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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ガス分解装置及びガス分解方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/56 20060101AFI20240306BHJP
   B01D 53/74 20060101ALI20240306BHJP
   B01D 53/32 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B01D53/56 400
B01D53/74
B01D53/32 ZAB
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022123735
(22)【出願日】2022-08-03
(65)【公開番号】P2024021127
(43)【公開日】2024-02-16
【審査請求日】2023-12-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0108489(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0040363(US,A1)
【文献】特開昭63-111930(JP,A)
【文献】特開2021-88964(JP,A)
【文献】特開2007-209897(JP,A)
【文献】加茂 直大, ほか,真空紫外ランプ光照射によるN2Oの光分解に関する研究,分子科学討論会講演プログラム&要旨,日本,2008年,Vol.2nd,4P055,インターネット:<URL ; http://molsci.center.ims.ac.jp/area/2008/bk2008/papers/4P055_w.pdf>
【文献】久野 清人, ほか,紫外線による一酸化二窒素及びメタンの分解に関する研究,下水道協会誌,日本,社団法人 日本下水道協会,2010年07月15日,Vol.47 ,No.573,P.129-134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/56
B01D 53/32
B01D 53/74
B01J 19/12
A61L 9/20
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素及び一酸化二窒素を含む被処理ガスを通流させる配管と、
主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記配管の内部に照射する第一光源と、
主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光を、前記配管の内部に照射する第二光源と、を備え、
前記第一光源と前記第二光源は、前記第二光の少なくとも一部が、前記第一光の少なくとも一部と重なり合うように配置され、前記一酸化二窒素を分解することを特徴とする、ガス分解装置。
【請求項2】
前記第一光源が前記配管の内部に配置され、前記第二光源が前記配管の外部に配置され、
前記配管は、前記第二光が前記配管を透過する透過領域を備えることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解装置。
【請求項3】
前記被処理ガスが、前記第一光の被照射空間と前記第二光の被照射空間内で層流を形成し得る、請求項1に記載のガス分解装置。
【請求項4】
前記第一光源はエキシマランプであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【請求項5】
酸素及び一酸化二窒素を含む被処理ガスをチャンバに流しながら、
第一光源から、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記チャンバに照射し、
第二光源から、主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光を、前記第二光の少なくとも一部が前記第一光の少なくとも一部と重なり合うように、前記チャンバに照射し、前記一酸化二窒素を分解することを特徴とする、ガス分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス分解装置及びガス分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、地球の平均気温が上昇しているために、地球温暖化対策は喫緊の課題となっている。地球温暖化の原因となる温室効果ガスとして、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガス等が知られている。このガスの中で、二酸化炭素の排出量が一番多く、次いでメタンの排出量が多く、その次に、一酸化二窒素の排出量が多い。しかしながら、メタンの地球温暖化係数は二酸化炭素の地球温暖化係数の25倍であり、一酸化二窒素の地球温暖化係数は二酸化炭素の地球温暖化係数の298倍であると報告されている。特に、一酸化二窒素の排出による地球温暖化の影響は無視できない。
