(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電池外装体用フッ素樹脂フィルム、電池外装体及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/121 20210101AFI20240306BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20240306BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240306BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/119
H01M50/129
(21)【出願番号】P 2023110402
(22)【出願日】2023-07-05
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022112826
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】平賀 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】小森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 明平
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147225(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148071(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含む組成物からなる電池外装体用フッ素樹脂フィルムであって、
当該フィルムを180℃×3分間熱処理した後にその片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率が1.35atomic%以上であり、
当該フィルムを180℃×10分間の熱処理後に25℃まで冷却し測定した際、熱処理前後のMDおよびTDの寸法変化率の絶対値が2%以下であることを特徴とする
電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
上記酸素元素比率は、1.5atomic%以上である請求項1記載の電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)を含む請求項1又は2に記載の電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかに記載の電池外装体用フッ素樹脂フィルムであって、
片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率と、当該フィルムをアルゴンガスクラスターイオンビームによって、入射角45°で深さ方向に15分間エッチングしたあと、走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率の差が1.0atomic%以上の電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の電池外装体用フッ素樹脂フィルムであって、片面のみまたは両面において、フィルムの同一面内同士を200℃で貼り合わせたときの接着強度が30N/mより大きい電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
電解液透過性が、50g/m
2・day以下である請求項1又は2に記載の電池外装体用フッ素樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1又は2のいずれかに記載のフッ素樹脂フィルムと金属層とを備えることを特徴とする電池外装体。
【請求項8】
更に、上記金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有し、
当該金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項
7に記載の電池外装体。
【請求項9】
上記フッ素樹脂フィルムが、厚み方向の少なくとも一方の面に設けられており、電池としたとき電解液と接する位置に存在するようにすることを特徴とする請求項
7に記載の電池外装体。
【請求項10】
上記金属層がアルミニウムである請求項
7に記載の電池外装体。
【請求項11】
上記アルミニウ
ムと、フッ素樹脂フィルムとの接着強度が500N/
m以上である請求項
10に記載の電池外装体。
【請求項12】
請求項
7記載の電池外装体及び電解液を有する二次電池。
【請求項13】
上記電池外装体のフッ素樹脂フィルムが、電解液と接する位置に存在する請求項
12に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池外装体用フッ素樹脂フィルム、電池外装体及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、種々の分野に使用される二次電池として、近年、ますます重要性が高まっており、その性能の向上も求められている。
【0003】
このような性能の向上の一つとして、電池の長寿命化について多くの観点から検討が行われている。これらの一つとして電池外装体についても検討がなされている。
リチウムイオン二次電池は、シート状の積層体である本体を電池ケースに収納するのが一般的な形態である。中でも、ラミネート型電池の電池ケースは、アルミニウム等の金属層と樹脂フィルムとを有する積層体からなるものが一般的である(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-268873号公報
【文献】特開2002-16712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、金属層との接着性に優れる電池外装体用フッ素樹脂フィルムを提供することにある。また、本開示は、耐電解液透過性に優れる電池外装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、フッ素樹脂を含む組成物からなる電池外装体用フッ素樹脂フィルムであって、
当該フィルムを180℃×3分間熱処理した後にその片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率が1.35atomic%以上であり、
当該フィルムを180℃×10分間の熱処理後に25℃まで冷却し測定した際、熱処理前後のMDおよびTDの寸法変化率の絶対値が2%以下であることを特徴とする
電池外装体用フッ素樹脂フィルムである。
【0007】
上記酸素元素比率は、1.5atomic%以上であることが好ましい。
上記電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)を含むことが好ましい。
【0008】
上記電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率と、当該フィルムをアルゴンガスクラスターイオンビームによって、入射角45°で深さ方向に15分間エッチングしたあと、走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率の差が1.0atomic%以上であることが好ましい。
【0009】
上記電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、片面のみまたは両面において、フィルムの同一面内同士を200℃で貼り合わせたときの接着強度が30N/mより大きいことが好ましい。
【0010】
上記電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、アルミニウム箔とフッ素樹脂フィルムとを接着した場合の接着強度が500N/m以上であることが好ましい。
上記電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、電解液透過性が、50g/m2・day以下であることが好ましい。
【0011】
本開示は、上記フッ素樹脂フィルムと金属層とを備えることを特徴とする電池外装体でもある。
【0012】
上記電池外装体は、更に、上記金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有し、
当該金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0013】
上記電池外装体は、上記フッ素樹脂フィルムが、厚み方向の少なくとも一方の面に設けられており、電池としたとき電解液と接する位置に存在するようにすることが好ましい。
上記電池外装体は、上記金属層がアルミニウムであることが好ましい。
上記電池外装体は、上記アルミニウムと、フッ素樹脂フィルムとの接着強度が500N/m以上であることが好ましい。
【0014】
本開示は、上記電池外装体及び電解液を有する二次電池でもある。
上記二次電池は、上記電池外装体のフッ素樹脂フィルムが、電解液と接する位置に存在することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、金属層との密着性に優れる電池外装体用フッ素樹脂フィルムが得られる。また、本開示によれば、耐電解液透過性に優れる電池用外装体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】フッ素樹脂フィルムの電解液透過性を試験する際に使用するガラス器具の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
既存のラミネート型リチウムイオン電池においては、アルミニウム箔やSUS箔等の金属箔表面にポリプロプレン(PP)フィルム等を複数層貼り合わせた積層体が外装材として多く用いられている。しかしながら、このような積層体では、PPフィルムの高い電解液透過性に起因する電池の劣化が課題となる。
【0018】
一方、フッ素樹脂フィルムは、電解液に対して優れたバリア性を有するため、フッ素樹脂フィルムと金属箔を用いた電池外装体は耐電解液透過性に優れる。
【0019】
しかし、金属箔との積層時にフッ素樹脂フィルムは皺が生じやすく、また金属との密着性が低いため、例えば、製造工程において、フッ素樹脂フィルム層と金属層との剥離が発生しやすく、工程不良を起こし、フッ素樹脂フィルムの十分な耐電解液透過性を発揮できないことがある。
【0020】
本開示においては、フッ素樹脂フィルムとして特に接着能が高いものを使用することで、電池外装体用途において好適に使用することができるものとした。
【0021】
本開示においては、180℃×3分間熱処理した後に、金属箔と接着させる面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率が1.35atomic%以上とした、十分な接着性を有するフッ素樹脂フィルムを用いることで、上記耐電解液透過性にすぐれた電池外装体の作製を可能とした。
【0022】
また、本開示のフッ素樹脂フィルムは、当該フィルムを180℃×10分間の熱処理後に25℃まで冷却し測定した際、熱処理前後のMDおよびTDの寸法変化率の絶対値が2%以下であることから、ロール状のフィルムの形状が経時的に変化することがない。よって、フィルムの皺(巻締まり)が生じることがなく、金属箔等との密着性をより良好とすることができる。
【0023】
以上のように、本開示のフッ素樹脂フィルムとアルミ箔等の金属層とからなる積層体は、層間が良好に密着しており、耐電解液透過性に優れるものとなることを見出した。よって、当該積層体は、電池外装体として好適に使用できる。
【0024】
以下に、本開示について、更に具体的な説明を行う。
本開示は、電池外装体用フッ素樹脂フィルムに関するものである。電池外装体用フッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂を含む組成物からなる。ここでのフッ素樹脂フィルムを構成する樹脂は特に限定されるものではなく、フッ素原子を一部に含む重合体であればよい。
フッ素原子を一部に含む重合体は二種類以上を使用してもよい。フッ素樹脂は、カルボニル基含有基(たとえば、酸無水物基、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基など)、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基およびイソシアネート基などから選択される少なくとも一種の官能基を含んでいても良い。また、フッ素樹脂を含む組成物は、フッ素樹脂以外のその他の樹脂、ゴム、添加剤、フィラーなどを含んでもよい。
【0025】
