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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】チェーンガイド
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/18 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F16H7/18 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020090256
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021185317
(43)【公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】彼末 雅和
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 将成
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-509388(JP,A)
【文献】実開平06-058516(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンを摺動案内する案内シューと、前記案内シューを支持するチェーンガイド本体とを備えるチェーンガイドであって、
チェーンガイド本体の幅方向に貫通する固定用貫通孔に、チェーンガイドを被取付け部材に取付けるための取付けボルトが挿通される取付け孔を有するコンプレッションリミッタが挿設され、
前記チェーンガイド本体における固定用貫通孔を含む孔周縁部または前記コンプレッションリミッタに、前記コンプレッションリミッタを保持するコンプレッションリミッタ保持機構が設けられ
前記コンプレッションリミッタ保持機構が、前記孔周縁部において、前記固定用貫通孔の一端の外縁形状に沿ってチェーンガイド本体の一面側から幅方向に突入する状態に凹んだ環状凹部が形成されることにより当該環状凹部と前記固定用貫通孔の内周面との間に形成される、環状凹部の固定用貫通孔側の内輪周壁からなり、全周にわたって延びる薄切片から構成されることを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記コンプレッションリミッタ保持機構が、前記固定用貫通孔の内周面に形成された、軸方向の一方に向かうに従って縮径するテーパ形状によって構成されることを特徴とする請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記環状凹部が、ブリッジ構造部を介して複数に分割された円弧溝状凹部からなることを特徴とする請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記コンプレッションリミッタが、基端縁から径方向外方に突出するようフランジ部が形成されるとともに先端縁から径方向外方に突出して前記孔周縁部に係止する係止部が形成されたものであり、
前記コンプレッションリミッタ保持機構が、前記コンプレッションリミッタの前記係止部から構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記コンプレッションリミッタ保持機構が、固定用貫通孔の内周面に形成された凹凸構造から構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記孔周縁部が、前記チェーンガイド本体と一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載のチェーンガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンを摺動案内する案内シューと、案内シューを支持するチェーンガイド本体とを備えたチェーンガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スプロケット間を走行するチェーンを安定させ張力を適正に保持するために、走行するチェーンを摺動案内する案内シューを備えたチェーンガイドを用いることが慣用されている。
例えば、図10に示すように、エンジンルームE内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケットS1、S2間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンCHを走行させるエンジンのタイミングシステムであって、タイミングチェーンCHがエンジンルームE内のクランク軸に取り付けた駆動スプロケットS1とカム軸に取り付けた一対の従動スプロケットS2との間に無端懸回されており、このタイミングチェーンCHが揺動するチェーンガイド(揺動ガイド)600とチェーンガイド(固定ガイド)500とによってガイドされるタイミングシステムが公知である。
