IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図1
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図2
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図3
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図4
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図5
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図6
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図7
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図8
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図9
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図10
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図11
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図12
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図13
  • 特許-気水分離設備、および原子炉 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】気水分離設備、および原子炉
(51)【国際特許分類】
   G21C 15/16 20060101AFI20240305BHJP
   G21C 15/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G21C15/16
G21C15/02 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020204296
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091452
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 健一
【審査官】大谷 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117917(JP,A)
【文献】特開2012-058113(JP,A)
【文献】特開平08-179077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/16
G21C 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気水分離機構を鉛直方向に複数有する気水分離器を原子炉中央部から外周部にかけて原子炉の圧力容器内に複数配置した気水分離設備であって、
前記気水分離器は、1段目の気水分離機構がシュラウドヘッドに接続されたスタンドパイプ、前記スタンドパイプに接続されたディフューザ、前記ディフューザ内に固定されたひねり羽根を有するスワラー、前記ディフューザに接続された第1段内筒、前記第1段内筒の外側に排出流路を介在して配置された第1段外筒、前記第1段外筒に設けられており前記第1段内筒から前記排出流路への流路としてギャップを形成する第1段ピックオフリング、により、2段目以降の気水分離機構が前段の前記第1段ピックオフリングあるいは第2段以降ピックオフリングに接続された第2段以降内筒、前記第2段以降内筒の外側に前記排出流路を介在して配置された第2段以降外筒、前記第2段以降外筒に設けられており前記第2段以降内筒から前記排出流路への流路としてギャップを形成する前記第2段以降ピックオフリングにより構成され、
前記原子炉の中央部に配置される前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、前記原子炉の最外周部に配置される前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向の高さ位置よりも低くした
ことを特徴とした気水分離設備。
【請求項2】
請求項1に記載の気水分離設備において、
前記中央部の前記気水分離器の前記スタンドパイプの長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記スタンドパイプの長さよりも短くした
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項3】
請求項2に記載の気水分離設備において、
前記気水分離器の下から第2段目以降の気水分離部の仕様を、すべての前記気水分離機構で同じとする
