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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/08 20060101AFI20240305BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16G1/08 A
C08L23/08
C08K3/04
C08K3/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023507328
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042864
(87)【国際公開番号】W WO2023090423
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2021188711
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 莉恵
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0050143(US,A1)
【文献】特開2018-141554(JP,A)
【文献】特開2018-021664(JP,A)
【文献】特開2007-239821(JP,A)
【文献】特開2017-211084(JP,A)
【文献】米国特許第06491598(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/08
C08L 23/08
C08K 3/04
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルトであって、
圧縮ゴム層と、
上記圧縮ゴム層の厚さ方向一方側に設けられ、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と
を備え、
上記接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、該第1ゴム組成物で構成された部分は、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上であ
上記接着ゴム層は、
上記第1ゴム組成物で構成され、ベルト幅方向両端部においてベルト長さ方向全体に設けられた第1部と、
ベルト幅方向中央部に沿って設けられた、上記第1部よりも弾性率が低い第2部と
を含む、伝動ベルト。
【請求項2】
伝動ベルトであって、
圧縮ゴム層と、
上記圧縮ゴム層の厚さ方向一方側に設けられ、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と
を備え、
上記接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、該第1ゴム組成物で構成された部分は、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上であり
上記接着ゴム層は、
上記第1ゴム組成物で構成され、ベルト幅方向両端部においてベルト長さ方向全体に設けられた第1部と、
構成成分の種類及び含有量の少なくとも一方が上記第1ゴム組成物とは異なる第2ゴム組成物で構成され、ベルト幅方向中央部に沿って設けられた第2部と
を含む、伝動ベルト。
【請求項3】
伝動ベルトであって、
圧縮ゴム層と、
上記圧縮ゴム層の厚さ方向一方側に設けられ、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と
を備え、
上記接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、該第1ゴム組成物で構成された部分は、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上であり、
上記接着ゴム層は、ベルト幅方向両端部が、ベルト長さ方向全体で2層構造となっている一方、当該ベルト幅方向両端部を除く部分がベルト長さ方向全体で1層構造となっており、
上記接着ゴム層は、
2層構造となった上記ベルト幅方向両端部における上記圧縮ゴム層に近い側の層は、上記第1ゴム組成物で構成されており、
2層構造となった上記ベルト幅方向両端部における上記圧縮ゴム層から遠い側の層及び1層構造となった部分は、構成成分の種類及び含有量の少なくとも一方が上記第1ゴム組成物とは異なる第2ゴム組成物で構成されている、
伝動ベルト。
【請求項4】
請求項に記載の伝動ベルトにおいて、
上記接着ゴム層において2層構造となった上記ベルト幅方向両端部における、上記圧縮ゴム層に近い側の層は、上記心線の断面中央部よりも圧縮ゴム層側全体に設けられている、
伝動ベルト。
【請求項5】
伝動ベルトであって、
圧縮ゴム層と、
上記圧縮ゴム層の厚さ方向一方側に設けられ、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と
を備え、
上記接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、該第1ゴム組成物で構成された部分は、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上であり、