上記官能基を導入する方法としては特に限定されないが、たとえば、フッ素樹脂を製造する際に導入することができる。この場合、官能基は製造時に用いた単量体、連載移動剤および重合開始剤からなる群から選択される少なくとも一種に由来する。上記単量体としては、例えば、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等が挙げられる。連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等に由来するもの等が挙げられる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等などが挙げられる。
【0026】
フッ素樹脂は、溶融成形可能なフッ素樹脂であることがより好ましく、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)単位を有する共重合体(CTFE共重合体)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)及びポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン・ビニリデンフルオライド共重合体等が挙げられる。
これら溶融成形可能なフッ素樹脂の中でも、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましい。特に、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましい。
【0027】
上記溶融成形可能なフッ素樹脂を使用することで、溶融成形を行うことができるため、PTFEを使用する場合よりも加工面でコストを抑えることができる。更に、金属箔と接着させる際の接着性を向上させることができる。
【0028】
上記フッ素樹脂フィルムを構成する樹脂は、ガラス転移温度が、40℃以上であることが好ましい。40℃以上であれば、たとえばロールフィルムを室温で保管する場合、環境温度での変形が起こりにくいという点で好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。上記上限は、特に限定されないが、接着性の観点で、200℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが更に好ましい。
【0029】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上97/3以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。FEPは、TFE及びHFPのみからなる共重合体であってもよいし、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。その他の共重合可能な単量体としては、たとえば酸無水物基を有する環状炭化水素単量体などであり、酸無水物系単量体としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸などが挙げられる。酸無水物系単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0030】
上記FEPは、融点が150~320℃であることが好ましく、200~300℃であることがより好ましく、240~280℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
上記FEPは、MFRが0.01~100g/10分であることが好ましく、0.1~80g/10分であることがより好ましく、1~60g/10分であることが更に好ましく、1~50g/10分であることが特に好ましい。なお、本明細書においてMFRは、ASTM D3307に準拠して、温度372℃、荷重5.0kgの条件下で測定し得られる値である。
【0031】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99.5/0.5未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.5/1.5以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEのみからなる共重合体であってもよいし、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1~10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90~99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ3Z4=CZ5(CF2)nZ6(式中、Z3、Z4及びZ5は、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Z6は、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF2=CF-OCH2-Rf7(式中、Rf7は炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。その他の共重合可能な単量体としては、たとえば酸無水物基を有する環状炭化水素単量体などであり、酸無水物系単量体としては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸などが挙げられる。酸無水物系単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0032】
上記PFAは、融点が180~340℃であることが好ましく、230~330℃であることがより好ましく、280~320℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0033】
上記PFAは、メルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分であることが好ましく、0.5~90g/10分であることがより好ましく、1.0~85g/10分であることが更に好ましい。
【0034】
上記のように、フッ素樹脂は、融点が比較的高いことから、耐熱性に優れるものであり、電池包装材用途に好適に使用できる。
【0035】
本明細書において、上記フッ素樹脂を構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0036】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂以外の成分を含有するものであってもよい。
含有することができる成分としては特に限定されず、シリカ粒子、ガラス短繊維などのフィラー、フッ素を含まない熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂以外の成分の含有量は、特に限定はしないが、例えば、フッ素樹脂フィルム中、5質量%以上、60質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上、40質量%以下である。
【0037】
上記の通り、フッ素樹脂は、一般的に金属との接着性を得ることが困難な素材である。このため、ラミネート特性を向上させるために、フッ素樹脂フィルムの表面処理を行うことが好ましい。このような表面処理は、主に、樹脂表面の酸素原子量を増加させるような方法が一般的に知られている。
【0038】
このような接着性を改善するためのフッ素樹脂フィルムの表面処理の効果は、加熱することによって低下する傾向がある。これは、表面の酸素原子が加熱することによって離脱し、表面の酸素原子量が低減することによるものと推測される。ラミネート工程において、生産性向上のために例えばガラス転移温度以上融点未満であらかじめ予熱してからラミネートすることがあり、このように、熱履歴を受けたフッ素フィルムが金属箔と張り合わされる時に充分な接着性を有するためには、フィルムを180℃×3分間熱処理した後にその金属箔と接着させる面を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素原子比率が1.35atomic%以上でなければならない。
【0039】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、180℃×3分間熱処理した後にその片面又は両面の表面状態をESCAによって測定した際の酸素元素比率が1.35atomic%以上である。上記酸素原子比率は、1.5atomic%以上であることがより好ましく、1.8atomic%以上であることが更に好ましく、2.0atomic%以上であることが最も好ましい。
【0040】
上記180℃×3分間の熱処理は、金属製のトレイの上にフィルムを置きAir雰囲気下の電気炉内で処理したことを意味する。
【0041】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、その片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率と、当該フィルムをアルゴンガスクラスターイオンビームによって、入射角45°で深さ方向に15分間エッチングしたあと、走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)によって測定した際の酸素元素比率の差が1.0atomic%以上のフッ素樹脂フィルムであってもよい。このように接着に寄与する表面の酸素元素比率のみを高めることで、耐電解液透過性を損なわず、充分な接着強度を得ることができる。
【0042】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、180℃×10分間の熱処理後に25℃まで冷却し測定した際、熱処理前後のMDおよびTDの寸法変化率の絶対値が2%以下である。
上記寸法変化率は、1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることが最も好ましい。
本開示において、寸法変化率は、300mm角にカットしたフィルムサンプルに180mm間隔で標点をつけ、180℃に設定したAir雰囲気下の電気炉で、荷重をかけずに10分間熱処理を行った後、25℃まで冷却したフィルムのMD方向およびTD方向それぞれの標点間隔を測定し、熱処理前後の標点間隔の変化量から算出したものである。
【0043】
例えば、ラミネート工程における不良の原因の一つとして、ロール状のフィルムに皺(巻締まり)が入っているとラミネートする時に、皺が入ったまま積層されてしまうことが挙げられる。このような皺(巻締まり)は、ロール状態のフィルムにおいて、経時的にフィルムの形状が変化することが原因とされている。
【0044】
このようなフィルム形状の経時的な変化は、フィルム内の残留応力によるものと考えられるため、これを抑制することが必要である。寸法変化を抑制する方法としては、フッ素樹脂フィルム中の残留応力を緩和するためにアニール処理を行う方法、フィルムの製造工程において、残留応力が残存しにくいように、Tダイのリップ開度やエアギャップなどの溶融押出し条件やフィルムの巻取り条件といった製造条件を調整する方法等が挙げられる。
【0045】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、片面のみまたは両面において、フィルムの同一面内同士を200℃で貼り合わせたときの接着強度が30N/mより大きいことが好ましい。このような接着強度を有するものとすることで、フッ素樹脂フィルムを熱処理した後でも、その他の種々の基材と組み合わせて使用する場合の接着性に優れたものになる。上記接着強度は、50N/mより大きいことがより好ましく、100N/mより大きいことが更に好ましい。
【0046】
上記フッ素樹脂フィルムは、例えば、アルミニウム箔とフッ素樹フィルムとを接着した場合の接着強度が500N/m以上であることが好ましい。
具体的には、例えば、アルミニウム箔と、温度が320℃、加圧力1.5MP、時間が100~300秒の条件でヒートシーラを用いて接着した場合の接着強度が、500N/m以上であることが好ましく、700N/m以上であることがより好ましく、900N/m以上であることが更に好ましく、1000N/m以上であることが最も好ましい。ここでの接着強度は、前記条件で接着を行った積層体について、実施例に記載した条件で測定した接着強度を意味する。
【0047】
このような接着強度を有するものとすることで、金属層との接着性に優れたものになり、電池外装材とした場合、層間の密着性に優れ、耐電解液透過性に優れたものとすることができる。
【0048】
本開示のフッ素脂フィルムは、電解液透過性が、50g/m2・day以下であることが好ましい。より好ましくは30g/m2・day以下、さらにより好ましくは20g/m2・day以下である。電解液透過性は、実施例に記載した条件で測定した電解液透過性を意味する。
【0049】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、電池外装体のフィルムとして、その他の基材と積層して使用することができる。
本開示のフッ素樹脂フィルムの厚みは、5~500μmがより好ましく、12.5~150μmが更に好ましい。上記範囲の厚みとすることで、耐電解液透過性を維持しつつ積層体の厚みを薄くすることができ、電池の外装体として用いた場合、電池の小型化につながる。
