IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社奥村組の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240305BHJP
   C04B 24/08 20060101ALI20240305BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20240305BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20240305BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/08
C04B24/12 A
C04B24/16
C04B24/32 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021021899
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124245
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 清孝
(72)【発明者】
【氏名】岩永 直
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠喜
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214070(JP,A)
【文献】国際公開第95/022510(WO,A1)
【文献】特開2016-186177(JP,A)
【文献】特開2003-238222(JP,A)
【文献】特開2002-285152(JP,A)
【文献】特開2015-221730(JP,A)
【文献】特開2018-083931(JP,A)
【文献】特開2022-124243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、セメント、骨材及び混和材料を含み、
前記混和材料として、JIS A6204に規定される高性能減水剤、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満である凝結遅延剤、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを含む増粘剤、並びに、ノニオン系界面活性剤を含み、
水セメント比が30~60%であり、
前記セメントに対する前記高性能減水剤の含有量が1.4~3.3質量%であり、
前記セメントに対する前記凝結遅延剤の含有量が0.3~1.7質量%であり、
前記水に対する前記増粘剤の含有量が3.5~5.5質量%であり、
前記増粘剤に対する前記ノニオン系界面活性剤の含有量が0.5~4.5質量%である、コンクリート組成物。
【請求項2】
前記ノニオン系界面活性剤が、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一種である、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルなどのコンクリート構造物の構築にあたり、構造物の建設予定地における地盤からの水圧等の外的要因や、採用された工法に応じて、コンクリートの強度発現とともに、コンクリート打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性等の諸性能が同時に要求されることがある。このような諸物性が要求されるコンクリート構造物としては、例えば、地下水位下のシールドトンネル工事において現地で打設される覆工コンクリート等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、フレッシュ性状の保持及びその調整を目的として、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有し、初期のスランプフローの値と、50cm到達時間の値とが所定の関係にあるコンクリート組成物が開示されている。
同文献によれば、分散剤として遅延形に分類される剤と標準形に分類される剤を用いることで、初期流動性及び流動保持性を調整可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-23148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物の構築においては、水温や外気温、製造されるコンクリート組成物の練り上がり温度や養生温度等の様々な外的要因の変化に伴って、得られるコンクリート組成物の性能などの品質に対する影響を受けたりする。
【0006】
特許文献1に記載の技術に用いられる分散剤は、いずれも初期流動性と流動保持性としての凝結遅延性双方の性能を具備するものであり(JIS A6204に規定)、外的要因の変動によって、初期流動性能や凝結遅延性能が過剰又は不足となるとともに、強度発現に悪影響を与えやすく、且つこれらの物性の調整が極めて困難である。また上述の分散剤は、セメント粒子に吸着して粒子同士を反発させる働きがあり、セメント凝集によって閉じ込められた余剰水が開放され、この水と増粘剤とが反応するため、粘性にも影響を及ぼしやすい。
このように、特許文献1に記載の技術は、外的要因の変動による影響を受けにくく、コンクリートの強度発現とともに、コンクリート打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性等の諸性能を安定的に兼ね備えるようにすることができないものであった。
【0007】
