(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクル膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20240305BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240305BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240305BHJP
B82Y 35/00 20110101ALI20240305BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240305BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240305BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F7/20 503
B82Y30/00
B82Y35/00
B82Y40/00
C01B32/168
(21)【出願番号】P 2023543990
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2022032111
(87)【国際公開番号】W WO2023027159
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2021138015
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168502(JP,A)
【文献】特開2021-172528(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008594(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225863(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/62
7/20
B82Y 30/00
35/00
40/00
C01B 32/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブを含み、
前記複数のカーボンナノチューブの下記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ
の一部は、
複数のバンドルを形成しており、
前記複数のバンドルの下記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.15以下である、ペリクル膜。
式(1):直線性パラメータ=1本のカーボンナノチューブの幅の標準偏差Sa/前記幅の平均値Aa
(前記式(1)中、
前記標準偏差Sa及び前記平均値Aaの各々は、1本のカーボンナノチューブの長手方向に沿って2nm間隔ごとに1本のカーボンナノチューブの幅を測定して得られる11点の測定値に基づき算出されている。)
式(2):充填密度パラメータ=1本のバンドルを構成する複数のカーボンナノチューブの中心点間距離の標準偏差Sb/前記中心点間距離の平均値Ab
(前記式(2)中、
前記中心点間距離は、前記ペリクル膜を前記ペリクル膜の膜厚み方向に沿って切断した断面の、1本のバンドルを含む20nm×20nmの範囲の透過型電子顕微鏡画像において、前記透過型電子顕微鏡画像中の複数のカーボンナノチューブの各々の環状の輪郭線の中心点を特定し、所定の条件を満たす複数の三角形が形成されるように、中心点を結んだ直線の長さを示し、
前記所定の条件は、前記複数の三角形の各々の辺が交差しないことと、三角形の3辺の長さの総和が最小となるように3つの前記中心点を選択することと、前記複数の三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であることとを含み、
前記標準偏差Sb及び前記平均値Abの各々は、所定値以下の複数の前記中心点間距離に基づき算出され、
前記所定値は、前記中心点間距離の長さ順に長さが最も短い1番目から、所定順位までの前記中心点間距離の平均値に1.6倍を乗算して得られ、
前記所定順位は、複数の前記中心点間距離の総数に0.8を乗算して得られた数の小数第1位を四捨五入して得られた整数が示す。)
【請求項2】
バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、
平滑度評価値が、0.070(nm
2/nm)以下であり、
前記平滑度評価値は、カーボンナノチューブの輪郭線と、前記輪郭線の近似曲線との間の面積を前記近似曲線の長さで除した値を示し、
前記輪郭線は、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度での前記ペリクル膜の表面の透過型電子顕微鏡像において、暗い線として現れるCNTの壁面部分をなぞることで得られる線であり、
前記近似曲線は、前記CNTの輪郭線の座標を2次のスプライン補間によって描かれる曲線であり、
前記カーボンナノチューブの輪郭線と近似曲線は20本のカーボンナノチューブから抽出され、
カーボンナノチューブ1本につき、前記輪郭線の長さは20nmである
、
請求項1に記載のペリクル膜。
【請求項3】
バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
バンドルの軸方向に沿って切断したペリクル膜の断面における所定のバンドル領域内の7箇所でのDバンドの強度に対するGバンドの強度の比率(G/D)の最小値が0.80以上であり、
前記Dバンドの強度及び前記Gバンドの強度の各々は、ラマンイメージング測定による測定値であり、
前記所定のバンドル領域は、前記断面の500nm×500nmの測定エリアにおいて、空間分解能20nm以下の分解能で太さが10nm以上のバンドル内の領域を示し、
前記Dバンドの強度は、ラマンシフトが1300cm
-1~1400cm
-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値であり、
前記Gバンドの強度は、ラマンシフトが1550cm
-1~1610cm
-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値であり、
請求項1に記載のペリクル膜。
【請求項4】
ペリクル枠と、
前記ペリクル枠に支持された請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のペリクル膜とを備える、ペリクル。
【請求項5】
フォトマスクと、
前記フォトマスクに貼着された請求項4に記載のペリクルと
を備える、露光原版。
【請求項6】
露光光としてEUV光を放出するEUV光源と、
請求項5に記載の露光原版と、
前記EUV光源から放出された前記露光光を前記露光原版に導く光学系と
を備え、
前記露光原版は、前記EUV光源から放出された前記露光光が前記ペリクル膜を透過して前記フォトマスクに照射されるように配置されている、露光装置。
【請求項7】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のペリクル膜を製造する方法であって、
直噴熱分解合成法により合成された複数のカーボンナノチューブが分散した分散液を基板に塗布する塗布工程を含む、ペリクル膜の製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含む、請求項7に記載のペリクル膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペリクル膜、ペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクル膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化は、フォトリソグラフィーによって推し進められている。近年、半導体集積回路の高精細化に伴い、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光が用いられている。EUV光は、その波長が短いため、気体、液体、及び固体のすべてに吸収されやすい。そのため、EUV光を用いる露光方法では、EUV光を反射する反射層を備えるフォトマスクが用いられ、フォトマスク及び光学系は真空チャンバ内に設置される。露光に使用する光(以下、「露光光」という。)としてEUV光を用いた露光(以下、「EUV露光」という。)は、真空雰囲気中で行われる。
【0003】
しかしながら、真空チャンバ内には残留ガス(例えば、水分及び有機物等)が残存し、EUV光の照射によって、光学系に含まれるミラーやマスクの表面に炭素膜の付着等(以下、「コンタミネーション」という。)が発生するおそれがある。コンタミネーションの発生は、スループットの低下及び転写性能の劣化を引き起こすおそれがある。
コンタミネーションの対策として、光学系を分解洗浄せず、真空チャンバ内に水素ガスを供給し、発生したコンタミネーションをその場で(in situ)、クリーニングすることが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
フォトマスクには、フォトマスクの表面に塵埃等の異物が付着することを防止するために、ペリクルが装着される。ペリクルは、ペリクル膜と、ペリクル膜を支持するペリクル枠とを備える。EUV光に対して透過性を有するペリクル膜の原料として、カーボンナノチューブが知られている(例えば、特許文献1)。単層カーボンナノチューブを製造する方法として、スーパーグロース法(以下、「SG法」という。)が知られている(例えば、特許文献2)。
【0005】
特許文献1:特開2020-181212号公報
特許文献2:国際公開第2006/011655号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンタミネーションの対策として、真空チャンバ内に供給された水素ガスは、EUV光の照射により、水素プラズマになると考えられる。SG法によって製造されたカーボンナノチューブを用いたペリクル膜は、水素プラズマに曝されると、膜減りしやすいおそれがある。水素プラズマによってペリクル膜の膜減りが生じると、露光中に露光光の透過率が変動し、転写性能の劣化をもたらすため、好ましくない。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいペリクル膜、ペリクル、露光原版、及び露光装置を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいペリクル膜の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 複数のカーボンナノチューブを含み、
前記複数のカーボンナノチューブの下記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下である、ペリクル膜。
式(1):直線性パラメータ=1本のカーボンナノチューブの幅の標準偏差Sa/前記幅の平均値Aa
(前記式(1)中、
前記標準偏差Sa及び前記平均値Aaの各々は、1本のカーボンナノチューブの長手方向に沿って2nm間隔ごとに1本のカーボンナノチューブの幅を測定して得られる11点の測定値に基づき算出されている。)
<2> 前記複数のカーボンナノチューブは、バンドルを形成しており、
前記複数のバンドルの下記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下である、前記<1>に記載のペリクル膜。
式(2):充填密度パラメータ=1本のバンドルを構成する複数のカーボンナノチューブの中心点間距離の標準偏差Sb/前記中心点間距離の平均値Ab
(前記式(2)中、
前記中心点間距離は、前記ペリクル膜を前記ペリクル膜の膜厚み方向に沿って切断した断面の、1本のバンドルを含む20nm×20nmの範囲の透過型電子顕微鏡画像において、前記透過型電子顕微鏡画像中の複数のカーボンナノチューブの各々の環状の輪郭線の中心点を特定し、所定の条件を満たす複数の三角形が形成されるように、中心点を結んだ直線の長さを示し、
前記所定の条件は、前記複数の三角形の各々の辺が交差しないことと、三角形の3辺の長さの総和が最小となるように3つの前記中心点を選択することと、前記複数の三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であることとを含み、
前記標準偏差Sb及び前記平均値Abの各々は、所定値以下の複数の前記中心点間距離に基づき算出され、
前記所定値は、前記中心点間距離の長さ順に長さが最も短い1番目から、所定順位までの前記中心点間距離の平均値に1.6倍を乗算して得られ、
前記所定順位は、複数の前記中心点間距離の総数に0.8を乗算して得られた数の小数第1位を四捨五入して得られた整数が示す。)
<3> 前記充填密度パラメータの平均値が0.15以下である、前記<2>に記載のペリクル膜。
<4> バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、
回折ピーク比率が1.3以上であり、
前記回折ピーク比率は、前記ペリクル膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した制限視野回折像において、第1プロット曲線をフィッティングして得られた第1フィッティング関数の構成要素である第1ガウス関数の高さに対する、第2プロット曲線をフィッティングして得られた第2フィッティング関数の構成要素である第2ガウス関数の高さの比率を示し、
前記第1プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する、バンドルのバンドル格子由来の回折強度が弱い方向における回折強度のプロファイルであり、
前記第2プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する前記回折強度が強い方向における回折強度のプロファイルであり、
前記第1フィッティング関数は、散乱ベクトルqがq=1.5nm-1~4.0nm-1の範囲において、前記第1プロット曲線と前記第2プロット曲線とで共通するベースラインの関数と、前記第1プロット曲線のピーク中心位置がq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲にある前記第1ガウス関数との和で表される関数であり、
前記第2フィッティング関数は、前記ベースラインの関数と、前記第2プロット曲線のピーク中心位置がg=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲にある前記第2ガウス関数との和で表される関数であり、
前記第1ガウス関数の高さは、散乱ベクトルqがq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲における前記第1ガウス関数の極大値を示し、
前記第2ガウス関数の高さは、散乱ベクトルqがq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲における前記第2ガウス関数の極大値を示す、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<5> バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、
平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であり、
前記平滑度評価値は、カーボンナノチューブの輪郭線と、前記輪郭線の近似曲線との間の面積を前記近似曲線の長さで除した値を示し、
前記輪郭線は、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度での前記ペリクル膜の表面の透過型電子顕微鏡像において、暗い線として現れるCNTの壁面部分をなぞることで得られる線であり、
前記近似曲線は、前記CNTの輪郭線の座標を2次のスプライン補間によって描かれる曲線であり、
前記カーボンナノチューブの輪郭線と近似曲線は20本のカーボンナノチューブから抽出され、
カーボンナノチューブ1本につき、前記輪郭線の長さは20nmである。
前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<6> バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
バンドルの軸方向に沿って切断したペリクル膜の断面における所定のバンドル領域内の7箇所でのDバンドの強度に対するGバンドの強度の比率(G/D)の最小値が0.80以上であり、
前記Dバンドの強度及び前記Gバンドの強度の各々は、ラマンイメージング測定による測定値であり、
前記所定のバンドル領域は、前記断面の500nm×500nmの測定エリアにおいて、空間分解能20nm以下の分解能で太さが10nm以上のバンドル内の領域を示し、
前記Dバンドの強度は、ラマンシフトが1300cm-1~1400cm-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値であり、
前記Gバンドの強度は、ラマンシフトが1550cm-1~1610cm-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値であり、
前記<1>~<5>のいずれか1つに記載のペリクル膜。
<7> ペリクル枠と、
前記ペリクル枠に支持された前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のペリクル膜と
を備える、ペリクル。
<8> フォトマスクと、
前記フォトマスクに貼着された前記<7>に記載のペリクルと
を備える、露光原版。
<9> 露光光としてEUV光を放出するEUV光源と、
前記<8>に記載の露光原版と、
前記EUV光源から放出された前記露光光を前記露光原版に導く光学系と
を備え、
前記露光原版は、前記EUV光源から放出された前記露光光が前記ペリクル膜を透過して前記フォトマスクに照射されるように配置されている、露光装置。
<10> 前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のペリクル膜を製造する方法であって、
直噴熱分解合成法により合成された複数のカーボンナノチューブが分散した分散液を基板に塗布する塗布工程を含む、ペリクル膜の製造方法。
<11> 前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含む、前記<10>に記載のペリクル膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施形態によれば、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいペリクル膜、ペリクル、露光原版、及び露光装置を提供することができる。
本開示の他の実施形態によれば、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいペリクル膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、シングルバンドルの一例の断面を撮影した透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図2】
図2は、
図1中の複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心位置に中心点を描画したTEM画像である。