【0050】
(フッ素樹脂フィルムの製造方法)
以下に、上述した本開示のフッ素樹脂フィルムの製造方法の例を詳述する。なお、本開示のフッ素樹脂フィルムは、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
本開示のフッ素樹脂フィルムは、フィルム状態とする際の成形方法を特に限定するものではないが、例えば、押出成形等の溶融成形による方法、フッ素樹脂を含有する溶液又は分散液を調製した後、基材上に塗布・乾燥させることによるキャスト法による方法等を挙げることができる。さらに、フィルムを一軸延伸又は二軸延伸の方法で延伸したものであってもよいし、未延伸のフィルムであってもよい。
【0051】
このような方法で得られたフッ素樹脂フィルムに対して、適切な条件で片面もしくは両面への表面処理及びアニール処理等を行うことによって、上記要件を満たすフッ素樹脂フィルムとすることができる。
【0052】
上記性能を満たすフッ素樹脂フィルムを得るためには、フッ素樹脂フィルム成形後の処理工程条件が重要となる。上述したように、本開示の目的を達成するために収縮率を低下するための方法の一例としてアニール処理を挙げることができる。
フッ素樹脂フィルムに対するアニール処理とは、一般に加熱処理である。このため、表面処理後にアニール処理を行った場合、酸素原子量が低下し、接着能の低減を生じてしまう。また、ラミネート時の予熱工程による接着能低減も生じるため、アニール処理を行う場合は、表面処理及びアニール処理の条件として適切な条件を選定する必要がある。また、このようなアニール処理による問題を生じさせないために、フィルムの製造工程を調整することによって、内部応力を低減する等の手法を採用してもよい。
本開示においては、上記各種条件を調整し、上述した要件を満たすフッ素樹脂フィルムとすることで、ラミネート時の不良を低減し、同時に良好な接着性を得るものである。
【0053】
上記表面改質の具体的な方法は特に限定されるものではなく、公知の任意の方法によって行うことができる。
フッ素樹脂フィルムの表面改質は、従来行なわれているコロナ放電処理やグロー放電処理、プラズマ放電処理、スパッタリング処理などによる放電処理が採用できる。例えば、放電雰囲気中に酸素ガス、窒素ガス、水素ガスなどを導入することで表面自由エネルギーをコントロールできる他、有機化合物を含む不活性ガスである有機化合物含有不活性ガスの雰囲気に改質すべき表面を曝し、電極間に高周波電圧をかけることにより放電を起こさせ、これにより表面に活性種を生成し、ついで有機化合物の官能基を導入もしくは重合性有機化合物をグラフト重合することによって表面改質を行うことができる。上記不活性ガスとしては、たとえば窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0054】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物としては酸素原子を含有する重合性又は非重合性有機化合物が挙げられ、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル類;グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸エステル類;ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、グリシジルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸、ギ酸などのカルボン酸類;メチルアルコール、エチルアルコール、フェノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、ギ酸エチルなどのカルボン酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸類などである。これらのうち改質された表面が失活しにくい、すなわち、寿命が長い点、安全性の面で取扱いが容易な点から、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、ケトン類が好ましく、特に酢酸ビニル、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0055】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物の濃度は、その種類、表面改質されるフッ素樹脂の種類などによって異なるが、通常0.1~3.0容量%、好ましくは0.1~1.0容量%、より好ましくは0.15~1.0容量%、更に好ましくは0.30~1.0容量%である。放電条件は目的とする表面改質の度合い、フッ素樹脂の種類、有機化合物の種類や濃度などによって適宜選定すればよい。通常、放電量が50~1500W・min/m2、好ましくは70W・min/m2以上1400W・min/m2以下の範囲で放電処理する。処理温度は0℃以上100℃以下の範囲の任意の温度で行なうことができる。フィルムの伸びや皺などの懸念から80℃以下であることが好ましい。表面改質の度合いは、後加工時の熱などによって表面の接着能が低下することを考慮すると、ESCAによって観察した際に酸素元素の存在比率が2.6%以上のものであり、2.8%以上が好ましく、3.0%以上がより好ましく、3.5%以上が更に好ましい。上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、25.0%以下であることが好ましい。窒素元素の存在比率は特に規定されないが、0.1%以上あることが好ましい。
【0056】
本開示のフッ素樹脂フィルムの製造においては、上記表面処理を行った後、アニール処理を行うことが好ましい。また、当該フィルムと金属箔などの他材をラミネートする工程において熱処理を行う場合がある。このため、これらの加熱処理を経ることによって、フッ素樹脂フィルムの表面の酸素量が低下することとなる。よって、実際にフッ素樹脂フィルムと金属箔などの他材が貼り合わされる時点において充分な表面酸素量を得るような条件で、表面改質を行うことが好ましい。
【0057】
(アニール処理)
アニール処理は、熱処理によって行うことができる。当該熱処理は、例えば、ロールtoロールの方式で加熱炉の中を通すことによって行うことができる。
【0058】
アニール処理温度は、ガラス転移温度-20℃以上融点未満であることが好ましく、ガラス転移温度以上融点-20℃以下であることがより好ましく、ガラス転移温度以上融点―60℃以下であることが更に好ましい。アニール処理時間は、特に限定されないが、たとえば0.5~60分の中で適宜調整すればよい。また、アニール炉を通ったフィルムが巻取り装置のロールに高温のまま接触すると、温度変化による熱収縮でフィルムに変形(波打ち)が発生しやすくなる。これを防ぐために、高温のアニールゾーンの後に冷却ゾーンを通すことで、フィルムを冷やしてから巻取り装置で巻き取ってもよい。冷却の方法としては特に限定はないが、冷風や冷却ロールなどで冷やすことができ、フィルム温度はガラス転移温度未満にすることが好ましい。
【0059】
上記ロールtoロールの方式で加熱する場合、張力はフィルムの厚みや設定温度などによって適宜調整すればよいが、20N/m以下であることが好ましい。このような条件下で加熱することで、充分に内部応力を緩和することができ、寸法変化等も生じることがない点で好ましい。
【0060】
上記表面処理及びアニール処理は、その順序を特に限定されるものではなく、それぞれの工程を行う回数も1回に限定されるものではなく、2回以上行うものであってもよい。表面処理工程で張力がかかるため、熱収縮率を制御する点で表面処理を行ってからアニール処理をしたほうが好ましい。また、これら処理の前または後に所定の幅・長さにスリットしてもよく、その際には、フィルムが伸びないように張力を調整することが好ましい。
【0061】
以上のように、本開示においては、上記各種条件を調整し、上述した要件を満たすフッ素樹脂フィルムを得ることで、ラミネート時の不良を低減し、同時に良好な接着性を有するフィルムとするものである。
【0062】
<電池外装体>
本開示は、上述したフッ素樹脂フィルムと金属層とを備える電池用外装体でもある。
電池外装体は、正極と負極と電解液とを備える電池素子を内部に収納し、電池を使用する際に外部からの衝撃、環境劣化などを防ぐために使用されるものである。
本開示の電池外装体は、上述したフッ素樹脂フィルムと金属層により層構造を有するものである。
特に、本開示の電池外装体は、ラミネート型電池用として好適に用いられる。本開示の電池外装体は、耐電解液透過性に優れるものである。
【0063】
上記金属層としては、アルミニウム(Al)、ステンレス(SUS)等の金属箔等が挙げられる。中でも、アルミニウム(Al)箔が好適である。
【0064】
上記金属層の厚みは特に限定されないが、1~100μmの範囲であることが好ましく、5~50μmの範囲内であることがより好ましく、9~40μmがさらに好ましい。上記範囲の厚みとすることで、耐電解液透過性を維持しつつ積層体の厚みを薄くすることができ、電池の外装体として用いた場合、電池の小型化につながる。
【0065】
本開示の電池外装体においては、上述したように、本開示のフッ素樹脂フィルムは、金属層との接着性に優れるものであるから、金属層と直接接する層に使用することが好適である。
【0066】
上記電池外装体は、例えば、アルミニウム箔とフッ素樹脂フィルムとの接着強度が、500N/m以上であることが好ましい。
具体的には、例えば、アルミニウム箔と、温度が320℃、加圧力1.5MP、時間が100~300秒の条件でヒートシーラを用いて接着した場合の接着強度が、500N/m以上であることが好ましく、700N/m以上であることがより好ましく、900N/mm以上であることが更に好ましく、1000N/m以上であることが最も好ましい。
ここでの、接着強度は、前記条件で接着を行った積層体について、実施例に記載した条件で測定した接着強度を意味する。
【0067】
本開示の電池外装体は、更に、上記金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層を有するものであってもよい。
上記金属層およびフッ素樹脂フィルム以外の層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、及びポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種からなるフィルム等が挙げられる。
【0068】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、上記のような樹脂に対しても、良好な接着性を有する。
【0069】
上記フッ素樹脂フィルム以外のフィルムの厚みは特に限定されないが、1~100μmの範囲であることが好ましく、5~50μmの範囲内であることがより好ましく、9~35μmがさらに好ましい。
【0070】
本開示の電池外装体の層構成は特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定すればよい。ラミネートタイプの電池外装体としては、電池とする際、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。
【0071】
このような電池外装体としては、例えば、外層フィルム/金属層/内層フィルムとすることが好適であり、外層フィルム及び内層フィルムは、それぞれ1層のフィルムであっても、同種または異種のフィルムを複数積層した複層フィルムであってもよい。
上記したように、本開示のフッ素樹脂フィルムは、金属層との接着性に優れるものであるから、金属層と直接接するように構成することが好適である。
本開示の電池外装体は、上記フッ素樹脂フィルムが、厚み方向の少なくとも一方の面に設けられており、電池としたときに電解液に接する位置に存在するようにすることが好適である。
【0072】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、電解液に対して安定であり、また、優れたヒートシール性を有することから、電池外装体の最内層として好適に使用することが可能である。電解液に接するように、最内層とすることで、耐電解液透過性の効果がより発揮される。
【0073】
金属箔、フッ素樹脂フィルム等を複合化する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、金属層、あらかじめ成形されたフッ素樹脂フィルム等を用いて、ロールtoロールプロセスやプレス機を用いて加熱下で圧力を加えて積層する方法等が挙げられる。
【0074】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、ラミネート時に不良を生じることが少なく、かつ、金属箔との良好な接着性も得ることができるという効果を奏するものであることから、電池外装体に好適に使用できる積層体を提供することができる。
