(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池用部材及びナトリウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20240306BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240306BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20240306BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M10/0562
H01M10/054
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2019235946
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/078001(WO,A1)
【文献】特開2018-032536(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/136
H01M 10/0562
H01M 10/054
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層の表面に形成された正極層とを備えるナトリウムイオン二次電池用部材であって、
前記正極層が、一般式Na
x(Mn
1-a
Ni
a)
yP
2O
z
(0.6≦x≦4、0.4≦y≦2.4、
0.25≦a≦0.9、6≦z<7.5)で表される結晶を含有する正極活物質を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用部材。
【請求項2】
前記正極活物質が、酸化物換算のモル%で、Na
2O 8~55%、MnO 10~70%、FeO+CrO+CoO+NiO 0~60%、P
2O
5 15~70%を含有することを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用部材。
【請求項3】
前記固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ及びNASICON結晶から選択された少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のナトリウムイオン二次電池用部材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池用部材を備えることを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられるナトリウムイオン二次電池の構成部材であるナトリウムイオン電池用部材、及びナトリウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電子端末や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立しており、その正極活物質として、一般式LiFePO4で表されるオリビン型結晶を含む活物質が注目されている。しかし、リチウムは世界的な原材料の高騰等の問題が懸念されているため、その代替としてNa2FeP2O7結晶やNa4Mn3(PO4)2(P2O7)結晶等を正極活物質として使用したナトリウムイオン二次電池の研究が近年行われている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
加えて、現行のリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスは電解液に可燃性の有機溶媒を含んだ電解液が主に用いられている。この有機溶媒系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、液体であり、可燃性であることから漏洩、発火等の危険性が懸念されている。
かかる課題を解決し、本質的な安全性を確保するために、有機溶媒系電解液に代えて固体電解質を使用するとともに、正極及び負極を固体で構成した全固体電池の開発が進められている。このような全固体電池は電解質が固体であるために、発火や漏洩の心配がなく、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。なかでも、リチウムイオン全固体電池は盛んに開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5673836号公報
