造時に使用する金型の寿命等の観点から、引張強さの上限をおおよそ1800MPaとすることができる。上記鋼板として、例えば厚さが0.8mm以上、2.0mm以下のものを対象とすることができる。
【0032】
前記第1工程後であって、第2工程の前に、ピアス加工(打ち抜き穴加工)、外周トリム加工(せん断加工)等の加工を施す工程を設けてもよい。これらの加工とともに、またはこれらの加工の代わりに、本実施形態にて成形の対象となる段差部以外の部位、例えば前記
図1における縦壁部5Bを最終製品の形状とする加工を行ってから、第2加工を行ってもよい。
【0033】
(第2工程)
前記第1工程の後、中間部品を、段差部が最終製品と同じ形状の金型で成形して、前記段差部が最終製品と同じ形状の鋼部品を製造する。
【0034】
第2工程で、前記中間部品に対し、前記段差部が最終製品と同じ形状の金型で成形することによって、前述したように、成形後の部品の段差部に圧縮応力を生じさせることができ、結果として残留応力が減少して、首振りを抑制することができる。
【0035】
本実施形態に係る鋼部品は、最終成形品であってもよいし、前記段差部以外の箇所の成形を更に行うための中間成形品であってもよい。または後述の通り、最終成形品または中間成形品に、更に成形以外の加工を施したものであってもよい。前記鋼部品が、最終成形品である場合、金型として、前記段差部以外の箇所も最終成形品と同じ形状の金型を用いればよい。前記鋼部品が、前記中間成形品である場合、少なくとも段差部が最終成形品と同じ形状の金型を用いればよい。
【0036】
第2工程では、上記鋼部品を成形できればよく、成形方法については問わない。例えばプレス成形として、ドロー(絞り)成形、フォーム(曲げ)成形を行うことができる。
【0037】
第2工程として、例えばAピラーを得るにあたり、例えばフォーム(曲げ)成形を行う場合、冷間加工(常温)であって、プレス速度:実機で40~60SPM程度(解析の場合は、成形速度の影響がないため1000SPM)の条件とすることができる。
【0038】
本実施形態における製造方法は、前記第2工程の後、前記中間成形品に対し、更に、前記段差部以外の箇所の成形を行う工程を設けてもよい。また、必要に応じて、前記最終成形品または前記中間成形品に対し、ピアス加工(打ち抜き穴加工)、外周トリム加工(せん断加工)等の成形以外の加工を施す工程を設けてもよい。
【0039】
上記例示した図面では、縦壁部5Aに段差部を1つ有する部品について説明したが、上記段差部は、1段であっても、2段以上の多段であってもよい。また、縦壁部5Aと縦壁部5Bの両方に段差部を有する部品であって、縦壁部5Aに設けられた段差部を本実施形態の通り成形してもよい。
【0040】
(適用部品)
本実施形態に係る鋼部品として、例えば、天板部と縦壁を有し、長手方向に湾曲し、少なくとも湾曲凹部側の縦壁部に段差部を有している形状部品、具体的に、車体構造部品に用いられるプレス成形品、例えばAピラー、フロントピラー等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
[実施例1]
実施例1では、鋼部品として、
図9に模式的に示すAピラーの製造を対象として、CAEによるシミュレーション解析を行った。上記
図9におけるA-A線の断面図が
図10である。
図10は、長手方向に垂直な断面における段差部の線長を、断面視した図でもある。
図9および
図10に示す通り、対象とする鋼部品は、長手方向に沿って幅方向に湾曲し、天板部4及びフランジ部6を有し、湾曲凹部側の縦壁部5Aに段差部3を有している。
【0043】
本実施例におけるシミュレーション解析では、
図11に示す工程の通りとした。本実施例では、第1工程としてドロー成形、第2工程としてフォーム成形を行うようにした。
図11において「trim1」では外周トリム加工(せん断加工)を行うことを意味している。また「SB1」と「SB2」は、本シミュレーション解析における、成形後のスプリングバックの計算工程を意味している。
【0044】
本実施例1として、第1工程で、
図12に示す模式断面図の通り、未加工の鋼板を、(a)→(b)→(c)の通りドロー成形を行って中間部品を得た。詳細には、(a)成形前において、ダイ11とホルダー12の間に鋼板13をセットし、(b)成形中および(c)成型後に示す通り、ダイ11とホルダー12で鋼板13の端部を挟んだ状態で、下部からのパンチ14で成形して、中間部品15を得た。上記ダイ11における段差部の形状とパンチ14の段差部の形状、すなわち