上記接着ゴム層は、ベルト幅方向中央部が、ベルト長さ方向全体で2層構造となっている一方、当該ベルト幅方向中央部を除く部分がベルト長さ方向全体で1層構造となっており、
上記接着ゴム層は、
2層構造となった上記ベルト幅方向中央部における上記圧縮ゴム層から遠い側の層を除き、上記第1ゴム組成物で構成されており、
2層構造となった上記ベルト幅方向中央部における上記圧縮ゴム層から遠い側の層は、構成成分の種類及び含有量の少なくとも一方が上記第1ゴム組成物とは異なる第2ゴム組成物で構成されている、
伝動ベルト。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の伝動ベルトにおいて、
上記第1ゴム組成物は、ゴム成分としてのエチレン-α-オレフィンを含有する、伝動ベルト。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の伝動ベルトにおいて、
上記第1ゴム組成物は、充填剤として、シリカ及びカーボンブラックの少なくとも一方を含有する、伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動側から従動側に動力を伝達する手段として伝動ベルトが知られている。そのような伝動ベルトとして、例えば特許文献1には、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層と、該接着ゴム層のベルト底面側に設けられた圧縮ゴム層とを備え、上記接着ゴム層が、短繊維が混入分散されて圧縮ゴム層と略同等の弾性率を有する高弾性ゴム組成物で構成された伝動ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3721220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、伝動ベルトには、使用の際、大きな応力や歪みによる高負荷がかかり、また発熱部品が周辺に配置されている場合もあり高温になりやすい。特に、伝動ベルトは、気温の高い地域で利用する場合に高温になりやすい。このような状況下でも、伝動ベルトの伝動効率が低下しないように、伝動ベルトが耐久性を有するようにしたい。
【0005】
また、伝動ベルトでは、接着ゴム層で破損が起こりやすい。これは、接着ゴム層が、伝動のはたらきを主に担う圧縮ゴム層と、圧縮ゴム層のように弾性変形しない心線との間に存在することにより、伝動のはたらきにより生じる応力が接着ゴム層に集中し、その結果、接着ゴム層が破壊起点となりやすいためと考えられる。
【0006】
以上のことから、本発明の課題は、伝動ベルトの接着ゴム層の高負荷及び高温の下での耐久性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、伝動ベルトであって、圧縮ゴム層と、上記圧縮ゴム層の厚さ方向一方側に設けられ、ベルト長さ方向に延びる心線が埋設された接着ゴム層とを備え、上記接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、該第1ゴム組成物で構成された部分は、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接着ゴム層の少なくとも一部は第1ゴム組成物で構成され、その第1ゴム組成物で構成された部分は120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上であるので、接着ゴム層が高負荷及び高温の下で高い耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るVリブドベルトの断面を含む斜視図である。
図2】各実施例及び各比較例における走行耐久性試験のベルトレイアウト図である。
図3】実施例2におけるベルトモデル及び応力-歪み分布解析の結果を示す3D画像である。
図4】比較例1における図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0011】
(実施形態)
<Vリブドベルトの構成>
実施形態に係るVリブドベルト1(伝動ベルト)は、輪状に形成されている。なお、図1に示すように、Vリブドベルト1のベルト厚さ方向においてプーリに当接する方が内周側である。
【0012】
Vリブドベルト1は、圧縮ゴム層2を備える。圧縮ゴム層2の内周側には、ベルト長さ方向に延びる複数のリブ3が設けられている。各リブ3は、図1に示すように、ベルト長さ方向と垂直に切断した断面視において、内周側にいくほど狭い台形状に形成されている。
【0013】
また、Vリブドベルト1は、圧縮ゴム層2の外周側(厚さ方向一方側)に設けられた接着ゴム層4を備える。接着ゴム層4には、ベルト長さ方向に延びる複数の心線5が埋設されている。複数の心線5は、互いにベルト幅方向に一定の間隔をおいて並んでいる。複数の心線5の各中心は、図1に示すように、接着ゴム層4の厚さ方向中央部に位置する。複数の心線5は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド、4,6ナイロン、6ナイロン、6,6ナイロン等の樹脂製の繊維により構成されている。
【0014】
