(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】三次元計測システムおよび三次元計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/25 20060101AFI20240306BHJP
G06T 7/529 20170101ALI20240306BHJP
【FI】
G01B11/25 H
G06T7/529
(21)【出願番号】P 2020206062
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】辻本 将隆
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-241483(JP,A)
【文献】特開2020-180948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G06T 7/529
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向の輝度が正弦波状に変化する単色の縞パターン画像を投影するプロジェクタ(20)と、
計測対象物(5)に投影された前記縞パターン画像を撮影するカメラ(30)と、
前記カメラが撮影した撮影画像において、前記縞パターン画像の輝度が変化する方向の輝度を示す波形である元輝度値波形を1階以上微分して微分波形を算出する波形算出部(S13)と、
1つ以上の前記微分波形を少なくとも含み、前記微分波形、前記元輝度値波形、前記元輝度値波形を反転させた反転元輝度値波形、前記微分波形を反転させた反転微分波形から、位相が90度ずつずれるように選択した4つの波形の輝度値をもとに、前記撮影画像の画素に対応する輝度値の位相を算出する位相算出部(S14)と、
前記位相算出部が算出した前記位相に基づいて、前記計測対象物の三次元座標を決定する座標決定部(S15、S16)と、を備えた三次元計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記波形算出部は、前記元輝度値波形を微分した1階微分波形、前記1階微分波形を微分した2階微分波形、前記2階微分波形を微分した3階微分波形を算出し、
前記位相算出部は、前記4つの波形として、前記元輝度値波形、前記1階微分波形、前記2階微分波形、前記3階微分波形を用いる、三次元計測システム。
【請求項3】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記波形算出部は、前記元輝度値波形を微分した1階微分波形、前記1階微分波形を微分した2階微分波形、前記2階微分波形を微分した3階微分波形、前記3階微分波形を微分した4階微分波形を算出し、
前記位相算出部は、前記4つの波形として、前記1階微分波形、前記2階微分波形、前記3階微分波形、前記4階微分波形を用いる、三次元計測システム。
【請求項4】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記波形算出部は、前記元輝度値波形を微分した1階微分波形、前記元輝度値波形、および、前記1階微分波形を反転させた反転1階微分波形を算出し、
前記位相算出部は、前記4つの波形として、前記元輝度値波形、前記1階微分波形、前記反転元輝度値波形、および、前記反転1階微分波形を用いる、三次元計測システム。
【請求項5】
請求項1に記載の三次元計測システムであって、
前記波形算出部は、前記元輝度値波形を微分した1階微分波形、前記1階微分波形を微分した2階微分波形を算出し、
前記位相算出部は、前記4つの波形として、前記1階微分波形、前記2階微分波形、前記1階微分波形を反転させた反転1階微分波形、および、前記2階微分波形を反転させた反転2階微分波形を用いる、三次元計測システム。
【請求項6】
一方向の輝度が正弦波状に変化する単色の縞パターン画像が、計測対象物(5)に投影された状態が撮影された撮影画像を取得することと、
前記撮影画像において、前記縞パターン画像の輝度が変化する方向の輝度を示す波形である元輝度値波形を1階以上微分して微分波形を算出することと、
1つ以上の前記微分波形を少なくとも含み、前記微分波形、前記元輝度値波形、前記元輝度値波形を反転させた反転元輝度値波形、前記微分波形を反転させた反転微分波形から、位相差が90度ずつずれるように選択した4つの波形の輝度値をもとに、前記撮影画像の画素に対応する輝度値の位相を算出することと、
前記位相に基づいて前記計測対象物の三次元座標を決定すること、とを含む三次元計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
