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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】穿刺針、穿刺装置および採血装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/153 20060101AFI20240306BHJP
   A61M 5/158 20060101ALI20240306BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61B5/153 300
A61B5/153 200
A61M5/158 500
A61M5/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020551182
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039741
(87)【国際公開番号】W WO2020075735
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018193782
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510028914
【氏名又は名称】株式会社AIKIリオテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青柳 誠司
(72)【発明者】
【氏名】松本 一
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-000620(JP,A)
【文献】特開平11-309134(JP,A)
【文献】特表2015-529487(JP,A)
【文献】特開平05-317324(JP,A)
【文献】特開2004-057516(JP,A)
【文献】特開2001-082568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
A61B 13/00 -18/18
A61F 2/01
A61M 3/00 - 9/00
A61M 31/00
A61M 39/00 -39/28
A61N 7/00 - 7/02
G01N 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部および当該胴部から先細りに形成された先端部を有している針本体であって、当該針本体の中心軸を軸として回転可能な針本体を備えており、
上記針本体は、上記中心軸に沿った方向に沿って分割された複数の分割体を備えており、
上記分割体の各々は、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動可能であり、
少なくとも上記先端部において、穿刺対象に接触する上記針本体の表面が平滑面である、穿刺針。
【請求項2】
上記針本体の内部には、上記針本体の外部と連通し、液体が流通可能な流路が設けられており、
上記分割体の各々は、上記流路の一部を構成している、請求項に記載の穿刺針。
【請求項3】
上記針本体の少なくとも一部を覆う鞘をさらに備えており、
上記鞘は、上記針本体の基部側に設けられている、請求項1または2に記載の穿刺針。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の穿刺針と、駆動部とを備えている穿刺装置であって、
上記駆動部は、
上記針本体を、当該針本体の上記中心軸を軸として回転させる回転機構と、
分割体の各々を、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動させる移動機構と、
を備えており、
上記移動機構は、上記分割体のうち少なくとも1つを、他の分割体に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、穿刺装置。
【請求項5】
穿刺針と、駆動部とを備えている穿刺装置であって、
上記穿刺針は、
胴部および当該胴部から先細りに形成された先端部を有している針本体であって、当該針本体の中心軸を軸として回転可能な針本体を備えており、
上記針本体は、上記中心軸に沿った方向に沿って分割された複数の分割体を備えており、
上記分割体の各々は、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動可能であり、
上記駆動部は、
上記針本体を、当該針本体の上記中心軸を軸として回転させる回転機構と、
分割体の各々を、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動させる移動機構と、
を備えており、
上記移動機構は、上記分割体のうち少なくとも1つを、他の分割体に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、穿刺装置
【請求項6】
上記回転機構は、上記針本体に対して、時計回りの回転運動と反時計回りの回転運動とを交互に行わせるように構成されている、請求項4または5に記載の穿刺装置。
【請求項7】
上記駆動部は、上記針本体に対して、下記の2種類の運動モードを行わせるように構成されている、請求項4~6のいずれか1項に記載の穿刺装置:
(i)上記針本体を回転させるとともに、上記分割体のうち少なくとも1つを他の分割体に対して相対的に突出して進行させる第1運動モード;
(ii)上記針本体を回転させるか、または、上記分割体のうち少なくとも1つを他の分割体に対して相対的に突出して進行させるか、のいずれか一方を行う第2運動モード。
【請求項8】
請求項に記載の穿刺針と、駆動部とを備えている採血装置であって、
上記針本体の内部には、上記針本体の外部と連通し、液体が流通可能な流路が設けられており、
上記分割体の各々は、上記流路の一部を構成しており、
上記駆動部は、
上記針本体を、当該針本体の上記中心軸を軸として回転させる回転機構と、
上記分割体の各々を、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動させる移動機構と、
を備えており、
上記移動機構は、上記分割体のうち少なくとも1つを、他の分割体に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、採血装置。
【請求項9】
穿刺針と、駆動部とを備えている採血装置であって、
上記穿刺針は、
胴部および当該胴部から先細りに形成された先端部を有している針本体であって、当該針本体の中心軸を軸として回転可能な針本体を備えており、
上記針本体は、上記中心軸に沿った方向に沿って分割された複数の分割体を備えており、
上記分割体の各々は、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動可能であり、
上記針本体の内部には、上記針本体の外部と連通し、液体が流通可能な流路が設けられており、
上記分割体の各々は、上記流路の一部を構成しており、
上記駆動部は、
上記針本体を、当該針本体の上記中心軸を軸として回転させる回転機構と、
上記分割体の各々を、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動させる移動機構と、
を備えており、
上記移動機構は、上記分割体のうち少なくとも1つを、他の分割体に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、採血装置
【請求項10】
上記回転機構は、上記針本体に対して、時計回りの回転運動と反時計回りの回転運動とを交互に行わせるように構成されている、請求項8または9に記載の採血装置。
【請求項11】
上記駆動部は、上記針本体に対して、下記の2種類の運動モードを行わせるように構成されている、請求項8~10のいずれか1項に記載の採血装置:
(i)上記針本体を回転させるとともに、上記分割体のうち少なくとも1つを他の分割体に対して相対的に突出して進行させる第1運動モード;
(ii)上記針本体を回転させるか、または、上記分割体のうち少なくとも1つを他の分割体に対して相対的に突出して進行させるか、のいずれか一方を行う第2運動モード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺針、当該穿刺針を備えている穿刺装置、および当該穿刺針を備えている採血装置に関する。
【背景技術】
【0002】
穿刺対象に穿刺針を穿刺する際に、穿刺針が穿刺対象から受ける穿刺抵抗が問題となる場面がある。その一例として、被験体の皮膚に穿刺針を穿刺する場面が挙げられる。皮膚組織は、表面側から角質層、表皮、真皮、皮下組織が積層された構造をしている。このうち、角質層は硬い組織である(ヤング率:1MPa程度)のに対し、皮下組織は軟らかい組織である(ヤング率:0.03MPa程度)。このため、穿刺針に角質層を貫通させる際には、通常、大きな穿刺抵抗が発生する。この結果、穿刺針との接触点を中心として皮膚組織が圧迫され、痛覚神経を刺激したり、血流を止めたりするという問題が生じていた。
【0003】
この問題に対する解決案の一つとして、本発明者らは、特許文献1において、皮膚に刺し込む針本体であって、先端部が先細りに形成され、内部に流体を流通させる流通路と、該針本体の少なくとも先端部に並設される複数の歯部とを有する針本体を備え、該針本体は、中心線に沿う方向に対して直交する方向で隣り合うように配置される複数の分割体を有し、該分割体は、前記中心線に沿う方向に延びる胴部と、該胴部の先端部から延出し且つ先細りに形成される刺部と、前記中心線に沿う方向に延び且つ前記流通路の一部を構成する流通路形成部とを有する穿刺針、を開示している。
【0004】
他の解決案として、本発明者らはさらに、非特許文献1において、1本の針をモータで回転させながら穿刺する手法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-000620号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】山田雅大、青柳誠司 他「マイクロニードルを用いた新しい採血方法の提案-往復回転運動の利用,血管可視化-」『2018年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集』、精密工学会、2018年、531~532頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術には、穿刺針の穿刺抵抗をさらに低減させる余地が残されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る穿刺針は、胴部および当該胴部から先細りに形成された先端部を有している針本体であって、当該針本体の中心軸を軸として回転可能な針本体を備えており、上記針本体は、上記中心軸に沿った方向に沿って分割された複数の分割体を備えており、分割体の各々は、独立に、上記中心軸に沿った方向に移動可能である構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、穿刺抵抗を従来技術よりも低減させた穿刺針が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明の一実施形態における針本体の斜視図である。(b)は、(a)に示す針本体の分解図である。(c)は、本発明の他の実施形態における針本体の斜視図である。(d)は、(c)に示す針本体の分解図である。