図12(a)の楕円点線部分の形状は、本発明で規定する通り、中間部品の段差部の線長を鋼部品の線長よりも長い、すなわち余剰線長を設けた形状とした。この本実施例1では、鋼部品の段差部の線長に対する比率を1.05とした。また比較例として、上記ダイ11における段差部の形状とパンチ14の段差部の形状が最終製品と同じ金型で成形したものも用意した。
【0045】
上記第1工程後に、第2工程で、
図13に示す模式断面図の通り、上記
図12の成形で得られた中間部品を用い、(a)→(b)→(c)の通りフォーム成形を行って鋼部品を得た。なお
図13において、成形時に中間部品を上方から押さえるダイのうちの一方は、
図13(a)のダイ16であり、他方のダイは中間部品の段差部から離れた位置にあり、図示していない。成形は、詳細には(a)成形前において、中間部品15の上方からパッド17で押さえ、(b)成形中および(c)成形後に示す通り、中間部品15の上方のダイ16と中間部品の下方のパンチ18で成形し、鋼部品19を得た。
【0046】
シミュレーション解析では、使用材料として、
図14に示す真ひずみと真応力の関係を示す、引張強さが1552MPaの鋼板を用いることとし、下記の解析条件および成形条件で、前述の
図11に示す工程順に加工を行うシミュレーション解析を実施した。シミュレーション解析における解析条件、上記以外の成形条件は、以下の通りとした。
【0047】
(1)解析条件
要素タイプ:完全積分(elform=16) ねじれ剛性付加(IHQ=8)
積分点数:5点
摩擦係数:0.12
要素サイズ:2mm×2mm
板厚:1.4mm
使用材料:CR1470MS(降伏点YP:1311MPa、引張強さTS:1552MPa、伸びEL:8.4%)
使用ソフト:株式会社JSOL社製 JSTAMP(登録商標)/NV 2.15
ソルバー:株式会社JSOL社製 LS-DYNA(登録商標)R9.2.0倍精度 mpp
【0048】
(2)成形条件
1工程目(DRAW)
最大速度:1000mm/sec
成形圧:1000ton
BHF:70ton(決め押し有)
2工程目(PAD付きFORM)
最大速度:1000mm/sec
成形圧:600ton
BHF:30ton(決め押し有)
鋼板温度:常温
【0049】
上記条件でシミュレーション解析を行った結果として、前記
図9の点線楕円部分の応力を測定した結果を、
図15に示す。
図15(a)は比較例の結果であり、
図15(b)は本発明例1の結果である。この
図15の結果から、本発明によれば、段差部の引張応力を示す色調が薄くなっており、第1工程の成形で生じた引張応力が、第2工程の成形により生じた圧縮応力で打ち消されて、引張応力が低減されたことがわかる。また、本発明例1と比較例の鋼部品の首振りの程度として、前記
図9の矢印で示す部分の、第2工程で使用した金型の位置、すなわち鋼部品の金型の端部からの変位を求めた。前記
図9の矢印位置から上方向がプラス、下方向がマイナスで示される。その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
本発明に係る工程を経て鋼部品を製造することで、高強度であっても、首振りが低減されて形状精度の向上した鋼部品が得られることがわかる。
【0052】
[実施例2]
中間部品の段差部の線長を変更して、首振りの程度を確認した。中間部品の段差部の線長を、
図16および下記表2に示す通りとした以外は、上記本発明例1と同様にしてシミュレーション解析を行った。
図16において、L31は本発明例1の線長、L32は本発明例2の線長、L33は本発明例3の線長を示す。また
図16において、点線楕円部分の拡大図を
図16下方に示す。該拡大図に示す通り、本発明例1の線長L31の角度を、前記
図7に例示のθ1としたときに、本発明例2では、角度(θ1-3度)となるように直線を描いてから線長L32を形成し、本発明例3では、角度(θ1+3度)となるように直線を描いてから線長L33を形成した。上記シミュレーション解析の結果を、下記表2に示す。
【0053】
【0054】
表2から、本発明例2と本発明例3のいずれの本発明例においても、本発明例1と同様に、比較例よりも十分に首振りが抑えられることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼部品
2 開口部
3 段差部
4 天板部
5A 湾曲凸部側の縦壁部
5B 湾曲凹部側の縦壁部
6 フランジ部
L21 鋼部品の段差部の線長
L22、L31、L32、L33 中間部品の段差部の線長
P1、P2、P11、P21 段差部を構成する線長の端部
R1、R2 断面線
11 ドロー成形用ダイ
12 ドロー成形用ホルダー
13 鋼板
14 ドロー成形用パンチ
15 中間部品
16 フォーム成形用ダイ
17 フォーム成形用パッド
18 フォーム成形用パンチ