(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ヨウ化水素酸製造用電気透析膜、バイポーラ膜電気透析装置、およびヨウ化水素酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 61/46 20060101AFI20240305BHJP
C01B 7/13 20060101ALI20240305BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240305BHJP
C25B 1/16 20060101ALI20240305BHJP
C25B 1/24 20210101ALI20240305BHJP
C25B 9/21 20210101ALI20240305BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240305BHJP
【FI】
B01D61/46 500
C01B7/13
B01D61/44 510
C25B1/16
C25B1/24
C25B9/21
C25B13/04 301
(21)【出願番号】P 2023114605
(22)【出願日】2023-07-12
【審査請求日】2023-07-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392000888
【氏名又は名称】株式会社合同資源
(73)【特許権者】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100169498
【氏名又は名称】水長 雄大
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 優樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 正一
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157237(JP,A)
【文献】特開2003-012835(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047700(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/192951(WO,A1)
【文献】特開2009-023847(JP,A)
【文献】特開平07-000769(JP,A)
【文献】特開2017-190417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/42-54
B01J 39/00-24
C01B 7/13
C08J 5/20-22
C25B 1/16-24
C25B 9/00-77
C25B 13/00-08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化水素酸を製造する、バイポーラ膜電気透析装置に用いられるカチオン交換膜からなる、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜であって、
前記カチオン交換膜は、
高空隙基材と、
前記高空隙基材の空隙部に充填されたカチオン交換樹脂相と、を有し、
前記高空隙基材が多孔性フィルムであり、
前記多孔性フィルムの平均細孔径は、0.015μm~0.4μm以下であり、
前記多孔性フィルムは、高分子増粘剤を含まず、かつ、JIS-K0070(1992)に準拠して測定されるヨウ素価が26mg/100mg以上の高分子を含まないものであり、
前記カチオン交換樹脂相が、架橋性単量体を重合してなる架橋性カチオン交換樹脂相であり、
下記の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験に従って測定される、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率が70%以上である、
ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験)
前記カチオン交換膜を用いて、片面の表面積が25cm
2のシートサンプルを準備する。
前記シートサンプルを、液温が40℃、pH12に調整した飽和NaIO
4水溶液に30日間浸漬する、浸漬処理を実施する。
前記浸漬処理前の前記シートサンプル、および前記浸漬処理後のシートサンプルについて、JIS P8112に準拠して、ミューレン破裂強度(MPa)を測定し、それぞれ、S0、S30とする。ただし、前記浸漬処理後のシートサンプルは、イオン交換水で水洗した後、乾燥させないで測定に使用する。
得られた前記ミューレン破裂強度の測定値を用いて、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率を次式により算出する。
破裂強度保持率(%)=(S30/S0)×100
【請求項2】
請求項1に記載のカチオン交換膜であって、
前記カチオン交換樹脂相が、カチオン交換樹脂以外の高分子成分として、JIS-K0070(1992)に準拠して測定されるヨウ素価が23mg/100mg以上の高分子を含まない、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカチオン交換膜であって、
前記高空隙基材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂で構成される、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順により測定される、前記カチオン交換膜の含水率が30%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(含水率の測定手順)
前記カチオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗する。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量W(g)を測定する。
さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さD(g)を測定する。
得られた質量の測定値に基づいて、前記カチオン交換膜の含水率を次式により求める。
含水率(%)=100×(W-D)/D
【請求項5】
請求項1又は2に記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順に従って測定される、前記高空隙基材の空隙率が、20%以上90%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(空隙率の測定手順)
前記高空隙基材からXcm×Ycmの矩形のサンプルを切り出し、微少測厚器(端子径Φ:5mm、測定圧:62.47kPa)を用いサンプル厚みT(μm)を測定する。別に前記サンプルの質量M(g)を測定し、これらの測定値と、前記高空隙基材の材料樹脂の密度ρ(g/cm
3)を用いて、下記式により前記高空隙基材の空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)={1-(10000×M/ρ)/(X×Y×T)}×100
【請求項6】
ヨウ化水素酸を製造する、バイポーラ膜電気透析装置であって、
陽極、陰極、カチオン交換膜、アニオン交換膜、およびバイポーラ膜を備え、
前記陽極と前記陰極との間に、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜とが交互に配置され、それらの間に前記バイポーラ膜が配置された膜構造を備えており、
前記カチオン交換膜として、請求項1又は2に記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備える、バイポーラ膜電気透析装置。