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項4】
請求項2に記載の気水分離設備において、
前記中央部に配置される前記気水分離器の最終の段の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、前記最外周部に配置される前記気水分離器の最終の段の気水分離部の鉛直方向位置と等しくした
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項5】
請求項1に記載の気水分離設備において、
前記中央部の前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒長さよりも短くした、あるいは
前記中央部の前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さよりも短くし、かつ前記中央部の前記気水分離器の前記第2段以降内筒および前記第2段以降外筒の長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第2段以降内筒および前記第2段以降外筒の長さよりも長くした
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項6】
請求項5に記載の気水分離設備において、
前記中央部の前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さよりも短くした場合に、前記気水分離器の下から第2段目以降の気水分離部の仕様を、すべての前記気水分離機構で同じとする
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項7】
請求項5に記載の気水分離設備において、
前記中央部の前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第1段内筒および前記第1段外筒の長さよりも短くし、かつ前記中央部の前記気水分離器の前記第2段以降内筒および前記第2段以降外筒の長さを、前記最外周部に配置される前記気水分離器の前記第2段以降内筒および前記第2段以降外筒の長さよりも長くした場合に、前記中央部に配置される前記気水分離器の最終の段の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、前記最外周部に配置される前記気水分離器の最終の段の気水分離部の鉛直方向位置と等しくした
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項8】
請求項1に記載の気水分離設備において、
前記気水分離設備における水面は、前記中央部が最も高く前記最外周部が最も低い凸状であり、
前記中央部から前記最外周部に向けて前記水面と前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部との距離が離れていく
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項9】
請求項1に記載の気水分離設備において、
前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が3段になっている
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項10】
請求項1に記載の気水分離設備において、
前記中央部から前記最外周部に向けて前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が高くなっていく
ことを特徴とする気水分離設備。
【請求項11】
請求項1に記載の気水分離設備を有することを特徴とする原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉で発生した蒸気から水を分離する気水分離器が複数体集合した気水分離設備、および原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の運転水位幅の上限を高くして運転水位幅の拡大が図れ、これにより運転性能を向上できる気水分離器の一例として、特許文献1には、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器の炉心上方に多数林立して設けられ、それぞれ上下多段式の気水分離用分離段および排水口を有する筒状の気水分離器であり、下部から数えて2段目の分離段の排水口の上方に、隣接する各気水分離器間の隙間を覆う液滴捕獲リングを設け、液滴捕獲リングは、網状材、多孔板、その他の通気性材料等によって構成する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-179077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力発電プラントでは、原子炉で発生させた蒸気を蒸気タービンへ供給して発電機を駆動する。その際、タービン翼部分でのエロ-ジョンやコロージョンの発生を防いで蒸気タービンの健全性を維持するために、蒸気に含まれる湿分を一定値以下にした後で蒸気を蒸気タービンに供給している。
