(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】聴覚的な睡眠刺激を伝えるためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 21/02 20060101AFI20240305BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240305BHJP
G10K 11/175 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61M21/02 C
A61M21/02 G
A61B5/16 130
G10K11/175
(21)【出願番号】P 2021534225
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2019084865
(87)【国際公開番号】W WO2020126814
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-08
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン エンデ,ダーン アントン
(72)【発明者】
【氏名】パストゥール,サンデル テオドール
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01886707(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/02
A61B 5/16
G10K 11/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴覚的な睡眠刺激を伝えるシステムであって、
外部ノイズをマスキングするノイズ・マスキング音を生成し、深い睡眠を促す睡眠刺激トーンを生成する音源システムと、
睡眠モニタと、
コントローラとを備え、前記コントローラは、
前記音源システムを用いて、睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数レンジでノイズ・マスキング音を提供し、
前記睡眠モニタを用いて、
睡眠ステージ及び/又は睡眠の深さを示す特定の睡眠特性を検出し、
前記特定の睡眠特性の検出に応答して、前記ノイズ・マスキング音を前記第2周波数バンドで提供することを止め、
睡眠刺激トーンを前記第2周波数バンドで提供する
ように構成されている、システム。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ノイズ・マスキング音をフェード・アウトすることによって、その提供を止めるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、検出された睡眠のすべてのステージの間に、睡眠刺激トーンを提供するように構成されている、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記睡眠刺激トーンは時間的に分離されたパルスのシーケンスを含む、請求項1-3のうちの何れか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記マスキング音はホワイト・ノイズを含む、請求項1-4のうちの何れか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2周波数バンドは、400Hzから600Hzまでのレンジ内にある最低値と、1500Hzから2500Hzまでのレンジ内にある最高値とを有し、例えば第2周波数バンドは500Hzから2kHzまでを含む、請求項1-5のうちの何れか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1周波数バンドは、前記最低値のすぐ下にある第1サブ・バンドと前記最高値のすぐ上にある第2サブ・バンドとを有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記睡眠モニタはEEGモニタを含む、請求項1-
7のうちの何れか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラは、検出された睡眠の全部又は一部のステージの間に、ピンク・ノイズを提供するように更に構成されている、請求項1-
8のうちの何れか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ・システムの分野に関連し、特に被検体の睡眠状態に影響を及ぼすために使用されるオーディオ・システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の研究は、睡眠中に適用される聴覚的な刺激が、認知可能な利益及び睡眠回復の増進を被検体又はユーザーに提供できることを示している。また、適切に制御されたオーディオ出力は、被検体の睡眠状態に影響を及ぼし、少なくとも被検体が覚醒するか又は眠るかに影響を与えることを促す可能性があることが認められている。