また、Vリブドベルト1は、接着ゴム層4の外周側に設けられた背面ゴム層6を備える。以上説明した各層2,4,6は、ベルト長さ方向及びベルト幅方向全体にわたり、連続的に形成されている。
【0015】
本発明の特徴として、接着ゴム層4は、高温及び高負荷の下で高い耐久性を有するようにするという観点から、120℃での50%伸び時のモジュラスが4.0MPa以上、好ましくは4.3MPa以上となるような、第1ゴム組成物で構成されている。本実施形態では、接着ゴム層4の全体が第1ゴム組成物で構成されているが、後述する第1~第4変形例のように、接着ゴム層4の一部が第1ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0016】
また、接着ゴム層4は、高温及び高負荷の下で高い耐久性を有するようにするという観点から、JIS K 6253に準拠したジュロメータ硬度(ショアーA)が86以上であることが好ましく、89以上であることがより好ましい。
【0017】
なお、圧縮ゴム層2及び背面ゴム層6は、第1ゴム組成物で構成されていてもよく、伝動ベルト1に通常用いられるゴム組成物であれば第1ゴム組成物とは組成の異なるゴム組成物で構成されていてもよい。
【0018】
以下、第1ゴム組成物について説明する。
【0019】
<第1ゴム組成物>
第1ゴム組成物は、ゴム成分と、ゴム成分を架橋するための架橋剤とを含有する。ゴム成分は、高温及び高負荷の下で高い耐久性を有するようにするという観点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含有することが好ましい。エチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-プロピレン-ジエン-ターポリマー、エチレン-オクテンコポリマー、エチレン-ブテンコポリマー等が挙げられ、特に、加工性及び架橋効率の観点から、エチレン-プロピレン-ジエン-ターポリマーが好ましい。
【0020】
架橋剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチル-ヘキシルカーボネート、α,α’-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン,1,1-ジ-(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0021】
また、第1ゴム組成物は、ゴム成分及び架橋剤以外の配合剤を含有していてもよい。そのような配合剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の充填剤が挙げられ、特に、高温及び高負荷の下で高い耐久性を有するようにするという観点から、カーボンブラック及びシリカの少なくとも一方を含有していることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。また、充填剤以外の配合剤として、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、老化防止剤、加水分解安定剤、パラフィン系プロセス油、共架橋剤等が挙げられる。第1ゴム組成物は、このほかの、伝動ベルトのゴム組成物に通常用いられる配合剤を含有していてもよい。
【0022】
以下、本実施形態の変形例について説明する。なお、以下の説明では、本実施形態と共通する構成の説明を省略する。
【0023】
(実施形態の第1変形例)
前述の実施形態では、接着ゴム層4は、全体が第1ゴム組成物で構成されているが、第1変形例では、接着ゴム層4は、第1ゴム組成物で構成された第1層と、第2ゴム組成物で構成された第2層とを含む2層構造である。第1層は、圧縮ゴム層2の直上に設けられ、第2層は、第1層の直上に設けられている。
【0024】
第2ゴム組成物は、構成成分の種類及び各構成成分の含有量の少なくとも一方が第1ゴム組成物とは異なっている。また、第2ゴム組成物は、第2層の120℃での50%伸び時のモジュラスが、第1層とは異なり4.0MPa未満となるようなものであってもよい。
【0025】
後述の実施例で示すように、接着ゴム層4は、背面ゴム層6側よりも圧縮ゴム層2側で歪みが大きくなりやすい。このため、本変形例のように、圧縮ゴム層2側に設けられた第1層を第1ゴム組成物から構成すれば、接着ゴム層4の高温及び高負荷の下で高い耐久性が得られる。その一方で、第2層の第2ゴム組成物を構成する成分の種類及び含有量は、製造コストやその他様々な観点から、自由に選択できる。すなわち、本実施例によれば、接着ゴム層4における背面ゴム層6側に使用する第2ゴム組成物の選択の自由度が高くなる。
【0026】
例えば、第2ゴム組成物は、以下のように選択してもよい。後述の実施例で示すように第2層は第1層よりも使用時における歪みが小さいと考えられる。このため、第2層が第1層よりも低弾性率となるように、第2ゴム組成物の材料を選択してもよい。このようにすることで、第1層でVリブドベルト1の高い耐久性が得られるとともに、第2層でVリブドベルト1の屈曲に起因する応力によるエネルギー損失を低減させることができる。その結果、さらなる伝動効率の向上が得られ、消費電力を削減できる。
【0027】