位相シフト法により物体の三次元形状を計測する三次元計測システム、および、三次元計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
計測対象物の三次元形状を計測する三次元計測システムとして、位相シフト法を用いるシステムが知られている。位相シフト法は位相をずらした複数枚の縞パターン画像を投影し三角測量を行う手法である。
【0003】
特許文献1は、三次元形状の計測に要する時間の短縮を図る手法を開示している。特許文献1に開示されている三次元計測装置は、各位相の縞を異なる波長の光(例として赤、緑、青)に割り当て、これを合成した縞パターン画像を計測対象物に投影する。この縞パターン画像を投影している計測対象物をカラーカメラで撮影する。そして、撮影した画像から、各色成分を抽出することで1回の撮影で位相算出を行う。以下、カラーの縞パターン画像を投影する位相シフト法をカラー位相シフト法とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カラー位相シフト法では、カメラが撮影した撮影画像から各色成分を抽出する。しかし、抽出した各色成分の画像は、他の色成分の輝度値が完全には除去されていない。カラー位相シフト法を用いて精度よく計測対象物の三次元形状を計測するためには、抽出した各色成分の画像から、他の色成分の影響を除去あるいは軽減する補正が必要になる。
【0006】
単色の縞パターン画像を投影すれば、撮影画像から他の色成分の影響を除去する補正は必要ない。しかし、単色の縞パターン画像を、位相を変化させて複数回投影するとすれば、迅速な三次元計測ができない。
【0007】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、単色の縞パターン画像を用いつつ、画像投影回数を少なくできる三次元計測システムおよび三次元計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的態様との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
上記目的を達成するための三次元計測システムに係る1つの開示は、
一方向の輝度が正弦波状に変化する単色の縞パターン画像を投影するプロジェクタ(20)と、
計測対象物(5)に投影された縞パターン画像を撮影するカメラ(30)と、
カメラが撮影した撮影画像において、縞パターン画像の輝度が変化する方向の輝度を示す波形である元輝度値波形を1階以上微分して微分波形を算出する波形算出部(S13)と、
1つ以上の微分波形を少なくとも含み、微分波形、元輝度値波形、元輝度値波形を反転させた反転元輝度値波形、微分波形を反転させた反転微分波形から、位相が90度ずつずれるように選択した4つの波形の輝度値をもとに、撮影画像の画素に対応する輝度値の位相を算出する位相算出部(S14)と、
位相算出部が算出した位相に基づいて、計測対象物の三次元座標を決定する座標決定部(S15、S16)と、を備えた三次元計測システムである。
【0010】
位相算出部は、位相差が90度ずつずれるように選択した4つの波形の輝度値を用いて、位相シフト法により、撮影画像の画素に対応する輝度値の位相を算出する。
【0011】
上記4つの波形は、元輝度値波形、微分波形、反転元輝度値波形、反転微分波形のいずれかであり、これらは、1つの撮影画像から生成できる。したがって、単色の縞パターン画像を用いつつ、画像投影回数を少なくできる。
【0012】
また、プロジェクタは、単色の縞パターン画像を投影すればよいことから、カラーの縞パターン画像を投影するプロジェクタに比べて、プロジェクタを小型化できる。
【0013】
また、カラーの縞パターン画像を投影する場合と異なり、各色の縞パターン間の位相差を合わせる必要がない、したがって、各色の縞パターン間の位相差に起因した計測精度の低下が生じない。
【0014】
上記計測精度の低下を詳しく説明する。カラー位相シフト法では、色間の位相差が規定の位相差であることを前提として計算する。したがって、カラーの縞パターン画像は、各色の縞パターン画像の位相差が規定の位相差になっている必要がある。しかし、投影するカラー縞パターン画像において、各色の縞パターン画像の位相差が完全に理想的であることはなく、多少の誤差が存在する。この誤差に起因して、カラー位相シフト法は三次元形状の計測誤差が生じる。
【0015】
これに対して、上記三次元計測システムでは、位相を算出する波形を単色の縞パターン画像から生成する。したがって、各色の縞パターン間の位相差に起因した計測精度の低下が生じない。