したがって、本発明は、外的要因の変動による影響を受けにくく、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を発現できるコンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水、セメント、骨材及び混和材料を含み、
前記混和材料として、JIS A6204に規定される高性能減水剤、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満である凝結遅延剤、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを含む増粘剤、並びに、ノニオン系界面活性剤を含み、
水セメント比が30~60%であり、
前記セメントに対する前記高性能減水剤の含有量が1.4~3.3質量%であり、
前記セメントに対する前記凝結遅延剤の含有量が0.3~1.7質量%であり、
前記水に対する前記増粘剤の含有量が3.5~5.5質量%であり、
前記増粘剤に対する前記ノニオン系界面活性剤の含有量が0.5~4.5質量%である、コンクリート組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外的要因の変動による影響を受けにくく、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を発現できるコンクリート組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のコンクリート組成物は、水、セメント、骨材及び混和材料を含む。
以下の説明において、特に断りのない限り、本明細書のコンクリート組成物は、骨材として細骨材のみを含むモルタルと、細骨材及び粗骨材をともに含むコンクリートとの双方が包含される。また文脈に応じて、コンクリート組成物として、硬化前の流動体(いわゆるフレッシュコンクリート)を指す場合と、硬化後の硬化物(いわゆる硬化コンクリート)を指す場合とがある。
【0011】
水は、例えば上水道水、井戸水、蒸留水、精製水等の本技術分野において通常用いられる水を特に制限なく用いることができる。
【0012】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント、アルミナセメント等の特殊セメント等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、複数組み合わせて用いることができる。これらのセメントとして、例えばJIS R5210~R5214にそれぞれ規定されるセメントを用いてもよい。
【0013】
骨材としては、細骨材及び粗骨材が挙げられる。これらの骨材は、目的とする組成物の性状に応じて、細骨材のみを使用したモルタルの態様とするか、あるいは、細骨材及び粗骨材をともに使用したコンクリートの態様とすることができる。
【0014】
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂等の天然骨材や、砕石、砕砂、高炉スラグ細骨材等の人工骨材、コンクリート廃材から取り出した再生骨材等が挙げられる。これらは単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。
粗骨材としては、例えば、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられる。これらは単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。粗骨材として、JIS A 5005に規定される粗骨材を用いることもできる。
【0015】
本発明のコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、高性能減水剤を含む。高性能減水剤は、JIS A6204に規定されるものを一種又は二種以上使用することができる。高性能減水剤を用いることによって、フレッシュ保持性、水中不分離性や、硬化後のコンクリート強度の所望の性能に対する悪影響を低減しつつ、コンクリート組成物の流動性を高めることができる。特に、高性能減水剤は、凝結遅延性能が発現しないか、又はその発現が軽度である剤であるので、凝結遅延性能の発現を、後述する凝結遅延剤自体に担わせるようにすることができる。その結果、コンクリート組成物の目的とする流動性やフレッシュ性状等の各種物性を簡便に調整可能にし、且つ該物性を効果的に発現させることができる利点もある。
【0016】
コンクリート組成物における高性能減水剤の含有量は、セメントに対する質量割合で表して、好ましくは1.4~3.3質量%、より好ましくは1.7~3.0質量%である。高性能減水剤の含有量をこのような範囲とすることによって、外的環境要因の変化による影響を更に受けにくくして、コンクリート組成物に優れた流動性を付与することができ、取り扱い性、打設箇所における充填性及び施工性が両立して一層向上する。
【0017】
高性能減水剤は、JIS A6204に準じて測定される凝結時間の始発の差が好ましくは+90分以下、より好ましくは+60分未満、更に好ましくは+30分以下、一層好ましくは0分以下であり、好ましくは-60分以上、より好ましくは-30分以上、更に好ましくは0分以上である。なお、高性能減水剤に凝結促進性能が発現することは妨げられないが、凝結性を後述する凝結遅延剤によって適切に制御する観点から、好ましくは凝結促進性能を有さない。
このような凝結時間を有する高性能減水剤を用いることによって、コンクリート組成物の流動性を適度に発現させて、型枠内あるいは地盤と型枠との間において該組成物を隙間なく充填させることができるので、施工性が更に向上する。
【0018】