【0003】
一酸化二窒素は、化学製品の製造等の工業活動及び廃棄物の燃焼によって多量に排出されるだけでなく、人及び畜産動物の排泄物の処理過程や農業からも多量に排出される。昨今、一酸化二窒素の濃度が上昇傾向にあることから、一酸化二窒素の濃度の上昇を抑え、又は、濃度を低下させることが、地球温暖化対策として期待されている。
【0004】
以前より、一酸化二窒素を分解するための方法として、高温燃焼方式と触媒方式が使われている。しかしながら、高温燃焼方式ではガスを燃焼させるために多量のエネルギーを必要とする。多量のエネルギーの確保に化石燃料を使用すると二酸化炭素の排出が増えるため、地球温暖化対策として効率的であるとはいえない。触媒方式においても、ガスを高温に加熱することを必要とする。さらに、触媒や還元剤に使用するアンモニアの調達が必要であり、処理後の排水処理問題もある。よって、触媒方式も効率的であるとはいえない。
【0005】
一酸化二窒素を化学変化させるための方法として、紫外光の照射により一酸化二窒素を酸化する方法が知られている。例えば、特許文献1には、一酸化二窒素を酸化してNO又はNOを含む滅菌ガスを生成する滅菌装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-083193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より簡易な構造又は方法で効率よく温室効果ガスを分解できる、ガス分解装置及びガス分解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス分解装置は、酸素及び一酸化二窒素を含む被処理ガスを通流させる配管と、
主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記配管の内部に照射する第一光源と、
主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光を、前記配管の内部に照射する第二光源と、を備え、
前記第一光源と前記第二光源は、前記第二光の少なくとも一部が、前記第一光の少なくとも一部と重なり合うように配置され、前記一酸化二窒素を分解する。
【0009】
本明細書において、単に「酸素」と表記する場合の「酸素」は、「酸素分子」(以下、「O」と表記することがある。)を意図する。詳細は後述するが、第一光は、一酸化二窒素(以下、「NO」と表記することがある。)を直接分解するとともに、第一光の照射により生成された励起酸素原子(「一重項酸素」又は「O(D)」と呼ばれることがある。以下、「O(D)」と示すことがある。)が、NOを分解する。また、第一光より長波長の第二光を照射することにより、第一光の照射により副次的に生成されたオゾン(以下、「O」と表記することがある。)から、O(D)を生成する。生成されたO(D)がNOの分解に利用される。つまり、第一光を照射することに加えて第二光を照射することにより、NOの分解を促進できる。よって、温室効果ガスを効率的に削減できる。地球温暖化対策として使用される前記ガス分解装置は、NOを酸化させて滅菌効果のあるNO又はNOガスを生成する特許文献1に記載の技術と、根本的に異なる技術思想を有する。
【0010】
前記第一光源が前記配管の内部に配置され、前記第二光源が前記配管の外部に配置され、
前記配管は、前記第二光が前記配管を透過する透過領域を備えても構わない。第一光源を配管の内部に配置すると、第一光源が出射する第一光が配管を透過しなくてよいため、配管に使用可能な材料の選択肢を広げられる。
【0011】
前記被処理ガスが、前記第一光の被照射空間と前記第二光の被照射空間内で層流を形成しても構わない。層流を形成するためには、光源の表面と配管の内壁との間を流れる前記被処理ガスが衝突するような障害物ができるだけ小さく、又は、少ないとよい。被処理ガスが何らかの障害物への衝突を抑えることで、生成したオゾンの分解を防ぐ。
【0012】
前記第一光源はエキシマランプであっても構わない。前記エキシマ光の主たる波長は172nm又は172nm近傍であっても構わない。斯かるエキシマ光は、キセノンガスを発光管内に封入したキセノンエキシマランプを点灯させることにより得られる。エキシマランプは安定的に大量生産できる光源であり、高いコスト削減効果を有する。エキシマランプに供給される電力は制御部によって制御される。制御部は、エキシマランプの点灯及び消灯を制御する。
【0013】
本明細書において、「172nm近傍」とは、172nm±5nmの範囲内の領域を指す。本明細書において、「主たる波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。「主たる波長」の光を出射する光源が、キセノンエキシマランプのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ高い光強度を示す光源においては、通常は、光強度が相対的に最も高い波長(ピーク波長)を、主たる波長とみなして構わない。
【0014】
