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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240305BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240305BHJP
   C07C 275/00 20060101ALI20240305BHJP
   C07C 273/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
C07C275/00
C07C273/02
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2020531736
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 IB2018060408
(87)【国際公開番号】W WO2019123354
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】17210463.0
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516208282
【氏名又は名称】サイペム エスピーアー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】パチ,ジュリオ
(72)【発明者】
【氏名】クアトロッキ,マラ
(72)【発明者】
【氏名】カルレッシ,リノ
(72)【発明者】
【氏名】セラフェロ,アルベルト
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-519165(JP,A)
【文献】特表2014-532811(JP,A)
【文献】特表2012-526259(JP,A)
【文献】特開2002-241838(JP,A)
【文献】特表2021-508785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
C07C 275/00
C07C 273/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素生産プラントにおけるおよび/または尿素生産プロセスにおける二相ステンレス鋼の使用であって、前記二ステンレス鋼が尿素環境中で、かつカルバミン酸アンモニウムを含む流体と接触して使用され、
前記二相ステンレス鋼が、重量パーセンテージ(%w)で、
C0.03以下
Si0.5以下
Mn2.5以下
Cr30.0超から35.0
Ni5.5から8.0
Co0.01から0.8
Mo2.0から2.5
W0.001超から2.5以下
N0.3から0.6
Cu0.001超から1.0以下
を含有し、
残部はFeおよび不純物であり、
前記二相ステンレス鋼が、Ni、Co、Moの組み合わせ含量を代表しかつ式(I)によって定められる組成パラメータ(Z)を有し、
Z=1.062(Ni+Co)+4.185Mo (I)
ここで、Ni、Co、MoはそれぞれNi、Co、Moの前記重量パーセンテージを示し、
前記組成パラメータ(Z)が14.95から19.80の範囲である、
使用。
【請求項2】
前記二相ステンレス鋼が次の1つ以上を有する、請求項1に記載の使用。
Ca0.0040以下
Mg0.0040以下
0.1以下の総量の1つ以上の希土類元素。
【請求項3】
前記二相ステンレス鋼が0.001~0.02%wのCを含有する、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記二相ステンレス鋼が30.5~35%wのCrを含有する、請求項1~3に記載の使用。
【請求項5】
前記二相ステンレス鋼が30.5~32%wのCrを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記二相ステンレス鋼が30.5~31.6%wのCrを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記二相ステンレス鋼が0.10~0.90%wのCuまたは0.10~0.40%wのCuを含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記二相ステンレス鋼が0.02~0.6%wのCoを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記二相ステンレス鋼が6.0~7.5%wのNiを含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記二相ステンレス鋼が0.5から2.5%wのマンガンを含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記二相ステンレス鋼が0.5から2.2%wのマンガンを含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記二相ステンレス鋼が0.02から1.0%wのタングステンを含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
前記二相ステンレス鋼が0.001から0.004%wのカルシウムを含有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記二相ステンレス鋼が0.001から0.004%wのマグネシウム(Mg)を含有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
前記二相ステンレス鋼が0.05%w以下の総量の1つ以上の希土類元素を含有する、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記二相ステンレス鋼が、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、およびそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の希土類元素を含有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記二相ステンレス鋼が0.025%w以下のリン(P)および/または0.005%w以下の硫黄(S)を不純物として含有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記二相ステンレス鋼が、15%wから95%wの範囲であるカルバミン酸アンモニウムの濃度を有するカルバミン酸アンモニウム溶液と接触する、請求項1~17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記二相ステンレス鋼が、185℃以上の温度においてカルバミン酸アンモニウム溶液と接触する、請求項1~18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
