IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

特許7448637工作機械の制御装置、制御システム、及び制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置、制御システム、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 5/36 20060101AFI20240305BHJP
   B23C 3/04 20060101ALI20240305BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240305BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B23B5/36
B23C3/04
G05B19/18 C
B23Q15/00 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022510602
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012272
(87)【国際公開番号】W WO2021193728
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2020056665
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤弥
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-188103(JP,U)
【文献】特開2014-188665(JP,A)
【文献】特開2008-264937(JP,A)
【文献】特開昭63-099114(JP,A)
【文献】特開平02-181805(JP,A)
【文献】特開平04-164557(JP,A)
【文献】実開平03-109701(JP,U)
【文献】特開昭63-105802(JP,A)
【文献】米国特許第06298758(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 5/36
B23C 3/04
G05B 19/18
B23Q 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、前記第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御装置であって、
前記刃具の本数を記憶する加工設定記憶部と、
位相合わせ前の回転している前記第1の軸と第2の軸との位相を以下の数式(1)を用いて算出する現在位相算出部と、
ただし、R CURRENT は、位相合わせ前の回転している第1の軸と第2の軸との位相、Yは第1の軸の現在位置、Xは第2の軸の現在位置、Q/Pは第1の軸と第2の軸の回転比である。Pは第2の軸の回転回数、Qは第1の軸の回転回数であり、
加工プログラムで指定される位相、及び、前記加工プログラムで指定される位相から、前記複数の刃具のそれぞれの間隔だけずらしたときの位相を算出する加工可能位相算出部と、
前記加工可能位相算出部で算出した複数の位相の中から、位相を合わせるまでに掛かる時間が最も短くなる位相を求める最適位相算出部と、
前記最適位相算出部で算出した位相に合うように前記第1の軸と第2の軸が回転するように制御する位相合わせ制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記加工可能位相算出部は、前記加工プログラムで指定される位相指令値と、前記刃具の本数とを基に、加工が可能な位相を複数算出する、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記最適位相算出部は、前記位相合わせ前の位相と、前記加工が可能な位相の差から、前記第1の軸と第2の軸との位相を変化させるのに必要な時間が最も短い最適位相を算出する、請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、前記第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御システムであって、
前記刃具の本数を記憶する加工設定記憶部と、
位相合わせ前の回転している前記第1の軸と第2の軸との位相を以下の数式(2)を用いて算出する現在位相算出部と、
ただし、R CURRENT は、位相合わせ前の回転している第1の軸と第2の軸との位相、Yは第1の軸の現在位置、Xは第2の軸の現在位置、Q/Pは第1の軸と第2の軸の回転比である。Pは第2の軸の回転回数、Qは第1の軸の回転回数であり、
加工プログラムで指定される位相、及び、前記加工プログラムで指定される位相から、前記複数の刃具のそれぞれの間隔だけずらしたときの各位相を算出する加工可能位相算出部と、
