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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】窒素酸化物吸蔵材及び排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20240305BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20240305BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B01J20/08 C
B01J23/63 A
B01D53/94 222
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022197477
(22)【出願日】2022-12-09
(62)【分割の表示】P 2019552357の分割
【原出願日】2018-11-07
(65)【公開番号】P2023039982
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017217974
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲村 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】羽田 政明
(72)【発明者】
【氏名】加古 悠馬
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-210988(JP,A)
【文献】特開2015-231598(JP,A)
【文献】特開2013-63438(JP,A)
【文献】特開2008-100230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00- 20/34
B01J 21/00- 38/74
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg1-yAl4-y(式中、yは0≦y≦0.2の数を示す)を含有し、
更に該Mg1-yAl4-yに担持されている成分として、
貴金属と、
酸化ジルコニウム、酸化プラセオジム及び酸化ニオブから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物と、
バリウム化合物と、を含有し、前記金属酸化物の含有割合が、窒素酸化物吸蔵材中、5質量%以上20質量%以下であり、Mg 1-y Al 4-y の量が、NO 吸蔵材全量中、50質量%以上93.9質量%以下である窒素酸化物吸蔵材。
【請求項2】
請求項記載の窒素酸化物吸蔵材を含む排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物吸蔵材及び排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MgAl、ZrO等の塩基性担体に貴金属を担持させた窒素酸化物(以下、「NO」ともいう)吸蔵材を、排ガス浄化に用いる技術が知られている。例えば、近年の燃費規制によりディーゼルエンジンだけでなくリーンバーンガソリンエンジンが注目されているが、これらのエンジンにおいては、常時は酸素過剰の燃料リーン条件で燃焼させ、間欠的に燃料ストイキ~リッチ条件とすることにより排ガスを還元雰囲気にしてNOを還元浄化するシステムが開発され、実用化されている。そしてこのシステムに最適な触媒として、燃料リーン雰囲気でNOを吸蔵し、燃料ストイキ~リッチ雰囲気で吸蔵されたNOを放出するNO吸蔵材及びそれを用いたNO吸蔵還元型触媒が開発されている。このようなNO吸蔵材は、通常、燃料リーン雰囲気で生成したNOを貴金属の作用でNOに酸化し、これらNOを塩基性担体に吸着し、次いで燃料ストイキ~リッチ雰囲気でNOやNOとして放出する。燃料ストイキ~リッチ雰囲気で放出されたNOやNOは、排ガス中のCOやHC(炭化水素)と反応して還元浄化される。
【0003】
NO吸蔵材としては種々の構成のものが報告されている。
例えば、特許文献1には、MgAlスピネル粉末にジルコニアゾルを添加し、更にPtとカリウムを配合してなる浄化性触媒が記載されている。
また特許文献2にも、MgAl粉末にアルカリ金属及びPtを担持させたNO吸蔵材が記載されている。特許文献2には、「NO吸蔵材としてアルカリ土類金属を担持したNO吸蔵還元型触媒では、高温におけるNO吸蔵量が低いという不具合がある。そこで塩基性担体にアルカリ金属と貴金属を担持したNO吸蔵還元型触媒とすれば、高温までNOを多量に吸蔵することができることがわかっている。」として、アルカリ土類金属がアルカリ金属に比べて、高温におけるNO吸蔵量を向上させるのに不利であることが記載されている。
【0004】