【0016】
上記三次元計測システムにおいて、
波形算出部は、元輝度値波形を微分した1階微分波形、1階微分波形を微分した2階微分波形、2階微分波形を微分した3階微分波形を算出し、
位相算出部は、4つの波形として、元輝度値波形、1階微分波形、2階微分波形、3階微分波形を用いることができる。
【0017】
波形を微分すると位相が90度進む。したがって、位相が90度ずつずれた4つの波形を得るためには、このように、元輝度値波形を3階微分すればよい。
【0018】
上記三次元計測システムにおいて、
波形算出部は、元輝度値波形を微分した1階微分波形、1階微分波形を微分した2階微分波形、2階微分波形を微分した3階微分波形、3階微分波形を微分した4階微分波形を算出し、
位相算出部は、4つの波形として、1階微分波形、2階微分波形、3階微分波形、4階微分波形を用いることができる。
【0019】
このようにすると、位相算出に用いる波形がいずれも微分波形になる。振幅中心が変化する元輝度値波形であっても、微分すると、振幅中心が変化しない微分波形が得られる。したがって、振幅中心が変化してしまう波形を使うことなく計測対象物の三次元形状を測定できる。
【0020】
上記三次元計測システムにおいて、
波形算出部は、元輝度値波形を微分した1階微分波形、元輝度値波形、および、1階微分波形を反転させた反転1階微分波形を算出し、
位相算出部は、4つの波形として、元輝度値波形、1階微分波形、反転元輝度値波形、および、反転1階微分波形を用いることができる。
【0021】
このようにすると、微分波形の階数が1階でよい。微分階数が増えるほど分解能が低下するので、このように微分波形の階数が1階で済むと、計測対象物の三次元形状を高い分解能で計測できる。
【0022】
上記三次元計測システムにおいて、
波形算出部は、元輝度値波形を微分した1階微分波形、1階微分波形を微分した2階微分波形を算出し、
位相算出部は、4つの波形として、1階微分波形、2階微分波形、1階微分波形を反転させた反転1階微分波形、および、2階微分波形を反転させた反転2階微分波形を用いることができる。
【0023】
このようにすると、微分波形の階数が2階でよいので、3階以上の微分波形を使う場合に比較して高い分解能で三次元形状を計測できる。加えて、位相の算出に微分していない波形を用いないので、4つの波形の輝度値の振幅中心を容易に揃えて位相を算出できる。
【0024】
上記目的を達成するための三次元計測方法に係る1つの開示は、
一方向の輝度が正弦波状に変化する単色の縞パターン画像が、計測対象物(5)に投影された状態が撮影された撮影画像を取得することと、
撮影画像において、縞パターン画像の輝度が変化する方向の輝度を示す波形である元輝度値波形を1階以上微分して微分波形を算出することと、
1つ以上の微分波形を少なくとも含み、微分波形、元輝度値波形、元輝度値波形を反転させた反転元輝度値波形、微分波形を反転させた反転微分波形から、位相差が90度ずつずれるように選択した4つの波形の輝度値をもとに、撮影画像の画素に対応する輝度値の位相を算出することと、
位相に基づいて計測対象物の三次元座標を決定すること、とを含む三次元計測方法である。
【0025】
この三次元計測方法は、三次元計測システムが実行することができる方法である。したがって、この三次元計測方法によれば、単色の縞パターン画像を用いつつ、画像投影回数を少なくできる。また、各色の縞パターン間の位相差に起因した計測精度の低下が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態の三次元計測システム1の構成を示す図。
【
図3】制御装置10が実行する三次元計測処理を示すフローチャート。
【
図5】元輝度値波形W
(0)から算出する微分波形を示す図。
【
図8】オフセット値を補正した元輝度値波形W
(0)を示す図。
【
図11】位相θと高さ座標z
mとの関係を示すグラフ。
【
図12】水平座標(x
m、y
m)の算出方法を説明する図。
【
図13】計測対象物5であるセラミック板51、拡散反射板52を示す図。
【
図15】輝度値をオフセットした元輝度値波形W
(0)と微分波形とを重ねて示す図。
【
図17】1階微分波形W
(1)と2階微分波形W
(2)を示す図。
【
図18】
