(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】外科的移植のための生体組織を調製する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20240305BHJP
A61F 2/24 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61L27/36 100
A61L27/36 400
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2020573519
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2020053001
(87)【国際公開番号】W WO2020161243
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-11-29
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520512845
【氏名又は名称】ピープラスエフ プロダクツ プラス フィーチャーズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キス カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】アグレリ ギリェルミ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-505216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0001023(US,A1)
【文献】特表2015-512282(JP,A)
【文献】特表2007-536952(JP,A)
【文献】特表2002-531181(JP,A)
【文献】特表2013-521060(JP,A)
【文献】特表平4-503356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0095020(US,A1)
【文献】Heart Vessels,2004年,Vol.19,pp.89-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/00- 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を処理する方法であって、
(1)架橋剤で処理された生体組織に生理食塩溶液を含浸させる工程と、
(2)前記含浸された生体組織を、過酸化水素を含む水溶液と接触させる工程と、
(3)前記生体組織をPBS及びEDTAを含む水溶液と接触させる工程と、
(4)前記生体組織をグリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液と接触させる工程と、
(5)前記生体組織をグリセロール溶液と接触させる工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記生体組織を少なくとも70容量%の濃度内のエタノールと接触させる工程(3a)及び/又は工程(5a)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記架橋剤はグルタルアルデヒドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生体組織は、ウシ又はブタの心膜又は心臓弁である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生理食塩溶液は、0.9%の塩化ナトリウムを含む水溶液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(4)におけるグリセロール:エタノールの容量比は、1:5~5:1である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(3)及び工程(4)におけるEDTAは、0.01重量%~10.0重量%の濃度を有する、又は工程(2)における過酸化水素は、0.05容量%~5.0容量%の濃度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記生体組織を乾燥させる工程(6)と、前記生体組織をパッケージ中に入れる工程(7)と、前記パッケージを密封する工程(8)と、前記パッケージを滅菌する工程(9)とを更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生体組織を含むパッケージの滅菌は、前記パッケージをエチレンオキシドガスに曝露することによって実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(1)~前記工程(5)は10℃~25℃の温度で実施され、特に前記工程(6)及び前記工程(7)は、10℃~25℃の温度で実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の、特に請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(4)及び前記工程(5)は、撹拌しながら少なくとも60分間実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法に従って調製された生体組織を含む生体組織。
【請求項13】
外科的移植用の、請求項12に記載の生体組織。
【請求項14】
生体補綴物用の、請求項12に記載の生体組織。
【請求項15】