特許文献3も特許文献2と同様、アルカリ金属を用いて高温でのNO吸蔵量を高める技術に関するものである。特許文献3には、その課題の項に「塩基性担体に貴金属とアルカリ金属を担持したNO吸蔵還元型触媒では、アルカリ金属及び塩基性担体との相互作用により貴金属の活性が低下し、NOの酸化活性が低下する結果、NO吸蔵量が全体的に低下するという不具合があった。この不具合によって、高温におけるNO吸蔵能の向上効果と硝酸塩の安定化効果とが共に相殺され、高温におけるNO吸蔵能は十分とはいえなかった。」と記載されている(特許文献3の段落0008)。特許文献3記載の発明は、この課題を解決するために塩基性担体に貴金属を担持する代わりに、多孔質担体に貴金属を担持させるものである。
【0005】
また特許文献4及び5には、ジルコニア等の塩基性担体に貴金属コロイドを用いて貴金属を担持することで低温でのNO吸着速度を高めた吸蔵材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US6306360B1
【文献】特開2001-252563号公報
【文献】特開2001-259422号公報
【文献】特開2001-259416号公報
【文献】特開2001-300302号公報
【発明の概要】
【0007】
リーンバーンガソリンエンジンでの比較的負荷の小さい運転状態や、ディーゼルエンジンの排ガス等の比較的低温(例えば450℃以下、特に250~450℃)におけるNO吸蔵量は、NO吸蔵材をその触媒基材に十分な量を塗布することにより比較的容易に確保が可能である。しかし、近年排ガス規制が厳しくなってきており、さらなるNO浄化性能の向上が求められている。低温における、さらなるNO浄化性能の向上には、NO吸蔵還元型触媒に流入したNOガスをできるだけ逃さず吸蔵する必要があり、そのためにはNO吸蔵速度を高める技術が必要となる。ここでいうNO吸蔵速度とは、ある時間(例えば1秒間や、1分間など)にNO吸蔵材が吸蔵するNO量を指す。
また、NO吸蔵還元型触媒は、上述したようにディーゼルエンジンとリーンバーンガソリンエンジンの両方で使用される排ガス後処理技術であるが、ディーゼルエンジンとリーンバーンガソリンエンジンでは排ガスの温度にそれぞれ特徴があり、ディーゼルエンジンは排ガス温度が比較的低い(例えば450℃以下)が、リーンバーンガソリンエンジンにおいてはディーゼルエンジンより排ガスが平均的に高温(例えば450℃以上)となっている。したがって、ディーゼルエンジンだけでなく、リーンバーンガソリンエンジンとしても好適に利用できる、高温でのNO吸蔵量が高いNO吸蔵還元型触媒が求められている。
【0008】
このような課題に関し、特許文献1及び2には、高温でのNO吸蔵量を考慮した設計となっているが、低温でのNO吸蔵速度が高い触媒を得ることを意識した内容となっていない。
特許文献3は、上述した通り、塩基性担体以外の多孔質担体で貴金属を担持して貴金属の活性低下を回避しようとするものであるが、塩基性担体以外の多孔質担体のNO吸蔵性能は、一般に塩基性担体よりも低い。このため、特許文献3のように塩基性担体以外の担体に貴金属を担持することには、低温でのNO吸蔵性能や高温でのNO吸蔵量の点で改善の余地がある。
【0009】
また特許文献4及び5のNO吸蔵材は、高温でのNO吸蔵量を高める点について何ら考慮されていない。
【0010】
したがって本発明の課題は、排ガス浄化用触媒材料の改良にあり、更に詳細には、低温でのNO吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量とを両立させたNO吸蔵材を提供することにある。
【0011】
本発明者は、低温でのNO吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量とを両立させるNO吸蔵材の構成について鋭意検討した。その結果、Mg1-yAl4-y(式中、yは0≦y≦0.2の数を示す)を担体とし、これにバリウム化合物及び貴金属を担持させたNO吸蔵材は、これらバリウム化合物と貴金属と共に、ZrO等の特定の金属酸化物を更に担持させることで、驚くべきことに、低温でのNO吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量とを高いレベルで両立させたNO吸蔵材が得られることを見出した。
【0012】
本発明は、Mg1-yAl4-y(式中、yは0≦y≦0.2の数を示す)を含有し、更に該Mg1-yAl4-yに担持されている成分として、貴金属と、貴金属以外の金属酸化物と、バリウム化合物と、を含有する窒素酸化物吸蔵材であって、
前記金属酸化物として、酸化ジルコニウム、酸化プラセオジム、酸化ニオブ及び酸化鉄から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む、窒素酸化物吸蔵材を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、前記NO吸蔵材を含有する排ガス浄化用触媒を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のNO吸蔵材は、Mg1-yAl4-y(式中、yは0≦y≦0.2の数を示す)と、該Mg1-yAl4-yに担持されている貴金属、貴金属以外の金属酸化物及びバリウム化合物と、を有する窒素酸化物吸蔵材であって、