【請求項7】
バイポーラ膜電気透析装置を用いて、ヨウ化水素酸を製造する、ヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記バイポーラ膜電気透析装置が、
陽極、陰極、カチオン交換膜、アニオン交換膜、およびバイポーラ膜を備え、
前記陽極と前記陰極との間に、前記カチオン交換膜と前記アニオン交換膜とが交互に配置され、それらの間に前記バイポーラ膜が配置された膜構造を備えており、
前記カチオン交換膜として、請求項1又は2に記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備えるバイポーラ膜電気透析装置を用いて、ヨウ化物塩水溶液をヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、
ヨウ化水素酸の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩水溶液が、ヨウ化アルカリ金属塩およびヨウ化アルカリ土類金属塩の少なくとも一方を含む水溶液である、ヨウ化水素酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜、それを装着したバイポーラ膜電気透析装置、およびその装置を用いたヨウ化水素酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでヨウ素を含む廃液からヨウ素を分離する技術や、分離して得られたヨウ素の利用方法に関して様々な開発がなされてきた。例えば、特許文献1には、ヨウ素とカリウムを含有する廃液から電気透析法によりヨウ化カリウムを濃縮し、次いで、このヨウ化カリウム濃縮液をバイポーラ膜電気透析法によりヨウ化水素酸と水酸化カリウム水溶液に分離するヨウ化水素酸の製造方法が開示されている。この方法によれば、偏光フィルム等を製造する際に生じる廃液から電気透析法によりヨウ素及びホウ素をそれぞれ分離すると共に、バイポーラ膜電気透析法によりヨウ化カリウムからヨウ化水素酸を生成しているため、廃液に含まれるヨウ素を原料にヨウ化水素酸を製造できると共に、廃液中のホウ素も濃縮、分離でき、効率よく回収することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の方法は、ヨウ素を含有する廃液から、多数の工程を経ることなく、高効率、低コストでヨウ化水素酸が製造できる優れた方法である。一方で、本発明者らの検討によれば、後段の、ヨウ化カリウム濃縮液をバイポーラ膜電気透析法によりヨウ化水素酸と水酸化カリウム水溶液に分離する工程においては、イオン交換膜の耐久性が課題であることが分かった。すなわち、上記方法によりヨウ化水素酸の製造を継続していると、徐々にアルカリ室と塩室の間で液移動が進み始め、その結果、水酸化カリウム水溶液の製造効率が低下するだけでなく、塩室からヨウ化水素酸室へ水酸化カリウムが混入し、得られるヨウ化水素酸の純度が低下することがあった。この時、電気透析槽を解体して各イオン交換膜の特性を評価すると、アルカリ室と塩室を仕切るカチオン交換膜に、電気抵抗の低下、含水率の上昇、カチオン選択性の低下や機械的強度の低下などの膜特性の変化が顕著に認められた。こうした劣化はカチオン交換膜のアルカリ液側から発生していた。さらに、より長時間の運転後には、膜体からのイオン交換樹脂塊が剥離脱落するなどの現象が生じて隔膜機能が損なわれ、これにより前記したヨウ化水素酸の継続的製造が困難になることがあった。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、解決すべき課題は、ヨウ化水素酸を継続して安定して製造可能となるように、後述する酸化態ヨウ素の酸化力に耐性のある電気透析用カチオン交換膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、カチオン交換膜の上記劣化に関して鋭意研究を行い、処理対象であるヨウ素に関わって以下のような劣化メカニズムを推定した。すなわち、廃液中に含まれるヨウ化物イオン(I-)は、光や熱、酸素との接触など様々な要因によって比較的簡単に酸化されヨウ素分子(I2)が生成する。該ヨウ素分子がカチオン交換膜を拡散するなどしてアルカリ室に入ると、直ちに酸化力の高いヨウ素酸イオンIO3
-や過ヨウ素酸イオンIO4
-に変化する。この時、カチオン交換膜が、構成成分として、酸化攻撃に対する耐性の低い、不飽和結合を有するゴムなどを有していると、この不飽和結合がヨウ素酸イオン及び/又は過ヨウ素酸イオンにより酸化攻撃され簡単に主鎖切断が起きる。主鎖切断が一定以上起きた場合には、ゴム成分が低分子量化しカチオン交換膜の膜体から剥離脱落して多孔化し、ついには隔膜として機能しなくなる。
【0006】
本発明者らは上記推定メカニズムに基づいてさらに研究を進め、過ヨウ素酸塩水溶液を酸化剤として用いることで劣化挙動を再現性良く調べられることを見出した。さらに、過ヨウ素酸塩水溶液を用いたカチオン交換膜の劣化試験の中で、上記した不飽和結合の含有量や、その他の膜特性を制御してやれば、カチオン交換膜の酸化耐性が向上し安定してヨウ化水素酸の製造が可能になることを見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0007】
本発明の一態様によれば、以下のヨウ化水素酸製造用電気透析膜、電気透析装置、およびヨウ化水素酸の製造方法が提供される。
【0008】
1. ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置に用いられるカチオン交換膜からなる、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜であって、
前記カチオン交換膜は、
高空隙基材と、
前記高空隙基材の空隙部に充填されたカチオン交換樹脂相と、を有し、
下記の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験に従って測定される、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率が70%以上である、
ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験)
前記カチオン交換膜を用いて、片面の表面積が25cm2のシートサンプルを準備する。
前記シートサンプルを、液温が40℃、pH12に調整した飽和NaIO4水溶液に30日間浸漬する、浸漬処理を実施する。
前記浸漬処理前の前記シートサンプル、および前記浸漬処理後のシートサンプルについて、JIS P8112に準拠して、ミューレン破裂強度(MPa)を測定し、それぞれ、S0、S30とする。ただし、前記浸漬処理後のシートサンプルは、イオン交換水で水洗した後、乾燥させないで測定に使用する。
得られた前記ミューレン破裂強度の測定値を用いて、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率を次式により算出する。
破裂強度保持率(%)=(S30/S0)×100
2. 1.に記載のカチオン交換膜であって、
前記カチオン交換樹脂相が、カチオン交換樹脂以外の高分子成分として、JIS-K0070(1992)に準拠して測定されるヨウ素価が23mg/100mg以上の高分子を含まない、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
3. 1.又は2.に記載のカチオン交換膜であって、
前記高空隙基材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂で構成される、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順により測定される、前記カチオン交換膜の含水率が30%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(含水率の測定手順)