本発明のガス分解方法は、酸素及び一酸化二窒素を含む被処理ガスをチャンバに流しながら、
第一光源から、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記チャンバに照射し、
第二光源から、主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光を、前記第二光の少なくとも一部が前記第一光の少なくとも一部と重なり合うように、前記チャンバに照射し、前記一酸化二窒素を分解する。
【0015】
前記配管又は前記チャンバは、5vol%以下の前記一酸化二窒素を含むガスが存在する空間に接続される接続口を有しても構わない。「5vol%以下の前記一酸化二窒素を含むガスが存在する空間」とは、例えば、下水道もしくは浄化槽、又は、バイオマス工場、ごみ処理場もしくは化学工場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽である。一酸化二窒素が、5vol%以下の低濃度である場合でも、分解が可能である。なお、一酸化二窒素の濃度が5vol%を超える場合にも、分解が可能である。
【発明の効果】
【0016】
これにより、より簡易な構造又は方法で効率よく温室効果ガスを分解できる、ガス分解方法及びガス分解装置を提供できる。斯かるガス分解方法及びガス分解装置を提供することは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】ガス分解装置の一実施形態を示す図である。
図1B図1AのS1-S1線断面図である。
図2】紫外光照射波長に対する分子の吸収断面積を示す。
図3A】第一変形例のガス分解装置を示す。
図3B図3AのS2-S2線断面図である。
図4A】第二変形例のガス分解装置を示す。
図4B図3AのS3-S3線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
適宜、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、グラフを除く図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、当該図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0019】
[ガス分解装置の概要]
図1Aは、ガス分解装置の一実施形態を示す図である。図1B図1AのS1-S1線断面図である。ガス分解装置10は、チャンバ2と、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光L1を出射する第一光源1と、主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光L2を出射する第二光源8と、を含む。本明細書において、第一光源1より出射される第一光L1は、第一光源1から外に向かう実線の矢印で例示されている。そして、第二光源8より出射される第二光L2は、第二光源8から外に向かう破線の矢印で例示されている。
【0020】
第一光源1と第二光源8は、第二光L2の少なくとも一部が第一光L1の少なくとも一部と重なり合うように配置されている。これは、第一光L1による光化学反応と第二光L2による光化学反応が同じ場所で起こり得ることを表す。
【0021】
本実施形態では、第一光源1はチャンバ2の内部に配置され、第二光源8はチャンバ2の外部に配置されている。本実施形態では、複数の第二光源8が、チャンバ2を取り囲むように配置され、第一光源1に向かって第二光L2を出射する。チャンバ2は、第二光源8からの第二光L2が透過する透過領域を備えている。
【0022】
本実施形態において、チャンバ2は、ガス供給口3iとガス排出口3oを含む配管である。ガス供給口3iとガス排出口3oは、第一光源1を挟んで相互に対向するように配置されている。ガス供給口3iからチャンバ2にガスG1を供給し、通流している被処理ガスであるガスG1に、第一光L1及び第二光L2を照射し、光照射後のガスG2をガス排出口3oから排出する。これを連続的に行うことができる。第一光L1及び第二光L2が照射されるとき、ガスは、障害物に衝突して乱流を形成することなく、層流を保つと好ましい。これにより、第一光L1の照射により生じたオゾンが障害物の衝突により分解されることを防ぐ。
【0023】
第一光源1及び第二光源8は、それぞれ、制御部5と電気的に接続されている。電力が制御部5から第一光源1及び第二光源8に供給されることで、第一光源1及び第二光源8が点灯する。
【0024】
本実施形態において、第一光源1は、ピーク波長が172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプである。本実施形態のキセノンエキシマランプは、発光管の内部1i(図1B参照)にキセノンガスが封入されている。本実施形態の発光管は円筒型である。しかしながら、発光管の形状は円筒型に限らない。また、第一光源1はキセノンエキシマランプに限らず、例えば、低圧水銀ランプでも構わない。第一光源1は、キセノン以外のガスが封入されたエキシマランプでも構わない。第一光源1は、LEDやLD等の固体光源でも構わない。