チェーンテンショナTは、揺動ガイド600を押圧することでタイミングチェーンCHの張力を適正に保持するとともに振動を抑制している。
【0003】
このようなタイミングシステムでは、固定ガイド500は、複数の固定用の取付けボルトQでエンジンルームE内に固定され、揺動ガイド600は、揺動用の取付けボルトPを中心にタイミングチェーンCHの懸回平面内で揺動可能にエンジンルームE内に取り付けられている(例えば引用文献1~3等参照。)。
このようなタイミングシステムに用いられる公知のチェーンガイド(揺動ガイド)600、チェーンガイド(固定ガイド)500は、走行するチェーンを摺動案内する案内シューと、この案内シューをチェーン走行方向に沿って支持・補強するチェーンガイド本体とを備えて構成されており、チェーンガイド本体は合成樹脂で形成されている。一方、これらのチェーンガイド500,600を被取付け部材であるエンジンルームEに固定するための取付けボルトP,Qは金属製のものであるので、タイミングシステムの駆動時の熱によって取付けボルトP,Qと樹脂製のチェーンガイド本体との間の熱収縮差に起因して取付けボルトP,Qの緩みが発生してしまい、その結果、チェーンガイドの取付け状態に緩みが生じてタイミングチェーンの安定的な走行が確保されない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-078486公報
【文献】特開2011-127741公報
【文献】特開平10-238604公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような熱収縮差に起因するチェーンガイドの取付け状態の緩みの問題を軽減するために、チェーンガイドにおける取付けボルトが挿通される固定用貫通孔の内周面と取付けボルトとの間にこの取付けボルトと同じ材料から形成された金属ブッシュを介装させることにより、取付けボルトとチェーンガイドとの熱収縮差を緩和することが行われている。
しかしながら、チェーンガイドの被取付け部材であるエンジンルームへの取付け時には、チェーンガイド本体とその固定用貫通孔に挿入された金属ブッシュとを一つにした状態で取り扱われるが、チェーンガイド本体の固定用貫通孔へ金属ブッシュを差し込んでエンジンルームの取付け面に形成されたねじ穴に取付けボルトを締結する作業において金属ブッシュの脱落が生じ、作業員が両手を使って作業しても取付けにくく、作業効率の低下を招く、という問題がある。また、チェーンガイドの輸送時にも金属ブッシュの脱落が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、輸送性および取付け時の作業性を向上することができるとともに、タイミングチェーンの安定的な走行が確保され、耐久性を向上することが可能なチェーンガイドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のチェーンガイドは、チェーンを摺動案内する案内シューと、前記案内シューを支持するチェーンガイド本体とを備えるチェーンガイドであって、
チェーンガイド本体の幅方向に貫通する固定用貫通孔に、チェーンガイドを被取付け部材に取付けるための取付けボルトが挿通される取付け孔を有するコンプレッションリミッタが挿設され、
前記チェーンガイド本体における固定用貫通孔を含む孔周縁部または前記コンプレッションリミッタに、前記コンプレッションリミッタを保持するコンプレッションリミッタ保持機構が設けられ
前記コンプレッションリミッタ保持機構が、前記孔周縁部において、前記固定用貫通孔の一端の外縁形状に沿ってチェーンガイド本体の一面側から幅方向に突入する状態に凹んだ環状凹部が形成されることにより当該環状凹部と前記固定用貫通孔の内周面との間に形成される、環状凹部の固定用貫通孔側の内輪周壁からなり、全周にわたって延びる薄切片から構成されることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のチェーンガイドによれば、チェーンガイド本体における固定用貫通孔を含む孔周縁部またはコンプレッションリミッタ自体にコンプレッションリミッタを保持するコンプレッションリミッタ保持機構が設けられていることにより、基本的にチェーンガイド本体と取付けボルトとの間にコンプレッションリミッタが介装されるので取付けボルトとチェーンガイド本体との間に発生する熱収縮差が緩和されてタイミングチェーンの安定的な走行が確保されて耐久性を向上され、しかも、輸送時にコンプレッションリミッタ保持機構によってコンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が防止されて輸送性を向上することができるとともに、被取付け部材への取付け時においてもコンプレッションリミッタ保持機構によってコンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が防止されるので、被取付け部材に取付けることができ、取付け時の作業性を向上することができる。