請求項12に記載の生体組織を含む経カテーテル心臓弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織を処理する方法及び該処理方法によって得られた生体組織、特に石灰化、バイオフィルムが心膜上に付着する危険性、及び処理による組織の強度低下を抑えるように生体組織を処理する方法に関する。本発明はまた、生体組織を含む生体補綴物及び経カテーテル心臓弁に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織は、心臓弁及び血管並びに経カテーテル心臓弁を補綴物に置き換えるために広く使用されている。これらの生体組織は、主成分としてコラーゲンを含む結合組織である。これらの組織の中で、ウシ心膜は最も広く使用されているものの1つである。心膜組織は、心臓への感染に対する天然の障壁を与え、周囲組織への癒着を防ぐ、心臓を取り囲む嚢状物である。心膜はまた、例えば、心臓の過度の拡張を防ぎ、心臓の正しい解剖学的位置を維持し、そして拡張期の間の左心室における圧容積比を調節することにより機械的役割を果たす。この組織の構造は、心膜に対する生理学的な条件及び補綴装置としての条件の両方における負荷下でのその挙動を決定する。
【0003】
しかしながら、屠殺場から取得された生体組織、特にブタ及びウシの死体は直ちに分解を始める。したがって、生体組織を臨床材料として活用可能にするためには、この変敗を食い止めねばならない。その目的は、材料の当初の構造的かつ機械的な完全性を長引かせ、これらの材料に起因する抗原特性を除去又は少なくとも中和することである。通常の方法はコラーゲン分子間に新たな追加の化学結合を生成することに専念している。これらの補助的な連結により組織が強化されて、組織の当初の形状を維持する丈夫で強力であるが生育不能な材料が得られる。このために、例えば、ウシ又はブタの心膜又は心臓弁等の生体組織を化学的に処理して、その機械的性能及び免疫原性を改善し、血栓形成性及び分解を減らし、無菌性を維持し、許容可能な貯蔵期間を延長する。
【0004】
したがって、手術前の最小限の調製で組織を医療関係者に容易に利用可能にする、移植に使用される生体組織を処理する方法を選択することは非常に重要である。これにより、過失の可能性が減少すると共に移植時間も短縮される。
【0005】
この文脈で、生体組織を種々の方法により処理する様々な研究が従来技術から知られている。この文脈で、以下の参考文献が参照される。
【0006】
特許文献1は、外科的移植に使用される生体組織、特に哺乳動物組織の調製又は貯蔵に関する。上記調製方法は、生体組織をグリセロール等の多価アルコール及びC1~C3アルコールを含む非水性処理溶液と接触させることと、溶液処理された生体組織から処理溶液の一部を除去することとを含む。哺乳動物の組織は、心膜、大動脈基部及び大動脈弁並びに肺根及び肺動脈弁、腱、靭帯、皮膚、硬膜及び腹膜からなる群より選択される。
【0007】
特許文献2では、動物由来の乾燥コラーゲン線維組織材料の調製方法であって、架橋剤で処理された動物由来のコラーゲン線維組織材料をすすぐ工程と、すすいだ組織材料を脱水のために非水性アルコール溶液中に浸漬させる工程と、非水性アルコール溶液で脱水された組織材料を勾配脱水のために種々の濃度勾配の糖類溶液中に逐次浸漬させる工程と、勾配脱水された組織材料を取り出して乾燥させる工程と、乾燥させた組織材料を密閉包装する工程と、滅菌する工程とを含む、方法が紹介された。
【0008】
特許文献3は、組織、特に心膜組織を調製する方法であって、哺乳動物生物から採取された組織切片を準備することと、組織切片の蒸留水での複数回のすすぎを行うことによって組織切片の浸透圧ショックを惹起することと、組織切片をイソプロピルアルコールで更にすすぐことと、組織切片をホルマリン溶液又はグルタルアルデヒド溶液の1つと接触させることとを含む、方法を記載している。
【0009】
特許文献4は、ウシ心膜材料を調製する方法並びにこうして調製された材料のヒト医学及び獣医学における移植片又はインプラントとしての使用を開示している。特に、上記文献は、心膜組織を湿式化学処理する工程と、心膜組織を乾燥させる工程と、心膜組織を滅菌する工程とを含む、ウシ心膜組織を処理する方法であって、上記湿式化学処理は、上記組織の表面から全ての付着した脂肪及び基底膜を除去することと、上記組織をアルカリ性水溶液と接触させることと、上記組織を、EDTA二ナトリウムを含む金属イオン錯化剤の溶液と接触させることと、上記組織を4.5~6.0のpHを有する水性緩衝液と接触させることと、水ですすぐこととを含む、方法を記載している。
【0010】
別のアプローチで、特許文献5は、生体材料を抗石灰化処理溶液と接触させることを含む生体材料を処理する方法であって、上記抗石灰化処理溶液が、高級アルコール溶液、ポリオール溶液及び極性非プロトン性有機溶剤溶液からなる群より選択される、方法を記載している。
【0011】
さらに、特許文献6は、乾式貯蔵のために組織成分を調製する方法であって、動物組織成分を準備することと、上記組織成分をグリセロール又はその誘導体等の寸法安定剤を含む水性処理溶液で処理することと、上記処理された組織成分を、液体を実質的に含まない容器内で貯蔵することとを含む、方法を開示している。
【0012】
したがって、上述のそれぞれの特許出願がなされ、臨床用途に使用される前に乾燥状態で貯蔵することができる生体補綴装置として使用することができる生体組織が開発された。しかしながら、上述の組織調製方法に関連する或る特定の不利点がある。例えば、移植に際し、生体組織、特にアルデヒド固定された組織は、変性石灰沈着物の形成を被りやすい。移植された組織におけるリン酸カルシウム無機塩類の沈着による生体軟組織の石灰化、特に病理学的石灰化は望ましくなく、石灰沈着物の沈着は装置性能に深刻な影響を与える可能性がある。インプラントの石灰化は、硬化、構造的不安定性、そして最終的には装置の機能不全につながる場合がある。