【0025】
第一光L1はガスG1に吸収されやすく、第一光L1は遠くまで届かない。そのため、第一光源1の発光管の表面とチャンバ2の内壁との間隔D1(図1A又は図1B参照)は、比較的狭い。間隔D1は、例えば、50mm以下であるとよく、30mm以下であると好ましい。間隔D1を光が減衰しすぎない適切な距離に設定することで、第一光L1に照射されずにチャンバ2を通り抜けるガスG1を減らすことができる。本実施形態において、チャンバ2は配管形状であるが、チャンバ2は配管形状でなくても構わない。
【0026】
本実施形態において、第二光源8は、ピーク波長が254nmの紫外光を放射する低圧水銀ランプを使用している。しかしながら、第二光源8は、LEDやLD等の固体光源でも構わないし、又は、エキシマ蛍光ランプでも構わない。
【0027】
図1A及び図1Bに示されるように、第一光源1及び第二光源8のうち、いずれか一方の光源をチャンバ2内部に配置する場合には、第一光源1をチャンバ2内部に配置するとよい。なぜなら、第一光源1の第一光L1は、第二光源8の第二光L2に比べて短波長であるため、第一光L1は、第二光L2よりチャンバ2の筐体を透過しにくいからである。第一光L1のチャンバ2の筐体の透過率を高めるには、チャンバ2の筐体の材料に、石英ガラス等、短波長の光でも透過率の高い材料を選択することが求められる。しかしながら、第一光源1をチャンバ2内部に配置すると、短波長の第一光L1がチャンバ2の筐体を透過しなくてよいため、チャンバ2の筐体に使用可能な材料の選択肢を広げられる。
【0028】
[被処理ガス]
被処理ガスについて説明する。被処理ガスであるガスG1はOとNOとを含む。
【0029】
ガスG1に含まれるOは、空気中に含まれるOであってもよい。つまり、ガスG1は空気を含んでいてもよい。ガスG1が空気を含むとき、必然的に、窒素(N)と、微量の二酸化炭素(CO)を含むことになる。また、ガスG1は水(気体である水蒸気、又は、液体である霧状の水)を含んでいてもよい。
【0030】
[第一光によるNOのガス分解]
第一光L1によるNO分解メカニズムについて説明する。NOの分解方法には、紫外光による直接分解と、紫外光により生成されたO(D)による間接分解とが存在する。
【0031】
Oの直接分解について説明する。340nm以下の波長の紫外光hν(≦340nm)がNOに照射されると、NOが分解されて、NとO(D)を生成する。これを(1)式に示す。

O+hν(≦340nm) → N+O(D) …(1)
【0032】
(1)式の分解反応は、理論上、340nm以下の波長の紫外光により起こる。しかしながら、NOに対する200nm以上の波長の光の吸収断面積は、小さいため、(1)式の分解反応には、吸収断面積の比較的大きい200nm未満の波長の光を使用すると、より効率的である。
【0033】
次に、NOの間接分解について説明する。O(D)は反応性の高い高活性物質である。紫外光により生成されたO(D)がNOに接触すると、(2)式によりO及びNが生成されるか、又は、(3)式により一酸化窒素(以下、「NO」と表記することがある。)が生成される。

O+O(D) → O+N …(2)
O+O(D) → NO+NO …(3)
【0034】
(2)式及び(3)式の反応に必要なO(D)は、(1)式によって生成される他に、以下の(4)式及び(5)式によっても生成される。なお、「hν(≦175nm)」は、175nm以下の紫外光を表し、「hν(≦411nm)」は、411nm以下の紫外光を表す。本明細書において、O(P)は、基底状態の酸素原子(三重項酸素)を表す。

+hν(≦175nm) → O(P)+O(D) …(4)
+hν(≦411nm) → O(D)+O …(5)
【0035】
(5)式の反応に必要なOは、以下の、(1),(4),(6),(7),(8)式の反応を経て生成される((1)式及び(4)式は再掲される)。(6)式に関し、紫外光hνが242nm以下であれば、(6)式に示される反応が生じることを表す。(7)式及び(8)式に含まれる「M」は第三体を表す。

O+hν(≦340nm) → N+O(D) …(1)
+hν(≦175nm) → O(P)+O(D) …(4)
+hν(≦242nm) → O(P)+O(P) …(6)
O(D)+M → O(P)+M …(7)
+O(P)+M → O+M …(8)
【0036】
以上で、紫外光hνによるNOの直接分解と、紫外光により生成されたO(D)によるNOの間接分解を説明した。通常、直接分解と間接分解の両方が行われる。直接分解と間接分解が起こる比率は、ガスG1のガス組成によって異なる。
【0037】
[NOxサイクル反応]
(3)式によってNOが生成されることを上述した。(3)式の反応により生成されたNOは、チャンバ2内で、以下の(9)式又は(10)式の反応が行われる。(9)式及び(10)式により、NOは、二酸化窒素(以下、「NO」と表記することがある。)に変換される。他方で、NOは、以下の(11)式により、酸素原子Oと反応して、NOを生成する。(11)式に含まれる酸素原子OはO(D)とO(P)の両方が含まれる。

NO+O(P) → NO …(9)