【
図3】
図3は、
図2中の複数の中心点を直線で結んで得られる複数の三角形を示す図である。
【
図4】
図4は、ペリクル膜の一例の断面の制限視野電子線回折像である。
【
図5】
図5は、ペリクル膜の一例の断面の制限視野電子線回折像(
図4)について、散乱ベクトルに対して膜面方向及び膜厚み方向の各々に沿った回折強度をプロットしたグラフである。
【
図6】
図6は、散乱ベクトルに対する、
図5中のプロット曲線A1及びプロット曲線A2の各々と、近似曲線A3との回折強度の差分を示すグラフである。
【
図7】
図7は、散乱ベクトルに対する、
図6中の差分曲線A4及び差分曲線A5の各々をガウス関数でフィッティングした回折強度を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ペリクル膜の一例の表面を撮影したTEM画像である。
【
図9】
図9は、ペリクル膜の一例の表面を撮影したTEM画像の制限視野回折像である。
【
図10】
図10は、ペリクル膜の一例の散乱ベクトルに対する、
図9中の方向D2及び方向D3の各々における回折像の回折強度を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ペリクル膜の一例の表面を撮影したTEM画像である。
【
図14】
図14は、シングルバンドルの一例の断面を撮影したTEM画像である。
【
図15】
図15は、
図14中の複数のCNTの各々に環状の輪郭線を描画したTEM画像である。
【
図16】
図16は、
図15中の複数の環状の輪郭線の中心点を直線で結んで得られる多角形を示す図である。
【
図18】
図18は、
図16中、複数の環状の輪郭線の内部を黒色で塗りつぶした多角形を示す図である。
【
図19】
図19は、
図18中、複数のCNTの断面のうち、多角形の外部に位置するCNTの断面を削除した多角形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を
それぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「EUV光」とは、波長が1nm以上30nm以下の光を指す。EUV光の波長は、5nm以上13.5nm以下が好ましい。
本開示において、「標準偏差」とは、分散の正の平方根を示し、「分散」とは、偏差(すなわち、統計値と平均値との差)の二乗の相加平均を示す。
本開示において、「膜面方向」とは、ペリクル膜の表面と平行な任意の方向を示し、「膜厚み方向」とは、ペリクル膜の厚み方向を示す。膜厚み方向は、膜面方向に対して垂直な方向を示す。
【0012】
(1)第1実施形態
(1.1)ペリクル膜
第1実施形態に係るペリクル膜は、複数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」という。)を含む。複数のCNTの下記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下である。
【0013】
式(1):直線性パラメータ=1本のCNT(以下、「シングルチューブ」という。)の幅の標準偏差Sa/前記幅の平均値Aa
式(1)中、前記標準偏差Sa及び前記平均値Aaの各々は、シングルチューブの長手方向に沿って2nm間隔ごとにシングルチューブの幅を測定して得られる11点の測定値に基づき算出される。
【0014】
直線性パラメータは、シングルチューブの幅の変動係数(coefficient of variation)を示し、シングルチューブの幅のバラツキ具合を定量的に表している。直線性パラメータが0により近いことは、シングルチューブの幅のバラツキがより少なく、シングルチューブは直線により近いことを示す。
【0015】
以下、ペリクル膜を「CNT膜」という場合もある。
【0016】
第1実施形態では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、主として、以下の理由によると推測される。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であることは、複数のCNTの各々のミクロ的な視点での直線性が高く、複数のCNTの各々の構造の欠陥密度が低いことを示す。換言すると、複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であることは、複数のCNTの各々の幅が、その長手方向に沿って、鋸刃のように細かく乱れておらず、複数のCNTの各々の幅が均一に近いことを示す。「CNTの構造の欠陥密度が0である(すなわち、CNTの構造の欠陥密度がない)」とは、炭素原子が共有結合で結び付いたネットワーク(網目)の炭素原子が1つも欠けることなく、トポロジカル欠陥がネットワーク(網目)に導入されていないことを示す。トポロジカル欠陥は、五員環及び七員環を含む。
CNTの表面のうち構造欠陥がある部位は、ミクロ的な視点での非直線性を示す部位(以下、「非直線部」という。)として現れやすい。水素プラズマは、非直線部を起点に、主として、CNTのエッチング(すなわち、CNTを分解して削り取る)を促進させると考えられる。第1実施形態に係るペリクル膜に含まれる複数のCNTの各々の構造の欠陥密度は、低い。そのため、水素プラズマによるエッチングの起点となる非直線部の数は少ない。その結果、第1実施形態に係るペリクル膜は、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいと推測される。
【0017】
(1.1.1)直線性パラメータ
第1実施形態では、複数のCNTの直線性パラメータの平均値は、0.10以下であり、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制する観点から、好ましくは0.08以下、より好ましくは0.07以下、さらに好ましくは0.06以下、特に好ましくは0.05以下、一層好ましくは0.045以下であり、0に近いほど好ましい。
直線性パラメータの平均値の下限は、特に制限はないが、例えば、0.001以上とすることができ、0.005以上とすることができ、0.010以上とすることもできる。
これらの観点から、複数のCNTの直線性パラメータの平均値は、好ましくは0.001~0.08、より好ましくは0.001~0.07、さらに好ましくは0.001~0.06、特に好ましくは0.001~0.05、一層好ましくは0.001~0.045である。別の観点では、複数のCNTの直線性パラメータの平均値は、好ましくは0.005~0.06、より好ましくは0.005~0.05、さらに好ましくは0.005~0.045である。別の観点では、複数のCNTの直線性パラメータの平均値は、好ましくは0.010~0.06、より好ましくは0.010~0.05、さらに好ましくは0.010~0.045である。
【0018】
(1.1.1.1)直線性パラメータの測定方法
複数のCNTの直線性パラメータの平均値は、次のようにして測定される。
【0019】
<転写>
後述するペリクルのペリクル膜の自立膜部を、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察用のグリッドに転写する。「ペリクル膜の自立膜部」とは、ペリクル膜のうちペリクル枠に支持されていない領域を示す。詳しくは、グリッドに溶媒を滴下し、ペリクルのペリクル膜をグリッドに対向させて、ペリクルをグリッド上に載置する。溶媒としては、水、有機溶媒などが挙げられる。溶媒を乾燥させて、ペリクル膜をグリッドに密着させる。グリッドを固定してペリクルのペリクル枠を持ち上げることでペリクルから自立膜部を分離して、自立膜部をグリッドに転写させる。
【0020】
<表面観察>
グリッドに転写した自立膜部の表面を、TEM(倍率:10万倍~60万倍)を用いて、自立膜部の膜厚み方向から観察して、複数の第1TEM像を得る。TEMの解像度は、TEM像において、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度であることが好ましく、5nmの長さが200ピクセル以上となる解像度であることがより好ましい。
複数の第1TEM像から、1本のCNTの幅を認識しやすい20本のCNTを選択する。
以下、選択された20本のCNTの各々を、「シングルチューブ」という。
【0021】
<測定>
20本のシングルチューブの各々の直線性パラメータを測定する。詳しくは、20本のシングルチューブのうちの1本について、第1TEM像を用いて、シングルチューブの長手方向に沿って2nm間隔ごとにシングルチューブの幅を測定し、11点のシングルチューブの幅を測定する。得られた11点の測定値を用いて、シングルチューブの幅の標準偏差Saと、シングルチューブの幅の平均値Aaとを算出する。算出した標準偏差Sa及び平均値Aaを用いて、式(1)から、シングルチューブの幅の直線性パラメータを算出する。
同様に、20本のシングルチューブのすべてのシングルチューブの幅の直線性パラメータを算出する。
算出した20本のシングルチューブの幅の直線性パラメータの平均値を算出する。算出した20本のシングルチューブの幅の直線性パラメータの平均値を、複数のCNTの直線性パラメータの平均値とみなす。
【0022】
(1.1.2)充填密度パラメータ
第1実施形態では、前記複数のCNTは、バンドルを形成しており、前記複数のバンドルの下記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であることが好ましい。
【0023】
式(2):充填密度パラメータ=1本のバンドル(以下、「シングルバンドル」という。)を構成する複数のCNTの中心点間距離の標準偏差Sb/前記中心点間距離の平均値Ab
式(2)中、前記中心点間距離は、前記ペリクル膜を前記ペリクル膜の膜厚み方向に沿って切断した断面の、シングルバンドルを含む20nm×20nmの範囲の透過型電子顕微鏡画像において、前記透過型電子顕微鏡画像中の複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心点を特定し、所定の条件を満たす複数の三角形が形成されるように、中心点を結んだ直線の長さを示す。
前記所定の条件は、前記複数の三角形の各々の辺が交差しないことと、三角形の3辺の長さの総和が最小となるように3つの前記中心点を選択することと、前記複数の三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であることとを含む。
前記標準偏差Sb及び前記平均値Abの各々は、所定値以下の複数の前記中心点間距離に基づき算出される。
前記所定値は、前記中心点間距離の長さ順に長さが最も短い1番目から、所定順位までの前記中心点間距離の平均値に1.6倍を乗算して得られる。
前記所定順位は、複数の前記中心点間距離の総数に0.8を乗算して得られた数の小数第1位を四捨五入して得られた整数が示す。
【0024】
本開示において、「複数の中心点間距離の総数」とは、複数の中心点間距離全体の数を示し、中心点を結んだ直線の総本数を意味する。
【0025】
充填密度パラメータは、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離の変動係数(coefficient of variation)を示し、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離のバラツキ具合を定量的に表している。充填密度パラメータが0により近いことは、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離のバラツキがより少ないことを示しており、シングルバンドルを構成するCNT同士が隙間なく六方晶的に充填されていることを意味する。
【0026】
最も外側にある中心点を有する中心点間距離は、それ以外の中心点間距離よりも長い傾向にあり、複数のバンドルの充填密度パラメータを評価するにあたり、ノイズになりやすい傾向にある。
式(2)において、標準偏差Sb及び平均値Abの各々は、上述したように、所定値以下の複数の中心点間距離に基づき算出されることで、このようなノイズを排除することができる。
【0027】
充填密度パラメータの平均値を算出する際の条件の詳細について説明する。
CNTの中心点の集合体を三角形分割する際の所定条件である「前記複数の三角形の各々の辺が交差しないこと」、及び「三角形の3辺の長さの総和が最小となるように3つの前記中心点を選択すること」は、ドロネー(Delaunay)の三角形分割として知られている。
【0028】
第1実施形態においては、CNTの中心点の集合体を三角形分割する際に、互いに隣接するCNT同士の中心点間距離を評価するため、上述したドロネーの三角形分割の条件に加えて、「三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であること」との制約条件を追加する。
更に、充填密度パラメータの平均値を算出する際、「標準偏差Sb及び平均値Abの各々は、すべての中心点間距離のうち所定値以下の複数の中心点間距離に基づき算出される」との算出条件が課される。
【0029】
一般的に、ドロネー三角形分割法においては、点の集合体を凸包状に連結する。点の集合体を三角形分割する際に、点の集合体の外側に位置する2点を結んで辺を形成することによって、凸包形状が形成される。この凸包形状を形成する際、遠くに位置する2点同士が結ばれる場合がある。
第1実施形態においては、このような、遠くに位置するCNTの中心点の2点が結ばれて形成される辺は、近接するCNT同士の中心点の2つが結ばれて形成される辺ではなく、複数本のCNTを跨いで、近接していない2つのCNTの中心点が結ばれて形成される辺である場合がある。この場合、遠くに位置する2点が結ばれて形成された辺の長さは、隣接するCNT間の中心点間距離ではなく、互いに離れた位置にあるCNT間の中心点間距離を意味している。
CNTの充填状態を評価するには、バンドルを構成している、近接・隣接した2つのCNTの間の中心点間距離、及びその距離の分布や乱れを評価することが重要である。言い換えれば、充填密度パラメータの平均値に、三角形分割法で遠く離れた外側のCNTの中心点の2点が結ばれた辺の長さ(中心点間距離)を含めることは、充填密度パラメータを過大評価するノイズ成分となるため、適切ではない。
【0030】
以上の理由より、CNTの中心点の集合の三角形分割を行う際に、ドロネーの三角形分割の条件に上述した制約条件を加えることによって、互いに隣接するCNT同士の中心点間距離を抽出することが可能となる。更に、充填密度パラメータの平均値を算出する際、上述した算出条件が課されることで、充填密度パラメータを過大評価するノイズ成分は排除される。その結果、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離の変動係数(coefficient of variation)である充填密度パラメータは、精度よく(ノイズ成分を含みにくくして)評価される。
【0031】
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.20以下であれば、ペリクル膜は水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、主として、以下の理由によると推測される。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.20以下であることは、シングルバンドルを構成する複数のCNTが密に詰まって凝集していることを示す。そのため、シングルバンドルの内部まで水素プラズマが拡散して到達できず、水素プラズマによるエッチング等の影響を受けにくくなる。その結果、ペリクル膜は水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくいと推測される。
【0032】
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、好ましくは0.20以下であり、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制する観点から、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.10以下であり、0に近いほど好ましい。複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0であることは、シングルバンドルを構成する複数のCNTのすべてが等間隔で六方晶状に配置されていること、すなわち最密構造であることを示す。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値の下限は、特に制限されず、例えば、0.01以上とすることができ、0.02以上とすることができ、0.05以上とすることができる。
これらの観点から、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、好ましくは0.01~0.20、より好ましくは0.01~0.15、さらに好ましくは0.01~0.10、特に好ましくは0.02~0.10、一層好ましくは0.05~0.10である。
【0033】
(1.1.2.1)充填密度パラメータの測定方法
次に、
図1~
図3を参照して、バンドルの充填密度パラメータの測定方法を説明する。
図2中、符号10はシングルバンドル、符号20はCNTの環状の輪郭線、符号30は中心点を示す。
図3中、符号30は中心点、符号40は複数の三角形、符号50は三角形の一辺を構成する直線を示す。
【0034】
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、次のようにして測定される。
【0035】
<転写>
後述するペリクルのペリクル膜の自立膜部を基板上に転写する。基板は、特に限定されず、シリコン基板であってもよい。詳しくは、基板に溶媒を滴下し、ペリクルのペリクル膜を基板に対向させて、ペリクルを基板上に載置する。溶媒としては、水、有機溶媒など
が挙げられる。溶媒を乾燥させて、ペリクル膜を基板に隙間なく密着させる。基板を固定してペリクルのペリクル枠を持ち上げることでペリクルから自立膜部を分離して、自立膜部を基板に転写させる。
【0036】
<断面観察>
転写された自立膜部を、集束イオンビーム装置を用いて自立膜部の膜厚み方向に沿って2か所切断し、透視する方向(断面に垂直な方向)の厚さ約100nmの断面観察用薄片を作成する。自立膜部の断面を、TEM(倍率:5万倍~40万倍)を用いて観察し、複数の第2TEM像(
図1参照)を得る。この際、自立膜部のコントラストが付きやすいように、自立膜部を樹脂などで包理してもよいし、金属などを自立膜部に積層してもよい。TEMの解像度は、TEM像において、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度であることが好ましい。
複数の第2TEM像から、1本のバンドルの断面を認識しやすい10本のバンドルを選択する。
以下、選択された10本のバンドルの各々を、「シングルバンドル」という。
【0037】
<測定>
10本のシングルバンドルの各々の充填密度パラメータを測定する。詳しくは、シングルバンドルを含む20nm×20nmの範囲の第2TEM画像において、第2TEM画像中の複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心点を特定する(
図2参照)。
より詳しくは、