【0013】
したがって、特に心臓弁膜症では世界中で毎年数十万人を超える人々が弁置換手術を必要とするため、石灰化に耐性を有する生体組織を提供することは非常に重要である。
【0014】
臨床的に利用可能な生体補綴心臓弁の大部分は、ステントに取り付けられたグルタルアルデヒド固定されたウシ心膜組織から構成されている。グルタルアルデヒド固定は、組織内のコラーゲンを効果的に架橋し、生体補綴物の免疫原性及び血栓形成性を大幅に排除する。しかしながら、多くの生体補綴心臓弁は、組織の硬化及び引裂を引き起こす、弁の病理学的石灰化が原因で機能しなくなる。
【0015】
したがって、改善された有効性及び使用し易さを備えた新しい抗石灰化アプローチを提供することが望まれる。したがって、有害作用を伴わず、またその貯蔵の間に生体組織の機械的特性の改善をもたらす、外科的移植に使用される生体組織に抗石灰化特性を付与する効果的な方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国特許出願公開第2008/0102439号
【文献】米国特許出願公開第2018/0133365号
【文献】米国特許出願公開第2011/0300625号
【文献】米国特許第5413798号
【文献】国際公開第01/41828号
【文献】米国特許出願公開第2001/0023372号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このため、本発明の課題は、無菌の乾式貯蔵、すなわち液体保存溶液中に浸漬しない貯蔵に適した生体組織を調製する新たな方法を提供することである。本発明の更なる課題は、すぐに使用可能な形にできる限り近い形で生体組織を外科的移植のために利用可能にする新たな方法を提供することである。本発明の更なる課題は、生体組織の石灰化、バイオフィルムが心膜上に付着する危険性を減らし、生体組織を含む生体補綴物に機械的特性の改善をもたらす、生体組織を処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。本発明の具体的な実施の形態は、従属請求項に記載されている。
【0019】
これに関連して、本発明の第1の態様では、生体組織を処理する方法であって、
(1)架橋剤で処理された生体組織に生理食塩溶液を含浸させる工程と、
(2)含浸された生体組織を、過酸化水素を含む水溶液と接触させる工程と、
(3)生体組織をPBS及びEDTAを含む水溶液と接触させる工程と、
(4)生体組織をグリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液と接触させる工程と、
(5)生体組織をグリセロール溶液と接触させる工程と、
を含む、方法が提供される。
【0020】
一実施の形態では、上記方法は、生体組織を少なくとも70容量%の濃度内のエタノールと接触させる工程(3a)及び/又は工程(5a)を更に含む。
【0021】
好ましくは、特許請求の範囲に記載される方法により使用される架橋剤は、例えば0.1容量%~5.0容量%の範囲で選択される濃度を有するグルタルアルデヒドである。
【0022】
特許請求の範囲に記載される方法による生体組織は、ウシ又はブタの心膜又は心臓弁であることが好ましい。
【0023】
有利には、特許請求の範囲に記載される方法による生理食塩溶液は、0.9容量%の塩化ナトリウムを含む水溶液である。
【0024】
特許請求の範囲に記載される方法による工程(2)における過酸化水素の濃度は、0.05容量%~5.0容量%であることが好ましい。
【0025】
特許請求の範囲に記載される方法による工程(4)におけるグリセロール対エタノールの容量比は、1:5~5:1であることが好ましい。
【0026】
有利には、特許請求の範囲に記載される方法による工程(3)及び工程(4)におけるEDTAの濃度は、0.01重量%~10.0重量%である。
【0027】
上記方法は、生体組織を乾燥させる工程(6)と、生体組織をパッケージ中に入れる工程(7)と、パッケージを密封する工程(8)と、パッケージを滅菌する工程(9)とを更に含むことが更に好ましい。
【0028】
更に好ましくは、工程(1)から工程(9)は、連続的な様式で、すなわち、順次に又は逐次に実施される。
【0029】
好ましくは、特許請求の範囲に記載される方法による生体組織を含むパッケージの滅菌は、パッケージをエチレンオキシドガスに曝露することによって実施される。
【0030】
特許請求の範囲に記載される方法の工程(1)~工程(7)は、10℃~25℃の温度で、好ましくは15℃~25℃の温度で、より好ましくは18℃~22℃の温度で実施されることが更に好ましい。
【0031】
好ましくは、特許請求の範囲に記載される方法の工程(4)及び工程(5)は、撹拌しながら少なくとも60分間行われる。
【0032】
第2の態様では、本発明は、特許請求の範囲に記載される方法により得られた生体組織を含む生体組織に関する。
【0033】
第3の態様では、本発明は、特許請求の範囲に記載される方法により得られた生体組織の外科的移植のための使用、並びに上記生体組織の生体補綴物としての及び経カテーテル心臓弁における使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】実施例1-1~実施例1-3のウシ心膜試験試料の石灰化を示す図である。
【
図2】ウシ心膜の走査型電子顕微鏡画像(SEM)である:(a)及び(c)SBFなし、(b)及び(d)SBF溶液中で24時間浸漬。
【
図3】種々の調製工程のウシ心膜試験試料の引張強度を示す図である。
【