前記カチオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗する。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量W(g)を測定する。
さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さD(g)を測定する。
得られた質量の測定値に基づいて、前記カチオン交換膜の含水率を次式により求める。
含水率(%)=100×(W-D)/D
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順に従って測定される、前記高空隙基材の空隙率が、20%以上90%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(空隙率の測定手順)
前記高空隙基材からXcm×Ycmの矩形のサンプルを切り出し、微少測厚器(端子径Φ:5mm、測定圧:62.47kPa)を用いサンプル厚みT(μm)を測定する。別に前記サンプルの質量M(g)を測定し、これらの測定値と、前記高空隙基材の材料樹脂の密度ρ(g/cm3)を用いて、下記式により前記高空隙基材の空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)={1-(10000×M/ρ)/(X×Y×T)}×100
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のカチオン交換膜であって、
前記電気透析装置が、バイポーラ膜電気透析装置である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
7. ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置であって、
カチオン交換膜として、1.~6.のいずれか一つに記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備える、電気透析装置。
8. 7.に記載の電気透析装置であって、
バイポーラ膜電気透析装置である、電気透析装置。
9. カチオン交換膜として、1.~6.のいずれか一つに記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備える電気透析装置を用いて、ヨウ化物塩水溶液をヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ化水素酸の製造方法。
10. 9.に記載のヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記電気透析装置がバイポーラ膜電気透析装置であり、
前記バイポーラ膜電気透析装置が、前記カチオン交換膜と、アニオン交換膜と、および前記カチオン交換膜および前記アニオン交換膜の間に配置されたバイポーラ膜と、を備える、ヨウ化水素酸の製造方法。
11. 9.又は10.に記載のヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩水溶液が、ヨウ化アルカリ金属塩およびヨウ化アルカリ土類金属塩の少なくとも一方を含む水溶液である、ヨウ化水素酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、継続して安定して使用可能なヨウ化水素酸製造用電気透析膜、これらを組み込んだ電気透析装置、ヨウ化水素酸製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ヨウ化水素酸の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】バイポーラ電気透析装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0012】
<ヨウ化水素酸製造用電気透析膜>
本発明のヨウ素酸製造用電気透析膜の概要を説明する。
【0013】
本発明のヨウ素酸製造用電気透析膜は、ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置に用いられる、カチオン交換膜からなる。このカチオン交換膜は、高空隙基材と、前記高空隙基材の空隙部に充填されているカチオン交換樹脂相と、を有し、下記の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験に従って測定される、カチオン交換膜の破裂強度保持率が70%以上を満たすものである。
〔過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験〕
カチオン交換膜を用いて、片面の表面積が25cm2のシートサンプルを準備する。
前記シートサンプルを、液温が40℃、pH12に調整した飽和NaIO4水溶液に30日間浸漬する(浸漬処理)。
前記浸漬処理前の前記シートサンプル、および前記浸漬処理後のシートサンプルについて、JIS P8112に準拠して、ミューレン破裂強度(MPa)を測定し、それぞれ、S0、S30とする。ただし、前記浸漬処理後のシートサンプルは、イオン交換水で水洗した後、乾燥させないで測定に使用する。
得られた前記ミューレン破裂強度の測定値を用いて、式:S30/S0×100に基づいて、上記の破裂強度保持率を算出する。
破裂強度保持率は70%以上である必要があり、80%以上が好ましい。70%以上であることで、ヨウ化水素酸の製造を電気透析法で実施するに際し、カチオン交換膜の劣化が抑制され継続して安定して運転が可能となる。また、破裂強度保持率は通常97%未満である。破裂強度保持率が高すぎる膜では膜抵抗が非常に高い傾向があって実用に適さないためである。
【0014】
本発明で使用するカチオン交換膜において、上記高空隙基材としては、イオン交換膜の基材として公知の如何なるものを用いても良く、一般には、空隙率が20~90%、より好ましくは30~75%、より好ましくは40~55%の多孔性支持材料が使用される。これら高空隙基材の材質としては、ヨウ素酸製造においてカチオン交換膜が水酸化カリウムなどの高濃度アルカリと接触する点や、生じたヨウ素酸イオン及び/又は過ヨウ素酸イオンの酸化性に耐性が必要な点を考慮して、耐アルカリ性と耐酸化性のある基材であれば制限なく使用できる、
【0015】
具体的には、例えば、ポリオレフィン等またはフッ素樹脂から形成された基材が挙げられ、耐酸化性の点では、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルエーテル)などの含フッ素樹脂も好適に使用できる。特には、イオン交換樹脂との親和性や耐薬品性の点ではポリプロプレンやポリエチレンなどのポリオレフィン製が好ましく、特にポリエチレン製がより好ましい。ポリ塩化ビニル製の基材を用いた場合には、耐酸化性には優れていても、高濃度アルカリとの接触により塩化ビニル樹脂の脱塩素化が進み強度の低下が生じて好ましくない。なお、基材の厚みは、一般には50~300μmの範囲から採択され、膜抵抗や強度の保持の観点等から70~250μmであるのが好ましい。
【0016】
また、高空隙基材の形態としては、織布、不織布、多孔性フィルム、網状物等が制限なく使用可能であるが、中でも、得られるカチオン交換膜の強度を高めやすく、かつ、寸法安定性に優れたカチオン交換膜が得られる点で、織布、網状物を用いるのが好ましい。
【0017】