本発明のコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、凝結遅延剤を更に含む。なお凝結遅延剤は、本発明における高性能減水剤、増粘剤及びノニオン系界面活性剤からは除外される。
【0019】
凝結遅延剤は、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満であることが好ましく、より好ましくは2%以下であり、0%以上が現実的である。このような減水率を有する凝結遅延剤を用いることによって、コンクリート組成物の圧送時における配送管内の滞留性を維持して、コンクリート組成物のフレッシュ性状を配送管内で所定時間保持した状態で、目的とする打設場所に圧送させることができる。その結果、コンクリート組成物の取り扱い性及び施工性が向上する。また、減水率が少ないことは、減水性能が発現しないか、その性能が軽度であることを示すので、減水性能の発現を高性能減水剤自体に担わせることができるので、その結果、コンクリート組成物の目的とする流動性やフレッシュ性状等の各種物性を簡便に調整可能にし、且つ該物性を効果的に発現させることができる利点もある。
【0020】
凝結遅延剤としては、減水性能を有さないことを条件として、スクロース、ラフィノース等の糖類や、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸及びその塩、リグニンスルホン酸及び塩などの有機系凝結遅延剤や、珪弗化物等の無機系凝結遅延剤等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。これらのうち、凝結遅延の効果を一層発現させる観点から、凝結遅延剤として、オキシカルボン酸及びその塩を主成分として含むものを用いることが好ましい。
なお、本明細書における凝結遅延剤は、JIS A6204に規定される「遅延形」に分類される遅延剤は除外されることも好ましい。
【0021】
コンクリート組成物における凝結遅延剤の含有量は、セメントに対する質量割合で表して、好ましくは0.3~1.7質量%、より好ましくは0.5~1.5質量%である。凝結遅延剤を二種以上含む場合は、その総量が上述の範囲であればよい。凝結遅延剤の含有量をこのような範囲とすることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、コンクリート組成物の圧送時において、意図しない凝結が生じずに、配送管内の滞留性及びフレッシュ性状を適切な状態で維持しながら圧送させることができるので、コンクリート組成物の取り扱い性及び施工性が更に向上する。
【0022】
またコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、増粘剤を更に含む。なお増粘剤は、本発明における高性能減水剤、凝結遅延剤及びノニオン系界面活性剤からは除外される。
【0023】
本発明における増粘剤は、水中不分離性を発現可能なものであり、いわゆる水中不分離性混和剤に分類されるものである。このような増粘剤としては、例えば、セルロース系増粘剤、バイオポリマー系増粘剤、アクリル系増粘剤の他、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを主成分として含む増粘剤が好ましく挙げられる。
上述の増粘剤を含むことによって、コンクリート組成物の適度な流動性を発現しつつ、適度な粘性を発現させることができる。その結果、被水圧条件や被流水条件下においても優れた水中不分離性を発現させることができる。特に、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを主成分として含む増粘剤を用いることによって、無機塩存在下やアルカリ性条件等のフレッシュコンクリートに起因する過酷な条件であっても、水中不分離性を発現するために十分な粘性を得られる点で有利である。
【0024】
コンクリート組成物における増粘剤の含有量は、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを含む増粘剤を例にとると、水に対する質量割合で表して、好ましくは3.5~5.5質量%、より好ましくは4.0~5.0質量%である。増粘剤の含有量をこのような範囲とすることによって、被水圧条件や被流水条件下において優れた水中不分離性をより効果的に発現させることができる。
【0025】
増粘剤を構成するアルキルアリルスルホン酸塩(アルキルベンゼンスルホン酸塩)としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、スチレンスルホン酸、クメンスルホン酸又はその塩等の炭素数1~10の飽和又は不飽和の炭化水素基で芳香環の少なくとも一つが置換された各種のスルホン酸又はその塩等が挙げられるが、これらに限られない。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
塩における対イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛などの他の金属、アンモニウム、エタノールアンモニウム等に由来するイオンが挙げられる。
【0026】
増粘剤を構成する第四級アンモニウム塩としてのアルキルアンモニウム塩は、炭素数が10~26、好ましくは炭素数16~22のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも1つ有していることも好ましく、該アルキル基を少なくとも1つ有することがより好ましい。これに加えて、第四級アンモニウム塩は、炭素数1~3のアルキル基を少なくとも1つ有することが好ましく、炭素数1~3のアルキル基を3つ有することがより好ましい。これらのアルキル基又はアルケニル基はいずれも、アンモニウム塩を構成する窒素原子に結合している基を意味する。