図4】乾燥させたウシ心膜試料の染剤を使用した組織学的評価の光学顕微鏡(Tucsen社のフルデジタルビデオHD Lite 1080p(video digital full HD Lite 1080p)を備えた株式会社ニコンのEclipse E-200)画像である。
【
図5】標準的なウシ心膜試料の染剤を使用した組織学的評価の光学顕微鏡(Tucsen社のフルデジタルビデオHD Lite 1080pを備えた株式会社ニコンのEclipse E-200)画像である。
【
図6】乾燥させたウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(200倍)である。
【
図7】乾燥させたウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(3000倍)である。
【
図8】乾燥させたウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(50000倍)である。
【
図9】乾燥させたウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(100000倍)である。
【
図10】標準的なウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(200倍)である。
【
図11】標準的なウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(3000倍)である。
【
図12】標準的なウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(50000倍)である。
【
図13】標準的なウシ心膜試料の走査型電子顕微鏡画像(100000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
第1の態様では、本発明は、生体組織を処理する方法に関する。好ましくは、上記方法は、そのような処理された組織を外科的移植のためにすぐに使用可能な形で含む生体組織を提供する。
【0036】
「生体組織」という用語は、本明細書では、一般に、処理済み又は未処理のコラーゲン含有の生体由来のヒト材料又は動物材料を指すために使用される。
【0037】
本発明では、架橋剤で処理された、特にブタ又はウシの心臓から取得された心膜又は心臓弁を動物生体組織材料として使用することが好ましい。天然のヒト心臓弁は、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、及び肺動脈弁として特定される。心膜組織又は心臓弁組織は、損傷した又は罹患した心臓弁を交換して、上述の天然起源の弁のいずれかと置き換えるために使用される。
【0038】
この点で、本発明の方法に従って作製された生体組織は、天然のヒト心臓弁によく似た機能を有する「生体補綴装置」又は「生体補綴物」の構築に使用され、ここで、生体補綴物は、しなやかな心臓弁の弁尖の天然の作用を模擬している。組織型心臓弁はまた、生きている患者の心臓の動的環境内で何年にもわたり機能するために、正確な基準及び許容性で製造せねばならないので、かなり製造が困難であり製造に時間がかかる。
【0039】
生体組織の主成分はコラーゲンである。コラーゲン分子は、非らせん状のカルボキシル末端及びアミノ末端で終わる三重らせん構成で配置された3本のポリアミノ酸鎖からなる。これらのコラーゲン分子は集合してミクロフィブリルを形成し、ミクロフィブリルは更に集合してフィブリルになり、コラーゲン線維がもたらされる。コラーゲン組織は宿主レシピエントに移植されると急速に分解するため、それを臨床用途に使用する場合には組織を安定化させる必要がある。組織固定としても知られる組織架橋による化学的安定化は、多岐にわたる化合物を使用して実現されている。
【0040】
最も典型的には、化学的固定には、コラーゲン分子上に存在する反応性アミノ酸側基と不可逆的かつ安定な分子内及び分子間化学結合を形成することができる2つ以上の反応性基を有する多官能性分子が使用されている。
【0041】
これらの多官能性分子の中で最も広く使用されているのは、線状脂肪族鎖の各両端にアルデヒドを有するグルタルアルデヒドである。グルタルアルデヒド及び他の同様の分子のアルデヒド基は、生理学的条件下でコラーゲン分子の第一級アミン基と反応して、材料を架橋させる。このように作製されたグルタルアルデヒド架橋された組織は、酵素分解に対する耐性が増加し、免疫原性が低下し、安定性が増加する。
【0042】
その広範な使用にもかかわらず、グルタルアルデヒドによる組織架橋に関連して或る特定の不利点がある。例えば、移植に際し、アルデヒド固定された組織は、変性石灰沈着物の形成、すなわち石灰化を被りやすい。石灰化は、移植された組織におけるリン酸カルシウム無機塩類の望ましくない沈着であり、生体補綴装置として使用されるグルタルアルデヒド固定された生体組織の機能不全の最も大きな要因である。
【0043】
本発明の一実施形態では、架橋剤で処理された生体組織に生理食塩溶液を含浸させることが利用された。
【0044】
本明細書で使用される場合に、架橋剤は、アミン反応性ホモ二官能性架橋剤として生化学的用途及び医学的用途で好ましく使用されるグルタルアルデヒドである。既に上述のように、グルタルアルデヒド処理は、細胞タンパク質及び細胞外マトリックスタンパク質において安定した架橋を生成し、それにより移植片の免疫原性はかなり低下した。しかしながら、そのような組織では、機械的特性、早期の機械的機能不全、細胞毒性、及び免疫学的認識の不完全な抑制が改変された。この他に、グルタルアルデヒド処理されたウシ心膜において深刻な石灰化が認められた。グルタルアルデヒド処理の新しく浮上してきた代替策が、本発明の方法による更なる処理、すなわち、生体組織の石灰化を低減させる方法である。
【0045】