【0005】
例えば、沸騰水型原子炉(以下、BWRという)や改良型沸騰水型原子炉(以下、ABWRという)では、原子炉で発生した蒸気を原子炉内の冷却材から分離する気水分離器と、分離された後の蒸気に含まれる液滴を除去する蒸気乾燥器と、で構成される2段階の気水分離システムが採用されている。
【0006】
このシステムにより、原子炉から蒸気タービンへ供給する蒸気の湿分を一定値以下に抑えている。その結果、蒸気タービンの翼部分でのエロージョンやコロージョンの発生を防ぎ、蒸気タービンの健全性を維持するようになっている。
【0007】
気水分離器は、複数の気水分離機構で構成されている。各々の気水分離機構は、例えば、シュラウドヘッドの上側に接続されたスタンドパイプと、このスタンドパイプの上側に接続されたディフューザと、このディフューザ内に固定されたスワラーと、ディフューザの上側に接続された第1段の内筒と、この第1段の内筒の外周側に配置された第1段の外筒と、この第1段の外筒の上端に設けられて第1段の内筒の上端との間にギャップを形成するピックオフリングと、を有している。
【0008】
また、第1段のピックオフリングの上側に接続された第2段の内筒と、この第2段の内筒の外周側に配置された第2段の外筒と、この第2段の外筒の上端に設けられて第2段の内筒の上端との間にギャップを形成する第2段のピックオフリングと、を有している。
【0009】
さらに、第2段のピックオフリングの上側に接続された第3段の内筒と、この第3段の内筒の外周側に配置された第3段の外筒と、この第3段の外筒の上端に設けられて第3段の内筒の上端との間にギャップを形成する第3段のピックオフリングと、を有している。
【0010】
すなわち、例えば、内筒、外筒、およびピックオフリングで構成された気水分離機構を3段有している。
【0011】
ここで、炉心で発生した蒸気と水との気液二相流は、上部プレナムを経由して各気水分離機構のスタンドパイプに流入する。そして、ディフューザ内のスワラーで旋回力が付与され、各段の内筒内で気液二相流の流動状態が旋回流(環状流)となる。そして、密度差による遠心力の違いにより、水が径方向外側に押し出されて、壁面に液膜流を形成し、各段のピックオフリングで蒸気流と液膜流とに分離される。
【0012】
すなわち、液膜流は、各段の内筒とピックオフリングの間に形成されたギャップを経由して各段の内筒と外筒の間に形成された排出流路に流出し、その後、原子炉圧力容器とシュラウドの間のダウンカンマに排出される。
【0013】
蒸気流は、第1段~第3段のピックオフリングを通過し、湿り蒸気プレナムを経由して蒸気乾燥器に供給されるようになっている。
【0014】
気水分離器の気液分離性能は、キャリーオーバーで評価される。キャリーオーバーは、気水分離器出口から排出される分離液の蒸気に対する重量比を表わし、その比が大きければそれだけ湿った蒸気が蒸気乾燥器に導かれることになる。
【0015】
気水分離器に導入された気液二相流の分離が不十分な場合、液の一部が液滴状になって蒸気に混入したまま気水分離器出口から排出されるので、蒸気乾燥器で湿分が充分に除湿されなかった場合には、タービン翼を損傷する恐れがある。つまり、気水分離器の性能としては、キャリーオーバーが小さいもの程優れている。
【0016】
気水分離器へ流入する気液二相流のクオリティ(気液二相流中の蒸気の重量比)とキャリーオーバーとの関係の一例を図1に示す。この図1に示すように、キャリーオーバーは、外部水位が低い方が広範囲のクオリティ条件に対して、設計基準を満たす特性がある。これは、第1段排水流路出口に作用する水頭が小さくなるため、第1段ピックオフリングで排水される水が多くなり、それにより、気水分離器上部から排出される水の量が減少するためである。
【0017】
気水分離器のもう一つの気水分離性能は、キャリーアンダーで評価される。気水分離器の液排出流路から排出される水は一定量の蒸気が含まれており、その蒸気の分離液に対する重量比をキャリーアンダーという。
【0018】
キャリーアンダーが大きければそれだけ蒸気が分離液とともにシュラウドヘッドに沿ってダウンカマに流れ込み、強制循環炉であれば冷却材を循環させるインターナルポンプ(ABWRの場合)あるいはジェットポンプ(BWRの場合)にキャビテーションを生じさせる恐れがある。また、自然循環炉においてはダウンカマの冷却材密度が小さくなることにより、自然循環流量が低下する恐れがある。そのため、気水分離器に要求される性能として、キャリーアンダーは規定値以下となることが要求されている。
【0019】
