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▶ オウェンス コーニング インテレクチュアル キャピタル リミテッド ライアビリティ カンパニーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】高性能繊維ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20240306BHJP
   C03C 13/00 20060101ALI20240306BHJP
   C03C 13/02 20060101ALI20240306BHJP
   D01F 9/08 20060101ALI20240306BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C13/00
C03C13/02
D01F9/08 A
D01F9/08 B
B29C70/06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020533063
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018066365
(87)【国際公開番号】W WO2019126252
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】62/607,498
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507220187
【氏名又は名称】オウェンス コーニング インテレクチュアル キャピタル リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】マクギニス ピーター バーナード
(72)【発明者】
【氏名】コーウィン-エドソン ミシェル
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/156477(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/084892(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/155362(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/203676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
C03C 1/00-14/00
D01F 9/08-9/32
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全組成物の質量に対する質量パーセンテージとして表して、
55.0~60.4質量%の量のSiO2
19.0~25.0質量%の量のAl23
7.510質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa2O、
0.5質量%未満の量のLi2O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO2
を含むガラス組成物であって、SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量が、少なくとも98質量%であり且つ99.5質量%未満であり、B23、Li2Oおよびフッ素を合わせた量が0.5質量%未満であり、Al23/MgOの質量パーセント比が1.8以下であり、前記ガラス組成物が、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度2305°F(1263℃)以下の液相温度、および少なくとも4,800MPaの引っ張り強さを有する、ガラス組成物。
【請求項2】
SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量が、98.7~99.3質量%である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
MgOおよびCaOを合わせた量が、20質量%よりも大きい、請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
MgOおよびCaOを合わせた量が、22質量%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項5】
19.5~21質量%のAl23を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
前記Al23/MgOの質量パーセント比が、1.46~1.8である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項7】
23を本質的に含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項8】
Li2Oを本質的に含まない、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項9】
Fe23、TiO2、K2O、およびNa2Oを合わせた量が、1.5質量%よりも小さい、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項10】
55.0~65.0質量%の量のSiO2
19.0~25.0質量%の量のAl23
7.510質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa2O、
0.5質量%未満の量のLi2O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO2
を含むガラス組成物であって、SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量が、少なくとも98質量%であり且つ99.5質量%未満であり、B23、Li2Oおよびフッ素を合わせた量が0.5質量%未満であり、CaOおよびMgOの合計質量パーセンテージが20質量%よりも大きく、Al23/MgOの質量パーセント比が1.8以下であり、前記ガラス組成物が、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度、および少なくとも4,800MPaの引っ張り強さを有する、ガラス組成物。
【請求項11】
19.5~21質量%のAl23を含む、請求項10に記載のガラス組成物。
【請求項12】
Al23/MgOの質量パーセント比が、1.46~1.8である、請求項10~11のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項13】