本発明では、0.1容量%~5.0容量%、より好ましくは0.2容量%~3.0容量%、更に好ましくは0.3容量%~2.0容量%、特に好ましくは0.5容量%~1.0容量%の量で架橋剤を使用することが好ましい。
【0046】
この点で、第1の工程として、0.9%の塩化ナトリウム(1リットル当たり9.0g)を含む生理食塩水溶液を生体組織に含浸させる。そのような溶液は、通常、正常生理食塩水、生理的食塩水、又は等張生理食塩溶液とも呼ばれる。
【0047】
本発明の第2の工程では、含浸された生体組織を、過酸化水素を含む水溶液と接触させる。過酸化水素の濃度は、0.05容量%~5.0容量%、好ましくは0.1容量%~3.0容量%、より好ましくは0.2容量%~2.0容量%であることが好ましい。
【0048】
本発明の第3の工程では、生体組織をPBS及びEDTAを含む水溶液と接触させる。
【0049】
本明細書で使用される場合に、「接触する」という用語は、本発明の方法で使用される生体組織の処理、浸漬、曝露、すすぎを意味する。
【0050】
本明細書で使用される場合に、「PBS」という用語は、pH7.4を有し、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウムと、配合によっては塩化カリウム及びリン酸二水素カリウムとの水を基礎とする塩溶液を含むリン酸緩衝生理食塩水を指す。PBSは、人体のpH、浸透圧及びイオン濃度を密接に模倣しているため、細胞の洗浄、組織の輸送、及び希釈等の生物学的用途及び医学的用途で使用される。
【0051】
「水溶液」という用語は、最終生成物に影響を与え得る汚染物質を除去するために精製された物質又は化合物及び水を含む溶液を指す。好ましくは、本発明の方法では、蒸留水、再蒸留水又は脱イオン水が使用される。
【0052】
「EDTA」という用語は、本明細書では、特にFe2+/Fe3+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Zn2+等のような金属イオンを封鎖し、いわゆるEDTA錯体を形成してこれらの金属イオンを溶液から取り除くことができる錯化キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸を指すために使用される。
【0053】
本発明によれば、生体組織、特にウシ又はブタの心膜組織の無機化を阻止することが示されているカルシウムキレート剤を形成することによって、溶液からカルシウムイオンを除去することが特に重要である。EDTAは、リン酸カルシウム結晶から形成されるヒドロキシアパタイト結晶の外殻上のカルシウムイオンに結合し、それにより該結晶からカルシウムイオンをキレート化して取り除き、組織材料に収縮をもたらして、材料を脱塩することが示唆されている。
【0054】
したがって、EDTAによる生体組織の処理は、カルシウムが反応してヒドロキシアパタイトを形成する前にカルシウムを結合することによって、石灰化の進行を遅らせる。例えば生体補綴心臓弁として使用される生体組織の石灰化はインプラント機能不全の原因となる臨床的に重要な問題であるので、インプラントとして使用される生体組織中のカルシウムレベルを下げることは非常に重要である。したがって、本発明では、EDTA処理は、生体組織、特にウシ又はブタの心膜又は心臓弁におけるカルシウムレベルを、好ましくは20%、より好ましくは30%、更に好ましくは40%、特に好ましくは50%低下させることができる。さらに、脱塩及び人体との適合性を高めるために、EDTAをPBSと組み合わせて使用することが好ましい。
【0055】
さらに、本発明では、特に工程(3)及び工程(4)において、0.01重量%超、好ましくは0.05重量%超、より好ましくは0.10重量%超、また好ましくは0.15重量%超で、かつ10.0重量%未満、好ましくは8.0重量%未満、より好ましくは6.0重量%未満、また好ましくは5.0重量%未満、更に好ましくは3.0重量%未満の濃度を有するEDTAを使用することが好ましい。また更には、本発明では、EDTA二ナトリウムを使用することが好ましい。
【0056】
本発明の第4の工程において、生体組織を、グリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液と接触させ、第5の工程において、生体組織の石灰化を更に減らし、生体組織を脱水するために、生体組織をグリセロール溶液と接触させる。以下の工程は、本発明の方法におけるこれらの過程の実施を説明する。
【0057】
本発明の方法の工程(1)~工程(3)を通じて生体組織を処理した後に、これらの生体組織は、グリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液中で処理される。
【0058】
生体組織細胞内及びその周辺のリン脂質は、最も顕著な石灰化核形成部位であることが分かっている。したがって、無機化、特に石灰化を減らすために、これらの組織成分の除去が提案されてきた。様々な研究により、これらが効果的な石灰化防止戦略であることが示されている。このために、エタノール若しくはグリセロール又はエタノール及びグリセロールの混合物のような有機溶剤を同様に使用することができる。例えば、少なくとも70%のエタノール、好ましくは少なくとも80%のエタノール、より好ましくは少なくとも90%のエタノールでの処理は、組織からリン脂質を抽出すると同時に、コラゲナーゼに対する生体補綴物の耐性を増加させるコラーゲンコンフォメーションの変化も引き起こす。したがって、エタノール処理により、生体補綴物からほぼ全てのリン脂質及びコレステロールを抽出することができるため、生体組織細胞の石灰化が排除される。さらに、エタノール処理は、溶液からのリン脂質及びコレステロールの吸着も防止する。グリセロールが生体組織を固定する方法はまだ完全には理解されていないが、生体組織を処理することで、組織をより生体適合性にし、石灰化に対して耐性にするには、98%の濃度、好ましくは99%の濃度で十分である。