気水分離器へ流入する気液二相流のクオリティとキャリーアンダーとの関係の一例を図2に示す。この図2に示すように、キャリーアンダーは、外部水位が高い方が広範囲のクオリティ条件に対して、設計基準を満たす特性がある。これは、第1段排水流路出口に作用する水頭が大きくなるため、第1段ピックオフリングで排水される水が減少するためである。
【0020】
したがって、気水分離器の気水分離特性からは、気水分離器入口でのクオリティが比較的大きい場合は外部水位を高くしてキャリーアンダーを小さくし、気水分離器入口でのクオリティが比較的小さい場合は外部水位を低くしてキャリーオーバーを抑制することが望ましい。
【0021】
例えば、従来のABWRでは約350体の気水分離器が原子炉の圧力容器内に配置されているが、気水分離器の仕様は炉心から出てきた気液二相流の平均クオリティに対して一律に決められている。
【0022】
しかし、炉心から出てくる気液二相流のクオリティは、炉心における各燃料集合体の熱出力の関係から外周部ほど減少する傾向にある。従って、その上方空間である上部プレナム内でクオリティは径方向に分布を持ち、気水分離器入口でも場所によってクオリティが異なる。
【0023】
特許文献1では、このようなクオリティ分布を考慮した気水分離設備として、気水分離設備内を半径方向に複数の領域に分割し、中心側の領域ほど気水分離器のスタンドパイプ長さを調節することで、最下部に開口する第1排水口の高さをシュラウドヘッドの上方に形成される水面傾斜と並行に配置することで、設備全体としての気水分離性能を向上させる気水分離設備としている。
【0024】
この特許文献1の気水分離設備では、中心側の領域ほど気水分離器のスタンドパイプ長さを調節することで、最下部に開口する第1排水口の高さをシュラウドヘッドの上方に形成される水面傾斜と並行に配置する構造としている。
【0025】
しかし、係る構造の気水分離設備では、中心側の領域の気水分離器の外部水位が相対的に低くなり、外周側の領域の気水分離器の外部水位が相対的に高くなる。
【0026】
また、今後国内で予定されている既設炉の出力向上やABWRよりさらに出力を増大した次世代原子炉、ポンプを用いない自然循環型沸騰水型原子炉においては、現行ABWRよりも気水分離器入口での気液二相流のクオリティが大きくなる可能性がある。
【0027】
このため、特許文献1の気水分離設備では、原子炉中央部での気水分離器入口でのクオリティが大きく、かつ、外部水位が相対的に低くなることから、キャリーアンダーが増加する恐れがある。同時に、原子炉外周部での気水分離器入口でのクオリティが小さく、かつ、外部水位が相対的に高くなることから、キャリーオーバーが増加する恐れがある。
【0028】
本発明の目的は、気水分離器全体として低キャリーオーバー・低キャリーアンダーを実現できる気水分離設備、および原子炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、気水分離機構を鉛直方向に複数有する気水分離器を原子炉中央部から外周部にかけて原子炉の圧力容器内に複数配置した気水分離設備であって、前記気水分離器は、1段目の気水分離機構がシュラウドヘッドに接続されたスタンドパイプ、前記スタンドパイプに接続されたディフューザ、前記ディフューザ内に固定されたひねり羽根を有するスワラー、前記ディフューザに接続された第1段内筒、前記第1段内筒の外側に排出流路を介在して配置された第1段外筒、前記第1段外筒に設けられており前記第1段内筒から前記排出流路への流路としてギャップを形成する第1段ピックオフリング、により、2段目以降の気水分離機構が前段の前記第1段ピックオフリングあるいは第2段以降ピックオフリングに接続された第2段以降内筒、前記第2段以降内筒の外側に前記排出流路を介在して配置された第2段以降外筒、前記第2段以降外筒に設けられており前記第2段以降内筒から前記排出流路への流路としてギャップを形成する前記第2段以降ピックオフリングにより構成され、前記原子炉の中央部に配置される前記気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、前記原子炉の最外周部に配置される気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向の高さ位置よりも低くしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、気水分離器全体として低キャリーオーバー・低キャリーアンダーを実現できる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】気液二相流のクオリティ、外部水位とキャリーオーバーとの関係を示す図。
図2】気液二相流のクオリティ、外部水位とキャリーアンダーとの関係を示す図。
図3】本発明の実施例1のABWRの構成を示す図。
図4】実施例1のABWRにおける気水分離器の構成を示す図。
図5】実施例1のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図6】実施例1のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図7】実施例1のABWRにおける気水分離設備の気水分離部の鉛直方向高さ位置の径方向の変化の一例を示す図。