【文献】特開2016-25067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正極活物質にNa2FeP2O7結晶を用いたナトリウムイオン二次電池の作動電圧が低いという課題を有している。他方、Na4Mn3(PO4)2(P2O7)結晶等の遷移金属元素としてMnを含有する正極活物質(以下、Mn系正極活物質ともいう)を用いたナトリウムイオン二次電池は、3Vを超える比較的高い作動電圧を示す。しかしながら、上記特許文献では電解液系の二次電池で検討を行っており、固体電解質を使用した全固体電池において高い作動電圧を示すMn系正極活物質については、これまで十分に検討されていないのが現状である。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、全固体ナトリウムイオン二次電池を高電圧で作動させることが可能な、Mn系正極活物質を用いたナトリウムイオン二次電池用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討した結果、固体電解質層と、固体電解質層の表面に形成された正極層とを備えるナトリウムイオン二次電池用部材において、正極層が、遷移金属元素としてMnを有する特定組成の結晶からなる正極活物質を含有することにより、前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明のナトリウムイオン二次電池用部材は、固体電解質層と、固体電解質層の表面に形成された正極層とを備え、正極層が、一般式Nax(Mn1-aMa)yP2Oz(MはFe、Cr、Co及びNiから選択された少なくとも1種、0.6≦x≦4、0.4≦y≦2.4、0≦a≦0.9、6≦z<7.5)で表される結晶を含有する正極活物質を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のナトリウムイオン二次電池用部材は、正極活物質が、酸化物換算のモル%で、Na2O 8~55%、MnO10~70%、FeO+CrO+CoO+NiO 0~60%、P2O5 15~70%を含有することが好ましい。
【0010】
本発明のナトリウムイオン二次電池用部材は、固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ及びNASICON結晶から選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0011】
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、全固体ナトリウムイオン二次電池を高電圧で作動させることが可能な、Mn系正極活物質を用いたナトリウムイオン二次電池用部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のナトリウムイオン二次電池用部材は、固体電解質層と固体電解質層の表面に形成された正極層とを備える。正極層は、遷移金属元素としてMnを有する特定組成の結晶からなる特定組成の正極活物質を含む。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
(固体電解質層)
固体電解質層は、ナトリウムイオン二次電池において正極層と負極層の間のナトリウムイオン伝導を担う層である。固体電解質は、水系電解質や非水系電解質に比べ電位窓が広いため、分解に伴うガスの発生がほとんどなく、ナトリウムイオン二次電池の安全性を高めることができる。固体電解質層としては、ナトリウムイオン伝導性に優れるベータアルミナやNASICON結晶を使用することが好ましい。
【0015】
ベータアルミナには、βアルミナ(理論組成式:Na2O・11Al2O3)とβ”アルミナ(理論組成式:Na2O・5.3Al2O3)の2種類の結晶型が存在する。β”アルミナは準安定物質であるため、通常、Li2OやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。βアルミナよりもβ”アルミナの方がナトリウムイオン伝導度が高いため、β”アルミナ単独、またはβ”アルミナとβアルミナの混合物を用いることが好ましく、Li2O安定化β”アルミナ(Na1.6Li0.34Al10.66O17)またはMgO安定化β”アルミナ((Al10.32Mg0.68O16)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0016】
NASICON結晶としては、Na3Zr2Si2PO12、Na3.2Zr1.3Si2.2P0.8O10.5、Na3Zr1.6Ti0.4Si2PO12、Na3Hf2Si2PO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.2P1.8O12、Na3Zr1.7Nb0.24Si2PO12、Na3.6Ti0.2Y0.8Si2.8O9、Na3Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.12Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.11P2.9O12等が好ましく、特にNa3.12Zr1.88Y0.12Si2PO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0017】
固体電解質層の厚みは5~1500μm、特に20~200μmであることが好ましい。固体電解質層の厚みが小さすぎると、機械的強度が低下して破損しやすくなるため、内部短絡が起こりやすくなる。一方、固体電解質層の厚みが大きすぎると、充放電に伴うナトリウムイオン伝導距離が長くなるため内部抵抗が高くなり、放電容量及び作動電圧が低下しやすくなる。また、全固体ナトリウムイオン二次電池の単位体積当たりのエネルギー密度も低下しやすくなる。
【0018】