【0059】
この点で、本発明では、生体組織を、室温で、特に10℃~25℃の温度で、好ましくは15℃~25℃の温度で、より好ましくは18℃~22℃の温度で、少なくとも60分間、好ましくは少なくとも75分間、より好ましくは少なくとも90分間にわたり、500rpm以下、好ましくは300rpm以下、より好ましくは50rpm以下の撹拌をしながら、グリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液中で処理することが好ましい。この時間の間に、生体組織、特に心膜組織中に存在する水分子のほとんどがグリセロールに置き換わる。
【0060】
さらに、本発明では、グリセロール対エタノールの容量比が、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:4~4:1、また好ましくは1:3~3:1、更に好ましくは1:2~2:1であるグリセロール及びエタノールの混合物を使用することが好ましい。
【0061】
次いで、生体組織を溶液から取り出し、更なる脱水のために室温で、特に10℃~25℃の温度で、好ましくは15℃~25℃の温度で、より好ましくは18℃~22℃の温度で、少なくとも60分間、好ましくは少なくとも75分間、より好ましくは少なくとも90分間にわたり、500rpm以下、好ましくは300rpm以下、より好ましくは50rpm以下の撹拌をしながら、グリセロール中に置く。
【0062】
さらに、本発明では、生体組織を、少なくとも70容量%、好ましくは少なくとも80容量%、より好ましくは少なくとも90容量%の濃度を有するエタノールと接触又は該エタノールですすぐ追加の工程を使用することが好ましい。追加の工程、特に工程(3a)は、好ましくは、生体組織をグリセロール、エタノール及びEDTAを含む溶液と接触させる前に実施される。さらに、生体組織をグリセロールと接触させる工程の後で、かつ生体組織を乾燥させる工程の前に、生体組織をエタノールと接触させる別の追加の工程(5a)を実施することが好ましい。工程(3)又は工程(4)でのような濃度を有するエタノール及びEDTAの混合物を使用して、追加の工程(3a)及び/又は工程(5a)を実施することがまた更に好ましい。
【0063】
生体組織を溶液から取り出して、組織特性に悪影響を与えないように、室温及び室内湿度で周囲空気又は不活性環境、例えば窒素に曝す。好ましくは、乾燥はクリーンルーム内にて周囲条件で少なくとも12時間、好ましくは少なくとも16時間、また好ましくは少なくとも20時間行われる。更に好ましくは、乾燥は高効率粒子状空気(HEPA)フィルター下で、特にクリーンルーム内にてHEPA条件下で行われる。本明細書で使用される場合に、「周囲条件」という用語は、10℃超、好ましくは12℃超、より好ましくは14℃超、特に好ましくは18℃超で、かつ好ましくは25℃未満、より好ましくは23℃未満、更に好ましくは22℃未満の周囲温度を指す。さらに、本発明では、工程(1)~工程(7)のそれぞれを上記の周囲条件で実施することが好ましい。
【0064】
次いで、処理及び乾燥された生体組織を、後の外科的移植のために、実質的に液体を含まない容器又はパッケージ中に包装する。本明細書で使用される場合に、「実質的に液体を含まない」という用語は、水又は他の物質の存在が周囲空気中でそのような物質の含分にほぼ限定される非流体環境を意味する。
【0065】
1つの好ましい方法は、酸素のレベルを最小限にするためにパッケージに真空を適用することであり、窒素等の不活性ガスの再充填を更に利用することができる。そのような滅菌包装の方法は当業者に知られている。
【0066】
次いで、包装された処理済みの組織は、ガス滅菌法又は電離放射線への曝露によって滅菌することができる。滅菌後もチャンバーが滅菌状態を維持することを保証するために、パッケージ部材は細菌及び真菌等の微生物を通さない材料で形成される。組織又はそのような組織を含む生体補綴装置をチャンバー内に配置し、及び/又は滅菌した後に、チャンバーを密封する。
【0067】
電離放射線又は滅菌ガスへの曝露による滅菌、特にエチレンオキシドガスへの曝露による滅菌は当業者の技能の範囲内である。好ましい実施形態では、生体組織は、生体組織を滅菌ガス、特にエチレンオキシドガス(ETO)に曝露することによって滅菌される。ETO法による滅菌は、通常、37℃から55℃の間の温度、少なくとも10%のエチレンオキシドを含むガス混合物で、かつ少なくとも60分間実施される。
【0068】
得られる製品は、実質的に乾燥した形で存在する実質的に無菌で密封された移植可能な組織である。この製品は、様々な疾患又は状態の治療のためのヒト患者への外科的移植に特に適している。外科的移植の前に、生体組織をパッケージから取り出し、任意に、水溶液、好ましくは無菌水溶液への曝露によって組織成分を再水和する。該組織は、生理的食塩水等の無菌溶液中を複数回含浸させることによって再水和させることができる。組織内のグリセロール及びエタノールは、生理食塩水により容易に洗い出すことができる。
【0069】
記載された方法は、寸法安定性を有し、実質的に患者への外科的移植の準備ができている、すなわち、いわゆるすぐに使用可能な形である生体組織を提供する。
【0070】
本発明の方法に従って処理された生体組織は、典型的には、その当初の水和されたサイズの少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、更に好ましくは少なくとも99%のサイズにまで戻ることとなる。結果として、本発明の方法により得られた生体組織は、特に経カテーテル心臓弁において、移植可能な生体補綴装置として外科的移植にすぐに使用可能である。