特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合も良好に行うことができる。
【0075】
電池用外装体は、作製する電池の形態に合わせて適宜形成するようにすればよい。例えば、所要寸法に裁断するか、または成形する(深絞り成形、張り出し成形等)ことにより成形ケースを得るようにすればよい。
【0076】
本開示は、上記電池外装体及び電解液を有する二次電池でもある。
二次電池としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属二次電池等が挙げられる。具体的には、リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウム電池、カルシウム電池等が挙げられる。
また、二次電池の形状としては、ラミネート型、円筒形、角形、ピン形等がある。
特に、ラミネート型リチウムイオン二次電池が好適である。
本開示の二次電池は、公知の二次電池において使用される、負極、正極、電解液、セパレータ等を使用することができる。以下、これらについて詳述する。
【0077】
<負極>
本開示の二次電池において、負極は、負極活物質を含む負極活物質層と、集電体とから構成されるものが好適である。
【0078】
負極は、黒鉛、ケイ素系材料、スズ系材料又はアルカリ金属含有金属複合酸化物材料を含有するものである。
【0079】
上記負極活物質として更に具体的には、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物や人造黒鉛、天然黒鉛等のアルカリ金属を吸蔵・放出可能な炭素質材料;酸化錫、酸化ケイ素等のアルカリ金属を吸蔵・放出可能なケイ素系材料、スズ系材料;アルカリ金属含有金属複合酸化物材料のいずれかである。これらの負極活物質は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
アルカリ金属を吸蔵・放出可能な炭素質材料としては、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチの高温処理によって製造された人造黒鉛若しくは精製天然黒鉛、又は、これらの黒鉛にピッチその他の有機物で表面処理を施した後炭化して得られるものが好ましく、天然黒鉛、人造黒鉛、人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400~3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種類以上の異なる結晶性を有する炭素質からなり、かつ/又はその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、負極活物質層が少なくとも2種以上の異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料、から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよくより好ましい。また、これらの炭素材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
上記人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400~3200℃の範囲で1回以上熱処理した炭素質材料としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素剤、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物及びこれらの炭化物、又は炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-ヘキサン等の低分子有機溶剤に溶解させた溶液及びこれらの炭化物等が挙げられる。
【0082】
ケイ素系材料、スズ系材料として具体的には、Si単体、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu6Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOv(0<v≦2)、LiSiOあるいはスズ単体、SnSiO3、LiSnO、Mg2Sn、SnOw(0<w≦2)等が挙げられる。
また、Si又はSnを第一の構成元素とし、それに加えて第2、第3の構成元素を含む複合材料が挙げられる。第2の構成元素は、例えば、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも1種である。第3の構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウム及びリンからなる群より選択される少なくとも1種である。
特に、高い電池容量及び優れた電池特性が得られることから、上記金属材料として、ケイ素又はスズの単体(微量の不純物を含んでよい)、SiOv(0<v≦2)、SnOw(0≦w≦2)、Si-Co-C複合材料、Si-Ni-C複合材料、Sn-Co-C複合材料、Sn-Ni-C複合材料等好ましい。
【0083】
負極活物質として用いられるアルカリ金属含有金属複合酸化物材料としては、アルカリ金属を吸蔵・放出可能であれば、特に制限されないが、高電流密度充放電特性の点からチタンおよびアルカリ金属を含有する材料が好ましく、より好ましくはチタンを含むアルカリ金属含有複合金属酸化物材料が好ましく、さらにアルカリ金属とチタンの複合酸化物(以下、「アルカリ金属チタン複合酸化物」と略記する)が好ましい。すなわち、スピネル構造を有するアルカリ金属チタン複合酸化物を、電解液電池用負極活物質に含有させて用いると、出力抵抗が大きく低減するので特に好ましい。
【0084】
上記アルカリ金属チタン複合酸化物としては、一般式:
MpTiqM8rO4
[式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;M8は、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNbからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0085】
上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0086】
上記組成の中でも、
(i)1.2≦p≦1.4、1.5≦q≦1.7、r=0
(ii)0.9≦p≦1.1、1.9≦q≦2.1、r=0
(iii)0.7≦p≦0.9、2.1≦q≦2.3、r=0
である化合物が、電池性能のバランスが良好なため特に好ましい。
【0087】
上記化合物の特に好ましい組成は、(i)ではM4/3Ti5/3O4、(ii)ではM1Ti2O4、(iii)ではM4/5Ti11/5O4である。また、r≠0の構造については、例えば、M4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましいものとして挙げられる。
【0088】
上記負極合剤は、更に、結着剤、増粘剤、導電材を含むことが好ましい。
上記結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安全な材料であれば、任意のものを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、キトサン、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0089】
負極活物質に対する結着剤の割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、0.6質量%以上が特に好ましく、また、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、8質量%以下が特に好ましい。負極活物質に対する結着剤の割合が、上記範囲を上回ると、結着剤量が電池容量に寄与しない結着剤割合が増加して、電池容量の低下を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極電極の強度低下を招く場合がある。
【0090】
特に、SBRに代表されるゴム状高分子を主要成分に含有する場合には、負極活物質に対する結着剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましい。また、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分に含有する場合には負極活物質に対する割合は、通常1質量%以上であり、2質量%以上が好ましく、3質量%以上が更に好ましく、また、通常15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下が更に好ましい。
【0091】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン、ポリビニルピロリドン及びこれらの塩等が挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0092】
負極活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.6質量%以上が更に好ましく、また、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましい。負極活物質に対する増粘剤の割合が、上記範囲を下回ると、著しく塗布性が低下する場合がある。また、上記範囲を上回ると、負極活物質層に占める負極活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や負極活物質間の抵抗が増大する場合がある。
【0093】
上記導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0094】
導電材は、負極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0095】
スラリーを形成するための溶媒としては、負極活物質、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
水系溶媒としては、水、アルコール等が挙げられ、有機系溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0096】
上記溶媒の配合量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。上記結着剤と上記溶媒との割合は、質量比で0.5:99.5~20:80が好ましい。
【0097】
上記負極活物質層は、集電体との接着性を更に向上させるため、例えば、ポリメタクリレート、ポリメチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミド及びポリアミドイミド系樹脂等を更に含んでいてもよい。また、架橋剤を添加し、γ線や電子線等の放射線を照射して架橋構造を形成させてもよい。架橋処理法としては放射線照射に留まらず、他の架橋方法、例えば熱架橋が可能なアミン基含有化合物、シアヌレート基含有化合物等を添加して熱架橋させてもよい。
【0098】
スラリーの分散安定性を向上させるために、界面活性作用等を有する樹脂系やカチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の分散剤を添加してもよい。
【0099】
負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0100】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
薄膜の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。薄膜がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、薄膜がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0101】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記負極材料に、上述した結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状とし、集電体に塗布し、乾燥した後にプレスして高密度化する方法が挙げられる。また、合金材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
【0102】
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.2g・cm-3以上が更に好ましく、1.3g・cm-3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm-3以下が好ましく、2.1g・cm-3以下がより好ましく、2.0g・cm-3以下が更に好ましく、1.9g・cm-3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0103】