ここで、上記高空隙基材の空隙部に充填されているカチオン交換樹脂相を有するカチオン交換膜において、カチオン交換樹脂部分には、主成分のイオン交換樹脂の他にも、通常、他の高分子成分が様々に含有されている。例えば、カチオン交換樹脂の前駆体組成物の粘度調整を目的として添加する高分子増粘剤、重合工程などにおいて発生する塩化水素を補足する高分子系塩酸補足剤、カチオン交換膜に柔軟性を付与する高分子柔軟性付与剤、高分子可塑剤などの高分子添加剤が、配合または残存している。而して、これら高分子添加剤は、カチオン交換樹脂前駆体組成物への溶解性を高めたり、膜の柔軟性を高めるなどの目的で、主鎖中に不飽和結合を有する高分子が用いられることが多い。
【0018】
特には、本発明で使用するカチオン交換膜は、後述するペースト法により専ら製造されるが、その場合、高空隙基材が、織布、不織布及び網状物(以下、「織布、網状物等」と略する)である際には、これらは該空隙が基材内部だけでなく表面まで大開口で露出しているため、充填後のペーストの保持力を高めることが求められる。このため、ペースト(カチオン交換樹脂前駆体組成物)には、粘度を一定以上に高めるため、高分子増粘剤が配合されることが必須的になる。この高分子増粘剤に前記主鎖中に不飽和結合を有する高分子が用いられる。具体的には、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレンゴム-ポリスチレン共重合体などのスチレン系熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ピリジンゴム等である。すなわち、これらの高分子は、前記主鎖中の炭素炭素の不飽和結合量の指標になるヨウ素価が26mg/100mgを超えて大きくなり、一般には250mg/100mg以上の値を有している。なお、上記ヨウ素価は、JIS-K0070(1992)により求めることができ、この値が高ければ、相応量の不飽和結合が残存していることを意味する。
【0019】
本発明者らは、斯様に不飽和結合を多量に有する高分子は、前記したように酸化力の高いヨウ素酸イオンIO3
-や過ヨウ素酸イオンIO4
-の酸化攻撃に対する耐性が低いことを、検討の末に突き止めた。すなわち、こうした不飽和結合量が多い高分子をカチオン交換樹脂が有意量含有することが、前記カチオン交換膜において、過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験による破裂強度保持率が70%以上を満足しない主原因であることが判明した。
故に、上記破裂強度保持率が、規定する70%以上のカチオン交換膜は、前記ヨウ素価が26mg/100mg以上の高分子を非含有とすることにより、好適に得ることができる。換言すれば、カチオン交換膜に前記高分子添加剤を配合する場合には、これを構成する高分子は上記ヨウ素価が26mg/100mg未満のものを用いることが必要になる。破裂強度保持率がより好ましい80%以上のカチオン交換膜であれば、前記ヨウ素価が23mg/100mg以上の高分子を非含有とすることが好ましく、そのためには配合する高分子添加剤は23mg/100mg未満のものを用いることが必要になる。
【0020】
なお本発明で使用するカチオン交換膜は、前記ヨウ素価が26mg/100mg以上の高分子を非含有とするものが好ましい、上記非含有とは、該ヨウ素価の高分子を全く含有していない態様だけでなく、前記破裂強度保持率の値に影響を与えないような極少量含有されているような態様であれば、本発明においては実質的に非含有な態様として許容される。具体的には、カチオン交換樹脂相(すなわち、高空隙基材を除いた成分)100質量部中において2.0質量部以下、より好適には0.5質量部以下であれば許容される。
【0021】
上記ヨウ素価が低い高分子添加剤としては、例えば高分子増粘剤として使用されるものであれば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニルの共重合体、塩化ビニル系エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブチレン等の飽和脂肪族炭化水素系ポリマーなどの実質的に不飽和結合を有さない樹脂が使用できる。また、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレンゴム-ポリスチレン共重合体などのスチレン系熱可塑性エラストマー、ニトリルゴム、ピリジンゴムであれば、水素添加によりヨウ素価が26mg/100mg未満、好適には23mg/100mg未満となるように調整して使用することが可能である。
【0022】
かかる高分子添加剤の分子量は、特に制限されるものではないが、通常、1,000~1,000,000、特に50,000~500,000の範囲にあることが好ましい。
【0023】
また、かかる高分子添加剤は、本発明のカチオン交換膜中で、カチオン交換樹脂相、すなわち、高空隙基材を除いた成分100質量部中において、65質量部以下で含有させるのが好ましく、55質量部以下で含有させるのがより好ましい。前記高空隙基材が織布、網状物等の場合には、前記ペースト(カチオン交換樹脂前駆体組成物)に高分子増粘剤が配合されることから、高分子添加剤の含有量は3質量%以上が好適になり、5質量%以上がより好適になる。
【0024】
他方で、カチオン交換膜の高分子基材が多孔性フィルムの場合には、これをペースト法で製造するのであれば、該ペーストの空隙への充填性を高めるには、フィルム表面の細孔へのペーストの浸透性を高めることが求められる。このためペーストへの前記高分子増粘剤の配合は少量に抑えるのが望ましくなり、状況によって高分子増粘剤は無配合になる。斯様に高分子基材が多孔性フィルムであり、高分子増粘剤の配合が少ない又は無配合のカチオン交換膜でも、ヨウ素価が26mg/100mg以上の高分子を非含有とすることが容易になり、前記破裂強度保持率が70%以上のカチオン交換膜を得ることが可能になる。
【0025】
上記多孔性フィルムの平均細孔径は0.01~2.0μmが好ましく、特には、0.015~0.4μmがより好ましい。
【0026】
本発明の前記カチオン交換樹脂は、従来公知のカチオン交換膜において使用されるカチオン交換性の樹脂が制限なく使用できる。すなわち、パーフルオロカーボンスルホン酸などに代表されるフッ素系のカチオン交換樹脂等や、スチレン-ジビニルベンゼン系などの共重合体にスルホン酸基を導入した樹脂、(メタ)アクリル酸等の重合により得られる炭化水素系カチオン交換樹脂、さらにはポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのエンジニアリングプラスチックにカチオン交換基を導入した樹脂が採用される。特に、耐酸化性に優れ、前記高空隙基材との親和性が高く、優れたカチオン選択性が発現可能な点でスチレン-ジビニルベンゼン系の樹脂が好ましい。カチオン交換基としては、公知のいかなる交換基も使用可能であるが、耐酸化性に優れ、電気抵抗を小さくできる点でスルホン酸基が好ましい。
【0027】
本発明における上述のカチオン交換膜は、上記要件を満たす限りいかなる方法により作成しても良く、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂などのフッ素系カチオン交換樹脂や、ポリスチレン系などの樹脂に必要に応じてスルホン酸基を導入した炭化水素系カチオン交換樹脂などを有機溶媒などに溶解・分散させた樹脂溶液を作成し、この溶液を高空隙基材上に浸漬や流延、乾燥させることで作成することができる。緻密なカチオン交換樹脂部を形成することができ、イオン選択性などの高い特性が得られる点で、以下の方法で作成することが好ましい。
すなわち、カチオン交換樹脂前駆体組成物としての重合性組成物のペーストを用意し(重合性組成物調製)、該重合性組成物を前記高空隙基材の空隙に充填し(重合性組成物の充填)、次いで、空隙内に充填された重合性組成物を重合し、更に必要に応じて、重合工程で得られた重合体(カチオン交換樹脂前駆体)にカチオン交換基を導入すること(イオン交換基導入工程)による製法(ペースト法)である。
【0028】
1.重合性組成物調製;