【0071】
さらに、本発明では、生体組織として心膜又は心臓弁を使用することが好ましい。したがって、心膜組織又は心臓弁組織は、これらを外科的移植に使用する前に、本発明の方法に従って処理され得る。また更に、本発明では、動物組織、特にブタ又はウシの心臓から取得された心膜又は心臓弁を使用することが好ましい。好ましくは、認証された屠殺場から取得されたウシ心膜は、本発明の方法で使用する前に、洗浄、トリミング及びグルタルアルデヒドによる架橋の処置を受ける。
【0072】
本発明は更に、生体組織を含む生体補綴物及び経カテーテル心臓弁に関する。
【0073】
一実施形態では、本発明は、特許請求の範囲に記載される方法により得られた生体組織を含む生体組織に関する。
【0074】
別の実施形態では、本発明は、特許請求の範囲に記載される方法により得られた生体組織の外科的移植のための使用、並びに上記生体組織の生体補綴物としての及び経カテーテル心臓弁における使用に関する。
【0075】
本明細書で使用される場合に、「生体補綴物」という用語は、ヒトへの移植に使用されるべき、処理された生体組織に由来する装置を意味する。そのような装置の開発は、機械心臓弁の初期の開発に関連する幾つかの臨床的合併症を回避する試みとして始まり、それ以来、多岐にわたる用途に向けた生体補綴装置の急速な普及をもたらした。現在使用されている又は開発中の幾つかの生体補綴物の例としては、心臓弁、人工血管、バイオハイブリッド人工血管、代替靭帯、心膜パッチ等が含まれる。
【0076】
以下の実施例は、例示のみを目的とし、本明細書に添付される特許請求の範囲に規定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0077】
実施例1-1
ウシ心膜「sample 180702-1」(P+F Brasil社、EDQM認定)から選択された1×1cmの生体組織を含む40枚のメンブレンを、最初に0.625%のグルタルアルデヒド溶液(P+F GmbH社/Biocollagen)から取り出し、その後に冷えた0.9%の生理食塩溶液(JP Pharma社)中で3分間含浸させた。次いで、含浸された組織を0.5容量%の過酸化水素(Sigma-Aldrich社)中に18℃で60分間浸漬させた。次の工程として、該組織を、冷えた(10℃)PBS(pH7.4)及び0.5重量%のEDTAと3分間接触させた(Sigma-Aldrich社)。その後に、該組織を、激しく撹拌しながら22℃の温度で60秒間、99容量%のエタノール(Sigma-Aldrich社)中に浸漬させた後に、ゆっくりと撹拌しながら22℃の温度で60分間、グリセロール/エタノール(50/50)及び0.5重量%のEDTA(Sigma-Aldrich社)の混合物中に浸漬させた。さらに、該組織を、ゆっくりと撹拌しながら22℃の温度で120分間、99%のグリセロール(Sigma-Aldrich社)中に浸漬させた。次に、該組織を、激しく撹拌しながら22℃の温度で60秒間、99容量%の無水エタノール(Sigma-Aldrich社)及び0.5重量%のEDTAで含浸させた。最後に、該組織に、HEPAフィルターを通した空気を通気しながら18℃の温度で18時間、溶剤蒸発の処置を行う。次に、該組織を二重のタイベック製パウチに包み、Sterium社(Sterium Company)でETO滅菌(55℃、4時間のETO曝露)した。
【0078】
実施例1-2
ウシ心膜「sample 180702-2」から選択された1×1cmの生体組織を含む40枚のメンブレンを、実施例1-1に記載される手順に従って調製した。
【0079】
比較例1-3
ウシ心膜「sample 180803-1」から選択された1×1cmの生体組織を含む40枚のメンブレンを、0.625%のグルタルアルデヒド溶液(P+F GmbH社/Biocollagen)から取り出し、更に処理をせずに比較試料として使用した。
【0080】
実施例1-4
実施例1-1~実施例1-3からのウシ心膜メンブレン(試料の番号:180702-2及び180702-1は本発明によるものであり、180803-1は比較例である)を生理食塩溶液中で2分間含浸させた後に、表3に示されるようにヒト血漿と同様のイオン濃度を有する溶液である擬似体液(SBF)中に浸漬させ、同じ生理的条件のpH及び温度(pH7.4及び温度36.5℃)で維持した。浸漬時間は1日から30日の間で変化させた。
【0081】
CHDSと呼ばれる密閉フラスコ型伝導加熱システム(closed flask conductive heating system)中で、試料を温浸させた。1000mg・L-1のSpecsol(商標)標準溶液から0.0mg・L-1~20mg・L-1のCaを含むように検量線を作成した。
【0082】
表1及び
図1に示されるCaの測定は、連続線源としてXeのショートアークランプを備えたContrAA 300高分解能連続光源原子吸光分析装置(HR-CS FAAS)(Analytic Jena社、ドイツ、イエナ)で実施された(
図1では、Y軸での記号「,」は表1に従って点として読み取る必要があり、つまりは、値1000,00は1000又は1000.00と理解する必要がある)。
【0083】
走査型電子顕微鏡(SEM)は、ウシ心膜の試料(グルタルアルデヒド保存された180803-1)に対して電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)(JEOL社、モデル7500F)を使用して実施された:(a)及び(c)SBFなし、(b)及び(d)SBF溶液中に24時間浸漬(
図2を参照)。
【0084】
【0085】
実施例2-1