図8】実施例1のABWRにおける気水分離設備の気水分離部の鉛直方向高さ位置の径方向の変化の他の一例を示す図。
図9】実施例1の変形例のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図10】実施例1の変形例のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図11】本発明の実施例2のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図12】実施例2のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図13】実施例2の変形例のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図。
図14】実施例2の変形例のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の気水分離設備、および原子炉の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0033】
<実施例1>
本発明の気水分離設備、および原子炉の実施例1について図3乃至図10を用いて説明する。図3は本実施例1のABWRの構成を示す図である。
【0034】
最初に、原子炉の全体構成について図3を用いて説明する。図3は、2段階の気水分離システムを備える原子炉100であるABWRの構成を示している。
【0035】
図3に示すように、ABWRは、熱を発生する炉心11、炉心11を取り囲むシュラウド12およびシュラウドヘッド13、シュラウドヘッド13に取り付けた複数の気水分離器10、その上方にある蒸気乾燥器14、圧力容器15内の冷却材を循環させるインターナルポンプ16を備えている。なお、図3に示すように、ABWRでは、シュラウドヘッド13により形成される上部プレナム21があり、また、炉内に水面20が図3に示すように存在する。
【0036】
ABWRでは、インターナルポンプ16によって炉心11に送り込まれた冷却水W1は、炉心11で加熱されて沸騰し、蒸気と水の気液二相流W2となる。この気液二相流は、気水分離器10で蒸気Sと水W3とに分離される。
【0037】
分離された蒸気Sには湿分が含まれているので、蒸気乾燥器14で湿分がさらに取り除かれ、クオリティが増した蒸気は、主蒸気配管17を通ってタービン(図示省略)に送られる。
【0038】
気水分離器10で分離された冷却水W3は、給水ノズル18から供給される給水と圧力容器15内で混合され、ダウンカマ19に流れ込み、インターナルポンプ16によって再循環する。
【0039】
このように、ABWRには原子炉で発生した蒸気を原子炉内の冷却材から分離する気水分離器10と、分離された後の蒸気に含まれる液滴を除去する蒸気乾燥器14と、で構成される2段階の気水分離システムを備えている。
【0040】
以下、図4を用いて気水分離システムのうち気水分離器の構成について説明する。図4は実施例1のABWRにおける気水分離器の構成を示す図である。
【0041】
ABWRにおける気水分離器10は、冷却材である軽水が原子炉の炉心で加熱され沸騰することにより生成される蒸気と水との気液二相流W2を、蒸気と水に分離するためのものである。
【0042】
気水分離器10は、図4に示すように、シュラウドヘッド13に接続されたスタンドパイプ1、スタンドパイプ1に接続されたディフューザ6、ディフューザ6内に固定したスワラー2、ディフューザ6に接続した内筒3、内筒3の外側に排出流路8を介在して配置された外筒4、外筒4に設けられて内筒3から排出流路8への流路としてギャップ7を形成するピックオフリング5により一段の気水分離機構が構成され、この気水分離機構がピックオフリング5の中央に配置した開口で連通された状態で、上方へ三段分構築されて成る。
【0043】
かかる構成による気液分離機能は次の通りである。即ち、上部プレナム21から各気水分離器10にスタンドパイプ1を通過して流入した気液二相流W2は、スワラー2により旋回力を与えられ、遠心分離作用により密度の大きい水W3が外側に押し出され、密度の小さい蒸気Sが中心に集まる。外側に押し出された水W3は、内筒3とピックオフリング5のギャップ7から内筒3と外筒4で形成された排出流路8を通って圧力容器内の冷却材である炉水24に戻される。
【0044】
かかる気水分離機構を気液二相流の流れ方向に沿って3段設けて一体の気水分離器を構成し、三段階にわたって気水分離機能を発揮する。
【0045】
ABWRの場合、そのような気水分離器が複数体集合して気水分離設備を構成し、シュラウドヘッド13上に設置されている。
【0046】