前記二相ステンレス鋼が、185℃以上の最大温度において、および/または150bar以上の最大圧力において、および/または範囲3.2~3.6のNH3/CO2モル比を有する環境において用いられる、請求項1~19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
尿素環境が無酸素条件下である、請求項1~20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記二相ステンレス鋼が尿素プラントの高圧セクションに用いられる、請求項1~21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記二相ステンレス鋼が、尿素生産プロセスまたはプラントにおけるアンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスを行う装置、設備、または器具に用いられる、請求項1~22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記二相ステンレス鋼が、尿素生産プロセスまたはプラントにおけるアンモニアストリッピングまたはセルフストリッピングのために構成された高圧ストリッパーに用いられる、請求項1~23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記二相ステンレス鋼が、前記二相ステンレス鋼の少なくとも表面の部分を被覆するジルコニウムまたはジルコニウム合金から作られた被覆層とカップリングされる、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記組成パラメータ(Z)が14.95から19.00の範囲である、請求項1~25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載の使用によって作られた高温で高濃度のカルバミン酸アンモニウムに曝露される少なくとも一部を含む、尿素生産プラントのまたは尿素生産プロセスに用いられる装置、設備、または器具。
【請求項28】
請求項27に記載の少なくとも1つの装置、設備、または器具を含む、尿素の生産のためのプラント。
【請求項29】
請求項27に記載の装置、設備、または器具によって行われる少なくとも1つのステップを含む、尿素の生産のためのプロセス。
【請求項30】
既存の尿素生産プラントを、請求項1~26のいずれか1項に記載の使用によって作られた一部によって前記プラントの装置、設備、または器具の少なくとも一部を置き換えることによって改良する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は2017年12月22日出願の欧州特許出願第17210463.0号からの優先権を主張し、これの開示は参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、高温および高圧でカルバミン酸アンモニアを含有する高度に腐食性の尿素環境における二相ステンレス鋼の使用に関する。
【0003】
それゆえに、本発明は、尿素プラント(すなわち、尿素の生産のためのプラント)における、特に、高温で濃縮されたカルバミン酸アンモニウムに暴露される装置、設備、または器具(またはその一部)における二相ステンレス鋼の使用にもまた関する。
【0004】
本発明は、尿素生産プラントのまたは尿素生産プロセスに用いられる装置、設備、または器具にもまた関し、腐食抵抗性二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を含む。
【0005】
本発明は、二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を有する少なくとも1つの装置、設備、または器具を含む尿素の生産のためのプラントおよびプロセスに、ならびに二相ステンレス鋼から作られた一部によってプラントの装置、設備、または器具の少なくとも一部を置き換えることによって既存の尿素生産プラントを改良する方法にもまた関する。
【背景技術】
【0006】
二相ステンレス鋼は、大体等しい割合のオーステナイトおよびフェライトの細粒からなる二相微細組織を特徴とするステンレス鋼のファミリーである。
【0007】
オーステナイト-フェライト組織は、このファミリーのステンレス鋼に、好都合な特性の組み合わせ、具体的には、良好な機械的強度および優れた腐食抵抗性を与える。
【0008】
しかしながら、普通に入手可能なグレードの二相ステンレス鋼は、一般的に良好な腐食抵抗性を見せる場合でさえも、非常に厳しい条件下における、例えば尿素生産プラントにおける、特に尿素プラントの高圧セクションにおける使用にとって好適ではない。
【0009】
それが公知である通り、尿素生産は、カルバミン酸アンモニウムを形成するための二酸化炭素およびアンモニアの高温高圧反応と、尿素および水を形成するためのカルバミン酸アンモニウムの爾後の脱水反応とに基づく。
【0010】
典型的な尿素生産プラント(尿素プラント)では、一般的に、これらのプロセスは高圧かつ高温で稼働する尿素合成反応器によって実行される。それから、合成反応器において生産された尿素水溶液は、1つ以上の回収セクションにおいて、例えば高圧セクション、中圧セクション、および低圧セクションにおいて、未変換の反応薬の回収をしながら漸進的に濃縮される。最後に、尿素は仕上げセクションにおいて固化され、これは通例では造粒機またはプリリングタワーを包含する。
【0011】
今日では、尿素の生産のための工業レベルプロセスおよびプラントは主としてストリッピングプロセスに基づく。反応器から出る合成溶液は高圧(実質的に、反応器の同じ圧力)における加熱に付され、カルバミン酸アンモニウムは液体相においてアンモニアおよび二酸化炭素へと分解する。アンモニアの一部は二酸化炭素と一緒になって液体相からガス相へと移る。ストリッパーから収集されたガス相は凝縮され、反応器へとリサイクルされる。