図1に見られるように、バンドル及びバンドルを構成するCNTの第2TEM像を観察すると、CNTの壁面部分が暗い環状の線として現れる。この暗い環状の線の領域が輪郭線となるように、バンドルを構成しているCNTの本数分だけ、環状の輪郭線を抽出する。
2層以上のCNTの第2TEM像では、約0.3nm~0.4nmの間隔を隔てて略同心円状(あるいは同一中心位置)の環状の線が見られるので、最外層の暗い環状線の領域が輪郭線となるよう、輪郭線を抽出する。
【0038】
複数のCNTの各々の輪郭線を抽出した後、それぞれの環状輪郭線の幾何中心(Centroid)位置座標を計算して、複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心点を特定する。以下の(a)及び(b)の条件を満たす複数の三角形が形成されるように、特定した複数の中心点を直線で結ぶ(
図3参照)。得られる複数の直線のすべての長さ(中心点間距離)を測定する。
(a)複数の三角形の各々の辺が交差しないこと
(b)三角形の3辺の長さの総和が最小になるように3つの中心点を選択すること
(c)複数の三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であること
【0039】
得られた複数の直線の長さ(中心点間距離)の測定値から所定値以下の複数の測定値を特定する。所定値は、すべての測定値において、測定値の長さ順に、長さが最も短い1番目から所定順位までの測定値の平均値に1.6倍を乗算して得られる。所定順位は、複数の直線の総本数に0.8を乗算して得られた数の小数第1位を四捨五入して得られた整数と同じである。
具体的に、
図3に示すように、複数の直線の総本数が27本である場合、所定順位は、27に0.8を乗算して得られた21.6の小数点第1位を四捨五入して得られる22である。この場合、所定値は、27つの測定値において、測定値の長さ順に、長さが最も短い1番目から22番目までの測定値の平均値に1.6倍を乗算して得られる。
【0040】
所定値以下の複数の測定値を用いて、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離の標準偏差Sbと、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離の平均値Abとを算出する。算出した標準偏差Sb及び平均値Abを用いて、式(2)から、シングルバンドルの充填密度パラメータを算出する。
同様に、10本のシングルバンドルのすべてのシングルバンドルの充填密度パラメータを算出する。
算出した10本のシングルバンドルの充填密度パラメータの平均値を算出する。算出した10本のシングルバンドルの充填密度パラメータの平均値を、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値とみなす。
【0041】
(1.1.3)シングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度
シングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度を評価する方法は、上述した充填密度パラメータによる評価方法とは異なる手法であってもよい。
例えば、複数のCNTからなるペリクル膜について、電子線回折法を用いて、回折ピークの回折強度情報からシングルバンドルを構成する複数のCNTの充填に関する指標を得ることができる。
eDIPS法では、複数のCNTがバンドルを構成して形成される。eDIPS法で製造される複数のCNTの各々は、その直径が1.5nm~2nm程度であり、その構造が主にシングルウォール又はダブルウォールである。eDIPS法で製造される複数のCNTからなるペリクル膜においては、ペリクル膜の表面の制限視野電子回折像及びペリクル膜の断面の制限視野電子回折像において、格子間隔d=0.40nm(散乱ベクトルq=2.5nm-1)付近に、シングルバンドルの三角格子に由来するピークが現れる。ペリクル膜の断面は、ペリクル膜をペリクル膜の膜厚み方向に沿って切断して得られる面である。
この回折ピークは、シングルバンドルを構成する複数のCNTの間隔を反映している。そのため、その回折強度は、シングルバンドルを構成するCNTの直径や集合状態に依存し、シングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度が高く規則性の高い充填構造であるほど強い。
さらに、ペリクル膜のように膜厚みが2nm~50nm程度の薄い膜の場合は、TEM(倍率:2万倍~10万倍)で観察した際の視野の中に存在するシングルバンドルの本数とCNTの本数とが少なく、回折に寄与する構造体の数密度が少ない。そのため、高い回折強度を得るためには、シングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度が高く、シングルバンドルを構成する複数のCNTは高い規則性を有する必要がある。
なお、この回折ピークは、シングルバンドル由来の格子(すなわち、シングルバンドルを構成する複数のCNTの間隔)を反映している。そのため、この回折ピークは、シングルバンドル及びCNTの長手方向(軸方向)に対して垂直方向に現れる。
こうした回折強度の特徴を利用し、シングルバンドル由来の回折強度を評価することによって、以下の(1.1.3.1)及び(1.1.3.2)に記載するように、シングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度を評価することができる。
【0042】
格子間隔dは、散乱ベクトルqの逆数(1/q)で表される。
散乱ベクトルqは、ペリクル膜から顕微鏡のディテクタの検出面までの距離Lと、電子線の波長λと、ペリクル膜上における中心から回折スポットまでの距離rを用いて、以下の式で与えられる。
【0043】
【0044】
(1.1.3.1)TEMの第1回折法(CNTの充填密度)
以下では、
図4~
図7を参照して、ペリクル膜について、ペリクル膜の表面及び断面に対して略垂直に電子線を照射して得た制限視野電子線回折像の解析方法について説明する。
図5中、符号A1は膜厚み方向に沿った回折強度のプロット曲線を示し、符号A2は膜面方向に沿った回折強度のプロット曲線を示し、符号A3は近似曲線を示す。
図5中の回折強度の単位は、ccdカメラで取得された16ビットの階調の輝度であり、
図6、
図7、及び
図10中の回折強度の単位も同様である。
図6中、符号A4は膜厚み方向の回折強度のプロット曲線A1と、近似曲線A3との差分を示す差分曲線を示し、符号A5は膜面方向の回折強度のプロット曲線A2と、近似曲線A3との差分を示す差分曲線を示す。
図7中、符号A6は、膜厚み方向のフィッティング関数を示し、符号A7は膜面方向のフィッティング関数を示す。
【0045】
まず、上述した(1.1.2.1)充填密度パラメータの測定方法と同様にして、ペリクル膜の自立膜部を基板上に転写する。転写された自立膜部を、集束イオンビーム装置を用いて自立膜部の膜厚み方向に沿って切断し、厚さ約100nmの断面観察用の薄片を作成する。自立膜部の断面に対して略垂直に電子線を照射し、制限視野電子線回折像を取得する(
図4参照)。観察倍率は3万倍、視野サイズは薄膜領域を含む直径30nmの範囲とする。
シングルバンドルの長手方向(軸方向)が基板の表面に対して水平である場合、シングルバンドルの長手方向(軸方向)は膜厚み方向に対して垂直となる。この場合、回折像の膜厚み方向には、シングルバンドルの三角格子に由来するピークがd=0.40nm(q=2.5nm
-1)付近に現れる。一方で、回折像のシングルバンドルの軸方向(膜面方向)には、上述したピークはほとんど現れない。
【0046】
次に、散乱ベクトルqに対する膜面方向及び膜厚み方向の各々の回折像の回折強度をプロットする。これにより、膜厚み方向の回折強度のプロット曲線(
図5中の符号A1参照)と、膜面方向の回折強度のプロット曲線(
図5中の符号A2参照)とが得られる。
【0047】
膜面方向には、シングルバンドルの三角格子由来の回折強度が現れない(
図5中の符号A2参照)。膜面方向の回折スペクトルがベースラインとなるように、
図5中の符号A3が示すような近似曲線を作成する。近似曲線としては、q=1.0nm
-1~4.0nm
-1の範囲で、qの値が増すに伴い回折強度が単調減少する関数が用いてもよい。
【0048】
回折プロファイルの近似曲線の種類は、特に限定されないが、特定の累乗関数を用いることが好ましい。特定の累乗関数では、回折強度曲線の傾き(減少率)は、qの値が小さいときに大きく、qの値が大きくなるにつれて小さくなる。累乗関数は、回折強度をy、散乱ベクトルをq[nm
-1]としたときに、例えば、y=αq
-β、(α、βは適切な正の値)とできる。具体的に、
図5では、近似曲線A3は、y=119.42×q
-0.966である。
【0049】
次に、q=1.0nm
-1~4.0nm
-1の範囲で、膜厚み方向のペリクル膜の回折プロファイル及び膜面方向のペリクル膜の回折プロファイルの各々と上記近似曲線との差分を求める。これにより、膜厚み方向の差分曲線(
図6中の符号A4参照)と、膜面方向の差分曲線(
図6中の符号A5参照)とが得られる。
膜厚み方向の差分曲線は、例えば、膜厚み方向の回折強度のプロット曲線から近似曲線を減算することで算出される。
膜面方向の差分曲線は、例えば、膜面方向の回折強度のプロット曲線から近似曲線を減算することで算出される。
【0050】
膜厚み方向の回折強度及び膜面方向の回折強度の各々と、膜厚み方向の差分曲線及び膜面方向の差分曲線について、それぞれq=1.0nm-1~4.0nm-1の範囲に現れるピークを、ガウス関数を用いてフィッティングを行う。
ガウス関数を用いてフィッティングする方法としては、例えば、非線形最小二乗法等が挙げられる。
【0051】
自立膜部を転写する基板としてシリコンウェハを用いたサンプルでは、膜厚み方向の回折プロットのq=3.7nm
-1近傍にシリコンウェハ由来の回折ピークが現れる。そのため、このシリコンウェハ由来のピークについて一つのガウス関数でフィッティングを行う。つまり、膜厚み方向の回折プロット中のシングルバンドル由来の回折ピーク(q=2.0nm
-1~3.0nm
-1)をガウス関数によるフィッティングにより抽出する。これにより、膜厚み方向のフィッティング関数(
図7中の符号A6参照)と、膜面方向のフィッティング関数(
図7中の符号A7参照)とが得られる。
【0052】
回折ピーク比率(以下、「第1回折ピーク比率」ともいう。)は、2以上であることが好ましく、5以上がさらに好ましく、10以上がさらに好ましい。
「第1回折ピーク比率」とは、q=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲内において、膜面方向のフィッティング関数の極大値に対する、膜厚み方向のフィッティング関数の極大値の比率を示す。
【0053】
この第1回折ピーク比率の値が高いほどシングルバンドルを構成する複数のCNTの充填密度が密で隙間が無いことを意味している。そのため、第1回折ピーク比率が上述した数値範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
【0054】
(1.1.3.2)TEMの第2回折方法(CNTの充填密度)
次に、
図8~
図10を参照して、表面観察用のペリクル膜の薄片について、ペリクル膜の表面に対して電子線を照射して得た電子線回折像の解析方法について説明する。
図8中、符号Mは電子線回折の測定領域の一例を示し、符号D1は測定領域M内に位置する1つのシングルバンドルの長手方向(軸方向)を示す。
図9中、符号D2はシングルバンドルの三角格子由来の回折強度が弱い方向(以下、「低回折強度方向」ともいう。)を示し、符号D3は、シングルバンドルの三角格子由来の回折強度が強い方向(以下、「高回折強度方向」ともいう。)を示す。
図10中、符号B1は、低回折強度方向における回折像の回折強度のプロット曲線を示し、符号B2は、高回折強度方向における回折像の回折強度のプロット曲線を示す。符号B3は、近似曲線を示す。
【0055】
第1実施形態に係るペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、回折ピーク比率(以下、「第2回折ピーク比率」ともいう。)が1.3以上であることが好ましい。
前記回折ピーク比率は、前記ペリクル膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した制限視野回折像において、第1プロット曲線をフィッティングして得られた第1フィッティング関数の構成要素である第1ガウス関数の高さに対する、第2プロット曲線をフィッティングして得られた第2フィッティング関数の構成構成である第2ガウス関数の高さの比率を示す。換言すると、前記回折ピーク比率は、(第2プロット曲線をフィッティングして得られた第2ガウス関数の高さ)/(第1プロット曲線をフィッティングして得られた第1ガウス関数の高さ)を示す。
前記第1プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する、バンドルのバンドル格子由来の回折強度が弱い方向における回折強度のプロファイルである。
前記第2プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する前記回折強度が強い方向における回折強度のプロファイルである。
前記第1フィッティング関数は、散乱ベクトルqがq=1.5nm-1~4.0nm-1の範囲において、前記第1プロット曲線と前記第2プロット曲線とで共通するベースラインの関数と、前記第1プロット曲線のピーク中心位置がq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲にある前記第1ガウス関数との和で表される曲線である。すなわち、第1フィッティング関数は、第1プロット曲線の近似曲線である。
第1ガウス関数は、前記第1プロット曲線とベースラインの関数との差分からピーク中心位置がq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲となるガウス関数でフィッティングすることにより導出できる。フィッティングの方法に限定はないが、例えば、最小二乗法を用いることができる。
前記第2フィッティング関数は、前記ベースラインの関数と、前記第2プロット曲線のピーク中心位置がq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲にある前記第2ガウス関数との和で表される曲線である。
第2ガウス関数は、前記第2プロット曲線とベースライン関数との差分からピーク中心位置がq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲となるガウス関数でフィッティングすることにより導出できる。フィッティングの方法に限定はないが、例えば、最小二乗法を用いることができる。
前記第1ガウス関数の高さは、散乱ベクトルqがq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲における前記第1ガウス関数の極大値を示す。
前記第2ガウス関数の高さは、散乱ベクトルqがq=2.0nm-1~3.0nm-1の範囲における前記第2ガウス関数の極大値を示す。
【0056】
以下、「散乱ベクトルqがq=1.5nm-1~4.0nm-1の範囲において、前記第1プロット曲線と前記第2プロット曲線とで共通するベースラインの関数」を単に「ベースラインの関数」ともいう。
【0057】
第2回折ピーク比率の値がより高いことは、バンドルを構成する複数のCNTの充填密度がより高いこと(すなわち、隣接するCNTの隙間がより小さいこと)を意味している。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、バンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
【0058】
以下、第2回折ピーク比率の測定方法について説明する。
まず、上述した(1.1.1.1)直線性パラメータの測定方法と同様にして、ペリクル膜の自立膜部を電子顕微鏡観察用のグリッドに転写する。転写された自立膜部の表面を、TEM(倍率:2万倍~10万倍)を用いて、自立膜部の膜厚み方向に沿った向きに観察し、電子線回折の測定部位を決定する(
図8参照)。膜面方向に対して略垂直に電子線を測定領域に照射し、倍率10万倍で観察したときの、視野サイズ50nm~120nmの制限視野回折像を取得する。
【0059】
得られた回折像において、回折を測定した領域内部に存在するシングルバンドルの長手方向(軸方向)に対して垂直方向に向かって、シングルバンドルの三角格子に由来するピークがd=0.40nm(q=2.5nm-1)付近に現れる。
【0060】
回折像の回折強度について、散乱ベクトルqに対して、低回折強度方向(
図9中の符号D2参照)と、高回折強度方向(
図9中の符号D3参照)との各々の回折強度のプロットを行う(
図10参照)。これにより、低回折強度方向の第1プロット曲線と、高回折強度方向の第2プロット曲線とが得られる。
【0061】
高回折強度方向は、制限視野回折像のd=0.40nm(q=2.5nm-1)において、電子線透過像の回折像を取得した範囲内におけるバンドルの長手方向(軸方向)に対して、垂直方向に輝線・輝点として現れることから判断できる。
低回折強度方向は、制限視野回折像において、電子線透過像の回折像を取得した範囲内におけるバンドルが伸びていない軸方向に対し、垂直方向に暗い領域として現れることから判断できる。
【0062】
第1プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する、低回折強度方向における回折強度のプロファイルである。第2プロット曲線は、散乱ベクトルqに対する、高回折強度方向における回折強度のプロファイルである。
【0063】
第1プロット曲線(
図10中の符号B1参照)及び第2プロット曲線(
図10中の符号B2参照)のそれぞれを、第1プロット曲線とベースラインの関数との差分及び第2プロット曲線とベースラインの関数との差分を用いてガウス関数にフィッティングする。これにより、低回折強度方向の第1ガウス関数と、高回折強度方向の第2ガウス関数とが得られる。
このようにして得られる第1ガウス関数及び第2ガウス関数を用いて第2回折ピーク比率を求めることで、シングルバンドルを構成する複数のCNTが密な状態、すなわち、水素プラズマに曝されても膜減りしにくいペリクル膜であるか否かを評価しやすくできる。
第1フィッティング関数は、ベースラインの関数と、第1ガウス関数との和で表される。
第2フィッティング関数は、ベースラインの関数と、第2ガウス関数との和で表される。
第1フィッティング関数及び第2フィッティング関数の各々のベースラインの関数は、同一である。
【0064】
ベースラインの関数は、第1プロット曲線B1と第2プロット曲線B2とで共通する関数であり、q=1.5nm
-1~4.0nm
-1の範囲で、qの値が増すに伴い回折強度が単調減少する関数であることが好ましい。ベースラインの関数は、qの値が小さいときに回折強度曲線の傾き(減少率)が大きく、qの値が大きくなるにつれて回折強度曲線の傾き(減少率)が小さくなる累乗関数を用いることがより好ましい。累乗関数は、回折強度をy、散乱ベクトルをqとしたときに、例えば、y=αq
-β、(α、βは適切な正の値)とできる。具体的に、
図10では、近似曲線B3は、y=284.71×q
-1.441である。
【0065】
第1ガウス関数は、例えば、下記式[数2]で表される。下記式[数2]中、a1は回折ピーク強度、b1はピーク位置、c1はピークの幅である。
【0066】
【0067】