前記加工可能位相算出部で算出した複数の位相の中から、位相を合わせるまでに掛かる時間が最も短くなる位相を求める最適位相算出部と、
前記最適位相算出部で算出した位相に合うように前記第1の軸と第2の軸が回転するように制御する位相合わせ制御部と、
を備える、制御システム。
【請求項5】
複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、前記第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御方法であって、
前記刃具の本数を記憶し、
前記第1の軸の現在位置と、第2の軸の現在位置と、加工プログラムで指令される回転比とを基に、前記第1の軸と第2の軸との位相合わせ前の位相を以下の数式(3)を用いて算出し、
ただし、R CURRENT は、第1の軸と第2の軸との位相合わせ前の位相、Yは、第1の軸の現在位置、Xは第2の軸の現在位置、Q/Pは、加工プログラムで指定される回転比であり、
前記加工プログラムで指定される位相指令値と、前記刃具の本数とを基に、加工が可能な位相を複数算出し、
前記位相合わせ前の位相と、前記加工が可能な位相の差から、前記第1の軸と第2の軸との位相を変化させるのに必要な時間が最も短い最適位相を算出し、
前記最適位相を基準とし、前記第1の軸と前記第2の軸の位相合わせを行う、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の刃具を備えた工具によって行われるポリゴン加工を制御する制御装置、制御システム、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工具とワークとを一定の比率で回転させることにより、ワークの外周面を多角形(ポリゴン:polygon)に加工するポリゴン加工が存在する。ポリゴン加工では、刃具の数や工具軸とワーク軸との回転比を調整してワークの表面を多角形状に加工する。例えば、工具軸に取り付けられた刃具の数が2本、ワーク軸と工具軸の回転比が1:2の場合、ワーク軸が1回転する間に、工具軸が2回転し、2本の刃具がそれぞれ2箇所、合計4箇所を切削して、ワークの外周面は4角形になる。工具軸に取り付けられた工具の数が3本、ワーク軸と工具軸の回転比が1:2の場合、ワークの外周面は6角形になる。
【0003】
ポリゴン加工を行う工作機械では、正確な切削を行うために、ワーク軸と工具軸との位相合わせを行うことがある。例えば、ワークを荒加工した後、回転数を変えて仕上げ加工を行ったり、ワーク側面の特定位置に多角形の頂点ができるように加工したり、ワークと工具とを一旦離したのち別の位置から再加工を行ったりする場合には、ワーク軸と工具軸とが一定の位相(相対的な角度)になるよう回転させる(例えば、ワーク軸が0度であるときに、工具軸も必ず90度になるように回転させる)必要がある。
【0004】
一例をあげると、図11Aのように、ワークの両端を六角形に加工する場合、一端側の加工面と他端側の加工面の位置合わせを行う必要がある。ワーク軸と工具軸の位相がずれている場合、図11Bに示すように、加工面がずれてしまう。位相合わせが必要な場合には、図11Cに示すように、ワーク軸と工具軸の位相を合わせてから加工を開始する。
【0005】
特許文献1には『主軸を主軸原点等の予め定められた所定の定点の位置に停止させるだけで、ワークWの外周面に対して、互いに所定の位置関係を合わせる必要があるポリゴン加工を簡単に行うことができる』と記載されている。
【0006】
【文献】特開2014-188660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、工具を所定の位置で停止させることにより、複数回の加工の位相を同期させるものである。しかしながら、特許文献1の技術では、工具を一旦停止させる必要がある。
【0008】
ワーク軸と工具軸を回転させたまま位相合わせをする場合、ワーク軸または工具軸を加速または減速させることで位相をシフトさせる。このとき、位相合わせ前後の位相差が大きい場合には、図9Aおよび図9Bに示すように、位相をシフトする量が多くなり、位相合わせにかかる時間が長くなる。
【0009】
複数の刃具を有するポリゴン加工装置では、位相合わせにかかる時間を短縮する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様の制御装置は、複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御装置であって、刃具の本数を記憶する加工設定記憶部と、位相合わせ前の回転している第1の軸と第2の軸との位相を算出する現在位相算出部と、加工プログラムで指定される位相、及び、加工プログラムで指定される位相から、複数の刃具の間隔だけ、第1の軸の角度をずらしたときの位相を算出する加工可能位相算出部と、加工可能位相算出部で算出した複数の位相の中から、位相を合わせるまでに掛かる時間が最も短くなる位相を求める最適位相算出部と、最適位相算出部で算出した位相に合うように第1の軸と第2の軸が回転するように制御する位相合わせ制御部と、を備える。