図2】(a)~(c)は、本発明の一実施形態における分割体を表す図である。それぞれ、上パネルが斜視図であり、下パネルが針本体の中心軸に垂直な断面における断面図である。
図3】(a)は、本発明のさらに他の実施形態における針本体の先端部を表す斜視図である。(b)は、(a)の断面図である。
図4】本発明の一実施形態における針本体および鞘を表す斜視図である。
図5】分割体の突出運動によって、穿刺抵抗が低減される理由を説明する模式図である。(a)は本発明の一実施形態に係る穿刺針(2つの分割体から構成される針本体)を表しており、(b)は従来技術の穿刺針を表している。
図6】本発明の一態様に係る穿刺装置の要部を表すブロック図である。
図7】(a)は、本発明の一実施形態における、針本体の回転運動を表す遷移図である。(b)は、本発明の他の実施形態における、針本体の回転運動を表す遷移図である。
図8】(a)は、本発明の一実施形態における、分割体の突出運動を表す遷移図である。(b)および(c)は、本発明の範囲に含まれない、分割体の運動の例を表す遷移図である。
図9】本発明の一実施形態における、針本体の運動を表す遷移図である。
図10】本発明の他の実施形態における、針本体の運動を表す遷移図である。
図11】本発明の一態様に係る採血装置の要部を表すブロック図である。
図12】本発明の一実施形態に係る穿刺針の穿刺抵抗を、従来技術の穿刺針と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係る針本体10は、(i)針本体10が、針本体の中心軸lを軸として回転可能であり、かつ、(ii)分割体15の各々が、中心軸lに沿った方向に移動可能である。このような針本体10を利用するため、本発明の一態様に係る穿刺装置100は、(i)針本体10を回転させる運動と、(ii)分割体15の各々を、独立に、中心軸lに沿った方向に移動させることによって、分割体15のうち少なくとも1つを、他の分割体15に対して相対的に突出して進行させる運動と、を行わせることができる。このような針本体10および穿刺装置100は、穿刺抵抗の低減に効果的である。それゆえ、針本体10および穿刺装置100は、本発明の一態様に係る採血装置200に好適に応用される。
【0012】
なお、本明細書では、上述した穿刺装置が行わせる運動のうち、(i)を「回転運動」、(ii)を「突出運動」とも表記する。
【0013】
以下、図面を参照しながら、実施形態に基づいて本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は個別の実施形態に限定解釈されるものではなく、各実施例形態に記載されている技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
〔実施形態1:穿刺針〕
[針本体および分割体の構成]
以下、図1~4を参照しながら、針本体10および分割体15の構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、針本体10は、先端部11および胴部12を有している。先端部11は、胴部12から先細りに形成されている。先端部11は、針本体10を穿刺対象に穿刺する際に、当該穿刺対象と接触する部分である。
【0016】
また、針本体10は、複数の分割体15を備えている。分割体15の各々は、針本体10を、針本体の中心軸lに沿った方向に沿って分割したものである。後述するように、分割体15の各々は、独立に、中心軸lに沿った方向に移動可能である。
【0017】
図1の(a)、(b)に示されている針本体10の内部には、針本体10の外部と連通し、液体が流通可能な流路18が設けられている。このとき、分割体15a、15bは、流路18の一部を構成している(特に図1の(b)を参照)。このような構成とすることで、針本体10を注射針として使用することができる。つまり、針本体10を介して、穿刺対象に流体を注入したり、穿刺対象から流体を採取したりすることができる。
【0018】
図1の(a)、(b)では、標準的な形状の注射針を描いている。しかし、流路18が設けられているならば、針本体10の具体的な形状は限定されない。例えば、特許文献1に開示されているように、流路18は、先端部11の側面に形成された開口を介して、針本体10の外部と連通していてもよい。しかし、図1の(a)、(b)のように、先端部11の先端において、流路18が針本体10の外部と連通している構造の方が、針本体10(および分割体15)の製造が容易であるため好ましい。すなわち、一般的な注射針を割断することによって、針本体10および分割体15を形成することができるので、好ましい。