【0012】
いくつかの工業プロセスでは、アンモニアがストリッピング剤として用いられるか(アンモニアストリッピングプロセス)、またはストリッピングはいずれかのストリッピング剤なしで熱を供給することのみによって行われる(セルフストリッピングプロセス、またはサーマルストリッピングプロセス)。
【0013】
他の工業プロセス、例えばいわゆるCO2ストリッピングプロセスでは、ストリッピング剤は気体状の二酸化炭素である。
【0014】
アンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに従って稼働する尿素合成プラントでは、腐食抵抗性は必須の特徴である。
【0015】
具体的には、アンモニアストリッピングプロセスおよびセルフストリッピングプロセスは、基本的に尿素合成反応器および尿素ストリッパー(ならびに補助的な設備および器具)を含む高圧セクションを有し、ここでは、中間化合物のカルバミン酸アンモニウム溶液の存在が原因で、腐食抵抗性が最も重要である。
【0016】
事実、アンモニアストリッピングプロセスおよびセルフストリッピングプロセスは、好ましくは、185℃のまたはより高い最大温度において(より好ましくは190℃またはより高くにおいて、具体的には205℃またはより高くにおいて、好ましくは範囲205~215℃において)、150barのまたはより高い(好ましくは156barのまたはより高い、より好ましくは約160barのまたはより高い)最大圧力において、範囲3.2~3.6のNH3/CO2モル比(いわゆるN/C比)で行われる。
【0017】
例えば、かかる条件において稼働するすぐ上に記載されている型のストリッピングプロセスは、いわゆる「スナムプロゲッティ尿素テクノロジー」に用いられる。これは当業者には周知であり、世界的に広く用いられており、技術書および論文にたびたび引用されている。
【0018】
それゆえに、尿素プラントの、具体的には尿素ストリッパーなどの(だが、それのみではない)その高圧セクションの、少なくともいくつかの装置、設備、または器具は、特に高温(185℃~205℃以上)かつ高圧(150barまたはより高く)における熱くかつ濃縮されたカルバミン酸溶液の存在が原因で、高度に腐食性である処理条件下において稼働する。
【0019】
しかしながら、類似の問題は、同様に高圧セクションを有する他の種類の尿素生産プラントにもまた存在する。
【0020】
よって、尿素プラント(具体的には、アンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに従って稼働する尿素プラントだが、それのみではない)の高圧セクションは、通常は、金属表面をパッシベーションするためにある種の量の酸素の追加を(典型的には、酸素をもまた包含する不活性成分の流れの形態で)要求する(とりわけ、オーステナイト系ステンレス鋼から作られる場合だが、それのみではない)。しかしながら、高圧セクションにおける酸素の使用は潜在的に爆発性の混合物を作り出すリスクを増大させ得、よって、安全性の点で懸念がある。
【0021】
パッシベーションガス流の使用を縮減するためにおよび/または腐食抵抗性を改善するために、二相ステンレス鋼が尿素生産プラントにおける使用を提案されている。
【0022】
例えば、特許文献1は、尿素プラントのいくつかの設備を作るための、特定の二相ステンレス鋼、商標Safurex(登録商標)で販売されているいわゆるスーパー二相ステンレス鋼の使用を開示している。
【0023】
しかしながら、特許文献1のスーパー二相ステンレス鋼は、カルバミン酸環境において用いられるときには、アンモニアストリッピングまたはセルフストリッピングプロセスの普通の稼働温度などの(180~200℃よりも高い)非常に高温においては充分に有効ではないかもしれない。それゆえに、公知の二相ステンレス鋼の使用はCO2ストリッピングプロセスに限られる。
【0024】
特許文献2は、特にアンモニアストリッピングまたはセルフストリッピングプロセスに用いられるべきシェルアンドチューブ尿素ストリッパーを開示しており、ある種の二相ステンレス鋼から、つまりSafurex(登録商標)鋼29Cr-6.5Ni-2Mo-N(ASMEコード2295-3およびUNS-S32906)またはDP28W(商標)鋼27Cr-7.6Ni-1Mo-2.3W-N(ASMEコード2496-1およびUNS-S32808)から作られたチューブのバンドルを有する。
【0025】
特許文献3、特許文献4、および特許文献5もまた、高温かつ高圧条件下の尿素プラントにおける使用を一般的に提案される二相ステンレス鋼を開示している。
【0026】
上で引用されている全ての先行技術文献はコバルトを含有しない二相ステンレス鋼を開示しているということは了解され得る。
【0027】
特許文献6は、二相ステンレス鋼合金を開示しており、これはコバルトをもまた含有し、かつ高い強度、良好な腐食抵抗性、良好な加工性を示し、これは溶接可能である。提案されている合金はオイル&ガス工業の洋上および陸上セクターにおける使用を意図されているが、より厳しい腐食性の条件下における(例えば、尿素プラント/プロセスにおける)使用は言及されていない。
【0028】
よって、良好な腐食抵抗性を有しかつ尿素生産プラントにおける使用にもまた主張上は好適である二相ステンレス鋼が公知である場合でさえも、いずれかの尿素環境における、すなわちいずれかの種類の尿素生産プラント/プロセスにおける、特に、例えば(だが、それのみではない)アンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに用いられる高圧ストリッパー(150bar以上の圧力で稼働させられる)などの、非常に腐食性の流体(カルバミン酸アンモニウムを含有する)と接触しかつまた無酸素条件下で高温において稼働させられる装置における使用にとって好適である、他のより腐食抵抗性であり得る二相ステンレス鋼の必要が依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【文献】国際公開第95/00674号パンフレット
【文献】国際公開第2014/180761号パンフレット
【文献】国際公開第2017013180号パンフレット
【文献】国際公開第2017013181号パンフレット
【文献】国際公開第2017014632号パンフレット
【文献】国際公開第2006/049572号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