塩における対イオンとしては、例えば塩素や臭素等のハロゲンや、各種の酸等が挙げられる。
【0027】
このようなアルキルアンモニウム塩としては、例えばベヘニルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、タロートリメチルアンモニウム、ヘキサデシルエチルジメチルアンモニウム、オクタデシルエチルジメチルアンモニウム、ヘキサデシルプロピルジメチルアンモニウム等の各種の第四級アンモニウムと、ハロゲンとの塩が挙げられるが、これらに限られない。
【0028】
またコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、ノニオン系界面活性剤を更に含む。本発明におけるノニオン系界面活性剤は、増粘剤による増粘効果を適度に低減するように調整する粘性調整剤として、コンクリート組成物の粘性を制御する機能を主に有する。ノニオン系界面活性剤を含むことによって、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの取り扱い性や施工性を高めることができる。なおノニオン系界面活性剤は、本発明における高性能減水剤、増粘剤及び凝結遅延剤からは除外される。
【0029】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル等のアルキルエーテル類;アルキルグリコシド等の多価アルコールエーテル類;グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド等のアミド類等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらのノニオン系界面活性剤のうち、アルキルエーテル類及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を用いることが好ましく、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を用いることがより好ましい。
このようなノニオン系界面活性剤を用いることによって、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの良好な流動性やフレッシュ保持性を得ることができる。
【0031】
増粘剤に対するノニオン系界面活性剤の質量割合は、好ましくは0.5~4.5質量%、より好ましくは1.0~4.0質量%である。このような割合でノニオン系界面活性剤を配合することによって、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの取り扱い性や施工性を一層高めることができる。
【0032】
コンクリート組成物における水セメント比(セメントの含有質量に対する水の含有質量の百分率)は、好ましくは30~60%、より好ましくは30~45%である。このような水セメント比であることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、コンクリート組成物が有する流動性、フレッシュ保持性及び水中不分離性を効果的に発現しつつ、硬化後の強度に優れたものとなる。これに加えて、脱型をより早期に行うことができるので、施工スピードを高めて、施工期間を短縮させることができる。更に、JIS A1107に準じて測定される圧縮強度を要求水準以上に簡便且つ効率的に発現させることができる。
上述の水セメント比は、その逆数であるセメント水比と、所定の経過時間における発現強度との相関関係を予備的試験において予め求めておき、また安全率を加味した上で決定することも、硬化後の優れた強度を適切な打設場所に発現させる点で好ましい。
【0033】
上述した実施形態におけるコンクリート組成物は、水、セメント、骨材及び混和材料を、任意の順序で、あるいはこれらを同時に投入して練り混ぜる等の公知の混合方法によって調製することができる。
本発明の効果が奏される限りにおいて、必要に応じて、上述したセメント、水、骨材及び混和材料以外の他の混和材料を更に添加してもよい。他の混和材料としては、例えばJIS R5212に規定されるシリカ質混合材、石膏、炭酸カルシウム、石灰石等が挙げられる。
【0034】
コンクリート組成物をフレッシュコンクリートとして製造する場合には、増粘剤とノニオン系界面活性剤とを別途に混合することが好ましい。具体的には、ノニオン系界面活性剤を添加した原料に、増粘剤を添加する方法を採用することが好ましい。以下に、その好適な実施形態を説明する。
【0035】
まず、コンクリートの練り混ぜに用いる水にノニオン系界面活性剤を溶解させて、ノニオン系界面活性剤の水溶液を調製する。この時点では、セメントや骨材、増粘剤などの他の材料は非含有である。
練り混ぜ水に対するノニオン系界面活性剤の添加割合は、増粘剤の含有量との関係において変更可能であるが、好ましくは0.01~0.25質量%、より好ましくは0.02~0.23質量%、更に好ましくは0.04~0.22質量%、一層好ましくは0.04~0.20質量%となるようにする。
このようにノニオン系界面活性剤の添加量を調整することによって、得られるフレッシュコンクリートの粘性をより簡便に調整しやすくして、取り扱い性及び品質が向上する。
【0036】
次いで、ノニオン系界面活性剤の水溶液、セメント、及び骨材を練り混ぜる等して混合する。ノニオン系界面活性剤の水溶液、セメント及び骨材の投入順序は、均一に練り混ぜ可能であれば特に制限はなく、各原料を任意の順序で又は同時に添加する。
【0037】