【0009】
本発明の、固定用貫通孔の内周面に軸方向の一方に向かうに従って縮径するテーパ形状が形成された構成のチェーンガイドによれば、固定用貫通孔に縮径方向にコンプレッションリミッタを挿入したときにテーパ形状によってコンプレッションリミッタを容易に保持することができるので、簡単な構成で、確実に取付け時の作業性や輸送性を向上することができる。
本発明の、孔周縁部において環状凹部と固定用貫通孔の内周面との間に薄切片が形成された構成のチェーンガイドによれば、薄切片が容易に歪んでたわみ代が形成されて固定用貫通孔に弾性が得られるので、コンプレッションリミッタが固定用貫通孔の弾性によってチェーンガイド本体に確実に保持されて、コンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が確実に防止され、取付け時の作業性や輸送性をより向上することができる。また、環状凹部においてオイルを貯油する機能が発揮されるので、固定用貫通孔の周辺の貯油性が向上し、振動に対するダンピング性能が向上し、チェーンガイドが固定ガイドである場合には摩耗及び破損リスクを低減することができ、チェーンガイドが可動ガイドである場合においても、オイルの潤滑性が向上することによって摺動部の摩耗リスクが低減して使用寿命を延ばすことができる。
本発明の、環状凹部がブリッジ構造部を介して複数に分割された円弧溝状凹部からなる構成のチェーンガイドによれば、ブリッジ構造部によって環状凹部にうねりが生じることが抑止されるので、環状凹部の強度を向上することができる。
本発明の、コンプレッションリミッタに孔周縁部に係止する係止部が形成された構成のチェーンガイドによれば、コンプレッションリミッタが固定用貫通孔に挿入された状態で係止部を孔周縁部に係止させることにより、コンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が確実に防止され、取付け時の作業性や輸送性をより向上することができる。
本発明の、固定用貫通孔の内周面に凹凸構造が形成された構成のチェーンガイドによれば、固定用貫通孔の内周面の凹凸構造と取付けボルトの外周面との間に摩擦を生じさせることができるので、コンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が確実に防止され、取付け時の作業性や輸送性をより向上することができる。
【0010】
本発明の、孔周縁部がチェーンガイド本体と一体に形成された構成のチェーンガイドによれば、製造時の工程数を低減させて製造負荷を低減させることができるので、高い生産性でチェーンガイドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】チェーンガイド(固定ガイド)の一例を示す正面図。
図2】本発明の第1実施形態に係るチェーンガイドの孔周縁部およびコンプレッションリミッタの斜視図。
図3図2の孔周縁部およびコンプレッションリミッタの斜視断面図。
図4図2の孔周縁部およびコンプレッションリミッタの断面図。
図5図2の孔周縁部の一部を拡大して示す一部断面図。
図6】固定用貫通孔の別の例を示す斜視図。
図7】本発明の第1実施形態に係るチェーンガイドの孔周縁部の変形例を示す一部断面図。
図8】本発明の第2実施形態に係るチェーンガイドの孔周縁部およびコンプレッションリミッタの断面図。
図9】チェーンガイド(揺動ガイド)の一例を示す正面図。
図10】従来のエンジンのタイミングシステムの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のチェーンガイドは、チェーンを摺動案内する案内シューと、前記案内シューを支持するチェーンガイド本体とを備えるチェーンガイドであって、チェーンガイド本体の幅方向に貫通する固定用貫通孔に、チェーンガイドを被取付け部材に取付けるための取付けボルトが挿通される取付け孔を有するコンプレッションリミッタが挿設され、前記チェーンガイド本体における固定用貫通孔を含む孔周縁部に、前記コンプレッションリミッタを保持するコンプレッションリミッタ保持機構が設けられていることにより、基本的にチェーンガイド本体と取付けボルトとの間にコンプレッションリミッタが介装されるので取付けボルトとチェーンガイド本体との間に発生する熱収縮差が緩和されてタイミングチェーンの安定的な走行が確保されて耐久性を向上され、しかも、輸送時にコンプレッションリミッタ保持機構によってコンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が防止されるとともに、被取付け部材への取付け時においてもコンプレッションリミッタ保持機構によってコンプレッションリミッタのチェーンガイド本体からの脱落が防止されるので、被取付け部材に容易に取付けることができ、取付け時の作業性を向上することができるチェーンガイドを提供するものであれば、その具体的な構成はいかなるものであってもよい。
【実施例1】
【0013】