23を本質的に含まない、請求項10~12のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項14】
Li2Oを本質的に含まない、請求項10~13のいずれか1項に記載のガラス組成物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれかに記載のガラス組成物から形成されたガラス繊維であって、前記ガラス繊維が、87~92GPaのヤング率を有する、ガラス繊維。
【請求項16】
前記Al23/MgOの質量パーセント比が、1.46~1.8である、請求項15に記載のガラス繊維。
【請求項17】
33.0~36.0MJ/kgの比弾性率を有する、請求項15~16のいずれか1項に記載のガラス繊維。
【請求項18】
溶融した請求項1~9のいずれか1項に記載のガラス組成物を用意する工程、および
前記溶融したガラス組成物をオリフィスに通して引き伸ばして、連続ガラス繊維を形成する工程
を含む、連続ガラス繊維を形成する方法。
【請求項19】
ポリマー母材と、請求項1~9のいずれかに記載のガラス組成物から形成された複数のガラス繊維とを含む、強化複合生成物。
【請求項20】
風力翼の形態である、請求項19に記載の強化複合生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれている2017年12月19日に出願した米国仮特許出願第62/607,498号の、優先権および任意の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は、所望の組成物が得られるように特定の割合で組み合わせた様々な原材料、一般に「ガラスバッチ」と呼ばれる原材料から製造される。このガラスバッチを溶融装置で溶融してもよく、溶融ガラスは、ブッシングまたはオリフィス板を経てフィラメントに引き伸ばされる(得られたフィラメントは、連続ガラス繊維とも呼ばれる)。次いで潤滑剤、カップリング剤、および被膜形成結合剤樹脂を含有するサイジング組成物を、フィラメントに付着させてもよい。サイジングの付着後、繊維を1本または複数のストランドにまとめてパッケージに巻いてもよく、あるいは、繊維を濡れた状態で細断し、収集してもよい。次いで収集されたチョップドストランドを乾燥し硬化して、乾燥チョップド繊維を形成してもよく、またはそれらを湿潤チョップド繊維として、濡れた状態で包装することができる。
ガラスバッチの組成物は、そこから製造された繊維ガラスと共に、そこに含有される酸化物という言葉でしばしば表され、一般に、SiO2、Al23、CaO、MgO、B23、Na2O、K2O、Fe23、TiO2、Li2Oなどが含まれる。数多くのタイプのガラスが、これらの酸化物の量を変化させることから、またはガラスバッチ中の酸化物の一部を排除することから生成され得る。生成され得るそのようなガラスの例には、Rガラス、Eガラス、Sガラス、Aガラス、Cガラス、およびECRガラスが含まれる。ガラス組成物は、ガラスの形成および生成物特性を制御する。ガラス組成物のその他の特徴には、原材料コストおよび環境影響が含まれる。
【0003】
例えば、Eガラスはアルミノホウケイ酸ガラスであり、概してアルカリを含んでおらず、電気的用途で一般に使用される。Eガラスの1つの利点は、その液相温度によって、ガラス繊維を生成するための動作温度を約1900°F~2400°F(1038℃~1316℃)にすることが可能になることである。プリント回路基板および航空宇宙の用途で使用されるEガラス繊維糸のASTM分類は、組成物を、52~56質量%のSiO2、16~25質量%のCaO、12~16質量%のAl23、5~10質量%のB23、0~5質量%のMgO、0~2質量%のNa2OおよびK2O、0~0.8質量%のTiO2、0.05~0.4質量%のFe23、および0~1.0質量%のフッ素であると定義する。
ホウ素を含まない繊維は、商標名ADVANTEX(登録商標)(Owens Coming、Toledo、Ohio、USA)で販売されている。ホウ素を含まない繊維、例えば参照によりその全体が本明細書に組み込まれている米国特許第5,789,329号に開示されている繊維は、ホウ素含有Eガラスよりも、動作温度に著しい改善をもたらす。ホウ素を含まないガラス繊維は、汎用的用途で使用されるEガラス繊維に関するASTM下に包含される。
【0004】
Rガラスは、主に、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、およびカルシウムの酸化物で構成されるガラスの系列であって、Eガラス繊維よりも高い機械的強度を備えたガラス繊維を生成する化学組成を持つガラスの系列である。Rガラスは、約58~約60質量%のSiO2、約23.5~約25.5質量%のAl23、約14~約17質量%のCaOおよびMgO、ならびに約2質量%未満の種々雑多な成分を含有する組成を有する。Rガラスは、Eガラスよりも多くのアルミナおよびシリカを含有し、繊維形成中に、より高い溶融および加工温度を必要とする。典型的には、Rガラスに関する溶融および加工温度は、Eガラスの場合よりも高い。この加工温度の上昇は、高コスト白金裏打ち溶融器の使用を必要とする。さらに、Rガラスの形成温度に対して液相温度を近接させるには、Eガラスよりも低い粘度でガラスを繊維化させる必要があり、慣習的には約1000ポアズでまたはその近くで繊維化される。慣習的に1000ポアズの粘度でのRガラスの繊維化は、おそらく、ガラスの失透をもたらす可能性があり、プロセスの中断および低減した生産性を引き起こす。
【0005】
高性能ガラス繊維は、伝統的なEガラス繊維と比較して、より高い強度および剛性を保有する。特に、いくつかの生成物では、剛性は、モデル化および性能に極めて重要である。例えば、良好な剛性特性を持つガラス繊維から調製された風力翼などの複合体は、許容限度内で翼の撓みを保持しながら、風力発電所においてより長い風力翼を可能にする。
さらに、高性能ガラス組成物は、望ましい形成特性(例えば、液相温度および繊維化温度)を維持しつつ、好ましい機械的および物理的特性(例えば、比弾性率および引張り強さ)を保有するものが望ましい。
特に、十分低い繊維化温度を有するなどの許容される形成特性を持つ高性能ガラス組成物であって、好ましい機械的および物理的特性を保持するガラス組成物が、当技術分野で求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の概念の様々な例示的な実施形態は、全組成物の質量に対する質量パーセンテージとして表して、55.0~60.4質量%の量のSiO2;19.0~25.0質量%の量のAl23;7~12.0質量%の量のCaO;8.0~15.0質量%の量のMgO;0~1.0質量%の量のNa2O;0.5質量%未満の量のLi2O;および0.0~1.5質量%の量のTiO2を含むガラス組成物を対象とする。Al23/MgOの質量パーセント比は2.0未満であり、ガラス組成物は、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度を有する。
