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  • 特許-左右不等歯筋歯車の製造方法 図1
  • 特許-左右不等歯筋歯車の製造方法 図2
  • 特許-左右不等歯筋歯車の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】左右不等歯筋歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20240306BHJP
   B23F 21/10 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F21/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020093274
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021186920
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】布村 一洋
(72)【発明者】
【氏名】林 真宣
(72)【発明者】
【氏名】桑原 隆将
(72)【発明者】
【氏名】秋月 啓作
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-030338(JP,A)
【文献】特開2020-044593(JP,A)
【文献】特開2019-018335(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0086409(US,A1)
【文献】特開2014-046391(JP,A)
【文献】特開平03-098714(JP,A)
【文献】特開昭49-118096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビング加工機を用いて、
スカイビングカッタとワークの同期回転に速度差を与えることによってねじれ角を調整しつつ
前記スカイビングカッタの径方向の切り込み量を軸方向で変化させることによるテーパ量の調整とを組み合わせることにより、
前記ワークの歯の左右の歯面を同時に加工して、左右の歯筋の傾き角度が非対称となったはすば歯車を製造することを特徴とする左右不等歯筋歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカイビング加工機を用いた左右不等歯筋歯車の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内歯車などを創成する加工法として、スカイビング加工が知られている。スカイビング加工は、工作物の回転と工具の回転とを同期させつつ、工作物の回転軸に対して工具の回転軸を傾けて行われる。これによって、工作物の回転方向と工具の回転方向とに差異が生じ、工作物に工具を干渉させた際に“すべり”が生じる。このすべりを利用して工作物から干渉部分をそぎ落とし、工作物に歯溝などを加工する。このようなスカイビング加工は、近年では他の旋削加工や穴あけ加工と共に複合加工機の機能としても実装されている。
【0003】
例えば特許文献1には、スカイビングツールを用いて回転対称の周期的構造を備えるワークピースをスカイビング加工するための方法および装置が開示されている。特許文献1では、スカイビング加工中、ワークピースに対するスカイビングツールの連動的相対動作が実行される。このとき、スカイビングツールは第1の回転軸(R1)を中心として回転し、ワークピースは第2の回転軸(R2)を中心として回転する。第1の回転軸(R1)は、第2の回転軸(R2)に対してねじれの位置にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-516807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにスカイビングツールの回転軸とワークピースの回転軸とをねじれの位置にする従来の技術では、ワークピースの加工形状には限界がある。すると、かかるワークピースが用いられる装置において要求される性能を満たせないことがある。このため、新たな形状のワークピースを製造可能な手法が求められていた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、従来とは異なる新たな形状のワークを製造することができ、ワークが用いられる装置において要求される性能を満たしつつ、新たな分野への展開を可能とする左右不等歯筋歯車の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明にかかる左右不等歯筋歯車の製造方法の代表的な構成は、スカイビング加工機を用いて、スカイビングカッタとワークの同期回転に速度差を与えることによるねじれ角の調整と、スカイビングカッタの切り込み量を軸方向で変化させることによるテーパ量の調整とを組み合わせることにより、ワークの歯の左右の歯筋を非対称にすることを特徴とする。
【0008】
上記構成では、スカイビング加工を行う際に、ねじれ角の調整とテーパ量の調整とを組み合わせる。これにより、歯の左右の歯筋が非対称となった左右不等歯筋歯車、すなわち従来にはない新たな形状のワークを製造することができる。したがって、ワークが用いられる装置において要求される性能を満たしつつ、新たな分野への展開を可能となる。
【0009】
上述した製造方法によって製造される左右不等歯筋歯車の利用方法としては、例えば自動車の駆動用歯車の加速側と減速側で異なった歯筋形状とすることで、振動抑制・トルク効率アップを図ることができる。また熱処理による変形を見込んであらかじめ歯筋を非対称に整形しておくことにより、熱処理後の歯筋を対称にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来とは異なる新たな形状のワークを製造することができ、より、ワークが用いられる装置において要求される性能を満たしつつ、新たな分野への展開を可能とする左右不等歯筋歯車の製造方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の左右不等歯筋歯車の製造方法に用いられるスカイビング加工機を説明する図である。
図2】ワークの加工の詳細について説明する図である。