【0003】
被検体に対して外的に(例えば、交通騒音、航空機、パートナーのいびき、近所、建設騒音、昆虫騒音、家電製品など)及び内的に、睡眠の妨げとなる多種多様な原因が存在する。内的な原因は、生理的原因(例:耳鳴)、心理的原因(例:ストレス)、行動的原因(例:浅い睡眠の習慣)を含む。
【0004】
オーディオを再生することは、睡眠の質の改善につながり得ること、特に、夜に及び夜中に目を覚ました後でも、最初に眠りに落ちる能力を改善することによってそのようにできることが認められている。
【0005】
外的な騒音は、マスキング音を再生することにより、又はノイズ対策(即ち、サウンド・キャンセレーション・システム)を使用することにより、緩和させることができる。マスキング音は、典型的には、(雨や海の波のような)記録された反復的な音、又は可聴周波数範囲にわたって等しく分布した音響強度とともに発生させたランダム波形(「ホワイト・ノイズ」と呼ばれる)である。これらの音はすべて、突然の及び/又は不快な外的なノイズを取り除くことを目的としており、「マスキング音(masking sound)」という用語でまとめられることが可能である。
【0006】
騒音防止(サウンド・キャンセレーション)は、マスキング音の特殊な形態であり、耳の近くにあるマイクロホンが、音の振動を拾って右位相シフトしたアンチ・ノイズを再生することを必要とする。睡眠対応ノイズ・キャンセレーション・ヘッドホンが提案されている。
【0007】
内的な騒音の主な原因は、典型的にはストレスや心配事である。これは、静かな音や音楽、案内される瞑想、及び/又はランダムに生成された言葉を再生することによって解決することができ、これらはすべて、心の覚醒状態を減少させることを目的としている。これらの方法はすべて、ユーザーを落ち着かせることを目的としており、より容易に眠りにつくことができるようにし、「カーミング・オーディオ(calming audio)」という用語でまとめることができる。しばしば、静かなオーディオと背景音楽の組み合わせが使用される。
【0008】
出願人の「SmartSleep」として知られるシステムは、睡眠検出機能を使用してフィードバック・ループを作成する。リアルタイムで深い睡眠を検出するために脳波図(EEG)信号解析が使用され、このシステムは聴覚的な刺激(睡眠増進トーン)を送り、覚醒を引き起こすことなく睡眠徐波を増強する。深い睡眠に加えて、睡眠の深さだけでなく、他の睡眠のステージ(例えば、覚醒状態)が、EEG信号から検出されることが可能である。
【0009】
WO2018/001936は、このタイプのシステム内で、睡眠の深さに依存して、睡眠刺激トーンのボリュームを調節するためのシステムを開示している。従って、睡眠モニタリングからのフィードバックを用いて睡眠刺激トーンを制御することが知られている。
【0010】
しかしながら、現在のマスキング・サウンド又はカーミング・オーディオの解決策はフィードバックを行っておらず、その結果、ユーザーは、一晩中又は所定の時間にわたって、オーディオを再生することを選ぶことになる。多くの場合、このような入眠の「期限(deadline)」は、入眠の問題を抱えるユーザーにとって逆効果である。
【0011】
更に、マスキング音(又はカーミング・オーディオ)と睡眠増進トーンの組み合わせは、実現することが困難であり、なぜならマスキング音(又はカーミング・オーディオ)は、睡眠増進トーンの有効性を損なうからである。
【0012】
EP1886707は、「無調(atonal)」音及び「調性(tonal)」音を発生するシステムを開示している。調性音は、ユーザーが目を覚ましている間に発生される明瞭な音である。無調音は、ユーザーが眠っている間に使用される。
【0013】
従って、ユーザーが眠りについたり眠り続けたりすることを支援するだけでなく、睡眠中に異なる睡眠増進トーンを提供する利点を組み合わせることが可能なシステムに対するニーズがある。
【発明の概要】
【0014】
本発明は特許請求の範囲によって定められる。
本発明の一態様に従う実施例によれば、聴覚的な睡眠刺激を伝えるシステムが提供され、本システムは、
外部ノイズをマスキングするノイズ・マスキング音を生成し、深い睡眠を促す睡眠刺激トーンを生成する音源システムと、
睡眠モニタと、
コントローラとを備え、コントローラは、
音源システムを用いて、睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数レンジでノイズ・マスキング音を提供し、
睡眠モニタを用いて、特定の睡眠特性を検出し、
特定の睡眠特性の検出に応答して、ノイズ・マスキング音を第2周波数バンドで提供することを止め、