第2ガウス関数は、例えば、下記式[数3]で表される。下記式[数3]中、a2は回折ピーク強度、b2はピーク位置、c2はピークの幅である。
【0068】
【0069】
第1ガウス関数は、第1プロット曲線とベースラインの関数との差分の近似線となるように設定する。具体的に、第1フィッティング関数をZ1とし、ベースラインの関数をYとし、第1ガウス関数をF1とすると、例えば、Z1=Y+F1で表される。第1フィッティング関数は、第1プロット曲線に近似している。
第2ガウス関数は、第2プロット曲線とベースラインの関数との差分の近似線となるように設定する。具体的に、第2フィッティング関数をZ2とし、ベースラインの関数をYとし、第2ガウス関数をF2とすると、例えば、Z2=Y+F2で表される。第2フィッティング関数は、第2プロット曲線に近似している。
【0070】
第2回折ピーク比率は、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることが好ましく、2以上がさらに好ましく、5以上がさらに好ましい。
第2回折ピーク比率の上限は、特に制限されず、例えば、100以下とすることができ、50以下とすることができ、20以下とすることもできる。
これらの観点から、第2回折ピーク比率は、好ましくは1.3~100、より好ましくは1.5~100、さらに好ましくは1.5~50、特に好ましくは1.5~20、一層好ましくは2~20、より一層好ましくは5~20である。
【0071】
(1.1.4)平滑度評価値(CNTの直線性)
次に、
図11~
図13を参照して、CNTの直線性を定量化する手法として、平滑度評価値を用いる方法について説明する。
図12中、符号11は、CNTの輪郭線を示す。
図13中、符号C1はCNTの輪郭線を示し、符号C2は近似曲線を示す。
【0072】
第1実施形態に係るペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
前記平滑度評価値は、カーボンナノチューブの輪郭線と、前記輪郭線の近似曲線との間の面積を前記近似曲線の長さで除した値を示す。
前記輪郭線は、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度での前記ペリクル膜の表面の透過型電子顕微鏡像において、暗い線として現れるCNTの壁面部分をなぞることで得られる線である。
前記近似曲線は、前記CNTの輪郭線の座標を2次のスプライン補間によって描かれる曲線である。
前記カーボンナノチューブの輪郭線と近似曲線は20本のカーボンナノチューブから抽出される。
カーボンナノチューブ1本につき、前記輪郭線の長さは20nmである。
【0073】
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、CNTの各々の構造の欠陥密度は低く、水素プラズマによるエッチングの起点となる非直線部の数は少ない。シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離が短く、複数のCNTはシングルバンドルを構成する。さらには、直線性が高いためにCNT鎖同士が小さい隙間で隣接することが可能となる。そのため、シングルバンドル内部でのCNTの充填密度は高まる。その結果、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
【0074】
平滑度評価値を用いる方法は、ペリクル膜を膜面方向から観察した透過電子顕微鏡像(
図11参照)を用いる。平滑度評価値を用いる方法は、抽出工程と、近似曲線作成工程と、曲線間面積算出工程と、算出工程とを有し、各工程はこの順で実行される。
抽出工程では、CNTの輪郭線を抽出する(
図12参照)。
近似曲線作成工程では、CNTの輪郭線に対して近似曲線を作成する(
図13参照)。
曲線間面積算出工程では、近似曲線とCNTの輪郭線との間の面積を計算する。「近似曲線とCNTの輪郭線との間の面積」とは、近似曲線とCNTの輪郭線とで囲まれた複数の部位の総面積を示す。
算出工程では、曲線間面積算出工程で算出された面積を近似曲線の長さで除すること(すなわち、曲線間面積正規化)によって、CNT平滑度評価値を算出する。
【0075】
(1.1.4.1)抽出工程
具体的に、まず、上述した(1.1.1.1)直線性パラメータの測定方法と同様にして、ペリクル膜の自立膜部を電子顕微鏡観察用のグリッドに転写する。膜面方向に対して略垂直に電子線を自立膜部の表面に照射し、5nmの長さが100ピクセル以上となる解像度で10万倍~60万倍の倍率で、自立膜部の膜厚み方向から自立膜部の表面を観察し、複数の第3TEM像を得る(
図11参照)。
複数の第3TEM像から、1本のCNT由来の輪郭線を明瞭に認識しやすい20本のCNTを選択する。
第3TEM像において、CNTの壁面部分は暗い線として現れる。この暗い部分をなぞることで、抽出工程における「CNTの輪郭線」を抽出することができる。
第3TEM像において、通常、1本のCNTから2本の輪郭線を観察できる。2層のCNTからは4本の輪郭線、n層のCNTからは2n本の輪郭線が観察される。nは、自然数である。選択したCNTが2層以上のCNTである場合は、最も外側に位置するCNTの輪郭線を、抽出工程における「CNTの輪郭線」として抽出する。
選択した20本のCNTの各々の「CNTの輪郭線」を抽出する。
【0076】
(1.1.4.2)近似曲線作成工程
選択した20本のCNTの各々について、2本のうちの片側の「CNTの輪郭線」の輪郭線座標を取得する。各CNT1本につき、描画する輪郭線の長さは、20nmとする(
図12参照)。「描画する輪郭線の長さ」とは、輪郭線の始点と輪郭線の終点とを直線で結んだ距離を示す。
これにより、横軸及び縦軸をピクセル数とするCNTの輪郭線を作成する(
図13中の符号C1参照)。
図13中の符号「C1」は、
図12中のCNTの輪郭線C1について、上述した方法で描画した輪郭線を表す。
図13において、横軸及び縦軸は、ピクセル数を示す。
スプライン補間によってCNTの輪郭線の座標により近似曲線を作成する(
図13の符号C2参照)。このとき、単位長さ(=1nm)当たりの近似曲線とCNTの輪郭線との差分の平均値が0.2[nm]以下となるように近似曲線を作成する。スプライン補間の次数は、前述の条件を満足すれば何次でも構わないが、2次のスプライン補間または3次のスプライン補間であることが好ましく、2次のスプライン補間であることがより好ましい。
「近似曲線とCNTの輪郭線との差分」とは、横軸のある点Xにおける、CNTの輪郭線と近似曲線の点について、横軸の同じ点XのCNTの輪郭線の点との近似曲線の点との、縦軸の値の差分を指し、差分の平均値は横軸の所定の範囲(輪郭線1nm分の長さ)における距離の平均値を示す。
【0077】
(1.1.4.3)曲線間面積算出工程
近似曲線とCNTの輪郭線との間の面積[nm2]を計算する。近似曲線とCNTの輪郭線との間の面積[nm2]を計算する方法は、特に限定されず、公知の方法であればよく、例えば、市販のソフトウェアを用いてもよい。
【0078】
(1.1.4.4)算出工程
近似曲線の長さ[nm]を計算する。
図13に示す例では、近似曲線の長さは、抽出したCNTの輪郭線の長さの20nmに対応するpixelの近似曲線C2の長さに相当する。具体的に、
図13において、近似曲線の長さは、一つの端部である横軸500pixel、縦軸2207pixelから、もう一つの端部である横軸2010pixel、縦軸2085pixelに至る近似曲線の長さを示す。
近似曲線と輪郭線との間の面積[nm
2]を近似曲線の長さ[nm]で除することで、1本の輪郭線についての単位長さ当たりの近似曲線と輪郭線との間の面積[nm
2/nm](以下、「単位長さ当たりの面積」ともいう。)を計算する。
20本の輪郭線の各々について、単位長さ当たりの面積[nm
2/nm]をそれぞれ算出する。その後、算出した単位長さ当たりの面積[nm]の平均値を求める。20本の輪郭線についての単位長さ当たりの面積の平均値は、平滑度評価値として用いられる。
【0079】
平滑度評価値は、好ましくは0.070[nm2/nm]以下、より好ましくは0.050[nm2/nm]以下、より好ましくは0.036[nm2/nm]以下、より好ましくは0.034[nm2/nm]以下である。平滑度評価値が、0[nm2/nm]に近いほど、CNTの直線性がより高いことを示す。
平滑度評価値の下限は、特に制限されず、例えば、0.001(nm2/nm)以上とすることができ、0.005(nm2/nm)以上とすることができ、0.010(nm2/nm)以上とすることもできる。
これらの観点から、平滑度評価値は、好ましくは0(nm2/nm)~0.070(nm2/nm)、より好ましくは0(nm2/nm)~0.050(nm2/nm)、より好ましくは0(nm2/nm)~0.036(nm2/nm)、より好ましくは0.001(nm2/nm)~0.036(nm2/nm)、更に好ましくは0.005(nm2/nm)~0.036(nm2/nm)、特に好ましくは0.010(nm2/nm)~0.036(nm2/nm)、一層好ましくは0.010(nm2/nm)~0.034(nm2/nm)である。
【0080】
上述した、輪郭線の座標の抽出、近似曲線の長さの測定、及び近似曲線とCNTの輪郭線との間の面積の算出等の工程は、画像の1ピクセルを最小単位としてピクセル単位で実施した後、最後に画像の倍率及び縮尺からピクセル当たりの長さを換算してもよい。
【0081】
(1.1.5)隙間面積の割合の平均値(CNTの充填密度)
次に、
図14~
図19を参照して、複数のバンドルの充填密度パラメータを算出する手法として、ペリクル膜の断面のTEM像の画像解析により面積を利用した手法(以下、「第2手法」という。)について説明する。
図15中、符号12はCNTの輪郭線を示す。
図16中、符号12はCNTの輪郭線を示し、符号32は環状の輪郭線の中心点を示し、符号42は多角形を示し、符号52は多角形の一辺を構成する直線を示す。
図18中、符号62は、CNTの断面を示す。符号65は、多角形42の内部うち、隣接するCNTの断面62同士の隙間を示す。
【0082】
第2手法は、CNTの断面像を用いる。第2手法は、抽出工程と、中心点取得工程と、第1算出工程と、第2算出工程と、第3算出工程とを有し、各工程は、この順で実行される。
抽出工程では、CNTの断面像において、CNTの輪郭線を抽出する。
中心点取得工程では、CNTの断面の輪郭線の幾何中心を計算して、中心点座標を取得する。
第1算出工程では、中心点座標を用いて多角形を作成し、多角形の面積(TA)を算出する。
第2算出工程では、多角形内のCNTの断面の輪郭内部領域の総面積(TB)を算出する。
第3算出工程では、(TA-TB)/TAの関係から、隙間となる面積の割合を計算する。
【0083】
まず、上述した(1.1.2.1)充填密度パラメータの測定方法と同様にして、ペリクル膜の自立膜部を基板へ転写する。転写された自立膜部を自立膜部の膜厚み方向に沿って切断する。自立膜部の断面を、TEM(倍率:5万倍~40万倍。5nmが100ピクセル以上となる観察倍率とすることが好ましい。)を用いて観察し、複数の第4TEM像(
図14参照)を得る。複数の第4TEM像から、1本のシングルバンドルの断面を認識しやすい10本のシングルバンドルを選択する。TEMの解像度は、TEM像において、5nmが100ピクセル以上となる解像度であることが好ましい。
【0084】
次に、シングルバンドルを含む20nm×20nmの範囲の第4TEM画像において、第4TEM画像中の複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心点を特定する(
図16参照)。
より詳しくは、
図14に示すように、シングルバンドル及びシングルバンドルを構成するCNTをシングルバンドルの断面方向から観察すると、CNTの壁面部分が暗い環状の線として現れる。この暗い環状の線の領域が輪郭線となるように、シングルバンドルを構成しているCNTの本数分だけ、環状の輪郭線を抽出する。
2層以上のCNTの断面のTEM像では、約0.3nm~0.4nmの間隔を隔てて略同心円状(あるいは同一中心位置)の環状の線が見られる。そのため、最外層の暗い環状線の領域が輪郭線となるよう、輪郭線を抽出する(
図15参照)。
複数のCNTの各々の輪郭線を抽出した後、それぞれの環状輪郭線の幾何中心(Centroid)位置座標を計算して、複数のCNTの各々の環状の輪郭線の中心点を特定する。
以下の(a)~(d)の条件を満たす複数の三角形が形成されるように、特定した複数の中心点を直線で結ぶ(
図16参照)。
(a)複数の三角形の各々の辺が交差しないこと
(b)三角形の3辺の長さの総和が最小になるように3つの中心点を選択すること
(c)三角形のうち最外に位置する三角形の内角が120°未満であること
(d)辺の長さが短い方から数えて8割以下となる全ての辺の平均長さの1.6倍以下であること
【0085】
三角分割した図形の最も外側に位置する辺を繋ぐことで、多角形を作成する(
図17参照)。
【0086】
多角形の面積(TA)を算出する。多角形の面積(TA)は、例えば、
図17中の多角形42の面積を示す。
多角形の中に存在している、輪郭線内部の面積(TB)を算出する。輪郭線内部の面積(TB)は、例えば、
図19中の多角形42の内部に位置する複数のCNTの断面62(すなわち、多角形42の内部の黒色部位)の面積を示す。
多角形内の塗りつぶされていない面積(=TA-TB)を計算する。これを間隙面積とする。間隙面積は、例えば、
図19中の複数の隙間65の総面積を示す。
この間隙面積を多角形の面積で割ることで多角形内の間隙面積の割合を算出する。
隙間面積の割合は、(TA-TB)/TAである。
【0087】
10個のバンドルについて、それぞれ隙間面積の割合を算出し、その10個の平均値を求める。
【0088】
隙間面積の割合の平均値は、30%以下が好ましく、25%以下がさらに好ましく、20%以下がさらに好ましい。
隙間面積の割合の平均値が上述した範囲内であれば、シングルバンドルを構成する複数のCNTの中心点間距離が短く、シングルバンドルを構成するCNT同士が小さい隙間で充填されているため、水素プラズマに曝されても膜減りしにくくできる。
【0089】
(1.1.6)欠陥(G/D)分布
CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNT表面上に存在する欠陥部分が起点となり、CNTのエッチング反応が進行すると考えられる。
電子顕微鏡観察によりCNTの直線性を解析することで、CNTのトポロジカル欠陥密度の評価が可能である。しかしながら、トポロジカル欠陥に限らず、CNT表面の酸化反応等によって生じるCNT表面の構造欠陥部分も同様に、水素プラズマと反応してCNTのエッチング反応が進行すると考えられる。
トポロジカル欠陥や酸化などの構造欠陥を評価するための、電子顕微鏡観察以外の方法として、例えば、ラマン分光法による手法が挙げられる。
【0090】
CNTをサンプルとしたラマン分析では、Dバンド(ラマンシフト:約1350cm-1)の強度とGバンド(ラマンシフト:約1580cm-1)の強度との比を基準として用い、CNTの品質や純度を評価する手法が一般的に用いられている。
Gバンドは、グラファイト構造の主要なラマン活性モードであり、カーボンナノチューブの平面的な構造を表すsp2結合カーボンに由来する。一方で、Dバンドは、乱れや欠陥に由来するモードであり、構造欠陥やカーボンナノチューブの開放端などに由来する。
一般的なラマン分光法において、CNT薄膜のラマンスペクトルは、CNT薄膜に対してレーザーを照射した照射領域内部に存在するCNT鎖の平均的な構造を反映している。一般的な顕微ラマン分光装置において、レーザーの照射サイズは1μm程度の直径である。シングルウォールのCNTからなる厚さ約15nmのCNT薄膜の場合、直径1μmのスポット径の中に含まれるシングルウォールのCNTの総長さは約1000μm~2000μmと見積もられる。さらに、CNT1本の長さを1μmと仮定して本数に換算すると、上記の1μmのスポット系の中に含まれるCNT薄膜を構成するCNTの総数は、およそ1000本から2000本程度である。これらのことから、一般的な顕微ラマン装置で得られる構造情報は、1000本以上(長さ1000μm以上)のCNTの平均的な構造情報を反映している。
【0091】
水素プラズマによるCNTの薄膜のエッチング反応は、CNTの1本の表面で生じる、ナノスケールでの反応である。そのため、上述したマクロスケールでの平均的な欠陥情報は重要ではなく、10nm~100nmの局所的なCNTバンドルで生じるスケール欠陥密度が重要である。
例えば、1μmの視野内に含まれる、長さ1μm、1000本のCNTについて、欠陥の分布が異なる以下の2つの場合を考える。
1つは、「長さ1μm、1000本のCNTの中に、総数1000個の欠陥があり、その1つ1つの欠陥がお互いに隣接することなくそれぞれ別のCNTの位置(1000ヶ所)に分散して存在する場合」である。
もう1つは、「10個程度の欠陥がCNT1本の1か所に隣接又は局在して存在し、100本のCNTにそのような欠陥クラスターが分布している場合」である。
欠陥の分布が異なる上記の2つの場合では、水素ラジカルのエッチング反応性が異なると予想され、欠陥が隣接し局在しているCNTの方が、エッチングが進行しやすくなると考えられる。
【0092】
1μm程度のスポットサイズを持つ顕微ラマン分光法では、上述した欠陥分布の違いを検出することが困難である。そのため、より空間分解能の小さな、100nm以下の空間分解能を持つ欠陥密度評価方法を用いる必要がある。
そのようなナノスケールでの欠陥密度を評価する手法として、電子顕微鏡による直線性評価のほかに、チップ増強ラマン分光(TERS:Tip-enhanced Raman scattering)法が挙げられる。
TERSでは、ナノ構造を有するプローブの先端に励起光を照射すると、プローブ先端に局在表面プラズモンが生じ、局在表面プラズモンによって増強されたラマン散乱光を測定することで、ナノスケールの空間分解能でのラマンイメージングが可能となる。
AFMによる形態観察とTERSによるラマンイメージングを組み合わせることで、ナノレベルの空間分解能でAFM像とラマンのマッピング像を同時取得することができる。
AFM測定とラマン分光測定とを組み合わせた装置として、例えば堀場製作所社製のAFM―ラマン装置(装置名:XploRA nano)を用いることができる。
AFM測定とラマン分光測定とを用いたCNTの分析は、例えば、非特許文献(EPJ Techniques and Instrumentation volume 2, Article number: 9 (2015) Tip-enhanced Raman spectroscopy: principles and applications Naresh Kumar, Sandro Mignuzzi, Weitao Su, Debdulal Roy)を参照することができる。
【0093】
第1実施形態に係るペリクル膜は、
バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
バンドルの軸方向に沿って切断したペリクル膜の断面における所定のバンドル領域内の7箇所でのDバンドの強度に対するGバンドの強度の比率(G/D)の最小値が0.80以上であることが好ましい。
前記Dバンドの強度及び前記Gバンドの強度の各々は、ラマンイメージング測定による測定値である。
前記所定のバンドル領域は、前記断面の500nm×500nmの測定エリアにおいて、空間分解能20nm以下の分解能で太さが10nm以上のバンドル内の領域を示す。