様々な実施形態のいずれかにおいて、SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量は、少なくとも98質量%および99.5質量%未満であってもよい。
様々な実施形態のいずれかにおいて、MgOおよびCaOを合わせた量は、20質量%より多くてもよい。
様々な実施形態のいずれかにおいて、MgOおよびCaOを合わせた量は、22質量%未満であってもよい。
様々な実施形態のいずれかにおいて、ガラス組成物は、B23およびLi2Oの少なくとも1種を本質的に含まなくてもよい。
様々な実施形態のいずれかにおいて、Fe23、TiO2、K2O、およびNa2Oを合わせた量は、1.5質量%より下であってもよい。
【0007】
本発明の概念の、他の例示的な態様は、55.0~65.0質量%の量のSiO2;19.0~25.0質量%の量のAl23;7~12.0質量%の量のCaO;8.0~15.0質量%の量のMgO;0~1.0質量%の量のNa2O;0.5質量%未満の量のLi2O;および0.0~1.5質量%の量のTiO2を含むガラス組成物を対象とする。様々な例示的な実施形態では、CaOおよびMgOの合計質量パーセンテージが20質量%よりも大きく、Al23/MgOの質量パーセント比が2.0未満である。ガラス組成物は、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度を有する。
様々な実施形態のいずれかにおいて、組成物は、19.5~21質量%のAl23を含む。
様々な実施形態のいずれかにおいて、Al23/MgOの質量パーセント比は1.8以下である。
様々な実施形態のいずれかにおいて、ガラス組成物は、B23およびLi2Oの少なくとも1種を本質的に含まなくてもよい。
【0008】
本発明の概念のさらに他の例示的な態様は、全組成物の質量に対するパーセンテージで表して、55.0~60.4質量%の量のSiO2;19.0~25.0質量%の量のAl23;7~12.0質量%の量のCaO;8.0~15.0質量%の量のMgO;0~1.0質量%の量のNa2O;0.5質量%未満の量のLi2O;および0.0~1.5質量%の量のTiO2を含むガラス組成物から形成されたガラス繊維であって、Al23/MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、前記ガラス繊維が少なくとも4,800MPaの引張り強さを有するガラス繊維を対象とする。
様々な実施形態のいずれかにおいて、Al23/MgOの質量パーセント比は1.8以下である。
様々な実施形態のいずれかにおいて、ガラス繊維は、少なくとも32.0MJ/kgの比弾性率を有する。
本発明の概念の、さらに他の例示的な態様は、本明細書に開示される例示的な実施形態のいずれかによる溶融組成物を用意すること、および溶融組成物をオリフィスに通して引き出して連続ガラス繊維を形成すること含む、連続ガラス繊維を形成する方法を対象とする。
【0009】
本発明の概念の、他の例示的な態様は、ポリマー母材と、全組成物の質量に対する質量パーセンテージで表して、55.0~60.4質量%の量のSiO2;19.0~25.0質量%の量のAl23;7~12.0質量%の量のCaO;8.0~15.0質量%の量のMgO;0~1.0質量%の量のNa2O;0.5質量%未満の量のLi2O;および0.0~1.5質量%の量のTiO2を含むガラス組成物から形成された複数のガラス繊維とを含み、Al23/MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、前記ガラス繊維が少なくとも4,800MPaの引張り強さを有する、強化複合生成物を対象とする。
本発明の、前述のおよびその他の目的、特徴、および利点は、以下に続く詳細な説明を考慮することから、以後、より十分に明らかにされよう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、これらの例示的な実施形態が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書の記述で使用される用語は、単に例示的な実施形態について記述するためのものであり、例示的な実施形態を限定しようとするものではない。したがって、概略的な本発明の概念は、本明細書に例示される特定の実施形態を限定しようとするものではない。本明細書に記述されるものに類似したまたは均等なその他の方法および材料を、本発明の実施または試験で使用することができるが、好ましい方法および材料について本明細書に記述する。
本明細書および添付される特許請求の範囲で使用される、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が他に明示しない限り、複数形も同様に含むものとする。
【0011】
他に指示しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される、成分の量、化学的および分子的特性、反応条件などの全ての数値は、「約」という用語によって全ての場合に修飾されるものとして理解されたい。したがって、反対の内容を示さない限り、本明細書および添付される特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明の例示的な実施形態によって得ることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限でも、各数値パラメータは、有効数字の桁数および通常の丸め手法に照らして解釈されるべきである。
広範な例示的な実施形態について述べる数値範囲およびパラメータが近似値であることに関わらず、特定の実施例に記載される数値は可能な限り正確に報告される。しかし任意の数値は、本来、それらのそれぞれの試験測定値に見出された標準偏差から得られるある特定の誤差を必ず含有する。本明細書および特許請求の範囲の全体を通して与えられる全ての数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に包含される全てのより狭い数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明らかに書かれたかのように含むことになる。さらに、実施例で報告された任意の数値は、本明細書に開示される、より広い組成範囲の上または下端点を画定するのに使用されてもよい。
【0012】