カチオン交換樹脂を形成するための重合性組成物は、カチオン交換基を導入し得る官能基(カチオン交換基導入用官能基)を有する単量体又はカチオン交換基を有する単量体(以下、これらの単量体を「基本単量体成分」と呼ぶことがある)、架橋単量体及び重合開始剤を含有するものであり、これらの成分を混合することにより調製される。
【0029】
カチオン交換基導入用官能基を有する単量体及びカチオン交換基を有する単量体は、カチオン交換樹脂を製造するために、従来から使用されているもので良い。
【0030】
例えば、カチオン交換基導入用官能基を有する単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-ハロゲン化スチレン類等を挙げることができる。
【0031】
カチオン交換基を有する単量体としては、α-ハロゲン化ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸系単量体、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等のカルボン酸系単量体、ビニルリン酸等のホスホン酸系単量体、それらの塩類およびエステル類等を挙げることができる。
【0032】
尚、上記のような単量体として、カチオン交換基を有する単量体を用いた場合には、後述する重合工程が完了した段階で目的とするカチオン交換膜が得られるが、カチオン交換基導入用官能基を有する単量体を用いた場合には、重合工程後にカチオン交換基導入工程を実施することにより、目的とするカチオン交換膜を得ることができる。
【0033】
また、架橋性単量体は、カチオン交換樹脂を緻密化しイオン選択性を高めたり、膨潤抑止性や膜強度等を高めるために使用されるものであり、特に制限されるものでは無いが、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン等のビニル基を複数有する化合物や、クロロメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモブチルスチレンなどのハロゲン化アルキル基を有する化合物などが挙げられる。
このような架橋性単量体は、一般に、単量体成分の合計100質量部に対して、5~50質量部が好ましく、さらに好ましくは10~40質量部である。高空隙基材として多孔性フィルムを用いる場合には、25質量部~50質量部が好ましく、30質量部~40質量部がより好ましい。5質量部未満ではヨウ素に対する耐酸化性が不足し、一方で、50質量部を超えると膜抵抗が極端に増大し電気透析での使用が困難となる。
【0034】
更に、上述した交換基導入用官能基を有する単量体、イオン交換基を有する単量体及び架橋性単量体の他に、必要に応じて、これらの単量体と共重合可能な他の単量体を添加しても良い。こうした他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等が用いられる。
【0035】
重合開始剤としては、従来公知のものが特に制限されること無く使用される。具体的には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパ-オキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が用いられる。
このような重合開始剤は、単量体成分の合計100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、更に好ましくは0.5~10重量部である。
【0036】
上述した各種成分を含有する重合性組成物には、高空隙基材への浸透性の調整や相溶性向上のために、前記した高分子増粘剤を配合することが一般的である。特に前記したように高空隙基材が、織布、網状物等である際には、空隙へのペーストの充填保持力を高めるために、上記高分子増粘剤の配合が必須的になる。
かかる高分子増粘剤を重合性組成物に配合する際には、単量体成分の合計100質量部に対して、185質量部まで配合するのが好ましく、120質量部まで配合するのがより好ましい。また、前記高空隙基材が織布、網状物等であって、高分子増粘剤を重合性組成物に配合する際には、単量体成分の合計100質量部に対して3.3質量部以上含有させるのが好ましく、5.5質量部以上含有させるのがより好ましい。
【0037】
2.重合性組成物の充填;
高空隙基材の空隙への充填は、例えば、前述した重合性組成物が充填された槽内に、該基材を浸漬することで行われる。この浸漬によって、重合性組成物が高空隙基材の空隙内に充填されたカチオン交換膜前駆体が得られる。
勿論、浸漬の代わりに、スプレー塗布などによって重合性組成物の充填を行うこともできる。
【0038】
3.重合;
上記のようにして、高空隙基材の空隙に重合性組成物が充填されたカチオン交換膜前駆体は、加熱オーブン等の重合装置内で加熱されて重合される。
基本単量体成分としてカチオン交換基を有する単量体が使用されている場合には、この工程の完了により目的とするカチオン交換膜が得られる。また、基本成分として、交換基導入用官能基を有する単量体を用いた場合には、この工程の完了後に、カチオン交換基の導入が必要となる。
【0039】
この重合工程では、一般に、重合性組成物が充填されたカチオン交換膜前駆体をポリエステル等のフィルムに挟んで加圧下で常温から昇温する方法が採用される。加圧は、一般に0.1乃至1.0MPa程度の圧力で、窒素等の不活性ガスやロール等による加圧によって行われる。この加圧によって、基材の外側界面に存在している余剰の重合性組成物が該基材の空隙内に押し込まれた状態で重合が行われ、樹脂溜りの発生などを効果的に防止することができる。
また、重合条件は、重合開始剤の種類、単量体の種類等によって左右されるものであり、公知の条件より適宜選択して決定すればよい。
【0040】
重合温度は、高空隙基材がオレフィン系樹脂から形成される場合には、該オレフィン樹脂の融点よりも低い温度とすればよく、一般に、ポリエチレンのフィルムの場合で40乃至130℃程度の範囲である。
尚、重合時間は、重合温度等によっても異なるが、一般には、3乃至20時間程度である。
【0041】
4.カチオン交換基導入;
先に述べたように、重合組成物中の基本単量体成分として、カチオン交換基を有する単量体を用いた場合には、上記の重合工程によりカチオン交換樹脂が形成され、この段階で目的とするカチオン交換膜が得られるが、基本単量体成分として、カチオン交換基導入用官能基を有する単量体を用いた場合には、上記の重合工程で得られる樹脂にはカチオン交換基を有していないため、重合工程後にカチオン交換基の導入を行う必要がある。
【0042】
カチオン交換基の導入は、それ自体公知の方法で行われ、例えば、スルホン化、クロルスルホン化、ホスホニウム化、加水分解等の処理により行われる。
以上により得られる本発明のカチオン交換膜は、適切な高空隙基材や高分子添加剤の選定の他、架橋性単量体の配合量を調整することで、その含水率は通常35%以下、好ましくは30%以下となる。これらの含水率を有すことにより、酸化態ヨウ素への耐酸化性が高められる。膜抵抗が極端に高くならないように、含水率は通常10%以上、好ましくは15%以上である。
また、そのカチオン交換容量は、0.5~3.0meq/g-乾燥膜、特に0.8~2.0meq/g-乾燥膜の範囲にあるのがよく、電気抵抗は1.5Ω・cm2以上15.0Ω・cm2以下、好ましくは2.5Ω・cm2以上12.0Ω・cm2以下範囲にあるのが良い。ミューレン破裂強度は、通常、0.30MPa以上、好ましくは0.35~2.0MPaである。厚みは50~320μm、特には70~280μmの範囲にあるように調整される。ここで、高空隙基材が織布、網状物等の場合、前記したように当該基材は機械的強度に優れるため、ミューレン破裂強度は0.5~2.0MPaの高い値のものが得やすい。他方、高空隙基材が多孔性フィルムの場合、係るミューレン破裂強度は通常、0.30~0.60MPaになる。
【0043】