本発明の第1実施形態に係るチェーンガイドは、エンジンルーム内に設置されるタイミングシステムに組み込まれて用いられるものであり、被取付け部材としてのエンジンルームに固定され、スプロケット間を走行するチェーンを摺動案内するものである。チェーンガイド100は、走行するチェーンをガイド長手方向に沿って摺動案内する案内シューと、案内シューに着脱可能に取り付けられ案内シューを支持するチェーンガイド本体110とこのチェーンガイド本体110の幅方向(ガイド幅方向)に貫通するよう形成された固定用貫通孔111に挿設された、チェーンガイド100を被取付け部材に取付けるための取付けボルトが挿通される取付け孔151を有するコンプレッションリミッタ150とを備えている。
【0014】
チェーンガイド本体110は合成樹脂製のものである。チェーンガイド100が固定ガイドである場合には、チェーンガイド本体110において、固定用貫通孔111は、図1に示すように、チェーンガイド本体110のガイド長手方向に離間した3箇所に形成され、それぞれにコンプレッションリミッタ150が挿設されている。
【0015】
チェーンガイド本体110の固定用貫通孔111を含む孔周縁部120において、固定用貫通孔111の内周面には、図2乃至図4に示すように、固定用貫通孔111の軸方向の一方(図4の右側から左側)に向かうに従って縮径するテーパ形状のテーパ形状部121が形成されている。
【0016】
また、孔周縁部120においては、固定用貫通孔111の一端の外縁形状(丸形状)に沿うとともに固定用貫通孔111の外縁から微小な間隔を介して離間してチェーンガイド本体110の一面側(図4の左側)から幅方向に突入する状態に凹んだ環状凹部122が形成されている。そして、この環状凹部122と固定用貫通孔111の内周面との間にこの環状凹部122の固定用貫通孔111側の内輪周壁によって薄切片123が形成されている。
薄切片123は、テーパ形状部121に形成されており、これにより、固定用貫通孔111内において薄切片123が他面側(図4の右側)から一面側(図4の左側)に向かうに従って固定用貫通孔111の径方向内方にわずかに傾く状態で伸びる状態とされる。
環状凹部122の内輪周壁である薄切片123の長さ(図4における左右方向長さ)は、環状凹部122の外輪周壁となるチェーンガイド本体110の高さよりも低くされている。これにより、後述するコンプレッションリミッタ150の係止部154が薄切片123の先端部の内縁側領域を覆う状態に係合されたときにコンプレッションリミッタ150がチェーンガイド本体110から突出してしまうことが避けられる。
【0017】
薄切片123の厚みは例えば0.5mm程度とされ、薄切片123のガイド幅方向の長さは例えば2.0mm程度とされる。
【0018】
環状凹部122は、ブリッジ構造部124を介して分割された複数の円弧溝状凹部125から構成されている。複数の円弧溝状凹部125は、環状凹部122において等角度位置に設けられている。
【0019】
固定用貫通孔111の内周面、具体的にはテーパ形状部121の薄切片123の内周面には、図5に示されるように、凹凸構造126が形成されている。
【0020】
コンプレッションリミッタ150は、被取付け部材であるエンジンルームに取付けるための取付けボルトと同じ金属製のものであり、合成樹脂製のチェーンガイド本体110と取付けボルトとの熱収縮差に起因する変形を防止するためのものである。
コンプレッションリミッタ150は、内部が取付け孔151とされた円筒状の筒状本体152と、この筒状本体152の基端縁から径方向外方に突出するフランジ部153と、筒状本体152の先端縁から径方向内方に微小に突出する係止部154を有している。この取付け孔151は、チェーンガイド100を被取付け部材であるエンジンルームに取付けるための取付け軸となる取付けボルトを挿通させる取付け用の孔として機能する。
【0021】
コンプレッションリミッタ150の係止部154は、チェーンガイド本体110の孔周縁部120の一面側に係合するよう、具体的には孔周縁部120の薄切片123の先端部の内縁側領域を覆うことにより薄切片123に引っ掛けられるよう構成されている。すなわち、コンプレッションリミッタ150はフランジ部153と係止部154とで固定用貫通孔111を挟むことが可能なように形成されている。
コンプレッションリミッタ150における係止部154の突出長さは0.1mm程度とされる。
【0022】
そして、この実施形態のチェーンガイド100においては、チェーンガイド本体110における固定用貫通孔111を含む孔周縁部120に、コンプレッションリミッタ150を保持するコンプレッションリミッタ保持機構が設けられている。コンプレッションリミッタ保持機構は、孔周縁部120のテーパ形状部121、薄切片123および凹凸構造126、並びに、コンプレッションリミッタの係止部154の少なくとも1つから構成される。この実施形態に係るチェーンガイド100においては、その全てを有するものとして記載されているが、上記のうち1つでも有することによりコンプレッションリミッタの保持機能を発揮させることができる。例えば図6に示されるように、テーパ形状部121および凹凸構造126のみが形成され、環状凹部122(薄切片123)が形成されない構成であってもよい。