本開示は、本質的にリチウムを含まない状態で、改善された引張り強さおよび弾性率を持つ、高性能ガラス組成物に関する。「本質的にリチウムを含まない」とは、リチウムが意図的に添加されず、ガラス組成物がリチウムを、4.0質量%、3.0質量%、2.0質量%、1.0質量%、0.5質量%、および0.1質量%以下を含む、5.0質量%以下で含むことを意味する。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、0~0.5質量%の間および0~0.05質量%の間を含む、0~1.0質量%のリチウムを含む。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、全体としてリチウムを含まない。
本明細書に開示されるガラス組成物は、ガラス強化繊維の製造で広く使用されている、伝統的な市販の耐火物で裏打ちされたガラス炉内での、溶融に適している。
【0013】
ガラス組成物は、溶融器内でガラス組成物の成分を溶融することによって得ることが可能な、溶融形態をとってもよい。ガラス組成物は、ASTM C965-96(2007)によって決定されるように、約1000ポアズの溶融粘度に対応する温度と定義される、低繊維化温度を示す。繊維化温度の低下は、より長いブッシング寿命ならびにガラス組成物の成分を溶融させるのに必要なエネルギー使用の削減が可能になるので、ガラス繊維の生産コストを削減し得る。したがって、放出されたエネルギーは一般に、多くの市販のガラス配合物を溶融するのに必要なエネルギーよりも少ない。そのような、より低いエネルギー要件は、ガラス組成物に関連した全製造コストも低下し得る。
【0014】
例えば、より低い繊維化温度では、ブッシングはより低い温度で動作することができ、したがって典型的に見られるように素早く「垂れ下がる」ことがない。「垂れ下がり」は、長期間にわたり高温で保持されるブッシングがその決定された安定性を失ったときに生じる現象である。したがって、繊維化温度を低下させることにより、ブッシングの垂れ下がり速度を低減させることが可能であり、ブッシング寿命を最大限にすることができる。
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、2475°F(1357℃)以下、2470°F(1354℃)以下、2420°F(1327℃)以下、2410°F(1321℃)以下、2405°F(1318℃)以下、2400°F(1316℃)以下、および2390°F(1310℃)以下、および2385°F(1307℃)以下の繊維化温度を含む、2500°(1371℃)F未満の繊維化温度を有する。
ガラス組成物の、別の繊維化特性は、液相温度である。液相温度は、液体ガラスとその一次結晶相との間に平衡が存在する最高温度と定義される。液相温度は、ある場合には、ガラス組成物を、16時間にわたり白金-合金ボート内で温度勾配に曝すことによって測定されてもよい(ASTM C829-81(2005))。液相温度よりも高い全ての温度で、ガラスは完全に溶融し、即ち結晶を含まない。液相温度よりも低い温度では、結晶が形成され得る。
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物が、2400°F(1316℃)以下、2375°F(1301℃)以下、2350°F(1288℃)以下、2325°F(1274℃)以下、2305°F(1263℃)以下、2300°F(1260℃)以下、2290°F(1254℃)以下、2250°F(1232℃)以下、2225°F(1218℃)以下、および2215°F(1213℃)以下の液相温度を含む、2500°F(1371℃)よりも低い液相温度を有する。
【0015】
第3の繊維化特性は、繊維化温度と液相温度との間の差と定義される「ΔT」である。ΔTが小さすぎる場合、溶融ガラスは繊維化装置内で結晶化し、製造プロセスで破壊を引き起こす可能性がある。ΔTは、所与の形成粘度に関して可能な限り大きいことが望ましく、それは繊維化中にかなりの程度の柔軟性をもたらすからであり、ガラス分布系内および繊維化装置内の両方での失透を回避するのを助けるからである。大きいΔTはさらに、より長いブッシング寿命およびそれほど感受性の高くない形成プロセスを可能にすることによって、ガラス繊維の生産コストを削減する。
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、少なくとも100°F(56℃)、少なくとも110°F(61℃)、少なくとも120°F(67℃)、少なくとも135°F(75℃)、少なくとも150°F(83℃)、および少なくとも170°F(94℃)を含む、少なくとも80F(44℃)のΔTを有する。様々な例示的な実施形態では、ガラス組成物は、120°F~200°F(67℃~111℃)の間および150°F~190°F(83℃~106℃)の間を含む、100°F~250°F(56℃~139℃)の間のΔTを有する。
【0016】
追加のガラス繊維化特性は、ガラス粘度が1013ポアズに降下する温度である、アニール温度である。ガラスアニールは、ガラス繊維の急速冷却中に引き起こされた内部応力を緩和するためにガラスをゆっくり冷却する、制御されたプロセスである。アニール温度よりも高い温度では、フィラメントが様々な接触点で「焼結」し合体し始める。対象のガラス組成物の利益の1つは、高アニール温度(少なくとも750℃)であり、繊維を、マフラー充填などの高温の用途で使用することが可能になる。対照的に、Eガラス繊維は、680~690℃の間のアニール温度を有し、ホウ素を含まないEガラス繊維は一般に、約720℃以下のアニール温度を有する。
【0017】
ガラス組成物は、約55.0~約65.0質量%のSiO2、約17.0~約27.0質量%のAl23、約8.0~約15.0質量%のMgO、約7.0~約12.0質量%のCaO、約0.0~約1.0質量%のNa2O、0~約2.0質量%のTiO2、0~約2.0質量%のFe23、および0.5質量%以下のLi2Oを含んでいてもよい。有利には、酸化アルミナおよび酸化マグネシウムの質量パーセントの比(Al23/MgO)は2.0以下であり、例えば1.9以下、および1.8以下である。さらに、酸化マグネシウムの酸化カルシウムに対する質量パーセントの比(MgO/CaO)は、有利には少なくとも1.2である。
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、約57.0~約62.0質量%のSiO2、約19.0~約25.0質量%のAl23、約10.5~約14.0質量%のMgO、約7.5~約10.0質量%のCaO、約0.0~約0.5質量%のNa2O、0.2~約1.5質量%のTiO2、0~約1.0質量%のFe23、および0.1質量%以下のLi2Oを含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、2未満のAl23/MgO比、および少なくとも1.25のMgO/CaO比を有する。
【0018】