<ヨウ化水素酸の製造方法>
次に、上記のヨウ化水素酸製造用電気透析膜をカチオン交換膜として備える電気透析装置を用いて、ヨウ化水素酸を製造する方法について説明する。
電気透析装置として、バイポーラ電気透析装置を用いることが好適だが、これに限定されない。
【0044】
図1は、ヨウ化水素酸の製造方法の一例を示すフロー図である。
図2は、バイポーラ電気透析装置1の構成の一例を模式的に示す図である。
【0045】
バイポーラ膜電気透析装置1は、
図2に示すように、陽極2と陰極3との間に、カチオン交換膜4kとアニオン交換膜4aとが交互に配置され、それらの間にバイポーラ膜4bが配置された膜構造を備える。膜構造中、陽極2側から陰極3側に向かって、カチオン交換膜4k、バイポーラ膜4b、アニオン交換膜4aが、この順に配置されている。ただし、電極に最も近い位置に配置される膜は、カチオン交換膜4kに限定されず、バイポーラ膜4bであってもよい。
バイポーラ膜電気透析装置1は、
図2に限定されず、公知の装置構成を備えることができる。
【0046】
バイポーラ膜4bは、カチオン交換膜とアニオン交換膜とを貼り合わせたものであり、一方の面がカチオン交換膜として作用し、他方の面がアニオン交換膜として作用する。
バイポーラ膜電気透析装置1に搭載されるカチオン交換膜の一部または全部には、上記のヨウ化水素酸製造用電気透析膜が使用される。
【0047】
陽極2を含む電極室(陽極室)および陰極3を含む電極室(陰極室)には、電極液が電極液タンク(不図示)から供給される。陽極室および陰極室は、電気透析槽の両面側のそれぞれに配置される。
陽極2および陰極3に電源を用いて電流を印可すると、電気透析槽中で電気透析が開始される。
【0048】
なお、電極液として、公知のものが使用できるが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が用いられる。
【0049】
電気透析槽には、酸室、脱塩室、アルカリ室がある。酸室は、バイポーラ膜4bとアニオン交換膜4aとの仕切られた区画、脱塩室は、アニオン交換膜4aとカチオン交換膜4kとの仕切られた区画、アルカリ室は、カチオン交換膜4kとバイポーラ膜4bとの仕切られた区画である。
バイポーラ膜電気透析装置1は、酸室を1個以上有していればよいが、処理能力を高める観点から、酸室を2個以上有してもよい。
【0050】
電気透析時におけるバイポーラ膜電気透析装置1の動作の一例は、以下の通りである。
バイポーラ膜電気透析装置1にヨウ化物塩水溶液(例えば、KI濃縮液)を導入する。具体的には、アニオン交換膜4aとカチオン交換膜4kとの間の脱塩室にKI濃縮液を供給する。
続いて、陽極2および陰極3に電極液を供給した状態で、陽極2と陰極3との間に直流電流を印加する。そうすると、ヨウ化物塩水溶液中のヨウ化物塩が解離され、ヨウ化水素酸(ヨウ化水素が水に溶解した水溶液)と水酸化物塩水溶液とが排出される。例えば、KI濃縮液が解離されると、HI液が酸室から排出され、KOH液がアルカリ室から排出される。
その後、排出されたHI液等のヨウ化水素酸を、蒸留等により精製してもよい。
【0051】
電気透析時におけるバイポーラ膜電気透析装置1中の化学反応の一例は、以下の通りである。
陰イオン(I-)はアニオン交換膜4aを透過しバイポーラ膜4bで分裂されたHイオン(H+)と反応して酸(HI)となる。一方で陽イオン(K+)はカチオン交換膜4kを透過してバイポーラ膜4bで分裂されたOHイオン(OH-)と反応してアルカリ(KOH)となる。
【0052】
なお、電気透析前に、酸室、脱塩室、アルカリ室には、それぞれ、各種の電解液が収容されていてもよい。電解液としては、例えば、電気伝導度を有する無機塩水溶液が含まれていればよい。例えば、最初にバイポーラ膜電気透析装置1を使用する場合にはイオン交換水を使用してもよい。
【0053】
また、ヨウ化物塩水溶液としては、ヨウ化カリウム水溶液(KI濃縮液)に限らず、ヨウ化アルカリ金属塩およびヨウ化アルカリ土類金属塩の少なくとも一方を含む水溶液であってもよい。
ヨウ化アルカリ金属塩は、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化セシウム等が挙げられる。ヨウ化アルカリ土類金属塩は、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
必要なら、導入前に、ヨウ化物塩水溶液のpHを7未満に調整して酸性化してもよい。
【0054】
また、ヨウ化物塩水溶液には、ヨウ素成分を含有する廃液を、濃縮室と脱塩室とを備える電気透析装置により電気透析して得られた、ヨウ素含有濃縮液を用いてもよい。
廃液として、ヨウ素成分を含有する液体であればとくに限定されないが、例えば、ヨウ素成分を含む製品の製造過程から排出される廃液や、ヨウ素成分を含む製品を廃棄処理したときの廃液、ヨウ素成分を反応触媒として使用した合成過程から排出される廃液、ヨウ素成分を使用した製造装置の洗浄に使用した洗浄液の廃液等が含まれる。
【0055】
具体的な廃液の原料としては、偏光フィルム、造影剤、消毒剤、および放射線関連材料のいずれかのヨウ素成分を含む製品における製造過程、製造装置もしくは廃棄物からの廃液または廃粉末及び廃固形物、または抗生物質・抗ウイルス剤などの医薬品合成等の化学合成に使用するヨウ素触媒(有機ヨウ素化合物または無機ヨウ素化合物)を含む廃液または廃固形物等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置に用いられるカチオン交換膜からなる、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜であって、
前記カチオン交換膜は、
高空隙基材と、
前記高空隙基材の空隙部に充填されたカチオン交換樹脂相と、を有し、
下記の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験に従って測定される、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率が70%以上である、
ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験)
前記カチオン交換膜を用いて、片面の表面積が25cm
2
のシートサンプルを準備する。
前記シートサンプルを、液温が40℃、pH12に調整した飽和NaIO
4
水溶液に30日間浸漬する、浸漬処理を実施する。
前記浸漬処理前の前記シートサンプル、および前記浸漬処理後のシートサンプルについて、JIS P8112に準拠して、ミューレン破裂強度(MPa)を測定し、それぞれ、S0、S30とする。ただし、前記浸漬処理後のシートサンプルは、イオン交換水で水洗した後、乾燥させないで測定に使用する。
得られた前記ミューレン破裂強度の測定値を用いて、前記カチオン交換膜の破裂強度保持率を次式により算出する。
破裂強度保持率(%)=(S30/S0)×100
2. 1.に記載のカチオン交換膜であって、
前記カチオン交換樹脂相が、カチオン交換樹脂以外の高分子成分として、JIS-K0070(1992)に準拠して測定されるヨウ素価が23mg/100mg以上の高分子を含まない、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
3. 1.又は2.に記載のカチオン交換膜であって、
前記高空隙基材が、ポリオレフィンまたはフッ素樹脂で構成される、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
4. 1.又は2.に記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順により測定される、前記カチオン交換膜の含水率が30%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(含水率の測定手順)