次いで、本実施例の気水分離設備の特徴的な構成について図5乃至図10を用いて説明する。図5は実施例1のABWRにおける気水分離設備のうち、原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図、図6は原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図である。図7および図8は実施例1のABWRにおける気水分離設備の気水分離部の鉛直方向高さ位置の径方向の変化の一例を示す図である。図9は実施例1の変形例の原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図、図10は原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図である。
【0047】
図5および図6に示すように、本実施例では、原子炉100の中央部に配置される気水分離器10の下から第1段目の気水分離部(ギャップ71)の鉛直方向高さ位置を、原子炉100の最外周部に配置される気水分離器10Aの下から第1段目の気水分離部(ギャップ71A)の鉛直方向の高さ位置よりも低くしている。
【0048】
このために、本実施例では、スタンドパイプ1,1Aを利用して、中央部の気水分離器10のスタンドパイプ1の長さを、最外周部に配置される気水分離器10Aのスタンドパイプ1Aの長さよりも短くしている。そのほかの気水分離機構である内筒31,31A、外筒41,41A、ギャップ71,71Aを形成するピックオフリング51,51Aは各々同じ仕様である。
【0049】
また、図5図6に示すように、気水分離器10の下から第2段目以降の気水分離部の仕様を、すべての気水分離機構で同じとしている。
【0050】
より具体的には、第2段目である、内筒32,32A、外筒42,42A、ギャップ72,72Aを形成するピックオフリング52,52Aは各々同じ仕様であり、第3段目である、内筒33,33A、外筒43,43A、ギャップ73,73Aを形成するピックオフリング53,53Aは各々同じ仕様である。
【0051】
ここで、図7に示すように、気水分離設備における水面20は、中央部が最も高く最外周部が最も低い凸状であり、中央部から最外周部に向けて水面20と気水分離器の下から第1段目の気水分離部との距離が離れていくことが望まれる。
【0052】
このために、原子炉100の径方向の気水分離部の高さ方向の分布は、図7に示すように、中央部から最外周部に向けて気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が高くなるように、例えば第1段目の気水分離部の高さ方向分布は、中心から径方向最外周部へ向かうほど線形に上昇させることができる。なお線形に上昇させる形態に限られず、2次関数などのようなn次関数状に上昇させることができる。
【0053】
また、図8に示すように、気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が3段階に分けられるものとすることができる。この場合、気水分離設備を原子炉100の上方側からみると、3周のリング状になる。これら3つのリングの面積比は特に限定されず、等しくても異なる割合でもよい。なお、3段階に分けられる場合に限られず、2段階や4段階以上に分けることができ、これらの場合における面積比も特に限定されない。
【0054】
なお、本実施例の気水分離設備の構成関係は図5図6に示す形態に限られない。以下、図9および図10を用いて説明する。
【0055】
図9および図10に示すように、本実施例においては、気水分離器の最終段で出口高さを揃えるように、原子炉外周部に配置される気水分離器の第2段分離部および第3段分離部の内筒および外筒の長さを中央部のそれらより短くすることも可能である。
【0056】
より具体的には、原子炉100の中央部に配置される気水分離器10Bのスタンドパイプ1Bの長さを、最外周部に配置される気水分離器10Cのスタンドパイプ1Cの長さよりも短くしたことで気水分離器10Bの下から第1段目の気水分離部(ギャップ71B)の鉛直方向高さ位置を、原子炉100の最外周部に配置される気水分離器10Cの下から第1段目の気水分離部(ギャップ71C)の鉛直方向の高さ位置よりも低くした点は図5図6と同じである。
【0057】
また、内筒31B,31C、外筒41B,41C、ギャップ71B,71Cを形成するピックオフリング51B,51Cは各々同じ仕様である。
【0058】
相違点は、図9および図10に示すように、図9に示すように中央部の気水分離器10Bの第2段落の内筒32Bおよび外筒42Bの長さを、図10に示すように最外周部に配置される気水分離器10Cの第2段落の内筒32Cおよび外筒42Cの長さよりも長くした。
【0059】
なお、この段では、まだ中央部に配置される気水分離器10Bの第2段目の気水分離部(ギャップ72B)の鉛直方向高さ位置は、最外周部に配置される気水分離器10Cの第2段目の気水分離部(ギャップ72C)の鉛直方向位置より低い位置にある。
【0060】