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、約57.5~約60.0質量%のSiO2、約19.5~約21.0質量%のAl23、約11.0~約13.0質量%のMgO、約8.0~約9.5質量%のCaO、約0.02~約0.25質量%のNa2O、0.5~約1.2質量%のTiO2、0~約0.5質量%のFe23、および0.05質量%以下のLi2Oを含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、1.8以下のAl23/MgO、および少なくとも1.25のMgO/CaO比を含む。
ガラス組成物は、少なくとも55質量%であるが65質量%以下のSiO2を含む。65質量%よりも多いSiO2を含むことにより、ガラス組成物の粘度は好ましくないレベルまで上昇する。さらに、55質量%未満のSiO2を含むことにより、液相温度および結晶化傾向が増大する。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、少なくとも57.5質量%、少なくとも58質量%、少なくとも58.5質量%、および少なくとも59質量%を含む、少なくとも57質量%のSiO2を含む。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、60.3質量%以下、60.2質量%以下、60質量%以下、59.8質量%以下、および59.5質量%以下を含む、60.5質量%以下のSiO2を含む。
【0019】
所望の機械的および繊維化特性の両方を実現するために、ガラス組成物の1つの重要な態様は、少なくとも19.0質量%および27質量%以下のAl23濃度を有することである。27質量%よりも多いAl23を含むことにより、ガラス液相は、繊維化温度よりも高いレベルまで上昇し、その結果、負のΔTが得られる。19質量%未満のAl23を含むことにより、好ましくない低弾性率を持つガラス繊維が形成される。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、少なくとも19.7質量%、少なくとも20質量%、少なくとも20.25質量%、および少なくとも20.5質量%を含む、少なくとも19.5質量%のAl23を含む。
【0020】
ガラス組成物は、有利には、少なくとも8.0質量%および15質量%以下のMgOを含む。15質量%よりも多いMgOを含むことにより、液相温度の上昇が引き起こされることになり、それがガラスの結晶化傾向も増大させる。8.0質量%未満を含むことにより、CaOによって置換された場合に好ましくない低弾性率を持ちSiO2で置換された場合には粘度の好ましくない増大を持つ、ガラス繊維が形成される。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、少なくとも10質量%、少なくとも10.5質量%、少なくとも11質量%、少なくとも11.10質量%、少なくとも11.25質量%、少なくとも12.5質量%、および少なくとも13質量%を含む、少なくとも9.5質量%のMgOを含む。
【0021】
所望の機械的および繊維化特性を実現するのを可能にする対象のガラス組成物の、別の重要な態様は、2.0以下のAl23/MgO比を有することである。Al23/MgO比が2.0よりも大きいがその他の点では類似した組成範囲を持つ組成物を有するガラス繊維は、少なくとも4,800MPaの引張り強さを達成できないことが発見された。ある特定の例示的な態様では、少なくとも19質量%のAl23濃度と、2以下、例えば1.9以下および1.85以下のAl23/MgO比との組合せは、所望の繊維化特性および少なくとも4,800MPaの引張り強さを持つガラス繊維を得ることを可能にする。
【0022】
ガラス組成物は、有利には、少なくとも7.0質量%および12質量%以下のCaOを含む。12質量%よりも多いCaOを含むことにより、低弾性率を持つガラスが形成される。7質量%未満を含むことにより、CaOが置換されたか否かに応じて、液相温度または粘度のいずれかの好ましくない増大をもたらすことになる。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、少なくとも8.3質量%、少なくとも8.5質量%、少なくとも8.7質量%、および少なくとも9.0質量%を含む、少なくとも8.0質量%のCaOを含む。
一部の例示的な実施形態では、SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量は、少なくとも98質量%、または少なくとも99質量%、および99.5質量%以下である。一部の例示的な実施形態では、SiO2、Al23、MgO、およびCaOを合わせた量は、98.5質量%~99.4質量%の間および98.7質量%~99.3質量%の間を含む、98.3質量%~99.5質量%の間である。
【0023】
一部の例示的な実施形態では、MgOおよびCaOの全濃度が、13質量%~21.8質量%の間および14質量%~21.5質量%の間を含む、少なくとも10質量%および22質量%以下である。一部の例示的な実施形態では、MgOおよびCaOの全濃度が少なくとも20質量%である。
ガラス組成物は、最大約2.0質量%のTiO2を含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物が、約0.1質量%~約0.8質量%および約0.2~約0.7質量%を含む、約0.01質量%~約1.0質量%のTiO2を含む。
ガラス組成物は、最大約2.0質量%のFe23を含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、約0.05質量%~約0.6質量%および約0.1~約0.5質量%を含む、約0.01質量%~約1.0質量%のFe23を含む。
【0024】
一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、0~1.5質量%の間を含む、2.0質量%未満のアルカリ金属酸化物Na2OおよびK2Oを含む。ガラス組成物は、有利には、各酸化物を0.01質量%よりも多い量の、Na2OおよびK2Oの両方を含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、約0.01~約0.5質量%、約0.03~約0.3質量%、および0.04~約0.1質量%を含む、約0~約1質量%のNa2Oを含む。一部の例示的な実施形態では、ガラス組成物は、約0.01~約0.5質量%、約0.03~約0.3質量%、および0.04~約0.1質量%を含む、約0~約1質量%のK2Oを含む。
本明細書で使用される「質量パーセント」、「質量%」、「wt%」、および「質量によるパーセント」という用語は同義で使用されてもよく、全組成物に対する質量パーセント(または質量によるパーセント)を示すものとする。
【0025】