前記カチオン交換膜を1mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗する。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量W(g)を測定する。
さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さD(g)を測定する。
得られた質量の測定値に基づいて、前記カチオン交換膜の含水率を次式により求める。
含水率(%)=100×(W-D)/D
5. 1.又は2.に記載のカチオン交換膜であって、
下記の手順に従って測定される、前記高空隙基材の空隙率が、20%以上90%以下である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
(空隙率の測定手順)
前記高空隙基材からXcm×Ycmの矩形のサンプルを切り出し、微少測厚器(端子径Φ:5mm、測定圧:62.47kPa)を用いサンプル厚みT(μm)を測定する。別に前記サンプルの質量M(g)を測定し、これらの測定値と、前記高空隙基材の材料樹脂の密度ρ(g/cm
3
)を用いて、下記式により前記高空隙基材の空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)={1-(10000×M/ρ)/(X×Y×T)}×100
6. 1.又は2.に記載のカチオン交換膜であって、
前記電気透析装置が、バイポーラ膜電気透析装置である、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜。
7. ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置であって、
カチオン交換膜として、1.又は2.に記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備える、電気透析装置。
8. 7.に記載の電気透析装置であって、
バイポーラ膜電気透析装置である、電気透析装置。
9. カチオン交換膜として、1.又は2.に記載のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を備える電気透析装置を用いて、ヨウ化物塩水溶液をヨウ化水素酸と水酸化物塩水溶液とに分離する工程を含む、ヨウ化水素酸の製造方法。
10. 9.に記載のヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記電気透析装置がバイポーラ膜電気透析装置であり、
前記バイポーラ膜電気透析装置が、前記カチオン交換膜と、アニオン交換膜と、および前記カチオン交換膜および前記アニオン交換膜の間に配置されたバイポーラ膜と、を備える、ヨウ化水素酸の製造方法。
11. 9.又は10.に記載のヨウ化水素酸の製造方法であって、
前記ヨウ化物塩水溶液が、ヨウ化アルカリ金属塩およびヨウ化アルカリ土類金属塩の少なくとも一方を含む水溶液である、ヨウ化水素酸の製造方法。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0058】
<ヨウ化水素酸製造用電気透析膜(カチオン交換膜)の製造>
実施例、比較例におけるカチオン交換膜の物性は以下の方法により測定した。
【0059】
1.カチオン交換膜のカチオン交換容量および含水率
カチオン交換膜を0.5mol/L-HCl水溶液に10時間以上浸漬する。
その後、0.5mol/L-NaCl水溶液でカチオン交換基の対イオンを水素イオンからナトリウムイオンに置換させ、遊離した水素イオンの量A(mol)を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE-900、平沼産業株式会社製)で定量した。
次に、同じカチオン交換膜を0.5mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、イオン交換水で十分水洗した。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量W(g)を測定した。さらに、60℃で5時間減圧乾燥して乾燥時の重さD(g)を測定した。
上記測定値に基づいて、カチオン交換膜のカチオン交換容量および含水率を次式により求めた。
・カチオン交換容量=A×1000/D[meq/g-乾燥質量]
・含水率=100×(W-D)/D[%]
【0060】
2.カチオン交換膜の厚さ
カチオン交換膜を0.5mol/L-NaCl溶液に4時間以上浸漬した後、ティッシュペーパーで膜の表面の水分を拭き取り、マイクロメ-タ MED-25PJ(株式会社ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0061】
3.カチオン交換膜の膜抵抗
白金黒電極を有する2室セル中にカチオン交換膜を挟み、カチオン交換膜の両側に0.5mol/L-NaCl水溶液を満たし、交流ブリッジ(周波数1000サイクル/秒)により25℃における電極間の抵抗を測定し、該電極間抵抗とカチオン交換膜を設置しない場合の電極間抵抗との差により膜抵抗を求めた。なお、上記測定に使用するイオン交換膜は、予め0.5mol/LNaCl水溶液中で平衡にしたものを用いた。
【0062】
4.高空隙基材の空隙率
高空隙基材からXcm×Ycmの矩形のサンプルを切り出し、微少測厚器(端子径Φ:5mm、測定圧:62.47kPa)を用いサンプル厚みT(μm)を測定した。別にサンプルの質量M(g)を測定し、これらの測定値と、前記高空隙基材の材料樹脂の密度ρ(g/cm3)を用いて、下記式により前記高空隙基材の空隙率(%)を算出した。
空隙率(%)={1-(10000×M/ρ)/(X×Y×T)}×100
【0063】
5.高空隙基材の平均細孔径
ASTM-F316-86に準拠し、ハーフドライ法にて測定した。
【0064】
6.カチオン交換膜のミューレン破裂強度:
カチオン交換膜を0.5mol/L-NaCl水溶液に4時間以上浸漬し、カチオン交換水で十分水洗した。次いで、膜を乾燥させることなく、ミューレン破裂試験機(東洋精機製)により、JIS-P8112に準拠して、過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験前のミューレン破裂強度(MPa)を測定し、その測定値をS0とした。
7.過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験
(1)片面の表面積が25cm2のシートサンプルを、液温が40℃、pH12に調整した飽和NaIO4水溶液に30日間浸漬する、浸漬処理を実施した。
(2)過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験後のシートサンプルについて、JIS P8112に準拠して、ミューレン破裂強度(MPa)を測定し、その測定値をS30とした。ただし、浸漬処理後のシートサンプルは、イオン交換水で水洗した後、乾燥させないで測定に使用した。
(3)得られたミューレン破裂強度の測定値S0、S30を用いて、カチオン交換膜の破裂強度保持率を次式により算出した。
破裂強度保持率(%)=(S30/S0)×100
【0065】
(実施例1)
スチレン39.7質量部、ジビニルベンゼン5.2質量部、p-クロロメチルスチレン40.6質量部、アクリロニトリル14.5質量部、アセチルクエン酸トリブチル13.0質量部、1、1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン7.3質量部の混合物に、未変性球状の低密度ポリエチレン粉末(粒径6μm、融点105℃)60.0質量部、ポリ塩化ビニル粉末(平均重合度1050)30.0質量部、および無水マレイン酸変性されている、水素添加されたスチレン-ブタジエントリブロック共重合体(ポリスチレンの含量が30質量%、ヨウ素価22mg/100mg、無水マレイン酸変性量=2質量%)6.0質量部の混合物よりなる高分子添加剤を加え、5時間攪拌して均一な重合性組成物を得た。