睡眠刺激トーンを第2周波数バンドで提供するように構成されている。
【0015】
このシステムは、マスキング音が、被写体が眠りに向かいつつある間に使用されることを可能にする。マスキング音は、ノイズの相殺又はノイズのかき消しためのものであってもよく、これらの可能性の両方が、用語「マスキング」に含まれるように意図されている。しかしながら、特定の時間にマスキング音をオフにするか、又はそれらを常に維持する代わりに、特定の睡眠特性が検出された場合に、周波数スペクトルのサブ・バンドがオフにされる。この特定の睡眠特性は、単に睡眠の開始にすぎないものでもよいが、それらは、特定の睡眠のステージ、睡眠の深さ、又は睡眠のステージと睡眠の深さの組み合わせであってもよい。
【0016】
これは、マスキング機能(第2周波数バンドの外側)が夜間もアクティブのままである可能性があり、その結果、被検体を目覚めさせる外部ノイズのリスクが低減されることを意味する。しかしながら、睡眠刺激トーンの有効性は維持され、なぜなら、それらは周波数スペクトルのサブ・バンド内に入っているからである。従って、本発明は、睡眠期間を通してノイズ・マスキング及び睡眠刺激の利点を組み合わせる。
【0017】
コントローラは、ノイズ・マスキング音を提供することを、フェード・アウトによって止めるように構成されていてもよい。これは、ユーザーの睡眠を妨げる可能性が低い、あまり目立たない変化を提供する。
【0018】
コントローラは、検出された睡眠のすべてのステージの間に、睡眠刺激トーンを提供するように構成されていてもよい。従って、それらは、睡眠中にアクティブなままであってもよいが、周波数及び/又は振幅のような特性は調整されてもよい。代替的に、それらは所定の睡眠のステージの間に限って使用されてもよい。
【0019】
睡眠刺激トーンは、例えば、時間的に分離されたパルスのシーケンスを含む。このようなパルスを使用して徐波活動(SWA)を増加させ、それにより深い睡眠を長くすることが分かる。
【0020】
マスキング音はホワイト・ノイズを含んでもよい。これらは外的な音のマスキングを提供することが分かる。
【0021】
第2周波数バンドは、400Hzから600Hzまでのレンジ内にある最低値と、1500Hzから2500Hzまでのレンジ内にある最高値とを有し、例えば第2周波数バンドは500Hzから2kHzまでを含む。これは、睡眠刺激トーンに対する既知の周波数バンドである。
【0022】
第1周波数バンドは、例えば、最低値のすぐ下にある第1サブ・バンドと最高値のすぐ上にある第2サブ・バンドとを有する。このようにして、第1及び第2バンドは、共に、連続した全体的な周波数バンドを規定する。
【0023】
睡眠モニタは、睡眠のステージ及び/又は睡眠の深さを検出するためのものであってもよい。特定の睡眠特性は、睡眠刺激トーンの周波数バンドにおけるマスキングをいつ停止するかをトリガするために使用され、従って、睡眠のステージと睡眠の深さとの組み合わせであってもよい。
【0024】
睡眠モニタは、例えば、EEGモニタを含む。EEGモニタリングは、睡眠ステージ検出及び分析に関して知られており、音をマスキングすることにより乱すことなく睡眠刺激トーンがいつ与えられるべきかを決定するのに適している。
【0025】
コントローラは、検出された睡眠の全部又は一部のステージの間に、ピンク・ノイズを提供するように更に構成されていてもよい。
【0026】
ピンク・ノイズは、S(f)∝1/fαという形式のパワー・スペクトル密度を有するノイズとして定義されることが可能であり、ここで、fは周波数であり、0<α<2であり、指数αは通常1に近い。
ピンク的なノイズは自然界で広く発生し、多くの分野で大きな関心を集めている。これらは、深い睡眠刺激に関わりのあることがわかっている。
【0027】
本発明はまた、聴覚的な睡眠刺激を伝える方法を提供し、本方法は、
睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数レンジにおいて、外部ノイズをマスキングするノイズ・マスキング音を生成するステップと、
睡眠をモニタリングし、特定の睡眠特性の検出に応答して、ノイズ・マスキング音を第2周波数バンドで提供することを止めるステップと、
深い睡眠を促す睡眠刺激トーンを第2周波数バンドで提供するステップとを含む。
【0028】
この方法は、睡眠刺激トーンにより使用される周波数バンドにおけるマスキング音を抑制する。本方法は、ノイズ・マスキング音をフェード・アウトすることにより、それを提供することを止めるステップを含んでいてもよい。
【0029】
第2周波数バンドは、例えば400Hzから600Hzまでのレンジ内にある最低値と、1500Hzから2500Hzまでのレンジ内にある最高値とを有し、例えば第2周波数バンドは500Hzから2kHzまでを含む。