このとき、ノニオン系界面活性剤の水溶液、セメント、及び骨材を練り混ぜながら、増粘剤を添加することが好ましい。増粘剤は、練り混ぜ水に対する増粘剤の含有割合が上述した範囲となるように混合されることも好ましい。このように増粘剤を添加することによって、増粘剤によってセメントミルクに発現する増粘効果を、ノニオン系界面活性剤の存在によって適度に緩和するので、フレッシュコンクリートの水中不分離性を維持しつつ、良好なポンプ圧送性や流動性を発揮することができる。
【0038】
増粘剤は、ノニオン系界面活性剤の水溶液、セメント及び骨材の練り混ぜの過程で一括添加してもよく、逐次添加してもよい。また増粘剤は粉末の状態で添加してもよく、水に溶解させた水溶液の状態で添加してもよい。
練り混ぜ時における粘性や混合度合いを確認しながら増粘剤の添加量や添加速度を調整可能にする観点、及び増粘剤の添加量の誤差に起因する意図しない粘性の増大又は低下を低減する観点から、増粘剤はこれを水溶液とした状態で添加することが好ましい。水に対する増粘剤の含有割合は、上述の範囲とすることができる。増粘剤の水溶液を用いる場合、その溶媒となる水は、フレッシュコンクリートにおいて練り混ぜに用いる水の量に算入する。
【0039】
最後に、各原料を均一に混合して、水、セメント、骨材及び上述の各混和材料を含むコンクリート組成物を得ることができる。コンクリート組成物は、これをフレッシュコンクリートの状態で、型枠内や、地山あるいは地盤と型枠との間に打設し、その後養生して硬化させることで、硬化物であるコンクリートを得ることができる。
【0040】
このように得られたコンクリート組成物は、その強度の指標として、JIS A1107に準じて測定される、練り上がり時点から24時間経過後における一軸圧縮強度が、好ましくは15N/mm以上、より好ましくは20N/mm以上、更に好ましくは25N/mm以上である。この一軸圧縮強度が高いほど、硬化後のコンクリートの強度が高いことを意味する。このような強度は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲にすることで容易に達成することができる。またこれに加えて、各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによっても達成することができる。
【0041】
コンクリート組成物は、その流動性の指標として、JIS A1150に準じて測定されるスランプフロー値が、好ましくは650±50mmの範囲内である。スランプフロー値がこのような範囲であることによって、コンクリート組成物が優れた流動性を有することを意味する。このようなスランプフロー値は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、減水剤などの各混和材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。
【0042】
コンクリート組成物は、そのフレッシュ保持性の指標として、JSCE-F516に準じて測定される、練り上がり時点から4時間経過後における500mmフロー到達時間が、好ましくは180秒以内である。上述のフロー到達時間が短いほど、フレッシュ性状が長時間維持され、優れた圧送性及び施工性を有することを意味する。このようなフロー到達時間は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、凝結遅延剤などの各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。
【0043】
コンクリート組成物は、その水中不分離性の指標として、JSCE-D104(付属書2)に準じて測定されるpHが、好ましくは12以下である。この指標は、セメントミルクが強アルカリ性であることに鑑み、真水中に分散した懸濁物質量を表す間接的な指標である。したがって、上述のpHが所定の値以下であれば、打設場所が被水圧下や被流水下などの過酷な条件であっても、これらの条件に対する抵抗性を有し、硬化後の強度を発現可能であることを意味する。このようなpHは、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、増粘剤等の各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。なお、上述のpHは真水の中性域を下回ることがないことは言うまでもなく、概ね10以上となる。
【0044】
以上のコンクリート組成物は、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性といった各種の性能を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を発現できるものとなる。また温湿度の変化などの外的要因の変動によるコンクリートの各性能の影響を受けにくいものとなる。
本発明の好適な態様によれば、通常の打設方法とは異なる施工方法を採用したり、あるいは、施工場所が被水圧下や被流水下などの水存在下の条件や、練り上がり時や養生における温度が高温又は低温になっている等の通常の施工場所と比較して過酷な環境条件であったりした場合でも、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性の所望の性状が優れた状態で維持されながら、硬化後において優れた強度を早期に且つ効果的に発現させることができる。
【0045】
このようなコンクリート組成物は、例えば、水中コンクリートや水中不分離性コンクリートとして、地下水が多い地盤に施工されるトンネルや海底トンネルなどの水存在下でのコンクリート構造物の施工材料として好適に用いられる。また、コンクリート組成物は、シールドを用いた場所打ち支保システムに用いられる一次覆工コンクリート用の材料として更に好適に用いられる。更に、コンクリート組成物は、上述のシステムが採用されるコンクリートとして、地下水位下のシールドトンネル工事において、プレキャストではなく、現地の施工現場で打設される覆工コンクリート用の材料として特に好適に用いられる。