従って、先行技術について記載された前述の問題を克服することにとって好適な二相ステンレス鋼を提供することが本発明の目的である。
【0031】
具体的には、尿素環境において、すなわち濃縮されたカルバミン酸アンモニウム溶液などのカルバミン酸アンモニウムを含む流体と接触して、かつまた少なくとも185℃の、好ましくは少なくとも190℃の、より好ましくは205℃以上の温度において、無酸素条件下でさえも用いられるために特にかつ充分に好適である、二相ステンレス鋼を提供することが本発明の目的である。
【0032】
いずれかの尿素環境における、すなわちいずれかの種類の尿素生産プラント/プロセスにおける、特に、アンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに用いられ、それゆえに185℃のまたはより高い最大温度において(好ましくは190℃またはより高くにおいて、具体的には205℃またはより高くにおいて、好ましくは範囲205~215℃で)、および/または150barのまたはより高い(好ましくは156barのまたはより高い、より好ましくは約160barのまたはより高い)最大圧力において、および/または範囲3.2~3.6のNH3/CO2モル比(いわゆるN/C比)で稼働する装置(例えば高圧ストリッパー)における使用にとって好適である、腐食抵抗性二相ステンレス鋼を提供することもまた本発明の特定の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0033】
従って、本発明は、請求項1において定められている通り、尿素生産プラントにおけるおよび/または尿素生産プロセスにおける使用のための二相ステンレス鋼に関する。
【0034】
本発明は、請求項28において定められている通り、具体的には尿素生産プラントのまたは尿素生産プロセスに用いられる装置、設備、または器具にもまた関し、腐食抵抗性二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を含む。
【0035】
本発明は、それぞれ請求項29および30において定められている通り、二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を有する少なくとも1つのかかる装置、設備、または器具を含む尿素の生産のためのプラントおよびプロセスに、ならびに請求項31において定められている通り、既存の尿素生産プラントを、二相ステンレス鋼から作られた一部によって前記プラントの装置、設備、または器具の少なくとも一部を置き換えることによって改良する方法にもまた関する。
【0036】
本発明の有利な好ましい特徴は従属請求項の主題である。
【0037】
本発明の二相ステンレス鋼は特にNi、Co、およびMoの組み合わせを特徴とする。事実、特定の組成ルールに従って一緒に用いられるかかる3つの元素は、腐食抵抗性および他の好都合な材料特性に対する予測されない組み合わせ効果を有することが認識された。
【0038】
事実、各元素が特定の含量範囲で用いられ、かつ3つの元素の含量が最小値Zminから最大値Zmaxの範囲である組成パラメータZによって互いに連結される場合には、これらの3つの元素(Ni、Co、Mo)は(本発明の特定の組成を有する)二相ステンレス鋼の腐食抵抗性を有効に増大させることが見出された。
【0039】
具体的には、本発明の二相ステンレス鋼は、14.95から19.80の、好ましくは14.95から19.00の、より好ましくは14.95から18.00の、さらにはより好ましくは14.95から17.50の範囲である組成パラメータZを有する。
【0040】
組成パラメータZは、Ni、Co、Moの組み合わせ含量を代表しかつ式(I)によって定められるパラメータであり、
Z=1.062(Ni+Co)+4.185Mo (I)
ここで、Ni、Co、MoはそれぞれNi、Co、Moの重量パーセンテージを示す。
【0041】
本発明に従うと:
14.95≦Z≦19.80である。
【0042】
換言すると、本発明者は、パラメータZが上で定められている範囲に維持される場合には、すなわち構成要素Ni、Co、およびMoが式(II)を満たす量で用いられる場合には、本発明の特定の組成を有する二相ステンレス鋼が(具体的には尿素環境において)優れた腐食抵抗性をもまた見せるということを見出した。
min≦[1.062(Ni+Co)+4.185Mo]≦Zmax (II)
ここで、
Ni、Co、MoはそれぞれNi、Co、Moの重量パーセンテージを示し、
min=14.95、
max=19.80。
【0043】
実験的な試験は、本発明に従う、すなわち式(II)を満たす先に定められたNi、Co、およびMoの組み合わせ含量を有する二相ステンレス鋼が、高温/高圧においてかつ無酸素条件下でさえも、先行技術材料よりも有意に低い腐食速度を尿素環境(カルバミン酸アンモニウムを含有する)において有するということを確認している。
【0044】
かかる結果は先行技術の教示からは予測され得ない。
【0045】
事実、オーステナイト系鋼のニッケル(Ni)の含量は低酸素条件下では有害であることが(いくつかの科学論文によって報告されている通り)当分野において普通に認識されている。
【0046】
よって、二相ステンレス鋼の腐食抵抗性はニッケルの低い含量を利用しているということが普通に理解されている。
【0047】
反対に、ニッケルが特定のルールに従ってコバルト(Co)およびモリブデン(Mo)と関連づけられる場合には、本発明の発明者は、通常のオーステナイト系鋼よりも低いが最小閾値よりも高いある種の量のニッケルが、二相ステンレス鋼の腐食抵抗性に対する良好な影響を実際に有するということを認識した。
【0048】
特に、本発明の二相ステンレス鋼は、5.5%から8%の、好ましくは6.0%から7.5%の範囲であるニッケルの含量を有する(ここおよび下では、別様に規定されない場合には、全てのパーセンテージは鋼の総重量に対する重量パーセンテージとして意図される)。
【0049】
事実、ニッケルはオーステナイト形成元素であり、フェライトおよびオーステナイト相の間の平衡を維持するためには、ある種の量のニッケルが必要である。他方で、ニッケルは金属間析出に対する負の影響を有する。
【0050】
本発明に従うと、コバルトはニッケルと組み合わせて(かつニッケルの一部を置き換えて)用いられて、フェライトおよびオーステナイト相の間の要求されるバランスを得、腐食抵抗性を改善する。
【0051】