固体電解質層は、原料粉末を混合し、混合した原料粉末を成形した後、焼成することにより製造することができる。例えば、原料粉末をスラリー化してグリーンシートを作製した後、グリーンシートを焼成することにより製造することができる。また、ゾルゲル法により製造してもよい。
【0019】
(正極活物質)
正極活物質は、一般式Nax(Mn1-aMa)yP2Oz(MはFe、Cr、Co及びNiから選択された少なくとも1種、0.6≦x≦4、0.4≦y≦2.4、0≦a≦0.9、6≦z<7.5)で表される結晶を含有する。当該結晶以外の放電容量低下の原因となる異種結晶、例えば上記一般式でZ≧7.5である結晶(具体的にはNa2Mn2P2O8(=NaMnPO4)等)は含有しないことが好ましい。
【0020】
Naは、充放電の際に正極活物質と負極活物質の間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。
【0021】
Mnは、正極活物質に対し高電圧特性を付与する成分である。具体的には、充放電に伴いナトリウムイオンが正極活物質から放出されしたり、正極活物質に吸蔵される際に、Mnイオンの価数が変化することによりレドックス反応が生じる。このレドックス反応に起因して、正極活物質が高い酸化還元電位を示す。
【0022】
MもMnと同様に、充放電の際に価数変化することにより、ナトリウムイオンが正極活物質から放出されたり、正極活物質に吸蔵される際に、正極活物質の酸化還元電位を高める役割を有する。なかでもNiは特に高い電圧を示すことから好ましい。一方、Feは充放電において高い構造安定性を有するために好ましい。
【0023】
P2Ozは3次元網目構造を有して正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。
【0024】
一般式Nax(Mn1-aMa)yP2Ozにおける各係数の範囲を上記の通りに規定した理由を以下に説明する。
【0025】
xは0.6≦x≦4であり、0.8≦x≦2であることが好ましく、1≦x≦1.9であることがより好ましい。xが小さすぎると、吸蔵及び放出に関与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、xが大きすぎるとNa3PO4等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0026】
yは0.3≦y≦2.4あり、0.5≦y≦2であることが好ましく、1.05≦y≦1.3であることがより好ましい。yが小さすぎると、レドックス反応を起こす遷移金属元素が少なくなることにより、吸蔵及び放出に関与するナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。一方、yが大きすぎると、マリサイト型NaMnPO4等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0027】
aは0≦a≦0.9であり、0≦a≦0.5であることが好ましく、0≦a≦0.3であることがより好ましく、0≦a≦0.25であることが特に好ましい。aが小さいほど、充放電に伴って発生する酸化還元電位が高く、蓄電デバイス用正極活物質として用いた場合、高い放電容量及び放電電圧を示しやすくなる。特にa=0であることが好ましい。
【0028】
zは6≦z<7.5であり、6.3≦z≦7.2であることが好ましく、6.7≦z≦7であることがより好ましい。zが小さすぎると、Mn及びMの価数が2価より小さくなって、充放電に伴い金属が析出しやすくなる。結果としてレドックス反応を起こす遷移金属元素が少なくなることにより、吸蔵及び放出に関与するナトリウムイオンが少なくなるため放電容量が低下する傾向にある。一方、zが大きすぎると、Mn及びMの価数が2価より大きくなって、電池の充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなる。その結果、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0029】
一般式Nax(Mn1-aMa)yP2Ozで表される結晶の具体例としては、Na3.64Mn2.18(P2O7)2(=Na1.82Mn1.09P2O7)、Na2MnP2O7、Na2(Mn1-aFea)P2O7(0<a≦0.8、さらには0.2≦a≦0.8)、Na2(Mn1-aNia)P2O7(0<a≦0.8、さらには0.2≦a≦0.8)、で表されるものが挙げられる。なかでも、Na3.64Mn2.18(P2O7)2、Na2MnP2O7で表される三斜晶系結晶は充放電に伴って発生する酸化還元電位が高く、固体電解質との間に良好なイオン伝導パスを形成しやすい。そのため、全固体ナトリウムイオン二次電池用正極活物質として用いた場合、高い放電容量及び作動電圧を示す。
【0030】
正極活物質は、酸化物換算のモル%で、Na2O 8~55%、MnO10~70%、FeO+CrO+CoO+NiO 0~60%、P2O5 15~70%を含有することが好ましい。各成分を上記のように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0031】