前記Dバンドの強度は、ラマンシフトが1300cm-1~1400cm-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値である。
前記Gバンドの強度は、ラマンシフトが1550cm-1~1610cm-1の範囲内におけるラマン散乱強度の極大値である。
【0094】
比率(G/D)が上記範囲内であることは、CNT表面上の欠陥部分が少ないことを意味する。そのため、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
【0095】
比率(G/D)の下限が1以上であることが好ましく、2以上であることがさらに好ましく、より好ましくは5以上である。
比率(G/D)の上限は、特に制限されず、例えば、100以下とすることができ、50以下とすることができ、20以下とすることもできる。
これらの観点から、比率(G/D)は、好ましくは0.80~100、より好ましくは1~100、より好ましくは2~100、さらに好ましくは2~50、特に好ましくは2~20、一層好ましくは5~20である。
なお、ラマンイメージング測定での測定箇所である7箇所の間隔は、それぞれ30nmとすることができる。
【0096】
(1.1.7)ペリクル膜の第1ライフタイム評価法
ペリクル膜のライフタイムを評価する方法として、シンクロトロン等のEUV光源を用いて、水素雰囲気中でCNT膜に対しEUV光を照射する方法を用いてもよい。
【0097】
EUVの照射強度は、5W/cm2以上、60W/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは10W/cm2以上、50W/cm2である。
現状で半導体装置の量産化に用いられているEUV照射強度は20W/cm2程度であり、CNTに使用される光源強度は30W/cm2以上と想定される。そのため、半導体装置の量産に用いられる環境に近い照射強度でCNT膜に対しEUV光を照射することが好ましい。
高強度のEUV光をペリクル膜に照射すると、ペリクル膜はEUV光を吸収して500℃以上の温度に達する。そのため、エッチング反応に対する温度上昇効果をCNTのライフタイムの評価結果に反映させることができる。
EUVの照射エリアは、0.5mm2以上であることが好ましい。照射エリアの形状は、矩形形状としたときのアスペクト比が10以下であることが好ましい。「アスペクト比」とは、短辺の長さに対する長辺の長さの比を示す。EUVの照射エリアについて、面積が0.5mm2以上であり、かつアスペクト比が10以下であれば、EUVを照射した領域において、ペリクル膜の熱伝導による温度上昇抑制効果を防ぐことができる。
【0098】
水素の圧力は、0.1Pa以上、100Pa以下がより好ましく、より好ましくは1Pa以上、50Pa以下であることが好ましい。水素の圧力は、加速試験を行うために高くてもよい。
【0099】
EUV光の照射をすること(以下、「照射のON」ともいう)とEUV光の照射をしないこと(以下、「照射のOFF」ともいう)とを繰り返すこと、あるいはビームをスキャンすることで、加熱冷却サイクルを行ってもよい。実際のEUV露光環境においては、EUV光はペリクル上をスキャンしているために、ペリクル膜の加熱と冷却とが繰り返されている。そのため、EUV照射実験においてEUV光の照射のONと照射のOFFとのサイクルあるいはスキャンを行うことで、実露光環境模倣することができる。
加熱と冷却の周期は、0.01秒以上2秒以下が好ましく、0.1秒以上、1秒以下がより好ましい。また、照射のONと照射のOFFとのデューティ比(ONの期間/1周期の期間)は0.01以上0.8以下が好ましく、0.1以上0.5以下がさらに好ましい。
【0100】
第1透過率の変化率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。「第1透過率の変化率」とは、ペリクル膜に第1照射を行う前のペリクル膜の透過率に対する、ペリクル膜に第1照射を行った後のペリクル膜の透過率の割合(%)を示す。「第1照射」とは、水素圧力が5Pa、デューティ比が1、照射強度が30W/cm2~40W/cm2、ペリクル膜にEUV光が当たる総時間が60分間である照射を示す。
第1膜厚みの変化量は、好ましくは6nm以下、より好ましくは3nm以下である。「第1膜厚みの変化量」とは、ペリクル膜に第1照射を行う前のペリクル膜の膜厚みに対する、ペリクル膜に第1照射を行った後のペリクル膜の膜厚みの割合(%)を示す。
【0101】
以下のようにデューティ比を変更してもよい。
第2透過率の変化率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。「第2透過率の変化率」とは、ペリクル膜に第2照射を行う前のペリクル膜の透過率に対する、ペリクル膜に第2照射を行った後のペリクル膜の透過率の割合(%)を示す。「第2照射」とは、水素圧力が5Pa、デューティ比が0.01~0.8、照射強度が30W/cm2~40W/cm2、ペリクル膜にEUV光が当たる総時間が60分間である照射を示す。
第2膜厚みの変化量は、好ましくは6nm以下、より好ましくは3nm以下である。「第2膜厚みの変化量」は、ペリクル膜に第2照射を行う前のペリクル膜の膜厚みに対する、ペリクル膜に第2照射を行った後のペリクル膜の膜厚みの割合(%)を示す。
【0102】
(1.1.8)ペリクル膜の第2ライフタイム評価法
ペリクル膜のライフタイム評価法として、水素プラズマ以外のガス種を用いた手法を用いることができる。ガス種として、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ、窒素プラズマ、アンモニアプラズマ等を用いてもよい。
ペリクル膜のライフタイム評価法は、プラズマ処理工程において、いわゆるリモートプラズマ処理の手法を用いる方法であってもよい。リモートプラズマ処理の手法では、プラズマ発生室と処理室とを分離して電界作用の無い環境で処理を行う。
ペリクル膜のライフタイム評価法は、ホットタングステン触媒上で水素ガスを反応させて原子状水素を生成し、原子状水素をペリクル膜に曝露する方法であってもよい。
【0103】
(1.1.9)ペリクル膜の構造
第1実施形態では、ペリクル膜の構造は、複数のCNTによって不織布構造(不規則な網目構造)であることが好ましい。これにより、ペリクル膜は、通気性を有する。詳しくは、EUV露光の際、ペリクル膜は、ペリクルの内部空間と、ペリクルの外部空間とを連通する。「ペリクルの内部空間」とは、ペリクル及びフォトマスクに囲まれた空間を示す。「ペリクルの外部空間」とは、ペリクル及びフォトマスクに囲まれていない空間を示す。その結果、EUV露光の際、ペリクル膜は、容易にペリクルの内部空間の真空又は減圧環境を作り出すことができる。
CNTは、通常、繊維形状であるため、ペリクル膜は全体として不織布構造になりやすい。
【0104】
(1.1.10)ペリクル膜の膜厚み
第1実施形態では、ペリクル膜の膜厚みは、特に限定されず、例えば、2nm以上200nm以下とすることができる。
EUV光の透過率を高くする観点から、ペリクル膜の厚みは、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、40nm以下がさらに好ましく、30nm以下が非常に好ましく、20nm以下が特に好ましい。
ペリクル膜の破損し易さの観点及び異物遮蔽性の観点(つまり、ペリクル膜を異物が通過しないようにする観点)から、ペリクル膜の厚みは、4nm以上が好ましく、6nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。
これらの観点から、ペリクル膜の厚みは、好ましくは2nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、さらに好ましくは2nm~40nm、特に好ましくは2nm~30nm、一層好ましくは4nm~30nmである。
【0105】
(1.1.10.1)膜厚みの測定方法
ペリクル膜の膜厚みは、後述するペリクルのペリクル膜の自立膜部をシリコン基板上に転写して、反射分光膜厚み計(フィルメトリクス社製 F50-UV)を用いて求められる。
詳しくは、膜厚みは、次のようにして測定される。
【0106】
<転写>
後述するペリクルのペリクル膜の自立膜部をシリコン基板上に転写する。詳しくは、シリコン基板に溶媒を滴下し、ペリクルのペリクル膜をシリコン基板に対向させて、ペリクルを基板上に載置する。溶媒としては、水、有機溶媒などが挙げられる。溶媒を乾燥させ
て、ペリクル膜をシリコン基板に隙間なく密着させる。シリコン基板を固定してペリクルのペリクル枠を持ち上げることでペリクルから自立膜部を分離して、自立膜部を基板に転写させる。
【0107】
<反射スペクトルの測定>
シリコン基板に転写された自立膜部の各測定点について、波長間隔1nm~2nmの範囲で、波長200nm~600nmの範囲における反射率スペクトルを測定する。
反射率スペクトルの測定には、反射率測定装置として反射分光膜厚み計(例えば、フィルメトリクス社製、型式:F50-UV、スポット径 1.5mm)を用いる。反射強度
測定のリファレンスとしてシリコンウェハーを用いる。
反射率Rs(λ)は、下記の式により求められる。
【0108】
【0109】
ここで、Is(λ)は、波長λにおけるシリコン基板上の自立膜部の反射強度を表し、Iref(λ)はリファレンスの反射強度を表し、Rref(λ)はリファレンスの絶対反射率を表す。
リファレンスとしてシリコンウェハーを用いた場合、シリコンウェハーの光学定数は既知であるため、Rref(λ)を計算により求めることができる。なお、リファレンスと、シリコン基板上の自立膜部の反射強度測定において、ゲイン、露光時間等は同一条件である。これにより、シリコン基板上の自立膜部の絶対反射率が得られる。
【0110】
<膜厚みの算出>
CNT膜の光学定数として表1に示す光学定数(屈折率:n、消衰係数:k)の値を用い、空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層モデルを用いて、波長範囲225nm~500nmにおける反射率スペクトルを最小二乗法により解析を行うことで、自立膜部の各測定点の膜厚みを算出する。
自立膜部の「測定位置」の膜厚みは、自立膜部の「測定位置」に含まれる9点の各測定点の膜厚みの平均値とする。自立膜部の膜厚み方向から観た自立膜部の形状は、矩形状である。自立膜部の対角線をX軸及びY軸とする。X軸方向の測定点として隣接する測定点における中心点間距離が2mmとなる間隔で3点を、Y軸方向の測定点として隣接する測定点における中心点間距離が2mmとなる間隔で3点を設定する。即ち、縦3点×横3点、合計の測定点数9点を「測定位置」に設定する。
波長範囲225nm~500nmにおける反射率スペクトルを最小二乗法により解析を行うことで、自立膜部の各測定点の膜厚みを算出する方法について以下に説明する。
【0111】
【0112】
自立膜部の膜厚みは、空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層モデルを用いて、以下の式(a)~式(c)による関係式を用いて算出する。
【0113】
反射率Rsは、振幅反射率rsを用いて以下の式(a)で表される。
【0114】
【0115】
上記式(a)中、*は複素共役を表す。
【0116】
空気層/CNT膜の層/シリコン基板の3層からの振幅反射率rsは以下の式(b)で表される。
【0117】
【0118】
上記式(b)中、r01は空気層と自立膜部の層の界面からの振幅反射率を表し、r12は自立膜部の層とシリコン基板層の界面からの振幅反射率を表し、iは虚数単位を表す。
上記式(b)中、δは波長λの光が膜内を1往復する場合に生じる位相差であり、以下の式(c)で表される。
【0119】
【0120】
上記式(c)中、dは自立膜部の膜厚みを表し、Nは複素屈折率(N=n-ik)を表し、φは入射角を表す。iは虚数単位を表す。
【0121】
自立膜部の膜厚みは、上記式(a)~式(c)による関係式を用いて、波長範囲225nm~500nmにおける反射率Rsに対して膜厚みdを変数として、最小二乗法により計算することで得られる。
算出された自立膜の「測定位置」の膜厚みを、ペリクル膜の膜厚みとみなす。
【0122】
(1.1.11)酸化防止層
第1実施形態では、ペリクル膜は、酸化防止層を備えていてもよい。酸化防止層は、ペリクル膜の少なくとも一方の主面に積層される。これにより、EUV光照射又はペリクル保管の際に、ペリクル膜の酸化は抑制される。
【0123】
酸化防止層の材質は、EUV光に対して安定な材料であれば特に制限されない。例えば、酸化防止層の材質は、SiOx(x≦2)、SixNy(x/yは0.7~1.5)、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、又はRhが挙げられる。
【0124】
酸化防止層の厚みは、酸化防止層がEUV光を吸収することを抑制し、ペリクル膜のEUV光の透過率の低下を抑制する観点から、好ましくは1nm~10nmである、より好ましくは2nm~5nmである。
【0125】
(1.1.6)CNT
第1実施形態では、ペリクル膜は、複数のCNTを含む。
これにより、ペリクル膜は、ペリクル膜の材質がSiN、ポリシリコン等である場合よりも機械的強度に優れる。
【0126】
CNTの構造は、特に限定されず、シングルウォールであってもよいし、マルチウォールであってもよい。
以下、シングルウォールのCNTを「単層CNT」といい、マルチウォールのCNTを「多層CNT」という。
CNTは、直径が細くなるに従い、バンドル(束構造)を強固に形成しやすい。これは、CNTの直径が細くなるに従い、CNTの比表面積が増加し、さらにはCNTの柔軟性や屈曲性が増すことで、複数本のCNT同士が互いに平行に配列することが可能となり、CNT同士が平行に配列して線接触することで広い接触面積を有する結果、CNT間のファンデルワールス力が強くなるためと推測される。
一方で、多層CNTでは、層数と直径の増加に伴ってCNTの屈曲性及び比表面積が低下し、CNT同士が平行に配列することが空間配置上困難となるため、CNT同士は線接触直ができずに交接接触に近い点状の接触となり、その結果CNT同士の接触面積が小さいために、CNT間のファンデルワールス力が弱くなる。
そのため、複数の単層CNTは、複数の多層CNTよりもバンドルを形成しやすい。
バンドルを形成するCNTの数は、3本以上であり、好ましくは4本以上100本以下、より好ましくは5本以上50本以下である。なお、単層CNTおよび多層CNTのどちらであっても、バンドルを形成していないCNTがあってもよい。
【0127】
CNTのチューブの外径(すなわち、CNTの幅)は、例えば、0.8nm以上400nm以下にすることができる。
CNTのチューブの外径の下限は、ペリクル膜の破損の発生を抑制する観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは4nm以上、さらに好ましくは8nm以上、非常に好ましくは10nm以上、特に好ましくは20nm以上である。
CNTのチューブの外径の上限は、ペリクル膜のEUV光の光透過率を向上させる観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは40nm以下である。
「CNTのチューブの外径」は、ペリクル膜中において、CNTが単繊維として存在する場合はシングルチューブの外径を指し、CNTが束(即ちバンドル)として存在する場合はシングルバンドルの外径を指す。
【0128】
単層CNTで形成されるバンドル(以下、「単層バンドル」という。)の太さ(外径)は、例えば、4nm以上400nm以下であってもよい。
単層バンドルの太さの下限は、ペリクル膜の破損の発生を抑制する観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは40nm以上、特に好ましくは50nm以上である。
単層バンドルの太さの上限は、ペリクル膜のEUV光の光透過率を向上させる観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは40nm以下である。
【0129】
多層CNTで形成されるバンドル(以下、「多層バンドル」という。)の太さ(外径)は、例えば、4nm以上400nm以下であってもよい。
多層バンドルの太さの下限は、ペリクル膜の破損の発生を抑制する観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは40nm以上、特に好ましくは50nm以上である。
多層バンドルの太さの上限は、ペリクル膜のEUV光の光透過率を向上させる観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に好ましくは40nm以下である。
【0130】
CNTの長さは、10nm以上であることが好ましい。
CNTの長さが10nm以上であることで、CNTどうしが良好に絡み合い、ペリクル膜の機械的強度は優れる。
CNTの長さの上限は、特に制限されず、好ましくは10cm以下、より好ましく1cm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
これらの観点から、CNTの長さは、好ましくは10nm~10cm、より好ましくは10nm~1cm、さらに好ましくは10nm~100μmである。
【0131】
CNTのチューブの外径及び長さは、電子顕微鏡観察により、20以上の炭素材料(一次粒子)について測定した値の算術平均値とする。
電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)等を用いることができる。
【0132】
(1.2)ペリクル
第1実施形態に係るペリクルは、第1実施形態に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第1実施形態に係るペリクルは、第1実施形態に係るペリクル膜を備えるので、第1実施形態に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
【0133】
ペリクル膜は、ペリクル枠に接触していてもよいし、ペリクル枠に接触していなくてもよい。ペリクル枠は、筒状物である。ペリクル枠は、厚み方向の一方に端面(以下、「ペリクル膜用端面」という。)を有する。「ペリクル膜がペリクル枠に接触している」とは、ペリクル膜がペリクル膜用端面に直接固定されていることを示す。「ペリクル膜がペリクル枠に接触していない」とは、ペリクル膜がペリクル膜用端面に接着層を介して固定されていることを示す。
接着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤、両面粘着テープ、ポリオレフィン系接着剤、水添スチレン系接着剤等が挙げられる。接着剤は、接着剤のみならず粘着剤も含む概念である。接着剤層の厚みは、特に限定されず、例えば、10μm以上1mm以下である。
【0134】
(1.2.1)ペリクル枠
ペリクル枠は、露光用貫通孔を有する。露光用貫通孔は、ペリクル膜を透過した光がフォトマスクに到達するために通過する空間を示す。
【0135】
ペリクル枠の厚み方向からペリクル枠の形状は、例えば、矩形状である。矩形状は、正方形であってもよいし、長方形であってもよい。
【0136】
ペリクル枠は、通気孔を有してもよい。通気孔は、例えば、ペリクル枠の側面に形成される。通気孔は、ペリクル枠がフォトマスクに貼着された際、ペリクルの内部空間と、ペリクルの外部空間とを連通する。
【0137】
矩形状のペリクル枠は、厚み方向から見みると、4辺で構成される。