NO+O+M → NO+O+M …(10)
NO+O → NO+O …(11)
【0038】
NOからNOを生成する、特に(10)式の反応と、NOからNOを生成する(11)式の反応は繰り返すことがある。これをNOxサイクル反応という。本明細書において、NOxは、NOとNOを含む概念である。NOxサイクル反応の過程で、NOの分解に必要な酸素原子O((2)式参照)と、O(D)の生成に必要なO((5)式参照)とを消費し続ける。よってNOxサイクル反応が発生すると、酸素原子OとOが消失し、NOの分解が妨げられる。
【0039】
[第二光によるオゾン分解]
本発明者は、411nm以下の第二光L2を照射することで、(5)式の反応を増やすことを見出した。これにより、NOの分解に必要なO(D)が増える。さらに、O(D)が増えることで、(7)式及び(8)式を経てOが増える。これにより、NOxサイクル反応で消失する酸素原子O及びOを補うことができる。以下に(5)式、(7)式及び(8)式を再掲する。

+hν(≦411nm) → O(D)+O …(5)
O(D)+M → O(P)+M …(7)
+O(P)+M → O+M …(8)
【0040】
図2は紫外光照射波長に対する分子の吸収断面積を示す。図2のR1曲線(図2中の一点鎖線)は、Oの吸収断面積を表す。図2のR2曲線(図2中の実線)は、Oの吸収断面積を表す。図2より、200nm以上の波長の紫外光のOの吸収断面積は、200nm未満の紫外光の吸収断面積より相対的に大きい。特に、220nm以上、かつ、280nm以下の波長の紫外光の吸収断面積は、160nm以上、かつ、200nm未満の波長の紫外光の吸収断面積に比べて大きい。Oの吸収断面積が大きいと、(5)式の反応がより進みやすい。他方、R2曲線に見られるように、200nm以上の波長の紫外光は、酸素の吸収断面積が小さく、空気中の酸素のような比較的高濃度酸素を含む被処理ガスであっても減衰しにくい。
【0041】
つまり、本発明者は、第二光源8からチャンバ2内に、主たる発光波長が200nm以上411nm未満に属する第二光L2は、第一光L1に比べて、Oの分解((5)式の反応)に好適であることを見出した。
【0042】
[ガス分解装置の使用方法]
ガス分解装置10の使用方法を説明する。一酸化二窒素は、人及び動物の排泄物、農畜産場、並びにバイオマス若しくはゴミの排気ガスから多く排出される。そのため、一酸化二窒素は、上記したように、下水道もしくは浄化槽で排出される他に、バイオマス若しくは生ゴミを微生物によって発酵させる過程により排出される。その結果、一酸化二窒素は、バイオマス工場もしくはごみ処理場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽等に存在する。微生物は二酸化炭素もまた放出している。しかしながら、下水道又は浄化槽の場合には、大量の空気で曝気する処理により、ほぼ空気中の濃度(約21vol%)に近い濃度の酸素と大量の水が含まれる。
【0043】
そこで、ガス分解装置10のガス供給口3iを、下水道もしくは浄化槽、又は、バイオマス工場、ごみ処理場もしくは化学工場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽等に接続する。被処理ガス中の一酸化二窒素の割合は、いずれも5vol%以下であることが多い。しかしながら、本発明の分解方法は、5vol%以下のような低濃度の被処理ガスであっても分解可能である。被処理ガスは、1vol%以下であってもよい。
【0044】
[第一変形例]
上記実施形態の第一変形例を示す。以下に、上記実施形態と異なる事項を中心に説明し、上記実施形態と共通する事項についてはその記載を省略する。後述する第二変形例についても同様である。
【0045】
図3Aは第一変形例のガス分解装置20を示す。図3Bは、図3AのS2-S2線断面図である。図3A及び図3Bに示されるように、ガス分解装置20は、ガス流路が二つに分岐されて構成された、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bを備える。第一光源1は、第一チャンバ2a及び第二チャンバ2bの外に配置される。第一光源1が、チャンバ(2a,2b)の外にあるので、第一光源1の保守点検及び交換が容易にできる。
【0046】
ガス分解装置20では、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bが第一光源1を挟むように配置されている。第一光源1からの第一光L1を、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bの両方に導くことができる。本実施形態の、第一光源1、第一チャンバ2a及び第二チャンバ2bは、いずれも断面が矩形形状であり、長辺において第一光源1とチャンバ(2a,2b)とが隣接する。これにより、チャンバ(2a,2b)に到達する第一光L1の減衰量を抑えられる。
【0047】