Na2Oは、充放電の際に正極活物質と負極活物質の間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。Na2Oの含有量は8~55%、15~45%、特に25~35%であることが好ましい。Na2Oが少なすぎると、吸蔵及び放出に寄与するナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、Na2Oが多すぎると、Na3PO4等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。
【0032】
MnOは、充放電の際にMnイオンの価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。MnOの含有量は10~70%、15~60%、20~55%、23~50%、25~40%、特に26~36%であることが好ましい。MnOが少なすぎると、充放電に伴うレドックス反応が起こりにくくなり、吸蔵及び放出されるナトリウムイオンが少なくなるため、放電容量が低下する傾向にある。一方、MnOが多すぎると、マリサイト型NaMnPO4等の充放電に寄与しない異種結晶が析出して放電容量が低下する傾向にある。
【0033】
FeO、CrO、CoO及びNiOは、MnOと同様に、充放電の際に、これら遷移金属元素イオンの価数が変化してレドックス反応を起こすことにより、ナトリウムイオンの吸蔵及び放出の駆動力として作用する。NiOは特に高い酸化還元電位を示すことから好ましい。また、FeOは充放電において高い構造安定性を有し、サイクル特性が向上しやすくなるため好ましい。FeO+CrO+CoO+NiOの含有量は0~60%であり、0.1~50%、0.5~45%、1~40%、3~30%、特に5~20%であることが好ましい。FeO+CrO+CoO+NiOの含有量が多すぎると、FeO、NiO等の充放電に寄与しない異種結晶が析出しやすくなるため、放電容量が低下する傾向にある。なお、FeO、CrO、CoO及びNiOにおける遷移金属元素は、ガラス中で低価数のイオン、特に2価のイオンであることが好ましい。この場合、充放電に伴って発生する酸化還元電位が高く、放電容量及び放電電圧が高くなりやすい。
【0034】
P2O5は3次元網目構造を形成するため、正極活物質の構造を安定化させる効果を有する。また、P2O5を含有することにより、非晶質相の含有量を高めることができる。さらに、P2O5はイオン伝導性を高める効果もある。P2O5の含有量は15~70%、20~60%、25~45%、特に25超~45%であることが好ましい。
【0035】
また、P2O5と同様の効果を示す成分として、SiO2やB2O3を含有させてもよい。特にSiO2はイオン電導性に優れるため好ましい。SiO2及びB2O3の含有量は、各々0~60%、15~60%、20~60%、特に25~45%であることが好ましい。
【0036】
本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分に加えて種々の成分を含有させることでガラス化を容易にすることができる。このような成分としては、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、CuO、Al2O3、GeO2、Nb2O5、ZrO2、V2O5、Sb2O5が挙げられ、特に網目形成酸化物として働くAl2O3や活物質成分となるV2O5が好ましい。上記成分の含有量は、合量で0~30%、0.1~20%、特に0.5~10%であることが好ましい。
【0037】
なお、正極活物質は非晶質相を含有することが好ましい。正極活物質が非晶質相を含有することにより、ナトリウムイオンの拡散パスが3次元的に広がるため、充放電に伴うナトリウムイオンの吸蔵及び放出が容易となり高容量化が可能となる。また、急速充放電特性やサイクル特性が向上しやすくなる。さらに、非晶質相が焼成時に軟化流動することにより、正極活物質と固体電解質が融着するため、緻密な焼結体となりやすい。そのため、正極活物質と固体電解質の界面においてイオン伝導パスが形成されやすくなる。
【0038】
正極活物質に含まれる非晶質相の含有量は、目的とする特性に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、正極活物質における非晶質相の含有量は、質量%で0.1%以上、1%以上、5%以上、10%以上、特に15%以上(結晶の含有量が質量%で99.9%以下、99%以下、95%以下、90%以下、特に85%以下)であることが好ましい。非晶質相の含有量が少なすぎると、上記効果を得にくくなる。なお、正極活物質における非晶質相の割合が多くなると、結晶からなる正極活物質と比較して組成設計の自由度が高くなるため組成を適宜調整する(例えば遷移金属成分の含有量を多くする)ことにより、高電圧化や高容量化を達成しやすいという利点を有する。
【0039】
非晶質相の含有量の上限は特性限定されず、質量%で100%(結晶の含有量が0%)であってもよいが、結晶を積極的に析出させる場合は、99%以下、90%以下、80以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、特に20%以下(結晶の含有量が質量%で1%以上、10%以上、20%以上、30%以、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上)としてもよい。このようにすれば、結晶を含有することにより得られる既述の効果も同時に享受することができる。