1辺の長手方向の長さは、200mm以下であることが好ましい。ペリクル枠のサイズ等は、露光装置の種類によって規格化されている。ペリクル枠の1辺の長手方向の長さが200mm以下であることは、EUV光を用いた露光に対して規格化されたサイズを満たす。
1辺の短手方向の長さは、例えば、5mm~180mmにすることができ、好ましくは80mm~170mm、より好ましくは100mm~160mmである。
ペリクル枠の高さ(すなわち、厚み方向におけるペリクル枠の長さ)は、特に限定されず、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.4mm以下、さらに好ましくは2.375mm以下である。これにより、ペリクル枠は、EUV露光に対して規格化されたサイズを満たす。EUV露光に対して規格化されたペリクル枠の高さは、例えば、2.375mmである。
ペリクル枠の質量は、特に限定されず、好ましくは20g以下、より好ましくは15g以下である。これにより、ペリクル枠は、EUV露光の用途に適する。
【0138】
ペリクル枠の材質は、特に限定されず、石英ガラス、金属、炭素系材料、樹脂、シリコン、及びセラミックス系材料等が挙げられる。
金属としては、純金属であってもよいし、合金であってもよい。純金属は、単一の金属元素からなる。純金属としては、例えば、アルミニウム、チタン等が挙げられる。合金は、複数の金属元素、又は金属元素と非金属元素からなる。合金としては、ステンレス、マグネシウム合金、鋼、炭素鋼、インバー等が挙げられる。樹脂としては、ポリエチレン等が挙げられる。セラミック系材料としては、窒化珪素(SiN)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al2O3)等が挙げられる。
【0139】
ペリクル枠の構造は、単一品であってもよいし、組立品であってもよい。単一品は、1つの原料板を削りだして得られるものである。「組立品」とは、複数の部材を一体化したものである。複数の部材を一体化する方法は、公知の接着剤を用いる方法、締結用部品を用いる方法等が挙げられる。締結用部品は、ボルト、ナット、ネジ、リベット、又はピンを含む。ペリクル枠が組立品である場合、複数の部材の材質は異なっていてもよい。
【0140】
(1.2.2)粘着層
ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。粘着層は、ペリクルをフォトマスクに接着可能にする。ペリクル枠は、厚み方向の他方に端面(以下、「フォトマスク用端面」という。)を有する。粘着層は、フォトマスク用端面に形成される。
粘着層は、ゲル状の柔らかい固体である。粘着層は、流動性、及び凝集力を有することが好ましい。「流動性」とは、被着体であるフォトマスクに接触し、濡れていく性質を示す。「凝集力」とは、フォトマスクからの剥離に抵抗する性質を示す。
粘着層は、粘着性樹脂層からなる。粘着層樹脂層は、特に限定されず、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、スチレン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オレフィン系粘着剤等が挙げられる。粘着層の厚みは、特に限定されず、好ましくは10μm~500μmである。
【0141】
(1.3)露光原版
第1実施形態に係る露光原版は、フォトマスクと、第1実施形態に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第1実施形態に係る露光原版は、第1実施形態に係るペリクルを備えるので、第1実施形態に係るペリクルと同様の効果を奏する。
【0142】
ペリクルにフォトマスクを装着する方法(以下、「装着方法」という。)は、特に限定されず、上述した粘着層を用いる方法、締結用部品を用いる方法、磁石などの引力を利用する方法などが挙げられる。
【0143】
フォトマスクは、支持基板、反射層、及び吸収体層を有する。支持基板、反射層、及び吸収体層は、この順に積層されていることが好ましい。この場合、ペリクルは、フォトマスクの反射層及び吸収体層が設けられている側に装着される。
吸収体層がEUV光を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層としては、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜等が挙げられる。吸収体層の材料は、EUV等の吸収性の高い材料であってもよい。EUV等の吸収性の高い材料としては、クロム(Cr)、窒化タンタル等が挙げられる。
【0144】
(1.4)露光装置
第1実施形態に係る露光装置は、EUV光源と、第1実施形態に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第1実施形態に係る露光装置は、第1実施形態に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第1実施形態に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
【0145】
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0146】
(1.5)ペリクル膜の製造方法
第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法は、第1実施形態に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法(以下、「eDIPS法」という。)により合成された複数のCNTが分散した分散液(以下、「CNT分散液」という。)を基板に塗布する。
【0147】
第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であるペリクル膜が得られる。
これは、eDIPs法により合成された複数のCNTの各々は、直線的であり、構造欠陥密度が低いことが主要因であると推測される。直線的で、かつ構造欠陥密度が低いCNTであれば、eDIPS法以外の製法により合成されたCNTが用いられてもよい。
【0148】
第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、後述する準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。ペリクル膜の製造方法が、準備工程、分散液調製工程、塗布工程、洗浄工程、及び分離工程を含む場合、準備工程、分散液調製工程、塗布工程、洗浄工程、及び分離工程は、この順で実行される。
以下、第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法が塗布工程に加えて、後述する準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含む場合について、説明する。
【0149】
(1.5.1)準備工程
準備工程では、直噴熱分解合成法(以下、「eDIPS法」という。)により合成された複数のCNTを準備する。
【0150】
e-DIPS法(Enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis)法は、直噴熱分解合成法(Direct Injection Pyrolytic Synthesis)(以下、「DIPS法」という。)を改良した気相流動法である。
DIPS法では、触媒(又は触媒前駆体)、及び反応促進剤を含む炭化水素系の溶液をスプレーで霧状にして高温の加熱炉に導入することによって、流動する気相中で単層CNTを合成する。
e-DIPS法では、触媒で使用されるフェロセンが反応炉内の上流下流側で粒子径が異なるという粒子形成過程に着目し、有機溶媒のみを炭素源として用いてきたDIPS法とは異なり、キャリアガス中に比較的分解されやすい。すなわち、炭素源となりやすい第2の炭素源を混合することによって単層CNTの成長ポイントを制御した方法である。
詳細には、Saitoetal.,J.Nanosci.Nanotechnol.,8(2008)6153-6157を参照して製造することができる。
【0151】
e-DIPS法により合成された複数のCNTは、単層CNTを含む。
e-DIPS法CNTには、単層の他に2層又は3層、2層及び3層のCNTが含まれる場合もある。
【0152】
e-DIPS法により合成された複数のCNTを準備する方法としては、例えば、e-DIPS法により複数のCNTを合成する方法、e-DIPS法により合成された複数のCNTの市販品を用いる方法などが挙げられる。
e-DIPS法により合成された複数のCNTの市販品としては、例えば、株式会社名城ナノカーボン製の商品名「MEIJOeDIPS」が挙げられる。
【0153】
(1.5.2)分散液調製工程
分散液調製工程では、e-DIPS法により合成された複数のCNT、分散剤、及び溶媒を混合して、分散液を調製する。e-DIPS法により合成された複数のCNTの一部は、複数のバンドルを形成している。これにより、複数のバンドルが分散された分散液が得られる。
【0154】
分散剤としては、特に限定されず、例えば、ポリアクリル酸、フラビン誘導体、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、有機側鎖フラビンなどが挙げられる。
分散剤の添加量は、特に限定されず、e-DIPS法により合成された複数の総量に対して、好ましくは10質量部以上1000質量部以下、より好ましくは30質量部以上500質量部以下である。
【0155】
溶媒としては、特に限定されず、分散剤の種類等に応じて適宜選択され、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、プロピレングリコール、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
溶媒の添加量は、分散液の総量に対して、好ましくは0.005質量部以上1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上0.1質量部以下である。
【0156】
e-DIPS法により合成された複数のCNT、分散剤、及び溶媒を混合する方法は、特に限定されず、例えば、キャビテーションを用いた手法(超音波分散法)、機械的にせん断力を加える手法(マグネチックスターラー、ボールミル、ローラーミル、振動ミル、混練機、ホモジナイザー等)、及び乱流を用いた手法(ジェットミル、ナノマイザー等)が挙げられる。
【0157】
CNTに損傷を与えにくくするため、複数のCNT、分散剤、及び溶媒を混合する際や超遠心処理を施す際に、CNTに加わる力を弱くすることが好ましい。例えば、複数のCNT、分散剤、及び溶媒を混合する際の混合時間を短くすることが好ましい。分散液調製工程での混合時間は、好ましくは1時間未満、より好ましくは40分以下である。
【0158】
(1.5.3)塗布工程
塗布工程では、CNT分散液を基板に塗布する。これにより、基板上に、e-DIPS法により合成された複数のCNTを含む塗布膜が得られる。
【0159】
基板の形状は、特に限定されず、例えば、円形、矩形等が挙げられる。
基板の厚さは、好ましくは100μm以上1000μm以下、取り扱い上の観点から、より好ましくは200μm以上1000μm以下である。
基板の粗度Raは、特に制限されないが、例えば、10μm以下にすることができる。ペリクル膜の均一性を向上させるため、基板の粗度Raは好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは1nm以下である。
基板の材質は、特に限定されず、例えば、半導体材料、ガラス材料、セラミック材料、ろ紙等が挙げられる。半導体材料としては、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、炭化シリコン(SiC)、砒化ガリウム(GaAs)等が挙げられる。ガラス材料としては、石英ガラス(酸化シリコン(SiO2))、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、サファイア等が挙げられる。セラミックス材料としては、例えば、窒化シリコン(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)基板、ジルコニア(ZrO2)基板、酸化アルミニウム(Al2O3)等が挙げられる。
基板がろ紙である場合、CNT分散液を、ろ紙の上に滴下して溶媒を除去することで、ろ紙上にCNT膜を形成する手法を用いてもよい。
【0160】
CNT分散液を基板に塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート、エレクトロスプレーコート等は挙げられる。
【0161】
(1.5.4)洗浄工程
洗浄工程では、塗布工程で得られる塗布膜を洗浄する。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。塗布膜の洗浄方法によって、上述した複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が所望の範囲内に調整されたペリクル膜が得られる。
【0162】
洗浄方法は、特に限定されず、アルカリ洗浄、水洗などが挙げられる。アルカリ洗浄は、塗布膜にアルカリ性溶液を接触させることを示す。塗布膜に水を接触させる方法を示す。
洗浄方法は、溶液成分の残存量を少なくしてCNTの充填密度パラメータの平均値がより0に近いペリクル膜を得やすくするため、CNTの分散剤の溶解性の高い溶液及び/又は溶媒を用いることが好ましい。
溶解性の高い溶液及び/又は溶媒は、分散剤の種類によって適宜選択されてもよい。
分散剤の分子骨格が電気陰性度の差が大きな結合を有する場合(すなわち、分散剤の分子骨格が、極性の高い分子骨格からなる場合)、洗浄溶液としては極性溶媒を用いることが好ましい。極性の大きい分散剤としてはポリエチレングリコール等が挙げられ、この分散剤に適した洗浄溶液としては、水、エタノール等が挙げられる。
分散剤の分子骨格が電気陰性度の差が小さい結合を有する場合(すなわち、分散剤の分子骨格が極性の小さな分子骨格を含む場合)、洗浄溶液としては極性の小さい溶媒を用いることが好ましい。極性の小さい分散剤としては有機側鎖フラビン等が挙げられ、この分散剤洗に適した洗浄溶液としては、クロロホルム、トルエン等が挙げられる。
分散剤にイオン性のカチオン性溶液が含まれる場合、洗浄溶液としては酸性溶液を用いることが好ましい。イオン性のカチオン性分散剤としては、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、この分散剤に適した洗浄溶液として、水や酸性水溶液等が挙げられる。
分散剤にイオン性のアニオン性溶液が含まれる場合、洗浄溶液としてはアルカリ性溶液を用いることが好ましい。アニオン性分散剤としてはポリアクリル酸やポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられ、この分散剤に適した洗浄溶液としては、水やアルカリ性溶液等が挙げられる。
なかでも、洗浄方法は、ポリアクリル酸の溶液で分散した分散液をアルカリ洗浄することが好ましい。これにより、水洗の場合よりも複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値がより0に近いペリクル膜が得られる。
【0163】
アルカリ性溶液は、塩基性化合物を含むことが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ピリジニウム水酸化物などを挙げられる。第4級アンモニウム水酸化物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、コリンなどが挙げられる。
【0164】
(1.5.5)分離工程
分離工程では、基板からペリクル膜を分離する。これにより、単独のペリクル膜が得られる。
【0165】
以下、基板と、基板上に形成されたペリクル膜とをまとめて「膜付基板」という。
【0166】
基材からペリクル膜を分離する方法は、特に限定されず、膜付基板を水中に浸漬させる方法が挙げられる。膜付き基板を水中に浸漬させると、ペリクル膜は、基板から剥離し、水面に浮く。これにより、単独のペリクル膜が得られる。
【0167】
(2)第1変形例(充填密度パラメータ)
(2.1)ペリクル膜
第1変形例に係るペリクル膜は、複数のCNTを含む。前記複数のCNTの少なくとも一部は、複数のバンドルを形成しており、前記複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第1変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
【0168】
第1変形例に係るペリクルは、充填密度パラメータの平均値が0.20以下であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第1変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0169】
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0170】
第1変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0171】
第1変形例では、前記複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0172】
第1変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記第2回折ピーク比率が1.3以上であることが好ましい。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピークの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0173】
第1変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0174】
第1変形例では、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0175】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0176】
第1変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第1変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0177】
(2.2)ペリクル
第1変形例に係るペリクルは、第1変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第1変形例に係るペリクルは、第1変形例に係るペリクル膜を備えるので、第1変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第1変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ペリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0178】
(2.3)露光原版
第1変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第1変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第1変形例に係る露光原版は、第1変形例に係るペリクルを備えるので、第1変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0179】