【0011】
本開示の一態様の制御システムは、複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御システムであって、刃具の本数を記憶する加工設定記憶部と、位相合わせ前の回転している第1の軸と第2の軸との位相を算出する現在位相算出部と、加工プログラムで指定される位相、及び、加工プログラムで指定される位相から、複数の刃具の間隔だけ、第1の軸の角度をずらしたときの位相を算出する加工可能位相算出部と、加工可能位相算出部で算出した複数の位相の中から、位相を合わせるまでに掛かる時間が最も短くなる位相を求める最適位相算出部と、最適位相算出部で算出した位相に合うように第1の軸と第2の軸が回転するように制御する位相合わせ制御部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様の制御方法は、複数の刃具を備えた工具を回転させる第1の軸と、ワークを回転させる第2の軸とを有し、第1の軸と第2の軸とを同時に回転させて、ポリゴン加工を行う工作機械を制御する制御方法であって、刃具の本数を記憶し、第1の軸の現在位置と、第2の軸の現在位置と、加工プログラムで指令される回転比とを基に、第1の軸と第2の軸との位相合わせ前の位相を算出し、加工プログラムで指定される回転比と、加工プログラムで指定される位相指令値と、刃具の本数とを基に、加工が可能な位相を複数算出し、位相合わせ前の位相と、加工が可能な位相の差から、第1の軸と第2の軸との位相を変化させるのに必要な時間が最も短い最適位相を算出し、最適位相を基準とし、第1の軸と第2の軸の位相合わせを行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、複数の刃具を有するポリゴン加工装置において、位相合わせにかかる時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示における数値制御装置のハードウェア構成図である。
図2】本開示における数値制御装置のブロック図である。
図3】工具軸を一時的に減速させて位相合わせをしたときの図である。
図4】ワーク軸を一時的に加速させて位相合わせしたときの図である。
図5】本開示のポリゴン加工の位相合わせを示す図である。
図6】ワークの現在位置X、工具の現在位置Y、工具本数Tの関係を示す図である。
図7】本開示の位相合わせ方法について説明するフローチャートである。
図8】新しい位相指令値R′NEWの算出手順を説明するフローチャートである。
図9A】従来の位相合わせを説明する図である。
図9B】従来の位相合わせを説明する図である。
図10A】本開示の位相合わせを説明する図である。
図10B】本開示の位相合わせを説明する図である。
図10C】本開示の位相合わせを説明する図である。
図11A】ポリゴン加工における位相合わせの必要性を説明する図である。
図11B】ポリゴン加工における位相合わせの必要性を説明する図である。
図11C】ポリゴン加工における位相合わせの必要性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の制御装置を数値制御装置100に実装した一実施形態を示す。
図1は一実施形態による数値制御装置100のハードウェア構成図である。
【0016】
本実施形態による数値制御装置100が備えるCPU111は、数値制御装置100を全体的に制御するプロセッサである。CPU111は、バス120を介してROM112に格納されたシステム・プログラムを読み出し、該システム・プログラムに従って数値制御装置100の全体を制御する。RAM113には一時的な計算データや表示データ、入力部30を介してオペレータが入力した各種データ等が一時的に格納される。
【0017】
不揮発性メモリ114は、例えば図示しないバッテリでバックアップされたメモリやSSD(Solid State Drive)等で構成される。不揮発性メモリ114は、数値制御装置100の電源がオフされても記憶状態を保持する。不揮発性メモリ114には、インタフェース115を介して外部機器72から読み込まれたプログラムや入力部30を介して入力されたプログラムが記憶される。また、不揮発性メモリ114には、数値制御装置100の各部や工作機械等から取得された各種データ(例えば、工作機械から取得した設定パラメータ等)が記憶される。不揮発性メモリ114に記憶されたプログラムや各種データは、実行時/利用時にはRAM113に展開されても良い。また、ROM112には、公知の解析プログラムなどの各種のシステム・プログラムがあらかじめ書き込まれている。
【0018】