【0040】
正極活物質における非晶質相及び結晶の含有量は、CuKα線を用いたX線回折測定によって得られる、2θで10~60°の回折線プロファイルにおいて、結晶性回折線と非晶質ハローにピーク分離することで求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、ブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、既述の一般式で表される結晶相の結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIc、その他の結晶に由来する結晶性回折線から求めた積分強度の総和をIoとした場合、非晶質相の含有量Xg及び結晶の含有量Xcは次式から求められる。
【0041】
Xg=[Ia/(Ic+Ia+Io)]×100(質量%)
Xc=[Ic/(Ic+Ia+Io)]×100(質量%)
【0042】
(正極活物質の製造方法)
本発明における正極活物質は、以下に説明するように、正極活物質前駆体を焼成することにより製造することができる。
【0043】
正極活物質前駆体は溶融急冷法により作製することができる。まず、所望の組成となるように原料粉末を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融する。溶融温度は原料バッチが均質になるよう適宜調整すればよい。具体的には、溶融温度は800℃以上、900℃以上、特に1000℃以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、溶融温度が高すぎるとナトリウムイオン成分が蒸発したり、エネルギーロスにつながるため、1500℃以下、特に1400℃以下であることが好ましい。
【0044】
ところで、正極活物質にFe成分を含有する場合は、初回充電に伴いナトリウムイオンが放出されると、電荷補償としてFe2+→Fe3+の酸化反応が進行する。そのため、正極活物質内で2価イオンの割合を多くすることにより、上記の電荷補償の酸化反応が生じやすくなり、初回充放電効率が向上しやすくなる。しかしながら、2価のFeイオン(FeO)を含むガラスは、溶融条件によってFe元素の酸化状態が変化しやすい。具体的には、大気中で溶融した場合は3価のFeイオン(Fe2O3)に酸化されやすい。そこで、還元雰囲気または不活性雰囲気中で溶融を行うことでガラス中のFeイオンの価数の増加を抑制し、初回充放電効率に優れた蓄電デバイスを得ることが可能となる。
【0045】
還元雰囲気で溶融するには、溶融槽中へ還元性ガスを供給することが好ましい。還元雰囲気としてはH2、NH3、CO、H2S及びSiH4から選ばれる少なくとも一種の還元性ガスを含む雰囲気が挙げられ、特にH2が好ましい。還元性ガスとしてH2ガスを使用する場合、溶融中における爆発等の危険性を低減するため、不活性ガスを添加した混合ガスを使用することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを用いることが好ましい。具体的には、混合ガスは、体積%でN2 90~99.5%、及びH2 0.5~10%を含有することが好ましい。還元性ガスまたは不活性ガスは溶融槽において溶融ガラスの上部雰囲気に供給してもよいし、バブリングノズルから溶融ガラス中に直接供給してもよく、両手法を同時に行ってもよい。
【0046】
得られた溶融物を冷却して成形することによりガラス体を得る。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。ガラス体は非晶質体であることが均質性の点から好ましいが、一部、結晶相を含有してもよい。
【0047】
なお、ガラス体が3価の遷移金属元素のイオンを含む場合、例えば還元雰囲気中で焼成することにより2価の遷移金属元素に還元することが好ましい。還元雰囲気としてはH2、NH3、CO、H2S及びSiH4から選ばれる少なくとも一種の還元性ガスを含む雰囲気が挙げられ、特にH2が好ましい。H2を使用する場合は焼成中における爆発等の危険性を低減するため、N2とH2の混合ガスを使用することが好ましい。混合ガスとしては体積%でN2 90~99.9%、及びH2 0.1%~10%を含有することが好ましい。
【0048】
焼成温度(最高温度)はガラス体のガラス転移点以上であることが好ましく、具体的には350~900℃、400~850℃、450~800℃、特に475~650℃であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、ガラス体の軟化流動が不十分になり固体電解質との間にイオン伝導パスが形成されなくなる。一方、焼成温度が高すぎると固体電解質と反応して所望の結晶が析出しないため、あるいは異種結晶が析出するおそれがあるため、放電容量が低下しやすくなる。
【0049】
焼成における最高温度の保持時間は10~600分、特に15~30分であることが好ましい。保持時間が短すぎると、付与される熱エネルギーが少ないため、結晶の析出量が少なくなる傾向がある。一方、保持時間が長すぎると、正極活物質と固体電解質が反応し、界面で異種結晶が析出するため内部抵抗が増加する傾向にある。結果として正極活物質の放電容量が低下する傾向にある。
【0050】