本発明のガラス組成物は、B23、Li2O、およびフッ素を含まなくてもよくまたは実質的に含まなくてもよいが、どちらもまたはいずれかを少量で添加して繊維化および最終ガラス特性を調節してもよく、数パーセントよりも低く維持された場合には、これらの特性に悪影響を及ぼさなくなる。本明細書で使用される、B23、Li2O、およびフッ素を実質的に含まないとは、存在するB23、Li2O、およびフッ素の量の合計が、組成物の1.0質量%未満であることを意味する。存在するB23、Li2O、およびフッ素の量の合計は、組成物の、約0.2質量%未満、約0.1質量%未満、および約0.05質量%未満を含む、約0.5質量%未満であってもよい。
【0026】
ガラス組成物はさらに、ガラスまたは繊維に悪影響を及ぼさない不純物および/または微量の材料を含み得る。これらの不純物は、原材料の不純物としてガラスに進入する可能性があり、または溶融ガラスと炉内成分との化学反応によって形成された生成物である可能性がある。微量の材料の非限定的な例には、亜鉛、ストロンチウム、バリウム、およびこれらの組合せが含まれる。微量の材料は、それらの酸化物形態で存在してもよく、フッ素および/または塩素をさらに含んでいてもよい。一部の例示的な実施形態では、本発明のガラス組成物が、BaO、SrO、ZnO、ZrO2、P25、およびSO3のそれぞれを、0.5質量%未満、0.2質量%未満、および0.1質量%未満を含む、1.0質量%未満で含有する。特に、ガラス組成物は、BaO、SrO、ZnO、ZrO2、P25、および/またはSO3を合わせたものを約5.0質量%未満含んでいてもよく、BaO、SrO、ZnO、ZrO2、P25、およびSO3のそれぞれは、存在したとしても、1.0質量%未満の量で存在する。
上述のように、本発明のガラス組成物は意外にも、優れた弾性(ヤング)率および引張り強さを提供しながら低い繊維化温度および大きいΔTを実証する。
【0027】
繊維引張り強さは、本明細書では単に「強度」とも呼ばれる。一部の例示的な実施形態では、引張り強さは、ASTM D2343-09に従い、Instron引張り試験装置を使用して、未処理の繊維(即ち、サイズが決められておらず、手付かずの実験室用に生成された繊維、)に関して測定される。上述の本発明のガラス組成物から形成された例示的なガラス繊維は、少なくとも4,000MPa、少なくとも4,500MPa、少なくとも4,800MPa、少なくとも4,900MPa、少なくとも4,950MPa、少なくとも5,000MPa、少なくとも5,100MPa、少なくとも5,150MPa、および少なくとも5,200MPaを含む、少なくとも3,500MPaの繊維引張り強さを有していてもよい。一部の例示的な実施形態では、上述の組成物から形成されたガラス繊維は、約4000MPa~約5,300、約4,600~約5,250MPaを含む、約3500~約5500MPaの繊維引張り強さを有する。有利には、本明細書に開示される組成パラメータの組合せは、所望の繊維化特性を有するガラス組成を持つ、従来技術によってまだ実現されていない、少なくとも4,900MPaおよび少なくとも5,000を含む、少なくとも4,800MPaの引張り強さを有するガラス繊維を生成するのを可能にする。
ガラス繊維の弾性率は、報告「Glass Fiber and Measuring Facilities at the U.S. Naval Ordnance Laboratory」、Report Number NOLTR 65-87, June 23, 1965に概説さされる音波測定手順に従い測定された、5本の単一ガラス繊維に関して平均測定値を得ることによって決定されてもよい。
【0028】
本発明のガラス組成物から形成された例示的なガラス繊維は、少なくとも約88GPa、少なくとも約88.5GPa、少なくとも約89GPa、および少なくとも約89.5GPaを含む、少なくとも約85GPaのヤング率を有していてもよい。一部の例示的な実施形態では、本発明のガラス組成物から形成された例示的なガラス繊維は、約87GPa~約92GPaの間、および約88GPa~約91GPaの間を含む、約85GPa~約95GPaの間のヤング率ヤング率を有する。
次いで弾性率を使用して、比弾性率を決定してもよい。最終物品に剛性を付加する軽量複合材料を実現するのが可能なほどに高い、比弾性率を有することが望ましい。比弾性率は、風力エネルギーおよび航空宇宙の用途におけるなど、生成物の剛性が重要なパラメータである用途において、重要である。本明細書で使用される比弾性率は、下記の方程式:
比弾性率(MJ/kg)=弾性率(GPa)/密度(kg/立方メートル)
によって計算される。
本発明のガラス組成物から形成される例示的なガラス繊維は、約33MJ/kg~約36MJ/kgおよび約33.5MJ/kg~約35.5MJ/kgを含む、約32.0MJ/kg~約37.0MJ/kgの比弾性率比弾性率を有していてもよい。
【0029】
密度は、アニールされていないバルクガラスに関して、アルキメデス法(ASTM C693-93(2008))などの当技術分野で公知であり一般に受け入れられる任意の方法によって、測定されてもよい。ガラス繊維は、約2.0~約3.0g/ccの密度を有する。他の例示的な実施形態では、ガラス繊維は、約2.4~約2.7g/ccおよび約2.5~約2.65g/ccを含む、約2.3~約2.8g/ccの密度を有する。
一部の例示的な実施形態では、本発明のガラス組成物から形成されたガラス繊維は、改善された耐腐食性を有する。
一部の例示的な実施形態によれば、上述のガラス組成物からガラス繊維を調製するための方法が提供される。ガラス繊維は、当技術分野で公知であり伝統的に使用される任意の手段によって形成されてもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラス繊維は、原材料成分を得て、それらの成分を適切な量で混合して所望の質量パーセンテージで最終組成物を得ることにより、形成される。方法はさらに、本発明のガラス組成物を溶融形態で得て、溶融組成物を、ブッシングのオリフィスに通して引き伸ばすことによりガラス繊維を形成することを含んでいてもよい。
【0030】
ガラス組成物の成分は、適切な成分または原材料であって、限定するものではないがSiO2に関しては砂またはパイロフィライト、CaOに関しては石灰石、生石灰、珪灰石、またはドロマイト、Al23に関してはカオリン、アルミナ、またはパイロフィライト、MgOに関してはドロマイト、軽焼ドロマイト、ブルサイト、エンスタタイト、タルク、焼成マグネサイト、またはマグネサイト、およびNa2Oに関しては炭酸ナトリウム、ナトリウム長石、または硫酸ナトリウムを含む成分または原材料から得てもよい。一部の例示的な実施形態では、ガラスカレットを使用して、必要とされる酸化物の1種または複数を供給してもよい。
【0031】