第1周波数バンドは、最低値のすぐ下にある第1サブ・バンドと最高値のすぐ上にある第2サブ・バンドとを有する。
【0030】
本発明のこれら及び他の態様は、以下で説明される実施形態から明らかになり、それらに関連して解明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
発明をより良く理解し、且つそれがどのように実施され得るのかをより明確に示すために、添付図面を例示のみのために参照する。
【
図1】睡眠中の被検体への聴覚的な刺激の伝達を制御するためのシステムを示す。
【
図2】睡眠中の被検体12への聴覚的な刺激の伝達を制御するための方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は図面を参照しながら説明される。
【0033】
詳細な説明及び具体的な実施例は、装置、システム及び方法の例示的な実施形態を示しているが、説明の目的のみのために意図されており、本発明の範囲を限定するようには意図されていないことは理解されるべきである。本発明の装置、システム及び方法のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からよりよく理解されるであろう。図面は単なる概略であって、縮尺通りには描かれていないことが理解されるべきである。また、同一又は類似の部分を示すために、図面全体で同一の参照番号が使用されていることも理解されるべきである。
【0034】
本発明は、聴覚的な睡眠刺激を伝えるシステムを提供する。それは、外部ノイズをマスクするためのマスキング音と、深い睡眠を促進するための睡眠刺激トーンとを生成することができる。ノイズ・マスキング音は、睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数レンジで提供される。特定の睡眠のステージのような特定の特性の検出に応答して、第2周波数バンドにおけるノイズ・マスキング音は停止される。その代わり、睡眠刺激トーンは第2周波数バンドで提供される。従って、ノイズ・マスキングは続くが、睡眠刺激トーンはマスクされない。
【0035】
図1は、睡眠中の被検体12への聴覚的な刺激の伝達を制御するように構成されたシステム10の概略図である。睡眠の回復値は、睡眠中の聴覚的な刺激を用いて被検体12において徐波活動(SWA)を増加させることによって増強されることが可能である。更に、マスキング音は、最初に又は夜間に目を覚ました後に、被検体が眠りつくことを補助するために使用されることが可能である。
【0036】
システムは音源システム14、16を備える。システムは、外部ノイズをマスキングするためのマスキング音を生成するための第1音源14と、睡眠刺激トーンを生成するための第2音源16とを備える。もちろん、実際には、全て異なる音を生成するための単一のハードウェア・ユニットと、単一の音伝達システムとが存在してもよい。機能は、説明のみのために
図1では別々に示されている。
【0037】
睡眠モニタ18は、睡眠特性をモニタリングするために、特に睡眠のステージ、及び好ましくは睡眠の深さも検出するために使用される。
【0038】
コントローラ20は、睡眠のステージ及び/又は深さのような、特定の検出された睡眠特性に応答して音源14、16を制御する。
【0039】
特に、第1音源14は、睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数バンドにおいて、ノイズ・マスキング音を提供するために使用される。これは、共に、完全な可聴スペクトルをカバーする、即ち20Hzから20kHzまでのレンジを含む連続的な周波数を定めることが可能である。
【0040】
この全体の周波数バンド内において、第1周波数バンドは2つのサブ・バンド、即ち500Hzより下の第1のものと、2kHzより上の第2のものとを有する。第2周波数バンドは500Hzから2kHzまでのレンジである。
【0041】
500Hz及び2kHz周波数の間でランダムに分布する睡眠刺激トーンを生成するシステムが知られている。このレンジ外の周波数バンドは、それらがマスクされない場合、妨害するノイズ源となる可能性がある。例えば、100Hz付近では航空機騒音、400Hz付近ではいびき、4kHz付近では警報、10kHz付近では昆虫音が存在する可能性がある。これらは全て500Hz~2kHzのレンジ外である。
【0042】
本発明は、マスキング音から、睡眠刺激トーンに使用される周波数バンドを停止する、好ましくはフェード・アウトすることを含む。ホワイト・ノイズ信号のようなマスキング目的のために生成される信号は、これらの周波数を除去するためにフィルタリングされる。マスキング音は、例えば、任意のノイズ信号を含んでもよく、即ち広い周波数スペクトルにわたってノイズ・フロアを提供する。このようにして、高周波数(>2kHz)及び低周波数(<500Hz)の音は、被検体が睡眠刺激トーンを心に留める能力に影響を与えることなく、睡眠のすべてのステージの間にマスクされることが可能である。