事実、本発明の発明者は、コバルトによってニッケルを置き換えることによって、ニッケルの含量が縮減され得るということに気づいた。これは、部分的な代替物として働き、驚くべきことに、本発明の特定の組成を有する二相ステンレス鋼の腐食抵抗性を改善するという追加の利点をもまた有する。
【0052】
事実、コバルトは(ニッケルと違って)金属間相の析出を縮減し、フェライトマトリックスを強化し、オーステナイト形成元素としての正の効果を有する。
【0053】
特に、本発明の二相ステンレス鋼は、0.01%から0.8%の、好ましくは0.01%から0.6%の、より好ましくは0.02から0.6%の、具体的には0.04%から0.6%の範囲のCoの含量を有する。
【0054】
本発明に従うと、ニッケルおよびコバルトの含量はモリブデンの含量にもまた連結される。
【0055】
モリブデンはフェライト形成元素であり、これは、とりわけ高レベルのクロムの存在下において(例えば、本発明の二相ステンレス鋼において)金属間相の析出を加速させる。よって、モリブデンの含量は最大閾値を超過すべきではない。
【0056】
他方で、とりわけカルバミン酸アンモニウムの存在下においてかつ無酸素条件下において、ある種の量のモリブデンはカルバミン酸アンモニウム腐食抵抗性および局所的な腐食抵抗性にとって有益である。
【0057】
特に、モリブデンは2%から2.5%の範囲である。好ましくは、Moの含量は2.0%から2.4%に、具体的には2.0%から2.3%に維持される。
【0058】
先に定められた本発明の特徴は、非常に腐食性の環境における、具体的には尿素プラント/プロセスにおける使用のための二相ステンレス鋼を設計するための方法をもまた提供する。
【0059】
具体的には、本発明はNi、Co、Moの有効な含量を選択するためのルールを提供する。
【0060】
例えば各個々の元素の予測される効果についての上の技術的考察を考慮に入れることによって、ひとたび3つの構成要素(Ni、Co、Mo)のうち2つの含量/量を選択したら、第3の構成要素の含量/量は本発明の関係を適用することによって算出される。
【0061】
Ni、Co、およびMoに加えて、本発明の二相ステンレス鋼はクロム(Cr)の比較的高い含量を有する。これは、カルバミン酸アンモニウム溶液環境における腐食抵抗性を増大させ、同時に、第3の相の析出なしの良好な微細組織と良好な熱間加工性とを許す。
【0062】
事実、クロムは腐食抵抗性に対する有益な効果を有し、尿素生産用途におけるより高いプロセス温度を許す。クロムは孔食および隙間などの他の型の腐食についてもまた有益である。他方で、高い量のクロムは金属間相の析出の可能性を増大させ、熱間加工性にとって有害である。よって、クロムの量は30%よりも高いが35%よりは低く、好ましくは30.5から35%の、より好ましくは30.5から33%の、さらにはより好ましくは30.5から32%の、具体的には30.5から31.6%の範囲である。
【0063】
本発明の二相ステンレス鋼は次の元素をもまた含有し得る。
炭素(C).炭素は一般的には機械的強度を改善する。しかしながら、本発明に従うと、カーバイドの析出を防止するために、炭素の高い含量は避けられる。よって、炭素の量は0.03%よりも高くはなく、好ましくは0.001%から0.03%、より好ましくは0.001%から0.02%である。
ケイ素(Si).ケイ素は、フェライト形成元素として、かつ製鉄所における脱酸のために、すなわち二相ステンレス鋼の製造プロセスに用いられる。金属間相の析出の可能性を縮減するために、ケイ素の高い量は避けられる。それゆえに、ケイ素の量は0.5%よりも高くはなく、好ましくは0.001%から0.5%である。
マンガン(Mn).マンガンは窒素(N)の可溶性を増大させるが、腐食抵抗性に対する負の影響をもまた有する。よって、マンガンの量は2.5%よりも高くはなく、好ましくは0.001%から2.5%、より好ましくは0.5%から2.2%、具体的には1.0%から2.2%である。
タングステン(W).タングステンはフェライト形成元素である。タングステンもまた一般的な腐食抵抗性を向上させる。具体的には、Cr、Mo、およびNと同じやり方で、Wもまた孔食および隙間抵抗性を増大させる。しかしながら、Wは金属間相の析出を加速させる。そのため、その含量は2.5%よりも下に、好ましくは0.001%から2.5%に、より好ましくは0.02%から1%に維持される。
窒素(N).窒素はオーステナイト形成元素である。窒素は、金属間相の析出を遅らせる微細組織安定性をもまた向上させ、金属マトリックスの強度を増大させる。窒素は孔食および隙間腐食抵抗性を増大させるためにもまた追加される。これらの理由から、少なくとも0.3%の窒素が用いられる。他方で、窒素のより高い含量は不良な熱間加工性に至るであろう。よって、N含量の最大値は0.6%である。それゆえに、Nの含量は0.3から0.6%の、好ましくは0.35%から0.6%の、具体的には0.4%から0.6%の範囲である。
銅(Cu).とりわけ比較的高い量のMoおよびWが存在するときには、銅は一般的には金属間析出キネティクスを引き下げる正の効果を有する。しかしながら、それはアンモニアとの錯イオンを形成し、腐食抵抗性を低下させるので、尿素生産用途については、銅は有害な元素である。よって、Cu含量は、最大で1%、好ましくは0.001%から1%、好ましくは0.001%から0.9%、より好ましくは0.001%から0.5%、さらにはより好ましくは0.10から0.45%、具体的には0.10から0.40%に限定される。
【0064】
本発明の二相ステンレス鋼はクロム(および窒素)の比較的高い含量を有するので、熱間加工性は負に影響され得る。本発明の二相ステンレス鋼の処理(具体的には、熱間成形)を容易化するために、次の元素の1つ以上が任意に追加される。
カルシウム(Ca):0.004%以下、好ましくは0.001%から0.004%、
マグネシウム(Mg):0.004%以下、好ましくは0.001%から0.004%、
1つ以上の希土類元素:0.1%以下、好ましくは0.05%以下(総量)。
【0065】
好ましくは、希土類元素はランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0066】
希土類元素(金属)は非常に高い脱酸および脱硫能を有し、介在物の平均サイズをもまた減少させる。粒界に偏析し得る不純物(例えば硫黄)と化合し、介在物の形状および組成を改変する能力に基づいて、それらは熱間加工性に対する有益な効果を有する。
【0067】