図17の微分波形と、対応する反転微分波形とを重ねて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態の三次元計測システム1の構成を示す図である。三次元計測システム1は、制御装置10と、プロジェクタ20と、カメラ30とを備えている。三次元計測システム1は、作業台2の上に置かれた計測対象物5の三次元形状を位相シフト法により計測する。作業台2の上面は平面であり、作業台2の任意の位置に計測対象物5が位置する。三次元計測システム1は、たとえば、ロボットにピッキング、組付け作業、製品検査等を行わせる際のロボットの目として利用する。
【0028】
制御装置10は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。たとえば、制御装置10は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータを制御装置10として作動させるためのプログラムが格納されている。プロセッサが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを実行することで、制御装置10は、後述する
図3に示す三次元計測処理を実行する。制御装置10が
図3に示す処理を実行することは、上記プログラムに対応する三次元計測方法が実行されることを意味する。
【0029】
プロジェクタ20は、作業台2に向けて縞パターン画像40を投影する。
図2に縞パターン画像40の一例を示す。縞パターン画像40は、単色の画像であって、一方向の輝度が正弦波状に変化する画像である。
図2に示す縞パターン画像40では、輝度が変化する方向をx方向としている。ここでの正弦波は、位相θが0度の位置を特定するものではない。したがって、正弦波状は余弦波状と言い換えることもできる。縞パターン画像40はy方向には輝度変化はない。縞パターン画像40に使う単色は、赤、緑、青など任意の色でよい。
【0030】
カメラ30は、計測対象物5に投影された縞パターン画像40を撮影する。プロジェクタ20とカメラ30との間の距離は事前に計測されている。カメラ30は、デジタルカメラであって、フォトダイオードなどの光検出素子を受光面に縦横に多数備えている。1つ1つの光検出素子が1画素に相当する。カメラ30は、計測対象物5に投影された縞パターン画像40の輝度変化を撮影できればよい。カメラ30は、カラー画像を撮影可能なカメラでも、撮影した画像を単色の画像データとして出力するカメラでもよい。
【0031】
〔三次元計測処理〕
次に、
図3を用いて、制御装置10が実行する三次元計測処理を説明する。制御装置10は、この三次元計測処理を実行して計測対象物5の三次元形状を計測する。三次元計測処理は、たとえば、ユーザが所定の開始操作をすることにより開始する。
【0032】
S11では、縞パターン画像40の画像データを生成してプロジェクタ20へ出力し、プロジェクタ20に縞パターン画像40を投影させる。そして、その状態にてカメラ30により計測対象物5を撮影させる。
【0033】
S12では、カメラ30が撮影した画像(以下、撮影画像)を表す画像データを取得する。撮影画像の画像データには、画素別の輝度値を示すデータが含まれている。
【0034】
S13は波形算出部に相当する。S13では、次のS14において位相θを算出するために必要な波形を算出する。次のS14では、4つの波形を必要とする。第1実施形態では、4つの波形のうちの1つは元輝度値波形W
(0)である。元輝度値波形W
(0)は、撮影画像において、縞パターン画像40の輝度が変化する方向の輝度を示す波形である。元輝度値波形W
(0)の符号のうち(0)は微分回数を意味する。
図4に元輝度値波形W
(0)の一例を示している。
図4に示す元輝度値波形W
(0)は、y座標を固定して、x画素(すなわちx座標)に対する輝度値の変化を示す波形である。輝度値は、たとえば256階調で示される。
【0035】
この
図4に例示した元輝度値波形W
(0)を、y座標の所定範囲に渡って取得し、取得したそれぞれの元輝度値波形W
(0)を微分して、それぞれの元輝度値波形W
(0)から少なくとも1つの微分波形を算出する。
【0036】
第1実施形態では、S14において、残りの3つの波形として、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、3階微分波形W
(3)を算出する。1階微分波形W
(1)は元輝度値波形W
(0)を1階微分した波形である。2階微分波形W
(2)は1階微分波形W
(1)をさらに1階微分した波形である。3階微分波形W
(3)は2階微分波形W
(2)をさらに1階微分した波形である。
図5に、元輝度値波形W
(0)、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、3階微分波形W
(3)を示す。
【0037】
図6、
図7は、それぞれ1階微分と2階微分で使うデータを説明する図である。