【0043】
従って、ノイズ・マスキング音は、両方の周波数バンド、即ち連続スペクトルを含む場合にはフィルタリングされず、第2周波数バンドが除去される場合にはフィルタリングされる。
【0044】
被検体が最初に眠ろうとする場合に、フィルタリングされていないノイズ・マスキング音が全周波数スペクトルにわたって提供される。この時間の間に、睡眠刺激トーンは、(たとえそれが深い睡眠中に使用するように意図されていたとしても)同様に提供されてもよいし、そうでなければ、まだ開始されていなくてもよい。
【0045】
特定の睡眠特性の検出に応答して、ノイズ・マスキング音は、第2周波数バンドでは抑制される。次いで、睡眠刺激トーンが第2周波数バンドで提供される。それらはすでに提供されていてもよいし、そうでなければ、特定の睡眠特性の検出に応じて開始されてもよい。
【0046】
フィルタリングされたマスキング音は、深い睡眠中を含む、すべての睡眠ステージの間でアクティブに維持されてもよい。しかしながら、フィルタリングされたマスキング音は、睡眠ステージのうちのサブセットに対してのみ、又は実際に睡眠の特定の深さに対してのみ、提供されてもよい。
【0047】
睡眠刺激トーンは、睡眠中に提供されると、睡眠徐波を増強し、睡眠の回復値を高める。
【0048】
睡眠モニタ18は、脳波活動をモニタリングするために脳波(electroencephalogram,EEG)システムを備えている。
【0049】
システムは、更に、電子ストレージ22及びユーザー・インターフェース24を備える。音源14、16、睡眠モニタ18、プロセッサ20、電子ストレージ22、及びユーザー・インターフェース24は、別個のエンティティとして示されているが、これは限定であるようには意図されていない。システム10の構成要素及び/又は他の構成要素の一部及び/又は全ては、1つ以上の単数のデバイスにグループ化されてもよい。例えば、システム10の一部及び/又は全ての構成要素は、被検体12により装着されるヘッドバンド及び/又はその他の衣服の一部としてグループ化されてもよい。
【0050】
音源14、16は、スリープ・セッションの前、スリープ・セッションの間、スリープ・セッションの後、及び/又は他の時間に、被検体12に聴覚的な刺激を提供する。これらの音は、例えば被検体12において0.5~4HzバンドでEEG電力によって示されるような、徐波活動を誘導、維持、及び/又は調整するように意図されている。
【0051】
睡眠刺激トーンの伝達は、少なくともSWAに関連する睡眠ステージに対応するようにタイミング付けられるが、他の時間に提供されてもよい。このシステムはまた、被検体12を睡眠から覚醒させるための音を発生するように使用されてもよい。
【0052】
本発明は、音の発生を利用しているが、これは、匂い、視覚刺激、接触、味覚、及び/又はその他の刺激のような他の刺激の使用を排除してはいない。例えば、経頭蓋磁気刺激が、SWAのトリガ、増加、及び/又は減少のために、被検体12に適用されてもよい。
【0053】
睡眠モニタ18は、被検体12の脳活動に関連する情報を伝達する出力信号を生成するために使用される。睡眠モニタリングは、被検体12の睡眠セッション中、睡眠セッション中の規則的な間隔、睡眠セッション前、睡眠セッション後、及び/又は他の時間に行われる。被検体12の脳活動は、睡眠深度、現在の睡眠ステージ、被検体12のSWA、及び/又は被検体12の他の特徴に対応する可能性がある。
【0054】
睡眠モニタは、EEG電極を備えるが、他のセンサが使用されてもよい。EEG信号は睡眠中に変化を示す。例えば、EEGデルタ電力の顕著な変化(SWAに相当)は、典型的には目に見える。SWAは、0.5~4Hzバンド(又は0.5~4.5Hzバンド)におけるEEG信号の電力に対応する。SWAは、所与の睡眠セッションの周期的な変動を通じて、典型的な挙動を有する。
【0055】
睡眠ステージの違いは、睡眠モニタによって感知され得る相違する脳の活動特性と関連付けられる。特に、被検体12の脳活動は、急速眼球運動(REM)睡眠、非急速眼球運動(non-REM)睡眠、及び/又は他の睡眠に関連付けることが可能である。被検体12の睡眠ステージは、ノンレム・ステージN1、ステージN2、又はステージN3、レム睡眠ステージ、及び/又は他の睡眠ステージのうちの1つ以上を含んでもよい。N1は軽い睡眠状態に対応し、N3は深い睡眠状態に対応する。ノンレム・ステージN3又はステージN2の睡眠は、徐波(例えば、深い)睡眠である可能性がある。
【0056】
SWAは、非急速眼球運動睡眠の間に増加し、急速眼球運動睡眠の開始前に低下し、レム睡眠中は低いままである。連続的なノンレム・エピソードにおけるSWAは、あるエピソードから次のものへと徐々に減少する。SWAは推定されることが可能であり、及び/又は徐波睡眠(例えば、ステージN3)は、所定の睡眠セッション中に被検体12のEEGから決定されることが可能である。