前記金属酸化物として、酸化ジルコニウム、酸化プラセオジム、酸化ニオブ及び酸化鉄の少なくとも一種の酸化物(以下、「特定の金属酸化物」又は単に「金属酸化物」ということもある)を含む。
【0015】
本発明のNO吸蔵材は、貴金属や金属酸化物、バリウム化合物を担持する担体として、弱塩基性又は酸性の担体ではなくMg1-yAl4-y(式中、yは0≦y≦0.2の数を示す。以下、MAOともいう)を採用する。これにより本発明のNO吸蔵材はNO吸蔵性能の高いものとなる。またバリウム化合物は一般に担体と反応しやすく、その反応がNO吸蔵材の比表面積を低減させ、NO吸蔵性能を低下させる原因となるところ、MAOはバリウム化合物と反応しづらく、MAOにバリウム化合物を担持させることで、バリウム化合物による高温でのNO吸蔵作用を高いレベルに維持することができる。
【0016】
MAOとしては、NO吸蔵性能の観点から、前記式において、y≦0.1であることがより好ましく、スピネル型のMgAlが最も好ましい。MAOの製造方法としては、例えば、アルミニウム原料及びマグネシウム原料を用いて共沈法により製造する方法が挙げられる。
【0017】
低温でのNO吸蔵速度及び高温でのNO吸蔵量の両方を向上させる観点から、MAOの量は、本発明のNO吸蔵材全量中、50質量%以上93.9質量%以下であることが好ましく、70質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。MAOの量は、例えば、NO吸蔵材をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中のMg及びAlの量をICP-AESで測定することにより求めることができる。
【0018】
本実施形態のNO吸蔵材は、MAO、貴金属、金属酸化物及びバリウム化合物に加えて、貴金属、金属酸化物又はバリウム化合物を担持するMAO以外の担体を含有していてもよい。なお、MAO以外の担体としては、Al、TiO、SiO、ゼオライト、MgO、CeO、ZrO、CeO-ZrO複合酸化物などを用いることができる。
【0019】
なお、本明細書中、担持とは、単なる混合状態ではなく、一の粒子に対して他の粒子の粒径が大幅に小さい状態で、当該一の粒子の表面上に存在することをいう。一の粒子が他の粒子を担持していることは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した時の粒径の測定により確認できる。例えば、一の粒子の表面上に存在している粒子の平均粒径は当該一の粒子の平均粒径に対して、10%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが特に好ましい。ここでいう平均粒径とは、SEMで観察した時の30個以上の粒子の最大フェレ径の平均値である。最大フェレ径とは、粒子のSEM像において、粒子の外周上の二点を二点間の距離が最大となるように選択した場合の二点間の距離である。
また、一の粒子に対し大幅に小さい粒径の他の粒子が、SEMで観察するには小さすぎ、SEMではその粒径が確認できない場合には、以下(1)及び(2)が確認できることにより、一の粒子に対し他の粒子が担持されていることを確認できる。(1)SEMに備わっているエネルギー分散型X線分析装置や、波長分散型X線分析装置を用いて、粒径の大きな一の粒子が観察される範囲に、他の粒子を構成する元素が分布していることが確認できること。(2)一の粒子を構成する元素と、他の粒子を構成する元素からなる複合化合物が粉末X線回折法で観測されないことが確認できること。
また一の粒子に対し大幅に小さい粒径の他の粒子が、SEMで観察するには小さすぎ、SEMではその粒径が確認できない場合であって、他の粒子が貴金属からなる粒子の場合、選択的に貴金属粒子のみにCOなどの吸着ガスを吸着させ、担持されている貴金属量の内、どの程度の割合が貴金属粒子の表面に出ているかを分析することによって貴金属粒子の平均的な粒径を求める方法もある。この方法はパルスインジェクション化学吸着量測定法、又は、いわゆる金属分散度測定法ともいわれる。
【0020】
本実施形態のNO吸蔵材において、MAOに担持された貴金属は、NO吸蔵材に吸着されたNOをNOに酸化するために用いられる。貴金属としては、白金族元素が挙げられ、具体的にはPt、Rh、Pd、Ir、Ru等が挙げられる。特に、酸化活性に優れている点で、Pt、Pdが好ましく挙げられる。貴金属の担持量としては、NO吸蔵材全量中、0.1質量%以上であることが、NO吸蔵材の酸化活性を高めてNO吸蔵材全体のNO吸蔵量を高いものとする点で好ましく、NO吸蔵材全量中、10質量%以下とすることが、貴金属量を低減させて経済性を高める点で好ましい。これらの観点から、貴金属の担持量としては、NO吸蔵材全量中、0.2質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。なお、貴金属はMAO上で金属原子の状態で存在していることが好ましいが、酸化物の状態で存在していてもよい。貴金属の担持量は、NO吸蔵材中の貴金属の含有量として求めることができ、例えば貴金属の担持量は、NO吸蔵材をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中の貴金属の量をICP-AESで測定することにより求めることができる。