ところで、接着ゴム層4は、接着ゴム層4と心線5との材質の違いにより、心線5と接している部分で歪みが大きくなることが考えられる。また、接着ゴム層4は、後述の実施例で示すように、背面ゴム層6側よりも、伝動のはたらきを主に担う圧縮ゴム層2側で特に歪みが大きくなりやすい。以上のことを考慮すると、高温及び高負荷の下で非常に高い耐久性を有するようにするという観点から、第1層は、埋設された心線5の断面中央部よりも内周側(すなわち、圧縮ゴム層2側)全体に設けられていることが好ましい。この場合、図1の構成では、第1層及び第2層の界面は、接着ゴム層4のベルト厚さ方向中央である。
【0028】
(実施形態の第2変形例)
第2変形例では、接着ゴム層4は、ベルト幅方向両端部に沿って設けられた第1部と、ベルト幅方向中央部に沿って設けられた第2部とを含む。第1部は第1ゴム組成物で構成され、第2部は第2ゴム組成物で構成されている。
【0029】
後述の実施例で示すように、接着ゴム層4は、ベルト幅方向両端部において歪みが大きくなりやすい。このため、本変形例のように、ベルト幅方向両端部に設けられた第1部を第1ゴム組成物から構成すれば、Vリブドベルト1の高温及び高負荷の下で耐久性が得られる。第2ゴム組成物を構成する成分の種類及び含有量は、製造コストやその他様々な観点から、自由に選択できる。すなわち、本実施例によれば、接着ゴム層4におけるベルト幅方向中央部に使用する第2ゴム組成物の選択の自由度が高くなる。例えば、前述の第1変形例と同様の理由から、第2部が第1部よりも低弾性率となるように、第2ゴム組成物を使用してもよい。
【0030】
(実施形態の第3変形例)
前述の第1変形例及び第2変形例に代えて、例えば、接着ゴム層4においてベルト幅方向両端部に沿った部分(すなわち、第2変形例の第1部に相当する部分)のみを2層構造とし、その2層のうち圧縮ゴム層2側の層(すなわち、第1変形例の第1層に相当する層)を第1ゴム組成物で構成し、これ以外の部分を第2ゴム組成物で構成してもよい。この場合、前述の第1変形例で説明したように高温及び高負荷の下で非常に高い耐久性を有するようにするという観点から、圧縮ゴム層2側の層は、埋設された心線5の断面中央部よりも内周側(すなわち、圧縮ゴム層2側)全体に設けられていることが好ましい。この場合、図1の構成では、第1層及び第2層の界面は、接着ゴム層4のベルト厚さ方向中央である。
【0031】
(実施形態の第4変形例)
前述の第1~第3変形例に代えて、例えば、接着ゴム層4においてベルト幅方向中央部に沿った部分(すなわち、第2変形例の第2部に相当する部分)のみを2層構造とし、その2層のうち背面ゴム層6側の層(すなわち、第1変形例の第2部に相当する層)を第2ゴム組成物で構成し、これ以外の部分を第1ゴム組成物で構成してもよい。
【0032】
(その他の実施形態)
前述の実施形態では、伝動ベルトがVリブドベルトであるが、本発明に係る伝動ベルトは、これに限定されず、Vベルト、歯付ベルト等のあらゆる伝動ベルトであってもよい。
【実施例
【0033】
以下、実施例1,2及び比較例1,2を説明する。
【0034】
<Vリブドベルトの製造>
実施例1では、密閉型混練機に、表1に示す配合表にしたがい、ゴム成分、架橋剤、充填剤その他配合剤を投入し、混練し、未架橋の接着ゴム層4用の第1組成物を調製した。また、同様の手順で、圧縮ゴム層2用及び背面ゴム層6用の各ゴム組成物も調製した。
【0035】
圧縮ゴム層2、接着ゴム層4及び背面ゴム層6形成するための各ゴム組成物を、未架橋の状態でシート状に形成し、これらを成型ドラムに順番に巻き付けた。その際、接着ゴム層4用のシートには、接着処理を行った心線5を、弛まないよう一定張力で張りながら成型ドラムの一端部から他端部まで巻きつけ、その上からさらに接着ゴム層4用のシートを巻き付け、これにより心線5を接着ゴム層4に埋設した。
【0036】
最後に、各層2,4,6の積層体が巻き付けられた成型ドラムを、約170℃で約20分間プレス加硫して一度に架橋させ、筒状のベルト(スラブ)を成型した。その後、そのスラブをベルトの幅にカットし、Vリブドベルトを製造した。なお、製造したVリブドベルトのリブの数は3つであった。
【0037】
実施例2及び比較例1,2では、接着ゴム層4を構成するゴム組成物を、表1に示すような配合にしたことを除き、実施例1と同じようにしてVリブドベルト1を製造した。すなわち、実施例1,2及び比較例1,2に係るVリブドベルト1は、圧縮ゴム層2を構成するゴム組成物、背面ゴム層6を構成するゴム組成物など、接着ゴム層4を構成するゴム組成物を除くあらゆる構成が、互いにすべて同じである。
【0038】
【表1】
【0039】
<走行耐久性試験>
以上のようにして得た実施例1,2及び比較例1,2に係るVリブドベルト1を、それぞれ、図2に示すようにベルト走行試験機10のプーリ11~14に掛け渡して、走行耐久性試験を行った。ベルト走行試験機10は、互いに間隔をおいて設けられた駆動プーリ11及び従動プーリ12と、両プーリ11,12間に設けられたアイドラプーリ13と、アイドラプーリ13と間隔をおいて設けられたテンションプーリ14とを備える。テンションプーリ14は、駆動プーリ11及び従動プーリ12からの距離が互いに等しい位置に設けられており、Vリブドベルト1にテンションを加えるために、図2の矢印で示すようにアイドラプーリ13から離れる方向に移動可能に構成されている。駆動プーリ11及び従動プーリ12は、いずれも、プーリ径が120mmであり、外周にV溝が形成されている。アイドラプーリ13のプーリ径は80mmであり、テンションプーリ14のプーリ径は55mmである。