図6に示す元波形f
(0)(x)は1階微分を説明するための波形であり、上述した元輝度値波形W
(0)ではなく、完全な正弦波である。本実施形態では、中心差分により1階微分波形f
(1)(x)を求める。中心差分の式は
図6に示している。中心差分では3画素分のデータが必要になる。ただし、3画素分のデータの中心は計算には使わない。
【0038】
中心差分にて2階微分波形f
(2)(x)を算出するためには、
図7に示すように、3画素分の1階微分波形f
(1)(x)のデータを使う。したがって、2階微分波形f
(2)(x)のデータを1つ得るためには、元波形f
(0)(x)の5画素分のデータを使うことになる。同様に、3階微分波形f
(3)(x)のデータを得るには、元波形f
(0)(x)の7画素分のデータを使うことになる。本実施形態では算出しないが、4階微分波形f
(4)(x)のデータを得るには、元波形f
(4)(x)の9画素分のデータが必要になる。
【0039】
図5に示すように、元輝度値波形W
(0)、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、3階微分波形W
(3)は、いずれも正弦波状の波形である。ただし、元輝度値波形W
(0)の振幅中心の輝度値は0でないのに対して、他の波形の振幅中心の輝度値は0である。元輝度値波形W
(0)の輝度値中心は定数項、換言すればオフセット項として表現でき、微分することで定数項はなくなるので、元輝度値波形Wと微分波形とで振幅中心に違いが生じるのである。
【0040】
位相シフト法による位相θの計算を簡単にするため、S13では、さらに、元輝度値波形W
(0)の振幅中心を輝度値=0に補正して、
図8に示す4つの波形を得る。
【0041】
S14は位相算出部に相当する。S14では、各画素座標(x、y)の輝度値をもとに、
図9に示す式1から、各画素座標(x、y)における位相θ(x、y)を算出する。式1において、I
0は元輝度値波形W
(0)の輝度値、I
1は1階微分波形W
(1)の輝度値、I
2は2階微分波形W
(2)の輝度値、I
3は3階微分波形W
(3)の輝度値である。
【0042】
図8に示す4つの波形が各y座標について得られているので、各画素座標(x、y)について、I
0、I
1、I
2、I
3は得られている。これら4の輝度値を式1に代入することで、各画素座標(x、y)に対する位相θを算出できる。
図10には、このようにして算出した位相θの一例を、1つのy画素座標について示している。
【0043】
S15、S16は座標決定部に相当する。S15では、S14で算出した各画素座標(x、y)の位相θ(x、y)から、座標計測点Pの高さ座標zmを決定する。座標計測点Pは、計測対象物5あるいは作業台2の表面上の点である。
【0044】
高さ座標z
mは、プロジェクタ20とカメラ30とを含む平面から物体までの距離である。高さ座標z
mは、
図11に示す位相θと高さ座標z
mとの関係を示すグラフと、S14で算出した位相θとを用いて決定する。
図11に示すグラフは、プロジェクタ20の座標、カメラ30の座標、高さ座標z
m、基準面における縞パターン画像40の1周期分の長さが分かれば作成することができるグラフである。なお、基準面は、作業台2の表面である投影面に平行であって、プロジェクタ20およびカメラ30までの距離がz
mとなっている面である。
【0045】
プロジェクタ20とカメラ30を固定すれば、プロジェクタ20の座標、カメラ30の座標は既知になる。また、基準面までの高さ座標z
mは与える値である。さらに、基準面までの高さ座標z
mが決まれば、その基準面における縞パターン画像40の1周期分の長さも決まる。よって、
図11に示すグラフは事前に求めることができる。
【0046】
図11に示すグラフを事前に求めておき、S15では、事前に求めた
図11に示すグラフに、S14で算出した位相θ(x、y)を当てはめて、各座標計測点Pの高さ座標z
mを決定する。なお、位相θが何周期目であるかが不明だと、高さ座標z
mも決定することができない。しかし、ある座標計測点Pにおける高さ座標z
mは、その座標計測点Pに隣接する座標計測点Pの高さ座標z
mに対して連続的な変化をする。したがって、位相θが何周期目であるかが不明でも計測対象物5の三次元形状を計測することはできる。また、作業台2の高さ座標z
mは既知であるので、作業台2の高さ座標z
mと比較をすることで、座標計測点Pの高さ座標z
mを決定してもよい。
【0047】
S16では、S15で高さ座標z
mを決定した座標計測点Pについて、水平座標(x
m、y
m)を決定する。S15において決定した高さ座標z