【0057】
例として、本発明のシステムでは、フィルタリングされていないマスキング・ノイズは、覚醒時及びレム睡眠ステージ中の睡眠時に、及びステージN1及びN2におけるノンレム睡眠時に使用されることが可能である。睡眠刺激トーンは、深い睡眠中に、ノンレム睡眠のN3ステージ中に使用される。従って、いつフィルタリングを実行するかを決定するために使用される睡眠の特定の特徴は、ノンレム睡眠ステージN3を含んでもよい。
【0058】
第2周波数バンドにおけるフィルタリングされていないマスキング・ノイズは、睡眠ステージN3のエピソードの始まりの間に徐々にフィルタリングされることが可能である。フィルタリング機能は、N3睡眠ステージ・エピソードの開始の検出後の一定期間、例えば、60秒の間に増加されてもよく、その後、第2周波数バンドは、マスキング・ノイズから完全にフィルタリングされる。その後、睡眠刺激トーンが使用され始める。
【0059】
徐々にフィルタリングする機能は、異なる時間期間、例えば一般的には15秒~5分間にわたって実施されてもよい。フィルタリングによって提供される減衰は、その時間にわたって直線的に増加されてもよいが、同様に他の時間依存関数が使用されてもよい。
【0060】
被検体12の心拍数(例えば、被検体12の胸部に配置される心拍数センサ、又は被検体12の手首に配置されるブレスレットを使用する)、被検体12の動き(例えば、加速度計センサ・システムを使用する)、被検体12の呼吸、及び/又は被検体12の他の特徴、のような他のセンサ・データが使用されてもよい。
【0061】
睡眠モニタ18は、被検体12の近くの単一の場所に示されているが、これは限定であるようには意図されていない。睡眠モニタ18は、例えば、被検体12の皮膚に取り外し可能な方法で結合されたり、被検体12の衣服に取り外し可能な方法で結合されたり、被検体12により装着されたり(例えば、ヘッドバンド、リストバンド等のように)、あるいは、被検体12のベッドに結合される加速度計システム又は被検体12を撮影するビデオ・カメラのような被検体に結合されなかったりするような、複数の場所に配置されるセンサを含んでもよい。
【0062】
コントローラ20は、システム10における情報処理能力を提供する。従って、プロセッサ20は、デジタル・プロセッサ、アナログ・プロセッサ、情報を処理するように設計されたデジタル回路、情報を処理するように設計されたアナログ回路、状態マシン、及び/又は情報を電子的に処理するための他のメカニズムのうちの1つ以上を含んでもよい。
【0063】
コントローラ20は、単一の場所にあってもよいし又は分散されもよい1つ以上の処理ユニットを備えてもよい。これは、EEG信号を分析するために使用され、例えば、EEGの種々の周波数バンドにおける電力、低い(デルタ,シータ)周波数バンドにおける電力に対する高い(アルファ,ベータ)周波数バンドの電力の比率、及び/又は他のパラメータを決定するために使用される。
【0064】
脳活動パラメータは、紡錘波、K-複合、又は睡眠徐波、アルファ波、及び/又はEEG信号の他の特性のような特定の睡眠パターンの存在、位相、振幅、及び/又は周波数に関連する。例えば、個々の徐波は、EEG信号において負の進行するゼロ交差の後に続く正の進行するゼロ交差を検出することにより識別されることが可能であり、ここで、負のピークの振幅は第1の所定の閾値を下回り、ゼロ交差の間の時間期間が第2の所定の閾値(例えば、200ミリ秒)より長い。
【0065】
睡眠の深さは、睡眠の状態と同様に同定されることが可能である。これは、例えば、(i)低い周波数バンドにおける電力に対するEEG信号の高い周波数バンドにおける電力の比率、(ii)被検体12における徐波の密度、(iii)第1睡眠セッションに関する睡眠経過図、被検者12における紡錘波の周波数、及び/又は被検者12における睡眠の深さを示す他のパラメータを決定することを含んでもよい。例えば、アルファ(8-12Hz)又はベータ(15-30Hz)バンドと、EEG信号のデルタ(0.5-4Hz)又はシータ(4-8Hz)バンドとの間の電力比率が関心事である。
【0066】
システムはまた、睡眠覚醒イベントの存在を検出することもできる。覚醒イベントは、より高いアルファ(8-12Hz)バンドとベータ(15-30Hz)バンドのEEG電力の閾値を用いて検出される。刺激の最中に覚醒が検出されると、刺激は速やかに中止されてもよい。刺激期間外で覚醒が検出された場合、次の刺激セグメントの開始は遅延させられてもよい。
【0067】