【0019】
なお、針本体10の構造は、図1の(c)、(d)のように、流路18を設けない中実のものであってもよい。
【0020】
針本体10の用途としては、注射針以外にも、以下のものが挙げられる。(i)ランセット針(例えば、血糖値検査のために皮膚に穿刺し、血液を滲ませるために用いられる);(ii)薬物送達用の針(例えば、針の表面に薬物を塗布したり、針に凹部を設けて薬物を担持させたりすることができる);(iii)穿孔用の針(例えば、脳や臓器を手術する際に用いることができる);(iv)液体注入用の針(例えば、手術の際のマーカとなる液体(墨汁など)を、臓器表面に注入する際に用いることができる)。
【0021】
また、針本体10の用途は、生命科学または医療に限定されない。このような用途の例としては、以下が挙げられる。(i)樹木穿孔用の針(例えば、樹木に栄養液や農薬を注入することができる);(ii)土木における掘削(針本体10および分割体15の大きさや形状を適宜設定すれば、ボーリング装置としても使用可能である)。
【0022】
ここで、図2を参照しながら、分割体15の構成の例についてさらに詳細に説明する。上述した通り、分割体15の各々は、針本体10を、針本体の中心軸lに沿った方向に沿って分割したものである。図2の(a)は、針本体10を中心軸lに沿った方向に2等分した、分割体15の構成の例を示している(同図は、図1の(a)に示した針本体10に対応するものである)。また、図2の(b)は、分割体15aを分割体15bよりも小さくした、分割体15の構成の例を示している。さらに、図2の(c)は、針本体を分割体15a、15b、15cの3つに分割した、分割体15の構成の例を示している。
【0023】
以上の図から判るように、「中心軸lに沿った方向に沿って分割された複数の分割体15」においては、「互いに隣接する分割体15同士の境界面が、針本体の中心軸l方向と平行(または、実質的に平行)である」と言える。もちろん、分割体15の突出運動が可能である限りは、隣接する分割体15の境界面は、針本体の中心軸l方向と厳密には平行でなくてもよいし、境界面自体が平面でなくてもよい。
【0024】
分割体15の製造が容易であるという点においては、図2の(a)に示すように、針本体10を中心軸lに沿った方向に2等分した分割体15が好ましい。また、分割体15の突出運動による穿刺抵抗の低減効果を大きくするためには、隣接する分割体15の境界面の少なくとも1つは、先端部11の先端を通ることが好ましい。すなわち、針本体10の針先の尖った箇所に、分割体15の境界面があることが好ましい。
【0025】
また、針本体10が流路18を有している場合には、分割体15の各々は、中心軸lに対して垂直な断面において、互いに隣接するように配置されていることが好ましい(図2の各分図の下パネルを参照)。このように複数の分割体15を配置することによって、隣接する分割体15同士の間に間隙が生じなくなる。したがって、流体を漏らすことなく、流路18内を流通させることができる。もっとも、流路18を流通する流体の物性(粘性、表面張力など)によっては、隣接する分割体15の間に小さな間隙が存在したとしても、流体を漏らすことなく流路18内を流通させることができる。
【0026】
[先端部の表面および形状]
針本体10の表面の形状は、特に限定されない。一実施形態においては、少なくとも先端部11において、穿刺対象に接触する針本体10の表面は平滑面である(図1を参照)。他の実施形態においては、少なくとも先端部11において、穿刺対象に接触する針本体10の表面は歯部19を有している(図3の(a)を参照)。
【0027】
穿刺対象に接触する針本体10の表面を平滑面とする場合は、針本体10の回転運動に伴う穿刺対象との摩擦をより小さくすることができる。このため、穿刺対象に突き刺さった状態における、針本体10の回転運動がスムーズになる。この点、歯部19を設けると、針本体10の回転運動に伴う穿刺対象との摩擦は、大きくなりがちである(図3の(b)を参照)。また、針本体10(および分割体15)の構造がより単純なものとなり、それゆえ針本体10の製造もより容易になる。
【0028】
一方、穿刺対象に接触する針本体10の表面に歯部を設ける場合は、分割体15に突出運動を行わせる際に有利である。すなわち、歯部19は、分割体15が突出運動する際に、穿刺対象を引き裂いたり、穿刺対象に引っ掛けたりすることができる。このため、穿刺が徐々に進むことになり、穿刺抵抗を低減する効果が見込める。
【0029】
上記に説明したように、本明細書において「平滑面である」とは、歯部19のような「突起を有していない」と言い換えることができる。
【0030】
針本体10の先端部11を中心軸lに垂直な断面で切断したときの形状は、特に限定されない。この断面は、例えば、円形または円弧状であってもよいし(この場合、先端部11は、図1の(a)または(c)に例示される形状となる)、多角形や星形などであってもよい(この場合、針本体10は角柱状になる)。円柱状の針本体10は、構造が単純であるため、製造が容易である。一方、角柱状の針本体10は、穿刺対象にかかる応力を集中させることができるため、穿刺抵抗を低減することができる。この効果は、針本体10の角が多い方が現れやすい。
【0031】
[その他の構成]