mは、画素座標(x、y)には対応付けられている。画素座標(x、y)が決まると、カメラ30に対する方向(α
x、α
y)は定まる。なお、α
xは、
図12に示すように、カメラ30から座標計測点Pに向かう方向のうち、x
mz
m平面におけるz
m軸との間の角度である。α
yは
図12には図示していないが、α
yはカメラ30から座標計測点Pに向かう方向のうち、y
mz
m平面におけるz
m軸との間の角度である。
図12から分かるように、水平座標(x
m、y
m)は、高さ座標z
mとα
m、α
yから幾何学計算により算出することができる。
【0048】
S14からS16までの処理を各画素位置(x、y)に対して実行することで、計測対象物5の三次元座標を決定することができる。
【0049】
〔第1実施形態のまとめ〕
以上、説明した本実施形態では、元輝度値波形W(0)を1階微分、2階微分、3階微分することで、位相θが90度ずつずれた4つの波形を得ている。これら4つの波形を使うことで、1つの画素座標(x、y)に対して4つの輝度値Iが得られるので、位相シフト法により、計測対象物5の三次元形状を計測できる。
【0050】
1階微分波形W(1)、2階微分波形W(2)、3階微分波形W(3)は、いずれも、1つの元輝度値波形W(0)から算出できる。したがって、本実施形態では、1つの撮影画像から計測対象物5の三次元形状を算出できる。
【0051】
この1つの撮影画像は、単色の縞パターン画像40を投影して撮影した画像である。つまり、本実施形態では、単色の縞パターン画像40を用いつつ、画像投影回数を少なくできる。
【0052】
プロジェクタ20は、単色の縞パターン画像40を投影すればよいことから、カラーの縞パターン画像を投影する場合に比較してプロジェクタ20を小型化できる。また、カラーの縞パターン画像を投影する場合と異なり、各色の縞パターン間の位相差に起因した計測精度の低下も生じない。
なお、プロジェクタ20は、単色の縞パターン画像40を投影するが、その単色を計測対象物5の色に応じて変更できるようにしておいてもよい。このようにすると、次の利点がある。光の反射率は色によって影響する。たとえば、赤色の計測対象物5に光を照射すると、赤色は良く反射するが、青色はあまり反射しない。そこで、プロジェクタ20に3色の光源を持たせておき、計測対象物5の色に応じて反射率の高い色を選択する。このようにすることで、計測対象物5の色によらず、精度よく計測対象物5の三次元形状を測定できる。
【0053】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0054】
前述した第1実施形態では、位相θを算出する波形として、元輝度値波形W(0)、1階微分波形W(1)、2階微分波形W(2)、3階微分波形W(3)を用いた。これに対して第2実施形態では、元輝度値波形W(0)に代えて4階微分波形W(4)を用いる。
【0055】
したがって、S13では、1階微分波形W(1)、2階微分波形W(2)、3階微分波形W(3)を算出することに加え、3階微分波形W(3)をさらに微分して4階微分波形W(4)を算出する。そして、S14では、式1において、I0に代えて4階微分波形W(4)の輝度値I4を用いる。
【0056】
元輝度値波形W
(0)に代えて4階微分波形W
(4)を用いる第2実施形態は、反射率が大きく異る複数の計測対象物5の三次元形状を計測する場合に好適である。
図13には、セラミック板51と拡散反射板52とを計測対象物5とする例を示している。拡散反射板52は直接的には計測対象物5ではないとしても、拡散反射板52に接しているセラミック板51の三次元形状を計測するには、拡散反射板52も計測対象物5として三次元形状を計測する必要がある。
【0057】
図14には、
図13に示したセラミック板51と拡散反射板52とを撮影した撮影画像から抽出した元輝度値波形W
(0)を示している。
図14に示す元輝度値波形W
(0)は、拡散反射板52の輝度値を示している部分と、セラミック板51の輝度値を示している部分とで振幅中心の輝度が大きく異る。
【0058】
図15には、
図14示す元輝度値波形W
(0)において拡散反射板52の部分の振幅中心が輝度値=0になるように補正した波形と、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、3階微分波形W
(3)とを重ねて示している。
図15に示すように、振幅中心を補正した元輝度値波形W
(0)は、210画素付近よりも大きいx画素において、振幅中心が他の波形と一致しない。
【0059】
しかし、第2実施形態では、元輝度値波形W