【0023】
コンプレッションリミッタ150は、チェーンガイド本体110の固定用貫通孔111内にチェーンガイド本体110の他面側から一面側に向かってコンプレッションリミッタ150の先端側(係止部154側)を先頭にして、固定用貫通孔111の中心軸と筒状本体152の中心軸とが略一致する姿勢で圧入することにより、組付けることができる。
固定用貫通孔111内にコンプレッションリミッタ150を挿設した状態においては、コンプレッションリミッタ150は、コンプレッションリミッタ保持機構によって固定用貫通孔111内に保持される。具体的には、固定用貫通孔111のテーパ形状部121および薄切片123による弾性および凹凸構造124による摩擦によってコンプレッションリミッタ150の筒状本体152が保持され、さらに、フランジ部153がチェーンガイド本体110の他面側に接触されるとともにコンプレッションリミッタ150の係止部154が固定用貫通孔111の一面側に突出して孔周縁部120の薄切片123の先端部の内縁側領域を覆うことにより薄切片123に引っ掛けられる状態に係止されることによって、コンプレッションリミッタ150の移動が規制されてコンプレッションリミッタ150のチェーンガイド本体110からの脱落が阻止される。そして、チェーンガイド100を一体のままエンジンルームに締め付け固定することで、煩雑な作業なしにチェーンガイド100をエンジンルームに容易に固定することができ、チェーンガイド100の取付けに係る作業性が向上する。
【0024】
チェーンガイド100は、各固定用貫通孔111にコンプレッションリミッタ150を各々挿入して組付け、取付けボルト(図示せず)をコンプレッションリミッタ150の各取付け孔151に挿通し、エンジンルームのねじ穴(図示せず)に螺着することにより取付けられる。これにより、チェーンガイド本体110に形成された固定用貫通孔111内に、この固定用貫通孔111の内周面と取付けボルトとの間にコンプレッションリミッタ150の筒状本体152が介装された状態で取付けられることとなる。
チェーンガイド100のエンジンルームへの取付けにおいては、コンプレッションリミッタ150のフランジ部153がエンジンルームに面する側に配置されてチェーンガイド100をエンジンルームに取付けた際にはエンジンルームに接触する部位として機能する構成とされていてもよく、コンプレッションリミッタ150の係止部154がエンジンルームに面する側に配置される構成とされていてもよい。
【0025】
以上においては、図1のチェーンガイド100において3箇所の固定用貫通孔111のうち中央に位置する軸方向に垂直な断面が丸形状である円柱形状の貫通孔について説明したが、本発明は、図7に示すような、軸方向に垂直な断面が長丸形状である長円柱形状の2つの固定用貫通孔211についても適用可能である。図7においては、固定用貫通孔211を含む孔周縁部220において、孔周縁部120においては、固定用貫通孔211の一端の外縁形状(長丸形状)に沿うとともに固定用貫通孔211の外縁から微小な間隔を介して離間してチェーンガイド本体110の一面側(図7の正面側)から幅方向に突入する状態に凹んだ環状凹部222が形成され、この環状凹部222と固定用貫通孔211の内周面との間にこの環状凹部222の固定用貫通孔211側の内輪周壁によって薄切片223が形成される。
この実施形態のチェーンガイド100において、軸方向に垂直な断面が長丸形状である長円柱形状の固定用貫通孔211は、ガイド長手方向の両端側に位置するものとされている。
【実施例2】
【0026】
本発明の第2実施形態に係るチェーンガイド300は、図8に示すように、孔周縁部320においてチェーンガイド本体310の一面側から突入する状態に凹むよう形成された環状凹部122に加えて、チェーンガイド本体310の他面側から突入する状態に凹むよう形成された環状凹部322を有しており、その他の構成は、前述の第1実施形態と同様である。第2実施形態を示す図8において、第1実施形態に係るチェーンガイド100と同じ構成のものには同じ符号を付す。
環状凹部322は、具体的には、固定用貫通孔311の一端の外縁形状(長丸形状)に沿うとともに固定用貫通孔311の外縁から微小な間隔を介して離間してチェーンガイド本体110の他面側(図8の右側)から幅方向に突入する状態に凹んで形成されている。そして、この環状凹部322と固定用貫通孔311の内周面との間にこの環状凹部322の固定用貫通孔311側の内輪周壁によって薄切片323が形成されている。