覚醒が検出されない場合、典型的なシステムは、EEGのより低いデルタ周波数レンジ(0.5~4Hz)における高い活動によって特徴付けられる、徐波睡眠(例えば、N3睡眠)の存在をリアルタイムで検出する処理に進む。徐波睡眠が十分に長い期間にわたって検出される場合、典型的なシステムは、例えば、一定の1秒の長さのトーン間隔によって互いに分離される50ミリ秒の長さのトーンのシーケンスから成る聴覚的な刺激を伝達する。代替的に、トーンは、可変時間間隔、例えばランダム時間間隔によって分離されていてもよい。なお、50msの期間は1つの可能な例にすぎない。
【0068】
50ms周期の音は正弦波(即ち、単一周波数)のトーンであってもよいが、ホワイト・ノイズ又はピンク・ノイズが等しく使用されてもよい。
【0069】
WO2015/049613は、睡眠刺激を提供するために被検体に提供される刺激に対する種々のオプションを開示している。
【0070】
聴覚刺激のボリュームは、ユーザーにおける徐波を増強するために徐々に増やされてもよい。例えば、WO2018/001936に開示されているように、刺激のボリュームの制御を実行する公知の方法が存在する。
【0071】
システムが、被検体の睡眠特性、即ち、睡眠のステージ及び/又は睡眠の深さに依存して、時間の経過に伴ってマスキング音をどのように変化させるかが述べられている。
【0072】
システム機能に対する追加オプションの適応性を、以下で説明する。
【0073】
パルス化された睡眠刺激トーンは、例えば上述のように500Hzと2kHzの周波数の間でランダムに分布している。徐波活動(SWA)を増加させるために、徐波の立ち上がりが予測された場合に、ピンク・ノイズのパルスが送出されてもよいことが報告されている。この点については、次の文献を参照されたい:
Papalambros NA, Santostasi G, Malkani RG, Braun R, Weintraub S, Paller KA and Zee PC (2017) Acoustic Enhancement of Sleep Slow Oscillations and Concomitant Memory Improvement in Older Adults. Front. Hum. Neurosci. 11:109. doi: 10.3389/fnhum.2017.00109.
【0074】
全夜にわたってピンク・ノイズが出力される場合、特定のボリュームのピークが徐波を刺激するために使用されることが可能である。実質的に、一定のピンク・ノイズは、刺激トーンに対するノイズ・フロアを増加させ、一定のノイズ・フロアより上に上昇するボリューム・ピークは、徐波の増進を刺激するトーンとして効果的に作用する。
【0075】
ボリューム分布(周波数に関して)は1/f条件によって規定されるが、トータル・ボリューム(振幅)は、異なる時間にボリューム・ピークを生成するように変化させることが可能である。
【0076】
マスキング音については前述したとおりである。しかしながら、システムはまた、上述したように、音楽、ランダム・ワード等のような他の睡眠誘導音を提供することも可能である。
【0077】
既知のデバイスにおけるものと同様に、睡眠導入に使用される音(マスキング音又はカーミング・オーディオ)は、睡眠が始まると、緩やかに減らされてもよい。マスキング音のボリュームは、被検体のEEGトレースから測定した睡眠深度に反比例するように制御されてもよい。
【0078】
前述のように、睡眠深度は、デルタ・バンドのEEG電力に対するベータ・バンドのEEG電力の比率として定義される。マスキング音のボリュームに対する一般的なアルゴリズムは、次のように与えられることが可能である:
【数1】
ここで、P
setは音電力設定点であり、P
initはセッションの状態におけるユーザーによる設定ボリュームにおける音電力であり、SD
thresholdはアルゴリズムが起動される睡眠深度閾値である。SDは(例えば先行する30秒にわたる)時間平均された睡眠深度である。
【0079】
設定点の更新周波数は固定されることが可能であり(例えば、30秒)、音出力電力は、新しい設定点値に向かって線形に移行するであろう。
【0080】
睡眠の深さに加えて、徐波密度及びデルタ電力も、上記の式においてSDに取って代わる可能性のある候補である。また、心臓の自律神経機能と内側前頭皮質神経網の活動との間に密接な関係があることに起因して、シータ電力もまた有効な尺度として使用されてもよい。
【0081】
同様に、睡眠開始後に覚醒がシステムによって検出された場合には、マスキング音が再開され、外部音を遮断することによって、ユーザーがより容易に睡眠に戻ることができるようにすることが可能である。代替的に、ユーザーは、異なる種類のオーディオ、例えばマスキングからカーミングへの変更や、睡眠開始前の音声ガイドされる瞑想から、夜間に目覚めた後の穏やかな自然の音への変更を選択することができる。
【0082】