得られた重合性組成物を、高密度ポリエチレンモノフィラメント織布(高空隙基材、縦糸:96メッシュ-線径106μm(62デニール)、横糸:76メッシュ-線径122μm(71デニール)、厚さ260μm、オープニングエリア38%、空隙率72%、融点130℃)の上に塗布し、ポリエステルフィルムを剥離材として両面被覆した後、95℃で5時間重合を行った。得られた膜状高分子体を40℃で2時間クロロスルホン酸によりスルホン化(カチオン交換樹脂相の形成)して、カチオン交換膜を得た。
【0066】
得られた実施例1のカチオン交換膜の特性は次の通りであった。
・膜厚:290μm
・イオン交換容量:1.4meq/g-乾燥質量
・含水率:30%、
・膜抵抗:12.2Ω・cm2
・ミューレン破裂強度S0:1.6MPa
実施例1のカチオン交換膜を用いて、上記の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験を行ったところ、ミューレン破裂強度S30:1.5MPaとなり、破裂強度保持率は93%であった。
【0067】
(実施例2)
スチレン43.5質量部、p-クロロメチルスチレン36.5質量部、アクリロニトリル20.0質量部、アセチルクエン酸トリブチル10.0質量部、エチレングリコールジグリシジルエーテル2.9質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド1.9質量部の混合物を2時間攪拌して均一な重合性組成物を得た。
得られた重合性組成物を、ポリエチレン製二軸延伸多孔質フィルム(高空隙基材、厚さ100μm、空隙率46%、平均細孔径0.13μm)の上に塗布し、ポリエステルフィルムを剥離材として両面被覆した後、50℃で20分保持し、次いで110℃まで60分、さらに130℃まで80分かけて昇温したのち130℃で3時間保持して重合を行った。得られた膜状高分子体を40℃で1.5時間クロロスルホン酸によりスルホン化(カチオン交換樹脂相の形成)して、カチオン交換膜を得た。
【0068】
得られた実施例2のカチオン交換膜の特性は次の通りであった。
・膜厚:106μm
・イオン交換容量:1.6meq/g-乾燥質量
・含水率:28%
・膜抵抗:3.8Ω・cm2
・ミューレン破裂強度S0:0.43MPa
実施例2のカチオン交換膜を用いて、過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験を行ったところ、ミューレン破裂強度S30:0.37MPaとなり、破裂強度保持率は86%であった。
【0069】
(比較例1)
実施例1において、上記の水素添加されたスチレン-ブタジエントリブロック共重合体を使用しないで、ヨウ素価304mg/100mgのアクリロニトリル-ブタジエンゴム(アクリロニトリル量35質量%)を高分子添加剤として使用した以外、実施例1と同様にした。
比較例1のカチオン交換膜の特性は次の通りであった。
・膜厚:297μm
・イオン交換容量:1.4meq/g-乾燥質量
・含水率:32%
・膜抵抗:10.5Ω・cm2
・ミューレン破裂強度S0:1.6MPa
比較例1のカチオン交換膜を用いて、過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験を行ったところ、ミューレン破裂強度S30:0.96MPaとなり、破裂強度保持率は60%であった。
(比較例2)
カチオン交換膜として、基材以外の成分中に、ヨウ素価28mg/100mgの高分子添加剤を12質量%含有する市販膜(株式会社アストム製CMB)を使用した。
比較例2のカチオン交換膜の特性は次の通りであった。
・膜厚:201μm
・イオン交換容量:2.7meq/g-乾燥質量
・含水率:36%
・膜抵抗:10.5Ω・cm2
・ミューレン破裂強度S0:0.70MPa
比較例2のカチオン交換膜を用いて、過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験を行ったところ、ミューレン破裂強度S30:0.25MPaとなり、破裂強度保持率は36%であった。
【0070】
<ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置の運転試験>
バイポーラ膜(アストム社製、ネオセプタ BP-1E)、アニオン交換膜(アストム社製、ACM)、および各実施例および各比較例のカチオン交換膜を使用する、バイポーラ膜電気透析装置(株式会社アストム製 アシライザーEX3B型)を準備した。
上記バイポーラ膜電気透析装置により、pHをヨウ化水素酸または塩酸で1以下に調整したヨウ化物塩水溶液1Lを、塩室に導入し、25Vの定電圧で塩液のヨウ化物イオン濃度が30g/Lになるまで透析を行った。
塩室に導入したヨウ化物塩水溶液の組成は、ヨウ化物イオンが300g/L、ナトリウムが27g/L、カリウムが46g/L、リンが0.2g/L、硫酸イオンが0.3g/L、塩化物イオンが30g/Lであった。
【0071】
電気透析の結果、各実施例および各比較例のいずれも、
回収した酸液(ヨウ化水素酸)においてヨウ化水素の濃度が320g/LでpHが1以下、
回収したアルカリ液(水酸化物塩水溶液)において水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの合計濃度が2mol/L以上でpHが13以上であった。
【0072】
(アルカリ液中の組成評価)
実施例1,2のカチオン交換膜を使用した電気透析では、アルカリ液におけるリン濃度が10~30mg/L以下の値であることを確認した。アルカリ液中のリン濃度は、島津製作所製ICP発光分光分析装置にて、標準添加法で測定した。
一方、比較例1,2の場合、アルカリ液におけるリン濃度が80~200mg/Lであった。
発明者の考えによれば、アルカリ液中の酸化性物質により、比較例1,2のカチオン交換膜の遮蔽効果が低下したため、塩液中に含まれるリン成分がカチオン交換膜を通過してアルカリ液中に過剰に浸入したものと推察される。
【0073】
(塩液の液量減少率の評価)
電気透析開始時と電気透析終了後とに、塩液(塩室中に導入されたヨウ化物塩水溶液)の体積を測定し、それぞれV1、V2とした。このV1,V2を用いて、電気透析前後の塩液の液量減少率(%)を、式:[(V2-V1)/V1]×100により算出した。塩液の液量減少率は、通常、20~30%程度が安定的な運転の目安として活用されている。
上記塩液の液量減少率の結果、実施例1は22%、実施例2は25%、比較例1は33%、比較例2は40%であった。
発明者の考えによれば、アルカリ液中の酸化性物質により、比較例1,2のカチオン交換膜に損傷が生じたため、塩室からアルカリ室中に水(循環液)の移動が激しく起きたものと推察される。
【0074】
実施例1、2のヨウ化水素酸製造用電気透析膜を、カチオン交換膜として使用するバイポーラ膜電気透析装置を用いて、ヨウ化カリウム水溶液をヨウ化水素酸と水酸化カリウム水溶液とに分離する電気透析試験を実施した結果、比較例1,2と比べて、安定的な電気透析が可能であることが判明した。
【符号の説明】
【0075】
1 バイポーラ電気透析装置
2 陽極
3 陰極
4a アニオン交換膜
4b バイポーラ膜
4k カチオン交換膜
【要約】
【課題】継続して安定して使用可能なヨウ化水素酸製造用電気透析膜を提供する。
【解決手段】本発明のヨウ化水素酸製造用電気透析膜は、ヨウ化水素酸を製造する電気透析装置に用いられるカチオン交換膜からなる、ヨウ化水素酸製造用電気透析膜であって、カチオン交換膜は、高空隙基材と、記高空隙基材の空隙部に充填されたカチオン交換樹脂相と、を有し、所定の過ヨウ素酸ナトリウム浸漬試験に従って測定される、カチオン交換膜の破裂強度保持率が70%以上を満たすものである。
【選択図】
図2