【0021】
本発明は、MAO担体が、貴金属に加えて、特定の金属酸化物とバリウム化合物の両方を担持することを特徴の一つとしている。MAO担体上において、金属酸化物がバリウム化合物及び貴金属と共存すると、該金属酸化物が、貴金属が酸化したNOを高い速度で吸着し、さらに、このNOをバリウム化合物に効率よく引き渡すために、バリウム化合物によるNOの吸蔵速度が向上する。また、同時に吸蔵したNOの熱的安定性を増す作用があるために、高温での吸蔵量も向上する。つまり、本発明の効果は、特許文献1の実施例5とは異なり、特定の金属酸化物がMAOと混合しているのではなく、バリウム化合物と特定の金属酸化物とが同じ担体上で近接した状態とすることにより奏される。
【0022】
後述する比較例2及び3と各実施例とを比較すればわかる通り、MAO上のバリウム化合物及び貴金属に加えて更に特定の金属酸化物を担持することにより、低温におけるNO吸蔵速度が向上する。また後述する比較例1と各実施例とを比較すればわかる通り、MAO上に、金属酸化物及び貴金属に加えて更にバリウム化合物を担持することにより高温におけるNO吸蔵量を極めて高いものとすることができる。
【0023】
特定の金属酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化プラセオジム、酸化ニオブ及び酸化鉄から選ばれる少なくとも一種の金属酸化物である。特に、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ及び酸化プラセオジムから選ばれる少なくとも一種であることが、低温でのNO吸蔵速度をより一層向上できる点で好ましい。特にこれらの中でも、酸化ジルコニウムであると低温でのNO吸蔵速度だけでなく高温におけるNO吸蔵量を更に一層向上できる点で好ましい。なお、酸化ジルコニウムはZrOで示され、酸化プラセオジムはPr11で示され、酸化ニオブはNbで示され、酸化鉄はFeで示されることが好ましい。
【0024】
低温でのNO吸蔵速度及び高温でのNO吸蔵量の両方を向上させる観点から、金属酸化物の担持量は特定量であることが好ましい。この観点から金属酸化物の担持量はNO吸蔵材全量中、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが一層好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが特に好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが最も好ましい。特に、金属酸化物がジルコニウム酸化物である場合に金属酸化物の担持量が前述した範囲内であることが、低温での吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量を一層向上できる点で好ましい。金属酸化物の担持量は、NO吸蔵材中の金属酸化物の含有量として求めることができ、例えば、NO吸蔵材をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中のZr、Pr、Nb及びFeの量をICP-AESで測定することにより求めることができる。
【0025】
バリウム化合物としては、炭酸バリウム、アルミン酸バリウム、ジルコン酸バリウムが挙げられ、炭酸バリウムが、低温での吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量を一層向上できる点で好ましい。
バリウム化合物の担持量は、NO吸蔵材全量中、5質量%以上であることが、NO吸蔵材全体のNO吸蔵量を高いものとする点で好ましく、NO吸蔵材全量中、30質量%以下とすることが、高温でのNO吸蔵性能の点で好ましい。これらの観点から、バリウム化合物の担持量としては、NO吸蔵材全量中、6質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。バリウム化合物の担持量は、NO吸蔵材中のバリウム化合物の含有量として求めることができ、例えば、NO吸蔵材をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中のBaの量をICP-AESで測定することにより求めることができる。
【0026】
本実施形態のNO吸蔵材は例えば粉末状であり、BET比表面積が10m/g以上200m/g以下であることが、NO吸蔵性能が高いため好ましく、30m/g以上150m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積は、後述する実施例に記載の方法にて求めることができる。
【0027】