図4に示すように、針本体10が流路18を備えている場合、針本体10の少なくとも一部を覆う鞘20をさらに備えていることが好ましい。このとき、鞘20は、針本体10の基部側(先端部11とは逆側)に設けられている。鞘20を設けることによって、分割体15a、15bを突出運動させる際にも、流路18からの流体の流出を防止することができる。
【0032】
もっとも、流路18を流通する流体の物性(粘性、表面張力など)を考慮して、分割体15a、15bの間の間隙を充分に小さく設計すれば、鞘20がなくとも流体の流出を防止することができる。
【0033】
針本体10の素材および寸法は、適宜設定することができる。一例において、針本体10の素材は、シリコーン樹脂、ポリマー(ポリ乳酸、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂など)、金属(ニッケル、チタン、鉄、ステンレス、タングステン、モリブデン、アルミニウム、銅など)などである。針本体10の表面を、別の材料で被覆する構成としてもよい(例えば、生体適合でない材料(ニッケルなど)を針本体10の材料とする場合は、テフロン(登録商標)などで被覆することが好ましい)。針本体10の外径は30~200μm程度であってもよく、針本体10の長さは1000~3000μm程度であってもよい。
【0034】
[穿刺抵抗の低減]
針本体10は、中心軸lを軸として回転することができる。また、分割体15の各々は、中心軸lに沿った方向に独立して移動することができる。その結果、針本体10は、実施形態2で説明するような回転運動および突出運動を行うことができる。このような運動を行っている針本体10を用いることによって、針本体10を穿刺対象に穿刺するときの穿刺抵抗が従来技術よりも低減される。
【0035】
ここで、針本体10が、穿刺抵抗を低減する作用効果について、説明する。
【0036】
図5は、(a)本実施形態に係る針本体10と、(b)従来技術の穿刺針とを比較した模式図である。針本体10は、複数の分割体15に分割されており(図5では分割体15a、15b)、分割体15は突出運動を行う。そのため、針本体10と穿刺対象との接触面積A1が小さくなる(従来の穿刺針における、穿刺針と穿刺対象との接触面積A2と比較されたい)。その結果、穿刺対象に加わる応力が小さな面積に集中するようになる。また、針本体10を分割体15に分割することによって、先端部11がより鋭い構造となる。これが、針本体10を分割体15に分割し、さらに突出運動を行わせることに起因する、穿刺抵抗の低減の作用効果である。
【0037】
さらに、穿刺針が回転運動する際に穿刺対象と接触する面積も、本実施形態に係る針10の方が、従来技術の穿刺針よりも小さい(A1とA2を比較されたい)。このため、穿刺対象との間に生じる摩擦が小さくなり、回転運動もよりスムーズになる。
【0038】
一側面において、本発明は、これらの突出運動および回転運動を組み合わせることによって、それぞれの運動のみよりも遥かに大きく穿刺抵抗を低減できるという知見に基づいている。
【0039】
ところで、穿刺抵抗は穿刺対象が硬いほど大きくなる。皮膚組織においては、角質層が他の組織よりも一際硬い。そのため、皮膚組織を穿刺対象とする場合の穿刺抵抗は、その大部分が角質層を穿孔する際に生じる穿刺抵抗と見做すことができる。つまり、本発明の一実施形態に係る穿刺針を利用すると、角質層の穿孔が容易になる(針が刺さりやすくなる)。それゆえ、角質層に穿孔した後において、形状や運動が従来公知のものである穿刺針を用いたとしても、「穿刺抵抗を低減する」という本発明の効果は生じているものと言える。
【0040】
〔実施形態2:穿刺装置〕
[穿刺装置の構成]
図6は、本発明の一態様に係る穿刺装置の要部を表すブロック図である。穿刺装置100は、針本体10および駆動部50を備えている。
【0041】
針本体10の構成については、実施形態1にて説明した通りである。針本体10は、穿刺装置100から取り外し可能であってもよい。
【0042】
駆動部50は、針本体10を回転運動させつつ、分割体15を突出運動させるように駆動する。駆動部50は、回転機構51と、移動機構52とを備えている。回転機構51は、針本体10を中心軸lを軸として回転させる。移動機構52は、分割体15の各々を、独立に、中心軸lに沿った方向に移動させる。これによって、移動機構52は、分割体15のうち少なくとも1つを、他の分割体15に対して相対的に突出して進行させる。
【0043】
回転機構51および移動機構52は、公知の機構を組み合わせて実装することができる。例えば、回転機構51および移動機構52として、電気的アクチュエータ(圧電セラミクス、モータ、ソレノイドなど)を用いることができる。それ以外にも、例えば、油圧、空気圧または磁力により作動するアクチュエータを用いてもよい。また、ラック・ピニオンやボール螺子などの機械部品を組み合わせてもよい。回転機構51および移動機構52の全部または一部が、同じ機構によって実装されていてもよい。
【0044】
穿刺装置100は、制御部60を備えていてもよい。制御部60は、駆動部50の動作を制御し、これによって針本体10(および分割体15)の位置および運動を制御する機能ブロックである。制御部60は、集積回路(ICチップ)などに形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0045】