次いで混合バッチを炉内または溶融器内で溶融してもよく、得られた溶融ガラスを前床に沿って通し、前床の底部に位置付けられたブッシングのオリフィス内に引き入れて、個々のガラスフィラメントを形成する。一部の例示的な実施形態では、炉または溶融器は、伝統的な耐火性溶融器である。耐火性ブロックで形成された耐火性タンクを利用することによって、本発明の組成物により生成されるガラス繊維の生産に伴う製造コストを、削減し得る。一部の例示的な実施形態では、ブッシングが、白金合金をベースにしたブッシングである。次いでガラス繊維のストランドを、個々のフィラメントを一緒に集めることによって形成してもよい。繊維ストランドを、意図する用途に適した従来の手法で巻いてもよくさらに加工してもよい。
【0032】
溶融器、前床、およびブッシングでのガラスの動作温度は、ガラスの粘度を適切に調節するように選択されてもよく、制御デバイスなど、適切な方法を使用して維持されてもよい。溶融器の前端の温度は、失透が低減または排除されるように自動的に制御されてもよい。次いで溶融ガラスを、ブッシングの底部または先端板の穴またはオリフィスに通して引き出し(引き伸ばし)て、ガラス繊維を形成してもよい。一部の例示的な実施形態によれば、ブッシングのオリフィス内を流動する溶融ガラスの流れは、巻取り機の回転可能なコレットに取り付けられた形成管に、複数の個々のフィラメントで形成されたストランドを巻くことによってフィラメントへと減衰され、または適応可能な速度で細断される。本発明のガラス繊維は、本明細書に記述される方法のいずれか、またはガラス繊維を形成するための任意の公知の方法によって、得ることが可能である。
【0033】
繊維は、意図される用途に適した従来の手法でさらに加工されてもよい。例えば、一部の例示的な実施形態では、ガラス繊維は、当業者に公知のサイジング組成物でサイズが決められる。サイジング組成物は全く制限されず、ガラス繊維への適用に適した任意のサイジング組成物であってもよい。サイズが決められた繊維は、生成物の最終使用が高い強度および剛性と低質量とを必要とする、様々なプラスチックなどの基材を強化するのに使用されてもよい。そのような用途には、限定するものではないが、風力翼の形成に使用される織布;強化コンクリート、橋などの基礎構造;および航空宇宙構造が含まれる。
【0034】
この点に関し、本発明の一部の例示的な実施形態は、硬化可能な母材材料と組み合わせて、上述の本発明のガラス繊維を組み込んだ複合材料を含む。これを本明細書では、強化複合生成物と呼んでもよい。母材材料は、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、およびポリブチレンなどの熱可塑性物質、ならびにエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール、ビニルエステル、およびエラストマーなどの熱硬化性樹脂などであるがこれらに限定することのない、当業者に公知の任意の適切な熱可塑性または熱硬化性樹脂であってもよい。これらの樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用されてもよい。強化複合生成物は、風力翼、鉄筋、パイプ、フィラメントの巻取り、マフラー充填材、吸音材などに使用されてもよい。
他の例示的な実施形態によれば、本発明は、上述の複合生成物を調製する方法を提供する。方法は、少なくとも1種のポリマー母材材料と複数のガラス繊維とを合わせることを含んでいてもよい。ポリマー母材材料およびガラス繊維は共に、上述の通りであってもよい。
【実施例
【0035】
本発明による例示的なガラス組成物を、以下の表1~4に示される酸化物質量パーセンテージを持つ最終ガラス組成物が実現するように、比例する量でバッチ成分を混合することによって調製した。
原材料を、1,650℃の温度で3時間、電気加熱炉内の白金坩堝で溶融した。
繊維化温度を、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる「Standard Practice for Measuring Viscosity of Glass Above the Softening Point」という名称の、ASTM C965-96(2007)に記載されるような回転シリンダ法を使用して測定した。液相温度は、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる「Standard Practices for Measurement of Liquidus Temperature of Glass」という名称の、ASTM C829-81(2005)で定義されるように、白金合金ボートで16時間、ガラスを温度勾配に曝露することによって測定した。密度は、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる「Standard Test Method for Density of Glass Buoyancy」という名称の、ASTM C693-93(2008)に詳述されるような、アルキメデス法によって測定した。
比弾性率は、GPaを単位とする、測定された弾性率を、kg/m3を単位とする密度で割ることによって計算した。
【0036】
強度は、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる「Standard Test Method for Tensile Properties of Glass Fiber Strands, Yarns, and Rovings Used in Reinforced Plastics」という名称の、ASTM D2343-09に従い、Instron引張り試験装置を使用して、未処理の繊維に関して測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1における上記ガラス組成物(比較例1~5)は、欧州出願第10860973.6号から複製された比較例である。これらの比較例は、19.0質量%よりも高いAl23濃度を含むが、組成物は、2よりも高いAl23/MgO比を含み、その結果、本明細書に開示される本発明のガラス組成物から形成されたガラス繊維によって実現された4,800MPaという最小引張り強さよりも、はるかに低い引張り強さになる
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
表2~4は、55.0~65.0質量%のSiO2、19.0~27.0質量%のAl23、8.0~15.0質量%のMgO、7.0~12.0質量%のCaO、0.0~1.0質量%のNa2O、0~2.0質量%のTiO2、0~2.0質量%のFe23、および0.5質量%以下のLi2Oを含み、Al23/MgO比が2.0以下である組成物から形成された、ガラス繊維によって実現された、引張り強さの予期せぬ増大を示す。引張り強さの予期せぬ増大は、少なくとも19.0質量%のAl23濃度および2.0以下のAl23/MgO比の両方の実現に直接関わることが、さらに発見された。
【0043】