図3】本実施形態の左右不等歯筋歯車の製造方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態の左右不等歯筋歯車の製造方法(以下、単に製造方法と称する)に用いられるスカイビング加工機を説明する図である。図1に示すように、スカイビング加工機100は、回転するスカイビングカッタ102によって工作物(ワーク200)にスカイビング加工を施す工作機械である。スカイビングカッタ102は、ホルダ106を介して工具主軸(不図示)に取り付けられている。ワーク200は、スカイビングカッタ102に同期して回転しながら加工が施される。
【0014】
工具主軸のツーリング部114では、ホルダ106の先端にスカイビングカッタ102が保持されている。スカイビングカッタ102は、円錐台形の歯車型であって外周上に歯を有し、押さえボルト116を使用してホルダ106に保持される。ホルダ106は、根本のプルスタッド118を介して工具主軸に連結される。
【0015】
特に図1では、スカイビング加工機100の稼働時の姿勢を示している。スカイビングカッタ102は、はすば歯車型であって、歯103がホルダ106の軸線L1に対して角度αで円周方向に傾斜している。これは、スカイビング加工において、スカイビングカッタ102はワーク200に対して斜めの姿勢で接触するためであり、ワーク200に上下方向に沿った内歯車(歯205)を加工するための構成である。
【0016】
図2は、ワーク200の加工の詳細について説明する図である。図2(a)は、ワーク200に歯210を形成する際の加工方向を説明する図である。図2(b)は、従来の加工方法によって製造されたワーク200(歯車)の模式的な断面斜視図である。図2(c)および(d)は、ねじれ角による歯筋の角度について説明する図である。図2(e)および(f)は、テーパ量による歯筋の角度について説明する図である。
【0017】
図2(a)に示すように、ワーク200に形成された歯210は、一対の歯先212の間に歯底214を有する。一対の歯先212と歯底214との間には、それぞれ歯筋(左右の歯筋)が配置されている。なお、本実施形態では、歯210の左右の歯筋を区別するために、左歯筋216aおよび右歯筋216bと称する。図2(b)は図2(a)の形状を模式化した図である。スカイビング加工を行う際には、上述したスカイビング加工機100を用い、図2(b)に示すようにワーク200に対して上方から下方に向かって歯210を形成する。
【0018】
ねじれ角およびテーパ量を調整しない場合には、図2(b)に示すように、歯210の左歯筋216aおよび右歯筋216bは、等間隔にワーク200の軸方向に対して垂直方向に延びる。
【0019】
図2(c)の例では、ワーク200とスカイビングカッタ102の同期回転に速度差を与え、歯210が右側に傾斜するようにねじれ角を調整している(右傾斜補正)。すると、歯210の左歯筋216aはプラス補正され、右歯筋216bはマイナス補正されるため、両側の歯筋は等間隔にワーク200の軸方向に対して右側に傾斜する。図2(d)の例では、ワーク200とスカイビングカッタ102の同期回転に速度差を与え、歯210が左側に傾斜するようにねじれ角を調整している(左傾斜補正)。すると、歯210の左歯筋216aはマイナス補正され、右歯筋216bはプラス補正されるため、両側の歯筋は等間隔にワーク200の軸方向に対して左側に傾斜する。
【0020】
図2(e)の例では、ワーク200に対するスカイビングカッタ102の切り込み量をワーク200の軸方向で上方から下方に向かうにしたがって浅くする(少なくする:閉じ補正)。すると歯210の左歯筋216aおよび右歯筋216bは、下方に向かうにしたがって近づくように傾斜しながら延びる。図2(f)の例では、ワーク200に対するスカイビングカッタ102の切り込み量をワーク200の軸方向で上方から下方に向かうにしたがって深くする(多くする:開き補正)。すると、歯210の左歯筋216aおよび右歯筋216bは、下方に向かうにしたがって離れるように傾斜しながら延びる。
【0021】
上述したように、ねじれ角を調整することにより、ワーク200の軸方向に対する歯210の傾斜角を変化させることができる。またワーク200に対するスカイビングカッタ102の切り込み量すなわちテーパ量を軸方向で変化させることで、軸方向における左歯筋216aおよび右歯筋216bの間隔を変化させることができる。
【0022】
そこで本実施形態の製造方法では、スカイビングカッタ102とワーク200の同期回転に速度差を与えることによるねじれ角の調整と、ワーク200に対するスカイビングカッタ102の切り込み量を軸方向で変化させることによるテーパ量の調整とを組み合わせることで左右不等歯筋歯車を製造する。
【0023】
図3は、本実施形態の左右不等歯筋歯車の製造方法について説明する図である。図3(a)は調整前の状態(形状)を示している。図3(a)に示すワーク200では、歯210の左歯筋216aおよび右歯筋216bがワーク200の軸方向に対して所定角度、右側に傾斜している。このワーク200に対して歯210の左歯筋216aおよび右歯筋216bがさらに5μm右側に傾斜するようにねじれ角を調整する(右傾斜補正)。これにより、ワーク200は図3(b)に示す状態となる。
【0024】
そして、ねじれ角調整に加え、テーパ量の調整を行う。本実施形態では、左歯筋216aと右歯筋216bのカッタ入側が互いに5μm近づくように、ワークの上方は切り込み量を浅くし(少なくし)、下方に向かうにしたがって切り込み量を深くする(多くする:開き補正)。すると図3(c)に示すように、左歯筋216aはプラス補正が重なって合計10μmのプラス補正となり、右歯筋216bはプラス補正とマイナス補正が打ち消し合って±0μmの補正となる。すなわち、左歯筋216aのみをプラス補正して、左右の歯筋を非対称(不等)にすることができる。
【0025】
上記説明したように本実施形態の製造方法によれば、ねじれ角の調整とテーパ量の調整とを組み合わせてスカイビング加工を行うことにより、ワーク200の歯210の左右の歯筋(左歯筋216aおよび右歯筋216b)が非対称になった左右不等歯筋歯車を製造することができる。これにより、従来にはない新たな形状の歯車(ワーク)を製造可能となる。したがって、ワークが用いられる装置において要求される性能を満たしつつ、新たな分野への展開を可能となる。
【0026】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、スカイビング加工機を用いた左右不等歯筋歯車の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0028】
100…スカイビング加工機、102…スカイビングカッタ、103…歯、106…ホルダ、114…ツーリング部、116…ボルト、118…プルスタッド、200…ワーク、200a…上面、205…歯、210…歯、212…歯先、214…歯底、216a…左歯筋、216b…右歯筋
図1
図2
図3