本発明の鋼組成はリン(P)および硫黄(S)などの避けられない不純物をもまた包含し得る。しかしながら、PおよびSの含量は可能な限り低く維持されるべきである。具体的には、高い量のSは熱間加工性にとって有害である。それゆえに、S含量は0.005%未満であるべきであり、P含量は0.025%未満であるべきである。典型的な量はSについては0.0005%未満、Pについては0.020%未満である。
【0068】
本発明に従う二相鋼(オーステナイト-フェライト系合金)のフェライト含量もまた腐食抵抗性にとっていくらかの重要性がある。よって、いくつかの実施形態に従うと、フェライト含量は、30体積%から70体積%の、好ましくは35から60%volの、より好ましくは40から60%volの範囲である。好適には、本発明の二相ステンレス鋼は、高圧(具体的には、150barのおよびより高い、好ましくは156barのおよびより高い、より好ましくは160barのおよびより高い最大圧力において)かつ高温(具体的には185℃およびより高く、好ましくは190℃およびより高く、より好ましくは205℃およびより高く)においてカルバミン酸アンモニウムに暴露されるときでさえも、かつ無酸素条件下においてさえも腐食抵抗性である。
【0069】
それゆえに、本発明は、非常に腐食性の条件における、例えば尿素環境における、すなわちカルバミン酸アンモニウムを含む流体と接触しての、また、185℃以上の温度における(さらには205℃以上における)かつさらには無酸素条件下での使用にとって充分に好適な、二相ステンレス鋼の改善された調合を提供する。
【0070】
具体的には、本発明の二相ステンレス鋼は、15%wから95%wの、具体的には50%wから95%wの範囲であるカルバミン酸アンモニウムの濃度を有するカルバミン酸アンモニウム溶液と接触しての、および/または185℃以上の、具体的には190℃以上の、具体的には205℃以上の温度における使用を意図される)。
【0071】
本発明の高度に腐食抵抗性の二相ステンレス鋼は、いずれかの尿素環境における、すなわち、いずれかの種類の尿素生産プラント/プロセスにおける、特に、高温(185℃、190℃だが、また、205℃およびより高く)において、カルバミン酸アンモニウムを含有する流体と接触して、また、無酸素条件下で稼働させられる装置、例えば、例えばアンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに用いられる高圧ストリッパー(だが、それのみではない)における使用にとって好適である。
【0072】
それゆえに、本発明の二相ステンレス鋼は、高温において濃縮されたカルバミン酸アンモニウムに暴露される製造設備および器具(またはそれらの一部)、例えば、熱交換器チューブおよび/または、もしくは例えば、ストリッパーのチューブの一部にとって、とりわけ有用である。
【0073】
本発明の二相ステンレス鋼は、カルバミン酸溶液中において(無酸素条件においてさえも)205℃のおよびより高い温度でもまた優れた腐食抵抗性を見せる。
【0074】
よって、本発明の材料は、具体的にはアンモニアストリッピングまたはセルフストリッピングプロセスの最もきつい条件を包含するいずれかの種類の尿素生産プラントに用いられるために好適である。
【0075】
それゆえに、本発明は、尿素生産プラントにおける、特に高温において濃縮されたカルバミン酸アンモニウムに暴露される装置、設備、または器具(またはその一部)における、本願において開示される二相ステンレス鋼の使用に関する。
【0076】
本発明は、具体的には尿素生産プラントのまたは尿素生産プロセスに用いられる装置、設備、または器具にもまた関し、本願において開示される腐食抵抗性二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を含む。
【0077】
本発明は、本願において開示される二相ステンレス鋼から作られた少なくとも一部を有する少なくとも1つの装置、設備、または器具を含む尿素の生産のためのプラントおよびプロセスに、ならびに、既存の尿素生産プラントを、本願において開示される二相ステンレス鋼から作られた一部によって前記プラントの装置、設備、または器具の少なくとも一部を置き換えることによって改良する方法にもまた関する。
【0078】
本発明の二相ステンレス鋼の特定の組成の結果として、先行技術と比べて、具体的には尿素プラントの高圧装置における使用のケースにおいて、次の追加の利点もまた達成される。
- 本発明の二相ステンレス鋼から作られた1個の設備(装置/器具またはその一部)の腐食速度は、先行技術材料から作られた1個の設備に対して劇的に減少する。
- パッシベーション空気の必要は劇的に縮減またはさらには排除される。
- 本発明の二相ステンレス鋼は高い機械的性質をもまた有するので、装置/器具の、具体的には高圧配管ループの厚さが縮減され、それゆえに高圧セクションの総重量およびコストの有意な縮減をもたらし得る。
- 腐食速度を増大させることなしに、ストリッパーの底の温度が増大させられ得る。
- 高圧設備について、材料仕様の点で異なる特徴および処方を有する異なる材料を用いることを避けることが可能である。
【0079】
特に厳しい稼働条件下においては、例えばアンモニアストリッピングプロセスまたはセルフストリッピングプロセスに用いられる高圧ストリッパーにおいては、本発明に従う二相ステンレス鋼の腐食抵抗性は、ジルコニウムまたはジルコニウム合金から作られた被覆層と鋼をカップリングすることによってさらに増大させられ得る。
【0080】
かかる種類のライニングにとって好適なジルコニウム材料は例えば英国特許出願公開第2157687号明細書、欧州特許出願公開第2310792号明細書、欧州特許出願公開第2427711号明細書に開示されている。よって、いくつかの実施形態では、本発明の二相ステンレス鋼には、二相ステンレス鋼の少なくとも表面の部分を被覆するジルコニウムまたはジルコニウム合金から作られた被覆層が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1図1は、本発明に従う二相ステンレス鋼の例示的なサンプルのおよびいくつかの参照サンプルの組成を報告する表(表1)を含有する。
図2図2は、表1のサンプルに対して行われた腐食抵抗性試験の結果を報告する表(表2)を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0082】
本発明に従う二相ステンレス鋼は、重量%(%w)で、
C最大0.03
Si最大0.5
Mn最大2.5
Cr30.0超から35.0
Ni5.5から8.0
Co0.01から0.8
Mo2.0から2.5