(2.4)露光装置
第1変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第1変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第1変形例に係る露光装置は、第1変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第1変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0180】
(2.5)ペリクル膜の製造方法
第1変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第1変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第1変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、充填密度パラメータの平均値が0.20以下であるペリクル膜が得られる。
第1変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0181】
第1変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0182】
(3)第2変形例(第1回折ピーク比率)
(3.1)ペリクル膜
第2変形例に係るペリクル膜は、複数のCNTを含み、複数のCNTはバンドルを形成しており、前記第1回折ピーク比率が2以上であってもよい。
第2変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
【0183】
第2変形例に係るペリクルは、第1回折ピーク比率が2以上であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第2変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0184】
第2変形例では、第1回折ピーク比率、第1回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第1回折ピーク比率の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0185】
第2変形例では、複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0186】
第2変形例では、複数のCNTは、複数のバンドルを形成しており、複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第2変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0187】
第2変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0188】
第2変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記第2回折ピーク比率が1.3以上であることが好ましい。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピークの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0189】
第2変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0190】
第2変形例では、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0191】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0192】
第2変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第2変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0193】
(3.2)ペリクル
第2変形例に係るペリクルは、第2変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第2変形例に係るペリクルは、第2変形例に係るペリクル膜を備えるので、第2変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第2変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ペリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0194】
(3.3)露光原版
第2変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第2変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第2変形例に係る露光原版は、第2変形例に係るペリクルを備えるので、第2変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0195】
(3.4)露光装置
第2変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第2変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第2変形例に係る露光装置は、第2変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第2変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0196】
(3.5)ペリクル膜の製造方法
第2変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第2変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第2変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、第1回折ピーク比率が2以上であるペリクル膜が得られる。
第2変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0197】
第2変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0198】
(4)第3変形例(第2回折ピーク比率)
(4.1)ペリクル膜
第3変形例に係るペリクル膜は、バンドルを形成している複数のCNTを含み、第2回折ピーク比率が1.3以上であってもよい。
第3変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
【0199】
第3変形例に係るペリクルは、第2回折ピーク比率が1.3以上であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第3変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0200】
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピーク比率の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0201】
第3変形例では、複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0202】
第3変形例では、複数のCNTは、複数のバンドルを形成しており、複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第3変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0203】
第3変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0204】
第3変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0205】
第3変形例では、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0206】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0207】
第3変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第3変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0208】
(4.2)ペリクル
第3変形例に係るペリクルは、第3変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第3変形例に係るペリクルは、第3変形例に係るペリクル膜を備えるので、第3変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第3変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ぺリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0209】
(4.3)露光原版
第3変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第3変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第3変形例に係る露光原版は、第3変形例に係るペリクルを備えるので、第3変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0210】
(4.4)露光装置
第3変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第3変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第3変形例に係る露光装置は、第3変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第3変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0211】
(4.5)ペリクル膜の製造方法
第3変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第3変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第3変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、第2回折ピーク比率が1.3以上であるペリクル膜が得られる。
第3変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0212】
第3変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0213】
(5)第4変形例(平滑度評価値)
(5.1)ペリクル膜
第4変形例に係るペリクル膜は、バンドルを形成している複数のCNTを含み、平滑度評価値は、0.070nm以下であってもよい。
第4変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
【0214】
第4変形例に係るペリクルは、平滑度評価値が0.070nm以下であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第4変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0215】
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0216】
第4変形例では、複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0217】
第4変形例では、複数のCNTは、複数のバンドルを形成しており、複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第4変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0218】
第4変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0219】
第4変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記第2回折ピーク比率が1.3以上であることが好ましい。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピークの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0220】
第4変形例では、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0221】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0222】
第4変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第4変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0223】
(5.2)ペリクル
第4変形例に係るペリクルは、第4変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第4変形例に係るペリクルは、第4変形例に係るペリクル膜を備えるので、第4変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第4変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ペリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0224】
(5.3)露光原版
第4変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第4変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第4変形例に係る露光原版は、第4変形例に係るペリクルを備えるので、第4変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0225】
(5.4)露光装置
第4変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第4変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第4変形例に係る露光装置は、第4変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第4変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0226】
(5.5)ペリクル膜の製造方法
第4変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第4変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第4変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、平滑度評価値が0.070nm以下であるペリクル膜が得られる。
第4変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0227】
第4変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0228】
(6)第5変形例(隙間面積の割合の平均値)
(6.1)ペリクル膜
第5変形例に係るペリクル膜は、複数のCNTを含み、複数のCNTはバンドルを形成しており、前記隙間面積の割合の平均値は、30%以下であってもよい。
第5変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
【0229】
第5変形例に係るペリクルは、隙間面積の割合の平均値が30%以下であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第5変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0230】
隙間面積の割合、隙間面積の割合の好ましい範囲、及び隙間面積の割合の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0231】
第5変形例では、複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0232】
第5変形例では、複数のCNTは、複数のバンドルを形成しており、複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第5変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0233】
第5変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0234】
第5変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記第2回折ピーク比率が1.3以上であることが好ましい。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピークの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0235】
第5変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0236】
第5変形例では、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、
前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0237】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0238】
第5変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第5変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0239】
(6.2)ペリクル
第5変形例に係るペリクルは、第5変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第5変形例に係るペリクルは、第5変形例に係るペリクル膜を備えるので、第5変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第5変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ペリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0240】