インタフェース115は、数値制御装置100とアダプタ等の外部機器72と接続するためのインタフェースである。外部機器72側からはプログラムや各種パラメータ等が読み込まれる。また、数値制御装置100内で編集したプログラムや各種パラメータ等は、外部機器72を介して外部記憶手段に記憶させることができる。PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)116は、数値制御装置100に内蔵されたシーケンス・プログラムで工作機械やロボット、該工作機械や該ロボットに取り付けられたセンサ等のような装置との間でI/Oユニット117を介して信号の入出力を行い制御する。
【0019】
表示部70には、メモリ上に読み込まれた各データ、プログラム等が実行された結果として得られたデータ等がインタフェース118を介して出力されて表示される。また、MDIや操作盤、タッチパネル等から構成される入力部30は、インタフェース119を介して作業者による操作に基づく指令やデータ等をCPU111に渡す。
【0020】
工作機械の各軸を制御するための軸制御回路130はCPU111からの軸の移動指令を受けて、軸の指令をサーボアンプ140に出力する。サーボアンプ140はこの指令を受けて、工作機械が備える軸を移動させるサーボモータ150を駆動する。軸のサーボモータ150は位置・速度検出器を内蔵し、この位置・速度検出器からの位置・速度フィードバック信号を軸制御回路130にフィードバックし、位置・速度のフィードバック制御を行う。なお、図1のハードウェア構成図では軸制御回路130、サーボアンプ140、サーボモータ150は1つずつしか示されていないが、実際には制御対象となる工作機械に備えられた軸の数だけ用意される。後述する機能ブロック図(図2)では、ワーク軸用と工具軸用の少なくとも2つのサーボモータが存在する例を示す。
【0021】
スピンドル制御回路160は、工作機械の主軸を回転させる主軸回転指令を受け、スピンドルアンプ161にスピンドル速度信号を出力する。スピンドルアンプ161はこのスピンドル速度信号を受けて、主軸のスピンドルモータ162を指令された回転速度で回転させる。スピンドルモータ162にはポジションコーダ163が結合され、ポジションコーダ163が主軸の回転に同期して帰還パルスを出力する。出力された帰還パルスはCPU111によって読み取られる。
【0022】
図2は、本開示の一実施形態である数値制御装置100のブロック図である。数値制御装置100は、現在位相算出部11と、加工可能位相算出部12と、最適位相算出部13と、プログラム解析部41と、位相合わせ制御部20と、軸制御部30と、加工設定記憶部40と、加工中データ記憶部50と、加工プログラム記憶部42と、を備える。
【0023】
数値制御装置100は、ポリゴン加工を行う工作機械に接続されている。ポリゴン加工を行う工作機械は、第1の軸としての工具軸と、第2の軸としてのワーク軸とを有し、ワーク軸にはワークが取り付けられており、工具軸には工具が取り付けられている。工具軸とワーク軸にはサーボモータ150が取り付けられており、サーボアンプ140は位相合わせ制御部20からの指令に従いサーボモータ150の位相合わせを行う。
【0024】
加工設定記憶部40は、工具軸に取り付けられた刃具の本数Tを記憶している。
【0025】
プログラム解析部41は、ワークと工具の回転比P:Q、位相指令値R(角度)を加工プログラムから抽出する。位相指令値Rとは、工具軸とワーク軸の位相差を指定するための指令である。
【0026】
加工中データ記憶部50は、ワーク軸及び工具軸の加工中の位置(角度)を記憶している。ワーク軸と工具軸の位置は、サーボアンプ140からフィードバックされる。
【0027】
現在位相算出部11は、加工中データ記憶部50に記憶するワーク軸の現在位置X、工具軸の現在位置Y、プログラム解析部41から出力される回転比から、位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTを算出する。
【0028】
加工可能位相算出部12は、加工設定記憶部40に記憶する刃具の本数T、プログラム解析部41から出力される回転比、及び位相指令値から、加工が可能な条件を満たすワーク軸と工具軸の位相差を算出する。この条件を満たす位相差は刃具の本数と同じ数だけある。
【0029】
最適位相算出部13は、ワーク軸と工具軸の位相を、加工が可能な条件を満たす位相差になるまで変化させるときの変化量を、ワーク軸と工具軸がそれぞれ加速または減速が可能かどうかを考慮しながら算出する。最適位相算出部13は、位相を変化させるときの変化量が最小になる位相差から新しい位相指令値を決定する。
【0030】
位相合わせ制御部20は、加工中データ記憶部50に記憶するワーク軸の現在位置X、工具軸の現在位置Y、最適位相算出部13が算出した新しい位相指令値に基づき、ワーク軸と工具軸の移動量を軸制御部30に出力する。