W最大2.5
N0.3から0.6
Cu最大1.0
を含有し、
Ca最大0.0040
Mg最大0.0040
1つ以上の希土類元素最大0.1
の1つ以上を有し、
残部はFeおよび不純物である(普通に理解される通り、不純物は、鋼の調合に意図的には追加されないが、しかしながら、二相ステンレス鋼を製造するために用いられる原材料中に含有されている小量で存在する全ての元素および化合物である)。
【0083】
本発明の二相ステンレス鋼は、さらに、Ni、Co、Moの含量が、
min≦[1.062(Ni+Co)+4.185Mo]≦Zmax (II)
のようであることを特徴とし、
ここで、
Ni、Co、MoはそれぞれNi、Co、Moの重量パーセンテージを示し、
min=14.95、
max=19.80である。
【0084】
換言すると、本発明の二相ステンレス鋼は、Ni、Co、Moの組み合わせ含量を代表しかつ式(I)によって定められる組成パラメータZを有し、
Z=1.062(Ni+Co)+4.185Mo (I)
ここで、Ni、Co、MoはそれぞれNi、Co、Moの重量パーセンテージを示し、
かつ、
14.95≦Z≦19.80である。
【0085】
好ましい実施形態では、本発明に従う二相ステンレス鋼は、重量%(%w)で、
C0.001から0.03
Si0.001から0.5
Mn0.001から2.5
Cr30.0超から35.0
Ni5.5から8.0
Co0.01から0.8
Mo2.0から2.5
W0.001から2.5
N0.3から0.6
Cu0.001から1.0
を含有し、
Ca最大0.0040
Mg最大0.0040
具体的にはLa、Ce、Pr、およびそれらの混合物からなる群から選択される最大0.1の総量の1つ以上の希土類元素、
の1つ以上を有し、
残部はFeおよび不純物であり、
かつ、Ni、Co、Moの含量は、
min≦[1.062(Ni+Co)+4.185Mo]≦Zmax (II)
のようであり、
ここで、
min=14.95、
max=19.80である。
【0086】
本発明に従うと、上で定められている組成パラメータZは、14.95から19.80の、好ましくは14.95から19.00の、より好ましくは14.95から18.00の、より好ましくは14.95から17.50の範囲である。
【実施例
【0087】
本発明に従う例示的な鋼組成は、重量パーセンテージで、
C:0.03%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:2.5%以下、
Cr:30.5%から35%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:0.02%から1.0%、
Co:0.01%から0.8%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:1%以下、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
0.05%以下の総量の1つ以上の希土類元素、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0088】
本発明の鋼の他の実施形態は、重量パーセンテージで、
C:0.001%から0.03%、
Si:0.001%から0.5%、
Mn:0.001%から2.5%、
Cr:30%超から35%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:0.4%から0.8%、
Co:0.01%から0.8%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:0.001%から1%、
次の1つ以上、
Ca:0.001%から0.004%、
Mg:0.001%から0.004%、
0.001%から0.1%の総量の1つ以上の希土類元素、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0089】
本発明に従う他の組成は、重量パーセンテージで、
C:0.001%から0.03%、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5%から2.2%、
Cr:30.5%から34%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:2.5%以下、
Co:0.01%から0.8%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:1%以下、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
0.05%以下の総量の1つ以上の希土類元素、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0090】
本発明に従う尚他の組成は、重量パーセンテージで、
C:0.02%以下、
Si:0.001%から0.5%、
Mn:2.5%以下、
Cr:30.5%から32%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:0.1%から1%、
Co:0.01%から0.8%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:0.15%から0.25%、
を含み、
次の1つ以上を有し、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
La、Ce、Pr、または他の希土類元素:0.05%以下、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
CRC=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0091】
本発明に従う他の組成は、重量パーセンテージで、
C:0.03%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:0.001%から2.2%、
Cr:31%から35%、
Ni:6%から7.5%、
Mo:2%から2.5%、
W:2.5%以下、
Co:0.01%から0.8%、
N:0.4%から0.6%、
Cu:0.9%以下、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
0.05%以下の総量の1つ以上の希土類元素、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0092】