ウシ心膜(P+F Brasil社)から選択され、グルタルアルデヒド(Sigma-Aldrich社、0.625容量%)の存在下で固定された75単位の生体組織を、冷えた0.9%の生理食塩溶液(JP Farma社)中に置き、その後にpH7.4のPBS(Sigma-Aldrich社)及びEDTA(Sigma-Aldrich社、0.2重量%)を含む水溶液中に3分間置き、引き続きエタノール(Sigma-Aldrich社、70容量%)ですすいだ。次いで、含浸された組織を周囲温度で約1分間エタノール中に浸漬させた。次の工程として、該組織をグリセロール(Sigma-Aldrich社、99%)、エタノール及びEDTA溶液の混合物(70%のグリセロール、29.8%のエタノール及び0.2%のEDTA溶液)と周囲温度で少なくとも90分間接触させた。その後に、該組織を撹拌しながら少なくとも90分間グリセロール中に浸漬させ、引き続きエタノールですすいだ。次いで、該組織を溶液から慎重に取り出し、空気で乾燥させた。16時間の乾燥後に、該組織を再水和及び機械的安定性に関して調べた。
【0086】
ユニバーサル試験機(Oswaldo Filizzola社、モデルAME-2kN)を使用したひずみ-応力評価の下で、材料の機械的特性、特に引張強度を試験した。種々の調製工程のウシ心膜試験試料の引張強度が
図3に示されている。ここで、群1は標準的な心膜に対応し、群2は乾燥した心膜に対応し、群3は乾燥及び再水和した心膜に対応する。
【0087】
実施例2-2
ウシ心膜(P+F Brasil社)から選択され、グルタルアルデヒド(Sigma-Aldrich社、0.625容量%)の存在下で固定された04(130mmの直径を有する円形の4つのパッチ)単位の生体組織を、冷えた0.9%の生理食塩溶液(JP Farma社)中に置き、その後にpH7.4のPBS(Sigma-Aldrich社)及びEDTA(Sigma-Aldrich社、0.2重量%)を含む水溶液中に3分間置き、引き続きエタノール(Sigma-Aldrich社、70容量%)ですすいだ。次いで、含浸された組織を周囲温度で約1分間エタノール中に浸漬させた。次の工程として、該組織をグリセロール(Sigma-Aldrich社、99%)、エタノール及びEDTA溶液の混合物(70%のグリセロール、29.8%のエタノール及び0.2%のEDTA溶液)と周囲温度で少なくとも90分間接触させた。その後に、該組織を撹拌しながら少なくとも90分間グリセロール中に浸漬させ、引き続きエタノールですすいだ。これらの試料を、原子吸光分析ContrAA 300(Analytik Jena社、ドイツ、イエナ)にかけた。表2は、標準的なグルタルアルデヒド保存されたウシ心膜に対するこれらの試料のカルシウム含有量を示している。
【0088】
【0089】
心膜試料のカルシウム吸収を比較するために、乾燥させた心膜試料及び標準的な心膜試料を、ヒト血漿と同様の表3によるイオン濃度の擬似血液溶液(Simulated Blood Solution)(SBF)中でインキュベートした。
【0090】
【0091】
試料をSBF中で24時間インキュベートし、その後に原子吸光分析にかけた。結果は、表4に示されている。
【0092】
【0093】
実施例2-3
染剤を使用した組織学的評価によってコラーゲン線維の完全性を調査して、ウシ心膜試料における乾燥過程後のコラーゲン線維の保存を調べた。Eclipse E-200(株式会社ニコン)と一緒にフルデジタルビデオHD Lite 1080p(Tucsen社)を使用して画像を取得した。結果を標準的なグルタルアルデヒド保存された材料試料と比較した。
図4(乾燥させたウシ心膜)及び
図5(標準的なウシ心膜)に示される種々の染剤を使用して検査を行った。ここで、HEはヘマトキシリンを意味し、REはレゾルシン-オルセインを意味し、TMはマッソントリクロームを意味し、TGはゴモリトリクロームを意味する(全ての染剤はMerck社により供給された)。
【0094】
図4は、ヘマトキシリン及びエオシン(HE、A~A’’)、レゾルシン-オルセイン(RE、B~B’’)、マロリートリクローム(TM、C~C’’)及びゴモリトリクローム(TG、D~D’’)により染色されたPF180611-Std 05メンブレンの断面組織学的切片の顕微鏡写真(ライトフィールド顕微鏡を使用しない)を示す。乾燥させたウシ心膜試料の以下の部分を観察することができる:太いコラーゲン線維(より小さな黒い矢印)、横断面又は縦断面の弾性線維(大きな黒い矢印)、細胞核の残骸(矢じり)。この写真に示される血管要素の残骸は存在しない。スケールは顕微鏡写真の実際の倍率を示す。
【0095】
図5は、ヘマトキシリン及びエオシン(HE、A~A’’)、レゾルシン-オルセイン(RE、B~B’’)、マロリートリクローム(TM、C~C’’)及びゴモリトリクローム(TG、D~D’’)により染色されたPF180801-3-DRY05メンブレンの断面組織学的切片の顕微鏡写真(ライトフィールド顕微鏡を使用しない)を示す。標準的なウシ心膜試料の以下の部分を観察することができる:太いコラーゲン線維(より小さな黒い矢印)、横断面又は縦断面の弾性線維(大きな黒い矢印)、細胞核の残骸(矢じり)及び血管要素の残骸(大きな先端の尖った矢印)。スケールは顕微鏡写真の実際の倍率を示す。
【0096】
実施例2-4
標準的なウシ心膜及び乾燥したウシ心膜(両方)のコラーゲン構造及び乾燥過程の抗石灰化効果を、種々の分解能を使用して走査型電子顕微鏡法(SEM、FESEM、JEOL社、モデル7500F)によって評価した:
(a)乾燥させたウシ心膜:
図6:倍率200倍、
図7:倍率3000倍、
図8:倍率50000倍、
図9:倍率100000倍;
(b)標準的なウシ心膜:
図10:倍率200倍、
図11:倍率3000倍、
図12:倍率50000倍、
図13:倍率100000倍。