本実施形態のNO吸蔵材において、MAO担体表面上に、金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属はそれぞれ分散して存在している。MAO担体上の径方向又は高さ方向において、金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属は同じ位置で存在していてもよく、異なる位置に存在してもよい。異なる位置に存在する場合は、金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属のうちいずれの一種がNO吸蔵材の最表面側(担体の外側)に存在していてもよく、いずれの一種が最も担体側(NO吸蔵材の中心側)に存在していてもよい。例えば、バリウム化合物が金属酸化物よりもNO吸蔵材の表面側(担体の外側)に存在していてもよく、貴金属がバリウム化合物よりもNO吸蔵材の表面側(担体の外側)に存在していてもよい。MAO担体上の高さ方向における金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属の配置状態は、エネルギー分散型X線分析装置、若しくは波長分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡、若しくは透過型電子顕微鏡により確認できる。
【0028】
本実施形態のNO吸蔵材の製造方法の例としては、以下の各工程を有する方法を好適に挙げることができる。
【0029】
金属酸化物担持工程:特定金属の水溶性塩を含有する水溶液とMAO粉末とを混合し、得られた混合物をエバポレーターで蒸発乾固した後に焼成して、MAOに特定の金属酸化物M1が担持された粉末(M1/MAO)を得る。
バリウム化合物担持工程:前記 M1/MAOを、バリウム水溶性塩を含有する水溶液と混合し得られた混合物をエバポレーターで蒸発乾固した後に焼成して、MAOに特定の金属酸化物及びバリウム化合物が担持された粉末(M1/Ba/MAO)を得る。
貴金属担持工程:前記M1/Ba/MAOを、貴金属M2の水溶性塩を含有する水溶液と混合し、得られた混合物をエバポレーターで蒸発乾固した後に焼成して、MAOに特定の金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属M2が担持された粉末M2/M1/Ba/MAO)を得る。
【0030】
前記の金属酸化物担持工程において、特定金属の水溶性塩としては、例えば特定金属の硝酸塩が挙げられる。特定金属の水溶性塩の水溶液の濃度は、特定金属基準の濃度が0.01mol/L以上1mol/L以下であることが、効率よく金属酸化物を担持させる点やNO吸蔵性能の点で好ましい。焼成は大気雰囲気下において行うことができ、例えば500℃以上800℃以下、1時間以上10時間以下で行うことができる。
【0031】
前記のバリウム化合物担持工程において、バリウムの水溶性塩としては、例えばバリウム酢酸塩やバリウム硝酸塩が挙げられる。バリウム水溶性塩の水溶液の濃度は、バリウム濃度が0.01mol/L以上1mol/L以下であることが、効率よくバリウム化合物を担持させる点やNO吸蔵性能の点で好ましい。焼成は大気雰囲気下において行うことができ、例えば500℃以上800℃以下、1時間以上10時間以下で行うことができる。
【0032】
前記の貴金属担持工程において、貴金属の水溶性塩としては、例えば貴金属の硝酸塩、アンミン錯体塩、塩化物が挙げられる。貴金属の水溶性塩の水溶液の濃度は、貴金属濃度が0.001mol/L以上0.1mol/L以下であることが、効率よく貴金属を担持させる点やNO吸蔵性能の点で好ましい。焼成は大気雰囲気下において行うことができ、例えば450℃以上700℃以下、1時間以上10時間以下で行うことができる。
【0033】
なお、本発明のNO吸蔵材の製造方法は、前記の方法に限定されない。例えば、金属酸化物担持工程の前にMAOへのバリウム化合物担持工程を先に行い、得られたBa/MAOに金属酸化物及び貴金属を担持させてもよい。また、金属酸化物、バリウム化合物及び貴金属を同時にMAOに担持させてもよい。
【0034】
本発明のNO吸蔵材は、粉末状、ペースト状、顆粒状等のいずれの形態であってもよい。本実施形態のNO吸蔵材は、これを含有する排ガス浄化用触媒として用いることができる。例えば本実施形態のNO吸蔵材は、触媒支持体上に形成されている触媒層に含有させた排ガス浄化用触媒として用いることができる。この触媒支持体は、例えば、セラミックス又は金属材料からなる。また、触媒支持体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム形状、板、ペレット、DPF、GPF等の形状であり、好ましくはハニカム、DPF又はGPFである。また、このような触媒支持体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al-2SiO)、コージェライト(2MgO-2Al-5SiO)、チタン酸アルミニウム(AlTiO)、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料を挙げることができる。
【0035】