本発明に従う他の例は、重量パーセンテージで、
C:0.03%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5%から2.2%、
Cr:30.5%から35%、
Ni:5.5%から6.5%、
Mo:2%から2.5%、
W:0.001%から2.5%、
Co:0.01%から0.6%、
N:0.35%から0.6%、
Cu:1%以下、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
La、Ce、Pr、またはそれらの組み合わせから選択される1つの希土類元素:0.05%以下、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0093】
例えば、本発明は、重量パーセンテージで、
C:0.03%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:2.2%以下、
Cr:31%から32%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:2.5%以下、
Co:0.02%から0.4%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:0.001%から1%、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
La、Ce、Pr、またはそれらの組み合わせから選択される1つの希土類元素:0.05%以下、
を含み、
残りがFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす、
元素鋼組成物に関する。
【0094】
本発明に従う他の例示する組成物は、重量パーセンテージで、
C:0.03%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:2%以下、
Cr:30.5%から33%、
Ni:5.5%から8%、
Mo:2%から2.5%、
W:0.2%から1%、
Co:0.02%から0.4%、
N:0.3%から0.6%、
Cu:1%以下、
次の1つ以上、
Ca:0.001%から0.004%、
Mg:0.001%から0.004%、
La、Ce、Pr、または他の希土類元素:0.001%から0.05%、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0095】
本発明に従うさらなる例の組成物は、重量パーセンテージで、
C:0.02%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5%から2.2%、
Cr:30.5%から34%、
Ni:5.5から8%、
Mo:2から2.5%、
W:0.02から1%、
Co:0.02から0.6%、
N:0.3から0.6%、
Cu:0.20%から0.9%、
次の1つ以上、
Ca:0.004%以下、
Mg:0.004%以下、
0.05%以下の総量の1つ以上の希土類元素、
を含み、
残りはFeおよび避けられない不純物であり、
Z=1.062*(Ni+Co)+4.185*Moが14.95から19.80であるという関係を満たす。
【0096】
具体的には、表1の組成を有する二相ステンレス鋼を調製し、試験した(表1では、いくつかの構成要素は示されていない。しかしながら、先に開示された量である)。
【0097】
サンプルは当分野において普通である通りに調製し、標準的な試験手続きに従って試験した。サンプルA1からA5は実験室で生産した材料を用いることによって調製し、サンプルB1は工業生産からの材料を用いることによって調製した。
【0098】
具体的には、腐食試験を高圧オートクレーブによってカルバミン酸アンモニウム溶液中において高圧かつ高温で行った(尿素プラントにおける、具体的には尿素ストリッパーのチューブにおける典型的な稼働条件を代表する条件)。
【0099】
具体的には、本発明の二相ステンレス鋼の腐食抵抗性を、通例では尿素プラントの高圧セクション尿素ストリッパーのチューブにおいて起こる最も悪い条件を模した組成を有する無酸素のカルバミン酸溶液中で、かつ208℃の温度で試験した。
【0100】
より詳細には、5リットルジルコニウムオートクレーブによって実施される浸漬試験によって、実験室溶製材の腐食挙動をチェックした。オートクレーブは充分なフィードおよび排出ラインならびにスターラーを備えた。試験溶液は尿素合成プロセスのものに類似の濃度で尿素、アンモニア、および水の混合物を含有した。実験の温度および圧力は、尿素ストリッパーにおいて測定される典型的な範囲の上限、それぞれ180~210℃および140~200barにセットした。試験を始める前に試験溶液を脱気して、系から酸素を排除した。これらの実験は酸素注入なしの尿素プラントのストリッパーにおける最も厳しい条件を模すように設計された。尿素プラントにおける現行の作業条件下では、低い量の酸素の存在とより攻撃的でない条件とが原因で、ステンレス鋼はより良好にさえも機能するであろうということに注意せよ。
【0101】
試験期間は13日および30日であった。試験片調製についてはASTM-G31(金属の実験室浸漬腐食試験のための標準的手法)規格の指示を踏襲し、腐食速度は重量法によって測定した。
【0102】
無酸素のカルバミン酸溶液中でのそれぞれ13日および30日の暴露後に、腐食速度(mm/年で表される)を算出することによって腐食抵抗性を評価した。
【0103】
結果は表2に示されている。
【0104】
結果は、本発明に従う二相ステンレス鋼から作られた、すなわち本発明の組成要件を(具体的にはNi、Co、Moの組み合わせ含量について)満たすサンプル(A1~A5、B1)が、比較サンプルRef1、Ref2、Ref3よりも有意に低い腐食速度、それゆえに良好な腐食抵抗性を有するということを確認している。
【0105】
事実、実験的な試験は、Zが要件:14.95≦Z≦19.80を満たすときに、腐食値は参照材料によって見せられるものよりも有意に低いということを確認している。
【0106】
実験セットアップ条件は相当により攻撃的であるので、腐食値は尿素プラントの作業条件においては有意に低くさえもあるであろう。
【0107】
最後に、本発明は上で言及された好ましい実施形態に関して開示されたが、添付の請求項の範囲から外れることなしに、多くの他の可能な改変および変形がなされ得るということは理解されるはずである。
図1
図2