更に、気水分離器10Bの第3段落の内筒33Bおよび外筒43Bの長さを、気水分離器10Cの内筒33Cおよび外筒43Cの長さよりも長くして、中央部に配置される気水分離器10Bの最終の段の気水分離部を構成するギャップ73Bの鉛直方向高さ位置を、最外周部に配置される気水分離器10Cの最終の段の気水分離部を構成するギャップ73Cの鉛直方向位置と等しくしている。
【0061】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0062】
上述した本発明の実施例1の気水分離設備を有する原子炉100は、原子炉100の中央部に配置される気水分離器10,10Bの下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、原子炉100の最外周部に配置される気水分離器10A,10Cの下から第1段目の気水分離部の鉛直方向の高さ位置よりも低くしている。
【0063】
かかる構成により、相対的に気水分離器10,10A,10B,10C入口でのクオリティが低くなる原子炉外周部で外部水位を相対的に低くできることから従来の構成に比べてキャリーオーバーを抑制できるとともに、相対的に気水分離器入口でのクオリティが高くなる原子炉中央部で外部水位を相対的に高くできることからキャリーアンダーを従来の構成に比べて抑制できる。すなわち、気水分離器10,10A,10B,10C入口でのクオリティ分布に応じて、気水分離器10,10A,10B,10C外部水位を適正化でき、気水分離設備全体でのキャリーオーバーおよびキャリーアンダーを低く維持することができるので、原子炉100を有するプラントの信頼性向上に貢献できる。
【0064】
また、中央部の気水分離器10,10Bのスタンドパイプ1,1Bの長さを、最外周部に配置される気水分離器10A,10Cのスタンドパイプ1A,1Cの長さよりも短くしたため、簡易に上述したような本発明の特徴的な効果を得ることができる。
【0065】
更に、気水分離設備の第2段目や第3段目の高さ方向位置は気水分離性能にほぼ影響がないため、気水分離器10,10Aの下から第2段目以降の気水分離部の仕様を、すべての気水分離機構で同じとすることにより、気水分離器を構成する各部品を製造する際の手間を削減することができる。
【0066】
また、中央部に配置される気水分離器10Bの最終の段の気水分離部の鉛直方向高さ位置を、最外周部に配置される気水分離器10Cの最終の段の気水分離部の鉛直方向位置と等しくしたことで、原子炉圧力容器15の高さを過度に高くする必要がなくなり、原子炉圧力容器15の小型化を図ることができる。
【0067】
更に、気水分離設備における水面20は、中央部が最も高く最外周部が最も低い凸状であり、中央部から最外周部に向けて水面20と気水分離器の下から第1段目の気水分離部との距離が離れていくことで、気水分離設備全体でのキャリーオーバーおよびキャリーアンダーをより低く維持することができる。
【0068】
また、気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が3段になっていることにより、気水分離設備を製造する際に、3つの異なる仕様の気水分離器を製造すればよく、中央部から最外周部に向けて水面20と気水分離器の下から第1段目の気水分離部との距離が離れていく場合に比べて製造の手間を削減することができる。
【0069】
更に、中央部から最外周部に向けて気水分離器の下から第1段目の気水分離部の鉛直方向高さ位置が高くなることで、気水分離設備全体でのキャリーオーバーおよびキャリーアンダーをより低く維持することができる。
【0070】
<実施例2>
本発明の実施例2の気水分離設備、および原子炉について図11乃至図14を用いて説明する。図11は実施例2における原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図、図12は原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図、図13は実施例2の変形例おける原子炉中央部の気水分離器の動作原理を説明する図、図14は変形例における原子炉外周部の気水分離器の動作原理を説明する図である。
【0071】
図11および図12に示すように、本実施例では、中央部の気水分離器10Dの第1段目の内筒31Dおよび外筒41Dの長さを、最外周部に配置される気水分離器10Eの第1段目の内筒31Eおよび外筒41Eの長さよりも短くすることで、原子炉中央部に配置される気水分離器の下から第1段目の気水分離部(ギャップD)の高さ位置を、外周部に配置される気水分離器の下から第1段目の気水分離部(ギャップ71E)の高さ位置よりも低くなるように構成した。
【0072】
これに対し、そのほかの第1段目の構成、内筒31D,31E、外筒41D,41E、ギャップ71D,71Eを形成するピックオフリング51D,51Eは各々同じ仕様である。
【0073】
また、気水分離器10D,10Eの下から第2段目以降の気水分離部の仕様を、すべての気水分離機構で同じとした。
【0074】