【0031】
軸制御部30は、軸の移動指令を工具軸及びワーク軸に出力する。サーボモータ150は、軸の移動指令に従い工具軸及びワーク軸を制御する。工具軸及びワーク軸の位置情報X、Yは、数値制御装置100にフィードバックされる。
【0032】
本開示のポリゴン加工では、新しい位相指令値を算出し、この位相指令値でポリゴン加工を行う。位相を変化させるときの変化量が最小になる位相指令値で位相合わせを行うことにより、位相合わせに要する時間を短縮できる。
【0033】
以下、従来のポリゴン加工の位相合わせと比較しながら本開示のポリゴン加工の位相合わせについて説明する。
【0034】
[従来の位相合わせ]
図3、4は、従来のポリゴン加工において位相合わせしたときの工具軸の時間変化を示している。図3は、工具軸を減速させて位相合わせしたときの図である。図4は、ワーク軸を加速させて位相合わせしたときの図である。これらの図において、実線は実際の工具軸の角度を示している。破線は、回転比と、位相指令値と、ワーク軸の実際の角度から算出した、位相が合っているときの工具軸の角度を示している。
従来は、ワーク軸と工具軸の少なくとも一方を、指令されている回転速度から加速、又は減速させることで、ワーク軸と工具軸の位相を位相指令値によって決まる位相に合わせる。
【0035】
[本開示の位相合わせの概要]
図5は、本開示のポリゴン加工の位相合わせを示している。本開示のポリゴン加工では、加工が可能な条件を満たすワーク軸と工具軸の位相差を算出する。図5の3種類ある破線は、加工プログラムで指令される位相指令値の位相と一致しているときの工具軸の角度と、その角度から刃具の間隔だけ角度をずらしたときの工具軸の角度を示している。この図5では、刃具の本数を3本としている。
図5の例では、実際の工具軸を一時的に減速させて、加工プログラムで指令される位相指令値の位相と一致しているときの工具軸の角度から240度ずらしたときの位相に合わせている。位相の変化量が少なくなる位相になる位相指令値を選択することにより、位相合わせに要する時間が短縮できる。
【0036】
[本開示の位相合わせの説明]
本開示の位相合わせについて具体的に説明する。前提として、回転比P:Qは、ワーク軸がP回転する間に工具軸がQ回転する、と定義する。また、回転比P:Q、位相指令値Rを指定し、位相が一致している状態では、ワーク軸の現在位置をX、工具軸の現在位置をYとすると、XとYが常に以下の数1式を満たすように、ワーク軸と工具軸が指定された回転速度で回転する。
【0037】
【数1】
【0038】
上記の式では、任意の角度Aと、Aに360の整数倍の数値を足した角度は等しいとする。
位相合わせをする直前のワーク軸と工具軸は、回転比P:Qを満たしつつ、指令された回転速度で回転しているとする。
以下の説明では、軸の原点(ゼロ点)は、図面最上部の矢印の指す位置とする。軸上の位置は1回転する(360°を超える)毎に丸められてゼロになる。
本開示の位置合わせでは、最初に、位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTを算出する。
ワーク軸の現在位置をXと、工具軸の現在位置をYとした場合、回転比P:Qから、上記の位相RCURRENTは数2式より、以下のように計算できる。
【0039】
【数2】
【0040】
刃具が複数本ある場合、工具を刃具の間隔だけ回転させると、刃具の順番が入れ替わるだけであり、刃具がある位置は変化しない。そのため、位相が一致している状態から工具軸が刃具の間隔だけずれる状態で加工しても、位相が一致している状態と同じ加工結果になる。刃具の本数をTとした場合、位相指令値で指定した加工結果になる位相は、数1式より、以下のように表せる。
【0041】
【数3】
上記数3式より、数1式の位相指令値Rを、以下の数4式に示すように位相指令値RNEW(n)に置き換えることができる。
【0042】
【数4】
【0043】
数4式で求められる加工可能な位相指令値RNEW(n)のうち、数2式で求められる位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTから位相合わせをするときの位相の変化量が最も少なくなる新しい位相指令値R′NEWを算出し、位相合わせ制御部20で使用する。
【0044】
位相の変化量は、例えば、ワーク軸と工具軸を自由に制御できる場合は、位相合わせ前と後の位相指令値の差が最も少ないときが、最も少なくなる。また、工具軸を一時的に減速して位相を変化させることしかできない場合は、位相RCURRENTを減少させていく方向にのみ変化させることができる。そのため、上記の方向で最も近い位相指令値が、位相の変化量を最も少なくすることができる。
【0045】
[本開示の位相合わせの計算例]