焼成には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等を用いることができる。なお、ガラス体における遷移金属元素の還元と結晶化を同時に行ってもよい。
【0051】
(正極層)
正極層は、正極活物質のみから構成されていてもよいが、イオン電導パスを確保するため、固体電解質が含まれていることが好ましい。固体電解質としては、上述の固体電解質層の材料として例示したものを使用することができる。固体電解質は粉末状であることが、正極活物質と固体電解質の接触界面が増えることにより、イオン伝導パスが増加するため好ましい。結果的に、充放電に伴う正極活物質からのイオンの吸蔵及び放出が容易になるため出力特性が向上しやすくなる。
【0052】
固体電解質が粉末状である場合、その平均粒子径(D50)は0.05μm以上、3μm以下であることが好ましく、0.05μm以上、1.8μm未満であることがより好ましく、0.05μm以上、1.5μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、1.2μm以下であることが特に好ましく、0.1μm以上、0.7μm以下であることが最も好ましい。固体電解質の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質と均一に混合することが困難となるだけでなく、吸湿したり炭酸塩化するためイオン伝導が低下しやすくなる。結果的に、内部抵抗が高くなり、放電電圧及び放電容量が低下する傾向にある。一方、固体電解質の平均粒子径が大きすぎると、正極層形成のための焼成時において正極活物質の軟化流動を著しく阻害するため、得られる正極層の平滑性に劣って機械的強度が低下したり、内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0053】
また、正極層は導電性炭素を含有することが好ましい。導電性炭素は正極活物質を被覆、あるいは正極活物質と複合化されていてもよい。このようにすれば、正極層の電子伝導性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。導電性炭素としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等の粉末状または繊維状の炭素を用いることができる。なかでも、電子伝導性が高いアセチレンブラックが好ましい。
【0054】
なお、正極活物質表面が導電性炭素により被覆されている場合、導電性炭素被膜の厚さは1~100nm、特に、5~80nmであることが好ましい。導電性炭素被膜の厚さが小さすぎると、導電性ネットワークの形成が不十分となるため作動電圧が低下する傾向にある。一方、導電性炭素被膜の厚さが大きすぎると、正極層におけるイオン伝導が阻害されるため、電圧降下や容量の低下が生じやすくなる。
【0055】
正極層は、質量%で、正極活物質 30~100%、固体電解質 0~70%、導電助剤 0~20%を含有することが好ましく、正極活物質 34.5~94.5%、固体電解質5~65%、導電助剤0.5~15%を含有することがより好ましく、正極活物質 40~92%、固体電解質 7~50%、導電助剤 1~10%を含有することがさらに好ましい。正極活物質の含有量が少なすぎると全固体ナトリウムイオン二次電池の放電容量が低下しやすくなる。導電助剤または固体電解質の含有量が多すぎると、正極層の構成成分同士の結着性が低下して内部抵抗が高くなるため、放電電圧や放電容量が低下する傾向にある。
【0056】
正極層の構成材料の混合は、自転公転ミキサー、タンブラー混合機等の混合器や、乳鉢、らいかい機、ボールミル、アトライター、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ビーズミル等の一般的な粉砕機を用いることができる。特に、遊星型ボールミルを使用することで構成材料同士を均質に分散することが可能となる。
【0057】
なお、アルミニウム、銅、金等の金属層からなる集電体が、正極層の固体電解質層とは反対側の表面に形成されていることが好ましい。集電体はm例えばスパッタやメッキ等により形成することができる。
【0058】
(ナトリウムイオン二次電池)
本発明のナトリウムイオン二次電池は、上記のナトリウムイオン二次電池用部材を備えてなるものである。具体的には、本発明のナトリウムイオン二次電池は、ナトリウムイオン二次電池用部材における固体電解質層の、正極層が形成された面とは反対側の面に負極層が形成されてなるものである。
【0059】
負極は、充放電に伴いナトリウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば金属Na、金属Sn、金属Bi、金属Zn、Sn-Cu合金、Bi-Cu合金等の金属系材料、ハードカーボン等のカーボン材料、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料等を用いることができる。なかでも、元素としてTi及び/またはNbを含有する酸化物材料が高い安全性を有しており、また資源的に豊富であることから好ましい。特に、充放電に伴う酸化還元電位が1.5V(vs.Na/Na+)以下であるNa4TiO(PO4)2、Na5Ti(PO4)3で表される結晶相を含有する酸化物材料を用いることが好ましい。この場合、ナトリウムイオン二次電池の作動電圧が高くなり、繰り返し充放電した際における金属Naデンドライトの析出を抑制することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