さらに、実施例1~13のガラス組成物は、優れた機械的特性を実現しつつ、驚くほど低い繊維化温度(2425°F(1329℃)未満)および大きいΔT値(少なくとも100°F(56℃))を有する。特に、ガラス繊維は、少なくとも4,800MPaの引張り強さおよび少なくとも34.3MJ/kgの比弾性率を実現する。様々な例示的なガラス繊維は、少なくとも4,900MPa、または少なくとも4,950MPa、または少なくとも5,000MPaの引張り強さを実現する。そのような強度および比弾性率のレベルは、好ましい繊維化特性と組み合わせた場合に予期しないことである。
【0044】
さらに、ガラス組成物は、Rガラス(例えば、風力翼)に等しくまたはそれよりも大きい剛性を必要とする用途に特に適している。しかし、以下の表5で示されるように、本発明の概念のガラス組成物は、有利には、繊維化温度(2425°F(1329℃)未満)などの好ましい繊維化特性も有する。
【0045】
【表5】
【0046】
本出願の発明について、全体的にかつ特定の実施形態に関してこれまで記述してきた。本発明を、好ましい実施形態と考えられるものについて述べてきたが、当業者に知られる広く様々な代替例を、包括的開示の範囲内で選択することができる。本発明は、以下に示す請求項の列挙を除き、他に限定するものではない。
本発明の好ましい態様は、下記の通りである。
〔1〕全組成物の質量に対する質量パーセンテージとして表して、
55.0~60.4質量%の量のSiO 2
19.0~25.0質量%の量のAl 2 3
7~12.0質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa 2 O、
0.5質量%未満の量のLi 2 O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO 2
を含むガラス組成物であって、Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度を有する、ガラス組成物。
〔2〕SiO 2 、Al 2 3 、MgO、およびCaOを合わせた量が、少なくとも98質量%であり且つ99.5質量%未満である、前記〔1〕に記載のガラス組成物。
〔3〕MgOおよびCaOを合わせた量が、20質量%よりも大きい、前記〔1〕または〔2〕に記載のガラス組成物。
〔4〕前記MgOおよびCaOを合わせた量が、22質量%未満である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔5〕19.5~21質量%のAl 2 3 を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔6〕前記Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が、1.8以下である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔7〕B 2 3 を本質的に含まない、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔8〕Li 2 Oを本質的に含まない、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔9〕Fe 2 3 、TiO 2 、K 2 O、およびNa 2 Oを合わせた量が、1.5質量%よりも小さい、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔10〕55.0~65.0質量%の量のSiO 2
19.0~25.0質量%の量のAl 2 3
7~12.0質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa 2 O、
0.5質量%未満の量のLi 2 O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO 2
を含むガラス組成物であって、CaOおよびMgOの合計質量パーセンテージが20質量%よりも大きく、Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、2500°F(1371℃)以下の繊維化温度を有する、ガラス組成物。
〔11〕19.5~21質量%のAl 2 3 を含む、前記〔10〕に記載のガラス組成物。
〔12〕Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が、1.8以下である、前記〔10〕~〔11〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔13〕B 2 3 を本質的に含まない、前記〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔14〕Li 2 Oを本質的に含まない、前記〔10〕~〔13〕のいずれか1項に記載のガラス組成物。
〔15〕全組成物の質量に対する質量パーセンテージとして表して、
55.0~60.4質量%の量のSiO 2
19.0~25.0質量%の量のAl 2 3
7~12.0質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa 2 O、
0.5質量%未満の量のLi 2 O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO 2
を含むガラス組成物から形成されたガラス繊維であって、Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、少なくとも4800MPaの引張り強さを有する、ガラス繊維。
〔16〕前記Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が、1.8以下である、前記〔15〕に記載のガラス繊維。
〔17〕少なくとも32.0MJ/kgの比弾性率を有する、前記〔15〕~〔16〕のいずれか1項に記載のガラス繊維。
〔18〕前記〔1〕に記載の溶融組成物を用意する工程、および
前記溶融組成物をオリフィスに通して引き伸ばして、連続ガラス繊維を形成する工程
を含む、連続ガラス繊維を形成する方法。
〔19〕ポリマー母材と、
全組成物の質量に対する質量パーセンテージとして表して、
55.0~60.4質量%の量のSiO 2
19.0~25.0質量%の量のAl 2 3
7~12.0質量%の量のCaO、
8.0~15.0質量%の量のMgO、
0~1.0質量%の量のNa 2 O、
0.5質量%未満の量のLi2O、および
0.0~1.5質量%の量のTiO 2
を含むガラス組成物から形成された複数のガラス繊維であって、Al 2 3 /MgOの質量パーセント比が2.0未満であり、前記ガラス繊維が少なくとも4800MPaの引張り強さを有する、複数のガラス繊維と
を含む、強化複合生成物。
〔20〕風力翼の形態である、前記〔19〕に記載の強化複合生成物。