(0)に代えて4階微分波形W
(4)を用いる。
図16には、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、3階微分波形W
(3)、4階微分波形W
(4)を重ねて示している。
図16から分かるように、4階微分波形W
(4)の振幅中心は、他の3つの波形の振幅中心と一致する。
【0060】
したがって、1階微分波形W(1)、2階微分波形W(2)、3階微分波形W(3)、4階微分波形W(4)を用いることで、撮影画像に反射率が大きく異る複数の物体が含まれていても、振幅中心が変化してしまう波形を使うことなく計測対象物5の三次元形状を計測できる。
【0061】
<第3実施形態>
第3実施形態では、位相θを算出する波形として、1階微分波形W(1)、2階微分波形W(2)に加え、それらの輝度値を、輝度値の振幅中心を基準として反転させた反転微分波形を用いる。
【0062】
そのため、第3実施形態では、S13において、1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)を算出する。
図17には、第3実施形態のS13で算出する1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)を示している。加えて、第3実施形態のS13では、1階微分波形W
(1)を反転させた反転1階微分波形WI
(1)、および、2階微分波形W
(2)を反転させた反転2階微分波形WI
(2)も算出する。
【0063】
図18には、第3実施形態において算出する1階微分波形W
(1)、2階微分波形W
(2)、反転1階微分波形WI
(1)、反転2階微分波形WI
(2)を重ねて示している。1階微分波形W
(1)と2階微分波形W
(2)の位相差は90度であり、それらの反転波形は、反転前の波形との位相差が180度である。したがって、これら4つの波形は、位相θが90度ずつずれている。これら4つの波形の各画素座標(x,y)の輝度を式1に代入すれば、計測対象物5の三次元形状を算出できる。
【0064】
図6、7を用いて説明したように、微分回数が増えるほど必要な元波形のデータ数が増える。したがって、微分回数が多い微分波形になるほど、三次元形状を示す分解能は低下する。
【0065】
この第3実施形態では、各画素座標(x、y)の三次元形状を算出するための4つの波形は、いずれも元輝度値波形W(0)を微分した回数が2回以下である。したがって、この第3実施形態のようにすれば、第1実施形態、第2実施形態で示した手法に比較して、計測対象物5の三次元形状を高い分解能で計測できる。
【0066】
また、4つの波形はいずれも、1階以上、微分した波形であるので、第2実施形態と同様、輝度値の振幅中心を容易に揃えて位相θを算出することができる。
【0067】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0068】
<変形例1>
位相θを算出する波形として、輝度値中心を0にオフセットした元輝度値波形W(0)と、その元輝度値波形W(0)の輝度値を、輝度値中心を基準として反転させた反転元輝度値波形WI(0)とを用いてもよい。この場合、残りの2つの波形のうちの1つには、元輝度値波形W(0)を1階微分した1階微分波形W(1)を使う。4つ目の波形には、1階微分波形W(1)を反転させた反転1階微分波形WI(1)を使うことができる。
【0069】
このようにしても、1つの元輝度値波形W(0)をもとに、位相θが90度ずつずれている4つの波形を得ることができる。したがって、1つの元輝度値波形W(0)から計測対象物5の三次元座標を決定できる。また、この変形例1の態様によれば、微分回数が1階のみでよいことから、計測対象物5の三次元形状を高い分解能で計測できる。
【0070】
<変形例2>
これまで説明した実施形態および変形例において、2階微分波形W(2)と反転元輝度値波形WI(0)は相互に交換可能である。また、3階微分波形W(3)と反転1階微分波形WI(1)
、および、4階微分波形W(4)と反転2階微分波形WI(2)も相互に交換可能である。
【0071】
<変形例3>
実施形態では、中心差分により微分波形を算出していた。しかし、前進差分または後退差分により微分波形を算出してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:三次元計測システム 2:作業台 5:計測対象物 10:制御装置 20:プロジェクタ 30:カメラ 40:縞パターン画像 51:セラミック板 52:拡散反射板 波形算出部:S13 位相算出部:S14 S15、S16:座標決定部