制御部60をソフトウェアによって実現する場合、穿刺装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行する、コンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば、1つ以上のプロセッサと、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体とを備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」を用いることができる(例えば、ROM(Read Only Memory)、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路など)。また、上記コンピュータは、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、当該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波など)を介して、上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現されうる。
【0046】
[針本体および分割体の運動]
以下、図7~10を参照しながら、針本体10および分割体15の運動について説明する。針本体10は、中心軸lを軸として回転可能である。また、分割体15の各々は、独立に、中心軸lに沿った方向に移動可能である。このため、駆動部50は、針本体10に回転運動を行わせ、分割体15に突出運動を行わせることができる。
【0047】
(回転運動)
図7は、針本体10の回転運動を表す遷移図である。図7の(a)において、針本体10は、R方向(時計回り方向とする)に回転している。一方、図7の(b)において、針本体10は、R方向の回転とR’方向(反時計回り方向とする)の回転を交互に行っている。より具体的には、図7の(b)に示される針本体10は、まず、R方向に90°回転し、次いで、R’方向に90°回転している。図7の(a)および(b)それぞれの遷移図の3番目において、(a)では針本体10が背面を向いているのに対し、(b)では針本体10が正面を向いている点に注目されたい。
【0048】
本発明においては、針本体10の回転運動は、図7の(a)のように一方向の回転運動であってもよいし、図7の(b)のように回転方向が交互に切り替えられた回転運動であってもよい。なお、針本体10は、一方向の回転運動をする場合、図7の(a)に図示した方向とは逆方向(R’方向)に回転してもよい。
【0049】
針本体10を一方向に回転させる場合は、針本体10が穿刺対象を巻き込んでしまう可能性がある。その結果として、例えば皮膚に針本体10を穿刺する場合には、痛覚神経を刺激してしまう可能性がある。このような事態を防止するためには、針本体10の回転方向を切り替える態様が好ましい。すなわち、針本体10の回転運動は、図7の(b)に示すような態様が好ましい。
【0050】
針本体10の回転速度は、適宜設定することができる。針本体10の回転方向を切り替える態様においては、針本体10の回転角も適宜設定することができる。1回の穿刺の間に、針本体10の回転速度および/または回転角を変化させてもよい。例えば、針本体10をR方向に回転させるときとR’方向に回転させるときとの間で、回転角を異ならせてもよい。
【0051】
(突出運動)
図8の(a)は、突出運動を表す遷移図である。同図では、分割体15a、15bが、中心軸lに沿った方向に交互に突出しながら進行している。
【0052】
1番目の図では、分割体15aと分割体15bとは、先端が揃った状態にある。2番目の図では、分割体15bが中心軸lに沿った方向に進行して、分割体15aよりもL1だけ突出している。3番目の図では、分割体15aが中心軸lに沿った方向に進行して、分割体15aと分割体15bとは再び先端が揃った状態にある。4番目の図では、分割体15aが中心軸lに沿った方向にさらに進行して、分割体15bよりもL2だけ突出している。
【0053】
このように、突出運動においては、分割体15aの突出と、分割体15bの突出とが、交互に繰り返される。すなわち、分割体15aおよび15bのうち、一方の分割体15aが他方の分割体15bに対して突出して進行した後、他方の分割体15bが一方の分割体15aに対して突出するように進行する、という動作が繰り返される。分割体15aおよび15bは、交互に往復運動する。
【0054】
ここで、分割体15aの突出は、相対的なものであってもよい。つまり、分割体15aを前進させるのではなく、分割体15bを後退させることによって分割体15aを突出させてもよい。したがって、突出運動においては、一部の分割体15は停止していてもよい。例えば、分割体15bを停止させた状態にて分割体15aを後退させることにより、分割体15bを相対的に突出させてもよい。しかし、移動機構の構成を単純にするためには、全ての分割体15を移動させる構成とする方が好ましい。
【0055】
なお、一部の分割体15を前進させると同時に、一部の分割体15を後退させてもよい。図8の(a)に即して説明すると、分割体15aを中心軸lに沿った方向に突出して進行させる際に、分割体15bを中心軸lに沿った方向に後退させてもよい(分割体15bに関しても同様である)。
【0056】