本実施形態では、チャンバ(2a,2b)は、第一光L1を透過する石英ガラス管で構成されている。しかしながら、チャンバ(2a,2b)を構成する全ての筐体が紫外光透過材料で構成されていなくてもよい。少なくとも第一光L1を透過するべき部分が、石英ガラス等の紫外光透過材料で構成されているとよい。ガス分解装置20は、ガス流路が三つ以上に分岐されて構成された、三つ以上のチャンバを備えていても構わない。
【0048】
第二光源8aは、第一光源1と、第一チャンバ2aを介して対向する位置に配置される。第二光源8aから放射される第二光L2は、第一チャンバ2a内で第一光L1と重なり合う。同様に、第二光源8bも、第一光源1と、第二チャンバ2bを介して対向する位置に配置される。第二光源8bから放射される第二光L2は、第二チャンバ2b内で第一光L1と重なり合う。
【0049】
[第二変形例]
図4Aは第二変形例のガス分解装置30を示す。図4Bは、図4AのS3-S3線断面図である。図4Aに示されるように、ガス分解装置20は、配管状のチャンバ2の流路方向に沿って、第一光源(1a,1b,1c)と第二光源(8a,8b,8c)とが、交互に配置されている。図4Aでは、第一光源1bと第二光源(8a,8b)についてのみ、第一光L1の光線束と第二光L2の光線束を例示している。各光線束は拡散するので、第一光源1bの第一光L1の光線束は、隣接する第二光源(8a,8b)の第二光L2の光線束と重なり合う。図示していないが、他の光源(1a,1c,8c)についても、同様に、隣接する光源の光線束と重なり合う。
【0050】
この変形例では、光源(1a,1b,1c,8a,8b,8c)の、チャンバ2を挟んだ反対側に、第一光源(1d,1e,1f)と第二光源(8d,8e,8f)とが、交互に配置されている。チャンバ2を挟んだ両側から第一光L1と第二光L2を照射できる。また、第一光源1(例えば、第一光源1b)と第二光源8(例えば、第二光源8e)がチャンバ2を挟んで対向配置されているので、互いに異なる側から出射された第一光L1と第二光L2が重なり合いやすい。
【0051】
以上で、ガス分解方法と、ガス分解装置の実施形態及びその変形例を説明した。上記実施形態及びその変形例は、本発明の一例を示すものにすぎず、本発明は、上記した実施形態及びその変形例に何ら限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態及び変形例に種々の変更又は改良を加えたり、上記実施形態又は変形例を組み合わせたりできる。
【実施例
【0052】
以下の条件で、ガス分解シミュレーションを実施した。
ガス分解装置: 図1Aに示されるガス分解装置10を使用した。
ガスG1の組成: NOを100ppm、HOを100ppm混合した空気
ガスG1の流量: 1L/min
チャンバ2: 内径が38mmの円筒配管を使用した。
第一光源1: 発光管の内径が26mm、有効発光長が800mmのエキシマランプ(主たるピーク波長が172nm)を使用した。
第一光源1の照度: 72mW/cmと設定した。
第二光源8: 有効発光長が800mmの低圧水銀灯(主たるピーク波長が254nm)を使用した。図1Bに示されるように、4つの第二光源8が4方向から配管の中心に向かって照射する配置であり、第二光L2の大部分が第一光L1と重なり合う配置である。
第二光源8の照度: 600mW/cmと設定した。
【0053】
条件S1は第一光源1の第一光L1のみを照射した。条件S2は、第二光源8の第二光L2のみを照射した。条件S3は第一光源1の第一光L1と第二光源8の第二光L2の両方を照射した。条件S1、条件S2、及び条件S3の他の条件は、いずれも、上述した条件で共通している。
【0054】
表1に、各条件(S1~S3)について、チャンバ2から排出されるガスG2のNO含有量及びO含有量、及び、チャンバ2でのNO分解量のシミュレーション結果を、チャンバ2に供給するガスG1のNO含有量及びO含有量とともに示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、以下のことが分かる。
条件S2(第二光L2のみ)の場合は、Oが生成されていない。これは、第一光L1がないため、Oの生成がなく、(5)式の反応が起こらずNOを分解するためのO(D)が生成されないので、NOが分解されないものと推察される。
条件S3(第一光L1+第二光L2)の場合は、条件S1(第一光L1のみ)の場合に比べて、OとNOの含有量が減って、NO分解量が1.6倍に増えている。これは、Oが分解されてNOを分解するためのO(D)が増え、その結果より多くのNOが分解されたものと推察される。
【符号の説明】
【0057】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f:第一光源
1i :(第一光源の)内部
2 :チャンバ
2a :第一チャンバ
2b :第二チャンバ
3i :(チャンバに供給する)ガス供給口
3o :(チャンバから排出される)ガス排出口
5 :制御部
8,8a,8b,8c,8d,8e,8f:第二光源
10,20,30:ガス分解装置
G1 :(チャンバに供給される)ガス
G2 :(チャンバから排出される)ガス
L1 :第一光
L2 :第二光
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B