(6.3)露光原版
第5変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第5変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第5変形例に係る露光原版は、第5変形例に係るペリクルを備えるので、第5変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0241】
(6.4)露光装置
第5変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第5変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第5変形例に係る露光装置は、第5変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第5変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0242】
(6.5)ペリクル膜の製造方法
第5変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第5変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第5変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、隙間面積の割合の平均値が30%以下であるペリクル膜が得られる。
第5変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0243】
第5変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0244】
(7)第6変形例(欠陥(G/D)分布)
(7.1)ペリクル膜
第6変形例に係るペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブCNTを含み、前記比率(G/D)が0.8以上であることが好ましい。
比率(G/D)が上記範囲内であれば、CNTと水素プラズマとが反応してCNTがエッチングされる際、CNTのエッチング反応は進行しにくい。
【0245】
第6変形例に係るペリクルは、比率(G/D)が0.8以上であることを具備すること、上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることを具備しなくてもよいことの他は、第1実施形態に係るペリクルと同様である。本開示の第6変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
【0246】
比率(G/D)、比率(G/D)の好ましい範囲、及び比率(G/D)の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0247】
第6変形例では、複数のCNTの上記式(1)で表される直線性パラメータの平均値が0.10以下であることが好ましい。
複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であれば、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
直線性パラメータ、直線性パラメータの平均値の好ましい範囲、及び直線性パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0248】
第6変形例では、複数のCNTは、複数のバンドルを形成しており、複数のバンドルの上記式(2)で表される充填密度パラメータの平均値が0.20以下であってもよい。
第6変形例では、ペリクル膜は、上記の構成を有するので、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。これは、第1実施形態と同様の理由によると推測される。
充填密度パラメータ、充填密度パラメータの平均値の好ましい範囲、及び充填密度パラメータの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0249】
第6変形例では、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値は、0.15以下であることが好ましい。
複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であれば、水素プラズマに曝されてもペリクル膜の膜減りをより抑制することができる。
【0250】
第6変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記第2回折ピーク比率が1.3以上であることが好ましい。
第2回折ピーク比率が上記範囲内であれば、シングルバンドル内部への水素ラジカルの拡散はより抑制される。その結果、ペリクル膜は、より高いライフタイム特性を示し、水素プラズマに曝されても膜減りしにくい。
第2回折ピーク比率、第2回折ピーク比率の好ましい範囲、及び第2回折ピークの測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0251】
第6変形例では、ペリクル膜は、バンドルを形成している複数のカーボンナノチューブを含み、前記平滑度評価値が、0.070(nm2/nm)以下であることが好ましい。
平滑度評価値が上述した範囲内であれば、ペリクル膜が水素プラズマに曝されても、ペリクル膜の膜減りは抑制され得る。
平滑度評価値、平滑度評価値の好ましい範囲、及び平滑度評価値の測定方法等は、第1実施形態と同様である。
【0252】
第1回折ピーク比率、隙間面積の割合の平均値、ペリクル膜の第1ライフタイム評価法、及びペリクル膜の第1ライフタイム評価法等は、第1実施形態と同様である。
【0253】
第6変形例において、ペリクル膜の構造、ペリクル膜の膜厚み、及びCNT等は、第1実施形態と同様である。
第6変形例において、ペリクル膜は、第1実施形態と同様に、他の層を備えていてもよい。
【0254】
(7.2)ペリクル
第6変形例に係るペリクルは、第6変形例に係るペリクル膜と、ペリクル枠とを備える。ペリクル膜は、ペリクル枠に支持されている。
第6変形例に係るペリクルは、第6変形例に係るペリクル膜を備えるので、第6変形例に係るペリクル膜と同様の効果を奏する。
第6変形例では、ペリクルは、粘着層を更に備えていてもよい。ペリクル枠、及び粘着層等は、第1実施形態と同様である。
【0255】
(7.3)露光原版
第6変形例に係る露光原版は、フォトマスクと、第6変形例に係るペリクルとを備える。フォトマスクは、回路パターンを有する原版である。ペリクルは、回路パターンが形成されている面にフォトマスクに貼着されている。
第6変形例に係る露光原版は、第6変形例に係るペリクルを備えるので、第6変形例に係るペリクルと同様の効果を奏する。
装着方法、及びフォトマスク等は、第1実施形態と同様である。
【0256】
(7.4)露光装置
第6変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第6変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過してフォトマスクに照射されるように配置されている。
このため、第6変形例に係る露光装置は、第6変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第6変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0257】
(7.5)ペリクル膜の製造方法
第6変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第6変形例に係るペリクル膜を製造する方法であって、塗布工程を含む。塗布工程では、直噴熱分解合成法により合成された複数のCNTが分散した分散液を基板に塗布する。
第6変形例に係るペリクル膜の製造方法は、上記の構成を有するので、比率(G/D)が0.8以上であるペリクル膜が得られる。
第6変形例では、ペリクル膜の製造方法は、塗布工程の他に、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程を含むことが好ましい。塗布工程、準備工程、分散液調製工程、洗浄工程、及び分離工程等は、第1実施形態と同様である。
【0258】
第6変形例では、ペリクル膜の製造方法は、前記塗布工程で得られる塗布膜をアルカリ洗浄する洗浄工程を更に含むことが好ましい。これにより、塗布膜中に含まれる分散剤を除去されたペリクル膜が得られる。
【0259】
以上、図面を参照しながら本開示の実施形態を説明した。但し、本開示は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。上記の実施形態で示す各構成要素の材質や形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本開示の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0260】
以下、実施例等により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
本実施例において、露光用領域の膜厚み及び周縁領域の膜厚みの各々は、上述の方法により行った。
【0261】
(実施例1)
〔準備工程〕
複数のCNTとして、eDIPS法により合成された複数の単層CNT(株式会社名城ナノカーボン製、商品名:「EC1.5-P」、チューブ径:1nm~3nm、チューブの長さ:100nm以上)を準備した。
【0262】
〔分散液調製工程〕
複数のCNT30mgに対して、イソプロピルアルコール70mL及びエタノール30mLを添加し、さらに添加剤としてポリアクリル酸30mgを添加し、マグネチックスターラーを用いて1000rpm(revolutions per minute)にて、40℃、18時間で攪拌して、得られた懸濁液にプローブ型ホモジナイザーを用いて出力40%で合計30分間超音波分散させ、CNT分散液を得た。
【0263】
〔塗布工程〕
8インチサイズのシリコンウェハ(以下、「シリコン基板」という。)を準備した。シリコン基板上に、CNT分散液を、1500rpmの回転速度にてスピンコートした。これにより、シリコン基板上に形成された塗布膜を得た。
【0264】
〔洗浄工程〕
塗布膜を水酸化テトラメチルアンモニウム(以下、「TMAH」という。)でアルカリ
洗浄し、未洗浄CNT膜中のポリアクリル酸を除去して乾燥させた。これにより、CNT膜を得た。
【0265】
以下、シリコン基板と、シリコン基板上に形成されたCNT膜とを、まとめて「膜付シリコン基板」という。
【0266】
〔分離工程〕
膜付シリコン基板を水浴に浸透させた。水中で、CNT膜は、シリコン基板上から剥離した。シリコン基板上から剥離したCNT膜を水中に残し、シリコン基板を水中から取り出した。この際、CNT膜は、水面に浮いていた。これにより、網目構造を有するCNT膜からなるペリクル膜を得た。
【0267】
〔ペリクル製造工程〕
ペリクル枠として、シリコン製の枠体(以下、「ペリクル枠」ともいう。)を準備した。ペリクル枠は、筒状物であった。ペリクル枠は、貫通孔を有する。貫通孔は、ペリクル枠の厚み方向に沿って形成されていた。ペリクル枠の厚み方向の一方から観た貫通孔部の輪郭は、1辺の長さが10mmの正方形であった。
【0268】
水面に浮いているCNT膜を、ペリクル枠で掬い取った。これにより、ペリクル枠上にCNT膜が配置されたペリクルを得た。得られたペリクルのCNT膜は、ペリクル枠と接触しており、ペリクル枠の貫通孔の全域を覆っていた。
【0269】
(実施例2)
洗浄工程において、塗布膜をTMAHで洗浄する代わりにCNT膜を水洗した他は、実施例1と同様にして、ペリクルを得た。
【0270】
(比較例1)
〔準備工程〕
CNTとして、特許文献2に記載の方法(SG法)で単層CNTを合成した。
【0271】
〔塗布工程〕
SG法で合成したCNT300mgと、分散剤として有機側鎖フラビン1gとをトルエン100mLに加えた。マグネチックスターラーで約480rpmで2時間撹拌した後、懸濁液にプローブ型ホモジナイザーを用いて出力40%で合計2時間超音波分散させた。この間、20分ごとに5分間氷冷した。得られたCNT分散液を脱泡した。
シリコン基板を準備した。シリコン基板上に、CNT分散液をブレードコートし、乾燥させた。ブレードとシリコン基板とのギャップは25μmであった。これにより、網目構造を有するCNT膜を得た。未洗浄CNT膜の厚さは20nmであった。
【0272】
〔洗浄工程〕
未洗浄CNT膜をクロロホルムで洗浄し、未洗浄CNT膜中の有機側鎖フラビンを除去して乾燥させた。これにより、網目構造を有するCNT膜を得た。
【0273】
〔分離工程、及びペリクル製造工程〕
実施例1と同様にして、分離工程、及びペリクル製造工程を実行して、ペリクルを得た。
【0274】
(直線パラメータ、及び充填密度パラメータの測定)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られたペリクルについて、直線性パラメータ、及び充填密度パラメータを、上述の方法により測定した。電界放出型透過電子顕微鏡装置(日本電子株式会社 型式:ARM200F)を用いて透過型電子顕微鏡画像及び制限視野電子線回折像を得た。FIB加工装置(日本エフイー・アイ株式会社 型式HeliosG4UX)を用いて断面観察用薄片作成を行った。測定結果を表2に示す。
実施例1、実施例2及び比較例1で得られたペリクルは、複数のCNTを含んでいた。実施例1、実施例2及び比較例1の複数のCNTの大部分は単層と2層で、少数の3層~4層を含むCNTからなり、バンドルを形成していた。
【0275】
(第1回折ピーク比率の測定)
実施例1で得られたペリクルについて、第1回折ピーク比率を、上述の方法により測定した。具体的に、実施例1で得られたペリクルでは、中心がq=2.0nm-1~3.0nm-1に位置する回折ピークについて、膜厚み方向のピークの積算値(ガウス関数における面積値)と、膜面方向のピークの積算値(ガウス関数における面積値)との第1回折ピーク率は、35であった。
【0276】
(第2回折ピーク比率の測定)
実施例1で得られたペリクル、及び比較例1で得られたペリクルについて、第2回折ピーク比率を上述の方法により測定した。実施例1の第2回折ピーク比率は、4.0であった。比較例1の第2回折ピーク比率は、1.0であった。
【0277】
(平滑度評価値の測定)
実施例1で得られたペリクルについて、平滑度評価値[nm2/nm]を、上述の方法により測定した。実施例1の平滑度評価値[nm2/nm]は、0.031nmであった。なお、実施例1で用いたTEM像の縮尺は、1ピクセル当たり0.02nmであった。
【0278】
(隙間面積の割合の平均値の測定)
実施例1で得られたペリクル、及び比較例1で得られたペリクルについて、隙間面積の割合の平均値を、上述の方法により測定した。実施例1の隙間面積の割合の平均値は、24%であった。比較例1の隙間面積の割合の平均値は、36%であった。
【0279】
(比率(G/D)の測定)
実施例1で得られたペリクル、及び比較例1で得られたペリクルについて、比率(G/D)を上述の方法により測定した。実施例1の比率(G/D)の最小値は、1.10であった。比較例1の比率(G/D)の最長値は、0.77であった。
【0280】
(膜減り率の測定)
実施例1、実施例2及び比較例1で得られたペリクルについて、膜減り率は、以下のようにして、測定した。
【0281】
シリコン基板を準備した。シリコン基板上にエタノールを滴下し、ペリクルのペリクル膜をシリコン基板に対向させて、ペリクルをシリコン基板上に載置した。エタノールを乾燥させて、ペリクル膜をシリコン基板に隙間なく密着させた。シリコン基板を固定してペリクルのペリクル枠を持ち上げて、自立膜部をシリコン基板に転写させた。これにより、テストピースを得た。
テストピースの自立膜部の膜厚みを上述の方法により測定した。実施例1の自立膜部の厚みは、24nmであった。実施例2の自立膜部の厚みは、23nmであった。比較例1の自立膜部の厚みは、23nmであった。
【0282】
テストピースに水素プラズマ照射を施した。
水素プラズマ照射では、自立膜部を水素プラズマに曝す。これにより、自立膜部がEUV露光環境と類似した水素プラズマ環境に晒されることとなり、自立膜部のエッチングや化学変化が生じる。自立膜部が水素プラズマに晒されることによってエッチングされると膜厚みの減少が生じる。
【0283】
詳しくは、平行平板型プラズマCVD装置(ジャパンクリエイト社製、カソード電極サイズΦ100mmを用いて、テストピースに下記の処理条件で水素プラズマ照射を行った。アノード電極(アース)上にテストピースを配置し、30分間真空引き後、水素ガスを20Paで流したまま5分間保持した後、プラズマ照射を実施した。
【0284】
<水素プラズマ処理条件>
チャンバー到達真空度:圧力<1e-3Pa
材料ガス:H2(G1グレード)
ガス流量:50sccm
処理圧力:20Pa(0.15Torr)
RF電力:100W
セルフバイアス電圧:-490V
処理時間:120秒
【0285】
水素プラズマ照射が実行されたテストピースの自立膜部の膜厚みを上述の方法により測定した。
【0286】
水素プラズマ照射前の自立膜部の膜厚みの測定値(以下、「照射前測定値」という。)と、水素プラズマ照射後の自立膜部の膜厚みの測定値(以下、「照射後測定値」という。)とを用いて、下記式(3)より、膜減り率を算出した。算出結果を表2に示す。
膜減り率が低いことは、水素プラズマによる自立膜部のエッチング速度が遅いこと、つまり水素プラズマ照射によりエッチングされにくいことを示す。膜減り率が低いことは、EUV露光環境において、高いEUV照射耐性を有するペリクル膜であるといえる。
式(3):膜減り率=((照射前測定値-照射後測定値)/照射前測定値)×100
【0287】
【0288】
比較例1のペリクル膜は、複数のCNTを含むが、複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10超であった。そのため、比較例1の膜減り率は、33%であった。
【0289】
実施例1及び実施例2の各々のペリクル膜は、複数のCNTを含み、複数のCNTの直線性パラメータの平均値が0.10以下であった。そのため、実施例1及び実施例2の各々の膜減り率は、30%以下であり、比較例1の膜減り率よりも低かった。その結果、実施例1及び実施例2の各々のペリクル膜は、従来よりも水素プラズマに曝されても膜減りしにくいことがわかった。
【0290】
実施例1と実施例2との対比から、複数のバンドルの充填密度パラメータの平均値が0.15以下であると、水素プラズマに曝されてもより膜減りしにくいことがわかった。
【0291】
厚さが20nm以下のペリクル膜について、膜減り量を精密に測定するためには、波長220nm~300nmの範囲における反射率が高いシリコン基板上にペリクル膜を積層した状態で厚み測定を行うことで、膜厚みの変化によるわずかな反射率変化を検出することが可能となり、その結果およそ0.1nmの測定精度で厚みを評価することが可能となる。
【0292】
2021年8月26日に出願された日本国特許出願2021-138015の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。