突出運動においては、分割体15aの先端と分割体15bの先端との距離が、時間とともに変化する。そして、分割体15aおよび分割体15bは、突出運動中、交互に突出する。これに対して、図8の(b)および(c)に例示されている運動は、突出運動に含まれない。図8の(b)では、分割体15aと分割体15bとは、先端の位置を揃えたまま(先端同士の距離が0のまま)、中心軸lに沿った方向に進行している。また、図8の(c)では、分割体15aの先端と分割体15bの先端とが距離L3を保ったまま、中心軸lに沿った方向に進行している。これらの運動は、突出運動に含まれない。
【0057】
(回転運動と突出運動との組み合わせ)
上述した回転運動および突出運動を組み合わせた運動が、本発明の一態様に係る穿刺装置100における、針本体10および分割体15の運動である。このような運動の一例を、図9、10に示す。図9は、一方向(R方向)の回転運動と、突出運動と、を組み合わせた運動を表す遷移図である。また、図10は、回転方向がR方向およびR’方向に交互に切り替わる回転運動と、突出運動と、を組み合わせた運動を表す遷移図である。
【0058】
(その他の運動)
移動機構52は、針本体10の全体を、中心軸lに沿った方向に動かしてもよい。この動きによって、針本体10の先端部11を、穿刺対象に近づけたり、穿刺対象から遠ざけたりすることができる。すなわち、この動きは、針本体10を穿刺対象に穿刺する際、および針本体10を穿刺対象から抜去する際に利用することができる。この場合、上記突出運動は、複数の分割体15それぞれの交互の往復運動、および針本体10全体の前進運動の組み合わせによって実現する。
【0059】
上述した回転運動および突出運動を組み合わせながら、針本体10を穿刺対象に穿刺することによって、針本体10の穿刺に伴う穿刺抵抗を低減させることができる。
【0060】
〔実施形態3:採血装置〕
図11は、本発明の一態様に係る採血装置200の要部を表すブロック図である。採血装置200は、実施形態2で説明した穿刺装置100(針本体10および駆動部50)を備えている。採血装置200においては、針本体10を通じて血液を採取できるように、針本体10は流路18を備えている。採血装置200は、制御部60を備えていてもよい。制御部60に関しては、実施形態2にて説明した通りである。
【0061】
採血装置200は、採取した血液を収容するサンプリングチューブ71、針本体10とサンプリングチューブ71とを連絡する血液流路72、および、血液をサンプリングチューブ71まで吸引するためのポンプ73を備えていてもよい。このような構成の採血装置200においては、針本体10を皮膚に穿刺して、流路18の開口部が血管に到達すると、当該開口部から流路18へと血液が流入する。その後、血液は血液流路72を経由して、サンプリングチューブ71に収容される。なお、血液の採取に際しては、ポンプ73による吸引を利用せずに、血圧や毛細管現象を利用して自発的に血液を流動させてもよい。
【0062】
針本体10は、採血装置200から取り外し可能であってもよい。同様に、サンプリングチューブ71も、採血装置200から取り外し可能であってもよい。
【0063】
穿刺抵抗を低減させるという効果を得るという観点から、針本体10としては、微小な針(例えば、外径30~200μm程度)が好ましく用いられる。このような針本体10は、細動脈、細静脈および/または毛細血管からの採血に適している。また、このような針本体10は微量の採血(例えば、0.3~200μL程度)に適しているので、採血装置200は、微量血液を用いた分析用途に好適である。このような用途の具体例としては、血糖値の測定などが挙げられる。
【0064】
〔変形例〕
実施形態2、3において説明した、針本体10および分割体15の運動のモードは、回転運動および突出運動を組み合わせた運動のモードであった(この運動のモードを、第1運動モードと呼ぶ)。しかし、針本体10および分割体15は、回転運動のみの運動モード、または、突出運動のみの運動モードで駆動させることもできる(これらの運動モードを、総称して第2運動モードと呼ぶ)。実施形態2に係る穿刺装置100および実施形態3に係る採血装置200は、第1運動モードと第2運動モードの両方で、針本体10および分割体15を駆動させることもできる。
【0065】
例えば、穿刺対象が皮膚である場合、表面の角質層に穿孔するときと、その下層にある表皮、真皮および皮下組織に穿孔するときでは、2種類の運動モードを使い分けてもよい。例えば、角質層に穿孔するときは第1運動モードで針本体10を運動させ、角質層より下層の組織に穿孔するときは突出運動のみ(第2運動モードの一種)を針本体10に行わせてもよい。第1運動モードは、硬い層(角質層)に孔を空けることに適している。一方、突出運動のみを行うならば、軟らかい組織(表皮、真皮、皮下組織)を針本体10の回転運動で巻き込むことがない。そのため、上記の設計は合理的である。
【0066】
上記の各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。したがって、異なる実施形態にそれぞれ開示されている技術的手段を、適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0067】
本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0068】
〔まとめ〕
本発明には、以下の構成が包含される。
【0069】
<1>
胴部12および当該胴部12から先細りに形成された先端部11を有している針本体10であって、当該針本体の中心軸lを軸として回転可能な針本体10を備えており、