表1は、本発明の実施例(No.1~7)及び比較例(No.8)を示す。
【0062】
【0063】
(1)正極活物質前駆体粉末の作製
メタリン酸ソーダ(NaPO3)、二酸化マンガン(MnO2)、酸化ニッケル(NiO)、炭酸ソーダ(Na2CO3)、オルトリン酸(H3PO4)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、1350℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。得られた溶融ガラスを1対の冷却ローラー間に流し出し、急冷しながら成形し、厚み0.1~1mmのフィルム状のガラス体を得た。このガラス体に対し、φ20mmのZrO2玉石を使用したボールミル粉砕を10時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径7μmのガラス粗粉末を得た。さらに、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤としてエタノールを用い、φ3mmのZrO2玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.6μmのガラス粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。粉末X線回折測定の結果、ガラス粉末は非晶質であることが確認された。
【0064】
(2)固体電解質の作製
(Li2O安定化β”アルミナ)
組成式Na1.6Li0.34Al10.66O17のLi2O安定化β”アルミナ(Ionotec社製)を11mm×11mm×厚み1mmに加工して固体電解質シート(固体電解質層)を得た。また、固体電解質シートをボールミルを用いて粉砕し、空気分級することで別途、固体電解質粉末(平均粒子径2μm)を作製した。
【0065】
(3)ナトリウムイオン二次電池用部材の作製
上記で得られた正極活物質前駆体粉末、固体電解質粉末、導電助剤としてアセチレンブラック(Timcal社製Super C65)を質量比で76.1:20.7:3.2の割合で秤量し、遊星ボールミルを用いて、300rpmで30分間混合した。得られた混合粉末100質量部に対し20質量部のポリプロピレンカーボネートを添加し、さらにN-メチルピロリドンを30質量部添加して、自転・公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。
【0066】
得られたスラリーを、上記で得られた固体電解質シートの一方の表面に、面積1cm2、厚さ70μmで塗布し、70℃で3時間乾燥させた。次に、カーボン容器に入れて、表1に記載の焼成条件で焼成することにより、正極活物質前駆体粉末を結晶化させ、固体電解質上に正極層を形成してナトリウムイオン二次電池用部材を作製した。なお、上記の操作はすべて露点-50℃以下の環境で行った。
【0067】
正極層を構成する材料について粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶由来の回折線が確認された。なお、いずれの正極においても、使用した各固体電解質粉末に由来する結晶性回折線が確認された。
【0068】
(4)全固体ナトリウムイオン二次電池の作製
正極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC-701AT)を用いて厚さ300nmのアルミ電極からなる集電体を形成した。さらに、露点-70℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極として金属ナトリウムを、固体電解質層における正極層が形成された面と反対側の面に圧着した。得られた積層体をコインセルの下蓋の上に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0069】
(5)充放電試験
試験電池について、60℃にて開回路電圧から充電終止電圧までCC(定電流)充電を行った。次に、充電終止電圧から放電終止電圧までCC放電を行い、その際の正極活物質の単位質量当たりに放電された電気量(放電容量)と、作動電圧の平均値(放電電圧)を求めた。なお、本試験において充電終止電圧は実施例1~2、6及び7は5.0V、実施例3~5は5.15Vとし、放電終止電圧は実施例1~8とも2Vとした。また、Cレートは充電、放電ともに0.01Cとした。
【0070】
結果を表1に示す。表において、エネルギー密度は放電容量と放電電圧の積をそれぞれ意味する。表1に示すように、実施例であるNo.1~7では放電容量が3~82mAh/g、放電電圧が2.77~4.55V、エネルギー密度が8~309Wh/kgであった。一方、比較例であるNo.8は電池が作動しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のナトリウムイオン二次電池用部材は、携帯型電子機器、電気自動車、電気工具、バックアップ用非常電源等に使用されるナトリウムイオン二次電池に好適である。