負極板の厚さは用いられる正極板に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、芯材の金属箔厚さを差し引いた合剤層の厚さは通常15μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、また、通常300μm以下、好ましくは280μm以下、より好ましくは250μm以下が望ましい。
【0104】
集電体と負極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の負極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、また、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。この範囲を上回ると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じる場合がある。この範囲を下回ると、負極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。
【0105】
また、上記負極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0106】
<正極>
本開示の二次電池において、正極は、正極活物質を含む正極活物質層と、集電体とから構成されるものが好適である。
【0107】
上記正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物、硫黄系材料、導電性高分子等が挙げられる。
なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。好ましい態様において、アルカリ金属イオンは、リチウムイオンであり得る。即ち、この態様において、アルカリ金属イオン二次電池は、リチウムイオン二次電池である。
【0108】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MaMn2-bM1
bO4
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;M1はFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・マンガンスピネル複合酸化物、
式:MNi1-cM2cO2
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;M2はFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるリチウム・ニッケル複合酸化物、または、
式:MCo1-dM3
dO2
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;M3はFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、SiおよびGeよりなる群より選択される少なくとも1種の金属)
で表されるリチウム・コバルト複合酸化物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0109】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO2、MMnO2、MNiO2、MMn2O4、MNi0.8Co0.15Al0.05O2、またはMNi1/3Co1/3Mn1/3O2等が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
MNihCoiMnjM5
kO2 (3)
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M5はFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0110】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記式(4)
MeM4
f(PO4)g
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M4はV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLiまたはNaであり、さらに好ましくはLiである。
【0111】
リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0112】
その他の正極活物質としては、MFePO4、MNi0.8Co0.2O2、M1.2Fe0.4Mn0.4O2、MNi0.5Mn1.5O2、MV3O6、M2MnO3等が挙げられる。特に、M2MnO3、MNi0.5Mn1.5O2等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であって、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0113】
その他の正極活物質として、M2MnO3とMM6O2(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M6は、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0114】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y)M7
y]Ozで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物である。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、M7は、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,ZrおよびSnからなる群から選択される一種または二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14O2のようなLi2MnO3をベースにLiNiO2やLiCoO2を固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0115】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0116】
上記硫黄系材料としては、硫黄原子を含む材料が例示でき、単体硫黄、金属硫化物、及び、有機硫黄化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、単体硫黄がより好ましい。上記金属硫化物は金属多硫化物であってもよい。上記有機硫黄化合物は、有機多硫化物であってもよい。
【0117】
上記金属硫化物としては、LiSx(0<x≦8)で表される化合物;Li2Sx(0<x≦8)で表される化合物;TiS2やMoS2等の二次元層状構造をもつ化合物;一般式MexMo6S8(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属、0<x≦8)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物等が挙げられる。
【0118】
上記有機硫黄化合物としては、カーボンスルフィド化合物等が挙げられる。
【0119】
上記有機硫黄化合物は、カーボン等の細孔を有する材料に坦持させて、炭素複合材料として用いる場合がある。炭素複合材料中に含まれる硫黄の含有量としては、サイクル性能に一層優れ、過電圧が更に低下することから、上記炭素複合材料に対して、10~99質量%が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、40質量%以上が特に好ましく、また、85質量%以下が好ましい。
上記正極活物質が上記硫黄単体の場合、上記正極活物質に含まれる硫黄の含有量は、上記硫黄の含有量と等しい。
【0120】
導電性高分子としては、p-ドーピング型の導電性高分子やn-ドーピング型の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン系、ポリフェニレン系、複素環ポリマー、イオン性ポリマー、ラダー及びネットワーク状ポリマー等が挙げられる。
【0121】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0122】
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法、表面付着物質前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加後、加熱等により反応させる方法、正極活物質前駆体に添加して同時に焼成する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。なお、炭素を付着させる場合には、炭素質を、例えば、活性炭等の形で後から機械的に付着させる方法も用いることもできる。
【0123】
表面付着物質の量としては、上記正極活物質に対して質量で、下限として好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、上限として、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下で用いられる。表面付着物質により、正極活物質表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電池寿命を向上させることができるが、その付着量が少なすぎる場合その効果は十分に発現せず、多すぎる場合には、リチウムイオンの出入りを阻害するため抵抗が増加する場合がある。
【0124】
正極活物質の粒子の形状は、従来用いられるような、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等が挙げられる。また、一次粒子が凝集して、二次粒子を形成していてもよい。
【0125】
正極活物質のタップ密度は、好ましくは0.5g/cm3以上、より好ましくは0.8g/cm3以上、更に好ましくは1.0g/cm3以上である。該正極活物質のタップ密度が上記下限を下回ると正極活物質層形成時に、必要な分散媒量が増加すると共に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極活物質層への正極活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される場合がある。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は一般に大きいほど好ましく、特に上限はないが、大きすぎると、正極活物質層内における電解液を媒体としたリチウムイオンの拡散が律速となり、負荷特性が低下しやすくなる場合があるため、上限は、好ましくは4.0g/cm3以下、より好ましくは3.7g/cm3以下、更に好ましくは3.5g/cm3以下である。
なお、本開示では、タップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)g/cm3として求める。
【0126】
正極活物質の粒子のメジアン径d50(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子径)は好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上、最も好ましくは1.0μm以上であり、また、好ましくは30μm以下、より好ましくは27μm以下、更に好ましくは25μm以下、最も好ましくは22μm以下である。上記下限を下回ると、高タップ密度品が得られなくなる場合があり、上限を超えると粒子内のリチウムの拡散に時間がかかるため、電池性能の低下をきたしたり、電池の正極作成、即ち活物質と導電材やバインダー等を溶媒でスラリー化し、薄膜状に塗布する際に、スジを引く等の問題を生じたりする場合がある。ここで、異なるメジアン径d50をもつ上記正極活物質を2種類以上混合することで、正極作成時の充填性を更に向上させることができる。
【0127】
なお、本開示では、メジアン径d50は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定される。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として、0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に測定屈折率1.24を設定して測定される。
【0128】