このような両面側に環状凹部122,322が形成されたチェーンガイド300によれば、固定用貫通孔311の両側に形成される薄切片323,323が容易に歪んでたわみ代が形成されて固定用貫通孔311に弾性が付与されるので、コンプレッションリミッタ150が固定用貫通孔311の弾性によってチェーンガイド本体310に確実に保持されて、コンプレッションリミッタ150のチェーンガイド本体310からの脱落が確実に防止され、取付け時の作業性や輸送性をより向上することができる。また、環状凹部122,322の両方においてオイルを貯油する機能が発揮されるので、固定用貫通孔311の周辺の貯油性がさらに向上し、振動に対するダンピング性能が向上し、オイルの潤滑性が向上することによって摺動部の摩耗リスクが低減して使用寿命を延ばすことができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上述した実施形態においては、チェーンガイドが固定ガイドとして構成されているが、本発明に係るコンプレッションリミッタ保持機構は、図9に示されるようなエンジンルーム内で揺動可能に軸支される揺動ガイドに対しても適用可能である。揺動ガイドとして構成されるチェーンガイド400は、チェーンガイド本体410と、このチェーンガイド本体410のガイド長手方向の端部に1箇所形成された固定用貫通孔411内に挿設されたコンプレッションリミッタ150とを有してなる。コンプレッションリミッタ150は、被取付け部材に取付けるとともに揺動軸となる取付けボルト等を挿入する、ピボット孔として機能する取付け孔151を有するものとされる。そして、このチェーンガイド400は、この固定用貫通孔411を含む孔周縁部420および/またはコンプレッションリミッタ150にコンプレッションリミッタ保持機構が設けられる。
コンプレッションリミッタ150の筒状本体の軸方向長さは、チェーンガイド本体410の幅方向の厚みと同等かそれよりも若干長く、エンジンルームへ取付けボルトが固定された状態で、取付けボルトを軸としてチェーンガイド400が、取付けボルトの頭部とエンジンルームの取付け面との間で軸方向の移動を規制された状態で自由に揺動できるようになっている。
チェーンガイド400は、固定用貫通孔411にコンプレッションリミッタ150を挿入して組付け、取付けボルト(図示せず)をコンプレッションリミッタ150の取付け孔151に挿通し、エンジンルームのねじ穴(図示せず)に螺着することにより取付けられる。これにより、チェーンガイド本体410に形成された固定用貫通孔411内に、この固定用貫通孔411の内周面と取付けボルトとの間にコンプレッションリミッタ150の筒状本体が介装された状態でエンジンルームに揺動自在に取付けられることとなる。
【0028】
また例えば、上述した実施形態のチェーンガイドにおいては、孔周縁部がチェーンガイド本体と一体に形成されているものとして説明したが、別個のものとして構成されていてもよい。具体的には、孔周縁部を、固定用貫通孔を含有する独立した孔周縁部用部材とし、孔周縁部用部材を収容する収容孔を有するチェーンガイド本体フレームと孔周縁部用部材とからチェーンガイド本体が構成されていてもよい。このような孔周縁部がチェーンガイド本体のチェーンガイド本体フレームと別個に形成された構成のチェーンガイドによれば、孔周縁部(孔周縁部用部材)のみに対してコンプレッションリミッタ保持機構を付加することとなり容易に加工・製造することができるので、高い生産性でチェーンガイドを製造することができる。
【0029】
また例えば、上述した実施形態では、チェーンガイドが、タイミングシステムを有するエンジン内に設けられるものとして説明したが、これに限定されず様々な機器類に適用可能である。
また例えば、チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、種々の産業分野において利用可能である。
さらに例えば、チェーンガイド本体の材質は、剛性、耐久性、成形性、弾性、コスト等に諸条件に応じて公知の適宜の合成樹脂を選択すればよい。また、案内シューの材質も、弾性、摩擦抵抗、剛性、耐久性、成形性、コスト等に諸条件に応じて公知の適宜のものを選択すればよく、特に、合成樹脂材料が好適である。
【符号の説明】
【0030】
100、 300、500・・・チェーンガイド(固定ガイド)
400、600・・・チェーンガイド(揺動ガイド)
110、 310、410・・・チェーンガイド本体
111、211、311、411・・・固定用貫通孔
120、220、320、420・・・孔周縁部
121 ・・・テーパ形状部
122、222、322 ・・・環状凹部
123、223、323 ・・・薄切片
124 ・・・ブリッジ構造部
125 ・・・円弧溝状凹部
126 ・・・凹凸構造
150、 ・・・コンプレッションリミッタ
151、 ・・・取付け孔
152 ・・・筒状本体
153 ・・・フランジ部
154 ・・・係止部
S1 ・・・駆動スプロケット
S2 ・・・従動スプロケット
CH ・・・タイミングチェーン
P ・・・取付けボルト(揺動用)
Q ・・・取付けボルト(固定用)
T ・・・チェーンテンショナ
E ・・・エンジンルーム(被取付け部材)



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10