同様に、深い睡眠の期間の後に浅い睡眠がシステムによって検出された場合には、浅い睡眠中に刺激トーンが供給されないので、マスキング音を再開することができる。これは、外部音を遮断することにより、ユーザーをより容易に浅いスリープのままにすることができ、そうではない場合、外部音はユーザーを目覚めさせてしまう可能性がある。代替的に、ユーザーは、異なる種類のオーディオ、例えばマスキングからカーミングへの変更や、睡眠開始前の音声ガイドされる瞑想から、浅い睡眠が夜中に検出された場合に、穏やかな自然の音又はホワイト・ノイズへの変更を選択することができる。
【0083】
一般に、システムは、睡眠に向かう前に、マスキング音(及び、オプションとして、カーミング・オーディオ又は両者の組み合わせ)を再生し始める一方、睡眠のステージ及び睡眠の深さを同時にモニタリングする。音のボリューム及びトーン(周波数)並びにタイプは、様々な睡眠のステージに応じて制御されることが可能である。
【0084】
図2は、聴覚的な睡眠刺激を伝達するための方法を示し、本方法は、
ステップ30において、睡眠の開始前に、第1及び第2周波数バンドを含む周波数レンジにおいて、外部ノイズをマスキングするノイズ・マスキング音を生成し、
ステップ32において、特定の睡眠特性を検出し、それに応答して、ノイズ・マスキング音を第2周波数バンドで提供することを停止し、
ステップ34において、睡眠刺激トーンを第2周波数バンドで提供することを含む。
【0085】
上述したように、実施形態はコントローラを利用する。コントローラは、必要とされる種々の機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて種々の方法で実現されることが可能である。プロセッサは、必要とされる機能を実行するためにソフトウェア(例えば、マイクロコード)を使用してプログラムされることが可能な1つ以上のマイクロプロセッサを使用するコントローラの一例である。しかしながら、コントローラは、プロセッサを使用して又は使用せずに実現されることが可能であり、また、幾つかの機能を実行するための専用ハードウェアと、他の機能を実行するためのプロセッサ(例えば、1つ以上のプログラムされたマイクロプロセッサ及び関連する回路)との組み合わせとして実現されてもよい。
【0086】
本開示の様々な実施形態において使用されることが可能なコントローラ構成要素の具体例は、従来のマイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、及びフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)を含むが、これらに限定されない。
【0087】
種々の実装において、プロセッサ又はコントローラは、RAM、PROM、EPROM、及びEEPROMのような揮発性及び不揮発性コンピュータ・メモリのような1つ以上の記憶媒体に関連付けることが可能である。記憶媒体は、1つ以上のプロセッサ及び/又はコントローラ上で実行される場合に、必要とされる機能を実行する1つ以上のプログラムでエンコードされることが可能である。種々の記憶媒体は、プロセッサ又はコントローラ内に固定されていてもよいし、又は、そこに記憶される1つ以上のプログラムがプロセッサ又はコントローラ内にロードされることが可能であるように可搬型であってもよい。
【0088】
開示された実施形態に対するバリエーションは、図面、開示及び添付の請求の範囲の検討から、保護が請求される発明を実施する際に当業者によって理解され達成されることが可能である。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という言葉は、他の要素又はステップを排除しておらず、「ある(“a” or “an”)」という不定冠詞的な語は複数を排除していない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に記載された幾つかの項目の機能を遂行することが可能である。特定の複数の事項が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの事項の組み合わせが有利に利用され得ないことを示してはいない。コンピュータ・プログラムが上記で説明される場合に、それは、他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光記憶媒体又はソリッド・ステート媒体のような適切な媒体上に記憶/分配されることが可能であるが、インターネット又は他の有線又は無線の通信システムのような他の形態で分配されることも可能である。「ように適合される(“adapted to”)」という用語が特許請求の範囲又は明細書において使用される場合、「ように適合される」という用語は、「ように構成される(“configured to”)」と等価であるように意図されていることに留意されたい。特許請求の範囲における如何なる参照符号もその範囲を限定するように解釈されるべきではない。