一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、上記正極活物質の平均一次粒子径としては、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上であり、上限は、好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、更に好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下である。上記上限を超えると球状の二次粒子を形成し難く、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が大きく低下するために、出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなったりする場合がある。逆に、上記下限を下回ると、通常、結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる場合がある。
【0129】
なお、本開示では、一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定される。具体的には、10000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0130】
正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m2/g以上、より好ましくは0.2m2/g以上、更に好ましくは0.3m2/g以上であり、上限は好ましくは50m2/g以下、より好ましくは40m2/g以下、更に好ましくは30m2/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいとタップ密度が上がりにくくなり、正極活物質層形成時の塗布性に問題が発生しやすい場合がある。
【0131】
なお、本開示では、BET比表面積は、表面積計(例えば、大倉理研社製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義される。
【0132】
本開示の二次電池が、ハイブリッド自動車用や分散電源用の大型リチウムイオン二次電池として使用される場合、高出力が要求されるため、上記正極活物質の粒子は二次粒子が主体となることが好ましい。
上記正極活物質の粒子は、二次粒子の平均粒子径が40μm以下で、かつ、平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を、0.5~7.0体積%含むものであることが好ましい。平均一次粒子径が1μm以下の微粒子を含有させることにより、電解液との接触面積が大きくなり、電極と電解液との間でのリチウムイオンの拡散をより速くすることができ、その結果、電池の出力性能を向上させることができる。
【0133】
正極活物質の製造法としては、無機化合物の製造法として一般的な方法が用いられる。特に球状ないし楕円球状の活物質を作成するには種々の方法が考えられるが、例えば、遷移金属の原料物質を水等の溶媒中に溶解ないし粉砕分散して、攪拌をしながらpHを調節して球状の前駆体を作成回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、Li2CO3、LiNO3等のLi源を加えて高温で焼成して活物質を得る方法等が挙げられる。
【0134】
正極の製造のために、前記の正極活物質を単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoO2とLiNi0.33Co0.33Mn0.33O2等のLiMn2O4若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiCoO2若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0135】
上記正極活物質の含有量は、電池容量が高い点で、正極合剤の50~99.5質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましい。
また、正極活物質の、正極活物質層中の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは82質量%以上、特に好ましくは84質量%以上である。また上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。正極活物質層中の正極活物質の含有量が低いと電気容量が不十分となる場合がある。逆に含有量が高すぎると正極の強度が不足する場合がある。
【0136】
上記正極活物質層は、更に、結着剤、増粘剤、導電材を含むことが好ましい。
上記結着剤としては、電極製造時に使用する溶媒や電解液に対して安全な材料であれば、任意のものを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、キトサン、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0137】
結着剤の含有量は、正極活物質層中の結着剤の割合として、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう場合がある。一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる場合がある。
【0138】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン、ポリビニルピロリドン及びこれらの塩等が挙げられる。1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0139】
活物質に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下の範囲である。この範囲を下回ると、著しく塗布性が低下する場合がある。上回ると、正極活物質層に占める活物質の割合が低下し、電池の容量が低下する問題や正極活物質間の抵抗が増大する問題が生じる場合がある。
【0140】
上記導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料等が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0141】
導電材は、正極活物質層中に、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下含有するように用いられる。含有量がこの範囲よりも低いと導電性が不十分となる場合がある。逆に、含有量がこの範囲よりも高いと電池容量が低下する場合がある。
【0142】
スラリーを形成するための溶媒としては、正極活物質、導電材、結着剤、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒としては、例えば、水、アルコールと水との混合媒等が挙げられる。有機系溶媒としては、例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジン等の複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0143】
上記溶媒の配合量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。上記結着剤と上記溶媒との割合は、重量比で0.5:99.5~20:80が好ましい。
【0144】
正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0145】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属薄膜が好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。薄膜の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。薄膜がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、薄膜がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0146】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0147】
集電体と正極活物質層の厚さの比は特には限定されないが、(電解液注液直前の片面の正極活物質層の厚さ)/(集電体の厚さ)の値が20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下、最も好ましくは10以下であり、また、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、最も好ましくは1以上の範囲である。この範囲を上回ると、高電流密度充放電時に集電体がジュール熱による発熱を生じる場合がある。この範囲を下回ると、正極活物質に対する集電体の体積比が増加し、電池の容量が減少する場合がある。
【0148】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、上記正極活物質に、上述した結着剤、増粘剤、導電材、溶媒等を加えてスラリー状の正極合剤とし、これを集電体に塗布し、乾燥した後にプレスして高密度化する方法が挙げられる。
【0149】
上記高密度化は、ハンドプレス、ローラープレス等により行うことができる。正極活物質層の密度は、好ましくは1.5g/cm3以上、より好ましくは2g/cm3以上、更に好ましくは2.2g/cm3以上であり、また、好ましくは5g/cm3以下、より好ましくは4.5g/cm3以下、更に好ましくは4g/cm3以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0150】
正極板の厚さは特に限定されないが、高容量かつ高出力の観点から、芯材の金属箔厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して下限として、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上で、また、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下である。
【0151】
また、上記正極板の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0152】
<セパレータ>
本開示の二次電池は、更に、セパレータを備えることが好ましい。
上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いることが好ましい。
【0153】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0154】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上が更に好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0155】
更に、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上が更に好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下が更に好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0156】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
【0157】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0158】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。
例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0159】
<電解液>
本開示の二次電池において、電解液としては、非水電解液を用いることが好ましい。非水電解液としては、公知の電解質塩を公知の電解質塩溶解用有機溶媒に溶解したものが使用できる。
【0160】
電解質塩溶解用有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオンプロピオネート(PrPr)などの公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネートなどのフッ素系溶媒の1種もしくは2種以上が使用できる。
【0161】
電解質塩としては、たとえばLiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2などがあげられ、サイクル特性が良好な点から特にLiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2またはこれらの組合せが好ましい。
【0162】
電解質塩の濃度は、0.8モル/リットル以上、さらには1.0モル/リットル以上が必要である。上限は電解質塩溶解用有機溶媒にもよるが、通常1.5モル/リットルである。