また、本実施形態のNO吸蔵材を上述したように触媒支持体上に形成させた触媒層からなる排ガス浄化用触媒として用いる場合、当該触媒層上に従来公知の触媒材料からなる触媒層を積層させてもよいし、逆に、触媒支持体上に従来公知の触媒材料からなる触媒層を積層させた後に、その上に本実施形態のNO吸蔵材を含む触媒層を形成させてもよい。更には、本実施形態のNO吸蔵材と従来公知の触媒材料とを混合した触媒層を触媒支持体上に形成させてもよい。
【0036】
本発明のNO吸蔵材及びそれを有する排ガス浄化用触媒は、従来のNO吸蔵材に比べて、低温でのNO吸蔵速度が向上し、また、高温でのNO吸蔵量が高レベルに維持されている。このようなNO吸蔵材は、エンジン始動時や高温運転時等幅広い温度において高いNO吸蔵性能を示す。従って、本発明のNO吸蔵材を用いた排ガス浄化用触媒は、リーンバーンガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど化石燃料を動力源とする内燃機関の排ガス浄化用触媒として、効率的にNO等の有害成分の浄化が可能であり、高い排ガス浄化性能を発揮することができる。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0038】
〔実施例1〕
(1)Zr濃度を0.2mol/Lとするオキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)水溶液を調製した。この水溶液に、MgAl粉末を分散させ、得られた分散液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固した。乾燥物を大気中で600℃で5時間焼成して、MAO粉末に対して酸化ジルコニウム(ZrO)が担持された粉末(以下「Zr/MAO粉末」ともいう)を得た。
(2)Ba濃度を0.2mol/Lとする酢酸バリウム(Ba(CHCOO))水溶液に、前記のZr/MAO粉末を分散させた。得られた分散液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固した。乾燥物を大気中、600℃で5時間焼成し、MAO粉末に対してZrO及び炭酸バリウム(BaCO)を担持させた粉末(以下「Ba/Zr/MAO粉末」ともいう)を得た。
(3)蒸留水に対して、Ba/Zr/MAO粉末を分散させ、次いでPt(NO(NH水溶液を分散液中のPt濃度が0.01mol/Lとなるように添加した。得られた分散液をロータリーエバポレーターで蒸発乾固した。乾燥物を大気中、600℃で5時間焼成し、MAO粉末に対してZrO、BaCO及びPtを担持させたNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/Zr/MAO粉末」ともいう)を得た。
なおNO吸蔵材粉末において、ZrOの担持量はNO吸蔵材粉末全量中、10質量%であり、炭酸バリウムの担持量はNO吸蔵材粉末全量中、10質量%であり、白金の担持量はNO吸蔵材粉末全量中、1質量%であった。
【0039】
〔実施例2〕
オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)の代わりに、硝酸プラセオジム(Pr(NO・6HO)を用いた。その点以外は実施例1と同様にして、MAO粉末に対してPr11及びBaCOに加えて更にPtを担持させたNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/Pr/MAO」ともいう)を得た。
【0040】
〔実施例3〕
オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)の代わりに、硝酸鉄(Fe(NO・9HO)を用いた。その点以外は実施例1と同様にして、MAO粉末に対してFe及びBaCOに加えて更にPtを担持させたNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/Fe/MAO」ともいう)を得た。
【0041】
〔実施例4〕
オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)の代わりに、ニオブ酸及び0.01mol/L シュウ酸水溶液を用いた。その点以外は実施例1と同様にして、MAO粉末に対してNb及びBaCOに加えて更にPtを担持させたNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/Nb/MAO」ともいう)を得た。
【0042】
〔実施例5~8〕
オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)水溶液とMAOとの混合比率を、Pt/Ba/Zr/MAOにおけるZrOの量がNO吸蔵材全量中、表1に記載の量となるように調整した。その点以外は実施例1と同様にしてMAO粉末に対してZrO、BaCO及びPtを担持させた実施例5~8のNO吸蔵材粉末を得た(以下それぞれ「Pt/Ba/5Zr/MAO」「Pt/Ba/15Zr/MAO」「Pt/Ba/20Zr/MAO」「Pt/Ba/30Zr/MAO」ともいう)。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1においてバリウム化合物を担持させず、前記の(3)で蒸留水に、Zr/MAO粉末をそのまま分散させて、Pt(NO(NH水溶液を添加した。その点以外は、実施例1と同様にして、MAO粉末に対してZrO及びPtを担持させた比較例1のNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Zr/MAO」ともいう)を得た。
【0044】
〔比較例2〕
実施例1においてZrOを担持させず、(2)で酢酸バリウム(Ba(CHCOO))水溶液にMAO粉末をそのまま分散させた。その点以外は、実施例1と同様にして、MAO粉末に対してBaCO及びPtを担持させた比較例2のNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/MAO」ともいう)を得た。
【0045】
〔比較例3〕
オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO・2HO)の代わりに、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)を用いた。その点以外は、実施例1と同様にして、MAO粉末に対してCeO、BaCO及びPtを担持させた比較例3のNO吸蔵材粉末(以下「Pt/Ba/Ce/MAO」ともいう)を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
〔評価〕
実施例1及び2、比較例2及び3で調製したNO吸蔵材粉末について、以下の方法にて、BET比表面積を測定したところ、実施例1で調製したNO吸蔵材粉末のBET比表面積は75.6m/g、実施例2で調製したNO吸蔵材粉末のBET比表面積は49m/g、比較例2で調製したNO吸蔵材粉末のBET比表面積は81.9m/g、比較例3で調製したNO吸蔵材粉末のBET比表面積は68.2m/gであった。
(BET比表面積の測定方法)
比表面積計QUADRASORB SI(Quantachrome社製)を用いてBET3点法にて測定した。測定の際に使用するガスは、窒素ガスとした。
【0048】
実施例1~8、比較例1~3で調製したNO吸蔵材粉末について、下記方法にて、NO吸蔵速度及び吸蔵量を評価した。結果を表2に示す。
(NO吸蔵速度及び吸蔵量評価方法)
固定床流通式反応装置を用いて下記の評価を行った。NO吸蔵材粉末100mgを、He流通下700℃に昇温して30分間、当該温度を保持する前処理をした。その後、200℃まで降温させた。前処理後の200℃の状態で、100ml/minの流量のNOガス(組成:0.1体積%NO、10体積%O、残分He)に30分間接触させた。この時の流通ガス中のNO濃度から、200℃における、NOガスとの接触開始から200秒間におけるNO吸蔵量(mol/g)をNO吸蔵速度として求めた。なお秒あたりのNO吸蔵速度(mol/(g・sec))は、ここでいうNO吸蔵量をNOガスとの接触時間である200秒で割ることにより求まる。
次いで(He100体積%)を流通させながら、NO吸蔵材粉末を更に40分間200℃で保持した後に、700℃まで昇温10℃/分で昇温させ、この時の流通ガス中のNO濃度から、450℃から700℃に昇温した際に脱離したNO量を求めた。NO吸蔵材は、ヘリウム雰囲気中において温度上昇に伴い、吸蔵していたNOを放出する。特定温度範囲における脱離NO量は、同温度範囲におけるNOの吸蔵量を意味する。
なお、これらのNO濃度の測定には、化学発光式NO測定器NOA-7000((株)島津製作所製)を用いた。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示すように、MAOに貴金属と共に特定の金属酸化物とバリウム化合物とを担持した実施例1~8のNO吸蔵材では、低温(200℃)でのNO吸蔵速度が8.21×10-5mol/g以上であり、高温(450-700℃)でのNO吸蔵量が1.38×10-4mol/g以上であることから、低温でのNO吸蔵速度と高温でのNO吸蔵量との両方が高いレベルにあることが判る。
一方、バリウム化合物を担持していない比較例1のNO吸蔵材では、低温でのNO吸蔵速度は実施例と同等であるものの、各実施例に比べて高温でのNO吸蔵量に大幅に劣ることが判る。また特定の金属酸化物を担持していない比較例2のNOx吸蔵材や特定の金属酸化物の代わりにセリアを担持した比較例3のNO吸蔵材では、高温でのNO吸蔵量は、実施例と同等であるものの、各実施例に比べて低温でのNO吸蔵速度に劣ることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、低温での高いNO吸蔵速度と高温での高いNO吸蔵量とを兼ね備えたNO吸蔵材が提供される。また本発明によれば、前記のNO吸蔵材を有し、NO浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒が提供される。