上記針本体10は、上記中心軸lに沿った方向に沿って分割された複数の分割体15を備えており、
分割体15の各々は、独立に、上記中心軸lに沿った方向に移動可能である、穿刺針。
【0070】
<2>
少なくとも上記先端部11において、穿刺対象に接触する上記針本体10の表面が平滑面である、<1>に記載の穿刺針。
【0071】
<3>
上記針本体10の内部には、上記針本体10の外部と連通し、液体が流通可能な流路18が設けられており、
上記分割体15の各々は、上記流路18の一部を構成している、<1>または<2に>記載の穿刺針。
【0072】
<4>
上記針本体10の少なくとも一部を覆う鞘20をさらに備えており、
上記鞘20は、上記針本体10の基部側に設けられている、<1>~<3>のいずれか1つに記載の穿刺針。
【0073】
<5>
<1>~<3>のいずれか1つに記載の穿刺針と、駆動部50とを備えている穿刺装置100であって、
上記駆動部50は、
上記針本体10を回転させる回転機構51と、
分割体15の各々を、独立に、上記中心軸lに沿った方向に移動させる移動機構52と、
を備えており、
上記移動機構52は、上記分割体15のうち少なくとも1つを、他の分割体15に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、穿刺装置100。
【0074】
<6>
上記回転機構51は、上記針本体10に対して、時計回りの回転運動と反時計回りの回転運動とを交互に行わせるように構成されている、<5>に記載の穿刺装置100。
【0075】
<7>
上記駆動部50は、上記針本体10に対して、下記の2種類の運動モードを行わせるように構成されている、<5>または<6>に記載の穿刺装置:
(i)上記針本体10を回転させるとともに、上記分割体15のうち少なくとも1つを他の分割体15に対して相対的に突出して進行させる第1運動モード;
(ii)上記針本体10を回転させるか、または、上記分割体15のうち少なくとも1つを他の分割体15に対して相対的に突出して進行させるか、のいずれか一方を行う第2運動モード。
【0076】
<8>
<1>または<2>に記載の穿刺針と、駆動部50とを備えている採血装置200であって、
上記針本体10の内部には、上記針本体10の外部と連通し、液体が流通可能な流路18が設けられており、
上記分割体15の各々は、上記流路18の一部を構成しており、
上記駆動部50は、
上記針本体10を回転させる回転機構51と、
上記分割体15の各々を、独立に、上記中心軸lに沿った方向に移動させる移動機構52と、
を備えており、
上記移動機構52は、上記分割体15のうち少なくとも1つを、他の分割体15に対して相対的に突出して進行させるように構成されている、採血装置200。
【0077】
<9>
上記回転機構51は、上記針本体10に対して、時計回りの回転運動と反時計回りの回転運動とを交互に行わせるように構成されている、<8>に記載の採血装置。
【0078】
<10>
上記駆動部50は、上記針本体10に対して、下記の2種類の運動モードを行わせるように構成されている、<8>または<9>に記載の採血装置:
(i)上記針本体10を回転させるとともに、上記分割体15のうち少なくとも1つを他の分割体15に対して相対的に突出して進行させる第1運動モード;
(ii)上記針本体10を回転させるか、または、上記分割体15のうち少なくとも1つを他の分割体15に対して相対的に突出して進行させるか、のいずれか一方を行う第2運動モード。
【実施例
【0079】
針本体の回転運動と、分割体の突出運動とを組み合わせることによる、穿刺抵抗の軽減効果を検証した。針本体および分割体としては、中心軸方向に割断したナノパスニードル(34G、直径180μm、テルモ社製)を用いた。1軸ステージを用いて針本体を穿刺対象(寒天の上にケラチンフィルムを積層した人工皮膚)に穿刺し、穿刺時に発生する応力をロードセルで測定して、これを穿刺抵抗と見做した。針本体および分割体の運動条件は、下記の通りである。なお、同位相突出による測定では、2つの分割体を交互で突出させるのではなく、同位相で突出運動させた。また、突出運動および回転運動を組み合わせた測定では、両方の運動条件を組み合わせた。
突出運動 振動数:10Hz、振幅:0.1mm
回転運動 回転方向:時計回りおよび反時計回りを切り替え、回転速度:180rpm、回転角:180°。
【0080】
結果を図12に示す。同図に示す通り、同位相突出を行う針本体も、突出運動または回転運動のみを行う針本体も、従来の穿刺針(分割体に分割されておらず、回転運動も突出運動も行わない穿刺針)より穿刺抵抗を低減することができた。しかし、2種類の運動を組み合わせることによって、穿刺抵抗はさらに低減された。また、穿刺抵抗が急激に低下するまでの移動距離も、大幅に減少している。このことは、より少ない移動量で針本体がケラチンフィルム(実際の皮膚組織では角質層に該当する)を貫通したことを意味している。このことから、本発明の一実施形態に係る穿刺装置によれば、穿刺に伴う皮膚の圧迫を低減することができ、したがって穿刺に伴う痛みを低減できることが示唆される。
【符号の説明】
【0081】
10 針本体
11 先端部
12 胴部
15 分割体
18 流路
20 鞘
50 駆動部
51 回転機構
52 移動機構
100 穿刺装置
200 採血装置
l 針本体の中心軸(中心軸)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12