【0163】
また、本開示の二次電池においては、ゲル電解質を用いてもよい。ゲル電解質としては、特に限定されるものではなく、従来のゲル電解質層を形成する組成物に含まれる電解質、溶媒及びゲルマトリックス等の材料を用いればよい。
上記電解質としては、例えば、上記に例示したものが挙げられる。具体的には、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiTaF6、LiClO4、LiCF3SO3等のリチウム塩が挙げられる。
上記溶媒としては、例えば、上記したカーボネート系有機溶媒が挙げられる。
上記ゲルマトリックス(マトリックスポリマー)としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、PVDF、PVDF-HFP、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が挙げられる。
【0164】
<電池設計>
本開示の電池外装体を用いる二次電池は、特に、ラミネート型電池などの薄型電池が好適である。ラミネート型電池の外観は、電池ケースの中に電池構成材料を収納し、電極端子の一部を前記電池の外部に突出させたものである。電池構成材料の収納の状態としては、電池外装体は、起電部セルと該セルから延長された電極端子の一部を含み、電池外装体の外部に突出する電極端子と電池外装体内の電極端子との間の部分は、電池外装体の形成の際にヒートシール部において密着接着され、密封状態となっている。電極端子は外装体の外部に突出させるため、電池外装体が外装体として密封を確実にするために、電極端子の一部は外装体のヒートシール部において、ヒートシール樹脂と熱接着される。
【0165】
本開示のフッ素樹脂フィルムを最内層のヒートシール部とすることで、それ自体同士が互いに熱接着性を有すると同時に、電極端子の形成材料である銅箔やアルミニウム箔などの導電性材料で形成されている電極端子にも良好な熱接着性を有する。
【0166】
また、本開示は、上記電池外装体のフッ素樹脂フィルムが、電解液と接する位置に存在する二次電池でもある。
本開示のフッ素樹脂フィルムは、電解液に対して安定であることから、二次電池において、本開示のフッ素樹脂フィルムを電池外装体の最内層とし、本開示のフッ素樹脂フィルムが電解液に接するようにすることで、耐電解液透過性の効果がより発揮される二次電池とすることができる。
【0167】
ラミネート型電池の製造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、以下の方法が挙げられる。大型のラミネート型リチウムイオン電池のエレメントには、積層式で正極、負極、セパレータを組み合わせたエレメントを作製する。一般的に正極、負極を各々20~40枚ずつを組んだものがエレメント一つになる。
次いで、上述のエレメントにタブを取り付ける。各タブは両端から出る場合、またはタブが同じ側から出る場合がある。
そして、シート状の外装体をエレメントの両側から挟み、シールする。このとき、電解液を注液するために、一辺分をシールさせずに口が開いた状態にし、そこから電解液を注液したり、ラミネート材の形状を元から注液しやすい形(注液口を設けておくなど)にしておき、そこから注液するようにしたりしてもよい。
次に、注液部もシールすることで、ラミネート型電池が得られる。
【実施例】
【0168】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0169】
(重合体組成)
19F-NMR分析により測定した。
【0170】
(融点)
DSC装置を用い、10℃/分の速度で昇温して測定したときの融解ピークから算出した。
【0171】
(ガラス転移温度)
固体動的粘弾性装置(DMA)を用い、周波数10Hz、歪み0.1%、5℃/分の速度で昇温して測定したときのtanδピークから算出した。
【0172】
(メルトフローレート(MFR)
ASTM D3307に準拠して、温度372℃、荷重5.0kgの条件下で測定した。
【0173】
(フッ素樹脂フィルムの厚み)
マイクロメーターを用いて測定した。
【0174】
(フッ素樹脂フィルム表面の酸素元素比率)
試料フィルムを、180℃×3分間熱処理した後にその片面又は両面の表面状態を走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA) PHI5000VersaProbeII(アルバック・ファイ株式会社製)を用いてX線源:単色化AlKα線、入射角45°で測定し、フッ素、炭素、酸素、窒素に占める酸素元素比率を算出した。
なお、下記深さ方向の酸素元素比率差を求めるときには、180℃×3分間熱処理は行わず、フッ素樹脂フィルム表面の酸素元素比率を算出した。
【0175】
(深さ方向の酸素元素比率差)
試料フィルムを、アルゴンガスクラスターイオンビームを用いたエッチングを入射角45°、スパッタ条件:2.5kV×10nAで深さ方向に15分間エッチングした後、前記記載の条件で分析をおこない、酸素元素比率を算出し、前記記載のフッ素樹脂フィルム表面の酸素元素比率との差をとった。
【0176】
(寸法変化率)
300mm角にカットしたフィルムサンプルのMD・TD方向それぞれに180mm間隔で標点をつけ、PTFE含浸ガラスクロスを張った金属板の上に置き、180℃に設定したAir雰囲気下の電気炉で、荷重をかけずに10分間熱処理を行った後、25℃まで冷却(25℃の部屋で30分以上静置)したフィルムのMD方向およびTD方向それぞれの標点間隔をノギス(mm単位・少数第二位まで計測可)で測定し、熱処理前後の標点間隔の変化から下記の計算式で算出した。
熱収縮率={(熱処理後の長さ-熱処理前の長さ)/熱処理前の長さ}×100(%)
【0177】
(アニール後の皺)
目視で皺の有無を確認した。
〇・・・フィルムの変形(波打ち)発生なし
×・・・フィルムの変形(波打ち)発生あり
【0178】
(ロールフィルムの皺)
ロール状に巻き取った後に室温で1ヶ月間保管した後の外観を目視判定した。
〇・・・巻締まりによる皺の発生・増加なし
×・・・巻締まりによる皺の発生・増加あり
【0179】
(フッ素樹脂フィルム同士の接着強度)
フッ素樹脂フィルムの表面処理面同士を重ね、ヒートプレス(200℃・0.2MPa・120s)で作製したサンプルを10mm幅の短冊状にカットし、テンシロン万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、短冊状サンプルの接着されていない部分をテンシロンの上下のチャックで掴みながら、毎分100mmの速度で引張ることで引きはがし強さを測定し、得られた値を接着強度とした。
【0180】
(フッ素樹脂フィルムの電解液透過性)
透過性を評価するフィルム(樹脂フィルム層)をΦ6cmに切り出し、
図1に示すように、2つのガラス器具間に挟んだ(
図1において、3は評価するフィルムを示す)。ガラス器具の一方の部屋2には2-プロパノールを200mL満たし、もう一方の部屋4にはエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの体積比20/10/70からなる溶液にLiPF
6を1.2モル/リットルの濃度となるように添加した電解液を200mL満たし、二つ部屋を密栓で閉鎖した。このガラス器具全体を60℃の温浴1に浸漬し、30日経過後の2-プロパノールを採取し、樹脂フィルム層を透過した電解液をガスクロマトグラフィーによって定量した。電解液透過性を1日あたりの単位面積(m
2)あたりの透過量(g)で算出した。
【0181】
(アルミニウム箔との接着強度)
フィルムの表面処理された面とアルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)が接するように、アルミ箔/フィルム/アルミ箔の順に重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ、真空ヒートプレスにて作製した積層体の片面に粘着テープでアルミ板を貼り付け、テンシロン万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、毎分50mmの速度で、積層体の平面に対して90°の方向に10mm幅のアルミ箔を掴んで引っ張ることでアルミ箔の引きはがし強さを測定し、得られた値を接着強度とした。
【0182】
(サンプル1)
フッ素樹脂として、PFA(TFE/PPVE共重合体、組成:TFE/PPVE=98.4/1.6(mol%)、MFR:15.8g/10分、融点:305℃)をTダイ法で溶融押出成形し巻き取ることで得られた厚み50μmの長尺ロールフィルムの両面に表面処理(コロナ放電装置の放電電極とロール状接地電極の近傍に酢酸ビニルが0.50容量%含まれる窒素ガスを流しながら、フィルムをロール状接地電極に添わせて連続的に通過させ、放電量1324W・min/m2でフィルムの両面をコロナ放電処理)を行いロール状に表面処理された長尺フィルムを巻き取った。ESCA表面分析による表面処理されたフィルムの表面酸素元素比率は20.42atomic%であった。また、このフィルムのガラス転移温度は92℃であった。
【0183】
(サンプル2)
特公昭57-040847号公報の比較例5の製造方法で作られたFEP(TFE/HFP共重合体:組成:TFE/HFP=93.2/6.8(mol%)、MFR7.5(g/10分)、融点270(℃))を、Tダイ法で溶融押出成形し巻き取ることで厚み50μmの長尺ロールフィルムを得た。この長尺ロールフィルムの両面に表面処理(コロナ放電装置の放電電極とロール状接地電極の近傍に酢酸ビニルが0.50容量%含まれる窒素ガスを流しながら、フィルムをロール状接地電極に添わせて連続的に通過させ、放電量1324W・min/m2でフィルムの両面をコロナ放電処理)を行いロール状に表面処理された長尺フィルムを巻き取った。ESCA表面分析による表面処理されたフィルムの表面酸素元素比率は19.87atomic%であった。また、このフィルムのガラス転移温度は81℃であった。
【0184】
(サンプル3)
放電量を265W・min/m2とした以外はサンプル2と同様にして、厚み50μmのフィルムの両面に表面処理されたサンプルを得た。ESCA表面分析による表面処理されたフィルムの表面酸素元素比率は10.21atomic%であった。
【0185】
(サンプル4)
放電量を132W・min/m2とした以外はサンプル2と同様にして、厚み50μmのフィルムの両面に表面処理されたサンプルを得た。ESCA表面分析による表面処理されたフィルムの表面酸素元素比率は4.33atomic%であった。
【0186】
(サンプル5)
放電量を66W・min/m2とした以外はサンプル2と同様にして、厚み50μmのフィルムの両面に表面処理されたサンプルを得た。ESCA表面分析による表面処理されたフィルムの表面酸素元素比率は2.61atomic%であった。
【0187】
(サンプル6)
市販の熱融着層用の無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡株式会社製CT P1146、膜厚50μm)を購入した。
【0188】
上記サンプル1~6の結果を、表1に示す。
【0189】
【0190】
(実施例1)
サンプル1のフィルムを用い、樹脂フィルムの電解液透過性の評価をおこなった結果、18g/m2・dayであった。
【0191】
(実施例2)
サンプル2のフィルムを用い、樹脂フィルムの電解液透過性の評価をおこなった結果、7g/m2・dayであった。
【0192】
(比較例1)
サンプル6のフィルムを用い、樹脂フィルムの電解液透過性の評価をおこなった結果、2597g/m2・dayであった。
【0193】
実施例1、2、比較例1の結果を、表2に示す。
【0194】
【0195】
前記の結果からフッ素樹脂フィルムは既存の電池用外装体の熱融着層として用いられる無延伸ポリプロピレンフィルムよりも耐電解液透過性に優れることがわかる。また、耐電解液透過性はPFAよりもFEPが優れることがわかる。
【0196】
(実施例3)
サンプル1のフィルムをロールtoロール方式で180℃のアニール炉(Air雰囲気下)に通し、冷却ゾーンでフィルムを冷却し、ロール状に長尺フィルムを巻き取った。この時、アニール後のフィルムの変形(波打ち)の有無を目視で評価した。次に、この長尺ロールフィルムからサンプリングしたカットフィルムを180℃の電気炉へ入れ10分間熱処理したあと室温まで冷却した。そしてMD・TD方向の寸法変化率を測定し、その絶対値を求めた。また。コアへ巻き取ったフィルムを1ヶ月間室温保管し、巻締まりの評価を行った。
【0197】
(実施例4)
サンプル2のフィルムを用いた以外は実施例3と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0198】
(実施例5)
アニール炉の温度を200℃にした以外は実施例4と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0199】
(実施例6)
サンプル3のフィルムを用いた以外は実施例3と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0200】