【0046】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明によれば、外気温や、坑内温度等の打設場所の温度、コンクリートの練り上がり温度あるいはコンクリートの養生温度等の外的要因と、目的とするコンクリートの流動性、フレッシュ保持性、水中不分離性、及び硬化後の強度などのうち少なくとも一つの諸性能との相関関係に基づいて、コンクリートの流動性、フレッシュ保持性、水中不分離性、及び硬化後の強度に関する物性値が上述の好適な数値以上となるように、コンクリートの製造に用いる各原料の添加量を増減する等して調整する方法も提供する。また、前記の外的要因とコンクリート組成物の各原料の添加量との相関関係に基づいて、コンクリートの前記の諸性能を予測する方法も提供する。前記の各相関関係は、予備検討により関係を予め求めておくことも好ましい。
【0047】
一実施形態では、外的要因として外気温が高いほど、流動性が低下したり、フレッシュ保持性が低下したりする傾向にある。したがって、外気温が高い場合には、コンクリート組成物の製造時において、減水剤の量を多くしたり、凝結遅延剤の量を多くしたりして、流動性の向上やフレッシュ保持性の向上といった所望の性能を発現させることができる。外気温が低い場合には、これらの剤の量を少なくすればよい。
また別の実施形態では、外的要因として練り上がり温度が低いほど、流動性が低下したり、硬化後の強度が低下したり、水中不分離性が増大する傾向にある。したがって、外気温が低い場合には、コンクリート組成物の製造時において、減水剤の量を多くしたり、水セメント比を低くしたり、増粘剤量を低減したり、ノニオン系界面活性剤の量を多くしたりして、流動性や水中不分離性、強度の向上といった所望の性能を発現させることができる。外気温等の温度が高い場合には、減水剤の量を少なくしたり、水セメント比を高くしたりすればよい。
また上述した関係性から、コンクリートを実際に製造しなくても、前記の外的要因とコンクリート組成物の各原料の添加量との相関関係に基づいて、コンクリートの前記の諸性能を予測することもできる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例の記載によって何ら制限されるものではない。以下の説明では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。また表中、「-」で示す欄は未実施を示す。
【0049】
〔実施例1~15、並びに比較例1~5〕
以下の原材料を以下の表1に示す割合で混合し、各実施例及び比較例のコンクリート組成物を得た。各実施例及び比較例は、日本の4月~10月のいずれかの期間の環境下で作製した。また、外的要因の変化の指標として、練り上がり温度を以下の表1に併せて示した。
表中、「kg/m」の単位はフレッシュコンクリート1m当たりの含有量を表し、「(任意の記号)×%」の単位は表中に記載の記号で示される原材料に対する質量割合(質量%)を表す。
【0050】
<原材料>
・水 :井戸水
・セメント :早強ポルトランドセメント(日鉄住金セメント株式会社製)
・細骨材 :洗砂(北海道寿都町産)
・粗骨材 :砕石(北海道寿都町産)
・高性能減水剤 :ポリカルボン酸系(花王株式会社製、製品名:マイテイSP-2)
・凝結遅延剤 :オキシカルボン酸系(花王株式会社製、減水率:2%)
・増粘剤 :ビスコトップ200LS-2(花王株式会社製)
・ノニオン系界面活性剤:ポリエチレンオキシドアルキルエーテル及び脂肪酸エステルの混合物(花王株式会社製)
【0051】
〔流動性の評価〕
各実施例及び比較例のコンクリート組成物の流動性を、JIS A1150に準じて測定された練り上がり時におけるスランプフロー値として評価した。このスランプフロー値が650±50mmの範囲内であれば流動性に優れると評価し、650±50mmの範囲外であれば打設時の流動性が適切でなく、取り扱い性が悪いと評価した。結果を表1に示す。
【0052】
〔フレッシュ保持性の評価〕
各実施例及び比較例のコンクリート組成物のフレッシュ保持性を、JSCE-F516に準じて測定される、練り上がり時点から4時間経過後における500mmフロー到達時間として評価した。このフロー到達時間が180秒以内であればフレッシュ保持性に優れると評価し、180秒を超えた場合はフレッシュ保持性が悪いと評価した。結果を表1に示す。
【0053】
〔水中不分離性の評価〕
各実施例及び比較例のコンクリート組成物の水中不分離性を、JSCE-D104(付属書2)に準じて測定されるpHとして評価した。このpHが12以下であれば水中不分離性に優れると評価し、pHが12を超えた場合は水中不分離性が悪いと評価した。結果を表1に示す。
【0054】
〔強度の評価〕
各実施例及び比較例のコンクリート組成物の硬化後の強度を、JIS A1107に準じて測定される、練り上がり時点から24時間経過後における一軸圧縮強度として評価した。一軸圧縮強度が15N/mm以上であれば強度が良好であり、一軸圧縮強度が高いほど強度に優れると評価した。また、一軸圧縮強度が15N/mm未満であれば、強度が悪いと評価した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、各実施例のコンクリート組成物は、比較例のものと比較して、外的要因の変動による影響を受けにくく、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を発現できる。これらの組成を有するコンクリート組成物は、羊蹄トンネルの施工現場等の、シールドを用いた場所打ち支保システムに用いられる覆工コンクリート用の材料として好適に用いられる。