本開示の位相合わせを、実際の数値を用いて説明する。加工設定記憶部40は、刃具の本数T=3を記憶している。加工プログラムにおいて、回転比1:2、位相指令値R=60として指令する。位相合わせ開始前のワーク軸の現在位置X=90、工具軸の現在位置Y=330とする。図6は、ワークの現在位置X、工具の現在位置Y、工具本数Tの関係を示している。
図6に示すように、ワークの現在位置Xはワーク軸の原点(図面最上部の矢印の指す位置)から反時計回りに90°の位置である。工具の現在位置Yは工具軸の原点から反時計回りに330°の位置である。
【0046】
位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTは、ワークの現在位置X、工具の現在位置Y、回転比1:2を数2式に代入して以下のように算出できる。
【0047】
【数5】
【0048】
ワークの現在位置X、工具の現在位置Y、回転比1:2、位相指令値Rを数4式に代入すると加工可能な位相指令値RNEW(n)は以下のように算出できる。RNEW(n)の値は、刃具の本数だけ存在する。
【0049】
【数6】
【0050】
位相の変化量は、位相合わせの方法やワーク軸と工具軸の最大回転数などの制限を考慮して求めるが、これらの制限がない場合には、RCURRENTに最も近いRNEW(n)の値が新しい位相指令値R′NEWとなる。位相合わせ制御部20は、新しい位相指令値R′NEWを用いて位相合わせを行う。
【0051】
次いで、図7を参照して、本開示の数値制御装置100の位相合わせ方法について説明する。加工プログラムを開始する前に、刃具の本数を設定する。ここでは刃具の本数T=3とする(ステップS1)。
【0052】
次いで、加工プログラムを開始する(ステップS2)。プログラム解析部41は、加工プログラムを解析し、まず、ワーク回転軸の回転を開始する(ステップS3)。さらに、プログラム解析部41は、ワークと工具の回転比P:Q=1:2、位相指令値R=60でポリゴン加工を開始する指令を解析する(ステップS4)。軸制御部30は、加工プログラムの指令に従い、ワーク軸と工具軸を回転させる。
【0053】
ワーク軸と工具軸がポリゴン加工の指定速度に到達すると(ステップS5)、新しい位相指令値R′NEWの算出を開始する(ステップS6)。
【0054】
新しい位相指令値R′NEWが決定すると、工具軸又はワーク軸を一時的に減速又は加速させて、新しい位相指令値R′NEWに位相を合わせる(ステップS7)。位相合わせが完了すると、ポリゴン加工による切削を行う(ステップS8)。
【0055】
図8を参照して、ステップS6の新しい位相指令値R′NEWの算出手順を説明する。新しい位相指令値の算出では、ワーク軸の現在位置Xと工具軸の現在位置Yを取得し(ステップS11)、位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTを算出する(ステップS12)。そして、加工可能位相算出部12は、刃具の本数Tを用いて、加工可能な位相指令値RNEW(n)を算出する(ステップS13)。RNEW(n)は刃具の本数T個ある。最適位相算出部13は、位相合わせの方法やワーク軸と工具軸の最大回転速度などの制限を考慮しながら、位相を変化させるときの変化量が最小になる新しい位相指令値R′NEWを選択する(ステップS14)。
【0056】
図9A及び図9Bは従来の位相合わせ、図10A図10Cは本開示の位相合わせを示している。図9A及び図9B、ならびに図10A図10Cは、共に、ワーク軸0度、工具軸195度のときの位相の変化量を示している。従来は加工時に指令された位相(位相指令値R)を基準に位相合わせを行っている。そのため、上記の条件では、図10Aに示すように、位相指令値は90度となる。
ポリゴン加工では複数の刃具を有するため、工具軸の角度を刃具の間隔だけずらした位相で位相合わせを行っても問題はないため、適切な位相は刃具の数だけある。
本開示では、図10Bに示すように、複数の位相から、適当な位相を選択し、位相合わせにかかる時間が最も短くなる(位相の変化量が最も少ない)ようにしている。図10Cの例では位相指令値を90度から210度に変更することで位相の変化量が少なくなる。
【0057】
以上説明したように本開示の数値制御装置100は、ポリゴン加工の位相合わせにおいて、位相合わせ前のワーク軸と工具軸の位相RCURRENTと、加工可能な位相指令値RNEW(n)を算出し、位相合わせの方法や最大回転数などの制限を考慮しながら、新しい位相指令値R′NEWを算出する。工具軸又はワーク軸の変化量が短くなり、位相合わせに要する時間が短くなる。
【符号の説明】
【0058】
100 数値制御装置
111 CPU
11 現在位相算出部
12 加工可能位相算出部
13 最適位相算出部
20 位相合わせ制御部
30 軸制御部
40 加工設定記憶部
41 プログラム解析部
42 加工プログラム記憶部
50 加工中データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C