【0040】
走行耐久性試験は、120℃の温度下で、テンションプーリ14によりVリブドベルト1に対し120kg重の張力をかけるとともに、駆動プーリ11を4900rpmで回転させて行った。
【0041】
表2は、実施例1,2及び比較例1,2について、接着ゴム層4の物性及び走行耐久性試験結果を示す。具体的には、物性は、120℃における50%モジュラス及びJIS K 6253に準拠したジュロメータ硬度である。走行耐久性試験結果は、Vリブドベルト1に破損が生じるまでにかかった時間(耐破損時間)及び耐破損時間の経過時における目視により確認された破損状況(どの部位が破損していたかなど)である。
【0042】
【表2】
【0043】
表2に示すように、接着ゴム層4の物性は、120℃における50%モジュラスが4.0MPa(実施例1)、4.3MPa(実施例2)、3.0MPa(比較例1)及び3.3MPa(比較例2)であり、硬度が86(実施例1)、89(実施例2)、85(比較例1)及び84(比較例2)であった。
【0044】
また、耐破損時間は、それぞれ250時間(実施例1)、350時間(実施例2)及び50時間未満(比較例1,2)であることから、実施例1,2のように接着ゴム層4に第1ゴム組成物(120℃における50%モジュラスが4.0MPa以上)を用いることにより、接着ゴム層4が破損しにくく、耐久性が向上したことがわかる。
【0045】
また、破損状況については、実施例1,2では接着ゴム層4の欠損はみられず圧縮ゴム層2が欠損していたのに対し、比較例1,2では接着ゴム層4が欠損してそれにより心線5が接着ゴム層4の外側にとび出し露出していた。このとからも、実施例1,2のように、接着ゴム層4に第1ゴム組成物を用いることにより、接着ゴム層4の耐久性が向上したことがわかる。
【0046】
<応力-歪み分布解析>
コンピュータ上で、実施例2及び比較例1のVリブドベルトのモデル(以下、ベルトモデルという)を作成し、これにプーリ径55mmのテンションプーリにより120kg重の張力をかけるシミュレーションを行い、この張力による応力を受けたことによりベルトモデルに生じた歪み分布を算出した(以下、この解析を応力-歪み分布解析という)。なお、このシミュレーションには、インターメッシュジャパン社製の汎用FEM解析ソフトウェア「Abaqus」を使用した。
【0047】
具体的には、実施例2及び比較例1のベルトモデルは、表1に示すような実施例2及び比較例1の配合の接着ゴム層4について、引張試験(JIS K6251)及び圧縮試験(JIS K6254)を行って得た応力-歪曲線を入力して、構築した。歪み分布の算出は、ベルトモデルを図3に示すような格子状の体積要素ごとに分割し、各体積要素にかかる応力及びそれによる歪みを有限要素法(FEM)により算出した。
【0048】
図3及び図4は、それぞれ実施例2及び比較例1に係る上記ベルトモデルにおける接着ゴム層4のみを表示した3D画像の一部と、ベルトモデルの体積要素ごとの歪みの大きさ(歪み値)をグレースケールで表示した、ベルトモデルの応力-歪み分布解析の結果とを示している。なお、図3及び図4に示す歪み値とは、応力を受けて変形した各体積要素の寸法変形量(m)を変形前の各体積要素の寸法(m)で割った値であり、正(+)の値は各体積要素の体積増加(膨張)を意味し、負(-)の値は各体積要素の体積減少(圧縮)を意味する。
【0049】
図3及び図4によれば、実施例2及び比較例1の両方で、接着ゴム層4のベルト幅方向両端部の歪み値が、ベルト幅方向中央部よりも大きい。また、実施例2及び比較例1の両方で、歪み値が最大となる体積要素は、接着ゴム層4のベルト厚さ方向の最も内周側(圧縮ゴム層2側)に位置していた。
【0050】
以上のことから、接着ゴム層4の歪みは、ベルト幅方向両端部がベルト幅方向中央部よりも大きいこと及びベルト厚さ方向の内周側(特に、圧縮ゴム層2との界面付近)が外周側よりも大きいことがわかる。すなわち、接着ゴム層4のベルト幅方向両端部及びベルト厚さ方向内周側のうちの少なくとも一方で、耐久性を高くすることで、接着ゴム層4の耐久性を効率よく高くできるといえる。
【0051】
また、各ベルトモデルにおける接着ゴム層4の全体積要素の中で最大の歪み値は、実施例2で+0.35、比較例1で+0.42であり、実施例2の方が比較例1よりも最大の歪み値が小さく、実施例2の方が比較例1よりもVリブドベルトにおける接着ゴム層4の歪みが小さいといえる。
【0052】
なお、各ベルトモデルの全体積要素の中で最小の歪み値は、実施例2で+2.9×10-4、比較例1で-3.7×10-4であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、伝動ベルトとして有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 Vリブドベルト(伝動ベルト)
2 圧縮ゴム層
3 リブ
4 接着ゴム層
5 心線
6 背面ゴム層
10 ベルト走行試験機
11 駆動プーリ
12 従動プーリ
13 アイドラプーリ
14 テンションプーリ
図1
図2
図3
図4