(実施例7)
サンプル4のフィルムを用いた以外は実施例3と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0201】
(実施例8)
サンプル5のフィルムを用いた以外は実施例4と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0202】
(実施例9)
アニール工程において冷却ゾーンを入れなかったこと以外は、実施例4と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0203】
(比較例2)
アニール炉の温度を250℃にした以外は実施例4と同様にしてアニール処理とその後のフィルムの変形(波打ち)有無評価および寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0204】
(比較例3)
アニール処理を行っていないサンプル2の寸法変化率の測定と巻締まりの評価を行った。
【0205】
実施例3~9および比較例2~3の結果を表3に示す。
【0206】
【0207】
表3の結果から、アニール処理の条件を調整し、180℃×10分間の熱処理後の寸法変化率の絶対値を2%以下にすることで経時変化による巻締まりを抑制することができる。また、比較例2からアニール工程に冷却ゾーンを入れなかった場合、アニール後のロールフィルムを巻き出した時に変形して(波打って)おり、巻締まりの評価することができなかった。この状態では、アルミニウム箔などと張り合わせる工程で不良が出ることから、アニール工程では冷却工程を入れることが好ましい。
【0208】
(実施例10)
実施例3でアニール処理したフィルム(サンプル1:180)を100mm角にカットし、金属トレイの上に置いて180℃の電気炉(Air雰囲気)に入れ3分間熱処理を行った。このフィルムを用いて、熱処理の間Airに接していた側の表面をESCAで分析した。
次に、熱処理したフッ素樹脂フィルムの表面分析を行った面と同じ面が、アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)と接するように重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ、テンシロン万能試験機で90°で剥離させ接着強度を測定した。
【0209】
(実施例11)
実施例4でアニール処理したフィルム(サンプル2:180)を用いた以外は、実施例10と同様に、ESCAによる表面分析および接着強度の測定を行った。
【0210】
(実施例12)
実施例6でアニール処理したフィルム(サンプル3:180)の表面をESCAで分析した結果、酸素元素比率は8.12atomic%であった。また、アルゴンガスクラスターイオンビームを用いて入射角45°、スパッタ条件:2.5kV×10nA、で深さ方向に15分間エッチングしたのち、その表面をESCA分析した結果、酸素元素比率は0.91atomic%であった。2つの結果の差は7.21atomic%であった。また、このアニール処理したフィルムとアルミニウム箔との接着強度は968N/mであり、フィルム処理面同士の接着強度は237N/mであった。
次に、同じく実施例6でアニール処理したフィルム(サンプル3:180)を100mm角にカットし、金属トレイの上に置いて180℃の電気炉(Air雰囲気)に入れ3分間熱処理を行った。このフィルムを用いて、熱処理の間Airに接していた側の表面をESCAで分析した。
次に、熱処理したフッ素樹脂フィルムの表面分析を行った面と同じ面が、アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)と接するように重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ、テンシロン万能試験機で90°で剥離させ接着強度を測定した。
【0211】
(実施例13)
実施例7でアニール処理したフィルム(サンプル4:180)を用いた以外は、実施例10と同様に、ESCAによる表面分析および接着強度の測定を行った。
【0212】
(比較例4)
サンプル5のフィルムをロールtoロール方式で180℃のアニール炉(Air雰囲気下)に通し、冷却ゾーンでフィルムを冷却し、ロール状に長尺フィルムを巻き取った。アニール後のフィルム表面の酸素元素比率は1.69%であった。また、アルゴンガスクラスターイオンビームを用いて入射角45°、スパッタ条件:2.5kV×10nA、で深さ方向に15分間エッチングしたのち、その表面をESCA分析した結果、酸素元素比率は0.84atomic%であった。2つの結果の差は0.85atomic%であった。
次に、実施例11と同様に、180℃×3分間の熱処理と表面分析およびアルミ箔との接着強度測定を行った。熱処理後のフィルム表面の酸素元素比率は1.28%であり、アルミ箔との接着強度は650N/mmであった。
【0213】
(比較例5)
サンプル2と同様にTダイ法で溶融押出成形した厚み50μmのフィルムの両面を有機化合物含有不活性ガスを使用しない放電処理で表面処理を行った。このフィルムをロールtoロール方式で180℃のアニール炉(Air雰囲気下)に通し、冷却ゾーンでフィルムを冷却し、ロール状に巻き取った。アニール後のフィルム表面の酸素元素比率は4.01%であった。また、フィルム処理面同士の接着強度は26N/mであった。次に、実施例11と同様に、180℃×3分間の熱処理と表面分析およびアルミ箔との接着強度測定を行った。熱処理後のフィルム表面の酸素元素比率は0.88%であり、アルミ箔との接着強度は142N/mmであった。
【0214】
実施例10~13、比較例4、5の結果を表4に示す。
【0215】
【0216】
表4の結果から、180℃×3分間の熱処理を経たあとのフィルム表面の酸素元素比率を1.35atomic%以上にすることでアルミニウム箔と500N/m以上の接着強度を得ることができる。特に、本開示の有機化合物含有不活性ガスを用いた表面処理の場合、熱による失活が少なく好適に用いられる。以上のことから、本発明におけるフッ素樹脂フィルムはアルミニウム箔とのラミネート工程などにおいてあらかじめ予熱されてから張り合わせても十分な接着強度を得ることができる。
【0217】
(実施例14)
実施例3でアニール処理したフィルム(サンプル1:180)の表面処理をした面とアルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)とを接するように重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ積層体を作製した。この積層体から10cm×10cmの正方形形状の積層体を2枚の切り出し、樹脂層を対向させた状態で重ね合わせ3辺を、インパルスヒートシーラーで270℃、圧力0.2MPa、圧着時間120秒、シール幅5mmでヒートシールした。得られた袋状構造物の未シール辺からエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの体積比20/10/70からなる溶液にLiPF6を1.2モル/リットルの濃度となるように添加した電解液を5mL加え、未シール辺をクリップで封止した。未シール辺と反対側の辺を下にし、袋状構造物の下部から1cmつかるように2-プロパノールの90日間浴槽につけ、2-プロパノール中に溶出した電解液量をガスクロマトグラフィーによって定量することで、ヒートシール部からの電解液透過性を1か月(30日)あたりの透過量(g)で算出した。
【0218】
(実施例15)
実施例4でアニール処理したフィルム(サンプル2:180)を用いた以外は実施例14と同様にしてヒートシール部からの電解液透過性の評価をおこなった。
【0219】
(比較例6)
熱融着層としてポリプロピレンフィルムが使用されている市販の電池用アルミラミネートフィルム(大日本印刷株式会社製 D-EL40H)を用い、この積層体から10cm×10cmの正方形形状の積層体を2枚の切り出し、熱融着層を対向させた状態で重ね合わせ3辺を、インパルスヒートシーラー(富士インパルス株式会社製FCB-200)で200℃、圧着時間3秒、シール幅5mmでヒートシールした以外は実施例12と同様にしてヒートシール部からの電解液透過性の評価をおこなった。
【0220】
実施例14、15、比較例6の結果を表5に示す。
【0221】
【0222】
表5より、フッ素樹脂フィルムを熱融着層に用いた積層体はヒートシール部からの電解液の透過を効果的に抑制できる。これは実施例1、2、比較例1の結果(表2,3)からもわかるように電解液と直接接するフッ素樹脂の電解液透過性が低いためと考えられる。
【0223】
(電池外装体の作製)
(実施例16)
実施例4でアニール処理したフィルム(サンプル2:180)の表面処理をした面とアルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)とが接するように重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度320℃、予熱時間60秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ積層体を作製した。この積層体から幅125mm、長さ140mmを切り出し電池外装体とした。
【0224】
(実施例17)
無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡株式会社製CT P1146、膜厚50μm)の表面処理をした面と、実施例16と同様にして作製した積層体のアルミニウムが露出している面とを接するように重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度180℃、予熱時間30秒、加圧力1.5MPa、加圧時間300秒で熱プレスすることで接着させ、ポリプロピレンフィルム/アルミニウム箔/FEPフィルムの3層からなる積層体を作製した。この積層体から幅125mm、長さ140mmを切り出し電池外装体とした。
【0225】
(実施例18)
アルミニウム箔8079材(東洋アルミニウム株式会社製、膜厚40μm)、実施例4でアニール処理したフィルム(サンプル2:180)、120℃で12時間乾燥させたポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製100H、膜厚25μm)、実施例4でアニール処理したフィルム(サンプル2:180)をこの順に重ね、真空ヒートプレス機(型番:MKP-1000HVWH-S7/ミカドテクノス株式会社製)を用いて、プレス温度275℃、予熱時間180秒、加圧力1.5MPa、加圧時間420秒で熱プレスすることで接着させ積層体を作製した。この積層体から幅125mm、長さ140mmを切り出し電池外装体とした。
【0226】
(リチウムイオン二次電池の作製)
[電解液の調製]
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるジメチルカーボネートを、体積比20/10/70になるように混合し、これにLiPF6を1.2モル/リットルの濃度となるように添加して、非水電解液を得た。
【0227】
[正極の作製]
正極活物質としてのLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NMC)95質量%と、導電材としてのアセチレンブラック2質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量%とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。厚さ15μmのアルミ箔集電体上に、得られたスラリーを、厚さ15μmのアルミ箔の片面に塗布して、乾燥し、プレス機にてロールプレスしたものを、活物質層のサイズとして幅50mm、長さ30mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極とした。
【0228】
[負極の作製]
炭素質材料(グラファイト)98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)1質量部及びスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅52mm、長さ32mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0229】
(実施例19)
[アルミラミネートセルの作製]
実施例16で得られた電池外装体を、フッ素樹脂フィルム層を内側にして長さ方向に半分に折り、その内部に厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ、幅45mm、長さ77mm)を介して上記正極と負極を対向させるように配置し、1辺を残し封止した。ここに上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【産業上の利用可能性】
【0230】
本開示のフッ素樹脂フィルムは、電池外装体に好適に使用することができる。