具体的には、気水分離器10D,10Eは、シュラウドヘッド13に接続されたスタンドパイプ1D,1E、スタンドパイプ1D,1Eに接続されたディフューザ6、ディフューザ6内に固定されたひねり羽根を有するスワラー2も各々同じ仕様であり、同様に、第2段目の内筒32D,32E、外筒42D,42E、ギャップ72D,72Eを形成するピックオフリング52D,52Eや、第3段目の内筒33D,33E、外筒43D,43E、ギャップ73D,73Eを形成するピックオフリング53D,53Eは各々同じ仕様である。
【0075】
なお、本実施例の気水分離設備の構成関係は図11図12に示す形態に限られない。以下、図13および図14を用いて説明する。
【0076】
図13に示すように中央部の気水分離器10Fの内筒31Fおよび外筒41Fの長さを、図14に示すように最外周部に配置される気水分離器10Gの内筒31Gおよび外筒41Gの長さよりも短くした。このため、中央部に配置される気水分離器10Fの第1段目の気水分離部(ギャップ71F)の鉛直方向高さ位置は、最外周部に配置される気水分離器10Gの第1段目の気水分離部(ギャップ71G)の鉛直方向位置より低い位置にある。
【0077】
これに対し、図11および図12とは異なり、図9図10に示す形態と同様に、図13に示すように中央部の気水分離器10Fの第2段落の内筒32Fおよび外筒42Fの長さを、図14に示すように最外周部に配置される気水分離器10Gの第2段落の内筒32Gおよび外筒42Gの長さよりも長くした。
【0078】
これにより、中央部に配置される気水分離器10Fの第2段目の気水分離部(ギャップ72F)の鉛直方向高さ位置は、最外周部に配置される気水分離器10Gの第2段目の気水分離部(ギャップ72G)の鉛直方向位置より低い位置にある。
【0079】
更に、気水分離器10Fの第3段落の内筒33Fおよび外筒43Fの長さを、気水分離器10Gの内筒33Gおよび外筒43Gの長さよりも長くし、中央部に配置される気水分離器10Fの最終の段の気水分離部(ギャップ73F,ピックオフリング53F)の鉛直方向高さ位置を、最外周部に配置される気水分離器10Gの最終の段の気水分離部(ギャップ73G,ピックオフリング53G)の鉛直方向位置と等しくした。
【0080】
その他の構成・動作は前述した実施例1の気水分離設備、および原子炉と同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0081】
本発明の実施例2の原子炉の気水分離設備のように、中央部の気水分離器10D,10Fの内筒31D,31Fおよび外筒41D,41Fの長さを、最外周部に配置される気水分離器10E,10Gの内筒31E,31Gおよび外筒41E,41Gの長さよりも短くしたことによっても、前述した実施例1の気水分離設備、および原子炉とほぼ同様な効果が得られる。
【0082】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0083】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0084】
例えば、上述の実施例1,2では、改良型沸騰水型原子炉の場合について説明したが、気水分離設備を備えている他の様々な型の次世代原子炉に対しても本発明の気水分離設備を適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B,1C,1D,1E、1F,1G:スタンドパイプ
2:スワラー
3,31,31A,31B,31C,31D,31E,31F,31G,32,32A,32B,32C,32D,32E,32F,32G,33,33A,33B,33C,33D,33E,33F,33G:内筒
4,41,41A,41B,41C,41D,41E,41F,41G,42,42A,42B,42C,42D,42E,42F,42G,43,43A,43B,43C,43D,43E,43F,43G:外筒
5,51,51A,51B,51C,51D,51E,51F,51G,52,52A,52B,52C,52D,52E,52F,52G,53,53A,53B,53C,53D,53E,53F,53G:ピックオフリング
6:ディフューザ
7,71,71A,71B,71C,71D,71E,71F,71G,72,72A,72B,72C,72D,72E,72F,72G,73,73A,73B,73C,73D,73E,73F,73G:ギャップ(気水分離部)
8:排出流路
9:気水分離器出口
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G:気水分離器
11:炉心
12:シュラウド
13:シュラウドヘッド
14:蒸気乾燥器
15:圧力容器
16:インターナルポンプ
17:主蒸気配管
18:給水ノズル
19:ダウンカマ
20:水面
21:上部プレナム
24:炉水
100,100A,100B,100C,100D,100E、100F,100G:原子炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14